説明

分割転がり軸受

【課題】分割内輪を締結手段で締結した際に、両分割内輪の割り口に隙間が生じないようにする。
【解決手段】複列式自動調心軸受の分割内輪1の割り口3に、対向する分割内輪1の割り口3同士を突合せた際に締結輪4を設ける位置において隙間gの幅が極大となるようにテーパ面を形成する。このテーパ面の傾斜角度を0度よりも大きく0.06度以下の角度範囲とすることで、締結輪4で締結した際に、この割り口3が隙間なく閉塞する。このため、軌道面が滑らかなものとなって転動体の円滑な転動を確保することができる。両分割内輪1を連結する手段として、他にキー方式6、7、8、9や締付けバンド13を採用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分割内輪を有する分割転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な転がり軸受は、内外輪間にその周方向全周に亘り転動体を介在し、その各転動体を保持器で所定間隔に隔離した構成となっている。この転動体が軌道輪の軌道面を転動することにより、両軌道輪が円滑に相対回転し得るようにしている。
【0003】
上記転がり軸受の組み込みに際して、その軸受の左右両側に隣接する部品等が設けられていると、その組み込み性が低下する恐れがある。これを防止するために、軸受の内外輪を複数に分割して組み込み性を確保するようにすることがある。
【0004】
例えば、図9に示すように内輪を分割した場合においては、図10に示すように、この分割内輪1の中鍔5等に締結輪4等の締結手段を設け、締付けねじ14を締付けて各分割内輪1、1を締結して回転軸(図示せず)に固定する。この固定を確実に行い得るようにするため、分割内輪1の内径は、上記回転軸の外径よりも僅かに小さく製作されている(締め代を設けてある)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記分割内輪を上記締結手段で締結するに際し、上記締め代に起因して、上記分割内輪の内径面が上記回転軸の外径面に沿うように僅かに変形する。この変形に伴って、対向する分割内輪の割り口同士が非平行となって、その間に隙間が生じる。また、その隙間の幅は軸方向に亘って均一ではなく、上記締結手段を設けた位置ではその締結力によって隙間がほとんど閉塞する一方で、上記締結手段のない位置(締結手段同士の間)では上記締結力が不足して隙間が開いたままの状態となりやすい。このように両分割内輪間に部分的に隙間が生じると、転動体の転動の際に異音や振動等の不具合が生じる恐れがある。
【0006】
そこで、この発明は、分割内輪を締結手段で締結した際に、両分割内輪の割り口に隙間が生じないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、外径面に軌道面を有する内輪と、内径面に軌道面を有する外輪と、転動体と、保持器とを備え、上記内輪を2分割するとともに、両分割内輪を締結手段で締結して回転軸に固定するようにした分割転がり軸受において、上記分割内輪の両端の割り口にテーパ面を形成し、この分割内輪のテーパ面同士を突合せて締結する際に、上記締結手段を設ける軸方向位置に対応して、両割り口の間に、隙間が極大となる部分が形成されるようにした。
【0008】
このテーパ面は、上記締結手段を設ける位置においては、対向する分割内輪同士の割り口の隙間が極大となるようにするとともに、上記締結手段を設けた位置から最も離れた位置、又は、上記締結手段の間においては、上記隙間が極小となるようにその傾斜角度を決める。
【0009】
この傾斜角度を決めるに当たっては、有限要素法(FEM)による解析手段を用いるのがコスト及び時間の両面で好ましい。このFEMによる解析では、上記テーパ面を設けない分割内輪と回転軸をモデル化し、分割内輪に設けた締結手段の位置、締め代の大きさ、分割内輪の軸方向の幅及び径方向の厚さをそれぞれパラメータとして変化させ、上記締結手段によって割り口の一部が接触した際に、その接触した部分以外の隙間の大きさ(割り口同士の間の角度)を算出する。この算出結果からその隙間を相殺する傾斜角度のテーパ面、つまり、上記締結手段を設ける位置において、非締結時における隙間が極大となるようにテーパ面を予め形成しておくことで、上記締結の際に、上記位置において締結力が作用するため両割り口が隙間なく閉塞する。
【0010】
この分割内輪として、軌道面が単列のものや複列のもの等、種々の形式のものに対応し得るとともに、上記締結手段を設ける位置は、外鍔、中鍔、その両鍔、あるいは、鍔部がない分割内輪にあっては端面部等であって、特に限定されない。いずれの位置に上記締結手段を設ける場合であっても、その位置において、上記隙間が極大となるようにテーパ面を予め形成しておけば、割り口が隙間なく閉塞する作用を発揮し得るからである。
【0011】
上記テーパ面の軸方向への傾斜角度は、上記FEMにより適宜決めることができるが、特に、0度より大きく0.06度以下の角度範囲から決定することが好ましい。この傾斜角度範囲内とすることにより、締結手段の位置(外鍔、中鍔、又はその両鍔)に拘らず、締結後に両割り口が隙間なく閉塞し得るからである。
【0012】
上記締結手段を、上記両突合せ部分の双方に形成したキー溝と、両キー溝にそれぞれ嵌めた楔片と、両楔片にねじ込まれたねじとで構成し、上記ねじの両楔片へのねじ込みによってその両楔片を上記キー溝に楔状に食い込ませ、対向する突合せ部分側に引き寄せるようにすることができる。この楔片による対向する突合せ部分の引き寄せ効果によって、割り口が隙間なく閉塞し得る。
【0013】
このキー方式による締結手段は、内輪の転動面以外の所望の位置、例えば、鍔部や軸方向端面部等に設けることができる。このキー溝に設ける楔片は、このキー溝から突出せず、軸受を構成する他の部材と干渉する恐れが低いからである。
【0014】
上記締結手段が、分割内輪の全周に亘って嵌められた締付バンド又は締結輪とすることもできる。この締付けバンド等は、転動体の転動に影響しないように、例えば、外鍔や中鍔に設けることができる。この締付けバンド等によって、上記キー方式と同様に、締結後に両割り口を隙間なく閉塞し得る。
【0015】
また、分割転がり軸受を自動調心ころ軸受とすることができ、この自動調心ころ軸受を風力発電機の主軸支持構造に採用することもできる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、分割内輪の割り口にテーパ面を形成し、締結手段を設ける位置に予め隙間を設けておくことにより、両分割内輪を締結した際に、両割り口の間に隙間が生じないようにした。このため、軌道面が滑らかなものとなって転動体の円滑な転動を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
複列式の分割転がり軸受に用いる分割内輪1の要部を図1に示して説明する。この分割内輪1は図9において説明した周方向に2分割した形態のものである。この分割内輪1は、外鍔2のみに締結手段を設けて締結を行うものであって、この割り口3にテーパ面(傾斜角度θ1)を形成して、締結手段を設ける部分でこのテーパ面による隙間gが極大となるように設計してある(同図(a)参照)。
この傾斜角度θ1は、0度よりも大きく0.06度以下の範囲内であって、分割内輪1の締め代の大きさ、軸方向の幅及び径方向の厚さによって適宜変更する。例えば、締め代が0.030mm、軸方向の幅が30mm、径方向の厚さが15mmの場合は、傾斜角度θ1は0.021度となる。
【0018】
両分割内輪1、1を外鍔2に設けた締結輪4で締結すると、両割り口3、3が隙間なく閉塞する(同図(b)参照)。
【0019】
上記の各実施形態においては、テーパ面の軸方向の傾斜角度のみを考慮してFEMによる解析を行い、予め設けるべき傾斜角度を決定したが、同様にテーパ面の径方向の傾斜角度も考慮してFEMによる解析を行うようにすることもできる。このように、両方向の傾斜角度を考慮することにより、割り口3同士の間の隙間gの閉塞度合いを一層高め得る。
【0020】
複列式の分割転がり軸受に用いる分割内輪1の他の実施形態を図2に示して説明する。この分割内輪1は、外鍔2及び中鍔5の両鍔に締結手段を設けて締結を行うものであって、この割り口3にテーパ面(傾斜角度θ2及びθ3)を形成して、締結手段を設ける部分でこのテーパ面による隙間gが極大となるように設計してある(同図(a)参照)。
この傾斜角度θ2、θ3は、いずれも0度よりも大きく0.06度以下の範囲内であって、上記と同様に、分割内輪1の締め代の大きさ、軸方向の幅及び径方向の厚さによって適宜変更する。例えば、締め代が0.030mm、軸方向の幅が30mm、径方向の厚さが15mmの場合は、傾斜角度θ2、θ3はそれぞれ0.007度、0.021度となる。
【0021】
両分割内輪1、1を両鍔2、5に設けた締結輪で締結すると、上記と同様に、両割り口3、3が隙間なく閉塞する(同図(b)参照)。
【0022】
この締結手段として、締結輪4のみならず、キー方式や締付けバンドによる方法も採用し得る。
【0023】
上記キー方式は、図3乃至図5に示すように、突合せる両分割内輪1、1に形成したキー溝6と、キー溝6に嵌めたキー7とで構成したものである。このキー7は2個の楔片8、8をねじ9で連結したものであって、このねじ9はその中間を境に逆ねじとなっている(図4(b)及び図5(b)参照)。このため、このねじ9をねじこむことにより、両楔片8、8をそれぞれ反対方向に移動することができ、それによって両楔片8、8の間の隙間(割り口3)を閉塞し得る。また、両楔片8、8には、ねじ9の長さ方向中央に向かうほど楔片8断面が小さくなる傾斜面10が形成されている。
【0024】
その一方で、キー溝6内にはキー当接片11を形成してあって、キー7をキー溝6の開口からこのキー溝6内に嵌め入れた際に、このキー当接片11がキー7の傾斜面10に当接するようにしている。このキー7に設けたねじ9をねじ込んで両楔片8、8の間の隙間を小さくすると、この傾斜面10によって両分割内輪1、1に形成した当接片11同士が接近又は当接して、両分割軌道輪1、1の割り口3の隙間gが狭まる。このねじ9は中鍔5に形成した貫通孔12に工具を挿し込んで回せるようになっている。
【0025】
このキー7等を用いた締結手段は、転動体の転動に影響を及ぼさない限りにおいて、外径面側(図3及び図4参照)又は内径面側(図5参照)のいずれにも採用し得る。この締結手段はキー溝6内に収納されて、このキー溝6外に突出せず、軸受の他の構成部品と干渉する恐れが低いからである。
【0026】
また、図6に示す締付けバンド13は、締結輪4と同様に両分割内輪1、1に巻き付けて締結するものであって、締結輪4と同様の作用を有する。
【0027】
これらの締結方法は、その取り付け位置(外鍔2、中鍔5、あるいは、軸方向端面部)に対応して適宜選択することができ、図7及び図8に示すように、異なる締結方法を組み合わせて採用することもできる。またこれら以外にも、分割内輪1を強固に締結し得るものであれば、他の締結手段も採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る分割内輪の要部であって、(a)締結前を示す正面図、(b)締結後を示す正面図
【図2】この発明の他の実施形態に係る分割内輪の要部であって、(a)締結前を示す正面図、(b)締結後を示す正面図
【図3】(a)キー方式(外径面側)による分割内輪の締結を示す要部斜視図、(b)キー方式(外径面側)による分割内輪の締結を示す要部正面断面図
【図4】(a)キー方式(外径面側)による分割内輪の締結を示す要部正面図、(b)キー方式(外径面側)による分割内輪の締結を示す要部側面断面図
【図5】(a)キー方式(内径面側)による分割内輪の締結を示す要部斜視図、(b)キー方式(内径面側)による分割内輪の締結を示す要部側面断面図
【図6】締付けバンドによる分割内輪の締結を示す要部正面図
【図7】(a)キー方式及び締結輪による分割内輪の締結を示す要部正面図、(b)キー方式及び締結輪による分割内輪の締結を示す要部正面断面図
【図8】キー方式及び締結輪による分割内輪の締結を示す要部正面図
【図9】一般的な分割内輪を示す斜視図
【図10】(a)分割内輪の締結輪での締結を示す分解斜視図、(b)分割内輪の締結輪での締結を示す要部側面断面図
【符号の説明】
【0029】
1 分割内輪
2 外鍔
3 割り口
4 締結輪
5 中鍔
6 キー溝
7 キー
8 楔片
9 ねじ
10 傾斜面
11 当接片
12 貫通孔
13 締付けバンド
14 締付けねじ
g 隙間
θ1、θ2、θ3 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に軌道面を有する内輪と、内径面に軌道面を有する外輪と、転動体と、保持器とを備え、上記内輪を2分割するとともに、両分割内輪(1、1)を締結手段で締結して回転軸に固定するようにした分割転がり軸受において、
上記分割内輪(1)の両端の割り口(3)にテーパ面を形成し、この分割内輪(1)のテーパ面同士を突合せて締結する際に、上記締結手段を設ける軸方向位置に対応して、両割り口(3、3)の間に、隙間(g)が極大となる部分が形成されるようにしたことを特徴とする分割転がり軸受。
【請求項2】
上記テーパ面の軸方向への傾斜角度(θ1、θ2、θ3)が、0度より大きく0.06度以下であることを特徴とする請求項1に記載の分割転がり軸受。
【請求項3】
上記締結手段を、上記両突合せ部分の双方に形成したキー溝(6)と、両キー溝(6)にそれぞれ嵌めた楔片(8)と、両楔片(8、8)にねじ込まれたねじ(9)とで構成し、上記ねじ(9)の両楔片(8、8)へのねじ込みによってその両楔片(8、8)を上記キー溝(6、6)に楔状に食い込ませ、対向する割り口(3)側に引き寄せるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の分割転がり軸受。
【請求項4】
上記締結手段が、分割内輪(1)の全周に亘って嵌められた締付バンド(13)又は締結輪(4)からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の分割転がり軸受。
【請求項5】
自動調心ころ軸受であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の分割転がり軸受。
【請求項6】
風力発電機の主軸支持構造に用いたことを特徴とする請求項5に記載の分割転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−192003(P2009−192003A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34682(P2008−34682)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】