説明

分散スロープ補償装置

十分な分散スロープの可変幅を設定して分散スロープ補償を行い、光伝送品質の向上を図る。帰還型光フィルタ(F)は、ループ状光伝播路(11)と、外部への入出力を有する入出力光伝播路(12)と、ループ状光伝播路(11)及び入出力光伝播路(12)を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラ(C1)、(C2)と、から構成される。帰還型光フィルタ(F)に対して、光カプラ(C1)、(C2)によって挟まれたループ状光伝播路(11)及び入出力光伝播路(12)の一部によって形成されるマッハツェンダ干渉計の内、マッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離して、枝(21)部分の光路長を可変に調整して分散スロープの可変設定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、分散スロープ補償装置に関し、特に波長分散の分散スロープの補償を行う分散スロープ補償装置に関する。
【背景技術】
光通信ネットワークは、情報通信ネットワークの基盤形成の核となるもので、一層のサービスの高度化、広域化が望まれており、中でもWDM(Wavelength Division Multiplex)は光伝送システムの中心技術として、急速に開発が進んでいる。WDMは、波長の異なる光を多重化して、1本の光ファイバで複数の信号を同時に伝送する方式である。
一方、光ファイバによる光パルス伝送に対し、光ファイバにおける伝送速度は、光の波長毎に異なるため、伝送距離が伸びるにつれパルス波形が鈍る波長分散が生じる。波長分散は、波長が1nm異なるふたつの単色光を1km伝搬させたときの伝搬時間差、単位はps/nm/kmで定義される。具体例としては、光ファイバで通常使用されるSMF(Single Mode Fiber)では、1.55μm付近で15〜16ps/nm/kmの波長分散が発生する。
大容量・長距離の光伝送を実現するためのWDMシステムで、波長分散によるパルス広がりが生じると、受信レベルを著しく劣化させてシステムに有害な影響を及ぼすことになる。このため、光ファイバで発生した波長分散に対しては、符号が逆の同じ量だけの波長分散を加えて、波長分散を等価的にゼロにする分散補償を行う必要がある。
現在、分散補償において最もよく用いられるものは、分散補償ファイバ(DCF:Dispersion Compensating Fiber)である。DCFは、SMFのファイバ材料が有する材料分散に対して、特殊な屈折率分布により、逆の分散(構造分散)を発生するように設計されている(SMFは正の分散値を持つので、DCFは通常、負の分散値を持つよう設計される)。
従来、WDMシステムでDCFを用いて分散補償を行う場合、WDMの中心チャネルの波長分散を補償するようなDCFをSMFに接続して、中心チャネル周りの光信号の波長分散の分散補償を行い、光伝送路上で補償しきれなかった波長分散(残留分散)に対しては、受信局側に設けられた分散補償器で補償している。
例えば、WDMの波長多重数が40波ならば、中心チャネルである20チャネルの光信号波長の波長分散に対して、これを補償するDCFを接続し、かつ受信局側に分散補償器を設けて残留分散を補償する。
また、代表的な分散補償器としては、チャープト形ファイバ・ブラッグ・グレーティング(CFBG:Charped Fiber Bragg Grating)がある。CFBGは、光ファイバのコア上に屈折率を周期的に変化させる回折格子が形成されており、入力光の波長の違いに対応して遅延時間差を生じさせて、正負のいずれにも対応した分散補償を行うもので、光サーキュレータ等と組み合わせて用いられる。
さらに、従来の分散補償器として、全域通過光フィルタとして結合型リング共振器を用いて、光パルス入力に所望の位相応答を与えて、分散補償を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】 特開2000−151513号公報(段落番号〔0052〕〜〔0059〕、第9図)
しかし、上記のようなDCFを用いて分散補償を行うシステムでは、受信局側に残留分散を補償するための分散補償器を、チャネル毎に設けなければならないため、非常に多くの種類及び数の分散補償器が必要となり、WDMシステムを経済的に構築することができないといった問題があった。
ここで残留分散が発生する理由について説明する。波長分散の特性を表現する場合、波長分散値の他に波長依存性(波長変化に応じた分散値の変化)も重要となる。この波長依存性のことを分散スロープ(単位はps/km/nm)と呼ぶ。
分散補償を行う際は、信号光帯域全体に渡って分散値だけでなく、分散スロープ(Slope)も同時に補償する必要があるが、分散スロープは、DCFとSMFとで異なるため、WDM伝送で用いる波長バンド(例えば、Cバンドと呼ばれる範囲は1525nm〜1565nm付近)の両端には、補償しきれなかった波長分散が残留してしまう。この残留分散は、伝送距離が伸びるにつれ累積して行き、その結果として受信側でチャネル毎に補償する必要がでてくる。
図24は残留分散を示す図である。縦軸は波長分散(ps/nm)、横軸は波長(nm)である。ch1〜ch40の40波が波長多重されたWDM信号の分散補償の様子を示している。
SMFで10km伝送し、分散スロープ値0.2ps/km/nmを有するDCFで中心チャネル(ch20)に対して分散補償した場合、Cバンド内でチャネル波長間隔100GHzでは、ch1では約+20(ps/nm)、ch40では約−30(ps/nm)の残留分散が発生している(ch20の波長分散値はゼロである)。
図25は従来のWDMシステムを示す図である。WDMシステム100は、最大40波の波長多重を行うシステムを示しており、局110、120、中継アンプ130−1〜130−6から構成される(片方向伝送のみ示す)。また、伝送路の光ファイバにはSMFを使用し、分散補償ファイバとしてDCFf1〜f6を設置する(DCFは、コイル状にして小型パッケージに収納されて、光部品として中継装置内に設置されるものである)。
局110は、光送信部111−1〜111−40、波長多重部112、WDMアンプ113を含み、局120は、光受信部121−1〜121−40、波長分離部122、DCM(Dispersion Compensation Module:分散補償器)123−1〜123−40を含む。
局110に対し、光送信部111−1〜111−40は、ch1〜ch40の光信号をそれぞれ出力し、波長多重部112は、ch1〜ch40の光信号の波長多重を行ってWDM信号を生成する。WDMアンプ113は、WDM信号を増幅して伝送路へ出力する。
中継アンプ130−1〜130−6は、SMFを流れるWDM信号を中継・増幅する。また、DCFf1〜f6は、ch20の波長分散の補償を行う分散補償値を有しており、ch20の光信号は、DCFf1〜f6を通過する度にSMFで発生した波長分散値がゼロになる。
局120に対し、波長分離部122は、WDM信号をch1〜ch40の40波に波長分離し、ch1〜ch40毎に設置されたDCM123−1〜123−40は、各チャネルの残留分散の補償を行う。そして、光受信部121−1〜121−40は、分散補償されたch1〜ch40の光信号を受信処理する。
図26は分散マップを示す図である。図25のWDMシステム100の分散マップを示している。分散マップM1を見ると、1中継区間毎にch20に対して、SMFによる正の分散値をDCFの負の分散値で分散補償している様子がわかる。このため、ch20の波長分散値は中継区間毎にゼロとなり、かつch20の隣接チャネルの波長分散値も分散トレランス内に入っている。
しかし、信号帯域両端のch1、ch40の波長分散値は、ch20を対象に分散マネジメントを施した光伝送路では補償しきれないため、分散トレランスから大きく外れている。したがって、分散トレランスからはみ出てしまうチャネルに対しては、DCM123を局側に設けて分散補償を行わなければならない(図25のシステムでは全チャネルに対応したDCM123−1〜123−40を設置している)。
また、伝送速度が例えば、10Gb/sから40Gb/sへ増加すると、分散トレランスはさらに厳しくなり(要するにアイパターンの開口度が小さくなる)、光受信部121−1〜121−40で受信する波形は劣化して、信号“0”、“1”を間違って判定する確率(符号誤り率)が増えてしまうため、伝送速度が増大すると高精度な分散補償が要求される。
このように従来のWDMシステムでは、DCFと、チャネル毎の複数の分散補償器とを設けて分散補償を行っているため、装置規模が大きくなり経済的なネットワーク構築が困難であった。また、分散補償器の数や種類の多さから分散マネジメント設計者に対する負担も大きかった。
一方、上述したCFBGは、単チャネル用の分散補償器であるため、チャネル間の残留分散を一括して補償することはできない。また、C.K.Madsen等が提案する上記の従来技術(特開2000−151513号公報)は、分散スロープの可変幅が少なく、分散スロープ量を任意に設定できない。このため、40Gb/s、さらにはペタビット(Pb/s)級の超高速伝送のDWDM(Dense−WDM)システムに適用することができず、次世代のマルチメディアネットワーク構築に対する発展性が期待できないといった問題があった。
【発明の開示】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、十分な分散スロープの可変幅設定を行って、高精度な分散スロープ補償を行い、光伝送品質の向上を図った分散スロープ補償装置を提供することを目的とする。
本発明では上記課題を解決するために、図1に示すような、波長分散の分散スロープの補償を行う分散スロープ補償装置1において、ループ状光伝播路11と、外部への入出力を有する入出力光伝播路12と、ループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラC1、C2と、から構成される帰還型光フィルタFに対し、光カプラC1、C2によって挟まれたループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12の一部によって形成されるマッハツェンダ干渉計の内、マッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離して、枝部分の光路長を可変に調整し、分散スロープの可変設定を行って分散スロープを補償することを特徴とする分散スロープ補償装置1が提供される。
ここで、帰還型光フィルタFは、ループ状光伝播路11と、外部への入出力を有する入出力光伝播路12と、ループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラC1、C2と、から構成される。帰還型光フィルタFに対して、光カプラC1、C2によって挟まれたループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12の一部によって形成されるマッハツェンダ干渉計の内、マッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離して、枝部分の光路長を可変に調整して分散スロープの可変設定を行う。
本発明の上記および他の目的、特徴および利点は本発明の例として好ましい実施の形態を表す添付の図面と関連した以下の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の分散スロープ補償装置の原理図である。
図2は、リング共振器を示す図である。
図3は、リング共振器の等価回路を示す図である。
図4は、光カプラ部分をMZIとしたリング共振器を示す図である。
図5は、光カプラ部分をMZIとしたリング共振器を示す図である。
図6は、m11の波長依存性と群遅延との関係を示す図である。
図7は、m11の波長依存性と群遅延との関係を示す図である。
図8は、m11の波長依存性と群遅延との関係を示す図である。
図9は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図10は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図11は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図12は、ループの曲率半径を示す図である。
図13は、屈折率差と実現されうるループ長との関係を示す図である。
図14は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図15は、熱光学効果を有するPLCを実現する製造プロセスの工程例を示す図である。
図16は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図17は、分散スロープ補償装置の構成を示す図である。
図18は、分散スロープ補償装置のモジュール構成例を示す図である。
図19は、分散スロープ補償装置の多段接続構成を示す図である。
図20は、3段構成時のm11の波長依存性を示す図である。
図21は、3段構成時の分散スロープ補償特性を示す図である。
図22は、本発明のWDMシステムを示す図である。
図23は、DSCとDCMで行う分散スロープ補償及び分散補償の概要を示す図である。
図24は、残留分散を示す図である。
図25は、従来のWDMシステムを示す図である。
図26は、分散マップを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の分散スロープ補償装置の原理図である。分散スロープ補償装置1は、光信号伝送時に発生する波長分散の分散スロープ補償を行う装置であり、帰還型光フィルタFのマッハツェンダ干渉計(Mach Zehnder Interferometer:以下、MZIと記す)の枝を空間的に分離した構成を持つ。
帰還型光フィルタFは、ループ状光伝播路11と、外部への入出力を有する入出力光伝播路12と、ループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラC1、C2とから構成され、例えば、Si基板上に形成される。
この帰還型光フィルタFに対して、光カプラC1、C2によって挟まれたループ状光伝播路11及び入出力光伝播路12の一部によって形成されるMZIの内、MZIの枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離する。なお、以降では、分離した光伝播路側を可動型MZI枝20、入出力光伝播路12を含む側の基板を光伝播路基板10と呼ぶ。
そして、MZI枝21部分の光路長を可変に調整することで(可動型MZI枝20と光伝播路基板10とを機械的に分離可動する)、分散スロープの可変設定を行う。本発明の具体的な構成及び動作については図9以降で後述する。
次に本発明の分散スロープ補償装置1について、分散スロープ補償設計の考え方から本発明が解決したい問題点まで段階的に詳しく説明する。全域通過光フィルタ(All Pass Filter)は、すべての周波数範囲の信号を通過させ、位相だけを変化させる目的で使われるフィルタであり、光伝送の分野では分散補償用フィルタとして使用される。波長周期性を有する分散補償用フィルタは、FIR(Finite Impulse Response)型とIIR(Infinite Impulse Response)型の2種類に大きく分けられる。
FIRフィルタは、フィードフォワードで周波数応答を制御するもので、代表的な分散補償用フィルタとして、PLC(Planar Lightwave Circuit)形分散補償器がある。PLC形分散補償器は、平面導波路基板上にMZIを直列多段に接続したもので、MZIに対し、例えば、長いアームには短波長の信号が、短いアームには長波長の信号が伝播するように調整することで負の分散を持つ分散補償を実現する。
PLC形分散補償器は、周波数応答は安定しているが、急峻な周波数応答を得ようとするとMZIの段数を増やさなければならず、チップ面積が大きくなって量産に適していないといった問題があった。
一方、IIRフィルタは、有理型フィルタとも呼ばれ、フィードバックループを有するフィルタである。IIRフィルタは、フィードバックループを有するため、FIRでは起こらない不安定性が存在する。ただし、IIRフィルタを表す伝達関数の周波数(波長)応答における極を適正範囲に収めることで、システムの安定性を得ることができ(IIRフィルタの伝達関数の分母=0と置いたときの解である極kが|k|<1の単位円の内部にあれば安定である)、少ない回路素子で急峻な周波数応答を得ることが可能であり、小型な分散補償器の実現が期待できる。
IIRフィルタの最も単純なものはリング共振器である。図2はリング共振器を示す図である。リング共振器30は、ループ状光伝播路31と、入出力光伝播路32と、ループ状光伝播路31及び入出力光伝播路32を光学的に結合させる1つの光カプラCと、から構成される(本発明の分散スロープ補償装置1は、リング共振器30を基本構造としたものである)。
リング共振器30を用いて分散補償器を設計する場合の主要な設計パラメータには、FSR(Free Spectral Range:共振ピーク間隔、すなわち隣接する波長ピークの周波数間隔)、中心波長位置、分散補償量の3つがある。
FSRと中心波長位置を決定する際には、リング共振器30においては、ループ周回長の設計に対応し、分散補償量の決定には光カプラCのカプラ分岐比が対応する。以下、これらのことをリング共振器30の伝達関数を用いて説明する。
なお、WDMでは、隣り合う周波数(波長)の間隔は、ITU−T Gridという基準で決められている(例えば、100GHz(0.8nm)間隔、50GHz(0.4nm)間隔と規定されている)。WDMで波長多重を行う場合、任意の波長を周波数間隔の狭いITU−T Gridに正確に乗せる必要がある。このときの基準となる波長をここでは中心波長と呼んでいる。
図3はリング共振器30の等価回路を示す図である。リング共振器30は、図に示すような等価回路で表現できる。リング共振器30の光カプラCは2端子対回路Mに対応し、ループ状光伝播路31は遅れ要素(exp(jωT))に対応する。また、2端子対回路Mのポートp1への入力信号をEi1、ポートp2への入力信号をEi2、ポートp3からの出力信号をEo1、ポートp4からの出力信号をEo2とする。
ここで、光カプラCの伝達行列(2端子対回路Mの伝達行列)を用いて、入力信号と出力信号の関係を表すと式(1)となる。

なお、式(1)中の伝達行列mは、次式の回転行列と等しい(したがって、行列式=1、すなわち、m11・m22−m12・m21=1である)。

一方、Ei1とEo1の関係は、Ei1=Eo1・exp(jωT)となるから、ループ状光伝播路31で発生する位相シフトh(λ)は式(3)となる。ただし、Lはループ状光伝播路31の周回長、nは導波路実行屈折率、λは入力波長であり、exp内の符号のマイナスは位相遅れを表している。

次に上述の式(1)、det=1、h(λ)=Ei1/Eo1の関係を使って、リング共振器30の伝達関数H(λ)を導くと式(4)となる。なお、展開途中の式が見やすいように、伝達行列mの各要素に対して、m11=a、m12=b、m21=c、m22=dとおいた。

また、伝達行列mのm11とm22の関係は、一方の要素の複素共役が他方の要素と等しい関係にあるので、m22=m11とおくことができ(m11はm11の複素共役)、式(4)は式(5)となる。

次に上記の伝達関数H(λ)の位相部argH(λ)を角周波数ωで微分して群遅延D(λ)を求める。群遅延とは、光伝送路における信号の伝播に必要な時間のことである。まず、ω(=2πc/λ:cは光速)を波長λで微分して式(6)を得る。

群遅延D(λ)は、式(6)を使って式(7)となる。

また、波長分散DS(λ)は、群遅延D(λ)を波長λで微分することにより得られ、式(8)となる(波長λを変化させたときの群遅延の変化が波長分散である)。

次にFSRを算出する。FSRは、式(3)のexp内のL・nが、λの整数倍になる変化より決定される。波長λの隣接波長をλ´とすれば、式(9)のようにおける。

波長差分Δλとmとの関係は、式(9)を用いると式(10)となる。ただし、1≪mの場合である。

ここで、チャネルの周波数間隔であるFSR(=Δf)は、f=c/λより、式(11)のように変形できる(f=c/λをλで微分)。

そして、式(11)に式(10)、式(9)を代入するとFSRが求まる。

ここで、式(12)からFSRを決定する際には、ループ周回長Lを設計すればよいことがわかる。また、中心波長についてはL・n(λ)をどの(任意の)λの整数倍となるように設定するかに関り、周期性より、±0.5λの範囲でループ周回長Lを調整することで設定が可能である。
一方、分散補償量については、m11=0(カプラ分岐比100%に対応する。なお、カプラ分岐比100%の場合の信号の流れは、ポートp2からの入力信号がすべてポートp3から出力し、ループ状光伝播路31を周回した後にポートp1から入力してポートp4から出力する)の時、式(5)より、H(λ)=−h(λ)であり、argH(λ)=−argh(λ)となる。また、argh(λ)は、式(3)のexp内の−2π・L・n/λのことであるから、m11=0のときの群遅延は式(13)となる。

式(13)から群遅延は定数となっているから、これをλで微分した分散はゼロである。一方、m11(<1)を増やしていくと、すなわち、カプラ分岐比を100%から減少させると、伝達関数H(λ)の位相部分に波長変調が発生し、波長分散を与えることになる。したがって、m11の変化で分散量が変わるのだから、波長間(チャネル間)の分散量の違いを表す分散スロープをリング共振器30で発生させるためには、m11が波長(チャネル)に応じて変化すればよい。
次にカプラ分岐比に関るm11に波長変化を与える方法について説明する。波長変化を与える方法としては、光カプラCの結合部をMZIとする構造(図1の左側に示す帰還型光フィルタFに該当する)が考えられる。
図4、図5は光カプラ部分をMZIとしたリング共振器を示す図である。ループ状光伝播路31、入出力光伝播路32、1つの光カプラCを有するリング共振器30に対して、リング共振器30−1は、光カプラCa、Cbを2つ用いて、ループ状光伝播路31、入出力光伝播路32を結合することで、結合部にMZI33(図中、太実線)を形成している。そして、図5のリング共振器30−2では、MZI33の枝部分(MZI枝33−1)を伸ばした構造となっている(MZI33の枝部分を伸ばすと後述するように分散スロープ量を増大できる)。
ここで、2本のMZI枝33−1の光路長差をΔLm、カプラ回転(結合)をθ、θ、導波路実行屈折率をn、入力波長をλとしたときのMZI33の伝達行列m(λ)は式(14)となる。

MZI33を持つリング共振器30−2の伝達関数は、リング共振器30のカプラ伝達行列mを、式(14)のMZI33の伝達行列m(λ)で置き換えることにより得られる。また、argH(λ)は以下のようになる。

11が波長λに応じて変化することは、m(λ)におけるexp(±jπ・ΔLm・n/λ)が変化することを意味する。すなわち、ΔLm・nが大きい程、λの変化に対するm11の変化が大きくなり、分散スロープ量を増加させる。
図6〜図8はm11の波長依存性と群遅延との関係を示す図である。各図はMZI33を有するリング共振器30a〜30cに対するm11と群遅延とを示している。図中の上のグラフは、縦軸はm11(カプラ分岐比)、横軸は波長であり、下のグラフは、縦軸は群遅延(ps)、横軸は波長である。
図6のようなMZI33aを有するリング共振器30aにおいて、m11は1よりわずかに小さく、この場合の各波長の群遅延の変化量は小さく、分散スロープ量も小さい(なお、m11=1ならば群遅延の変化量はゼロで、グラフ上は直線となる)。
また、図7のようにMZI33bの一方の枝を伸ばしたリング共振器30bにおいて、m11が波長に応じて1より次第に小さくなると、各波長の群遅延の変化量が明瞭に現れてきて、分散スロープ量も増加してくることがわかる(分散スロープ量は山の傾きに相当する)。さらに、図8のようにMZI33cの一方の枝をさらに伸ばしたリング共振器30cにおいて、m11の変化が0と1の間で大きく動くと、群遅延、分散スロープ量の変化量が急峻になる。
なお、具体的な例では、所望する波長範囲をCバンド(Δλ〜40nm)とすると、m11が波長に応じて1〜0.8程度の範囲で変化するためには、n〜1.45(石英PLCの場合)で、ΔLmは0〜数10μmの変化を与えればよい。
ここで、上記のようなMZIを有するリング共振器に対して、分散量及び分散スロープを可変に補償する場合には、MZIの枝部にヒータや電極を設置して、熱光学効果や電気光学効果を利用したPLCのモノリシック構造(1個の半導体などの基板上に作られた集積回路)の分散補償器が考えられる(上述の従来技術(特開2000−151513号公報)など)。しかし、このような制御だと分散スロープの可変幅が少なく、スロープ量を任意に設定することはできないといった問題がある。
例えば、石英PLCでより大きな屈折率変化が可能な熱光学効果を利用した場合、屈折率の温度依存性(Δn)はΔn=10−5/℃程度であり、実際に使用される温度差(ΔT)としてΔT=30℃を限度とすると、光学路長を1.5μm(=1λ:Cバンド付近の1波長)程度変化させるためにはヒータ長は5mm(=λ/ΔT・Δn)程度必要となる。
分散量の調整にはMZIカプラ部の分岐比が100〜80%の範囲の変化であり、MZI枝間光路長差で0.3μm(=λ/5)程度の変化量に対応するので、ヒータ長は1mm程度でよく、分散量の調整に関しては実現可能である。
一方、分散スロープ量の調整には、上述のように0〜20μm程度のMZI枝間光路長差の変化が求められるが、分散補償が必要となる10Gbps以上の信号を伝送するためのループ長が10mm(帯域20GHz)以下では、最大でも0〜3μmまでのMZI枝間光路長差しか得ることができない。このようにPLCモノリシック構造の分散補償器としては、10Gbps/FSR50GHz付近までは製造可能であるが、十分な可変幅を持った分散スロープ補償器を実現することができない。
したがって、本発明では、MZI枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離し、枝部分の光路長を調整する機能(機械的調整)を与える。これにより、MZI枝の光学路長を実空間での距離として任意に可変して、ループ状光導波路31と入出力光伝播路32との結合比の波長依存性の周期を、システムに応じて所望の値に設定可能とするものである。
次に分散スロープ補償装置1の第1の実施の形態について説明する。図9は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第1の実施の形態の分散スロープ補償装置1−1は、ループ状光伝播路11と、入出力光伝播路12と、ループ状光伝播路11と入出力光伝播路12を結合する2つの光カプラC1、C2を有し、2つの光カプラC1、C2によって挟まれたMZI枝brの一部を空間的に分離する構造を持つ。
可動型MZI枝20と光伝播路基板10との間には集光部(レンズ:コリメートレンズ)L1、L2が設置される。レンズL1、L2は、光を平行光にし、光信号がMZI枝brのループ部分を周回するときの伝播損失を低減する役割を果たす。また、可動型MZI枝20は例えば、反射型プリズムで構成する。
このような構成にして、可動型MZI枝20を図の矢印方向に可動することにより、MZI光路長差ΔLmを調整することができるので、結果として、λ変化に対するm11を任意に変化させて、分散スロープ量を任意に可変設定することが可能になる。したがって、熱光学効果、電気光学効果、光弾性効果などで分散スロープ量を調整した場合に問題となっていた可変範囲の制限を、本発明によって解消することができる。
なお、入出力光伝播路12と2つの光カプラC1、C2を含む部分は、ファイバカプラを用いて形成してもよい。また、空間的に分離された可動型MZI枝20もファイバやPLCなどを用いて形成してもよい。
次に分散スロープ補償装置の第2の実施の形態について説明する。図10は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第2の実施の形態の分散スロープ補償装置1−2は、基本構成は第1の実施の形態と同じであるが、可動型MZI枝20と光伝播路基板10aとが空間的に分離する前の状態で、2本のMZI枝br1、br2の長さが等しくなるような構成とした場合である。
このように、2本のMZI枝br1、br2が互いに等しくなる位置が存在するように、PLCでループ状光伝播路11、入出力光伝播路12、光カプラC1、C2をモノリシックに作製する場合は、図に示すようなレイアウトとなる(なお、図9に示すレイアウトでは、可動できるMZI枝brの方が、光伝播路基板10上のMZI枝よりも長い状態であることがわかる)。
このような構成にすることで、分離前の状態では、2本のMZI枝br1、br2の光路長差ΔLmがゼロとなるので、可動型MZI枝20を可動する場合、ΔLm=0からスタートして、ΔLmを調整できるので変化幅を大きくでき、第1の実施の形態と比べてより広い分散スロープ量を可変設定することが可能になる。
なお、2つの光カプラC1、C2のカプラ分岐比は、使用波長範囲の最長波長または最短波長で50%とすることが望ましい。これはMZI枝間の光路長差がゼロの場合に、最長波長または最短波長でm11=1となり分散量がゼロとなり、最も広くスロープの可変範囲を設定できるためである。
次に分散スロープ補償装置の第3の実施の形態について説明する。図11は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第3の実施の形態の分散スロープ補償装置1−3は、基本構成は第1の実施の形態と同じであるが、光伝播路基板10bの光伝播路の曲げの一部に反射部(ミラー)14を設けた構成を持つ(図の斜線部)。このような構成にすることで、第3の実施の形態では、より低挿入損失で、より広いFSRを実現することができる。以下、その理由について説明する。
PLCでループ状光伝播路11、入出力光伝播路12、光カプラC1、C2をモノリシックに作製する場合には、適用するコアとクラッドとの屈折率差Δnから決まる最小曲率半径でループを構成しなければならない。
図12はループの曲率半径を示す図であり、図13は屈折率差と実現されうるループ長との関係を示す図である。縦軸は周回長(nm)、横軸はコア・クラッド屈折率差Δn(%)である。図より、例えばチャネル間隔50GHzを実現するためには、Δn=5%程度が必要となることがわかる。
このように大きな屈折率差を持つPLCではコア径が小さくなり、作製時のコア側壁荒れの影響が大きく、伝播損失の増加の要因となる。そこで、より屈折率差の少ないPLCプロセスでの作製を可能とするために、第3の実施の形態では、光カプラC1、C2以外の曲り部分をミラー14により作成し、曲率半径の制限を緩和する。逆にこのような構成によればΔn=4%程度でループ周囲長2mmつまりFSR100GHz間隔を実現でき、40Gbps以上の伝送速度に対しても適用が可能となる。
なお、ミラー14の作製方法は、PLCチップを分離するときに用いるダイシングソーにおいて、刃先は所望の角度のものを選定し、PLC側面に対して垂直にダイシング加工を行うことが一例として挙げられる。また、さらにループ周回損失を低減するためには、加工後のミラー面に多層誘電体膜からなる高反射コーティングを付加してもよい。
次に分散スロープ補償装置の第4の実施の形態について説明する。図14は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第4の実施の形態の分散スロープ補償装置1−4は、PLC側面に直接ミラーを作製するのではなく、ガラスモールド成形部品をPLC側面に接着させる構造を持つ。このガラスモールド140にレンズL1、L2などを導入することにより、第3の実施の形態と比べて、より挿入損失を低減することが可能になる。
分散スロープ補償装置1−4では、レンズL1、L2、凹面鏡14aをガラスモールド140で一体成形した部品とし、このガラスモールド140とPLCとを光透過性の高い接着剤を用いて接着する。なお、第3の実施の形態と同様に、ループ周回損失を低減するためには、反射部品の反射面に多層誘電体膜からなる高反射コーティングを付加し、透過面には無反射コーティングを付加してもよい。
次に分散スロープ補償装置の第5の実施の形態について説明する。第5の実施の形態では、特に熱光学効果を有するPLCを用いて、ループ状光伝播路11に対し、数μmの光路長の調整を可能とした場合である。
上述した第1の実施の形態〜第4の実施の形態では、分散スロープの可変設定の実現を主に考慮した装置であったが、第5の実施の形態では、さらに熱光学効果で光路長調整を行って、数μmの可変幅で中心波長の調整や分散補償量の調整も実現可能とした装置である。
図15は熱光学効果を有するPLCを実現する製造プロセスの工程例を示す図である。
〔S1〕Siまたはガラス基板上に下部クラッド層としてCVD(Chemical Vapor Deposition)法やFHD(Flame Hydorolsis Deposition)法により、SiO膜を形成する。このとき、膜応力、屈折率制御にP(リン)やB(ボロン)またはGe(ゲルマ)など添加するとよい。
〔S2〕光が導波されるコア層を、クラッド層と同様にCVD法やFHD法により形成する。このとき、クラッド層よりGeの濃度を濃くする、またはTi(チタン)を添加するなどしてクラッド層より屈折率が高くなるようにする。
〔S3〕コア層上にコアパターンに応じたマスク(感光性を有する有機材料マスクまたはCr(クロム)などの金属を蒸着して、金属膜を有機材料マスクにしてエッチングし形成したメタルマスクなど)を形成し、ドライエッチングによりマスクのコアパターン転写を行う。
その後、マスクを化学的に除去し、下部クラッド層と同様にCVD法やFHD法によりコア埋め込み(上部クラッド形成)を行う。このように形成されたループ部を含む部品全体に対して熱を加えることにより、ループ部分の光学路長を調整し、中心波長、分散補償量を制御することが可能となる。
〔S4、S5〕また、局所的に加熱する場合には、PLC表面にヒータ及び電極形成が必要であるので、これらは例えばリフトオフ法(ヒータなど形成される部分のみがマスクされないように感光性有機材料をパターニングし、マスク上から、ヒータ材や電極材を蒸着し、その後、有機溶剤などで有機材料マスクを除去する)で形成する。
このとき、ヒータ材はPtt(白金)、W(タングステン)、ニクロム、Crなど、電極材はAu(金)、Cu(銅)、Al(アルミ)などを用いればよい。また、これらの金属とSiOとの密着性を向上させるためにはTiなどの高融点金属を薄く蒸着しておくとよい。
図16は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第5の実施の形態の分散スロープ補償装置は1−5、光伝播路基板10d上のループ状光伝播路11に対して、ステップS4による生成方法によって、ヒータ15及び電極16a、16bが設けられている構成となっている(その他の構成は第2の実施の形態と同じである)。
次に分散スロープ補償装置の第6の実施の形態について説明する。図17は分散スロープ補償装置の構成を示す図である。第6の実施の形態の分散スロープ補償装置1−6は、光伝播路基板10eに対して、ヒータ17a−1、17b−1(電極の図示は省略)を持つMZI17a、17bを光カプラC1、C2に適用した場合の構成である。このような構成とすることで、あらかじめ設定した分散量からの分散スロープ補償を行うことができ、分散スロープ補償機能+分散補償機能を実現することができる。
次に分散スロープ補償装置のモジュール構成について説明する。図18は分散スロープ補償装置のモジュール構成例を示す図である。分散補償装置モジュール50は、ステージ状に光伝播路基板10及び可動型MZI枝20が搭載され、マイクロアジャスタ51、圧電素子52、セラミックヒータ53、ヒータ駆動用端子54、温度モニタ用端子55、アクチュエータ駆動用端子56、光ファイバが設けられている。
中心波長制御用のセラミックヒータ53上に光伝播路基板10のPLCチップを実装し、可動型MZI枝20をマイクロアジャスタ51で粗動調整し、圧電素子52で微動調整する。このような構成にすることで、MZI枝の光路長を自由に設定でき、任意のスロープ量を同一のモジュールで設定することが可能になる。
次に分散スロープ補償装置を直列に多段接続した場合について図19〜図21を用いて説明する。単リング型共振器をベースとした分散スロープ補償装置1は、分散補償量と透過帯域がトレードオフの関係にある。そこで複数の分散スロープ補償装置1を用意し、それぞれ補償量及び中心波長変えて直列に接続する。
図19は分散スロープ補償装置の多段接続構成を示す図である。多段型分散スロープ補償装置60は、分散スロープ補償装置の入出力光伝播路11をつなげて、分散スロープ補償装置1a、1b、1c、…を直列多段に接続した構成をとる(複数の光導波路基板10を同一PLC上に設けてもよい)。このような構成にすることで、補償帯域を拡大することが可能になる。
図20は3段構成時のm11の波長依存性を示す図である。縦軸は透過率、横軸は波長である。図21は3段構成時の分散スロープ補償特性を示す図である。縦軸は群遅延、横軸は波長である。
図20、図21は3段構成における100GHz間隔20チャネルの分散スロープ補償特性のシミュレーション例であり、この例では0.4nm帯域、7.3ps/nmの20チャネル一括スロープ補償が行える。図20は3段構成時の各分散スロープ補償装置のm11の変化を示している。図21から、図20で示したm11の波長依存性をもつ分散スロープ補償装置を3段接続すると分散スロープ量が増大することがわかる。
次に分散スロープ補償装置を用いたWDMシステムについて説明する。図22は本発明のWDMシステムを示す図である。WDMシステム200は、最大40波の波長多重を行うシステムを示しており、送信装置210、受信装置220、中継アンプ230−1〜230−4から構成される(片方向伝送のみ示す。また、送信装置210、受信装置220は局内に含まれる)。また、伝送路の光ファイバにはSMFを使用し、分散補償ファイバとしてDCFf1〜f4を設置する。
送信装置210は、光送信部211−1〜211−40、波長多重部212、WDMアンプ213を含み、受信装置220は、DSC(Dispersion Slope Compensator:本発明の分散スロープ補償装置のことである)223、可変DCM224、光受信制御部220aを含む。光受信制御部220aは、波長分離部222、光受信部221−1〜221−40から構成される。
送信装置210に対し、光送信部211−1〜211−40は、ch1〜ch40の光信号をそれぞれ出力し、波長多重部212は、ch1〜ch40の光信号の波長多重を行ってWDM信号を生成する。WDMアンプ213は、WDM信号を増幅して伝送路へ出力する。
中継アンプ230−1〜230−4は、SMFを流れるWDM信号を中継・増幅する。また、DCFf1〜f4は、ch20の波長分散の補償を行う分散補償値を有しており、ch20の光信号は、DCFf1〜f4を通過する度にSMFで発生した波長分散値がゼロになる。
受信装置220に対し、DSC223は、WDM信号のチャネル毎に生じる分散スロープを一括して補償する。可変DCM224は、分散スロープ補償された後のWDM信号の分散補償を行う。波長分離部222は、WDM信号をch1〜ch40の40波に波長分離する。光受信部221−1〜221−40は、分散補償されたch1〜ch40の光信号を受信処理する。
図23はDSC223とDCM224で行う分散スロープ補償及び分散補償の概要を示す図である。DSC223は、光伝送路から流れてきたWDM信号の分散スロープ(図24で上述したように右肩下がりの傾き)とは逆の分散スロープでフィルタリングすることで、スロープ補償を行う。したがって、DSC223の出力はスロープがなくなりフラットとなる。また、DCM224は、スロープ補償後のWDM信号に対して分散補償を行う。この例では全体が正分散なので、同じ量の逆の符号の負分散を施して、累積波長分散をゼロにする。
このように、本発明のWDMシステム200では、1台のDCS223でWDM信号のチャネル間の分散スロープを一括補償し、その後に1台のDCM224で一括分散補償する構成とした。これにより、従来のWDMシステムと比べてチャネル毎に分散補償器を設ける必要がなくなるので、装置規模を縮小化することができ、経済的なネットワークを構築することが可能になる。また、分散マネジメント設計者に対する負担の軽減も図ることができる。
以上説明したように、本発明によれば、DWDMシステムに対して、1つの分散スロープ補償装置1ですべてのチャネル間の分散スロープを一括して補償することができるので、チャネル毎に分散補償器を設ける必要がない。このため、DWDMシステムの低コスト化、分散マネジメント設計の簡素化を実現することが可能になる。
以上説明したように、本発明の分散スロープ補償装置は、ループ状光伝播路と、外部への入出力を有する入出力光伝播路と、ループ状光伝播路及び入出力光伝播路を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラと、から構成される帰還型光フィルタに対し、光カプラによって挟まれて形成されるマッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離して、枝部分の光路長を可変に調整して分散スロープの可変設定を行う構成とした。これにより、十分な分散スロープの可変幅設定ができるので、高速大容量のDWDMネットワークの分散補償を高精度に行うことができ、光伝送品質の向上を図ることが可能になる。
上記については単に本発明の原理を示すものである。さらに、多数の変形、変更が当業者にとって可能であり、本発明は上記に示し、説明した正確な構成および応用例に限定されるものではなく、対応するすべての変形例および均等物は、添付の請求項およびその均等物による本発明の範囲とみなされる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長分散の分散スロープの補償を行う分散スロープ補償装置において、
ループ状光伝播路と、外部への入出力を有する入出力光伝播路と、前記ループ状光伝播路及び前記入出力光伝播路を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラと、から構成される帰還型光フィルタに対し、
前記光カプラによって挟まれた前記ループ状光伝播路及び前記入出力光伝播路の一部によって形成されるマッハツェンダ干渉計の内、マッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離して、枝部分の光路長を可変に調整し、分散スロープの可変設定を行って分散スロープを補償することを特徴とする分散スロープ補償装置。
【請求項2】
分離した光伝播路である可動型マッハツェンダ干渉計枝と、前記入出力光伝播路を含む側の光伝播路基板との分離箇所には、集光部を設けることを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項3】
分離した光伝播路である可動型マッハツェンダ干渉計枝が可動する際、2本のマッハツェンダ干渉計枝の光路長差がゼロとなる位置が存在することを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項4】
光伝播路の曲げの一部に反射部を設け、前記反射部を設ける場合は、基板側面に直接作製するか、またはガラスモールド成形部品を基板側面に接着させることを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項5】
前記ループ状光伝播路の一部に対して、媒質の屈折率を変化させる光学効果を与えて、前記ループ状光伝播路の光路長を変化させることで、分散スロープの可変設定に加えて中心波長及び分散補償量の調整を行うことを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項6】
前記光カプラの少なくとも1つをマッハツェンダ干渉計で置き換えた構成にして、分散スロープの可変設定に加えて分散補償量の調整を付加することを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項7】
分離した光伝播路である可動型マッハツェンダ干渉計枝は、圧電素子、マイクロアジャスタ、材料の熱膨張の少なくとも1つを用いて、または組み合わせることで可動させることを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項8】
前記入出力光伝播路をつなげて装置を多段接続して、中心波長及び分散補償量を装置毎に変えることで補償帯域の拡大を行うことを特徴とする請求の範囲第1項記載の分散スロープ補償装置。
【請求項9】
WDMの光信号の伝送を行う光伝送システムにおいて、
WDMの波長多重を行って光信号を送信する送信装置と、
光中継装置が設置され、中継間隔毎に中心チャネルに対する累積波長分散をゼロとするようにマネジメントされた光伝送路と、
ループ状光伝播路と、外部への入出力を有する入出力光伝播路と、前記ループ状光伝播路及び前記入出力光伝播路を少なくとも2箇所以上で結合する光カプラと、から構成される帰還型光フィルタに対し、前記光カプラによって挟まれた前記ループ状光伝播路及び前記入出力光伝播路の一部によって形成されるマッハツェンダ干渉計の内、マッハツェンダ干渉計の枝を構成する光伝播路の一部を空間的に分離し、枝部分の光路長を可変に調整して分散スロープの可変設定を行って、前記光伝送路を流れてきたWDM信号の分散スロープを一括して補償する分散スロープ補償装置と、分散スロープ補償後のWDM信号の波長分散の分散補償を一括して行う分散補償装置と、WDMの波長分離を行って光信号を受信する光受信制御部と、から構成される受信装置と、
を有することを特徴とする光伝送システム。

【国際公開番号】WO2004/099848
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571566(P2004−571566)
【国際出願番号】PCT/JP2003/005799
【国際出願日】平成15年5月8日(2003.5.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】