説明

内燃機関の軸受装置

【課題】この発明は、クランク軸とメインベアリングとの間にオイルを安定的に保持し、潤滑性能や始動性を向上させることを目的とする。
【解決手段】クランク軸18のジャーナル部20をメインベアリング22により回転可能に支持する。ジャーナル部20とメインベアリング22との摺動面には、潤滑油通路30及び油孔40を介してオイルを供給し、このオイルをオイル保持機構42により保持する。オイル保持機構42は、油孔40の軸方向両側でメインベアリング22の内周面に設けた環状凸部44と、ジャーナル部20の外周面に設けた環状凹部46とを備える。これにより、エンジン10の停止中には、前記摺動面からオイルが外部に流出するのを防止することができる。従って、再始動時には、始動当初から高い潤滑性能を確保し、フリクションを抑えて始動性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受装置に係り、特に、クランク軸の軸受部を潤滑する機構を備えた内燃機関の軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開平10−30419号公報)に開示されているように、クランク軸を支持するメインベアリングの内周面に油溝を形成した内燃機関の軸受装置が知られている。従来技術では、この油溝に対して、シリンダブロックに設けられたメインホール(潤滑油通路)からオイルを供給し、クランク軸のジャーナル部とメインベアリングとの間の油膜切れを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−30419号公報
【特許文献2】特開2000−346045号公報
【特許文献3】特開2008−38840号公報
【特許文献4】実開平4−110215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術では、メインベアリングの内周面に油溝を形成し、この油溝にオイルを供給する構成としている。しかし、この構成は、単にオイルを油溝に供給するだけなので、内燃機関の停止時には、クランク軸とメインベアリングとの間にオイルが安定的に滞留せず、両者の摺動面からオイルが流出する虞れがある。このため、従来技術では、内燃機関の再始動時に上記摺動面でオイル不足が生じ、フリクションの増加等を招くという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、クランク軸とメインベアリングとの間にオイルを安定的に保持し、潤滑性能や始動性を向上させることが可能な内燃機関の軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関のシリンダを形成する部材であって、クランク軸支持部が設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに設けられ、円柱状のジャーナル部を有するクランク軸と、
外周側が前記シリンダブロックのクランク軸支持部に設けられ、内周側が前記クランク軸のジャーナル部を回転可能に支持するメインベアリングと、
前記シリンダブロックの内部に形成されて前記クランク軸支持部に開口し、前記メインベアリングにオイルを供給する潤滑油通路と、
前記潤滑油通路と連通する位置で前記メインベアリングを径方向に貫通し、前記メインベアリングの内周側に開口した油孔と、
前記クランク軸のジャーナル部と前記メインベアリングとの摺動面に全周にわたって配置され、かつ、前記油孔の軸方向両側に配置された機構であって、前記ジャーナル部の外周側と前記メインベアリングの内周側のうち一方の部位に形成された環状凸部と、他方の部位に形成されて前記環状凸部が挿入される環状凹部とを有するオイル保持機構と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明によると、前記潤滑油通路は、
前記クランク軸の軸方向に沿って伸長し、前記クランク軸の軸方向に間隔をもって配置された複数の前記メインベアリングにオイルを分配するメインホールと、
潤滑油源から前記メインホールにオイルを供給する給油通路と、
前記給油通路の少なくとも一部により構成され、上下方向において前記メインホールよりも高い位置に配置された逆流防止部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、内燃機関の停止時には、オイル保持機構によりクランク軸のジャーナル部とメインベアリングとの摺動面にオイルを保持し、このオイルが外部に流出するのを防止することができる。これにより、再始動時には、上記摺動面が十分に潤滑された状態でクランク軸の回転を開始することができ、始動当初から安定した潤滑性能を得ることができる。従って、クランク軸が回転するときのフリクションを低減し、始動性を向上させることができる。
【0009】
第2の発明によれば、給油通路の少なくとも一部をメインホールよりも高い位置に配置し、この部位により逆流防止部を構成することができる。これにより、内燃機関の停止時には、メインホール内に供給されたオイルが給油通路からオイルパン側に逆流するのを防止し、メインホール内に十分な量のオイルを保持することができる。従って、再始動時には、メインホール内に保持しておいたオイルを個々のメインベアリングに対して速やかに供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に適用されるエンジンの構成を説明するための構成図である。
【図2】メインベアリングの近傍を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に適用されるエンジンの構成を説明するための構成図である。図1に示すように、本実施の形態のシステムは、多気筒型の内燃機関であるエンジン10を備えており、エンジン10は、シリンダブロック12、クランク軸18、メインベアリング22等を備えている。なお、図1は、シリンダブロック12等をクランク軸18の軸線と垂直な面に沿って破断した断面図である。また、図1には示していないが、エンジン10は、以下に述べるシリンダ14、クランク軸支持部16、ジャーナル部20、メインベアリング22、分岐通路38等をそれぞれ複数個ずつ備えている。
【0012】
シリンダブロック12は、エンジン10の本体部分を構成するもので、円筒状のシリンダ14とクランク軸支持部16とを備えている。各シリンダ14は、クランク軸18の軸方向(図1の紙面と垂直な方向)に沿って直線状に並んでいる。また、クランク軸支持部16は、クランク軸18の軸方向に伸びる短尺な凹溝として形成され、略半円形の断面形状を有している。そして、クランク軸支持部16は、各シリンダ14の間に対応する位置にそれぞれ配置され、クランク軸18を軸方向の複数個所で支持するように構成されている。また、本実施の形態において、シリンダブロック12は、シリンダ14が上側に位置し、クランク軸支持部16が下側に位置するように設置される。そして、シリンダブロック12の上部側には、各シリンダ14を施蓋するシリンダヘッドが搭載され、シリンダブロック12の下部側には、クランクケース及びオイルパンが取付けられる。
【0013】
クランク軸18は、エンジン10の出力軸を構成するもので、円柱状に形成された複数のジャーナル部20と、各ジャーナル部20の間に位置してクランク状に形成された複数のクランク部とを備えている。各ジャーナル部20は、クランク軸18の軸方向に間隔をもって配置され、それぞれメインベアリング22により回転可能に支持されている。詳しく述べると、ジャーナル部20は、図示しない公知の軸受キャップとクランク軸支持部16との間に挟持された状態で、これらの部材によりメインベアリング22を介して回転可能に支持されている。なお、軸受キャップは、例えば特開平10−30419号公報等に記載されているように、クランク軸支持部16を覆う位置でシリンダブロック12の下面側に取付けられるものである。また、クランク軸18のクランク部には、各シリンダ14に挿嵌されたピストンがコンロッド等を介して連結される。
【0014】
メインベアリング22は、クランク軸18に対して軸方向の複数箇所に配置されている。個々のメインベアリング22は、例えば半円弧状に湾曲した2つの金属部品(軸受メタル24,26)を衝合することにより構成されるもので、全体として短尺な円筒状に形成されている。そして、一方の軸受メタル24の外周側はクランク軸支持部16に嵌合され、他方の軸受メタル26の外周側は前記軸受キャップに嵌合されている。また、軸受メタル24,26は、クランク軸18のジャーナル部20を径方向外側から取囲むように配置され、ジャーナル部20を回転可能に支持している。そして、軸受メタル24,26の内周面とジャーナル部20の外周面とは、微小な隙間を挟んで摺動可能な状態で対向しており、これらの摺動面には、エンジン10の潤滑系統からオイルが供給される。
【0015】
次に、エンジン10の潤滑系統について説明する。この潤滑系統は、エンジンのオイルパンと共に潤滑油源を構成するオイルポンプ28と、シリンダブロック12の内部に形成された潤滑油通路30とを備えている。オイルポンプ28は、例えばエンジン10により駆動される機械式のポンプにより構成され、オイルパン内に貯留されたオイルを潤滑油通路30に供給する。潤滑油通路30は、クランク軸18とメインベアリング22との摺動面を含む各種の潤滑部にオイルを供給するもので、メインホール32、給油通路34、逆流防止部36、分岐通路38等を備えている。
【0016】
メインホール32は、オイルポンプ28により供給されるオイルを複数のメインベアリング22等に分配するものである。そして、メインホール32は、クランク軸18の軸方向に沿ってシリンダブロック12内を個々の気筒の位置まで伸長する長尺な油路として形成され、上下方向においてクランク軸支持部16よりも高い位置に配置されている。一方、給油通路34は、オイルポンプ28から吐出されたオイルをメインホール32に供給するもので、給油通路34の流入側は、シリンダブロック12の下部側でオイルポンプ28に接続されている。給油通路34の流出側は上方に伸長し、メインホール32に接続されている。
【0017】
また、給油通路34の少なくとも一部は、オイルの逆流を防止する逆流防止部36として形成されている。逆流防止部36は、上下方向においてメインホール32よりも高い位置に配置され、かつ、下向きに屈曲したU字状に形成されている。即ち、給油通路34は、シリンダブロック12の下部側からメインホール32の上側まで伸長し、逆流防止部36の位置で下向きのU字状に屈曲してメインホール32の上面部に接続されている。これにより、逆流防止部36は、エンジンの停止中にメインホール32内のオイルがオイルパン側に逆流するのを防止している。一方、分岐通路38は、各クランク軸支持部16に対応する位置でメインホール32から分岐しており、各分岐通路38の先端側は、クランク軸支持部16の内周面に開口している。
【0018】
次に、図2を参照して、クランク軸18のジャーナル部20及びメインベアリング22の潤滑構造について説明する。図2は、メインベアリングの近傍を拡大して示す断面図であり、この図は各部品をクランク軸18の軸方向に沿って破断したものである。図2に示すように、メインベアリング22は、分岐通路38と連通する位置で上側の軸受メタル24を径方向に貫通した油孔40を備えている。油孔40は、軸受メタル24の内周面に開口しており、潤滑油通路30内のオイルをジャーナル部20とメインベアリング22との摺動面に供給するように構成されている。また、メインベアリング22は、上記摺動面にオイルを保持するためのオイル保持機構42を備えている。
【0019】
オイル保持機構42は、例えばメインベアリング22に形成された2つの環状凸部44,44と、クランク軸18のジャーナル部20に形成された2つの環状凹部46,46とにより構成されている。環状凸部44,44は、メインベアリング22の軸方向において、油孔40の軸方向両側でメインベアリング22(軸受メタル24,26)の内周面に全周にわたって形成され、径方向内向きに突出している。一方、環状凹部46,46は、油孔40の軸方向両側でジャーナル部20の外周面に全周にわたって形成され、その内部にはメインベアリング22の各環状凸部44が挿入(嵌合)されている。
【0020】
[実施の形態1の作動]
次に、本実施の形態によるエンジンの作動について説明する。まず、エンジンの運転中には、その駆動力によりオイルポンプ28が駆動される。これにより、オイルパン内のオイルがオイルポンプ28から吐出されると、このオイルは、潤滑油通路30を介して各メインベアリング22等に供給され、更に油孔40を介してメインベアリング22の内周側に供給される。このため、クランク軸18は、各ジャーナル部20がメインベアリング22により油膜を介して支持された状態で、円滑に回転することができる。
【0021】
一方、エンジンがオイルポンプ28と共に停止すると、メインベアリング22には新たなオイルが供給されなくなる。しかし、本実施の形態では、オイル保持機構42によりジャーナル部20とメインベアリング22との摺動面にオイルを保持することができる。即ち、オイル保持機構42の環状凸部44は、油孔40の軸方向両側で環状凹部46内に挿入されているので、油孔40から上記摺動面に供給されたオイルをジャーナル部20とメインベアリング22との間に閉じ込めることができる。更に言えば、環状凸部44と環状凹部46との間に小さな隙間が存在したとしても、この隙間の断面形状は、図2に示すように、上記摺動面に対してU字状に屈曲しているので、当該隙間のラビリンス効果によりオイルを上記摺動面に保持することができる。
【0022】
従って、本実施の形態によれば、エンジンを停止した状態でも、クランク軸18とメインベアリング22との摺動面からオイルが外部に流出するのを防止することができる。これにより、エンジンの再始動時には、上記摺動面が十分に潤滑された状態でクランク軸18の回転を開始することができ、始動当初から安定した潤滑性能を得ることができる。このため、クランク軸18が回転するときのフリクションを低減し、始動性を向上させることができる。
【0023】
しかも、本実施の形態では、給油通路34に逆流防止部36を設けているので、エンジンの停止時には、メインホール32内に十分な量のオイルを保持することができる。ここで、メインホール32は、潤滑油通路30の他の部位と比較して大きな容積を有し、かつ、複数のメインベアリング22にオイルを分配する機能を備えている。そして、逆流防止部36は、オイルの流れ方向においてメインホール32の上流側に配置され、かつ、メインホール32よりも高い位置に形成されている。
【0024】
従って、逆流防止部36によれば、メインホール32に供給された比較的多量のオイルが給油通路34からオイルパン側に逆流するのを防止することができる。しかも、逆流防止部36は、下向きのU字状に屈曲しているので、オイルの逆流を効果的に阻止することができる。従って、エンジンの再始動時には、オイルポンプ28が始動した時点で、メインホール32内に保持しておいた十分な量のオイルを個々のメインベアリング22に対して速やかに供給することができる。
【0025】
なお、前記実施の形態では、メインベアリング22の内周側に環状凸部44を設け、クランク軸18のジャーナル部20に環状凹部46を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、メインベアリング22の内周側に環状凹部46を設け、ジャーナル部20の外周側に環状凸部44を設ける構成としてもよい。
【0026】
また、実施の形態では、メインホール32の上流側に1箇所の逆流防止部36を設ける構成を例示したが、本発明はこれに限らず、必要に応じて複数箇所の逆流防止部36を設ける構成としてもよい。また、本発明は、給油通路34の少なくとも一部をメインホール32よりも高い位置に引き回して逆流防止部36を形成すればよいもので、給油通路34の流出側は、メインホール32の下面部に接続してもよい。
【0027】
さらに、実施の形態では、クランク軸18とメインベアリング22との間にオイル保持機構42を設け、給油通路34に逆流防止部36を設けることで、メインベアリング22の潤滑性能を全体的に向上させるものとした。しかし、本発明では、オイル保持機構42だけでも潤滑性能を十分に高めることができるので、例えば逆流防止部36を用いない構成としてもよい。そして、逆流防止部36を用いない場合には、必ずしもシリンダブロック12をシリンダ14が上側となるように配置する必要はない。即ち、本発明のオイル保持機構42は、水平対向エンジン等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 エンジン(内燃機関)
12 シリンダブロック
14 シリンダ
16 クランク軸支持部
18 クランク軸
20 ジャーナル部
22 メインベアリング
24,26 軸受メタル
28 オイルポンプ(潤滑油源)
30 潤滑油通路
32 メインホール
34 給油通路
36 逆流防止部
38 分岐通路
40 油孔
42 オイル保持機構
44 環状凸部
46 環状凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダを形成する部材であって、クランク軸支持部が設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに設けられ、円柱状のジャーナル部を有するクランク軸と、
外周側が前記シリンダブロックのクランク軸支持部に設けられ、内周側が前記クランク軸のジャーナル部を回転可能に支持するメインベアリングと、
前記シリンダブロックの内部に形成されて前記クランク軸支持部に開口し、前記メインベアリングにオイルを供給する潤滑油通路と、
前記潤滑油通路と連通する位置で前記メインベアリングを径方向に貫通し、前記メインベアリングの内周側に開口した油孔と、
前記クランク軸のジャーナル部と前記メインベアリングとの摺動面に全周にわたって配置され、かつ、前記油孔の軸方向両側に配置された機構であって、前記ジャーナル部の外周側と前記メインベアリングの内周側のうち一方の部位に形成された環状凸部と、他方の部位に形成されて前記環状凸部が挿入される環状凹部とを有するオイル保持機構と、
を備えることを特徴とする内燃機関の軸受装置。
【請求項2】
前記潤滑油通路は、
前記クランク軸の軸方向に沿って伸長し、前記クランク軸の軸方向に間隔をもって配置された複数の前記メインベアリングにオイルを分配するメインホールと、
潤滑油源から前記メインホールにオイルを供給する給油通路と、
前記給油通路の少なくとも一部により構成され、上下方向において前記メインホールよりも高い位置に配置された逆流防止部と、
を備えてなる請求項1に記載の内燃機関の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−145198(P2012−145198A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5769(P2011−5769)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】