説明

冷凍サイクル

【課題】可変容量圧縮機による負荷低減に際して制御弁への制御電流を急低下させてから復帰する際に、その可変容量圧縮機のソフトスタートを安定に実現できるようにする。
【解決手段】冷凍サイクルによれば、可変容量圧縮機用制御弁をいわゆるPd−Pc弁として構成するとともに、可変容量圧縮機の吐出室の出口に逆止弁を設けた。これにより、加速カット時など設定差圧の設定変更に際して可変容量圧縮機の吐出容量が低減されるときには、逆止弁により吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧の低下が促進される。また、クランク圧力Pcが制御対象のパラメータに含まれるため、仮に外部情報に基づいて可変容量圧縮機用制御弁への通電量が急低下したとしても、そのクランク圧力Pcの急上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍サイクルに関し、特に自動車用空調装置に好適な冷凍サイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、その冷凍サイクルを流れる冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒にして吐出する圧縮機、そのガス冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された液冷媒を断熱膨張させることで低温・低圧の冷媒にする膨張装置、その冷媒を蒸発させることにより車室内空気との熱交換を行う蒸発器等を備えている。蒸発器で蒸発された冷媒は、再び圧縮機へと戻され、冷凍サイクルを循環する。
【0003】
この圧縮機は、車両の走行状態によって回転数が変化するエンジンを駆動源としているため、回転数制御を行うことができない。そこで、エンジンの回転数によらず適切な冷房能力を得るために、冷媒の吐出容量を可変できる可変容量圧縮機が用いられている。
【0004】
このような可変容量圧縮機では、エンジンによって回転駆動される軸に取り付けられた揺動板に圧縮用のピストンが連結されている。そして、揺動板の角度を変化させてピストンのストロークを変えることにより冷媒の吐出量を調整するようにしている。この揺動板の角度は、密閉されたクランク室内に吐出冷媒の一部を導入し、ピストンの両面にかかる圧力の釣り合いを変化させることによって連続的に変えられる。このクランク室内の圧力は、例えば可変容量圧縮機の吐出室とクランク室との間に設けられた可変容量圧縮機用制御弁(以下、単に「制御弁」ともいう)により制御される。
【0005】
ところで、このような可変容量圧縮機は、上述のようにエンジンを駆動源としているため、エンジンの大きな負荷になり得る。このため、例えば車両の加速時や登坂走行時など、エンジンの動力を車両の推進力に振り向けたい高負荷時には、その可変容量圧縮機の吐出容量を最小化してその負荷を低減する制御が行われる。例えば、可変容量圧縮機の冷媒の吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)に基づいて容量制御を行う構成を有するとともに、さらにその差圧(Pd−Ps)の低下を促進するための逆止弁を設けた空調装置も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
この空調装置では、吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)が制御目標値である設定差圧に近づくように制御弁が自律的に動作する。このため、吐出圧力Pd自体の大きさに基づいた容量制御が行われ、吐出容量を変化させるのにレスポンスが良いというメリットがある。そして、さらに吐出室に逆止弁を設けることにより、吐出室から凝縮器への冷媒の流れのみを許容することで、吐出圧力Pdが凝縮器側の圧力よりも低下することを促進するため、相対的に差圧(Pd−Ps)が速やかに低減される。吐出圧力Pdを制御対象のパラメータに含むため、いわゆる加速カット制御等が行われた場合には、吐出容量を即座に減少させて可変容量圧縮機の負荷トルクを低減し、エンジンの動力を確保できるようになる。また、特許文献1によれば、このような技術により、その加速カット制御において制御弁に供給する制御電流のデューティ比がゼロにされても、その復帰時の戻し制御が予め設定された復帰パターンに沿って良好に行えるとされている。
【特許文献1】特開2001−153042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らは、上述した技術では加速カット制御からの復帰時の戻し制御が必ずしも理想的には行われないという見解に到った。図5は、上記先行技術において想定される制御弁の通電制御の様子を表す説明図である。横軸は時間経過を表し、縦軸は上段から制御電流のデューティ比、各圧力、可変容量圧縮機の負荷トルクをそれぞれ表している。
【0008】
すなわち、加速カット制御によってデューティ比がゼロにされた時間t11においては、クランク圧力Pcが急上昇する。これは、制御電流の遮断により制御弁が全開状態となり、導入される高圧の吐出圧力Pdの影響が一時的に大きくなるためと考えられる。一方、可変容量圧縮機が再び容量制御状態へ移行するためには、ピストンの両面にかかる圧力の偏りが小さくなってそのピストンが変位を開始できるよう、クランク圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)が所定値以下となる必要がある。このため、クランク圧力Pcが低下してその吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)が所定値以下となるまで、ある程度の時間的インターバルが必要となる。このインターバルを待たずに図示のように時間t12にて制御電流のデューティ比を上げても、可変容量圧縮機の負荷トルクは上がらず、容量制御には到らない。この負荷トルクは、所定時間が経過して差圧(Pc−Ps)が所定値ΔP以下になった時間t13から上昇し始める。つまり、戻し制御の開始に対して容量制御の開始がΔtだけ遅れることになる。このように、戻し制御の開始に対して実際の容量制御の開始が遅れると、制御の不整合によりいわゆるソフトスタートの理想的な実現ができなくなる可能性がある。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、可変容量圧縮機による負荷低減に際して制御弁への制御電流を急低下させてから復帰する際に、その可変容量圧縮機のソフトスタートを安定に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の冷凍サイクルは空調装置を構成する。この冷凍サイクルは、吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、可変容量圧縮機の吐出室の吐出圧力とクランク室のクランク圧力との差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧が制御目標値である設定差圧に近づくように吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して、可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる可変容量圧縮機用制御弁と、所定の外部情報に基づいて設定差圧を決定し、その設定差圧に基づいて可変容量圧縮機用制御弁への通電制御を行う制御部と、設定差圧の設定変更に際して可変容量圧縮機の吐出容量が低減されるときに、吐出圧力とクランク圧力との差圧の低下を促進する差圧低下促進部と、を備える。
【0011】
この態様によれば、可変容量圧縮機用制御弁が、その弁部を自律的に開閉して可変容量圧縮機の吐出圧力とクランク圧力との差圧が設定圧力に近づくように制御する。そして、設定差圧の設定変更に際して可変容量圧縮機の吐出容量が低減されるときには、差圧低下促進部により吐出圧力とクランク圧力との差圧の低下が促進される。このように吐出圧力が制御対象のパラメータに含まれるため、その吐出容量の低減を速やかに行うことができる。また、吐出圧力とクランク圧力との差圧を一定に保持しようとするそれまでの自律的な動作の影響もあり、可変容量圧縮機用制御弁への通電量が急低下したとしても、クランク圧力の急上昇が抑制される。このため、クランク圧力と吸入圧力との差圧を相対的に小さく保持でき、可変容量圧縮機用制御弁への通電制御が再開される際には、可変容量圧縮機を速やかに容量制御状態へ移行させてそのソフトスタートを安定に実現することができる。
【0012】
本発明の別の態様も空調装置を構成する冷凍サイクルである。この冷凍サイクルは、吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、可変容量圧縮機の吐出室の吐出圧力とクランク室のクランク圧力との差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧が制御目標値である設定差圧に近づくように吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して、可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる可変容量圧縮機用制御弁と、所定の外部情報に基づいて設定差圧を決定し、その設定差圧に基づいて可変容量圧縮機用制御弁への通電制御を行うとともに、外部情報に基づいて可変容量圧縮機の負荷トルクを実質的にゼロにする際には、通電制御の電流値を、可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な境界電流値に保持する制御部と、を備える。
【0013】
この態様によれば、可変容量圧縮機用制御弁が、その弁部を自律的に開閉して可変容量圧縮機の吐出圧力とクランク圧力との差圧が設定圧力に近づくように制御する。そして、可変容量圧縮機の負荷トルクを実質的にゼロにする際には、通電制御の電流値がゼロにされるのではなく、可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な境界電流値に保持される。すなわち、クランク圧力が制御対象のパラメータに含まれるため、上述のように可変容量圧縮機用制御弁への通電量が急激に低下したとしても、そのクランク圧力の急上昇を抑制でき、クランク圧力と吸入圧力との差圧を相対的に小さく保持できる。また、通電制御の電流値が境界電流値に保持されているため、弁部が全開状態にはならず、可変容量圧縮機用制御弁への通電制御が再開される際には、可変容量圧縮機を速やかに制御状態へ移行させてそのソフトスタートを安定に実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の冷凍サイクルによれば、可変容量圧縮機による負荷低減に際して可変容量圧縮機用制御弁への制御電流を急低下させてから復帰する際に、その可変容量圧縮機のソフトスタートを安定に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を上下と表現することがある。
【0016】
図1は、実施の形態に係る冷凍サイクルを表すシステム構成図である。
この冷凍サイクルは、車両用空調装置を構成し、冷凍サイクルを循環する冷媒を圧縮する可変容量圧縮機1、圧縮された冷媒を凝縮して冷却する凝縮器2(「外部熱交換器」に該当する)、凝縮された冷媒を断熱膨張させる膨張装置3、および膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器4を備えている。
【0017】
可変容量圧縮機1は、気密に形成されたクランク室51内に回転自在に支持された図示しない回転軸を有している。この回転軸には揺動板が傾斜角可変に設けられており、その一端はクランク室51の外部に延出してプーリを介してエンジンの出力軸と接続されている。この回転軸の回りには複数のシリンダ52が配設され、揺動板の回転運動により往復運動を行うピストンが配置されている。各シリンダ52は、吸入弁および吐出弁を介して吸入室53、吐出室54のそれぞれに接続されている。可変容量圧縮機1は、蒸発器4から送出されて吸入室53を介してシリンダ52に導入された冷媒を圧縮し、吐出室54から凝縮器2へ向けて吐出する。クランク室51と吸入室53とを連通する冷媒通路にはオリフィス56が設けられており、クランク室51内の圧力を減圧して吸入室53側へ導出可能になっている。
【0018】
可変容量圧縮機1の揺動板は、その角度がクランク室51内で揺動板を付勢するスプリングの荷重や、揺動板につながるピストンの両面にかかる圧力による荷重等がバランスした位置に保持される。この可変容量圧縮機1の揺動板の角度は、クランク室51内に吐出冷媒の一部を導入してクランク圧力Pcを変化させ、ピストンの両面にかかる圧力の釣り合いを変化させることによって連続的に変えられる。この揺動板の角度の変化によってピストンのストロークを変えることにより、冷媒の吐出量を調整するようにしている。このクランク室51内の圧力は、可変容量圧縮機1の吐出室54とクランク室51との間に設けられた可変容量圧縮機用制御弁5により制御される。
【0019】
可変容量圧縮機用制御弁5は、可変容量圧縮機1の吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧(Pd−Pc)が制御目標値である設定差圧に近づくように吐出室54からクランク室51に導入する冷媒流量を調整する。これにより、可変容量圧縮機1の吐出容量が変化する。可変容量圧縮機用制御弁5は、ソレノイド駆動の電磁弁として構成され、制御部6により通電制御されるが、その構造の詳細については後述する。
【0020】
制御部6は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース等を備える。制御部6は、エンジン回転数、車室内外の温度、蒸発器4の吹き出し空気温度等、各種センサにて検出された所定の外部情報に基づいて上記設定差圧を決定し、その設定差圧に基づいて可変容量圧縮機用制御弁5への通電制御を行う。例えば車両の加速時や登坂走行時などのエンジンの高負荷状態において可変容量圧縮機1の負荷トルク低減を目的とする加速カット要求があると、制御部6は、通電制御の電流値を、可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な境界電流値まで降下させて保持する。
【0021】
膨張装置3は、いわゆる温度式膨張弁として構成されており、蒸発器4の出口側の冷媒温度をフィードバックしてその弁開度を調整し、熱負荷に応じた液冷媒を蒸発器4へ供給する。蒸発器4を通過した冷媒は可変容量圧縮機1に戻され、再び圧縮される。
【0022】
また、可変容量圧縮機1の吐出室54と凝縮器2との間の冷媒通路には、差圧低下促進部としての逆止弁7が設けられている。この逆止弁7は、吐出室54から凝縮器2への冷媒の流れのみを許容して凝縮器2側からの逆流を防止するとともに、吐出圧力Pdが凝縮器2側の圧力よりも低下することを促進するものである。具体的には、逆止弁7は、冷媒通路に配置されるボディ、ボディに一体的に形成された弁座、弁座に接離して弁部を開閉する弁体、弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段としてのスプリング等を備えている。この逆止弁7は弁体の前後差圧が所定値以上になると自律的に開弁する。すなわち、逆止弁7の吐出室54側の吐出圧力Pdと凝縮器2側の圧力Pdlとの差圧による荷重がスプリングのばね荷重を上回る限りにおいて開弁状態となり、吐出室54から凝縮器2への冷媒の流れのみを許容する。その結果、吐出圧力Pdが凝縮器2側の圧力よりも低下することを促進する差圧低下促進部として機能する。なお、本実施の形態において、逆止弁7は機械式の弁であるが、電磁駆動により開閉されるものであってもよい。
【0023】
図2は、可変容量圧縮機用制御弁の概略構成を示す断面図である。
可変容量圧縮機用制御弁5は、可変容量圧縮機1の吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧(Pd−Pc)を設定差圧に保つように、吐出室54からクランク室51に導入する冷媒流量を制御するいわゆるPd−Pc弁として構成されている。
【0024】
この可変容量圧縮機用制御弁5は、吐出冷媒の一部をクランク室51へ導入するための冷媒通路を開閉する弁本体8と、弁本体8の弁部の開度を調整してクランク室51へ導入する冷媒流量を制御するソレノイド9とを一体に組み付けて構成される。
【0025】
弁本体8は、そのボディ10の内部に弁機構を備えている。ボディ10の上部には、可変容量圧縮機1の吐出室54に連通して吐出圧力Pdを受けるポート11が設けられている。ポート11は、ボディ10の側部に設けられたポート13と内部で連通している。ポート13は、可変容量圧縮機1のクランク室51に連通し、そのクランク室51に制御されたクランク圧力Pcを導出する。
【0026】
ポート11とポート13とを連通する冷媒通路には、円筒状の弁座形成部材14が圧入されており、その内部通路により弁孔15が形成されている。また、弁座形成部材14のクランク室51側の端面により弁座16が形成されている。
【0027】
また、弁座16にクランク室51側から対向して、長尺状の作動ロッド17の一端部からなる弁体18が接離自在に配置されている。弁体18は、ボディ10の中央に設けられたガイド孔19に摺動可能に軸支されている。弁体18は、弁孔15の下流側でクランク室51に連通する圧力室21に配置され、その先端面の外周縁が弁座16に着脱することにより弁孔15を開閉する。作動ロッド17とボディ10との間には、作動ロッド17をソレノイド9側、つまり開弁方向に付勢するスプリング41が介装されている。
【0028】
ボディ10の側部のポート13から下方に離間した位置には、同じくクランク室51に連通してクランク圧力Pcを受けるポート22が形成されている。ボディ10とソレノイド9とにより囲まれたこのポート22と連通する内部空間は、クランク圧力Pcが導入される圧力室25を形成する。クランク圧力Pcは、ソレノイド9の内部にも導入される。
【0029】
一方、ソレノイド9は、ヨークとしても機能するケース31と、ボディ10の下端部とケース内上端部とをまたぐように配設されたコア32と、コア32と軸線方向に対向配置されたプランジャ33と、外部からの供給電流により磁気回路を生成する電磁コイル34とを備えている。ケース31は、その上端部がボディ10の下端部に接合されている。
【0030】
コア32には、その中央を軸線方向に貫通する挿通孔35が設けられており、ソレノイド力を弁体18へ伝達するためのシャフト20を挿通している。コア32の上端部とシャフト20との間には、所定のクリアランスが設けられているため、このクリアランスを介して圧力室25内のクランク圧力Pcがソレノイド9の内部にも導入される。
【0031】
コア32には、また、筒状のスリーブ36が外挿されている。スリーブ36内においては、プランジャ33がコア32の下方で軸線方向に進退可能に配置されている。また、スリーブ36内の下端部には軸受部材37が固定配設され、シャフト20の下端部が摺動可能に軸支されている。シャフト20は、その下部にプランジャ33が圧入されている。
【0032】
プランジャ33とコア32との間には、プランジャ33をコア32から離間させる方向に付勢するスプリング42が介装されている。また、プランジャ33と軸受部材37との間には、プランジャ33をコア32に近接させる方向に付勢するスプリング43が介装されている。
【0033】
以上の構成において、作動ロッド17に関して圧力室21導入されたクランク圧力Pcと圧力室25に導入されたクランク圧力Pcとが部分的にキャンセルされる。このため、弁体18には、ほぼ弁孔15の大きさの受圧面積に対して吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧(Pd−Pc)が実質的に作用する。弁体18は、差圧(Pd−Pc)がソレノイド9に供給された制御電流にて設定された設定差圧に保持されるように動作する。
【0034】
次に、可変容量圧縮機用制御弁の基本的動作について説明する。
図1に示した可変容量圧縮機用制御弁5において、スプリング41およびスプリング42による開弁方向のばね荷重は、スプリング43による閉弁方向のばね荷重よりも大きく設定されている。このため、ソレノイド9が非通電のときには、吐出圧力Pdにより弁体18が弁座16から離間して弁部が全開状態に保持される。このとき、可変容量圧縮機の吐出室54からポート11に導入された吐出圧力Pdの高圧冷媒は、全開状態の弁部を通過し、ポート13からクランク室51へと流れることになる。したがって、クランク圧力Pcが吐出圧力Pdに近い圧力になるため、可変容量圧縮機は吐出容量が最小となる最小容量運転を行うことになる。
【0035】
一方、自動車用空調装置の起動時または冷房負荷が最大のときには、ソレノイド9に供給される電流値は最大になり、プランジャ33は、コア32に最大の吸引力で吸引される。このとき、弁体18を含む作動ロッド17、シャフト20およびプランジャ33が、一体になって閉弁方向に動作し、弁体18が弁座16に着座する。この閉弁動作によってクランク圧力Pcが低下するため、可変容量圧縮機は吐出容量が最大となる最大容量運転を行うことになる。
【0036】
ここで、容量制御時においてソレノイド9に供給される電流値が所定値に設定されているときには、弁体18を含む作動ロッド17、シャフト20およびプランジャ33が一体動作する。このとき、弁体18は、作動ロッド17を開弁方向に付勢するスプリング41のばね荷重と、プランジャ33を開弁方向に付勢するスプリング42のばね荷重と、プランジャ33を閉弁方向に付勢するスプリング43のばね荷重と、プランジャ33を閉弁方向に付勢しているソレノイド9の荷重と、弁体18が開弁方向に受圧する吐出圧力Pdによる力と、弁体18が閉弁方向に受圧するクランク圧力Pcによる力とがバランスした弁リフト位置にて停止する。
【0037】
このバランスが取れた状態で、エンジンの回転数とともに可変容量圧縮機の回転数が上がって吐出容量が増えると、差圧(Pd−Pc)が大きくなって弁体18に開弁方向の力が作用し、弁体18は、さらにリフトして吐出室54からクランク室51へ流す冷媒の流量を増やす。これにより、クランク圧力Pcが上昇し、可変容量圧縮機は、その吐出容量を減少させる方向に動作し、差圧(Pd−Pc)が設定差圧になるように制御される。エンジンの回転数が低下した場合には、その逆の動作が行われ、差圧(Pd−Pc)が設定差圧になるように制御される。
【0038】
次に、本実施の形態に係る可変容量圧縮機用制御弁のデューティ制御の概要およびその作用について説明する。図3は、本実施の形態における可変容量圧縮機用制御弁の通電制御の様子を表す説明図である。同図において横軸は時間経過を表し、縦軸は上段からソレノイド9に供給する制御電流のデューティ比、各圧力、可変容量圧縮機のトルクをそれぞれ表している。図示の例では、可変容量圧縮機1の容量制御状態から加速カット制御により制御電流が急減された後、元の容量制御状態へ復帰する戻し制御がなされたときの様子が示されている。図4は、制御電流と差圧(Pd−Pc)との関係を表す説明図である。
【0039】
例えば、車両用空調装置の作動中に車両が登坂走行に移行したり、急加速が要求されたりすると、エンジンの負荷を車両の推進力に優先的に振り向けるために、図示しないエンジン制御装置から加速カット要求がなされる。制御部6は、この加速カット要求を受けとると、可変容量圧縮機1を最小容量運転に移行させるために、ソレノイド9へ供給する制御電流のデューティ比を急激に低減させる。そして、加速カット要求が解除されると、制御電流を再び元のデューティ比に戻す戻し制御を行う。
【0040】
図3に示すように、差圧(Pd−Pc)が設定差圧になるように制御される容量制御状態において時間t1にて加速カット要求がなされると、制御部6は、制御電流が予め設定した境界電流値となるように、デューティ比をこれに対応する基準デューティ比D0に即座に低減する。この境界電流値は、可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な電流値である。
【0041】
すなわち、図4に示すように、ソレノイド9に供給する制御電流と設定差圧Δ(Pd−Pc)とはほぼ比例関係を有するが、スプリングの付勢力によりある電流値までは弁開度が大きくて弁部がその差圧(Pd−Pc)を事実上感知することができず、その差圧制御を開始できない。したがって、この弁部が差圧(Pd−Pc)を感知しない不感帯を超える制御電流を印加してはじめて容量制御状態へ移行できる。ここでは、その電流値を境界電流値として設定することにより、そこから制御電流を上げれば最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な状態に保持しておく。それにより、通電制御による時間遅れを防止することができる。
【0042】
図3に戻り、デューティ比が基準デューティ比D0に低減されると、可変容量圧縮機1の負荷トルクが実質的にゼロになり、エンジントルクが車両の推進力に振り向けられることになる。このデューティ比の低減直後においては、可変容量圧縮機用制御弁5の弁開度が急激に大きくなるが、その弁部は全開状態ではないため、クランク圧力Pcの上昇が図示のようにある程度抑制される。同図の破線は、図5に示したようにデューティ比をゼロにして弁部を全開状態にした場合を参考に示したものである。このように、クランク圧力Pcの上昇が抑えられるため、その後クランク圧力Pcは速やかに吸入圧力Psに近づいていき、差圧(Pc−Ps)が可変容量圧縮機が再び容量制御状態へ移行可能な所定値ΔP以下となる。その結果、図示のように時間t2において比較的早期に戻し制御へ移行しても、可変容量圧縮機1の負荷トルクがこれに対応して大きくなり、時間t3において差圧(Pd−Pc)を設定差圧にすることができる。つまり、加速カットを行っている時間間隔(インターバル)が比較的短くても、安定したソフトスタートが実現されるため、車両のエンジントルクを有効に効率よく利用することができる。
【0043】
以上に説明したように、本実施の形態の冷凍サイクルによれば、可変容量圧縮機用制御弁5をいわゆるPd−Pc弁として構成するとともに、可変容量圧縮機1の吐出室54側に逆止弁7を設けた。これにより、加速カット時など設定差圧の設定変更に際して可変容量圧縮機1の吐出容量が低減されるときには、逆止弁7により吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧の低下が促進され、その吐出容量の低減を速やかに行うことができる。また、クランク圧力Pcが制御対象のパラメータに含まれるため、仮に外部情報に基づいて可変容量圧縮機用制御弁5への通電量が急激に低下したとしても、差圧(Pc−Ps)のオーバシュートを防止できるとともに、そのクランク圧力Pcの急上昇を抑制できる。その結果、クランク圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧を相対的に小さく保持でき、可変容量圧縮機用制御弁5への通電制御が再開される際には、可変容量圧縮機1を短いインターバルでソフトスタートさせることができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はその特定の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0045】
例えば、上記実施の形態では、差圧低下促進部としての逆止弁7を吐出室54と凝縮器2との間、つまり高圧側に配置した例を示した。変形例においては、逆止弁等の差圧低下促進部を吸入室53と蒸発器4との間、つまり低圧側に配置し、蒸発器4から可変容量圧縮機1への冷媒の流れのみを許容するようにしてもよい。これにより、吸入圧力Psが蒸発器4側の圧力よりも上昇することを促進するため、結果的にクランク圧力Pcの上昇をも促進する。その結果、相対的に差圧(Pd−Pc)が速やかに低減される。
【0046】
また、上記実施の形態の可変容量圧縮機用制御弁は、冷媒として代替フロン(HFC−134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、本発明の可変容量圧縮機用制御弁は、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルにおいて凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0047】
なお、上記実施の形態では、いわゆるPd−Pc弁を適用した冷凍サイクルにおいてデューティ比の急低下時に電流値を境界電流値に設定する例を示したが、いわゆるPd−Ps弁を適用した冷凍サイクルにおいて、同様に電流値を境界電流値に設定することも考えられる。
また、上記実施の形態では、可変容量圧縮機用制御弁5をPd−Pc弁として構成するとともに、クランク室51と吸入室53とを連通する冷媒通路にはオリフィス56を設けた構成を例示した。変形例においては、例えば特開2001−132650号公報の図2に示される構成を採用してもよい。すなわち、吐出室とクランク室とを連通する冷媒通路にオリフィスを設ける一方、可変容量圧縮機用制御弁を吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧に基づいて自律的に弁部を開閉する弁としてもよい。この構成では、吐出圧力Pdがオリフィスで減圧されてクランク圧力Pcが生成されるが、クランク圧力Pcが高くなって差圧(Pd−Pc)が小さくなると、弁部が開弁してクランク室の圧力が吸入室側へリリーフされ、クランク圧力Pcを下げる。これにより、差圧(Pd−Pc)が設定差圧に保持される差圧制御が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態に係る冷凍サイクルを表すシステム構成図である。
【図2】可変容量圧縮機用制御弁の概略構成を示す断面図である。
【図3】本実施の形態における可変容量圧縮機用制御弁の通電制御の様子を表す説明図である。
【図4】制御電流と差圧(Pd−Pc)との関係を表す説明図である。
【図5】先行技術において想定される制御弁の通電制御の様子を表す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 可変容量圧縮機、 2 凝縮器、 3 膨張装置、 4 蒸発器、 5 可変容量圧縮機用制御弁、 6 制御部、 7 逆止弁、 8 弁本体、 9 ソレノイド、 10 ボディ、 15 弁孔、 16 弁座、 17 作動ロッド、 18 弁体、 20 シャフト、 21 圧力室、 25 圧力室、 51 クランク室、 52 シリンダ、 53 吸入室、 54 吐出室、 56 オリフィス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調装置を構成する冷凍サイクルにおいて、
吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、
前記可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、
前記外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、
前記膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに前記可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、
前記可変容量圧縮機の前記吐出室の吐出圧力とクランク室のクランク圧力との差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧が制御目標値である設定差圧に近づくように前記吐出室から前記クランク室に導入する冷媒流量を調整して、前記可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる可変容量圧縮機用制御弁と、
所定の外部情報に基づいて前記設定差圧を決定し、その設定差圧に基づいて前記可変容量圧縮機用制御弁への通電制御を行う制御部と、
前記設定差圧の設定変更に際して前記可変容量圧縮機の吐出容量が低減されるときに、前記吐出圧力と前記クランク圧力との差圧の低下を促進する差圧低下促進部と、
を備えたことを特徴とする冷凍サイクル。
【請求項2】
前記制御部は、前記外部情報に基づいて前記可変容量圧縮機の負荷トルクを実質的にゼロにする際に、前記通電制御の電流値を、前記可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な境界電流値に保持することを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項3】
前記差圧低下促進部は、前記吐出圧力を低減するよう、前記可変容量圧縮機の吐出室側に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項4】
前記差圧低下促進部は、逆止弁からなることを特徴とする請求項3に記載の冷凍サイクル。
【請求項5】
空調装置を構成する冷凍サイクルにおいて、
吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、
前記可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、
前記外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、
前記膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに前記可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、
前記可変容量圧縮機の前記吐出室の吐出圧力とクランク室のクランク圧力との差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧が制御目標値である設定差圧に近づくように前記吐出室から前記クランク室に導入する冷媒流量を調整して、前記可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる可変容量圧縮機用制御弁と、
所定の外部情報に基づいて前記設定差圧を決定し、その設定差圧に基づいて前記可変容量圧縮機用制御弁への通電制御を行うとともに、前記外部情報に基づいて前記可変容量圧縮機の負荷トルクを実質的にゼロにする際には、前記通電制御の電流値を、前記可変容量圧縮機が最小容量運転から容量制御運転に直ちに遷移可能な境界電流値に保持する制御部と、
を備えたことを特徴とする冷凍サイクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−164241(P2008−164241A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355397(P2006−355397)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】