説明

内面溝付管及びその製造方法

【課題】本発明は、熱伝導性能に優れ、小型化、軽量化を図ることができ、省資源化を実現することができる内面溝付管及びこのような内面溝付管を効率よく安定して製造することができる製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】設置部50上を引抜方向へ移動可能な可動手段33と、該可動手段33と設置部50の間で加工荷重Pを測定可能で荷重検出手段35と、巻取りドラム36を兼ねた引抜手段16を補助する補助引抜手段17と、補助引抜手段17とともに可動手段33上に設置され、素管11aを加工する縮径手段13、及び、溝加工手段14とを備えた製造装置12を用いて、加工荷重をP(N)、溝加工手段通過後の管の軸方向に対する断面積、破断応力をそれぞれAC1(mm2)、σM(N/mm2)としたとき、Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう前記補助引抜手段17を制御することを特徴とする内面溝付き管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアコン、給湯器、冷凍機、床暖房等の、ヒートポンプ機器において、熱交換器用の伝熱管として用いられる内面溝付管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや給湯器などのヒートポンプ機器の熱交換器に用いられる伝熱管は、熱交換性能の向上を図るため、内面に溝加工を施した例えば、銅製の内面溝付管が用いられることが多い。
【0003】
近年では、熱交換器の小型化、高効率化の要求に対応させるため、内面に形成された溝を深くし、溝のねじれ角(リード角)を大きくし、フィンをシャープな形状にし、管の肉厚を薄くした内面溝付管を製造することにより、熱交換器の性能を向上させている。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、熱交換機器の小型化に有効な外径が3〜6mmという小径伝熱管が提案されているが、溝の加工性は、従来の加工方法で行うことを前提としているため、ねじれ角は小さく、性能向上の程度が小さかった。
【0005】
また、内面フィンの頂角が大きく、シャープな形状とはいえないため、近年の金属材料の省資源化に対応するための軽量化(単位長さあたりに使用する材料重量の削減)を図ることが難しかった。
【0006】
また、下記特許文献2では、内面溝深さを深くした高性能伝熱管の例が提案されているが、外径6mm以上のものを対象としている。
【0007】
下記特許文献3では、内面溝深さを深くし、ねじれ角の大きな高性能管の例が提案されているが、従来より、空調用伝熱管として一般的であった外径7mm前後の伝熱管を対象としている。
【0008】
このように上述した特許文献2、3では、伝熱管の内面の溝深さを深くしたり、ねじれ角を大きくすることで高性能化を図っているが、熱交換器の小型化に有効な外径6mm以下の小径伝熱管に適用できていない。その理由は、同じ肉厚で径が異なる管同士がであれば、小径な管の方が破断荷重が小さくなることから、管が小径になると、従来の加工方法では内面溝の加工荷重が、管の破断荷重を上回って加工できなったからである。
【0009】
特許文献4では、引抜き手段による管の引抜きを補助する補助引抜き装置と、引抜き力を検出する引抜き力検出手段と、前記引抜き力検出手段の検出値に基づいて、前記素管に対する引抜き力を目標範囲内に収まるように制御する制御手段とを備えた内面溝付管の製造装置、及び、該製造装置を用いた製造方法が提案されている。
【0010】
しかし、特許文献4では、内面溝付管の製造装置を運転する上で引抜き力検出手段で検出する加工荷重が最適となる目標荷重値が管軸方向に対する断面積との関係の上で明らかにされていない。このため、補助引抜き装置を適切に制御することができず、高性能な伝熱管を効率よく安定して製造することができなかった。
【特許文献1】特開平4−260792号公報
【特許文献2】特開平8−21696号公報
【特許文献3】特開2001−241877号公報
【特許文献4】特開2008−87004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、熱伝導性能に優れ、小型化、軽量化を図ることができ、省資源化を実現することができる内面溝付管及びこのような内面溝付管を効率よく安定して製造することができる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の内面溝付管は、管の中心軸に対する溝のねじれ角をβ(度)、隣り合う溝と溝の間で形成されるフィンの頂角をα(度)としたとき、βが30から60、αが5から20であり、外径をD(mm)、溝の深さをH(mm)、管の軸方向に対する断面積をA(mm)としたとき、Dが6以下、Hが0.07以上で、A<0.8×Dであることを特徴とする。
【0013】
前記構成により、従来の内面溝付管よりも溝深さを大きく、ねじれ角を大きく、頂角を小さくすることができ、熱伝達性能を大きくすることができる。さらに、断面積を小さくすることにより、軽量化、省資源化を図ることができる。
また、前記内面溝付管は、高性能で軽量な伝熱管として用いることにより、熱交換器の小型化、軽量化を図ることができる。
【0014】
この発明の態様として、内面溝付管は、外径D(mm)が3以上であることが好ましい。
【0015】
前記構成により、内面溝付管を、エアコンまたは給湯器などのヒートポンプ機器に、より好ましい伝熱管として用いることができる。
【0016】
またこの発明の態様として、内面溝付管は、溝の深さH(mm)が0.10から0.30であることが好ましい。
【0017】
前記構成により、内面溝付管を、エアコンまたは給湯器用などのヒートポンプ機器に、より好ましい伝熱管として用いることができる。
【0018】
また、本発明の内面溝付管の製造方法は、素管を引抜いて縮径させる縮径手段と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工手段と、該溝加工手段の下流側で加工済みの内面溝付管を巻き取る巻取りドラムを兼ねた引抜手段と、前記縮径手段と前記溝加工手段との間で素管を引抜く補助引抜手段と、前記縮径手段、前記補助引抜手段、及び、前記溝加工手段を支持し、設置部に対して引抜方向へ移動可能な可動手段と、前記可動手段の前記設置部に対する移動に応じて作用する加工荷重を検出する荷重検出手段と、前記荷重検出手段により検出した前記加工荷重に基づいて、前記補助引抜手段を制御する制御手段とを備えた内面溝付管の製造装置を用いて、管の中心軸に対する溝のねじれ角をβ(度)、隣り合う溝と溝の間で形成されるフィンの頂角をα(度)としたとき、βが30から60、αが5から20であり、外径をD(mm)、溝の深さをH(mm)、管の軸方向に対する断面積をA(mm)としたとき、Dが6以下、Hが0.07以上で、A<0.8×Dである内面溝付管の製造方法であって、前記加工荷重をP(N)、前記溝加工手段通過後の管の軸方向に対する断面積をAC1(mm)、前記溝加工手段通過後の管の破断応力をσ(N/mm)としたとき、Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう前記補助引抜手段を制御することを特徴とする。
【0019】
前記製造方法により、従来の内面溝付管よりも溝深さを大きく、ねじれ角を大きく、頂角を小さくすることができ、熱伝達性能が大きい内面溝付管を得ることができる。さらに、断面積を小さくすることにより、軽量で省資源化した内面溝付管を得ることができる。
【0020】
また、高性能で軽量な伝熱管を、効率的、且つ、安定して得ることができ、熱交換器の小型化、軽量化を図ることができる。
【0021】
ここで、P≧0.5×(AC1×σ)であるのは、P<0.5×(AC1×σ)であると、前記補助引抜手段の駆動力の僅かな変動で管内面形状が変化し易くなり、溝深さ等が一定でなくなるからである。
【0022】
P≦0.9×(AC1×σ)であるのは、P>0.9×(AC1×σ)であると、僅かな肉厚変動や引抜き力の変動により、引抜き力が管の破断荷重を超える場合が生じ、管が破断してしまうからである。
【0023】
また、断面積A(mm)がA<0.8×Dというのは、従来と比較して肉厚の薄い管であることを示すが、管の肉厚が薄いと、座屈し易くなり前記溝加工手段による溝付け加工が困難になる。そして、軸方向の引張り力が大きいほど、周方向へ変形し難くなるため、より一層、溝付け加工が困難となる。
【0024】
これに対して、本発明の製造方法によれば、上述したように、Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう前記補助引抜手段を制御することで、引抜方向への荷重が低減され、肉厚が薄い管でも周方向の座屈を抑えることが可能になる。
【0025】
ここで、前記溝加工手段通過後の管の軸方向に対する前記断面積には、前記溝加工手段通過後の一次仕上げ管の軸方向に対する断面積AC1に限らず、一次仕上げ管に対して空引き等の追加工を施した最終仕上げ管の軸方向に対する断面積Aも含むものとする。
なお、空引きとは、管内面には直接加工を施さずに、主に外径を減少させる加工であり、例えば、空引きダイスに通して引抜く加工を示す。
【0026】
またこの発明の態様として、外径D(mm)が3以上であることが好ましい。
エアコンなどのヒートポンプの伝熱管においては、伝熱性能のほかに圧力損失が重要であり、圧力損失が増大すると、冷媒を送るためのポンプやコンプレッサー(圧縮機)の負荷が増大して、ヒートポンプの性能を低下させてしまうため、実用上の理由から外径D(mm)は、3以上が望ましい。
【0027】
さらにまたこの発明の態様として、溝の深さH(mm)が0.10から0.30であることが好ましい。
エアコンなどのヒートポンプに使用する伝熱管は、アルミフィンに圧着させるために管内側からマンドレルのような工具によって押し広げられるが、その際に内面のフィンはつぶされて0.01〜0.02mm程度低くなる。その分を考慮して、溝深さは0.1mm以上であることが望ましい。
また、内面フィンが高すぎると、圧力損失が増加したり、材料重量が増えることから、溝深さH(mm)は0.3以下であることが望ましい。
【0028】
ここで、前記補助引抜手段は、例えば、素管を軸方向に対して両側から挟む一対の無端状部材(ループ状部材)を備えて構成することができ、管を挟んだ状態でベルト、キャタピラなどの無端状部材を回転させることにより、管の引抜手段による引抜きを補助することができる。
【0029】
前記荷重検出手段は、例えば、ロードセルなど荷重を検出できる手段で構成することができる。
前記荷重検出手段が検出する荷重は、例えば、圧縮荷重、引張り荷重、モーメント荷重を挙げることができる。
【0030】
前記内面溝付管は、例えば、銅、アルミニウム、又は、それらの合金等など熱伝導性に優れた材料で形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、熱伝導性能に優れ、小型化、軽量化を図ることができ、省資源化を実現することができる内面溝付管及びこのような内面溝付管を効率よく安定して製造することができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態における内面溝付管11の製造方法は、図1に示すような製造装置12を用いて製造することができる。
【0033】
なお、図1は、本実施形態における内面溝付管の製造装置12の説明図である。
【0034】
前記製造装置12は、引抜方向(抽伸方向)(図1中のX方向)の上流側から下流側へ沿って、順に縮径部13、補助引抜装置17、溝加工部14、仕上げ加工部15を配設し、さらに下流側に、引抜装置16を備え、これら構成により素管11aを連続加工して内面溝付管11を製造している。
【0035】
詳しくは、前記製造装置12は、素管11aを引抜いて縮径させる縮径部13と、素管11a内面に多数の溝を形成する溝加工部14と、該溝加工部14の下流側で加工済みの内面溝付管11を巻き取る巻取りドラム36を兼ねた引抜装置16と、縮径部13と溝加工部14との間で素管11aを引抜く補助引抜装置17とで構成している。
【0036】
さらに、前記製造装置12は、固定台50に対して引抜方向へ移動可能に、縮径部13、補助引抜装置17、及び、溝加工部14を支持する可動台33と、該可動台33の前記固定台50に対する移動に応じて作用する加工荷重Pを検出するロードセル35と、該ロードセル35により検出した前記加工荷重Pに基づいて、補助引抜装置17を制御する制御装置45とで構成している。
【0037】
以下、上述した各部の構成について説明する。
前記縮径部13は、通過する素管11aを縮径するための円筒状のダイス22を構成している。前記ダイス22は、上流側へ向けて末広がり状に開口したダイス孔22aを有している。
【0038】
さらに、前記縮径部13は、素管11aの内側にフローティングプラグ23を備えている。該フローティングプラグ23は、素管11aを介して前記ダイス22と係合可能に外周面の軸方向の一部を円錐状に形成している。これにより、フローティングプラグ23は、前記ダイス22部分において回動自在に係合される。
【0039】
また、前記溝加工部14は、素管11a内側において、外周に複数の螺旋状溝が形成された溝付プラグ24を備えている。
【0040】
前記溝付プラグ24と前記フローティングプラグ23とは、連結棒25を介してそれぞれ独立して回動自在に連結されている。さらに、前記溝加工部14には、複数のボール26を備え、該複数のボール26は、素管11aの外側において該素管11aを押圧しながら管軸回りに回転自在に配設されている。
【0041】
前記溝加工部14は、溝付プラグ24が素管11aの内周面に当接し、素管11aが軸回りに回転しながら引抜方向へ引っ張られるとともに複数のボール26による押圧により、素管11aの内周面に多数の平行な螺旋状をした螺旋状溝を形成することができる。
前記溝加工部14を通過することで、内面溝付管11を得ることができる。
【0042】
前記仕上げ加工部15では、整径ダイス27を備え、該整径ダイス27のダイス孔27aを内面溝付管11が通過することにより、例えば、前記溝加工部14におけるボール26の押圧により生じた管表面の歪み等を滑らかに整径する加工を行っている。
【0043】
前記引抜装置16は、巻取りドラム36、及び、巻取り用のモータM1を備え、該モータM1の回転駆動により内面溝付管11を引張りながら巻取りドラム36に巻き付けている。
【0044】
前記補助引抜装置17は、縮径部13と溝加工部14との間で、素管11aを引抜方向へ引き抜くことで引抜装置16による引抜きを補助している。すなわち、前記溝加工部14による溝加工は、素管11aを引抜く際の抵抗となり、この溝加工の際の引抜きの負荷が大きくなるが、補助引抜装置17により素管11aにかかる前記引抜き負荷を分散させることができる。
【0045】
前記補助引抜装置17は、素管11aに対して上下各側、或いは、左右各側に配置された一対のベルト42a,42bを備えている。各ベルト42a,42bは、ループ状(無端状)に形成され、モータM2の回転駆動により回転可能にプーリー43に張架されている。ベルト42a,42bは、外周面に、その長さ方向に沿って複数のパッド44を連設したキャタピラ式に構成している。
【0046】
前記補助引抜装置17における一対のベルト42a,42bは、十分な引抜力を得ることと素管11aの変形を防止するといった観点からパッド44による素管11aの押し付け力が例えば、0.3MPaの所望の押し付け力に保たれるよう素管11aに対して各側に備えている。
【0047】
前記パッド44には、図示しないが、縮径部13により縮径後の素管11aの外面との接触部分に、複数のパッド44の連設方向に対する切断面が円弧状となるパッド溝44aを形成している。
なお、前記補助引抜装置17の上流側には、素管11aの外表面に付着した油膜や異物を除去するためのワイパーを備えてもよい(図示せず)。
【0048】
前記可動台33は、固定台50に対して引抜方向、或いは、その逆方向に平行移動可能なように複数の車輪33aを介して固定台50に設置され、上述した縮径部13、溝加工部14、仕上げ加工部15、及び、補助引抜装置17を、ボックス32に収容した状態で設置している。
【0049】
ロードセル35は、固定台50上であって可動台33における引抜方向の下流側端部分に、素管11aの引抜き力に応じて可動台33から受ける加工荷重Pを検出可能に設けている。
【0050】
前記制御装置45は、ロードセル35により検出した加工荷重Pを電気信号化した荷重検出信号Sinが入力され、制御プログラムに従って、補助引抜装置17のモータM2の駆動を制御する制御信号Soutを出力する。
【0051】
さらに、前記制御装置45は、図示しないが信号の解析処理および演算処理を実行するための演算機(CPU)、必要な制御プログラムを格納するためのハードディスク、及び、前記荷重検出信号Sinを一時格納するためのメモリを備え、その他にも、制御パラメータを入力するキーボードなどの入力手段、モニタなどの表示手段を適宜、備えることができる。
【0052】
本実施形態における内面溝付管11の製造方法は、上述した内面溝付管の製造装置12を用いて行なう。
詳しくは、本実施形態における内面溝付管11の製造方法は、整径ダイス27を通過後の内面溝付管11を一次仕上げ管とすると、一次仕上げ管の軸方向断面積をAC1(mm)、一次仕上げ管の破断応力をσ(N/mm)としたとき、加工荷重Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう補助引抜装置17のモータM2の速度を制御することにより、所望の形状の一次仕上げ管を製造する方法である。
【0053】
このように、補助引抜装置17のモータM2の速度を、P≧0.5×(AC1×σ)の間になるよう制御するのは、P<0.5×(AC1×σ)であると、補助引抜装置17の駆動力の僅かな変動で管内面形状が変化し易くなり、溝深さ等が一定でなくなるからである。
【0054】
補助引抜装置17のモータM2の速度を、P≦0.9×(AC1×σ)の間になるよう制御するのは、P>0.9×(AC1×σ)であると、管に有する僅かな肉厚変動や、引抜力の変動により、管が破断してしまうからである。
【0055】
上述した内面溝付管11の製造方法により、図2、及び、図3に示すように、外径Dが3mm以上6mm以下の範囲、溝2の深さHが0.07mm以上であって0.10mmから0.30mmの範囲、管の中心軸に対する溝2のねじれ角βが30度から60度の範囲、隣り合う溝2と溝2の間で形成されるフィン1の頂角αが5度から20度の範囲であり、管の軸方向に対する断面積をAC1(mm)としたとき、AC1<0.8×Dである内面溝付管11を製造することができる。
なお、AC1<0.8×Dというのは、従来と比較して肉厚が薄い管であることを示す。
これは、断面積を変えずにフィン1をならして溝2をなくしたときの平均肉厚がt’mmであると仮定すると、肉厚が十分薄い場合において、A≒πDt’との関係が成り立ち、管の肉厚が、薄肉である例えば、t’<0.255を実現するためには、上述したように、断面積がA<0.8×Dの関係を満たす必要があるからである。
【0056】
また、A<0.8×Dのように、従来と比較して管の肉厚が薄い場合には、加工が困難になる。これは、単に断面積が小さくなることで破断荷重が小さくなるからだけでなく、以下のように溝付け加工特有の問題があるからである。
【0057】
すなわち、肉厚が薄くなると、管壁がボールの公転方向に座屈し易くなり、管壁の一部がプラグの溝に充填される前に、管を構成する材料が半径方向外側に逃げてしまうからである。
【0058】
特に、従来の加工では、管の引抜方向に加わる荷重が大きくなるが、このように、軸方向の引張り力が大きいほど、周方向への変形が困難になり、溝加工がし難くなる。
【0059】
これに対して、上述した内面溝付管11の製造方法によれば、管に加わる引抜方向への荷重が上述した制御により低減され、肉厚が薄い管に対して溝付け加工する場合でも、周方向の座屈を抑えることが可能になる。
【0060】
以上により、前記内面溝付管11は、従来技術よりも溝深さを大きく、ねじれ角を大きく、頂角を小さくすることができ、熱伝達性能が大きい伝熱管とすることができる。さらに、断面積を小さくすることにより、軽量で省資源化した伝熱管とすることができる。また、このような高性能で軽量な伝熱管を用いることにより、熱交換器を小型、軽量にすることができる。
【0061】
また、上述した実施形態では、制御装置により補助引抜装置17のモータM2の速度を制御する方法について述べたが、速度を制御パラメータとして制御するに限らず、モータM2の加速度、トルク、回転角度、或いは、これら複数を制御パラメータとして制御してもよい。
【0062】
また、図1では前記補助引抜装置17の駆動に、モーターM2を1つ取り付けた例を示しているが、左右それぞれにモーターを取り付けて2台で運転させてもよい。
このような場合、サーボ機構のような目標運転制御値に追従できるようなモーターを使用して、本発明のような破断が生じやすい難加工形状を有する内面溝付管加工時の加工荷重Pを、より詳細に制御できるようになって、設備運転の安定化に有効である。
【0063】
さらにまた、本発明の製造方法は、少なくとも補助引抜装置17を制御する方法であればよく、例えば、Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう例えば、補助引抜装置17と引抜装置16との双方を制御してもよい。
【0064】
続いて、前記方法で構成した内面溝付管11について実施した性能比較実験について説明する。
まず、前記各素管11aを、以下に示す適宜の条件の下、内面溝加工装置にかけ、内面溝付管として一次仕上げ管を作製する加工実験を行った。
本実験において、外径D、溝数、底肉厚t、溝深さH、ねじれ角β、頂角α、溝底幅W、山底幅W、溝底幅Wと溝深さHの比、軸方向に対する断面積AC1(それぞれ図2参照)をパラメータとして、以下の表1に示すような実施例1,2の内面溝付管11、及び、これらの比較対照として比較例1から4の内面溝付管の製造を試みた。
【0065】
詳しくは、実施例1,2、比較例1から4のそれぞれについて、加工原料として外径8mmで内面が平滑な銅管(素管11a)を複数本準備し、連続1000m以上を目標とする加工を5回行い、破断なく1000m以上の加工ができた回数を比較する加工歩留り実験を行なった。
【0066】
実施例1,2は、上述した本発明の加工方法で行ったもの、すなわち、上述した製造装置12を用いて、加工荷重Pが0.5×(AC1×σ)≦P≦0.9×(AC1×σ)になるよう補助引抜装置17のモータM2の速度を制御する加工方法で製造したものである。
なお、実施例1,2では、目標引き抜き荷重をそれぞれ1200N、700Nに設定して実験を行なっている。
【0067】
これに対して、比較例1,2では、上述した製造装置12を用いて加工しているが、加工荷重Pが本発明の条件から外れた設定で製造したものである。
なお、比較例1,2では、目標引き抜き荷重をそれぞれ1250N、600Nに設定して実験を行なっている。
【0068】
比較例3,4では、前記特許文献3(特開2001−241877号公報)に開示の内面溝付管の製造方法で行なったものである。すなわち、比較例3,4では、補助引抜装置17を具備せずに、引抜き装置のみで素管11aを引抜く製造装置を用いて製造したものである。
【0069】
実施例1,2、比較例1から4のそれぞれについて、一次仕上げ管の加工実験の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

この結果からわかるように、実施例1,2については、本発明の装置構成12を用い、Pを(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間に制御して加工することにより、いずれも5回の試験中5回とも、表1に示すような形状の内面溝付管に安定して加工することができた。
【0071】
なお、一次仕上げ管の頂角が16度より小さい場合、溝付プラグ24の溝を細く形成しておく必要があり、この溝付プラグ24の細い溝に管肉をしっかりと充填できないため、加工が困難になる。
よって、実施例1,2のように、頂角を16度で加工することができる本発明の製造方法は特に有効であるといえる。
【0072】
一方、比較例1,2では、5回の加工中問題なく加工できたのはそれぞれ3回、1回となり、いずれも歩留まりが低下した。この結果より、加工荷重Pの範囲が本発明の条件を外れると、加工の安定性が低下することが明らかになり、本発明の製造方法の有効性を実証することができた。
【0073】
比較例3では、5回全て破断せずに加工できたが、例えば、外径Dが6mmより大きい8mmであり、頂角αが20度より大きい23度であり、軸方向に対する断面積AC1が0.8Dより大きい7.6mmとなり、本発明の形状は得られなかった。
【0074】
比較例4では、比較例3と同じ製造装置を用い、特に、外径Dが実施例1,2と同じ6mmに加工することを試みたが、5回の加工中問題なく加工できたものは0回であり、いずれも加工を開始するとすぐに破断し、加工の継続が不可能であった。
【0075】
続いて、上述した加工実験で得られた実施例1,2、比較例3の一次仕上げ管について、それぞれ空引きダイス(図示せず)によって空引きし、所望の外径の最終仕上げ管として伝熱管を得る空引き加工実験を行なった。
【0076】
詳しくは、空引きとは、一次仕上げ管の内面に直接、加工を加えずに、該一次仕上げ管をダイスに通して引き抜くもので、該空引きにより、外径が減少するとともに、肉厚も若干減少する。また、長手方向に伸びるのに伴い、ねじり角は低下する。
なお、空引きは、一般に一次仕上げ管が所望の外径であれば、行わず、所望の外径よりも大きい場合に、一次仕上げ管に対して行なう加工であるが、本実験では、空引き後の管形状について評価するために実施例1または2、及び、比較例3について空引き加工実験を行なった。
【0077】
これにより、以下の表2に示すような実施例3、比較例5の伝熱管を製造することができる。
【0078】
【表2】

なお、実施例3は、実施例1または2の一次仕上げ管を空引きして外径を5mmまで縮径したものである。比較例5は、比較例3の一次仕上げ管を空引きして外径7mmまで縮径したものである。
【0079】
ここで、一次仕上げ管と、空引きを経た最終仕上げ管では、外径と断面積の比が厳密には一致しないが、実施の範囲では空引きの縮径率(外径の減少率)は10〜20%程度であり、この範囲内では、AC1/D≒A/Dとなっている。
なお、AC1,Dは、それぞれ一次仕上げ管の軸方向に対する断面積、外径を示し、A,Dは、それぞれ最終仕上げ管の軸方向に対する断面積、外径を示す。
【0080】
表2からわかるように、実施例3では、外径Dが3mm以上6mm以下である5mm、溝2の深さHが0.07mm以上であって0.10mmから0.30mmである0.15mm、管の中心軸に対する溝2のねじれ角βが30度から60度である40度、隣り合う溝2と溝2の間で形成されるフィン1の頂角αが5度から20度である10度であり、管の軸方向に対する断面積Aが外径Dの0.8倍よりも小さな3.8mmとなり、空引き後も本発明の条件を満たす所望の形状の伝熱管が得られた。
【0081】
一方、比較例5は、上述したとおり比較例3を一次仕上げ管として空引きしたものであるが、例えば、AC1>0.8Dであるなどの点で所望の形状から外れている比較例3を空引きしても所望の形状に加工できなかった(A>0.8Dのまま)。
【0082】
これは、空引きによる縮径率があまり大きすぎるとねじれ角が小さくなったり、フィン1が分断されてしまい、空引きで縮径できる縮径率には、限界があるからである。
また、実施例3、比較例5は、表2に示すように伝熱性能の評価も行なった。実施例3の伝熱性能は、比較例5の凝縮管内熱伝達率の値を100としたときの相対的な伝熱性能で示している。
【0083】
伝熱性能の算出に用いる凝縮管内熱伝達率は、以下の測定方法によって測定している。
前記各サンプル管を、それぞれ水平に設置した二重管式熱交換器サンプルの内管として挿入し、それらのサンプル内へ冷媒(R410a)を流すとともに、外管と内管との間の二重管部に冷却水を冷媒に対して対抗流となるように流し、冷却水と冷媒とで熱交換させることにより、冷媒を冷却させた。
【0084】
そのときの熱交換量から、冷媒の質量流速300kg/msecにおける管内熱(凝縮熱)伝達率を測定(管外面基準で測定)した。
【0085】
表2に示すように、本発明の実施例3では、137となり、比較例5よりも高い伝熱性能が得られた。
なお、凝縮管内熱伝達率は、径にも依存するため、本来は、実施例3、比較例5は、同径のもの同士で伝熱性能を比較評価すべきであるが、上述したとおり、比較例5(すなわち、比較例3,4)の製造方法では、本発明のような外径Dが6mm以下という小径な管が製造できないため、表2には、異なる径の管同士で比較した伝熱性能を示している。
【0086】
最後に、上述した本発明の製造方法により、最終仕上げ管として表3に示すような実施例4から8を製造し、これら実施例4から8をもとに本発明の内面溝付管の製造方法の有効性の検証を行なった。
なお、実施例6は、実施例1または2の一次仕上げ管を空引きしたものを用いている。
【0087】
【表3】

表3に示すように、実施例4から8は、いずれも上述した本発明の内面溝付管11の範囲を満たす所望の形状となり、高い歩留まりで加工することができた。
【0088】
表3の結果より、本発明の製造方法によれば、従来技術よりも溝深さが大きく、ねじれ角が大きく、頂角が小さい本発明の内面溝付管11の範囲を満たす所望の形状の内面溝付管11を製造することができ、熱伝達性能が大きい伝熱管を製造することができることを実証することができた。
【0089】
さらに、断面積を小さくすることにより、軽量で省資源化できる。これはエアコンや給湯器などのヒートポンプ機器の熱交換器用として最適で、高性能な伝熱管である。
【0090】
なお、上述した性能評価実験では、一次仕上げ管を作成後に空引きを行なったが、本発明の内面溝付管については、空引きを行なったものを製品とする形態に限らず、一次仕上げ管の形状で製品とする形態も含む。
【0091】
また、上述の実施形態と、この発明の構成との対応において、この実施形態の
縮径部13は、この発明の縮径手段に対応し、以下同様に、
溝加工部14は、溝加工手段に対応し、
引抜装置16は、引抜手段に対応し、
補助引抜装置17は、補助引抜手段に対応し、
可動部33は、可動手段に対応し、
ロードセル35は、荷重検出手段に対応し、
制御装置45は、制御手段に対応し、
固定台50は、設置部に対応し、
一次仕上げ管、或いは、最終仕上げ管は、溝加工手段通過後の管に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図。
【図2】本実施形態の内面溝付管を管軸に対して直角に切断した一部を示す断面図。
【図3】本実施形態の内面溝付管の管軸を通る面における断面図。
【符号の説明】
【0093】
11…内面溝付管
12…内面溝付管の製造装置
13…縮径部
14…溝加工部
16…引抜装置
17…補助引抜装置
33…可動台
35…ロードセル
45…制御装置
50…固定台
P…加工荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の中心軸に対する溝のねじれ角をβ(度)、隣り合う溝と溝の間で形成されるフィンの頂角をα(度)としたとき、
βが30から60、αが5から20であり、
外径をD(mm)、溝の深さをH(mm)、管の軸方向に対する断面積をA(mm)としたとき、
Dが6以下、Hが0.07以上で、A<0.8×Dである
内面溝付管。
【請求項2】
外径D(mm)が3以上である
請求項1に記載の内面溝付管。
【請求項3】
溝の深さH(mm)が0.10から0.30である
請求項1、又は、請求項2に記載の内面溝付管。
【請求項4】
素管を引抜いて縮径させる縮径手段と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工手段と、該溝加工手段の下流側で加工済みの内面溝付管を巻き取る巻取りドラムを兼ねた引抜手段と、前記縮径手段と前記溝加工手段との間で素管を引抜く補助引抜手段と、前記縮径手段、前記補助引抜手段、及び、前記溝加工手段を支持し、設置部に対して引抜方向へ移動可能な可動手段と、前記可動手段の前記設置部に対する移動に応じて作用する加工荷重を検出する荷重検出手段と、前記荷重検出手段により検出した前記加工荷重に基づいて、前記補助引抜手段を制御する制御手段とを備えた内面溝付管の製造装置を用いて、
管の中心軸に対する溝のねじれ角をβ(度)、隣り合う溝と溝の間で形成されるフィンの頂角をα(度)としたとき、βが30から60、αが5から20であり、外径をD(mm)、溝の深さをH(mm)、管の軸方向に対する断面積をA(mm)としたとき、Dが6以下、Hが0.07以上で、A<0.8×Dである内面溝付管の製造方法であって、
前記加工荷重をP(N)、前記溝加工手段通過後の管の軸方向に対する断面積をAC1(mm)、前記溝加工手段通過後の管の破断応力をσ(N/mm)としたとき、
Pが(AC1×σ)の0.5倍から0.9倍の間になるよう前記補助引抜手段を制御する
内面溝付管の製造方法。
【請求項5】
外径D(mm)が3以上である
請求項4に記載の内面溝付管の製造方法。
【請求項6】
溝の深さH(mm)が0.10から0.30である
請求項4、又は、請求項5に記載の内面溝付管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−131661(P2010−131661A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312016(P2008−312016)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】