説明

冷媒放熱器

【課題】冷媒放熱器にて冷媒と熱交換して吹き出される送風空気の温度分布を抑制する。
【解決手段】複数のチューブ121の積層方向に延びるヘッダタンク122の内部空間を圧縮機から吐出された気相冷媒を流入させる流入空間122aと、冷媒放熱器12から液相冷媒を流出させる流出空間122bとに分割し、流入空間に接続されるチューブを第1チューブ群121aとし、流出空間に接続されるチューブを第2チューブ群121bとする。さらに、複数のチューブ121の本数Xに対する第1チューブ群121aの本数の割合Y、冷媒放熱器12の熱交換領域を構成するチューブ121の長手方向長さWおよびチューブ121の積層高さHを適切に決定することによって、第2チューブ群121bから流出する液相冷媒の過冷却度SCが24.7℃以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルにおいて冷媒を放熱させる冷媒放熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気圧縮式の冷凍サイクルにおいて、圧縮機から吐出された高温高圧の吐出冷媒を空気に放熱させる冷媒放熱器が知られている。例えば、特許文献1の冷媒放熱器は、車両用空調装置に適用され、圧縮機吐出冷媒と車室内へ送風される送風空気とを熱交換させて送風空気を加熱する加熱用の熱交換器としての機能を果たしている。
【0003】
また、特許文献1の冷凍サイクルでは、冷媒として二酸化炭素を採用しており、圧縮機吐出側から減圧装置入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上となる、いわゆる超臨界サイクルを構成している。従って、冷媒放熱器では、超臨界状態の冷媒を放熱させている。
【0004】
さらに、この冷媒放熱器では、送風空気の流れ方向に並んだ上流側熱交換部と下流側熱交換部との2つの熱交換部を有し、下流側熱交換部の一端側から他端側へ流通させた圧縮機吐出冷媒を上流側熱交換部の他端側から一端側へ流通させるとともに、下流側熱交換部の熱交換能力を上流側熱交換部の熱交換能力よりも低下させている。
【0005】
これにより、送風空気の流れ方向から見たときに上流側熱交換部のうち低温の冷媒が流れる熱交換領域と下流側熱交換部のうち高温の冷媒が流れる熱交換領域とを重合させるとともに、下流側熱交換部へ流入した直後の冷媒の急激な温度低下を抑制し、冷媒放熱器から吹き出される送風空気に温度分布が生じてしまうことの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−125346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の冷媒放熱器を、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力未満となる、いわゆる亜臨界冷凍サイクルに適用しても、上述した温度分布の抑制効果を得ることは難しい。その理由は、亜臨界冷凍サイクルでは、冷媒が冷媒放熱器にて放熱する際に、過熱度を有する気相冷媒から気液二相冷媒へ、さらには過冷却度を有する液相冷媒へ相変化するからである。
【0008】
より詳細には、超臨界冷凍サイクルでは、冷媒放熱器にて冷媒を超臨界状態のまま放熱させるので、冷媒放熱器内を流通する冷媒は、ほぼ一定の勾配で温度低下しながら放熱する。従って、特許文献1のように、風上側の熱交換領域および風下側の熱交換領域を流通する冷媒の流れ方向を対向させ、冷媒が風下側の熱交換領域へ流入した直後の急激な温度低下を抑制することによって、送風空気の温度分布を抑制できる。
【0009】
一方、亜臨界冷凍サイクルでは、冷媒放熱器内を流通する冷媒が気相冷媒あるいは液相冷媒になっている際には、冷媒は、その温度を低下させながら放熱する(すなわち、温度とエンタルピとの双方を低下させる)ものの、気液二相冷媒になっている際には、その温度を低下させることなく放熱する(すなわち、エンタルピのみを低下させる)。
【0010】
従って、送風空気の流れ方向から見たときに、一方の熱交換領域のうち冷媒が気液二相冷媒になっている熱交換領域と他方の熱交換領域のうち冷媒が気相冷媒あるいは液相冷媒になっている熱交換領域が、空気流れ方向に重合していると冷媒放熱器から吹き出される送風空気の温度分布を充分に抑制することができなくなってしまう。
【0011】
本発明は、上記点に鑑み、気相冷媒のエンタルピを、少なくとも気液二相冷媒となるまで低下させる冷媒放熱器にて、冷媒と熱交換して吹き出される送風空気の温度分布を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)に適用されて、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)から吐出された冷媒と空調対象空間へ送風される送風空気とを熱交換させて、過熱度を有する気相冷媒のエンタルピを、少なくとも気液二相冷媒となるまで低下させる冷媒放熱器であって、
冷媒が流通する複数のチューブ(121)と、複数のチューブ(121)の積層方向に延びて複数のチューブ(121)を流通する冷媒の集合あるいは分配を行う一対のヘッダタンク(122、123)とを備え、
複数のチューブ(121)には、一端側から気相冷媒を流入させて他端側から流出させる第1チューブ群(121a)、および、第1チューブ群(121a)から流出した冷媒を他端側から流入させて少なくとも気液二相冷媒となるまでエンタルピが低下した冷媒を一端側から流出させる第2チューブ群(121b)が設けられており、一端側に配置されるヘッダタンク(122)の内部空間は、少なくとも第1チューブ群(121a)に連通する第1空間(122a)および第2チューブ群(121b)に連通する第2空間(122b)に区画されていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、複数のチューブ(121)の積層方向に延びるヘッダタンク(122)の内部空間を、第1チューブ群(121a)に連通する第1空間(122a)および第2チューブ群(121b)に連通する第2空間(122b)に区画しているので、第1チューブ群(121a)によって構成される熱交換領域(以下、第1熱交換領域と表現する。)および第2チューブ群(121b)によって構成される熱交換領域(以下、第2熱交換領域と表現する。)を、ヘッダタンク(122)の長手方向に並べて配置することができる。
【0014】
従って、双方の熱交換領域の面積比を調整する手段、あるいは、双方の熱交換領域にて熱交換する送風空気量を調整する手段等により、双方の熱交換領域における熱交換量を変化させることによって、冷媒と熱交換して吹き出される送風空気の温度分布を容易に抑制可能な冷媒放熱器を提供することができる。
【0015】
より詳細には、第1チューブ群(121a)の一端側には比較的高温の気相冷媒が流入し、他端側からは送風空気と熱交換して温度低下した冷媒が流出するので、第1熱交換領域から吹き出される送風空気には、一端側から他端側へ向かって温度低下する温度分布が生じている。
【0016】
一方、第2チューブ群(121b)の他端側には第1チューブ群(121a)の他端側の冷媒と同等の温度の冷媒が流入し、第2チューブ群(121b)の一端側からは送風空気と熱交換した冷媒が流出する。
【0017】
この際、第2チューブ群(121b)の他端側から気液二相冷媒が流入し、第2チューブ群(121b)の一端側から液相冷媒が流出する場合には、第2チューブ群(121b)を流通する液相冷媒は送風空気と熱交換して温度低下する。従って、第2熱交換領域から吹き出される送風空気には、他端側から一端側へ向かって温度低下する温度分布が生じる。
【0018】
また、第2チューブ群(121b)の他端側へ流入する冷媒と第2チューブ群(121b)の一端側から流出する冷媒の双方が気液二相冷媒となっている場合には、第2チューブ群(121b)を流通する冷媒は送風空気と熱交換しても、そのエンタルピを低下させるだけであって温度低下しない。従って、第2熱交換領域から吹き出される送風空気には、殆ど温度分布が生じない。
【0019】
第1、第2熱交換領域において、このような温度分布が生じる場合には、双方の熱交換領域にて熱交換する送風空気量を調整する手段等によって、双方の熱交換領域における熱交換量を変化させて、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気および第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気を合流させた合流空気の温度と、第1、第2熱交換領域の他端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を抑制できる。
【0020】
その結果、送風空気のチューブ(121)の長手方向の温度分布を容易に抑制可能な冷媒放熱器を提供することができる。
【0021】
さらに、送風空気の温度分布を抑制するために、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の冷媒放熱器において、過熱度を有する気相冷媒の過熱度(SH)は、予め定めた基準過熱度(KSH)以下になっており、第2チューブ群(121b)から流出する冷媒は、過冷却度を有する液相冷媒であり、第2チューブ群(121b)から流出する冷媒の過冷却度(SC)は、24.7℃以下となっていてもよい。
【0022】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1に記載の冷媒放熱器において、過熱度を有する気相冷媒の過熱度(SH)は、予め定めた基準過熱度(KSH)以下になっており、第2チューブ群(121b)から流出する冷媒は、気液二相冷媒であり、第2チューブ群(121b)から流出する冷媒の乾き度(X)は、0.25以下となっていてもよい。
【0023】
請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の冷媒放熱器において、複数のチューブ(121)の本数をXとし、第1チューブ群(121a)の本数のXに対する割合をYとし、複数のチューブ(121)のうち冷媒と送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(単位:mm)としたときに、
{(−0.0008W2+0.109W+19.952)X2+(0.036W2+1.7791W−1876.6)X−0.2536W2−32.173W+50886}/105≦Y≦(14.748X2−999.97X−0.216W2+263.48W+46893.5)/105
となっていてもよい。
【0024】
このように、複数のチューブ(121)の本数Xに対する第1チューブ群(121a)を構成するチューブ(121)の本数の割合Yを調整することによって、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を容易に調整することができる。
【0025】
さらに、請求項5に記載の発明のように、請求項4に記載の冷媒放熱器において、
85≦W≦350
10≦X≦50
となっていることが望ましい。
【0026】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の冷媒放熱器において、複数のチューブ(121)のうち冷媒と送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(単位:mm)とし、複数のチューブ(121)の積層方向最上位部から積層方向最下位部へ至る積層高さH(単位:mm)としたときに、
−0.569H+129.41≦W≦−0.5487H+458.77
となっていることを特徴とする。
【0027】
このように、冷媒放熱器全体としての熱交換領域の大きさを調整することによって、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を容易に調整することができる。
【0028】
さらに、請求項7に記載の発明のように、
−0.6059H+152.23≦W≦−0.5692H+382.69
となっていてもよい。
【0029】
また、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の冷媒放熱器において、請求項8に記載の発明のように、複数のチューブ(121)は、水平方向に延びており、第1チューブ群(121a)は、第2チューブ群(121b)よりも下方に配置されていてもよいし、請求項9に記載の発明のように、複数のチューブ(121)は、水平方向に延びており、第1チューブ群(121a)は、第2チューブ群(121b)よりも上方に配置されていてもよい。
【0030】
これによれば、複数のチューブ(121)の長手方向が水平方向となるので、水平方向の送風空気の温度分布を抑制することができる。
【0031】
さらに、請求項10に記載の発明では、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の冷媒放熱器において、冷凍サイクル(10)は、車両用空調装置に適用されており、空調対象空間は、車室内であることを特徴とする。
【0032】
ここで、一般的な車両用空調装置では、冷媒放熱器から吹き出される送風空気に水平方向の温度分布が生じると、運転席側へ吹き出される送風空気と助手席側へ吹き出される送風空気との温度差が拡大してしまう。従って、送風空気の水平方向の温度分布を抑制可能な冷媒放熱器を車両用空調装置に適用できることは極めて有効である。
【0033】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態のヒートポンプサイクルの暖房運転時の冷媒流路等を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態のヒートポンプサイクルの冷房運転時の冷媒流路等を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態の冷媒放熱器の配置状態を示す説明図である。
【図4】第1実施形態の冷媒放熱器の正面図である。
【図5】室温と人間の一般的な温感との関係を示すグラフである。
【図6】過冷却度SCと左右平均温度差ΔTとの関係を示すグラフである。
【図7】冷媒放熱器の寸法諸元等を説明するための説明図である。
【図8】第1チューブ群を構成するチューブの本数の割合Yと左右平均温度差ΔTとの関係を示すグラフである。
【図9】長手方向長さW、積層高さHおよび左右平均温度差ΔTの関係を示すグラフである。
【図10】第2実施形態の冷媒放熱器の左右平均温度差ΔTを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1実施形態)
図1〜図9により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の冷媒放熱器12を備えるヒートポンプサイクル10(蒸気圧縮式の冷凍サイクル)を、車両用空調装置1に適用している。図1、図2は、本実施形態の車両用空調装置1の全体構成図である。なお、車両用空調装置1は、エンジン(内燃機関)から走行用駆動力を得る通常のエンジン車両のみならず、ハイブリッド車両や電気自動車等種々の車両に適用できる。
【0036】
ヒートポンプサイクル10は、車両用空調装置1において、空調対象空間である車室内へ送風される車室内送風空気を加熱あるいは冷却する機能を果たす。従って、このヒートポンプサイクル10は、冷媒流路を切り替えて、熱交換対象流体である車室内送風空気を加熱して車室内を暖房する暖房運転(加熱運転)、車室内送風空気を冷却して車室内を冷房する冷房運転(冷却運転)を実行できる。
【0037】
なお、図1、2のヒートポンプサイクル10に示す全体構成図では、それぞれ暖房運転時における冷媒の流れ、および、冷房運転時における冷媒の流れを実線矢印で示している。
【0038】
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。もちろん、亜臨界冷凍サイクルを構成する冷媒であれば、HFO系冷媒(具体的には、R1234yf)等を採用してもよい。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0039】
まず、圧縮機11は、エンジンルーム内に配置されて、ヒートポンプサイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機である。固定容量型圧縮機11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
【0040】
電動モータ11bは、後述する空調制御装置から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、本実施形態では、電動モータ11bが圧縮機11の吐出能力変更手段を構成する。
【0041】
圧縮機11の冷媒吐出口には、冷媒放熱器12の冷媒入口側が接続されている。冷媒放熱器12は、後述する車両用空調装置1の室内空調ユニット30のケーシング31内に配置されて、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒と後述する冷媒蒸発器20通過後の車室内送風空気とを熱交換させる加熱用熱交換器である。なお、冷媒放熱器12の詳細構成については後述する。
【0042】
冷媒放熱器12の冷媒出口側には、暖房運転時に冷媒放熱器12から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房運転用の減圧手段としての暖房用固定絞り13が接続されている。この暖房用固定絞り13としては、オリフィス、キャピラリチューブ等を採用できる。暖房用固定絞り13の出口側には、室外熱交換器16の冷媒入口側が接続されている。
【0043】
さらに、冷媒放熱器12の冷媒出口側には、冷媒放熱器12から流出した冷媒を、暖房用固定絞り13を迂回させて室外熱交換器16側へ導く固定絞り迂回用通路14が接続されている。この固定絞り迂回用通路14には、固定絞り迂回用通路14を開閉する開閉弁15aが配置されている。開閉弁15aは、空調制御装置から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される電磁弁である。
【0044】
また、冷媒が開閉弁15aを通過する際に生じる圧力損失は、暖房用固定絞り13を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。従って、冷媒放熱器12から流出した冷媒は、開閉弁15aが開いている場合には固定絞り迂回用通路14側を介して室外熱交換器16へ流入し、開閉弁15aが閉じている場合には暖房用固定絞り13を介して室外熱交換器16へ流入する。
【0045】
これにより、開閉弁15aは、ヒートポンプサイクル10の冷媒流路を切り替えることができる。従って、本実施形態の開閉弁15aは、冷媒流路切替手段としての機能を果たす。なお、このような冷媒流路切替手段としては、冷媒放熱器12出口側と暖房用固定絞り13入口側とを接続する冷媒回路および冷媒放熱器12出口側と固定絞り迂回用通路14入口側とを接続する冷媒回路を切り替える電気式の三方弁等を採用してもよい。
【0046】
室外熱交換器16は、内部を流通する低圧冷媒と送風ファン17から送風された外気とを熱交換させるものである。この室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、暖房運転時には、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器として機能し、冷房運転時には、高圧冷媒を放熱させる放熱器として機能する熱交換器である。
【0047】
また、送風ファン17は、空調制御装置から出力される制御電圧によって稼働率、すなわち回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。室外熱交換器16の出口側には、電気式の三方弁15bが接続されている。この三方弁15bは、空調制御装置から出力される制御電圧によって、その作動が制御されるもので、上述した開閉弁15aとともに、冷媒流路切替手段を構成している。
【0048】
より具体的には、三方弁15bは、暖房運転時には、室外熱交換器16の出口側と後述するアキュムレータ18の入口側とを接続する冷媒流路に切り替え、冷房運転時には、室外熱交換器16の出口側と冷房用固定絞り19の入口側とを接続する冷媒流路に切り替える。
【0049】
冷房用固定絞り19は、冷房運転時に室外熱交換器16から流出した冷媒を減圧膨張させる冷房運転用の減圧手段であり、その基本的構成は、暖房用固定絞り13と同様である。冷房用固定絞り19の出口側には、室内蒸発器としての冷媒蒸発器20の冷媒入口側が接続されている。
【0050】
冷媒蒸発器20は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、冷媒放熱器12よりも空気流れの上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と車室内送風空気とを熱交換させ、車室内送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。冷媒蒸発器20の冷媒出口側には、アキュムレータ18の入口側が接続されている。
【0051】
アキュムレータ18は、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰冷媒を蓄える低圧側冷媒用の気液分離器である。アキュムレータ18の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入側が接続されている。従って、このアキュムレータ18は、圧縮機11に液相冷媒が吸入されてしまうことを抑制して、圧縮機11の液圧縮を防止する機能を果たす。
【0052】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の冷媒放熱器12、冷媒蒸発器20等を収容したものである。
【0053】
ケーシング31は、車室内に送風される車室内送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の車室内送風空気流れ最上流側には、車室内空気(内気)と外気とを切替導入する内外気切替装置33が配置されている。
【0054】
内外気切替装置33には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替装置33の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0055】
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、内外気切替装置33を介して吸入された空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0056】
送風機32の空気流れ下流側には、冷媒蒸発器20および冷媒放熱器12が、車室内送風空気の流れに対して、この順に配置されている。換言すると、冷媒蒸発器20は、冷媒放熱器12に対して、車室内送風空気の流れ方向上流側に配置されている。
【0057】
さらに、冷媒蒸発器20の空気流れ下流側であって、かつ、冷媒放熱器12の空気流れ上流側には、冷媒蒸発器20通過後の送風空気のうち、冷媒放熱器12を通過させる風量割合を調整するエアミックスドア34が配置されている。また、冷媒放熱器12の空気流れ下流側には、冷媒放熱器12にて冷媒と熱交換して加熱された送風空気と冷媒放熱器12を迂回して加熱されていない送風空気とを混合させる混合空間35が設けられている。
【0058】
ケーシング31の空気流れ最下流部には、混合空間35にて混合された空調風を、冷却対象空間である車室内へ吹き出す開口穴が配置されている。具体的には、この開口穴としては、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口穴、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口穴、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口穴(いずれも図示せず)が設けられている。
【0059】
従って、エアミックスドア34が冷媒放熱器12を通過させる風量の割合を調整することによって、混合空間35にて混合された空調風の温度が調整され、各開口穴から吹き出される空調風の温度が調整される。つまり、エアミックスドア34は、車室内へ送風される空調風の温度を調整する温度調整手段を構成している。
【0060】
なお、エアミックスドア34は、空調制御装置から出力される制御信号によって作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。また、フェイス開口穴は、フット開口穴よりも上方に配置されている。従って、冷媒放熱器12で加熱された送風空気のうち、上方側の第2熱交換領域にて加熱された送風空気はフェイス開口穴から流出しやすく、下方側の第1熱交換領域にて加熱された送風空気はフット開口穴から流出しやすい。
【0061】
さらに、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス開口穴の開口面積を調整するフェイスドア、フット開口穴の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ開口穴の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0062】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、開口穴モードを切り替える開口穴モード切替手段を構成するものであって、リンク機構等を介して、空調制御装置から出力される制御信号によってその作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
【0063】
一方、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口に接続されている。例えば、フェイス開口穴については、図3に示すように、インストルメントパネルPの左右方向中央部に設けられたフロントフェイス吹出口P1、左右方向端部側に設けられたサイドフェイス吹出口P2に接続されている。
【0064】
また、図3から明らかなように、これらのフロントフェイス吹出口P1、サイドフェイス吹出口P2は、それぞれ運転席用および助手席用に複数箇所に設けられており、例えば、暖房運転時に冷媒放熱器12のうち運転席側の熱交換領域で加熱された送風空気は主に運転席側に吹き出され、助手席側の熱交換領域で加熱された送風空気は主に助手席側に吹き出される。
【0065】
ここで、図4〜図9を用いて、冷媒放熱器12の詳細構成について説明する。図4は、冷媒放熱器12の正面図であり、図4において車室内送風空気の流れ方向は紙面裏側から表側となる。
【0066】
図4に示すように、冷媒放熱器12は、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒が流通する複数のチューブ121、この複数のチューブ121の長手方向(水平方向)両端側に配置されてチューブ121を流通する冷媒の集合あるいは分配を行う一対のヘッダタンク122、123等を有して構成される、いわゆるタンクアンドチューブ型の熱交換器として構成されている。
【0067】
チューブ121は、伝熱性に優れる金属(例えば、アルミニウム合金)で形成され、水平方向に延びるとともに、その長手方向に垂直な断面が扁平形状に形成された扁平チューブで構成されている。さらに、その外表面に形成された平坦面(扁平面)が、車室内送風空気の流れ方向Xと平行に配置されている。なお、チューブ121としては、単穴あるいは多穴の扁平チューブのいずれを採用してもよい。
【0068】
さらに、複数のチューブ121は、それぞれのチューブ121の平坦面同士が互いに平行となるように、略鉛直方向に等間隔に積層配置されており、隣り合うチューブ121同士の間には、車室内送風空気が流通する空気通路が形成されている。また、隣り合うチューブ121同士の間には、冷媒と車室内送風空気との熱交換を促進するフィン124が配置されている。
【0069】
フィン124は、チューブ121と同じ材質の薄板材を波状に曲げ成形することによって形成されたコルゲートフィンであり、その頂部がチューブ121の平坦面にろう付け接合されている。なお、図4では、図示の明確化のため、フィン124を一部のみ図示しているが、フィン124は、隣り合うチューブ121の間の略全域に渡って配置されている。
【0070】
ヘッダタンク122、123は、複数のチューブ121の積層方向(略鉛直方向)に延びる形状に形成された筒状部材であり、複数のチューブ121を流通する冷媒の集合あるいは分配を行うものである。
【0071】
より具体的には、ヘッダタンク122、123は、いずれも分割タイプのヘッダタンクとして構成されており、チューブ121と同じ材質で形成され、それぞれのチューブ121の長手方向端部がろう付け接合されるプレート部材、および、このプレート部材に組み合わされるタンク部材によって筒状に形成されている。
【0072】
さらに、ヘッダタンク122、123の両端部は、それぞれ閉塞部材としてのタンクキャップにて閉塞されている。もちろん、ヘッダタンク122、123を管状部材等で形成してもよい。
【0073】
また、一対のヘッダタンク122、123のうち、チューブ121の一端側(図4では、紙面右側)に配置されるヘッダタンク122の内部には、セパレータ125が配置されている。このセパレータ125は、ヘッダタンク122の内部空間を、鉛直方向に流入空間(第1空間)122aと流出空間(第2空間)122bとに区画するものである。
【0074】
このため、複数のチューブ121は、ヘッダタンク122の流入空間122aに接続される第1チューブ群121aと流出空間122bに接続される第2チューブ群121bとに大別される。
【0075】
さらに、ヘッダタンク122の鉛直方向下方側に位置付けられる流入空間122a側には、圧縮機11の吐出口側との接続部として機能するとともに、ヘッダタンク122内へ冷媒を流入させる冷媒流入口が設けられた入口側コネクタ126が接続され、鉛直方向上方側に位置付けられる流出空間122b側には、暖房用固定絞り13入口側および固定絞り迂回用通路14入口側との接続部として機能するとともに、ヘッダタンク122内から冷媒を流出させる冷媒流出口が設けられた出口側コネクタ127が接続されている。
【0076】
従って、冷媒放熱器12では、図4の太線矢印で示すように、圧縮機11から吐出された過熱度を有する気相冷媒が、入口側コネクタ126を介して、ヘッダタンク122の流入空間122aへ流入する。さらに、流入空間122aへ流入した冷媒は、第1チューブ群121aを構成するチューブ121へ分配される。
【0077】
第1チューブ群121aを構成するチューブ121へ流入した冷媒は、チューブ121を流通する際に、車室内送風空気と熱交換して、チューブ121から流出し、チューブ121の他端側に配置されるヘッダタンク123内に集合する。ヘッダタンク123内に集合した冷媒は、ヘッダタンク123の内部空間から第2チューブ群121bを構成するチューブ121へ分配される。
【0078】
第2チューブ群121bを構成するチューブ121へ流入した冷媒は、チューブ121を流通する際に、車室内送風空気と熱交換して、チューブ121から流出し、ヘッダタンク122の流出空間122bに集合する。流出空間122bに集合した冷媒は、出口側コネクタ127を介して、暖房用固定絞り13入口側および固定絞り迂回用通路14入口側へ流出していく。
【0079】
この際、本実施形態の冷媒放熱器12では、第1チューブ群121aを流通する冷媒が、チューブ121内にて車室内送風空気と熱交換しながら、過熱度を有する気相冷媒から気液二相冷媒となるまで冷却され、第2チューブ群121bを流通する冷媒が、チューブ121内にて車室内送風空気と熱交換しながら、気液二相冷媒から過冷却度を有する液相冷媒となるまで冷却される。
【0080】
従って、第1チューブ群121aによって構成される熱交換領域(以下、第1熱交換領域と表現する。)から吹き出される送風空気には、一端側から他端側へ向かって温度低下する温度分布が生じ、第2チューブ群121bによって構成される熱交換領域(以下、第2熱交換領域と表現する。)から吹き出される送風空気には、他端側から一端側へ向かって温度低下する温度分布が生じる。
【0081】
このような各熱交換領域における送風空気の温度分布の発生は、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気および第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気を合流させた合流空気の温度と、第1、第2熱交換領域の他端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を招く原因となる。つまり、冷媒放熱器12全体として送風空気の水平方向の温度分布を招く原因となる。
【0082】
前述の如く、本実施形態の車両用空調装置1では、冷媒放熱器12のうち運転席側の熱交換領域で加熱された送風空気は主に運転席側に吹き出され、助手席側の熱交換領域で加熱された送風空気は主に助手席側に吹き出される。従って、送風空気の水平方向の温度分布が拡大すると、運転席側へ吹き出される送風空気の温度と助手席側へ吹き出される送風空気の温度との温度差を拡大させてしまうことになる。
【0083】
そのため、車両用空調装置1に適用される冷媒放熱器12では、冷媒放熱器12全体として送風空気の水平方向の温度分布が抑制されることが望まれる。そこで、本実施形態では、以下のように冷媒放熱器12の各諸元を設定して、送風空気の水平方向の温度分布を抑制している。
【0084】
まず、図5を用いて、人間の一般的な温感について説明する。図5は、室温と温感(10段階の官能評価)との関係を示したグラフである。なお、図5は、渡辺 敏監修、「自動車工学シリーズ カーエアコン 第2版」、株式会社 山海堂発行、2003年1月15日、p43、図3.3を参考としたグラフである。
【0085】
図5から明らかなように、280名の被験者の官能評価より、人間が「暖かい(図5では、1〜2の範囲)」と感じる室温は、25℃〜30℃の範囲と判断することができる。これを車両用空調装置1に適用すると、暖房運転時には、運転席側へ吹き出される送風空気の温度および助手席側へ吹き出される送風空気の温度の双方を、25℃〜30℃とすることが望ましい。
【0086】
換言すると、暖房運転時に、双方の送風空気の温度差を5℃以下に抑制することができれば、運転席側の乗員および助手席側の乗員の双方にとって快適な暖房を実現することができる。そこで、本発明者は、図6に示すように、冷媒放熱器12から流出する液相冷媒の過冷却度SCの変化に対する送風空気の左右平均温度差ΔTを確認した。
【0087】
左右平均温度差ΔTは、図7の太線に示すように、冷媒放熱器の熱交換領域を40の領域(上下方向2×水平方向20)に分割し、各領域毎に吹き出される送風空気の平均温度を求め、さらに、水平方向一端側(紙面右側)の熱交換領域の20の領域の一端側平均温度と水平方向他端側(紙面左側)の熱交換領域の20つの領域の他端側平均温度との温度差の絶対値として求められた値である。
【0088】
従って、左右平均温度差ΔTは、冷媒放熱器12から吹き出される送風空気の水平方向の温度分布を表す指標として用いることができる。なお、図7は、冷媒放熱器12の寸法諸元等を説明するための説明図であり、図4に対して、説明用の仮想線等を追加するとともに、図示の明確化のために一部の符号を省略した図面である。
【0089】
また、図6の確認では、冷媒放熱器12へ流入する圧縮機11吐出冷媒の過熱度SHを、予め定めた基準過熱度KSH以下の所定値に近づくようにしている。この基準過熱度KSHは、圧縮機11の耐熱性を考慮して圧縮機11の保護を図ることができるように決定された値である。さらに、冷媒放熱器12にて冷媒と熱交換する送風空気の温度は、11℃とし、送風空気の風量は、180m3/hとしている。
【0090】
図6から明らかなように、冷媒放熱器12から流出する液相冷媒の過冷却度SCが低下するに伴って左右平均温度差ΔTが縮小して、過冷却度SCが10℃となると左右平均温度差ΔTは殆ど無くなる。さらに、過冷却度SCが低下するに伴って左右平均温度差ΔTが拡大する。
【0091】
この過冷却度SCと左右平均温度差ΔTとの関係は、以下数式F1にて近似できる。
ΔT=abs(0.3256×SC−3.0881)…(F1)
なお、abs()は、絶対値を取ることを表す関数である。従って、左右平均温度差ΔTを5℃以下とするためには、過冷却度SCを24.7℃以下とすることが望ましい。さらに、より一層、左右平均温度差ΔTを縮小して3℃以下とするためには、過冷却度SCを18.6℃以下とすることが望ましい。
【0092】
次に、本実施形態の冷媒放熱器12のように、第1熱交換領域と第2熱交換領域が、ヘッダタンク122の長手方向に並べて配置される構成では、双方の熱交換領域の面積を互いに独立に調整することができる。そして、双方の熱交換領域の面積比を調整することによって、双方の熱交換領域における熱交換量を容易に変化させることができる。
【0093】
さらに、双方の熱交換領域における熱交換量を適切に調整することによって、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気および第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気を合流させた合流空気の温度を変化させて、合流空気の温度と第1、第2熱交換領域の他端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を容易に抑制できる。
【0094】
そこで、本発明者は、チューブ121の総数をXとし、第1チューブ群121aを構成するチューブ121の本数のXに対する割合をYとし、チューブ121のうち冷媒と送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(図7参照、単位:mm)としたときに、総数X、割合Yおよび長手方向長さWを変化させた際の左右平均温度差ΔTの変化を調査した。
【0095】
具体的には、図8に示すように、チューブの長手方向長さWを85mm〜350mmの範囲で数段階に変化させるとともに、チューブ121の総数Xを10本〜50本の範囲で数段階に変化させ、左右平均温度差ΔTが3℃以下となる割合Yの範囲を求めている。そして、左右平均温度差ΔTが3℃以下となる割合Yを範囲内のWおよびXの関数で表し、以下数式F2の関係式を満たすようにXを決定している。
{(−0.0008W2+0.109W+19.952)X2+(0.036W2+1.7791W−1876.6)X−0.2536W2−32.173W+50886}/105≦Y≦(14.748X2−999.97X−0.216W2+263.48W+46893.5)/105 …(F2)
これにより、冷媒放熱器12から流出する液相冷媒の過冷却度SCが24.7℃以下(具体的には、18.6℃以下)となる冷媒放熱器12が容易に実現でき、左右平均温度差ΔTを3℃以下に縮小できる。
【0096】
なお、図8では、それぞれ(a)W=350、X=50、(b)W=85、X=50、(c)W=350、X=10、(d)W=85、X=10の代表的な4つの条件における割合Yを変化させた際の左右平均温度差ΔTの変化を示している。
【0097】
また、85≦W≦350の範囲および10≦X≦50の範囲は、一般的な車両用空調装置に搭載される冷媒放熱器で採用される範囲として決定されている。従って、数式F2の関係式を満たすようにYを決定することで、一般的な車両用空調装置に搭載される冷媒放熱器で左右平均温度差ΔTの縮小効果を得ることができる。
【0098】
次に、本実施形態の冷媒放熱器12のように、冷媒が、水平方向に延びる第1チューブ群121a(第1熱交換領域)→第2チューブ群121b(第2熱交換領域)の順に流れる構成では、第1チューブ群121aを構成するチューブ121と第2チューブ群121bを構成するチューブ121を仮想的な1本のチューブとみなし、これを水平方向に折り曲げた構成と考えることができる。
【0099】
そして、この仮想的な一本のチューブの長さによって送風空気との熱交換量が決定され、一本のチューブの入口側(すなわち、第1チューブ群121aを構成するチューブ121の一端側)を流通する冷媒の温度と一本のチューブの出口側(すなわち、第2チューブ群121bを構成するチューブ121の一端側)を流通する冷媒の温度と温度差が変化する。
【0100】
従って、この仮想的な一本のチューブの長さを決定付ける冷媒放熱器12全体としての体格、すなわち、冷媒放熱器12全体としての熱交換領域の大きさを調整することによって、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を容易に調整することができる。
【0101】
そこで、本発明者は、複数のチューブ121の積層方向最上位部から積層方向最下位部へ至る積層高さをH(図7参照、単位:mm)とし、図9に示すように、前述のチューブ121の長手方向長さWと積層高さHとを変化させた際の左右平均温度差ΔTの等温線を調査した。そして、この等温線の近似式である下数式F3の関係式を満たすように長手方向長さWおよび積層高さHを決定している。
−0.569H+129.41≦W≦−0.5487H+458.77…(F3)
これにより、左右平均温度差ΔTを容易に5℃以下とすることができる。
【0102】
また、同様に求められる下記数式F4の関係式を満たすように長手方向長さWおよび積層高さHを決定すれば、左右平均温度差ΔTを3℃以下とすることもできる。
−0.6059H+152.23≦W≦−0.5692H+382.69…(F4)
さらに、本発明者の検討によれば、数式F3、F4の関係式を満たすように長手方向長さWおよび積層高さHを決定することで、一般的な車両用空調装置に搭載される冷媒放熱器で採用されている69.4≦H≦357.4の範囲で、左右平均温度差ΔT縮小効果を得ることができることが判っている。
【0103】
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種空調制御機器11、15a、15b、17、32等の作動を制御する。
【0104】
また、空調制御装置の入力側には、車室内温度を検出する内気センサ、外気温を検出する外気センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、冷媒蒸発器20の吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度センサ、圧縮機11吐出冷媒温度を検出する吐出冷媒温度センサ、室外熱交換器16出口側冷媒温度を検出する出口冷媒温度センサ等の種々の空調制御用のセンサ群が接続されている。
【0105】
さらに、空調制御装置の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチとしては、車両用空調装置の作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ、運転モードの選択スイッチ等が設けられている。
【0106】
なお、空調制御装置は、圧縮機11の電動モータ11b、開閉弁15a、三方弁15b等を制御する制御手段が一体に構成され、これらの作動を制御するものであるが、本実施形態では、空調制御装置のうち、圧縮機11の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が冷媒吐出能力制御手段を構成し、冷媒流路切替手段を構成する各種機器15a、15bの作動を制御する構成が冷媒流路制御手段を構成している。
【0107】
次に、上記構成における本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明する。本実施形態の車両用空調装置1では、前述の如く、車室内を暖房する暖房運転および車室内を冷房する冷房運転を実行することができる。以下に各運転における作動を説明する。
【0108】
(a)暖房運転
暖房運転は、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって暖房運転モードが選択されると開始される。暖房運転時には、空調制御装置が、開閉弁15aを閉じるとともに、三方弁15bを室外熱交換器16の出口側とアキュムレータ18の入口側とを接続する冷媒流路に切り替える。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図1の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0109】
この冷媒流路の構成で、空調制御装置が上述の空調制御用のセンサ群の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込む。そして、検出信号および操作信号の値に基づいて車室内へ吹き出す空気の目標温度である目標吹出温度TAOを算出する。さらに、算出された目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置の出力側に接続された各種空調制御機器の作動状態を決定する。
【0110】
例えば、圧縮機11の冷媒吐出能力、すなわち圧縮機11の電動モータに出力される制御信号については、以下のように決定される。まず、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置に記憶された制御マップを参照して、冷媒蒸発器20の目標蒸発器吹出温度TEOを決定する。
【0111】
そして、この目標蒸発器吹出温度TEOと蒸発器温度センサによって検出された冷媒蒸発器20からの吹出空気温度との偏差に基づいて、フィードバック制御手法を用いて冷媒蒸発器20からの吹出空気温度が目標蒸発器吹出温度TEOに近づくように、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号が決定される。
【0112】
この際、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号は、圧縮機11を過度の温度上昇から保護するために、圧縮機11吐出冷媒の過熱度SHが基準過熱度KSH以下となるように決定される。
【0113】
また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、目標吹出温度TAO、冷媒蒸発器20からの吹出空気温度および吐出冷媒温度センサによって検出された圧縮機11吐出冷媒温度等を用いて、車室内へ吹き出される空気の温度が車室内温度設定スイッチによって設定された乗員の所望の温度となるように決定される。
【0114】
なお、暖房運転時には、図1に図示するように、送風機32から送風された車室内送風空気の全風量が、冷媒放熱器12を通過するようにエアミックスドア34の開度を制御してもよい。
【0115】
そして、上記の如く決定された制御信号等を各種空調制御機器へ出力する。その後、操作パネルによって車両用空調装置の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、上述の検出信号および操作信号の読み込み→目標吹出温度TAOの算出→各種空調制御機器の作動状態決定→制御電圧および制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。なお、このような制御ルーチンの繰り返しは、冷房運転時にも基本的に同様に行われる。
【0116】
また、暖房運転時のヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が冷媒放熱器12へ流入する。冷媒放熱器12へ流入した冷媒は、送風機32から送風されて冷媒蒸発器20を通過した車室内送風空気と熱交換して放熱する。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0117】
冷媒放熱器12から流出した高圧冷媒は、開閉弁15aが閉じているので、暖房用固定絞り13へ流入して減圧膨張される。そして、暖房用固定絞り13にて減圧膨張された低圧冷媒は、室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した低圧冷媒は、送風ファン17によって送風された外気から吸熱して蒸発する。
【0118】
室外熱交換器16から流出した冷媒は、三方弁15bが、室外熱交換器16の出口側とアキュムレータ18の入口側とを接続する冷媒流路に切り替えられているので、アキュムレータ18へ流入して気液分離される。そして、アキュムレータ18にて分離された気相冷媒が、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0119】
以上の如く、暖房運転時には、冷媒放熱器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱量によって車室内送風空気が加熱されて、空調対象空間である車室内の暖房を行うことができる。
【0120】
(b)冷房運転
冷房運転は、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって冷房運転モードが選択されると開始される。この冷房運転時には、空調制御装置が、開閉弁15aを開くとともに、三方弁15bを室外熱交換器16の出口側と冷房用固定絞り19の入口側とを接続する冷媒流路に切り替える。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図2の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0121】
冷房運転時のヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が冷媒放熱器12へ流入して、送風機32から送風されて冷媒蒸発器20を通過した車室内送風空気と熱交換して放熱する。冷媒放熱器12から流出した高圧冷媒は、開閉弁15aが開いているので、固定絞り迂回用通路14を介して室外熱交換器16へ流入する。
【0122】
室外熱交換器16へ流入した低圧冷媒は、送風ファン17によって送風された外気にさらに放熱する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、三方弁15bが、室外熱交換器16の出口側と冷房用固定絞り19の入口側とを接続する冷媒流路に切り替えられているので、冷房用固定絞り19にて減圧膨張される。
【0123】
冷房用固定絞り19から流出した冷媒は、冷媒蒸発器20へ流入して、送風機32によって送風された車室内送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、車室内送風空気が冷却される。冷媒蒸発器20から流出した冷媒は、アキュムレータ18へ流入して気液分離される。
【0124】
そして、アキュムレータ18にて分離された気相冷媒が、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。上記の如く、冷房運転時には、冷媒蒸発器20にて低圧冷媒が車室内送風空気から吸熱して蒸発することによって、車室内送風空気が冷却されて車室内の冷房を行うことができる。
【0125】
なお、冷房運転時に、乗員が車室内温度設定スイッチによって車室内温度よりも高い温度を設定すると、車室内送風空気の温度が車室内温度よりも高い温度となるようにエアミックスドア34の開度が調整される。このような場合であっても、冷媒蒸発器20では、車室内送風空気が冷却され、その絶対湿度を低下させるので、車室内の除湿暖房を実現することができる。
【0126】
以上、説明したように、本実施形態の車両用空調装置1では、ヒートポンプサイクル10の冷媒流路を切り替えることによって、暖房運転、冷房運転、除湿暖房運転を実行することができる。
【0127】
さらに、本実施形態では、上記の如く冷媒放熱器12の各諸元が設定されているので、冷媒放熱器12から流出する冷媒(具体的には、第2チューブ群121bから流出する冷媒)が液相冷媒となるヒートポンプサイクル10において、この液相冷媒の過冷却度SCを確実に24.7℃以下として、冷媒放熱器12から吹き出される送風空気の水平方向の温度分布を効果的に抑制することができる。
【0128】
また、本実施形態のように車両用空調装置1の加熱手段として用いられる冷媒放熱器12において、送風空気の水平方向の温度分布を抑制できることは、運転席側へ吹き出される送風空気と助手席側へ吹き出される送風空気との温度差の拡大を抑制できる点で極めて有効である。
【0129】
ところで、本実施形態の冷媒放熱器12では、水平方向の温度分布を効果的に抑制できるものの、冷媒放熱器12の一端側(図4では紙面右側)の鉛直方向の温度分布を抑制するためには、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気とを充分に混合させる必要がある。
【0130】
つまり、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気とを充分に混合させなければ、冷媒放熱器12の一端側から吹き出される送風空気には、第1熱交換領域側(下方側)から第2熱交換領域側(上方側)へ向かって温度低下する温度分布が生じる。
【0131】
これに対して、本実施形態の車両用空調装置1では、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気とを積極的に混合させるための構成を備えることなく、混合空間35にて混合された送風空気を吹き出すようにしている。
【0132】
従って、冷媒放熱器12の一端側(本実施形態では、運転席側)では、フット開口穴よりも上方に配置されたフェイス開口穴から第2熱交換領域の一端側から吹き出される比較的温度の低い送風空気を流出させ、フット開口穴から第1熱交換領域の一端側から吹き出される比較的温度の高い送風空気を流出させることができる。これにより、冷媒放熱器12の一端側では、頭寒足熱型の快適な空調を実現できる。
【0133】
(第2実施形態)
第1実施形態では、冷媒放熱器12から流出する冷媒(具体的には、第2チューブ群121bから流出する冷媒)が、過冷却度を有する液相冷媒となる例を説明したが、本実施形態では、冷媒放熱器12から流出する冷媒が気液二相冷媒となる例を説明する。
【0134】
つまり、本実施形態の冷媒放熱器12では、第1チューブ群121aを流通する冷媒が、チューブ121内にて車室内送風空気と熱交換しながら、過熱度を有する気相冷媒から気液二相冷媒となるまで冷却され、第2チューブ群121bを流通する冷媒が、チューブ121内にて車室内送風空気と熱交換してエンタルピを低下させるものの気液二相冷媒のまま流出していく。
【0135】
従って、本実施形態の第1チューブ群121aによって構成される熱交換領域(以下、第1熱交換領域と表現する。)から吹き出される送風空気には、一端側から他端側へ向かって温度低下する温度分布が生じ、第2チューブ群121bによって構成される熱交換領域(以下、第2熱交換領域と表現する。)から吹き出される送風空気には、温度分布が殆ど生じない。
【0136】
このような各熱交換領域における送風空気の温度分布についても、第1実施形態と同様に、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気および第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気を合流させた合流空気の温度と、第1、第2熱交換領域の他端側から吹き出される送風空気の温度との温度差を招く原因となる。つまり、冷媒放熱器12全体として送風空気の水平方向の温度分布を招く原因となる。
【0137】
そこで、本発明者は、図10に示すように、冷媒放熱器12から流出する気液二相冷媒の乾き度Xの変化に対する送風空気の左右平均温度差ΔTを確認した。なお、この左右平均温度差ΔTの確認条件は第1実施形態と同様である。
【0138】
図10から明らかなように、冷媒放熱器12から流出する気液二相冷媒の乾き度Xが小さくなるに伴って左右平均温度差ΔTが縮小する。この乾き度Xと左右平均温度差ΔTとの関係は、以下数式F5にて近似できる。
ΔT=5.4629×X−3.6523…(F5)
従って、左右平均温度差ΔTを5℃以下とするためには、過冷却度SCを0.25以下とすることが望ましい。
【0139】
さらに、本実施形態の冷媒放熱器12では、上述の数式F3、F4を満たすように、チューブ121の総数をX、第1チューブ群121aを構成するチューブ121の本数のXに対する割合Y、チューブ121の長手方向長さWおよび積層高さHを決定している。
【0140】
その他のヒートポンプサイクル10の各構成機器および車両用空調装置1の作動については第1実施形態と同様である。従って、本実施形態の車両用空調装置1においても、第1実施形態と同様に、ヒートポンプサイクル10の冷媒流路を切り替えることによって、暖房運転、冷房運転、除湿暖房運転を実行することができる。
【0141】
さらに、本実施形態では、上記の如く冷媒放熱器12の各諸元が設定されているので、冷媒放熱器12から流出する冷媒が気液二相冷媒となるヒートポンプサイクル10において、この気液二相冷媒の乾き度Xを確実に0.25以下として、冷媒放熱器12から吹き出される送風空気の水平方向の温度分布を効果的に抑制することができる。
【0142】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0143】
(1)上述の実施形態では、水平方向に延びるチューブ121を備える冷媒放熱器12について説明したが、チューブ121の長手方向は、これに限定されない。例えば、チューブ121が鉛直方向に延びる構成とすれば、冷媒放熱器12から吹き出される送風空気の鉛直方向の温度分布を効果的に抑制することができる。
【0144】
また、チューブ121は、一定方向に延びるものに限定されることなく、蛇行しながら一定方向に延びるものであってもよい。さらに、上述の実施形態では、チューブ121の積層方向(ヘッダタンクの長手方向)が鉛直方向である例を説明したが、もちろん、積層方向が鉛直方向に対して傾斜していてもよい。
【0145】
(2)上述の実施形態では、冷媒放熱器12へ流入する気相冷媒の過熱度SHが基準過熱度KSH以下となるように、圧縮機11の作動を制御することを説明したが、冷媒放熱器12へ流入する気相冷媒の過熱度SHの調整は、これに限定されない。例えば、暖房用固定絞り13を廃止して可変絞り機構を採用し、この可変絞り機構の開度調整を行うことによって、冷媒放熱器12へ流入する気相冷媒の過熱度SHを調整してもよい。
【0146】
また、冷媒放熱器12へ流入する気相冷媒の過熱度SHは、圧縮機11吐出冷媒の温度および圧力を検出して、この検出値が予め定めた目標過熱度に近づくように調整してもよい。さらに、圧縮機11の吸入冷媒圧力と吐出冷媒圧力の差圧に応じて、圧縮機11あるいは可変絞り機構の作動を制御して、過熱度SHを調整してもよい。
【0147】
(3)上述の第1実施形態では、冷媒放熱器12から流出する冷媒が過冷却度を有する液相冷媒となる例を説明し、第2実施形態では、冷媒放熱器12から流出する冷媒が気液二相冷媒となる例を説明したが、もちろん、上述の実施形態で説明した冷媒放熱器12は、負荷変動に伴って冷媒放熱器12から流出する冷媒が気液二相冷媒となる運転状態と液相冷媒となる運転状態の双方が生じるヒートポンプサイクル10に適用してもよい。
【0148】
(4)上述の実施形態の冷媒放熱器12では、冷媒と車室内送風空気とを熱交換させる構成のものを採用した例を説明したが、本発明の冷媒放熱器12の構成は、これに限定されない。例えば、冷媒、車室内送風空気、他の熱媒体等の複数種の流体の熱交換を可能に構成されたものであってもよい。
【0149】
具体的には、冷媒を流通させる冷媒用チューブと熱媒体を流通させる熱媒体用チューブとを順次積層配置し、隣り合う冷媒用チューブと熱媒体用チューブとの間に送風空気を流通させる空気通路を形成し、さらに、この空気通路に冷媒用チューブおよび熱媒体用チューブの双方に接合されて、冷媒と送風空気および熱媒体と送風空気との熱交換を促進するとともに、冷媒と熱媒体との熱移動を可能とするフィンを配置した構成を採用できる。
【0150】
(5)上述の実施形態では、第1チューブ群121aが、第2チューブ群121bよりも下方に配置された例を説明したが、もちろん、送風空気の上下方向の温度分布として、第1熱交換領域側(下方側)から第2熱交換領域側(上方側)へ向かって温度上昇する分布が要求されるヒートポンプサイクルでは、第1チューブ群121aが、第2チューブ群121bよりも上方に配置されていてもよい。
【0151】
また、送風空気の上下方向の温度分布が要求されないヒートポンプサイクルでは、第1熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気と第2熱交換領域の一端側から吹き出される送風空気とを積極的に混合させるための構成を備えていてもよい。
【0152】
(6)上述の実施形態では、本発明の冷媒放熱器12を備えるヒートポンプサイクル10を車両用空調装置に適用した例を説明したが、本発明の冷媒放熱器12を備えるヒートポンプサイクル10の適用はこれに限定されない。例えば、据置型空調装置、冷温保存庫、自動販売機用冷却加熱装置等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0153】
10 ヒートポンプサイクル
11 圧縮機
12 冷媒放熱器
121 チューブ
121a 第1チューブ群
121b 第2チューブ群
122、123 ヘッダタンク
122a 流入空間(第1空間)
122b 流出空間(第2空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)に適用されて、
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)から吐出された冷媒と空調対象空間へ送風される送風空気とを熱交換させて、過熱度を有する気相冷媒のエンタルピを、少なくとも気液二相冷媒となるまで低下させる冷媒放熱器であって、
冷媒が流通する複数のチューブ(121)と、
前記複数のチューブ(121)の積層方向に延びて前記複数のチューブ(121)を流通する冷媒の集合あるいは分配を行う一対のヘッダタンク(122、123)とを備え、
前記複数のチューブ(121)には、一端側から前記過熱度を有する気相冷媒を流入させて他端側から流出させる第1チューブ群(121a)、および、前記第1チューブ群(121a)から流出した冷媒を前記他端側から流入させて少なくとも気液二相冷媒となるまでエンタルピが低下した冷媒を前記一端側から流出させる第2チューブ群(121b)が設けられており、
前記一端側に配置されるヘッダタンク(122)の内部空間は、少なくとも前記第1チューブ群(121a)に連通する第1空間(122a)および前記第2チューブ群(121b)に連通する第2空間(122b)に区画されていることを特徴とする冷媒放熱器。
【請求項2】
前記過熱度を有する気相冷媒の過熱度(SH)は、予め定めた基準過熱度(KSH)以下になっており、
前記第2チューブ群(121b)から流出する冷媒は、過冷却度を有する液相冷媒であり、
前記第2チューブ群(121b)から流出する冷媒の過冷却度(SC)は、24.7℃以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の冷媒放熱器。
【請求項3】
前記過熱度を有する気相冷媒の過熱度(SH)は、予め定めた基準過熱度(KSH)以下になっており、
前記第2チューブ群(121b)から流出する冷媒は、気液二相冷媒であり、
前記第2チューブ群(121b)から流出する冷媒の乾き度(X)は、0.25以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の冷媒放熱器。
【請求項4】
前記複数のチューブ(121)の本数をXとし、
前記第1チューブ群(121a)の本数のXに対する割合をYとし、
前記複数のチューブ(121)のうち前記冷媒と前記送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(単位:mm)としたときに、
{(−0.0008W2+0.109W+19.952)X2+(0.036W2+1.7791W−1876.6)X−0.2536W2−32.173W+50886}/105≦Y≦(14.748X2−999.97X−0.216W2+263.48W+46893.5)/105
となっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の冷媒放熱器。
【請求項5】
さらに、
85≦W≦350
10≦X≦50
となっていることを特徴とする請求項4に記載の冷媒放熱器。
【請求項6】
前記複数のチューブ(121)のうち前記冷媒と前記送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(単位:mm)とし、前記複数のチューブ(121)の積層方向最上位部から積層方向最下位部へ至る積層高さH(単位:mm)としたときに、
−0.569H+129.41≦W≦−0.5487H+458.77
となっていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の冷媒放熱器。
【請求項7】
前記複数のチューブ(121)のうち前記冷媒と前記送風空気と熱交換に寄与する部位の長手方向長さをW(単位:mm)とし、前記複数のチューブ(121)の積層方向最上位部から積層方向最下位部へ至る積層高さH(単位:mm)としたときに、
−0.6059H+152.23≦W≦−0.5692H+382.69
となっていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の冷媒放熱器。
【請求項8】
前記複数のチューブ(121)は、水平方向に延びており、
前記第1チューブ群(121a)は、前記第2チューブ群(121b)よりも下方に配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の冷媒放熱器
【請求項9】
前記複数のチューブ(121)は、水平方向に延びており、
前記第1チューブ群(121a)は、前記第2チューブ群(121b)よりも上方に配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の冷媒放熱器
【請求項10】
前記冷凍サイクル(10)は、車両用空調装置に適用されており、
前記空調対象空間は、車室内であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の冷媒放熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172850(P2012−172850A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31692(P2011−31692)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】