説明

内面突起つきスパイラル鋼管およびその製造法

【課題】現場での補強作業を省略でき、建築物等から受ける軸力や曲げモーメントに対しても十分な強度を持ち、溶接性に優れたコンクリート充填鋼管に使用される内面突起つきスパイラル鋼管およびその製造法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.20、Si:0.6以下、Mn:0.8〜2.2、P:0.02以下、S:0.005以下、Nb:0.005〜0.080、Ti:0.005〜0.030、Al:0.05以下、N:0.001〜0.006、O:0.006以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつ、CE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値が0.40〜0.55の範囲にあり、フェライト分率が20%未満、ベイナイトとマルテンサイトを合わせた分率が80%以上からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や橋梁、鉄塔などの基礎構造に用いられるコンクリート充填鋼管に使用される450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビルディング等の建築物や橋梁、鉄塔などの基礎構造は、鋼管杭の杭頭部にフーチングを支持させた構造になっている。鋼管杭の杭頭部には、建築物等の自重や地震時に発生する水平力により、軸力やせん断力や曲げモーメントが作用することになるが、最近の鋼管杭では、鋼管の高支持力化等による基礎構造の合理化等を背景に、杭頭部に要求される耐力が大きくなってきている。かかる要求に対応すべく、大径で厚肉の鋼管杭を用いることも行われているが、大径の鋼管杭に用いられるスパイラル鋼管は、加工上の理由から強度や板厚に限度がある。そこで、従来から鋼管杭において特に大きな曲げモーメントが発生する杭頭部を別途補強することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、杭頭部の内部に鉄筋とコンクリートを充填した構造が開示されている。また、特許文献2には、二重管式杭頭構造の構築方法が開示されている。また、特許文献3には、フーチングの下部の鋼管杭と外管との中間に形成される空間内に物質を充填して水平耐力を増大させる方法が開示されている。また、特許文献4には、ずれ止めあるいは鉄筋を取り付けてコンクリートと鋼管との付着力を増大させる構造が開示されている。
【0004】
一方、建築構造物の大型化や鋼管杭の高支持力化に伴う杭本数の効率化などを背景に、杭頭部にはより一層大きな支持力が要求されるようになった。杭頭の耐力を高めるためには、鋼管の高強度化、大径化、厚肉化、コンクリート充填鋼管が有効である。鋼管を高強度化する方法は数多くあり、例えば、特許文献5には、鋼管を加熱して水冷することによる厚肉高強度曲り管の製造方法が開示されている。また、特許文献6には、コンクリートを充填する合成鋼管の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−163421号公報
【特許文献2】特開2009−30372号公報
【特許文献3】特開2009−46879号公報
【特許文献4】特開2009−46881号公報
【特許文献5】特開平5−279743号公報
【特許文献6】特開昭53−53021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように、杭頭部の内部から補強するためには、鋼管杭を地盤に打設した後、あるいは、打設している最中に、杭頭部の内部を洗浄等することが必要となり、施工性を低下させるといった難点がある。また、上記特許文献2〜4の方法では、いずれの場合も建設現場で杭頭部を補強する作業をしなければならず、施工が煩雑となり、施工コストが高くなるという課題もある。また、地盤に打設する際、地盤と接する外表面側が損傷するという課題もある。
【0007】
そこで、鋼管杭の杭頭部の耐力を高めるためには、鋼管の高強度化、大径化、厚肉化、コンクリート充填鋼管が有効であり、上記特許文献5には、API規格X65〜X70クラスの高強度厚肉曲り管の製造方法が開示されているが、コンクリートとの合成構造を目的とした鋼管ではないので、鋼管杭が素管(コンクリートとの合成構造ではない鋼管単体)だけの場合には杭頭部の十分な耐力が得られない。鋼管とコンクリートの付着強度を向上させるための方法としては、鋼管に溶接ビードやスタッドボルトを施す方法も考えられるが、高強度材への溶接は施工管理が難しく、合成構造とすることは困難である。また、鋼管杭が素管の場合、杭頭部の十分な耐力を得るためには、例えば降伏強度で700MPa以上の鋼管が必要となり、合金元素の添加量が必然的に多くなるので、溶接性(耐溶接低温割れ性)や焼き戻し処理後の溶接金属の低温靭性が低下するという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献6にはコンクリートとの合成構造に使用される内面突起つきスパイラル鋼管の製造方法が開示されている。高強度の内面突起つきスパイラル鋼管を製造するためには高強度の熱延コイルが必要となるが、熱延コイルの巻取り能力の観点から、高強度で厚肉の熱延コイルを経済的に製造することは困難である。また、高強度の熱延コイルをスパイラル成形する際も大きな成形荷重が必要となり、製造上の課題がある。
【0009】
本発明の目的は、現場での補強作業を省略でき、建築物等から受ける軸力や曲げモーメントに対しても十分な強度を持ち、溶接性に優れたコンクリート充填鋼管に使用される内面突起つきスパイラル鋼管およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、「質量%で、C:0.05〜0.20、Si:0.6以下、Mn:0.8〜2.2、P:0.02以下、S:0.005以下、Nb:0.005〜0.080、Ti:0.005〜0.030、Al:0.05以下、N:0.001〜0.006、O:0.006以下を含有し、あるいは、さらにCr:0.1〜1.0、Mo:0.1〜1.0、V:0.01〜0.10、B:0.0003〜0.002のうち一種または二種以上を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつCE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値が0.40〜0.55の範囲にあり、フェライト分率が20%未満、ベイナイトとマルテンサイトを合わせた分率が80%以上からなること、さらには、鋼管外表面から1/4厚までの母材の平均硬さが、前記鋼管の1/2厚から内面突起部のない箇所の内表面までの母材の平均硬さよりも10%以上高いことを特徴とする450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管、および、質量%で、C:0.05〜0.20、Si:0.6以下、Mn:0.8〜2.2、P:0.02以下、S:0.005以下、Nb:0.005〜0.080、Ti:0.005〜0.030、Al:0.05以下、N:0.001〜0.006、O:0.006以下を含有し、あるいは、さらにCr:0.1〜1.0、Mo:0.1〜1.0、V:0.01〜0.10、B:0.0003〜0.002のうち一種または二種以上を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつCE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値が0.40〜0.55の範囲にある母材からなる内面突起つきスパイラル鋼管を960〜1100℃に加熱後、鋼管内表面が900℃以上の温度から6℃/秒以上の冷却速度となるように300℃以下まで外表面側からのみ水冷し、その後、650℃以下で焼き戻し処理すること」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接性に優れた450MPa以上の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管が安定して製造できる。その結果、ビルディング等の建築物や橋梁、鉄塔などの基礎構造の安全性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の内面突起つきスパイラル鋼管およびその製造法について詳細に説明する。
【0013】
ビルディング等の建築物や橋梁、鉄塔などの基礎構造において、鋼管杭の杭頭部の支持力を高めるためには、鋼管の高強度化、大径化、厚肉化、コンクリート充填鋼管が有効であるが、溶接性の観点から鋼管杭の支持力の増加について研究した結果、本発明に至った。すなわち、コンクリート充填鋼管に使用される内面突起つき鋼管の化学成分、金属組織、降伏強度の範囲を制限するとともに、スパイラル鋼管を加熱後、鋼管の外表面側からのみ水冷して、その後焼戻しすることによって、溶接性に優れた高強度の内面突起つきスパイラル鋼管が得られる。
【0014】
鋼管杭をコンクリートとの合成構造とした場合、杭頭部にはN−M曲線(軸力Nと曲げモーメントMの関係曲線)において曲げ耐力(曲げモーメントに対する耐力)で15,000kN・m以上が求められている。これを達成するためには、内面突起つき鋼管の降伏強度として、450MPa以上650MPa以下、鋼管の厚みとして14mm以上25mm以下が必要であることが明らかとなった。この時の鋼管厚みとは、内面突起のない箇所の厚みを示す。例えば、外径1400mmで鋼管厚25mmの時、降伏強度が450MPaで曲げ耐力19,000kN・mが得られる。また、外径1400mmで鋼管厚14mmの時、降伏強度が650MPaで曲げ耐力16,500kN・mが得られる。なお、鋼管厚みは、熱延巻き取り能力の観点から、最大厚みを25mmとすることが好ましい。また、降伏強度が650MPaを超えると鋼管の溶接性が低下するので、溶接性の観点から降伏強度の上限を650MPaに制限した。さらに、鋼管外表面から1/4厚までの母材の平均硬さを、1/2厚から内面突起のない箇所の内表面までの母材の平均硬さよりも10%以上高くすることによって、打設時に鋼管表面部の損傷が少なくなる。また、設計上必要な曲げ耐力以上の強度性能が得られ、基礎杭の安全性が向上する。
【0015】
さらに、このような降伏強度を達成する金属組織として、本発明では、フェライト分率が20%未満、ベイナイトとマルテンサイトを合わせた分率が80%以上とした。フェライト分率が20%以上になると、降伏強度が450MPaを満足できない。さらに、降伏強度を450MPa以上とするためには、ベイナイトとマルテンサイトを合わせた分率を80%以上にする必要がある。
【0016】
つぎに、化学成分の限定理由について述べる。
【0017】
Cの下限0.05%は、強度の確保ならびにNb、V添加による析出硬化、結晶粒の微細化効果を発揮させるための最小量である。しかしC量が多過ぎると溶接性や低温靱性の著しい低下を招くので、上限を0.20%とした。
【0018】
Siは脱酸や強度向上のため添加する元素であるが、多く添加すると溶接性、低温靭性を低下させるので、上限を0.6%とした。
【0019】
Mnは強度、低温靭性を確保する上で不可欠な元素であり、その下限は0.8%である。しかし、Mnが多すぎると鋼の焼入性が増加して溶接性、低温靭性を低下させるだけでなく、連続鋳造鋼片の中心偏析を助長し、低温靭性も低下させるので、上限を2.2%とした。
【0020】
本発明において、不可避的不純物であるP量を0.02%以下とする。この主たる理由は、母材の低温靭性をより一層向上させるためである。P量の低減は、連続鋳造スラブの中心偏析を低減させて、粒界破壊を防止し低温靭性を向上させる。またS量を0.005%以下とする。S量の低減は、延伸化したMnSを低減して延靱性を向上させる効果がある。
【0021】
Nbは制御圧延において結晶粒の微細化や析出硬化に寄与し、鋼を強靱化する作用を有する。この効果を発揮させるための最小量として、その下限を0.005%とした。しかしNbを0.080%以上添加すると、溶接金属のNb量が増加し、溶接金属の低温靭性を低下させるとともに溶接性や低温靱性に悪影響をもたらすので、その上限を0.080%とした。
【0022】
Ti添加は微細なTiNを形成し、スラブ再加熱時および溶接HAZのオ−ステナイト粒の粗大化を抑制してミクロ組織を微細化し、低温靱性を改善する。このようなTiNの効果を発現させるためには、最低0.005%のTi添加が必要である。しかしTi量が多過ぎると、TiNの粗大化やTiCによる析出硬化が生じ、低温靱性が低下するので、その上限は0.030%に限定した。
【0023】
Alは通常脱酸剤として鋼に含まれる元素で、組織の微細化にも効果を有する。しかしAl量が0.05%を超えるとAl系非金属介在物が増加して鋼の清浄度を害するので、上限を0.05%とした。
【0024】
NはTiNを形成してスラブ再加熱時および溶接熱影響部(HAZ)のオ−ステナイト粒の粗大化を抑制して母材、HAZの低温靱性を向上させる。このために必要な最小量は0.001%である。しかし多過ぎるとスラブ表面疵や固溶NによるHAZ靱性の低下の原因となるので、その上限は0.006%に抑える必要がある。
【0025】
O量の低減は鋼中の酸化物を少なくして、低温靱性の改善に効果があるので、その上限を0.006%以下とした。
【0026】
さらにCr、Mo、V、Bを添加する理由について説明する。基本成分にさらにこれらの元素を添加する主たる目的は、本発明鋼の特徴を損なうことなく、強度・低温靭性などの特性の向上をはかるためである。したがって、その添加量は自ら制限されるべき性質のものである。
【0027】
Crは母材の強度を増加させる効果があり、この効果を発揮させるためには0.1%以上の添加が必要である。しかし、多過ぎると溶接性やHAZ靱性を低下させる。このためCr量の上限は1.0%である。
【0028】
Moは母材及び溶接部の強度を上昇させる元素であるが、1.0%を超えるとCrと同様に母材、HAZ靭性及び溶接性を低下させる。また、0.1%以下の添加ではその効果が薄い。
【0029】
Vは、ほぼNbと同様の効果を有するが、その効果はNbに比較して格段に弱い。その効果を発揮させるためには0.01%以上の添加が必要である。また、上限は現地溶接性、HAZ靭性の点から0.1%まで許容できる。
【0030】
Bは極微量で鋼の焼入性を飛躍的に高め、良好な強度と靭性が得られる。この効果を発揮させるためには0.0003%以上の添加が必要である。また、多すぎるとHAZ靭性を低下させるので、その上限の値を0.002%に限定した。
【0031】
さらに、CE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値を0.40〜0.55の範囲に限定する。CE値が0.40未満では十分な強度が得られない。またCE値が0.55を超えると、溶接性および靭性が低下する。
【0032】
つぎに、製造条件の限定理由について説明する。
【0033】
本発明では、上記の成分を有する内面突起つき熱延コイルをスパイラル状に成形、溶接した鋼管を960〜1100℃の温度範囲に加熱後、鋼管内表面が900℃以上の温度から6℃/秒以上の冷却速度となるように300℃以下まで外表面側からのみ水冷し、その後、650℃以下で焼き戻し処理する。
【0034】
内面突起つき熱延コイルをスパイラル状に成形、溶接した鋼管をコンクリートとの合成構造に用いることにより、コンクリートと鋼管の密着性を高めることができる。なお、内面突起つき鋼管の突起高さおよび突起間隔はJIS A 5525(2009)で規定されている。
【0035】
鋼管の加熱温度を960℃以上とする理由は、オ−ステナイト域で合金元素を十分に溶体化させ、強度と低温靱性を向上させるためである。しかし加熱温度が1100℃を超えると、加熱時のオ−ステナイト粒が成長し、結晶粒が大きくなって低温靱性の低下を招くとともに、鋼管の円周方向の強度ばらつきが大きくなる。このため、加熱温度の上限は1100℃とした。
【0036】
加熱後、鋼管内表面が900℃以上の温度から6℃/秒以上の冷却速度で300℃以下まで冷却することによって、フェライトの生成量を20%未満に抑制するとともに、所定の強度を達成する。900℃以上から水冷する理由は、水冷前のオーステナイトの分率を高くして、水冷による変態強化によって十分な強度を得るためである。また6℃/秒以上の冷却速度で冷却する理由は、水冷による変態強化によってベイナイトやマルテンサイトを生成させて、十分な強度を得るためである。さらに300℃以下まで冷却する理由は、水冷による変態強化によってベイナイトやマルテンサイトを生成させて十分な強度を得るためである。鋼管を冷却する際、内外表面から水冷することによって容易に強度を上昇させることが可能であるが、内面突起つき鋼管を加熱後に内表面側から冷却する場合、冷却水が内面突起にぶつかり、冷却水がうまく排出されず、加熱温度のばらつきや、冷却速度のばらつきを招いて、鋼管円周方向の金属組織や強度のばらつきが生じる。このため、内面突起つき鋼管を冷却する場合、外表面側からのみ水冷することとした。また、650℃を超える温度で焼き戻しすると、所定の強度が得られないので、焼き戻し処理の上限の温度を650℃とした。
【実施例1】
【0037】
本発明の実施例について述べる。種々の成分を有する熱延コイルからスパイラル成形、溶接して、外径1400mmの内面突起つきスパイラル鋼管を製造した。その後、この鋼管に加熱、水冷、焼き戻し処理をして、諸性質を調査した。低温靭性は、シャルピー衝撃試験を行い0℃での吸収エネルギーで評価した。鋼管の溶接性は、鋼管へ付属品を溶接した時の低温割れ発生の有無で評価した。
【0038】
本発明が適用された本発明鋼No.1〜14、35、36、および、本発明の範囲から外れた条件を有する比較鋼No.15〜34について、組成および降伏強度を表1および表2に、母材の硬さ等を表3および表4に示す。また、表1〜表4に示すそれぞれの母材からなるスパイラル鋼管の加熱、冷却、焼き戻し条件および諸性質を、表5および表6に示す。なお、表2、表4、表6において、本発明の範囲から外れている条件または性質を示す欄に下線を引いた。
【0039】
【表1】



【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
表5に示すように、本発明例であるNo.1〜14、35、36の内面突起つき鋼管は、強度、低温靭性、溶接性において、優れた特性を有していた。これに対して、表6に示すように、比較鋼No.15〜34は、化学成分またはスパイラル鋼管の製造条件が適切でなく、いずれかの特性が劣っていた。
【0046】
No.15は母材のC量が多過ぎるため、低温靱性が低い。No.16は母材のMn量が多過ぎるため、低温靱性が低い。No.17は母材のNb量が多過ぎるため、低温靱性が低い。No.18はCr量が多すぎるため、低温靭性が低い。No.19はMo量が多すぎるため、低温靭性が低い。No.20はV量が多すぎるため、低温靭性が低い。No.21はB量が多すぎるため、低温靭性が低い。No.22はCE値が大きすぎるため、強度が著しく上昇し、低温靭性が低く、溶接時に低温割れが発生した。No.23はCE値が低すぎるため、十分な降伏強度YSが得られず、曲げ耐力が小さい。No.24はフェライト分率が多すぎるため、十分な降伏強度YSが得られず、曲げ耐力が小さい。No.25は降伏強度YSが低いため、十分な曲げ耐力が得られない。No.26はCE値が大きすぎて強度が高すぎるため、低温靭性が低く、溶接時に低温割れが発生する。No.27は鋼管の加熱温度が低すぎるため、強度が低い。No.28は鋼管の加熱温度が高すぎるため、低温靱性が低い。No.29は加熱後の水冷開始温度が低すぎるため、強度が低い。No.30は加熱後の冷却速度が遅いため、強度が低い。No.31は内外面水冷しているため、円周方向の降伏強度のばらつきが大きい。No.32は焼き戻し温度が高すぎるため、強度が低く、低温靭性も低い。No.33は外面側の平均硬さが内面側の平均硬さよりも10%以上高くないため、打設時に鋼管表面部が損傷した。No.34は水冷停止温度が高すぎるために強度が低い。
【0047】
以上のように、本発明のいずれかの条件から外れると、良好な性質のスパイラル鋼管が得られないのに対し、本発明により、溶接性に優れた450MPa以上の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管が安定して製造できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.20、Si:0.6以下、Mn:0.8〜2.2、P:0.02以下、S:0.005以下、Nb:0.005〜0.080、Ti:0.005〜0.030、Al:0.05以下、N:0.001〜0.006、O:0.006以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつ、CE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値が0.40〜0.55の範囲にあり、フェライト分率が20%未満、ベイナイトとマルテンサイトを合わせた分率が80%以上からなることを特徴とする450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管。
【請求項2】
鋼管外表面から1/4厚までの母材の平均硬さが、前記鋼管の1/2厚から内面突起部のない箇所の内表面までの母材の平均硬さよりも10%以上高いことを特徴とする請求項1記載の450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管。
【請求項3】
鋼成分が、質量%で、さらにCr:0.1〜1.0、Mo:0.1〜1.0、V:0.01〜0.10、B:0.0003〜0.002のうち一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項2記載の450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管。
【請求項4】
質量%で、C:0.05〜0.20、Si:0.6以下、Mn:0.8〜2.2、P:0.02以下、S:0.005以下、Nb:0.005〜0.080、Ti:0.005〜0.030、Al:0.05以下、N:0.001〜0.006、O:0.006以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつCE=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14で定義されるCE値が0.40〜0.55の範囲にある母材からなる内面突起つきスパイラル鋼管を、960〜1100℃に加熱後、鋼管内表面が900℃以上の温度から6℃/秒以上の冷却速度となるように300℃以下まで外表面側からのみ水冷し、その後、650℃以下で焼き戻し処理することを特徴とする450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管の製造法。
【請求項5】
前記母材が、質量%で、さらにCr:0.1〜1.0、Mo:0.1〜1.0、V:0.01〜0.10、B:0.0003〜0.002のうち一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項4記載の450MPa以上650MPa以下の降伏強度を有する内面突起つきスパイラル鋼管の製造法。

【公開番号】特開2011−63878(P2011−63878A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178439(P2010−178439)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】