説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気中の水溶性HCを凝縮可能な冷却手段を有する構成においてエミッションの悪化を抑制する。
【解決手段】U/F触媒400下流に第1冷却装置500及び第2冷却装置600を有するエンジンシステム10において、異常検出処理が実行される。この際、エンジン始動後に、吸入空気量積算値Gatが所定値に到達した段階で触媒温度Tctlが未だ触媒活性温度Tctlthに到達していない旨の検出条件が満たされると、第1冷却装置500のタンク510の温度たる冷却装置温度Tclrが、所定の正常範囲に属しているか否かが判別される。冷却装置温度Tclrが下限値Tclrl以下、或いは上限値Tclrh以上である等して当該正常範囲を逸脱している場合、第1冷却装置500が予め想定された冷却能力を有さない或いは発揮できない旨の異常状態にあるものと判別され、インジケータ800が点灯制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール混合燃料を使用可能な内燃機関の排気浄化装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、排気を冷却する冷却手段を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された内燃機関の排気浄化装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、排気通路から分岐される排気バイパス通路を備え、この分岐部に切換弁を介装するとともに、排気バイパス通路にバイパス排気を冷却する冷却手段を設け、この冷却手段の下流の排気バイパス通路に未燃HC成分を凝縮する凝縮成分溜を設け、該凝縮成分溜に溜められた未燃HC成分を暖機後にパージポートから空気とともに吸気通路に導入することにより、未燃HCを回収することができるとともに、機関の冷間時、特に未暖機状態での運転時間が長いときに、燃費を向上させることが可能であるとされている。
【0003】
尚、排ガス中のアルデヒドを水溶液としてトラップして吸気側へ還流させる構成も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−235617号公報
【特許文献2】実開昭61−76108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術において、冷却手段が予め想定される冷却能を発揮しない場合、当然ながら未燃HC成分は凝縮されることなく車外に排出されエミッションを悪化させる要因となる。ところが、従来の技術は、冷却手段がこの種の冷却能を有しているか否かを判断する術を有さぬため、場合によってはエミッションの悪化を招く状態が放置されかねない。即ち、従来の技術には、ドライバの預かり知らぬところで、エミッションの悪化を招きかねないという技術的な問題点がある。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、排気を冷却することにより未燃HCを回収可能な冷却手段を有する構成においてエミッションの悪化を抑制し得る内燃機関の排気浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、アルコール混合燃料を使用可能な内燃機関の排気浄化装置であって、前記内燃機関における排気の経路に設置され、前記排気を冷却することにより、前記排気中の水溶性HCを、該水溶性HCを含む凝縮水として液化可能な冷却手段と、前記冷却手段が所定の異常状態にあるか否かを判別する判別手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る「内燃機関」とは、少なくとも一の気筒を備え、当該気筒の各々において燃料が燃焼(好適には、燃料と空気の混合気が燃焼)した際に生じる動力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランクシャフト等の各種物理的或いは機械的な伝達経路を経て車両の駆動力として取り出すことが可能に構成された機関であり、本発明では特に、燃料として例えばエタノール等の各種アルコールが混合されてなるアルコール混合燃料を使用可能に構成された機関を包括する概念である。
【0009】
ここで、「アルコール混合燃料」とは、例えば好適な一形態として、各種アルコール単体、又はガソリンとアルコールとの混合体であり、本発明においては、その混合割合は特に限定されない。即ち、本発明に係るアルコール混合燃料とは、アルコール濃度(重量濃度であっても体積濃度であってもよい)として0%から100%までの値を採り得る趣旨である。また、アルコール混合燃料は、例えば給油時においてアルコール混合燃料として燃料タンク等の貯留手段に取り込まれてもよいし、例えばガソリン等の被混合体用の貯留手段とは異なる貯留手段に取り込まれ、内燃機関に対し燃料の供給がなされるに際して適宜混合されてもよい。
【0010】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、その動作時には、排気の経路(以下、適宜「排気経路」と略称する)に設置された冷却手段により排気が冷却される。この種の内燃機関の排気には、各種アルコール或いはアルデヒド等の水溶性HCが一成分として含まれており、排気が冷却される過程において、係る水溶性HCは液化(即ち、凝縮)され、凝縮水として例えば各種トラップ手段、抽出手段或いは貯留手段等により夫々トラップ、抽出或いは貯留される。
【0011】
尚、本発明に係る「冷却手段」とは、排気を、少なくとも排気中の水溶性HCが幾らかなり液化される程度に冷却可能である限りにおいて、如何なる構成(物理的構成、機械的構成、電気的構成、磁気的構成又は化学的構成を含む)を有していてもよく、例えば、熱容量(ヒートマス)の大きい(この場合の「大きい」とは、例えば好適な一形態として、元々排気が有する熱量、排気の量、排気流速、要求される冷却速度等、各種要件に基づいて規定され得る、好適には設計事項である)物体の表面或いは内部に排気を導くことにより、係る物体との熱交換によって排気を冷却する構成を有していてもよいし、例えば、各種駆動手段により物理的、機械的又は電気的に駆動されることによって、積極的に排気を冷却するものであってもよい。
【0012】
ここで、好適な一形態として、この液化された水溶性HC(即ち、凝縮水)は、例えば機関暖機後等に、例えば係る機関暖機に係る熱によって、それ自体が、或いは含有される水溶性HCが気化される。気化後の水溶性HCは、好適には内燃機関の吸気系に還流され、当該吸気系を介して気筒内に流入せしめられた後に、再び燃焼に供される。従って、この冷却手段が正常に機能している限りにおいて、例えば機関始動直後等、三元触媒等の各種形態を採り得る触媒装置が未暖機であっても、当該触媒装置で浄化しきれない水溶性HCの車外への排出は好適に抑制される。尚、補足的に言えば、この種の冷却手段は、好適な一形態として、触媒装置が実践上十分な排気浄化能力を発揮しない運転領域(例えば、触媒活性温度未満の温度領域)において顕著に効果的であり、その点に鑑みれば、その設置位置は、排気熱による触媒暖機を阻害しないように、少なくとも触媒装置の下流側(排気の流れを基準とする方向概念であって、この場合、即ち、気筒と反対側)に設定される。
【0013】
ここで特に、冷却手段が正常に機能しない状態(例えば、予め想定された冷却能力を発揮できない状態)にある場合、排気中の水溶性HCは、液化されることなく車外に排出され、或いはその液化が不十分であることにより一部が液化されることなく車外に排出され、いずれにせよエミッションが悪化する。特に、コスト上の理由等により、触媒装置に使用される白金等の貴金属の使用量が減少した場合、冷却手段に要求される水溶性HCの捕集能力は相対的に増加するため、この種の状態にある場合の不利益もまた大となる。
【0014】
そこで、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る判別手段により、冷却手段が所定の異常状態にあるか否かを判別が判別される。ここで、「異常状態」とは、上述したように、冷却手段において、予め想定される冷却能力が発揮されない状態を包括する概念であり、例えば、物理的、機械的、電気的、磁気的又は化学的な何らかの不具合が生じている状態等を含む趣旨である。即ち、この種の異常状態が如何なる態様の下に具現化しようと、冷却手段が異常状態にある場合には、水溶性HCの液化が不十分となる。尚、冷却手段が異常状態にあるか否かを判別するに際しての態様は、冷却手段がこの種の異常状態にあるか否かを判別可能である限りにおいて何ら限定されない。
【0015】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、このように冷却手段が異常状態にあるか否かを判別することが可能であり、例えば、所定の告知手段(音声情報、文字情報、或いは視覚情報等によりドライバにその旨を告知し得る各種の手段)等を介して、その旨をドライバに告知することが容易にして可能となる。或いは、そのような告知がなされないとしても、係る判別の履歴が、各種の情報として記憶されていれば、車両の点検時や修理時等において、冷却手段が異常状態にある旨を知らしめることが簡便にして可能となる。いずれにせよ、この種の判別がなされることによって、冷却手段が異常状態にある旨を検出可能な何らの手段も有さぬ場合と較べて、少なくとも幾らかなりエミッションの悪化が抑制される。即ち、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、エミッションの悪化が好適に抑制されるのである。
【0016】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の一の態様では、前記冷却手段の温度を特定する第1特定手段を具備し、前記判別手段は、前記特定された温度に基づいて前記冷却手段が前記異常状態にあるか否かを判別する。
【0017】
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1特定手段により、冷却手段の温度が特定される。ここで、本発明に係る「特定」とは、特定対象又は特定対象と相関する物理量を所定の検出手段を介して直接的に又は間接的に検出すること、当該検出手段を介して直接的に又は間接的に検出された特定対象と相関する物理量に基づいて予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する値を選択すること、この種の特定対象と相関する物理量又は選択された値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式に従って導出すること、或いはこのように検出、選択又は導出された値等を、例えば電気信号等の形で単に取得すること等を包括する広い概念である。
【0018】
また、「冷却手段の温度」を規定する部位は、冷却手段の構成に応じて多種多様であり、必ずしも一義的でなくてもよい。冷却手段の温度とは、例えば好適な一形態として、冷却手段において、排気の冷却の度合い(二値的、段階的又は連続的であってよい)に応じて、少なくとも実践上十分な検出精度を確保できる程度に温度が変化する部位の温度であってもよい。或いは、冷却手段の温度とは、冷却手段の構成によっては、冷却手段により冷却された排気の温度であってもよい。
【0019】
冷却手段による水溶性HCの液化作用は、冷却手段が排気を冷却することにより得られるものである。従って、冷却手段の温度は、冷却手段の冷却能力を判断する指標値として有効である。即ち、この態様によれば、冷却手段が異常状態にあるか否かを簡便に、且つ正確に判別することができ、最終的には、液化されずに車外に排出される水溶性HCに起因するエミッションの悪化を好適に抑制することが可能となる。
【0020】
尚、この際、特定された温度に基づいた判別手段の判別態様は、少なくとも冷却手段が異常状態にあるか否かを実践上十分な精度で判別可能である限りにおいて何ら限定されない趣旨である。即ち、判別手段は、特定された温度そのものを基準値と比較する等して当該判別をおこなってもよいし、特定された温度の変化の度合いや、特定された温度から導出される各種の判断指標値を基準値と比較する等して当該判別を行ってもよい。
【0021】
尚、この態様では、前記判別手段は、前記特定された温度が所定の正常範囲を逸脱する場合に、前記冷却手段が前記異常状態にあるものと判別してもよい。
【0022】
この場合、特定された温度が所定の正常範囲を逸脱する場合に冷却手段が異常状態にある旨が判別されるため、係る判別が比較的簡便にして実現される。
【0023】
尚、「正常範囲」とは、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて冷却手段が正常状態にある場合には採り得ない旨が規定された温度範囲(以下、適宜「異常温度範囲」と称する)に該当しない、別言すれば、異常状態に無い旨の判別を下し得る範囲である。この際、冷却手段と排気経路との接続態様に異常が生じれば、冷却手段が冷却能力を有していたところで排気が冷却されずに冷却手段に温度変化(排気から熱を奪うことによる温度上昇)が生じないし、冷却手段に冷却能力を付与する何らかの付与系統(例えば、冷却手段を取り囲むウォータジャケット等に冷却水を供給する系統)に異常が生じれば、冷却手段は極端に高温となる場合もある。従って、この種の異常温度範囲は、冷却手段が正常状態にあり且つ内燃機関が通常運転される場合の温度等として規定される基準温度に対し、低温側にも高温側にも存在し得る。
【0024】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記冷却手段における、前記冷却手段の温度に応じて変化する所定種類の物理量を特定する第2特定手段を具備し、前記判別手段は、前記特定された物理量に基づいて前記冷却手段が前記異常状態にあるか否かを判別する。
【0025】
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2特定手段により、冷却手段の温度に応じて変化する所定種類の物理量が特定され、判別手段により、係る物理量に基づいて冷却手段が異常状態にあるか否かの判別が行われる。
【0026】
ここで、「所定種類の物理量」とは、冷却手段の温度に応じて変化する物理量であり、好適な一形態としては、少なくとも冷却手段の温度が先に述べた正常範囲から逸脱したことを実践上問題無く検出可能な程度に、当該温度に応じて変化する物理量である。即ち、ここで規定される物理量とは、冷却手段の温度は除外するとして、冷却手段の冷却能力に対応付けられた物理量を包括する概念である。
【0027】
この態様によれば、冷却手段の温度を特定するプロセスを経ずして、冷却手段が異常状態にあるか否かを好適に判別可能である。尚、この種の物理量に基づいた判別は、必ずしも上述した温度に基づいた判別と相容れないものではなく、好適な一形態として、この種の物理量に基づいた判別と温度に基づいた判別との両方がなされてもよい。また、予めこの種の物理量を検出する複数種類の検出手段が、排気浄化装置の適切な場所に適宜備わっていてもよく、その場合、その都度内燃機関の運転条件等に応じて適切な検出手段を選択的に利用してもよい。
【0028】
尚、この態様では、前記判別手段は、前記特定された物理量が所定の正常範囲を逸脱する場合に、前記冷却手段が前記異常状態にあるものと判別してもよい。
【0029】
冷却手段の温度と同様に、この種の物理量に対しても先に述べた異常範囲及び正常範囲を規定することが可能であり、この場合、判別手段に係る判別が比較的簡便に実現される。但し、この種の物理量は、先に述べた冷却装置の温度とは異なり、冷却装置の温度が正常範囲から逸脱している場合には、物理量の性質により大小又は高低の差はあれ一方向に基準値を逸脱することが多い。即ち、この種の物理量に規定される正常範囲とは、好適な一形態として、ある基準値を境にして規定される範囲であってもよい。
【0030】
第2特定手段を備える本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の一の態様では、前記第2特定手段は、前記物理量として、少なくとも前記冷却手段下流側の前記排気における前記水溶性HCの濃度を特定する。
【0031】
冷却手段下流側の排気における水溶性HCの濃度は、総体的な傾向として、冷却手段が予め想定された冷却能力を発揮している場合には低く、且つそうでない場合には高くなる。従って、冷却手段の冷却能力を規定する物理量として有効である。
【0032】
尚、「少なくとも冷却手段下流側」とあるように、水溶性HC濃度は、冷却手段下流側に加え、冷却手段上流側について特定されてもよい。例えば、内燃機関の排気中に含有される水溶性HCが元より多い場合には、冷却手段の冷却能力が予め想定されたものであっても、液化されない水溶性HCが下流側に排出される可能性もある。そのような場合は、内燃機関の燃焼がある種の異常状態である可能性もあるから、下流側の当該濃度のみに基づいた判別の精度が相対的に低下しかねない。そのような事情に対し、上流側の当該濃度も特定可能であれば、上下流の濃度差、或いはそれに類する各種判断指標値に基づいて、より正確に当該判別を行うことも可能である。
【0033】
第2特定手段を備える本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記第2特定手段は、前記物理量として、少なくとも前記冷却手段下流側の前記排気の湿度を特定する。
【0034】
冷却手段下流側の排気の湿度は、総体的な傾向として、冷却手段が予め想定された冷却能力を発揮している場合には低く、且つそうでない場合には高くなる。従って、冷却手段の冷却能力を規定する物理量として有効である。尚、先に述べた水溶性HCの濃度と同様の趣旨により、この態様において冷却手段上流側の当該湿度が特定されてもよい。
【0035】
第2特定手段を備える本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記液化された凝縮水を貯留する貯留手段を更に具備し、前記第2特定手段は、前記物理量として、前記貯留された凝縮水の量を特定する。
【0036】
この態様によれば、液化された凝縮水を貯留する貯留手段が備わり、その貯留された凝縮水の量(以下、適宜「凝縮水量」と称する)が、第2特定手段により特定される。この凝縮水量は、貯留手段の構成に応じて、冷却手段の冷却能力の大小に対する振る舞いが異なり得る(例えば、貯留手段が、冷却手段としての機能を予め兼ね備えている場合、冷却手段が予め想定された冷却能力を発揮している場合には、当該凝縮水量は多くなり、そうでない場合に少なくなるが、貯留手段が、例えば冷却手段の下流側に設置され、冷却手段と同種又は異種の冷却能力を幾らかなり有する場合、上流側の冷却手段が予め想定された冷却能力を発揮している場合には、当該凝縮水量は少なくなり、そうでない場合に多くなる)が、いずれにせよ冷却手段の冷却能力を規定する物理量として有効である。
【0037】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0039】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100、エンジン200、S/C(Start Converter)触媒300及びU/F(Under Floor)触媒400、第1冷却装置500、第2冷却装置600、温度センサ700及びインジケータ800を備える。
【0040】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「判別手段」、「第1特定手段」及び「第2特定手段」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する異常検出処理を実行することが可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「判別手段」、「第1特定手段」及び「第2特定手段」の夫々一例として機能する一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、これら各手段は、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0041】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒エンジンである。
【0042】
ここで、図2を参照し、エンジン200の構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の一断面構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0043】
図2において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。また、クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0044】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210において、インジェクタ212から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に圧送供給されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、例えば、フィードポンプ或いは他の低圧ポンプにより圧送される燃料の圧力を更に高圧ポンプによって昇圧せしめ、高温高圧の気筒201内部へ燃料を直接噴射することが可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。
【0045】
尚、本実施形態において、燃料タンクに貯留されインジェクタ212から噴射される燃料は、ガソリンとエタノールの混合燃料(即ち、本発明に係る「アルコール混合燃料」の一例)たるエタノール混合燃料であり、エンジン200は、当該エタノール混合燃料のエタノール濃度として0%から100%の値を採り得るように構成されている。即ち、本実施形態に係る車両は、一種のFFV(Flexible Fuel Vehicle)として構成されている。
【0046】
気筒201内部と吸気管207とは、吸気バルブ211の開閉によってその連通状態が制御されている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0047】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的にはアクセルポジションセンサ800により検出されるアクセル開度に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するように構成されるが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ209は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0048】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ216が設置されている。また、気筒201を収容するシリンダブロックを取り囲むように設置されたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ217が配設されている。空燃比センサ216及び水温センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、各々検出された空燃比及び冷却水温は、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0049】
図1に戻り、S/C触媒300は、排気管215に設置された三元触媒である。S/C触媒300は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能に構成された三元触媒である。尚、図面の煩雑化を防ぐ目的から図示を省略するが、S/C触媒300には、S/C触媒300の温度たる触媒温度Tctlを検出可能な、温度センサが付設されている。この温度センサは、ECU100と電気的に接続されており、検出された触媒温度Tctlは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0050】
U/F触媒400は、車両の床下に設置される、S/C触媒300と同様エンジン200から排出されるCO、HC及びNOxを夫々浄化することが可能に構成された三元触媒である。尚、S/C触媒300及びU/F触媒400は、共に三元触媒であるが、U/F触媒400では、S/C触媒300で浄化しきれない、例えばNOx等を顕著に浄化し得るように、夫々貴金属の使用状態が異なっている。
【0051】
第1冷却装置500は、U/F触媒400の下流側に設置された、本発明に係る「冷却手段」の一例たる排気冷却装置である。第1冷却装置500は、タンク510、還流管520及び電磁弁530を備える。
【0052】
タンク510は、その内部に空間を有すると共に、その外周部にエンジン200の冷却水と共有される冷却水の配管(不図示)が張り巡らされた構成を有している。第1冷却装置500は、タンク510内部に滞留するガス(後述するように、排気である)を、この冷却水との熱交換によって冷却することが可能に構成されている。
【0053】
タンク510の外壁部分には、2箇所の連通孔が形成されており、タンク510内外を相互に連通している。一方の連通孔には、U/F触媒400を通過した排気管たる第1冷却用排気管215aが貫通しており、その一端部が開放端となっている。また、他方の連通孔には、第1冷却用排気管215aと同様の第2冷却用排気管215bが貫通しており、その両端部が開放端となっている。
【0054】
このような構成において、第1冷却用排気管215aを通過した排気は、第1冷却用排気管215aの開放端を介してタンク510内部に流入し、先に述べた熱交換作用によりタンク510内部で十分に冷却されると共に、第2冷却用排気管215bのタンク510側の開放端から第2冷却用排気管215bに流入し、タンク510外部に排出される。その排気の冷却の過程においては、排気中の水溶性HCが、先に述べた冷却の作用により凝縮し、タンク510内部の下方部分に凝縮水HCW1として貯留される構成となっている。
【0055】
還流管520は、一端部が、この凝縮水HCW1の貯留部位下方においてタンク510内部に連通する管状部材である。凝縮水HCW1は、所定の流路抵抗により適宜減速されつつ、還流管520に導かれる構成となっている。一方、還流管520の他端部は、図示せぬ(図2参照)スロットルバルブ下流側において、吸気管207に連通する構成となっている。
【0056】
電磁弁530は、不図示の駆動回路から付与される駆動力により還流管520内部で弁体が回動する構成を有する弁装置である。この弁体の位置は、還流管520における電磁弁530の上流側と下流側との連通を遮断する全閉位置と、これらを連通させる全開位置との間で二値的に制御される構成となっている。尚、電磁弁530の駆動回路は、ECU100と電気的に接続されており、その駆動状態がECU100により上位に制御される構成となっている。
【0057】
補足すると、還流管520に導かれた凝縮水HCW1は、機関暖機が進行する過程において、水溶性HCが気化し、気化した水溶性HCが還流管520を介して吸気管207に還流され、エンジン200の燃焼室内における燃焼に供される構成となっている。電磁弁530は、基本的に、係る凝縮水HCW1における水溶性HCの気化が十分に進行した場合に限定的に全開位置に制御され、それ以外の場合には全閉位置に制御される構成となっている。尚、凝縮水HCW1の処理については、最終的に水溶性HCが再度燃焼に供され車外に排出されない限りにおいて、如何なる態様を有していてもよく、図1に示した構成は即ち一形態を例示したものに過ぎない。また、係る水溶性HCの吸気系への還流については、本発明の要旨と関係性が薄いため、ここでは、上記説明に留めることとする。
【0058】
第2冷却装置600は、本発明に係る「冷却手段」の他の一例たる排気冷却装置である。第2冷却装置600は、内部空間を有し、第1冷却装置500と同様、その外周部にエンジン200の冷却水と共有される冷却水の配管(不図示)が張り巡らされた構成を有している。第2冷却装置600は、内部空間に滞留する排気を、この冷却水との熱交換によって冷却することが可能に構成されている。第2冷却装置600の外壁部には、第2冷却装置内外を連通する2個の連通孔が形成されている。この2個の連通孔のうち一方には、先に述べた第2冷却用排気管215bが貫通しており、他方の連通孔には、第1及び第2冷却用排気管と同様の第3冷却用排気管215cが貫通している。第3冷却用排気管215cは、車外空間に連通している。
【0059】
第2冷却装置600は、第1冷却装置500の冷却能力を補うために設置される補助的な冷却装置であり、第2冷却用排気管215bを介して流入する排気は、その内部空間で冷却され、第3冷却用排気管215cから排出される。その冷却の過程において、水溶性HC成分は凝縮し、凝縮水HCW2として第2冷却装置600内部に貯留される構成となっている。但し、第1冷却装置500は、基本的に、エンジン200の想定される運転範囲において、排気管215を流れる排気を実践上十分に冷却することが可能に構成されており、第2冷却装置600に貯留される凝縮水HCW2は、凝縮水HCW1と較べ、その量が十分に小さなっている。尚、図示は省略されるが、第2冷却装置600には、貯留される凝縮水HCW2を還流管520に還流させるフィードパイプと、当該フィードパイプ中の凝縮水の逆流を防止する逆止弁が設置されている。
【0060】
尚、第1冷却装置500、第2冷却装置600及びECU100により、本発明に係る「内燃機関の排気浄化装置」の一例が構成される。
【0061】
温度センサ700は、第1冷却装置500におけるタンク510の外壁体に固定され、タンク510の温度を冷却装置温度Tclrとして検出可能に構成されたセンサである。温度センサ700は、ECU100と電気的に接続されており、検出された冷却装置温度Tclrは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0062】
インジケータ800は、車両の車室内における、ドライバによる視認が可能な位置に設置された点灯装置である。インジケータ800は、第1冷却装置500が異常状態である旨を告知する発光状態と、第1冷却装置500が異常状態にない旨を告知する非発光状態との二値状態を採る。また、インジケータ800は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100による駆動制御を受けて、発光状態及び非発光状態のいずれか一方の状態に制御される構成となっている。
【0063】
<実施形態の動作>
上述したように、エンジンシステム10では、第1冷却装置500及び第2冷却装置600(主として、第1冷却装置500)により排気が冷却され、排気中の水溶性HCをタンク510内部にトラップすることが可能に構成されているため、水溶性HCの車外への排出が好適に抑制されている。この際、S/C触媒300及びU/F触媒400が活性状態にあれば、元より水溶性HCもこれら触媒中で浄化されるため、これら冷却装置は、主として始動直後に機関暖機が未了である期間について顕著に効果的に作用する。それ以外の、即ち好適には機関暖機終了後の期間については、第1冷却用排気管215aにおける水溶性HCの濃度が十分に低いため、水溶性HCの凝縮はほとんどなされぬまま、排気は、第1冷却用排気管215aから第2冷却用排気管215b及び第3冷却用排気管215cを順次介して車外に放出される。この際、エミッションの悪化が顕在化することはない。
【0064】
一方、主たる排気冷却装置として機能する第1冷却装置500が、予め想定された冷却能力を発揮できない状態として規定される異常状態にある場合、冷却能力の不足によって水溶性HCの凝縮が想定された規模で進行し難くなる。この際、第2冷却装置600が正常であれば、無論幾らかなり不具合は抑制され得るが、いずれにせよエミッションの悪化が回避され難い。そこで、エンジンシステム10においては、ECU100により異常検出処理がなされ、第1冷却装置500の異常を検出することが可能となっている。
【0065】
ここで、図3を参照し、異常検出処理の詳細について説明する。ここに、図3は、異常検出処理のフローチャートである。
【0066】
図3において、ECU100は、エンジン始動後であるか否かを判別する(ステップS101)。エンジン始動前である場合(ステップS101:NO)、ECU100は異常検出処理を終了する。尚、ECU100は、一旦異常検出処理が終了すると、所定周期で異常検出処理を繰り返す。
【0067】
ECU100は、エンジン始動後である場合(ステップS101:YES)、触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth未満であるか否かを判別する(ステップS102)。尚、触媒活性温度Tctlthは、S/C触媒
300が排気を十分に浄化可能な温度であり、ここでは、予め実験的に求められた適合値である。触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth以上である場合(ステップS102:NO)、ECU100は、第1冷却装置500の異常検出を行うには不十分な始動条件であるとして異常検出処理を終了する。補足すれば、触媒活性温度Tctlth以上の温度領域では、S/C触媒300による排気の浄化が促進されるため、第1冷却手段500における水溶性HCの凝縮は進行しない。この際、このような凝縮の遅滞が、第1冷却手段500の異常によるものか、或いはこのように排気の浄化が促進されたことによるものか区別することが困難となり、異常の検出精度が低下してしまうのである。
【0068】
触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth未満である場合(ステップS102:YES)、ECU100は、吸入空気量Gaの積算値Gatが、閾値Gatthよりも大きいか否かを判別する(ステップS103)。ここで、吸入空気量Gaは、図2において不図示(吸気管207におけるスロットルバルブ208上流側に設置される)のエアフローメータにより検出される。このエアフローメータは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された吸入空気量Gaは、ECU100に一定の周期で参照される。ECU100は、検出直後からこの吸入空気量Gaの積算を開始する。
【0069】
S/C触媒300における触媒暖機の進行の度合いは、触媒に投入される熱エネルギの総量に応じて変化する。係る総量は、吸入空気量Gaの積算値Gatに比例する。ステップS103では、S/C触媒300の暖機に所定量のエネルギが投入されたか否かを判別する処理であり、始動後のエンジン負荷が高ければ時間的には短く、低ければ時間的には長くなる。尚、閾値Gatthは、通常の始動時における未暖機状態のS/C触媒300が活性状態に到達するのに要する積算値Gat未満の値に設定される。即ち、係る未暖機状態のS/C触媒300を暖機させるのに十分な積算値を判断基準としたのでは、始動時の触媒暖機状態によっては、第1冷却装置500が実質的に有効な水溶性HCの凝縮を行った時間に差が生じて、異常検出の精度が低下してしまうのである。
【0070】
積算値Gatが閾値Gatth以下である場合(ステップS103:NO)、ECU100は処理をステップS101に戻し一連の処理を繰り返すと共に、積算値Gatが閾値Gatthよりも大きい場合(ステップS103:YES)、再び触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth未満であるか否かを判別する(ステップS104)。触媒温度が触媒活性温度Tctlth以上である場合(ステップS104:NO)、ECU100は、始動時に既にS/C触媒300が適度な暖機状態にあったものとして、異常検出の精度を担保する観点から異常検出処理を終了する。尚、既に述べたように、異常検出処理は所定周期で繰り返されるが、このように一旦触媒暖機温度Tctlthに到達した後は、通常触媒温度Tctlは低下しない。従って、実質的には次回のエンジン始動時まで、第1冷却装置500の異常検出は行われない。
【0071】
触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth未満である場合(ステップS104:YES)、ECU100は、第1冷却装置500の異常検出を開始する。即ち、温度センサ700により検出される冷却装置温度Tclrが、下限値Tclrlより大きく且つ上限値Tclrh未満の範囲として規定される正常範囲に該当するか否かが判別される(ステップS105)。
【0072】
ここで、正常範囲とは、第1冷却装置500が予め想定された冷却能力を有し且つ発揮している状態において採り得る範囲であり、逆に言うと、冷却装置温度Tclrが下限値Tclrl以下である場合には、例えば第1冷却装置500のタンク510が排気による熱負荷を受けていない、即ち、排気を冷却可能な位置にない可能性があり(言い換えれば、予め想定された冷却能力を発揮できない状態の一例である)、冷却装置温度Tclrが上限値Tclrhよりも大きい場合には、例えばタンク510に対する冷却水の供給が不十分となり、排気の冷却自体が十分になされていない可能性がある(言い換えれば、予め想定された冷却能力を有さない状態の一例である)。いずれにせよ、排気の冷却による水溶性HCの凝縮は生じ難くなり、エミッションの悪化が顕在化し易い。
【0073】
ECU100は、冷却装置温度Tclrが正常範囲に該当する場合(ステップS105:YES)、第1冷却装置500が異常状態にあるか否かを規定する異常検出フラグFg_OBDを、第1冷却装置500が異常状態にない旨を表す「0」に設定し(ステップS106)、異常検出処理を終了する。一方、冷却装置温度Tclrが正常範囲に該当しない場合(ステップS105:NO)、即ち、正常範囲を逸脱している場合、ECU100は、異常検出フラグFg_OBDを、第1冷却装置500が異常状態にある旨を表す「1」に設定し(ステップS107)、インジケータ800を点灯制御する(ステップS108)。インジケータ800が点灯制御されると、異常検出処理は終了する。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る異常検出処理によれば、冷却装置温度Tclrに基づいて、第1冷却装置500が予め想定された冷却能力を有し且つ発揮しているか否かを正確に判別することができる。また、第1冷却装置500が、予め想定された冷却能力を有し且つ発揮している状態にない場合(そのような冷却能力を有さない状態、発揮できない状態、或いはその両方にある場合)には、インジケータ800が点灯制御され、ドライバにその旨が告知される。従って、ドライバ側においても、エミッションの悪化を招きかねない旨の認識を持つことができ、車両を点検整備する等の措置を迅速に講じることが可能となる。即ち、総体的にみて、エミッションの悪化は可及的に早期に改善され、始動時のエミッションの悪化が好適に抑制されるのである。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るエンジンシステム11ついて説明する。
【0075】
始めに、図4を参照し、エンジンシステム11の構成について説明する。ここに、図4は、エンジンシステム11の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0076】
図4において、エンジンシステム11は、第2冷却装置600を有さず、且つ温度センサ700に替えて湿度センサ710を備える点において、エンジンシステム10と相違している。尚、第2冷却装置600を有さぬことにより、第3冷却用排気管215cもまたエンジンシステム11の構成要素から除外されている。即ち、第2冷却用排気管215bが、車外空間に連通している。尚、第1実施形態において既に述べたように、第2冷却装置600は、第1冷却装置500を補助するための補助的な冷却装置であり、第1冷却装置500のみで十分な排気冷却効果を有するものとする。
【0077】
湿度センサ710は、第2冷却用排気管215bの内部に検出用の端子が露出してなる、第2冷却用排気管215b内部を流れる排気の湿度たる排気湿度Hを検出可能に構成されたセンサである。湿度センサ710は、ECU100と電気的に接続されており、検出された排気湿度Hは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0078】
次に、図5を参照し、第2実施形態に係る異常検出処理について説明する。ここに、図5は、第2実施形態に係る異常検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0079】
図5において、異常検出の開始条件が整うと(ステップS104:YES)、ECU100は、排気湿度Hが基準値Hthより大きいか否かを判別する(ステップS201)。排気湿度Hが基準値Hth以下である場合(ステップS201:YES)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「0」に、基準値Hthよりも大きい場合(ステップS201:NO)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「1」に設定し(ステップS107)、インジケータ800の点灯制御を実行する(ステップS108)。
【0080】
ここで、排気湿度Hは、第1冷却装置500において排気が予め想定された冷却能力により冷却され、水溶性HCが凝縮水HCW1として十分に液化されていれば相応に低くなる。逆に、第1冷却装置500が予め想定される冷却能力を有さない、或いは発揮できない状態にある場合、即ち、第1実施形態において規定された冷却装置温度Tclrが先に述べた正常範囲から逸脱している場合には、排気湿度Hは高くなる。従って、閾値Hthを、予めこのように冷却装置温度Tclrが正常範囲を逸脱した場合に対応付けて設定しおくことにより、排気湿度Hに基づいて、第1冷却装置500が異常状態にあるか否かを正確に判別することが可能となる。
【0081】
尚、排気湿度Hが閾値Hthよりも大きい場合とは、即ち、本発明に係る「所定の物理量が正常範囲を逸脱する場合」の一例である。即ち、本発明に係る、物理量に対し規定される「正常範囲」とは、必ずしも上下限値により規定される範囲でなくてもよい。
【0082】
尚、本実施形態では、湿度センサ710が、本発明に係る「少なくとも冷却装置の下流側」の一例として、第2冷却用排気管215bに設置されるが、湿度センサは更に、第1冷却用排気管215aに設置されていてもよい。この場合、入力要素の状態を反映して適宜閾値の補正を行うことが可能であり、流入する排気の湿度自体が想定を超えている場合等に異常状態である旨が誤検出される可能性が低減され得るため好適である。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るエンジンシステム12ついて説明する。
【0083】
始めに、図6を参照し、エンジンシステム12の構成について説明する。ここに、図6は、エンジンシステム12の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0084】
図6において、エンジンシステム12は、温度センサ700に替えてアルコール濃度センサ720を備える点において、エンジンシステム10と相違している。
【0085】
アルコール濃度センサ720は、第3冷却用排気管215cの内部に検出用の端子が露出してなる、第3冷却用排気管215c内部を流れる排気中のアルコール濃度Dalcを検出可能に構成されたセンサである。アルコール濃度センサ720は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアルコール濃度Dalcは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0086】
次に、図7を参照し、第3実施形態に係る異常検出処理について説明する。ここに、図7は、第3実施形態に係る異常検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0087】
図7において、異常検出の開始条件が整うと(ステップS104:YES)、ECU100は、アルコール濃度Dalcが基準値Dalcthより大きいか否かを判別する(ステップS301)。アルコール濃度Dalcが基準値Dalcth以下である場合(ステップS301:YES)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「0」に、基準値Dalcthよりも大きい場合(ステップS301:NO)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「1」に設定し(ステップS107)、インジケータ800の点灯制御を実行する(ステップS108)。
【0088】
ここで、アルコール濃度Dalcは、第1冷却装置500において排気が予め想定された冷却能力により冷却され、水溶性HCが凝縮水HCW1として十分に液化されていれば相応に低くなる。逆に、第1冷却装置500が予め想定される冷却能力を有さない、或いは発揮できない状態にある場合、即ち、第1実施形態において規定された冷却装置温度Tclrが先に述べた正常範囲から逸脱している場合には、アルコール濃度Dalcは高くなる。従って、閾値Dalcthを、予めこのように冷却装置温度Tclrが正常範囲を逸脱した場合に対応付けて設定しおくことにより、アルコール濃度Dalcに基づいて、第1冷却装置500が異常状態にあるか否かを正確に判別することが可能となる。尚、アルコール濃度Dalcが閾値Dalcthよりも大きい場合とは、即ち、本発明に係る「所定の物理量が正常範囲を逸脱する場合」の他の一例である。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係るエンジンシステム13ついて説明する。
【0089】
始めに、図8を参照し、エンジンシステム13の構成について説明する。ここに、図8は、エンジンシステム13の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0090】
図8において、エンジンシステム13は、温度センサ700に替えて水量センサ730を備える点において、エンジンシステム10と相違している。
【0091】
水量センサ730は、第2冷却装置600の内部に検出用の端子が露出してなる、第2冷却装置600に貯留される凝縮水HCW2の水量たる凝縮水量Wを検出可能に構成されたセンサである。水量センサ730は、ECU100と電気的に接続されており、検出された凝縮水量Wは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0092】
尚、本実施形態では、第2冷却装置600が、本発明に係る「貯留手段」の一例としても機能する。
【0093】
次に、図9を参照し、第4実施形態に係る異常検出処理について説明する。ここに、図9は、第4実施形態に係る異常検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0094】
図9において、異常検出の開始条件が整うと(ステップS104:YES)、ECU100は、凝縮水量Wが基準値Wthより大きいか否かを判別する(ステップS401)。凝縮水量Wが基準値Wth以下である場合(ステップS401:YES)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「0」に、基準値Wthよりも大きい場合(ステップS401:NO)、ECU100は異常検出フラグFg_OBDを「1」に設定し(ステップS107)、インジケータ800の点灯制御を実行する(ステップS108)。
【0095】
ここで、凝縮水量Wは、第1冷却装置500において排気が予め想定された冷却能力により冷却され、水溶性HCが凝縮水HCW1として十分に液化されていれば相応に小さくなる。逆に、第1冷却装置500が予め想定される冷却能力を有さない、或いは発揮できない状態にある場合、即ち、第1実施形態において規定された冷却装置温度Tclrが先に述べた正常範囲から逸脱している場合には、凝縮水量Wは大きくなる。従って、閾値Wthを、予めこのように冷却装置温度Tclrが正常範囲を逸脱した場合に対応付けて設定しおくことにより、凝縮水量Wに基づいて、第1冷却装置500が異常状態にあるか否かを正確に判別することが可能となる。無論、凝縮水量HCW1の量を検出して凝縮水量として特定しても同様の効果が得られるが、凝縮水HCW2は、第1冷却装置500が異常状態になければ、凝縮水HCW1と較べてその量が十分に小さい。従って、第1冷却装置500が異常状態にある場合の状態量の変化が顕著となり得る。
【0096】
尚、凝縮水量Wが閾値Wthよりもきい場合とは、即ち、本発明に係る「所定の物理量が正常範囲を逸脱する場合」の更に他の一例である。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係るエンジンシステム14ついて説明する。
【0097】
始めに、図10を参照し、エンジンシステム14の構成について説明する。ここに、図10は、エンジンシステム14の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0098】
図10において、エンジンシステム14は、第1冷却装置500に替えて冷却装置900を備え、第2冷却装置600を有さぬ(必然的に、第3冷却用排気管215cも有さない)点において、エンジンシステム10と相違している。冷却装置900は、冷却ファン910を備える点において第1冷却装置500と相違している。また、エンジンシステム14は、冷却ファン910が備わることに伴って、タンク510への冷却水の供給がなされない構成となっている。
【0099】
冷却ファン910は、その送風口がタンク510側に開口しており、モータを含む不図示の駆動装置の駆動制御により、図示矢線方向に送風することが可能に構成されている。また、駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が上位に制御される構成となっている。冷却ファン910から送風が開始されると、冷却装置900では、上記各種実施形態における熱交換による冷却に替わって、送風による積極的な冷却が行われる。
【0100】
次に、図11を参照し、第5実施形態に係る異常検出処理について説明する。ここに、図11は、第5実施形態に係る異常検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0101】
図11において、触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth未満である場合(ステップS102:YES)、ECU100は、駆動装置の駆動制御を介して冷却ファン910を駆動し、排気の冷却を開始する(ステップS501)。排気の冷却が開始されると、処理はステップS103に移行される。その後の異常検出に係るプロセスは、第1実施形態と同様であり、冷却装置温度Tclrに基づいて、冷却装置900が異常状態にあるか否かが正確に判別される。
【0102】
尚、本実施形態では、このように冷却と非冷却とを選択的に切り替え可能に構成されている。従って、ステップS106又はステップS108が実行されると、触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlthよりも高いか否かが判別され(ステップS502)、触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlth以下である限り(ステップS502:NO)において排気の冷却は継続され、触媒温度Tctlが触媒活性温度Tctlthよりも高くなった場合に(ステップS502:YES)、ECU100は、冷却ファン910の駆動を停止して排気の冷却を終了する(ステップS503)。排気の冷却が終了すると、異常検出処理が終了する。
【0103】
尚、上記各実施形態では、冷却装置が異常状態にあるか否かを規定する各種の物理量として、夫々単一の物理量(冷却装置温度Tclr、排気湿度H、アルコール濃度Dalc及び凝縮水量W)が採用されているが、検出される物理量は複数であってもよい。その場合、複数の物理量に基づいて、冷却装置が異常状態にあるか否かが判別されてもよいし、その都度エンジンの始動条件等に応じて、最適な物理量が選択されてもよい。
【0104】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の排気浄化装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムに備わるエンジンの一断面構成を概念的に表してなる模式断面図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出処理のフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図5】第2実施形態に係り、図4のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第3実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図7】第3実施形態に係り、図6のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第4実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図9】第4実施形態に係り、図8のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出処理のフローチャートである。
【図10】本発明の第5実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図11】第5実施形態に係り、図10のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0106】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、203…ピストン、205…クランクシャフト、215…排気管、215a…第1冷却用排気管、215b…第2冷却用排気管、215c…第3冷却用排気管、300…S/C触媒、400…U/F触媒、500…第1冷却装置、510…タンク、520…還流管、530…電磁弁、600…第2冷却装置、700…温度センサ、710…湿度センサ、720…アルコール濃度センサ、730…水量センサ、800…インジケータ、900…冷却装置、910…冷却ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール混合燃料を使用可能な内燃機関の排気浄化装置であって、
前記内燃機関における排気の経路に設置され、前記排気を冷却することにより、前記排気中の水溶性HCを、該水溶性HCを含む凝縮水として液化可能な冷却手段と、
前記冷却手段が所定の異常状態にあるか否かを判別する判別手段と
を具備することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記冷却手段の温度を特定する第1特定手段を具備し、
前記判別手段は、前記特定された温度に基づいて前記冷却手段が前記異常状態にあるか否かを判別する
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記判別手段は、前記特定された温度が所定の正常範囲を逸脱する場合に、前記冷却手段が前記異常状態にあるものと判別する
ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記冷却手段における、前記冷却手段の温度に応じて変化する所定種類の物理量を特定する第2特定手段を具備し、
前記判別手段は、前記特定された物理量に基づいて前記冷却手段が前記異常状態にあるか否かを判別する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記判別手段は、前記特定された物理量が所定の正常範囲を逸脱する場合に、前記冷却手段が前記異常状態にあるものと判別する
ことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記第2特定手段は、前記物理量として、少なくとも前記冷却手段下流側の前記排気における前記水溶性HCの濃度を特定する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記第2特定手段は、前記物理量として、少なくとも前記冷却手段下流側の前記排気の湿度を特定する
ことを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記液化された凝縮水を貯留する貯留手段を更に具備し、
前記第2特定手段は、前記物理量として、前記貯留された凝縮水の量を特定する
ことを特徴とする請求項4から7のいずれか一項に記載居の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−257194(P2009−257194A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107195(P2008−107195)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】