説明

内面被覆プラスチック容器及びその製造方法

【課題】無色透明で、加熱しても優れたガスバリア性を保持できる内面被覆プラスチック容器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内面側に被覆層2と被覆層3とからなるガスバリア被覆層4を備える。被覆層2は、有機珪素化合物を含む出発原料からプラズマCVDにより容器1の内表面上に形成された有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜であり、50〜700オングストロームの厚さを備え珪素と酸素との原子比が1/1.5〜1/2.3である。被覆層3は、炭素化合物を含む出発原料からプラズマCVDにより被覆層2上に形成されたアモルファスカーボン被膜であって10〜300オングストロームの厚さと55×10−3N/m以下の表面張力とを備える。容器1の胴部におけるガスバリア被覆層4形成前後の着色透明度の変化が、L表色系により算出されるΔE値で2.5以下である。バリア性指標値が5.0以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面側にガスバリア被覆層を備える内面被覆プラスチック容器と、その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料、食品、エアゾール、化粧品等の容器として、ポリエステル容器、ポリオレフィン容器等に代表される各種プラスチック容器が用いられている。前記プラスチック容器は、金属容器やガラス容器に比較して、ガスバリア性に劣るという問題がある。そこで、前記ガスバリヤ性を改善するために、近年、前記プラスチック容器の内面側に、プラズマCVD法により、カーボン被膜または珪素含有被膜のいずれか1つからなるガスバリア被覆層を設けることが提案されている。
【0003】
前記ガスバリア被覆層として前記カーボン被膜を備えるプラスチック容器は、例えば、被膜が形成されていない未処理のプラスチック容器をプラズマCVD処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側にアセチレン等の出発原料をガス状として導入し、マイクロ波または高周波電圧を印加して該容器内にプラズマを発生させることにより製造することができる(例えば特許文献1参照)。前記カーボン被膜を備えるプラスチック容器は、該カーボン被膜を厚くすることにより、優れたガスバリア性を得ることができる。
【0004】
しかしながら、前記カーボン被膜は膜厚が厚くなると前記プラスチック容器に対する加工密着性が低下すると共に、着色が目立つようになるという不都合がある。前記カーボン被膜による着色は、内容物によっては消費者に好ましくない印象を与えることがあり、また該カーボン被膜が形成されたプラスチック容器を回収して再利用に供する際に障害となることがある。前記カーボン被膜を備えるプラスチック容器では、該カーボン被膜の膜厚を薄くすれば前記着色を避けることができるが、このようにするときには十分なガスバリア性を得ることができない。
【0005】
一方、前記ガスバリア被覆層として前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器は、例えば、前記カーボン被膜形成のためのアセチレン等の出発原料に代えて有機珪素化合物等を出発原料とすることにより、前記カーボン被膜を備えるプラスチック容器と同様にして製造することができる(例えば特許文献2参照)。前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器は、着色がなく、常温では優れたガスバリア性を備えている。
【0006】
しかしながら、前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器は、内容物を充填後、加熱されるとガスバリア性が著しく低下するという不都合がある。例えば、前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器に飲料内容物を75℃以上、特に85℃以上の温度に加熱して充填する、いわゆるホットパックを行うと、該容器のガスバリア性が低下する。前記ホットパックによるガスバリア性の低下は、茶、コーヒー、スポーツドリンク等、pH5以上の低酸性飲料の場合にその傾向が高い。また、前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器に内容物を常温で無菌充填した後、該容器を加温ベンダー等により50℃以上の加温雰囲気にて長期間保存する場合も、該容器のガスバリア性が経時的に低下する。
【0007】
前記珪素含有被膜を備えるプラスチック容器では、該珪素含有被膜の膜厚を厚くすれば前記ホットパックや加温保存時の加熱によるガスバリア性の低下をある程度改善できるが十分ではなく、このようにするときには該珪素含有被膜がプラスチック容器の被覆に適した柔軟性を得ることができなくなり、加工密着性が低下する。
【特許文献1】特開平8−53116号公報
【特許文献2】特開平3−223342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、無色透明で、常温ではもとよりホットパックや加温ベンダーでの加温保存状態のような加熱を受けても優れたガスバリア性を保持することができる内面被覆プラスチック容器を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の目的は、前記内面被覆プラスチック容器の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、内面側にプラズマCVDにより形成されたガスバリア被覆層を備える内面被覆プラスチック容器において、該ガスバリア被覆層は、有機珪素化合物を含む第1の出発原料からプラズマCVDにより該容器の内表面上に形成された有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜であって50〜700オングストロームの範囲の厚さを備える第1の被覆層と、炭素化合物を含む第2の出発原料からプラズマCVDにより該第1の被覆層上に形成されたアモルファスカーボン被膜であって10〜300オングストロームの範囲の厚さと55×10−3N/m以下の範囲の表面張力とを備える第2の被覆層とからなり、該容器の胴部の比較的平らな部分における該ガスバリア被覆層形成前後の着色透明度の変化が、L表色系により算出されるΔE値で2.5以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の内面被覆プラスチック容器は、内面側に、珪素含有被膜からなる第1の被覆層と、該第1の被覆層上に積層されたアモルファスカーボン被膜からなる第2の被覆層とからなるガスバリア被覆層を備えることにより、着色が少なく透明性が高い上、ホットパックや加温ベンダーでの加温保存状態のような加熱を受けても優れたガスバリア性を保持することができる。
【0012】
前記第1の被覆層としての珪素含有被膜は、有機珪素化合物を含む第1の出発原料からプラズマCVDにより前記容器の内表面上に直接形成される。前記珪素含有被膜は、その上に前記アモルファスカーボン被膜が積層されたときに、少ない着色で透明性が高く、優れたガスバリア性を備える前記ガスバリア被覆層を得るために、50〜700オングストローム、好ましくは100〜500オングストロームの範囲の厚さを備える。前記珪素含有被膜は、厚さが50オングストローム未満では、前記アモルファスカーボン被膜が積層されたとしても前記ガスバリア被覆層のガスバリア性を十分なものとすることができず、厚さが700オングストロームを超えると該アモルファスカーボン被膜が積層されたときに該ガスバリア被覆層の加工密着性や透明性が低くなる。
【0013】
また、前記珪素含有被膜は、優れたガスバリア性を備える前記ガスバリア被覆層を得るためには、有機珪素化合物のプラズマ重合体を含むことが必要であり、該被膜中の珪素と酸素との原子比(Si/O)が1/1.5〜1/2.3の範囲、より好ましくは1/1.7〜1/2.2の範囲にあることが適している。珪素と酸素との原子比が前記範囲に無いときには、前記アモルファスカーボン被膜が積層されたとしても前記ガスバリア被覆層のガスバリア性を十分なものとすることができない。また、前記珪素含有被膜は、珪素と酸素との原子比が前記範囲にあることにより、前記プラスチック容器の内表面との密着性と、前記アモルファスカーボン被膜との密着性とを良好にすることができる。
【0014】
尚、前記珪素含有被膜は、珪素と酸素との原子比が前記範囲にあれば、水素、炭素、窒素等の他の元素を含んでいてもよい。また、前記珪素含有被膜は、単層構成であってもよく、2層以上の多層構成であってもよい。
【0015】
次に、前記第2の被覆層としてのアモルファスカーボン被膜は、炭素化合物を含む第2の出発原料からプラズマCVDにより第1の被覆層上に形成される。前記アモルファスカーボン被膜は、前記珪素含有被膜上に積層されたときに、少ない着色で透明性が高く、優れたガスバリア性を備える前記ガスバリア被覆層を得るために、10〜300オングストローム、好ましくは30〜150オングストロームの範囲の厚さを備える。前記アモルファスカーボン被膜は、厚さが10オングストローム未満では、前記珪素含有被膜上に積層されたとしても前記ガスバリア被覆層のガスバリア性を十分なものとすることができず、厚さが300オングストロームを超えると該珪素含有被膜上に積層されたときに該ガスバリア被覆層の着色性、透明性が低くなる。
【0016】
また、前記アモルファスカーボン被膜は、55×10−3N/m以下の範囲の表面張力を備える。前記表面張力は、前記ガスバリア被覆層の疎水性の指標であり、表面張力が大きいほど該ガスバリア被覆層の疎水性が小さくなる。そして、本発明者らの検討によれば、疎水性の小さいガスバリア被覆層ほど、加熱によりガスバリア性が低下することが判明した。そこで、前記アモルファスカーボン被膜が前記範囲の表面張力を備えることにより、前記ガスバリア被覆層は、ホットパックや加温ベンダーでの加温保存状態のような加熱を受けても、ガスバリア性の低下を防止して優れたガスバリア性を保持することができる。
【0017】
尚、前記アモルファスカーボン被膜は、水素と炭素とからなるいわゆるダイヤモンドライク構造を備えるものであるが、水素、炭素以外に酸素、その他の元素を含んでいてもよい。
【0018】
本発明のプラスチック容器の着色性と透明性とは、L表色系により算出されるΔE値を指標として、前記ガスバリア被覆層形成前後の着色透明度の変化により評価することができる。そして、本発明のプラスチック容器は、L表色系により算出されるΔE値が2.5以下であることにより、優れた無色透明性を得ることができる。この結果、本発明のプラスチック容器は、内容物に関わらず消費者に好感を与えることができ、回収後にも全く問題なく再利用に供することができる。
【0019】
また、本発明のプラスチック容器は、前記ガスバリア被覆層を形成する前の酸素バリア性Aと、該ガスバリア被覆層を形成し、内容物を加熱充填した後の酸素バリア性Bとの比A/Bで示されるバリア性指標値が5.0以上であることを特徴とする。本発明のプラスチック容器の加熱後のガスバリア性は、該容器の該ガスバリア被覆層を形成する前の酸素バリア性Aと、該ガスバリア被覆層を形成し、内容物を加熱充填した後の酸素バリア性Bとの比A/Bで示されるバリア性指標値により評価することができる。そして、本発明のプラスチック容器は、前記バリア性指標値が5.0以上であることにより、加熱後にも優れたガスバリア性を保持することができ、内容物をホットパックしたり、内容物を常温で充填した後、加温ベンダーにて長期間保存する用途に全く問題なく用いることができる。
【0020】
本発明のプラスチック容器によれば、第1の被覆層と第2の被覆層とからなるガスバリア被覆層は、ホットパックや加温ベンダーでの加温保存状態のような加熱を受けたときに、第1の被覆層、第2の被覆層のそれぞれ単独の効果よりも優れ、さらに両者の効果の総和よりも優れたガスバリア性を保持している。
【0021】
本発明のプラスチック容器は、プラスチック容器をプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に有機珪素化合物を含む第1の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該容器の内表面上に有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜である第1の被覆層を形成する工程と、該第1の被覆層形成後、引き続き該容器内面側に炭素化合物を含む第2の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該第1の被覆層上にアモルファスカーボン被膜である第2の被覆層を形成する工程とを備える製造方法により有利に製造することができる。前記製造方法によれば、同一のプラズマ処理装置により、第1、第2の両被覆層を形成することができるので、前記内面被覆プラスチック容器を効率よく製造することができる。また、前記製造方法によれば、第1の被覆層と第2の被覆層との境界に、第1の被覆層の構造と第2の被覆層の構造とが混じり合った構造の混成層を形成せしめることができ、該混成層により第1の被覆層と第2の被覆層との層間密着性を向上させることができる。
【0022】
また、本発明のプラスチック容器は、プラスチック容器を第1のプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に有機珪素化合物を含む第1の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該容器の内表面上に有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜である第1の被覆層を形成する工程と、該第1の被覆層形成後、該容器を該第1のプラズマ処理装置から取り出して、第2のプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に炭素化合物を含む第2の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該第1の被覆層上にアモルファスカーボン被膜である第2の被覆層を形成する工程とを備える製造方法により有利に製造することができる。前記製造方法によれば、2台のプラズマ処理装置を用い、それぞれのプラズマ処理装置で第1の被覆層と第2の被覆層とを別々に形成するので、同一のプラズマ処理装置中で形成される被覆層に応じて出発原料を切り替える必要が無く、また、第1の被覆層が形成されたプラスチック容器を中間体として一時保存することができるので、前記内面被覆プラスチック容器を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態のプラスチック容器の構成を示す説明的断面図、図2は本実施形態のプラスチック容器の製造に用いる装置を示す説明的断面図である。
【0024】
本実施形態のプラスチック容器は、加熱充填(ホットパック)または常温無菌充填後に加温ベンダー等で加温保存して販売される茶類、コーヒー類、スポーツ飲料、乳飲料等の低酸性飲料類の容器、炭酸飲料、発泡酒、ビール等の飲料類の容器、ソース、醤油等の食品類の容器、エアゾル内容物類の容器等の各種容器として用いられるものである。前記プラスチック容器を構成するプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の多価アルコールと多価カルボン酸との縮重合により得られるポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアリル樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができるが、ポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂が適しており、特にポリエチレンテレフタレートが適している。前記プラスチックは、前記プラスチック容器がホットパックまたは常温無菌充填後に加温ベンダー等で加温保存して販売される低酸性飲料類の容器に用いられる場合には、樹脂の結晶化度を高めて耐熱性を付与することが好ましい。
【0025】
図1にその一部分を示すように、本実施形態のプラスチック容器1は、その内表面上に形成された第1の被覆層2と、該第1の被覆層2上に形成された第2の被覆層3とからなるガスバリア被覆層4を備えている。
【0026】
第1の被覆層2は、有機珪素化合物を含む出発原料からプラズマCVDにより形成された有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜であり、50〜700オングストローム、好ましくは100〜500オングストロームの範囲の厚さを備えている。この第1の被覆層2は、前記珪素含有被膜中の珪素と酸素との原子比(Si/O)が1/1.5〜1/2.3の範囲にあることが好ましく、さらに1/1.5〜1/2.2の範囲にあることが好ましい。
【0027】
一方、第2の被覆層3は、炭素原子を含む出発原料からプラズマCVDにより形成され、炭素と水素とがいわゆるダイヤモンドライク構造を形成しているアモルファスカーボン被膜であり、10〜300オングストローム、好ましくは30〜150オングストロームの範囲の厚さを備えている。また、第2の被覆層3は、疎水性の指標としての表面張力が55×10−3N/m以下となっている。
【0028】
プラスチック容器1の前記無色透明性は、国際照明委員会(CIE)で規格化されたL表色系(JIS Z 8729)により算出されるΔE値を指標として、プラスチック容器1の胴部におけるガスバリア被覆層4の形成前後の着色透明度の変化により評価することができる。
【0029】
ΔE値は、プラスチック容器1の胴部の比較的平らな部分を切り取り、この部分に対し、色差計により垂直に光を通過させたときのL表色系のL値、a値、b値を、それぞれガスバリア被覆層4の形成前後で比較し、ガスバリア被覆層4の形成前の値と形成後の値との差として算出されたΔL値、Δa値、Δb値から次式(1)により算出される。
【0030】
ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2 ・・・(1)
プラスチック容器1では、被覆層2,3の被膜構成を適切に設定することにより、前記着色透明度の変化が前記ΔE値で2.5以下であり、優れた無色透明性を備えるガスバリア被覆層4を設けることができる。
【0031】
また、プラスチック容器1の加熱後のガスバリア性は、該容器の該ガスバリア被覆層を形成する前の酸素バリア性Aと、該ガスバリア被覆層を形成し、内容物を加熱充填した後の酸素バリア性Bとの比A/Bで示されるバリア性指標値BIF(Barrier Improvement Factor)により評価することができる。前記酸素バリア性A,Bは、プラスチック容器1について1本、1日当たりの酸素透過量(ml/日/本)により表される。前記酸素透過量は、例えば、モコン社製OX−TRAN(商品名)等のガス透過率測定装置を用い、JIS K 7126に基づいて測定することができる。
【0032】
プラスチック容器1では、被覆層2,3からなるガスバリア被覆層4を備えることにより、前記加熱後のガスバリア性が前記バリア性指標値BIFで5.0以上であり、加熱されても優れたガスバリア性を保持することができる。
【0033】
次に、プラスチック容器1の製造方法について説明する。
【0034】
本実施形態では、図2に示すプラズマCVD装置11によりプラスチック容器1の製造を行う。プラズマCVD装置11は、パイレックス(登録商標)ガラスで形成された側壁12と、昇降自在の底板13とにより画成された処理室14を備え、側壁12に臨む位置にマイクロ波発生装置15を備えている。処理室14の上方には、側壁16と上壁17とにより画成された排気室18が備えられ、処理室14との間には隔壁19が設けられている。
【0035】
底板13は、未処理のプラスチック容器1を配置して上昇移動することにより、プラスチック容器1を処理室14内に収納する。このようにして収納されたプラスチック容器1は、口部保持具20を介して容器内部が隔壁19に設けられた排気孔21と連通するように配置される。口部保持具20は上部突出部22が排気孔21に密に挿入され、口部保持部23がプラスチック容器1の口部に所定の間隔を存して挿入される。
【0036】
処理室14と排気室18とは隔壁19に設けられた通気口24のバルブ25を介して連通しており、排気室18の側壁16に形成された開口26は図示しない真空装置に接続されている。排気室18の上壁17にはシール27を介して、ガス状の出発原料(以下、原料ガスと略記する)を供給するガス導入管28が支持されており、ガス導入管28は一方の端部が上壁17と口部保持具20とを貫通してプラスチック容器1内に挿入されていると共に、他端が第1、第2の原料ガス源(図示せず)に接続されている。第1、第2の原料ガス源は、ガス導入管28に対して切替自在とされている。尚、ガス導入管28と口部保持具20の内周面との間には間隙がある。
【0037】
本実施形態の製造方法では、プラズマCVD装置11を用いて、まず、未処理のプラスチック容器1の内側に第1の被覆層2を形成する。被覆層2の形成は、それ自体公知の方法に従って行えばよく、例えば次のようにして行うことができる。
【0038】
被覆層2の形成は、初めにプラスチック容器1を載置した底板13を上昇移動せしめて、処理室14内にプラスチック容器1を収納し、次に図示しない真空装置を作動して、排気室18内を排気し、これにより通気口24を介して処理室14の内部を減圧する。同時に、排気孔21に挿入されたガス導入管28と口部保持具20の内周面との間隙を介して、プラスチック容器1の内部を10−1〜10Paの真空度に減圧する。前記真空度は10−1Pa未満では被覆層2の形成に長時間を要し、10Paを超えると被覆層2のプラスチック容器1への密着性、加工性、ガスバリア性が低下する。
【0039】
次に、図示しない第1の原料ガス源からガス導入管28を介してプラスチック容器1内に、第1の原料ガスを供給する。プラズマCVD装置11では、前記第1の原料ガスを連続的に供給すると共に、前記真空装置により連続的に排気し、処理室14とプラスチック容器1との内部を前記真空度に保持する。前記第1の原料ガスの供給量は、対象となるプラスチック容器1の表面積、形成される被膜の厚さに応じて適正な量に設定される。
【0040】
前記第1の原料ガスとしては、シラン、アルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン等のシラン類、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン等のアルコキシシラン類、テトラアルキルジシロキサン、ヘキサアルキルジシロキサン等のシロキサン類、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン類等の他、それ自体公知の有機珪素化合物のガスを用いることができる。前記第1の原料ガスは前記有機珪素化合物のガスを単独で、或いは2種以上混合して用いることができ、さらに酸素ガスを適切な割合で混合して用いることが好ましい。前記第1の原料ガスとして炭素含有量の高い有機珪素化合物を用いるときには、炭素を二酸化炭素として除去するために、酸素ガスの混合割合を高くすることが好ましい。また、前記第1の原料ガスは、アルゴン、ヘリウム等の希ガスで稀釈して用いるようにしてもよい。
【0041】
前記第1の原料ガスとして、前記有機珪素化合物のガスと共に、酸素ガス、希ガス等の他のガスを用いる場合には、予め前記有機珪素化合物のガスと他のガスとを混合してガス導入管28から導入してもよく、ガス導入管28を2本設け、その1つから前記有機珪素化合物のガスを導入し、他の1つから他のガスを導入するようにしてもよい。また、ガス導入管28を内外2重に設け、内側または外側の一方の側から前記有機珪素化合物のガスを導入し、他方の側から他のガスを導入するようにしてもよい。但し、ガス導入管28を2本設け、またはガス導入管28を内外2重に設ける場合には、前記有機珪素化合物と、他のガスとが、十分に混合されるように注意する必要がある。
【0042】
そして、前記第1の原料ガスが供給されている間、マイクロ波発生装置15を作動して、所定のマイクロ波を所定時間照射することにより、前記原料ガスを電磁励起してプラスチック容器1内にプラズマを発生せしめ、プラスチック容器1の内表面上に第1の被覆層2としての珪素含有被膜を形成する。
【0043】
この結果、50〜700オングストローム、好ましくは100〜500オングストロームの範囲の厚さを備え、有機珪素化合物のプラズマ重合体を含み、好ましくは珪素と酸素との原子比(Si/O)が1/1.5〜1/2.2の範囲にある被覆層2が得られる。また、被覆層2は、それ単独でのΔE値が1.5以下であることが好ましく、さらに1.0以下であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の製造方法では、前述のようにして第1の被覆層2を形成したならば、プラスチック容器1を取り出すことなく、引き続き同一のプラズマCVD装置11において、被覆層2上に第2の被覆層3を形成する。被覆層3の形成は、それ自体公知の方法に従って行えばよく、例えば次のようにして行うことができる。
【0045】
被覆層3の形成は、処理室14内に被覆層2が形成されたプラスチック容器1を収納したまま、前記真空装置により処理室14の内部を減圧すると同時に、プラスチック容器1の内部を1〜50Paの真空度に減圧する。前記真空度は1Pa未満では被覆層3の形成に長時間を要し、50Paを超えると被覆層3の被覆層2への密着性、加工性、ガスバリア性が低下する。
【0046】
次に、図示しない第2の原料ガス源からガス導入管28を介してプラスチック容器1内に、第2の原料ガスを供給する。プラズマCVD装置11では、前記第2の原料ガスを連続的に供給すると共に、前記真空装置により連続的に排気し、処理室14とプラスチック容器1との内部を前記真空度に保持する。前記第2の原料ガスの供給量は、対象となるプラスチック容器1の表面積、形成される被膜の厚さに応じて適正な量に設定される。
【0047】
前記第2の原料ガスとしては、アセチレン、エチレン、プロピレン等の脂肪族不飽和炭化水素化合物、メタン、エタン、プロパン等の脂肪族飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物等の炭素化合物のガスを用いることができるが、脂肪族不飽和炭化水素化合物であるアセチレン、エチレン等が好ましい。前記第2の原料ガスは、単独で用いても、必要に応じて2種以上混合して用いてもよく、被膜改質剤として少量の水素、酸素、有機珪素化合物、その他の被膜形成性有機化合物を併用してもよい。また、前記第2の原料ガスは、アルゴン、ヘリウム等の希ガスで稀釈して用いるようにしてもよい。
【0048】
前記第2の原料ガスとして、前記炭素化合物のガスと共に、前記被膜改質剤、希ガス等の他のガスを用いる場合には、予め前記炭素化合物のガスと他のガスとを混合してガス導入管28から導入してもよく、ガス導入管28を2本設け、その1つから前記炭素化合物のガスを導入し、他の1つから他のガスを導入するようにしてもよい。また、ガス導入管28を内外2重に設け、内側または外側の一方の側から前記炭素化合物のガスを導入し、他方の側から他のガスを導入するようにしてもよい。但し、ガス導入管28を2本設け、またはガス導入管28を内外2重に設ける場合には、前記炭素化合物のガスと、他のガスとが、十分に混合されるように注意する必要がある。
【0049】
そして、前記第2の原料ガスが供給されている間、マイクロ波発生装置5を作動して、所定のマイクロ波を所定時間照射することにより、前記第2の原料ガスを電磁励起してプラスチック容器1内にプラズマを発生せしめ、被覆層2上に第2の被覆層3としてのアモルファスカーボン被膜を形成する。
【0050】
この結果、10〜300オングストローム、好ましくは30〜150オングストロームの範囲の厚さを備え、実質的に炭素からなり、疎水性の指標としての表面張力が55×10−3N/m以下である被覆層3が得られる。
【0051】
被覆層3は、前記アモルファスカーボン被膜からなり厚膜では一般に透明薄茶色を呈するが、本実施形態では被覆層3の膜厚を前記範囲の厚さとし、適切な条件で被覆層3を形成することにより、被覆層3単独でのΔE値が2.0以下とすることが好ましく、さらに1.5以下とすることがより好ましい。
【0052】
被覆層2単独でのΔE値が1.5以下、さらに好ましくは1.0以下であり、被覆層3単独でのΔE値が2.0以下さらに好ましくは1.5以下であることにより、被覆層2,3からなるガスバリア被覆層4のΔE値を2.5以下とすることができる。
【0053】
次に、被覆層3が形成されたならば、前記真空装置の作動を停止し、処理室14とプラスチック容器1との内部を常圧に戻した後、被覆層2,3からなるガスバリア被覆層4が形成されたプラスチック容器1をプラズマCVD装置11から取り出す。
【0054】
尚、本実施形態の装置では、被覆層2の形成と被覆層3の形成とを単一のプラズマCVD装置11で行っているが、2つのプラズマCVD装置11を用い、一方のプラズマCVD装置11で被覆層2の形成を行った後、該プラズマCVD装置11から被覆層2が形成されたプラスチック容器1を取出し、次いで該プラスチック容器1を他方のプラズマCVD装置11に収容して、被覆層3の形成を行うようにしてもよい。2つのプラズマCVD装置11を用いることにより、被覆層2の形成のための原料ガスと、被覆層3の形成のための原料ガスとの切替を行う必要が無くなる。
【0055】
また、本実施形態では、マイクロ波発生装置15からマイクロ波を照射することにより、第1、第2の原料ガスを電磁励起してプラズマを発生させるようにしているが、プラスチック容器1の内外面に電極を配置し、該電極に高周波電流を印加することによりプラズマを発生させるようにしてもよい。但し、プラスチック容器1の内面側に密着性、加工性、ガスバリア性に優れる被膜2,3を形成するためには、マイクロ波を照射してプラズマを発生させる方法の方が適している。
【0056】
次に、本発明の実施例、参考例、比較例を示す。
【実施例1】
【0057】
本実施例では、プラスチック容器1として、ポリエチレンテレフタレート樹脂製プリフォームを二軸延伸ブロー成形して得られた内容積280mlのポリエチレンテレフタレート樹脂製ボトル(以下、ペットボトルと略記する)を用い、図2に示すプラズマCVD装置11により該ペットボトルの内面側に被覆層2,3からなるガスバリア被覆層4を形成した。尚、被覆層2の形成のための第1の原料ガスとしてはヘキサメチルジシロキサンと酸素とを用い、被覆層3の形成のための第2の原料ガスとしてはアセチレンを用いた。
【0058】
珪素含有被膜である被覆層2の厚さ、アモルファスカーボン被膜である被覆層3の厚さ、疎水性の指標としての表面張力、被覆層2,3の厚さの合計としてのガスバリア被覆層4の厚さを表1に示す。尚、珪素含有被膜である被覆層2において、有機珪素化合物のプラズマ重合体の珪素と酸素との原子比は1/2.0であった。
【0059】
次に、ガスバリア被覆層4の形成前のペットボトルと、ガスバリア被覆層4が形成されたペットボトルとから、それぞれ胴部の平らな部分を切り取り、色差計により垂直に光を通過させて、L表色系のL値、a値、b値を測定し、両者の差としてΔL値、Δa値、Δb値を算出した。そして、ΔL値、Δa値、Δb値から前記式(1)に従ってΔE値を算出した。容器着色度としてのΔb値と、容器透明度としてのΔE値とを表1に示す。
【0060】
次に、ガスバリア被覆層4の形成前のペットボトルについて、該ペットボトル1本、1日当たりの酸素透過率を測定し、酸素バリア性Aとした。また、ガスバリア被覆層4の形成後のペットボトルについて、該ペットボトル1本、1日当たりの酸素透過率を測定し、酸素バリア性A’とした。さらに、ガスバリア被覆層4の形成後、モデル的なホットパック条件(以下、モデルホットパック条件と略記する)で内容物を充填した。
【0061】
前記モデルホットパック条件は、次のものである。まず、約90℃の温水(pH7)をペットボトルに充填しキャッピング後、横倒しにして30秒、正立させて3分間保持する。次に、ペットボトルを75℃の温水中に3分間浸漬した後、取り出し、15分間水冷する。前記水冷後、内容物を捨てて、得られたペットボトルを供試試料とする。
【0062】
次に、前記モデルホットパック条件で処理して得られたペットボトルについて、該ペットボトル1本、1日当たりの酸素透過率を測定し、酸素バリア性Bとした。
【0063】
そして、ガスバリア被覆層4の形成前の酸素バリア性Aと、ガスバリア被覆層4を形成し、内容物を加熱充填した後の酸素バリア性Bとの比A/Bとしてガスバリア性指標値BIFを算出した。酸素バリア性A,A’,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表1に示す。
【0064】
次に、ガスバリア被覆層4を形成したペットボトルに、緑茶飲料(pH6.4)を常温で無菌充填した後、直ちに該緑茶飲料を該ペットボトルから取り出し、Labハンター表色系のL値、a値、b値を測定した。次に、ガスバリア被覆層4を形成した後のペットボトルに、緑茶飲料を常温で無菌充填し、60℃の加熱雰囲気中に4週間保存した後、該緑茶飲料を該ペットボトルから取り出し、Labハンター表色系のL値、a値、b値を測定した。そして、前記常温で無菌充填した直後のL値、a値、b値と、前記保存後のL値、a値、b値との差として、ΔL値、Δa値、Δb値を算出し、ΔL値、Δa値、Δb値から次式(2)に従ってLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
ΔE=(ΔL+Δa+Δb1/2 ・・・(2)
前記Labハンター表色系のΔE値は、常温で無菌充填した直後の前記緑茶飲料の色彩と、常温で無菌充填後、さらに60℃の加熱雰囲気中に4週間保存した後の該緑茶飲料の色彩との変化の度合い(緑茶飲料変色度)を示すものであり、ΔE値が大きいほど該緑茶飲料が酸化劣化されたこと、換言すれば前記ペットボトルのガスバリア性が低いことを示す。
〔参考例〕
本参考例では、まず、実施例1で用いたものと同一のペットボトルについて、ガスバリア被覆層4を全く形成することなく、該ペットボトル1本、1日当たりの酸素透過率を測定した。前記酸素透過率は、ガスバリア被覆層4の形成前のペットボトルの酸素バリア性Aに相当する。
【0066】
次に、ガスバリア被覆層4を全く形成していない前記ペットボトルを前記モデルホットパック条件で処理した後、該ペットボトル1本、1日当たりの酸素透過率を測定し、酸素バリア性Bとした。そして、実施例1と全く同一にしてガスバリア性指標値BIFを算出した。酸素バリア性A,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表1に示す。
【0067】
次に、ガスバリア被覆層4を全く形成していない前記ペットボトルについて、実施例1と全く同一にして、緑茶飲料変色度としてのLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
本比較例では、実施例1で用いたものと同一のペットボトルを用い、図2に示すプラズマCVD装置11により該ペットボトルの内面側に被覆層3のみからなるガスバリア被覆層4を形成した。尚、被覆層3の形成のための第2の原料ガスとしてはアセチレンを用いた。
【0068】
アモルファスカーボン被膜である被覆層3の厚さ、疎水性の指標としての表面張力、ガスバリア被覆層4の厚さを表1に示す。
【0069】
次に、実施例1と全く同一にして、L表色系のΔb値、ΔE値を算出した。容器着色度としてのΔb値と、容器透明度としてのΔE値とを表1に示す。
【0070】
次に、実施例1と全く同一にして、酸素バリア性A,A’,Bをもとめ、ガスバリア性指標値BIFを算出した。酸素バリア性A,A’,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表1に示す。
【0071】
次に、実施例1と全く同一にして、緑茶飲料変色度としてのLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
本比較例では、実施例1で用いたものと同一のペットボトルを用い、図2に示すプラズマCVD装置11により該ペットボトルの内面側に被覆層2のみからなるガスバリア被覆層4を形成した。被覆層2は第1の原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサンと酸素とをを用いて形成された有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜であり、該有機珪素化合物のプラズマ重合体の珪素と酸素との原子比は1/2.0であった。被覆層2の厚さ、ガスバリア被覆層4の厚さを表1に示す。
【0072】
次に、実施例1と全く同一にして、L表色系のΔb値、ΔE値を算出した。容器着色度としてのΔb値と、容器透明度としてのΔE値とを表1に示す。
【0073】
次に、実施例1と全く同一にして、酸素バリア性A,A’,Bをもとめ、ガスバリア性指標値BIFを算出した。酸素バリア性A,A’,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表1に示す。
【0074】
次に、実施例1と全く同一にして、緑茶飲料変色度としてのLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表1に示す。
〔比較例3〕
本比較例では、膜厚を変えた以外は比較例1と同様にして、実施例1で用いたものと同一のペットボトルの内面側に被覆層3のみからなるガスバリア被覆層4を形成した。
【0075】
アモルファスカーボン被膜である被覆層3の厚さ、疎水性の指標としての表面張力、ガスバリア被覆層4の厚さを表1に示す。
【0076】
次に、実施例1と全く同一にして、L表色系のΔb値、ΔE値を算出した。容器着色度としてのΔb値と、容器透明度としてのΔE値とを表1に示す。
【0077】
次に、実施例1と全く同一にして、酸素バリア性A,A’,Bをもとめ、ガスバリア性指標値BIFを算出した。酸素バリア性A,A’,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表1に示す。
【0078】
次に、実施例1と全く同一にして、緑茶飲料変色度としてのLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から、次のことが明らかである。
【0081】
まず、参考例のガスバリア被覆層4を全く形成していないペットボトルでは、酸素バリア性A,Bからも明らかなように該ペットボトルのガスバリア性が低く、高温長時間の保存では緑茶飲料変色度が大きい。
【0082】
次に、比較例1のガスバリア被覆層4としてアモルファスカーボン被膜からなる被覆層3のみを備えるペットボトルでは、被覆層3の厚さを146オングストロームとすることにより、容器着色度Δb値、容器透明度ΔE値は小さくなる。しかし、ガスバリア被覆層4形成後の酸素バリア性A’、加熱充填後の酸素バリア性Bも低く、十分なガスバリア性が得られないことが明らかである。
【0083】
前記ガスバリア被覆層4としてアモルファスカーボン被膜からなる被覆層3のみを備えるペットボトルは、比較例3のように、被覆層3の厚さを453オングストロームとすることにより、ガスバリア被覆層4形成後の酸素バリア性A’、加熱充填後の酸素バリア性Bを向上させ、優れたガスバリア性を得ることができる。しかし、前記アモルファスカーボン被膜を前記厚さとすると、容器着色度Δb値、容器透明度ΔE値が大きくなり、十分な無色透明性が得られないことが明らかである。
【0084】
次に、比較例2のガスバリア被覆層4として珪素含有被膜からなる被覆層2のみを備えるペットボトルでは、容器着色度Δb値、容器透明度ΔE値が小さい上、ガスバリア被覆層4形成後の酸素バリア性A’が高く、優れたガスバリア性を備えている。しかし、前記ペットボトルでは、ガスバリア被覆層4を形成し、加熱充填した後の酸素バリア性Bは、ガスバリア被覆層4形成前の酸素バリア性Aと同一であり、ホットパック後には被覆層2のガスバリア性が大きく低下していることが明らかである。
【0085】
前記参考例、各比較例に対し、前記ガスバリア被覆層4として珪素含有被膜からなる被覆層2と、被覆層2上に積層されたアモルファスカーボン被膜からなる被覆層3とを備える実施例1のペットボトルは、容器着色度Δb値、容器透明度ΔE値が小さく優れた無色透明性を備えていることが明らかである。また、実施例1のペットボトルは、ガスバリア被覆層4形成後の酸素バリア性A’が高く、常温で優れたガスバリア性を備えている上、加熱充填後の酸素バリア性Bも高く、ホットパック後にも優れたガスバリア性を保持していることが明らかである。
【0086】
さらに、実施例1のペットボトルによれば、加熱後にも優れたガスバリア性を保持していることにより、緑茶飲料変色度が前記参考例、比較例1,2の各ペットボトルよりも格段に低く、優れた内容物保存性を備えていることが明らかである。
【0087】
従って、実施例1のペットボトルは、被覆層2の厚さが比較例2のペットボトルと同一であり、被覆層3の厚さが比較例1のペットボトルと同一であるにも関わらず、比較例1,2のペットボトルにより得られる効果の総和以上の効果を奏することができることが明らかである。
【実施例2】
【0088】
【実施例3】
【0089】
【実施例4】
【0090】
実施例2〜4では、アモルファスカーボン被膜である被覆層3の厚さを変えた以外は、実施例1と全く同一にして、ペットボトルの内面側に被覆層2,3からなるガスバリア被覆層4を形成した。実施例2〜4のペットボトルでは、被覆層2を形成する珪素含有被膜中の珪素と酸素との原子比は1/1.8〜1/2.2の範囲にあった。
【0091】
次に、実施例2〜4の各ペットボトルの珪素含有被膜である被覆層2の厚さ、アモルファスカーボン被膜である被覆層3の厚さ、疎水性の指標としての表面張力、被覆層2,3の厚さの合計としてのガスバリア被覆層4の厚さを表2に示す。
【0092】
次に、実施例2〜4の各ペットボトルについて、実施例1と全く同一にして、L表色系のΔb値、ΔE値を算出した。各ペットボトルの容器着色度としてのΔb値と、容器透明度としてのΔE値とを表2に示す。
【0093】
次に、実施例2〜4の各ペットボトルについて、実施例1と全く同一にして、酸素バリア性A,A’,Bをもとめ、ガスバリア性指標値BIFを算出した。各ペットボトルの酸素バリア性A,A’,Bと、ガスバリア性指標値BIFとを表2に示す。
【0094】
次に、実施例2〜4の各ペットボトルについて、実施例1と全く同一にして、緑茶飲料変色度としてのLabハンター表色系のΔE値を算出した。結果を表2に示す。
【0095】
尚、表2には、実施例1のデータを併記する。
【0096】
【表2】

【0097】
表2から、アモルファスカーボン被膜からなる被覆層2の厚さが31〜205オングストロームの範囲にある実施例2〜4の各ペットボトルは、実施例1のペットボトルと同様に、容器着色度Δb値、容器透明度ΔE値が小さく優れた無色透明性を備えていることが明らかである。また、実施例2〜4の各ペットボトルは、実施例1のペットボトルと同様に、ガスバリア被覆層4形成後の酸素バリア性A’が高く、常温で優れたガスバリア性を備えている上、加熱充填後の酸素バリア性Bが高く、加熱後にも優れたガスバリア性を保持していることが明らかである。
【0098】
実施例1〜4では、pH7.0の温水を用いた場合のバリア性指標値を評価しているが、実施例1〜4のペットボトルによれば、pH6.4の緑茶飲料、pH6.7のミネラルウォーター、pH5.5のブラックコーヒーについても、バリア性指標値が5.0以上であり、優れたガスバリア性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明のプラスチック容器の構成を示す説明的断面図。
【図2】本発明のプラスチック容器の製造に用いる装置の一構成例を示す説明的断面図。
【符号の説明】
【0100】
1…プラスチック容器、 2…第1の被覆層、 3…第2の被覆層、 4…ガスバリア被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面側にプラズマCVDにより形成されたガスバリア被覆層を備える内面被覆プラスチック容器において、
該ガスバリア被覆層は、有機珪素化合物を含む第1の出発原料からプラズマCVDにより該容器の内表面上に形成された有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜であって50〜700オングストロームの範囲の厚さを備える第1の被覆層と、炭素化合物を含む第2の出発原料からプラズマCVDにより該第1の被覆層上に形成されたアモルファスカーボン被膜であって10〜300オングストロームの範囲の厚さと55×10−3N/m以下の範囲の表面張力とを備える第2の被覆層とからなり、
該容器の胴部における該ガスバリア被覆層形成前後の着色透明度の変化が、L表色系により算出されるΔE値で2.5以下であることを特徴とする内面被覆プラスチック容器。
【請求項2】
前記内面被覆プラスチック容器の前記ガスバリア被覆層を形成する前の酸素バリア性Aと、該ガスバリア被覆層を形成し、内容物を加熱充填した後の酸素バリア性Bとの比A/Bで示されるバリア性指標値が5.0以上であることを特徴とする請求項1記載の内面被覆プラスチック容器。
【請求項3】
プラスチック容器をプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に有機珪素化合物を含む第1の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該容器の内表面上に有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜である第1の被覆層を形成する工程と、
該第1の被覆層形成後、引き続き該容器内面側に炭素化合物を含む第2の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該第1の被覆層上にアモルファスカーボン被膜である第2の被覆層を形成する工程とを備えることを特徴とする内面被覆プラスチック容器の製造方法。
【請求項4】
プラスチック容器を第1のプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に有機珪素化合物を含む第1の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該容器の内表面上に有機珪素化合物のプラズマ重合体を含む珪素含有被膜である第1の被覆層を形成する工程と、
該第1の被覆層形成後、該容器を該第1のプラズマ処理装置から取り出して、第2のプラズマ処理装置内に収容し、少なくとも該容器内面側を所定の真空度に減圧した後、該容器内面側に炭素化合物を含む第2の出発原料を導入し、プラズマCVDにより該第1の被覆層上にアモルファスカーボン被膜である第2の被覆層を形成する工程とを備えることを特徴とする内面被覆プラスチック容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−89073(P2006−89073A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275631(P2004−275631)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(505440295)北海製罐株式会社 (58)
【Fターム(参考)】