円筒状鉄心、誘導発熱ローラ装置及び静止誘導機器
【課題】簡単な構成且つ製造コストの削減を図りつつ、磁性鋼板311に生じる漏洩磁束による渦電流を可及的に抑制する。
【解決手段】幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部3111を有する複数の磁性鋼板311を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心31であって、前記磁性鋼板311の積層側側面における外部露出部311xの幅方向長さsが、前記磁性鋼板の板厚t以下である。
【解決手段】幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部3111を有する複数の磁性鋼板311を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心31であって、前記磁性鋼板311の積層側側面における外部露出部311xの幅方向長さsが、前記磁性鋼板の板厚t以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流を好適に抑制することができる円筒状鉄心、誘導発熱ローラ装置及び静止誘導機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器において、磁路となる鉄心の損失は、電磁誘導機器の効率低下及び発熱の原因となっており、その低減が大きな課題である。
【0003】
特に、漏洩磁束による鉄心の渦電流損は大きな比率を占め、この渦電流により鉄心が発熱してしまい、機器の効率を低下させてしまう。また、これに巻回されている誘導コイルの効率低下、絶縁低下を招く要因となる。なお、渦電流の大きさは、磁束が垂直に入る磁性鋼板の幅、又は板厚の二乗に比例して大きくなることが知れられている。
【0004】
従来、一般的に用いられている略円形鉄心としては、特許文献1に示すような積鉄心がある。この積鉄心は、図14に示すように、複数枚の磁性鋼板を積層することにより、幅寸法の異なる複数種の鋼板ブロック200を形成し、この鋼板ブロック200を概略円形状となるように積み重ねることによって形成されている。
【0005】
しかしながら、積層方向両端(図14において上下両端)に位置する鋼板ブロック200の端面200aが大きくなってしまい、この端面200aにおいて、大きな渦電流が生じてしまうという問題がある。また、各鋼板ブロック200の積層面の外部露出部分200bでも渦電流が生じてしまうという問題がある。
【0006】
ここで、渦電流を小さくするためには、単純に各鋼板ブロック200における磁性鋼板の積層枚数を少なくするとともに、幅寸法の異なる鋼板ブロック200の種類を増やし、鋼板ブロック200の上下両端に位置する鋼板ブロック200の端面200a、及び鉄心の外面に形成される外部露出部200bを小さくすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、鋼板ブロック200の種類を増やしてしまうと、製造コストが高くなってしまうことや、作業が煩雑になってしまう等の問題がある。
【0008】
また、近時、細幅に切断した長尺平板状をなす多数枚の磁性鋼板を、放射状に並べることによって筒状に構成したものが考えられている。これによれば、漏洩磁束が磁性鋼板を貫通することによる渦電流の発生を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることが可能になる。
【0009】
しかしながら、細幅の磁性鋼板を一定の円周に沿って放射状に並べる作業は極めて面倒である。また、各磁性鋼板の内端を密に並べても隣接する磁性鋼板の外端の間には、空隙が形成されてしまう。そのため、さらに別の細幅の磁性鋼板をその空隙に挟み込む等して、その空隙を埋める等の作業が必要となる。
【0010】
さらに、磁性鋼板の外端の空隙を無くす為に、放射状に並べた磁性鋼板の内端をパイプの外周に溶接によって固着し、前記パイプを回転させながら磁性鋼板の外端より加圧して、磁性鋼板を湾曲させることも考えられるが、溶接作業、パイプの回転作業、加圧作業などを必要とする。これらの作業は、大型の鉄心(例えば、軸方向長さが7m)を製造する場合には、極めて困難である。
【0011】
その上、特許文献2及び特許文献3などに示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心が本出願人によって考えられている。
【0012】
しかしながら、いずれの円筒状鉄心においても磁性鋼板を円筒状に積み重ねるという考えに止まっており、具体的に磁性鋼板をどのように積み重ねるかに着目したもの、つまり磁性鋼板の板厚と磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さとの関係に着目したものはない。
【特許文献1】特開平9−232165号公報
【特許文献2】登録実用新案2532986号公報
【特許文献3】特開2000−311777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、磁性鋼板の板厚と磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さとの関係に着目して初めてなされたものであり、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、簡単な構成且つ製造コストの削減を図りつつ、磁性鋼板に生じる漏洩磁束による渦電流を可及的に抑制することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る円筒状鉄心は、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心であって、前記磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下であることを特徴とする。
【0015】
このようなものであれば、円筒状鉄心において、外部露出部の幅方向長さをsとし、磁性鋼板の板厚をtとした場合に、s≦tとなるように構成され、渦電流が生じる部分の幅が最大でも磁性鋼板の板厚と同じとなるので、最大渦電流値を可及的に小さくすることができる。したがって、磁性鋼板をずらして積み重ねることにより簡単な構成且つ製造コストの削減を実現しつつ、渦電流の発生により生じる鉄損等の円筒状鉄心の磁気特性の低下を防止することができ、さらに、誘導コイルの電気特性及び絶縁特性の低下などの機器の効率低下及び発熱を防止することができる。
【0016】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための具体的な実施の態様としては、前記円筒状鉄心の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【0017】
【数1】
【0018】
(ここで、αは、円筒状鉄心の内側円の径方向に対する傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0019】
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
【0020】
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0021】
【数2】
【0022】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0023】
【数3】
の関係をなすことである。
【0024】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための前記円筒状鉄心の外径ΦBに対する前記円筒状鉄心の内径ΦAの比(ΦA/ΦB)は、0.71以上である。
【0025】
また、本発明の円筒状鉄心を誘導発熱ローラ装置に用いることが望ましく、特に、誘導発熱ローラ装置が、円筒状鉄心の外側周面に誘導コイルを巻装して構成される磁束発生機構と、前記磁束発生機構を収容するとともに、前記磁束発生機構に対して相対的に回転可能に設けられ、前記磁束発生機構の磁束により生じる誘導電流によって発熱する中空円筒状の発熱ロール体と、を備え、前記円筒状鉄心と前記発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させていることが望ましい。ここで、非磁性体とは、アルミニウムのような磁性を示さない物質であり、セラミックス又は硝子なども含む。また、所定間隔の空隙とは、発熱ロール体の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分が発熱しにくいようにする程度の間隔を有する空隙であり、真空又は大気であっても良い。
【0026】
このように、円筒状鉄心と発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくすることにより、発熱ロール体の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分(例えば発熱ロール体に接続されたジャーナル部分など)が発熱しにくいようにしている。
【0027】
このとき、円筒状鉄心と発熱ローラ体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を設けることによって円筒状鉄心の外側周面から半径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束の磁束量は増加する。しかし、本発明の円筒状鉄心を用いることによって、漏洩磁束による渦電流損、つまり鉄損を抑制し、磁束発生機構自体の自己発熱は防止される。
【0028】
さらに、本発明の円筒状鉄心を静止誘導機器に用いることが望ましい。特に、円筒状鉄心を用いて構成された脚鉄心を備え、前記円筒状鉄心の軸方向両端部の少なくとも一方に非磁性体を設けていることが望ましい。例えば、静止誘導機器のうちリアクトルに用いた場合には、磁路中の磁気抵抗を大きくすることができ、所定のリアクタンスを得ることができる。また、磁気抵抗を大きくすることによって、脚鉄心の外側周面から半径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束の磁束量は増加するが、本発明の円筒状鉄心を用いることによって、渦電流の発生を可及的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明によれば、簡単な構成且つ製造コストの削減を図りつつ、磁性鋼板に生じる漏洩磁束による最大渦電流値を可及的に抑制して、渦電流の発生により生じる鉄心の磁気特性、誘導コイルの電気特性及び絶縁特性の低下を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の円筒状鉄心31を用いた誘導発熱ローラ装置1の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の誘導発熱ローラ装置1の構成の概略を示す断面図である。
【0031】
<装置構成>
【0032】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置1は、例えば樹脂フィルム、紙、布、不織布、金属箔などのシート材又はウエブ材の連続熱処理工程又は合成繊維の熱延伸処理工程等において用いられるものであり、回転可能に設けられた中空円筒状の発熱ローラ体2と、この発熱ローラ体2内に収容される磁束発生機構3と、を備えている。
【0033】
発熱ローラ体2の両端部には、ジャーナル4が取り付けられている。このジャーナル4は、中空の駆動軸5と一体に構成されており、駆動軸5は、転がり軸受等の軸受6を介して基台7に回転自在に支持されている。
【0034】
磁束発生機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。円筒状鉄心31の両端にはそれぞれ、支持ロッド8が取り付けられている。この支持ロッド8は、それぞれ駆動軸5の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受9を介して駆動軸5に対して回転自在に支持されている。これにより、磁束発生機構3は、発熱ローラ体2の内部において、宙づり状態で支持されることになる。誘導コイル32には、リード線10が接続されており、このリード線10には、交流電圧を印加するための交流電源(図示しない)が接続されている。
【0035】
また、円筒状鉄心31と発熱ロール体2又はジャーナル4との間に所定間隔の間隙又は非磁性体(図示しない)を設けている。具体的には、図1に示すように、円筒状鉄心31の両端と、ジャーナル4の鉄心側側面4aとの間に所定間隔の空隙Gを設けている。このように空隙Gを設けることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくし、発熱ロール体2のみが発熱し、ジャーナル4などが発熱しにくいようにしている。
【0036】
しかして本実施形態の円筒状鉄心31は、図2に示すように、複数の磁性鋼板311を、幅方向にずらして積み重ねることにより円筒状に形成されたものである。
【0037】
磁性鋼板311は、長尺形状をなすものであり、図3に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部3111を有する。この磁性鋼板311は、例えば表面に絶縁皮膜が施されたケイ素鋼板により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。
【0038】
湾曲部3111は、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。
【0039】
そして、磁性鋼板311の湾曲部3111により形成された凹部に、他の磁性鋼板311の湾曲部3111により形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各磁性鋼板311が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の磁性鋼板311を重ね合わせる。このとき、磁性鋼板311の幅方向端部311a、311bが、隣接する磁性鋼板311の凹側側面311m又は凸側側面311nに接触するようにしている。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心31が形成される。
【0040】
また円筒状鉄心31は、図2の部分拡大図に示すように、磁性鋼板311の積層側側面における外部露出部311xの幅方向長さsが、磁性鋼板311の板厚t以下になるように磁性鋼板311を積層している。つまり、磁性鋼板311の板厚tが0.3mmであれば、外部露出部311xの幅方向長さsは、0.3mm以下となるようにしている。
【0041】
磁性鋼板311の積層側側面は、隣接する磁性鋼板311と対向する側面311m、311nのうち、湾曲部3111の凸側側面311nである。そして、この積層側側面において、接触する磁性鋼板311の幅方向外径側端部311bよりも外側に形成される面が、外部露出部311xである。
【0042】
さらに、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aは、図3に示すように、幅方向内径側端部311aの中心線の傾きが、円筒状鉄心の内側円の径方向に対して傾斜角度θ311aを有するように設けられている。つまり、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aが、隣接する磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aから外径方向に向かって板厚寸法以下の位置に接触するように設けられている。
【0043】
また本実施形態の円筒状鉄心31は、円筒状鉄心31の内径ΦA、外径ΦB、及び前
記磁性鋼板311の板厚tが、
【0044】
【数4】
【0045】
(ここで、αは、円筒状鉄心31の内側円の径方向に対する傾斜角度θ311であり、θ’は、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0046】
前記中心角度θ’が、磁性鋼板311の傾斜角度θ311がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度α(=θ311)をθXとし、
【0047】
磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0048】
【数5】
【0049】
磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0050】
【数6】
【0051】
の関係となるように構成されている。
【0052】
この関係式(式2)及び関係式(式3)は、図4に示すように、外部露出部311xの幅方向長さsと、磁性鋼板311の板厚tとが、s≦tとなる円筒状鉄心31の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すものである。ここで、円筒状鉄心31の内径ΦAとは、各磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aに内接する円の直径であり、円筒状鉄心31の外径ΦBとは、各磁性鋼板3311の幅方向外径側端部311bに外接する円の直径である(図2参照)。
【0053】
簡単のため磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aが、円筒状鉄心31の内径に対して垂直である(幅方向内径側端部311aの中心線の傾斜角度θ311aがゼロ(θ311a=0))として、その説明図を図5に示す。このとき、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aの角及び円中心Oを結ぶ直線と磁性鋼板311の中心線(直線とみなしている。)とのなす角度をθ0/2(rad)とすると、次の関係式が成り立つ。
【0054】
tan(θ0/2)=(t/2)/(ΦA/2)=t/ΦA ・・・(式4)
【0055】
磁性鋼板311、一枚当たりの中心角度は、θ0となり、内径ΦAの円筒状鉄心31の磁性鋼板311の枚数をN0として、各磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aを互いに接触させて隙間なく密に配置した場合には、
【0056】
N0=2π/θ0 ・・・(式5)
となる。
【0057】
また、図6に示すように、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tと等しい場合には、磁性鋼板311の幅方向外径側端部311bの頂点a及び頂点c間の距離は、近似的にΦBπ/N0となる。ここで、直角二等辺三角形abcにおいて、
【0058】
(ΦBπ/N0)2=2t2 ・・・(式6)
となる。
【0059】
ここで、(式5)を(式6)に代入して、
{ΦBπ/(π/2θ0)}2=2t2
【0060】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ0 ・・・(式7)
となる。
【0061】
そして、(式7)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における等号式が得られる。
【0062】
次に、傾斜角度θ311aがゼロ(θ311a=0)の場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0063】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N0)2=s2+t2<2t2 ・・・(式8)
となる。
【0064】
ここで、(式5)を(式8)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ0 ・・・(式9)
となる。
【0065】
そして、(式9)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における不等式が得られる。
【0066】
また、傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0067】
ここで、まず角度θXについて説明する。この角度θXは、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度θ311aであり、
【0068】
【数7】
【0069】
において、中心角度θ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度である。このθXは、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも小さい。一方、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθX<θ311aの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも大きい。なお、(式1)及びθXの導出については最後に説明する。
【0070】
このとき、磁性鋼板311の積層枚数をN’とすると、N’>N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’<θ0である。
【0071】
そうすると、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式10)
また、N’=2π/θ’ ・・・(式11)
となる。
【0072】
(式10)及び(式11)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0073】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式12)
となる。
【0074】
この(式12)は、
ΦB=2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0075】
つまり、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲においてs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθ311a=0の場合のs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲にある場合においてもs=tとすることができる。
【0076】
次に、傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0077】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式13)
となる。
【0078】
(式11)を(式13)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式14)
となる。
【0079】
この(式14)は、
ΦB<2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0080】
つまり、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲においてs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθ311a=0の場合のs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲にある場合においてもs<tとすることができる。
【0081】
次に、傾斜角度θ311aがθ311a=θXの場合において、s=t、s<tとなるための条件を考える。このとき、θX=θ0であるので、それぞれの場合において、上述したθ311a=0の場合におけるs=t、s<tとなるための条件と同じである。
【0082】
次に、傾斜角度θ311aがθXよりも大きい(θ311a>θX)場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0083】
このとき、磁性鋼板311の積層枚数をN’とすると、N’<N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’>θ0である。また、頂点A及び頂点A’の距離を仮想板厚t’とすると、
【0084】
tan(θ’/2)=(t’/2)/(ΦA/2)=t’/ΦA
したがって、θ’=2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式15)
【0085】
また、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式16)
N’=2π/θ’ ・・・(式17)
となる。
【0086】
(式16)及び(式17)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0087】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式18)
となる。
【0088】
(式18)を(式15)に代入すると、
ΦB=√2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式19)
となる。
【0089】
ここで、三角形OAA’において余弦定理より、
(t’)2=(ΦA)2+(ΦA)2−2(ΦA)2cosθ’であり、
t’=ΦA√{(1−cosθ’)/2} ・・・(式20)
となる。
【0090】
そして、(式19)に(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における等号式が得られる。
【0091】
次に、傾斜角度θ311aがθXよりも大きい(θ311a>θX)場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0092】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式21)
となる。
【0093】
(式17)を(式21)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式22)
となる。
【0094】
そして、(式22)に(式15)及び(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における不等式が得られる。
【0095】
以上より、上記関係式を満たす円筒状鉄心31の内径ΦA、外径ΦB、板厚tを選択することにより、s≦tとなる円筒状鉄心31を製作することができる。
【0096】
具体例として、磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の場合において、例えば円筒状鉄心31の内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)及び磁性鋼板311の板厚tを0.3(mm)とした場合、外径ΦB(=600)<777.8≒√2×0.3/(tan−1(0.3/550))となる。したがって、磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板311を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の円筒状鉄心1を製作した場合において、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tより小さい円筒状鉄心1ができる。
【0097】
また、磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい場合において、例えば円筒状鉄心31の内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)、磁性鋼板311の板厚tを0.3(mm)、及び、上記(式1)から求められる仮想板厚t’が0.35(mm)の場合、外径ΦB(=600)<666.7≒√2×0.3/(tan−1(0.35/550))となる。したがって、磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板311を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の円筒状鉄心1を製作した場合において、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tより小さい円筒状鉄心1ができる。
【0098】
さらに、s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図8にシミュレーション結果を示す。この図8は、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、s=tとなるためのθは、1.25π、3.25π、5.25πである。
【0099】
この図8から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約42.6(=21.3×2)となる。つまり、s=tとするための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>42.6/60=0.71である。
【0100】
さらに、2s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図9にシミュレーション結果を示す。この図9は、上記図8と同様に、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、2s=tとなるためのθは、1.25π、3.15π、5.15πである。
【0101】
この図9から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約53,7(=26.85×2)となる。つまり、2s=tとするための外径/内径の比は、ΦA/ΦB>53.7/60=0.895である。このように、シミュレーションの結果から、s≦tとなるための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>0.71であることが必要と考えられる。
【0102】
最後に、角度θXの導出について図10を参照して説明する。まず、幾何学的情報を解析学的に記述する。
【0103】
図10に示した第1の磁性鋼板の点A(R(=ΦA/2),0)を通る面L1を
L1:f(x、y)=0
とおく。
【0104】
また、第1の磁性鋼板に隣接する第2の磁性鋼板の面L2は、中心の回転角θ’を用いて、
L2:g(f(x、y),θ’)=0
と表すことができる。
【0105】
この面L2が第1の磁性鋼板と点B(xb,yb)で接していることから、
g(f(xb,yb),θ’)=0
が成立する。
【0106】
以下、面L1、L2の断面形状が直線であると仮定する。L1とx軸とのなす角度をαとおくと、幾何学的に関数fは次式となる。
L1:f(x,y)=y−(x−R)tan(−α)=0
【0107】
したがって、L2は次式となる。
L2:g(f(x,y),θ’)
=y−Rsinθ’−(s−Rsinθ’)tan(θ’−α)=0
【0108】
また、鋼板の厚さをtとすると、点Bの座標は(R+tsinα,tcosα)となる。この点Bの座標値を式L2に代入すると、
tcosα−Rsinθ’−(R+tsinα−Rcosθ’)tan(θ’−α)=0
となる。
【0109】
この式により、内径R(=ΦA/2)、板厚tを与え、θ’=θ0とすることにより求められたαがθXとなる。
【0110】
<本実施形態の効果>
【0111】
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置1によれば、円筒状鉄心31において、渦電流の最大となる部分の幅寸法が磁性鋼板311の板厚t以下となり、最大渦電流値を可及的に小さくすることができる。したがって、磁性鋼板311をずらして積み重ねることにより簡単な構成且つ製造コストの削減を実現しつつ、円筒状鉄心31の鉄損を低減することができ、その結果、機器の効率低下及び発熱を防ぐことができる。
【0112】
また、円筒状鉄心31と発熱ロール体2との間に空隙を設けていることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくし、発熱ロール体2の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分(例えばジャーナル4)が発熱しにくいようにしているだけでなく、このとき、増大する漏洩磁束に対して、渦電流損、つまり鉄損を抑制し、磁束発生機構3自体の自己発熱は防止することができる。さらに、発熱ローラ体2からの輻射及び対流による伝熱で磁束発生機構3は高温化するが、非磁性体又は所定間隔の空隙によって発熱ローラ体2以外の部分への伝熱を低減することができる。
【0113】
<その他の変形実施形態>
【0114】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0115】
例えば、本発明の円筒状鉄心31を静止誘導機器に用いることもできる。図11により、静止誘導機器のうちリアクトルZに用いた場合について説明する。このリアクトルZは、1又は複数(図11中では2個)の脚鉄心Z1と、当該脚鉄心Z1の外周に巻装されたコイルZ2と、前記複数の脚鉄心Z1を上下毎に各端部に繋ぎ閉じた磁路を形成するヨーク鉄心Z3と、を備えている。なお、図中Z5は、脚鉄心Z1を締め付けるための締め付けボルトである。そして、各脚鉄心Z1には、1又は複数のギャップが形成されている。具体的に脚鉄心Z1は、複数の円筒状鉄心31から形成されている。各脚鉄心Z1において、それぞれの円筒状鉄心31間には絶縁体からなるスペーサ部材Z4が挟まれており、これにより脚鉄心Z1には1又は複数のギャップが形成される。また、ヨーク鉄心Z3と円筒状鉄心31との間にもスペーサ部材Z4が配置されている。
【0116】
これにより、ギャップにより磁気抵抗を調整することで所定のリアクタンスを得ることができる。また、磁気抵抗を大きくした場合には漏洩磁束が増大してしまうが、磁性鋼板311の外部露出部311xの幅方向長さが磁性鋼板311の板厚t以下であるので、渦電流の増大を可及的に抑制することができる。
【0117】
また、前記実施形態の円筒状鉄心を、ゲート回路を有する半導体素子を用いた電気回路に接続される静止誘導機器に用いることも考えられる。ゲート回路を有する半導体素子には、通電スイッチとしての作用があるが、その通流電流は正弦波形状が崩れた多量の高調波成分を含む電流となる。そのため静止誘電機器の磁気回路に流れる磁束にも多量の高調波成分を含むことになり、円筒状鉄心には、周波数の二乗に比例した渦電流損が発生してしまう。また、漏洩磁束による渦電流損も発生してしまう。このとき、円筒状鉄心を用いることによって渦電流損を可及的に抑制することができる。
【0118】
さらに、前記実施形態では、磁性鋼板が湾曲部211のみからなるものであったが、図12に示すように、湾曲部211と、当該湾曲部211の幅方向における内径側端部に連続して形成された屈曲部212とからなるものであっても良い。このように屈曲部212を備えるものであれば、各磁性鋼板21を積み重ねる作業を容易にすることができるだけでなく、磁性鋼板21が径方向外部に抜脱されることを好適に防止することができる。
【0119】
その上、前記実施形態の円筒状鉄心は、径方向において一層のものであったが、特にリアクトル又はトランスに用いる場合には、径方向において多層構造のものであっても良い。
【0120】
加えて、前記実施形態では、円筒状鉄心と発熱ロール体又はジャーナルとの間に所定間隔の間隙を設けているが、空隙の代わりに非磁性体を設けるものであっても良い。この場合、図13に示す片持ち式の誘導発熱ローラ装置に適用することが考えられる。つまり、円筒状鉄心31の一端部にフランジ31fが設けられ、当該フランジ31fを基台11に例えばねじ留めされることにより固定される。なお、発熱ロール体2は、円筒状鉄心31の内部に挿通される駆動軸12により回転可能に支持される。
【0121】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の円筒状鉄心を用いた誘導発熱ローラ装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態の円筒状鉄心の断面図。
【図3】同実施形態の磁性鋼板を示す断面図。
【図4】外部露出部及び磁性鋼板の板厚の関係を示す図。
【図5】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(θ311a=0)。
【図6】外部露出部の幅方向長さ及び磁性鋼板の板厚が同一とした場合の外側角a−cの距離を示す図。
【図7】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図。
【図8】シミュレーション結果を示す図。
【図9】シミュレーション結果を示す図。
【図10】角度θXの導出を説明するための図。
【図11】本発明の円筒状鉄心を用いたリアクトルの模式的構成図。
【図12】磁性鋼板の変形例を示す断面図。
【図13】変形実施形態に係る片持ち式の誘導発熱ローラ装置の模式的構成図。
【図14】従来の積鉄心の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0123】
1 ・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・発熱ロール体
3 ・・・磁束発生機構
31 ・・・円筒状鉄心
311 ・・・磁性鋼板
3111・・・湾曲部
311n・・・凸側側面(積層側側面)
311x・・・外部露出部
s ・・・幅方向長さ
t ・・・磁性鋼板の板厚
ΦA ・・・円筒状鉄心の内径
ΦB ・・・円筒状鉄心の外径
32 ・・・誘導コイル
Z ・・・静止誘導機器(リアクトル)
Z1 ・・・脚鉄心
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流を好適に抑制することができる円筒状鉄心、誘導発熱ローラ装置及び静止誘導機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器において、磁路となる鉄心の損失は、電磁誘導機器の効率低下及び発熱の原因となっており、その低減が大きな課題である。
【0003】
特に、漏洩磁束による鉄心の渦電流損は大きな比率を占め、この渦電流により鉄心が発熱してしまい、機器の効率を低下させてしまう。また、これに巻回されている誘導コイルの効率低下、絶縁低下を招く要因となる。なお、渦電流の大きさは、磁束が垂直に入る磁性鋼板の幅、又は板厚の二乗に比例して大きくなることが知れられている。
【0004】
従来、一般的に用いられている略円形鉄心としては、特許文献1に示すような積鉄心がある。この積鉄心は、図14に示すように、複数枚の磁性鋼板を積層することにより、幅寸法の異なる複数種の鋼板ブロック200を形成し、この鋼板ブロック200を概略円形状となるように積み重ねることによって形成されている。
【0005】
しかしながら、積層方向両端(図14において上下両端)に位置する鋼板ブロック200の端面200aが大きくなってしまい、この端面200aにおいて、大きな渦電流が生じてしまうという問題がある。また、各鋼板ブロック200の積層面の外部露出部分200bでも渦電流が生じてしまうという問題がある。
【0006】
ここで、渦電流を小さくするためには、単純に各鋼板ブロック200における磁性鋼板の積層枚数を少なくするとともに、幅寸法の異なる鋼板ブロック200の種類を増やし、鋼板ブロック200の上下両端に位置する鋼板ブロック200の端面200a、及び鉄心の外面に形成される外部露出部200bを小さくすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、鋼板ブロック200の種類を増やしてしまうと、製造コストが高くなってしまうことや、作業が煩雑になってしまう等の問題がある。
【0008】
また、近時、細幅に切断した長尺平板状をなす多数枚の磁性鋼板を、放射状に並べることによって筒状に構成したものが考えられている。これによれば、漏洩磁束が磁性鋼板を貫通することによる渦電流の発生を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることが可能になる。
【0009】
しかしながら、細幅の磁性鋼板を一定の円周に沿って放射状に並べる作業は極めて面倒である。また、各磁性鋼板の内端を密に並べても隣接する磁性鋼板の外端の間には、空隙が形成されてしまう。そのため、さらに別の細幅の磁性鋼板をその空隙に挟み込む等して、その空隙を埋める等の作業が必要となる。
【0010】
さらに、磁性鋼板の外端の空隙を無くす為に、放射状に並べた磁性鋼板の内端をパイプの外周に溶接によって固着し、前記パイプを回転させながら磁性鋼板の外端より加圧して、磁性鋼板を湾曲させることも考えられるが、溶接作業、パイプの回転作業、加圧作業などを必要とする。これらの作業は、大型の鉄心(例えば、軸方向長さが7m)を製造する場合には、極めて困難である。
【0011】
その上、特許文献2及び特許文献3などに示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心が本出願人によって考えられている。
【0012】
しかしながら、いずれの円筒状鉄心においても磁性鋼板を円筒状に積み重ねるという考えに止まっており、具体的に磁性鋼板をどのように積み重ねるかに着目したもの、つまり磁性鋼板の板厚と磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さとの関係に着目したものはない。
【特許文献1】特開平9−232165号公報
【特許文献2】登録実用新案2532986号公報
【特許文献3】特開2000−311777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、磁性鋼板の板厚と磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さとの関係に着目して初めてなされたものであり、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、簡単な構成且つ製造コストの削減を図りつつ、磁性鋼板に生じる漏洩磁束による渦電流を可及的に抑制することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る円筒状鉄心は、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心であって、前記磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下であることを特徴とする。
【0015】
このようなものであれば、円筒状鉄心において、外部露出部の幅方向長さをsとし、磁性鋼板の板厚をtとした場合に、s≦tとなるように構成され、渦電流が生じる部分の幅が最大でも磁性鋼板の板厚と同じとなるので、最大渦電流値を可及的に小さくすることができる。したがって、磁性鋼板をずらして積み重ねることにより簡単な構成且つ製造コストの削減を実現しつつ、渦電流の発生により生じる鉄損等の円筒状鉄心の磁気特性の低下を防止することができ、さらに、誘導コイルの電気特性及び絶縁特性の低下などの機器の効率低下及び発熱を防止することができる。
【0016】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための具体的な実施の態様としては、前記円筒状鉄心の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【0017】
【数1】
【0018】
(ここで、αは、円筒状鉄心の内側円の径方向に対する傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0019】
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
【0020】
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0021】
【数2】
【0022】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0023】
【数3】
の関係をなすことである。
【0024】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための前記円筒状鉄心の外径ΦBに対する前記円筒状鉄心の内径ΦAの比(ΦA/ΦB)は、0.71以上である。
【0025】
また、本発明の円筒状鉄心を誘導発熱ローラ装置に用いることが望ましく、特に、誘導発熱ローラ装置が、円筒状鉄心の外側周面に誘導コイルを巻装して構成される磁束発生機構と、前記磁束発生機構を収容するとともに、前記磁束発生機構に対して相対的に回転可能に設けられ、前記磁束発生機構の磁束により生じる誘導電流によって発熱する中空円筒状の発熱ロール体と、を備え、前記円筒状鉄心と前記発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させていることが望ましい。ここで、非磁性体とは、アルミニウムのような磁性を示さない物質であり、セラミックス又は硝子なども含む。また、所定間隔の空隙とは、発熱ロール体の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分が発熱しにくいようにする程度の間隔を有する空隙であり、真空又は大気であっても良い。
【0026】
このように、円筒状鉄心と発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくすることにより、発熱ロール体の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分(例えば発熱ロール体に接続されたジャーナル部分など)が発熱しにくいようにしている。
【0027】
このとき、円筒状鉄心と発熱ローラ体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を設けることによって円筒状鉄心の外側周面から半径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束の磁束量は増加する。しかし、本発明の円筒状鉄心を用いることによって、漏洩磁束による渦電流損、つまり鉄損を抑制し、磁束発生機構自体の自己発熱は防止される。
【0028】
さらに、本発明の円筒状鉄心を静止誘導機器に用いることが望ましい。特に、円筒状鉄心を用いて構成された脚鉄心を備え、前記円筒状鉄心の軸方向両端部の少なくとも一方に非磁性体を設けていることが望ましい。例えば、静止誘導機器のうちリアクトルに用いた場合には、磁路中の磁気抵抗を大きくすることができ、所定のリアクタンスを得ることができる。また、磁気抵抗を大きくすることによって、脚鉄心の外側周面から半径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束の磁束量は増加するが、本発明の円筒状鉄心を用いることによって、渦電流の発生を可及的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明によれば、簡単な構成且つ製造コストの削減を図りつつ、磁性鋼板に生じる漏洩磁束による最大渦電流値を可及的に抑制して、渦電流の発生により生じる鉄心の磁気特性、誘導コイルの電気特性及び絶縁特性の低下を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の円筒状鉄心31を用いた誘導発熱ローラ装置1の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の誘導発熱ローラ装置1の構成の概略を示す断面図である。
【0031】
<装置構成>
【0032】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置1は、例えば樹脂フィルム、紙、布、不織布、金属箔などのシート材又はウエブ材の連続熱処理工程又は合成繊維の熱延伸処理工程等において用いられるものであり、回転可能に設けられた中空円筒状の発熱ローラ体2と、この発熱ローラ体2内に収容される磁束発生機構3と、を備えている。
【0033】
発熱ローラ体2の両端部には、ジャーナル4が取り付けられている。このジャーナル4は、中空の駆動軸5と一体に構成されており、駆動軸5は、転がり軸受等の軸受6を介して基台7に回転自在に支持されている。
【0034】
磁束発生機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。円筒状鉄心31の両端にはそれぞれ、支持ロッド8が取り付けられている。この支持ロッド8は、それぞれ駆動軸5の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受9を介して駆動軸5に対して回転自在に支持されている。これにより、磁束発生機構3は、発熱ローラ体2の内部において、宙づり状態で支持されることになる。誘導コイル32には、リード線10が接続されており、このリード線10には、交流電圧を印加するための交流電源(図示しない)が接続されている。
【0035】
また、円筒状鉄心31と発熱ロール体2又はジャーナル4との間に所定間隔の間隙又は非磁性体(図示しない)を設けている。具体的には、図1に示すように、円筒状鉄心31の両端と、ジャーナル4の鉄心側側面4aとの間に所定間隔の空隙Gを設けている。このように空隙Gを設けることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくし、発熱ロール体2のみが発熱し、ジャーナル4などが発熱しにくいようにしている。
【0036】
しかして本実施形態の円筒状鉄心31は、図2に示すように、複数の磁性鋼板311を、幅方向にずらして積み重ねることにより円筒状に形成されたものである。
【0037】
磁性鋼板311は、長尺形状をなすものであり、図3に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部3111を有する。この磁性鋼板311は、例えば表面に絶縁皮膜が施されたケイ素鋼板により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。
【0038】
湾曲部3111は、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。
【0039】
そして、磁性鋼板311の湾曲部3111により形成された凹部に、他の磁性鋼板311の湾曲部3111により形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各磁性鋼板311が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の磁性鋼板311を重ね合わせる。このとき、磁性鋼板311の幅方向端部311a、311bが、隣接する磁性鋼板311の凹側側面311m又は凸側側面311nに接触するようにしている。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心31が形成される。
【0040】
また円筒状鉄心31は、図2の部分拡大図に示すように、磁性鋼板311の積層側側面における外部露出部311xの幅方向長さsが、磁性鋼板311の板厚t以下になるように磁性鋼板311を積層している。つまり、磁性鋼板311の板厚tが0.3mmであれば、外部露出部311xの幅方向長さsは、0.3mm以下となるようにしている。
【0041】
磁性鋼板311の積層側側面は、隣接する磁性鋼板311と対向する側面311m、311nのうち、湾曲部3111の凸側側面311nである。そして、この積層側側面において、接触する磁性鋼板311の幅方向外径側端部311bよりも外側に形成される面が、外部露出部311xである。
【0042】
さらに、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aは、図3に示すように、幅方向内径側端部311aの中心線の傾きが、円筒状鉄心の内側円の径方向に対して傾斜角度θ311aを有するように設けられている。つまり、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aが、隣接する磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aから外径方向に向かって板厚寸法以下の位置に接触するように設けられている。
【0043】
また本実施形態の円筒状鉄心31は、円筒状鉄心31の内径ΦA、外径ΦB、及び前
記磁性鋼板311の板厚tが、
【0044】
【数4】
【0045】
(ここで、αは、円筒状鉄心31の内側円の径方向に対する傾斜角度θ311であり、θ’は、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0046】
前記中心角度θ’が、磁性鋼板311の傾斜角度θ311がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度α(=θ311)をθXとし、
【0047】
磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0048】
【数5】
【0049】
磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0050】
【数6】
【0051】
の関係となるように構成されている。
【0052】
この関係式(式2)及び関係式(式3)は、図4に示すように、外部露出部311xの幅方向長さsと、磁性鋼板311の板厚tとが、s≦tとなる円筒状鉄心31の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すものである。ここで、円筒状鉄心31の内径ΦAとは、各磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aに内接する円の直径であり、円筒状鉄心31の外径ΦBとは、各磁性鋼板3311の幅方向外径側端部311bに外接する円の直径である(図2参照)。
【0053】
簡単のため磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aが、円筒状鉄心31の内径に対して垂直である(幅方向内径側端部311aの中心線の傾斜角度θ311aがゼロ(θ311a=0))として、その説明図を図5に示す。このとき、磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aの角及び円中心Oを結ぶ直線と磁性鋼板311の中心線(直線とみなしている。)とのなす角度をθ0/2(rad)とすると、次の関係式が成り立つ。
【0054】
tan(θ0/2)=(t/2)/(ΦA/2)=t/ΦA ・・・(式4)
【0055】
磁性鋼板311、一枚当たりの中心角度は、θ0となり、内径ΦAの円筒状鉄心31の磁性鋼板311の枚数をN0として、各磁性鋼板311の幅方向内径側端部311aを互いに接触させて隙間なく密に配置した場合には、
【0056】
N0=2π/θ0 ・・・(式5)
となる。
【0057】
また、図6に示すように、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tと等しい場合には、磁性鋼板311の幅方向外径側端部311bの頂点a及び頂点c間の距離は、近似的にΦBπ/N0となる。ここで、直角二等辺三角形abcにおいて、
【0058】
(ΦBπ/N0)2=2t2 ・・・(式6)
となる。
【0059】
ここで、(式5)を(式6)に代入して、
{ΦBπ/(π/2θ0)}2=2t2
【0060】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ0 ・・・(式7)
となる。
【0061】
そして、(式7)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における等号式が得られる。
【0062】
次に、傾斜角度θ311aがゼロ(θ311a=0)の場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0063】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N0)2=s2+t2<2t2 ・・・(式8)
となる。
【0064】
ここで、(式5)を(式8)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ0 ・・・(式9)
となる。
【0065】
そして、(式9)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における不等式が得られる。
【0066】
また、傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0067】
ここで、まず角度θXについて説明する。この角度θXは、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度θ311aであり、
【0068】
【数7】
【0069】
において、中心角度θ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板311の傾斜角度である。このθXは、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも小さい。一方、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθX<θ311aの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも大きい。なお、(式1)及びθXの導出については最後に説明する。
【0070】
このとき、磁性鋼板311の積層枚数をN’とすると、N’>N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’<θ0である。
【0071】
そうすると、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式10)
また、N’=2π/θ’ ・・・(式11)
となる。
【0072】
(式10)及び(式11)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0073】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式12)
となる。
【0074】
この(式12)は、
ΦB=2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0075】
つまり、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲においてs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθ311a=0の場合のs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲にある場合においてもs=tとすることができる。
【0076】
次に、傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0077】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式13)
となる。
【0078】
(式11)を(式13)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式14)
となる。
【0079】
この(式14)は、
ΦB<2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0080】
つまり、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲においてs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aがθ311a=0の場合のs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板311の傾斜角度θ311aが0<θ311a<θXの範囲にある場合においてもs<tとすることができる。
【0081】
次に、傾斜角度θ311aがθ311a=θXの場合において、s=t、s<tとなるための条件を考える。このとき、θX=θ0であるので、それぞれの場合において、上述したθ311a=0の場合におけるs=t、s<tとなるための条件と同じである。
【0082】
次に、傾斜角度θ311aがθXよりも大きい(θ311a>θX)場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0083】
このとき、磁性鋼板311の積層枚数をN’とすると、N’<N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板311の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’>θ0である。また、頂点A及び頂点A’の距離を仮想板厚t’とすると、
【0084】
tan(θ’/2)=(t’/2)/(ΦA/2)=t’/ΦA
したがって、θ’=2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式15)
【0085】
また、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式16)
N’=2π/θ’ ・・・(式17)
となる。
【0086】
(式16)及び(式17)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0087】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式18)
となる。
【0088】
(式18)を(式15)に代入すると、
ΦB=√2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式19)
となる。
【0089】
ここで、三角形OAA’において余弦定理より、
(t’)2=(ΦA)2+(ΦA)2−2(ΦA)2cosθ’であり、
t’=ΦA√{(1−cosθ’)/2} ・・・(式20)
となる。
【0090】
そして、(式19)に(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における等号式が得られる。
【0091】
次に、傾斜角度θ311aがθXよりも大きい(θ311a>θX)場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0092】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式21)
となる。
【0093】
(式17)を(式21)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式22)
となる。
【0094】
そして、(式22)に(式15)及び(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における不等式が得られる。
【0095】
以上より、上記関係式を満たす円筒状鉄心31の内径ΦA、外径ΦB、板厚tを選択することにより、s≦tとなる円筒状鉄心31を製作することができる。
【0096】
具体例として、磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の場合において、例えば円筒状鉄心31の内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)及び磁性鋼板311の板厚tを0.3(mm)とした場合、外径ΦB(=600)<777.8≒√2×0.3/(tan−1(0.3/550))となる。したがって、磁性鋼板311の傾斜角度αがθX以下の条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板311を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の円筒状鉄心1を製作した場合において、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tより小さい円筒状鉄心1ができる。
【0097】
また、磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい場合において、例えば円筒状鉄心31の内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)、磁性鋼板311の板厚tを0.3(mm)、及び、上記(式1)から求められる仮想板厚t’が0.35(mm)の場合、外径ΦB(=600)<666.7≒√2×0.3/(tan−1(0.35/550))となる。したがって、磁性鋼板311の傾斜角度αがθXよりも大きい条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板311を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の円筒状鉄心1を製作した場合において、外部露出部311xの幅方向長さsが、板厚tより小さい円筒状鉄心1ができる。
【0098】
さらに、s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図8にシミュレーション結果を示す。この図8は、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、s=tとなるためのθは、1.25π、3.25π、5.25πである。
【0099】
この図8から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約42.6(=21.3×2)となる。つまり、s=tとするための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>42.6/60=0.71である。
【0100】
さらに、2s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図9にシミュレーション結果を示す。この図9は、上記図8と同様に、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、2s=tとなるためのθは、1.25π、3.15π、5.15πである。
【0101】
この図9から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約53,7(=26.85×2)となる。つまり、2s=tとするための外径/内径の比は、ΦA/ΦB>53.7/60=0.895である。このように、シミュレーションの結果から、s≦tとなるための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>0.71であることが必要と考えられる。
【0102】
最後に、角度θXの導出について図10を参照して説明する。まず、幾何学的情報を解析学的に記述する。
【0103】
図10に示した第1の磁性鋼板の点A(R(=ΦA/2),0)を通る面L1を
L1:f(x、y)=0
とおく。
【0104】
また、第1の磁性鋼板に隣接する第2の磁性鋼板の面L2は、中心の回転角θ’を用いて、
L2:g(f(x、y),θ’)=0
と表すことができる。
【0105】
この面L2が第1の磁性鋼板と点B(xb,yb)で接していることから、
g(f(xb,yb),θ’)=0
が成立する。
【0106】
以下、面L1、L2の断面形状が直線であると仮定する。L1とx軸とのなす角度をαとおくと、幾何学的に関数fは次式となる。
L1:f(x,y)=y−(x−R)tan(−α)=0
【0107】
したがって、L2は次式となる。
L2:g(f(x,y),θ’)
=y−Rsinθ’−(s−Rsinθ’)tan(θ’−α)=0
【0108】
また、鋼板の厚さをtとすると、点Bの座標は(R+tsinα,tcosα)となる。この点Bの座標値を式L2に代入すると、
tcosα−Rsinθ’−(R+tsinα−Rcosθ’)tan(θ’−α)=0
となる。
【0109】
この式により、内径R(=ΦA/2)、板厚tを与え、θ’=θ0とすることにより求められたαがθXとなる。
【0110】
<本実施形態の効果>
【0111】
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置1によれば、円筒状鉄心31において、渦電流の最大となる部分の幅寸法が磁性鋼板311の板厚t以下となり、最大渦電流値を可及的に小さくすることができる。したがって、磁性鋼板311をずらして積み重ねることにより簡単な構成且つ製造コストの削減を実現しつつ、円筒状鉄心31の鉄損を低減することができ、その結果、機器の効率低下及び発熱を防ぐことができる。
【0112】
また、円筒状鉄心31と発熱ロール体2との間に空隙を設けていることにより、磁気抵抗を大きくして磁束が通りにくくし、発熱ロール体2の有効面長部分のみが発熱し、その他の部分(例えばジャーナル4)が発熱しにくいようにしているだけでなく、このとき、増大する漏洩磁束に対して、渦電流損、つまり鉄損を抑制し、磁束発生機構3自体の自己発熱は防止することができる。さらに、発熱ローラ体2からの輻射及び対流による伝熱で磁束発生機構3は高温化するが、非磁性体又は所定間隔の空隙によって発熱ローラ体2以外の部分への伝熱を低減することができる。
【0113】
<その他の変形実施形態>
【0114】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0115】
例えば、本発明の円筒状鉄心31を静止誘導機器に用いることもできる。図11により、静止誘導機器のうちリアクトルZに用いた場合について説明する。このリアクトルZは、1又は複数(図11中では2個)の脚鉄心Z1と、当該脚鉄心Z1の外周に巻装されたコイルZ2と、前記複数の脚鉄心Z1を上下毎に各端部に繋ぎ閉じた磁路を形成するヨーク鉄心Z3と、を備えている。なお、図中Z5は、脚鉄心Z1を締め付けるための締め付けボルトである。そして、各脚鉄心Z1には、1又は複数のギャップが形成されている。具体的に脚鉄心Z1は、複数の円筒状鉄心31から形成されている。各脚鉄心Z1において、それぞれの円筒状鉄心31間には絶縁体からなるスペーサ部材Z4が挟まれており、これにより脚鉄心Z1には1又は複数のギャップが形成される。また、ヨーク鉄心Z3と円筒状鉄心31との間にもスペーサ部材Z4が配置されている。
【0116】
これにより、ギャップにより磁気抵抗を調整することで所定のリアクタンスを得ることができる。また、磁気抵抗を大きくした場合には漏洩磁束が増大してしまうが、磁性鋼板311の外部露出部311xの幅方向長さが磁性鋼板311の板厚t以下であるので、渦電流の増大を可及的に抑制することができる。
【0117】
また、前記実施形態の円筒状鉄心を、ゲート回路を有する半導体素子を用いた電気回路に接続される静止誘導機器に用いることも考えられる。ゲート回路を有する半導体素子には、通電スイッチとしての作用があるが、その通流電流は正弦波形状が崩れた多量の高調波成分を含む電流となる。そのため静止誘電機器の磁気回路に流れる磁束にも多量の高調波成分を含むことになり、円筒状鉄心には、周波数の二乗に比例した渦電流損が発生してしまう。また、漏洩磁束による渦電流損も発生してしまう。このとき、円筒状鉄心を用いることによって渦電流損を可及的に抑制することができる。
【0118】
さらに、前記実施形態では、磁性鋼板が湾曲部211のみからなるものであったが、図12に示すように、湾曲部211と、当該湾曲部211の幅方向における内径側端部に連続して形成された屈曲部212とからなるものであっても良い。このように屈曲部212を備えるものであれば、各磁性鋼板21を積み重ねる作業を容易にすることができるだけでなく、磁性鋼板21が径方向外部に抜脱されることを好適に防止することができる。
【0119】
その上、前記実施形態の円筒状鉄心は、径方向において一層のものであったが、特にリアクトル又はトランスに用いる場合には、径方向において多層構造のものであっても良い。
【0120】
加えて、前記実施形態では、円筒状鉄心と発熱ロール体又はジャーナルとの間に所定間隔の間隙を設けているが、空隙の代わりに非磁性体を設けるものであっても良い。この場合、図13に示す片持ち式の誘導発熱ローラ装置に適用することが考えられる。つまり、円筒状鉄心31の一端部にフランジ31fが設けられ、当該フランジ31fを基台11に例えばねじ留めされることにより固定される。なお、発熱ロール体2は、円筒状鉄心31の内部に挿通される駆動軸12により回転可能に支持される。
【0121】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の円筒状鉄心を用いた誘導発熱ローラ装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態の円筒状鉄心の断面図。
【図3】同実施形態の磁性鋼板を示す断面図。
【図4】外部露出部及び磁性鋼板の板厚の関係を示す図。
【図5】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(θ311a=0)。
【図6】外部露出部の幅方向長さ及び磁性鋼板の板厚が同一とした場合の外側角a−cの距離を示す図。
【図7】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図。
【図8】シミュレーション結果を示す図。
【図9】シミュレーション結果を示す図。
【図10】角度θXの導出を説明するための図。
【図11】本発明の円筒状鉄心を用いたリアクトルの模式的構成図。
【図12】磁性鋼板の変形例を示す断面図。
【図13】変形実施形態に係る片持ち式の誘導発熱ローラ装置の模式的構成図。
【図14】従来の積鉄心の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0123】
1 ・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・発熱ロール体
3 ・・・磁束発生機構
31 ・・・円筒状鉄心
311 ・・・磁性鋼板
3111・・・湾曲部
311n・・・凸側側面(積層側側面)
311x・・・外部露出部
s ・・・幅方向長さ
t ・・・磁性鋼板の板厚
ΦA ・・・円筒状鉄心の内径
ΦB ・・・円筒状鉄心の外径
32 ・・・誘導コイル
Z ・・・静止誘導機器(リアクトル)
Z1 ・・・脚鉄心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心であって、
前記磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下である円筒状鉄心。
【請求項2】
前記円筒状鉄心の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【数1】
(ここで、αは、円筒状鉄心の内側円の径方向に対する傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【数2】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【数3】
の関係をなす請求項1記載の円筒状鉄心。
【請求項3】
前記円筒状鉄心の外径ΦBに対する前記円筒状鉄心の内径ΦAの比(ΦA/ΦB)が、0.71以上である請求項1又は2記載の円筒状鉄心。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の円筒状鉄心の外側周面に誘導コイルを巻装して構成される磁束発生機構と、
前記磁束発生機構を収容するとともに、前記磁束発生機構に対して相対的に回転可能に設けられ、前記磁束発生機構の磁束により生じる誘導電流によって発熱する中空円筒状の発熱ロール体と、を備え、
前記円筒状鉄心と前記発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させている誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の円筒状鉄心を用いて構成された脚鉄心を備え、
前記円筒状鉄心の軸方向両端部の少なくとも一方に非磁性体を設けている静止誘導機器。
【請求項1】
幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心であって、
前記磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下である円筒状鉄心。
【請求項2】
前記円筒状鉄心の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【数1】
(ここで、αは、円筒状鉄心の内側円の径方向に対する傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【数2】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、上記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【数3】
の関係をなす請求項1記載の円筒状鉄心。
【請求項3】
前記円筒状鉄心の外径ΦBに対する前記円筒状鉄心の内径ΦAの比(ΦA/ΦB)が、0.71以上である請求項1又は2記載の円筒状鉄心。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の円筒状鉄心の外側周面に誘導コイルを巻装して構成される磁束発生機構と、
前記磁束発生機構を収容するとともに、前記磁束発生機構に対して相対的に回転可能に設けられ、前記磁束発生機構の磁束により生じる誘導電流によって発熱する中空円筒状の発熱ロール体と、を備え、
前記円筒状鉄心と前記発熱ロール体との間に非磁性体又は所定間隔の空隙を介在させている誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の円筒状鉄心を用いて構成された脚鉄心を備え、
前記円筒状鉄心の軸方向両端部の少なくとも一方に非磁性体を設けている静止誘導機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−35313(P2010−35313A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194010(P2008−194010)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】
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