説明

内燃機関の冷却装置

【課題】冷却液の流れが円滑になされる位置に温度センサーの先端感温部を配置することで、冷却液温の測定精度を向上させることができる内燃機関の冷却装置を提供する。
【解決手段】ラジエータからエンジンの冷却液流入部に向かう冷却液の戻り流路に配置されたハウジング11内にサーモエレメント組立体13と冷却液の温度を検出する温度センサー17とが収容されている。前記温度センサー17の先端感温部17aが、サーモエレメント組立体を構成する弁体23と、前記ハウジング11の流通孔12内に形成されたフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔12内に臨むように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関(以下、エンジンとも言う。)とラジエータとの間で冷却液を循環させる循環流路内に配置されて、前記冷却液温度を可変制御するサーモスタット装置を備えた内燃機関の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモスタット装置は、エンジンとラジエータとの間の循環流路内を流れる冷却液の温度変化を感知して膨張・収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントを備え、この熱膨張体の膨張・収縮に伴う体積変化により弁体の開閉を行って、冷却液を所定の温度に保持するように機能するものであり、従来から種々の構造のものが知られている。
【0003】
また、前記したサーモエレメントを含むサーモスタット組立体を前記循環流路中に連結できるハウジング内に収容すると共に、前記ハウジング内に冷却液の温度を検出する温度センサーを備えた構成も提案されている。この構成によると、前記温度センサーにより冷却液の温度を検出することができるので、冷却液の温度情報を利用してエンジンの温度制御の精度をより高めることができる。
【0004】
前記したようにサーモスタット組立体および温度センサーを1つのハウジング内に収容したサーモスタット装置は、次に示す先行技術文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−222264号公報
【0006】
ところで、前記先行技術文献に開示されたサーモスタット装置によると、サーモエレメント組立体をハウジング内に組み込むために利用されるばね受けフレームの支持部(フレームフック)が通水抵抗となり、冷却液の流れに乱れや、よどみを発生させる問題がある。
【0007】
そして、前記先行技術文献に開示された装置によると、温度センサーの先端感温部は、前記ハウジングの流通孔内に突出するフレームフックの近傍に配置されており、したがって温度センサーはフレームフックにより冷却液の流れに乱れが発生する部分の液温を測定することになる。このために、冷却液温度の測定精度を向上させることができないなど、改良の余地がある。
【0008】
また、前記したサーモスタット装置に具備された温度センサーは、エンジンの冷却液流出部からの冷却液温度(出口水温)を感知し、エンジン制御、ヒーター制御などに利用するようになされている。しかしながら昨今においては、エンジンの燃費向上等の観点から、冷却液のより最適な温度制御が求められており、エンジンの冷却液流入部における液温、または冷却液の温度制御を実行するサーモスタット周辺の液温を感知する必要が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、昨今の前記した技術的な要請に基づいてなされたものであり、エンジンに流入する冷却液の温度を正確に感知することができると共に、従来からのサーモスタットによる冷却液の温度制御もなし得る内燃機関の冷却装置を提供することを課題とするものである。
【0010】
また、サーモスタットの存在による通水抵抗を増加させることなく、冷却液の流れが円滑になされる位置に温度センサーの先端感温部を配置することで、冷却液温の測定精度をさらに向上させることができる内燃機関の冷却装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされた本発明にかかる内燃機関の冷却装置は、内燃機関内に形成された流体通路とラジエータとの間で冷却液の循環流路を形成する内燃機関の冷却装置において用いられ、前記ラジエータから前記内燃機関の冷却液流入部に向かう冷却液の戻り流路に配置されたハウジング内にサーモエレメント組立体と冷却液の温度を検出する温度センサーとを収容した内燃機関の冷却装置であって、前記サーモエレメント組立体には、冷却液の温度に反応して膨張・収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと、前記サーモエレメントにおける熱膨張体の膨張・収縮に基づいて前記ハウジング内の流通孔を開閉する弁体と、前記弁体を閉弁する方向に付勢するばね部材と、前記ばね部材の端部を受けるばね受けフレームとが備えられ、前記ばね受けフレームに形成された係止片が、前記ハウジングの流通孔内に形成されたフレーム支持部に係止することで、前記サーモエレメント組立体が前記ハウジング内に組み込まれた構成になされ、前記温度センサーの先端感温部が、サーモエレメント組立体を構成する前記弁体と、前記ハウジングの流通孔内に形成されたフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔内に臨むように、かつ前記ばね受けフレームを避けるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
この場合、好ましくは前記温度センサーの先端感温部は、前記ハウジングに形成された前記ラジエータ側からの冷却液の流入口とは反対側の前記流通孔内に臨むように配置される。
【0013】
また、好ましくは前記温度センサーは、前記ハウジングに成形された支持管18内に、当該支持管の軸方向に着脱可能に取り付けられた構成にされる。
【0014】
また、好ましい実施の形態においては、前記ラジエータを介さない前記内燃機関の冷却液流出部からの冷却液を導入する導入口が、前記弁体とフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔内に連通された構成にされる。
【発明の効果】
【0015】
この発明にかかる内燃機関の冷却装置に用いられるサーモスタット装置によると、ラジエータから内燃機関の冷却液流入部に向かう冷却液の戻り流路に配置されたハウジング内に、サーモエレメント組立体と冷却液の温度を検出する温度センサーとを収容した構成にされているので、前記温度センサーは、エンジンに流入する冷却液の温度を精度良く感知することができ、この情報を利用することで、エンジンの一層の燃費向上などに寄与することができる。
【0016】
また、温度センサーの先端感温部が、サーモエレメント組立体を構成する前記弁体と、前記ハウジングの流通孔内に形成されたフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔内に臨むように配置されているので、先行技術文献に挙げた従来の装置における前記した技術的な課題を克服し、冷却液温の測定精度をさらに向上させることに寄与することができる。
【0017】
加えて、前記温度センサーは、前記ハウジングに成形された支持管内に、当該支持管の軸方向に着脱可能に取り付けられた構成にされているので、前記温度センサーを前記支持管内から軸方向に若干引き抜く操作を実行することで密封を解くことができる。これにより、前記循環流路内への冷却液の充填時におけるエアー抜きの機能を兼ねることができる。また、冷却液の交換のために前記循環流路から冷却液を抜き取る操作時においては、ドレインコックの機能を果たすこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる内燃機関の冷却装置の全体構成を示した模式図である。
【図2】サーモスタット装置のケーシングの一部を破断して示した正面図である。
【図3】サーモスタット装置の上面図である。
【図4】ばね部材を除いた状態におけるケーシングの前半部を破断した状態の斜視図である。
【図5】図2におけるA−A線より矢印方向に視たばね部材を除いた状態の断面図である。
【図6】図2におけるA−B線より矢印方向に視たばね部材を除いた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る内燃機関の冷却装置の一実施形態を示すものである。図1において符号1は内燃機関(エンジン)を模式的に示したものであり、このエンジン1内には周知のとおり流体通路であるウォータジャケット2が形成されている。そして、流体通路2の出口部(エンジンの冷却液流出部)から流出した冷却液が冷却液の送り流路3を介してラジエータ4に入り、ラジエータ4により放熱された冷却液は戻り流路5を介して、サーモスタット装置6に流入する。
【0020】
前記サーモスタット装置6を構成するハウジングは、後で説明するとおり、エンジンに冷却液を送りこむウォータポンプ(W/P)7の上流側に配置されており、前記ウォータポンプ7の駆動により冷却液が循環されるようになされる。
【0021】
またエンジンの冷却液流出部から分岐流路8aを介して冷却液の一部が室内暖房用の熱交換器として用いられるヒータコア部9に送られ、ヒータコア部9から流路8bを介して前記サーモスタット装置5に戻されるように構成されている。すなわち、図1に示す冷却装置における流路8a,8bは、前記ラジエータ4を経由しない冷却液のバイパス通路としての機能も果たしている。
【0022】
前記サーモスタット装置6は、図2〜図6に示すように、外郭を構成するハウジング11が合成樹脂により成形されており、当該ハウジング11の中央の流通孔12内にサーモエレメント組立体13が組み込まれている。前記ハウジング11の上端部には、前記したラジエータ4側からの冷却液の流入口14が形成されている。この流入口14は、前記したサーモエレメント組立体13の収容位置におけるハウジング内の流通孔12の軸線に対して屈曲された状態に構成されている。
【0023】
前記ハウジング11の基端部は、例えば図3に示されているように前記したウォータポンプ7に直結することができるフランジ部15が形成され、前記フランジ部15には、取付け用のボルト挿入孔15aが形成されている。
【0024】
また、前記ハウジング11には、前記ラジエータを介さずにエンジンの冷却液流出部から前記ヒータコア部9を経由した冷却液を導入する導入口16が一体に形成されており、この導入口16は、前記したラジエータ4側からの冷却液の流入口14の屈曲方向と同方向に向かって形成されている。そして前記導入口16は、後述するサーモエレメント組立体13を構成する弁体とフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔12内に連通されている。
【0025】
前記ハウジング11には、後述する温度センサー17を支持する支持管18が一体に形成されている。この温度センサーの支持管18は、前記したラジエータ4側からの冷却液の流入口14、およびヒータコア部9を経由した冷却液の導入口16のそれぞれの屈曲方向とは反対側に向かって形成されている。
【0026】
前記ハウジング11の中央の流通孔12内に組み込まれたサーモエレメント組立体13は、冷却液の温度に反応して膨張・収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵するサーモエレメント21が備えられており、前記熱膨張体の膨張によりピストン22が伸張するように作用する。前記ピストン22の先端部はハウジング11内で流通孔12に向かって突出するように形成された受け部19に形成された長孔に嵌め込まれている。
【0027】
また、前記サーモエレメント21には円板状の弁体23が取り付けられており、この弁体23は、前記流通孔12において内径が若干絞られることにより形成された弁座12aに当接することで閉弁状態になされる。そして、前記弁体23に一端部が接するようにばね部材24が配置されており、前記ばね部材24の他端は、図4および図5に示されたばね受けフレーム25によって受けられている。これにより前記弁体23は、ばね部材24の作用により閉弁する方向に付勢されている。
【0028】
前記ばね受けフレーム25は、ハウジング11の流通孔12内において、通水抵抗が増大しないように、水平方向の対向位置に一対の係止片25aを突出形成させた構成になされている。そして、前記係止片25aが前記ハウジング11の流通孔12内に形成されたフレーム支持部20に係止することで、前記サーモエレメント組立体13が前記ハウジング11内に組み込まれた構成にされている。
【0029】
前記したサーモエレメント組立体13によると、冷却液の温度が上昇すると、サーモエレメント21に内蔵された熱膨張体が膨張して、前記ピストン22が伸張するように作用する。これによりサーモエレメント21に取り付けられた弁体23が相対的に移動して開弁するように動作し、周知のとおりの冷却液の温度制御がなされる。
【0030】
また、前記ハウジング11に形成された支持管18には、前記した温度センサー17が軸方向に着脱可能に取り付けられ、クリップ26によって係止されている。前記温度センサー17は、図6に示されたように先端部に感温部17aを配置して全体を樹脂モールドで成形されており、その周囲に嵌め込まれたOリング17b,17cによりハウジング11に対して密封状態となるように取り付けられている。
【0031】
したがって、前記クリップ26の係止を外し、前記温度センサー17を前記支持管18内から軸方向に若干引き抜く操作を実行することで、前記密封状態を解くことができる。これにより前記したとおり、循環流路内への冷却液の充填時において、エアー抜きの機能を兼ねることができる。
【0032】
また、冷却液の交換のために前記循環流路から冷却液を抜き取る操作時においては、ドレインコックの機能を果たすこともできる。なお、図3に示すように支持管18に直交するように冷却液の排出管18aを形成させることで、冷却液の抜き取り作業を円滑に成すことができる。
【0033】
前記した実施の形態によると、温度センサー17の先端感温部17aは、サーモエレメント組立体13を構成する弁体23とフレーム支持部20との間におけるハウジングの流通孔12内に、前記ばね受けフレーム25を避けるように配置されている。また先端感温部17aは、前記ヒータコア部9を経由した冷却液を導入する導入口16と流通孔12とが連通する部分に配置され、しかもサーモエレメント21を中心として前記導入口16の屈曲方向とは反対側の前記流通孔12内に臨むように配置されている。
【0034】
前記した先端感温部17aの配置構成によると、ラジエータ4からの冷却液と、エンジン出口からヒータコア部9を経由した冷却液とが混合される位置において液温の測定をすることができるので、サーモスタット周辺の冷却液の温度を正確に感知でき、さらにサーモスタットがエンジンに直接配置されている場合は、エンジンに流入する冷却液の温度を正確に感知することができるなど、前記した発明の効果の欄に記載した以外の作用効果を得ることができる。
【0035】
なお、前記した実施の形態においては、ヒータコア部9を経由した冷却液を導入する導入口16が、ラジエータ4側からの冷却液の流入口14の屈曲方向と同方向に向かって形成されているが、これら両者は必ずしも同方向に向かって屈曲された構成にする必要はない。
【0036】
また、前記した実施の形態においては、温度センサー17を支持する支持管18は、前記したラジエータ4側からの冷却液の流入口14、およびヒータコア部9を経由した冷却液導入口16のそれぞれの屈曲方向とは反対側に向かって形成されているが、この支持管18の形成方向も、必ずしも前記両者の屈曲方向とは反対側に向かって形成する必要はない。
【符号の説明】
【0037】
1 内燃機関(エンジン)
3 送り流路
4 ラジエータ
5 戻り流路
6 サーモスタット装置
7 ウォータポンプ
8a,8b 分岐流路
9 ヒータコア部
11 ハウジング
12 流通孔
12a 弁座
13 サーモエレメント組立体
14 流入口
15 フランジ部
16 導入口
17 温度センサー
18 支持管
19 受け部
20 フレーム支持部
21 サーモエレメント
22 ピストン
23 弁体
24 ばね部材
25 ばね受けフレーム
25a 係止片
26 クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関内に形成された流体通路とラジエータとの間で冷却液の循環流路を形成する内燃機関の冷却装置において用いられ、前記ラジエータから前記内燃機関の冷却液流入部に向かう冷却液の戻り流路に配置されたハウジング内にサーモエレメント組立体と冷却液の温度を検出する温度センサーとを収容した内燃機関の冷却装置であって、
前記サーモエレメント組立体には、冷却液の温度に反応して膨張・収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと、前記サーモエレメントにおける熱膨張体の膨張・収縮に基づいて前記ハウジング内の流通孔を開閉する弁体と、前記弁体を閉弁する方向に付勢するばね部材と、前記ばね部材の端部を受けるばね受けフレームとが備えられ、
前記ばね受けフレームに形成された係止片が、前記ハウジングの流通孔内に形成されたフレーム支持部に係止することで、前記サーモエレメント組立体が前記ハウジング内に組み込まれた構成になされ、
前記温度センサーの先端感温部が、サーモエレメント組立体を構成する前記弁体と、前記ハウジングの流通孔内に形成されたフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔内に臨むように、かつ前記ばね受けフレームを避けるように配置されていることを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
前記温度センサーの先端感温部は、前記ハウジングに形成された前記ラジエータ側からの冷却液の流入口とは反対側の前記流通孔内に臨むように配置されていることを特徴とする請求項1に記載された内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
前記温度センサーは、前記ハウジングに成形された支持管内に、当該支持管の軸方向に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
前記ラジエータを介さない前記内燃機関の冷却液流出部からの冷却液を導入する導入口が、前記弁体とフレーム支持部との間におけるハウジングの流通孔内に連通されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された内燃機関の冷却装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−179480(P2011−179480A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47341(P2010−47341)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000228741)日本サーモスタット株式会社 (52)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】