説明

内燃機関制御装置

【課題】
内燃機関の回転数の変動に応じたタイミングで制御処理を行って処理精度の低下を抑制することができる内燃機関制御装置を提供すること。
【解決手段】
エンジン3のクランク角信号に同期したクランク同期信号が生成され(S12)、エンジン3の回転数及びその回転数の変動時期が予測され(S22)、クランク同期信号を用いて前記内燃機関の制御が行われる(S28)。エンジン3の回転数が変動すると予測された場合には予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号が生成される(S24)。これにより、エンジン3の回転数の変動に応じたクランク同期信号に基づいて内燃機関の制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関を制御する内燃機関制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の内燃機関を制御する装置として、例えば特開2001−271700公報に記載されるように、エンジンのクランク軸の回転に対応したクランク信号を検出し、そのクランク信号のパルス間隔を逓倍した逓倍信号を生成し、その逓倍信号のパルス間隔に応じてエンジン制御を行うものが知られている。
【0003】
この装置は、エンジンのクランク信号に同期した逓倍信号を用い、エンジンの回転数に応じたタイミングで制御処理を行うことにより、制御処理の精度を向上しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271700公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した装置にあっては、エンジンの回転数が変動した場合に制御処理の精度が低下するおそれがある。例えば、クランク信号の逓倍信号は、クランク信号の周波数を整数倍とした信号であるが、クランク信号の周波数が変化すると同時に逓倍信号の周波数を変化させることは難しい。通常、逓倍信号生成処理では、所定時間におけるクランク信号の信号成分の周波数に基づいて逓倍信号の周波数を決定するため、クランク信号の周波数変化に対し逓倍信号の周波数調整が遅れを生ずる。このため、クランク信号の周波数変化と同時に逓倍信号の周波数を変化させることは困難となる。従って、エンジンの回転数が変動すると、エンジンの回転数に応じた逓倍信号を生成できず、制御処理のタイミングが遅れて制御処理の精度低下を招くおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、内燃機関の回転数の変動に応じたタイミングで制御処理を行って処理精度の低下を抑制することができる内燃機関制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る内燃機関制御装置は、内燃機関のクランク軸の回転に対応した信号を用いて前記内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置において、前記内燃機関のクランク角信号に同期したクランク同期信号を生成するクランク同期信号生成手段と、前記内燃機関の回転数及びその回転数の変動時期を予測する回転数予測手段と、前記クランク同期信号を用いて前記内燃機関の制御を行う制御手段とを備え、前記クランク同期信号生成手段は、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動すると予測された場合に、予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させて前記クランク同期信号を生成することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、内燃機関の回転数が変動すると予測された場合に予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号を生成することにより、内燃機関の回転数の変動に応じたクランク同期信号に基づいて内燃機関の制御を行うことができ、内燃機関の回転数の変動があった場合でも適切な制御処理が行え、処理精度の低下を抑制できる。
【0009】
また本発明に係る内燃機関制御装置において、前記クランク同期信号生成手段は、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動しないと予測された場合にはクランク角信号の周波数を逓倍させてなるクランク同期信号を生成し、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動すると予測された場合には予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させて前記クランク同期信号を生成することが好ましい。
【0010】
この場合、内燃機関の回転数が変動しないと予測された場合にクランク角信号の周波数を逓倍させてなるクランク同期信号を生成し、内燃機関の回転数が変動すると予測された場合に予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じてクランク同期信号を生成することにより、内燃機関の回転数が変動する場合にその変動に対応したタイミングで内燃機関の制御処理が行える。このため、内燃機関の回転数が低くなる場合には検出タイミングを遅くして演算処理負担の低減が図れ、内燃機関の回転数が高くなる場合には検出タイミングを早くして検出精度の低下を抑制することができる。
【0011】
また本発明に係る内燃機関制御装置において、前記回転数予測手段は、前記内燃機関を搭載した車両の加減速の開始時期に基づいて前記内燃機関の回転数の変動時期を予測することが好ましい。
【0012】
この場合、内燃機関を搭載した車両の加減速の開始時期に基づいて内燃機関の回転数の変動時期を予測することにより、内燃機関の回転数の変動時期を適切に予測することができる。
【0013】
また本発明に係る内燃機関制御装置において、前記回転数予測手段は、車両の走行状況を検出する走行状況検出手段と、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況を蓄積するデータ蓄積手段と、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて現在から加減速操作が実行されるまでの時間を予測する加減速時間予測手段を備え、加減速操作が実行されるまでの時間に基づいて内燃機関の回転数の変動時期を予測することが好ましい。
【0014】
この場合、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて現在から加減速操作が実行されるまでの時間を予測し、加減速操作が実行されるまでの時間に基づいて回転数の変動時期を予測することにより、内燃機関の回転数の変動時期を的確に予測することができる。
【0015】
さらに本発明に係る内燃機関制御装置において、前記回転数予測手段は、車両の走行状況を検出する走行状況検出手段と、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況を蓄積するデータ蓄積手段と、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて加減速時の加減速値を予測する加減速値予測手段を備え、予測された加減速値に基づいて加減速時の内燃機関の回転数を予測することが好ましい。
【0016】
この場合、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて加減速時の加減速値を予測し、その予測された加減速値に基づいて加減速時の内燃機関の回転数を予測することにより、内燃機関の回転数の変動量を的確に予測することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内燃機関の回転数が変動する場合にはその変動を予測してクランク同期信号を生成することにより、回転数の変動に応じたタイミングで制御処理を行って処理精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関制御装置の構成概要図である。
【図2】図1の内燃機関制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図2の動作におけるクランク同期信号生成処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は本発明の実施形態に係る内燃機関制御装置の概略構成図である。
【0021】
本実施形態に係る内燃機関制御装置1は、自車両に搭載され、エンジン3のクランク軸の回転に対応したクランク同期信号を用いてエンジン3の制御を行う装置である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関制御装置1は、ECU(ElectronicControl Unit)2を備えている。ECUは、内燃機関制御装置1全体の制御処理を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。
【0023】
ECU2には、筒内圧センサ11、クランクセンサ12が接続されている。筒内圧センサ11は、エンジン3の筒内の圧力を検出センサであり、筒内圧を検出できるものであればいずれのタイプのものを用いてもよい。筒内圧センサ11の検出信号は、ECU2に入力され、設定された検出タイミングで検出値がサンプリングされる。クランクセンサ12は、エンジン3のクランク軸の回転状態を検出センサである。クランクセンサ12が出力するクランク角信号は、例えば角度10CAで一周期のパルス信号として出力され、ECU2に入力される。
【0024】
また、ECU2には、車速センサ13、車間距離センサ14、照度センサ15、傾斜センサ16、ドライバ状態センサ17が接続されている。
【0025】
車速センサ13は、車両の走行速度を検出センサであり、例えば車輪速を検出する電磁ピックアップタイプの車輪速センサが用いられる。車間距離センサ14は、車両の前方を走行する他車との車間距離を検出センサである。この車間距離センサ14としては、例えばミリ波レーダ、レーザレーダなどが用いられる。
【0026】
照度センサ15は、車両の周囲の照度を検出するセンサであり、例えば集積化光センサが用いられる。傾斜センサ16は、車両が走行する路面の傾斜度を検出センサであり、例えばジャイロセンサなどが用いられる。ドライブ状態センサ17は、車両の運転者の状態を検出センサであり、運転者の加減速操作の動作又は状態を検出ためのものである。
【0027】
ドライブ状態センサ17としては、例えば運転者のハンドル把持力を検出するセンサが用いられ、具体的には、運転者の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサが用いられる。この場合、操舵トルクセンサにより、操舵トルクが繰り返し検出され、所定時間における最大値と最小値の差がハンドルの把持力として検出される。これは、運転者が強くハンドルを把持しているほど、その把持力により抑制される路面振動の反力が操舵トルクに反映されやすくなり、最小値と最大値の差が大きくなることを利用したものである。
【0028】
また、ドライブ状態センサ17として、例えば運転者の位置を検出するドライビングポジションセンサを用いてもよい。このドライビングポジションセンサは、シート前後位置とヘッドレストに設けられた頭部位置検出センサにより検出された頭部の前後位置に基づいて、運転者の頭部の位置を検出するものである。加減速(特に加速)の際、運転者は頭部を前方に移動させることがあり、その頭部の移動に基づいて運転者の加減速動作又は状態が検出される。
【0029】
また、ドライブ状態センサ17として、例えば運転者の視線方向を検出する視線検出センサを用いてもよい。この視線検出センサとして、運転者の顔画像を撮像するカメラが用いられる。運転者は、加速の際に前方のやや遠方を注視し、減速の際に前方の直前の他車両を注視する傾向があり、運転者の視線方向を検出することにより車両の加減速を予測することが可能となる。
【0030】
さらに、ドライブ状態センサ17として、車両の加減速を予測するための運転者の動作又は状態を検出するものであれば、上述したもの以外のものを用いてもよい。
【0031】
ECU2は、筒内圧検出部21、クランク同期信号生成部22、エンジン回転数検出部23、エンジン回転数予測部24、エンジン制御部25、加減速予測部26を備えている。
【0032】
筒内圧検出部21は、筒内圧センサ11の検出信号を所定の周期でサンプリングして筒内圧値をAD変換するものである。筒内圧検出部21におけるサンプリング周期は、クランク同期信号を用いて設定される。例えば、パルス信号であるクランク同期信号の立ち上がりエッジごとに筒内圧センサ11の検出信号がサンプリングされ、サンプリングされた筒内圧値がAD変換される。
【0033】
クランク同期信号生成部22は、エンジン3のクランク角信号に同期したクランク同期信号を生成するクランク同期信号生成手段として機能するものである。このクランク同期信号生成部22は、クランクセンサ12から出力されるクランク角信号を入力し、そのクランク角信号に基づいてクランク同期信号を生成する。
【0034】
具体的には、エンジン3の回転数が変動しないと予測された場合にはクランク角信号の周波数を逓倍させてなる逓倍信号がクランク同期信号として生成される。一方、エンジン3の回転数が変動すると予測された場合には予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号が生成される。このとき、クランク角信号の周波数を逓倍させてなる逓倍信号に対し、エンジン3の回転数の予測変動量に応じて信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号が生成される。
【0035】
エンジン回転数検出部23は、エンジン3の回転数を検出するエンジン回転数検出手段として機能するものであり、例えばクランクセンサ12から出力されるクランク角信号に基づいてエンジン3の回転数を検出する。
【0036】
エンジン回転数予測部24は、エンジン3の回転数の変動を予測するエンジン回転予測手段として機能するものであり、所定の周期で繰り返しエンジン3の回転数の変動時期及び回転数の変動量を予測する。例えば、エンジン回転数予測部24は、車両の加減速操作が実行されるまでの時間に基づいて内燃機関の回転数の変動時期を予測し、車両の加減速値に基づいて車両の加減速する際の内燃機関の回転数を予測する。
【0037】
エンジン制御部25は、エンジン3の制御を行う内燃機関制御手段であり、クランク同期信号を用いエンジン3に制御信号を出力して制御を実行する。例えば、クランク同期信号の立ち上がりエッジごとに筒内圧センサ11の検出信号がサンプリングされAD変換されて筒内圧値が記録される。また、クランク同期信号の周期に応じて、燃料噴射時期、点火時期のタイミングの設定などを行い、エンジン3の制御が実行される。
【0038】
加減速予測部26は、車両の加減速を予測する加減速予測手段として機能するものである。加減速予測部26における加減速予測処理において、例えば、車両の走行状況が検出され、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況が蓄積され、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて現在から加減速操作が実行されるまでの時間が予測される。また、車両の走行状況が検出され、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況が蓄積され、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて加減速時の加減速値が予測される。
【0039】
車両の走行状況の検出処理においては、車速センサ13、車間距離センサ14、照度センサ15、傾斜センサ16、ドライバ状態センサ17の全部又は一部の検出信号に基づいて車両の走行状況が検出される。走行状況の蓄積処理は、車両の走行状況と加減速操作を関係付けてそれぞれのデータを蓄積する処理である。この蓄積データを用いることにより、現在の車両の走行状態から加減速操作を行うかどうか及びどの程度加減速するかどうかを予測することができる。
【0040】
エンジン3は、図示しない点火プラグ、インジェクタなどを備えており、ECU2のエンジン制御部25から出力される制御信号を受けて駆動制御されている。
【0041】
次に、本実施形態に係る内燃機関制御装置1の動作について説明する。
【0042】
図2は本実施形態に係る内燃機関制御装置1の動作を示すフローチャートである。図2のフローチャートは、例えばECU2によって所定の周期で繰り返し実行される。
【0043】
まず、図2のステップS10(以下、単に「S10」と示す。ステップS10以降のステップについても同様とする。)に示すように、センサ値の読み込み処理が行われる。この読み込み処理は、クランクセンサ12の検出値と車両の加減速予測のためのセンサ検出値を少なくとも読み込む処理である。車両の加減速予測のためのセンサ検出値としては、例えば車速センサ13の車速値、車間距離センサ14の前方車両との距離の値、照度センサ15の周辺の照度値、傾斜センサ16の路面傾斜値、ドライバ状態センサ17の検出値が読み込まれる。また、S10において、筒内圧センサ11の検出値も読み込まれる。
【0044】
そして、S12に処理が移行し、クランク同期信号の生成処理が行われる。この生成処理は、クランクセンサ12から出力されるクランク角信号に同期したクランク同期信号を生成する処理である。例えば、この生成処理では、クランク角信号の周波数を逓倍させてなる逓倍信号がクランク同期信号として生成される。クランク角信号が10CA信号である場合、そのクランク角信号を4倍に逓倍した2.5CAの信号がクランク同期信号として生成されるのが好ましい。
【0045】
そして、S14に処理が移行し、エンジン回転数検出処理が行われる。エンジン回転数検出処理は、エンジン3の回転数を検出する処理である。例えば、エンジン回転数検出処理では、クランクセンサ12から出力されるクランク角信号に基づいてエンジン3の回転数が検出される。
【0046】
そして、S16に処理が移行し、加減速予測処理が行われる。加減速予測処理は、内燃機関制御装置1が搭載される自車両の加減速を予測する処理である。この加減速予測処理において、例えば現在の車両の走行状況に近似する過去の車両の走行状況が抽出され、その過去の車両の走行状況の際の加減速状態に基づいて、車両の加減速が行われるか否か、加減速が行われる場合にその加減速の開始時期及び加減速値がそれぞれ予測される。
【0047】
具体的には、予め過去の車両の走行状況を示す複数の予測パラメータのデータが蓄積され、その予測パラメータに対応する加減速状態データが関連付けて記録される。そして、現在の車両の走行状況を示す複数のデータに基づいて、車両の加減速が行われるか否か、加減速が行われる場合にその加減速の開始時期及び加減速値がそれぞれ予測される。
【0048】
予測パラメータとしては、例えば車速、車間距離、照度、傾斜度、把持力が設定される。ここで把握力は、ドライバ状態の予測パラメータとして設定されるものである。この場合、過去の車速、車間距離、照度、傾斜度、把持力が車両の加減速状態と関係付けられて予測パラメータとして蓄積されている。現在の車速、車間距離、照度、傾斜度、把持力に近似する予測パラメータを抽出することにより、抽出される予測パラメータに関連付けられて蓄積される加速度状態のデータに基づいて、車両の加速度状態を予測することができる。
【0049】
このとき、車両の加速度状態として、加減速が開始される時期及び加減速の度合い(加減速値)を予測することにより、エンジン3の回転数の変動時期と変動量を推定することができ、エンジン3の回転状況に応じた適切な制御処理が可能となる。
【0050】
そして、S18に処理が移行し、車両の加減速が行われるか否かが判断される。この判断処理においては、S16の加減速予測処理の結果に基づいて、車両の加減速が行われるか否かが判断される。
【0051】
S18において、車両の加減速が行われないと判断された場合には、通常の筒内圧検出処理が行われる(S20)。通常の筒内圧検出処理は、現在のエンジン回転数に応じたクランク同期信号を用いてエンジン制御処理を行うものであって、現在のエンジン回転数に応じたクランク同期信号に用いてエンジン3の筒内圧の検出を行う処理である。
【0052】
具体的には、S12にて生成したクランク同期信号(例えばクランク角信号の4倍の逓倍信号)の立ち上がりエッジのタイミングで筒内圧センサ11の検出信号がサンプリングされAD変換される。
【0053】
このように、クランク同期信号を用いエンジン3の回転数に応じたタイミングでエンジン制御処理を行うことにより、エンジン回転数が低い場合には制御処理の頻度を少なくして演算処理負荷を低減することができ、エンジン回転数が高い場合には制御処理を短い間隔で繰り返して制御処理の精度を向上させることができる。
【0054】
一方、S18において、車両の加減速が行われると判断された場合には、エンジン回転数予測処理が行われる(S22)。エンジン回転数予測処理は、車両のエンジン3の回転数を予測する処理であって、エンジン3の回転数の変動時期及び回転数の変動量を予測するものである。例えば、エンジン回転数予測処理では、車両の加減速操作が実行されるまでの時間に基づいてエンジン3の回転数の変動時期が予測され、車両の加減速値に基づいて車両の加減速する際のエンジン3の回転数が予測される。
【0055】
具体的には、車両の加減速操作が実行されるまでの時間とエンジン3の回転数の変動時期を関係付けるマップ、テーブル又は演算式を予め設定しておき、このマップなどを用い現在の加減速操作が実行されるまでの時間に基づいてエンジン3の回転数の変動時期を予測すればよい。また、車両の加減速値とエンジン3の回転数を関係づけるマップ、テーブル又は演算式を予め設定しておき、このマップなどを用い現在予測された加減速値に基づいてエンジン3の回転数の変動量を予測すればよい。
【0056】
そして、S24に処理が移行し、予測回転数に応じたクランク同期信号の生成処理が行われる。この生成処理は、S22にて予測されたエンジン3の予測回転数に応じたクランク同期信号を生成する処理である。例えば、予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ、信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号が生成される。このとき、クランク角信号の周波数を逓倍させてなる逓倍信号に対し、エンジン3の回転数の予測変動量に応じて信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号が生成される。
【0057】
具体的に説明すると、図3に示すように、クランク角信号Aに基づいて、クランク同期信号B1が生成される。クランク角信号Aは、一周期が10CAの信号である。クランク同期信号B1は、エンジン回転数の変動を予測して生成される信号であり、本発明の実施形態に用いられる信号となるものである。一方、クランク同期信号B0は、エンジン回転数の変動を予測しないで生成される信号であり、比較例となるものである。
【0058】
クランク同期信号B1は、エンジン回転数の変動がない場合には、一つ前の周期のクランク角信号Aの周期時間に基づいて何逓倍の信号とするかが決定される。一方、エンジン回転数の変動がある場合には、その変動開始時期及び変動量に応じて信号成分を変化させて生成される。図3では、時間t3に回転変動があることが予測されているため、その変動時期及び変動量に合わせて時間t3〜t4における信号成分の周波数を変化させている。これにより、エンジン3の回転数の変動に遅れることなくエンジン回転数に応じた周波数のクランク同期信号を生成することができる。
【0059】
これに対し、クランク同期信号B0は、一周期前のクランク角信号Aのパルス周期のみに基づいて周波数を決定している。時間t3に回転数変動があっても、時間t3〜t4の周波数は、時間t2〜t3の周波数となる。このため、時間t3〜t4において、回転数変動に追従して信号の周波数を変えることができない。このため、エンジン3の回転数に応じた周波数のクランク同期信号を生成することができない。
【0060】
そして、図2のS26に処理が移行し、加減速に応じた筒内圧検出処理が行われる。この処理は、予測されたエンジン回転数の変動に応じたクランク同期信号を用いてエンジン制御処理を行うものであって、予測されたエンジン回転数の変動に応じたクランク同期信号を用いてエンジン3の筒内圧の検出を行う処理である。具体的には、S24にて生成したクランク同期信号の立ち上がりエッジのタイミングで筒内圧センサ11の検出信号がサンプリングされAD変換される。
【0061】
そして、S28に処理が移行し、エンジン制御処理が行われる。エンジン制御処理は、エンジン3に対し制御信号を出力する処理である。例えば、所定の周期でサンプリングしAD変換した筒内圧値に応じて着火時期を決定し、その着火タイミングでエンジン3に対し制御信号を出力する。S28の制御処理を終えたら、一連の制御処理を終了する。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る内燃機関制御装置1によれば、エンジン3の回転数が変動すると予測された場合に予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させてクランク同期信号を生成することにより、エンジン3の回転数の変動に応じたクランク同期信号に基づいてエンジン3関の制御を行うことができる。このため、エンジン3の回転数の変動があった場合でも適切な制御処理が行え、処理精度の低下を抑制できる。
【0063】
また、本実施形態に係る内燃機関制御装置1において、クランク同期信号に基づきサンプリングを行ってエンジン3の筒内圧を検出することにより、エンジン3の回転数が低い場合に筒内圧の検出頻度を下げて演算負荷を低減できる。そして、エンジン3の回転数が変動する場合にはその変動を予測してクランク同期信号を生成することにより、エンジン3の回転数の変動に対応した筒内圧の検出が行える。従って、エンジン3の回転数が低い場合に筒内圧の検出頻度を下げて演算負荷を低減しつつ、エンジン3の回転数が変動する場合にその変動に応じたタイミングで筒内圧を検出して検出精度の低下を抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る内燃機関制御装置1において、エンジン3を搭載した車両の加減速の開始時期に基づいてエンジン3の回転数の変動時期を予測することにより、エンジン3の回転数の変動時期を適切に予測することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る内燃機関制御装置1において、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて現在から加減速操作が実行されるまでの時間を予測し、加減速操作が実行されるまでの時間に基づいて回転数の変動時期を予測することにより、エンジン3の回転数の変動時期を的確に予測することができる。
【0066】
さらに、本実施形態に係る内燃機関制御装置1において、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて加減速時の加減速値を予測し、その予測された加減速値に基づいて加減速時のエンジン3の回転数を予測することにより、エンジン3の回転数の変動量を的確に予測することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態は本発明に係る内燃機関制御装置の実施形態を説明したものであり、本発明に係る内燃機関制御装置は本実施形態に記載したものに限定されるものではない。本発明に係る内燃機関制御装置は、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る内燃機関制御装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…内燃機関制御装置、2…ECU、3…エンジン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の回転に対応した信号を用いて前記内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置において、
前記内燃機関のクランク角信号に同期したクランク同期信号を生成するクランク同期信号生成手段と、
前記内燃機関の回転数及びその回転数の変動時期を予測する回転数予測手段と、
前記クランク同期信号を用いて前記内燃機関の制御を行う制御手段と、
を備え、
前記クランク同期信号生成手段は、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動すると予測された場合に、予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させて前記クランク同期信号を生成すること、
を特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記クランク同期信号生成手段は、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動しないと予測された場合にはクランク角信号の周波数を逓倍させてなるクランク同期信号を生成し、前記回転数予測手段により前記内燃機関の回転数が変動すると予測された場合には予測された回転数変動時期及び予測された変動回転数に応じ信号成分の周波数を変化させて前記クランク同期信号を生成する、
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記回転数予測手段は、前記内燃機関を搭載した車両の加減速の開始時期に基づいて前記内燃機関の回転数の変動時期を予測する、
請求項1又は2に記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
前記回転数予測手段は、車両の走行状況を検出する走行状況検出手段と、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況を蓄積するデータ蓄積手段と、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて現在から加減速操作が実行されるまでの時間を予測する加減速時間予測手段を備え、加減速操作が実行されるまでの時間に基づいて内燃機関の回転数の変動時期を予測する、
請求項3に記載の内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記回転数予測手段は、車両の走行状況を検出する走行状況検出手段と、その車両の加減速時よりも所定時間前における走行状況を蓄積するデータ蓄積手段と、現在の走行状況と類似した過去の走行状況に基づいて加減速時の加減速値を予測する加減速値予測手段を備え、予測された加減速値に基づいて加減速時の内燃機関の回転数を予測する、
請求項3又は4に記載の内燃機関制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−58434(P2011−58434A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209570(P2009−209570)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】