説明

分離検出法におけるオンライン酵素消化

【課題】ポリペプチド試料の酵素消化および検出を効率よく実施できる方法を提供する。
【解決手段】外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントが、無孔中空ライナーの内部に設けられた消化デバイスを利用する。中空エレメントの壁の少なくとも一部は孔質である。中空エレメントの外側表面の少なくとも一部分または内側表面に、ポリペプチド消化剤が固定されている。ポリペプチド試料を含む媒体を、その消化剤に曝して生体ポリマーをフラグメントに開裂させ、それを外側表面から内側領域へと中空エレメントの壁を通じて透過させる。消化デバイスは、生体ポリマーのフラグメントを分離および分析する他のコンポーネントと流体連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的には、例えば生体ポリマーフラグメントのような目的の(対象とする)部分フラグメントを、目的でない他の部分からおよび互いに分離すること、ならびに続いてその部分を検出することを含む分析法に関する。詳細には、本発明は、ポリペプチドフラグメントの様々な分析を実行するための、タンパク質を含むポリペプチドの酵素消化に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野は、容易にかつ正確に測定できる目的の材料の多様性、ならびに測定法に関して、ここ数年で大きな広がりを見せている。臨床化学では、そのような目的の材料は、10―12モル濃度未満で体液中に存在することもある。
【0003】
近年、極めて少量で、すなわち非常に低濃度で存在する有機化合物を分析または測定する技術が開発されている。例えば、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフ技術を質量分析等の様々な検出手段と組み合わせることにより、分析物の検出感度が向上する。
【0004】
プロテオミクスの最終目的は、生体系の複雑さを解明する手段として、細胞で発現するタンパク質の一部または全てを同定および定量化することである。典型的には、分析技術を利用して、プロテオームマップを作成する。正常細胞および疾患細胞のプロテオームマップを比較することで、疾患に生理学的に応答する際にアップレギュレート(上方制御)またはダウンレギュレート(下方制御)されるタンパク質が検出される。これらのタンパク質は切除され、マスフィンガープリント法および質量分析等の方法を用いて同定および特性決定が行われる。
【0005】
例えばLC/MSまたはHPLC/MS等のカラム分離−検出器技術は、未知のタンパク質を同定するツールとして、プロテオミクス研究では日常的に用いられている。モデルタンパク質の酵素消化は、例えば、ペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)プロセスもしくは質量分析(MS)によるペプチドマッピングプロセス等の分析プロセスに必要な工程である。タンパク質の酵素消化は、もちろんよく知られている。この酵素消化により、タンパク質分子はより小さなフラグメントに分解される。酵素消化は、例えば、タンパク質のアミノ酸配列の決定に用いられる技術である。そのような開裂の機構、つまりフラグメントの厳密な構成は、用いられる酵素および消化が実行されるときの条件(例えば時間、温度およびpH)によって変化する。
【0006】
現在、多くのカラム分離−検出器技術における酵素消化は、ほとんどオフラインで行われている。消化プロセスは、2時間から一晩にわたる時間のかかる作業であり、脱塩、試料精製および濃縮、次いで、例えばLC/MSもしくはHPLC/MSへの試料導入といった複数の手作業による試料操作工程を伴う。このような時間のかかる消化プロセスによって、薬物および疾患に対応するバイオマーカーの潜在的な標的としてのタンパク質をプロテオーム規模で迅速に検索することへ、高速処理のタンパク質PMF分析を適用することが制限されているのは明らかである。さらに、オフライン工程を利用しているために、消化プロセスは、未知のタンパク質分析の定性および定量を難しくしている。消化、精製および濃縮の多工程オフラインプロセスは、消化されたフラグメントの明らかな損失または低回収量をもたらし、それによりプロセス全体での効率を減少させ得る。
【0007】
生体ポリマーを消化して生体ポリマーフラグメントを回収、分離、または検出する、タンパク質および他の生体ポリマーの分析および診断アッセイを行う必要が依然としてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ポリペプチド試料の酵素消化および検出を効率よく実施できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態のいくつかは、媒体中の生体ポリマーを消化する方法に関する。媒体は、中空エレメントの壁に隣接して配置され、この壁の少なくとも一部分は孔質であり、次に媒体を消化条件に曝して生体ポリマーをフラグメントに開裂させる。フラグメントは中空エレメントの壁を透過することができる。
【0010】
本発明の実施の形態のいくつかは、媒体中の生体ポリマーを消化する方法に関する。この場合、媒体は、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントの孔質壁の外側表面上に配置される。壁の少なくとも一部分は孔質である。媒体を消化条件に曝して生体ポリマーをフラグメントに開裂させ、フラグメントは外側表面から内側領域へと中空エレメントの壁を透過する。消化条件は、中空エレメントの外側表面上の消化剤を含む。中空エレメントは中空ライナーの内部に配置される。
【0011】
本発明の実施の形態のいくつかは、ポリペプチド試料を分析する方法に関する。ポリペプチド試料を含有する媒体は、無孔中空ライナー内に軸平行に、例えば同軸で配置されかつ消化領域を提供する中空エレメントを備えている消化デバイスの消化領域に導入される。中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている。壁の少なくとも一部分は孔質であり、外側表面の少なくとも一部分はその上に固定されたポリペプチド消化剤を有している。消化領域中の媒体は、消化条件に曝されて、ポリペプチドを開裂させてフラグメント混合物にする。フラグメント混合物は、外側表面から内側領域へと中空エレメントの壁を透過し、内側領域から取り出される。混合物中のフラグメントの少なくとも1種が分離または検出される。
【0012】
本発明の実施の形態のいくつかは、ポリペプチド試料を分析する装置に関する。装置は、無孔中空ライナー内に軸平行に、例えば同軸で配置されかつ消化領域を提供する中空エレメントを備えている消化デバイスを有しており、中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、壁の少なくとも一部分は孔質であり、外側表面の少なくとも一部分は、その上に固定されたポリペプチド消化剤を備えている。実施の形態のいくつかでは、装置は、消化デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント分離デバイスを備えている。実施の形態のいくつかでは、装置は、分離デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント検出デバイスを備えている。実施の形態のいくつかにおいて、装置は、ポリペプチドフラグメントの混合物を捕捉する捕捉デバイスを備えている。
【発明の実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳説する。図面は、本発明の装置および技術の実施の形態のよりよい説明のために添付した。図面の縮尺は必ずしも一定ではなく、本発明の特定の態様または実施の形態を説明する目的で誇張された特徴もある。
【0014】
本発明の態様は、媒体中の、例えば生体ポリマー、例えばポリペプチド等のポリマーを消化する装置および方法に関する。本発明の実施形態は、オンライン酵素消化デバイスに関し、これは酵素消化を行うマイクロ反応器(微小反応器)であってよい。微小反応器は、生体ポリマー等のポリマーの酵素消化で生成したフラグメントを捕捉する捕捉機構と連通させることもできる。実施形態のいくつかでは、装置は、生体ポリマーフラグメントを分離するデバイスも含む。実施形態のいくつかでは、装置は、生体ポリマーフラグメントを検出するデバイスを含む。
【0015】
「生体ポリマー」という用語は、1種または複数種の繰り返し単位を持つポリマーを示す。生体ポリマーは、典型的には、生体系で見られるもので、特に多糖類(炭水化物等)、ポリペプチド(この用語は多糖に結合しているいないに関わらずタンパク質を含むとして用いられる)およびポリヌクレオチド、ならびにそれらの類似体、例えばアミノ酸アナログもしくは非アミノ酸基、またはヌクレオチドアナログもしくは非ヌクレオチド基からなる、あるいはそれらを含む化合物等が挙げられる。
【0016】
本明細書中での使用においては、「ポリペプチド」は、20より多い連続アミノ酸を含む生体ポリマーを示す。「ポリペプチド」という用語は、タンパク質、タンパク質のフラグメント、タンパク質の開裂型、部分消化されたタンパク質等、約20より多い連続アミノ酸であるものを包含する。
【0017】
本明細書中での使用においては、「ペプチド」は、約20より少ない連続アミノ酸を含む生体分子を示す。
【0018】
本明細書中での使用においては、「ポリヌクレオチド」は、約100より多い連続ヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを含む生体ポリマーを示す。ポリヌクレオチドとして、DNA、RNA、m−RNA、r−RNA、t−RNA、cDNA、DNA−RNA二重鎖等が挙げられる。
【0019】
本明細書中での使用においては、「オリゴヌクレオチド」は、約100より少ないヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを含む生体分子を示す。
【0020】
本明細書中での使用においては、「多糖」は、約10より多い連続糖類または修飾糖類を含む生体ポリマーを示す。
【0021】
本明細書中での使用においては、「オリゴ糖」は、約10より少ない連続糖類または修飾糖類を含む生体分子を示す。
【0022】
検出デバイスの実施形態
本発明の消化デバイスはオンラインとなっている。このことは、消化デバイスが、例えば生体ポリマー等のポリマーのフラグメントを分離および分析する他のコンポーネントもしくは要素と流体連通することを意味する。消化により生成したポリマーフラグメントは、オンラインで、他のコンポーネントの1つ、例えば捕捉機構、分離機構および/または検出機構等に送られる。これは、オフラインで消化を行い、精製(脱塩等)および濃縮のために手作業で消化フラグメントを取り出して、それらを分離デバイスおよび/または検出デバイス、例えばHPLC、二次元LC(2DLC)、HPLCM、LCMSまたはタンデムMS等に導入するシステムとは対照的である。
【0023】
実施形態のいくつかでは、消化デバイスは、無孔中空ライナーに配置された消化領域を提供する中空エレメントを備えており、中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、壁の少なくとも一部分は孔質であり、外側表面の少なくとも一部分は、その上に固定されたポリペプチド消化剤を有する。「少なくとも一部分」という言葉から分かるように、壁の表面全体が孔質である必要はないが、生体ポリマー混合物からフラグメントを所望のように分離することができるように十分な面積の壁表面が孔質であるのが望ましいことを意味する。
【0024】
中空エレメントの実施形態
中空エレメントは、内側表面および外側表面を備えており、少なくとも孔質である部分を備えているのが望ましい。考慮すべき事項の1つは、特定の分析において目的のペプチドフラグメントを、目的ではないそれより大きい分子から有意に分離可能な孔質領域を有することである。通常、中空エレメントの少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約99%、あるいは全体が孔質である。「少なくとも約」という用語により、壁の孔質領域が、指定された割合と等しいかまたはそれより多いこと、および指定された割合が±1%変動可能であることを意味する。孔の大きさは、ペプチドフラグメントを、デバイスの内側表面から外側表面へ通過させかつ未消化ポリペプチドが孔を通過するのを防ぐのに十分でなければならない。中空エレメントの孔の大きさは、約10マイクロメートルで約1,000分子量(MW)のカットオフ、約5マイクロメートルで約5,000MWのカットオフ、約4マイクロメートルで約0.005、または約3マイクロメートルで約0.01である(そのような分子量を超える分子を遮断する)。中空エレメントの内径は、約5〜約2,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約10〜約700マイクロメートルまたは約20〜約500マイクロメートルである。
【0025】
中空エレメントは、多数の材料から製造することができる。中空エレメントは、本方法の分離条件に耐えるために十分な完全性を有さなければならない。中空エレメントを構築する材料は、ポリペプチド、ポリペプチドフラグメント、消化剤を含む消化媒体および任意の他の補助材料、例えば、消化緩衝液、還元剤等と適合性がなければならない。材料は合成物であっても、天然物であっても、それらの組合せであってもよい。材料として、ポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド等をはじめとするプラスチック、樹脂、例えばセルロース、セルロースエステル(ニトロセルロース等)等の多糖類、シリカまたはシリカ系材料、セラミックス、粘土/土、炭素、合金をはじめとする金属、金属酸化物、無機ガラス等が挙げられる。使用される具体的なプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、高密度ポリプロピレン等のポリプロピレン(PP)、例えばTEFLON(登録商標)等のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン、PVDF、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンまたはスチレン共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンアミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。金属として、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(hastalloy)、白金、金、銀、チタン等が挙げられる。
【0026】
中空エレメントの形状は、断面で見た場合に、例えば、円形、正方形、長方形、楕円形、三角形、五角形、六角形等であってよい。実施形態のいくつかでは、中空エレメントは管状である。実施形態のいくつかでは、中空エレメントは円筒のデバイスである。中空エレメントは、直線状であっても湾曲していてもよいが、通常は直線状である。湾曲したエレメントについては、その曲率角度は、エレメントの一端において面から投射した軸から約1〜約90度である。エレメントの形状は、通常、設計的におよび機械的に考慮すべき事項である。
【0027】
中空エレメントの寸法は、各場所でそれぞれエレメントの断面とともに変化し得る。例えば、中空エレメントの一端に近い断面の寸法は、そのエレメントのもう一端に近いものより小さくてもよい。この構成により先細りの中空エレメントとなる。一方で、例えば、エレメントの両端での断面の寸法は、エレメントの中央での断面の寸法よりも、大きいまたは小さくてもよい。一般に、中空エレメントの内側断面寸法は、エレメントの長さ方向に沿ったある一点と他の点とでは、約80%以下、約50%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下、約5%以下で変化する。多くの実施形態では、中空エレメントの内側断面寸法は、大きく変化しない、すなわち約1%以下の変化である。
【0028】
中空エレメントの長さは、多数の考慮すべき事項に依存する。長さは通常、後述の装置の他のコンポーネントとオンラインにある消化デバイスの一部として中空エレメントを提供するのに便利なように決定される。長さはまた、後述の適切な消化領域を提供することにも依存して決定される。実施形態のいくつかでは、中空エレメントの長さは、約0.1mm〜約10,000mm、約0.5mm〜約1,000mm、または約1〜約500mmである。便宜上、中空エレメントの長さは、市販されている製品に基づいて選択することもできる。
【0029】
中空エレメントの壁の厚みは、多数の要因に依存する。考慮すべき事項の1つは、ペプチドフラグメントとそれより大きな分子との適切な分離を達成させることである。別の考慮すべき事項は、中空エレメントの構造的または機械的完全性または安定性である。中空エレメントの壁の厚みは、約1〜約10,000マイクロメートル、約5〜約5,000マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約30〜約600マイクロメートル等である。
【0030】
具体的な実施形態では、中空エレメントは、中空繊維膜である。「中空繊維膜」という言葉は、約5〜約2,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約10〜約700マイクロメートルまたは約20〜約500マイクロメートルの間の内径を有する、極小の管または繊維を意味する。中空繊維膜の外径は、膜の内径に依存し、一般に約3,000マイクロメートル未満、約2,000マイクロメートル未満、または約1,000マイクロメートル未満である。中空繊維膜は、例えばポリエチレン、ポリエーテルスルホン、PVDF等の中空繊維膜に適した任意の材料で構築される。選択される具体的な材料は、消化剤の性質、消化条件、ポリペプチドおよび/またはポリペプチドのフラグメントの性質等に依存する。中空繊維膜は、「外から中へ(outside-in)」の様式で操作され、ここで消化により生成した小さなポリペプチドフラグメントは中空繊維の孔を透過し、内側壁を出て、中空繊維の内側に進入する。大きなポリペプチドまたは不完全消化による大きなポリペプチドフラグメントは中空繊維膜を通過しない。目的のポリペプチドフラグメントを含有する流出物が中空繊維の内側に存在することになり、中空繊維膜の内側の穴を通って流れる。中空繊維膜は、上記の分離を実現するのに十分な孔の大きさを有するように選択されなければならない。中空繊維膜の孔の大きさは、約10マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、約5マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、約4マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、または約3マイクロメートルで約1,000MWのカットオフを可能にするものである。中空繊維膜の壁の厚みは、約1〜約1,000マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートルである。適切な中空繊維膜としては、例示的に、PES、PVDF、PP、PE等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0031】
中空ライナーの実施形態
上述のとおり、消化デバイスは、無孔中空ライナー中に配置されておりかつ消化領域を提供する中空エレメントを備えている。多くの実施形態では、中空ライナーは、2つの末端を有する。2つの末端のそれぞれが、少なくとも2つの独立した流体連通口を有する。各末端の流体連通口の1つは、中空エレメントの内側の開口部と連結している。流体連通口の少なくとも1つは、好ましくは中空ライナーの対応する末端に接近した位置でギャップ領域と連結している。
【0032】
いくつかの実施形態では、中空エレメントは、中空ライナー内に軸平行になるよう配置されている。「軸平行」という言葉は、中空エレメントの円筒軸が中空ライナーの円筒軸の輪郭に沿うことを意味する。いくつかの実施形態では、中空エレメントの円筒軸は、中空ライナーの円筒軸に平行である。軸平行の具体的な実施形態は、同軸であり、ここで円筒軸は中空エレメントおよび中空ライナーについて同一である。いくつかの実施形態では、軸の配列は、約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約5%以下または約1%以下で同軸の構成から逸脱していても。また、「無孔」という言葉は、中空ライナーの内側の流体が中空ライナーの壁をほとんど通過できないことを意味する。
【0033】
中空エレメントは、中空ライナー内に配置されている。中空エレメントおよび中空ライナーの形状は、通常同じであるが、必ずしもそうである必要はない。それぞれの形状および軸配列は、中空ライナーの内側壁と中空エレメントの外側壁との間に消化領域を形成させなければならない。消化領域の寸法は、所望の消化反応が消化領域で行われることを許容するのに十分でなければならない。1つ以上の中空エレメントが、中空ライナー内に配置されていてもよい。例えば、中空繊維の束を中空エレメントとして用いることができる。中空エレメントは、中空エレメントの内側領域それぞれが消化流出物を受容する1つの導管と流体連通しており、消化液を後述の分析装置のコンポーネントへ送る手段を提供するように配置されている。あるいは、中空エレメントの内側領域のそれぞれが別々にそのようなコンポーネントと連通している。この実施形態では、中空エレメントの外側表面と中空ライナーの内側壁が消化領域を形成する。
【0034】
中空ライナーの壁の厚みは、多数の要因に依存する。考慮すべき事柄の1つは、中空ライナーの構造的または機械的完全性または安定性であり、中空ライナーは、は消化プロセス中、消化領域の完全性が維持されるように十分に厚くなければならない。構造的完全性は、中空ライナーを製造するのに用いる材料の性質にも関連する。中空ライナーの壁の厚みは、約100〜約10,000マイクロメートル、約200〜約5,000マイクロメートル、約200〜約3,000マイクロメートル、約200〜約1,000マイクロメートルである。
【0035】
中空ライナーは、多数の材料から製造することができる。上述の、中空エレメント用構築材料に当てはまる考慮すべき事項の多くは、中空ライナーにも同じく当てはまる。
【0036】
中空ライナーの内部寸法は、中空エレメントをその中に配置させ、かつ所望の消化領域を形成させるのに十分なものである。したがって、中空ライナーは中空エレメントを収容できる内部断面寸法を有する。中空エレメントの外部壁と中空ライナーエレメントの内部壁との間の距離が、消化領域を画定する。一般に、この距離は、消化反応を適切に行うために必要な消化領域の体積に関連する。多くの例において、上記壁間の距離は、約1〜約5,000マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートルまたは約10〜約500マイクロメートルである。中空ライナーの長さは、中空エレメントを含むのに十分なものとなっているが、中空エレメントの外部にまで伸びて流れの連結を簡単にすることもできる。通常、中空ライナーは、中空エレメントと末端が同じになる(co-terminal)長さを有している。中空エレメントは、消化領域の消化媒体が中空エレメントの内部に進入することによる消化流出物のあらゆる汚染を回避するような様式で、中空ライナー内に配置されている。
【0037】
いくつかの実施形態では、中空エレメントの両末端部分は、中空ライナー内で、例えば、接着剤により、ポット接着(pot-sealed)されて、消化領域および中空エレメントの内部を形成し、中空エレメントの孔を通じて以外は、この二者間で流体連通は起こり得ない。中空エレメントおよび中空ライナーは、おセラミック、ガラス、ポリイミド、Teflon(登録商標)、ゴム、接着剤等からなる間隔棒、小片、柱等の適したスペーサ、Oリング等によって相対的に配置することができる。
【0038】
充填材料を含む検出デバイスの実施形態
中空エレメントは、中空エレメントの内側に充填材料を含んでもよい。充填材料は、中空エレメントの内部および中空繊維壁の孔質領域中へ配置されていてもよい。充填材料の目的は、ペプチドフラグメントを中空エレメントの内部内に保つこと、消化されたポリペプチドフラグメントが中空エレメントの孔質壁を透過することを低減すること、フラグメントが中空エレメントの孔質壁を透過するのを遮断すること、表面二極効果、疎水性または親水性等をはじめとする内側表面の表面性質を修飾することである。充填材料は、表面孔性、固有孔性または無孔性の特徴を有していなければならない。充填材料は、材料本体の化合物(chemical entity)と異なる化学物質で表面を修飾することもできる。そのような表面修飾としては、例示的に、C18、C8またはC4ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されることはない。いくつかの実施形態では、充填材料は、中空エレメントの内側領域または孔質壁のいずれかを充填するのに適した粒子サイズを有する。
【0039】
適切な充填材料としては、例示的に、シリカ粒子、デンドリマー、ジビニルベンゼン系ポリマーまたはそのコポリマー、ジルコニア、チタニア、アルミナ等の金属の金属酸化物、架橋デキストリン、ゲル等が挙げられるが、これらに限定されることはない。充填材料の量は、通常、消化領域、すなわち、孔質壁体積または中空エレメントの内部を、消化長さの約10%〜約90%、約10%〜約70%、約10%〜約50%にわたって、充填するまたは満たすのに十分である。充填された材料の割合は、中空エレメントの消化領域の空き体積に占める充填材料の体積として定義される。壁充填の場合、空き体積は消化長さに占める壁の孔体積であり、例えば、壁の孔隙率が30%の場合、消化領域に占める壁の体積をVとすると、消化領域の空き体積は0.3Vである。内部充填の場合、Vを消化長さにわたる中空エレメントの内側領域体積とすると、消化領域の空き体積はVである。充填材料の体積は、重量を充填材料の密度で割ったものと定義される。
【0040】
充填材料の大きさは、充填材料の性質、流体媒体の性質、消化フラグメントの性質、透過速度等に依存する。断面での充填材料の大きさは、約0.01〜約500マイクロメートル、約0.01〜約300マイクロメートル、約0.01〜約100マイクロメートル、約0.01〜約50マイクロメートル、約0.01〜約25マイクロメートル等である。
【0041】
コンポーネント移動の代替実施形態
上記の記載は、主に、中空ライナーに配置された中空エレメントで形成された消化デバイスを、フラグメント混合物が中空エレメントの壁を通って外側表面から内側領域(外から中へ)へ透過することができ、所望であれば、内部から分析装置の別のコンポーネントへ出て行くことができるように、構成または適合されている実施形態に関する。しかし、いくつかの実施形態では、消化デバイスは、フラグメント混合物が中空エレメントの壁を通って内側領域からギャップ領域(内から外へinside-out)へ透過することができ、所望であれば、ギャップ領域から分析装置の別のコンポーネントへ出て行くことができるように、構成または適合されていてもよい。この後者の実施形態では、生体ポリマー消化剤が、中空エレメントの内側表面に固定される。さらに、この後者の実施形態に適合させるためには、消化デバイスにも、コネクタ、ポート等が設定される。
【0042】
消化剤の実施形態
上述のように、中空エレメントの外側表面は、消化剤等の試薬を含む。「試薬」という言葉は、直接または間接的に、目的の試料種と化学反応して目的の試料種から生成物を生成することを基本的に唯一の目的とする、化学種または化学種の組合せを意味する。消化剤は、生体ポリマーの結合を開裂させて目的のフラグメントを生成させることを促進する試薬である。消化剤の性質は、生体ポリマーの性質に依存する。
【0043】
消化剤は、小分子(約2,000未満、または約1,500未満または約1,000未満の分子量)であっても、巨大分子(約2,000より多い、または約5,000より多いまたは約1,000より多い分子量)であってもよい。消化剤は、中空エレメントの外側表面に可逆的に、または不可逆的に固定することができる。「不可逆的に固定する」とは、消化条件下、消化剤が明らかに分離することがない様式で、中空エレメントの外側表面に消化剤を付着させることを意味する。小分子消化剤は、それらが消化流出物と共に中空エレメントを通過しないように、一般に、中空エレメントの外側表面に不可逆的に固定する。不可逆的な固定は、消化剤と中空エレメントとの共有結合により実現することができる。そのために、中空エレメントを処理し、その表面に、消化剤の1つ以上の官能基と化学反応させるための1つ以上の官能基を導入する。巨大分子消化剤も、不可逆的にまたは可逆的に固定されていてよい。多くの実施形態では、巨大分子消化剤は、消化プロセスの間、付着したままでも安定であるように、上述のように不可逆的に固定させる。他の実施形態では、巨大分子消化剤を不可逆的に固定し、その場合の固定は、通常、中空エレメントの外側表面と消化剤との間の非共有結合相互作用を含む。そのような非共有結合相互作用として、例えば、付着、吸収、吸着、親和性結合/ヒンジ、免疫ヒンジ(immuno-hinge)等が挙げられる。
【0044】
共有結合は、直接的(消化剤と中空エレメントの外側表面との間の結合による等)であっても、間接的(消化剤と中空エレメントの外側表面との間の連結基による等)であってもよい。共有結合または非共有結合は、一般に文献から利用可能な既知の技術によって完成させることができる。
【0045】
小分子消化剤の例として、例示的に、臭化シアン、ジメチルスルホキシド/臭化水素酸、ジチオトレイトール等が挙げられるが、これらに限定されない。巨大分子消化剤の例としては、例示的に、酵素等が挙げられるが、これらに限定されない。ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび多糖類についての酵素開裂剤は当技術分野で公知である。
【0046】
酵素は、当技術分野で公知の方法により、中空エレメント上に固定されてもよい。例えば、「固定化酵素(Immobilized Enzymes)」Ichiro Chibata, Halsted Press, New York (1978) and Cuatrecasas, J. Biol. Chem., 245:3059 (1970)を参照。広範囲な官能基が利用可能または併用可能である。官能基として、カルボン酸、アルデヒド、アミノ基、シアノ基、エチレン基、ヒドロキシル基、メルカプト基等が挙げられる。共有結合固定化の一般例として、グルタルアルデヒド、イソチオシアネート、および臭化シアン等のリガンドを用いた、例えばプロテアーゼ等の酵素の、アルキルアミン活性化表面への直接共有結合が挙げられる。しかしながら、プロテアーゼは、プロテアーゼと特異的に反応するか、プロテアーゼとカップリング(例えば、共有結合で)した分子と結合もしくは反応する結合パートナーを用いて、固相に固定することもできる。結合パートナーは、好ましくは、約10より大きい親和性定数、すなわち約10―8より小さい解離定数を有する。適切なリガンド結合対の代表例としては、サイトスタチン/パパイン、バルホスファネート(valphosphanate)/カルボキシペプチダーゼA、ビオチン/ストレプトアビジン、リボフラビン/リボフラビン結合タンパク質、および抗原/抗体結合対が挙げられる。好ましくは、結合対または結合対と結合した分子は、プロテアーゼおよび/または他の酵素の触媒部位から離れた位置にある。
【0047】
ポリペプチドの酵素消化剤の例として、例示であって限定ではないが、プロテアーゼ等が挙げられる)。適切なプロテアーゼとして、例示的に、パパイン、トリプシン、例えばアミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、およびエンドペプチダーゼ等のペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、サーモリシン、エンドプロテイナーゼLysC、エンドプロテイナーゼGluC、エンドプロテイナーゼArgC、エンドプロテイナーゼAspN)が挙げられるが、これらは限定ではない。アミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼは、翻訳後修飾およびプロセシング現象を特性決定するのに有用である。プロテアーゼの組合せもまた用いることができる。例えば尿素、グアニジン等の変性剤、例えばDTT(1,1ビス(p−クロロフェニル)−2,2,2−トリクロロエタン)等の還元剤、βメルカプタン等の、配列特異的開裂用の薬剤も使用できる。
【0048】
消化媒体の実施形態
多くの実施形態では、消化剤は消化媒体を利用するが、これは通常水性媒体であり、1種以上の、緩衝液および、生体ポリマーの消化を補助する他の薬剤を含んでいてもよい。一般に、消化媒体および消化条件は、消化を最大限にし、かつ消化剤、消化されるべき生体ポリマー、消化領域材料(中空ライナーおよび中空エレメント等)との表面適合性における悪影響をほぼ回避するように選択される。水性媒体は、単なる水であってもよいし、0.01〜80体積パーセントまたはそれより多い、有機溶媒等の共溶媒、例えば、アルコール、エーテル、アミド等を含んでいてもよい。各酵素がそれぞれ様式で、すなわちポリペプチド鎖に沿って異なる点でかつ異なる速度でタンパク質を分解すること、どのような特別な場合にも、最良の消化酵素および消化条件(例えばpH、時間、イオン強度、温度)を決定するためにいくつかの予備的なルーチン検査が望ましいことが理解されるであろう。
【0049】
媒体のpHは、消化剤の性質、ポリペプチドおよびポリペプチドのフラグメントの性質等といった要因に依存する。pHは、通常、約4〜13の範囲、約5〜10の範囲、約6.5〜9.5の範囲にある。pHは、通常、最適の生体ポリマー消化を達成するように選択される。
【0050】
所望のpHを達成しかつ消化中にそのpHを維持するために、様々な緩衝液を用いることができる。緩衝液の例として、ボレート、ホスフェート、カルボネート、トリス、バルビタール等が挙げられる。用いられる特定の緩衝液が本発明にとって重要というのではなく、個々の消化においてそれぞれ好適な緩衝液がある。本発明による方法に様々な補助材料を用いることもできる。例えば、媒体は、緩衝液の他に、媒体用安定剤および用いる試薬用安定剤を含んでいてもよい。
【0051】
媒体は、通常、フラグメントを分離して検出できるように、生体ポリマーの消化が生じるのに十分な温度および時間でインキュベートされる。本発明の方法を行うのに適度な温度が通常用いられ、これは通常一定温度であるが、特定の状況下では、消化中に複数の温度を用いることが望ましい場合もある。適切な温度は通常、約5℃〜約99℃、約15℃〜約70℃、約20℃〜約45℃の範囲である。インキュベーションの時間は、例えば、消化剤(単数または複数)と生体ポリマーとの間の反応速度等に依存し、約0.2秒〜約12時間、約2秒〜1時間、約10〜約30分である。時間は、特に、媒体温度、消化剤(単数または複数)濃度等に依存する。
【0052】
生体ポリマーの量は、通常、約1〜約100,000ナノグラム(ng)、約0.1〜約10マイクログラム、約0.1〜約100マイクログラムの範囲にある。
【0053】
例えば、中空エレメントが中空繊維のように非常に多数の孔を有する場合等の本発明のいくつかの実施形態では、中空エレメントの外側表面に固定される酵素量を多くすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、酵素分子数対タンパク質分子数は、約50対約1、約40対約1、約30対約1、約20対約1、約10対約1または約5対約1とすることができる。そのように高い比率が得られるのは、本発明の実施形態が中空繊維等の高空隙率中空エレメントを用いるためである。他の実施形態では、酵素対タンパク質の分子比は、約4対約1、約3対約1、約2対約1、約1対約1、約1対約2、約1対約3、約1対約4、約1対約5、約1対約10等である。酵素の量は、合理的な時間においてタンパク質の有効な消化を達成するのに十分でなければならない。
【0054】
中空エレメントの表面修飾
中空エレメントの外側表面の修飾および中空エレメント内側を流れる媒体が疎水性を有するために、塩、緩衝液等、消化媒体のうち、中空エレメントを透過しない成分もある。中空エレメントの外側表面は、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の適したポリマーを用いた表面コーティング等の表面修飾により、または放射線で酸化物表面を生成することにより、修飾することができる。いくつかの実施形態では、中空エレメント内側を流れる媒体の疎水性は、中空エレメント材料の未処理の表面、すなわち、脂肪族炭化水素または他の基によって得ることができる。
【0055】
消化領域とサンプリング系
消化領域は、消化されるべき試料を提供するサンプリング系と流体連通する。サンプリング系は、約0.05〜約150psi、約0.05〜約100psi、約0.1〜約60psi等の低圧下で操作される。サンプリング系と消化領域との間の流体連通は、中空ライナー中の1つまたは複数のポートへの適切な流体コネクタにより確立される。このポートは、必要に応じて注入口または排出口として機能し、サンプリング系と消化領域との間の流体連通を達成する。サンプリング系は、HPLCサンプリング弁、シリンジ、ソレノイド弁、ポンプ等であってよい。サンプリング系の体積は、ポリペプチド溶液量および有効洗浄体積等に依存する。サンプリング系の体積は、約5〜約20,000マイクロリットル、約10〜約10,000マイクロリットル、約20〜約5,000マイクロリットル、約50〜約1,000マイクロリットル、約100〜約800マイクロリットル、約200〜約700マイクロリットル、または約300〜約600マイクロリットルであってよい。
【0056】
消化領域と分析コンポーネント
中空ライナーに配置された中空エレメントにより形成される消化デバイスは、中空エレメントの内部の消化流出物(消化された生体ポリマーフラグメントを含む)が内部から分析装置の別のコンポーネントへ送られ得るように、構成または適合されている。したがって、中空エレメントは、中空エレメントの内部とそのようなコンポーネントとの間に流体連通を提供するためのポートを少なくとも1つ有する。さらに、中空ライナーは、消化されるべき生体ポリマー消化をデバイスの消化領域へ導入するためおよび使用済み材料を消化領域から取り出すための、ポートを1つ以上有する。「少なくとも1つのポート」または「1つ以上のポート」という用語は、ポートの数が、1つ、2つ、3つ、4つ等であってもよいことを意味する。
【0057】
消化フラグメントの捕捉
消化フラグメントの捕捉は、移動相の適した勾配流等の下、適した充填材料(例えば、C18粒子、C8粒子、C4粒子、イオン交換樹脂等)で充填したキャピラリーカラム等の公知の技術で達成され得る。フラグメントの捕捉は、外側領域に浸透作用をもたらすための中空エレメントの表面修飾と異なる表面修飾を持つ別の中空繊維を用いること等によっても達成できる。
【0058】
消化フラグメントの分離
フラグメントは、例えば、適したクロマトグラフ材料を用いるクロマトグラフィー等の分離デバイスまたは技術を用いて分離することができ、クロマトグラフ材料の性質は、クロマトグラフィーの性質に依存し、一般に当技術分野で公知である。クロマトグラフィーは、化合物の混合物をその成分に分離する方法である。これにより、微量の不純物または主要な画分を互いに分離することが可能となる。これらの分離された成分は、次いで、分光学的方法をはじめとする様々な方法により分析することができる。
【0059】
クロマトグラフィーは、異なる種類の分子が、カラム等の筐体に密閉されたクロマトグラフ材料に沿って通過することで、それらが分離されることに基づく。筐体は高表面積を有する材料で充填されていてもよい(例えば、充填されたカラム)し、または材料は筐体の内側壁にコーティングされたフィルムとして存在していてもよい(例えば、開管カラム)。不活性材料の充填または壁コーティングフィルムは、固定相として作用する。クロマトグラフ材料は、特定の化合物に対して引力による選択性を示す材料である。クロマトグラフ材料は、分析される化合物と物理的に相互作用してもよい。分析されるべき試料がクロマトグラフ材料に沿って移動する際に、試料は、そのさまざまな成分に分離し、次いでその成分が特性決定および同定される。この手法は、各成分が混合物中にどのくらい存在するかを測定するのにも用いることができる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態で用いられる、フラグメント分離のためのクロマトグラフ技術は、高速液体クロマトグラフィー、定流ポンプにより駆動される液体流、移動相の勾配流等を含む液体クロマトグラフィーであってよい。
【0061】
消化フラグメントの検出
当技術分野で公知であるかまたは利用可能である任意の適切な検出器が、分離されたフラグメントを検出し、同定を行うのに用いることができる。検出器の例として、例示的には、質量分析器、紫外可視分光光度計、免疫利用センサ(免疫反応を利用するセンサ、immuno-based sensor)、電子捕獲検出器、熱伝導度検出器等、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定さえることはない。本発明の装置は、検出器に接続するようになっているが、これは当技術分野で公知のコネクタを用いることで実現することができる。接続は、検出器と直接的にまたはインターフェースを通じて検出器と間接的に実施でき、インターフェースは、例えば、チップ−LC、チップ−ノズル、超小型(micro-machined)流体チャネル、MSへの外部ノズル等であってよい。
【0062】
質量分析は、材料および材料混合物の定量的化学分析に用いられる分析手法である。質量分析において、分析物と呼ばれる、分析されるべき材料の試料、通常は有機または無機または生体分子試料は分解されて、イオン源中、その構成パーツの帯電粒子になる。粒子は、典型的には分子の大きさを有する。分析物粒子は、生成すると、それらの相対質量対電荷比に基づいて分光計により分離される。次いで、分離された粒子を検出して、材料の質量スペクトルを作成する。質量スペクトルは、分析される試料材料の指紋のようなものである。質量スペクトルは、試料を形成する様々な分析物のイオンの質量、場合によっては量についての情報を提供する。詳細には、質量分析は、分析物内の分子および分子フラグメントの分子量を決定するのに用いらる。さらに、質量分析は、ある程度まで、材料が粒子に分解されるときのフラグメント化パターンに基づいた、分子構造および副構造ならびに分析物内の構造を形成する成分を同定し得る。質量分析は、多数の他の関連分野と併せて、材料科学、化学および生物学において非常に強力な分析ツールであることが証明されている。
【0063】
大気圧化学イオン化(APCI)チャンバ、電子スプレーイオン化(ESI)チャンバ、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)チャンバ等のイオン化チャンバを用いる質量分析器は、液体試料または気体試料から質量スペクトルを得るのに特に有用であることが実証されてきており、広い応用範囲を有する。質量分析(MS)は、ガスクロマトグラフィー(GC)または液体クロマトグラフィー(LC)と共に用いられることが多く、GC/MSおよびLC/MS複合系は、幅広い極性および分子量を有する分析物の分析によく用いられる。LC/MS複合系は、これまで、環境モニタリング、薬学分析、工業的プロセスおよび品質管理等の応用に特に有用であった。
【0064】
タンパク質の酵素消化物の液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)分析は、タンパク質配列決定、翻訳後修飾の分析、プロテオミクス、治療用タンパク質製剤および他のタンパク質製剤の品質管理等をはじめとする幅広い応用を伴う重要な技術である。従来の方法は、通常、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分離からの流出物の電子スプレーイオン化(ESI)に続いて、様々なフラグメント化技術のいずれかを用いた質量分析を含んでいる。ESIインターフェース内で衝突により引き起こされたフラグメント化は、配列情報を作成するのに用いられることが多い。三連四重極または四重極飛行時間型機器を用いるタンデムMS/MSはしばしば、そのような分析に最適な方法である。
【0065】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドの高速処理での同定には、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MS)ペプチドフィンガープリンティングが最適な方法の1つである。この方法は高速に行われるものの、タンパク質データベースのマッチングを必要とし、また提供する情報も詳細ではない。より詳細な上方が必要な場合には、イオン化タンデム質量分析(ESIMS/MS)が最適な方法である(例えば、Kargerら、1993, Anal Chem. 65: 900-906を参照)。MS/MSは、アミノ酸レベルの配列情報を与えることができるので、デノボ配列決定および翻訳後修飾の分析に用いられる。タンパク質および核酸データベースの配列に直接関連するMS/MSスペクトルの自動データベース検索プログラムの開発によって著しく処理量が増加した。複合型の機器はMALDIをMS/MSと組み合せている。
【0066】
いくつかの実施形態では、単独のタンパク質またはタンパク質の混合物の質量分析による分析手順は、以下の工程を含む。a)タンパク質混合物中の全てのタンパク質のジョイント酵素消化(連帯酵素消化)を行い、b)混合物中のペプチドを、液体クロマトグラフィーによって、好ましくは可能な限り高い分解能のカラムで分離し、c)マトリクス支援レーザー脱離(MALDI)、表面増強レーザー脱離(SELDI)、ESI等により消化ペプチドをイオン化し、イオンの飛行時間を飛行時間型質量分析器で測定し、これらの飛行時間から消化ペプチドイオンの質量を決定し(発生したスペクトルは消化ペプチドスペクトルと呼ばれる)、およびd)関連したタンパク質を、タンパク質配列、EST、cDNAまたはDNAデータベースを検索することで同定する。
【0067】
本発明の方法の実施形態
上述のように、本発明の実施形態のいくつかは、媒体中でポリペプチドを消化する方法に関する。これらの方法は、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを含む中空エレメントの孔質壁の外側表面上に媒体を設けることを含む。壁の少なくとも一部分は孔質である。媒体は、消化状態に曝されて、ポリペプチドをフラグメントに開裂させ、フラグメントは、外側表面から内側領域へ中空エレメントの壁を通じて透過する。本発明の実施形態のいくつかは、ポリペプチド試料を分析する方法に関する。ポリペプチド試料を含む媒体が、上述のように消化される。中空エレメントの壁を通じて透過したフラグメントは、任意に捕捉され、次いで任意に塩および検出に適さない他の分子から分離されて、続いて任意に検出される。
【0068】
分析されるべき材料
生体ポリマーを含む試料は、体液であっても非体液であってもよい。「体液」という用語は、特定の標的タンパク質または検出されるべきタンパク質を含んでいる疑いがある、ほ乳類(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ブタ等)の身体から得られる任意の流体を示す。体液として、例えば、全血、血漿、血清、間質液、汗、唾液、尿、精液、水疱液、炎症性浸出液、便、痰、脳髄液、涙、粘膜等、生体組織等のタンパク質含有材料からタンパク質を回収するのに用いられる回収液等が挙げられる。生体組織として、宿主の臓器または他の身体部分から切除した組織が挙げられる。
【0069】
「非体液」という用語は、特定の標的タンパク質または検出されるべきタンパク質を含んでいる疑いがある、ほ乳類の身体から得られるのではない任意の流体を示す。非体液の例として、細胞培養液、透析液等が挙げられる。タンパク質試料を、直接試験するか、または前処理してタンパク質をフラグメント化して分析用フラグメントにしてもよい。
【0070】
単独のタンパク質を分析してもよいし、タンパク質混合物を分析してもよい。タンパク質混合物の測定のために、無傷の細胞、無傷のウイルス、ウイルス感染細胞、溶解物、プラスミド、ミトコンドリア、または他の細胞小器官、画分化試料、または他のタンパク質集合体、分離されたタンパク質、および処理されたタンパク質を、単独でまたは他の化合物と組み合せて用いることができる。複数のタンパク質を同定する必要がある場合、タンパク質混合物の任意の源を用いることもできる。タンパク質分析物は、沈殿、抽出、およびクロマトグラフィーを用いて単離することができる。タンパク質は、個別のタンパク質として、または細胞小器官、細胞、ウイルス等の様々な集合体に組み込まれて存在していてもよい。タンパク質分析物は、例えば、細胞を溶解することにより、細胞から放出され得る。
【0071】
本発明の実施形態が適用される1つの分野は、プロテオミクスである。プロテオームは、正確に定義された境界条件下での1つの細胞型に含まれる全てのタンパク質の全体を指すものとして定義される。高等生命体は数百種類の細胞を含んでいるため、プロテオームも数百存在する。特定の存在の細胞型の全てに共通するタンパク質があり、また1つの型の細胞に特異的なタンパク質もある。そのうえ、プロテオームは、不変ではなく、年齢または医薬投与から生じる細胞群にかかるストレス等の境界条件により、定性的かつ定量的に変化する。
【0072】
特に重要であるのは、もちろん、薬学的標的タンパク質としておよび予想される独立の活性物質としての用途が未知であるプロテオームのタンパク質、すなわち、薬学的使用に適したタンパク質である。同じく細胞群の機能を理解するために非常に重要なのは、細胞群に加齢、医薬投与、または疾患等のストレスがかかった場合に量が変化するタンパク質である。
【0073】
哺乳類は100,000種をはるかに上回るタンパク質を有し、それらの構造設計図は30,000〜40,000遺伝子と見積もられている。たった1つの遺伝子から、「スプライシング」プロセスによって、統計的平均として約3.5種類の異なる型のタンパク質が生じることを示す見積もりがある。さらに、より多くのタンパク質が翻訳後修飾により生成される。プロテオームは数千から数万までのタンパク質を含む。今日、ヒトタンパク質のまだ半分も分かっていない。
【0074】
本発明の実施形態が適用される他の分野として、例えば、タンパク質配列決定、翻訳後修飾の分析、治療用タンパク質および他のタンパク質調製の品質管理、抗体もしくはAffibody(登録商標)抗体の調製、毒性研究等が挙げられる。
【0075】
本発明の実施形態が適用される他の分野として、ゲノミクスが挙げられるが、これはDNA構造および機能の総合的分析と説明できる。全ゲノムレベルでの生物学的多様性を理解することは、個々の体質および疾患感受性の起源についての洞察をもたらす。ヒト等の生物は遺伝子レベルでは非常に似通っているものの、1,000ヌクレオチド塩基ごとに約1つの頻度で違いが出てくる。これが翻訳されると各個体間でおよそ300万塩基の違いになる。そのような変化は、単一ヌクレオチド多型(SNP)と呼ばれ、ヒトおよび他の生物において個々のSNPをマッピングするために、研究団体で多大な努力が現在行われている。SNPは、遺伝子翻訳領域内でまたは非翻訳領域で見いだされ得る。それらの効果は、わずかでタンパク質機能の微妙な変化をもたらすかもしれないし、または大きくて疾患の発症をもたらすかもしれない。多型は変異とは明確に異なる。後者は稀で、種の1パーセント未満しか影響を受けないとみなされるが、多型は比較的よく見られ、その保有率は正常と見なされるものと違わない。
【0076】
本発明の方法が適用される別の分野は、生体プロセスに関連する場合の多糖類または炭水化物の研究および分析である。炭水化物は生物で見いだされる有機化合物の最も豊富な類である。それらは光合成、すなわち光エネルギーとクロロフィル色素を必要とする二酸化炭素の吸熱還元的縮合の生成物として得られる。本明細書中に記載するように、多くの炭水化物の式は水化炭素(水酸化炭素)、C(HO)として書くことができるので、その名前を有している。炭水化物は、植物および食料として植物に依存している動物の両方にとって、主要な代謝エネルギー源である。この生命に必要な栄養学的役割を果たす糖類およびデンプンの他に、炭水化物は構造材料(セルロース)、エネルギー輸送化合物ATPの成分、細胞表面の認識部位、ならびにDNAおよびRNAの3つの基本成分の1つとしても機能する。
【0077】
装置の実施形態
本発明のいくつかの実施形態は、ポリペプチド試料を分析する装置に関する。装置は、無孔中空ライナーに軸平行に、例えば同軸で配置されて消化領域を提供する中空エレメントを備えており、中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、壁の少なくとも一部分は孔質であり、外側表面の少なくとも一部分は、その上に固定されたポリペプチド消化剤を有する。いくつかの実施形態では、装置は、消化デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント分離デバイスを含む。いくつかの実施形態では、装置は分離デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント検出デバイスを含む。いくつかの実施形態では、装置はポリペプチドフラグメントの混合物を捕捉する捕捉デバイスを含む。
【0078】
装置はまた系の接続を有していてもよく、これは1つ以上のポンプ、弁、材料を通る不都合な流れ用の排出ライン、検出器入口および出口、チップカラムをはじめとするHPLCカラム、他のカラム、分取コレクタ等を含んでいてもよい。
【0079】
本装置のコンポーネントは、通常はハードウェアとソフトウェアの組合せにより、指定された機能を実行するようになっている。これには、特定のコンポーネントの構造が含まれており、またマイクロプロセッサ、組込リアルタイムソフトウェア、および操作順序を制御するI/Oインターフェース電子機器等が含まれてもよい。
【0080】
装置の実施形態の1つを図1に示す。装置10は、移動相の流れを中空繊維16の領域22に供給し、消化されたフラグメントを捕捉系30に押し込むためのサンプリングHPLCポンプ12を備えており、これによりフラグメントは、グラジエントポンプ32により駆動される公知の移動相組成(移動相中の高含量の有機溶媒等)の下、塩または小さいフラグメント等の望ましくない分子から分離される。ポンプ12は消化デバイス14と流体連通し、消化デバイス14は、中空ライナー18内に配置されて消化チャンバ20を形成する中空繊維16を備える。中空繊維16は、消化領域20と中空繊維16の内側領域22との間で生じる連通のみが中空繊維16の孔を通じて行われるような密閉様式で、中空ライナー18内に配置されている。消化領域20はライン26およびライン28を通じて低圧小規模サンプリング循環系24と流体連通し、ライン26およびライン28はそれぞれ中空ライナー18内の消化領域20への注入口および排出口として機能する。系24体積は、この実施形態では約500マイクロリットルである。中空繊維16の外側表面16aは、例えば、この実施形態ではトリプシン等の酵素消化剤17でコーティングされている。内側領域22は捕捉系30と流体連通し、この実施形態に示す捕捉系30は、キャピラリーカラムであり、スイッチ弁38を通じて消化デバイス14および勾配ポンプ32に接続している。グラジエントHPLCポンプ32は、移動相の流れを提供し、消化されたフラグメントが捕捉系30から押し出されて分離デバイス30に入った後にHPLC分離カラム34内の消化されたフラグメントをさらに分離するのに用いられる。捕捉系30は分離デバイス34と流体連通し、分離デバイス34はこの実施形態ではHPLC分離カラムである。検出器36は、任意にインターフェース40を介して分離デバイス34と通信する。
【0081】
操作時、サンプリングHPLCポンプ12が移動相の流れを中空エレメント16の内側領域22中に供給する。この流れは、約0.001ml/分〜約lml/分、約0.001ml/分〜約0.5ml/分、約0.001ml/分〜約0.1ml/分であってよい。移動相は中空エレメント壁を濡らす。目的のタンパク質を消化緩衝液中に含有するタンパク質試料を、スイッチ弁またはシリンジを用いて手作業で注入することにより、注入ライン28を通じて消化領域20に導入する。タンパク質試料を含有する消化緩衝液をデバイス24により循環させる。循環流速は、消化されたフラグメントの透過速度とポンプ12からの移動相の流れとの釣り合いに基づいて、タンパク質の消化有効率を維持するのに十分な小さい速度に設定される。試料媒体を消化領域に導入する流速は、タンパク質の消化有効率を維持するのに十分である。流速は、一定であってもよいし、プロセス中変化してもよい。いくつかの実施形態では、流れは、消化プロセスの間、周期的に止められる。循環流速は、約0.1μl/分〜約1ml/分、約1μl/分〜約0.2ml/分、約5μl/分〜約0.1ml/分である。タンパク質試料は、消化領域20を循環し、タンパク質はペプチドに消化されて、ペプチドが中空繊維16の孔を通じて内側領域22へ入り、ここでペプチドはポンプ12からの流れ方向で、捕捉系30へと取り除かれる。全てのフラグメントが捕捉系30に押しやられた後、勾配HPLCポンプ32は別の移動相の流れを捕捉系30に切り替えて、分離されたフラグメントを分離カラム34に押しやる。この移動相の流れはまた、消化されたペプチドの十分な分離のためにグラジエントであってよい。次いで、分離されたペプチドは、検出器36で分析されて、それぞれ同定される。
【0082】
分析結果
本発明の実施形態の1つの態様は、上記方法により得られるもの、すなわち生体ポリマー分析の結果であり、これは検査を行う場所で評価されてもよいし、所望であれば、評価および遠隔地のそれに関心をもつ団体への伝達のために、別の場所に送られてもよい。「遠隔地」という用語により、結果が得られる場所と物理的に違う場所を意味する。したがって、結果は、違う部屋、違う建物、市の違う地区、違う市等に送られてもよい。通常、遠隔地は、結果が得られる場所から少なくとも約1.609km(約1マイル)、普通は少なくとも約16.09km(10マイル)、より普通には約160.9km(約100マイル)またはそれ以上ある。データは、例えば、ファクシミリ、手紙、翌日配達、電子メール、ボイスメール等の標準的な手段により送信されてもよい。
【0083】
情報を「伝達する(通信する)」ことは、適した伝達チャネル(例えば、私設または公共通信網)でその情報を電気信号として表すデータを送信することを示す。ある品物を「転送する」ことは、その品物を物理的に輸送するかその他(可能な場合)の手段により、その品物をある場所から次の場所へ移す任意の手段を示し、少なくともデータの場合には、データの入った媒体またはデータを伝達する媒体を物理的に輸送することを含む。
【0084】
本明細書中で使用される場合、「少なくとも」という言葉は、示される項目が表示される値と等しいかまたはそれより大きいことを意味し、「約」という言葉は、表示される値が±1%で変動し得ることを意味する。
【0085】
本明細書中に記載した全ての公報および特許出願は、個々の公報または特許出願が参照により組み込まれることを具体的および個別に示しているかのように、本明細書中において参照により組み込まれている。
【0086】
上述の発明の実施形態は、例示のためにかつ明確な理解を得るための例として、ある程度詳細に記載されてきたが、添付の請求項の精神または範囲から逸脱することがなければ変更および変形が可能であることが、本発明の教示より当業者に容易に理解されるだろう。さらに、上記の記載は、説明の目的のため、本発明の完全な理解を提供するため具体的な専門用語を用いた。しかし、それについて、本発明を実行するために具体的な説明が必要とされないことが当業者に理解されるだろう。したがって、本発明の具体的な実施形態の上記の記載は、例示と説明の目的で提示されている。それらは包括的であることも、あるいは本発明を開示されるそのままの形態に限定することも意図しない。上記の教示を鑑みて、多くの変更および改変が可能である。実施形態は、本発明の原則およびその実用化を説明する目的で選択かつ記載され、それにより、当業者は本発明を利用することが可能になる。
【0087】
以下に本発明の特に好ましい態様を示す。
1.媒体中の生体ポリマーを消化する方法であって、
(a)生体ポリマーを含有する媒体を、中空エレメントの壁に隣接して設け、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、
(b)前記媒体を消化条件に曝し、それにより、前記生体ポリマーを開裂させてフラグメントにし、
(c)前記フラグメントを、前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させる、方法。
2.前記中空エレメントが中空繊維である、上項1に記載の方法。
3.前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されている、上項1に記載の方法。
4.前記消化条件が、前記壁の前記外側表面上に固定された生体ポリマー消化剤を含み、前記媒体が消化緩衝液を含む、上項1に記載の方法。
5.前記生体ポリマー消化剤が1種以上の酵素を含む、上項4に記載の方法。
6.前記フラグメントを、前記中空エレメントの前記内側領域から取り出すことをさらに含む、上項1に記載の方法。
7.(a)外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントの孔質壁の前記外側表面上に、前記媒体を設け、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置され、前記外側表面が、その上に固定された生体ポリマー消化剤を有しており、
(b)前記媒体を消化条件に曝し、それにより、前記生体ポリマーを開裂させてフラグメントにし、
(c)前記フラグメントを、前記外側表面から前記内側領域へ前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させる、請求項1に記載の方法。
8.前記中空エレメントが、前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、上項7に記載の方法。
9.前記中空エレメントが中空繊維である、上項7に記載の方法。
10.前記生体ポリマー消化剤が1種以上の酵素を含む、上項7に記載の方法。
11.前記フラグメントを、前記中空エレメントの前記内側領域から取り出すことをさらに含む、上項7に記載の方法。
12.ポリペプチド試料を分析する方法であって、
(a)該ポリペプチド試料を含有する媒体を、中空エレメントを備えている消化デバイスの消化領域に導入し、該中空エレメントが、無孔中空ライナー内に配置されていて消化領域を提供し、かつ当該中空エレメントが、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記外側表面の少なくとも一部分がその上に固定されたポリペプチド消化剤を有し、
(b)前記消化領域内の前記媒体を消化条件に曝し、それにより、該ポリペプチドを開裂させてフラグメント混合物にし、
(c)前記フラグメント混合物を、前記外側表面から前記内側領域へ前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させ、
(d)前記フラグメント混合物を前記内側領域から取り出し、
(e)前記混合物中のフラグメントを分離し、
(f)前記分離されたフラグメントの少なくとも1つを検出する、方法。
13.前記中空エレメントが中空繊維である、上項12に記載の方法。
14.前記媒体が消化緩衝液を含む、上項12に記載の方法。
15.前記ポリペプチドの消化剤が1種以上の酵素を含む、上項6に記載の方法。
16.前記フラグメントの混合物が、ポンピングによって内側領域から取り出される、上項12に記載の方法。
17.前記混合物中の前記フラグメントがクロマトグラフ方法により分離される、上項12に記載の方法。
18.前記クロマトグラフ方法が、液体クロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーあるいはそれらの組合せである、上項17に記載の方法。
19.前記分離されたフラグメントが、質量分析、紫外−可視分光光度法または免疫利用センサ技術あるいはそれらの組合せで検出される、上項12に記載の方法。
20.前記中空エレメントが、前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、上項12に記載の方法。
21.ポリペプチド試料を分析する装置(10)であって、
(a)無孔中空ライナー(18)内に配置されていて消化領域(20)を提供する中空エレメント(16)を備えている消化デバイス(14)であって、該中空エレメントが、外側表面と内側領域(22)を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記外側表面の少なくとも一部分(16a)または該内側表面が、その上に固定されたポリペプチド消化剤(17)を含む、消化デバイス(14)と、
(b)前記消化デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント分離デバイス(34)と、
(c)前記分離デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント検出デバイス(36)とを備えている、装置。
22.前記中空エレメントが中空繊維である、上項21に記載の装置。
23.前記ポリペプチド消化剤が1種以上の酵素を含む、上項21に記載の装置。
24.ポリペプチドフラグメント混合物を前記内側領域から取り出すポンプをさらに備えている、上項21に記載の装置。
25.前記分離デバイスがクロマトグラフである、上項21に記載の装置。
26.前記検出デバイスが、質量分析計、紫外可視分光光度法または免疫利用センサ技術あるいはそれらの組合せである、上項21に記載の装置。
27.前記ポリペプチドフラグメント混合物を捕捉する捕捉デバイスをさらに備えている、上項21に記載の装置。
28.前記捕捉デバイスは、中空繊維、充填されたキャピラリーカラム、膜式(membrane-based)濾過デバイス、あるいはそれらの組合せである、上項27に記載の装置。
29.前記中空エレメントが、前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、請求項21に記載の装置。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明による装置の例示の一実施形態の模式図である。
【符号の説明】
【0089】
10 分析装置
14 消化デバイス
16 中空エレメント
18 中空ライナー
20 消化領域
22 内側領域
32 ポンプ
34 分離デバイス
36 検出デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体中の生体ポリマーを消化する方法であって、
(a)生体ポリマーを含有する媒体を、中空エレメントの壁に隣接して設け、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、
(b)前記媒体を消化条件に曝し、それにより、前記生体ポリマーを開裂させてフラグメントにし、
(c)前記フラグメントを、前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させる、方法。
【請求項2】
(a)外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントの孔質壁の前記外側表面上に前記媒体を設け、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されており、前記外側表面が、その上に固定された生体ポリマー消化剤を有しており、
(b)前記媒体を消化条件に曝し、それにより、前記生体ポリマーを開裂させてフラグメントにし、
(c)前記フラグメントを、前記外側表面から前記内側領域へ前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリペプチド試料を分析する方法であって、
(a)該ポリペプチド試料を含有する媒体を、中空エレメントを備えている消化デバイスの消化領域に導入し、該中空エレメントが、無孔中空ライナー内に配置されていて消化領域を提供し、かつ当該中空エレメントが、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記外側表面の少なくとも一部分がその上に固定されたポリペプチド消化剤を有し、
(b)前記消化領域内の前記媒体を消化条件に曝し、それにより、該ポリペプチドを開裂させてフラグメント混合物にし、
(c)前記フラグメント混合物を、前記外側表面から前記内側領域へ前記中空エレメントの前記壁を通じて透過させ、
(d)前記フラグメント混合物を前記内側領域から取り出し、
(e)前記混合物中のフラグメントを分離し、
(f)前記分離されたフラグメントの少なくとも1つを検出する、方法。
【請求項4】
前記中空エレメントが中空繊維である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記消化条件が、前記壁の前記外側表面上に固定された生体ポリマー消化剤を含み、前記媒体が消化緩衝液を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記生体ポリマー消化剤が1種以上の酵素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フラグメントを、前記中空エレメントの前記内側領域から取り出すことをさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物中の前記フラグメントがクロマトグラフ方法により分離される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記クロマトグラフ方法が、液体クロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーあるいはそれらの組合せである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分離されたフラグメントが、質量分析、紫外−可視分光光度法または免疫利用センサ技術あるいはそれらの組合せで検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリペプチド試料を分析する装置(10)であって、
(a)無孔中空ライナー(18)内に配置されていて消化領域(20)を提供する中空エレメント(16)を備えている消化デバイス(14)であって、該中空エレメントが、外側表面と内側領域(22)を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記外側表面の少なくとも一部分(16a)または該内側表面が、その上に固定されたポリペプチド消化剤(17)を含む、消化デバイス(14)と、
(b)前記消化デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント分離デバイス(34)と、
(c)前記分離デバイスと流体連通するポリペプチドフラグメント検出デバイス(36)とを備えている、装置。
【請求項13】
前記中空エレメントが中空繊維である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記ポリペプチド消化剤が1種以上の酵素を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
ポリペプチドフラグメント混合物を前記内側領域から取り出すポンプ(32)をさらに備えている、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記分離デバイスがクロマトグラフである、請求項12に記載の装置。
【請求項17】
前記検出デバイスが、質量分析計、紫外可視分光光度法または免疫利用センサ技術あるいはそれらの組合せである、請求項12に記載の装置。
【請求項18】
前記ポリペプチドフラグメント混合物を捕捉する捕捉デバイスをさらに備えている、請求項12に記載の装置。
【請求項19】
前記捕捉デバイスは、中空繊維、充填されたキャピラリーカラム、膜式濾過デバイス、あるいはそれらの組合せである、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記中空エレメントが、前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、請求項12に記載の装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−44043(P2007−44043A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217851(P2006−217851)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】