説明

内径ラップ加工用ワイヤ及びワイヤ式内径ラップ加工方法

【課題】 加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態で行う内径ラップ加工を実現するために最適な内径ラップ加工用ワイヤ及びこのワイヤを有効に利用したワイヤ式内径ラップ加工方法を提供すること。
【解決手段】 ワークWに設けられた穴Waに挿通されて、前記ワークWの内径ラップ加工を行う際に用いられる加工用ワイヤ2(2a,2b)であって、前記加工用ワイヤ2の両端部には、該加工用ワイヤ2を係止するための挿着部材として機能する金具21,22を取り付ける。かかる構成の加工用ワイヤ2を利用して、垂直方向に加工用ワイヤ2を係止させた状態で内径ラップを行うワイヤ式内径ラップ加工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ワイヤ式内径ラップ加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、小径穴の高精度加工が必要とされる部品が増加している。例えば、光ファイバのフェルールや内燃機関の燃料噴出バルブなどである。
【0003】例えば、特開平5−113523号報には、図10に示すようなセラミックフェルールの穴加工装置100が提案されている。該装置100の構成を簡略に説明する。
【0004】符号100で示されている穴加工装置は、駆動ベース101の上に設けられた右側リール102と左側リール103との間に、ブランク把持手段106を貫通して張設された加工用ワイヤ104に複数個のセラミックスブランク105を挿通して遊動状態に保持し、このセラミックスブランク105の中の選択された一つのセラミックスブランク105aを回転させ、同時に前記加工用ワイヤ104にラップ用パウダ供給装置106から図示しないラップ用パウダを塗布しながら、この加工用ワイヤ104を左右方向に往復運動させて前記選択された回転するセラミックスブランク105の穴加工を行い、その後、順次、残りの他のセラミックスブランクを1個ずつ選択し、同様にして穴加工を行うという構成である。
【0005】このような構成の穴加工装置100では、セラミックスブランク105の穴加工が一個ずつ行われることにより、セラミックスブランク105の仕上がり径及び穴真円度が安定する等の一定の成果を収めることができた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の穴加工装置100では、左右方向に張設した加工用ワイヤ104に、穴加工が行なわれるワークであるセラミックスブランク105を挿通して内径ラップを行う構成(図10参照)が採用された結果、セラミックスブランク105が鉛直方向に加重がかかる状態で内径ラップされることになるため、穴真円度の精度の点で改良の余地を残していた。
【0007】また、穴加工装置100は、張設された一本の加工用ワイヤ104を使用して内径ラップ加工を行う構成であることから、該加工用ワイヤ104に挿着されたワークであるセラミックスブランク105の加工をすべて完了した場合に、次の内径ラップ加工作業へ移行するための準備作業に時間がかかり、連続的な内径ラップ加工作業が難しかった。
【0008】このため、穴真円度の精度が高く、しかも連続的な内径ラップ加工を達成するために、加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態で行うように工夫された内径ラップ加工技術が望まれる。
【0009】そこで、本発明の主な目的は、加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態で行うように工夫された内径ラップ加工を実現するために最適な内径ラップ加工用ワイヤ及びこのワイヤを有効に利用したワイヤ式内径ラップ加工方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明では、次の手段を採用する。
【0011】まず、本発明では、光コネクタの精密フェルール等として加工されるワークに設けられた穴に挿通されて、前記ワークの内径ラップ加工を行う際に用いられる加工用ワイヤであって、前記加工用ワイヤの両端部に、該加工用ワイヤを係止するための挿着部材を設けるようにした。
【0012】この手段では、加工用ワイヤに設けられた挿着部材を活用して、該加工用ワイヤを垂直方向に係止して用いることが可能となる。例えば、円盤状又は円筒状ののワイヤボルダの周壁に凹設された係止凹部に、前記挿着部材を引っかけて着脱自在に垂下させたり、一対のプーリのそれぞれに挿着部材を係着させて、垂直方向に保持させたりすることが可能となる。
【0013】従って、本発明に係る内径ラップ加工用ワイヤは、内径ラップが行われる予定のワークを整列挿着させ、そしてこの加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態でワークの内径ラップ加工を行う新規なワイヤ式内径ラップ加工方法に最適な加工用ワイヤである。
【0014】また、内径ラップ加工用ワイヤに下端側に設けられた挿着部材は、該ワイヤに挿着され、内径ラップ加工完了後に下方側に滑落してくるワークを集積するためのストッパーとして機能する。
【0015】そして、この挿着部材の外口径は、ワークの外口径よりも大きく形成されていることから、ワークが整列挿着された状態の加工用ワイをワークホルダ(ワイヤに挿通されているワークを一つずつ把持し、該ワークを回転させる装置)に対する加工用ワイヤの供給排出を行う場合等に、ワーク外周面に傷がつかなくするという作用を発揮する。
【0016】更には、挿着部材は、加工用ワイヤを垂直方向に懸吊する際や加工用ワイヤを供給排出する際に、この該ワイヤの垂直状態を保持するための錘としても有効に機能する。
【0017】次に、本発明では、内径ラップ加工用ワイヤの両端部に設けられる挿着部材を、該加工用ワイヤの両端部に形成したワイヤ折り返し部に金具を係止させることによって形成する。
【0018】具体的には、内径ラップ加工用ワイヤのいまだ直線状の両端部からそれぞれ円筒形状の金具を挿通させた後、該両端部を所定長さ位置で折り曲げ加工し、金具の挿通孔の口径よりやや大きなループ部を形成する。そして、既にワイヤに挿通されている前記金具を両端部にスライドさせて、前記ループ部を金具の挿通孔に係止させる。
【0019】この手段によって、金具は確実に加工用ワイヤの両端部に固定されるため、挿着部材として確実に機能させることができる。
【0020】以上の内径ラップ加工用ワイヤを用いることにより、本発明では、加工用ワイヤを垂直方向に保持して、ワークの内径ラップ加工を行うワイヤ式内径ラップ加工方法を容易に提供できる。
【0021】例えば、内径ラップ加工が行なわれるワークが整列挿着された状態の加工用ワイヤを垂直方向に保持するワイヤ保持工程と、前記加工用ワイヤを前記ワイヤ保持工程から移送するワイヤ移送工程と、このワイヤ移送工程移送されてきた前記加工用ワイヤを垂直方向に保持して、前記ワークの内径ラップ加工を行う内径ラップ工程と、を少なくとも備えるワイヤ式内径ラップ加工方法を提供できる。
【0022】この手段では、ワイヤ保持手段によって垂直方向に保持された加工用ワイヤを適宜の手段で捕捉して移送するとともに、加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態で、セラミックスブランク等のワークの穴を研削することができるので、従来の左右方向に張設された加工用ワイヤに挿着されたワークを内径ラップする構成(従来技術参照)と比較して、ワーク自体の加重影響がない状態で内径ラップ加工ができるようになるので、穴真円度の精度を向上させることが可能となるととともに、連続的な内径ラップ加工を達成できるようになる。
【0023】以上のように、本発明は、加工用ワイヤを垂直方向に保持して行うワイヤ式内径ラップ加工方法に係わる新技術を産業界に提供するという技術的意義を有している。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る内径ラップ加工用ワイヤの好適な実施形態について、添付図面に示された実施例に基づき説明する。
【0025】まず、図1は、本発明に係る内径ラップ加工用ワイヤ2(以下、単に「加工用ワイヤ2」と称する。)の第1実施例の構成を表す図である。
【0026】この第1実施例では、加工用ワイヤ2の上下端部を、折り返し加工を行って、湾曲するループ部201,201を形成する点が特徴である。このワイヤ折り返し部であるループ部201,201を形成する前に、加工用ワイヤ2に円筒形状の金具21,22を挿通させておき、金具21,22の挿通孔211,221に前記ループ部201,201をそれぞれ係止させる。
【0027】この構成によれば、金具21,22は、加工用ワイヤ2の上下端部(両端部)に係止された状態で留まって、該加工用ワイヤ2を垂直方向に保持するときに使用される係止用部材として機能することになる。金具21,22をループ部201,201で係止する構成は、簡単であるので、便利である。
【0028】なお、本実施例では、塊部202,202の基部周辺の加工用ワイヤ部分Mを切断することによって、加工用ワイヤ2に装着されているワークWを取り出すことができる。
【0029】図2は、本発明に係る加工用ワイヤ2の第2実施例の構成を表す部分拡大図である。
【0030】この第2実施例は、加工用ワイヤ2の上下端部を、それぞれ熱加工等を行って、加工用ワイヤ2の口径よりも大きな塊部202,202を形成する点が特徴である。この塊部202,202を形成する前に、加工用ワイヤ2に円筒形状の金具21,22を挿通させておき、金具21,22の挿通孔211,221に前記塊部202,202をそれぞれ係止させる。
【0031】なお、本実施例では、塊部202,202の基部周辺の加工用ワイヤ部分Nを切断することによって、加工用ワイヤ2に装着されているワークWを取り出すことができる。
【0032】ここで、加工用ワイヤ2は、ワークの精密な内径ラップを行うための加工用のワイヤであるから、金具21,22を挿通する際に、ワイヤ外周面が損傷してしまうことを回避しなければならない。
【0033】そこで、図2に示すように、金具21,22の挿通方向側端部212,222近傍の挿通孔211,221部分には、該挿通孔211,221内部から挿通方向側端部221,222側に向けて末広がる略円錐形の広口部213,223を設けるように工夫する。
【0034】この工夫により、金具21,22を加工用ワイヤ2に挿通する際に、挿通孔211,221の周端部211a,221a(図1参照)にワイヤ外周面をこすりつけてしまうおそれが無くなるので、ワイヤ外周面の損傷を有効に防止できる。なお、第1実施例の金具21,22においても、同様の広口部213,223を設けることができる。
【0035】ここで、上記したようなワイヤ切断作業を排除して、加工用ワイヤ2を繰り返して使用できるようにする目的から、本発明に係る内径ラップ加工用ワイヤの挿着部材(金具21,22)に関して、加工用ワイヤ2aに着脱自在となるように工夫することができる。例えば、前記金具21,22を形状記憶合金で形成するような実施形態が考えられる。
【0036】以下、上記した加工用ワイヤ2が適用されるワイヤ式内径ラップ加工方法について説明する。図3は、本発明に係るワイヤ式内径ラップ加工方法の好適な実施形態の工程を簡略に表すフロー図である。
【0037】この図3に示すように、本発明に係るワイヤ式内径ラップ加工方法は、内径ラップ加工(内径ラップ加工)が行なわれるワークWが整列挿着された状態の加工用ワイヤ2aを垂直方向に保持するワイヤ保持工程P1と、前記加工用ワイヤ2aを前記ワイヤ保持工程P1から移送するワイヤ移送工程P2と、該ワイヤ移送工程P2から移送されてきた前記加工用ワイヤ2aを垂直方向に保持して、前記ワークの内径ラップ加工を行う内径ラップ工程P3と、を備えている。なお、ワークWは、光コネクタのセラミックスフェルールその他の精密フェルールである。
【0038】内径ラップ工程P3からは、内径ラップ加工が完了したワークwを挿着したラップ完了ワイヤ2bが、ワイヤ移送工程P2を介して、ワイヤ保持工程P1に返送される(図3参照)。
【0039】続いて、本発明に係るワイヤ式内径ラップ加工方法に好適なワイヤ式内径ラップ加工装置1の構成を図4〜図6に基づいて説明する。
【0040】図4は、ワイヤ式内径ラップ加工装置1を正面から見たときの全体正面図、図5は、同装置1を上方側から見たときの平面図、図6は、同装置1を内径ラップ装置5側から見た一部省略する側面図、である。
【0041】ワイヤ式内径ラップ加工装置1は、内径ラップ加工が行なわれる円筒形状のワークWが複数個整列挿着されている、複数本の加工用ワイヤ2aを垂直方向に保持するワイヤ保持手段であるワイヤ保持装置3と、前記加工用ワイヤ2aをワイヤ保持装置3から受け取って移送するワイヤ移送手段であるワイヤ供給排出装置4と、このワイヤ供給排出装置4から移送されてきた一本の加工用ワイヤ2aを垂直方向に保持して、ワークWの内径ラップ加工を行う内径ラップ手段である内径ラップ装置5と、を備え、各装置3,4,5はケーシングC内に垂直に立設されたベース部材6(図5、図6参照)に配設されている。
【0042】ワイヤ保持装置3は、これから内径ラップ加工が行なわれるワークWが、遊動状態に挿着されて、複数個整列された状態の複数本の加工用ワイヤ2aを、着脱自在な係止状態で保持し、ワイヤ供給排出装置4側に順次搬送する役割を果たす。
【0043】ワイヤ供給排出装置4は、ワイヤ保持装置3によって所定位置にまで搬送されてきた加工用ワイヤ2aを、ハンド部材41,42で把持した後回転させ、図4向かって右側に配置された内径ラップ装置5側に移送する役割を果たす。
【0044】内径ラップ装置5は、ワイヤ供給排出装置4から移送されてきた一本の加工用ワイヤ2aに挿着された複数個のワークWの最下方にあるワークW1を一つずつワークホルダ53で捕捉して把持し、ラップ用パウダ(所定粒度の研削用のダイヤモンドパウダD、図9参照)を供給しながら、内径ラップを行う役割を果たす。
【0045】なお、装着されたすべてのワークWについて内径ラップ加工が完了した状態のラップ完了ワイヤ2bは、再びワイヤ供給排出装置4のハンド部材41,42で把持されて、ワイヤ保持装置3側に回転移送され、このワイヤ保持装置3に係止状態で再び保持されることになる。
【0046】以下、既述したワイヤ保持装置3の構成及び機能を詳説する。
【0047】このワイヤ保持装置3は、ケーシングC内の上方位置に配置されたワイヤホルダ31(以下、「上方ワイヤホルダ31」と称する。)と、この上方ワイヤホルダ31と所定距離離れた下方位置に、この上方ワイヤホルダ31と同口径に形成され、その中心位置が上方ワイヤホルダ31の中心位置と一致するように、上方ワイヤホルダ31と対向配置された円筒状のワイヤホルダ32(以下、「下方ワイヤホルダ32」と称する。)と、備えている。
【0048】上方ワイヤホルダ31の上方には、モータ34(図4参照)が配置され、上方ワイヤホルダ31には、このモータ34から下方に延びる回転軸35(図4参照)が固定されている。即ち、上方ワイヤホルダ31は、モータ34の作動によって、間欠回転を行う。一方、下方ワイヤホルダ32は、上方ワイヤホルダ31を貫通して垂下する前記回転軸35が貫通固定され、上方ワイヤホルダ31と一体に間欠回転する。なお、回転軸35の下端は、軸受け36に回転自在に支持されている。
【0049】上記構成により、上方ワイヤホルダ31と下方ワイヤホルダ32は、定位置へ回転、停止を行い、下記する構成で保持された複数の加工用ワイヤ2aを、ワイヤ供給排出装置4のハンド部材41,42が待機する所定位置へ、順次搬送する。
【0050】続いて、図7、図8を主に参照しながら、上方ワイヤホルダ31及び下方ワイヤホルダ32の加工用ワイヤ2aの保持構成について詳説する。まず、上方ワイヤホルダ31と下方ワイヤホルダ32のそれぞれの周壁31a,32aには、半径方向内側に向けて凹設された係止凹部31b,32bが、それぞれ周方向等間隔に複数設けられている。
【0051】ここで、図7(A)は、上方ワイヤホルダ31の係止凹部31bの一つに、加工用ワイヤ2a(又はラップ完了ワイヤ2b、以下省略)の上端部に設けられた円筒状の金具(挿着部材)21が係止され、加工用ワイヤ2aが垂直方向に保持されている様子を示す部分拡大側面図、図7(B)は、係止された同金具21部分を上方(図7(A)矢印U1方向)から見たときの部分拡大平面図、である。なお、図7において、金具21に対する加工用ワイヤ2aの係止構成は、上述した第2実施例に対応しているが、第1実施例を適用できるのは言うまでもない。
【0052】これらの図7(A),図7(B)に示されているように、加工用ワイヤ2aの上端に設けられた金具21は、該金具21の下端部21aが前記係止凹部31bに設けられた段差部31c上面に当接している。加工用ワイヤ2aは、この段差部31cに加工用ワイヤ2aの自重によって着座し、係止される。この着座状態はh、下方側の金具22の錘作用によって安定する。
【0053】一方、図8(A)は、下方ワイヤホルダ32の係止凹部32bの一つに、加工用ワイヤ2aの下端部に設けられた円筒状の金具22が係止されて、加工用ワイヤ2aが垂直方向に保持されている様子を示す部分拡大側面図、図8(B)は、同金具22部分を上方(図8R>8(A)矢印U2方向)から見たときの部分拡大平面図、である。
【0054】これらの図8(A)、図8(B)に示されているように、加工用ワイヤ2aの金具22は、下方ワイヤホルダ32の周壁32aに半径方向内側に向けて半円筒状に凹設された係止凹部32bに対して、略半分入り込んだ状態で係止されている。
【0055】上記構成により、加工用ワイヤ2aは、上方ワイヤホルダ31と下方ワイヤホルダ32の両方に係止され、垂直方向に保持されることになる。即ち、上方ワイヤホルダ31と下方ワイヤホルダ32は、加工用ワイヤ2aのストック部材として機能する。
【0056】ここで、本実施形態においては、前掲した一対のワイヤホルダ31,32の間において前記加工用ワイヤ2aを係止させて、搬送時の前記加工用ワイヤ2aの揺動(振れ)を防止する機能を発揮する円盤状又は円筒状の中間係止部材33を設けてもよい(図4参照)。
【0057】次に、既述したワイヤ供給排出装置4の構成及び機能について、詳説する。
【0058】ワイヤ供給排出装置4は、図4〜図6に示されているように、ワイヤ保持装置3と内径ラップ装置5(後に詳説)との間に、上下方向に設置されている。ワイヤ供給排出装置4は、加工用ワイヤ2aを把持して図5に示す矢印Y方向へ移動し、矢印Z方向(図5参照)へ回転させるハンド部材41,42と、このハンド部材41,42を一体に上下方向(図4の矢印X方向)にスライド移動させるスライド機構43と、を備えている。
【0059】この構成により、ワイヤ供給排出装置4は、ワイヤ保持装置3に係止されて所定位置に搬送されてきた加工用ワイヤ2aを上方の把持し、続いて上方へ(図4の矢印X方向へ)スライドした後、ワイヤ供給排出装置4全体がガイド44,44に沿って内径ラップ装置5側へ(図4の矢印Y方向へ)スライド移動する。そして、把持している加工用ワイヤ2aを内径ラップ装置5側へ(図4の矢印Z方向へ)回転させ、内径ラップ装置5に配設された一対のプーリ51,52に係着させる。なお、プーリ51,52への加工用ワイヤ2aの係着は、プーリ51,52に設けられた切り欠き部51a,52a(図4参照)に金具21,22を係止させることにより行われる。
【0060】また、ワイヤ供給排出装置4は、内径ラップ装置5から内径ラップ加工済みのワークwが整列挿着されているラップ完了ワイヤ2bをハンド部材41,42で把持して受け取る。続いて、ワイヤ供給排出装置4全体はガイド44,44(図1、図2参照)に沿ってワイヤ保持装置3側へスライド移動する(図4の矢印Y方向参照)。続いて、ラップ完了ワイヤ2bをワイヤ保持装置3側へ回転させて(図5の矢印Z方向へ)、そのまま下降し(図4の矢印X方向参照)、ラップ完了ワイヤ2bを再びワイヤ保持装置3に渡す。
【0061】続いて、既述した内径ラップ装置5の構成及び機能について、詳説する。
【0062】内径ラップ装置5は、プーリ51,52に係着されて垂直方向に保持されている加工用ワイヤ2aに整列挿着されている複数のワークW,W・・・の最下端のワークW1を、下方側に待機するワークホルダ53をガイド54に沿って上方へ(図1、図3の矢印T方向へ)スライド移動させることによって、捕捉し把持する。なお、ワークホルダ53のワーク把持手段は、チャック方式等、ワークを確実に保持できるものであれば適宜選択可能である。
【0063】ここで、図9は、内径ラップの様子を簡略化して示す拡大図である。この図9が示すように、ワークW1がワークホルダ53のチャック部53bのホルダ孔53aに捕捉されて固定されると、ワークホルダ53がステッピングモータ55の駆動を伝えるベルト56を介して回転し、ワークW1の穴(加工用ワイヤ2aが挿通されている穴)Waの研磨を行う。この場合、加工用ワイヤ2aは、往復運動可能にプーリ51,52に保持されている。
【0064】この内径ラップは、0.5ミクロン程度の粒径に揃えられたダイヤモンドパウダDを、図示しないパウダ供給装置から吐出させて加工用ワイヤ2aの外周面23に付着させることによって行われる。即ち、加工用ワイヤ2aの外周面23とワークW1の穴Waの内周壁面Wbとの間にラップ用パウダDを介在させ(図8参照)、このダイヤモンドパウダDの研磨作用によって、ワークW1の内周壁面Wbを所定口径まで、徐々に広げていく工程によって行われる。
【0065】より詳細には、ワークW1の内周壁面Wbは、加工用ワイヤ2aの所定位置に、徐々に口径が末広がるように形成された研磨部24(図9参照)に対して、ワークW1を把持して回転するワークホルダ53が一定加圧になるように上下動することによって、穴の下方側から徐々に口径が広がっていき、最終的には所定内径の円筒状の穴が形成される。この所定内径の穴が形成されると、前記研磨部24下方側の円筒部25を滑落して下方に集積する。
【0066】なお、ワークホルダ53のチャック部53b付近には、ワークW1の存在を検知するセンサ(図示せず)が設けられている。この図示しないセンサによって、加工用ワイヤ2aに整列挿着された最下方のワークW1の位置を検知し、速やかに連続的な内径ラップ加工を行うことができるように工夫されている。
【0067】上記構成の内径ラップ装置5においては、上下に配設された一対のプーリ51,52(図4等参照)に垂直方向に加工用ワイヤ2aを懸吊し、該加工用ワイヤ2a端部に錘58a,58bを取り付ける構成によって、ラップ加工圧は一定化している。なお、図4等に示されている符号57a,57bは、プーリ51,52の回転を調整するために設けられたシリンダ、図5、図6で示された符号Eは、プーリ51,52の負荷を検知するためのエンコーダである。
【0068】以上のように、上記ワイヤ式内径ラップ加工装置1では、図3に示されたフロー図通り、ワイヤ供給排出装置4を介して、ワイヤ保持装置3から加工用ワイヤ2aが内径ラップ装置5に順次移送されていくとともに、内径ラップ完了のワークwを整列挿着するラップ完了ワイヤ2bが戻ってきて、ワイヤ保持装置3に順次ストックされていく。
【0069】
【発明の効果】本発明によって奏される主な効果は、次の通りである。
【0070】(1)本発明では、ワークに設けられた穴に挿通されて、前記ワークの内径ラップ加工を行う際に用いられる加工用ワイヤの両端部に、該加工用ワイヤを係止するための挿着部材を設けるようにしたため、この挿着部材を活用して、該加工用ワイヤを垂直方向に係止して用いることが可能となる。その結果、加工用ワイヤを垂直方向に保持した状態でワークの内径ラップ加工を行うことが容易になる。
【0071】(2)本発明では、加工用ワイヤの両端部に取り付けられた挿着部材をワイヤに対して着脱自在にすることによって、加工用ワイヤを再利用することができるので、ワイヤ切断作業を排除できるとともに、コスト面でも有利である。
【0072】(3)本発明では、内径ラップ加工用ワイヤの両端部に設けられる挿着部材を、該加工用ワイヤの両端部に形成したワイヤ折り返し部に金具を係止させるという簡易な方法で形成できるので、便利である。
【0073】(4)本発明では、所定の挿着部材が設けられた内径ラップ加工用ワイヤを有効に用いることによって、加工用ワイヤを垂直方向に保持して、ワークの内径ラップ加工を行う構成のワイヤ式内径ラップ加工方法を提供することができる。この結果、ワーク自体の加重影響がない状態で内径ラップ加工ができるようになるので、穴真円度の精度を向上させることができる。即ち、内径ラップ加工の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る内径ラップ加工用ワイヤ(2)の第1実施例の構成を表す図
【図2】同加工用ワイヤ(2)の第2実施例の構成を表す部分拡大図
【図3】本発明に係るワイヤ式内径ラップ加工方法の好適な実施形態の工程を簡略に表すフロー図
【図4】同加工方法に好適なワイヤ式内径ラップ加工装置(1)を正面から見たときの全体正面図
【図5】同装置(1)を上方側から見たときの平面図
【図6】同装置(1)を内径ラップ装置(5)側から見た一部省略する側面図で
【図7】(A)加工用ワイヤ(2a)が垂直方向に保持されている上方ワイヤホルダ(31)の係止凹部31b部分の拡大側面図
(B)係止された同金具(21)部分を上方(図3(A)矢印U1方向)から見たときの部分拡大平面図
【図8】(A)加工用ワイヤ(2a)が垂直方向に保持されている下方ワイヤホルダ(32)の係止凹部32b部分の拡大側面図
(B)同金具(22)部分を上方(図4(A)矢印X2方向)から見たときの部分拡大平面図、
【図9】内径ラップの様子を簡略化して示す拡大図
【図10】従来技術の構成を表す図
【符号の説明】
1 ワイヤ式内径ラップ加工装置
2 加工用ワイヤ
2a 加工用ワイヤ(ワークWが未研削状態のもの)
2b ラップ完了ワイヤ
3 ワイヤ保持装置
4 ワイヤ供給排出装置
5 内径ラップ装置
21,22 金具(挿着部材の一実施例)
201 ループ部(ワイヤ折り返し部)
W ワーク
w 内径ラップが完了したワーク
Wa ワークWの穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ワークに設けられた穴に挿通されて、前記ワークの内径ラップ加工を行う際に用いられる加工用ワイヤであって、前記加工用ワイヤの両端部には、該加工用ワイヤを係止するための挿着部材が設けられたことを特徴とする内径ラップ加工用ワイヤ。
【請求項2】 前記挿着部材は、前記加工用ワイヤに対して着脱自在とされたことを特徴とする請求項1記載の内径ラップ加工用ワイヤ。(追加)
【請求項3】 前記挿着部材は、前記加工用ワイヤの両端部に形成されたワイヤ折り返し部に係止された金具であることを特徴とする請求項1又は2に記載の内径ラップ加工用ワイヤ。
【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載の内径ラップ加工用ワイヤを垂直方向に保持して、ワークの内径ラップ加工を行うワイヤ式内径ラップ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2002−307295(P2002−307295A)
【公開日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−117069(P2001−117069)
【出願日】平成13年4月16日(2001.4.16)
【出願人】(000133593)株式会社ツガミ (28)
【Fターム(参考)】