内燃機関の制御装置
【課題】圧縮着火燃焼モードにおいて、気筒内の温度を適切に制御し、圧縮着火による燃焼時期のばらつきを抑制することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】この内燃機関3の制御装置1は、圧縮着火燃焼モードにおいて、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁13を開閉することによって、排気通路5に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒C内に再度、吸入する。さらに、低温ガス供給機構80,90によって、高温ガスを冷却するために、高温ガスよりも温度が低い低温ガスを気筒C内に供給する。また、取得された燃焼時期パラメータTEXによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量GAIR2を減少側に制御する。
【解決手段】この内燃機関3の制御装置1は、圧縮着火燃焼モードにおいて、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁13を開閉することによって、排気通路5に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒C内に再度、吸入する。さらに、低温ガス供給機構80,90によって、高温ガスを冷却するために、高温ガスよりも温度が低い低温ガスを気筒C内に供給する。また、取得された燃焼時期パラメータTEXによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量GAIR2を減少側に制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードにおいて、内燃機関を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関の気筒には、第1および第2排気ポートが形成されている。この制御装置は、吸気通路と第1排気ポートに接続された供給通路と、この供給通路を開閉する開閉弁を備えており、開閉弁を開弁することによって、新気が供給通路を介し、低温ガスとして第1排気ポートに供給され、充填される。
【0003】
この制御装置では、圧縮着火燃焼モード時に、吸気行程中に開閉弁を一定のタイミングで開弁することによって、第1排気ポートに低温ガスを充填する。また、吸気行程の終期に、排気弁を開弁することによって、排気通路に排出された排ガスを高温ガスとして第2排気ポートを介して気筒内に再度、吸入させるとともに、第1排気ポートに充填された低温ガスを気筒内に吸入させ、これらの低温ガスと高温ガスを成層化する。成層化された低温ガスおよび高温ガスは、その後の圧縮行程において、圧縮着火によって燃焼する。この燃焼は、高温ガスの部分から自己着火によって開始され、低温ガスの部分に至る。以上のように、圧縮着火燃焼モード時に、第1排気ポートを介して低温ガスを吸入することによって、自己着火による燃焼を緩慢に行わせることにより、ノッキングの発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/140036号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の制御装置では、開閉弁が一定のタイミングで開弁されるため、気筒内の温度を適切に制御できないことがある。例えば、気筒内に吸入される低温ガスが過剰な場合、高温ガスが不足することで、気筒内の温度が低下しすぎることがあり、その場合には、燃焼時期が遅くなる。これとは逆に、気筒内に吸入される低温ガスが不足した場合、より多くの高温ガスが再吸入されることで、気筒内の温度が上昇しすぎることがあり、その場合には、燃焼時期が早くなる。以上のような場合、燃焼サイクル間で燃焼時期がばらつきやすくなり、この点において改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、圧縮着火燃焼モードにおいて、気筒内の温度を適切に制御し、圧縮着火による燃焼時期のばらつきを抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、燃焼モードとして、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードを有するとともに、圧縮着火燃焼モードにおいて内燃機関3を制御する内燃機関3の制御装置1であって、吸気行程中に吸気弁12を開閉することによって、気筒C内に新気を吸入する吸気側動弁機構40と、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁13を開閉することによって、排気通路5に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒C内に再度、吸入するための排ガス吸入機構(実施形態における(以下、本項において同じ)EGR吸入機構80)と、高温ガスを冷却するために、高温ガスよりも温度が低い低温ガスを気筒C内に供給するための低温ガス供給機構(EGR吸入機構80,新気供給機構90)と、気筒C内に吸入された新気および高温ガスの燃焼時期を表す燃焼時期パラメータ(排気温TEX)を取得する燃焼時期パラメータ取得手段(#1〜#4排気温センサ26〜29)と、取得された燃焼時期パラメータによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量(2次新気量GAIR2)を減少側に制御する制御手段(ECU2、図9のステップ46、図10)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この内燃機関の制御装置によれば、圧縮着火燃焼モードにおいて、内燃機関が次のように制御される。まず、吸気行程中に吸気側動弁機構によって吸気弁を開弁することによって、気筒内に新気を吸入する。また、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて、排ガス吸入機構により排気弁を開弁することによって、排気通路に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒内に再度、吸入する。これらの新気および高温ガスは、その後の圧縮行程において、圧縮着火により燃焼する。この燃焼は、高温ガスの部分から開始され、新気の部分に至る。また、高温ガスは、低温ガス供給機構により気筒内に供給された低温ガスによって冷却される。
【0009】
圧縮着火による燃焼時期は、気筒内の温度によって変化し、気筒内の温度は主に、高温ガスに含まれる燃料量や高温ガスの温度に応じて変化する。このような観点に基づき、本発明によれば、取得された、燃焼時期を表す燃焼時期パラメータに応じて低温ガス量を制御するので、その後の圧縮行程における気筒内の温度を実際の燃焼時期に応じて適切に制御でき、圧縮着火燃焼モードにおける燃焼時期を適切に制御することができる。これにより、燃焼サイクル間における燃焼時期のばらつきを抑制することができる。また、内燃機関が複数の気筒を有する場合には、気筒ごとに低温ガス量を制御することによって、気筒間における燃焼時期のばらつきも抑制することができる。
【0010】
また、燃焼時期が早いほど、燃焼の終了タイミングも早くなるため、膨張行程における気筒内の燃焼ガスの冷却損失がより大きくなることによって、その後の排気行程において排出される排ガスの温度、ひいては高温ガスの温度はより低くなる。また、高温ガスの温度が低いと、次回の圧縮行程における燃焼時期は遅くなり、それに伴い、膨張行程における燃焼ガスの冷却損失が小さくなり、高温ガスの温度が高くなることで、その次の圧縮行程における燃焼時期は早くなる。燃焼時期が早まるのに伴い、さらにその次の圧縮行程における燃焼時期は遅くなる。以上のように、燃焼時期が早い場合や遅い場合には、その影響により、その燃焼サイクルだけでなく、その後の燃焼サイクルにおいても、燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象が繰り返される。
【0011】
以上のような観点に基づき、本発明によれば、取得された燃焼時期パラメータによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス量を減少側に制御する。これにより、低温ガスによる冷却度合いを小さくすることで、燃焼温度を高めることができる。以上のように、燃焼時期が早いほど、すなわち、冷却損失が大きいほど、これを補償するように排ガスの温度、ひいては高温ガスの温度を高めることができるので、上述したような燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象を回避することができ、したがって、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の制御装置1において、内燃機関3は、燃焼モードとして、混合気を火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モードをさらに有し、制御手段は、燃焼モードが火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、低温ガス量を制御することを特徴とする。
【0013】
圧縮着火による燃焼は、通常、内燃機関が低負荷運転状態のときに行われ、それ以外のときには、火花点火による燃焼が行われる。このため、気筒の壁面温度は、燃焼モードが圧縮着火燃焼モードのときよりも火花点火燃焼モードのときの方が高くなる。このため、燃焼モードの火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードへの切換中には、気筒内の温度が高くなりやすく、混合気が早期に自己着火によって燃焼することがある。このような観点に基づき、本発明によれば、火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、低温ガス量を制御するので、自己着火による気筒内の温度の過度な上昇を回避することができる。その結果、圧縮着火燃焼モードへの切換中においても、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した内燃機関の構成を概略的に示す図である。
【図2】制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【図4】切換機構の概略構成を示す模式図である。
【図5】ピストンの部分拡大斜視図である。
【図6】燃焼制御処理を示すメインフローである。
【図7】図6の処理で用いられるマップの一例である。
【図8】CI燃焼制御処理を示すサブルーチンである。
【図9】2次新気制御処理を示すメインフローである。
【図10】図9の処理で用いられるテーブルの一例である。
【図11】2次新気噴射時期の算出処理を示すサブルーチンである。
【図12】図11の処理で用いられるテーブルの一例である。
【図13】吸気側動弁機構によって得られる吸気弁のバルブリフト曲線、およびEGR吸入機構によって得られる排気弁のバルブリフト曲線を示す図である。
【図14】CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中における吸気弁および排気弁などの動作の一例を示す図である。
【図15】2次新気制御処理によって得られる動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の制御装置1が適用された内燃機関(以下「エンジン」という)3は、#1〜#4(1番〜4番)気筒Cを有する4気筒のガソリンエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。
【0016】
このエンジン3では、燃焼サイクルの位相が、#1気筒C→#3気筒C→#4気筒C→#2気筒C→#1気筒Cの順序で180°ずつずれており、気筒Cでの燃焼がこの順序で行われる。
【0017】
エンジン3のシリンダヘッド3aには、吸気通路4および排気通路5が接続されるとともに、図3に示すように、気筒Cごとに、筒内燃料噴射弁10および点火プラグ11が、燃焼室3bに臨むように取り付けられている。この筒内燃料噴射弁10は、吸気ポート4aの下側に設けられており、燃焼室3b内に燃料を直接、噴射する直噴タイプのものである。筒内燃料噴射弁10の開弁時間および開弁時期は、後述するECU2によって制御され、それにより、筒内燃料噴射弁10による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。点火プラグ11の点火時期もまた、ECU2によって制御される。
【0018】
また、エンジン3には、筒内燃料噴射弁10に加え、ポート燃料噴射弁9が気筒Cごとに設けられている。各ポート燃料噴射弁9は、吸気マニホルドの各分岐通路4bに取り付けられ、吸気ポート4aに臨んでいる。このポート燃料噴射弁9の開弁時間および開弁時期もまた、ECU2によって制御され、それにより、ポート燃料噴射弁9による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。
【0019】
また、このエンジン3では、燃焼モードとして、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から燃料を吸気行程中に噴射することにより生成された均質混合気を、点火プラグ11による火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モード(以下「SI燃焼モード」という)と、後述するように生成された成層混合気を、自己着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モード(以下「CI燃焼モード」という)とを有し、その切換は、ECU2によって制御される。
【0020】
図1に示すように、排気通路5は、#1〜#4気筒Cにそれぞれ接続された#1〜#4第1排気通路5a〜5dと、#1および#4第1排気通路5a,5dの合流部と#2および#3第1排気通路5b,5cの合流部にそれぞれ接続された第2排気通路6a,6bと、これらの第2排気通路6a,6bの合流部に接続された第3排気通路7で構成されている。
【0021】
これらの第2排気通路6a,6bおよび第3排気通路7にはそれぞれ、フィルタ14が設けられている。フィルタ14は、排ガス中の煤などのPMを捕集することによって、大気中に排出されるPMの量を低減する。
【0022】
図3に示すように、気筒Cには、一対の吸気弁12,12および一対の排気弁13,13(ともに1つのみ図示)が設けられている。吸気弁12は、吸気側動弁機構40によって開閉され、排気弁13は、排気側動弁機構60によって開閉される。これらの吸気側動弁機構40および排気側動弁機構60の構成は、本出願人が特願2009−168228号ですでに提案したものと同様であるので、以下、その概略を簡単に説明する。
【0023】
吸気側動弁機構40は、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングを変更する可変機構で構成されている。なお、吸気弁12のリフトおよび後述する排気弁13のリフトはそれぞれ、吸気弁12および排気弁13の最大揚程を表すものとする。
【0024】
吸気側動弁機構40は、回転自在の吸気カムシャフト41、吸気カムシャフト41に一体に設けられた一対の吸気カム42,42(1つのみ図示)、吸気コントロールシャフト43、この吸気コントロールシャフト43を駆動するアクチュエータ44(図2参照)、支持軸47に揺動自在に支持された一対の揺動カム45,45(1つのみ図示)、コントロールアーム機構46、および吸気カム位相可変機構50などを備えている。この吸気カム位相可変機構50は、吸気カムシャフト41のクランクシャフト(図示せず)に対する相対的な位相を無段階に変更するものである。
【0025】
吸気カムシャフト41は、吸気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。
【0026】
コントロールアーム機構46は、コントロールアーム46a、ローラ46bおよび吸気ロッカアーム46cなどを備えている。コントロールアーム46aは、基端部において、吸気コントロールシャフト43の偏心軸43aに回動自在に支持されている。コントロールアーム46aの他端部には、ローラ46bが設けられている。コントロールアーム46aは、ローラ46bを介して揺動カム45に当接している。
【0027】
吸気ロッカアーム46cは、吸気コントロールシャフト43に回動自在に支持された本体部46dと、本体部46dから延びる延出部46eなどを備えており、延出部46eにおいて、ローラ46bと吸気弁12に当接している。
【0028】
以上の構成により、揺動カム45が吸気カム42で押圧されていない状態では、吸気弁12は図3に示す閉弁位置に保持される。また、吸気カムシャフト41の回転に伴い、揺動カム45が吸気カム42で押圧されると、揺動カム45は、支持軸47を中心として、図3の反時計方向に回動する。その際、ローラ46bが揺動カム45で押圧されることによって、ローラ46bを介して吸気ロッカアーム46cが吸気コントロールシャフト43を中心として、図3の反時計方向に回動し、吸気弁12を下方に押し下げることによって、吸気弁12が開弁する。
【0029】
また、前述したアクチュエータ44を介して吸気コントロールシャフト43を回動させると、コントロールアーム46aが、偏心軸43を中心として図3の左右方向に移動する。この移動に伴い、コントロールアーム46aの揺動カム45への当接位置が変化し、それにより、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングが無段階に変更される。より具体的には、図13に示すように、吸気弁12のリフトが小さくなるほど、閉弁タイミングはより早くなる。
【0030】
前述した排気側動弁機構60は、回転自在の排気カムシャフト61、排気カムシャフト61に一体に設けられた一対の排気カム62,62(1つのみ図示)、排気コントロールシャフト63、この排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されるとともに、排気弁13,13の上端にそれぞれ当接する一対のロッカアーム64,64(1つのみ図示)、ロッカアーム64に設けられたローラ65、および排気カム位相可変機構70などを備えている。
【0031】
排気カムシャフト61は、排気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。排気カムシャフト61が回転すると、ロッカアーム64,64が排気カム62で押圧され、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動することにより、排気弁13,13が開弁する。また、排気カム位相可変機構70は、排気カムシャフト61のクランクシャフトに対する相対的な位相を無段階に変更することによって、排気弁13,13の開閉弁タイミングを無段階に変更するものである。
【0032】
また、エンジン3は、CI燃焼モードにおいて排ガスを気筒C内に再度、吸入させるためのEGR吸入機構80を備えている。
【0033】
このEGR吸入機構80は、吸気行程中の所定期間において、排気弁13を開弁することによって、排気通路5の#1〜#4第1排気通路5a〜5dに一旦、排出された排ガスを気筒C内に再吸入するものである。図3および図4に示すように、EGR吸入機構80は、2つの吸気カム42,42の間に設けられ、吸気カムシャフト41と一体のEGRカム81、支持軸47に回動自在に支持されたロッカカム82、コントロールアーム83、レバー84、および切換機構85などを備えている。EGRカム81は、ロッカカム82のローラ82aに当接している。
【0034】
コントロールアーム83は、基端部において、排気コントロールシャフト63の偏心軸63aに回動自在に支持されている。コントロールアーム83の他端部には、ローラ83aが設けられている。コントロールアーム83は、ローラ83aを介してロッカカム82に当接している。
【0035】
レバー84は、2つのロッカアーム64,64の間に設けられている。レバー84は、三角形状を有しており、その頂角部において、排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されており、一方の底角部において、コントロールアーム83の押圧部83bに当接している。
【0036】
以上の構成により、吸気カムシャフト41の回転に伴い、ローラ82aがEGRカム81で押圧されると、ロッカカム82は、支持軸47を中心として、図3の時計方向に回動する。その際、コントロールアーム83のローラ83aがロッカカム82で押圧されることによって、コントロールアーム83が排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動し、それに伴って、押圧部83bがレバー84を押圧する。これにより、レバー84は、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動する。
【0037】
図4に示すように、切換機構85は、ロッカアーム64,64およびレバー84に形成されたシリンダ86a〜86c、シリンダ86a〜86cに収容された連結ピストン87,88などで構成されている。シリンダ86aには、連結ピストン87,88を反対側のシリンダ86c側に付勢する戻しばね89が設けられている。さらに、シリンダ86cには、排気コントロールシャフト63に形成された油路(図示せず)を介して、油圧が供給される。このシリンダ86cへの油圧の供給は、ECU2により、ポンプ(図示せず)から油路への油圧の供給・停止を制御することによって、行われる。
【0038】
以上の構成により、シリンダ86cに油圧が供給されていない状態では、戻しばね89の付勢力によって、連結ピストン87がシリンダ86bに収容され、連結ピストン88がシリンダ86cに収容される(図4(a))。これにより、ロッカアーム64とレバー84が互いに遮断され、フリーな状態になることによって、レバー84の動きは、ロッカアーム64には伝達されず、レバー84のみがEGRカム81によって駆動される。
【0039】
一方、シリンダ86cに油圧が供給されると、この油圧により、連結ピストン87,88が戻しばね89の付勢力に抗してシリンダ86a側に移動することによって、連結ピストン87がシリンダ86aとシリンダ86bにまたがった状態で係合し、連結ピストン88がシリンダ86bとシリンダ86cにまたがった状態で係合する(図4(b))。これにより、レバー84とロッカアーム64が連結され、EGRカム81の動きがレバー84を介してロッカアーム64に伝達されることによって、排気弁13は、一定のリフトおよび一定のバルブタイミングで開閉される。
【0040】
また、シリンダヘッド3aには、複数のガイド壁3dが取り付けられている。図3に示すように、ガイド壁3dは、#1〜#4排気ポート8a〜8dのそれぞれの開口にその周方向の一部にわたって延びるとともに、燃焼室3b内に突出している。各ガイド壁3dは、吸気ポート4a側に配置されており、その長さは#1〜#4排気ポート8a〜8dの開口の半径よりも小さい。また、ガイド壁3dの突出高さは、排気弁13のリフトとほぼ同じであり、例えば2〜3mmに設定されている。
【0041】
図5に示すように、ピストン3cの頂面には、凸部3eが形成されている。この凸部3eは、その中心が吸気弁12側になるように配置されている。また、凸部3eの吸気弁12側の縁部3gはほぼ直線状に形成されているのに対して、排気弁13側の縁部3hは、吸気弁12側にくぼんだ状態で湾曲している。
【0042】
以上の構成により、CI燃焼モードにおいて、EGR吸入機構80により排気弁13が開弁されると、排気通路5に排出された排ガスは、排気弁13を介して気筒C内に再吸入される。このとき、排ガスは、ガイド壁3dによって、排気弁13側の内壁に沿うように下方に案内されながら、気筒C内に吸入されるとともに、ピストン3cの凸部3eによって、吸入された排ガスの吸気弁12側への流出が阻止される。その結果、排ガスは、図1に実線Aで示すように気筒C内に流入する。これにより、気筒C内の排気弁13側には、より高温の排ガスによる高温ガス層T1が形成され、吸気弁12側には、より低温の新気による混合ガス層T2が形成されることによって、新気と排ガスが成層化される。
【0043】
また、EGR吸入機構80によって排気弁13が開弁するのと同時に、その気筒Cに対して燃焼サイクルの位相が360°ずれた、排気行程にある気筒Cから、#1〜#4第1排気通路5a〜5dを介して圧力が導入される。例えば、#1気筒Cと#4気筒Cの位相が互いに360°ずれているため、#1気筒Cが吸気行程から圧縮行程の間にあるときに、#4気筒Cは、膨張行程から排気行程の間にある。このため、#1気筒Cに排ガスを再吸入する場合、#4気筒Cから排出される排ガスの圧力によって、#1気筒Cへの排ガスの再吸入を適切に行わせることができる。
【0044】
図1に示すように、エンジン3はさらに、気筒Cに再吸入される排ガスを冷却するための新気供給機構90を備えている。この新気供給機構90は、吸気通路4内の新気を#1〜#4排気ポート8a〜8dに供給するための供給通路91と、供給通路91に上流側から順に設けられた過給機92およびクーラ93と、#1〜#4制御弁94a〜94dなどを備えている。供給通路91は、吸気通路4から分岐するとともに、下流側において#1〜#4排気ポート8a〜8dに接続されている。より詳細には、供給通路91の下流側の端部は#1〜#4分岐通路91a〜91dに分岐しており、これらの#1〜#4分岐通路91a〜91dがそれぞれ、#1〜#4排気ポート8a〜8dの各一方に臨んでいる。
【0045】
過給機92は、供給通路91を流れる新気(以下「2次新気」という)を過給するものである。この過給による2次新気の過給圧は、#1〜#4排気ポート8a〜8d内の圧力よりも高くなるように、ECU2によって制御される。クーラ93は、過給された2次新気を冷却する。
【0046】
#1〜#4制御弁94a〜94dは、#1〜#4分岐通路91a〜91dにそれぞれ設けられている。#1〜#4制御弁94a〜94dの開弁時間および開弁時期もまた、ECU2によって制御され、それにより、#1〜#4排気ポート8a〜8dに供給される2次新気の量(以下「2次新気量」という)GAIR2、および2次新気の噴射時期(以下「2次新気噴射時期」という)TAIR2が制御される。
【0047】
また、エンジン3には、クランク角センサ21および気筒判別センサ30が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCKR信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0048】
CRK信号は、所定クランク角(例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒Cにおいてピストン3cが吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4気筒の場合には、クランク角180゜ごとに出力される。また、気筒判別センサ30は、気筒Cを判別するためのパルス信号である気筒判別信号を、ECU2に出力する。
【0049】
吸気通路4には、上流側から順に、吸気温センサ22およびエアフローセンサ23が設けられている。吸気温センサ22は、吸気通路4内の温度(以下「吸気温」という)TAを検出し、その検出信号をECU2に出力する。エアフローセンサ23は、エンジン3に吸入される新気量GAIRを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0050】
排気通路5の#1〜#4第1排気通路5a〜5dにはそれぞれ、#1〜#4排気温センサ26〜29が設けられている。これらの#1〜#4排気温センサ26〜29は、#1〜#4第1排気通路5a〜5d内の温度(以下、それぞれ「#1〜#4排気温」という)TEX1〜TEX4をそれぞれ検出し、それらの検出信号をECU2に出力する。
【0051】
また、ECU2には、水温センサ24から、エンジン3のシリンダブロック3f内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWをを表す検出信号が、アクセル開度センサ25から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、それぞれ出力される。
【0052】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜30の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、エンジン3の燃焼モードを、SI燃焼モードまたはCI燃焼モードに決定する。また、ECU2は、決定した燃焼モードに応じて、燃焼制御処理や2次新気量制御処理などの各種の制御処理を実行する。なお、本実施形態では、ECU2が、制御手段に相当する。
【0053】
図6は、上述した燃焼制御処理を示すフローチャートである。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、環境条件フラグF_ENVが「1」であるか否かを判別する。この環境条件フラグF_ENVは、自己着火による燃焼に適した温度状態が燃焼室3b内に確保されていると判定されているときに「1」にセットされるものであり、吸気温TAおよびエンジン水温TWがそれぞれの所定温度以上のときに、そのような温度状態が確保されていると判定される。
【0054】
このステップ1の判別結果がNOのときには、自己着火に適した燃焼室3b内の温度状態が確保されていないとして、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、SI燃焼制御を実行した(ステップ3)後、本処理を終了する。
【0055】
一方、ステップ1の判別結果がYESのときには、エンジン3がCI燃焼を実行すべき運転領域(以下「HCCI領域」という)にあるか否かを判別する(ステップ2)。この判別は、図7に示すマップに基づき、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて行われる。このマップでは、HCCI領域は、エンジン回転数NEが低〜中回転域にあり、かつ要求トルクPMCMDが低〜中負荷域にある運転領域に設定されている。
【0056】
このステップ2の判別結果がNOで、エンジン3がHCCI領域にないときには、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、前記ステップ3でSI燃焼制御を実行した後、本処理を終了する。
【0057】
このSI燃焼制御は、以下のようにして行われる。まず、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、燃料噴射量QINJを算出する。次に、エンジン回転数NEが所定値以下で、かつ要求トルクPMCMDが所定値以下のときには、燃料噴射量QINJの燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。一方、それ以外のときには、燃料噴射量QINJに対して所定割合(例えば80%)の燃料をポート燃料噴射弁9から吸気ポート4aに噴射し、残りの割合の燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。なお、要求トルクPMCMDは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0058】
一方、ステップ2の判別結果がYESで、エンジン3がHCCI領域にあるときには、燃焼モードをCI燃焼モードに決定し、後述するCI燃焼制御を実行した(ステップ4)後、本処理を終了する。
【0059】
なお、この燃焼制御処理では、前述したエンジン3の運転領域の判別結果に応じ、CI燃焼フラグF_STSが、CI燃焼モードのときに「2」に、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中に「1」に、それら以外のときに「0」に、それぞれセットされる。
【0060】
図8は、このCI燃焼制御処理のサブルーチンを示している。本処理では、まずステップ11において、切換機構85を駆動し、レバー84とロッカアーム64を連結することによって、吸気行程において排気弁13を開弁可能な状態にする。
【0061】
次に、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、それぞれの所定のマップ(図示せず)を検索することによって、吸気行程中に噴射する燃料噴射量QINJおよび燃料噴射時期TINJをそれぞれ算出し(ステップ12,13)、本処理を終了する。この燃料噴射時期TINJは、クランク角CAで表される。上記のようにして算出された燃料噴射量QINJは、前述したSI燃焼モードにおける、低回転・低負荷以外の運転状態の場合と同様、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から所定割合に分けて噴射される。
【0062】
図9は、前述した2次新気量制御処理を示すフローチャートである。本処理もまた、TDC信号の発生に同期して実行される。この2次新気量制御処理は、気筒判別信号に基づいて、気筒Cごとに行われる。以下では、説明の便宜上、これらを代表して#1気筒Cについて説明を行うものとする。本処理では、まずステップ41において、前述したCI燃焼フラグF_STSが「2」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、燃焼モードがCI燃焼モードのときには、後述するステップ44に進む。
【0063】
一方、ステップ41の判別結果がNOのときには、CI燃焼フラグF_STSが「1」であるか否かを判別する(ステップ42)。この判別結果がNOのときには、2次新気の供給を行わないものとし、2次新気量GAIR2を値0にセットした(ステップ43)後、本処理を終了する。
【0064】
一方、ステップ42の判別結果がYESで、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中のときには、ステップ44に進む。
【0065】
このステップ44では、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて、目標温度TEXCMDを算出する。次に、目標温度TEXCMDと#1排気温TEX1との差の絶対値(=|TEXCMD−TEX1|)が所定値TREF以上であるか否かを判別する(ステップ45)。
【0066】
前述したように、燃焼時期が一旦ずれると、燃焼時期が早いために排ガスの温度が低下するという事象と、燃焼時期が遅いために排ガスの温度が上昇するという事象が、繰り返し現れる。このため、このステップ45の判別結果がYESで、|TEXCMD−TEX1|≧TREFのときには、燃焼時期が大きくずれているとして、#1排気温TEX1に応じ、図10に示すテーブルを検索することによって、2次新気量GAIR2を算出する(ステップ46)。このテーブルでは、2次新気量GIAR2は、#1排気温TEX1が高いほど、次回の圧縮行程における燃焼時期が遅くなりやすいため、それを補償すべくより小さな値に設定されている。
【0067】
次いで、2次新気噴射時期TAIR2を算出し(ステップ47)、本処理を終了する。この2次新気噴射時期TAIR2の算出処理については後述する。以上のようにして設定された2次新気噴射時期TAIR2に、2次新気量GAIR2に応じて#1制御弁94aを開弁することによって、#1排気ポート8aに供給される2次新気量GAIR2が制御される。
【0068】
また、#2〜#4気筒Cについても、上述した#1気筒Cの場合と同様にして、CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中、前述したようにして算出した目標温度TEXCMDと#2〜#4排気温TEX2〜4との差の絶対値が所定値TREF以上のときに、#2〜#4排気温TEX2〜4に応じて2次新気量GAIR2が算出される。
【0069】
一方、前記ステップ45の判別結果がNOで、|TEXCMD−TEX1|<TREFのときには、燃焼時期のずれが比較的小さいとして、2次新気の供給を行わないものとし、前記ステップ43において2次新気量GAIR2を値0にセットし、本処理を終了する。
【0070】
図11は、上述した2次新気噴射時期TAIR2の算出処理のサブルーチンを示している。本処理ではまず、ステップ51において、2次新気量GAIR2に応じ、所定のテーブル(図示せず)を検索することによって、2次新気噴射時期TAIR2を算出する。
【0071】
次に、算出した2次新気噴射時期TAIR2が、図12に示すリミット値TALMTよりも小さいか否かを判別する(ステップ52)。この判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0072】
一方、ステップ52の判別結果がYESで、TAIR2<TALMTのときには、リミット値TALMTを2次新気噴射時期TAIR2として設定し(ステップ53)、本処理を終了する。以上により、2次新気噴射時期TAIR2は、リミット値TALMTと排気上死点との間(図12のハッチングで示す領域)に設定され、この領域内のタイミングで2次新気が供給される。
【0073】
次に、図14を参照しながら、CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中において得られる吸気弁12および排気弁13などの動作をまとめて説明する。なお、以下の説明では、#1〜#4制御弁94a〜94dを制御弁94と総称するとともに、#1〜#4排気温TEX1〜TEX4を排気温TEXと総称する。まず、排気行程において、排気側動弁機構60によって排気弁13が開弁され、排ガスが排気通路5に排出される。
【0074】
その後、新気供給機構90によって制御弁94が開弁されることにより、2次新気が排気通路5に供給され、この2次新気によって、排気通路5に排出された排ガスが冷却される。
【0075】
その後の吸気行程において、吸気側動弁機構40によって吸気弁12が開弁され、新気が気筒C内に吸入される。また、この吸気行程中に、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から気筒C内に燃料が供給され、この燃料が新気と混合されることによって、混合ガスが生成される。
【0076】
また、吸気行程の終期にEGR吸入機構80によって排気弁13が開弁されることによって、排気通路5内の排ガスが、高温ガスとして気筒C内に再吸入される(同図のハッチング)。以上のようにして生成された混合ガスおよび高温ガスは、ガイド壁3dおよび凸部3eによって、気筒C内で高温ガス層T1と混合ガス層T2に成層化される。高温ガス層T1は排気弁13側に分布し、混合ガス層T2は吸気弁12側に分布する。また、その後の圧縮行程において、高温ガス層T1および混合ガス層T2が自己着火により燃焼する。この燃焼は、より高温の高温ガス層T1から開始され、混合ガス層T2に至る。
【0077】
図15は、これまでに説明した2次新気制御処理によって得られる動作例を示している。この例では、タイミングt1以前では、SI燃焼モードによる燃焼が行われており、この状態では、CI燃焼フラグF_STSは「0」にセットされている。このとき、2次新気量GAIR2は値0にセットされており(ステップ43)、それにより、#1〜#4排気ポート8a〜8dへの2次新気の供給は停止されている。この状態からCI燃焼モードへ切り換えられると(t1)、その切換に伴って、#1〜#4排気ポート8a〜8dに2次新気が供給される(ステップ46)。CI燃焼モードへの切換直後には、それまでのSI燃焼モードによる燃焼によって気筒Cの壁面温度がより高いため、2次新気量GAIR2はより大きな値に設定される。これにより、排気温TEX、ひいては高温ガスが冷却され、それに伴って気筒Cの壁面温度が低下する。これにより、圧縮行程における気筒C内の温度(圧縮温度)の過度な上昇を回避することができる。また、2次新気を供給することによって、壁面温度が徐々に低下する。
【0078】
その後、CI燃焼モードに完全に移行すると(t2)、CI燃焼フラグF_STSが「2」に切り換えられるとともに、排気温TEXに応じた2次新気制御が引き続き行われる。
【0079】
以上のように、本実施形態によれば、排気通路5に排出された高温ガスとしての排ガスを2次新気によって冷却するとともに、このときの2次新気量GAIR2を排気温TEXに応じて制御するので、その後の圧縮行程における気筒C内の温度を実際の燃焼時期に応じて適切に制御でき、CI燃焼モードにおける燃焼時期を適切に制御することができる。これにより、燃焼サイクル間における燃焼時期のばらつきを抑制することができる。さらに、気筒Cごとに2次新気量GAIR2を制御するので、気筒C間における燃焼時期のばらつきも抑制することができる。
【0080】
また、排気温TEXが低く、実際の燃焼時期が低いほど、2次新気量GAIR2を減少側に制御するので、その後の圧縮行程における燃焼温度を高めることができる。これにより、燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象を回避することができ、したがって、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0081】
さらに、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中に、2次新気を供給し、高温ガスを冷却するので、自己着火による気筒C内の温度の過度な上昇を回避することができる。その結果、CI燃焼モードへの切換中においても、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0082】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、低温ガスとして、新気を用いているが、これに代えて、フィルタ14よりも下流側のより低温の排ガスを用いてもよい。また、実施形態では、気筒C内の新気および高温ガスの燃焼時期を表すパラメータとして、排気温TEXを用いているが、これに代えて、燃焼時期を表す他のパラメータ、例えば検出された筒内圧に基づいて求められた筒内圧のピーク値や最大変化量を示すタイミングや、点火プラグに印加される電圧に応じたイオン電流の推移を用いてもよい。
【0083】
また、実施形態では、2次新気量GAIR2の算出を、対応する気筒Cから排出された排気温TEXにのみ応じて行っているが、これに加えて、360°位相の異なる気筒から排出された排気温に応じて行ってもよい。具体的には、#1気筒Cに吸入される2次新気量GAIR2を算出する際には、#1排気温TEX1に加え、#4気筒Cから排出された#4排気温TEX4に応じて、2次新気量GAIR2を算出してもよい。これは、#4気筒Cから排出された排ガスの温度が低いと、排ガスの圧力も低くなり、#1気筒Cに再吸入される高温ガスが減少することから、気筒内の温度が低下しやすいためである。このため、#4気筒Cからの#4排気温TEX4が低いほど、#1気筒Cに吸入される2次新気量GIAR2を減少側に算出することによって、#1気筒C内の温度を適切に制御することができる。
【0084】
さらに、実施形態では、気筒C内への2次新気の供給を、新気供給機構90により、#1〜#4排気ポート8a〜8dを介して行っているが、これに限らず、他の新気供給機構により、気筒C内に直接、噴射することによって行ってもよい。また、実施形態では、EGR吸入機構80は、排気弁13のバルブタイミングを変更不能なものであるが、これを変更可能に構成してもよい。
【0085】
さらには、実施形態は、本発明を車両に搭載されたガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ガソリンエンジン以外のディーゼルエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 制御装置
2 ECU(制御手段)
3 エンジン
5 排気通路
12 吸気弁
13 排気弁
26 #1排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
27 #2排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
28 #3排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
29 #4排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
40 吸気側動弁機構
80 EGR吸入機構(排ガス吸入機構および低温ガス供給機構)
90 新気供給機構(低温ガス供給機構)
C 気筒
TEX 排気温(燃焼時期パラメータ)
GAIR2 2次新気量
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードにおいて、内燃機関を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関の気筒には、第1および第2排気ポートが形成されている。この制御装置は、吸気通路と第1排気ポートに接続された供給通路と、この供給通路を開閉する開閉弁を備えており、開閉弁を開弁することによって、新気が供給通路を介し、低温ガスとして第1排気ポートに供給され、充填される。
【0003】
この制御装置では、圧縮着火燃焼モード時に、吸気行程中に開閉弁を一定のタイミングで開弁することによって、第1排気ポートに低温ガスを充填する。また、吸気行程の終期に、排気弁を開弁することによって、排気通路に排出された排ガスを高温ガスとして第2排気ポートを介して気筒内に再度、吸入させるとともに、第1排気ポートに充填された低温ガスを気筒内に吸入させ、これらの低温ガスと高温ガスを成層化する。成層化された低温ガスおよび高温ガスは、その後の圧縮行程において、圧縮着火によって燃焼する。この燃焼は、高温ガスの部分から自己着火によって開始され、低温ガスの部分に至る。以上のように、圧縮着火燃焼モード時に、第1排気ポートを介して低温ガスを吸入することによって、自己着火による燃焼を緩慢に行わせることにより、ノッキングの発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/140036号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の制御装置では、開閉弁が一定のタイミングで開弁されるため、気筒内の温度を適切に制御できないことがある。例えば、気筒内に吸入される低温ガスが過剰な場合、高温ガスが不足することで、気筒内の温度が低下しすぎることがあり、その場合には、燃焼時期が遅くなる。これとは逆に、気筒内に吸入される低温ガスが不足した場合、より多くの高温ガスが再吸入されることで、気筒内の温度が上昇しすぎることがあり、その場合には、燃焼時期が早くなる。以上のような場合、燃焼サイクル間で燃焼時期がばらつきやすくなり、この点において改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、圧縮着火燃焼モードにおいて、気筒内の温度を適切に制御し、圧縮着火による燃焼時期のばらつきを抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、燃焼モードとして、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードを有するとともに、圧縮着火燃焼モードにおいて内燃機関3を制御する内燃機関3の制御装置1であって、吸気行程中に吸気弁12を開閉することによって、気筒C内に新気を吸入する吸気側動弁機構40と、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁13を開閉することによって、排気通路5に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒C内に再度、吸入するための排ガス吸入機構(実施形態における(以下、本項において同じ)EGR吸入機構80)と、高温ガスを冷却するために、高温ガスよりも温度が低い低温ガスを気筒C内に供給するための低温ガス供給機構(EGR吸入機構80,新気供給機構90)と、気筒C内に吸入された新気および高温ガスの燃焼時期を表す燃焼時期パラメータ(排気温TEX)を取得する燃焼時期パラメータ取得手段(#1〜#4排気温センサ26〜29)と、取得された燃焼時期パラメータによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量(2次新気量GAIR2)を減少側に制御する制御手段(ECU2、図9のステップ46、図10)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この内燃機関の制御装置によれば、圧縮着火燃焼モードにおいて、内燃機関が次のように制御される。まず、吸気行程中に吸気側動弁機構によって吸気弁を開弁することによって、気筒内に新気を吸入する。また、吸気行程の終期から圧縮行程にかけて、排ガス吸入機構により排気弁を開弁することによって、排気通路に排出された排ガスを、高温ガスとして気筒内に再度、吸入する。これらの新気および高温ガスは、その後の圧縮行程において、圧縮着火により燃焼する。この燃焼は、高温ガスの部分から開始され、新気の部分に至る。また、高温ガスは、低温ガス供給機構により気筒内に供給された低温ガスによって冷却される。
【0009】
圧縮着火による燃焼時期は、気筒内の温度によって変化し、気筒内の温度は主に、高温ガスに含まれる燃料量や高温ガスの温度に応じて変化する。このような観点に基づき、本発明によれば、取得された、燃焼時期を表す燃焼時期パラメータに応じて低温ガス量を制御するので、その後の圧縮行程における気筒内の温度を実際の燃焼時期に応じて適切に制御でき、圧縮着火燃焼モードにおける燃焼時期を適切に制御することができる。これにより、燃焼サイクル間における燃焼時期のばらつきを抑制することができる。また、内燃機関が複数の気筒を有する場合には、気筒ごとに低温ガス量を制御することによって、気筒間における燃焼時期のばらつきも抑制することができる。
【0010】
また、燃焼時期が早いほど、燃焼の終了タイミングも早くなるため、膨張行程における気筒内の燃焼ガスの冷却損失がより大きくなることによって、その後の排気行程において排出される排ガスの温度、ひいては高温ガスの温度はより低くなる。また、高温ガスの温度が低いと、次回の圧縮行程における燃焼時期は遅くなり、それに伴い、膨張行程における燃焼ガスの冷却損失が小さくなり、高温ガスの温度が高くなることで、その次の圧縮行程における燃焼時期は早くなる。燃焼時期が早まるのに伴い、さらにその次の圧縮行程における燃焼時期は遅くなる。以上のように、燃焼時期が早い場合や遅い場合には、その影響により、その燃焼サイクルだけでなく、その後の燃焼サイクルにおいても、燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象が繰り返される。
【0011】
以上のような観点に基づき、本発明によれば、取得された燃焼時期パラメータによって表される燃焼時期が早いほど、低温ガス量を減少側に制御する。これにより、低温ガスによる冷却度合いを小さくすることで、燃焼温度を高めることができる。以上のように、燃焼時期が早いほど、すなわち、冷却損失が大きいほど、これを補償するように排ガスの温度、ひいては高温ガスの温度を高めることができるので、上述したような燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象を回避することができ、したがって、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の制御装置1において、内燃機関3は、燃焼モードとして、混合気を火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モードをさらに有し、制御手段は、燃焼モードが火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、低温ガス量を制御することを特徴とする。
【0013】
圧縮着火による燃焼は、通常、内燃機関が低負荷運転状態のときに行われ、それ以外のときには、火花点火による燃焼が行われる。このため、気筒の壁面温度は、燃焼モードが圧縮着火燃焼モードのときよりも火花点火燃焼モードのときの方が高くなる。このため、燃焼モードの火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードへの切換中には、気筒内の温度が高くなりやすく、混合気が早期に自己着火によって燃焼することがある。このような観点に基づき、本発明によれば、火花点火燃焼モードから圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、低温ガス量を制御するので、自己着火による気筒内の温度の過度な上昇を回避することができる。その結果、圧縮着火燃焼モードへの切換中においても、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した内燃機関の構成を概略的に示す図である。
【図2】制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【図4】切換機構の概略構成を示す模式図である。
【図5】ピストンの部分拡大斜視図である。
【図6】燃焼制御処理を示すメインフローである。
【図7】図6の処理で用いられるマップの一例である。
【図8】CI燃焼制御処理を示すサブルーチンである。
【図9】2次新気制御処理を示すメインフローである。
【図10】図9の処理で用いられるテーブルの一例である。
【図11】2次新気噴射時期の算出処理を示すサブルーチンである。
【図12】図11の処理で用いられるテーブルの一例である。
【図13】吸気側動弁機構によって得られる吸気弁のバルブリフト曲線、およびEGR吸入機構によって得られる排気弁のバルブリフト曲線を示す図である。
【図14】CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中における吸気弁および排気弁などの動作の一例を示す図である。
【図15】2次新気制御処理によって得られる動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の制御装置1が適用された内燃機関(以下「エンジン」という)3は、#1〜#4(1番〜4番)気筒Cを有する4気筒のガソリンエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。
【0016】
このエンジン3では、燃焼サイクルの位相が、#1気筒C→#3気筒C→#4気筒C→#2気筒C→#1気筒Cの順序で180°ずつずれており、気筒Cでの燃焼がこの順序で行われる。
【0017】
エンジン3のシリンダヘッド3aには、吸気通路4および排気通路5が接続されるとともに、図3に示すように、気筒Cごとに、筒内燃料噴射弁10および点火プラグ11が、燃焼室3bに臨むように取り付けられている。この筒内燃料噴射弁10は、吸気ポート4aの下側に設けられており、燃焼室3b内に燃料を直接、噴射する直噴タイプのものである。筒内燃料噴射弁10の開弁時間および開弁時期は、後述するECU2によって制御され、それにより、筒内燃料噴射弁10による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。点火プラグ11の点火時期もまた、ECU2によって制御される。
【0018】
また、エンジン3には、筒内燃料噴射弁10に加え、ポート燃料噴射弁9が気筒Cごとに設けられている。各ポート燃料噴射弁9は、吸気マニホルドの各分岐通路4bに取り付けられ、吸気ポート4aに臨んでいる。このポート燃料噴射弁9の開弁時間および開弁時期もまた、ECU2によって制御され、それにより、ポート燃料噴射弁9による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。
【0019】
また、このエンジン3では、燃焼モードとして、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から燃料を吸気行程中に噴射することにより生成された均質混合気を、点火プラグ11による火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モード(以下「SI燃焼モード」という)と、後述するように生成された成層混合気を、自己着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モード(以下「CI燃焼モード」という)とを有し、その切換は、ECU2によって制御される。
【0020】
図1に示すように、排気通路5は、#1〜#4気筒Cにそれぞれ接続された#1〜#4第1排気通路5a〜5dと、#1および#4第1排気通路5a,5dの合流部と#2および#3第1排気通路5b,5cの合流部にそれぞれ接続された第2排気通路6a,6bと、これらの第2排気通路6a,6bの合流部に接続された第3排気通路7で構成されている。
【0021】
これらの第2排気通路6a,6bおよび第3排気通路7にはそれぞれ、フィルタ14が設けられている。フィルタ14は、排ガス中の煤などのPMを捕集することによって、大気中に排出されるPMの量を低減する。
【0022】
図3に示すように、気筒Cには、一対の吸気弁12,12および一対の排気弁13,13(ともに1つのみ図示)が設けられている。吸気弁12は、吸気側動弁機構40によって開閉され、排気弁13は、排気側動弁機構60によって開閉される。これらの吸気側動弁機構40および排気側動弁機構60の構成は、本出願人が特願2009−168228号ですでに提案したものと同様であるので、以下、その概略を簡単に説明する。
【0023】
吸気側動弁機構40は、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングを変更する可変機構で構成されている。なお、吸気弁12のリフトおよび後述する排気弁13のリフトはそれぞれ、吸気弁12および排気弁13の最大揚程を表すものとする。
【0024】
吸気側動弁機構40は、回転自在の吸気カムシャフト41、吸気カムシャフト41に一体に設けられた一対の吸気カム42,42(1つのみ図示)、吸気コントロールシャフト43、この吸気コントロールシャフト43を駆動するアクチュエータ44(図2参照)、支持軸47に揺動自在に支持された一対の揺動カム45,45(1つのみ図示)、コントロールアーム機構46、および吸気カム位相可変機構50などを備えている。この吸気カム位相可変機構50は、吸気カムシャフト41のクランクシャフト(図示せず)に対する相対的な位相を無段階に変更するものである。
【0025】
吸気カムシャフト41は、吸気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。
【0026】
コントロールアーム機構46は、コントロールアーム46a、ローラ46bおよび吸気ロッカアーム46cなどを備えている。コントロールアーム46aは、基端部において、吸気コントロールシャフト43の偏心軸43aに回動自在に支持されている。コントロールアーム46aの他端部には、ローラ46bが設けられている。コントロールアーム46aは、ローラ46bを介して揺動カム45に当接している。
【0027】
吸気ロッカアーム46cは、吸気コントロールシャフト43に回動自在に支持された本体部46dと、本体部46dから延びる延出部46eなどを備えており、延出部46eにおいて、ローラ46bと吸気弁12に当接している。
【0028】
以上の構成により、揺動カム45が吸気カム42で押圧されていない状態では、吸気弁12は図3に示す閉弁位置に保持される。また、吸気カムシャフト41の回転に伴い、揺動カム45が吸気カム42で押圧されると、揺動カム45は、支持軸47を中心として、図3の反時計方向に回動する。その際、ローラ46bが揺動カム45で押圧されることによって、ローラ46bを介して吸気ロッカアーム46cが吸気コントロールシャフト43を中心として、図3の反時計方向に回動し、吸気弁12を下方に押し下げることによって、吸気弁12が開弁する。
【0029】
また、前述したアクチュエータ44を介して吸気コントロールシャフト43を回動させると、コントロールアーム46aが、偏心軸43を中心として図3の左右方向に移動する。この移動に伴い、コントロールアーム46aの揺動カム45への当接位置が変化し、それにより、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングが無段階に変更される。より具体的には、図13に示すように、吸気弁12のリフトが小さくなるほど、閉弁タイミングはより早くなる。
【0030】
前述した排気側動弁機構60は、回転自在の排気カムシャフト61、排気カムシャフト61に一体に設けられた一対の排気カム62,62(1つのみ図示)、排気コントロールシャフト63、この排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されるとともに、排気弁13,13の上端にそれぞれ当接する一対のロッカアーム64,64(1つのみ図示)、ロッカアーム64に設けられたローラ65、および排気カム位相可変機構70などを備えている。
【0031】
排気カムシャフト61は、排気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。排気カムシャフト61が回転すると、ロッカアーム64,64が排気カム62で押圧され、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動することにより、排気弁13,13が開弁する。また、排気カム位相可変機構70は、排気カムシャフト61のクランクシャフトに対する相対的な位相を無段階に変更することによって、排気弁13,13の開閉弁タイミングを無段階に変更するものである。
【0032】
また、エンジン3は、CI燃焼モードにおいて排ガスを気筒C内に再度、吸入させるためのEGR吸入機構80を備えている。
【0033】
このEGR吸入機構80は、吸気行程中の所定期間において、排気弁13を開弁することによって、排気通路5の#1〜#4第1排気通路5a〜5dに一旦、排出された排ガスを気筒C内に再吸入するものである。図3および図4に示すように、EGR吸入機構80は、2つの吸気カム42,42の間に設けられ、吸気カムシャフト41と一体のEGRカム81、支持軸47に回動自在に支持されたロッカカム82、コントロールアーム83、レバー84、および切換機構85などを備えている。EGRカム81は、ロッカカム82のローラ82aに当接している。
【0034】
コントロールアーム83は、基端部において、排気コントロールシャフト63の偏心軸63aに回動自在に支持されている。コントロールアーム83の他端部には、ローラ83aが設けられている。コントロールアーム83は、ローラ83aを介してロッカカム82に当接している。
【0035】
レバー84は、2つのロッカアーム64,64の間に設けられている。レバー84は、三角形状を有しており、その頂角部において、排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されており、一方の底角部において、コントロールアーム83の押圧部83bに当接している。
【0036】
以上の構成により、吸気カムシャフト41の回転に伴い、ローラ82aがEGRカム81で押圧されると、ロッカカム82は、支持軸47を中心として、図3の時計方向に回動する。その際、コントロールアーム83のローラ83aがロッカカム82で押圧されることによって、コントロールアーム83が排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動し、それに伴って、押圧部83bがレバー84を押圧する。これにより、レバー84は、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動する。
【0037】
図4に示すように、切換機構85は、ロッカアーム64,64およびレバー84に形成されたシリンダ86a〜86c、シリンダ86a〜86cに収容された連結ピストン87,88などで構成されている。シリンダ86aには、連結ピストン87,88を反対側のシリンダ86c側に付勢する戻しばね89が設けられている。さらに、シリンダ86cには、排気コントロールシャフト63に形成された油路(図示せず)を介して、油圧が供給される。このシリンダ86cへの油圧の供給は、ECU2により、ポンプ(図示せず)から油路への油圧の供給・停止を制御することによって、行われる。
【0038】
以上の構成により、シリンダ86cに油圧が供給されていない状態では、戻しばね89の付勢力によって、連結ピストン87がシリンダ86bに収容され、連結ピストン88がシリンダ86cに収容される(図4(a))。これにより、ロッカアーム64とレバー84が互いに遮断され、フリーな状態になることによって、レバー84の動きは、ロッカアーム64には伝達されず、レバー84のみがEGRカム81によって駆動される。
【0039】
一方、シリンダ86cに油圧が供給されると、この油圧により、連結ピストン87,88が戻しばね89の付勢力に抗してシリンダ86a側に移動することによって、連結ピストン87がシリンダ86aとシリンダ86bにまたがった状態で係合し、連結ピストン88がシリンダ86bとシリンダ86cにまたがった状態で係合する(図4(b))。これにより、レバー84とロッカアーム64が連結され、EGRカム81の動きがレバー84を介してロッカアーム64に伝達されることによって、排気弁13は、一定のリフトおよび一定のバルブタイミングで開閉される。
【0040】
また、シリンダヘッド3aには、複数のガイド壁3dが取り付けられている。図3に示すように、ガイド壁3dは、#1〜#4排気ポート8a〜8dのそれぞれの開口にその周方向の一部にわたって延びるとともに、燃焼室3b内に突出している。各ガイド壁3dは、吸気ポート4a側に配置されており、その長さは#1〜#4排気ポート8a〜8dの開口の半径よりも小さい。また、ガイド壁3dの突出高さは、排気弁13のリフトとほぼ同じであり、例えば2〜3mmに設定されている。
【0041】
図5に示すように、ピストン3cの頂面には、凸部3eが形成されている。この凸部3eは、その中心が吸気弁12側になるように配置されている。また、凸部3eの吸気弁12側の縁部3gはほぼ直線状に形成されているのに対して、排気弁13側の縁部3hは、吸気弁12側にくぼんだ状態で湾曲している。
【0042】
以上の構成により、CI燃焼モードにおいて、EGR吸入機構80により排気弁13が開弁されると、排気通路5に排出された排ガスは、排気弁13を介して気筒C内に再吸入される。このとき、排ガスは、ガイド壁3dによって、排気弁13側の内壁に沿うように下方に案内されながら、気筒C内に吸入されるとともに、ピストン3cの凸部3eによって、吸入された排ガスの吸気弁12側への流出が阻止される。その結果、排ガスは、図1に実線Aで示すように気筒C内に流入する。これにより、気筒C内の排気弁13側には、より高温の排ガスによる高温ガス層T1が形成され、吸気弁12側には、より低温の新気による混合ガス層T2が形成されることによって、新気と排ガスが成層化される。
【0043】
また、EGR吸入機構80によって排気弁13が開弁するのと同時に、その気筒Cに対して燃焼サイクルの位相が360°ずれた、排気行程にある気筒Cから、#1〜#4第1排気通路5a〜5dを介して圧力が導入される。例えば、#1気筒Cと#4気筒Cの位相が互いに360°ずれているため、#1気筒Cが吸気行程から圧縮行程の間にあるときに、#4気筒Cは、膨張行程から排気行程の間にある。このため、#1気筒Cに排ガスを再吸入する場合、#4気筒Cから排出される排ガスの圧力によって、#1気筒Cへの排ガスの再吸入を適切に行わせることができる。
【0044】
図1に示すように、エンジン3はさらに、気筒Cに再吸入される排ガスを冷却するための新気供給機構90を備えている。この新気供給機構90は、吸気通路4内の新気を#1〜#4排気ポート8a〜8dに供給するための供給通路91と、供給通路91に上流側から順に設けられた過給機92およびクーラ93と、#1〜#4制御弁94a〜94dなどを備えている。供給通路91は、吸気通路4から分岐するとともに、下流側において#1〜#4排気ポート8a〜8dに接続されている。より詳細には、供給通路91の下流側の端部は#1〜#4分岐通路91a〜91dに分岐しており、これらの#1〜#4分岐通路91a〜91dがそれぞれ、#1〜#4排気ポート8a〜8dの各一方に臨んでいる。
【0045】
過給機92は、供給通路91を流れる新気(以下「2次新気」という)を過給するものである。この過給による2次新気の過給圧は、#1〜#4排気ポート8a〜8d内の圧力よりも高くなるように、ECU2によって制御される。クーラ93は、過給された2次新気を冷却する。
【0046】
#1〜#4制御弁94a〜94dは、#1〜#4分岐通路91a〜91dにそれぞれ設けられている。#1〜#4制御弁94a〜94dの開弁時間および開弁時期もまた、ECU2によって制御され、それにより、#1〜#4排気ポート8a〜8dに供給される2次新気の量(以下「2次新気量」という)GAIR2、および2次新気の噴射時期(以下「2次新気噴射時期」という)TAIR2が制御される。
【0047】
また、エンジン3には、クランク角センサ21および気筒判別センサ30が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCKR信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0048】
CRK信号は、所定クランク角(例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒Cにおいてピストン3cが吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4気筒の場合には、クランク角180゜ごとに出力される。また、気筒判別センサ30は、気筒Cを判別するためのパルス信号である気筒判別信号を、ECU2に出力する。
【0049】
吸気通路4には、上流側から順に、吸気温センサ22およびエアフローセンサ23が設けられている。吸気温センサ22は、吸気通路4内の温度(以下「吸気温」という)TAを検出し、その検出信号をECU2に出力する。エアフローセンサ23は、エンジン3に吸入される新気量GAIRを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0050】
排気通路5の#1〜#4第1排気通路5a〜5dにはそれぞれ、#1〜#4排気温センサ26〜29が設けられている。これらの#1〜#4排気温センサ26〜29は、#1〜#4第1排気通路5a〜5d内の温度(以下、それぞれ「#1〜#4排気温」という)TEX1〜TEX4をそれぞれ検出し、それらの検出信号をECU2に出力する。
【0051】
また、ECU2には、水温センサ24から、エンジン3のシリンダブロック3f内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWをを表す検出信号が、アクセル開度センサ25から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、それぞれ出力される。
【0052】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜30の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、エンジン3の燃焼モードを、SI燃焼モードまたはCI燃焼モードに決定する。また、ECU2は、決定した燃焼モードに応じて、燃焼制御処理や2次新気量制御処理などの各種の制御処理を実行する。なお、本実施形態では、ECU2が、制御手段に相当する。
【0053】
図6は、上述した燃焼制御処理を示すフローチャートである。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、環境条件フラグF_ENVが「1」であるか否かを判別する。この環境条件フラグF_ENVは、自己着火による燃焼に適した温度状態が燃焼室3b内に確保されていると判定されているときに「1」にセットされるものであり、吸気温TAおよびエンジン水温TWがそれぞれの所定温度以上のときに、そのような温度状態が確保されていると判定される。
【0054】
このステップ1の判別結果がNOのときには、自己着火に適した燃焼室3b内の温度状態が確保されていないとして、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、SI燃焼制御を実行した(ステップ3)後、本処理を終了する。
【0055】
一方、ステップ1の判別結果がYESのときには、エンジン3がCI燃焼を実行すべき運転領域(以下「HCCI領域」という)にあるか否かを判別する(ステップ2)。この判別は、図7に示すマップに基づき、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて行われる。このマップでは、HCCI領域は、エンジン回転数NEが低〜中回転域にあり、かつ要求トルクPMCMDが低〜中負荷域にある運転領域に設定されている。
【0056】
このステップ2の判別結果がNOで、エンジン3がHCCI領域にないときには、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、前記ステップ3でSI燃焼制御を実行した後、本処理を終了する。
【0057】
このSI燃焼制御は、以下のようにして行われる。まず、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、燃料噴射量QINJを算出する。次に、エンジン回転数NEが所定値以下で、かつ要求トルクPMCMDが所定値以下のときには、燃料噴射量QINJの燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。一方、それ以外のときには、燃料噴射量QINJに対して所定割合(例えば80%)の燃料をポート燃料噴射弁9から吸気ポート4aに噴射し、残りの割合の燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。なお、要求トルクPMCMDは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0058】
一方、ステップ2の判別結果がYESで、エンジン3がHCCI領域にあるときには、燃焼モードをCI燃焼モードに決定し、後述するCI燃焼制御を実行した(ステップ4)後、本処理を終了する。
【0059】
なお、この燃焼制御処理では、前述したエンジン3の運転領域の判別結果に応じ、CI燃焼フラグF_STSが、CI燃焼モードのときに「2」に、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中に「1」に、それら以外のときに「0」に、それぞれセットされる。
【0060】
図8は、このCI燃焼制御処理のサブルーチンを示している。本処理では、まずステップ11において、切換機構85を駆動し、レバー84とロッカアーム64を連結することによって、吸気行程において排気弁13を開弁可能な状態にする。
【0061】
次に、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、それぞれの所定のマップ(図示せず)を検索することによって、吸気行程中に噴射する燃料噴射量QINJおよび燃料噴射時期TINJをそれぞれ算出し(ステップ12,13)、本処理を終了する。この燃料噴射時期TINJは、クランク角CAで表される。上記のようにして算出された燃料噴射量QINJは、前述したSI燃焼モードにおける、低回転・低負荷以外の運転状態の場合と同様、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から所定割合に分けて噴射される。
【0062】
図9は、前述した2次新気量制御処理を示すフローチャートである。本処理もまた、TDC信号の発生に同期して実行される。この2次新気量制御処理は、気筒判別信号に基づいて、気筒Cごとに行われる。以下では、説明の便宜上、これらを代表して#1気筒Cについて説明を行うものとする。本処理では、まずステップ41において、前述したCI燃焼フラグF_STSが「2」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、燃焼モードがCI燃焼モードのときには、後述するステップ44に進む。
【0063】
一方、ステップ41の判別結果がNOのときには、CI燃焼フラグF_STSが「1」であるか否かを判別する(ステップ42)。この判別結果がNOのときには、2次新気の供給を行わないものとし、2次新気量GAIR2を値0にセットした(ステップ43)後、本処理を終了する。
【0064】
一方、ステップ42の判別結果がYESで、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中のときには、ステップ44に進む。
【0065】
このステップ44では、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて、目標温度TEXCMDを算出する。次に、目標温度TEXCMDと#1排気温TEX1との差の絶対値(=|TEXCMD−TEX1|)が所定値TREF以上であるか否かを判別する(ステップ45)。
【0066】
前述したように、燃焼時期が一旦ずれると、燃焼時期が早いために排ガスの温度が低下するという事象と、燃焼時期が遅いために排ガスの温度が上昇するという事象が、繰り返し現れる。このため、このステップ45の判別結果がYESで、|TEXCMD−TEX1|≧TREFのときには、燃焼時期が大きくずれているとして、#1排気温TEX1に応じ、図10に示すテーブルを検索することによって、2次新気量GAIR2を算出する(ステップ46)。このテーブルでは、2次新気量GIAR2は、#1排気温TEX1が高いほど、次回の圧縮行程における燃焼時期が遅くなりやすいため、それを補償すべくより小さな値に設定されている。
【0067】
次いで、2次新気噴射時期TAIR2を算出し(ステップ47)、本処理を終了する。この2次新気噴射時期TAIR2の算出処理については後述する。以上のようにして設定された2次新気噴射時期TAIR2に、2次新気量GAIR2に応じて#1制御弁94aを開弁することによって、#1排気ポート8aに供給される2次新気量GAIR2が制御される。
【0068】
また、#2〜#4気筒Cについても、上述した#1気筒Cの場合と同様にして、CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中、前述したようにして算出した目標温度TEXCMDと#2〜#4排気温TEX2〜4との差の絶対値が所定値TREF以上のときに、#2〜#4排気温TEX2〜4に応じて2次新気量GAIR2が算出される。
【0069】
一方、前記ステップ45の判別結果がNOで、|TEXCMD−TEX1|<TREFのときには、燃焼時期のずれが比較的小さいとして、2次新気の供給を行わないものとし、前記ステップ43において2次新気量GAIR2を値0にセットし、本処理を終了する。
【0070】
図11は、上述した2次新気噴射時期TAIR2の算出処理のサブルーチンを示している。本処理ではまず、ステップ51において、2次新気量GAIR2に応じ、所定のテーブル(図示せず)を検索することによって、2次新気噴射時期TAIR2を算出する。
【0071】
次に、算出した2次新気噴射時期TAIR2が、図12に示すリミット値TALMTよりも小さいか否かを判別する(ステップ52)。この判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0072】
一方、ステップ52の判別結果がYESで、TAIR2<TALMTのときには、リミット値TALMTを2次新気噴射時期TAIR2として設定し(ステップ53)、本処理を終了する。以上により、2次新気噴射時期TAIR2は、リミット値TALMTと排気上死点との間(図12のハッチングで示す領域)に設定され、この領域内のタイミングで2次新気が供給される。
【0073】
次に、図14を参照しながら、CI燃焼モード中またはCI燃焼モードへの切換中において得られる吸気弁12および排気弁13などの動作をまとめて説明する。なお、以下の説明では、#1〜#4制御弁94a〜94dを制御弁94と総称するとともに、#1〜#4排気温TEX1〜TEX4を排気温TEXと総称する。まず、排気行程において、排気側動弁機構60によって排気弁13が開弁され、排ガスが排気通路5に排出される。
【0074】
その後、新気供給機構90によって制御弁94が開弁されることにより、2次新気が排気通路5に供給され、この2次新気によって、排気通路5に排出された排ガスが冷却される。
【0075】
その後の吸気行程において、吸気側動弁機構40によって吸気弁12が開弁され、新気が気筒C内に吸入される。また、この吸気行程中に、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から気筒C内に燃料が供給され、この燃料が新気と混合されることによって、混合ガスが生成される。
【0076】
また、吸気行程の終期にEGR吸入機構80によって排気弁13が開弁されることによって、排気通路5内の排ガスが、高温ガスとして気筒C内に再吸入される(同図のハッチング)。以上のようにして生成された混合ガスおよび高温ガスは、ガイド壁3dおよび凸部3eによって、気筒C内で高温ガス層T1と混合ガス層T2に成層化される。高温ガス層T1は排気弁13側に分布し、混合ガス層T2は吸気弁12側に分布する。また、その後の圧縮行程において、高温ガス層T1および混合ガス層T2が自己着火により燃焼する。この燃焼は、より高温の高温ガス層T1から開始され、混合ガス層T2に至る。
【0077】
図15は、これまでに説明した2次新気制御処理によって得られる動作例を示している。この例では、タイミングt1以前では、SI燃焼モードによる燃焼が行われており、この状態では、CI燃焼フラグF_STSは「0」にセットされている。このとき、2次新気量GAIR2は値0にセットされており(ステップ43)、それにより、#1〜#4排気ポート8a〜8dへの2次新気の供給は停止されている。この状態からCI燃焼モードへ切り換えられると(t1)、その切換に伴って、#1〜#4排気ポート8a〜8dに2次新気が供給される(ステップ46)。CI燃焼モードへの切換直後には、それまでのSI燃焼モードによる燃焼によって気筒Cの壁面温度がより高いため、2次新気量GAIR2はより大きな値に設定される。これにより、排気温TEX、ひいては高温ガスが冷却され、それに伴って気筒Cの壁面温度が低下する。これにより、圧縮行程における気筒C内の温度(圧縮温度)の過度な上昇を回避することができる。また、2次新気を供給することによって、壁面温度が徐々に低下する。
【0078】
その後、CI燃焼モードに完全に移行すると(t2)、CI燃焼フラグF_STSが「2」に切り換えられるとともに、排気温TEXに応じた2次新気制御が引き続き行われる。
【0079】
以上のように、本実施形態によれば、排気通路5に排出された高温ガスとしての排ガスを2次新気によって冷却するとともに、このときの2次新気量GAIR2を排気温TEXに応じて制御するので、その後の圧縮行程における気筒C内の温度を実際の燃焼時期に応じて適切に制御でき、CI燃焼モードにおける燃焼時期を適切に制御することができる。これにより、燃焼サイクル間における燃焼時期のばらつきを抑制することができる。さらに、気筒Cごとに2次新気量GAIR2を制御するので、気筒C間における燃焼時期のばらつきも抑制することができる。
【0080】
また、排気温TEXが低く、実際の燃焼時期が低いほど、2次新気量GAIR2を減少側に制御するので、その後の圧縮行程における燃焼温度を高めることができる。これにより、燃焼時期が早くなったり遅くなったりするという事象を回避することができ、したがって、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0081】
さらに、SI燃焼モードからCI燃焼モードへの切換中に、2次新気を供給し、高温ガスを冷却するので、自己着火による気筒C内の温度の過度な上昇を回避することができる。その結果、CI燃焼モードへの切換中においても、燃焼時期のばらつきを抑制することができる。
【0082】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、低温ガスとして、新気を用いているが、これに代えて、フィルタ14よりも下流側のより低温の排ガスを用いてもよい。また、実施形態では、気筒C内の新気および高温ガスの燃焼時期を表すパラメータとして、排気温TEXを用いているが、これに代えて、燃焼時期を表す他のパラメータ、例えば検出された筒内圧に基づいて求められた筒内圧のピーク値や最大変化量を示すタイミングや、点火プラグに印加される電圧に応じたイオン電流の推移を用いてもよい。
【0083】
また、実施形態では、2次新気量GAIR2の算出を、対応する気筒Cから排出された排気温TEXにのみ応じて行っているが、これに加えて、360°位相の異なる気筒から排出された排気温に応じて行ってもよい。具体的には、#1気筒Cに吸入される2次新気量GAIR2を算出する際には、#1排気温TEX1に加え、#4気筒Cから排出された#4排気温TEX4に応じて、2次新気量GAIR2を算出してもよい。これは、#4気筒Cから排出された排ガスの温度が低いと、排ガスの圧力も低くなり、#1気筒Cに再吸入される高温ガスが減少することから、気筒内の温度が低下しやすいためである。このため、#4気筒Cからの#4排気温TEX4が低いほど、#1気筒Cに吸入される2次新気量GIAR2を減少側に算出することによって、#1気筒C内の温度を適切に制御することができる。
【0084】
さらに、実施形態では、気筒C内への2次新気の供給を、新気供給機構90により、#1〜#4排気ポート8a〜8dを介して行っているが、これに限らず、他の新気供給機構により、気筒C内に直接、噴射することによって行ってもよい。また、実施形態では、EGR吸入機構80は、排気弁13のバルブタイミングを変更不能なものであるが、これを変更可能に構成してもよい。
【0085】
さらには、実施形態は、本発明を車両に搭載されたガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ガソリンエンジン以外のディーゼルエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 制御装置
2 ECU(制御手段)
3 エンジン
5 排気通路
12 吸気弁
13 排気弁
26 #1排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
27 #2排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
28 #3排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
29 #4排気温センサ(燃焼時期パラメータ取得手段)
40 吸気側動弁機構
80 EGR吸入機構(排ガス吸入機構および低温ガス供給機構)
90 新気供給機構(低温ガス供給機構)
C 気筒
TEX 排気温(燃焼時期パラメータ)
GAIR2 2次新気量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼モードとして、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードを有するとともに、当該圧縮着火燃焼モードにおいて内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
吸気行程中に吸気弁を開閉することによって、前記気筒内に新気を吸入する吸気側動弁機構と、
前記吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁を開閉することによって、排気通路に排出された排ガスを、高温ガスとして前記気筒内に再度、吸入するための排ガス吸入機構と、
前記高温ガスを冷却するために、当該高温ガスよりも温度が低い低温ガスを前記気筒内に供給するための低温ガス供給機構と、
前記気筒内に吸入された新気および高温ガスの燃焼時期を表す燃焼時期パラメータを取得する燃焼時期パラメータ取得手段と、
当該取得された燃焼時期パラメータによって表される前記燃焼時期が早いほど、前記低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量を減少側に制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、前記燃焼モードとして、混合気を火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モードをさらに有し、
前記制御手段は、前記燃焼モードが前記火花点火燃焼モードから前記圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、前記低温ガス量を制御することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
燃焼モードとして、混合気を圧縮着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モードを有するとともに、当該圧縮着火燃焼モードにおいて内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
吸気行程中に吸気弁を開閉することによって、前記気筒内に新気を吸入する吸気側動弁機構と、
前記吸気行程の終期から圧縮行程にかけて排気弁を開閉することによって、排気通路に排出された排ガスを、高温ガスとして前記気筒内に再度、吸入するための排ガス吸入機構と、
前記高温ガスを冷却するために、当該高温ガスよりも温度が低い低温ガスを前記気筒内に供給するための低温ガス供給機構と、
前記気筒内に吸入された新気および高温ガスの燃焼時期を表す燃焼時期パラメータを取得する燃焼時期パラメータ取得手段と、
当該取得された燃焼時期パラメータによって表される前記燃焼時期が早いほど、前記低温ガス供給機構によって供給される低温ガス量を減少側に制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、前記燃焼モードとして、混合気を火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モードをさらに有し、
前記制御手段は、前記燃焼モードが前記火花点火燃焼モードから前記圧縮着火燃焼モードに切り換えられているときに、前記低温ガス量を制御することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−236835(P2011−236835A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109695(P2010−109695)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー使用合理化技術戦略的開発(先導研究)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(510100058)株式会社畑村エンジン研究事務所 (5)
【出願人】(505214157)株式会社シーディー・アダプコ・ジャパン (7)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー使用合理化技術戦略的開発(先導研究)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(510100058)株式会社畑村エンジン研究事務所 (5)
【出願人】(505214157)株式会社シーディー・アダプコ・ジャパン (7)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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