説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、運転中に連続再生が行われる内燃機関を対象として、粒子径の小さなPMがパティキュレートフィルタをすり抜けて排出されるのを良好に抑制することを目的とする。
【解決手段】内燃機関10の筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁22と、内燃機関10の排気通路12に配置され、排気ガス中に含まれるPMを捕集するGPF14とを備える。運転中にGPF14においてPMの捕集と再生とが連続的に行われる連続再生条件となる内燃機関10において、当該内燃機関10が搭載された車両の減速時に、粒子径の大きなPMの排出数が増えるように、燃料噴射弁22による燃料噴射時期を進角する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタを備える内燃機関を制御するうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、PM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集するためのDPF(Diesel Particulate Filter)を排気通路に備えるディーゼルエンジンが開示されている。この従来のディーゼルエンジンでは、ポスト噴射等によるDPFの強制再生処理を行った後に、主噴射燃料の噴射時期の進角等によって筒内から粒子径の大きなPMが排出されるようにするPM層修復処理を行うようにしている。これにより、強制再生の実行によってPMの捕集率が低くなった場合に、粒子径の大きなPMによってDPFの表面へのPMケーキ層の形成を促進させることで、PMの捕集率を短時間に回復させることができる。このため、強制再生の実行後においてPMの捕集率が低い場合に、粒子径の小さなPMがDPFをすり抜けて排出されるのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−031799号公報
【特許文献2】特開2005−264785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の技術は、DPFの強制再生機能を有する内燃機関を対象としたものである。これに対し、例えばガソリンエンジンの排気通路にパティキュレートフィルタが備えられている場合には、ガソリンエンジンの排気温度は基本的にディーゼルエンジンのそれよりも高いため、パティキュレートフィルタの温度が高くなり易い。このため、ガソリンエンジンの暖機後には、PMの捕集とパティキュレートフィルタの再生とが連続的に行われる連続再生条件となる。また、ディーゼルエンジンであっても、酸化触媒などとDPFを組み合わせた連続再生式のDPFを備えている場合には、全域ではないにしても運転中に連続再生条件が成立する。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、内燃機関の運転中に連続再生条件が成立している状況下における対策については何らの考慮がなされていない。従って、連続再生条件が継続的に行われるような状況下において粒子径の小さなPMがパティキュレートフィルタをすり抜けて排出されることを良好に抑制するうえで未だ検討の余地を残すものであった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、運転中に連続再生が行われる内燃機関を対象として、粒子径の小さなPMがパティキュレートフィルタをすり抜けて排出されるのを良好に抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記内燃機関の排気通路に配置され、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、
を備え、
運転中に前記パティキュレートフィルタにおいて粒子状物質の捕集と再生とが連続的に行われる連続再生条件となることがある内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関が搭載された車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数が増えるように、前記燃料噴射弁による燃料の噴射態様を変更する減速時燃料噴射態様変更手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関の運転中に、前記連続再生条件が成立したか否かを判定する連続再生条件判定手段を更に備え、
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記連続再生条件判定手段によって前記連続再生条件が成立したと判定された場合において前記車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数が増えるように、前記燃料噴射弁による燃料の噴射態様を変更することを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記車両の減速時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射時期の進角を行うことを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記車両の減速時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力の減少を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数が増えるように燃料噴射弁による燃料の噴射態様が変更される。粒子状物質の排出量の多い加速時の前には、減速されることが多い。従って、本発明によれば、粒子径の大きな粒子状物質の堆積によってパティキュレートフィルタにおける粒子状物質の捕集率を高めた状態で、粒子状物質の排出量の多い加速時を迎えられるようにすることができる。このため、運転中に連続再生が行われる内燃機関を対象として、粒子状物質の排出量が多くなる加速時などにおいて、粒子径の小さな粒子状物質がパティキュレートフィルタをすり抜けて排出されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0012】
第2の発明によれば、運転中に連続再生が行われている場合に、粒子状物質の排出量が多くなる加速時などにおいて粒子径の小さな粒子状物質がパティキュレートフィルタをすり抜けて排出されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0013】
第3の発明によれば、燃料噴射弁による燃料噴射時期の進角によって、車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数を増やすことができる。
【0014】
第4の発明によれば、燃料噴射弁による燃料噴射圧力の減少によって、車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関のシステム構成を説明するための概略図である。
【図2】筒内から排出されるPMの粒子数排出特性を車速との関係で表した図である。
【図3】図1に示す内燃機関における、燃料噴射時期とPM粒径分布(PMの粒子個数濃度PNとPMの粒径との関係)との関係を表した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における特徴的な制御を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10のシステム構成を説明するための概略図である。図1に示すシステムは、火花点火式の内燃機関(一例としてガソリンエンジン)10を備えている。
【0017】
内燃機関10には、排気通路12が備えられている。排気通路12(より具体的には、排気マニホールド部の直下)には、ガソリンパティキュレートフィルタ(Gasoline Particulate Filter:以下、単に「GPF」と称する)14が配置されている。GPF14は、排気ガス中に含まれる粒子状物質(以下、単に「PM」と称する)を捕集して除去可能なパティキュレートフィルタである。尚、ここでは図示を省略しているが、GPF14の上流側または下流側の排気通路12には、排気ガス中に含まれる三元成分((NOx、HC、CO)を浄化可能な上流側三元触媒(SC:スタートキャタリスト)が配置されているものとする。
【0018】
また、図1に示すように、GPF14の下流側の排気通路12には、排気ガス中に含まれる上記三元成分を浄化可能な下流側三元触媒(UFC:アンダーフロアキャタリスト)16が配置されている。更に、下流側三元触媒16の下流側の排気通路12には、マフラー18が配置されている。
【0019】
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)20を備えている。ECU20の入力部には、内燃機関10を制御するための各種情報(エンジン冷却水温度、吸入空気量、エンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度および車速など)を計測するための各種センサ(図示省略)が接続されている。また、ECU20には、内燃機関10の筒内に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁22とともに、内燃機関10を制御するための、スロットルバルブおよび点火プラグ等の各種アクチュエータ(図示省略)が接続されている。
【0020】
[PMの排出特性]
図2は、筒内から排出されるPMの粒子数排出特性を車速との関係で表した図である。より具体的には、図2は、欧州の試験モードであるNEDCモードにおけるPMの粒子数排出特性を表したものである。
本実施形態の内燃機関10のように、筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁22を備えたガソリンエンジンでは、筒内から排出されるPMの粒子数は、図2に示すように、冷間始動時(図2における試験開始初期)に多くなり、また、車速との関係では加速時に多くなる。
【0021】
本実施形態の内燃機関10では、GPF14に高温の排気ガスが導入されるようにするために、上述したように排気通路12の排気マニホールドの直下にGPF14を配置するようにしている。これにより、基本的にディーゼルエンジンよりも排気温度が高い内燃機関10では、暖機後であれば、GPF14に堆積したPMの酸化燃焼反応が行われる温度以上にGPF14の温度を高めることができる。その結果、暖機後には、GPF14によるPMの捕集と、GPF14に堆積したPMの酸化除去によるGPF14の再生とが連続的に行われる連続再生条件が維持されるようになる。
【0022】
連続再生条件が成立した状況で運転が行われることによりPMの酸化除去が連続的に行われるようになると、GPF14は、運転中にPMの捕集率が低い状態に常に維持されることになる。その結果、そのようにPMの捕集率が低い状態で内燃機関10の運転が停止して内燃機関10が冷えた後に再び始動する場合には、PMの捕集率が低い状態でPMの排出量が多い運転条件を迎えることになってしまう。同様に、加速時においても、PMの捕集率が低い状態でPMの排出量が多い運転条件を迎えることになってしまう。そして、これらのような状況になると、粒子径の小さな多量のPMがGPF14からすり抜けて排出されることが懸念される。
【0023】
[実施の形態1における制御]
図3は、図1に示す内燃機関10における、燃料噴射時期とPM粒径分布(PMの粒子個数濃度PNとPMの粒径との関係)との関係を表した図である。尚、図3中に示す燃料噴射時期は、圧縮上死点を基準とした値である。
図3より、圧縮行程における燃料噴射時期が上死点前300°CAから340°CAに向けて進角されるにつれ、PMの粒径が大きくなり、かつ、粒子径の大きなPMの排出数(排出濃度)が増えることが判る。
【0024】
図4は、本発明の実施の形態1における制御を説明するための図である。
暖機後に連続再生条件となる内燃機関10を備える本実施形態のシステムでは、GPF14によるPMの捕集率が低い状況下において粒子径の小さなPMがGPF14からすり抜けて排出されるのを抑制するために、車両の減速時に、粒子径の大きなPMの排出数が増えるように、燃料噴射弁22による燃料噴射の態様を変更するようにした。具体的には、本実施形態のシステムは、図3に示す燃料噴射時期とPM粒径分布との関係を有する内燃機関10を備えているので、図4に示すように、車両の減速時に燃料噴射時期の進角を行うようにした。
【0025】
図5は、上述した本実施形態の制御を実現するために、ECU20が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
図5に示すルーチンでは、先ず、エンジン冷却水温度等に基づいて内燃機関10の暖機が完了したか否かが判定される(ステップ100)。
【0026】
上記ステップ100において内燃機関10の暖機が完了したと判定された場合、つまり、内燃機関10においてGPF14の連続再生条件が成立すると判断できる場合には、次いで、アクセル開度および車速等に基づいて車両の減速時であるか否かが判定される(ステップ102)。
【0027】
上記ステップ102において車両の減速時であると判定された場合には、燃料噴射弁22による燃料噴射時期の進角が実行される(ステップ104)。具体的には、例えば、減速時における内燃機関10のベース燃料噴射時期である圧縮上死点前300°CAから340°CAとなるように、燃料噴射時期の進角が行われる。
【0028】
以上説明した図5に示すルーチンによれば、GPF14の連続再生条件となる暖機完了後において車両の減速時が到来した場合には、燃料噴射時期の進角が行われることによって、粒子径の大きなPMの排出数が増えるようにすることができる。その結果、減速時において、GPF14上に大径化によりすり抜けにくくなったPMをGPF14に短時間に堆積させることによって、粒子径の小さなPMを捕集可能なPMケーキ層を速やかに生成させることができる。また、PM排出量の多い加速時の前には、減速されることが多い。従って、上記ルーチンの処理によれば、GPF14におけるPMの捕集率を高めた状態で、PM排出量の多い加速時、更には内燃機関10の停止後の冷間始動時を迎えられるようにすることができる。
【0029】
以上のように、本実施形態のシステムによれば、暖機後に連続再生条件となる内燃機関10を対象として、PMの排出量が多くなる冷間始動時や加速時に、粒子径の小さなPMがGPF14をすり抜けて排出されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0030】
ところで、上述した実施の形態1においては、車両の減速時に、燃料噴射弁22によって燃料噴射時期を進角させるようにしている。しかしながら、本発明において、車両の減速時に粒子径の大きなPMの排出数が増えるようにするための燃料の噴射態様の変更は、上記手法に限定されるものではなく、例えば、燃料噴射弁に供給される燃料圧力(燃料噴射圧力)の減少であってもよく、更には、空燃比のリッチ化などであってもよい。また、それらの各手法を適宜組み合わせたものであってもよい。
【0031】
また、上述した実施の形態1においては、運転中にパティキュレートフィルタにおいて粒子状物質の捕集と再生とが連続的に行われる連続再生条件となることがある内燃機関の一例として、基本的にディーゼルエンジンよりも排気温度が高いガソリンエンジンであり、かつ排気通路12の排気マニホールドの直下にGPF14が配置されていることにより、暖機後に連続再生条件となる内燃機関10を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明の対象となる内燃機関は、運転中に連続再生条件となることがある内燃機関であれば、上記に限定されるものではない。すなわち、例えば、酸化触媒などと組み合わせた連続再生式のDPFを備えるディーゼルエンジンであってもよい。そして、そのようなDPFを備えるディーゼルエンジンにおいて、連続再生条件の成立の有無を判定したうえで、車両の減速時に、粒子径の大きなPMの排出数が増えるように燃料の噴射態様を変更するようにしてもよい。
【0032】
また、上述した実施の形態1においては、筒内に燃料を直接噴射する直噴方式の内燃機関(ガソリンエンジン)10を例に挙げて説明を行った。既述したように、直噴方式を採用している場合には、ガソリンエンジンであっても、冷間始動時や加速時にPMの排出量が多くなる。しかしながら、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射方式のガソリンエンジンであっても、排出量自体の差はあるがPMが排出される。このため、本発明の対象となる内燃機関における燃料噴射方式は、直噴方式に限定されるものではなく、ポート噴射方式であってもよい。
【0033】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU20が上記ステップ102の判定が成立した場合に上記ステップ104の処理を実行することにより前記第1の発明における「減速時燃料噴射態様変更手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU20が上記ステップ100の処理を実行することにより前記第2の発明における「連続再生条件判定手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0034】
10 内燃機関
12 排気通路
14 ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)
16 下流側三元触媒
18 マフラー
20 ECU(Electronic Control Unit)
22 燃料噴射弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記内燃機関の排気通路に配置され、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、
を備え、
運転中に前記パティキュレートフィルタにおいて粒子状物質の捕集と再生とが連続的に行われる連続再生条件となることがある内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関が搭載された車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数が増えるように、前記燃料噴射弁による燃料の噴射態様を変更する減速時燃料噴射態様変更手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転中に、前記連続再生条件が成立したか否かを判定する連続再生条件判定手段を更に備え、
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記連続再生条件判定手段によって前記連続再生条件が成立したと判定された場合において前記車両の減速時に、粒子径の大きな粒子状物質の排出数が増えるように、前記燃料噴射弁による燃料の噴射態様を変更することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記車両の減速時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射時期の進角を行うことを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記減速時燃料噴射態様変更手段は、前記車両の減速時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力の減少を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177327(P2012−177327A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40496(P2011−40496)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】