説明

凸版印刷用凸版およびそれを用いた有機ELディスプレイ用素子の製造方法

【課題】印刷不良を防ぎ、版表面に付着する異物を限りなく減らし、高精細パターンを高精度で印刷できる印刷用凸版を提供する。
【解決手段】本発明の印刷用凸版は、基材11と、この基材11の一方の面に形成された接着層12と、この接着層12の上に形成され、当該接着層12を保護する耐溶剤層13と、この耐溶剤層13の上に形成され、所定パターンの凸部を有する感光性樹脂層14と、この感光性樹脂層14の上に設けられ、当該感光性樹脂層14を保護する保護層15とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細パターンを高精度で印刷できる凸版印刷用凸版およびそれを用いて有機ELディスプレイ用素子を製造する有機ELディスプレイ用素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細加工技術を用いた電子デバイスの開発が急速な進化を遂げている。このような電子デバイスは、次世代のエレクトロニクス分野、バイオテクノロジ分野、オプトロニクス分野などの発展へ貢献することが期待される。
【0003】
有機EL素子は、2つの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層を形成し、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率良く発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0004】
有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
【0005】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたり、RGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分けパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0006】
さらに、各種印刷法の中でも、有機EL素子やディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴム版を用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。
実際に、これらの印刷法の試みとして、オフセット印刷による方法(たとえば、特許文献1参照)、凸版印刷による方法(たとえば、特許文献2参照)などが提唱されている。
【0007】
有機EL素子における有機発光層のパターンは、テレビ用途の大型ディスプレイの場合、たとえば、対角40インチのワイドディスプレイでは、ライン幅が100μm、画素ピッチが500μmとなる。
【0008】
また、携帯電話などの小型ディスプレイの場合、たとえば、対角2インチで主流のQVGA(320×240画素)では、画素ピッチは120μm、各色要素のサブピクセルの幅は40μmとなる。このような高精細なディスプレイの素子を凸版印刷法により形成しようとした場合、5μm以下という非常に高い印刷パターンの精度が要求される。
【0009】
しかし、たとえば、上記QVGAの画素サイズのディスプレイを製作するためには、サブピクセル当たり約40μmピッチのラインとスペースが必要となる。そのため、製版直後の版表面の印刷パターンに異物が付着すると、パターンの欠陥が生じ、隣り合う有機発光層が混ざり、混色などの印刷不良や転写不良を発生させてしまう。さらに、一般的な製版方法では現像後に乾燥と後露光工程を行うので、異物が付着する可能性が高くなる。
【0010】
このような高精度が要求される精細パターンの印刷用凸版では、従来の印刷用凸版の製版方法では問題にならなかった異物サイズでも問題になるケースが出てきた。
【0011】
このような版の印刷パターン精度、転写不良等といった印刷不良の問題は、精細なパターン形成を必要とするエレクトロニクス部材、たとえば、カラーフィルタ、回路基材、薄膜トランジスタ、マイクロレンズ、バイオチップ等においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−093668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
有機ELディスプレイを始めとしたエレクトロニクス部材のように、凸版印刷方式を用いて高品質で高精細パターンを形成するために用いる凸版では、版表面のパターン上のどんなに小さな異物でも印刷不良や転写不良を引き起こす可能性がある。
【0014】
そこで、本発明は、印刷不良を防ぎ、版表面に付着する異物を限りなく減らし、高精細パターンを高精度で印刷できる印刷用凸版およびそれを用いた有機ELディスプレイ用素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る印刷用凸版は、印刷用凸版であって、基材と、この基材の一方の面に形成された接着層と、この接着層の上に形成され、当該接着層を保護する耐溶剤層と、この耐溶剤層の上に形成され、所定パターンの凸部を有する樹脂層と、この樹脂層の上に設けられ、当該樹脂層を保護する保護層とを具備している。
【0016】
また、本発明の請求項2に係る印刷用凸版は、請求項1において、前記保護層は、紫外線を透過するフィルムから構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項3に係る印刷用凸版は、請求項2において、前記フィルムは、粘着力が0.10N/cm以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項4に係る印刷用凸版は、請求項1において、前記樹脂層は、層厚が10μm以上50μm以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項5に係る印刷用凸版は、請求項1または請求項4において、前記樹脂層において、形成する凸部の幅は当該樹脂層の厚さ以上であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項6に係る印刷用凸版は、請求項1,4,5のいずれかにおいて、前記樹脂層は、水現像タイプの感光性樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項7係る有機ELディスプレイ用素子の製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載された印刷用凸版を用いて、凸版印刷法により有機EL素子の発光層をパターン形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、印刷不良を防ぎ、版表面に付着する異物を限りなく減らし、高精細パターンを高精度で印刷できる印刷用凸版およびそれを用いた有機ELディスプレイ用素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る印刷用凸版の構成を模式的に示す縦断側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る印刷物製造装置の構成を概略的に示す摸式図。
【図3】本発明の実施の形態に係る有機EL素子一発光単位の構成を模式的に示す縦断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、本発明にかかる印刷物は、ディスプレイの表示画面を構成するエレクトロニクス部材として好適に利用できる。エレクトロニクス部材としては、たとえば、有機EL素子、薄膜トランジスタを例示することができる。また、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版の構成を模式的に示すものである。図1に示すように、本実施の形態に係る印刷用凸版は、基材11の一方の面に接着層12、耐溶剤層13、所定パターンの凸部を有する感光性樹脂層14、保護層15がその順番に積層形成されている。
【0026】
基材11としては、金属や樹脂フィルムを用いることができる。金属を用いることにより、基材11全体が塗工液中の溶剤に対し膨潤することがないため、寸法安定性の良い版として好適に用いることができる。使用される金属としては、Fe、Ni、Cu、Znなどをあげることができる。また、ステンレスといったこれら金属の合金であってもよい。樹脂フィルムを用いる場合は、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムを挙げることができる。
【0027】
接着層12は、感光性樹脂層14と基材11との接着性を高めることを目的とした層であるため、耐水性で金属との接着性が良い樹脂材であれば特に限定されないが、これらの条件を満たす樹脂としてエポキシ系、ポリエステルウレタン系の熱硬化性樹脂が好ましい。
【0028】
耐溶剤層13は、接着層12を保護することを目的とした層であるため、耐溶剤性と接着性の両方を持ち合わせた樹脂材であれば特に限定されないが、これらの条件を満たす樹脂として、接着層12の樹脂材に感光性樹脂層14の主成分と同一のものを添加樹脂が好ましい。耐溶剤性を持ちつつ感光性樹脂層14との界面の相溶性が向上して接着性を高めることができる。
【0029】
感光性樹脂層14は、使用するインキに対する耐溶剤性があればよく、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などや、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂から1種類以上を選択することができるが、加工の容易さといった点から、感光性樹脂を用いることが望ましい。
【0030】
塗工液として有機溶剤を用いている場合には、水現像タイプの感光性樹脂が有機溶剤への耐性も高く好適である。水現像タイプの感光性樹脂としては公知のもので構わないが、たとえば、親水性のポリマと不飽和結合を含むモノマと光重合開始材を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは親水性ポリマとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体を用いることができる。
【0031】
また、不飽和結合を含むモノマとしては、たとえば、ビニル結合を有するメタクリレート類を用いることができ、光重合開始剤としては、たとえば、芳香族カルボニル化合物を用いることができる。中でも、印刷適性の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が適している。
【0032】
また、感光性樹脂層14の厚みは10μm以上50μm以下であることが好ましい。厚みが10μm未満の場合、被印刷基材がガラスや金属といった硬度の高い素材のときに、被印刷基材や被印刷基材上にあるパターンが傷つくことがある。また、厚みが50μmを超える場合、基材11と感光性樹脂層14の界面近傍または感光性樹脂層14において力学的な変形や破壊が発生し、また、溶剤による感光性樹脂層14の膨潤の度合いが大きくなってしまう。
【0033】
保護層15は、紫外領域の波長の透過率が高い素材であれば特に限定されないが、これらに条件を満たす素材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリプロピレン、二トロセルロース、フッ素ポリマなどの透明フィルムが挙げることができる。
【0034】
この保護層15は、現像工程後から印刷で版を使用開始するまでの間で異物からの保護を目的としているため、印刷で版を使用する際は当該保護層15を剥がして使用する。したがって、剥がした際にパターンの剥がれやパターン上に粘着剤の異物を発生させないためにも、保護層15に使用する素材は粘着剤を使用していないことが望ましい。粘着剤を使用したフィルムの場合は0.10N/cm以下を使用する。
【0035】
なお、感光性樹脂層14の凸部と凸部の間の凹部の深さであるレリーフ深度は、10μm以上50μm以下であることが好ましい。レリーフ深度が10μm未満の場合、パターンの形状によっては広幅化してしまう。また、レリーフ深度が50μmを超える場合、支持体、特に支持体の凸部において変形や破壊が発生する。
【0036】
本発明の実施の形態に係る印刷用凸版の作成方法としては、フォトマスクを用いて樹脂版材の感光性樹脂層をパターン露光し樹脂を硬化させ、未硬化部分の樹脂を洗い流し現像する。現像後に乾燥、後露光を行い、所定パターンのレリーフを形成するフォトリソグラフィ法や、レーザーアブレーションや切削加工で形成するといった、公知の方法を用いることができるが、その方法の容易さから、感光性樹脂によるフォトリソグラフィ法を用いることが望ましい。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版の作成方法では、現像工程後にフィルムの貼り付けを行い、後露光工程を行う。フィルムの貼り付けには枚葉式の貼り付け装置の使用など、公知の方法を用いることができる。
【0038】
また、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版は、シームレス版とすることも可能である。シームレス版は、凸部が表面円周上に連続形成された印刷用シリンダ版のことであり、繋ぎ目を持たない。このことより、版の連続回転が可能になり、連続印刷を行うことができる。したがって、印刷用シリンダ版の径を大きくすることなく、大面積の繰り返しパターンを有する印刷物を得ることができる。表示ディスプレイでは大画面化が進んでいるが、シームレス版を用いることにより装置を大型化することなく、大面積の有機EL素子などを得ることが可能となる。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版は、刷版だけではなく、スリーブ構造の版に使用することも可能である。スリーブ構造とは、円筒状の構造を指す。円筒状の構造とすることで、円筒の内径と同じ外径を持つシリンダに差し込むことにより、印刷用凸版を固定することができる。
【0040】
本発明の実施の形態に係る印刷用凸版は、版の形成プロセスと印刷のプロセスとを異なる装置を用いて行わなくてはならないが、スリーブ構造とすることで、容易に着脱可能となるうえ、装着精度の向上にもなる。
【0041】
次に、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版を用いた印刷物の製造方法について説明する。
【0042】
図2は、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版を用いた印刷物製造装置の構成を概略的に示すものである。たとえば、図2のように、インキ補充装置21から凸版へのインキング装置であるアニロックスロール22へ塗工液23の補充を行い、アニロックスロール22に補充された塗工液23のうち余剰なものはドクタ装置24により除去する。
【0043】
なお、インキ補充装置21には、滴下型の補充装置の他に、ファウンテンロールやスリットコータ、ダイコータ、キャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクタ装置24には、ドクターロールの他にドクターブレードを用いることもできる。
【0044】
ドクタ装置24により余剰な塗工液が除去された後、本件における印刷用凸版26へのインキングを行う。円筒状のシリンダ25の側面部分に取付けられた状態の印刷用凸版26へインキングされた塗工液23は、被印刷基材27へ印刷される。なお、被印刷基材27の材質は問わないが、たとえば、紙、プラスチックフィルム、ガラス、金属等を挙げることができる。被印刷基材27へ印刷された塗工液23は必要に応じて乾燥することにより印刷物を形成する。
【0045】
次に、本発明の実施の形態に係る印刷用凸版を用いた有機EL素子の製造工程について説明する。
【0046】
図3は、有機EL素子一発光単位の構成を模式的に示すものである。この有機EL素子の一発光単位は、基材31の一方の面に第1電極32、ホール注入層33、有機発光層34、第2電極35がその順番に積層形成されている。なお、図3に示したホール注入層33やホール輸送層、電子注入層、電子輸送層等は適宜選択し、設けることができる。
【0047】
この有機EL素子の一単位において、基材31としては、ガラス基材やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻取りにより有機発光素子の製造が可能となり、安価に素子を提供できる。そのプラスチックとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマ、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、第1電極32を成膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層してもよい。
【0048】
第1電極32、第2電極35は、陽極、陰極としての機能をもち、光の取出し方向等により適宜選択される。陽極材料としてインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)が挙げられる。また、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものや、ポリアニリン等の有機化合物などが挙げられる。陰極材料としてリチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体や酸化物、これらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。
【0049】
第1電極32、第2電極35は、通常、乾式成膜法、たとえば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法等により形成される。
【0050】
ホール注入層33をなす材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の導電性高分子材料を用いてもよい。
【0051】
ホール注入層33は、水、アルコール類といった溶媒に溶解または分散され、スピンコート法、ダイコート法、スプレ法といった塗工法、凸版印刷法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法といった印刷法により形成される。本発明の印刷用凸版を用い、凸版を形成することも可能である。
【0052】
有機発光層34は、有機発光体を含有する層であり、電圧の印加により発光する層である。有機発光材料としては、たとえば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィリン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の有機溶剤に可溶な有機発光材料や該有機発光材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系などの高分子有機発光材料が挙げられる。
【0053】
前述した図2の印刷物製造装置を用いて製造するには、被印刷基材27として基材31上に第1電極32、ホール注入層33を積層した被転写基材を用い、塗工液として有機発光材料を含む塗工液23を用いる。
【0054】
有機発光材料を含む塗工液は上述のように凸版の凸部へ供給され、上述の被転写基材へ印刷される。発光材料を溶解または分散させるような、塗工液に用いられる溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、水などの単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。特に、芳香族系溶剤およびハロゲン系溶剤は有機発光材料を溶かすのに優れている。また、有機発光材料を含む塗工液には、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、乾燥剤などが添加されてもよい。有機発光層を形成後、第2電極を上述の方法で形成する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0056】
[実施例1]
<発光層形成用塗工液の調製>
ポリ(パラフェニレンビニレン)誘導体からなる発光材料をキシレンに塗工液濃度が1.0重量%となるように溶解させ、発光層形成用塗工液を調製した。
【0057】
<被印刷基板の作製>
150mm角、厚さ0.4mmのガラス基材上に表面抵抗率が15ΩのITOを成膜した基材(ジオマテック(株)製)に、スピンコータを用いて正孔輸送層としてポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を100nm膜厚で成膜した。さらに、この成膜されたPEDOT/PSS薄膜を減圧下100℃で1時間乾燥することで、被印刷基材を作製した。
【0058】
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.03mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む熱硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。この版材にネガパターンが形成されているフォトマスクを介して露光し、水現像を行い、フィルムを貼り付け、後露光することで所望のパターンを有する印刷用凸版を2版作製した。また、フィルムは粘着力の無いポリエチレン製を使用し、線幅が30μm、スペースが120μmの150μmピッチで独立パターンとした。
【0059】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1で作成した版に溶剤をかけ流し、液を採取して、リオン社製BF−40の液中パーティクルカウンタを用いて液中パーティクル測定を実施した。
【0060】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
有機ELディスプレイ用素子パネルの作製は、凸版印刷法により行った。凸版印刷機のシリンダに市販されているtesa社製のクッションテープを巻きつけてから、実施例1で作製した印刷用凸版を固定した。実施例1で調製した発光層形成用塗工液を用いて被印刷基材に対し印刷を行った。この基板を真空乾燥して残留溶媒を除去した後、真空蒸着法によりCaを10nm成膜し、さらに、その上にAgを300nm成膜した。Ca、Agからなる陰極は、マスクを用いてITOパターンと直交するように形成した。最後にガラスキャップを用い封止を行い、本発明の有機EL素子を作製した。
【0061】
[実施例2]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。実施例1と同様の方法で印刷用凸版を作製した。また、実施例1と同様のフィルムを使用し、線幅70μm、スペースが80μmの150μmピッチの独立パターンとした。
【0062】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この実施例2で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0063】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0064】
[実施例3]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。実施例1と同様の方法で印刷用凸版を作製した。また、フィルムは粘着力が0.10N/cmのポリエチレン製を使用し、線幅が30μm、スペースが120μmの150μmピッチの独立パターンとした。
【0065】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この実施例3で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、実施例3の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0066】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0067】
[比較例1]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。この版材にネガパターンが形成されているフォトマスクを介して露光し、水現像することで所望のパターンを有する印刷用凸版を作製した。また、線幅が30μm、スペースが120μmの150μmピッチの独立パターンとした。
【0068】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0069】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この比較例1で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、比較例1の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0070】
[比較例2]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。実施例1と同様の方法で印刷用凸版を作製した。また、フィルムは粘着力が0.25N/cmのポリエチレン製を使用し、線幅が30μm、スペースが120μmの150μmピッチで独立パターンとした。
【0071】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0072】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この比較例2で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、比較例2の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0073】
[比較例3]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.03mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。実施例1と同様の方法で印刷用凸版を作製した。また、比較例2と同様のフィルムを使用し、線幅が70μm、スペースが80μmの150μmピッチで独立パターンとした。
【0074】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0075】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この比較例3で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、比較例3の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0076】
[比較例4]
<印刷用凸版の作製>
基材として0.3mm厚のスチール材を用い、ポリアミド系樹脂を主成分とする0.07mm厚の感光性樹脂層と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される0.01mm厚のエポキシ樹脂の接着層と、0.03mm厚のエポキシ樹脂に10%のポリアミド系樹脂成分を含む硬化性樹脂層から構成される凸版印刷用の版材を用意した。比較例1と同様の方法で印刷用凸版を作製した。また、フィルムはパターンの細線化によるよれや倒れを考慮し、粘着力が0.10N/cmのポリエチレン製を使用し、線幅が20μm、スペースが130μmの150μmピッチの独立パターンとした。
【0077】
<印刷用凸版の液中パーティクル測定>
実施例1と同様の方法で液中パーティクル測定を実施した。
【0078】
<有機ELディスプレイ用素子パネルの作製>
この比較例4で作製した印刷用凸版を用いて、実施例1と同様にして、比較例4の有機ELディスプレイ用素子パネルを作製した。
【0079】
<印刷用凸版の評価>
以下の表1に、実施例1〜3と比較例1〜4の印刷用凸版について、フィルム剥離後の外観検査結果、印刷テスト(印刷欠け、発光ムラ)結果を示す。
【表1】

【0080】
以下の表2に、実施例1〜3と比較例1〜4の印刷用凸版について、液中パーティクル測定結果を示す。
【表2】

【0081】
上記表1から明らかなように、粘着性の無いフィルムを貼り付けた版はフィルム剥離後の外観検査結果、印刷テスト結果において良好な結果が得られた。逆に、粘着力が0.25N/cmのフィルムを貼り付けた版は、粘着剤の影響と見られる外観不良やパターニング不良や発光ムラが見られた。しかし、粘着性のあるフィルムを貼り付けた場合でも、粘着力が0.10N/cmでは粘着性の無いフィルムを貼り付けた場合と同様、良好な結果が得られた。樹脂厚が線幅より大きくなると、フィルムを剥離するだけで、パターンが倒れることで印刷評価まで至らなかった。
【0082】
また、上記表2から明らかなように、フィルム剥離の印刷テスト結果が良好であった実施例1と実施例2、実施例3は液中パーティクルが少なく良好な結果が得られた。粘着性が0.25N/cmのフィルムを貼り付けた版の比較例2と比較例3は、実施例1と実施例2、実施例3の液中パーティクル数よりも多く見られた。印刷評価まで至らなかった比較例4はフィルムを貼り付けた版の中では一番多い数のパーティクルが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の印刷用凸版は、高精細で印刷欠けや発光ムラをなくした均一性の高い印刷が可能となるため、有機EL素子や電子ペーパ、薄膜トランジスタなどのエレクトロニクス部材で高精細かつ均一性が要求されるものに有用である。
【符号の説明】
【0084】
11…基材、12…接着層、13…耐溶剤層、14…感光性樹脂層、15…保護層、21…インキ補充装置、22…アニロックスロール、23…塗工液、24ドクタ装置、25…シリンダ、26…印刷用凸版、27…被印刷基材、31…基材、32…第1電極、33…ホール注入層、34…有機発光層、35…第2電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用凸版であって、
基材と、
この基材の一方の面に形成された接着層と、
この接着層の上に形成され、当該接着層を保護する耐溶剤層と、
この耐溶剤層の上に形成され、所定パターンの凸部を有する樹脂層と、
この樹脂層の上に設けられ、当該樹脂層を保護する保護層と、
を具備したことを特徴とする印刷用凸版。
【請求項2】
前記保護層は、紫外線を透過するフィルムから構成されていることを特徴とする請求項1記載の印刷用凸版。
【請求項3】
前記フィルムは、粘着力が0.10N/cm以下であることを特徴とする請求2記載の印刷用凸版。
【請求項4】
前記樹脂層は、層厚が10μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の印刷用凸版。
【請求項5】
前記樹脂層において、形成する凸部の幅は当該樹脂層の厚さ以上であることを特徴とする請求項1または請求項4記載の印刷用凸版。
【請求項6】
前記樹脂層は、水現像タイプの感光性樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1,4,5のいずれかに記載の印刷用凸版。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された印刷用凸版を用いて、凸版印刷法により有機EL素子の発光層をパターン形成することを特徴とする有機ELディスプレイ用素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−197448(P2011−197448A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64752(P2010−64752)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】