説明

円筒状ターゲット材、その製造方法、及び、そのシート被覆方法

【課題】大型のサイズであっても真直度に優れ、表面が平滑である高品質な円筒状ターゲット材を提供することを目的とするとともに、たとえ大型の円筒状ターゲット材を製造する場合であっても、曲がりや歪が発生することがなく、表面に疵が発生することのない円筒状ターゲット材の製造方法、及び、円筒状ターゲット材のシート被覆方法を提供することを目的とする。
【解決手段】無酸素銅からなるターゲット材料に対して調質処理を施すターゲット材料調質処理工程S10と、該工程により形成した調質処理済ターゲット材に対して追加工を施す調質処理済ターゲット材追加工工程S20とを行い円筒状ターゲット材を製造する製造方法において、前記ターゲット材料調質処理工程S10では、所定の焼鈍工程、及び、引抜き抽伸工程を行った後、ターゲット材料仕上げ工程S15を行い、該ターゲット材料仕上げ工程S15において、仕上げ焼鈍工程S15Aを行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型サイズの被スパッタリングターゲット材に対して成膜し得る円筒状ターゲット材、その製造方法、及び、そのシート被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板やガラスなどの被スパッタリングターゲット材に薄膜を成膜する技術としてスパッタリング法が従来から知られている。
特許文献1では、スパッタリング法に用いるターゲット材としての円筒状ターゲット材が開示されている。円筒状ターゲット材は、従来から用いられている平板状ターゲットと比較して成膜速度やターゲット使用効率の点で優れている。特許文献1に開示の円筒状ターゲット材は、ターゲット材ホルダとしてのパッキンチューブに挿着して保持され、被スパッタリングターゲット材に対向するよう配置し、ターゲット駆動装置により支持された状態でパッキンチューブとともに軸周りに回転させる部材である。
【0003】
特に近年では、ディスプレイパネルや基板の被スパッタリングターゲット材の大型化が進み、このような大型サイズの被スパッタリングターゲット材への成膜に適用することが期待されるに伴って、円筒状ターゲット材は、大型のサイズのものが要求されている。
【0004】
しかし、円筒状ターゲット材が大型化するに伴い長尺化すると、円筒状ターゲット材の製造過程において、撓みや歪みが生じ易くなるという問題があった。
詳しくは、円筒状ターゲット材の製造方法では、ターゲット材料調質処理工程と調質処理済ターゲット材追加工工程とが行われる。ターゲット材料調質処理工程では、無酸素銅からなるターゲット材料に対して調質処理を施す工程であり、調質処理済ターゲット材追加工工程では、前記ターゲット材料調質処理工程により形成した調質処理済ターゲット材に対して、例えば、軸方向の長さ、外径、及び、内径が所望の寸法になるよう切削による追加工を施したり、洗浄を施す工程である。
【0005】
円筒状ターゲット材が大型のサイズである場合、例えば、円筒状ターゲット材を吊り下げて移動するだけでも該円筒状ターゲット材自体に自重による負荷が加わるため、上述した調質処理済ターゲット材追加工工程や、その後に行われる検査や梱包、運搬などの工程において円筒状ターゲット材に撓みや歪が生じ易くなる。
【0006】
よって、このような円筒状ターゲット材に撓みや歪みが生じた場合は、ターゲットホルダへの挿着が困難となるという問題が生じるおそれがある。
【0007】
また、このような問題が生じた場合には、円筒状ターゲット材をターゲットホルダへ挿着する直前に、真直度の矯正作業を行う必要があるが、真直度の矯正には高度な技能や高額な費用を必要とし、円筒状ターゲット材をターゲットホルダへ挿着するために行う現場での調整作業に過大な負担を強いることになるという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−155356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、大型のサイズであっても真直度に優れ、表面が平滑である高品質な円筒状ターゲット材を提供することを目的とするとともに、たとえ大型の円筒状ターゲット材を製造する場合であっても、曲がりや歪が発生することがなく、表面に疵が発生することのない円筒状ターゲット材の製造方法、及び、円筒状ターゲット材のシート被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、無酸素銅からなるターゲット材料に対して調質処理を施すターゲット材料調質処理工程と、該ターゲット材料調質処理工程により形成した調質処理済ターゲット材に対して切削による追加工を施す調質処理済ターゲット材追加工工程とを行い円筒状ターゲット材を製造する製造方法において、前記ターゲット材料調質処理工程では、熱間加工工程、焼鈍前引抜き抽伸工程、中間焼鈍工程、焼鈍後引抜き抽伸工程、及びターゲット材料仕上げ工程をこの順で行うスパッタリング用の円筒状ターゲット材の製造方法であって、前記ターゲット材料仕上げ工程において、仕上げ焼鈍工程を行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法によれば、前記ターゲット材料仕上げ工程において、仕上げ焼鈍工程を行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程を行うため、たとえ仕上げ焼鈍工程により、前記ターゲット材料に形状変動や寸法変動が生じても、その後に行う仕上げ引抜き抽伸工程において、前記ターゲット材料に生じた形状変動や寸法変動をなくし、寸法精度がよく、表面のきれいな調質処理済ターゲット材を製造することができる。
【0012】
これにより、調質処理済ターゲット材追加工工程において、調質処理済ターゲット材を、スパッタリングターゲット材として用いる上で要求される形状、寸法に近い形状、寸法とすることができる。
【0013】
よって、仕上げ焼鈍工程後に調質処理済ターゲット材に対して行われる前記調質処理済ターゲット材追加工工程において、該調質処理済ターゲット材の形状、寸法の矯正も含めた追加工の労力を大幅に軽減することができる。
【0014】
さらに、前記調質処理済ターゲット材追加工工程における追加工による調質処理済ターゲット材に対して行われる追加工の労力を大幅に削減することができるため、たとえ大型の調質処理済ターゲット材であっても、追加工を行う過程で、調質処理済ターゲット材に曲げや撓みが生じることがなく、曲げや疵のない高品質な円筒状ターゲット材を製造することができる。
【0015】
さらにまた、追加工を行う過程で、調質処理済ターゲット材に曲げや撓みが生じることがないため、高度な技能や高額な費用を要する真直度の矯正を行う労力を要することなしに円筒状ターゲット材を製造することができる。
【0016】
また、本発明の製造方法によれば、上述したように、調質処理済ターゲット材追加工工程において、調質処理済ターゲット材を、スパッタリングターゲット材として用いる上で要求される形状、寸法に近い形状、寸法の円筒状ターゲット材として追加工することができる。このため、前記ターゲット材料調質処理工程の後に調質処理済ターゲット材追加工工程において切削加工が行われることを見越して、ターゲット材料のサイズを、従来のサイズと比較して大きなものを用いることを必要としない。
【0017】
従って、前記ターゲット材料調質処理工程では、スパッタリングターゲット材として用いる観点で必要以上に大型のサイズのターゲット材料を用いる必要がないため、中間焼鈍工程での消費電力を削減でき、焼鈍時間の短縮化を図ることができるとともに、調質処理済ターゲット材追加工工程において、従来と比較してターゲット材料が追加工により切削される切削量を大幅に削減できるため、円筒状ターゲット材の生産能力を高めることができる。
【0018】
この発明の態様として、前記仕上げ引抜き抽伸工程において、前記ターゲット材料に対して、質別が1/4H相当の調質処理済円筒状ターゲット材となるよう仕上げ抽伸を行うことができる。
【0019】
この構成によれば、硬さ(HV)で40から50程度の硬度の従来の円筒状ターゲット材よりも高い硬度である例えば、70以上90以下の範囲を満たした硬度を有する円筒状ターゲット材を容易に構成することができる。
【0020】
これにより、前記調質処理済ターゲット材追加工工程において調質処理済ターゲット材に対して切削加工を行う上で調質処理済ターゲット材を適切な硬度とすることができ、調質処理済ターゲット材の切削加工性を向上させることができる。
【0021】
よって、前記調質処理済ターゲット材追加工工程において調質処理済ターゲット材に対して切削による追加工に手間を要することがなく、また、切削による追加工をスムーズに行うことができるため、円筒状ターゲット材に撓みや歪が発生するといった事態が生じることのない優れた品質の円筒状ターゲット材を得ることができる。
【0022】
この発明の態様として、前記仕上げ引抜き抽伸工程の後の前記調質処理済ターゲット材を、ビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の硬度とすることができる。
【0023】
このように、ビッカース硬さ(HV)で70以上の硬度とすることにより、大型サイズの被スパッタリングターゲット材に対応して大型に構成した場合であっても、撓みや歪にくく、装置に装着するなど扱った際に撓みや歪み、さらには、疵のない平滑で美麗な表面とすることができる。
【0024】
さらに、円筒状ターゲット材を平滑な表面に保つことができるため、スパッタリングターゲット材として用いた際に、スパッタリングを起こさせた後の消耗量を表面の各部分において均一とすることができ、優れた品質のスパッタリングターゲット材として用いることができる。
【0025】
一方、調質処理済ターゲット材、すなわち、円筒状ターゲット材は、ターゲット材料調質処理工程の仕上げ引抜き抽伸工程を経てビッカース硬さ(HV)で90以下の硬度とすることができる。
このように、調質処理済ターゲット材の硬度を、ビッカース硬さ(HV)で90以下という高過ぎる硬度としないことで、仕上げ引抜き抽伸工程の後であって、調質処理済ターゲット材追加工工程の前に、調質処理済ターゲット材に対して焼鈍等を行う必要がなく、調質処理済ターゲット材追加工工程において必要な寸法精度を容易に確保した上で切削による追加工を行うことができる。
【0026】
また、本発明は、上述した製造方法により製造する円筒状ターゲット材を、円筒状のターゲット本体部と、該ターゲット本体部の長さ方向の一端で開口する開口部を閉塞するフランジ部とを備えるとともに、少なくとも前記ターゲット本体部と前記フランジ部とが一部材を成すよう構成することを特徴とする。
【0027】
上述した構成により、円筒状ターゲット材は、ターゲット本体部とフランジ部との一体性が増し、これら各部の間を優れた気密性に保つことができる。
【0028】
従って、ターゲット本体部内部に粉塵が付着していた場合でも、これら粉塵がターゲット本体部とフランジ部と隙間を通じて外部に流出することがないため、スパッタ装置に備えた真空チャンバー内をクリーンに保つことができ、スパッタリングを行う際に、被スパッタリングターゲット材に良好な薄膜を成膜することができる。
【0029】
また本発明は、上述した円筒状ターゲット材の表面を保護シートで密着状態に被覆する円筒状ターゲット材のシート被覆方法であって、前記保護シートとして用いる熱収縮シートを前記円筒状ターゲット材の外周面に配置するシート配置工程と、前記熱収縮シートに対して熱を付与して該熱収縮シートを前記円筒状ターゲット材側へ収縮させるシート熱付与工程とを行うことを特徴とする。
さらにまた、本発明は、シート被覆方法により被覆した円筒状ターゲット材であることを特徴とする。
【0030】
上述した構成によれば、前記シート熱付与工程において前記熱収縮シートを前記円筒状ターゲット材側へ熱収縮させることにより、前記円筒状ターゲット材の外周面に前記熱収縮シートを密着した状態で被覆することができる。
【0031】
よって、前記円筒状ターゲット材の表面に粉塵が付着することがなく、疵がつかないようしっかりと保護することができる。
【0032】
さらに、保護シートとして前記熱収縮シートを用いることにより、上述したように、熱収縮させて前記円筒状ターゲット材の外周面に密着した状態で被覆できるため、保護シートを前記円筒状ターゲット材に接着するための手段として接着剤を用いることがない。よって、前記円筒状ターゲット材の外周面に被覆した前記熱収縮シートを剥離したとき、前記円筒状ターゲット材の表面に接着剤が残留することがない。
【0033】
従って、保護シートを剥離後に前記円筒状ターゲット材の表面に付着した接着剤を除去するといった手間を要さず、保護シートを剥離後に、すぐに前記円筒状ターゲット材として用いることができ、前記円筒状ターゲット材を、品質の高いスパッタリングターゲット材としてすぐに用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
この発明によれば、大型のサイズであっても真直度に優れ、表面が平滑である高品質な円筒状ターゲット材を提供することができるとともに、たとえ大型の円筒状ターゲット材を製造する場合であっても、曲がりや歪が発生することがなく、表面に疵が発生することのない円筒状ターゲット材の製造方法、及び、円筒状ターゲット材のシート被覆方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の円筒状ターゲット材を一部断面で示した構成説明図。
【図2】本実施形態の円筒状ターゲット材の製造方法のフロー説明図。
【図3】本実施形態の円筒状ターゲット材の製造方法の一部を示すフロー説明図。
【図4】本実施形態の円筒状ターゲット材の製造方法の一部を示すフロー説明図。
【図5】本実施形態の円筒状ターゲット材の他の製造方法の一部を示すフロー説明図。
【図6】本実施形態の円筒状ターゲット材へのシート被覆方法のフロー説明図。
【図7】本実施形態の円筒状ターゲット材へのシート被覆方法における各工程の様子を模式的に示した説明図。
【図8】従来の円筒状ターゲット材の製造方法の一部を示すフロー説明図。
【図9】従来の円筒状ターゲット材を一部断面で示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態におけるスパッタリング用ターゲットとしての円筒状ターゲット材11は、図1に示すように、全長が大よそ3000mm程度の長尺サイズの円筒状に構成している。
なお、図1(a)は、円筒状ターゲット材11の一部を拡大して示すとともに、円筒状ターゲット材11の一部断面で示した側面図であり、図1(b)は、円筒状ターゲット材11の正面図である。
【0037】
円筒状ターゲット材11は、スパッタ装置に組み込む際に、該円筒状ターゲット材11を回転自在に保持するターゲットホルダ(図示せず)への嵌合を許容する嵌合取付部11dを軸方向の両端部に構成し、嵌合取付部11dは、軸方向の他の部分に対して小径に構成している。
【0038】
円筒状ターゲット材11の材質は、一般的に酸化物を含まない99.995%の高純度銅、すなわち無酸素銅である(JIS H0500)。円筒状ターゲット材11は、ビッカース硬さ(HV)で70以上の硬度である。
【0039】
円筒状ターゲット材11は、図1に示すように、ターゲット本体部11Aと、ターゲット本体部11Aの軸方向の一端で開口する一端側開口部11b1を閉塞するフランジ部11Bとで一部材を成すフランジ一体型として構成している。
なお、図示しないが、円筒状ターゲット材11には、スパッタ装置に組み込む際には、該円筒状ターゲット材11の軸方向のフランジ部11Bの側と他端で開口する他端側開口部11b2を閉塞する蓋部11Cが別途、取り付けられる。
【0040】
上述した構成の円筒状ターゲット材11の製造方法について図2を用いて説明する。
なお、図2は、円筒状ターゲット材11の製造方法の流れを示すフロー図である。
【0041】
円筒状ターゲット材11の製造方法は、ターゲット材料調質処理工程S10と調質処理済ターゲット材追加工工程S20とに大別される。ターゲット材料調質処理工程S10は、無酸素銅からなるターゲット材料に対して調質処理を施す工程であり、調質処理済ターゲット材追加工工程S20では、前記ターゲット材料調質処理工程S10により形成した調質処理済ターゲット材に対して切削等の追加工を施す工程である。
【0042】
円筒状ターゲット材11は、これら一連の工程を経た後に行われる検査によって、軸方向の真直度、外径、内径などの寸法について所定の基準を満たした場合に、スパッタリング用ターゲットとしてスパッタリング装置におけるターゲットホルダに挿着される。
【0043】
ターゲット材料調質処理工程S10について詳述すると、図3に示すように、ターゲット材料調質処理工程S10は、無酸素銅からなるターゲット材料に対して熱間加工工程S11、焼鈍前引抜き抽伸工程S12、中間焼鈍工程S13、焼鈍後引抜き抽伸工程S14、及びターゲット材料仕上げ工程S15をこの順で行う工程である。
【0044】
熱間加工工程S11としては、例えば、熱間圧延工程または熱間押出工程により行うことができる。熱間圧延工程は、無酸素銅の再結晶温度以上となる所定温度の下、ターゲット材料を圧延する工程であり、熱間押出工程は、無酸素銅の再結晶温度以上となる所定温度の下、ターゲット材料を押し出す工程である。
【0045】
前記焼鈍前引抜き抽伸工程S12は、前記熱間圧延工程S11の後に冷却したターゲット材料に対して金属の再結晶温度以下の所定温度の下、13.5%の冷間圧延加工率で圧延する工程である。
【0046】
前記中間焼鈍工程S13は、750℃の下、15m/hrの送り速度で焼鈍を行う工程である。前記焼鈍後引抜き抽伸工程S14は、金属の再結晶温度以下の所定温度の下、17.0%の冷間圧延加工率で圧延する工程である。
【0047】
ターゲット材料仕上げ工程S15においては、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bと仕上げ焼鈍工程S15Aとを行うが、特に、本実施形態の円筒状ターゲット材の製造方法では、図3に示すように、前記ターゲット材料仕上げ工程S15において、先に仕上げ焼鈍工程S15Aを行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを行うことを特徴とする。
【0048】
前記仕上げ焼鈍工程S15Aは、ターゲット材料の焼鈍温度が740℃になることを目標値として、炉内の温度を810℃に設定し、810℃の下、8m/hrの送り速度で焼鈍を行う工程である。前記仕上げ引抜き抽伸工程S15Bは、金属の再結晶温度以下の所定温度の下、9.7%の冷間圧延加工率で圧延する工程である。
【0049】
上述したターゲット材料調質処理工程S10により、ターゲット材料を調質処理済ターゲット材として形成することができる。
調質処理済ターゲット材は、ターゲット材料調質処理工程S10における特に仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを経ることにより、1/4H相当の質別とすることができる。
【0050】
また、上述したターゲット材料調質処理工程S10の後で行う調質処理済ターゲット材追加工工程S20においては、図4に示すように、調質処理済ターゲット材に対して、内径面切削加工S21と適宜の外径面切削加工S22とを行う。
【0051】
内径面切削加工S21は、上述したターゲット材料調質処理工程S10で作製した調質処理済ターゲット材を洗浄し、該調質処理済ターゲット材に対して例えば、BTA加工方式により、スパッタ用ターゲットとして必要となる必要な内径に拡径する工程である。
なお、BTA加工方式とは、ドリルと穴内面の隙間から切削剤を供給し、ドリル中央部の穴から排出させる公知の方式である。但し、内径面切削加工S21では、BTA加工方式に限らず、エジェクタドリル加工方式やガンドリル加工方式といった他の深穴加工方法を採用してもよい。
【0052】
外径面切削加工S22は、内径面切削加工S21後の調質処理済ターゲット材に対して、スパッタ用ターゲットとして必要な外径、及び、軸方向の長さとなるよう切削加工を施す工程である。
【0053】
上述した調質処理済ターゲット材追加工工程S20を、ターゲット本体部11Aとフランジ部11Bとで一部材をなすフランジ一体型の調質処理済ターゲット材に対して行うことにより、図1に示すような円筒状ターゲット材11を製造することができる。
【0054】
ここで、本実施形態の円筒状ターゲット材11の製造方法は、上述したターゲット材料調質処理工程S10において、歪が生じるなどの寸法変動が殆ど生じていない調質処理済ターゲット材を作製することができるため、その後に内径面切削加工S21において、調質処理済ターゲット材に対して行う追加工のレベルを最小限に留めることができる。
【0055】
さらに、本実施形態の円筒状ターゲット材11の製造方法は、図5に示すように、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において内径面切削加工S21を省略することも可能となる。
【0056】
詳しくは、従来の円筒状ターゲット材の製造方法によれば、図8に示すように、ターゲット材料仕上げ工程S150において、先に仕上げ引抜き抽伸工程S150Bを行い、ターゲット材料の硬度を低くした後で、仕上げ焼鈍工程S150Aを行うため、仕上げ焼鈍工程S150Aを経た後の調質処理済ターゲット材には、ターゲットホルダへの挿着が困難となる程度の歪が生じるなどの寸法変動が生じることになる。よって、従来の円筒状ターゲット材の製造方法では、その後に行う調質処理済ターゲット材追加工工程において、内径面切削加工S21は必須の工程であった。
【0057】
これに対して、本実施形態の円筒状ターゲット材11の製造方法によれば、図3に示すように、ターゲット材料調質処理工程S10における前記ターゲット材料仕上げ工程S15において、先に仕上げ焼鈍工程S15Aを行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを行うため、上述したターゲット材料調質処理工程S10を経た後の調質処理済ターゲット材は、歪などの寸法変動が殆ど生じることがない。よって、このような調質処理済ターゲット材に対しては、内径面切削加工S21は、必ずしも必須の工程ではない。
【0058】
すなわち、本実施形態の円筒状ターゲット材11の製造方法では、ターゲット材料調質処理工程S10において、調質処理済ターゲット材に生じる寸法変動の影響を極力抑制することができるため、内径面切削加工S21を省略することが可能となる。
【0059】
上述した製造方法により製造した円筒状ターゲット材11に対して適宜、洗浄が行われるとともに、寸法などの品質検査が行われる。さらに、製造した円筒状ターゲット材11を、スパッタリングターゲット材としてスパッタ装置(図示せず)に組み込むまでの間、該円筒状ターゲット材の表面を保護するために、保護シートで密着状態に被覆する前記シート被覆工程S30を行う。
【0060】
前記シート被覆工程S30について図6、及び、図7を用いて詳述する。
なお、図6は、シート被覆工程S30の流れを示すフロー説明図であり、図7は、シート被覆工程S30で行われる作業の様子を模式的に示した説明図である。
【0061】
前記シート被覆工程S30は、図6に示すとおり、シート配置工程S31とシート熱付与工程S32とをこの順で行う工程である。シート配置工程S31は、保護シートとして用いる熱収縮シート31を円筒状ターゲット材11の外周面11aに配置する工程である。
なお、熱収縮シート31としては、例えば、ポリオレフィンで形成したシュリンクフィルムを用いることができる。
【0062】
詳しくは、図7(a)に示すように、所定の熱収縮シート31を用意する。なお、熱収縮シート31は、正面視矩形をしたシート状であり、一方の辺が、円筒状ターゲット材11を包み込みが可能に周方向の長さよりも一周り長い長さを有するとともに、他方の辺が、円筒状ターゲット材11の少なくともターゲット本体部11Aにおける嵌合取付部11dを除く部分の軸方向の長さを有する大きさで形成している。
【0063】
続いて、図7(b)に示すように、円筒状ターゲット材11の軸方向と熱収縮シート31の他方の辺の方向とを一致した状態で、熱収縮シート31を、円筒状ターゲット材11の周りを包囲するようにして配置する。そして図7(c)、及び、図7(c)の一部拡大図に示すように、熱収縮シート31の対向端部同士を僅かに重合し、該重合代部分31aに熱を付与して一体とする。
【0064】
これにより、熱収縮シート31は、筒状に保った状態で円筒状ターゲット材11の外周に配置される。なお、図7(c)は、一部拡大して示した熱収縮シート31を包囲した状態の円筒状ターゲット材11の横断面図である。
【0065】
シート熱付与工程S32では、図7(d)に示すように、筒状の熱収縮シート31の外側から工業用ドライヤー150などで熱を付与することにより、熱収縮シート31を円筒状ターゲット材11側へ収縮させる。これにより、図7(e)に示すように、円筒状ターゲット材11の表面を熱収縮シート31で密着状態に被覆することができる。
【0066】
上述した円筒状ターゲット材11、円筒状ターゲット材11の製造方法、及び、円筒状ターゲット材11のシート被覆方法が奏する作用、効果について説明する。
上述したターゲット材料を用いて上述した製造方法により円筒状ターゲット材11を製造することにより、たとえ大型の円筒状ターゲット材11を製造する場合であっても、曲げや歪が発生することがなく、表面に疵が発生することのないため、真直度に優れ、表面が平滑である高品質な円筒状ターゲット材11を製造することができる。
【0067】
詳しくは、図8に示すように、従来のターゲット材料仕上げ工程S150においては、仕上げ引抜き抽伸工程S150Bの後に、仕上げ焼鈍工程S150Aを行っていた。この場合、一般に焼鈍工程を経ることで、前記ターゲット材料には形状変動、寸法変動が生じるため、ターゲット材料仕上げ工程S150後には、形状変動や寸法変動が生じた調質処理済ターゲット材が製造されることになる。
【0068】
これに対して、本実施形態の製造方法によれば、図3に示すように、前記ターゲット材料仕上げ工程S15において、仕上げ焼鈍工程S15Aを行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを行うため、たとえ仕上げ焼鈍工程S15Aにより、前記ターゲット材料に形状変動や寸法変動が生じても、その後に行う仕上げ引抜き抽伸工程S15Bにおいて、前記ターゲット材料に生じた形状変動や寸法変動を引抜き抽伸により解消でき、結果的に寸法精度がよく、表面が美麗で平滑な調質処理済ターゲット材を製造することができる。
【0069】
これにより、ターゲット材料調質処理工程S10の段階において、調質処理済ターゲット材を、スパッタリングターゲット材として用いる上で要求される形状、寸法に近い形状、寸法とすることができる。よって、ターゲット材料調質処理工程S10の後に行われる前記調質処理済ターゲット材追加工工程S20において、調質処理済ターゲット材に対して行われる形状、寸法の矯正も含めた追加工に要する労力を大幅に軽減することができる。
【0070】
さらに、前記調質処理済ターゲット材追加工工程S20において調質処理済ターゲット材に対して行われる追加工の労力を大幅に削減することができるため、たとえ大型サイズの調質処理済ターゲット材であっても、追加工を行う過程で、調質処理済ターゲット材に曲げや撓みが生じることがなく、真直度の高い高品質の円筒状ターゲット材を製造することができる。
【0071】
さらにまた、追加工を行う過程で、調質処理済ターゲット材に曲げや撓みが生じることがないため、高度な技能や高額な費用を必要とする真直度の矯正を行う労力を要することなしに円筒状ターゲット材を製造することができる。
【0072】
また、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において、調質処理済ターゲット材に対して切削加工を行うことで、所望の形状、寸法の円筒状ターゲット材11を製造することができる。但し、従来のように、前記ターゲット材料調質処理工程S10において調質処理済ターゲット材に生じる形状変動等が大きい場合、この形状変動が生じた調質処理済ターゲット材に対して、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において切削加工を施すことにより、寸法や形状の矯正を行う必要があり、それを見越したサイズのターゲット材料が用いられていた。
【0073】
すなわち、従来では、円筒状ターゲット材として本来、必要となるサイズよりも大きなサイズのターゲット材料を用いてターゲット材料調質処理工程S10が行われていた。
【0074】
このように円筒状ターゲット材として要求されるサイズよりも余分に大型サイズとしたターゲット材料に対して、ターゲット材料調質処理工程S10において中間焼鈍工程S13や仕上げ焼鈍工程S15Aを行った場合、焼鈍温度が高く、且つ、焼鈍速度が低い焼鈍条件とする必要が生じるため、焼鈍炉にかかる負荷が増大することや、焼鈍工程での生産効率が低下するという問題が生じることになる。
【0075】
詳しくは、中間焼鈍工程S13や仕上げ焼鈍工程S15Aにおいて、ターゲット材料が大きくなればなる程、ターゲット材料全体に対して均一な焼鈍を行うためには、焼鈍温度が所定の温度よりも高くする必要が生じ、電力消費量が高くなり、焼鈍炉の負担も大きくなる。さらに、ターゲット材料が大きくなればなる程、十分な焼鈍時間を確保するために、焼鈍工程でのターゲット材料の送り速度が遅くするため、生産能力が低下するという問題も有する。
【0076】
加えて、円筒状ターゲット材として最終的に要求される寸法になるよう調質処理済ターゲット材追加工工程S20において切削などで追加工する際に、調質処理済ターゲット材が切削される切削量の割合が大きくなり、ターゲット材料に無駄が生じるという問題も生じる。
【0077】
これに対して、本実施形態の製造方法では、ターゲット材料仕上げ工程S15において、仕上げ焼鈍工程S15Aを行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを行うことにより、ターゲット材料調質処理工程S10では、その後の調質処理済ターゲット材追加工工程S20において切削加工が行われることを見越して大きなサイズのターゲット材料を用いる必要がなくなり、スパッタリングターゲット材として本来必要となるサイズに近いターゲット材料を用いてターゲット材料調質処理工程S10を行うことができる。
【0078】
従って、中間焼鈍工程S13での消費電力を浪費することがないため、焼鈍炉に負荷がかからず、また、必要以上に焼鈍時間がかからないため、円筒状ターゲット材の生産能力を高めることができる。
【0079】
さらに、ターゲット材料調質処理工程S10の段階において、従来よりもスパッタリングターゲット材として用いる上で要求される形状、寸法に近い形状、寸法の調質処理済ターゲット材を製造することができるため、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において、ターゲット材料が追加工により切削される切削量を従来と比較して大幅に削減できる。
【0080】
また、上述した製造方法により、ビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の硬度を有した円筒状ターゲット材11を製造することができる。
このように、円筒状ターゲット材11をビッカース硬さ(HV)で70以上の硬度とすることにより、円筒状ターゲット材11が大型サイズの被スパッタリングターゲット材に対応して大型サイズであった場合であっても、撓みや歪みが生じ難いため、スパッタ装置に組み込む際にも、容易にターゲットホルダに挿着することができる。
【0081】
さらに、円筒状ターゲット材11を、疵のない平滑で美麗な表面に保つことができるため、円筒状ターゲット材11をスパッタ装置に組み込んでスパッタリングターゲット材として用いた際にも、均一にスパッタリングを起こさせることができ、基板などに均一な薄膜を成膜することができ、また、円筒状ターゲット材11の表面を均等にすることで消耗量を均等にすることができるため、円筒状ターゲット材11の寿命を向上させることができる。
【0082】
一方、調質処理済ターゲット材は、ターゲット材料調質処理工程S10の仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを経ることにより、ビッカース硬さ(HV)で90以下の硬度とすることができる。
このように、調質処理済ターゲット材の硬度を、ビッカース硬さ(HV)で90以下という高過ぎる硬度としないことで、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bの後であって、調質処理済ターゲット材追加工工程S20の前に、調質処理済ターゲット材に対して焼鈍等を行う必要がなく、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において必要な寸法精度を容易に確保した上で切削による追加工を行うことができる。
【0083】
また、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを経て形成される調質処理済ターゲット材の質別を1/4H相当とすることにより、ビッカース硬さ(HV)で上述した70以上90以下の範囲を満たした硬度を有する円筒状ターゲット材11を容易に構成することができ、ビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の範囲を満たした硬度を有することにより上述した様々な効果を奏する円筒状ターゲット材11を得ることができる。
【0084】
例えば、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを経て形成される調質処理済ターゲット材の質別を1/4H相当とすることにより、調質処理済ターゲット材追加工工程S20において調質処理済ターゲット材に対して切削加工を行う上で好適な硬度とすることができ、調質処理済ターゲット材の切削加工性が向上するため、調質処理済ターゲット材に対して行う切削による追加工に手間を要することがない。
【0085】
従って、例えば、硬度が低い従来の円筒状ターゲット材のように、表面に疵が付くことや、前記調質処理済ターゲット材追加工工程S20の際に、円筒状ターゲット材に撓みや歪が発生するといった事態が生じることなく、撓みや疵のない優れた品質の円筒状ターゲット材11を得ることができる。
【0086】
また、円筒状ターゲット材11を、前記調質処理済ターゲット材追加工工程S20において、少なくともターゲット本体部11Aとフランジ部11Bとで一部材を成すフランジ一体型の構成であるため、ターゲット本体部11Aとフランジ部11Bとの一体性が増し、これら各部11A,11Bの間を優れた気密性に保つことができる。
【0087】
詳しくは、従来の円筒状ターゲット材110は、図9、及び、図9中の一部拡大図に示すように、ターゲット本体部110Aとフランジ部110Bとは別部材で構成し、互いに溶接するなどして一体に固着した構成であった。
【0088】
このため、これら粉塵が溶接漏れなどによりターゲット本体部110Aとフランジ部110Bとの間に隙間が生じることがあり、該隙間を通じて、ターゲット本体部11Aに付着していた粉塵が外部に流出するおそれがあった。この場合、スパッタ装置の真空チャンバー内を清潔に保つことができず、基板などの被スパッタリング材に対する成膜性能が低下するおそれがある。
【0089】
また、フランジ部110Bは、円筒状ターゲット材110をスパッタ装置において挿着するターゲットホルダに対する位置決めとして機能する部分となる。このため、ターゲット本体部110Aに対してフランジ部110Bを後付けした場合、ターゲット本体部110A円筒状ターゲット材110に対するフランジ部110Bの取り付け精度が低くなり、これに伴ってスパッタ装置においてターゲット本体部110Aをターゲットホルダに挿着したときの位置決め精度が低下することになる。
【0090】
これに対して、円筒状ターゲット材11を上述したフランジ一体型の構成とすることで、ターゲット本体部11Aに粉塵が付着していた場合でも、これら粉塵がターゲット本体部11Aとフランジ部11Bと隙間を通じて外部に流出することがないため、スパッタ装置に備えた真空チャンバー内をクリーンに保つことができ、スパッタリングを行う際に、基板などに薄膜を高品質で成膜することができる。
【0091】
さらに、円筒状ターゲット材11を上述したフランジ一体型の構成とすることで、ターゲットホルダに対する円筒状ターゲット材11の位置決め精度が向上するため、円筒状ターゲット材11をスパッタ装置においてターゲットホルダに精度よく挿着することができる。
【0092】
また、図6、及び、図7に示すように、上述した製造方法の後に、円筒状ターゲット材11のシート被覆方法として、シート配置工程S31とシート熱付与工程S32とを行うことにより、前記円筒状ターゲット材11の外周面11aに熱収縮シート31を密着した状態で被覆することができる。
【0093】
よって、前記円筒状ターゲット材11の表面に粉塵が付着することがなく、疵が付かないようしっかりと保護することができる。
【0094】
さらに、保護シートとして熱収縮シート31を用いることにより、上述したように、前記円筒状ターゲット材11の側に熱収縮させることで、該円筒状ターゲット材11の外周面11aに密着した状態で被覆できる。よって、接着剤や粘着テープなどの保護シートを円筒状ターゲット材11の外周面11aに接着する手段を用いることを要さず、円筒状ターゲット材11の外周面11aに被覆した熱収縮シート31を剥離したとき、円筒状ターゲット材11の表面に接着剤が残留することがない。
【0095】
従って、保護シートが熱収縮シート31の場合、前記円筒状ターゲット材11の表面に残留した接着剤を除去するといった手間を要さずに剥離することができ、剥離後に、すぐに前記円筒状ターゲット材11として用いることができる。しかも、従来の前記円筒状ターゲット材11のように、前記円筒状ターゲット材11の表面に残留した接着剤を除去する必要がないため、前記円筒状ターゲット材11の表面を疵付けるおそれもなく、前記円筒状ターゲット材11を、品質の高いスパッタリングターゲット材として用いることができる。
【0096】
加えて、熱収縮シート31を剥離後の前記円筒状ターゲット材11の表面に接着剤が残留することがないため、スパッタリングターゲット材としての品質を安定化することができる。
【0097】
詳しくは、円筒状ターゲット材11における長手方向のフランジ部11Bと他端側には、他端側開口部11b2を閉塞するための蓋部11CがEB溶接により固着される。EB溶接に際しては、溶接箇所周辺において、真空引きが行われるが、その際に、円筒状ターゲット材11の表面に残留した接着剤から発生した有機ガスの影響を受けることがなく、スパッタリングターゲット材としての品質を安定化することができる。
(効果確認試験)
次に、本実施形態の円筒状ターゲット材11について行った効果確認試験について説明する。
効果確認試験では、本実施形態の円筒状ターゲット材11を、上述したターゲット材料を用いた上述の製造方法により2回のロットに分けて作製した。第1回目、第2回目のロットのそれぞれを実施例1,2のロットとする。
一方、比較対照となる円筒状ターゲット材を、本実施形態と異なるターゲット材料を用いて上述した製造方法により作製した。このロットを比較例のロットとする。
ここで、実施例1,2のロット、及び、比較例のロットごとに作製した円筒状ターゲット材11の硬度、平均結晶粒径を測定した。
【0098】
実施例1,2の各ロットでは、それぞれのロッドで用いるターゲット材料が、いずれも無酸素銅であり、また、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bを経て形成される調質処理済ターゲット材の質別が、1/4H相当となるよう、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bにおいてターゲット材料に対して仕上げ抽伸を行う。
【0099】
これに対して比較例のロットでは、本実施形態におけるターゲット材料とは異なるターゲット材料を用いており、詳しくは、無酸素銅であり、また、調質処理済ターゲット材の質別が、1/4H相当よりも硬質であるH相当となるようターゲット材料に対して仕上げ抽伸を行う。
【0100】
まず、円筒状ターゲット材11の硬度について着目すると、比較例のロットで作製した円筒状ターゲット材は、全てビッカース硬さ(HV)で約95.9の硬度であり、いずれも本発明の円筒状ターゲット材の硬度として必要なビッカース硬さ(HV)で90以下の範囲を満たさなかった。
【0101】
これに対して、実施例1のロットで作製した全ての円筒状ターゲット材11は、ビッカース硬さ(HV)で73.4以上83.1以下の範囲内の硬度となり、いずれも本発明の円筒状ターゲット材の硬度として必要なビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の範囲を満たす結果となった。
【0102】
実施例2のロットで作製した全ての円筒状ターゲット材11は、ビッカース硬さ(HV)で76.4以上86.5以下の範囲内の硬度となり、いずれも本発明の円筒状ターゲット材の硬度として必要なビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の範囲を満たす結果となった。
【0103】
以上より、比較例のロッドのように、調質処理済ターゲット材の質別が、1/4H相当よりも硬質であるH相当となるようターゲット材料に対して仕上げ抽伸を行った場合、本発明の円筒状ターゲット材のビッカース硬さ(HV)での硬度が70以上90以下の範囲を満たさなくなることから、調質処理済ターゲット材の質別が、1/4H相当よりも硬質であるH相当であることが必ずしも硬度の観点から好ましくないことが実証された。
【0104】
これに対して、実施例1,2の各ロットのように、仕上げ引抜き抽伸工程S15Bにおいて、調質処理済ターゲット材の質別が、1/4H相当となるようターゲット材料に対して仕上げ抽伸を行うことにより、ビッカース硬さ(HV)での硬度が70以上の範囲を満たす円筒状ターゲット材11を作製することができることが実証できた。
【0105】
この発明の構成と、上述した実施形態との対応において、
「ターゲット本体部の長さ方向の一端で開口する開口部」は、一端側開口部11b1に対応するも、この発明は、上述した実施形態に限定せず、様々な実施形態で構成することができる。
【0106】
例えば、他の実施形態として、上述した円筒状ターゲット材11の製造方法では、平均結晶粒径が140(μm)以下の範囲を満たす円筒状ターゲット材11を製造することが好ましい。
【0107】
このように、円筒状ターゲット材11の平均結晶粒径を140(μm)以下とすることにより、スパッタリングが起こり、ターゲット材からスパッタ粒子が拡散しすぎることなくたたき出すことができ、方向性の揃ったスパッタ粒子を放出させることができるからである。
【0108】
なお、円筒状ターゲット材11の平均結晶粒径が90(μm)以上の範囲を満たす場合、スパッタ粒子が細かすぎることがなく、被スパッタリングターゲット材に堆積性能が低下することなしに、しっかりと薄膜を成膜することができる点で好ましいが、本発明の円筒状ターゲット材は、平均結晶粒径が90(μm)以下であるものも含むものとする。
【符号の説明】
【0109】
11…円筒状ターゲット材
11a…円筒状ターゲット材の外周面
11b1…一端側開口部
11A…円筒状のターゲット本体部
11B…フランジ部
31…熱収縮シート
S10…ターゲット材料調質処理工程
S11…熱間加工工程(熱間圧延工程または熱間押出工程)
S12…焼鈍前引抜き抽伸工程
S13…中間焼鈍工程
S14…焼鈍後引抜き抽伸工程
S15…ターゲット材料仕上げ工程
S15A…仕上げ焼鈍工程
S15B…仕上げ引抜き抽伸工程
S20…調質処理済ターゲット材追加工工程
S21…内径面切削加工
S22…外径面切削加工
S30…シート被覆工程
S31…シート配置工程
S32…シート熱付与工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素銅からなるターゲット材料に対して調質処理を施すターゲット材料調質処理工程と、該ターゲット材料調質処理工程により形成した調質処理済ターゲット材に対して切削による追加工を施す調質処理済ターゲット材追加工工程とを行い円筒状ターゲット材を製造する製造方法において、
前記ターゲット材料調質処理工程では、
熱間加工工程、焼鈍前引抜き抽伸工程、中間焼鈍工程、焼鈍後引抜き抽伸工程、及びターゲット材料仕上げ工程をこの順で行うスパッタリング用の円筒状ターゲット材の製造方法であって、
前記ターゲット材料仕上げ工程において、
仕上げ焼鈍工程を行い、その後、仕上げ引抜き抽伸工程を行うことを特徴とする
円筒状ターゲット材の製造方法。
【請求項2】
前記仕上げ引抜き抽伸工程において、前記ターゲット材料に対して、質別が1/4H相当の円筒状ターゲット材となるよう仕上げ抽伸を行う
請求項1に記載の円筒状ターゲット材の製造方法。
【請求項3】
前記仕上げ引抜き抽伸工程の後の前記調質処理済ターゲット材を、ビッカース硬さ(HV)で70以上90以下の硬度とした
請求項1、又は、2に記載の円筒状ターゲット材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法により製造した円筒状ターゲット材。
【請求項5】
円筒状のターゲット本体部と、該ターゲット本体部の長さ方向の一端で開口する開口部を閉塞するフランジ部とを備えるとともに、少なくとも前記ターゲット本体部と前記フランジ部とが一部材を成すよう構成した
請求項4に記載の円筒状ターゲット材。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法により製造した円筒状ターゲット材、又は、請求項4或いは5に記載の円筒状ターゲット材の表面を保護シートで密着状態に被覆する円筒状ターゲット材のシート被覆方法であって、
前記保護シートとして用いる熱収縮シートを前記円筒状ターゲット材の外周面に配置するシート配置工程と、
前記熱収縮シートに対して熱を付与して該熱収縮シートを前記円筒状ターゲット材側へ収縮させるシート熱付与工程とを行う
円筒状ターゲット材のシート被覆方法。
【請求項7】
請求項6に記載のシート被覆方法により被覆した円筒状ターゲット材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−111994(P2012−111994A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261117(P2010−261117)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】