説明

内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法

【課題】PM強制再生制御でない場合において、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないNOx増加制御を行って、PMの酸化の向上を図ってPM強制再生制御の頻度を減少できて、排気浄化性能の向上と運転性の悪化の防止の両立を図ることができる内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法を提供する。
【解決手段】触媒担持フィルタ13bのPMの堆積量が予め設定した制御開始量以下の場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて尿素水供給装置15から尿素水を供給する通常制御を行い、PMの堆積量が制御開始量を超えた場合には、酸化触媒13aの入口の排気ガス温度Tが予め設定した温度範囲R1内に有るときに、NOx増加制御を行い、PMの堆積量が捕集限界量を超えた場合には、PM強制再生制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの運転挙動の大きな変化を伴うことなく、DPFに捕集されるPMの酸化除去を促進できて、PM強制再生制御の頻度を減少できる内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車搭載のディーゼルエンジン等の内燃機関においては、排気ガス中にPM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)が含まれており、触媒担持フィルタやNOx浄化触媒を備えた排気浄化システムを用いて、これらの成分が大気中に放出されるのを防止している。
【0003】
この排気浄化システムの一つに、図1に示すような、エンジン本体11の排気管12の途中に酸化触媒(DOC)13aと触媒担持フィルタ13bを組み合わせたDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)装置13が備えられ、その後方にNO浄化用の選択還元型触媒(SCR)14が配置されている排気浄化システム10がある。
【0004】
この排気浄化システム10では、エンジン本体11から排出されたPMは触媒を担持した触媒担持フィルタ13bに捕集される。この捕集され、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMは、排気ガスG中の二酸化窒素(NO2)により、「2C+2NO2→2CO2+N2」又は「C+NO2→CO2+NO」の反応で、連続的に酸化除去される。この二酸化窒素の一部は排気ガスGに含まれているが、排気ガス中Gの一酸化窒素(NO)が前段(上流側)の酸化触媒13aにより、図5に示される温度と一酸化窒素から二酸化窒素への変換率との関係に従って酸化されて二酸化窒素になる。
【0005】
しかしながら、排気ガス温度Tが酸化触媒13aの活性化温度より低い状況(T<Ta)、又は、活性の高い温度範囲よりも高い状況(T>Tb)が続くような条件では、二酸化窒素の生成が起こらないため、二酸化窒素によるPM酸化の連続再生が起こらずに、PMが触媒担持フィルタ13bに堆積し続けてしまう。
【0006】
この対策としては、例えば、排気通路に、酸化触媒と、排ガスG中のPMを捕集するDPFと、排気ガス温度を検出する排気ガス温度センサーが配置され、排気ガス温度が所定の温度範囲になるよう吸気通路に配設された空気量調節機構を制御するコントローラを具備して、エンジンの全運転領域においてDPFに捕集されたPMを確実に燃焼してPMが堆積することが無いようにしたディーゼルエンジンの排気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、実際の車両運転においては内燃機関(エンジン)は種々の運転条件下で運転されており、上記のディーゼルエンジンの排気浄化装置のように、排気ガス温度を所定範囲内の温度に制御することは殆ど不可能であり、実際的ではない。例えば、この排気浄化装置では、設定温度より高い場合には過給機を駆動させて空気量を増やし、設定温度よりも低い場合は吸気スロットルを閉じて空気量を減らすことが提案されているが、ある条件下における運転中にそのような変化を起こすとエンジンの挙動に大きな変化が生じ、ドライバーが予期せぬエンジンの挙動により不快感を覚えることとなり、商品性を著しく損なうこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−004838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、PM強制再生制御でない場合において、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないNOx増加制御を行って、PMの酸化の向上を図ってPM強制再生制御の頻度を減少できて、排気浄化性能の向上と運転性の悪化の防止の両立を図ることができる内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するための本発明の内燃機関の排気浄化システムは、内燃機関の排気通路に、上流側から順に酸化触媒、触媒担持フィルタ、尿素水供給装置、選択還元型触媒を備えると共に、内燃機関の運転を制御する内燃機関制御装置と前記尿素水供給装置における尿素水の供給を制御する尿素水供給制御装置を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、前記尿素水供給制御装置は、前記触媒担持フィルタに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量より小さい場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて前記尿素水供給装置から尿素水を供給してNOxを浄化する通常制御を行い、前記内燃機関制御装置は、前記PMの堆積量が前記制御開始量以上の場合には、前記酸化触媒の入口の排気ガス温度が予め設定した温度範囲内に有るときに、NOx増加制御を行って前記触媒担持フィルタに堆積したPMの燃焼除去を促進し、前記PMの量が前記制御開始量より大きい捕集限界量以上になった場合には、PMを強制的に燃焼除去するPM強制再生制御を行って前記触媒担持フィルタを再生するように構成する。
【0011】
この構成によれば、PMの堆積量がある程度多くなった場合に、一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)への転換率の高い温度範囲で、PMに対しての還元剤である窒素酸化物(NOx)を増加させるNOx増加制御を行うことにより、二酸化窒素によるPMの酸化を促進して効率良く触媒担持フィルタに堆積したPMを燃焼除去できるので、PMの堆積量の増加を抑制できてPM強制再生制御の頻度を減少することができる。
【0012】
また、NOx増加制御は、吸気空気量(酸素濃度)を変化させる方法に比べて、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないので、排気浄化性能の向上と運転性の悪化防止の両立を図ることができる。
【0013】
上記の内燃機関の排気浄化システムにおいて、前記内燃機関制御装置は、エンジン回転数と、トルク又はエンジン負荷とをパラメータとする制御用領域別に、シリンダ内における燃料噴射のタイミングの進角、EGRカット、及びこれらの組み合わせを用いてNOx増加制御を行うように構成する。
【0014】
この構成によれば、NOx量を増加してPMの酸化を促進するために、噴射タイミングの変化であるタイミング進角やEGRを停止するEGRカットを行う方法を採用するため、酸素量を増加してPMの酸化を促進するために、過給機により空気量を増加したり、吸気スロットルにより吸気量を減少したりする方法を採用する場合に比較して、エンジンの挙動の変化を小さくすることができ、運転性の悪化を防止することができる。
【0015】
上記の内燃機関の排気浄化システムにおいて、前記尿素水供給制御装置は、通常運転時のNOx量算出用マップデータに加えて、NOx増加制御をした場合に増加すると予測されるNOx増加量を予めマップデータ化してNOx増加量算出用マップデータを作成して記憶しておき、NOx増加制御時に、前記NOx量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx量に、前記NOx増加量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx増加量を加えたNOx排出量に対して、尿素水の供給量を増加する尿素水増加制御を行うように構成すると、NOx増加制御による、後段(下流側)の選択還元型触媒のNOx浄化率への悪影響を避けることができる。
【0016】
上記の内燃機関の排気浄化システムにおいて、前記内燃機関制御装置は、NOx増加制御時に、前記選択還元型触媒に流入するNOx量をNOxセンサーで計測し、計測によるNOx量と、算出された前記NOx排出量を比較して、両者の差異が予め設定した値を越えた場合には、前記NOx増加量算出用マップデータを補正するように構成すると、このNOx量のモニター量と算出量の比較、及び、NOx量のマップデータの補正(書き換え)により、選択還元型触媒のNOx浄化率を維持でき、また、尿素水の供給量が的確な量となるので、選択還元型触媒の下流側に排出される、還元できなかったNOxの量や余剰のアンモニアの量を減少することができる。
【0017】
また、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、上記の内燃機関の排気浄化システムを備えて構成される。この構成により、PM強制再生制御でない場合において、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わずにPM強制再生制御の頻度を減少できるので、排気浄化性能の向上と運転性の悪化の防止の両立を図ることができる。
【0018】
そして、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の排気浄化方法は、内燃機関の排気中のNOxとPMを、排気通路に上流側から順に酸化触媒、触媒担持フィルタ、尿素水供給装置、選択還元型触媒を配置した排気浄化システムで浄化する内燃機関の排気浄化方法において、前記触媒担持フィルタに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量より小さい場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて前記尿素水供給装置から尿素水を供給してNOxを浄化する通常制御を行い、前記内燃機関制御装置は、前記PMの堆積量が前記制御開始量以上の場合には、前記酸化触媒の入口の排気ガス温度が予め設定した温度範囲内に有るときに、NOx増加制御を行って前記触媒担持フィルタに堆積したPMの燃焼除去を促進し、前記PMの量が前記制御開始量より大きい捕集限界量以上になった場合には、PMを強制的に燃焼除去するPM強制再生制御を行って前記触媒担持フィルタを再生することを特徴とする方法である。
【0019】
この方法によれば、PMの堆積量がある程度多くなった場合に、一酸化窒素から二酸化窒素への転換率の高い温度範囲で、PMに対しての還元剤である窒素酸化物を増加させるNOx増加制御を行うことにより、二酸化窒素によるPMの酸化を促進して効率良く触媒担持フィルタに堆積したPMを燃焼除去できるので、PMの堆積量の増加を抑制できてPM強制再生制御の頻度を減少することができる。
【0020】
また、NOx増加制御は、吸気空気量(酸素濃度)を変化させる方法に比べて、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないので、排気浄化性能の向上と運転性の悪化防止の両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法によれば、PM強制再生制御でない場合において、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないNOx増加制御を行って、PMの酸化の向上を図ってPM強制再生制御の頻度を減少できて、排気浄化性能の向上と運転性の悪化の防止の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の内燃機関の排気浄化システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の内燃機関の排気浄化方法の制御フローの一例を示す図である。
【図3】図2のNOx増加制御と尿素水増加制御の制御フローの一例を示す図である。
【図4】図2のNOx増加制御と尿素水増加制御の制御フローの他の例を示す図である。
【図5】温度と一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)への変換率との関係と、高変換温度範囲を示す図である。
【図6】図2の温度を高温側にずらした温度と一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)への変換率との関係と、制御開始用温度範囲を示す図である。
【図7】NOx増加制御における制御用領域を示す図である。
【図8】本発明の内燃機関の排気浄化方法におけるDPF差圧の時間変化と各制御との関係を示す図である。
【図9】従来技術の内燃機関の排気浄化方法におけるDPF差圧の時間変化と各制御との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に示すように、この実施の形態の内燃機関の排気浄化システム10は、エンジン本体11の排気通路(排気管)12の途中に、DPF装置13が備えられ、その後段(下流側)には、尿素水供給装置15と選択還元型触媒(SCR)14が順に配置されている。このDPF装置13は上流側(前段)の酸化触媒(DOC)13aと、下流側(後段)の触媒を担持した触媒担持フィルタ(フィルタ)13bを組み合わせて構成されている。
【0025】
更に、酸化触媒13aの上流側に酸化触媒13aの入口の排気ガス温度Tを検出する第1温度センサー21を配置し、また、選択還元型触媒14の上流側に、選択還元型触媒14の入口の排気ガス温度Txを検出する第2温度センサー22を配置する。更に、選択還元型触媒14の入口側に選択還元型触媒14に流入するNOx量を測定できるNOxセンサー23を配置する。また触媒担持フィルタ13bの前後には差圧センサー(図示しない)を設けて、触媒担持フィルタ13bに溜まったPMの堆積量を監視(モニター)している。また、必要に応じて、選択還元型触媒14の下流側(後方)にアンモニア酸化用の触媒(図示しない)を配置する。
【0026】
そして、ECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれる内燃機関制御装置30が設けられる。この内燃機関堰魚装置30は、上記のセンサー21、22、23からの情報のほかに、図1には示さないエンジンの運転状況を判断するエンジン運転状況判断手段からの情報を入手して、内燃機関(エンジン)の全般の制御を行う。
【0027】
また、内燃機関制御装置30と繋がっている、DCU(ドージングユニット)と呼ばれる尿素水供給制御装置31が設置される。この尿素水供給制御装置31の指令を受けて、尿素水供給装置15が、選択還元型触媒14でNOxを浄化するために、尿素水タンク他の供給に必要な装置(図示しない)から排気通路12に尿素水を供給する。
【0028】
次に、この内燃機関の排気浄化システム10における内燃機関の排気浄化方法について説明する。この本発明に係る実施の形態の内燃機関の排気浄化方法では、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量以下の場合、即ち、触媒担持フィルタ13bの前後差圧Pが制御開始差圧値Psより小さい通常制御時は、特段な制御を行なわない。
【0029】
この通常制御の状態では、触媒担持フィルタ13bに関しては、酸化触媒13aの温度を指標する、第1温度センサー21で検出される排気ガス温度Tが、図5に示す高変換温度範囲(Ta以上Tb以下)R1内であれば、この排気ガス温度Tに応じた一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)への変換が、変換率の高い状態で行われ、この排気ガス中の二酸化窒素によってPMの酸化が促進されるが、排気ガス温度Tが図5に示す高変換温度範囲R1内から外れると、PMの堆積量が増加し前後差圧Pも増えていくこととなる。この高変換温度範囲R1は、酸化触媒13aに担持される触媒の活性温度範囲に密接に関係し、例えば、酸化触媒13aの入口の排気ガス温度Tに関して250℃〜400℃の温度範囲内とされる。つまり、Ta=250℃、Tb=400℃となる。
【0030】
このとき、選択還元型触媒14に関しては、排出されるNOX量に応じた通常制御でNOXを浄化している。つまり、エンジン運転状況判断手段からエンジン運転状態(エンジン回転数、トルク又はエンジン負荷)の情報を入手して、このエンジン運転状態に対応するNOx排出量を、予め設定され、尿素水供給制御装置31(又は内燃機関制御装置30)に記憶された通常運転時のNOx量算出用マップデータを参照して算出し、この算出されたNOx排出量を還元できる尿素水の供給量を、尿素水供給装置15から供給して、この尿素水から発生するアンモニアを用いて、DFP装置13から流出してくるNOxを選択還元型触媒14で還元している。なお、還元で消費しきれなかったアンモニアは、下流側のアンモニア酸化用の触媒(図示しない)で酸化して無害化する。
【0031】
そして、時間の経過又は走行距離の増加と共に、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの量が増加して前後差圧Pが増加する。従来技術における、前後差圧(DPF差圧)の増加の概略の様子を図9に示す。前後差圧Pが、予め設定した限界差圧値Pkに到達すると、触媒担持フィルタ13bの圧損を下げるためにPM強制再生制御(強制再生)を行う。図9に示すように、触媒担持フィルタ13bにPMが全く溜まっていないときの前後差圧Pの初期圧力をP0とすると、強制再生後の前後差圧値P0kは、P0≦P0kの関係にある。最初の強制再生後は、この前後差圧値P0kから前後差圧Pは増加して限界差圧値Pkに到達するとPM強制再生制御を行うことを繰り返す。
【0032】
一方、本発明の内燃機関の排気浄化方法の制御では、図8に示すように、強制再生後の前後差圧P0kを上回る制御開始差圧値Psに前後差圧Pが到達した後に、状況に応じてNOx増加制御を行う。つまり、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量を超えた場合に、状況に応じてNOx増加制御を行い、更に、PMの堆積量が捕集限界量(限界堆積量)に到達するとPM強制再生制御を行うように構成される。
【0033】
この本発明の内燃機関の排気浄化方法に関して、図2の制御フローを参照しながら説明する。この図2の制御フローは、内燃機関の運転開始と共に上級の制御フローより呼ばれて実施され、実施後に上位の制御フローに戻っては、繰り返し呼ばれて実施され、内燃機関の運転の終了時には、上位の制御フローと共に終了するものとして示してある。
【0034】
この図2の制御フローが呼ばれてスタートすると、ステップS11で、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量を超えたか否かを、触媒担持フィルタ13bの前後差圧Pが、制御開始差圧値Ps以上になったか否かで判定する。
【0035】
このステップS11で、前後差圧Pが制御開始差圧値Psよりも小さい場合には(NO)、ステップS30で、通常制御を、予め設定した所定の時間(ステップS11の判定のインターバルに関係する時間)Δt1の間行った後、ステップS11に戻り、前後差圧Pが制御開始差圧値Ps以上になるのを待つ。
【0036】
ステップS11の判定で、前後差圧Pが制御開始差圧値Ps以上に達した場合には(YES)、ステップS12に行き、酸化触媒13aの温度を指標する、第1温度センサー21で検出される排気ガス温度Tが、図6に示すような制御開始温度範囲(T1以上、T2以下)R2内にあるか否かを判定する。
【0037】
この制御開始温度範囲R2は、高変換温度範囲R1と同じに設定してもよいが、NOx増加制御を行った場合に高変換温度範囲(Ta以上、Tb以下)R1内に入るように設定しておくことが好ましい。つまり、NOx増加制御を行った場合に排気ガス温度Tが低下するので、予めどの程度低下するかを実験などで把握しておき、エンジンの運転状態に応じて、予め低下する温度ΔTa、ΔTbを予測して、T1=Ta+ΔTa、T2=Tb+ΔTbとすることが好ましい。
【0038】
これにより、NOx増加制御で低下する温度ΔTa、ΔTbを予め見込んで、高変換温度範囲R1より高いほうに移動した制御開始温度範囲R2を用いて、転換率のピークに近いところで、PMに対する還元剤であるNO2を増やすことにより、触媒担持フィルタ13bにおけるPMの酸化をより促進させることができる。
【0039】
このステップS12の判定で、排気ガス温度Tが、制御開始温度範囲R2内にない場合は、予め設定した所定の時間(ステップS11の判定のインターバル、及び、ステップS12の判定のインターバルに関係する時間)Δt2を経過した後、ステップS11に戻り、排気ガス温度Tが制御開始温度範囲R2内になるのを待つ。ステップS12の判定で、排気ガス温度Tが制御開始温度範囲R2内に入った場合は、ステップS13に行き、NOx増加制御と尿素水増加制御(NOx増加対応制御)を並行して行う。
【0040】
このNOx増加制御は、図2の制御フローのステップS13で呼ばれて、図3の制御フローがスタートすると、ステップS21で、ステップS12の判断と同じT1≦T≦T2の判定で、NOx増加制御を開始してよいか(ONであるか)否かを判定し、開始してよくない(制御OFF)ならば(NO)、ステップS32で、通常制御を予め設定した所定の時間(ステップS21の判定のインターバルに関係する時間)Δt3の間行った後、ステップS21に戻り、NOx増加制御を開始してよい状態になるまで待つ。
【0041】
ステップS21で、NOx増加制御を開始してもよい(制御ON)と判断されると(YES)、次のステップS22で、エンジン運転状況検出手段から得られるエンジン回転数NeとトルクTrq(又はエンジン負荷)に基づいて、これらをパラメータとした図7に示される制御用領域(ゾーン)A、B、Cのどの制御用領域にあるかの判断を行い、次のステップS23〜S25で、それぞれの制御用領域A、B、Cに対応した制御が行われる。この制御用領域A、B、Cは、排気ガス温度Tと密接な関係を有する酸化触媒13aの一酸化窒素から二酸化窒素への変換率との関連により区分されている。
【0042】
制御用領域Aの場合は、低温側で一酸化窒素が二酸化窒素に変換する変換率がやや低い領域であるため、ステップS23でシリンダ内での燃料噴射のタイミングを進角させるタイミング進角によりエンジン本体11から排出されるNOxを増加する。また、制御用領域Bの場合は、一酸化窒素が二酸化窒素に変換する変換率も高い領域であるため、ステップS24でタイミング進角と、EGRを停止するEGRカットとの両方によりエンジン本体11から排出されるNOxを大幅に増加する。また、制御用領域Cの場合は、高温側で必要とされるトルクも大きくなる(エンジン負荷も上がる)領域であるため、ステップS25で、タイミング進角でなく、EGRカットによりエンジン本体11から排出されるNOxを増加する。
【0043】
なお、図7では、制御用領域を温度領域と関連させて各領域(ゾーン)A、B、Cを全て直線で囲まれた形で示しているが、この図7の表示はイメージ的な図であり、実際の場合は、事前に決定された、タイミング進角やEGRカット等の各制御がマップデータに書き込まれ内燃機関制御装置30に記憶して、制御にそのマップデータを参照して、タイミング進角やEGRカット等を選択して制御することになる。
【0044】
このNOx増加制御により、エンジン本体11から排気通路12に排出される排気ガスG中のNOxが増加し、酸化触媒13aに流入する排気ガス温度Tに応じた変換率で一酸化窒素から二酸化窒素への変換が酸化触媒13aで行われ、この排気ガス中の二酸化窒素が増加する。この二酸化窒素によって触媒担持フィルタ13bに堆積されたPMの酸化が促進される。
【0045】
また、ステップS23〜S25では、このNOx増加制御と共に、尿素水増加制御を行う。この尿素水増加制御は、NOx増加制御により、選択還元型触媒14に流入するNOxの量が、NOx増加制御を行わない通常制御の場合よりも増加するため、この増加したNOxを処理する必要があるため行われる。
【0046】
この尿素水増加制御は、NOxの増加に見合う分の尿素水を増加する制御であり、NOx増加制御によるNOxの増加量が、図7の各制御用領域A、B、Cに対応した処理によって異なるため、その制御用領域でNOx増加制御した場合に排出されるであろうNOxを事前に把握して、通常運転時のNOx量算出用マップデータに加えて、NOx増加制御をした場合に増加すると予測されるNOx増加量を予めマップデータ化してNOx増加量算出用マップデータを作成して、尿素水供給制御装置31(又は内燃機関制御装置30)に記憶しておき、NOx増加制御時に、NOx増加量算出用マップデータに基づいて尿素水の供給量を増加する尿素水増加制御を行う。
【0047】
つまり、尿素水供給制御装置31に記憶されたNOx増加制御時のNOx増加量算出用マップデータを参照してNOxの増加量を算出し、この算出されたNOx増加量を還元できる尿素水の供給量を増加して、尿素水供給装置15から供給して、この尿素水から発生するアンモニアを用いて、DFP装置13から流出してくるNOxを選択還元型触媒14で還元する。なお、この還元で消費しきれなかったアンモニアは、下流側のアンモニア酸化用の触媒(図示しない)で酸化して無害化する。これにより、NOx増加制御の選択還元型触媒14におけるNOx浄化率への悪影響を避けることができる。
【0048】
このNOx増加制御と尿素水増加制御を予め設定された所定時間Δt4の間行い、リターンして、図2のステップS13に戻り、次のステップS14に行く。
【0049】
このステップS14では、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMが捕集限界量に達したか否かを前後差圧Pが限界差圧値Pk以上になったか否かで判定する。この判定で、前後差圧Pが限界差圧値Pk以上になった場合には(YES)、ステップS40で、PM強制再生制御を行い、リターンする。また、ステップS14の判定で前後差圧Pが限界差圧値Pk以上になっていない場合は(NO)、ステップS15に行く。
【0050】
ステップS15では、排気ガス温度Tが、高変換温度範囲R1内にあるか否かを判定する。ステップS15の判定で、排気ガス温度Tが高変換温度範囲R1内にある場合には、ステップS16で、ステップS13と同じNOx増加制御と尿素水増加制御を予め設定された所定時間(ステップS13の所定時間Δt4とは異なる時間)Δt5の間行い、ステップS14に戻る。
【0051】
このステップS13の所定時間Δt4は、排気ガス温度TがNOx増加制御により予め予測した温度低下量ΔTの分が低下しきると予測される時間であり、一方、ステップS16の所定時間Δt5は、排気ガス温度Tが低下した後の、ステップS15の温度範囲のチェックのインターバルに関係する時間である。
【0052】
ステップS15の判定で、排気ガス温度Tが高変換温度範囲R1内にない場合には、ステップS31に行き、NOx増加制御と尿素水増加制御をしない通常制御をステップS16の所定時間Δt4と同じ時間の間行って、ステップS14に戻る。
【0053】
このステップS15、S16、S17により、ステップS11で、前後差圧Pが制御開始差圧値Ps以上になった以後で、かつ、排気ガス温度Tが制御開始温度範囲R2内に入った後で、かつ、前後差圧Pが限界差圧値Pk以上になってPM強制再生制御を開始するまでの間、排気ガス温度Tが高変換温度範囲R1内にある場合のみ、言い換えれば、状況に応じて、NOx増加制御と尿素水増加制御を行って、二酸化窒素により、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの酸化を促進して、効率よくPMを燃焼除去する。これにより、図9の通常制御とPM強制再生制御を繰り返す場合に比べて、図8に示すように、PM強制再生制御までの時間を長くすることができるので、強制再生制御の頻度を少なくすることができる。
【0054】
更に、図3の制御フローの代わりに、ステップS26とステップS27を加えた図4の制御フローを用いて、内燃機関制御装置30が、NOx増加制御時に、ステップS26で、選択還元型触媒14に流入するNOx量をNOxセンサー23で計測し、計測によるNOx量と、通常運転時のNOx量算出用マップデータから算出されるNOx量とNOx増加量算出用マップデータにより算出されたNOx増加量の和を比較して、両者の差が予め設定した補正用値内であるか否かを判定する。この判定で両者の差が補正用値を越えない場合には(YES)は、そのままリターンし、ステップS26の判定で両者の差が補正用値を越えた場合には(NO)、ステップS27で、NOx増加量算出用マップデータを書き直して補正してから、リターンする。
【0055】
この図4の制御フローを用いると、このNOx量のモニターとの比較、及び、マップデータの書き換えにより、選択還元型触媒14のNOx浄化率を維持でき、また、選択還元型触媒14から流出する、還元できなかったNOxや余剰のアンモニアを減少することができる。
【0056】
そして、本発明に係る実施の形態の内燃機関は、上記の内燃機関の排気浄化システム10を備えて構成される。
【0057】
従って、上記の構成の内燃機関の排気浄化システム10、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法では、尿素水供給制御装置31は、触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量以下の場合には、即ち、前後差圧Pが制御開始差圧Psより小さい場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて尿素水供給装置15から尿素水を供給してNOxを浄化する通常制御を行い、内燃機関制御装置30は、PMの堆積量が制御開始量を超えた場合には、即ち、前後差圧Pが制御開始差圧Ps以上の場合には、酸化触媒13aの入口の排気ガス温度Tが予め設定した温度範囲R1(又はR2)内に有るときに、NOx増加制御を行って触媒担持フィルタ13bに堆積したPMの燃焼除去を促進し、PMの量が制御開始量より大きい捕集限界量を超えた場合には、即ち、前後差圧Pが限界差圧値Pk以上の場合には、PMを強制的に燃焼除去するPM強制再生制御を行って触媒担持フィルタ13bを再生する。
【0058】
従って、PMの堆積量がある程度多くなった場合に、一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)への転換率の高い温度範囲R1又はR2で、PMに対しての還元剤である窒素酸化物(NOx)を増加させるNOx増加制御を行うことにより、二酸化窒素によるPMの酸化を促進して効率良く触媒担持フィルタ13bに堆積したPMを燃焼除去できるので、PMの堆積量の増加を抑制できてPM強制再生制御の頻度を減少することができる。
【0059】
また、NOx増加制御は、吸気空気量(酸素濃度)を変化させる方法に比べて、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないので、排気浄化性能の向上と運転性の悪化防止の両立を図ることができる。
【0060】
また、内燃機関制御装置30は、エンジン回転数Neと、トルクTrq(又はエンジン負荷)とをパラメータとする制御用領域A、B、C別に、シリンダ内における燃料噴射のタイミングの進角、EGRカット、及びこれらの組み合わせを用いてNOx増加制御を行う。
【0061】
従って、酸素量を増加してPMの酸化を促進するために、過給機により空気量を増加したり、吸気スロットルにより吸気量を減少したりする方法を採用する場合に比較して、エンジンの挙動の変化を小さくすることができ、運転性の悪化を防止することができる。
【0062】
更に、尿素水供給制御装置31は、通常運転時のNOx量算出用マップデータに加えて、NOx増加制御をした場合に増加すると予測されるNOx増加量を予めマップデータ化してNOx増加量算出用マップデータを作成して記憶しておき、NOx増加制御時に、前記NOx量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx量に、NOx増加量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx増加量を加えたNOx排出量に対して、尿素水の供給量を増加する尿素水増加制御を行う。従って、NOx増加制御による、後段(下流側)の選択還元型触媒14のNOX浄化率への悪影響を避けることができる。
【0063】
また、内燃機関制御装置30は、NOx増加制御時に、選択還元型触媒14に流入するNOx量をNOxセンサー23で計測し、計測によるNOx量と、算出された前記NOx排出量を比較して、両者の差異が予め設定した値を越えた場合には、NOx増加量算出用マップデータを補正する。従って、選択還元型触媒14のNOx浄化率を維持でき、また、尿素水の供給量が的確な量となるので、選択還元型触媒14の下流側に排出される、還元できなかったNOxの量や余剰のアンモニアの量を減少することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の内燃機関の排気浄化システム、内燃機関、及び内燃機関の排気浄化方法によれば、PM強制再生制御でない場合において、エンジンの運転の挙動の大きな変化を伴わないNOx増加制御を行って、PMの酸化の向上を図ってPM強制再生制御の頻度を減少できて、排気浄化性能の向上と運転性の悪化の防止の両立を図ることができるので、数多くの車両に搭載する内燃機関等に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
10 内燃機関の排気浄化システム
11 エンジン本体
12 排気通路(排気管)
13 DPF装置
13a 酸化触媒(DOC)
13b 触媒担持フィルタ
14 選択還元型触媒(SCR触媒)
15 尿素水供給装置
21 第1温度センサー
22 第2温度センサー
23 NOxセンサー
30 内燃機関制御装置
31 尿素水供給制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に、上流側から順に酸化触媒、触媒担持フィルタ、尿素水供給装置、選択還元型触媒を備えると共に、内燃機関の運転を制御する内燃機関制御装置と前記尿素水供給装置における尿素水の供給を制御する尿素水供給制御装置を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、
前記尿素水供給制御装置は、前記触媒担持フィルタに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量より小さい場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて前記尿素水供給装置から尿素水を供給してNOxを浄化する通常制御を行い、
前記内燃機関制御装置は、前記PMの堆積量が前記制御開始量以上の場合には、前記酸化触媒の入口の排気ガス温度が予め設定した温度範囲内に有るときに、NOx増加制御を行って前記触媒担持フィルタに堆積したPMの燃焼除去を促進し、
前記PMの堆積量が前記制御開始量より大きい捕集限界量以上になった場合には、PMを強制的に燃焼除去するPM強制再生制御を行って前記触媒担持フィルタを再生することを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記内燃機関制御装置は、エンジン回転数と、トルク又はエンジン負荷とをパラメータとする制御用領域別に、シリンダ内における燃料噴射のタイミングの進角、EGRカット、及びこれらの組み合わせを用いてNOx増加制御を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記尿素水供給制御装置は、通常運転時のNOx量算出用マップデータに加えて、NOx増加制御をした場合に増加すると予測されるNOx増加量を予めマップデータ化してNOx増加量算出用マップデータを作成して記憶しておき、NOx増加制御時に、前記NOx量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx量に、前記NOx増加量算出用マップデータに基づいて算出されるNOx増加量を加えたNOx排出量に対して、尿素水の供給量を増加する尿素水増加制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記内燃機関制御装置は、NOx増加制御時に、前記選択還元型触媒に流入するNOx量をNOxセンサーで計測し、計測によるNOx量と、算出された前記NOx排出量を比較して、両者の差異が予め設定した値を越えた場合には、前記NOx増加量算出用マップデータを補正することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システムを備えたことを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
内燃機関の排気中のNOxとPMを、排気通路に上流側から順に酸化触媒、触媒担持フィルタ、尿素水供給装置、選択還元型触媒を配置した排気浄化システムで浄化する内燃機関の排気浄化方法において、
前記触媒担持フィルタに堆積したPMの堆積量が予め設定した制御開始量より小さい場合には、内燃機関から排出されるNOx量に応じて前記尿素水供給装置から尿素水を供給してNOxを浄化する通常制御を行い、
前記内燃機関制御装置は、前記PMの堆積量が前記制御開始量以上の場合には、前記酸化触媒の入口の排気ガス温度が予め設定した温度範囲内に有るときに、NOx増加制御を行って前記触媒担持フィルタに堆積したPMの燃焼除去を促進し、
前記PMの堆積量が前記制御開始量より大きい捕集限界量以上になった場合には、PMを強制的に燃焼除去するPM強制再生制御を行って前記触媒担持フィルタを再生することを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72328(P2013−72328A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210928(P2011−210928)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】