説明

内燃機関の電動ウォータポンプ

【課題】内燃機関の冷却水を循環させるための電動ウォータポンプにおいて、低回転時の異音の発生を抑制する。
【解決手段】インペラ24の後面シュラウド30には、後面シュラウドの表裏を連通するつりあい穴34が設けられている。つりあい穴に対し弁体44が設けられている。弁体44は、ばね48により半径方向内側に向けて付勢されている。インペラ低回転時において、弁体はばねの付勢力により内側に位置し、この位置でつりあい穴が塞がれ、インペラ内部の不安定な流れによる異音の発生が抑制される。インペラ高回転時、弁体に働く遠心力がばねの付勢力に勝ち、弁体が外側に動き、つりあい穴が開放される。これにより、後面シュラウドの後面側の圧力が下がり、スラストが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却水を循環させるためのウォータポンプに関し、特に、電気モータで駆動される電動ウォータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関において、冷却水を循環させるための、いわゆるウォータポンプは、機関の軸出力の一部を使って駆動されていた。例えば、機関の出力軸の回転をカムシャフトに伝えるタイミングベルトまたはタイミングチェーンにより、機関出力が伝達され、ポンプのインペラが駆動されていた。また、冷却水は機関冷却の他の用途にも用いられている。例えば、排気再循環(EGR)により吸気に混合される排気の冷却や、内燃機関が車両の動力装置として搭載される場合、車両室内の暖房などに用いられる。また、冷却水温度が低いときに、早期に規定の温度まで高めるために、内燃機関の排気により冷却水を温めることも行われている。
【0003】
冷却水は、上記のように内燃機関の冷却以外の用途にも用いられており、状況に応じて冷却水の循環量、すなわちウォータポンプに要求される流量を変更することが望ましい。しかし、ウォータポンプがタイミングベルト等により駆動される場合、ポンプの吐出流量は、内燃機関の回転速度に依存することとなり、きめ細かな流量制御を行うことができない。
【0004】
電動のウォータポンプを搭載し、冷却水の循環流量を内燃機関の回転とは独立して制御可能とした例がある。
【0005】
また、下記特許文献1には、例えば冷却水を供給するための電動の車両用流体ポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−314486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動ウォータポンプのインペラの前面と後面の圧力差に起因して生じるスラストを軽減するために、インペラの後面シュラウドに穴をあけ、インペラ内部と後面シュラウドの後方の空間を連通して、この空間の圧力を下げる技術が知られている。しかし、前記穴を設けると、ポンプの吐出流量が少ないときには、スラストが小さく、インペラの回転軸線方向の位置が安定しない。また、ポンプの吐出流量が小さいときにはインペラ内部および周囲の流れが不安定となり、脈動が発生することがある。この結果、インペラが軸方向に振動し、インペラの位置を決めている部材に繰り返し衝突して異音が発生することがある。
【0008】
本発明は、スラストが大きくなるインペラ高回転時においてはスラストが軽減され、インペラ低回転時には異音の発生を抑制する電動ウォータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内燃機関の冷却水を循環させるための電動ウォータポンプに関する。電動ウォータポンプのインペラは、後面シュラウドを有し、この後面シュラウドの表裏の圧力差を減少させるために、後面シュラウドに、これを貫通するつりあい穴が設けられている。さらに、つりあい穴には、移動可能な弁体が設けられている。弁体は、インペラの回転速度が低いときには、つりあい穴を塞ぎ、回転が速くなり、所定の回転速度以上となると、遠心力により移動して、つりあい穴を開放する。
【発明の効果】
【0010】
インペラの回転速度が高いときは、後面シュラウドの後面側の圧力をつりあい穴から逃がし、インペラに作用するスラストを軽減する。一方で、回転速度が低いときには、つりあい穴を塞いで脈動を抑制し、異音の発生を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施例の電動ポンプの全体構成を示す断面図である。
【図2】弁体の動作説明図である。
【図3】弁体の動作説明図である。
【図4】別の弁構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の電動ウォータポンプ10の全体構成を示す断面図である。電動ウォータポンプ10は、遠心ポンプであるポンプ部12と、ポンプ部を駆動するためのモータ部14を有する。モータ部14は、モータを構成するロータ16とステータ18を有する。ステータ18は、回転磁界を形成し、ロータ16は、この回転磁界と相互作用して回転する。ステータ18はロータ16を収めるロータ室を形成するハウジング20内に設けられ、ロータ16は、ハウジング20に固定的に設けられたポンプシャフト22に回転可能に支持されている。
【0013】
ポンプ部12は、インペラ24と、インペラ24を覆うポンプカバー26を有する。インペラ24は、ロータ16と一体に回転可能にポンプシャフト22に支持されている。インペラ24は、ハウジング20の端面(図1において上側の端面)より突出して配置されており、ポンプカバー26は、突出したインペラ24の周囲および前面側を覆うように、ハウジング20に固定されて設けられている。
【0014】
以下において、インペラに関する向きを示すために、「前」「後」を用いて説明する。「前」は、インペラの吸込み口が設けられる側を示し、図1においては上側を指し、「後」はその逆の側である。
【0015】
インペラ24は、ポンプシャフト22が通る中心穴を有するボス部28と、ボス部28と一体の、またはボス部28に固定された円板形状の後面シュラウド30と、後面シュラウドから前方に向けて立設された羽根32を有する。インペラ24は、前面側にシュラウドを持たない開放型のインペラである。後面シュラウド30には、後面シュラウド30の表裏、すなわち前方の面と後方の面を連通するつりあい穴34が設けられている。
【0016】
ポンプカバー26は、インペラ24の中心部分に対向する位置に設けられた吸込み管36を含む。吸込み管36には、その内周面から中心に向けて延びるステー38が設けられており、ステー38は、支持キャップ40を支持している。支持キャップ40は、ワッシャ42を介して、インペラのボス部28のポンプシャフト方向の動き、特に、インペラの前方への動きを規制している。支持キャップ40は固定され、一方、インペラのボス部28は回転するので、その間に位置するワッシャ42は、これらの部材の少なくとも一方に対して摺動する。また、インペラ24の、ポンプシャフト22に対する回転を許容するために、回転軸線方向に若干のクリアランスが形成されており、インペラ24およびロータ16は、回転軸線に沿って若干移動する。
【0017】
よく知られるように、遠心ポンプのインペラには、これを前方へと押すスラストが作用する。これは、インペラより吐出された流体の圧力が、後面シュラウドの後面に作用する一方、前面には羽根により圧力が高められる前の流体の圧力が作用するため、この圧力差によりスラストが発生する。このスラストが大きくなると、インペラ24のはワッシャ42を強く押し、ワッシャ42とインペラのボス部28の摺動面、またはワッシャ42と支持キャップ40の摺動面の摩耗が促進される。この摩耗を抑制するために、後面シュラウド30には、前述のつりあい穴34が設けられている。一方、つりあい穴34があっても、高回転時には、スラストがある程度発生し、インペラ24を上方に押し上げ、その位置は安定する。しかし、インペラ24の回転速度が低いときには、スラストが極小さく、インペラ24の位置が不安定となり、インペラ内部および周囲の流れの影響により、前方に、また後方に繰り返し移動する。つまり、図1において上下に移動する。この移動により、インペラ24やロータ16が、これれらの回転軸線方向の移動を規制している部材、例えばワッシャ42にぶつかり、衝突音が発生する。
【0018】
本実施形態の電動ウォータポンプ10においては、つりあい穴34をインペラの高回転時においては開放し、低回転時には閉止する弁体44を設け、摩耗と、異音の発生に対応している。後面シュラウド30の後面側には、略円環形状の後面カバー46が設けられている。後面カバー46は、ハウジング20との間にわずかの隙間を形成して配置され、この隙間の圧損によりインペラ24から吐出された流体が後面シュラウド30の後面側に流れることを抑制している。後面カバー46内には、半径方向に摺動可能に弁体44が設けられている。さらに、弁体44に半径方向内側に向く付勢力が作用するようにばね48が設けられている。
【0019】
図2および3は、弁体44の動作を説明するための図である。図2は、弁体44がつりあい穴34を塞いでいる状態を示す図であり、図3は、つりあい穴34が開放された状態を示す図である。インペラ24の回転が停止しているとき、または低い回転速度で回転している状態を示している。インペラ24の回転速度が速くなり、弁体44に作用する遠心力がばね48の付勢力に打ち勝つようになると、図3に示すように、弁体44は半径方向外側に向けて移動し、つりあい穴34を開放する。弁体44がつりあい穴34を開放する回転速度は、ばね48の付勢力により設定することができる。
【0020】
図4は、つりあい穴を開閉する別の弁構造を有するインペラ50の要部を示す図である。インペラ50の弁構造以外の部分、さらにインペラ50以外の部分は、上述の電動ウォータポンプ10と同一であるので、説明を省略する。図4には、インペラ50の後面シュラウド52および後面シュラウド52に立設された羽根54が示されている。後面シュラウドには、つりあい穴56が設けられ、このつりあい穴56は球形状の弁体であるボール58により塞がれている。このボール58の位置から、半径方向外側および上方に向け、つまり図4においては右斜め上方に向けて、ガイド穴60が設けられている。ガイド穴60の後面シュラウド52前面は蓋62により封止されている。ボール58は、このガイド穴60内をガイド穴60に沿って移動可能となっている。
【0021】
インペラ50は、その回転軸線が鉛直方向となるように設けられている。これにより、インペラ50が停止または低い回転速度のときには、ボール58は、傾斜したガイド穴60の下端に位置する。この位置は、ボール58がつりあい穴56を塞ぐ位置となっている。インペラ50の回転速度が速くなると、ボール58に遠心力が作用する。ガイド穴60に沿った方向において、ボール58に作用する遠心力が重力より大きくなると、ボール58は、ガイド穴60に沿って、半径方向外側に移動し、つりあい穴56を開放する。つりあい穴56が開放されるインペラ50の回転速度は、ガイド穴60の傾斜の角度を選ぶことにより設定することができる。
【0022】
電動ウォータポンプ10において、インペラ24の前方方向の位置の規制は、ポンプカバー26にステー38を介して支持された支持キャップ40により行われる。これに替えて、ポンプシャフト22の先端にねじを切り、また支持キャップにもねじを切ってこれらを結合させて、インペラ24の位置の規制を行うようにすることもできる。
【符号の説明】
【0023】
10 電動ウォータポンプ、12 ポンプ部、14 モータ部、24 インペラ、28 ボス部、30 後面シュラウド、34 つりあい穴、44 弁体、48 ばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の電動ウォータポンプであって、
つりあい穴を有する後面シュラウドを有するインペラと、
後面シュラウドに移動可能に設けられ、つりあい穴を閉じることができる弁体と、
を有し、
弁体は、インペラが低回転速度のときには、つりあい穴を塞ぎ、所定の回転速度以上となると、遠心力により移動して、つりあい穴を開放する、
電動ウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47131(P2012−47131A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191172(P2010−191172)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】