説明

分子を検出する半導体デバイスを形成する方法ならびに分子を検出する集積回路、クロマトグラフィ・デバイス及び半導体デバイス

【課題】 1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイス、クロマトグラフィ・デバイス及び集積回路、ならびに少なくとも1つの分子を検出する半導体デバイスを形成する方法を提供する。
【解決手段】 例えば、1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスは、半導体構造体内に形成されるチャネルと、半導体構造体内に形成される少なくとも1つの検出器とを含む。少なくとも1つの検出器は、チャネル内の1つ又は複数の分子を検出する。半導体構造体は、任意選択で、半導体構造体内に形成される1つ又は複数の追加的なチャネルを備えることができる。半導体デバイスは、例えば単一の分子を検出するように動作可能であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に分子の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行する小規模システムに関し、より詳細には半導体構造体内に形成される平面ナノチャネルに関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィは混合物の分離技術である。混合物は、二種以上の成分、例えば二種以上の異なる分子又は化学的化合物を含む可能性がある。混合物は更に、二種以上の成分(溶質)を可溶化する溶媒も含む可能性がある。クロマトグラフィにおいて、溶解混合物は移動相として知られる。移動相及び固定相という用語に関して本明細書で使用する「相」とは、物質の物理的に区別可能な形態を指すことに留意されたい。移動相は、物質(即ち溶解混合物)の動き又は移動度を示す。固定相は、固定相の物質が移動的でないことを示す。クロマトグラフィでは、固定相を移動相が通過するようにさせる。固定相は、クロマトグラフィを実行するデバイス(クロマトグラフィ・デバイス)の一部であり、移動相と固定相との間の示差区分(differential partitioning)に基づいて、測定対象の検体を混合物中の他の成分から分離する。クロマトグラフィの固定相に注入された試料混合物中の各成分は、それぞれの固定相との相互作用の強さに応じて異なる距離だけ移動する。クロマトグラフィ・チャネル内における単一の分子又は他の成分の保持時間は、分子又は他の成分の疎水性やサイズ等の各種特性を示す。更に、クロマトグラフィ・チャネルを通過した特定の成分の固有遅延時間を使用して当該成分を同定することもできる。
【0003】
クロマトグラフィ技術は、製剤の精製と分析アッセイの両方に有用であるためライフ・サイエンス分野の研究に不可欠である。クロマトグラフィ・デバイスに結合される検出器は、溶出ピーク発生までの保持時間に対してプロットされる信号を生成することができる。かかるピークを分析することによりクロマトグラフィ・デバイスに注入された混合物の構成を判定することができる。また、成分が異なればクロマトグラフィ・デバイスの固定相内の保持時間も異なるので、異なるピーク溶出中に溶出液を個別に回収することにより異なる成分及び分子を分離することが可能となる。
【0004】
クロマトグラフィ技術は、固定相の構造、形状及び向きに応じて異なる。カラム・クロマトグラフィではパックド・カラム、即ち、しばしば樹脂又はビード・マトリックスとされる固定相が詰め込まれた管体が利用される可能性がある。一方、カラム・クロマトグラフィではオープン・カラム、即ち、それ自体の内壁に結合(共有結合)された固定相と、それ自体の長さ全体にわたって遮断されない開口とを有する管体が利用される可能性もある。固定相を通過する各成分の移動速度の差は、異なるタイプの成分の保持時間の差に対応する。
【0005】
平面クロマトグラフィは、固定相が平面上に存在する分離技法である。平面クロマトグラフィ・デバイスの固定相を通過する移動相中に存在する各成分について、成分毎に異なる移動速度を観察することによる混合物の分析が利用可能である。薄層及びペーパー・クロマトグラフィは広範且つ多様な用途で実施されている。平面クロマトグラフィでは、固定相が特殊なクロマトグラフィ・ペーパーであることも、シリカ・ゲル、アルミナ、セルロースのような不活性物質の薄い平坦な層であることもある。ペーパー・クロマトグラフィでは試料が有極性のセルロイド物質に塗布され得る。溶媒がペーパーに塗布される。溶媒がペーパーを上って行くと試料混合物に達する。試料混合物中の各成分が溶媒と共にペーパーを上って行くが、極性が弱い成分ほど先に進む。移動相の状態は様々であり、気体と液体の両方の移動相を使用するクロマトグラフィ・プロセスも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,351,648号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の原理は、例えば1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイス、クロマトグラフィ・デバイス及び集積回路ならびに1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスを形成する方法を提供する。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスは、半導体構造体内に形成されるチャネルと、半導体構造体内に形成される少なくとも1つの検出器とを備える。少なくとも1つの検出器は、チャネル内の1つ又は複数の分子を検出する。半導体構造体は、任意選択で、半導体構造体内に形成される1つ又は複数の追加的なチャネルを備えることができる。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、1つ又は複数の分子を検出するクロマトグラフィ・デバイスが提供される。クロマトグラフィ・デバイスは、上記の半導体デバイスを備える。クロマトグラフィ・デバイスは、複数の成分の混合物から少なくとも1つの成分を分離すること、又は複数の成分の混合物中の少なくとも1つの成分を検出すること、あるいはその両方を実行するように動作可能である。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、1つ又は複数の分子を検出する集積回路が提供される。集積回路は、上記の半導体デバイスと、該半導体デバイスの少なくとも1つの検出器に結合されたプロセッサ・デバイスとを備える。少なくとも1つの検出器は、チャネル内の1つ又は複数の分子を検出し、1つ又は複数の分子の検出に応答して信号を生成する。プロセッサ・デバイスは、少なくとも部分的にこの信号に基づいて出力を生成するように動作可能である。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスを形成する方法は、半導体構造体内に少なくとも1つのチャネルを生成するステップと、半導体構造体内に少なくとも1つの検出器を形成するステップとを含む。少なくとも1つの検出器は、チャネル内の1つ又は複数の分子を検出する。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、上記の半導体デバイスは、単一の分子及び2つ以上の分子の検出、同定又はカウントあるいはこれらのすべてを実行するように動作可能である。
【0013】
有利なことに、本発明の原理は、例えば少量の材料ならびにより小さい分子及び成分に対する感度が高く、高圧の流体も関連するポンプも必要とせず、統合された検出器を有し、したがって測定値の正確度を低下させるおそれがある遠隔検出が回避される、分子の検出、定量化又は同定あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)を提供する。
【0014】
本発明の例示的な実施形態に関する以下の詳細な説明を添付図面と併せて読めば、本発明の上記及び他の特徴、目的及び利点が明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図2】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図3】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、2つの電極とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図4】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、2つの電極とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図5】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、ナノチャネルに結合された光検出器とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図6】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、ナノチャネルに結合された光検出器とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図7】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、ナノチャネルに結合された伝導体とを備える、本発明の一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図8】ナノチャネルと、ナノチャネルに結合された試料入口と、ナノチャネルに結合された出口と、ナノチャネルに結合された伝導体とを備える、本発明の一実施形態によるナノチャネル・デバイスを示す図である。
【図9】複数の略平行なナノチャネルと、伝導体と、共通の試料入口と、共通の出口とを備える、本発明の一実施形態による例示的なマルチチャネル・ナノチャネル・デバイスの上面図である。
【図10】少なくとも2つの断面積を有するナノチャネルと、試料入口と、出口とを備える、本発明の一実施形態によるナノチャネル・デバイスの断面図である。
【図11】本発明の一実施形態に従って1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスを形成する方法を示すフロー図である。
【図12】ナノチャネル・デバイスと、プロセッサ・デバイスとを備える、本発明の一実施形態による集積回路等の半導体デバイスを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態による例示的なパッケージ集積回路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、シリコン、ガリウム砒化物又は他の半導体に数十ナノメートル(nm)幅のスケールで直接形成される平面ナノチャネルに関する例示的なシングルチップ実施形態が、1つ又は複数の分子の検出あるいは1つ又は複数の分子からの電流の検出を可能にする集積デバイスを備える文脈において、本発明の原理について説明する。しかしながら、本発明の技術は添付図面に図示し本明細書に記載した特定の装置及び方法に限定されるものではないことを理解されたい。そうではなく、本発明の原理は、分子及び化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するナノスケール・デバイス及び技術(例えばクロマトグラフィ・デバイス及び技術)に広範に適用されるものである。このため、図示の実施形態には様々な修正を施すことが可能であり、そのような修正形態も本発明の範囲に含まれる。本明細書に記載した特定の実施形態によって本発明を限定することは本出願人の意図するところではなく、そのように解釈すべきでない。
【0017】
本明細書で使用する「近接」又は「〜に近接」という表現は、必ずしもそれだけに限定されるわけではないが、「〜に当接」、「〜に接触」及び「〜と動作可能に接触」という意味を含む。特に、ナノチャネル、半導体又は半導体内に形成されるデバイスあるいはこれらのすべてに関して、「近接」又は「〜に近接」とは、必ずしもそれだけに限定されるわけではないが、「〜と電気的に結合される」という意味を含み得る。本明細書で使用する「〜に当接」という表現は、必ずしもそれだけに限定されるわけではないが、「〜に近接」という意味を有する。
【0018】
本明細書で使用する「電極」という用語は、回路の非金属部分との接触をとるのに使用される導電体(例えば半導体又は他の非金属導電体)を指す。伝導体420について「伝導体」という用語を使用しているのは伝導体420を電極210と区別するためであるが、広義には伝導体420を電極と考えてもよい。
【0019】
本明細書で使用する「分光測光法」という用語は、電磁スペクトルの定量化可能な検査を指す。分光測光法は可視光、近紫外光及び近赤外光を扱う点で、より一般的な電磁分光法に比べて特有な用語である。分光測光法は分光測光器を使用して実行することができる。分光測光器は、光検出器又は光度計(即ち光強度を測定するデバイス)からの入力を含む又は有する。分光測光器は、光強度を光の色又は波長の関数として測定することができる。分光測光器は、光検出器によって検出される光を提供する光源に対する出力を含む又は供給する。分光測光器の一般的な応用例は吸光度の測定である。
【0020】
ライフ・サイエンス分野で応用される小規模クロマトグラフィに適したいくつかの構造が存在する。従来のクロマトグラフィ・デバイスはしばしば使用しづらく、生物学的材料のような少量の材料に対する感度が低いことがある。例えば、従来のクロマトグラフィ技術では、高圧の流体及びポンプを、詰まり(clog)の原因となり測定値のばらつきを招くおそれがある別個の分離及び検出デバイスに結合する必要が生じ得る。クロマトグラフィ・デバイスは小型化及び高集積化の傾向にあるが、従来のクロマトグラフィ分離デバイスは最小のものでも典型的には数百ミクロン・スケールであり、別個の検出システムに結合される。
【0021】
本発明の諸実施形態は1つ又は複数の平面ナノチャネルを含み、これらの平面ナノチャネルはそれぞれデバイスのシリコン・ウェハのような基板の平面内に置かれる直径数ナノメートル程度の細い管体を有する。管体には任意選択でデバイスの用途に応じた追加的な材料を充填してもよい。管体は、本明細書に記載するセンサ、電極又は光源とインターフェースをとるために特別に作製された開口を除いて、管体の長さに沿って入出力開口以外の追加的な開口を有さない。ウェハの平面にチャネルを有することにより、基板又はシリコン・ウェハ上又は基板又はシリコン・ウェハ内の電子デバイスとのインターフェースを容易にとることが可能となる。ナノチャネルは、例えば平面ナノチャネルであってよいことを理解されたい。一方、ナノチャネルは、基板の平面内ではなく基板の平面に対して傾斜した平面内に置いてもよく、また単一の幾何学的平面内に置かれない湾曲形状又は他の何らかの形状を有してもよい。
【0022】
本発明の例示的な原理は、1つ又は複数のナノチャネルを通過する分子又は分子タイプの検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを対象とする。1つ又は複数の分子の定量化及び同定は、1つ又は複数の分子の検出を含む可能性があることに留意されたい。即ち、1つ又は複数の分子をカウント又は同定するにあたって1つ又は複数の分子を検出することが必要になる可能性もある。
【0023】
以下、1つ又は複数の分子の定量化、同定、分離又は検出あるいはこれらのすべてを実行する平面ナノチャネルのいくつかの実施形態について説明する。本発明の例示的な実施形態は、必ずしもそれだけに限定されるわけではないが、i)分子のオンチップ定量化、同定、分離又は検出あるいはこれらのすべてを実現するナノチャネル、ii)ナノチャネル構造体と検出コンポーネントとの直接統合(direct integration)を有する平面シリコン・デバイス、iii)分子選択の通過レートの電子変調用ナノチャネル、及びiv)超並列処理を可能にし、その分ロバスト性及び感度を高める小型性とを含む。
【0024】
単なる例示として、ナノチャネルの実施形態は、混合物の成分(例えば分子又は化合物)の同定又は定量化あるいはその両方を実行することができる。ナノチャネルによる成分の同定及び定量化の1つの例示的な手法は、後で定量化する成分のクロマトグラフィ分離を使用する。この場合は個々の分子をカウントする必要はない。混合物又はその一部がナノチャネルを通過する際の電流を感知することができる。この電流は、ナノチャネル内を流れる混合物又はその一部に含まれる様々な成分の量と相関する。一方、クロマトグラフィと考えられない手順では個々の分子がナノチャネル内を通過する可能性がある。これらの分子がどのように通過するかに基づいて、分子のカウント又は同定あるいはその両方が実行され得る。この手順はクロマトグラフィ分離を有さない。
【0025】
本発明の例示的な一特徴は、単一の分子又は成分を検出するのに十分小さい直径(例えば約100nm未満)を有するナノチャネル(例えばクロマトグラフィ・デバイス内のキャピラリー・ナノチャネル)である。本発明の別の例示的な特徴は、複数の成分の混合物から少なくとも一種の成分を分離するように動作可能な、本発明の諸実施形態によるナノチャネル・デバイスである。
【0026】
本発明の半導体製造技術の実施形態は、集積回路、光検出器、微小電気機械システム(MEMS)及び他の半導体デバイス(例えば電界効果トランジスタを含めたトランジスタ、キャパシタ、インダクタ、レジスタ及び相互接続)の製造に使用される超大規模集積回路(VLSI)製造方法と互換性を有し得る。
【0027】
このような技術を使用して半導体構造体内にナノチャネルを形成することができる。米国特許第7,351,648号には、半導体内のナノチャネル形成に使用可能なVLSI互換方法が記載されている。
【0028】
本発明の原理によれば、様々な検出デバイスの少なくとも一部分を、ナノチャネル(例えばキャピラリー・クロマトグラフィ・ナノチャネル)の周辺に又はナノチャネルに近接して、半導体構造体に統合することが可能となる。検出デバイスは、例えば特定のクロマトグラフィ・プロセスで望まれる光源、光検出器、電流測定デバイス又は他のセンサを含むことができる。ナノチャネルを備える半導体構造体に検出デバイスを統合することにより、クロマトグラフィ・カラム又はチャネルと別個の検出デバイスとの結合に関連する問題が回避される。例えば、結合、詰まり及び測定値のばらつきを招くことに関連する問題を回避することができる。
【0029】
ナノチャネルに入力された混合物又はその一部分を蓄積又はプールする構造体を有するナノチャネルを形成することができる。プールされた混合物又はその一部分の光学的測定を行うことができる。蓄積又はプールを行う構造体は、例えばナノチャネルの別の部分より大きい(例えば約2倍より大きい)断面を有するナノチャネルの一部分としてもよい。例えば、ナノチャネルの長さに沿って異なる直径を有するナノチャネルを形成することができる。ナノチャネルのより大きい直径区間により検体(例えば検出又は測定対象の検体)を蓄積又はプールし、半導体内のナノチャネルに近接して形成される光検出器又は他の検出デバイスとの結合を良くすることができる。別法として、ナノチャネルは、混合物又はその一部分のプールを含む基板内の他の構造体に結合させてもよい。プール内の検体の光学的測定を行うことができる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、分子のタイプを特定し、又はナノチャネルを通過する分子の数をカウントし、あるいはその両方を行うために、1つ又は複数の分子がナノチャネル又はナノチャネルの一部分を通過する飛行時間を使用する。ある検出器(例えば光検出器及び対応する光源)により、ナノチャネル又はナノチャネルの一部分に入る1つ又は複数の分子を検出し、別の検出器により、ナノチャネル又はナノチャネルの一部分から出る1つ又は複数の分子を検出するようにしてもよい。1つ又は複数の分子がナノチャネル又はナノチャネルの一部分を通る通過時間(即ち飛行時間)は、検出器の出力信号から判定することができる。例えば、これらの出力信号から、各分子が個別にナノチャネル内又はナノチャネルの一部分内を移動するのに要する時間を判定することができる。
【0031】
ナノチャネル又はナノチャネルの一部分の入口側及び出口側での各分子の個別検出は、分子のカウント(定量化)及び飛行時間情報による分子の同定を可能にする。例えば、分子のタイプは、当該分子の飛行時間と様々なタイプの分子の既知の又は所定の飛行時間とを比較することにより同定することができる。
【0032】
別法として、チャネル内の2地点(例えばチャネル入口とチャネル出口、又はチャネル内部の2地点)で電極又は導電体に結合された電流測定デバイスを備える検出器が、ナノチャネル又はナノチャネルの一部分を通る移動時間(又はナノチャネル内又はナノチャネルの一部分内の保持時間)を判定する、したがって分子のタイプを判定する情報を提供するようにしてもよい。また、この検出器は、ナノチャネルを通過する分子の数をカウントする情報を提供してもよい。図3及び図4に示すナノチャネル・デバイス200、図5及び図6に示すナノチャネル・デバイス300ならびに図7及び図8に示すナノチャネル・デバイス400は、飛行時間を使用して分子のタイプを同定し、ナノチャネルを通過する分子の数を定量化(例えば分子のタイプにより定量化)することができる。
【0033】
上述の技術を使用して、分子又は混合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行する、多数のナノチャネルを備えるデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)を形成することができる。単なる例示として、本発明の一実施形態は、集積回路の形成又は検出器(例えば光検出器)の形成あるいはその両方と互換性のある製造技術を使用して形成される数百又は数千の並列ナノチャネルを有する構造体を備える。半導体デバイス内のナノチャネルを単一の平面又は複数の平面上に形成して、統合ナノチャネルの数を増加させることができる。更に、並列ナノチャネル又は平面ナノチャネルあるいはその両方のナノチャネル間の距離を増加させて、隣接する2つのナノチャネルに関連する検出デバイス間のクロストークを最小限に抑えることもできる。
【0034】
図1〜図11は、ナノチャネル(例えばナノチャネル140)を備え、半導体構造体(例えば半導体構造体110)又は基板内に形成されるナノチャネル・デバイスを例示する。ナノチャネル・デバイスは半導体デバイスである。図1、図3、図5、図7及び図9は、例示的なナノチャネル・デバイスの上面図である。ナノチャネル・デバイスは、軸A‐Bに沿って半導体構造体110内に形成されたナノチャネルを備える。図2、図4、図6、図8及び図10は、ナノチャネル・デバイスの断面図である。各断面は、ナノチャネルの軸A‐B、即ち3つのナノチャネルの軸A1‐B1、軸A2‐B2及び軸A3‐B3を含む。半導体構造体110はシリコンを含んでもよい。図6及び図10の断面図に示すように、複数の層(例えば図6の層110A、110B及び110C)を有する半導体構造体110を形成することができる。別法として、半導体構造体110は、例えばエッチングによって各種構造体が形成される単一の半導体ブロックを備えてもよい。半導体構造体の処理及び半導体層を備える半導体構造体の形成は当業界でよく知られている。
【0035】
1つ又は複数のナノチャネルを備えるクロマトグラフィ・デバイスは、複数の成分の混合物から少なくとも一種の成分を分離し、又は複数の成分の混合物から少なくとも一種の成分を検出し、あるいはその両方を実行するように動作可能であってよい。本発明の諸実施形態によるナノチャネル・デバイスは、例えばクロマトグラフィ・デバイスの少なくとも一部であってもよい。
【0036】
半導体デバイスは、ナノチャネル・デバイスに加えて、トランジスタ、キャパシタ、インダクタ、レジスタ、機能デバイス、プロセッサ(例えばプロセッサ・デバイス)及び回路ならびに例えばナノチャネル・デバイスと併用可能なシステムのいずれかを含み得るMEMS及び電子デバイスも備えることができる。ナノチャネル・デバイスと、任意選択でMEMS又は電子デバイスあるいはその両方は、集積回路又はVLSI回路処理として知られることもある、集積回路の形成に使用される半導体処理によって形成することができる。かかる処理は当業界でよく知られている。したがって、本明細書に記載するナノチャネル・デバイス及び任意選択でMEMS又は電子デバイス(ナノチャネルに関連する検出器を含む)あるいはその両方を備える半導体構造体は、集積回路とみなすこともできる。
【0037】
半導体構造体110内に含まれる例示的な半導体デバイスは、ナノチャネル・デバイスのナノチャネルに入る単一の分子、2つ以上の分子又は混合物の成分を検出する検出器を備えてもよい。例示的な検出器としては光検出器、電流測定デバイス及び電流検出器が挙げられる。検出器は、例えば電子回路(例えばナノチャネルと共に半導体デバイスに統合される電子回路)を備えてもよい。電子回路は、例えばトランジスタ又はプロセッサ・デバイスあるいはその両方を備えてもよい。電子回路は例えば処理デバイスであってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態において、ナノチャネルは半導体構造体110内の略円筒形の構造体である。この円筒形の構造体は、円筒の軸に対して垂直な平面において円形の断面を有する。他の実施形態は、円筒以外のチャネル様又は管体様の形状を有するナノチャネル、例えばナノチャネルの軸に対して垂直方向に略正方形、矩形、楕円形、不規則な形状又は他の形状の断面を有するチャネルを備える。ナノチャネルの形状の他の例は、正立方体(即ち矩形の箱)、楕円筒又は不規則な形状の断面を有する管体である。ナノチャネルの断面、したがってナノチャネルは、断面を横切り且つ断面の平面内の最も長い寸法、例えば円形断面の直径又は矩形断面の対角線によって特徴付けることができる。本明細書で使用する「断面を横切り且つ断面の平面内の最も長い寸法」とは、ナノチャネルの特徴的寸法を指す。円筒形のナノチャネルでは、特徴的寸法は円筒の直径であり、矩形のナノチャネルでは、特徴的寸法はナノチャネルの最も長い軸に対して垂直な平面における矩形断面の対角線である。ナノチャネルは、例えば半導体構造体110の表面に対して平行な平面、又は半導体構造体110の基板の表面に対して平行な平面内に軸を有してもよい。
【0039】
一実施形態では、ナノチャネルの特徴的寸法を比較的小さくすることができ、例えば約100nm未満としてもよい。いくつかの実施形態は、約10nm未満の特徴的寸法、場合によっては約1nm未満の特徴的寸法を有する1つ又は複数のナノチャネルを備えることができる。しかしながら、本発明の諸実施形態はこのような小さい寸法に限定されるものではなく、約100nmより大きい特徴的寸法を有するナノチャネルを備えることもできる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態は、ナノチャネルの内壁の全体又は一部分に施される選択的なコーティングを備える。このコーティングは、異なる分子の区別又は差異化を強化又はサポートし、クロマトグラフィ・デバイスにおける勾配(例えば異なるタイプの分子のうちの少なくとも1つに関する濃度勾配)を改善し、分子の混合物中の成分(例えば混合物中の異なるタイプの分子)の分離を改善し、又は分子を同定する際の、ナノチャネルの少なくとも一部分を通る通過時間の判別力を改善し、あるいはこれらのすべてを実現することができる。例えば、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図8、図9、図10、図12及び図13に示すナノチャネル・デバイスがこのコーティングを有するようにしてもよい。このコーティングは、例えばナノチャネルの内壁の少なくとも一部分をコーティングする不混和液、ナノチャネルの内壁の表面の少なくとも一部分に接着される液体薄膜又はナノチャネルの内壁の少なくとも一部分をコーティングする固体膜を含むことができる。
【0041】
図1及び図2は、ナノチャネル140と、ナノチャネル140に結合された試料入口120と、ナノチャネル140に結合された出口130とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイス100を示す。ナノチャネル・デバイス100は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。試料入口120はナノチャネル140に試料を供給する。出口130は、試料(溶出液)がナノチャネル140を通過した後に試料の少なくとも一部分をチャネルから出すための部分である。
【0042】
図2には、分子の同定又は定量化あるいはその両方、又はクロマトグラフィをナノチャネル140内で実行する様子が示されている。試料の検体分子150が試料入口120に入る。少なくとも検体分子150(例えば検出、分離又は測定対象の検体分子)がナノチャネル140を通過すると、出口130から溶出液として溶出される。例示的な一実施形態では、検体分子150又はその少なくとも一部分(例えば検出、分離又は測定対象の検体)が電気的勾配によってナノチャネル140内を移動する。電気的勾配を使用して分子選択のための分子の通過速度を変調することができる。別の例示的な一実施形態では、検体分子150又はその少なくとも一部分(例えば検出、分離又は測定対象の検体)が圧力勾配によってナノチャネル140内を移動する。この勾配は、入力試料(例えば液体又は気体の入力試料)の加圧によって試料入口120から出口130まで確立される。この勾配は、分子種の対応する勾配をサイズや疎水性等の固有性質に基づいて規定する。
【0043】
図3及び図4は、ナノチャネル140と、試料入口120と、出口130と、2つの電極210とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイス200を示す。ナノチャネル・デバイス200は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。2つの電極210がナノチャネル140の両端に結合され、それぞれ試料入口120及び出口130に形成される。例示的な一実施形態では、電極210を使用してナノチャネル140に対して又はナノチャネル140の両端間に電位又は電気的勾配を印加することができる。電位又は勾配を使用してナノチャネル140内の帯電した混合物の流れを制御することができる。電気的勾配はナノチャネルの長さに沿った電場により確立される。
【0044】
電極210は、ナノチャネル140内のイオン電流を監視又は判定することによりナノチャネル140内の1つ又は複数の分子の保持時間を監視又は判定するように動作可能な電流測定デバイス(検出器)220に電気的に結合させてもよい。電流測定デバイス220は、一方の電極210(例えば出口130側の電極210)及び電圧源230に電気的に結合される。電圧源230は、他方の電極210(例えば試料入口120側の電極210)に電気的に結合される。電圧源230は、電圧を供給して電気的勾配を形成することができる。電圧源230は、電流を提供して電気的勾配を形成する電流源とみなすこともできる。
【0045】
電極210に結合される電流測定デバイス220は、一方又は両方の個別分子を、過渡電流(例えば電流スパイク)によって示される離散的な事象として、又はより連続的な電流の流れとして示されるバルク分子流(例えば複数の分子)としてカウントするように機能し得ることに留意されたい。
【0046】
電流測定デバイス220は、ナノチャネル・デバイス200と共に半導体構造体110内に統合し、ナノチャネル140に結合し、ナノチャネル140内の電流を測定するように動作可能とすることができる。電圧源は、必ずしもそうする必要はないが、半導体構造体110に統合可能である。統合される電圧源の例としては、太陽電池及び電磁誘導又は無線周波数(RF)誘導電圧源が挙げられる。
【0047】
図5及び図6は、ナノチャネル140と、試料入口120と、出口130と、ナノチャネルに結合された1つ又は複数の光検出器310とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイス300を示す。図5及び図6には、ナノチャネルの下方でナノチャネルに結合された2つの光検出器310が示されている。ナノチャネル・デバイス300は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。光検出器310は、ナノチャネル140に光学的に結合されたナノチャネル・デバイスと統合され、入口120に進入した試料に由来する検体分子(例えば検出、分離又は測定対象の検体)の光学的測定(例えば光学的レンズ・フリー測定)を実行するように動作可能である。光検出器310は、ナノチャネル140の上方又は下方に配置又は統合可能である。例示的な一実施形態において、光検出器310は、低強度信号を検出可能な単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を備えてもよい。光検出器310は、ナノチャネル140内の光又はナノチャネル140内の光の照度の変化あるいはその両方を感知することができる。光検出器310は、必ずしも集束レンズを含まなくてもよい。
【0048】
図5及び図6ではナノチャネル・デバイス300が2つの光検出器310を備えるように図示してあるが、本発明の実施形態はそのように限定されるものではない。1つの光検出器310だけを有する実施形態や3つ以上の光検出器310を有する実施形態も企図される。
【0049】
光検出器310は、例えば半導体プロセスのFEOL(front-end-of-the-line:前工程)部分として一般に知られる半導体処理の初期段階の間に、図示のとおりナノチャネルの下方に形成することができる。光検出器310は、例えばウェハ結合方法を使用してナノチャネルの上方に形成することもできる(ナノチャネルの上方の光検出器310の図示は省略)。光検出器310は、図6に示すとおり、光検出器310とナノチャネル140との間に半導体材料を有すること、又はナノチャネル140の壁部の一部を形成することができる。光検出器310とナノチャネル140との間の半導体材料は、ナノチャネル140と光検出器310との間を光が通過できるようにすることができる。
【0050】
単なる非限定的な例として、1つ、2つ又は3つ以上の光源311によって光をナノチャネルに導入することができる。図5及び図6に示すように、光源311は、ナノチャネル140の上部に結合させ、ナノチャネル140を隔てて光検出器310の略真向かいの位置に配置することができる。光源311は、光検出器310によって検出される光を提供することができる。この光がナノチャネル140内の検体を通過するようにしてもよい。図5及び図6に示されるように、2つの光検出器310がナノチャネル140の下部に結合され、2つの光源311がナノチャネル140の上部に結合され、各光源311がナノチャネル140を隔てて光検出器310の略真向かいの位置に配置された状態で、ナノチャネル140の2つの部分が光源311によって照射される。この光はナノチャネル140内の検体を通過した後に対応する光検出器310によって検出される。光検出器310及び光検出器310によって検出される照度を提供する対応する光源311は、検出器ユニット若しくは光学検出器ユニット、又は単純に光学検出器若しくは検出器とみなすこともできる。
【0051】
一例として、一方又は両方の光源311が分光測光器から又は分光測光器に関連して光を提供することができる。光源311は、分光測光器の一部に結合すること又は分光測光器の一部とみなすことあるいはその両方が可能である。光検出器310は、分光測光器に結合すること、分光測光器の少なくとも一部に入力を提供すること、又は分光測光器の光感知部(即ち光検出器)とみなすこと、あるいはこれらのすべてが可能である。
【0052】
別の例として、各光源をレーザとすることもできる。ナノチャネル・デバイスは更に、光源311(例えば分光測光器から又は分光測光器に関連して光を提供するレーザ又は光源)を備えてもよい。
【0053】
上記のとおり、ナノチャネル・デバイス300は、飛行時間を使用して分子のタイプを同定し、ナノチャネル140を通過する分子の数を定量化(例えば分子のタイプによって定量化)することができる。
【0054】
図7及び図8は、ナノチャネル440と、試料入口120と、出口130と、ナノチャネル140に結合された導電体420とを備える、本発明の例示的な一実施形態によるナノチャネル・デバイス400を示す。ナノチャネル・デバイス400は、電流測定デバイス410及び電圧源430に結合されている。ナノチャネル・デバイス400は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。電流測定デバイス410は、一方の伝導体420(例えば出口130に向かう伝導体420)及び電圧源430に電気的に結合されている。電圧源430は、他方の伝導体420(例えば試料入口120に向かう伝導体420)に電気的に結合されている。電圧源430は、電圧を供給して電気的勾配を形成することができる。電圧源430は、電流を提供して電気的勾配を形成する電流源とみなすこともできる。
【0055】
ナノチャネル440は、伝導体420がナノチャネル440の壁部の一部分を形成し得ることを除けば、ナノチャネル140と同様である。伝導体420は、例えば金属材料又は半導体材料あるいはその両方を含むことができる。
【0056】
ナノチャネル・デバイス400は、伝導体420がナノチャネルの長さに沿った電場によりナノチャネル440内の電気的勾配を確立するのに使用され得ることから電極210と同様である点で、ナノチャネル・デバイス200と同様であるといえる。電気的勾配を使用してナノチャネル440内の帯電した混合物の流れを制御することができる。しかしながら、ナノチャネル・デバイス400は、伝導体420がナノチャネル440の両端、更にはナノチャネル440の長さの範囲内で配置可能であり、電極210がナノチャネル440の両端又は両端近傍の試料入口120及び出口130内に配置される点で、ナノチャネル・デバイス200と異なる。したがって、ナノチャネル・デバイス400の場合は、電気的勾配及び電場の範囲がナノチャネル440の伝導体420に挟まれる部分である一方、ナノチャネル・デバイス200の場合は、電気的勾配及び電場の範囲がナノチャネルの長さ全体に及ぶ可能性がある。
【0057】
図7及び図8に示すように、伝導体420は、ナノチャネル440の両端に近接して又は両端に向かってナノチャネル440に結合させることができる。単なる例示として、伝導体420は、ナノチャネル440の周りに連続的な環を形成し、ナノチャネル440との単一の接点を形成し、又はナノチャネル440との複数の(例えば2つの)接点を形成することができる。伝導体420は、ナノチャネル440の壁部の一部分を形成するとともに、ナノチャネル440内を流れる試料、即ち成分と物理的に接触及び電気的に接触することができる。図7及び図8に示すように、伝導体420はナノチャネル440の周りに連続して存在する。別法として、伝導体420は、ナノチャネル440の周囲の一部分(例えばナノチャネル440の上部)だけでナノチャネルと接触するようにしてもよい。伝導体420に結合される電流測定デバイス410は、一方又は両方の個別分子を、過渡電流(例えば電流スパイク)によって示される離散的な事象として、又はより連続的な電流の流れとして示されるバルク分子流(例えば複数の分子)としてカウントするように機能し得ることに留意されたい。
【0058】
電流測定デバイス410は、ナノチャネル・デバイスと共に半導体構造体110内に統合し、ナノチャネル140に結合し、ナノチャネル140内の電流を測定するように動作可能とすることができる。例示的な一実施形態において、伝導体420は、ALD(atomic layer deposition:原子層堆積法)プロセスを経てナノチャネル内に形成することができる。電圧源は、必ずしもそうする必要はないが、半導体構造体110に統合可能である。
【0059】
図9は、複数の略平行なナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3と、伝導体420と、共通の試料入口520と、共通の出口530とを備える、本発明の一実施形態によるナノチャネル・デバイス500の上面図である。各ナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3は、検出器、例えば光検出器(図示せず)又は電流測定デバイス410に結合させることができる。電流測定デバイス410に結合された各ナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3は、図7、図8及び図9を参照して説明したように電圧源430に結合させてもよい。特定の一実施形態では、いくつかのナノチャネルが第1のタイプの検出器、例えば光検出器に結合され、他のナノチャネルが第2のタイプの検出器、例えば電圧源に結合された又は結合されていない電流測定デバイスに結合される。ナノチャネル・デバイス500は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。3つの電流測定デバイス410及び電圧源ならびに関連する伝導体420はそれぞれ、ナノチャネル・デバイス400の電流測定デバイス410及び電圧源430ならびに関連する伝導体420と同様(例えば統合、配置、結合及び機能が同様)である。共通の試料入口520は、3つのすべてのナノチャネル440に結合され、3つのすべてのナノチャネル440に試料を提供する。共通の出口530は、3つのすべてのナノチャネル440に結合され、3つのすべてのナノチャネル440から溶出液を排出することを可能にする。有利なことに、ナノチャネル間の距離を増加させてチャネル間のチャネル・クロストークを低減することができる。本発明の追加的な一態様では、それぞれ共通の平面内、例えば半導体構造体110の上面と略平行な共通の平面内に実質的に存在する軸(A1‐B1、A2‐B2、A3‐B3)を有する3つのナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3を形成することができる。
【0060】
ナノチャネル・デバイス500の例示的な実施形態は3つのナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3を備えるが、本発明の他の実施形態はそのように限定されない。4つ以上のナノチャネル440を備える又は2つのナノチャネル440のみを備える他の実施形態も企図される。多数(例えば最大数千)のナノチャネル440が存在すれば、有利なことに、確度、ロバスト性又は感度あるいはこれらのすべてが改善される。ナノチャネル・デバイス500の例示的な実施形態は3つの略平行なナノチャネル440‐1、440‐2、440‐3を備えるが、本発明の他の実施形態はそのように限定されるものではなく、平行でないナノチャネル440を備えてもよい。
【0061】
図10は、ナノチャネル640と、試料入口120と、出口130とを備える、本発明の一実施形態によるナノチャネル・デバイス600の断面図である。例示的なナノチャネル・デバイス600は、光検出器310に結合されている。ナノチャネル・デバイス600は、例えば分子又は化合物の検出、定量化、同定又は分離あるいはこれらのすべてを実行するデバイス(例えばクロマトグラフィ・デバイス)であってよい。ナノチャネル・デバイス600は、ナノチャネル640の形状を除けば、ナノチャネル・デバイス100と同様である。ナノチャネル640は、第1の部分640Aと、第2の部分640Bと、第3の部分640Cとを備える。第1の部分640Aは、試料入口120に結合され、試料入口120から試料を受け取る。第2の部分640Bは、第1の部分640Aに結合され、第1の部分640Aから試料の少なくとも一部分を受け取る。第3の部分640Cは、第2の部分640Bに結合され、第2の部分640Bから試料の少なくとも一部分を受け取る。出口130は、第3の部分640Cに結合され、第3の部分640Cから試料(溶出液)の少なくとも一部分を受け取る。第2の部分640Bの直径、限界寸法又は断面積は、第3の部分640Cの直径、限界寸法又は断面積よりも大きく、任意選択で第1の部分640Aの直径又は断面積よりも大きい。このようにして、ナノチャネル・デバイス600は、ナノチャネル640の変調された直径、限界寸法又は断面積を有する。当業界で既知の半導体処理により様々なナノチャネル直径、限界寸法又は断面積を形成することができる。光検出器310による検出を改善するために、第2の部分640Bの幅を広くして検体を蓄積する。
【0062】
ナノチャネル・デバイス600は、少なくとも1つの光検出器310を備え、光源311から光を受け取る点で、ナノチャネル・デバイス300と同様である。ナノチャネル・デバイス600における光検出器310及び光源311の配置、動作及び数は、ナノチャネル・デバイス300における光検出器310及び光源311の配置、動作及び数と同様である。ただし、ナノチャネル・デバイス600における光検出器310及び光源311は、ナノチャネル640のより広い部分(例えば第2の部分640B)又はプール部分に配置することができる。
【0063】
ナノチャネル・デバイス600は、ナノチャネルのプール部分の一部分において検体のプール(例えば検体の蓄積)及び光学的測定を実行するナノチャネル・デバイスの一例とみなすこともできる。プール(例えば検体の蓄積)を実行するナノチャネル・デバイスの別の実施形態は、半導体構造体110内に別個のプール構造を有するデバイスである。別個のプール構造は、ナノチャネルのうち断面積がより大きい部分の代わりに又はそれに加えて設けられる。プール構造は、例えばナノチャネルに結合され、且つ検体(即ち試料)の少なくとも一部分により少なくとも部分的に満たされるように構成された、半導体構造体110内の1つ又は複数の空洞としてもよい。プール構造は、検体をプール構造に提供し、プール構造から検体を排出することを可能にし得るナノチャネルに結合される。本実施形態では、検体の光学的測定又は分析のために、1つ又は複数の光検出器及び光源311をプール構造に近接して配置すること、又はプール構造に結合することが可能である。検体のプールを用いると、より多くの量の検体を光学的測定にかけることが可能となる。
【0064】
図10ではナノチャネル・デバイス600が1つの光検出器310及び1つの光源311に結合されるように図示してあるが、本発明の実施形態はそのように限定されるものではない。2つ以上の光検出器310及び光源311を有する実施形態も企図される。
【0065】
図11は、本発明の一実施形態に従って1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスを形成する方法を示すフロー図である。ステップ710で、半導体構造体内に少なくとも1つのナノチャネルが形成される。ステップ720で、半導体構造体内に少なくとも1つの検出器が形成される。少なくとも1つの検出器は、少なくとも1つのナノチャネルに入る試料の1つ又は複数の分子を検出する。
【0066】
図12は、ナノチャネル・デバイス810(例えばナノチャネル・デバイス200、300、400、500又は600)と、プロセッサ・デバイス820とを備える、本発明の一実施形態による集積回路等の半導体デバイス800を示す図である。半導体デバイス又は集積回路は、ナノチャネル・デバイス810の1つ又は複数のチャネルに入る試料の1つ又は複数の分子を検出するように動作可能である。ナノチャネル・デバイス810は、1つ又は複数の分子を検出するとともにナノチャネル・デバイスから出力される電気信号830を提供する少なくとも1つの検出器811を備える。ナノチャネル・デバイス810の出力は、プロセッサ・デバイス820の入力に結合されている。信号830は、1つ又は複数の分子の検出に応答して生成される。プロセッサ・デバイス820は、少なくとも部分的に信号830に基づいて出力を生成するように構成される。いくつかの実施形態では、プロセッサ・デバイス820は、電気制御信号840を介してナノチャネル・デバイス810の自動又は半自動制御を実行し、更に、プロセッサ・デバイス820をナノチャネル・デバイス810に結合させることもできる。制御信号840は、例えば電圧源230(図3)又は電圧源430(図7又は図9)を制御することができる。
【0067】
ダイはウェハからダイシングされるので、本発明の諸実施形態による1つ又は複数のナノチャネル・デバイスを備えるダイは本発明の一部とみなされることを理解されたい。
【0068】
本発明の技術又は構造、例えば図1〜図12に示した技術又は構造の少なくとも一部分は、1つ又は複数の集積回路の形で実施可能である。集積回路を形成する際、ダイは、典型的には半導体ウェハの表面上の反復パターンの形で製造される。個々のダイがウェハから切り出され又はダイシングされ、その後集積回路としてパッケージングされる。当業者なら、集積回路を製造するためのウェハのダイシング手法及びダイのパッケージング手法を知っているはずである。このように製造される集積回路は本発明の一部とみなされる。
【0069】
図13は、本発明の一実施形態による例示的なパッケージ集積回路900を示す断面図である。パッケージ集積回路900は、リードフレーム902と、該リードフレームに取り付けられたダイ904と、プラスチックカプセル封入モールド(plastic encapsulation mold)908とを備える。図13には1つのタイプの集積回路パッケージのみを示してあるが、本発明はそのように限定されるものではなく、任意のパッケージ・タイプで封入される集積回路ダイを含むことができる。
【0070】
ダイ904は、本明細書に記載のデバイスを含み、他の構造又は回路を含むこともできる。例えば、ダイ904は、本発明の諸実施形態による少なくとも1つのビアを含む。
【0071】
本発明による集積回路は、アプリケーション、ハードウェア又は電子システムあるいはこれらのすべてにおいて利用可能である。本発明を実施するのに適したハードウェア及びシステムとしては、必ずしもそれだけに限定されるわけではないが、パーソナル・コンピュータ、通信ネットワーク、電子商取引システム、ポータブル通信デバイス(例えば携帯電話)、固体メディア・ストレージ・デバイス、機能回路等を挙げることができる。かかる集積回路を組み込んだシステム及びハードウェアは本発明の一部とみなされる。本明細書に記載した本発明の教示内容を読めば、当業者なら本発明の技術の他の実装環境及び応用例を見出すことができるであろう。
【0072】
上記の本発明の例示的な実施形態は、様々な様式で実施可能であることを理解されたい。本明細書に記載した本発明の教示内容を読めば、当業者なら本発明の他の実装環境を見出すことができるであろう。本明細書では添付図面を参照しながら本発明の例示的な実施形態について説明してきたが、本発明は上記の厳密な実施形態に限定されるものではなく、当業者なら本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない他の様々な変更例及び修正例を見出すことができることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスであって、
半導体構造体内に形成されるチャネルと、
前記半導体構造体内に形成される少なくとも1つの検出器と
を備え、
前記少なくとも1つの検出器は、前記チャネル内の前記1つ又は複数の分子を検出する、
半導体デバイス。
【請求項2】
前記チャネルの一端に結合され、前記1つ又は複数の分子を含む試料を前記チャネルに提供する試料入口と、
前記チャネルの他端に結合され、前記試料の少なくとも一部分を前記チャネルから出すための出口と
を更に備える、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記試料入口に近接する第1の電極と、
前記出口に近接する第2の電極と
を更に備える、請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、(i)前記チャネルに対する電位の印加、及び(ii)前記チャネル内の電流の測定のうちの少なくとも一方に使用される、請求項3に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記チャネルに結合された少なくとも2つの伝導体を更に備える、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記少なくとも2つの伝導体は、(i)前記チャネルの少なくとも一部分に対する電位の印加、及び(ii)前記チャネルの前記少なくとも一部分内の電流の測定のうちの少なくとも一方に使用される、請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記少なくとも2つの伝導体は前記チャネルの壁部の一部分を形成する、請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記半導体デバイスは単一の分子を検出するように動作可能である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
前記チャネルは、円筒、楕円筒、正立方体及び不規則な形状の断面を有する管体のいずれかであり、特徴的寸法は、前記チャネルの断面を横切る最も長い寸法であり、前記断面は、前記チャネルの軸に対して略直角であり、前記特徴的寸法は、100ナノメートル、10ナノメートル及び1ナノメートルのうちの少なくとも1つより小さい、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項10】
前記半導体デバイスは、前記半導体構造体内に形成される1つ又は複数の追加的なチャネルを更に備え、前記1つ又は複数の追加的なチャネルのそれぞれの一端は前記試料入口に結合され、前記1つ又は複数の追加的なチャネルのそれぞれの他端は前記出口に結合され、前記1つ又は複数の追加的なチャネルは1つ又は複数の関連する追加的な検出器に結合される、請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項11】
前記チャネル及び前記1つ又は複数の追加的なチャネルは略並行であり、実質的に共通の平面内に存在する軸を有する、請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項12】
前記少なくとも1つの検出器は、前記チャネル内のイオン電流を判定することにより前記チャネル内の前記1つ又は複数の分子の保持時間を判定するように動作可能な電流測定デバイスを備える、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項13】
前記少なくとも1つの検出器は、(i)前記チャネル内の光を感知するように動作可能な少なくとも1つの光検出器、及び(ii)前記光を前記チャネルに供給するように動作可能な少なくとも1つの光源のうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項14】
前記チャネルの少なくとも第1の区間は、前記チャネルの少なくとも第2の区間よりも広い直径を有する、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
前記チャネルの前記第1の区間には、(i)光検出器、及び(ii)光源のうちの少なくともいずれかが結合される、請求項14に記載の半導体デバイス。
【請求項16】
前記試料の少なくとも一部分は、前記チャネルの長さに沿った電場により確立される電気的勾配によって前記チャネル内を移動する、請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項17】
前記試料の少なくとも一部分は、圧力勾配により前記チャネル内を移動する、請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項18】
前記半導体構造体はシリコンを含む、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項19】
(i)複数の成分の混合物から少なくとも1つの成分を分離すること、(ii)前記1つ又は複数の分子を同定すること、及び(iii)前記1つ又は複数の分子の数をカウントすることのうちの少なくとも1つを実行するように動作可能である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項20】
前記半導体デバイスは、前記チャネルの少なくとも一部分の内壁上のコーティングを更に備え、該コーティングは、(i)前記1つ又は複数の分子間の区別、(ii)クロマトグラフィ・デバイスにおける前記1つ又は複数の分子の濃度勾配、及び(iii)前記1つ又は複数の分子を含む混合物中の成分の分離のうちの少なくとも1つをサポートする、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項21】
前記チャンルの少なくとも一部分内の移動時間を使用して、(i)前記1つ又は複数の分子の同定、及び(ii)前記チャネルを通過する前記1つ又は複数の分子の数のカウントのうちの少なくともいずれかを実行する、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項22】
前記半導体デバイスは、前記半導体構造体内の空洞を更に備え、該空洞は、前記チャネルに結合され、且つ前記試料の少なくとも一部分により少なくとも部分的に満たされるように構成される、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項23】
1つ又は複数の分子を検出するクロマトグラフィ・デバイスであり、
半導体構造体内に形成されるチャネルと、
前記半導体構造体内に形成される少なくとも1つの検出器と
を備え、
前記少なくとも1つの検出器は、前記チャネル内の前記1つ又は複数の分子を検出し、
前記クロマトグラフィ・デバイスは、(i)複数の成分の混合物から少なくとも1つの成分を分離すること、及び(ii)複数の成分の混合物中の少なくとも1つの成分を検出することのうちの少なくとも1つを実行するように動作可能である、
クロマトグラフィ・デバイス。
【請求項24】
1つ又は複数の分子を検出するように動作可能な集積回路であり、
半導体構造体内に形成される少なくとも1つのチャネルと、
前記半導体構造体内に形成される少なくとも1つの検出器であって、前記チャネル内の前記1つ又は複数の分子を検出し、前記1つ又は複数の分子の検出に応答して信号を生成する少なくとも1つの検出器と、
前記少なくとも1つの検出器に結合され、少なくとも部分的に前記信号に基づいて出力を生成するように動作可能なプロセッサ・デバイスと
を備える集積回路。
【請求項25】
1つ又は複数の分子を検出する半導体デバイスを形成する方法であり、
半導体構造体内に少なくとも1つのチャネルを形成することと、
前記半導体構造体内に少なくとも1つの検出器を形成することと
を含み、
前記少なくとも1つの検出器は、前記チャネル内の前記1つ又は複数の分子を検出する、
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−518283(P2013−518283A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551149(P2012−551149)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/057146
【国際公開番号】WO2011/093940
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】