説明

内燃機関用ピストンの冷却構造

【課題】クーリングチャンネルが簡単な形状で生産性に優れると共に、クラウン部を効率よく冷却できる内燃機関用ピストンの冷却構造を提供する。
【解決手段】クラウン部2内に環状のクーリングチャンネル10に噴射ノズル31から噴出された冷却オイルをクーリングチャンネル10に導入するオイル入口通路15が連通し、オイル入口通路15から導入された冷却オイルをオイル入口通路15と対向するクーリングチャンネル10の内面10bで2方向に分流させる内燃機関用ピストンの冷却構造であって、オイル入口通路10が内面10bの周方向に対して傾斜方向成分を有するように傾斜する。オイル入口通路15から導入される冷却オイルが、内面10bによって予め設定された2方向の流れに分配制御されてクラウン部2を効率的に冷却できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンの冷却構造に関し、特にクラウン部内に冷却オイルを通す環状のクーリングチャンネルが形成された内燃機関用ピストンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関用ピストンは、例えば特許文献1に記載され、かつ図6に断面図を示すように、クラウン部101内に環状のクーリングチャンネル102が形成される。このクーリングチャンネル102の適所にクランク室側に開口するオイル入口通路103とオイル出口通路104を連通させ、クランク室に設けた噴射ノズルからオイル入口通路103に向けて冷却オイルを吹き付ける。噴射ノズルからオイル入口通路103に導入された冷却オイルは、オイル入口通路103と対向するクーリングチャンネル102の内面102aで、クーリングチャンネル102が延在する一方側と他方側の2方向に分流してクラウン部101を冷却し、冷却した後の冷却オイルはオイル出口通路104からクランク室内に排出される。なお、この特許文献1においては、図7に図6のII−II線断面図を示すようにオイル入口通路103のオイル入口103aをピストン中心軸Lから極力離して配置すると共にオイル入口通路103をピストン中心軸Lに対して傾斜角αを有するように構成して、オイル入口通路103が穿設されるピストンボス部105の余肉を少なくしてピストンの軽量化を図っている。
【0003】
一方、V型エンジンや水平対向エンジン等のようにピストン中心軸が上下方向に対して傾斜或いは直交するピストンにあってはクーリングチャンネルが上下に傾斜することから、重力に影響されてオイル入口通路からクーリングチャンネルに導入される冷却オイルがクーリングチャンネル内の下方側に多く流動して、クーリングチャンネルの下方側に比較して上方側への冷却オイルの供給量が減少する傾向にある。また、ピストンのクラウン部における排気弁側が多く加熱されて吸気弁側に対して高温になる傾向がある。
【0004】
この種のピストンにあっては、オイル入口通路よりクーリングチャンネル内に導入された冷却オイルの流れをクーリングチャンネル102が延在する一方側と他方側の2方向に適切に振り分けてクラウン部全体を均等に冷却する必要があり、このため種々の内燃機関用ピストンの冷却構造がある。
【0005】
例えば、特許文献2のピストンの冷却構造は、図8に要部断面を示すように、クーリングチャンネル111をオイル入口通路112と図示しないオイル出口通路によってクーリングチャンネル111の延在方向に沿った2つの冷却オイル通路111aと111bに分割し、クーリングチャンネル111のオイル入口通路112と対向する内面にオイル入口通路112から導入された冷却オイルを2つの冷却オイル通路方向111a、111bに分流する斜面113a、113bを有する山形形状の分配壁113が一体形成される。
【0006】
この分配壁113を噴射ノズル115またはオイル導入孔112の中心から所定量ずらすことによって、オイル入口通路112から導入された冷却オイルを分配壁113の斜面113a、113bによって所定の割合で各冷却オイル通路方向111aと111bに分配して、クーリングチャンネル111内の冷却オイルの流量を制御している。
【0007】
また、特許文献3のピストンの冷却構造は、図9に要部断面図を示すようにクーリングチャンネル121をオイル入口通路122と図示しないオイル出口通路によってクーリングチャンネル121の延在方向に沿った2つの冷却オイル通路121aと121bに分割し、この冷却オイル通路121a、121bのうち第1冷却オイル通路121aの路長を第2冷却オイル通路121bの路長に対して短くし、第1冷却オイル通路121aの孔径を第2冷却オイル通路121bの孔径より小さくすることによってクーリングチャンネル121内を流れる冷却オイルの流量を制御している。
【0008】
【特許文献1】実開昭62−122155号公報
【特許文献2】特開平09−96248号公報
【特許文献3】実開平07−42418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2によると、噴射ノズル115またはオイル入口通路112の中心に対して分配壁113の位置をずらして形成することにより、オイル入口通路112から導入された冷却オイルが分配壁113によって所定の割合で2方向に分配されてクラウン部を均等に冷却することができる。
【0010】
しかし、エンジンの仕様や要求される冷却状況に応じた適切な位置に分配壁113を設定することは極めて困難で多くの作業コストを要すると共に、ピストンを成型するための鋳型、特に複雑な形状のクーリングチャンネル111を成型する中子の形状が複雑でその精度管理が要求され、生産性の低下が懸念される。
【0011】
また、特許文献3によると、クーリングチャンネル121の第1冷却オイル通路121aの路長に対して第2冷却オイル通路121bの路長を短くし、第1冷却オイル通路121aの孔径を第2冷却オイル通路121aの孔径より小さくすることによってクーリングチャンネル121内の冷却オイルの流量が制御されてクラウン部を均等に冷却できる。
【0012】
しかし、エンジンの仕様や要求される冷却状況に応じてクーリングチャンネル121の第1冷却オイル通路121a及び第2冷却オイル通路121bの路長及び孔径を設定することは極めて困難で多くの作業コストを要すると共に、ピストンを成型するための鋳型、特に複雑な形状のクーリングチャンネル121を成型する中子の形状が複雑でその精度管理が要求され生産性の低下が懸念される。また、クーリングチャンネルの断面積が変化する部分では管路抵抗が大きくなり冷却オイルの補集量の低下が懸念される。
【0013】
更に、エンジンの仕様等の変更に伴ってクーリングチャンネルへの冷却オイルの供給量を変更する場合には、この冷却オイルの供給量の変化に対応してクーリングチャンネルの分配壁の位置の変更や、各冷却オイル通路の路長及び孔径の設定変更は極めて困難で多くの作業コストを要する。
【0014】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、クーリングチャンネルが簡単な形状で生産性に優れると共にクラウン部を効率よく冷却でき、更に冷却特性の変更が容易な内燃機関用ピストンの冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する請求項1に記載の内燃機関用ピストンの冷却構造の発明は、クラウン部内に環状のクーリングチャンネルを形成し、該クーリングチャンネルに、噴射ノズルから噴出された冷却オイルをクーリングチャンネルに導入するオイル入口通路及びクーリングチャンネルから冷却オイルを排出するオイル出口通路が連通し、オイル入口通路から導入された冷却オイルをオイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面でクーリングチャンネルが延在する2方向に分流させる内燃機関用ピストンの冷却構造において、上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記内面の周方向に対して傾斜する傾斜方向成分を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によると、クーリングチャンネルに連通するオイル入口通路が、オイル入口通路と対向する内面の周方向に対して傾斜方向成分を有するように傾斜することから、オイル入口通路からクーリングチャンネル内に導入される冷却オイルが、オイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面によって予め設定された2方向の流れ方向の成分に分配制御され、適切に2方向に分配されてクーリングチャンネル内を流れる冷却オイルによってクラウン部を効率的に冷却することができる。
【0017】
また、エンジンの仕様等の変更に伴ってクーリングチャンネルへの冷却オイルの供給量を変更する場合には、この冷却オイルの供給量の変化に対応して冷却オイル入口通路の穿設方向を変更する簡単な形状変更によって冷却オイルの分配割合が制御でき、クーリングチャンネルの形状等を変更することなく容易に適用することができる。
【0018】
更に、クーリングチャンネルが一定な断面形状で連続する簡単な環状に形成されることから、ピストンを成型するための鋳型、特にクーリングチャンネルを成型する中子の形状が簡素化され、その精度管理が容易で生産性の向上が得られる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1の内燃機関用ピストンの冷却構造において、上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記噴射ノズルの冷却オイル噴射方向に対して傾斜すると共に内側面に噴射ノズルから噴射される冷却オイルが衝突する冷却オイル衝突面を備えたことを特徴とする。
【0020】
この発明によると、噴射ノズルの噴射方向に対しオイル入口通路の延在方向が傾斜することから、噴射ノズルから噴射された冷却オイルによりオイル入口部分の急激な圧力上昇が防止されてオイル入口通路への冷却オイルの導入が円滑になり、クーリングチャンネルに供給される冷却オイルの捕集率が向上する。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の内燃機関用ピストンの冷却構造において、上記内燃機関用ピストンは、該ピストンの中心軸が上下方向に対して傾斜或いは直交し、上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記内燃機関用ピストンの半径方向に対して上方方向の成分を有して傾斜したことを特徴とする。
【0022】
この発明によると、オイル入口通路からクーリングチャンネル内に導入される冷却オイルは、重力に起因する影響を防止するようにオイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面の周方向上方への冷却オイルの流れ量の増大が得られ、重力に影響されてクーリングチャンネルの下方側に比較して上方側への冷却オイルの供給量が減少する不具合が防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、オイル入口通路からクーリングチャンネル内に導入される冷却オイルが、オイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面によって予め設定された2方向の流れ方向の成分に分配制御され、適切に2方向に分配されてクーリングチャンネル内を流れる冷却オイルによってクラウン部を効率的に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、ピストンの中心軸が上下方向に対して傾斜して水平方向に延在する水平対向型エンジンの場合を例に本発明の内燃機関用ピストンの実施の形態を説明する。
【0025】
(第1実施の形態)
本発明の第1実施の形態を図1乃至図4を参照して説明する。
【0026】
図1は内燃機関用ピストンの要部を示す側面図、図2は図1のA矢視図、図3は図1のB矢視図、図4はクーリングチャンネルとオイル入口通路の接続部を示す図2のI−I線断面図である。図1及び図2における仮想線Lはシリンダの延在方向となる水平方向に延在するピストン中心軸を示し、各図において矢印UPは上方を示す。
【0027】
ピストン1は燃焼室51側に頂面2aを有する円柱状のクラウン部2と、クラウン部2の上部及び下部からそれぞれ断面円弧状でピストン中心軸Lの延在方向に沿ってクランク室52側に延在する上側スカート3及び下側スカート4を備えている。
【0028】
クラウン部2のクランク室52側にはクランク室52側に突出する一対のピンボス部5、7が対向して形成され、ピンボス部5の頂端にピストン中心軸Lとほぼ直交する平面状のオイル入口開口部5aが形成される。同様にピンボス部7の頂端にピストン中心軸Lとほぼ直交する平面状のオイル出口開口部7aが形成される。
【0029】
この各ピンボス部5、7にピストン中心軸Lと直交して水平方向に延在するピストンピン孔6、8がそれぞれ形成され、この各ピストンピン孔6、8に図示しないクランク軸とピストン1とを連結するコネクティングロッドの端部を軸支するピストンピンの端部が嵌合する。
【0030】
クラウン部2の外周に頂面2a側から上側スカート3及び下側スカート4に向けて順にコンプレッションリング溝2b、2c、オイルリング溝2dの各ピストンリング溝が形成され、コンプレッションリング溝2b、2cにそれぞれ図示しないコンプレッションリングが装着され、オイルリング溝2dにオイルリングが装着される。
【0031】
クラウン部2内に各コンプレッションリング溝2b、2c及びオイルリング溝2dの各リング溝に沿ってほぼ同一断面形状で延在する環状のクーリングチャンネル10が形成される。
【0032】
更に、オイル入口開口部5bにオイル入口16が開口し、かつクーリングチャンネル10の上端部10aより下方においてクーリングチャンネル10に入口側連通口17が開口する直線状のオイル入口通路15がピンボス部5の上部に沿って穿設され、オイル入口通路15はクーリングチャンネル10とほぼT字状に連通している。
【0033】
このオイル入口通路15は、図1乃至図3に示すようにピストン中心軸L延在方向にクランク室52側から燃焼室51側に見て、ピストン中心軸Lとオイル入口開口部5bに開口するオイル入口16の中心16aを結ぶ仮想線aに対してクーリングチャンネル10側に開口する入口側連通口17の中心17aが上方側に位置するように、ピストン中心軸L方向に対して傾斜して形成される。本実施の形態ではオイル入口16の中心16aと入口側連通口17の中心17aとを結ぶオイル入口通路15のオイル入口通路中心軸15aが、図1に示すように側面視状態で水平に延在し、かつ、図2に示す平面視状態においてオイル入口16側から入口連通口17側に移行するに従って漸次ピストン中心軸Lに接近するように傾斜して延在している。即ち、図3に示すようにピストン中心軸L延在方向にクランク室52側から燃焼室51側を見て、ピストン中心軸Lとオイル入口開口部5aに開口するオイル入口16の中心16aを結ぶ仮想線aに対してオイル入口通路15のオイル入口通路中心軸15aが上方に傾斜角θを有している。即ち、オイル入口通路15は、その中心軸15aが入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bの周方向に対して傾斜した傾斜方向成分を有し、かつピストン1の半径方向に対して傾斜した上方方向の成分を有して傾斜する。
【0034】
オイル出口開口部7aにオイル出口20が開口し、入口側連通口17からピストン中心軸Lを中心にほぼ180°離隔した位置でクーリングチャンネル10に連通する出口側連通口19が開口する直線状のオイル出口通路18がピンボス部7の下部に沿って穿設され、オイル出口通路18はクーリングチャンネル10とほぼT字状に連通している。これによりクーリングチャンネル10には、オイル入口通路15からクーリングチャンネル10内に導入された冷却オイルをオイル出口通路18に誘導する第1冷却オイル通路11と第2冷却オイル通路12が形成される。
【0035】
一方、オイル供給手段は、図示しないオイルポンプから圧送された冷却オイルが噴射ノズル31に供給され、噴射ノズル31はピストン1に形成されたオイル入口開口部5aに開口するオイル入口通路15のオイル入口16に向けて冷却オイルを吹き付ける。
【0036】
そして、噴射ノズル31から噴射された冷却オイルは、オイル入口16からオイル入口通路15に導入され、オイル入口通路15のクーリングチャンネル10の入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bによって、図4に示すように入口側連通口17からクーリングチャンネル10の上方側となる第1冷却オイル通路11と下方側となる第2冷却オイル通路12の2方向に分流してクラウン部2を冷却し、冷却した後の冷却オイルは出口側連通口19からオイル出口路18を経てオイル出口20からクランク室52内に排出される。
【0037】
ここで、上記のようにピストン中心軸L延在方向にクランク室52側から燃焼室51側に見て、ピストンピン中心軸Lとオイル入口開口部5aに開口するオイル入口16の中心16aを結ぶ仮想線aに対して入口側連通口17の中心17aが上方となるように傾斜することから、オイル入口通路15の入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bが、周方向においてオイル入口通路中心軸15aに対し第1冷却オイル通路11側が鈍角となり第2冷却オイル通路12側が鋭角となる傾斜面に形成される。換言すると、オイル入口通路15は、その中心軸15aが入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bの周方向に対して傾斜した傾斜方向成分を有し、かつピストン1の半径方向に対して傾斜した上方方向の成分を有して傾斜する。
【0038】
これにより、オイル入口通路15の入口側連通口17からクーリングチャンネル10内に導入される冷却オイルは、重力に起因する影響を防止するように内面10bの周方向上方となる第1冷却オイル通路11側への流れ量が増大すると共に第2冷却オイル通路12側への流れ量が減少して第1冷却オイル通路11側方向及び第2冷却オイル通路12にそれぞれ均等に分配される。これにより第1冷却オイル通路12を経由してオイル出口路18から排出される冷却オイル量と第2冷却オイル通路12を経由してオイル出口通路18から排出される冷却オイル量が均一に制御され、第1冷却オイル通路11及び第2冷却オイル通路12内を均一に流れる冷却オイルによってクラウン部2全体が均等に冷却される。
【0039】
ここで、仮にピストン中心軸L延在方向にクランク室52側から燃焼室51側に見て、ピストン中心軸Lとオイル入口開口部5aに開口するオイル入口16の中心16aを結ぶ仮想線a上に入口側連通口17の中心17aが位置した場合には、オイル入口通路15の入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bが、オイル入口通路中心軸15aに対して直交して対向し、オイル入口通路15の入口側連通口17からクーリングチャンネル10内に導入される冷却オイルは、重力に影響されて第1冷却オイル通路11側への流れ量が減少して第2冷却オイル通路12側への流れ量が増大してクラウン部2の冷却が不均等になることが懸念される。
【0040】
なお、オイル入口通路15の入口側連通口17からクーリングチャンネル10内に導入される冷却オイルにおける第1冷却オイル通路11側への流れ量及び第2冷却オイル通路12側への流れ量の分配割合は、クーリングチャンネル10に冷却オイルが導入される導入方向となる冷却オイル入口通路15の延在方向と入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bとの相対傾斜角度及び内面10bに対する冷却オイルの衝突速度等によって決定される。即ち、冷却オイル入口通路15のオイル入口通路中心軸15aの延在方向となる冷却オイル入口通路15の穿設方向を変更や、噴射ノズル31による噴射速度を変更することによって容易に制御できる。
【0041】
また、上記実施の形態では、オイル入口通路15の入口側連通口17からクーリングチャンネル10内に導入される冷却オイルを均等な流れ成分となるように第1冷却オイル通路11側及び第2冷却オイル通路12側に分配したが、更にクラウン部2における排気弁側が多く加熱されて吸気弁側に対して高温になる傾向があること等に起因するピストン1のクラウン部2の各部の要求冷却に応じて、第1冷却オイル通路11側及び第2冷却オイル通路12側への分配割合を冷却オイル入口通路15のオイル入口通路中心軸15aの延在方向となる冷却オイル入口通路15の穿設方向の変更や、噴射ノズル31による噴射速度を変更することによって制御できる。
【0042】
従って、以上のように構成された本実施の形態の内燃機関用ピストンの冷却構造によると、オイル入口通路15からクーリングチャンネル10内に導入される冷却オイルが、オイル入口通路15の入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bによって、適切に第1冷却オイル通路11及び第2冷却オイル通路12に分配されてクーリングチャンネル10内を流れる冷却オイルによってクラウン部2を効率的に冷却することができる。
【0043】
また、エンジンの仕様等の変更に伴ってクーリングチャンネルへの冷却オイルの供給量を変更する場合には、この冷却オイルの供給量の変化に対応して冷却オイル入口通路15の穿設方向を調整する簡単な変更で、第1冷却オイル通路11及び第2冷却オイル通路12への分配割合が制御でき、クーリングチャンネル10の形状等を変更することなく容易に適用することができる。
【0044】
また、従来のようにクーリングチャンネルの内面に山形形状の分配壁を設けることや、各冷却オイル通路の路長を不等長及び異なる内径にすることなく、クーリングチャンネルが一定な断面形状で連続する簡単な環状に形成され、ピストン成型するための鋳型、特にクーリングチャンネルを成型する中子の形状が簡素化され、その精度管理が容易で生産性の向上が得られる。
【0045】
(第2実施の形態)
本発明の第2実施の形態を図5を参照して説明する。
【0046】
図5は、ピストン1のクーリングチャンネル10とオイル入口通路15及び噴射ノズル31の相関位置を示す第1実施の形態における図4に対応する断面図である。本実施の形態は、噴射ノズル31から噴射される冷却オイルの噴射方向とオイル入口通路15との相対位置関係が第1実施の形態と異なり、他の構成は第1実施の形態と同様であり、該部を主に説明し他の構成は対応する部位に図1乃至図4と対応する符号を付することで詳細な説明は省略する。
【0047】
本実施の形態におけるピストン1に形成されるオイル入口通路15には、そのオイル入口通路中心軸15aが例えばピストン中心軸L延在方向に対して2.5°傾斜し、クランク室52側から燃焼室51側に見てクーリングチャンネル10の第1冷却オイル通路11側と対向する内側面に冷却オイル衝突面15bが形成されている。
【0048】
一方、噴射ノズル31は、その冷却オイル噴射方向がピストン1のオイル入口中心軸15aに対して傾斜、例えばピストン中心軸Lの延在方向に対して平行に設定され、噴射ノズル31からオイル入口開口部5aに開口するオイル入口16に向かって冷却オイルが噴射される。
【0049】
そして、噴射ノズル31から噴射された冷却オイルは、オイル入口16からオイル入口通路15の内周面に形成された予め設定された冷却オイル衝突面15bに予め設定された衝突角度β、例えば2.5°で衝突した後、後入口側連通口17からクーリングチャンネル10に導入され、オイル入力通路15の入口側連通口17と対向するクーリングチャンネル10の内面10bによって第1冷却オイル通路11及び第2冷却オイル通路12に分流される。
【0050】
このように構成することによって、噴射ノズル31から噴射された冷却オイルは、オイル入口16からオイル入口通路15の内周面に形成された予め設定された衝突角度βでオイル衝突面15bに衝突した後、入口側連通口17からクーリングチャンネル10に導入され、第1冷却オイル通路11側への流れ量の増大が容易になる。
【0051】
また、噴射ノズル15の噴射方向に対しオイル入口通路15の延在方向が傾斜することから、噴射ノズル15から噴射された冷却オイルによりオイル入口16部分の急激な圧力上昇が防止され、いわゆる空気ハンマ現象の発生が回避されオイル入口通路15に円滑に導入され、クーリングチャンネル10への冷却オイルの導入が容易になり冷却オイルの捕集率の向上が得られ、クーリングチャンネル10によるクラウン部2の冷却効率の向上が得られる。
【0052】
なお、上記実施の形態では水平対向エンジンにおけるピストンの冷却構造を例に説明したが、本発明はピストンの中心軸が上下方向に対して傾斜したV型エンジン等他の形式のピストンの冷却構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施の形態に係る内燃機関用ピストンの冷却構造の要部を示す側面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図1のB矢視図である。
【図4】クーリングチャンネルとオイル入口通路の接続部分を示す図2のI−I線断面図である。
【図5】第2実施の形態に係るクーリングチャンネルとオイル入口通路及びノズルの相関位置を示す図である。
【図6】従来の内燃機関用ピストンの要部を示す図である。
【図7】図6のII−II線断面図である。
【図8】従来の内燃機関用ピストンの要部を示す図である。
【図9】従来の内燃機関用ピストンの要部を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ピストン
2 クラウン部
5、7 ピンボス部
10 クーリングチャンネル
10b オイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面
15 オイル入口通路
16 オイル入口
17 入口側連通路
18 オイル出口通路
19 出口側連通口
20 オイル出口
31 噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウン部内に環状のクーリングチャンネルを形成し、該クーリングチャンネルに、噴射ノズルから噴出された冷却オイルをクーリングチャンネルに導入するオイル入口通路及びクーリングチャンネルから冷却オイルを排出するオイル出口通路が連通し、オイル入口通路から導入された冷却オイルをオイル入口通路と対向するクーリングチャンネルの内面でクーリングチャンネルが延在する2方向に分流させる内燃機関用ピストンの冷却構造において、
上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記内面の周方向に対して傾斜する傾斜方向成分を有することを特徴とする内燃機関用ピストンの冷却構造。
【請求項2】
上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記噴射ノズルの冷却オイル噴射方向に対して傾斜すると共に内側面に噴射ノズルから噴射される冷却オイルが衝突する冷却オイル衝突面を備えたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストンの冷却構造。
【請求項3】
上記内燃機関用ピストンは、該ピストンの中心軸が上下方向に対して傾斜或いは直交し、
上記オイル入口通路は、該オイル入口通路の中心軸が上記内燃機関用ピストンの半径方向に対して上方方向の成分を有して傾斜したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストンの冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−127577(P2009−127577A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305322(P2007−305322)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】