説明

内径形成部等を高精度に鋳造する鋳造装置及び方法

【課題】内径形成部等を高精度に鋳造する鋳造装置及び方法を提供するものである。
【解決手段】断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造装置であって、該鋳造装置が、内部にキャビティ(10)を備えた主金型(17)と、前記主金型(17)と組み合わされて前記内周面又は外周面を形成する入子金型(9)と、溶湯の凝固中に、前記入子金型(9)を偏心して回転させて、凝固しつつある溶湯と前記入子金型(9)の間にクリアランスを形成する偏心機構部とを具備する鋳造装置であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内径形成部等を高精度に鋳造する鋳造装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形状の内周面を、アルミダイカスト等の金型装置を用いて鋳造する場合、内部にキャビティを備えた金型に、内周面を形成する入子金型を組み合わせて、金型と入子金型の間のキャビティに溶湯を注入して鋳造する。このような場合、鋳造時に入子金型を鋳造品から離脱させるために、抜き勾配を付けることが必要となる。
抜き勾配なしで鋳造し、無理に鋳造品を金型から離脱させると、鋳造品の内周面を形成している部分の一部が欠ける「かじり」と称される欠陥が生じてしまう。また、抜き勾配なしで鋳造すると、離脱に要する力である離脱所要力が大きくなって、金型装置全体の大型化や耐久性低下の原因となるからである。
通常、内周面は、直径が一定の円筒面とされることが多いため、抜き勾配を付けた鋳造品を鋳造し、後で内周面を、工作機械により切削加工せざるを得なかった。このため、二次加工によるコストアップが余儀なくされ、抜き勾配の存在により取り代が大きくなるという問題が発生していた。
【0003】
このような問題に対応するために、特許文献1にみられるような、抜き勾配の不要な鋳抜きピンを用いて鋳抜き穴を成形する技術が知られている。これは、金型のうち鋳物製品となるべき製品形状部空間に円筒状の鋳抜きピンを配置し、鋳抜きピンを、その軸心回りで絶えず回転させた状態、又は、軸心方向に絶えず往復運動させた状態で、溶湯を充填して凝固を待ち、凝固後に鋳抜きピン6を抜き取れば、その部分に円形の鋳抜き穴が成形されるというものである。
【0004】
特許文献2においては、キャビティ内に金属の溶湯を注入し、溶湯が凝固して鋳造品が成形された後に、スライドコアを鋳造品に対して回転させつつ離脱させて(カム溝を利用)、ストレート内周面を成形するものである。
これら技術において、鋳抜きピンやスライドコアが絶えず回転しても、アルミの凝固収縮量そのものは変化せず、鋳抜きピンの径に対しアルミの内径が小さくなるため、製品取出し時にアルミが鋳抜きピンに対し「抱き付き」といわれる不良が発生する。その結果、抜け勾配0°の時に鋳抜きピンにカジリが発生してしまう。
【0005】
その他、特許文献3にみられるような、スライドピンを引き抜いて脱型する技術も知られているが、金型材料が変形しなければならないため、金型材料の制約がある。また、この従来技術は、バネの設置位置に起因して、放射方向の金型の変形は不可能であり、内径形状を全周に亘って形成することが出来ないなどの問題を有していた。
溶湯の凝固温度を検知する技術は、特許文献4により知られているが、型開きに最適な温度を検知するにとどまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−268077号公報
【特許文献2】特開2002−307156号公報
【特許文献3】特開平8−108246号公報
【特許文献4】特開2001−259819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、内径、外形形成部を高精度に鋳造する鋳造装置及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造装置であって、該鋳造装置が、内部にキャビティ(10)を備えた主金型(17)と、前記主金型(17)と組み合わされて前記内周面又は外周面を形成する入子金型(9)と、溶湯の凝固中に、前記入子金型(9)を偏心して回転させて、凝固しつつある溶湯と前記入子金型(9)の間にクリアランスを形成する偏心機構部とを具備する鋳造装置である。
【0009】
これにより、入子金型と鋳抜き部との間のクリアランスにより、製品を入子金型から容易にから外すことが可能となる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記内周面又は外周面の抜け勾配が0°であることを特徴とする。
これにより、入子金型と鋳抜き部との間のクリアランスにより、製品を入子金型から容易にから外すことが可能となり、その結果、抜け勾配0°を実現することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1、又は、2の発明において、前記偏心機構部は、前記入子金型(9)を公転、かつ、自転させるように構成されたことを特徴とする。
これにより、入子金型と鋳抜き部との間のクリアランスにより、製品を入子金型から容易にから外すことが可能となるとともに、内径面、外周面が加工硬化され、内周面、外周面の強度向上することができる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記偏心機構部は、公転回転体フォルダ(3)に回転自在に支持されて、回転駆動部(1)により回転駆動される公転回転体(5)と、該公転回転体(5)内に直線摺動するように内蔵された偏心量位置決めコマ(4)と、該偏心量位置決めコマ(4)に設けられて、前記回転駆動部(1)の回転軸に平行な軸心を持つ入子自転軸(7)であって、前記入子金型(9)に回転結合した入子自転軸(7)とを具備し、前記偏心量位置決めコマ(4)は、流体圧により前記公転回転体(5)内で直線摺動するように構成されたことを特徴とする。これにより、入子金型と鋳抜き部との間のクリアランスにより、製品を入子金型から容易にから外すことが可能となる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1、又は、2の発明において、前記偏心機構部は、回転駆動部(1)の回転シャフト(1’)にスプライン結合したアンギュラーカム軸(33)であって、アンギュラーカム軸(33)は、前記回転シャフト(1’)と反対側の端部にアンギュラーカム(33''')を有するアンギュラーカム軸(33)と、前記アンギュラーカム軸(33)を、回転自在に支持するアンギュラーカム軸フォルダ(34)と、該アンギュラーカム軸フォルダ(34)を、前記回転シャフト(1’)の軸心に沿って上下動させる偏心量調整機構(30)とを具備し、前記アンギュラーカム(33’’’)が上下動することで、前記入子金型(9)の偏心量が調整されるように構成されたことを特徴とする。
【0014】
これにより、偏心量の制御が容易であり、正確に制御することができる。一定圧力で内周面、外周面の加工を行うことができ、変形に必要な適切な力で加工することができる。また、偏心量調整機構(30)により、最大偏心量を所定寸法で決定することが容易になるので、内径、外形の直径寸法を所定寸法にすることが可能となる。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記偏心機構部を、偏心量が凝固の進行に伴い増加するように制御したことを特徴とする。
これにより、偏心量を正確に制御することができるとともに、一定圧力で内周面、外周面の加工を行うことができる。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記キャビティ近傍に温度センサーを配置し、前記温度センサーの温度から溶湯の凝固状態を判定し、前記溶湯の凝固状態に基づいて、偏心量を増加させたことを特徴とする。これにより、偏心量が凝固の進行に伴い増加するように、正確に制御することができる。
【0017】
請求項8の発明は、断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造方法であって、主金型(17)と、前記内周面又は外周面を形成する入子金型(9)とを組み合わせる段階と、前記主金型(17)と前記入子金型(9)との間に形成されたキャビティ(10)に、溶湯を注入する段階と、前記溶湯の凝固中に、前記入子金型(9)を偏心して回転させて、凝固しつつある前記溶湯と前記入子金型(9)の間にクリアランスを形成する段階とを具備する鋳造方法である。
請求項1の発明と同様に、入子金型と鋳抜き部との間のクリアランスにより、製品を入子金型から容易にから外すことが可能となる。
【0018】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を示す断面図である。
【図2】入子金型の要部を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態の偏心機構部の作動を説明する説明図であり、(a)は、入子金型を、偏心量が0で回転させる場合の偏心機構部の作動を説明する説明図であり、(b)は、入子金型を、偏心量を最大にして回転させる場合の偏心機構部の作動を説明する説明図である。
【図4】本発明の一実施形態の偏心機構部の作動を説明する図3(a)の線A−Aに関する断面図である。(a)は、偏心量0の場合の偏心機構部の説明図であり、(b)は、偏心量が最大の場合の偏心機構部の説明図である。
【図5】(a)は、本発明の別の一実施形態の要部を示す概略図である。(b)は、偏心量調整機構30の線B−Bに沿った断面図である。
【図6】(a)は、本発明の別の一実施形態の要部を示す概略図である。(b)は、偏心量調整機構30の線B−Bに沿った断面図である。
【図7】図5の線C−Cにおける偏心量調整機構30の断面図である。
【図8】本発明の偏心機構部の制御方法の、他の一実施態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態を示す断面図である。図2は、入子金型の要部を示す概略図である。
【0021】
本発明の一実施形態は、断面形状が円形である内周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造装置である。内部にキャビティ10を備えた主金型17に、入子金型9が組み合わされて、断面形状が円形である内周面を備えた鋳造品を鋳造する。鋳造法の一例としては、アルミダイカストなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
図1を参照して、本発明の一実施形態の偏心機構部の構造を説明する。偏心機構部は、溶湯の凝固中に、前記入子金型を偏心して回転させて、凝固しつつある溶湯と前記入子金型の間にクリアランスを形成する。
【0022】
油圧モータ1(回転駆動部に相当する)の回転シャフト1’は、公転回転体5とキー溝結合しており、油圧モータ1が駆動されると、公転回転体5が回転するようになっている。公転回転体5は、取り付け板2に固定された公転回転体フォルダ3に、ベアリング11によって支持されている。15は公転用ベアリング止めである。油圧モータ1は回転駆動部を構成し、回転駆動部としては、電動モータその他であってもよい。公転回転体5は、油圧モータ1(回転駆動部)の回転軸を中心に回転する。
公転回転体5内部のシリンダ室20(直方体空間)において、直線摺動するように、偏心量位置決めコマ4が内蔵されている。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態の偏心機構部の作動を説明する説明図であり、(a)は、入子金型を、偏心量が0で回転させる場合の偏心機構部の作動を説明する説明図であり、(b)は、入子金型を、偏心量を最大にして回転させる場合の偏心機構部の作動を説明する説明図である。図4は、本発明の一実施形態の偏心機構部の作動を説明する図3(a)の線A−Aに関する断面図である。(a)は、偏心量0の場合の偏心機構部の説明図であり、(b)は、偏心量が最大の場合の偏心機構部の説明図である。
偏心量位置決めコマ4は、図1において示されるように、左側に寄せられた状態(以下、「中心位置」という)では、右側に中心位置作動室21(図3(a)参照)が存在する。一方、図1で偏心量位置決めコマ4が右側に寄せられた状態(以下、「偏心位置」という)では、左側に偏心位置作動室22(図3(b)参照)が存在する。
【0024】
公転回転体フォルダ3には、第1油圧出入口6が設けられている。公転回転体5が回転している状態でも、第1油圧出入口6から導入された油圧は、公転回転体5の外周面全周にわたって設けられた第1連通溝14を介して、第1貫通口6’を通過して、中心位置作動室21に至ることができる。これと同様に、公転回転体フォルダ3には、第2油圧出入口12が設けられている。公転回転体5が回転している状態でも、第2油圧出入口12から導入された油圧は、公転回転体5の外周面全周にわたって設けられた第2連通溝18を介して、第2貫通口12’を通過して、偏心位置作動室22に至ることができる。
13は、O−リングで公転回転体5の外周面に3箇所設置されており、第1油圧出入口6から導入された油圧系統と、第2油圧出入口12から導入された油圧系統とを分離して油漏れを防止している。16は、偏心量位置決めコマ止めであり、O−リングで油圧の漏れを防止している。
【0025】
ここで、公転回転体5が回転しても、油溝により油の供給可能な構造となっている点を簡単に補足する。公転回転体フォルダ3は、取り付け板2に固定されており、公転回転体フォルダ3に設けられた第1油圧出入口6から導入された油圧は、公転回転体が回転しても、第1連通溝14が公転回転体5の外周面全周にわたって設けられているので、常に第1貫通口6’に連通している。第2油圧出入口12についても、同様に、常に第2貫通口12’に連通している。
【0026】
偏心量位置決めコマ4にはキー溝結合した入子自転軸7が設けられており、前記中心位置では、回転シャフト1’と入子自転軸7とが同軸(偏心量=0)となる。前記偏心位置では、回転シャフト1’と入子自転軸7とが最大偏心量eで偏心して回転する。
図2に示したように、入子金型9の自転回転は、入子自転軸7と入子金型9との間にベアリング8を取り付け、そのベアリング8により、入子金型9は自由回転できるようになっている(回転結合という)。なお、入子金型9は、入子9’と、主金型17の金型カバー9’’とから構成されている。
偏心位置決めコマ4を、次の距離Lの異なる複数コマ数用意すれば、偏心位置決めコマ4の形状を変更することで最大偏心量を制御可能とすることができる。図3(a)において、前記中心位置での入子自転軸7の軸心と、偏心量位置決めコマ4の右側側面との距離Lを変更すると、最大偏心量eを制御することができる。Lを小さくすると、偏心量が大きく変位する。
【0027】
図3、4を参照して、(a)の前記中心位置と(b)の前記偏心位置の作動状態を説明する。
(1) 油圧モータが回転駆動されると公転回転体が回転する。
(2) 第2油圧出入口12から油が流入する。
(3) 油の流入により偏心量位置決めコマ4が移動する。
(4) 図3(b)、図4(b)に見られるように、偏心量位置決めコマ4の移動により偏心量が増加する。
【0028】
次に、偏心機構部について前述の一実施形態と異なる本発明の別の一実施形態について説明する。
図5は、(a)は、本発明の別の一実施形態の要部を示す概略図である。(b)は、偏心量調整機構30の線B−Bに沿った断面図である。図6は、(a)は、本発明の別の一実施形態の要部を示す概略図である。(b)は、偏心量調整機構30の線B−Bに沿った断面図である。図7は、図5の線C−Cにおける偏心量調整機構30の断面図である。
【0029】
図5に示すように、アンギュラーカム軸33は、上部軸33’と下部軸33’’とからなり(両軸はフランジなどで固定結合されている)、上部軸33’は、油圧モータ1(回転駆動部に相当する)の回転シャフト1’とスプライン結合している。下部軸33’’の下方の端部(回転シャフト1’と反対側の端部)には、アンギュラーカム33’’’が設けられている。
【0030】
アンギュラーカムとは、断面が、矩形であって、図5(a)の33’’’に示すように軸方向にくの字状に折れ曲がっている。このアンギュラーカム33’’’は、アンギュラーカム溝に挿入される。図5に示すように、アンギュラーカム溝は、アンギュラーカムとは少し大きめな穴で、穴断面が、矩形であって、軸方向にくの字状に折れ曲がっている。下部軸33’’の上部は、断面が円形のシャフト部となっており、下部軸33’’の下部は、断面が矩形のアンギュラーカム33’’’となっている。
【0031】
アンギュラーカム軸33は、アンギュラーカム軸フォルダ34で支持されている。アンギュラーカム軸フォルダ34内において、図5に示すように、上部軸33’と下部軸33’’は、スラストベアリング、ラジアルベアリングで支持されている。アンギュラーカム軸フォルダ34は、上部フォルダ34’と下部フォルダ34’’の半割りとなっており、ボルトで上部フォルダ34’と下部フォルダ34’’が合体されている。これは、上部軸33’と下部軸33’’を、アンギュラーカム軸フォルダ34の内部に挿入して組み立てるためになされたものである。
【0032】
アンギュラーカム軸フォルダ34には、突起31、31が、図5の左右に設けられており、偏心調整機構30のカム溝32と係合している。偏心調整機構30は、図7に示すように、コの字状の断面(図5の線C=C)を有しており、回転シャフト1’の軸心と垂直な方向に移動する。偏心調整機構30の水平方向の移動により、断面が矩形のアンギュラーカム33’’’が、回転シャフト1’の軸心に関して回転しながら、上下動することになる。なお、偏心調整機構30は、上下動はせず、F方向にのみ往復動する。
図6は、偏心調整機構30が、回転シャフト1’の軸心と垂直な方向Fに移動した状態を示している。突起31、31が、図5の状態より、上方にDだけ移動している。
【0033】
アンギュラーカム33’’’が上方に移動すると、図5、6でくの字状に段差部が形成されているので、入子9’の偏心量が変更される(図6のE参照)。アンギュラーカム33’’’は回転シャフト1’と同じ回転をする。入子9’には、アンギュラーカムフォロアー38が設けられている。入子9’は自転回転することができる。入子9’がアンギュラーカムフォロアー38に関して回転自在に取り付けられており、このため入子9’が自由回転できるようになっている。
矩形断面を持つアンギュラーカム33’’’が回転すると、アンギュラーカムフォロアー38も回転する。アンギュラーカム33’’’が最下端位置にあるときは偏心量0である。アンギュラーカム33’’’が上方に移動すると(金型カバー9’’、アンギュラーカムフォロアー38は上方に移動しないように規制されている)、アンギュラーカムフォロアー38に偏心が発生し、アンギュラーカムフォロアー38は公転する。これによって、前述の一実施形態と同じ作動が実現できる。この場合、偏心量は、偏心調整機構30の直線移動量と、リニアな関係が実現できる。
アンギュラーカム33’’’先端には、停止部39を有する棒部材が設けられている。停止部39は、入子を取出すときに用いられる。
【0034】
次に、偏心機構部を、偏心量が凝固の進行に伴い増加するように制御した点について説明する。
基本的には、溶湯(アルミ等)の温度から凝固収縮量を計算し、凝固収縮量に連動し、入子の偏心増加量を制御するとよい。
偏心量の制御における目標値の算出においては、一例として、次のように行うと良い。
製品部の温度から、製品部凝固収縮量を算出し、これに基づいて、必要な偏心移動量を算出する。次に、偏心制御用油圧バルブの流量制御弁開閉量、偏心制御用油圧シリンダに流れる湯量の総量を算出すれば、入子9’の偏心移動量(目標偏心量)を算出することができる。これにより、偏心制御用油圧バルブの流量制御弁開閉量と入子9’の偏心移動量(目標偏心量)との関係を算出することができる。
【0035】
溶湯温度、製品部温度の測定においては、キャビティ近傍に温度センサーを配置する。
金型温度、製品温度の測定位置は、例えば4点(2点金型温度、湯口温度、湯口と反対側等のキャビティ温度)について温度測定を実施する。金型温度はシース熱電対を、ガラス被覆熱電対線をデータロガーに使用して測定すると良い。
このようにして、温度センサーの温度から、溶湯温度、製品部温度の凝固状態を判定し、凝固状態に基づいて、偏心量を増加させるように制御する。
【0036】
実際の偏心量の測定は、レーザー変位計等を用いて計測する。図5、6の別の一実施形態においては、偏心調整機構30の水平方向の移動量で測定しても良い。図1の一実施形態では、金型カバー9’’をオルダム継ぎ手などで回転しないようにガイドしてレーザー変位計等を用いて偏心量を測定しても良い。
本発明の一実施形態、及び、別の一実施形態の偏心制御は、フィードバック制御、フィードフォワード制御で行うことができる。まず、金型温度、製品温度の測定を行い、目標偏心量を算出し、偏心制御用油圧バルブの流量制御弁開度を調整する。目標偏心量と測定偏心量との偏差を算出し、偏差をゼロになるように、周知のフィードバック制御を適用することができる。図1の一実施形態では、偏心量の測定を行わない場合は、フィードフォワード制御で行うことができる。フィードバック、フィードフォワード制御において、設定した最大偏心量に達したら、偏心量の増加は終了する。
【0037】
本発明によれば、抜け勾配0°以外でも、離型時に金型と製品間で摩擦が発生しない利点がある。また、アンダーカット形状等の金型鋳造で加工できない形状(逆テーパ等)も、加工可能である。例えば、アンダーカットのため鋳造で加工できない雌螺子穴の加工にも適用することができる。さらに、内径面の内側から加工を加えるので、アルミ内面が加工硬化され、内面の強度向上することができる。本発明の適用例の一例としては、高精度な寸法を必要とするベアリング取付け部や、部品同士が勘合する部位が、一例として考えられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の他の一実施形態として、断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造方法であって、主金型17と、前記内周面又は外周面を形成する入子金型9とを組み合わせる段階と、前記主金型17と前記入子金型9との間に形成されたキャビティ10に、溶湯を注入する段階と、前記溶湯の凝固中に、前記入子金型9を偏心して回転させて、凝固しつつある前記溶湯と前記入子金型9の間にクリアランスを形成する段階とを具備する鋳造方法が含まれる。
【0039】
この鋳造方法においても、さらに、偏心量が凝固の進行に伴い増加するように制御したり、キャビティ近傍に温度センサーを配置し、前記温度センサーの温度から溶湯の凝固状態を判定し、前記溶湯の凝固状態に基づいて、偏心量を増加させるようにしても良い。
主金型17と、前記内周面又は外周面を形成する入子金型9とを組み合わせた後、アルミダイカストの場合には、型締めを行うが、回転駆動部のトルクを高トルクにして、入子金型9が主金型17に対してスライドできるようにしている。
【0040】
入子の偏心増加量の制御方法についての他の方法について説明する。図8は、この制御方法の説明図である。
図8の他の一実施形態では、鋳造装置の型内溶湯(アルミ等)の充填完了の信号を鋳造制御装置からタイマーが受信し、受信後からのタイマー信号を偏心開始用油圧バルブが受け、入子の偏心増加を開始する。入子の偏心増加速度は、熱電対を配置した金型での評価結果等を参照し、事前に偏心増加速度制御用油圧バルブで設定する。基本的には、溶湯(アルミ等)の温度から凝固収縮量を計算し、凝固収縮量に連動し、入子の偏心増加量を制御するとよいが、様々な方法を採用することで、型内に熱電対を配置せず、入子の偏心量を制御可能である。この制御については、本発明の装置においても適用である。
【符号の説明】
【0041】
1 油圧モータ
2 取付け板
3 公転回転体フォルダ
4 偏心量位置決めコマ
5 公転回転体
6 第1油圧出入口
6’ 第1貫通口
7 入子自転軸
8 自転用ベアリング
9 入子金型
10 キャビティ
11 公転用ベアリング
12 第2油圧出入口
12’ 第2貫通口
13 O−リング
14 第1連通溝
15 公転用ベアリング止め
16 偏心量位置決めコマ止め
17 主金型
18 第2連通溝
30 偏心量調整機構
33 アンギュラーカム軸
33’’’ アンギュラーカム軸
34 アンギュラーカム軸フォルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造装置であって、 該鋳造装置が、内部にキャビティ(10)を備えた主金型(17)と、
前記主金型(17)と組み合わされて前記内周面又は外周面を形成する入子金型(9)と、
溶湯の凝固中に、前記入子金型(9)を偏心して回転させて、凝固しつつある溶湯と前記入子金型(9)の間にクリアランスを形成する偏心機構部と
を具備する鋳造装置。
【請求項2】
前記内周面又は外周面の抜け勾配が0°であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記偏心機構部は、前記入子金型(9)を公転、かつ、自転させるように構成されたことを特徴とする請求項1、又は、2に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記偏心機構部は、
公転回転体フォルダ(3)に回転自在に支持されて、回転駆動部(1)により回転駆動される公転回転体(5)と、
該公転回転体(5)内に直線摺動するように内蔵された偏心量位置決めコマ(4)と、
該偏心量位置決めコマ(4)に設けられて、前記回転駆動部(1)の回転軸に平行な軸心を持つ入子自転軸(7)であって、前記入子金型(9)に回転結合した入子自転軸(7)とを具備し、
前記偏心量位置決めコマ(4)は、流体圧により前記公転回転体(5)内で直線摺動するように構成されたことを特徴とする請求項3に記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記偏心機構部は、
回転駆動部(1)の回転シャフト(1’)にスプライン結合したアンギュラーカム軸(33)であって、アンギュラーカム軸(33)は、前記回転シャフト(1’)と反対側の端部にアンギュラーカム(33''')を有するアンギュラーカム軸(33)と、
前記アンギュラーカム軸(33)を、回転自在に支持するアンギュラーカム軸フォルダ(34)と、
該アンギュラーカム軸フォルダ(34)を、前記回転シャフト(1’)の軸心に沿って上下動させる偏心量調整機構(30)とを具備し、
前記アンギュラーカム(33’’’)が上下動することで、前記入子金型(9)の偏心量が調整されるように構成されたことを特徴とする請求項1、又は、2に記載の鋳造装置。
【請求項6】
前記偏心機構部を、偏心量が凝固の進行に伴い増加するように制御したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の鋳造装置。
【請求項7】
前記キャビティ近傍に温度センサーを配置し、前記温度センサーの温度から溶湯の凝固状態を判定し、前記溶湯の凝固状態に基づいて、偏心量を増加させたことを特徴とする請求項6に記載の鋳造装置。
【請求項8】
断面形状が円形である内周面又は外周面を備えた鋳造品を鋳造する鋳造方法であって、 主金型(17)と、前記内周面又は外周面を形成する入子金型(9)とを組み合わせる段階と、
前記主金型(17)と前記入子金型(9)との間に形成されたキャビティ(10)に、溶湯を注入する段階と、
前記溶湯の凝固中に、前記入子金型(9)を偏心して回転させて、凝固しつつある前記溶湯と前記入子金型(9)の間にクリアランスを形成する段階とを具備する鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−125890(P2011−125890A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285560(P2009−285560)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】