説明

凹球面研削加工装置と方法

【課題】例えば半球面に近い深い凹球面を、高平滑かつ高精度な凹球面に高能率に加工することができる凹球面研削加工装置と方法を提供する。
【解決手段】表面が導電性砥石13からなり所定の直径と真円度を有する球形工具12と、球形工具の中心より下方部分を遊動可能に保持する工具保持具14と、球形工具の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴を有するワークを保持するワーク保持具18と、ワーク保持具又は工具保持具を移動し球形工具とワークの相対位置を調整する相対位置調整装置20と、球形工具の表面を電解ドレッシングするELID装置22と、球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動するランダム駆動装置30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面を囲む凹球面を高平滑かつ高精度に可能するための凹球面研削加工装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工関節の耐摩耗性は、人工関節の寿命に最も影響する重要な因子である。しかし現状では、摩耗により人工関節の寿命が患者の余寿命より短く、患者に再手術を施行せざるを得ないため、その耐摩耗性を改善することが急務となっている。
【0003】
図1は人工関節の構造を示す模式図である。球状の骨頭51がステム52に固定され、骨頭51の凸球面を持つ部分がソケット53の凹球面と接触し、関節の摺動面を構成する。しかし長期にわたる相対摺動により、摺動面の間に弛みが生じ、この弛みが人工関節の寿命を支配することになる。
【0004】
人工関節の寿命を延長させるには、ソケット53と骨頭51の材料の最適化と表面粗さ及び形状精度の向上が不可欠である。しかし従来の人工関節の材料は、ポリエチレン製のソケットと金属製の骨頭の組み合わせが主流であり、寿命が短い問題点があった。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは、骨頭51の球面の加工手段として、先に特許文献1を創案し出願している。また、ソケット53の凹球面の加工手段として、例えば特許文献2,3が既に開示されている。
【0006】
特許文献1は、金属に比較して硬脆材料であるセラミックスを、金属以上に高平滑かつ高精度な球面に加工することを目的とする。
そのため、この加工方法では、図2に示すように、研削加工ステップ(A)と電解ドレッシングステップ(B)を交互に実施する。研削加工ステップ(A)では、球面61aを有するワーク61を球面の中心Oを通る水平軸yを中心に揺動させながら中心Oを通り水平軸yに直交する回転軸zを中心に回転駆動し、同時に、ワークの球面61aに嵌合する凹球面64aを有する導電性砥石64をワークの球面61aに沿って揺動可能に支持し、ワークに向けて定荷重を負荷し、かつ凹球面64aの中心を通る鉛直軸を中心に回転駆動してワークを研削する。電解ドレッシングステップ(B)では、導電性砥石64をその凹球面64aの中心を通る鉛直軸を中心に回転駆動しながら、その凹球面64aとの間に一定の隙間を設けて陰極67を位置決めし、凹球面64aを電解ドレッシングするものである。
【0007】
特許文献2は、砥石磨耗による工具位置調整を必要としない球面加工装置を目的とする。
そのため、この装置は、図3に示すように、球面を有するレンズ等ワークWを研削・研磨する総型の砥石71は、垂直に保持されて回転する上軸である工具軸72の下端に取り付けられ、エアシリンダ73によってワークWに押圧される。ワークWは、スペーサ74を介して下軸であるワーク軸75に保持され、傾斜したワーク軸75の揺動と回転する砥石71による連れ回りによって、ワークWと砥石71の摺り合わせが行われるものである。
【0008】
特許文献3は、被研削加工物の被加工面が凹面凸面のいずれに係わらず任意形状をした軸対称の非球面形状の研削加工に際し、加工効率を向上させて加工時間を短縮することを目的とする。
そのため、この超精密加工装置は、図4に示すように、回転させている被研削加工物88の被加工面に対し、工具砥石87を回転させながら相対的に移動させて軸対称非球面の研削を行う。ここで、工具砥石87には、先端の断面形状が円弧形状を呈している円筒形状のものを用いるようにし、被研削加工物88の回転軸と工具砥石87の回転軸である該円筒形状における中心の軸とからなる角度を、被研削加工物88の加工点における直径方向の曲率半径に基づいて制御しながら、被研削加工物88と工具砥石87とを相対的に移動させて研削を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−263995号、「球面の研削加工方法及び装置」
【特許文献2】特開2005−14168号、「球面加工装置」
【特許文献3】特開2008−68337号、「研削加工方法及び研削加工装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1では、セラミックスを対象とし、表面粗さ4nmRa、真円度0.5μmの球面加工を実現している。またこの手段を金属材料に適用することで、同様に高平滑かつ高精度な球面加工が可能である。しかし、この手段ではソケットの凹球面の加工はできない問題点がある。
【0011】
特許文献2は、総型の砥石71を使用するため、砥石71の研削面と嵌合する凹球面の加工ができる特徴がある。しかし、被加工物(ワーク)の凹球面が深い場合(例えば半球面に近い場合)、砥石71の回転中心近傍と外周近傍とで研削速度が大きく異なるため、表面粗さと真円度にばらつきが生じ、凹球面の全内面を高平滑かつ高精度に加工することはできなかった。
また、この装置では、砥石71の研削面を研削加工中に電解ドレッシングすることは困難であり、砥石71の目詰まりが発生しやすく、加工効率(能率)が低い問題点があった。
【0012】
特許文献3は、軸対称の凹球面及び凹非球面の任意形状を加工できる特徴がある。しかし、被加工物(ワーク)の凹球面が深い場合(例えば半球面に近い場合)、工具を小型化したり、シャンクを伸ばしたりすることが不可欠であり、加工時の剛性を低下させたり、びびり振動が発生するなどの問題点があった。
また、この装置では、工具砥石87の研削面を研削加工中に電解ドレッシングすることは困難であり、工具砥石87の目詰まりが発生しやすく、加工効率(能率)が低い問題点があった。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、例えば半球面に近い深い凹球面を、高平滑かつ高精度な凹球面に高能率に加工することができる凹球面研削加工装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、表面が導電性砥石からなり所定の直径と真円度を有する球形工具と、
該球形工具の中心より下方部分を遊動可能に保持する工具保持具と、
前記球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動するランダム駆動装置と、
前記球形工具の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴を有するワークを保持するワーク保持具と、
ワーク保持具又は工具保持具を移動し球形工具とワークの相対位置を調整する相対位置調整装置と、
前記球形工具の表面を電解ドレッシングするELID装置と、を備えることを特徴とする凹球面研削加工装置が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記球形工具は、その表面に分散して配置された凹部を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記凹部に対し異なる向きに配置された2以上の液噴射ノズルと、該2以上の液噴射ノズルを介して所定の液をランダムに噴射するランダム噴射装置とを有する。
【0016】
また本発明の別の実施形態によれば、前記球形工具は、中心からオフセットした位置に強磁性体を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記強磁性体に対し異なる向きに磁場を付加する2以上の磁場発生コイルと、該2以上の磁場発生コイルに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する。
【0017】
また本発明の別の実施形態によれば、前記球形工具は、内部にN−S極を有する永久磁石を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記永久磁石に対し異なる向きに回転力を付加する2以上の磁界発生コイルと、該2以上の磁界発生コイルに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する。
【0018】
また本発明の別の実施形態によれば、前記ランダム駆動装置は、前記球形工具の表面に接しこれを異なる向きに回転駆動する2以上の回転駆動ローラと、該2以上の回転駆動ローラに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する。
【0019】
また本発明の別の実施形態によれば、前記ランダム駆動装置は、前記球形工具を工具保持具に磁力で吸着させる磁石と、前記工具保持具を鉛直軸を中心に回転駆動する回転駆動装置と、該回転駆動装置に供給する電力をランダムに変化させるランダム電源装置とを有する。
【0020】
また、前記工具保持具は、前記球形工具の中心より下方部分を近接して囲む下凹穴を有し、
該下凹穴の表面に導電性液を供給する導電性液供給装置を備える。
【0021】
前記ELID装置は、球形工具の一部に一定の隙間を隔てて対向するELID陰極と、球形工具の別部分に接触する陽極ブラシと、前記陽極ブラシを介して球形工具をプラスに印加し、かつ前記ELID陰極をマイナスに印加するELID電源装置とを有する。
【0022】
また本発明によれば、表面が導電性砥石からなり所定の直径と真円度を有する球形工具の中心より下方部分を遊動可能に保持し、
前記球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動し、
前記球形工具の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴を有するワークを保持し、
前記球形工具とワークの相対位置を調整し、かつ前記球形工具の表面を電解ドレッシングしながら、球形工具でワークの上凹穴を研削加工する、ことを特徴とする凹球面研削加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
上記本発明の方法及び装置によれば、球形工具が所定の直径と真円度を有し、工具保持具により球形工具の中心より下方部分が遊動可能に保持され、ランダム駆動装置により球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動するので、球形工具とワークの相対位置を調整し、球形工具でワークの上凹穴を研削加工することにより、ワークの凹球面が深く、例えば半球面に近い場合でも、ワークの上凹穴の中心近傍と外周近傍とで球形工具との接触速度(すなわち研削速度)が同一となり、凹球面の表面粗さと真円度を均一にできる。
【0024】
また、球形工具の表面が導電性砥石からなるので、ELID装置により球形工具の表面を電解ドレッシングしながら、球形工具でワークの上凹穴を研削加工するので、ワークの凹球面全面を高平滑かつ高精度に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】人工関節の構造を示す模式図である。
【図2】特許文献1の加工方法を示す模式図である。
【図3】特許文献2の球面加工装置の模式図である。
【図4】特許文献3の加工装置の模式図である。
【図5】本発明の凹球面研削加工装置の第1実施形態図である。
【図6】本発明の凹球面研削加工装置の第2実施形態図である。
【図7】本発明の凹球面研削加工装置の第3実施形態図である。
【図8】本発明の凹球面研削加工装置の第4実施形態図である。
【図9】本発明の凹球面研削加工装置の第5実施形態図である。
【図10】本発明の凹球面研削加工装置の第6実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0027】
図5は、本発明の凹球面研削加工装置の第1実施形態図である。
この図において、本発明の凹球面研削加工装置は、球形工具12、工具保持具14、ワーク保持具18、相対位置調整装置20、ELID装置22及びランダム駆動装置30を備える。
【0028】
本発明を適用するワーク10は、例えば、図1に例示したソケットであり、少なくともその一部(図で下面)に半球状の上凹穴10aを有する。また、ワーク10の材質は、耐摩耗性、耐食性、靭性、生体適合性及び硬度が高い金属(例えばCo−Cr合金)であるのが好ましいが、その他の金属、或いは硬脆材料であるセラミックスであってもよい。
【0029】
球形工具12は、表面が導電性砥石13からなり所定の直径と真円度を有する。
球形工具12は、図1に例示したソケットの凹球面に嵌合する球面を有している。
導電性砥石13は、メタルボンド砥石であり、ボンド材には金属(例えば鋳鉄、銅)とレジンを混合した複合ボンド材を使用する。また砥粒には、好ましくはダイヤモンド砥粒又はCBNを用いる。砥粒の粒径は、研削完了時のワークの面粗さに応じて、例えば、#4000、#8000、#40000、#120000(それぞれ平均粒径4.1、1.8、0.3、0.13μm)を使用するのがよい。
なお、球形工具12は、完全な球状に限定されず、非球面形状であってもよい。
【0030】
工具保持具14は、球形工具12の中心より下方部分を遊動可能に保持する。
また、工具保持具14は、球形工具12の中心より下方部分を近接して囲む下凹穴14aを有する。下凹穴14aの内面は球形工具12より僅かに大きい球面であり、その隙間を電解研削用の導電性液が流れ、かつ球形工具12を液圧で浮遊させて、球形工具12がほとんど無抵抗で、自由に遊動するようになっている。
【0031】
図5において、本発明の凹球面研削加工装置は、さらに下凹穴14aの表面に導電性液を供給する導電性液供給装置24を備える。この導電性液供給装置24は工具保持具14の外部に設置され、工具保持具14に設けられた液流路24aを通して、下凹穴14aの表面に導電性液を供給する。液流路24aの経路及び本数は任意である。
【0032】
また、この例において、工具保持具14は、球形工具12を工具保持具14に磁力で吸着させる磁石16を有する。磁石16は、単一でも複数でもよい。
磁石16は、球形工具12を工具保持具14に磁力で吸着させ、ワーク10に要求される上凹穴10aの真円度の誤差よりも十分小さく、球形工具12の中心位置を前記誤差以内に常に保持する。
磁石16の磁力強度は、球形工具12がほとんど無抵抗で、自由に遊動できる限りで、任意である。例えば、ランダム噴射装置32(後述する)で噴射する液量が多い場合、或いは工具保持具14を下向きにするような場合には、磁石16の磁力強度を高めるのがよい。
【0033】
上述した構成により、下凹穴14aと球形工具12との隙間は、ワーク10に要求される上凹穴10aの真円度の誤差よりも十分小さく、球形工具12の中心位置を前記誤差以内に常に保持するようになっている。
なお、本発明において、磁石16は必須ではなく、球形工具12の中心位置を前記誤差以内に常に保持できる限りで、省略することができる。
【0034】
ワーク保持具18は、ワーク10を保持する。この例で、ワーク保持具18は、ワーク10の上端を把持しているが、本発明はこれに限定されず、ワーク10を把持し一体的に移動できればよい。
【0035】
相対位置調整装置20は、例えば3次元移動装置であり、ワーク保持具18又は工具保持具14を移動し、球形工具12とワーク10の相対位置を調整する。
また、相対位置調整装置20は、一定の圧力で加圧できる機構も有する。
この例では、工具保持具14は一定位置に固定され、ワーク保持具18が相対位置調整装置20により上下(xyz軸のz軸方向)に移動するようになっている。
なお、本発明はこれに限定されず、ワーク保持具18を一定位置に固定し、工具保持具14を移動してもよい。またワーク保持具18又は工具保持具14の移動は上下動に限定されず、2次元的又は3次元的に移動してもよい。
【0036】
ELID装置22は、ELID陰極22a、陽極ブラシ22b及びELID電源装置22cからなり、球形工具12の表面を電解ドレッシングする。
【0037】
ELID陰極22aは、球形工具12の一部に一定の隙間を隔てて対向する。
ELID陰極22aはこの例ではワーク10とワーク保持具18の間に間隔を隔てて位置する円弧状のリング部材であり、その内面が球形工具12の外面と常に一定の隙間を維持するように設置されている。この隙間はその間に導電性液を流しながら、球形工具12の表面を電解ドレッシングできる範囲で設定する。
なお、ELID陰極22aの設置位置はこの例に限定されず、例えば、ワーク保持具18の内部に設置してもよい。
【0038】
陽極ブラシ22bは、球形工具12の別部分に接触する。ELID陰極22aはこの例ではワーク10とワーク保持具18の間に位置し、球形工具12の一部と接触する。陽極ブラシ22bの位置は、ELID陰極22aからできるだけ離れた位置、例えばこの例では、球形工具12を挟んでELID陰極22aの反対側であるのがよい。
また陽極ブラシ22bと球形工具12との接触は、陽極ブラシ22bを介して球形工具12をプラスに印加できるかぎりで、接触抵抗をできるだけ小さくし、球形工具12がほとんど無抵抗で自由に遊動できるようになっている。例えば、陽極ブラシ22bの一部に導電性繊維からなる触毛を設け、この触毛を介して導電性のボンド材に通電することができる。
なお、陽極ブラシ22bの設置位置はこの例に限定されず、例えば、ワーク保持具18の内部に設置してもよい。
【0039】
ELID電源装置22cは、陽極ブラシ22bを介して球形工具12をプラス(+)に印加し、かつELID陰極22aをマイナス(−)に印加する。この印加電源は、所望の電解ドレッシングができるかぎりで、直流電源でも直流パルス電源でもよい。
【0040】
ランダム駆動装置30は、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動する。ランダム駆動装置30の具体例については後述する。
【0041】
上述した装置を用い、本発明の方法では、
(A)ワーク保持具18を用いて、表面が導電性砥石13からなり所定の直径と真円度を有する球形工具12の中心より下方部分を遊動可能に保持し、
(B)ランダム駆動装置30により、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動し、
(C)ワーク保持具18により、球形工具12の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴10aを有するワーク10を保持し、
(D)相対位置調整装置20により、球形工具12とワーク10の相対位置を調整し、かつELID装置22により球形工具12の表面を電解ドレッシングしながら、球形工具12でワーク10の上凹穴10aを研削加工する。
【0042】
上述した本発明の方法及び装置によれば、球形工具12が所定の直径と真円度を有し、工具保持具14により球形工具12の中心より下方部分が遊動可能に保持され、ランダム駆動装置30により球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動するので、球形工具12とワーク10の相対位置を調整し、球形工具12でワーク10の上凹穴10aを研削加工することにより、ワーク10の凹球面が深く、例えば半球面に近い場合でも、ワーク10の上凹穴10aの中心近傍と外周近傍とで球形工具12との接触速度(すなわち研削速度)が同一となり、凹球面10aの表面粗さと真円度を均一にできる。
【0043】
また、球形工具12の表面が導電性砥石13からなるので、ELID装置22により球形工具12の表面を電解ドレッシングしながら、球形工具12でワーク10の上凹穴10aを研削加工することができる。
【0044】
図6は、本発明の凹球面研削加工装置の第2実施形態図である。
この例において、球形工具12は、その表面に分散して配置された凹部12aを有する。
また、ランダム駆動装置30は、球形工具12の凹部12aに対し異なる向きに配置された2以上の液噴射ノズル31と、2以上の液噴射ノズル31を介して所定の液をランダムに噴射するランダム噴射装置32とを有する。
【0045】
球形工具12の凹部12aは、例えば円弧状の凹みであり、液の噴射圧を受けて、球形工具12を表面に沿って駆動するようになっている。凹部12aの形状、大きさ、個数、分散状態は任意である。
また、凹部12aの形成は必須ではなく、球形工具12を表面に沿って駆動できる限りで、砥粒とボンド材からなる導電性砥石13の表面に通常存在する凹部であってもよい。
【0046】
液噴射ノズル31から噴射する液は、好ましくは上述した電解研削用の導電性液である。この場合、上述した導電性液供給装置24を省略することができる。
【0047】
なお、ランダム噴射装置32で噴射する液は、電解研削用の導電性液に限定されず、その他の液、例えば水道水や蒸留水であってもよい。この場合、ランダム噴射装置32で噴射する液量は、導電性液供給装置24からの導電性液の機能を損なわず、かつ下凹穴14aと球形工具12との隙間を、上述した範囲に常に保持するように設定する。
その他の構成は、図5と同様である。
【0048】
上述した構成により、球形工具12を液圧で浮遊させて、球形工具12がほとんど無抵抗で、自由に遊動する状態において、2以上の液噴射ノズル31を介して液をランダムに噴射し、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動することができる。
【0049】
図7は、本発明の凹球面研削加工装置の第3実施形態図である。
この例において、球形工具12は、中心からオフセットした位置に強磁性体12b(例えば鉄球)を有する。
またランダム駆動装置30は、球形工具12の強磁性体12bに対し異なる向きに磁場を付加する2以上の磁場発生コイル33と、2以上の磁場発生コイル33に電力をランダムに供給するランダム電源装置34とを有する。
なお、その他の構成は、図5と同様である。
【0050】
この構成により、球形工具12がほとんど無抵抗で、自由に遊動する状態において、2以上の磁場発生コイル33に電力をランダムに供給し、球形工具12の強磁性体12bに対し異なる向きにランダムな大きさの磁場を付加することにより、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動することができる。
【0051】
図8は、本発明の凹球面研削加工装置の第4実施形態図である。
この例において、球形工具12は、内部にN−S極を有する永久磁石12cを有する。永久磁石12cは単数に限られず複数でもよい。また、中心位置に限定されず、中心からオフセットしてもよい。
また、ランダム駆動装置30は、永久磁石12cに対し異なる向きに回転力を付加する2以上の磁界発生コイル35と、2以上の磁界発生コイルに電力をランダムに供給するランダム電源装置34とを有する。
その他の構成は、図5と同様である。
【0052】
この構成により、球形工具12がほとんど無抵抗で、自由に遊動する状態において、2以上の磁界発生コイル35に電力をランダムに供給し、球形工具12の永久磁石12cに対し異なる向きにランダムな大きさの回転力を付加することにより、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動することができる。
【0053】
図9は、本発明の凹球面研削加工装置の第5実施形態図である。
この例において、ランダム駆動装置30は、球形工具12の表面に接しこれを異なる向きに回転駆動する2以上の回転駆動ローラ36と、2以上の回転駆動ローラ36に電力をランダムに供給するランダム電源装置34とを有する。
また、この例の場合、上述した磁石16(図示せず)を設けて球形工具12を回転駆動ローラ36に押付け、その間のスリップを低減するのがよい。
その他の構成は、図5と同様である。
【0054】
この構成により、2以上の駆動ローラ36に電力をランダムに供給し、駆動ローラ36により球形工具12の表面を異なる向きにランダムに回転駆動することにより、球形工具12をその表面に沿ってランダムに駆動することができる。
【0055】
図10は、本発明の凹球面研削加工装置の第6実施形態図である。
この例において、ランダム駆動装置30は、球形工具12を工具保持具14に磁力で吸着させる磁石16と、工具保持具14を鉛直軸を中心に回転駆動する回転駆動装置37と、回転駆動装置37に供給する電力をランダムに変化させるランダム電源装置34とを有する。
また、この例の場合、磁石16は、球形工具12と工具保持具14の間の摩擦力を高め、工具保持具14の回転により球形工具12を回転できるように設定するのがよい。
その他の構成は、図5と同様である。
【0056】
この構成により、工具保持具14の回転速度をランダムに加速、減速、反転させることにより、球形工具12を慣性によりその表面に沿ってランダムに駆動することができる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで種々に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
10 ワーク、10a 上凹穴、
12 球形工具、12a 凹部、12b 強磁性体、
12c 永久磁石、13 導電性砥石、
14 工具保持具、14a 下凹穴、
16 磁石、18 ワーク保持具、
20 相対位置調整装置、22 ELID装置、
22a ELID陰極、22b 陽極ブラシ、
22c ELID電源装置、
24 導電性液供給装置、24a 液流路、
30 ランダム駆動装置、31 液噴射ノズル、
32 ランダム噴射装置、33 磁場発生コイル、
34 ランダム電源装置、36 回転駆動ローラ、
37 回転駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が導電性砥石からなり所定の直径と真円度を有する球形工具と、
該球形工具の中心より下方部分を遊動可能に保持する工具保持具と、
前記球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動するランダム駆動装置と、
前記球形工具の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴を有するワークを保持するワーク保持具と、
ワーク保持具又は工具保持具を移動し球形工具とワークの相対位置を調整する相対位置調整装置と、
前記球形工具の表面を電解ドレッシングするELID装置と、を備えることを特徴とする凹球面研削加工装置。
【請求項2】
前記球形工具は、その表面に分散して配置された凹部を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記凹部に対し異なる向きに配置された2以上の液噴射ノズルと、該2以上の液噴射ノズルを介して所定の液をランダムに噴射するランダム噴射装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項3】
前記球形工具は、中心からオフセットした位置に強磁性体を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記強磁性体に対し異なる向きに磁場を付加する2以上の磁場発生コイルと、該2以上の磁場発生コイルに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項4】
前記球形工具は、内部にN−S極を有する永久磁石を有しており、
前記ランダム駆動装置は、前記永久磁石に対し異なる向きに回転力を付加する2以上の磁界発生コイルと、該2以上の磁界発生コイルに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項5】
前記ランダム駆動装置は、前記球形工具の表面に接しこれを異なる向きに回転駆動する2以上の回転駆動ローラと、該2以上の回転駆動ローラに電力をランダムに供給するランダム電源装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項6】
前記ランダム駆動装置は、前記球形工具を工具保持具に磁力で吸着させる磁石と、前記工具保持具を鉛直軸を中心に回転駆動する回転駆動装置と、該回転駆動装置に供給する電力をランダムに変化させるランダム電源装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項7】
前記工具保持具は、前記球形工具の中心より下方部分を近接して囲む下凹穴を有し、
該下凹穴の表面に導電性液を供給する導電性液供給装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項8】
前記ELID装置は、球形工具の一部に一定の隙間を隔てて対向するELID陰極と、球形工具の別部分に接触する陽極ブラシと、前記陽極ブラシを介して球形工具をプラスに印加し、かつ前記ELID陰極をマイナスに印加するELID電源装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の凹球面研削加工装置。
【請求項9】
表面が導電性砥石からなり所定の直径と真円度を有する球形工具の中心より下方部分を遊動可能に保持し、
前記球形工具をその表面に沿ってランダムに駆動し、
前記球形工具の中心より上方部分と接触する半球状の上凹穴を有するワークを保持し、
前記球形工具とワークの相対位置を調整し、かつ前記球形工具の表面を電解ドレッシングしながら、球形工具でワークの上凹穴を研削加工する、ことを特徴とする凹球面研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−253593(P2010−253593A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104630(P2009−104630)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】