説明

内燃機関のタイミングトレーンカバー

【課題】 内燃機関の調時伝動機構を被覆して機関本体の一側に固定されて、外面に機関マウント部を設けたタイミングトレーンカバーであって、機関マウント部から加わる荷重により、機関本体への締結強度を高める。
【解決手段】 タイミングトレーンカバーCの機関マウント部30の基端下縁に、機関本体1と接合する中央締結ボス部28と、締結具15を挿通するための円筒状の締結具挿通壁29を設け、この締結具挿通壁29は、機関マウント部30基端下縁よりその膨出部30の外面に亘って中央締結ボス部28の周囲に沿って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の機関本体の一側に設けられて、該内燃機関の調時伝動機構を被覆するタイミングトレーンカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4サイクル内燃機関では、クランク軸と、動弁装置を作動する動弁カム軸とが調時伝動機構を介して連動、連結され、クランク軸の回転を1/2の減速比をもって動弁カム軸に伝達するようにされ、前記調時伝動機構は、前記内燃機関の機関本体の一側に設けられるタイミングトレーンカバーによって被覆するようにされている。
【0003】
従来、タイミングトレーンカバーとして、後記特許文献1に開示されるものが知られている。このものは、機関本体を構成する、シリンダブロック4とシリンダヘッド6の一側に、それらに跨がってチエンカバー8(タイミングトレーンカバー)が固定され、そのチエンカバー8の外面には、シリンダブロック4とシリンダヘッド6との合わせ面に跨がって斜面部12が形成されており、この斜面部12により、前記合わせ面のシール性の向上と、チエンカバー8の剛性の向上とを図るようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3635793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1に開示されるものでは、斜面部はチエンカバー自体の剛性向上には寄与するものの、機関本体とチエンカバーとの締結部の強度向上にはつながらず、特に、機関マウント部が一体に設けられるチエンカバーでは、機関本体への高い締結強度が要求されるが、このものではその要求を充足できないという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、機関マウント部を一体に設けたタイミングトレーンカバーの、機関本体への締結強度を大幅に高めるようにした、新規なタイミングトレーンカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関の機関本体の一側に固定され、該内燃機関の調時伝動機構を被覆するタイミングトレーンカバーであって、
機関本体に接合される両側縁と、その両側縁間を継ぐ被覆部とを有するカバー主体部と、そのカバー主体部の外面に一体に膨出形成される機関マウント部とを備え、
前記被覆部には、前記機関本体と接合する中央締結ボス部が一体に設けられ、この中央締結ボス部は、前記機関マウント部下面の基端下縁に継がり、前記機関マウント部下面には、前記カバー主体部を機関本体に締結するための締結具を挿通するための円筒状の締結具挿通壁が凹設され、この締結具挿通壁は、前記機関マウント部の下面に、その機関マウント部の基端下縁よりその膨出部の外面に亘って前記中央締結ボス部の周囲をその軸方向に沿って形成されていることを特徴としている。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2の発明は、前記請求項1のものにおいて、前記締結具挿通壁は、前記機関マウント部の下面の過半域に亘って設けられていることを特徴としている。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3の発明は、前記請求項1または2のものにおいて、前記中央締結ボス部は、前記機関マウント部を機関支持部に締結するための、前記機関マウント部のボルト孔に挿通される支持ボルトの軸線上に位置することを特徴としている。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項4の発明は、前記請求項1、2または3のものにおいて、前記機関マウント部の基端下縁は、前記両側縁に形成される側縁締結ボス間に継がっていることを特徴としている。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項5の発明は、前記請求項1,2,3または4のものにおいて、前記カバー主体部の外面より外方に膨出形成される前記機関マウント部の下面は、カバー主体の外面に向かって下向きに拡張される傾斜面に形成されており、その傾斜面の基端下縁が前記複数の締結ボス部に継がっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項各項の発明によれば、機関マウント部から加わる荷重が、複数の締結ボス部の、機関本体への締結力として作用して、その締結力が増してタイミングトレーンカバーを機関本体に強固に連結することができる。
【0013】
また、機関マウント部から加わる荷重が、タイミングトレーンカバーの中央締結ボス部の締結力を増し、そのタイミングトレーンカバーの中央部を機関本体に強固に連結することができる。
【0014】
さらに、中央締結ボス部が、機関マウント部の基端下縁に継がっていても、支障なく中央締結ボス部に締結具を挿通することができ、また、円筒状の締結具挿通壁により機関マウント部の基端下縁に梁が形成されて、機関マウント部の変形が抑制される。
【0015】
請求項4の発明によれば、機関マウント部から加わる荷重が、タイミングトレーンカバー両側縁の側縁締結ボス部の締結力を増し、そのタイミングトレーンカバーの両側縁を機関本体に強固に連結することができ、また、側縁締結ボス部は剛性が高いため、その剛性の高い側縁締結ボス部同士を機関マウント部の基端下縁で継ぐことで、機関マウント部の剛性が向上し、その変形を抑制できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、機関マウント部は、その下面が、カバー主体部の外面に向かって下向きに拡張される傾斜面に形成されているので、この機関マウント部の強度が高められて、その変形が抑制され、そこに作用する荷重を効率よくタイミングトレーンカバーに伝達して、その機関本体への締結力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明タイミングトレーンカバーを備えた内燃機関を、そのクランク軸方向から見た側面図
【図2】図1の2−2線に沿う断面図
【図3】図2の3矢視仮想線囲い部分の拡大図
【図4】図1の4−4線に沿う断面図
【図5】図1の5−5線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0019】
この実施例は、本発明タイミングトレーンカバーCを、自動車用OHV型の4サイクル多気筒内燃機関Eに実施した場合であり、図1,2に示すように、この内燃機関Eは、その主体部を構成する機関本体1は、それぞれピストン13を摺動可能に嵌合した複数のシリンダ12が直列されるシリンダブロック2と、このシリンダブロック2のデッキ面上に固定されて動弁装置Vの設けられるシリンダヘッド3を備え、シリンダヘッド3の上面にはヘッドカバー4が固定され、シリンダブロック2下部のクランクケース部2cの下面にはオイルパン5が接続されている。前記クランクケース部2cと、その下面に固定される軸受キャップ16とでクランク軸6が回転自在に支承され、クランク軸6の一端は、タイミングトレーンカバーCとオイルパン5との合わせ面より外部に突出される。また、シリンダヘッド3には、動弁装置Vを駆動するための一対の動弁カム軸7,7が回転自在に支承されており、動弁装置Vはヘッドカバー4により被覆される。
【0020】
クランク軸6と、動弁カム軸7,7の、機関本体1の一側面1Aより突出する外端間は、調時伝動機構Tにより連動、連結されている。この調時伝動機構Tは、クランク軸6の外端に固定される駆動スプロケット8と、動弁カム軸7,7の外端に固定される被動スプロケット9,9と、それらの両スプロケット8,9,9間に懸回される無端状の調時伝動チエン10より構成されており、クランク軸6の回転は、前記調時伝動機構Tを介して1/2の減速比をもって動弁カム軸7,7に伝達される。
【0021】
前記調時伝動機構Tは、機関本体1の一側面1A(クランク軸6と直交する面)の外部に設けられており、その一側面1Aに複数の連結ボルト15をもって固定される、本発明にかかるタイミングトレーンカバーCにより被覆される。
【0022】
図1,2に示すように、タイミングトレーンカバーCは、機関本体1の一側面1A、すなわちシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の一側面に、それらの合せ面を跨いで固定される。
【0023】
タイミングトレーンカバーCは、調時伝動機構Tを覆うカバー主体部20と、このカバー主体部20の上部外面に外方に向けて一体に膨出形成される機関マウント部30とを備えている。カバー主体部20は、シリンダヘッド3の上面に沿う上縁21、シリンダブロック2のクランクケース部2cの下面に沿う下縁22、機関本体1の一側面1Aの両側縁の輪郭形状に倣う形状に形成されるリブ状の両側縁23,24および上縁21,下縁22および両側縁23,24を接続する被覆部25とを有する。
【0024】
前記機関マウント部30は、内燃機関Eを、タイミングトレーンカバーCを介して機関支持部、この実施例では、自動車の車体フレームFに懸吊支持するためのものであって、上下方向に所定の上下幅を有してカバー主体部20の横幅の全域にわたって延びていており、その両側縁は、カバー主体部20の両側縁23,24に継がっている。
【0025】
機関マウント部30は、カバー主体部20より外方に膨出する膨出部34と、この膨出部34の中間部よりさらに外方に膨出して横方向に延びる取付フランジ部31とを備えており、この取付フランジ部31には、一対のボルト孔32が形成され、これらのボルト孔32に挿通される支持ボルト36が車体フレームFにラバーマウント37を介して締結される。これにより、内燃機関Eは、タイミングトレーンカバーCを介して車体フレームFに懸吊支持される。
【0026】
図2,3に示すように、機関マウント部30の下面は、その外端より基端、すなわちカバー主体部20の外面に向かって下向きに拡張する直線状の傾斜面33に形成されており、この傾斜面33の基端下縁に、後述の複数の側縁締結ボス部26,27、および中央締結ボス部28が一体に継がっている。そして、この傾斜面33が直線状に形成されることにより、機関マウント部30から機関本体1への力の伝達が効率的に行なわれる。
【0027】
前記カバー主体部20の左右側縁22,23には、ボス孔を穿設した、複数の左右側縁締結ボス部26,27が、上下方向に間隔をあけてそれぞれ一体に形成されている。複数の左右側縁締結ボス部26,27のうち、前記機関マウント部30の下面を跨いで隣り合うものの間隔は、他のものの間隔よりも狭められている。前記カバー主体部20の被覆部25の中間部には、前記機関マウント部30の下面中央部に近接して、ボス孔を穿設した中央締結ボス部28が一体に形成されており、この中央締結ボス部28の周囲には、機関マウント部30の傾斜面33に沿うようにして、その傾斜面33に円筒状の締結具挿通壁29が凹設されており、この締結具挿通壁29を通して中央締結ボス部28に連結ボルト15が挿通可能である。
【0028】
しかして、カバー主体部20の被覆部25は、調時伝動機構Tを覆うために機関本体1の一側面1Aから離間しており、振動し易いが、その被覆部25の中間部において中央締結ボス部28で機関本体1に締結することで、その振動を効果的に低減できる。
【0029】
また、前記円筒状の締結具挿通壁29が無い場合を想定すると、前記傾斜面33は単なる平面になり、機関マウント部30からの力に対して変形し易くなるが、この傾斜面33に円筒状の締結具挿通壁29を凹設したことにより、この傾斜面33の中間において梁が形成され、機関マウント部30の変形を抑制する。
【0030】
また、図1に示すように中央締結ボス部28は機関マウント部30の一方の支持ボルト36の軸線上にある。このため、機関マウント部30に加わる力が短距離で効率的に支持ボルト36に伝達される。
【0031】
また、カバー主体部20の被覆部25の上部中間には、他の中央締結ボス部28′が一体に形成されている。
【0032】
上述のように構成されるタイミングトレーンカバーCの内面を、シリンダブロック2とシリンダヘッド3よりなる機関本体1の一側面に衝き合わせ、前記複数の左右側縁締結ボス部26,27および中央締結ボス部28,28′の各ボス孔にそれぞれ連結ボルト15を挿通して、それらを機関本体1に締結することにより、機関本体1の一側面1AにタイミングトレーンカバーCが一体に取り付けられる。この取付状態では、機関マウント部30の傾斜面33が、シリンダブロック2とシリンダヘッド3の合わせ面を跨ぐように位置している。
【0033】
タイミングトレーンカバーCの機関マウント部30は、車体フレームFに支持ボルト36によりラバーマウント37を介して懸吊支持される。そして、機関マウント部30から加わる荷重が、側縁締結ボス部26,27および中央締結ボス部28を介して機関本体1への締結力として作用して、その締結力が増してタイミングトレーンカバーCを機関本体1に強固に連結することができる。
【0034】
図3に示すように、機関マウント部30の下面を傾斜面33に形成すれば、機関マウント部30に加わる下向き荷重(矢印(A))は、機関マウント部30の傾斜面方向に分力(矢印(B))となって作用し、さらに、その傾斜面33に継がる左右側縁締結ボス部26,27および中央締結ボス部28の連結ボルト15の軸方向の分力(矢印(C))となって分散作用し、これらの分力は、タイミングトレーンカバーCの、機関本体1への締結力を増大させ、そのタイミングトレーンカバーCの機関本体1への締結強度を高めることができる。
【0035】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。
【0036】
たとえば、前記実施例では、調時伝動機構として、駆動および被動スプロケットと無端状伝動チエンよりなるものを採用したが、これに代えて駆動および被動コグ車と、無端状伝動コグベルトよりなるなどの他の従来公知の調時伝動機構としてもよい、また、前記実施例では、一対の動弁カム軸を用いた動弁装置を採用したが、これに代えて単一の動弁カム軸を用いた動弁装置としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・・・・機関本体
15・・・・・・・締結具(連結ボルト)
20・・・・・・・カバー主体部
23・・・・・・・側縁
24・・・・・・・側縁
25・・・・・・・被覆部
26・・・・・・・締結ボス部(側縁締結ボス部)
27・・・・・・・締結ボス部(側縁締結ボス部)
28・・・・・・・締結ボス部(中央締結ボス部)
29・・・・・・・締結具挿通壁
30・・・・・・・機関マウント部
33・・・・・・・傾斜面
34・・・・・・・膨出部
36・・・・・・・締結具(支持ボルト)
E・・・・・・・内燃機関
T・・・・・・・調時伝動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(E)の機関本体(1)の一側に固定され、該内燃機関(E)の調時伝動機構(T)を被覆するタイミングトレーンカバーであって、
機関本体(1)に接合される両側縁(23,24)と、その両側縁(23,24)間を継ぐ被覆部(25)とを有するカバー主体部(20)と、そのカバー主体部(20)の外面に一体に膨出形成される機関マウント部(30)とを備え、
前記被覆部(25)には、前記機関本体(1)と接合する中央締結ボス部(28)が一体に設けられ、この中央締結ボス部(28)は、前記機関マウント部(30)下面の基端下縁に継がり、
前記機関マウント部(30)下面には、前記カバー主体部(20)を機関本体(1)に締結するための締結具(15)を挿通するための円筒状の締結具挿通壁(29)が凹設され、
この締結具挿通壁(29)は、前記機関マウント部(30)の下面に、その機関マウント部(30)の基端下縁よりその膨出部(34)の外面に亘って前記中央締結ボス部(28)の周囲をその軸方向に沿って形成されていることを特徴とする、内燃機関のタイミングトレーンカバー。
【請求項2】
前記締結具挿通壁(29)は、前記機関マウント部(30)の下面の過半域に亘って設けられていることを特徴とする、前記請求項1記載の内燃機関のタイミングトレーンカバー。
【請求項3】
前記中央締結ボス部(28)は、前記機関マウント部(30)を機関支持部に締結するための、前記機関マウント部(30)のボルト孔(32)に挿通される支持ボルト(36)の軸線上に位置することを特徴とする、前記請求項1または2記載の内燃機関のタイミングトレーンカバー。
【請求項4】
前記機関マウント部(30)の基端下縁は、前記両側縁(23,24)に形成される側縁締結ボス(26、27)間に継がっていることを特徴とする、前記請求項1、2または3記載の内燃機関のタイミングトレーンカバー。
【請求項5】
前記カバー主体部(20)の外面より外方に膨出形成される前記機関マウント部(30)の下面は、カバー主体(20)の外面に向かって下向きに拡張される傾斜面(33)に形成されており、その傾斜面(33)の基端下縁が前記複数の締結ボス部(26,27,28)に継がっていることを特徴とする、前記請求項1,2,3または4記載の内燃機関のタイミングトレーンカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60950(P2013−60950A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245812(P2012−245812)
【出願日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【分割の表示】特願2009−289625(P2009−289625)の分割
【原出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】