説明

凹部入り砥石の製造方法

【課題】砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝又は穴状凹部を焼成前の砥石チップの砥粒層に機械加工又はプレス加工によって低コストで容易に凹設する。
【解決手段】超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層の内側に、下地粒子と結合剤とを混合した下地層を重ねて一体的に円弧状にプレス成型して焼成前砥石チップを形成し、該焼成前砥石チップの前記砥粒層に、凹部を設け、該凹部が設けられた焼成前砥石チップを焼成し、該焼成された砥石チップを複数個、前記コアに貼付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアに貼付されたセグメントタイプの砥石チップに傾斜溝又は穴状凹部を形成した凹部入り砥石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸線回りに回転駆動される円盤状のコアの外周面に、ダイヤモンド又は立方晶窒化硼素等の超砥粒を含む砥粒層が形成され、該砥粒層外周の研削面に所定の幅、深さを有する傾斜溝がコアの軸線に対して25度乃至45度程度傾斜して刻設された溝付砥石が特許文献1に記載されている。このような溝付砥石によれば、研削液を傾斜溝に沿って研削点に効果的に導入することができ、傾斜溝のない砥石に比して研削による除去量を約1.5倍に増大させて研削効率を高めることができる。
【0003】
また、研削点に供給される研削液によって工作物と砥石車との間に動圧が発生し、かかる動圧により工作物が砥石車に対して変位することによる加工精度や能率の低下を防止するために、砥石の研削面に溝を設けて動圧を開放させることが考えられている。また、このような溝の代わりに研削面に複数の穴を設けて動圧を開放することも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−354969(段落〔0007〕、〔0026〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
砥石の研削面に溝を設けるために、超砥粒と結合剤とをプレス成形後に焼成してコアに貼付した砥石チップの研削面に傾斜溝を機械加工によって刻設すると、超砥粒が強固な結合剤で保持された砥粒層に傾斜溝や穴状凹部を機械加工するので、溝加工用砥石の摩耗が激しいなど加工が困難である。また、傾斜溝や穴状凹部が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって刻設される場合は、傾斜溝の側壁部や穴状凹部の内壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下し、超砥粒が脱落しやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝又は穴状凹部を焼成前の砥石チップの砥粒層に機械加工又はプレス加工によって低コストで容易に凹設することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、研削盤の砥石台に回転軸線回りに回転駆動可能に軸承された砥石軸に装着されるコアに、超砥粒を含む砥粒層と、下地層からなる複数の砥石チップが貼付され、前記砥粒層に形成された研削面が前記研削盤の工作物支持装置に回転駆動可能に支承された工作物を研削点で当接して研削加工する砥石の製造方法において、超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層の内側に、下地粒子と結合剤とを混合した下地層を重ねて一体的に円弧状にプレス成型して焼成前砥石チップを形成するとともに、焼成前砥石チップの砥粒層に複数の凹部を形成し、該凹部が形成された焼成前砥石チップを焼成して焼成後砥石チップを形成し、該焼成された砥石チップを複数個、前記コアに貼付することである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、該傾斜溝は、前記焼成前砥石チップの前記砥粒層に機械加工により刻設されたものであることである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記傾斜溝を前記砥粒層に前記研削面から前記下地層に至るまで機械加工によって刻設することである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、工具を前記焼成前砥石チップに対して前記傾斜溝の傾斜角度方向に直線送りすることにより前記傾斜溝を前記砥粒層に機械加工によって刻設することである。
【0011】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、前記プレス成型時にて、前記砥石チップを成形するプレス成形型の研削面成形部表面に、カーボン製又は樹脂製の複数の傾斜溝成形板を、成型される前記砥石チップが前記コアに貼付されたときに砥石周方向となる方向に対して夫々傾斜するよう立設し、前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体を充填し、下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体を前記砥粒層用粉体に重ねて充填し、前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを、形成される下地層が傾斜溝成形板によって分離されないように一体的にプレス成型し、該プレス成型により砥粒層と下地層とが一体に形成され、前記複数の傾斜溝成形板が少なくとも前記砥粒層を貫通している状態の焼成前砥石チップをプレス成形型から離型し、前記焼成時にて、前記焼成前砥石チップを焼成する間に前記傾斜溝成形板を焼失させて砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が前記砥粒層に設けられた焼成後砥石チップを形成することである。
【0012】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、前記プレス成型時にて、前記砥石チップを成形するプレス成形型の研削面成形部表面に、金属製の複数の傾斜溝成形板を、成型される前記砥石チップが前記コアに貼付されたときに砥石周方向となる方向に対して夫々傾斜するよう立設し、前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体を充填し、下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体を前記砥粒層用粉体に重ねて充填し、前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを、形成される下地層が傾斜溝成形板によって分離されないように一体的にプレス成型し、該プレス成型によって一体に形成された砥粒層と下地層とを離型するとともに前記複数の傾斜溝成形板を前記砥粒層より除去することにより砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が前記砥粒層に設けられた前記焼成前砥石チップを形成することである。
【0013】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記凹部は、研削面に開口する穴状凹部であって、前記プレス成型時にて、前記砥石チップを成形するプレス成形型にカーボン製又は樹脂製の複数本のピン部材を突設し、前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体及び下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体のいずれか一方を充填し、前記砥粒層用粉体及び前記下地層用粉体いずれか他方を重ねて充填し、前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを一体的にプレス成型し、該プレス成型によって砥粒層と下地層とが一体に形成され、前記複数本のピン部材が少なくとも前記砥粒層を貫通している状態の前記焼成前砥石チップを前記プレス成形型から離型し、前記焼成時にて、前記焼成前砥石チップを焼成する間に前記ピン部材を焼失させて、前記砥粒層に、研削面に開口する複数の穴状凹部が形成された前記焼成後砥石チップを形成することである。
【0014】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記凹部は、研削面に開口する複数の穴状凹部であって、前記プレス成型時にて、前記砥石チップを成形するプレス成形型に金属製の複数本のピン部材を突設し、前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体及び下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体のいずれか一方を充填し、前記砥粒層用粉体及び前記下地層用粉体のいずれか他方を重ねて充填し、前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを一体的にプレス成型し、該プレス成型によって一体に形成された砥粒層と下地層とを前記プレス成形型より離型するとともに前記複数本のピン部材を砥粒層より除去することにより、前記砥粒層に、研削面に開口する複数の穴状凹部が形成された前記焼成前砥石チップを形成することである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、焼成前の砥石チップに複数の凹部を形成し、その後焼成する。そのため、凹部が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって刻設される場合のように、凹部の内側壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、砥粒層の内側に下地層を重ねて一体的に円弧状にプレス成型して焼成前砥石チップを形成し、該焼成前砥石チップの砥粒層に、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝を機械加工によって刻設する。焼成後の砥石チップでは超砥粒を結合剤が強固に保持しているが、焼成前の砥石チップでは結合剤が超砥粒を保持する保持力が弱いので、溝加工用工具の摩耗も少なく傾斜溝を容易に低コストで加工することができる。また、砥石チップは傾斜溝の加工後に焼成されるので、機械加工により結合剤から露出した超砥粒が、焼成時に溶融した結合剤に被覆されて結合され、超砥粒の保持力が機械加工によって低下することがない。このように形成された複数の砥石チップが、コアに貼付されるので、砥石摩耗の少ない傾斜溝入り砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、傾斜溝が砥粒層に研削面から下地層に至るまで機械加工によって刻設されるので、砥粒層の厚み全体を研削に有効に使用することができ、砥石寿命が長くなる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、工具を焼成前の砥石チップに対して傾斜溝の傾斜角度方向に直線送りすることによって、砥粒層に傾斜溝を機械加工によって直線状に刻設するので、傾斜溝を螺旋状に加工する場合に比して加工時間を短縮して容易に加工することができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、研削面形成部に充填された砥粒層に下地層を重ねて一体的にプレス成型し、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が設けられた焼成前砥石チップを形成する。そのため、傾斜溝を設けるためだけの工程を省略することができるとともに、傾斜溝が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって刻設される場合のように、傾斜溝の側壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0020】
また、砥石チップを焼成する際の高温によって、カーボン製又は樹脂製の傾斜溝成形板を焼失させることができるので、焼成前の砥石チップから傾斜溝成形板を除去する工程を省略することが可能で、生産効率を向上させることができる。また、傾斜溝成形板を焼失させる際には、砥石チップの傾斜溝の端部を欠いたり変形させたりすることがないので、品質の向上を図ることができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、研削面形成部に充填された砥粒層に下地層を重ねて一体的にプレス成型し、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が設けられた焼成前砥石チップを形成する。そのため、傾斜溝を設けるためだけの工程を省略することができるとともに、傾斜溝が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって刻設される場合のように、傾斜溝の側壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、研削面形成部に充填された砥粒層に下地層を重ねて一体的にプレス成型し、研削面に複数の穴状凹部が設けられた焼成前砥石チップを形成する。そのため、穴状凹部を設けるだけの工程を省略することができるとともに、穴状凹部が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって穿設される場合のように、穴状凹部の内壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0023】
また、砥石チップを焼成する際の高温によって、ピン部材を焼失させることができるので、焼成前の砥石チップからピン部材を除去する工程を省略することが可能で、生産効率を向上させることができる。また、ピン部材を焼失させる際には、砥石チップの穴状凹部の内壁の端部を欠いたり変形させたりすることがないので、品質の向上を図ることができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、研削面形成部に充填された砥粒層に下地層を重ねて一体的にプレス成型し、研削面に複数の穴状凹部が設けられた焼成前砥石チップを形成する。そのため、穴状凹部を設けるだけの工程を省略することができるとともに、穴状凹部が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって穿設される場合のように、穴状凹部の内壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すセグメントタイプの砥石チップからなる砥石の全体図。
【図2】傾斜溝入り砥石を装着した研削盤で工作物を研削する状態を示す図。
【図3】砥石チップを示す図。
【図4】砥石の研削面に複数の傾斜溝を、少なくとも1本の傾斜溝が研削点を常に通過するように刻設した状態を示す図。
【図5】傾斜溝の溝円周幅と傾斜角度との関係を示す図。
【図6】2本の傾斜溝が常に工作物の幅と同じ軸線方向の長さを有する研削点を通過するように刻設する状態を示す図。
【図7】傾斜溝の傾斜角度と本数との関係を示すグラフ。
【図8】傾斜溝の傾斜角度と砥石円周方向のピッチとの関係を示す図。
【図9】傾斜溝の傾斜角度と研削面の面積の削減率との間係を示す図。
【図10】傾斜溝入り砥石チップをプレス成型する状態を示す図。
【図11】傾斜溝入り砥石を製造する工程を示す図。
【図12】溝加工装置を示す図。
【図13】傾斜溝入り砥石により法線方向の研削抵抗、プロフィル精度が向上する割合を示す図。
【図14】第2の実施形態における傾斜溝入り砥石チップをプレス成形する型の平面概念図。
【図15】同破断させて示す側面概念図。
【図16】同傾斜溝入り砥石を製造する工程を示す図。
【図17】第3の実施形態における穴状凹部入り砥石チップを示す図。
【図18】同複数の穴状凹部が設けられた研削面を示す図。
【図19】同穴状凹部入り砥石を製造する工程を示す図。
【図20】第4の実施形態における穴状凹部入り砥石チップを示す図。
【図21】同穴状凹部入り砥石を製造する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態の製造方法で製造された、セグメントタイプの砥石チップ11を含む砥石10を示し、この砥石10の砥石チップ11は、超砥粒をビトリファイドボンドで結合した砥粒層12が外周側に形成され、超砥粒を含まない下地層13が砥粒層12の内側に重ねて一体的に形成されている。砥石10は、砥粒層12と下地層13からなる複数の円弧状の砥石チップ11が、鉄またはアルミニウム等の金属、或いは樹脂等で成形された円盤状のコア14の外周面に並べられ、下地層13の底面で接着剤によりコア14に貼付されて構成されている。砥石10は、図2に示す研削盤30の砥石台31に軸線O回りに回転駆動可能に軸承された砥石軸32にコア14で装着される。研削盤30の工作物支持装置33には工作物Wが回転駆動可能に支承され、砥石台31の前進により砥石10の砥粒層12に形成された研削面15が工作物Wに研削点Pで当接して工作物Wの外周面を研削加工するようになっている。
【0027】
図3は、円弧状の砥石チップ11を示すもので、砥粒層12は、CBN、ダイヤモンド等の超砥粒16をビトリファイドボンド17で3〜7mmの厚さに結合したものであり、集中度調整用に超砥粒の代わりに酸化アルミニウム(Al2O3)等の粒子が骨材として混入されている場合もある。また、前記下地層13は、下地粒子19をビトリファイドボンド17で2〜4mmの厚さに結合したものである。ビトリファイドボンド17を採用すると、有気孔の特性から、切り屑の排出性に優れ、切れ味が良好となるため、砥石摩耗量を少なくして良好な表面あらさに研削加工することができる。しかしながら、結合剤としては、ビトリファイドボンド17の他に、レジンボンドまたはメタルボンド等を使用することもできる。
【0028】
図4に示すように、砥石10の研削面15には、砥石軸線Oに対して傾斜する幅bの傾斜溝20が複数本、砥石10の回転位相に拘らず少なくとも1本の傾斜溝20が研削点Pを上下に通過するように刻設されている。このように少なくとも1本の傾斜溝20が常に研削点Pを通過することにより、研削点Pに供給された研削液により研削面15と工作物Wとの間に発生する動圧が研削点の上方および下方の両方から開放され、工作物Wが砥石10から離間する方向に変位されて工作物寸法が大きくなることがなくなり、研削精度、特に真円度が向上する。少なくとも1本の傾斜溝20が常に研削点Pを通過していないと、研削点Pに対して傾斜溝20が上方にしか開口していないと研削点Pの下方では動圧が開放されず、同様に傾斜溝20が下方にしか開口していないと研削点Pの上方では研削液の動圧は開放されない。傾斜溝20は、砥石軸線Oと直角な砥粒層12の両側面21,22をつき抜けて研削面15に刻設されている。
【0029】
研削点Pに供給された研削液の動圧発生を効果的に防止するとともに、高い研削精度、長い砥石寿命を確保することができる傾斜溝20を容易に作成するための条件は、以下に述べる通りである。傾斜溝20は、砥石10の回転位相に拘わらず工作物Wの幅、即ち研削点Pの軸線方向の長さ内で少なくとも1本、好ましくは2本以上研削点Pを通過させるのが良い。傾斜溝20の砥石円周方向の幅である溝円周幅cは、研削面15に露出する超砥粒16の間隔が溝円周幅cだけ広くなるので短い方が良い。加工工数を低減するためには、溝本数は少ない方が良い。傾斜溝20の砥石円周方向のピッチは、傾斜溝20の間隔が狭いと加工しにくく、且つ砥石チップ11の強度が低下するので長い方が良い。傾斜溝20の総面積は、これを大きくすると研削に関与する超砥粒16の数が減少して砥石磨耗量が増加するのであまり大きくしない方が良い。
【0030】
これらの条件を勘案して、例えば外径350mmの砥石10によって幅15mmの工作物Wをプランジカット研削する場合に適切な傾斜溝20の本数n、傾斜角度αを決定する方法を以下に説明する。傾斜角度αは、傾斜溝20と砥粒層12の側面21、換言すれば砥石周方向とのなす角度であり、研削点Pの軸線方向の長さは工作物Wの幅と同じ15mmとなる。
【0031】
傾斜溝20の溝法線方向の幅bは、溝加工用砥石の強度を考慮し、且つ傾斜溝20の砥石円周方向の長さである溝円周幅cを短くするためにも1mm程度とするのが良い。溝円周幅cと傾斜溝20の傾斜角度αとの関係は図5に示すようになり、傾斜角度αを15度程度より大きくすると溝円周幅cは小さくなり、傾斜溝20による超砥粒16の間隔の広がりを小さく抑えることができる。
【0032】
図6に示すように、例えば砥石10の外周研削面15(外径350mm)が工作物W(幅15mm)と接する範囲dにおいて、例えば2本の傾斜溝20が、砥石10の回転位相に拘わらず、工作物Wの幅と同じ軸線方向の長さを有する研削点Pを通過するようにした場合、傾斜溝20の傾斜角度αと本数nとの関係は図7、傾斜角度αと傾斜溝20の砥石円周方向のピッチpとの関係は図8、傾斜角度αと傾斜溝20による研削面15の面積の削減率との間係は図9のようになる。図8から明らかなように、傾斜角度αを15度程度より小さくすると、傾斜溝20の砥石円周方向のピッチpが十分大きくなり、傾斜溝20の加工に支障をきたさない。また、図9のように、傾斜角度αを15度程度より小さくすると、傾斜溝20による研削面15の面積の削減率を小さく抑えることができる。また、図7に示されるように、傾斜角度αを15度程度にすると、傾斜溝20の本数nを少なくすることができる。これらのことを勘案すると、傾斜角度αは15度近傍の値にすることが好ましい。
【0033】
このようにして外径350mmの砥石10で幅15mmの工作物Wをプランジカット研削する場合に、砥石10の回転位相に拘わらず工作物Wの幅、即ち研削点Pの軸線方向の長さ内で少なくとも2本の傾斜溝20が研削点Pを通過するように決定した傾斜溝20の緒元は、一例として溝幅bが1mm、溝深さhが6mm、傾斜角度αが15度、本数nが39本で円周方向ピッチpが約28.1mmとするとよい。
【0034】
幅15mmの工作物Wの例えば2倍の幅を有する砥石10の研削面15に上記緒元の傾斜溝20を刻設するために、例えば図6に示すように、幅を30mmとした砥石チップ11に5本の傾斜溝20が円周方向ピッチp(約28.1mm)で刻設される。砥石チップ11に5本の傾斜溝20が刻設される一例として、傾斜溝20の砥石回転方向の前半部20f及び後半部20rが、砥石チップ11の円周方向後端面11r、前端面11fの各中央部から両側面21,22に向かって傾斜角度15度で夫々刻設されるとともに、それらの間に傾斜溝20の中央部20mが刻設され、さらに砥石チップ11がコア14に貼付されたとき前後の砥石チップ11の中央部20mと連続する傾斜溝20の両端部20eが刻設される。砥石チップ11の幅方向の中心線上には、傾斜溝20の前半部20f及び後半部20rの各端および中央部20mが位置するので、砥石チップ11の円周方向長さは2ピッチ分より僅かに短い約56mmとなる。
【0035】
次に、このような砥石チップ11を製造する方法(第1の実施形態)は、図10(a)に示すように、長方形状の外型41の内側底部に下型42が嵌合され、砥石10の外径になる砥石チップ11の円弧面に相当する円弧状の凹型面42aが下型42の上面に形成されている。この下型42上に、砥粒層12を構成する超砥粒16、ビトリファイドボンド17及び骨材18等を混合した砥粒層用粉体44が充填され、砥粒層用粉体44の厚さが均一になるようにレべリングされる(図11の工程51)。この状態で、図10(b)に示すように、第1上型45である押型が外型41の内面に沿って下降され、砥粒層用粉体44を仮プレスして砥粒層12を円弧状に仮成型する(工程52)。
【0036】
続いて、図10(c)に示すように、下地粒子19を含む下地層用粉体46が、仮プレス成型された砥粒層12の上側に充填され、下地層用粉体46の厚さが均一になるようにレベリングされる(工程53)。その状態で、図10(d)に示すように、第2上型47が外型41の内面に沿って下降され、下地層用粉体46と砥粒層用粉体44とを同時にプレスする。これにより、下地層13が砥粒層12の内側に重ねて一体的にプレス成型され、円弧状の砥石チップ11が形成される(工程54)。その後、第2上型47が上昇され、砥石チップ11が外型41、下型42から離型される(工程55)。
【0037】
この焼成前の砥石チップ11は下地層13の底面の半径と同半径の円弧状冶具に載置してクランプされ、砥石チップ11の砥粒層12に、前述の5本の傾斜溝20が円周方向ピッチpで研削面15から下地層13に至るまで機械加工によって直線状に刻設される(工程56)。該機械加工は、図12に示す公知の溝加工装置60を用いて行うことができる。溝加工装置60は、例えば、溝加工用砥石61が装着された砥石軸62を水平面内でZ軸と平行な軸線回りに回転駆動可能に軸承する砥石台63がコラム64に上下のY軸方向に移動可能に装架され、該コラム64がベッド65上にZ軸方向に移動可能に載置され、ワークテーブル66がベッド上にコラム64と対向して水平面内でZ軸と直角なX軸方向に移動可能に載置されている。該ワークテーブル66上に回転テーブル67が垂直軸線回りに割出し回転可能に支承され、冶具68が設けられた主軸69を水平面内で回転位置決め可能に軸承する主軸台70が回転テーブル67上に固定されている。
【0038】
傾斜溝20の加工は、砥石チップ11が下地層13の円弧面で冶具68に当接し砥粒層12を外側にしてクランプされ、砥石チップ11の円周方向後端面11rが主軸69の回転軸線の垂直上方に位置するように主軸69が回転位置決めされる。溝加工用砥石61の側面の方向が傾斜溝20の方向と一致するように、主軸69の軸線がZ軸に対して傾斜溝20の傾斜角度α傾斜するように回転テーブル67が割出し回転される。溝加工用砥石61が傾斜溝20の前半部20fと整列するようにコラム64がZ軸方向に位置決めされ、溝加工用砥石61の下端面が傾斜溝20の前半部20fの底面と一致するように、砥石台63がY軸方向に下降されて位置決めされる。ワークテーブル66がX軸方向に研削送りされることにより、溝加工用砥石61が焼成前砥石チップ11に対して傾斜溝20の傾斜角度α方向に直線送りされ、焼成前砥石チップ11の砥粒層12に、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝20が研削面15から下地層13に至るまで機械加工によって直線状に刻設される(図3参照)。続いて、コラム64が傾斜溝の法線方向ピッチ分だけZ軸方向に割出し移動され、上述の作動が繰り返されて傾斜溝20の中央部20m、後半部20r及び両端部20eが刻設される。
【0039】
傾斜溝20が刻設された砥石チップ11は、溝加工装置60の冶具68から取り外されて炉内で焼成され(工程57)、砥石チップ11の製造は完了する。砥石チップ11は傾斜溝20の加工後に焼成されるので、機械加工により結合剤から露出した超砥粒16が、焼成時に溶融したビトリファイドボンド17に被覆されて結合され、超砥粒16の保持力が機械加工によって低下することがない。焼成された19個の砥石チップ11は傾斜溝20が砥石10の回転位相に拘らず常に少なくとも2本研削点Pを通過するように、コア14の外周面に貼付される(工程58)。
【0040】
次に、本実施形態の傾斜溝入り砥石の製造方法によって製造した砥石10の作動について説明する。砥石10は図2に示す研削盤30の砥石台31に軸承された砥石軸32にコア14で装着されて回転駆動され、工作物Wは主軸台及び心押台からなる工作物支持装置33に支承されて回転駆動される。砥石カバー34に取り付けられたクーラントノズル35から砥石10と工作物Wとの間の研削点Pにクーラントが供給され、砥石台31が工作物Wに向かって研削送りされ、砥石10により工作物Wが研削加工される。この場合、砥石周方向に対して傾斜する複数の傾斜溝20が、砥石10の回転位相に拘らず常に少なくとも2本研削点Pを通過するので、研削点Pに供給された研削液が研削面15と工作物Wとの間で発生する動圧を研削点Pの上方および下方から開放することができる。これにより、工作物Wが砥石10から離間する方向に変位されて工作物Wの寸法が大きくなることがなくなり、研削精度、特に真円度を高めることができる。
【0041】
研削加工の一例として、粒径が♯120のCBN砥粒が集中度150でビトリファイドボンド17によって結合されて砥粒層12が形成され、該砥粒層12の内側に超砥粒を含まない下地層13が重ねて一体的に形成された砥石チップ11がスチール製コア14に貼付された外径350mmの砥石により、幅15mmの焼入れ鋼製カム(工作物W)を研削加工した場合の法線方向の研削抵抗、プロフィル精度を夫々100とすると、同砥石の外周研削面15に溝幅bが1mm、溝深さhが6mm、傾斜角度αが15度の傾斜溝20を39本刻設した傾斜溝入り砥石10により、同一カムを研削加工した場合、法線方向の研削抵抗が77に減少し、プロフィル精度が20に向上した(図13参照)。
【0042】
上記実施の形態では、溝加工装置60によって傾斜溝20を機械加工するとき、溝加工用砥石61を直線送りして傾斜溝20を刻設しているが、焼成前の砥石チップ11を溝加工装置60の主軸69に冶具68を介して装着し、溝加工用砥石61の側面の方向が傾斜溝20傾斜角度と一致するように、主軸69の軸線がZ軸に対して傾斜溝20の傾斜角度α傾斜するように回転テーブル67を割出し回転させ、主軸69の回転に連動してコラム64及びワークテーブル66をZ軸及びX軸方向に移動させることにより砥粒層11に螺旋状の傾斜溝20を研削面15から下地層12に至るまで刻設するようにしてもよい。
上記実施の形態では、工作物Wの幅が砥石10の幅より小さい場合であり、研削点Pの軸線方向の長さが工作物Wの幅と等しいとして傾斜溝20の諸元を求めているが、工作物Wの幅が砥石10の幅より大きい場合は、研削点Pの軸線方向の長さが砥石の幅と等しいとして傾斜溝20の諸元を求める。
【0043】
上記実施の形態では、焼成された複数の砥石チップを傾斜溝20が砥石10の回転位相に拘らず少なくとも2本研削点Pを通過するようにしているが、少なくとも1本研削点Pを通過するようにしてもよい。
【0044】
上記実施の形態では、傾斜溝20を砥粒層12に研削面15から下地層13に至るまで機械加工によって刻設しているが、下地層13に至らないで深さで砥粒層12のみに刻設してもよい。
【0045】
また、研削液を傾斜溝に沿って研削点に効果的に導入するための傾斜溝入り砥石を製造するために、本実施の形態のように、焼成前砥石チップの砥粒層に、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝を機械加工によって刻設し、該傾斜溝が刻設された焼成前砥石チップを焼成し、該焼成された砥石チップを複数個、コアに貼付するようにしてもよい。
【実施例2】
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。第2の実施形態の製造方法で製造されたセグメントタイプの砥石チップ11を含む砥石10の構成については、第1の実施形態と同様なので説明を省略する。
この砥石チップ11の製造方法は、砥石チップ11の研削面に傾斜溝20をプレスによって成形するものである。図14及び図15に示すように、長方形状の外型81の内側底部に下型82が嵌合され、砥石10の外径になる砥石チップ11の円弧面をプレス成形するための円弧状の凹型面82aが下型82の上面に形成されている。下型82には複数の取付溝が傾斜溝20に対応して凹設され、複数の傾斜溝20を形成するための傾斜溝成形板83が、凹型面82aから上方へ突出するように前記取付溝に着脱可能に嵌着されている。これらの傾斜溝成形板83は、例えばカーボン製であり、成型される砥石チップ11がコア14に貼付されたときに砥石周方向となる方向に対して夫々傾斜するように、凹型面82aに立設される。
【0047】
図16(a)に示すように、砥粒層12を構成する超砥粒、結合剤及び骨材等を混合した砥粒層用粉体44が下型82上に複数の傾斜溝成形板83より上方まで充填され、砥粒層用粉体44の厚さが均一になるようにレべリングされる。
【0048】
次に、図16(b)に示すように、上型85が外型81内に下降され、砥粒層用粉体44を仮プレスして砥粒層を円弧状に仮成形する。このとき仮に形成された砥粒層の下型82側の面には、仮の傾斜溝が形成される。
【0049】
次に、図16(c)に示すように、下地粒子19を含む下地層用粉体46が、仮プレス成形された砥粒層用粉体44の上側に充填され、下地層用粉体46の厚さが均一になるようにレべリングされる。
【0050】
次に、図16(d)に示すように、上型85が外型81内に下降され、下地層用粉体46と砥粒層用粉体44とを同時にプレスし、下地層13が砥粒層12の内側に重ねて一体に成形され、円弧状の砥石チップ11がプレス成形される。このとき、傾斜溝成形板83は砥粒層12を貫通して下地層13に達するようにプレスされる。
【0051】
次に、上型85が上昇され、砥石チップ11が外型81及び下型82から離型される。砥石チップ11を下型82から外すとき、複数の傾斜溝成形板83は砥石チップ11の砥粒層12を貫通している状態で、砥石チップ11と共に下型82から離型される。
【0052】
次に、複数の傾斜溝成形板83が砥粒層12に貫通している状態の砥石チップ11は、台に載せて焼成される。焼成は、本実施形態のように、結合剤としてビトリファイドボンドを使用した場合、例えば大気中において700〜1000℃でおこなわれる。カーボンは、一般に700℃位で焼失するので、この焼成の間に、カーボン製の傾斜溝成形板83は焼失して除去される。このようにして、砥石チップ11の製造が完了する。
焼成された、砥石チップ11は、傾斜溝20が砥石10の回転位相に拘らず少なくとも2本研削点Pを通過するように、コア14の外周面に貼付される。
【0053】
このような、砥石の製造方法によれば、研削面形成部(下型82)に接するように充填された砥粒層12に下地層13を重ねて一体的にプレス成型し、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝20が設けられた焼成前砥石チップを形成するので、傾斜溝20を設けるだけの工程を省略することができるとともに、傾斜溝20が焼成後の砥石チップ11の砥粒層に機械加工によって刻設される場合のように、傾斜溝20の側壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石10を容易に低コストで製造することができる。
【0054】
また、傾斜溝20が砥粒層12を貫通して、研削面から下地層13に至るまでプレス成型によって凹設されるので、砥粒層12の厚み全体を研削に有効に使用することができ、砥石寿命が長くなる。
【0055】
また、砥石チップ11を焼成する際の高温によって、傾斜溝成形板83を焼失させることができるので、焼成前の砥石チップ11から傾斜溝成形板83を除去する工程を省略することが可能で、生産効率を向上させることができる。
上記のような製造方法で製造された砥石10の作動は、第1の実施形態と同様なので、説明を省略する。
【実施例3】
【0056】
次に、本発明の第3の実施形態を図面に基づいて説明する。第3の実施形態の製造方法で製造されたセグメントタイプの砥石チップ11を含む砥石10の構成については、図17及び図18に示すように、砥石の研削面15に、傾斜溝20の替わりに複数の穴状凹部90が、砥粒層12を貫通して下地層13に至るように形成されている点において、第1の実施形態と相違する。他の構成については、同様なので説明を省略する。
【0057】
この砥石チップ11を製造する方法は、砥石チップ11の研削面に複数の穴状凹部90をプレスによって成形するものである。図19に示すように、長方形状の外型91の内側底部に下型92が嵌合され、砥石10の外径になる砥石チップ11の円弧面をプレス成形するための円弧状の凹型面92aが下型92の上面に形成されている。下型92には複数の取付穴が穴状凹部90に対応して凹設され、複数の穴状凹部90を形成するためのピン部材93が、凹型面92aから上方へ突出するように前記取付穴に着脱可能に嵌着されている。これらのピン部材93は、例えばカーボン製である。
【0058】
まず、図19(a)に示すように、砥粒層12を構成する超砥粒、結合剤及び骨材等を混合した砥粒層用粉体44が下型92上に複数のピン部材93より上方まで充填され、砥粒層用粉体44の厚さが均一になるようにレべリングされる。
【0059】
次に、図19(b)に示すように、複数のピン部材93に対応する複数の逃し穴94が垂直に穿設された第1上型95が外型91内に下降され、砥粒層用粉体44を仮プレスして砥粒層12を円弧状に仮成形する。このときピン部材93は、砥粒層12を貫通して上方に僅かに突出し逃し穴94に嵌入する。
【0060】
次に、図19(c)に示すように、下地粒子19と結合剤とを混合した下地層用粉体46が、仮プレス成形された砥粒層12の上側に複数のピン部材93より上方まで充填され、下地層用粉体46の厚さが均一になるようにレべリングされる。
【0061】
次に、図19(d)に示すように、逃し穴が穿設されていない第2上型97が外型91内に下降され、下地層用粉体46と砥粒層用粉体44(砥粒層12)とを同時にプレスし、下地層13が砥粒層12の内側に重ねて一体的に成形され、円弧状の砥石チップ11がプレス成形される。このとき、ピン部材93は砥粒層12を貫通して下地層13に達するようにプレスされる。
【0062】
次に、第2上型97が上昇され、砥石チップ11が外型91及び下型92から離型される。砥石チップ11を下型92から外すとき、複数のピン部材94は砥石チップ11の砥粒層12を貫通している状態で、砥石チップ11と共に下型92から離される。
【0063】
次に、複数のピン部材94が砥粒層12を貫通している状態の砥石チップ11は、台に載せられて焼成される。焼成は、本実施形態のように、結合剤としてビトリファイドボンドを使用した場合、例えば大気中にて700〜1000℃でおこなわれる。一般にカーボンは700℃位で焼失するので、この焼成の間にカーボン製のピン部材94は焼失して除去される。このようにして、砥石チップ11の製造が完了する。
焼成された砥石チップ11は、砥石10の回転位相に拘らず、少なくとも幾つかの穴状凹部90が砥石10の研削点Pに重なるように、コア14の外周面に貼付される。
【0064】
上記のような製造方法で製造された砥石10の作動について、以下に説明する。
本実施形態に係る砥石を使用して工作物Wを研削すると、研削点Pに重なる複数の穴状凹部90によって、研削点Pに供給される研削液の動圧が開放される。また、複数の穴状凹部90内に研削液が入り込むので、研削液が研削点Pに充分供給されて研削熱の除去が十分に行われるとともに、切削屑が複数の穴状凹部90に脱落して切削屑の捌けがよくなり、高速研削が可能となって研削効率を向上させることができる。その他の作動については、第1の実施形態と同様なので、説明を省略する。
【実施例4】
【0065】
次に、本発明の第4の実施形態を図面に基づいて説明する。第4の実施形態の製造法で製造されたセグメントタイプの砥石チップ11を含む砥石10の構成については、図20に示すように、砥石の研削面15に、複数の穴状凹部100が、砥粒層12だけでなく下地層13をも貫通して形成されている点において、第3の実施形態と相違する。他の構成については、同様なので説明を省略する。
【0066】
この砥石チップ11の製造方法を、図21に基づいて説明する。先ず、図21aに示すように、長方形状の外型101の内側底部に嵌合された下型102の上面には、円弧状の凸型面102aが砥石10のコア14の外径と同径に形成されている。下型102に複数の嵌挿穴102bが複数の穴状凹部100に対応して垂直に穿設され、複数の穴状凹部100を形成するためのカーボン製の複数のピン部材103が凸型面102aから上方へ突出するように嵌挿穴102bに挿入されている。そして、下地層用粉体46が下型102上に複数のピン部材103より上方まで充填されてレベリングされる。
【0067】
次に、図21bに示すように、複数のピン部材103に対応する複数の逃し穴104が垂直に穿設された上型105によって下地層用粉体46を仮プレスして下地層13を円弧状に仮成形する。このときピン部材103は下地層用粉体46を貫通して上方にわずかに突出して逃し穴104に嵌入する。
【0068】
次に、図21cに示すように、嵌挿穴102bに対応して突出する突出しピン106が上面に突設されたピン突出し治具109を外型101及び下型102の下方から当接させてピン部材103を突出しピン106の長さだけ上方に移動させる。
【0069】
次に、図21dに示すように、砥粒層用粉体44が仮プレス成形された下地層用粉体46の上側に複数のピン部材103より上方まで充填され、砥粒層用粉体44の厚さが均一になるようにレベリングされる。
【0070】
次に、図21eに示すように、上型105によって砥粒層用粉体44と下地層用粉体46とを同時にプレスし、砥粒層12が下地層13の外側に重ねて一体的に成形され円弧状の砥石チップ11がプレス成形される。このとき、ピン部材103は下地層13及び砥粒層12を貫通して上方にわずかに突出して逃し穴104に嵌入し、砥石チップ11を貫通した複数の穴状凹部100が形成される。
【0071】
次に、上型105が上昇され、砥石チップ11が外型101及び下型102から離型される。砥石チップ11を下型102から外すとき、複数のピン部材103は砥石チップ11に貫通している状態で、砥石チップ11と共に下型102から離される。
【0072】
次に、複数のピン部材103が差し込まれた状態の砥石チップ11は、台に載せられて焼成される。焼成は、本実施形態のように、結合剤としてビトリファイドボンドを使用した場合、例えば大気中にて700〜1000℃でおこなわれる。このときに、一般にカーボンは700℃位で焼失するので、焼成間にてカーボン製のピン部材103は焼失して除去される。このようにして、砥石チップ11の製造が完了する。焼成された、砥石チップ11は、コア14の外周面に貼付される。
上記のような製造方法で製造された砥石10の作動については、第3の実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0073】
なお、上記実施形態において、傾斜溝成形板、ピン部材をカーボン製としたが、これに限定されず、砥石チップの焼成時に焼失するなら何でもよく、好ましくは焼成温度よりも低い温度で焼失する材料として、例えば、硬質の樹脂製でもよく、この場合はカーボン製と同様に、砥石チップの焼成時に焼失させることができる。また、例えばスチール等の金属製でもよい。この場合は、砥石チップの焼成前に、抜取り等による除去が必要であるが、傾斜溝や穴状凹部が焼成後の砥石チップの砥粒層に機械加工によって穿設される場合のように、傾斜溝の側壁部や穴状凹部の内壁部では研削面に露出する超砥粒の保持力が機械加工によって低下することなく、超砥粒を強固に保持した耐久性の高い砥石を容易に低コストで製造することができる。
【0074】
また、砥石チップがプレス成形されるのを、円弧状としたが、これに限定されず、例えば平板状でもよい。この場合は、焼成前の平板状の砥石チップを、砥石のコアの外径と同じ形状寸法の台に載せ、台の外径に倣らして焼成する。
【符号の説明】
【0075】
10・・・砥石、11・・・砥石チップ、12・・・砥粒層、13・・・下地層、14・・・コア、15・・・研削面、16・・・超砥粒、17・・・ビトリファイドボンド、20・・・傾斜溝、21,22・・・側面、30・・・研削盤、31・・・砥石台、32・・・砥石軸、33・・・工作物支持装置、35・・・クーラントノズル、41,81,91,101・・・外型、42,82,92,102・・・下型、45,85,95・・・第1上型、47,87,97・・・、第2上型、60・・・溝加工装置、61・・・溝加工用砥石(工具)、68・・・冶具、69・・・主軸、83・・・傾斜溝成形板、93,103・・・ピン部材、105・・・上型、P・・・研削点、W・・・工作物、α・・・傾斜角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤の砥石台に回転軸線回りに回転駆動可能に軸承された砥石軸に装着されるコアに、超砥粒を含む砥粒層と、下地層からなる複数の砥石チップが貼付され、前記砥粒層に形成された研削面が前記研削盤の工作物支持装置に回転駆動可能に支承された工作物を研削点で当接して研削加工する砥石の製造方法において、
超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層の内側に、下地粒子と結合剤とを混合した下地層を重ねて一体的に円弧状にプレス成型して焼成前砥石チップを形成するとともに、焼成前砥石チップの砥粒層に複数の凹部を形成し、
該凹部が形成された焼成前砥石チップを焼成して焼成後砥石チップを形成し、
該焼成された砥石チップを複数個、前記コアに貼付することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、該傾斜溝は、前記焼成前砥石チップの前記砥粒層に機械加工により刻設されたものであることを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記傾斜溝を前記砥粒層に前記研削面から前記下地層に至るまで機械加工によって刻設することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、工具を前記焼成前砥石チップに対して前記傾斜溝の傾斜角度方向に直線送りすることにより前記傾斜溝を前記砥粒層に機械加工によって刻設することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、
前記プレス成型時にて、
前記砥石チップを成形するプレス成形型の研削面成形部表面に、カーボン製又は樹脂製の複数の傾斜溝成形板を、成型される前記砥石チップが前記コアに貼付されたときに砥石周方向となる方向に対して夫々傾斜するよう立設し、
前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体を充填し、下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体を前記砥粒層用粉体に重ねて充填し、
前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを、形成される下地層が傾斜溝成形板によって分離されないように一体的にプレス成型し、
該プレス成型により砥粒層と下地層とが一体に形成され、前記複数の傾斜溝成形板が少なくとも前記砥粒層を貫通している状態の焼成前砥石チップをプレス成形型から離型し、
前記焼成時にて、
前記焼成前砥石チップを焼成する間に前記傾斜溝成形板を焼失させて砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が前記砥粒層に設けられた焼成後砥石チップを形成することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項6】
請求項1において、前記凹部は、砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝であって、
前記プレス成型時にて、
前記砥石チップを成形するプレス成形型の研削面成形部表面に、金属製の複数の傾斜溝成形板を、成型される前記砥石チップが前記コアに貼付されたときに砥石周方向となる方向に対して夫々傾斜するよう立設し、
前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体を充填し、下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体を前記砥粒層用粉体に重ねて充填し、
前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを、形成される下地層が傾斜溝成形板によって分離されないように一体的にプレス成型し、
該プレス成型によって一体に形成された砥粒層と下地層とを離型するとともに前記複数の傾斜溝成形板を前記砥粒層より除去することにより砥石周方向に対して傾斜する傾斜溝が前記砥粒層に設けられた前記焼成前砥石チップを形成することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項7】
請求項1において、前記凹部は、研削面に開口する穴状凹部であって、
前記プレス成型時にて、
前記砥石チップを成形するプレス成形型にカーボン製又は樹脂製の複数本のピン部材を突設し、
前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体及び下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体のいずれか一方を充填し、前記砥粒層用粉体及び前記下地層用粉体いずれか他方を重ねて充填し、
前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを一体的にプレス成型し、
該プレス成型によって砥粒層と下地層とが一体に形成され、前記複数本のピン部材が少なくとも前記砥粒層を貫通している状態の前記焼成前砥石チップを前記プレス成形型から離型し、
前記焼成時にて、
前記焼成前砥石チップを焼成する間に前記ピン部材を焼失させて、前記砥粒層に、研削面に開口する複数の穴状凹部が形成された前記焼成後砥石チップを形成することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。
【請求項8】
請求項1において、前記凹部は、研削面に開口する複数の穴状凹部であって、
前記プレス成型時にて、
前記砥石チップを成形するプレス成形型に金属製の複数本のピン部材を突設し、
前記プレス成形型に、複数の超砥粒と結合剤とを混合した砥粒層用粉体及び下地粒子と結合剤とを混合した下地層用粉体のいずれか一方を充填し、前記砥粒層用粉体及び前記下地層用粉体のいずれか他方を重ねて充填し、
前記砥粒層用粉体と前記下地層用粉体とを一体的にプレス成型し、
該プレス成型によって一体に形成された砥粒層と下地層とを前記プレス成形型より離型するとともに前記複数本のピン部材を砥粒層より除去することにより、前記砥粒層に、研削面に開口する複数の穴状凹部が形成された前記焼成前砥石チップを形成することを特徴とする凹部入り砥石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−210707(P2012−210707A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148994(P2012−148994)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【分割の表示】特願2007−162934(P2007−162934)の分割
【原出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(591043721)豊田バンモップス株式会社 (29)
【Fターム(参考)】