説明

内燃機関の制御装置

【課題】キャニスタタンクの燃料蒸発ガスのチャージ量の差異に拘わらず、空燃比フィードバック補償制御による目標空燃比への収束が速やかに行われ、エミッション性能の悪化を招くことがないようにする。
【解決手段】エンジン始動後、キャニスタパージ初回は、所定の期間に亘って所定のパージ流量でパージバルブを駆動する。この間空燃比フィードバック補正係数からパージされた燃料量を計算し、この燃料量を元にチャージ量推定部403によってキャニスタタンクのチャージ量を推定する。キャニスタタンクのチャージ量が推定された後は、このチャージ量を元に燃料補正量を計算するとともに、燃料蒸発量計算部407によって、エンジン、車両の状況に応じて、燃料タンクから蒸発する燃料量を計算し、キャニスタタンクへのチャージ/パージの収支から、キャニスタタンクの燃料量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に係り、例えば、燃料蒸発ガス吸着手段の燃料蒸発ガスのパージに関連する空燃比補正を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンと云うことがある)を原動機とする自動車等の車両は、大気汚染防止のために、車載の燃料タンクで発生した燃料蒸発ガスを吸着貯蔵する燃料蒸発ガス吸着手段として、チャコールキャニスタ等によるキャニスタタンクを有する。キャニスタタンクが吸着した燃料蒸発ガスは、パージ制御弁(キャニスタパージコントロールバルブ)による流量制御のもとに、エンジンの吸気通路に放出パージすることが行われる。このような制御をキャニスタパージ制御と云う。
【0003】
上述の燃料蒸発ガス発散制御が行われるエンジンの空燃比制御装置として、吸気管負圧、エンジン回転速度、パージ制御弁の開度に基づいてキャニスタタンクからの燃料蒸発ガスのパージ量を推定し、燃料蒸発ガスパージによる空燃比変動量を推定し、そして、パージ実行中に、燃料供給量を空燃比変動量の推定値に基づいて補正すると共に、空燃比センサで検出された空燃比に基づく補正係数をもってフィードバック補償するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−141114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャニスタタンクの燃料蒸発ガスの吸着量(チャージ量)は、その車両の置かれた状態やエンジンの状態に応じて変化することにある。キャニスタタンクの燃料蒸発ガスのチャージ量が異なると、パージする燃料蒸発ガスに濃度差が発生し、パージ制御弁が同一開度であっても、燃料蒸発ガスのパージによる空燃比変動量に差異が発生することになる。
【0006】
この空燃比変動量の差異が小さい場合には、空燃比フィードバック補償制御による目標空燃比への収束に問題を生じないが、差異が大きいと、目標空燃比への収束が遅くなり、エミッション性能が悪化することになる。
【0007】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、キャニスタタンクの燃料蒸発ガスのチャージ量の差異に拘わらず、空燃比フィードバック補償制御による目標空燃比への収束が速やかに行われ、エミッション性能の悪化を招くことがない内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明による内燃機関の制御装置は、燃料タンクの燃料蒸発ガスを吸着する燃料蒸発ガス吸着手段と、途中に開度調整可能なパージ制御弁を含み前記燃料蒸発ガス吸着手段が吸着した燃料蒸発ガスを内燃機関の吸気通路にパージする燃料蒸発ガスパージ手段と、空燃比検出手段により検出された空燃比に基づいて内燃機関に供給する混合気の空燃比を所定の空燃比にフィードバック補償する燃料補正手段と、を有する内燃機関の制御装置であって、前記パージ制御弁を所定条件下で開弁させる制御を行うパージ制御弁開弁制御手段と、前記所定条件下で前記パージ制御弁が開弁している状態下で、前記燃料補正手段が所定の空燃比を実現するための燃料補正演算を行っている間の当該燃料補正手段の燃料補正値から燃料蒸発ガスのパージ量を求めるパージ量演算手段と、前記パージ量演算手段によって求められた燃料蒸発ガスのパージ量から前記燃料蒸発ガス吸着手段に吸着している燃料蒸発ガスのチャージ量を求めるチャージ量推定手段と、前記チャージ量推定手段によって求められた燃料蒸発ガスのチャージ量を、内燃機関、車両の状態に応じて増減するチャージ量増減計算手段と、前記燃料補正手段の状況に応じて前記チャージ量増減計算手段の増減計算値を修正するチャージ量修正手段と、前記チャージ量増減計算手段によって計算されたチャージ量増減に基づいて燃料補正値を計算する燃料補正値計算手段と備えている。
【0009】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記燃料補正手段が、内燃機関の状態に応じて目標空燃比を得る目標空燃比設定手段と、前記空燃比検出手段により検出された空燃比と前記目標空燃比設定手段によって設定された目標空燃比との差分からPID制御を行う空燃比帰還制御係数を計算する空燃比帰還制御係数計算手段とを有し、前記所定条件下で当該燃料補正手段から燃料蒸発ガスのパージ量を求めている間はPID制御のゲインを変更する。
【0010】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記燃料補正手段が、内燃機関の状態に応じて目標空燃比を得る目標空燃比設定手段と、前記空燃比検出手段により検出された空燃比と前記目標空燃比設定手段によって設定された目標空燃比との差分からPID制御を行う空燃比帰還制御係数を計算する空燃比帰還制御係数計算手段と、前記空燃比検出手段の応答遅れを設定する応答遅れ設定手段と、前記応答遅れ設定手段によって設定された応答遅れを元に前記空燃比検出手段による空燃比の検出値から真の空燃比を計算し、計算された真の空燃比から燃料補正値を求める空燃比先取り補正部分演算部とを有し、前記PID制御と前記空燃比先取り補正部分演算部による燃料補正値で燃料を補正する。
【0011】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記パージ制御弁開弁制御手段が、前記所定条件下で所定の燃料蒸発ガス流量を設定するパージ量演算手段と、前記バルブの前後圧から差圧補正値を演算する差圧補正値演算手段とを有し、前記差圧補正値により、前記パージ制御弁のバルブ開度を補正し、前記所定の燃料蒸発ガス流量が実現できるように構成されている。
【0012】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記チャージ量増減計算手段が、前記燃料蒸発ガス流量に応じて減少する時定数を決定する時定数決定手段を有し、前記時定数決定手段によって決定された時定数で、単位時間当たりに燃料タンクから蒸発する燃料蒸発ガス量を求め、チャージ量を増減する演算を行う。
【0013】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記チャージ量増減計算手段が、吸気温、車速、アイドル、補機負荷の状態に応じて単位時間当りに燃料タンクから蒸発する燃料蒸発ガス量を求め、チャージ量を増減する演算を行う。
【0014】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記チャージ量増減計算手段が、吸着した燃料蒸発ガスの増減を求めた結果の前記パージ制御バルブが閉状態となった時の値を保持し、当該保持した値に、内燃機関、車両の状態に応じた燃料タンクからの燃料蒸発ガスを加算し、前記パージ制御バルブが再度開となった時に前記燃料タンクからの燃料蒸発ガスが加算された値を初期値として、チャージ量増減に基づく前記燃料補正値を設定する。
【0015】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、前記チャージ量推定手段に対して前記パージ制御バルブが開している状態での空燃比検出手段により検出された空燃比から所望の空燃比を実現する燃料補正手段の変数の状態を得る手段と、所定間隔を得る手段とを有し、所定間隔毎に前記変数の状態により吸着している量を修正する。
【0016】
本発明による内燃機関の制御装置は、好ましくは、空燃比検出手段により検出された空燃比から所望の空燃比を実現する燃料補正手段の変数の状態が、前記空燃比PID制御のI分の平均値である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による内燃機関の制御装置によれば、キャニスタタンクの燃料蒸発ガスのチャージ量を検知し、チャージ量に応じた空燃比補正を行うから、キャニスタタンクの燃料蒸発ガスのチャージ量の差異に拘わらず、パージ時の空燃比変動を抑制して空燃比フィードバック補償制御による目標空燃比への収束が速やかに行われ、エミッション性能の悪化を招くことがない。さらには、チャージ量推定時には、空燃比フィードバックのゲインの変更や、空燃比先取り補正を行うことによっても、空燃比変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるキャニスタパージ制御を行う自動車用の内燃機関の一つの実施形態を示す構成図。
【図2】本発明によるキャニスタパージ制御を行うエンジン制御系の一つの実施形態を示すブロック図。
【図3】本発明によるキャニスタパージ制御を行う自動車用の内燃機関のエンジン制御装置の一つの実施形態を示すブロック図。
【図4】本実施形態における制御装置のキャニスタパージ制御手段の一つの実施形態を示すブロック図。
【図5】本実施形態の起動条件判定部の詳細例を示すブロック図。
【図6】本実施形態のパージ流量決定部の詳細例を示すブロック図。
【図7】本実施形態のチャージ量推定部の詳細例を示すブロック図。
【図8】本実施形態の空燃比先取り補正部と空燃比PID制御(空燃比フィードバック制御)との関係の詳細例を示すブロック図。
【図9】本実施形態の空燃比先取り補正分を用いない時の空燃比PID制御の詳細例を示すブロック図。
【図10】本実施形態のチャージ量増減計算部の詳細例を示すブロック図。
【図11】本実施形態の燃料蒸発量計算部の詳細例を示すブロック図。
【図12】本実施形態のチャージ量推定許可フラグの決定の一例を示す図。
【図13】本実施形態の空燃比補正係数計算部の詳細例を示すブロック図一例。
【図14】本実施形態のキャニスタパージ制御を行うエンジン制御装置の各制御変数の挙動を示すタイムチャート。
【図15】本実施形態のキャニスタタンクチャージCPCSUMHLD補正計算の各変数の挙動を示すタイムチャート。
【図16】本実施形態によるエンジン制御装置のルーチンを示すフローチャート。
【図17】本実施形態によるキャニスタパージ制御手段のルーチンを示すフローチャート。
【図18】本実施形態による起動条件判定部のルーチンを示すフローチャート。
【図19】本実施形態によるパージ流量決定部のルーチンを示すフローチャート。
【図20】本実施形態によるチャージ量推定部のルーチンを示すフローチャート。
【図21】本実施形態による空燃比先取り補正部と空燃比PID制御(空燃比フィードバック制御)のルーチンを示すフローチャート。
【図22】本実施形態による空燃比先取り補正分を用いない時の空燃比PID制御のルーチンを示すフローチャート。
【図23】本実施形態によるチャージ量増減計算部のルーチンを示すフローチャート。
【図24】本実施形態の蒸発燃料量計算部のルーチンを示すフローチャート。
【図25】本実施形態の空燃比補正係数計算部のルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による内燃機関の制御装置の実施形態を、図を参照して説明する。
図1は、キャニスタパージ制御を行う自動車用の内燃機関(エンジン)の一つの実施形態を示したものである。
【0020】
図1において、エンジン201は、吸気系に、吸入空気量を計測する熱式空気流量計202と、エンジン201が吸入する空気流量を調整するスロットル絞り弁203と、スロットル絞り弁203をバイパスして吸気管205へ接続された流路の流路面積を制御し、エンジン201のアイドル時の回転数を制御するアイドルスピードコントロール(ISC)バルブ204と、吸気管205に設置されて吸気管内の圧力を検出する吸気管圧力センサ206と、エンジン201が要求する燃料を噴射供給する各気筒の燃料噴射弁207とを有する。
【0021】
エンジン201には、シリンダ(燃焼室)208内に供給された空気と燃料との混合気に点火する各気筒の点火栓209と、エンジン制御装置250の点火信号に基づいて点火エネルギを供給する各気筒の点火コイル(点火モジュール)210が設けられている。
【0022】
また、エンジン201には、カム角度を検出するカム角度センサ211、冷却水温を検出する水温センサ212が設けられている。
【0023】
排気管213には触媒214が接続されている。排気ガス流れで見て触媒214より上流側には、排気ガス中の酸素濃度に比例した線形的な電気的信号を出力する空燃比センサ(LAFセンサ)215が配置されている。
【0024】
エンジン201は、たとえば、ガソリンエンジンであり、燃料であるガソリンを貯容する燃料タンク220より燃料ポンプ221によって汲み上げられ、調圧手段222によってより所定の燃料圧力に調圧された燃料が燃料噴射弁207に供給される。
【0025】
燃料タンク220には燃料タンク220で発生した燃料蒸発ガスをチャコール等で吸着保持する燃料蒸発ガス吸着手段としてキャニスタタンク230が接続されている。キャニスタタンク230は、途中に、開度調整可能、つまり流量を定量的に可変制御できるパージ制御バルブ231を含むパージ通路232によって吸気管205に接続されている。
【0026】
エンジン201の運転、停止は、メインスイッチであるイグニッションキイスイッチ216により行われる。エンジン201の空燃比制御を含む燃料制御、アイドル制御、点火時期制御、エバポパージ制御は、エンジン制御装置250により行われる。
【0027】
本実施形態では、エンジン201のアイドリング回転数は、アイドルスピードコントロールバルブ204によって制御しているが、スロットル絞り弁203の開度をモータ等で制御するものにした場合には、スロットル絞り弁203によってアイドリング回転数を制御できるので、アイドルスピードコントロールバルブ204は不用となる。
【0028】
エンジン制御装置250は、マイクロコンピュータによる電子制御式のものであり、その詳細を図3に示す。エンジン制御装置250は、CPU301の内部に、エンジン201に設置された各センサの電気的信号をデジタル演算処理用の信号に変換し、デジタル演算用の制御信号を実際のアクチュエータの駆動信号に変換するI/O部302に設定されている。I/O部302には、水温センサ212、クランク角センサ219、カム角センサ211、空燃比センサ215、吸入空気量センサ(熱式空気流量計)202、スロットル開度センサ217、車速センサ241、イグニッションスイッチ216、吸気管圧力センサ206、大気圧センサ243、吸気温センサ218、補機負荷スイッチ(エアコンスイッチ)242が接続されている。
【0029】
CPU301には、燃料噴射弁207、点火コイル210、アイドルスピードコントロールバルブ204、パージ制御バルブ231のアクチュエータ用のドライバ303が接続されており、CPU301よりドライバ303を介して各アクチュエータへ出力信号が送られる。
【0030】
つぎに、本実施形態によるエンジン制御装置250の制御ブロックの一つの実施形態を、図3を参照して説明する。
【0031】
エンジン制御装置250は、コンピュータプログラムを実行することにより、エンジン回転数計算手段101、基本燃料計算手段102、基本燃料補正係数計算手段103、基本点火時期計算手段104、ISC制御手段105、キャニスタパージ制御手段106、空燃比帰還制御係数計算手段107、目標空燃比設定手段108、基本燃料補正手段109、点火時期補正手段110を、ソフトフェア的に具現化する。
【0032】
エンジン回転数計算手段101は、エンジン201の所定のクランク角度位置に設定されたクランク角センサ219の電気的な信号、おもにパルス信号変化の単位時間当たりの入力数をカウントし、演算処理することによってエンジン201の単位時間当りの回転数を計算する。
【0033】
基本燃料計算手段102は、エンジン回転数計算手段101によって演算されたエンジン回転数と、熱式空気流量計202により計測される吸入空気流量あるいは吸気管圧力センサ206によって検出される吸気管圧力より、各運転領域においてエンジン201が要求する基本燃料量を計算する。吸入空気流量、吸気管圧力は、エンジン負荷を代表するものであるから、吸入空気流量、吸気管圧力を総称してエンジン負荷と云う。
【0034】
基本燃料補正係数計算手段103は、エンジン回転数とエンジン負荷のマップより、基本燃料量のエンジン201の各運転領域における補正係数を計算する。
【0035】
基本点火時期計算手段104は、エンジン回転数とエンジン負荷のマップより、各運転領域の最適な点火時期を決定する。
【0036】
ISC制御手段105は、エンジン負荷と水温センサ212よりエンジン201のアイドリング回転数を所定値に保つためにアイドリング時の目標回転数を設定し、ISCバルブ203へ目標空気流量によるISCバルブ信号を出力する。
【0037】
これにより、アイドリング時の目標空気流量となるように、ISCバルブ203が駆動され、ISCバルブ203による空気量制御のもとにアイドリング回転数が目標回転数に設定される。
【0038】
キャニスタパージ制御手段106は、熱式空気流量計202あるいは吸気管圧力センサ206、スロットル開度センサ217、車速センサ241、吸気温センサ218、補機負荷スイッチ242の信号と、後述する空燃比帰還制御係数計算手段107が出力する空燃比帰還制御係数の信号を入力し、吸気温、エンジン負荷、エンジン回転数、車速、補機負荷状態、スロットル開度によるアイドル判定値、空燃比帰還制御係数に基づいて、キャニスタタンク230からの燃料蒸気ガス(エバポ)のパージ量演算、キャニスタタンク230の燃料蒸気ガスのチャージ量推定及びエバポパージ時の燃料補正量を計算する。
【0039】
キャニスタパージ制御手段106は、演算したエバポパージ量を目標流量としてパージ制御バルブ231を駆動する信号を出力する。
【0040】
これにより、パージ制御バルブ231はエバポパージ量が目標流量になるように開度調整され、目標流量によるエバポパージを行う。
【0041】
空燃比帰還制御係数計算手段107は、空燃比センサ215の出力と後述する目標空燃比の差分から空燃比帰還制御係数を計算する。
【0042】
目標空燃比設定手段108は、エンジン回転数とエンジン負荷のマップから、目標とするエンジン201の空燃比(目標空燃比)を決定する。
【0043】
基本燃料補正手段109は、基本燃料計算手段102によって計算された基本燃料に対して、基本燃料補正係数計算手段103の補正係数、空燃比帰還制御係数計算手段107の空燃比帰還制御係数、エンジン水温による補正量、キャニスタパージ制御手段106で計算されたエバポパージ時の燃料補正量による補正を施し、補正後の燃料量による燃料噴射指令信号を各気筒の燃料噴射弁207へ出力する。これにより、各気筒の燃料噴射弁207が補正後の燃料量の燃料を各気筒に噴射供給する。
【0044】
点火時期補正手段110は、基本点火時期計算手段104で決定された基本点火時期に対して、エンジン水温による補正量の補正を施し、補正後の点火時期指令信号を各気筒の点火コイル210へ出力する。
【0045】
これにより、各気筒の点火栓209が所要の点火時期をもって火花放電し、シリンダ208内に流入した混合気の点火が行われる。
【0046】
図4は、キャニスタパージ制御手段106の全体のブロック概要を示している。
キャニスタパージ制御手段106は、起動条件を判定する起動条件判定部401と、目標とするパージ流量を演算するパージ量演算部402と、キャニスタタンク230のエバポチャージ量を推定するチャージ量推定部403と、空燃比先取り補正部404と、チャージ量減衰時定数計算部406と、蒸発燃料量計算部407と、チャージ量増減計算部408と、空燃比補正係数計算部409と、チャージ量補正計算部410を含む。
【0047】
空燃比先取り補正部404は、空燃比センサ215により計測された実空燃比から空燃比先取り補正係数を計算する。空燃比先取り補正係数は、加算器405で空燃比補正係数(空燃比帰還制御係数計算手段107の空燃比帰還制御係数)に加算され、チャージ量推定部403に入力される。
【0048】
チャージ量減衰時定数計算部406は、パージ量演算部402で演算されたパージ流量からキャニスタタンク230のエバポチャージ量が減衰していく時定数を計算する。
【0049】
蒸発燃料量計算部407は、車速、アイドルスイッチ、補機負荷スイッチ、外気温により、燃料タンク220からキャニスタタンク230に吸着する蒸発燃料量を計算する。
【0050】
チャージ量増減計算部408は、チャージ量推定部403によって推定されたエバポチャージ量と、チャージ量減衰時定数計算部406のチャージ量減衰時定数と、蒸発燃料量計算部407によって計算された蒸発燃料量と、後述のチャージ量修正計算部410によるチャージ量修正により、キャニスタタンク230のエバポチャージ量の増減を計算する。
【0051】
空燃比補正係数計算部409は、チャージ量増減計算部408によって計算されたキャニスタタンク230のエバポチャージ量の増減値から空燃比補正係数を計算する。
【0052】
チャージ量修正計算部410は、空燃比帰還制御のI分の平均値より、チャージ量増減計算部408のキャニスタタンク230のチャージ量を補正する補正値を計算する。
【0053】
図5は、起動条件判定部401の詳細例を示している。
本詳細例における起動条件要件としては、エンジン水温が所定値以上、完爆後からの所定時間の経過、エンジン回転数が第1の所定値以上、エンジン回転数が第2の所定値以下、大気圧と吸気管圧との差分が所定値以上、空燃比フィードバック中であること、各センサ類の故障判定の全てが成立していないの全条件が成立しているかを論理積回路501で判断している。
【0054】
図6は、パージ量演算部402の詳細例を示している。
パージ量演算部402は、パージ制御バルブ231を駆動するデューティと要求流量を出力している。選択部601は、チャージ量推定許可フラグによってチャージ量推定時であるか否かを判断し、チャージ量推定時には推定時流量設定部602より目標流量を出力する。
【0055】
目標流量検索部603は、エンジン回転数とエンジン負荷から目標流量をマップ検索する。最大流量検索部604は、エンジン回転数とエンジン負荷から各運転領域での最大流量を検索する。選択部605は、目標流量検索部603の目標流量と最大流量検索部604の最大流量のうち、小さい方を選択する。この選択された値は、要求流量の信号出力と共に、選択部601のチャージ量非推定側に出力される。
【0056】
圧力比演算部606は、吸気管圧力を大気圧で除した圧力比を演算する。差圧補正値演算部607は、圧力比演算部606の圧力比より差圧補正値を演算する。差圧補正部608は、選択部601で選択された流量に前記差圧補正を施す。
【0057】
デューティ設定部609は、差圧補正を施された流量をもってパージ制御バルブ231を駆動するデューティをテーブル検索により決定する。デューティ設定部609によって決定されたデューティは、デューティ移行処理部610に入力され、設定定数によりデューティを徐々に変化するように設定される。
【0058】
図7は、チャージ量推定部403の詳細例を示している。
論理積回路701は、本チャージ量推定部403の起動条件部であり、チャージ量推定許可及びキャニスタパージ制御許可条件が共に成立しているか否かを判断する。
【0059】
ディレイ時間設定部702は、吸入空気量からディレイ時間をテーブル検索によって設定する。フラグオン時間設定部703は、吸入空気量からフラグオンの所定時間tをテーブル検索によって設定する。
【0060】
フラグ制御部704は、ディレイ時間設定部702により決められたディレイ時間経過後にフラグをオンし、もう一つのフラグ制御部705は、フラグオン時間設定部703により決められ所定時間tの間、推定時信号をオンにする。各計算部706、707、708、選択部709、計算部710、前回値記憶部711は、推定信号がオンの区間のキャニスタタンク230からのパージ燃料量を求めている。実現している計算は、(1−空燃比補正係数)×吸入空気量/目標空燃比の値の推定信号オン区間の積算である。
【0061】
計算部712、比較部713、選択部714及び前回値記憶部715は、推定時信号の立下りを検出している。推定時信号の立下りが検出されると、探索終了信号が出力される。
【0062】
尚、本実施形態では、チャージ量推定は、エンジン始動から停止まで、1回を前提とするが、所定条件でチャージ量推定を再度行うように構成してもよい。
【0063】
図8は、空燃比先取り補正部404と空燃比PID制御(空燃比フィードバック制御)との関係の詳細例を示している。
【0064】
空燃比PID制御部801は、実空燃比(計測空燃比)と目標空燃比から空燃比PID制御による補正係数を演算する。
【0065】
時定数設定部(応答遅れ設定手段)802は、吸入空気量から時定数(空燃比センサの応答遅れ)T1をテーブル検索により設定する。もう一つの時定数設定部803は、エンジン回転数から時定数(計算遅れ等)T2をテーブル検索により設定する。本実施形態では、時定数T1及びT2を所定変数でテーブル検索することとしているが、簡易的に定数でも構成してもよい。
【0066】
空燃比先取り補正分演算部804は、実空燃比、時定数T1、T2から空燃比先取り補正分を計算する。空燃比先取り補正分演算部804における空燃比先取り補正分の演算は、以下に示す式1−1〜式1−3により行われる。式1−1は計測空燃比の真の空燃比に対する遅れ系(2次遅れ系)を表している。式1−2は前述の式1−1の遅れ系を相殺する形態で、進み系を施し離散化した計算式を示しており、真の空燃比の予測値として計算される。式1−3は前記真の空燃比の予測値と目標空燃比から空燃比先取り補正分を計算する。
【0067】
【数1】

【0068】
選択部805及び計算部806は、推定時信号が出力されている時に限って空燃比先取り補正分演算部804により演算された空燃比先取り分を空燃比PID制御部801による空燃比PID制御の補正係数に加算する。
【0069】
図9は、空燃比先取り補正分を用いない時の空燃比PID制御の詳細例を示している。
差分値計算部901は、実空燃比と目標空燃比の差分を計算する。ゲイン設定部902、903、ブロック904は、推定時信号が出力されていない時のPID制御ゲイン(Kp、Ki、Kd)をエンジン負荷とエンジン回転数よりマップ検索する。また、ゲイン設定部905、906、907は、推定時信号が出力されている時のPID制御ゲインをエンジン負荷とエンジン回転数よりマップ検索する。
【0070】
選択部908はマップ検索されたPID制御ゲインを推定時信号の有無により切り替え選択する。P分演算部909、I分演算部910、D分演算部911は、各々設定されたゲインをもってPID制御のP分、I分、D分を計算する。式2−1はP分、式2−2はD分、式2−3はI分を求める式である。
【0071】
【数2】

【0072】
これらP分、I分、D分は計算部912で加算され、PID制御による空燃比帰還制御係数とする。
【0073】
図10は、チャージ量増減計算部408の詳細例を示している。
チャージ量演算部1001は、推定時パージ量からキャニスタンクチャージ量をテーブル検索によって求める。
【0074】
前回値記憶部1002と比較部1003は、推定終了信号の立上がりを検出する。推定終了信号の立上がりが検出されると、キャニスタパージ制御の起動判定の立上がりが検出されるまで、選択部1007と前回値記憶部1008とにより前記キャニスタタンクチャージ量が保持される。
【0075】
起動判定の前回値記憶部1008と比較部1007とにより、キャニスタパージ制御の起動判定の立上がりが検出されると、後述する現在のキャニスタタンクのチャージ量が保持されるようになる。
【0076】
燃料タンク燃料蒸発量計算部1009は、車速、アイドルスイッチ、補機負荷スイッチ、外気温より、燃料タンク220から単位時間に蒸発する蒸発量を演算する。求められた蒸発量は計算部1010でキャニスタタンクチャージ量に加算され、計算部1010は、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDを出力する。
【0077】
図11は、燃料タンク燃料蒸発量計算部1009の詳細例を示している。
選択部1101はアイドルか否かを判断する。アイドル時蒸発量計算部1103は、外気温からアイドル且つ補機負荷スイッチオン時の単位時間当りの蒸発量をテーブル検索する。もう一つのアイドル時蒸発量計算部1104は、外気温からアイドル且つ補機負荷スイッチオフ時の単位時間当りの蒸発量をテーブル検索する。選択部1105は、補機負荷SWがオンか否かを判断し、前述のアイドル時の蒸発量を選択する。
【0078】
非アイドル時蒸発量計算部1102は、外気温と車速から単位時間当りの蒸発量をマップ検索する。非アイドル時蒸発量計算部1102による蒸発量は、選択部1101により、非アイドル時に選択される。
【0079】
選択された蒸発量は、計算部1106、前回値記憶部1107によって積算され、トータル的な蒸発量とされる。
【0080】
尚、トータル的な蒸発量は、起動判定の前回値記憶部1008と比較部1007とにより、キャニスタパージ制御の起動判定の立上がりが検出された時点で、選択部1109の動作によりゼロクリアされる構成となっている。
【0081】
図12は、チャージ量推定許可フラグの決定の一例を示している。推定終了信号がオンすると、チャージ量推定許可信号は反転してオフされる。
【0082】
図13は、空燃比補正係数計算部409の詳細例を示している。
減衰時定数設定部1301は、パージ量演算部402が出力する要求流量から減衰時定数Tをテーブル検索する。
【0083】
チャージ減衰量計算部1302は、減衰時定数Tとキャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDに後述する補正を施したもので、キャニスタタンク230からのパージ量を計算する。
【0084】
式3−1は減衰の式であり、これを変換したものが式3−2である。前記式からキャニスタタンク230からパージされる量は、式3−3のようになる。式3−3を離散化したものが式3−4であり、チャージ減衰量計算部1302は本式を実行する。式3−5は現在のチャージ量を表している。
【0085】
【数3】

【0086】
減衰量燃料補正値計算部1303は、目標空燃比、吸入空気量及びチャージ減衰量計算部1302で計算されたパージ量によって減衰量燃料補正値を計算する。式4は減衰量燃料補正値計算部1303による減衰量燃料補正値の計算式を表している。
【0087】
【数4】

【0088】
キャニスタタンクチャージ量補正値計算部1304は、空燃比PID制御のI分平均値、目標空燃比、吸入空気量、及び減衰量燃料補正値計算部1303で計算された減衰量燃料補正値から、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDの補正値を、式5−1、式5−2によって演算する。
【0089】
式5−1、式5−2は、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDの補正計算式を表している。式5−2で空燃比PID制御のI分平均値から減衰量燃料補正値のズレ比を計算し、式5−1でキャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDの補正値を計算する。
【0090】
【数5】

【0091】
図14は、キャニスタパージ制御を行うエンジン制御装置250の各制御変数の挙動を示している。
【0092】
ライン1401は起動条件のオン・オフを示している。ライン1402は推定許可信号を示しており、区間1403で推定が許可されている。
【0093】
ライン1404はパージ流量であり、区間1405で推定流量が出力されている。区間1406では通常パージ流量が出力されている。尚、推定流量は移行処理で探索が終わった時から徐徐に0に近づいている。
【0094】
ライン1407は排気の実空燃比であり、ライン1408は前述した空燃比先取り補正が無い時の実空燃比を示している。
【0095】
ライン1409は空燃比補正係数を示しており、ライン1409は前述した空燃比先取り補正が無い時の空燃比補正係数を示している。区間1410は通常パージ時の減衰量補正値が入った場合を示している。ライン1411は推定時のパージ量積算値を示している。時点1412で推定が終了し、その時のパージ積算量が、キャニスタタンクチャージ量の指標となる。
【0096】
ライン1413はキャニスタタンクチャージ量を示している。時点1414で前記パージ積算量よりキャニスタタンクパージ量が決定され、その後、車両状態及び目標流量に応じて増減している。
【0097】
図15は、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLD補正計算の各変数の挙動を示している。
【0098】
ライン1501はパージ制御バルブ231への要求流量を示している。区間1502は本補正計算の実施周期を表している。ライン1503はキャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDの変化を表している。ライン1504は減衰量燃料補正値を表している。ライン1505は空燃比PID制御のI分の平均値を示している。本例では、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDが補正される毎に減衰量燃料補正係数がしていき、I分の平均値が0に近づいていっている。
【0099】
図16はキャニスタパージ制御を行うエンジン制御装置250の制御のフローチャートの一例である。
【0100】
ステップ1601では、クランク角センサ219の電気的な信号、おもにパルス信号変化の単位時間当たりの入力数をカウントし、演算処理によりエンジン回転数を計算する。ステップ1602では、熱式空気流量計202の出力電圧から電圧流量換算された空気流量を読み込む。
【0101】
ステップ1603では、前記エンジン回転数と前記吸入空気量から基本燃料量を計算する。ステップ1604では、前記エンジン回転数と前記基本燃料量から基本燃料補正係数をマップ検索する。
【0102】
ステップ1605では、空燃比センサ215の出力電圧を電圧―空燃比変換した実空燃比を読み込む。ステップ1606で、前記エンジン回転数と基本燃料(負荷)で目標空燃比をマップ検索する。ステップ1607では、前記目標空燃比と前記実空燃比で目標空燃比へのPID制御を実施する。
【0103】
ステップ1608では、キャニスタパージ制御が推定モードか否かを判断する。推定モードであれば、ステップ1609及びステップ1610を実施する。ステップ1609では、推定デューティ(推定流量)で単位時間当りのパージ量を求める。
【0104】
ステップ1610では、前記単位時間当りのパージ量よりキャニスタタンクのチャージ量を推定する。
【0105】
ステップ1608で非推定モードと判定された場合には、ステップ1611、ステップ1612、及びステップ1613を実施する。ステップ1611では、通常デューティ(通常流量)でのパージを行う。ステップ1612では、キャニスタタンクへのパージ及びチャージの収支によるチャージ量増減を計算する。ステップ1613では、パージ量から燃料補正係数を計算する。
【0106】
ステップ1614では、前記基本燃料補正係数、前記PID制御による空燃比補正係数及びパージ量燃料補正係数により前記基本燃料量を補正し、燃料噴射量を計算する。
【0107】
ステップ1615では、アイドル回転数の目標値を計算する。ステップ1616では、前記アイドル回転数の目標値を実現できるISC目標流量を計算する。ステップ1617では、前記ISC目標流量をISC制御手段へ出力する。ステップ1618では、前記エンジン回転数、及び前記エンジン負荷(基本燃料量)で基本点火時期を計算する。ステップ1619では、前記基本点火時期に水温補正等の補正を施す。ステップ1620では、前記補正された点火時期をセットする。
【0108】
図17は、キャニスタパージ制御手段106の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0109】
ステップ1701では、キャニスタパージ制御起動条件成立しているか否かを判断する。成立している場合には、ステップ1702でキャニスタパージ制御が推定モードか通常モードかを判断する。推定モードの場合には、ステップ1703で実空燃比から空燃比先取り補正分を計算する。
【0110】
ステップ1704では、キャニスタタンク230のチャージ量を推定する。ステップ1702で通常モードを判定された場合には、ステップ1705で通常パージ流量を決定する。ステップ1703では、キャニスタタンク230のチャージ量の減衰時定数を計算する。ステップ1708では、前記減衰時定数及び車両の状態により、チャージ量の増減を計算する。ステップ1709では、前記チャージ量の増減によるパージ量からパージ量燃料補正係数を計算する。ステップ1710では、空燃比PID制御のI分平均値等からチャージ量を補正する。
【0111】
図18は、起動条件判定部401のルーチンを示すフローチャートである。
ステップ1801〜1807で、エンジン水温、完爆後からの所定時間、エンジン回転数、大気圧と吸気管圧との差分、空燃比フィードバック中、及び各センサ類の故障判定等の条件を判定し、全てが成立している場合には、ステップ1808でキャニスタパージ起動条件成立とし、成立していない場合には、ステップ1809でキャニスタパージ起動条件不成立とする。
【0112】
図19は、パージ量演算部402のルーチンを示すフローチャートである。
ステップ1901で、チャージ量推定許可か否かを判断する。否の場合には、ステップ1902で推定流量を目標流量として選択する。
【0113】
許可の場合には、ステップ1903でエンジン回転数とエンジン負荷で目標流量をマップ検索し、ステップ1904でエンジン回転数とエンジン負荷で最大流量をマップ検索する。
【0114】
ステップ1905では、前記目標流量と最大流量を比較し小さい方を目標流量として選択する。ステップ1906で吸気管圧力を大気圧で除し、圧力比を演算する。ステップ1907では、前記圧力比から差圧補正値をテーブル検索する。ステップ1908では、前記目標流量に前記差圧補正を施す。ステップ1909では、前記差圧補正後の流量から出力デューティをテーブル検索する。ステップ1910では、前記検索されたデューティにダイナミックリミッタを施し、移行処理を行う。
【0115】
図20は、チャージ量推定部403のルーチンを示すフローチャートである。
ステップ2001及びステップ2002で、チャージ量推定の条件が成立しているか否かを判断する。判断条件は、キャニスタパージ制御の起動条件とチャージ量推定許可が共に成立している場合である。
【0116】
成立している時には、ステップ2003で、吸入空気量からディレイ時間をテーブル検索し、ステップ2004で、吸入空気量から所定時間1をテーブル検索する。
【0117】
ステップ2005では、ステップ2001、ステップ2002の条件成立後ディレイ時間が経過した後に、所定時間tの間フラグをオンする。
【0118】
ステップ2006では、フラグがオンしているか否かを判断し、オンしている間は、ステップ2007で推定時信号を出力する。
【0119】
ステップ2008では、(1−空燃比補正係数)×空気量/目標空燃比の値を積算する。
【0120】
ステップ2006で、フラグがオフであれば、ステップ2009で前記積算量を推定時パージ量とする。
【0121】
ステップ2010で、フラグがオンからオフに反転したか否かを判断し、反転した場合には、ステップ2011で推定終了信号を出力する。
【0122】
図21は、空燃比先取り補正部404と空燃比PID制御(空燃比フィードバック制御)のルーチンを示すフローチャートである。
【0123】
ステップ2101では、実空燃比及び目標空燃比から空燃比PID制御を実施する。ステップ2102で、吸入空気量から時定数T1をテーブル検索し、ステップ2102で、エンジン回転数から時定数T2をテーブル検索する。
【0124】
ステップ2104では、実空燃比、目標空燃比、時定数T1、T2から空燃比先取り補正分を計算する。
【0125】
ステップ2105では、推定時信号が出力されているか否かを判断する。推定時信号が出力されている場合には、ステップ2106で空燃比PID制御の補正係数に空燃比先取り補正分を加算する。
【0126】
図22は、空燃比先取り補正分を用いない時の空燃比PID制御のルーチンを示すフローチャートである。
【0127】
ステップ2201で、実空燃比と目標空燃比との差分を計算する。ステップ2202では、エンジン負荷及びエンジン回転数から推定信号が出力されていない時のPID制御のP分、I分、D分の各ゲインKp、Kd、Kiをマップ検索する。
【0128】
ステップ2203では、エンジン負荷及びエンジン回転数から推定信号が出力されている時のP分、I分、D分の各ゲインKp、Kd、Kiをマップ検索する。
【0129】
ステップ2204では、推定信号が出力されているか否かを判断し、出力されている時には、ステップ2205で、推定信号が出力されている時のゲインKp、Kd、Kiを選択する。出力されていない時には、ステップ2206で、推定信号が出力されていない時のゲインKp、Kd、Kiを選択する。
【0130】
ステップ2207では、選択されたゲインを用いて空燃比PID制御を実施し、ステップ2208で、空燃比帰還制御係数を計算する。
【0131】
図23は、チャージ量増減計算部408のルーチンを示すフローチャートである。
ステップ2301で、前述の推定時パージ量からキャニスタタンクチャージ量をテーブル検索する。
【0132】
ステップ2302では、車速、アイドルスイッチのオン・オフ、補機負荷スイッチオン・オフ及び外気温から燃料タンク220の燃料蒸発量を計算する。
【0133】
ステップ2303では、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDに前記燃料蒸発量を加算し、キャニスタタンクチャージ量CPCSUMHLDを逐次変更する。
【0134】
図24は、燃料蒸発量計算部407が、燃料タンク220から蒸発する燃料量を求めるルーチンのフローチャートである。
【0135】
ステップ2401でアイドルスイッチがオンか否かを判断する。アイドルスイッチがオンでなければ、ステップ2402で外気温と車速から単位時間当りの蒸発量をマップ検索する。
【0136】
アイドルスイッチがオンの場合には、ステップ2403で、補機負荷スイッチがオンか否かを判断する。補機負荷スイッチがオンであれば、ステップ2404で、外気温から補機負荷スイッチ・オン時の単位時間当りの蒸発量をテーブル検索する。補機負荷スイッチがオンでなければ、ステップ2405で、外気温から補機負荷スイッチ・オフ時の単位時間当りの蒸発量をテーブル検索する。
【0137】
図25は、空燃比補正係数計算部409のルーチンを示すフローチャートである。本フローチャートは(a)と(b)の2つの時間割込みで構成されている。(a)に示すステップ2501〜2503は、一定時間割込みで実施され、(b)に示すステップ2504、ステップ2505は、適時定めた定時間毎の割込みで実施される。
【0138】
ステップ2501では、要求流量から減衰時定数Tをテーブル検索する。ステップ2502では、キャニスタタンクチャージ量と前記減衰時定数Tから減衰量を計算する。ステップ2503では、前記減衰量、目標空燃比、及び吸入空気量から減衰量燃料補正値を計算する。
【0139】
ステップ2504では、前記減衰量、目標空燃比、吸入空気量、及びI分平均値からキャニスタパージタンクチャージ量の補正値を計算する。ステップ2505では、キャニスタパージタンクチャージ量を前記チャージ量の補正値で補正する。
【0140】
上述した本実施形態によるエンジンの制御装置の概要は、エンジン始動後、キャニスタパージ初回は、所定の区間、所定のパージ流量でパージバルブを駆動する。この間、空燃比フィードバック補正係数からパージされた燃料量を計算し、この燃料量を元にキャニスタタンク230の燃料蒸発ガスのチャージ量を推定する。このように、キャニスタパージ初回に所定の期間に亘って、所定のパージ流量で燃料蒸発ガスをパージし、その間のパージ燃料量によりキャニスタタンクのチャージ量を推定することにより、次回のパージ時の燃料補正係数を前以て得ることができ、このことにより、パージ時の空燃比変動を抑制することができる。
【0141】
チャージ量推定時は、空燃比フィードバックのゲインの変更や、空燃比先取り補正を考慮することにより、空燃比変動を抑制することができる。推定されたチャージ量は、車両の状態に応じた燃料タンクからのチャージ/パージからのパージの収支及び空燃比フィードバック係数からの逐次修正で、補正されるため、推定誤差を抑制でき、キャニスタパージの燃料補正係数の精度を保つことができる。
【0142】
キャニスタタンク230のチャージ量が推定された後は、このチャージ量を元に燃料補正量を計算させるとともに、車両の状況に応じて、燃料タンク220から蒸発する燃料量を推定し、キャニスタタンク220へのチャージ/パージの収支から、キャニスタタンクの燃料量を推定するので、キャニスタパージの燃料補正係数の精度を保つことができる。
【0143】
また、パージされた燃料量を計算中には、空燃比フィードバックの先取り補正の追加及び空燃比フィードバックゲインを変更することにより、空燃比変動が抑制される。
【符号の説明】
【0144】
102 基本燃料計算手段
106 キャニスタパージ制御手段
107 空燃比帰還制御係数計算手段
108 目標空燃比設定手段
109 基本燃料補正手段
201 エンジン
202 熱式空気流量計
207 燃料噴射弁
211 カム角センサ
219 クランク角センサ
215 空燃比センサ
220 燃料タンク
230 キャニスタタンク
231 パージ制御バルブ
250 エンジン制御装置
401 起動条件判定部
402 パージ量演算部
403 チャージ量推定部
404 空燃比先取り補正部
406 チャージ量減衰時定数計算部
407 蒸発燃料量計算部
408 チャージ量増減計算部
409 空燃比補正係数計算部
410 チャージ量補正計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの燃料蒸発ガスを吸着する燃料蒸発ガス吸着手段と、途中に開度調整可能なパージ制御弁を含み前記燃料蒸発ガス吸着手段が吸着した燃料蒸発ガスを内燃機関の吸気通路にパージする燃料蒸発ガスパージ手段と、空燃比検出手段により検出された空燃比に基づいて内燃機関に供給する混合気の空燃比を所定の空燃比にフィードバック補償する燃料補正手段と、を有する内燃機関の制御装置であって、
前記パージ制御弁を所定条件下で開弁させる制御を行うパージ制御弁開弁制御手段と、 前記所定条件下で前記パージ制御弁が開弁している状態下で、前記燃料補正手段が所定の空燃比を実現するための燃料補正演算を行っている間の当該燃料補正手段の燃料補正値から燃料蒸発ガスのパージ量を求めるパージ量演算手段と、
前記パージ量演算手段によって求められた燃料蒸発ガスのパージ量から前記燃料蒸発ガス吸着手段に吸着している燃料蒸発ガスのチャージ量を求めるチャージ量推定手段と、
前記チャージ量推定手段によって求められた燃料蒸発ガスのチャージ量を、内燃機関、車両の状態に応じて増減するチャージ量増減計算手段と、
前記燃料補正手段の状況に応じて前記チャージ量増減計算手段の増減計算値を修正するチャージ量修正手段と、
前記チャージ量増減計算手段によって計算されたチャージ量増減に基づいて燃料補正値を計算する燃料補正値計算手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料補正手段は、内燃機関の状態に応じて目標空燃比を得る目標空燃比設定手段と、前記空燃比検出手段により検出された空燃比と前記目標空燃比設定手段によって設定された目標空燃比との差分からPID制御を行う空燃比帰還制御係数を計算する空燃比帰還制御係数計算手段と、を有し、前記所定条件下で当該燃料補正手段から燃料蒸発ガスのパージ量を求めている間はPID制御のゲインを変更することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料補正手段は、内燃機関の状態に応じて目標空燃比を得る目標空燃比設定手段と、前記空燃比検出手段により検出された空燃比と前記目標空燃比設定手段によって設定された目標空燃比との差分からPID制御を行う空燃比帰還制御係数を計算する空燃比帰還制御係数計算手段と、前記空燃比検出手段の応答遅れを設定する応答遅れ設定手段と、前記応答遅れ設定手段によって設定された応答遅れを元に前記空燃比検出手段による空燃比の検出値から真の空燃比を計算し、計算された真の空燃比から燃料補正値を求める空燃比先取り補正部分演算部と、を有し、前記PID制御と前記空燃比先取り補正部分演算部による燃料補正値で燃料を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記パージ制御弁開弁制御手段は、前記所定条件下で所定の燃料蒸発ガス流量を設定するパージ量演算手段と、前記バルブの前後圧から差圧補正値を演算する差圧補正値演算手段とを有し、前記差圧補正値により、前記パージ制御弁のバルブ開度を補正し、前記所定の燃料蒸発ガス流量が実現できるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記チャージ量増減計算手段は、前記燃料蒸発ガス流量に応じて減少する時定数を決定する時定数決定手段を有し、前記時定数決定手段によって決定された時定数で、単位時間当たりに燃料タンクから蒸発する燃料蒸発ガス量を求め、チャージ量を増減する演算を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記チャージ量増減計算手段は、吸気温、車速、アイドル、補機負荷の状態に応じて単位時間当りに燃料タンクから蒸発する燃料蒸発ガス量を求め、チャージ量を増減する演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記チャージ量増減計算手段は、吸着した燃料蒸発ガスの増減を求めた結果の前記パージ制御バルブが閉状態となった時の値を保持し、当該保持した値に、内燃機関、車両の状態に応じた燃料タンクからの燃料蒸発ガスが加算し、前記パージ制御バルブが再度開となった時に前記燃料タンクからの燃料蒸発ガスを加算された値を初期値として、チャージ量増減に基づく前記燃料補正値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記チャージ量推定手段に対して前記パージ制御バルブが開している状態での空燃比検出手段により検出された空燃比から所望の空燃比を実現する燃料補正手段の変数の状態を得る手段と、所定間隔を得る手段とを有し、所定間隔毎に前記変数の状態により吸着している量を修正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
空燃比検出手段により検出された空燃比から所望の空燃比を実現する燃料補正手段の変数の状態は、前記空燃比PID制御のI分の平均値であることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−256883(P2011−256883A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211787(P2011−211787)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【分割の表示】特願2008−187687(P2008−187687)の分割
【原出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】