説明

内燃機関の潤滑油供給装置

【課題】燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることのできる内燃機関の潤滑油供給装置を提供する。
【解決手段】この潤滑油供給装置は、内燃機関1の対象部位に潤滑油を供給する供給油路21内の圧力を制御するための制御圧力PCを変更する油圧制御機構30を備えている。そして、内燃機関1の燃料系統に異常が生じていることに基づいて制御圧力PCを第1制御圧力PC1よりも大きい第2制御圧力PC2に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記潤滑油供給装置として、例えば特許文献1に記載の装置が知られている。
この潤滑油供給装置では、燃料噴射量に基づいて制御圧力を決定している。すなわち、燃料噴射量が大きいときには制御圧力を高圧に設定してピストンジェットを稼動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−196380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃料系統に異常が生じているときには、機関運転状態に基づいて把握される内燃機関の要求冷却性能および要求潤滑性能と、実際に要求される内燃機関の冷却性能および潤滑性能とが大きく乖離することもある。
【0005】
機関運転状態に基づいて把握される内燃機関の要求冷却性能が実際に要求されている冷却性能を下回るとき、対象部位への潤滑油の供給量が不足するため、内燃機関の温度が過度に高くなるおそれがある。
【0006】
また、機関運転状態に基づいて把握される内燃機関の要求潤滑性能が実際に要求されている潤滑性能を下回るとき、対象部位への潤滑油の供給量が不足するため、内燃機関の焼き付きをまねく可能性が高くなる。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることのできる内燃機関の潤滑油供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更するものであり、前記制御圧力として低圧制御圧力とこれよりも高圧の高圧制御圧力とを有する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力を前記高圧制御圧力に維持する異常時制御を行うことを要旨としている。
【0009】
この発明では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力を低圧制御圧力よりも大きい高圧制御圧力に維持している。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0010】
(2)請求項2に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更するものであり、前記制御圧力として低圧制御圧力とこれよりも高圧の高圧制御圧力とを有する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力を前記低圧制御圧力にすることを禁止する異常時制御を行うことを要旨としている。
【0011】
この発明では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力を低圧制御圧力にすることを禁止している。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0012】
(3)請求項3に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じていないときよりも前記制御圧力を大きくする異常時制御を行うことを要旨としている。
【0013】
この発明では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力を内燃機関の燃料系統に異常が生じていないときよりも大きくしている。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0014】
(4)請求項4に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力の低圧側への変更を禁止することを要旨としている。
【0015】
この発明では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力の低圧側への変更を禁止している。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0016】
(5)請求項5に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じている状態を状態Aとし燃料系統に異常が生じていない状態であるとともにこの点を除いては前記状態Aと同じ条件の状態を状態Bとして、前記状態Aのときには前記制御圧力を低圧側に変更することを禁止し、前記状態Bのときには前記制御圧力を低圧側に変更することを許可することを要旨としている。
【0017】
この発明では、燃料系統に異常が生じている状態Aのとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力を低圧側に変更することを禁止している。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0018】
(6)請求項6に記載の発明は、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、前記内燃機関の駆動状態について、潤滑油の圧力を相対的に低い圧力に維持することが許容される駆動状態を低圧駆動状態とし、潤滑油の圧力を相対的に高い圧力に維持することが要求される駆動状態を高圧駆動状態とし、前記制御圧力について、相対的に低い制御圧力を低圧制御圧力とし、相対的に高い制御圧力を高圧制御圧力として、前記圧力制御手段は、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、かつ前記内燃機関の駆動状態が前記低圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記低圧制御圧力に設定し、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、かつ前記内燃機関の駆動状態が前記低圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記高圧制御圧力に設定し、前記内燃機関の駆動状態が前記高圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記高圧制御圧力に設定する異常時制御を行うことを要旨としている。
【0019】
この発明では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、かつ内燃機関の駆動状態が低圧駆動状態にあるときに、制御圧力を高圧制御圧力に設定している。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0020】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給装置において、前記燃料系統の異常を検出する異常検出手段を備え、前記異常検出手段により異常が検出されたとき、前記異常時制御を行うことを要旨としている。
【0021】
この発明では、異常検出手段により異常が検出されたとき、異常時制御を行う。このため、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況を適切に判定することができる。
【0022】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給装置において、前記圧力制御手段は、前記供給油路内の圧力が前記制御圧力よりも大きいときに前記供給油路内の潤滑油をリリーフすることにより、前記供給油路内の圧力を変更するものであることを要旨としている。
【0023】
この発明では、供給油路内の圧力が制御圧力よりも大きいときに供給油路内の潤滑油をリリーフする圧力制御手段を備える内燃機関の潤滑油供給装置において、燃料系統の異常に起因して対象部位への潤滑油の供給量が不足する状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の内燃機関の潤滑油供給装置の一実施形態について、同装置を含めた内燃機関の全体構成を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の油圧制御において用いられる機関回転速度および燃料噴射量と制御圧力との関係を規定したマップ。
【図3】同実施形態の油圧制御の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図4】同実施形態の電子制御装置により実行される「燃料系統異常時処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態の「燃料系統異常時処理」について、その実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図6】同実施形態の「燃料系統異常時処理」について、その実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図6を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態では、内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する潤滑油供給装置として本発明を具体化した一例を示している。
【0026】
図1に示すように、内燃機関1は、空気および燃料からなる混合気を燃焼する機関本体10と、潤滑油を内燃機関1の各潤滑部位に供給する潤滑油供給装置2と、内燃機関1に燃料を供給する燃料供給機構60と、これら装置を統括的に制御する制御装置50とを含む。
【0027】
機関本体10は、混合気を燃焼させるための燃焼室13を有するシリンダブロック11と、潤滑油を貯留するオイルパン12とを含む。シリンダブロック11には、混合気燃焼により往復運動するピストン14と、ピストン14の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト15とが設けられている。
【0028】
燃料供給機構60は、燃料を貯留する燃料タンク61と、吸気通路に燃料を噴射するインジェクタ62と、燃料タンク61とインジェクタ62とを接続する燃料供給管63と、燃料供給管63の途中に設けられて燃料を吐出する燃料ポンプ64と、燃料ポンプ64の下流に設けられて燃料の圧力を調整するプレッシャレギュレータ65とを含む。
【0029】
潤滑油供給装置2は、機関本体10の各対象部位に潤滑油を供給する機関潤滑機構20と、各対象部位に供給される潤滑油の圧力(以下、「供給圧力PS」)を制御する油圧制御機構30とを含む。
【0030】
機関潤滑機構20は、オイルパン12と機関本体10とを接続する供給油路21と、この供給油路21に設けられてクランクシャフト15により駆動されるオイルポンプ22と、ピストン14に向けて潤滑油を噴射するピストンジェット25とを含む。
【0031】
供給油路21のうちオイルポンプ22よりも上流側にある上流供給油路21Aには、オイルパン12内の潤滑油に含まれる異物のうち比較的大きなものを濾過するオイルストレーナ23が設けられている。供給油路21のうちオイルポンプ22よりも下流側にある下流供給油路21Bには、潤滑油に含まれる微小な異物を濾過するオイルフィルタ24が設けられている。
【0032】
油圧制御機構30は、オイルポンプ22を迂回して下流供給油路21Bと上流供給油路21Aとを互いに接続するリリーフ油路32と、供給圧力PSである下流供給油路21Bの潤滑油の圧力が所定の圧力(以下、「制御圧力PC」)を上回るときに開弁するリリーフ弁31と、リリーフ弁31の制御圧力PCの大きさを変更する制御圧切替機構40とにより構成されている。
【0033】
リリーフ油路32は、リリーフ弁31の入口側に設けられた吐出側油路33と、リリーフ弁31の出口側に設けられた吸込側油路34と、リリーフ弁31内に設けられた弁内部油路35とにより構成されている。
【0034】
リリーフ弁31が開弁状態にあるとき、リリーフ油路32が開放されることにより、下流供給油路21Bの潤滑油がリリーフ油路32を介して上流供給油路21Aにリリーフされる。
【0035】
リリーフ弁31には、供給圧力PSに基づいて弁内部油路35を開放または閉鎖する弁体としてのピストン31Aと、リリーフ弁31の出口を含みピストン31Aに対して移動可能なスリーブ31Bと、ピストン31Aに対するスリーブ31Bの位置を切り替えるための切替室31Cとが設けられている。切替室31Cは、弁内部油路35とは独立して制御圧切替機構40により潤滑油の供給および排出が行われる。
【0036】
制御圧切替機構40は、電子制御装置51からの指令により切替室31Cの潤滑油の供給状態を切り替える切替弁44と、切替弁44に接続される3つの油路、すなわち第1切替油路41および第2切替油路42および第3切替油路43とを含む。
【0037】
第1切替油路41は、吐出側油路33と切替弁44とを互いに接続する。第2切替油路42は、切替弁44と切替室31Cとを互いに接続する。第3切替油路43は、切替弁44と吸込側油路34とを互いに接続する。
【0038】
切替弁44は、各切替油路41〜43に対応して設けられたポート間の連通状態を変更することにより、切替室31Cに潤滑油が供給される状態と、切替室31Cから潤滑油が排出される状態とを切り替える。
【0039】
各ポートの連通状態が第1連通状態にあるとき、第1切替油路41と第2切替油路42とが互いに連通され、かつ第1切替油路41と第3切替油路43とが互いに遮断される。これにより、下流供給油路21Bの潤滑油が吐出側油路33および第1切替油路41および第2切替油路42を介して切替室31Cに供給される。
【0040】
各ポートの連通状態が第2連通状態にあるとき、第1切替油路41と第2切替油路42および第3切替油路43とが互いに遮断され、かつ第2切替油路42と第3切替油路43とが互いに連通される。これにより、切替室31Cの潤滑油が第2切替油路42および第3切替油路43および吸込側油路34を介して上流供給油路21Aにリリーフされる。
【0041】
リリーフ弁31は、切替室31Cの油圧に応じて次のように動作する。
切替室31Cに潤滑油が供給されているとき、ピストン31Aに対するスリーブ31Bの位置が第1切替位置に維持される。これにより、制御圧力PCが低圧側の第1制御圧力PC1に設定される。
【0042】
切替室31Cから潤滑油がリリーフされているとき、ピストン31Aに対するスリーブ31Bの位置が第2切替位置に維持される。これにより、制御圧力PCが高圧側の第2制御圧力PC2に設定される。
【0043】
制御圧力PCが第1制御圧力PC1に設定され、かつ供給圧力PSが第1制御圧力PC1未満のとき、リリーフ弁31は閉弁状態に維持される。一方、制御圧力PCが第1制御圧力PC1に設定され、かつ供給圧力PSが第1制御圧力PC1以上のとき、リリーフ弁31は開弁状態に維持される。
【0044】
制御圧力PCが第2制御圧力PC2に設定され、かつ供給圧力PSが第2制御圧力PC2未満のとき、リリーフ弁31は閉弁状態に維持される。一方、制御圧力PCが第2制御圧力PC2に設定され、かつ供給圧力PSが第2制御圧力PC2以上のとき、リリーフ弁31は開弁状態に維持される。
【0045】
供給圧力PSが第1制御圧力PC1またはその付近に維持されているとき、ピストンジェット25に潤滑油を供給する油路上の弁が閉弁される。これにより、ピストンジェット25からピストン14には潤滑油が噴射されない。
【0046】
供給圧力PSが第2制御圧力PC2またはその付近に維持されているとき、ピストンジェット25に潤滑油を供給する油路上の弁が開弁される。これにより、ピストンジェット25からピストン14に向けて潤滑油が噴射される。
【0047】
制御装置50には、機関運転状態等をモニタする各種センサ、すなわちクランクポジションセンサ52、油圧センサ53、冷却水温センサ54、燃圧センサ55および酸素センサ56を含む各種センサと、これらセンサの出力に基づいて各装置の動作を制御する電子制御装置51と、燃料系統に異常が生じたときに点灯する警告灯71が設けられている。燃料系統には、燃料供給機構60の制御に関連するセンサ(燃圧センサ55および酸素センサ56)および燃料供給機構60が含まれる。
【0048】
クランクポジションセンサ52は、クランクシャフト15の回転角度(以下、「クランク角度CA」)に応じた信号を電子制御装置51に出力する。油圧センサ53は、供給油路21の供給圧力PSに応じた信号を電子制御装置51に出力する。冷却水温センサ54は、シリンダを冷却する冷却水の温度(以下、「冷却水温度TW」)に応じた信号を電子制御装置51に出力する。燃圧センサ55は、燃料供給管63のプレッシャレギュレータ65とインジェクタ62との間の燃料の圧力(以下、「燃料圧力PF」)に応じた信号を電子制御装置51に出力する。酸素センサ56は、排気通路に設けられて排気中の酸素濃度に応じた信号を電子制御装置51に出力する。
【0049】
電子制御装置51は、各種の制御に用いるためのパラメータとして次のものを算出する。すなわち、クランクポジションセンサ52からの出力信号に基づいてクランク角度CAに相当する演算値を算出する。また、クランク角度CAの演算値に基づいてクランクシャフト15の回転速度(以下、「機関回転速度NE」)に相当する演算値を算出する。また、冷却水温センサ54からの出力信号に基づいて冷却水温度TWに相当する演算値を算出する。また、燃圧センサ55からの出力信号に基づいて燃料圧力PFに相当する演算値を算出する。また、酸素センサ56からの出力信号に基づいて排気中の酸素濃度に相当する演算値を算出する。また、インジェクタ62から噴射される燃料量(以下、「燃料噴射量Q」)の指令値を算出する。
【0050】
電子制御装置51により行われる制御としては、機関の各潤滑部位に供給する油圧を制御するための油圧制御、燃料系統に異常が生じたときに警告灯71を点灯する警告制御、および燃料系統の異常に対応するための燃料系統異常時制御が挙げられる。
【0051】
図2を参照して、油圧制御の内容について説明する。
油圧制御機構30において、制御圧力PCが第1制御圧力PC1に設定されている状態を「低圧制御状態」とし、制御圧力PCが第2制御圧力PC2に設定されている状態を「高圧制御状態」としたとき、これら制御状態において燃料消費率および機関潤滑性能は次のような関係にある。
【0052】
すなわち、低圧制御状態においては高圧制御状態よりもオイルポンプ22の負荷が小さいため、制御圧力PCの大きさのみが異なることを前提としたとき、低圧制御状態の燃料消費率は高圧制御状態の燃料消費率よりも小さくなる。一方、高圧制御状態においては低圧制御状態よりも供給圧力PSが大きくなるため、制御圧力PCの大きさのみが異なることを前提としたとき、高圧制御状態の機関潤滑性能は低圧制御状態の機関潤滑性能よりも高くなる。
【0053】
このため、燃料消費率の低減および内燃機関1の適切な潤滑という2つの要求を満たすためには、基本的には油圧制御機構30を高圧制御状態に維持し、内燃機関1に必要とされる潤滑油量が少ないとき、油圧制御機構30を低圧制御状態に維持することが望ましいといえる。
【0054】
内燃機関1に必要とされる潤滑油量は主に以下のときに多くなる。
すなわち、機関回転速度NEが大きいときにはピストン14の運動速度が大きいため、機関本体10においてピストン14等の潤滑のために必要となる潤滑量が多くなる。また、燃料噴射量Qが大きいときには燃焼により生じるトルクが大きいため、内燃機関1においてクランクシャフト15等の潤滑のために必要となる潤滑油量が多くなる。また、内燃機関1の温度が高いとき、すなわち冷却水温度TWが高いとき、ピストン14の温度が過度に高くなりやすいため、ピストンジェット25によるピストン14の冷却のために必要となる潤滑油量が多くなる。
【0055】
そこで油圧制御においては、機関運転状態の指標としての冷却水温度TWおよび機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qに基づいて内燃機関1に必要とされる潤滑油量を把握し、この潤滑油量に応じた制御圧力PCを設定する。具体的には、冷却水温度TWおよび機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qにより規定される機関運転状態が図2の制御圧切替マップ上のいずれの領域に属するかを把握し、機関運転状態が属する領域に応じて制御圧力PCを設定する。
【0056】
図2に示されるように、制御圧切替マップにおいては機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qをパラメータとする運転領域Rが境界ラインLにより2つの領域、すなわち低圧領域R1および高圧領域R2に区画されている。低圧領域R1は、境界ラインLよりも低回転速度側かつ低噴射量側の運転領域Rを示す。高圧領域R2は、境界ラインLよりも高回転速度側かつ高噴射量側の運転領域Rを示す。
【0057】
境界ラインLとしては、冷却水温度TWに応じて3種類のものが用意されている。
すなわち、冷却水温度TWが下限温度TWX以上かつ第1境界温度TW1(>TWX)未満のときに用いられる境界ラインL1と、冷却水温度TWが境界温度TW1以上かつ第2境界温度TW2(>TW1)未満のときに用いられる境界ラインL2と、冷却水温度TWが境界温度TW2以上かつ上限温度TWY(>TW2)未満のときに用いられる境界ラインL3とが用意されている。
【0058】
運転領域Rが境界ラインL1により区画されるときの低圧領域R1は、運転領域Rが境界ラインL2により区画されるときの低圧領域R1よりも大きい。運転領域Rが境界ラインL2により区画されるときの低圧領域R1は、運転領域Rが境界ラインL3により区画されるときの低圧領域R1よりも大きい。
【0059】
電子制御装置51は、上記マップに基づいて次のように制御圧力PCを設定する。
そのときどきの機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qが低圧領域R1に属するときには、制御圧力PCを第1制御圧力PC1に設定する。一方、高圧領域R2に属するときには、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。
【0060】
冷却水温度TWが下限温度TWX以上かつ第1境界温度TW1未満のときには、境界ラインL1を基準として機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qが低圧領域R1および高圧領域R2のいずれに属するかを判定する。
【0061】
冷却水温度TWが第1境界温度TW1以上かつ第2境界温度TW2未満のときには、境界ラインL2を基準として機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qが低圧領域R1および高圧領域R2のいずれに属するかを判定する。
【0062】
冷却水温度TWが第2境界温度TW2以上かつ上限温度TWY未満のときには、境界ラインL3を基準として機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qが低圧領域R1および高圧領域R2のいずれに属するかを判定する。
【0063】
冷却水温度TWが下限温度TWX未満のときには、冷却水温度TWが所定の冷却水温度TWX以上のときと比較して潤滑油の粘度が高い。すなわち、対象部位への潤滑油の供給量が不足するおそれが高い。このため、冷却水温度TWが下限温度TWX未満のときには、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。
【0064】
冷却水温度TWが上限温度TWY以上のときには、内燃機関1に対して、高い冷却性能が要求される。このため、冷却水温度TWが上限温度TWY以上のときには、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。
【0065】
電子制御装置51は、制御圧切替マップに基づいて第1制御圧力PC1または第2制御圧力PC2を選択したとき、選択した制御圧力PCを維持または選択した制御圧力PCに変更するための信号処理を行う。すなわち、制御圧切替マップに基づいて第1制御圧力PC1を選択したとき、切替弁44を第1連通状態に維持するための指令信号Sをオンに設定し、この指令信号Sを制御圧切替機構40に送信する。一方、制御圧切替マップに基づいて第2制御圧力PC2を選択したとき、切替弁44を第2連通状態に維持するために指令信号Sをオフに設定し、同指令信号Sの制御圧切替機構40への送信を停止する。
【0066】
図3を参照して、制御圧力PCの切替態様の一例について説明する。
時刻t11すなわち、機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qの属する運転領域Rが低圧領域R1から高圧領域R2に移行したとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオンからオフに変更される。そして、制御圧切替機構40が指令信号Sのオフに基づいて動作したとき、実際の制御圧力PCが第1制御圧力PC1から第2制御圧力PC2に切り替えられる。これにより、供給圧力PSが第2制御圧力PC2に向けて次第に上昇する。
【0067】
時刻t12すなわち、供給圧力PSが第2制御圧力PC2を上回るところまで上昇したとき、リリーフ弁31が開弁される。これにより、下流供給油路21Bの潤滑油がリリーフ油路32を介して上流供給油路21Aにリリーフされるため、供給圧力PSが第2制御圧力PC2またはその付近に維持される。なお、機関回転速度NEが高いときにはオイルポンプ22の吐出量が多くなるため、供給圧力PSが第2制御圧力PC2を上回ることもある。
【0068】
時刻t13すなわち、機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qの属する運転領域Rが高圧領域R2から低圧領域R1に移行したとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオフからオンに変更される。そして制御圧切替機構40が指令信号Sに基づいて動作したとき、実際の制御圧力PCが第2制御圧力PC2から第1制御圧力PC1に切り替えられる。これにより、供給圧力PSが第1制御圧力PC1に向けて次第に低下する。
【0069】
時刻t14すなわち、供給圧力PSが第1制御圧力PC1を下回るところまで低下したとき、リリーフ弁31が閉弁される。このため、下流供給油路21Bの潤滑油がリリーフされなくなる。その後、供給圧力PSが第1制御圧力PC1を上回るところまで上昇したとき、リリーフ弁31が開弁される。これにより、供給圧力PSが第1制御圧力PC1またはその付近に維持される。
【0070】
次に、燃料系統の異常について説明する。
燃料系統の異常として、燃料噴射量Qの指令値と実際の燃料噴射量Qとが大きく乖離する異常が生じることがある。このような異常が生じる原因としては、主に以下のものが挙げられる。
・インジェクタ62の開弁時間の制御が困難となる異常が生じているため。
・インジェクタ62の噴射口にデポジットが付着しているため。
・燃料ポンプ64の異常が生じているため。
・プレッシャレギュレータ65の異常が生じているため。
・燃圧センサ55の異常が生じているため。
・酸素センサ56の異常が生じているため。
【0071】
なお、燃料ポンプ64から吐出された燃料の燃料圧力PFをさらに高めるための高圧ポンプ、および燃料供給管63内の燃料圧力PFの脈動を抑えるためのパルセーションダンパの少なくとも一方が燃料供給機構60に設けられている場合には、これらポンプおよびダンパの少なくとも一方の異常が上記燃料系統の異常の原因となることもある。
【0072】
燃料系統に異常が生じているときには、機関運転状態に基づいて把握される内燃機関1の要求冷却性能および要求潤滑性能と、実際に要求される内燃機関1の冷却性能および潤滑性能とが大きく乖離することもある。
【0073】
例えば、実際の燃料噴射量Qが指令値よりも大きくなる異常が生じたとき、すなわち実際の空燃比が燃料噴射量Qの指令値に基づく空燃比よりもリッチになる異常が生じたとき、クランクシャフト15の各潤滑部位には、燃料噴射量Qの指令値に応じた燃料が噴射されたときの燃焼圧力よりも大きい燃焼圧力が加えられる。
【0074】
この場合に、燃料噴射量Qの指令値に基づく機関運転状態が低圧領域R1にあり、かつ実際の燃料噴射量Qに基づく機関運転状態が高圧領域R2にあるとき、電子制御装置51においては機関運転状態が低圧領域R1にある旨判定される。このため、制御圧力PCは第1制御圧力PC1に維持される。
【0075】
しかし、上記のとおり燃料系統の異常が生じているときには燃料系統の異常が生じていないときと比較して燃焼圧力が高いため、制御圧力PCが第1制御圧力PC1に維持されることに起因して各潤滑部位での潤滑油の不足をまねくおそれがある。すなわち、内燃機関1の潤滑性能が実際に要求されている潤滑性能を下回る可能性が高くなる。
【0076】
また、実際の燃料噴射量Qが指令値よりも小さくなる異常が生じたとき、すなわち実際の空燃比が燃料噴射量Qの指令値に基づく空燃比よりもリーンになる異常が生じたとき、混合気の燃焼温度は燃料噴射量Qの指令値に応じた燃料が噴射されたときの燃焼温度よりも高い燃焼温度となる。
【0077】
この場合に、燃料噴射量Qの指令値に基づく機関運転状態が低圧領域R1にあり、かつ実際の燃料噴射量Qに基づく機関運転状態が高圧領域R2にあるとき、電子制御装置51においては機関運転状態が低圧領域R1にある旨判定される。このため、制御圧力PCは第1制御圧力PC1に維持される。
【0078】
しかし、上記のとおり燃料系統の異常が生じているときには燃料系統の異常が生じていないときと比較して燃焼温度が高いため、制御圧力PCが第1制御圧力PC1に維持されることに起因して機関温度が過度に高い状態をまねくおそれがある。すなわち、内燃機関1の冷却性能が実際に要求されている冷却性能を下回る可能性が高くなる。
【0079】
そこで電子制御装置51は、上述のように燃料系統の異常に起因した潤滑性能および冷却性能の不足が生じる頻度を低減するため、燃料系統の異常の有無を監視するとともにその結果に基づいて制御圧切替機構40を制御する燃料系統異常時制御を行う。
【0080】
図4を参照して、燃料系統異常時制御の具体的な処理手順を定めた「燃料系統異常時処理」について説明する。なお、この処理は、内燃機関1の運転中において電子制御装置51により所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0081】
ステップS11では、燃料系統に異常が生じているか否かを判定する。ここでは、次の診断条件1〜5のいずれか一方が成立していることに基づいて、燃料系統に異常が生じている旨判定する。
・診断条件1:クランクポジションセンサ52の出力値に基づいて算出されるクランクシャフト15の角加速度と、燃料噴射量Qの指令値に基づいて算出されるクランクシャフト15の角加速度との差が判定値よりも大きい。
・診断条件2:燃圧センサ55の出力値に基づいて算出される燃料圧力PFと、燃料噴射量Qの指令値に基づいて算出される燃料圧力PFとの差が判定値よりも大きい。
・診断条件3:酸素センサ56の出力値に基づいて算出される空燃比フィードバック補正値が判定値よりも大きい。
・診断条件4:燃圧センサ55に異常が生じている(例えば、断線またはショート)。
・診断条件5:酸素センサ56に異常が生じている(例えば、断線またはショート)。
【0082】
ステップS11において燃料系統に異常が生じている旨判定したとき、次のステップS12において制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。すなわち、制御圧切替機構40に対する指令信号Sをオフにする。
【0083】
ステップS11において燃料系統に異常が生じていない旨判定したとき、そのときに選択している制御圧力PCを継続して選択する。すなわち、指令信号Sをオンに設定しているときにはこれを継続し、指令信号Sをオフに設定しているときにはこれを継続する。
【0084】
図5および図6を参照して、「燃料系統異常時処理」の実行態様について説明する。
図5に、第2制御圧力PC2の選択中に燃料系統に異常が生じたときの例を示す。
時刻t21すなわち、燃料系統に異常が生じていないとき、かつ機関運転状態の属する運転領域Rが低圧領域R1から高圧領域R2に移行したとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオンからオフに変更される。これにより、制御圧力PCが第1制御圧力PC1から第2制御圧力PC2に切り替えられる。
【0085】
時刻t22すなわち、燃料系統に異常が生じたとき、かつ異常が生じる直前の機関運転状態の属する運転領域Rが高圧領域R2のとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオフに維持される。これにより、制御圧力PCが第2制御圧力PC2に維持される。すなわち、燃料系統に異常が生じた時刻t22以降は、機関運転状態の属する運転領域Rにかかわらず制御圧力PCが第2制御圧力PC2に維持される。
【0086】
図6に、第1制御圧力PC1の選択中に燃料系統に異常が生じたときの例を示す。
時刻t31すなわち、燃料系統に異常が生じていないとき、かつ機関運転状態の属する運転領域Rが高圧領域R2から低圧領域R1に移行したとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオフからオンに変更される。これにより、制御圧力PCが第2制御圧力PC2から第1制御圧力PC1に切り替えられる。
【0087】
時刻t32すなわち、燃料系統に異常が生じたとき、かつ異常が生じる直前の機関運転状態の属する運転領域Rが低圧領域R1のとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sがオンからオフに変更される。これにより、制御圧力PCが第1制御圧力PC1から第2制御圧力PC2に切り替えられる。すなわち、燃料系統に異常が生じた時刻t32以降は、運転領域Rにかかわらず制御圧力PCが第2制御圧力PC2に維持される。
【0088】
本実施形態によれば以下に示す効果が得られる。
(1)本実施形態では、燃料系統に異常が生じているとき、すなわち内燃機関1に要求される潤滑性能および冷却性能を把握することが困難なとき、制御圧力PCを第1制御圧力PC1よりも大きい第2制御圧力PC2に維持している。このため、燃料系統の異常に起因して、内燃機関1の温度が過度に高くなる状況が生じる頻度を少なくすることができる。
【0089】
(2)本実施形態では、機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qおよび冷却水温度TWに基づいて供給圧力PSを制御している。このため、ピストン14への潤滑油の供給量が不足することに起因して内燃機関1の回転抵抗が過度に大きくなることを抑制することができる。また、ピストン14への潤滑油の供給量が不足することに起因してピストン14の温度が過度に高くなることを抑制することができる。
【0090】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば同実施形態を以下のように変形して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0091】
・上記実施形態では、燃料系統に異常が生じているとき、制御圧切替機構40に対する指令信号Sをオフに設定することにより制御圧力PCを第2制御圧力PC2に維持したが、制御圧力PCの操作態様を例えば以下の(A)〜(C)のいずれかに変更することもできる。
【0092】
(A)燃料系統に異常が生じていることに基づいて、制御圧力PCを第1制御圧力PC1に設定することを禁止する旨の信号を制御圧切替機構40に送信する。反対に、燃料系統に異常が生じていないときには、この信号を制御圧切替機構40に送信しない。
【0093】
(B)燃料系統に異常が生じている状態を状態Aとし、燃料系統に異常が生じていない状態であるとともにこの点を除いては状態Aと同じ条件の状態を状態Bとして、状態Aのときには制御圧力PCを第1制御圧力PC1に変更することを禁止し、状態Bのときには制御圧力PCを第1制御圧力PC1に変更することを許可する。
【0094】
(C)内燃機関1の駆動状態について、潤滑油の圧力を相対的に低い第1制御圧力PC1に維持することが許容される駆動状態を低圧駆動状態(機関運転状態の属する運転領域Rが低圧領域R1にある状態)とし、潤滑油の圧力を相対的に高い第2制御圧力PC2に維持することが要求される駆動状態を高圧駆動状態(機関運転状態の属する運転領域Rが高圧領域R2にある状態)とする。そして、燃料系統の状態および内燃機関1の駆動状態に基づいて以下の制御を行う。
【0095】
すなわち、燃料系統に異常が生じていないとき、かつ内燃機関1の駆動状態が低圧駆動状態のとき、制御圧力PCを第1制御圧力PC1に設定する。また、燃料系統に異常が生じているとき、かつ内燃機関1の駆動状態が低圧駆動状態にあるとき、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。また、内燃機関1の駆動状態が高圧駆動状態にあるとき、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に設定する。
【0096】
・上記実施形態では、診断条件1〜5のいずれか1つが成立していることに基づいて燃料系統に異常が生じている旨判定したが、燃料系統の異常を判定するための条件は実施形態に例示した内容に限られるものではない。例えば、診断条件1〜5のうちの少なくとも1つについての判定を省略することもできる。
【0097】
・燃圧センサ55の出力異常としては、上記実施形態で例示したものの他に次の出力異常が挙げられる。すなわち、燃圧センサ55に断線は生じていないものの出力値が通常の運転状態では出力されない過度に低い値を示す異常が生じることもある。また、燃圧センサ55の出力値が上限値と下限値との間にあるものの、機関運転状態に基づいて推定される燃料圧力PFから過度に乖離した値を出力する異常が生じることもある。そこで、燃圧センサ55の断線およびショートだけではなく、以下のいずれか一方の条件が成立したときにも燃圧センサ55に異常が生じている旨判定することもできる。
(a)燃圧センサ55の出力値が「0」よりも大きくかつ下限値よりも小さい。
(b)燃圧センサ55の出力値が上限値と下限値との間にあり、かつ燃圧センサ55の出力値と機関運転状態に基づく燃料圧力PFの推定値との差が判定値よりも大きい。
【0098】
・酸素センサ56についても、上述した燃圧センサ55と同様の出力異常が生じることがある。そこで、酸素センサ56の断線およびショートだけではなく、以下のいずれか一方の条件が成立したときにも、酸素センサ56に異常が生じている旨判定することもできる。
(a)酸素センサ56の出力値が「0」よりも大きくかつ下限値よりも小さい。
(b)酸素センサ56の出力値が上限値と下限値との間にあり、かつ酸素センサ56の出力値と機関運転状態に基づく燃料圧力PFの推定値との差が判定値よりも大きい。
【0099】
・上記実施形態では、図2の制御圧切替マップに例示した冷却水温度TWおよび機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qに基づいて制御圧力PCを設定したが、制御圧切替マップの内容は同実施形態に例示した内容に限られない。また、冷却水温度TWおよび機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qのうちの機関回転速度NEおよび冷却水温度TWの少なくとも一方を省略して制御圧力切替マップを構成することもできる。また、冷却水温度TWおよび機関回転速度NEおよび燃料噴射量Qにさらに別のパラメータを加えて制御圧切替マップを構成することもできる。別のパラメータとしては、例えば変速比および車速の少なくとも一方を採用することができる。
【0100】
・上記実施形態では、燃料系統に異常が生じているとき、制御圧力PCを第2制御圧力PC2に維持したが、次のように変更することもできる。すなわち、燃料噴射量Qに関わらず潤滑油の圧力を相対的に低い第1制御圧力PC1に維持することが許容される特定の運転領域を有する内燃機関においては、機関運転状態が同運転領域にあるとき、燃料系統の異常の有無に関係なく制御圧力PCを第1制御圧力PC1に設定することもできる。
【0101】
・上記実施形態では、切替弁44を第1連通状態に維持するときの指令信号Sをオンにするとともに、切替弁44を第2連通状態に維持するときの指令信号Sをオフにしたが、切替弁44の第1連通状態および第2連通状態と指令信号Sのオンおよびオフとの関係を上記とは反対の関係に変更することもできる。
【0102】
・上記実施形態では、制御圧力PCを第1制御圧力PC1および第2制御圧力PC2の2段階で切り替えることのできる油圧制御機構30を採用したが、制御圧力PCを3段階以上で切り替えることのできる油圧制御機構を採用することもできる。その一例としては以下の(A)および(B)が挙げられる。
【0103】
(A)上記実施形態の油圧制御機構30に代えて、第1制御圧力PC1および第2制御圧力PC2、ならびにこれら制御圧力の間にある第3制御圧力PC3の3段階で制御圧力PCを切り替えることのできる油圧制御機構を採用することもできる。この場合には、燃料系統の異常が生じたとき、制御圧力PCを低圧制御圧力としての第1制御圧力PC1または第3制御圧力PC3よりも大きい制御圧力に維持する。すなわち、低圧制御圧力が第1制御圧力PC1のときには第2制御圧力PC2または第3制御圧力PC3に、また低圧制御圧力が第3制御圧力PC3のときには第2制御圧力PC2に維持する。
【0104】
(B)上記実施形態の油圧制御機構30に代えて、制御圧力PCを所定の範囲内において無段階に設定することのできる油圧制御機構を採用することもできる。この場合には、燃料系統の異常が生じたとき、制御圧力PCを予め設定された低圧制御圧力PCXよりも大きな圧力に維持する。または、燃料系統に異常が生じている状態を状態Aとし、燃料系統に異常が生じていない状態であるとともにこの点を除いては状態Aと同じ条件の状態を状態Bとして、状態Aのときには状態Bのときよりも制御圧力PCを大きくすることもできる。または、燃料系統の異常が生じたときの制御圧力PCを制御圧力PCYとしたとき、異常が生じているときは制御圧力PCYよりも大きな制御圧力PCに変更することもできる。
【0105】
・上記実施形態では、ピストン31Aに対するスリーブ31Bの位置を切替室31Cの油圧により第1切替位置および第2切替位置に変更したが、スリーブ31Bの位置をソレノイド等の油圧以外の手段により変更することもできる。
【0106】
・上記実施形態では、下流供給油路21B内の潤滑油をリリーフすることにより供給圧力PSを制御圧力PCまたはその付近に維持する油圧制御機構30を採用したが、これとは別のしくみにより供給圧力PSを制御する油圧制御機構を採用することもできる。その一例としては以下の(A)および(B)が挙げられる。
【0107】
(A)上記実施形態の油圧制御機構30に代えて、第1制御圧力PC1に相当する開弁圧力を有する低圧チェック弁、第2制御圧力PC2に相当する開弁圧力を有する高圧チェック弁、低圧チェック弁の有効および無効を切り替える電子制御弁を含む回路を供給油路21に接続する。そして、供給圧力PSを第1制御圧力PC1またはその付近に維持する要求があるときには、電子制御弁の制御により低圧チェック弁を有効にする。また、供給圧力PSを第2制御圧力PC2またはその付近に維持する要求があるときには、電子制御弁の制御により低圧チェック弁を無効にする。
【0108】
(B)上記実施形態の油圧制御機構30に代えて、吐出圧を変更することのできる電動のオイルポンプを採用する。そして、供給圧力PSを第1制御圧力PC1またはその付近に維持する要求があるときには、供給圧力PSおよび第1制御圧力PC1に基づいてオイルポンプの吐出圧を制御する。また、供給圧力PSを第2制御圧力PC2またはその付近に維持する要求があるときには、供給圧力PSおよび第2制御圧力PC2に基づいてオイルポンプの吐出圧を制御する。
【0109】
・上記実施形態では、機関駆動式のオイルポンプ22を備える潤滑油供給装置2を採用したが、同オイルポンプ22に代えて電動式のオイルポンプを備える潤滑油供給装置を採用することもできる。
【0110】
・上記実施形態では、吸気通路に燃料を噴射するインジェクタ62を含む内燃機関1に本発明を適用したが、燃焼室13に燃料を直接的に噴射するインジェクタを含む内燃機関に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0111】
1…内燃機関、2…潤滑油供給装置、10…機関本体、11…シリンダブロック、12…オイルパン、13…燃焼室、14…ピストン、15…クランクシャフト、20…機関潤滑機構、21…供給油路、21A…上流供給油路、21B…下流供給油路、22…オイルポンプ、23…オイルストレーナ、24…オイルフィルタ、25…ピストンジェット、30…油圧制御機構(圧力制御手段)、31…リリーフ弁、31A…ピストン、31B…スリーブ、31C…切替室、32…リリーフ油路、33…吐出側油路、34…吸込側油路、35…弁内部油路、40…制御圧切替機構、41…第1切替油路、42…第2切替油路、43…第3切替油路、44…切替弁、50…制御装置、51…電子制御装置(異常検出手段)、52…クランクポジションセンサ、53…油圧センサ、54…冷却水温センサ、55…燃圧センサ、56…酸素センサ、60…燃料供給機構、61…燃料タンク、62…インジェクタ、63…燃料供給管、64…燃料ポンプ、65…プレッシャレギュレータ、71…警告灯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更するものであり、前記制御圧力として低圧制御圧力とこれよりも高圧の高圧制御圧力とを有する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力を前記高圧制御圧力に維持する異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項2】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更するものであり、前記制御圧力として低圧制御圧力とこれよりも高圧の高圧制御圧力とを有する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力を前記低圧制御圧力にすることを禁止する異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項3】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じていないときよりも前記制御圧力を大きくする異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項4】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、前記制御圧力の低圧側への変更を禁止する異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項5】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の燃料系統に異常が生じている状態を状態Aとし、燃料系統に異常が生じていない状態であるとともにこの点を除いては前記状態Aと同じ条件の状態を状態Bとして、
前記状態Aのときには前記制御圧力を低圧側に変更することを禁止し、前記状態Bのときには前記制御圧力を低圧側に変更することを許可する異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項6】
内燃機関の対象部位に潤滑油を供給する供給油路内の圧力を制御するための制御圧力を変更する圧力制御手段を含む内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記内燃機関の駆動状態について、潤滑油の圧力を相対的に低い圧力に維持することが許容される駆動状態を低圧駆動状態とし、潤滑油の圧力を相対的に高い圧力に維持することが要求される駆動状態を高圧駆動状態とし、前記制御圧力について、相対的に低い制御圧力を低圧制御圧力とし、相対的に高い制御圧力を高圧制御圧力として、
前記圧力制御手段は、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、かつ前記内燃機関の駆動状態が前記低圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記低圧制御圧力に設定し、前記内燃機関の燃料系統に異常が生じているとき、かつ前記内燃機関の駆動状態が前記低圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記高圧制御圧力に設定し、前記内燃機関の駆動状態が前記高圧駆動状態にあるときには前記制御圧力を前記高圧制御圧力に設定する異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記燃料系統の異常を検出する異常検出手段を備え、この異常検出手段により異常が検出されたとき、前記異常時制御を行う
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記圧力制御手段は、前記供給油路内の圧力が前記制御圧力よりも大きいときに前記供給油路内の潤滑油をリリーフすることにより、前記供給油路内の圧力を変更するものである
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−247168(P2011−247168A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120991(P2010−120991)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】