説明

内燃機関の排気還流装置

【課題】内燃機関の排気還流装置において、加速運転時のNOxのエミッション性能を向上させ、かつ定常運転時の運転安定性を向上させる。
【解決手段】気筒上流のサージタンクの上流で、スロットルバルブの直後に排気ガスの還流を行なう第1の排気ガス還流通路と、サージタンクの下流で、各気筒の吸気バルブの直前に排気ガスの還流を行なう第2の排気ガス還流通路とを備える内燃機関において、運転状態に応じた定常目標還流量を算出し、第1の排気ガス還流通路への還流を行ない、更に、加速時には、過渡目標還流量を算出し、第2の排気ガス還流通路への還流を行ない、第1の排気ガス還流通路による還流の遅れを補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気還流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスの還流(EGR)は、排気ガスの主成分である不活性ガスの有する熱容量により、燃焼室内の燃焼温度を低下させ、NOxの発生量を低減させるものであるが、運転状態に応じて還流量を制御し、又は気筒間の還流量のばらつきを改善する等の目的で、2つの還流通路を備え、吸気通路の2つの異なる位置に還流させる技術が提案されている(特許文献1−5)。特許文献1に記載の技術の一実施形態は、2つの還流通路を、サージタンク上流と、各気筒に通じる複数の吸気ポートに接続するものであり、特許文献2に記載の技術は、2つの還流通路を、吸気通路に対して互いに吸気の流れ方向に位置をずらして接続するものであり、特許文献3に記載の技術は、2つの還流通路を、ターボ過吸気のブロワよりも吸気上流側の吸気通路と、ブロワよりも吸気下流側の吸気通路に接続するものであり、特許文献4に記載の技術は、2つの還流通路を、吸気通路内の混合促進手段の下流側と上流側に接続するものであり、特許文献5に記載の技術は、2つの還流通路を、吸気通路の、排気ガス混合容積の異なる2つの部位に接続するものである。
【0003】
このうち、特許文献1に記載の発明の一実施形態では、2つの還流通路を、サージタンク上流と、各気筒に通じる複数の吸気ポートに接続し、低負荷時には、還流させる排気ガスを少量としてサージタンク上流へ還流させ、各気筒への還流ガス量を均一化し、高負荷時には、多量の排気ガスを吸気ポートに還流させ、排気ガス還流の応答性を良好とするように構成している。
すなわち、サージタンク上流への還流は、還流ガスと吸入新気との混合均一化に優れているが、気筒から離れているため、即応性に劣り、吸気ポートへの還流は、即応性に優れているが、吸入新気との混合状態が悪く、燃焼の悪化、気筒間のトルクのばらつきの増大等の問題を有しており、両者ともに一長一短がある。そこで、特許文献1に記載の発明では、両者を低負荷時と高負荷時とで使い分け、低負荷時にはサージタンク上流に還流させ、高負荷時には吸気ポートに還流させるようにしたものである。
【0004】
しかし、この使い分けでは、高負荷定常運転時にも吸気ポートに還流させることになり、運転の安定性に問題がある。すなわち、高負荷運転において吸気ポートに還流させる必要があるのは、高負荷への移行時、すなわち加速時のみであり、高負荷での定常運転時には、還流目標値が急激に変化することはないため、還流ガスをサージタンク上流へ還流させて混合の均一化をはかり、運転の安定化を図るのが有利である。加速時、すなわち非定常な高負荷運転時には、還流目標値が急激に増加し、サージタンク上流への還流では、急激に増加する還流目標値に追従することができないため、加速時のみ吸気ポートに排気ガスを還流させるようにすると有利であるが、従来は、これらの運転状態を適切に使い分ける仕組みがなかった。
【0005】
【特許文献1】特許第2998459号公報
【特許文献2】特開平11−036949号公報
【特許文献3】特開2003−286909号公報
【特許文献4】特開2006−257940号公報
【特許文献5】特開2006−266088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、2つの還流通路を有する内燃機関において、サージタンク上流への還流通路を、還流ガスの混合性を向上させるように構成し、吸気ポートへの還流通路を、還流の即応性を向上させるように構成するとともに、運転状態を定常状態と加速状態とに分け、それぞれの運転状態に対応して適切に還流を行ない、NOxのエミッション性能を向上させ、かつ運転安定性を向上させた、内燃機関の排気還流装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、複数の気筒を有し、各気筒へ排気ガスを還流させる、内燃機関の排気還流装置であって、複数の気筒の上流のサージタンクの上流側の、スロットルバルブの直後に排気ガスの還流を行なう第1の排気ガス還流通路と、サージタンクの下流側の、各気筒の吸気バルブの直前に排気ガスの還流を行なう第2の排気ガス還流通路とを備え、運転状態に対応した目標還流量を算出し、第1の排気ガス還流通路を介して、目標還流量を還流させ、更に、加速運転の場合には、加速による負荷の増加に対応して目標還流量に追加する過渡目標還流量を算出し、第2の排気ガス還流通路を介して、過渡目標還流量を還流させ、第1の排気ガス還流通路を介した各気筒への還流量の増加の遅れを補償する、内燃機関の排気還流装置が提供される。
【0008】
すなわち、請求項1の発明では、第1の排気ガス還流通路を、サージタンクの上流であってスロットルバルブの直後に排気ガスを還流させる構成として、排気ガスの吸入新気との混合の均一化を向上させ、第2の排気ガス還流通路を、各気筒の吸気バルブの直前に排気ガスを還流させる構成として、排気ガスの還流の即応性を向上させる。また、還流量の制御において、運転状態に対応した定常目標EGR流量を算出し、第1の排気ガス還流通路に排気ガスの還流を行なう一方、加速状態かどうかの判定を行ない、加速状態の場合には、過渡目標EGR量を算出し、第2の排気ガス還流通路に排気ガスの還流を追加する。このようにして、定常運転時には、混合性のよい排気ガスの還流を行なって、安定した運転を行ない、加速運転時には、急激に増加する目標還流量に対応して、還流量を追従させ、NOxのエミッション性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、2つの還流通路を有する内燃機関において、サージタンク上流への還流通路を、還流ガスの混合性を向上させるように構成し、吸気ポートへの還流通路を、還流の即応性を向上させるように構成するとともに、運転状態を定常状態と加速状態とに分け、それぞれの運転状態に対応して適切に還流を行ない、NOxのエミッション性能を向上させ、かつ運転安定性を向上させるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、複数の添付図面において、同一又は相当する部材、部分等には、同一の符号を付している。
【0011】
図1は、本発明における第1の排気ガス還流通路12と第2の排気ガス還流通路13とが排気ガスを吸気通路に還流させる位置を示す説明図である。排気ガスは、排気通路30から分岐して、還流通路11によって導かれ、第1の排気ガス還流通路12と、第2の排気ガス還流通路13とに分岐する。第1の排気ガス還流通路12は、吸気通路20において、サージタンク10の上流に排気ガスを還流させるように接続するが、スロットルバルブ16の直後で接続することにより、還流ガスの吸入新気との混合の均一化を向上させている。第2の排気ガス還流通路13は、吸気ポート2へ排気ガスを還流させるように接続するが、吸気バルブ4の直前に排気ガスを還流させるように構成し、還流の応答性を向上させている。第1の排気ガス還流通路12及び第2の排気ガス還流通路13は、それぞれ第1のEGRバルブ14と、第2のEGRバルブ15とを備えている。
【0012】
図2は、本発明において還流量目標値(EGR目標値)を達成するための2つの還流量、EGR1とEGR2、の関係を示す概念図である。運転状態が高負荷運転に移行する場合、すなわち加速時において、EGR目標値は急激に増加するが、第1の排気ガス還流通路12から還流する還流ガス量EGR1は、応答が遅いため、EGR目標値に達するまでに時間遅れを生じる。そこで、本発明においては、応答速度の速いEGR2によってこの時間遅れを補償する。すなわち、第1の排気ガス還流通路12は、吸気通路20において、スロットルバルブ16直後で、サージタンク10の上流に排気ガスを還流させるように接続されているため、各気筒から離れており、ここに還流するEGR1は、応答速度が遅いが、第2の排気ガス還流通路13は、吸気ポート2において、吸気バルブ4の直前に排気ガスを還流させるように接続されているため、ここに還流するEGR2は、応答速度が速い。一方、EGR2は、吸入新気との混合状態が悪く、EGR1は、吸入新気との混合状態が良い。そこで、定常運転時はEGR1によって排気ガスを還流させ、加速時のみ応答速度の速いEGR2によって応答の遅れを補うようにすれば有利である。
【0013】
図3は、上述のEGR1とEGR2の制御を行なうためのフローチャートである。この制御は、ECUで行なうことができる。ステップ101でエンジンが始動され、ECUの電源がオンになると、ステップ102で、例えばエンジン冷却水の温度等から暖機状態であるかどうかを判定する。エンジンが暖機状態であるならば、ステップ103、ステップ104でエンジン回転数Ne及びスロットルバルブ開度TAをECUに取り込み、ステップ105でエアフローメーターから、定常吸入新気流量GaafmをECUに取り込む。
【0014】
量産エンジンの制御ロジックには、スロットルバルブ開度、エアフローメーターの信号から、筒内に吸入される空気量をリアルタイムで算出することができる、エアモデルが内蔵されている。ステップ106ではこのエアモデルにより、定常吸入新気流量Gaafmに対応する吸気管内圧力(定常吸気管圧力)Pmafmを算出する。
【0015】
ステップ107で、エンジン回転数Neを用いて、目標EGR率(FEGRt)を算出する。ECUには、このために例えば図4に示すような計算マップが予め記憶されている。ステップ108で、この目標EGR率(FEGRt)と定常吸入新気流量Gaafmとを用いて、EGR1流量の目標値、すなわち、定常目標EGR流量(MEGRst)を算出する。
MEGRst=Gaafm・FEGRt
【0016】
更にステップ109で排気管圧力PexをECUに取り込み、これと先に求めた定常吸入吸気管圧力Pmafmとを用いて、ステップ110で、目標EGR流量MEGRstを実現できる第1のEGRバルブの開口断面積AE1を、ECUに記憶したバルブの流量関係式から算出する。
【0017】
ステップ111で開口断面積AE1を用いて第1のEGRバルブの開度Th1を算出する。ECUには、このために例えば図5に示すような計算マップが予め記憶されている。
【0018】
次に、ステップ112及びステップ113で、前述のエアモデルにより、吸入新気流量先読み値、すなわち現時点で気筒内に吸入される吸入新気流量の計算値Gafwd、及びGafwdにおける吸気管圧力値、すなわち吸気管圧力先読み値Pmfwdを算出する。
【0019】
ステップ114では、以上で求めた吸入新気流量先読み値Gafwdと、定常吸入新気流量Gaafmとの差の絶対値が一定値Cより大きい場合に、非定常であると判定する。すなわち、
ABS{Gafwd−Gaafm}≧C・・・・・非定常
ABS{Gafwd−Gaafm}<C・・・・・定常
【0020】
非定常状態ならば、ステップ115において、例えば車両の加速度センサー信号から、加速状態にあるかどうかを判定する。加速状態ならば、ステップ116で、EGR2流量の目標値、すなわち、過渡目標EGR流量(MEGRtt)を算出する。
MEGRtt=Gaafm・FEGRt
【0021】
ステップ117では、ECRに記憶したバルブの流量関係式から、過渡目標EGR流量(MEGRtt)に対応する第2のEGRバルブの開口断面積AE2を算出し、ステップ118で計算マップを用いて、開口断面積AE2から第2のEGRバルブの開度Th2を算出する。
【0022】
ステップ115でNOの場合、すなわち減速時には、EGRの流量が過多となり、燃焼が不安定化する。そこでこれを回避するため、ステップ119で空燃比リッチ補正、すなわち、燃料噴射弁から噴射する燃料を増加させる制御を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を内燃機関の排気還流装置に適用した場合の、実施形態の概略構成を説明する図である。
【図2】本発明においてEGR目標値を達成するための、2つのEGR量の関係を示す概念図である。
【図3】本発明を内燃機関の排気還流装置に適用した場合の、実施形態の概略構成を説明するフローチャートである。
【図4】計算用マップの一実施例を示すグラフである。
【図5】計算用マップの一実施例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 気筒
2 吸気ポート
3 排気ポート
4 吸気バルブ
5 排気バルブ
7 燃料噴射弁
10 サージタンク
11 還流通路
12 第1の排気ガス還流通路
13 第2の排気ガス還流通路
14 第1のEGRバルブ
15 第2のEGRバルブ
16 スロットルバルブ
20 吸気通路
30 排気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有し、各気筒へ排気ガスを還流させる、内燃機関の排気還流装置であって、
前記複数の気筒の上流のサージタンクの上流側の、スロットルバルブの直後に排気ガスの還流を行なう第1の排気ガス還流通路と、
前記サージタンクの下流側の、前記各気筒の吸気バルブの直前に排気ガスの還流を行なう第2の排気ガス還流通路と、を備え、
運転状態に対応した目標還流量を算出し、
前記第1の排気ガス還流通路を介して、前記目標還流量を還流させ、
更に、加速運転の場合には、加速による負荷の増加に対応して前記目標還流量に追加する過渡目標還流量を算出し、
前記第2の排気ガス還流通路を介して、前記過渡目標還流量を還流させ、前記第1の排気ガス還流通路を介した各気筒への還流量の増加の遅れを補償する、
内燃機関の排気還流装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−281252(P2009−281252A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133397(P2008−133397)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】