説明

切削方法

【課題】切削中に被加工物の動きや剥離の恐れを低減し、被加工物を破損させることなく切削面を平坦化することが可能な切削方法を提供する。
【解決手段】被加工物の第1面側を第1粘着シート74上に配設する第1粘着シート貼着ステップと、第1粘着シート上に配設された被加工物の第1粘着シート側をチャックテーブル30で保持する保持ステップと、被加工物の第1面側と反対側の第2面側に第2粘着シート86を貼着するとともに、被加工物の外側で第2粘着シートを第1粘着シートに貼着して被加工物を第1粘着シートと第2粘着シートとで包み込む第2粘着シート貼着ステップと、保持面と平行な面で回転する切削刃56を有するバイトホイール25を回転させつつ第2粘着シートに当接させた状態でチャックテーブルとバイトホイールとを相対移動させて第2粘着シートとともに被加工物の第2面側を切削する切削ステップと、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャックテーブルで保持したLEDパッケージ等の被加工物をバイトホイールで切削する切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光デバイスの製造プロセスでは、サファイア基板や炭化珪素(SiC)基板等の結晶成長用基板上にn型半導体層及びp型半導体層を積層して発光層(エピタキシャル層)を形成し、この発光層に格子状に形成された複数の分割予定ラインで区画される各領域に発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の発光素子を形成して、光デバイスウエーハを製造する。
【0003】
その後、光デバイスウエーハの結晶成長用基板側を研削装置で研削して所定の厚みまで薄化し、更に電極を形成した後、レーザ加工装置等により分割予定ラインに沿って分割することで、個々のLEDチップ等の光デバイス(チップ)を製造している。
【0004】
LEDチップは基板上に実装された後、LEDチップの電極と基板のパッドとがワイヤーボンディングされ、更に透光性モールド樹脂でLEDチップを被覆することにより、LEDパッケージが製造される。
【0005】
このようなLEDパッケージからの発光効率を向上するために、LEDパッケージの透光性モールド樹脂を切削刃を有するバイトホイールで切削して平坦化することが試みられている。
【0006】
LEDパッケージは一般的にサイズが小さいために、バイトホイールでの切削時に粘着シート上に複数のLEDパッケージを貼着して切削加工が実施される。即ち、LEDパッケージの粘着シート面をチャックテーブルで保持して、LEDパッケージの露出した透光性モールド樹脂面に回転するバイトホイールを当接させつつ、チャックテーブルとバイトホイールとを相対移動させることでLEDパッケージの透光性モールド樹脂が切削される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2009−12105号公報
【特許文献2】特許平2−269171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように粘着シート上にLEDパッケージ等の被加工物を貼着して切削刃を有するバイトホイールで被加工物の露出面を切削する場合、切削時の加工負荷によって粘着シート上の被加工物が切削中に僅かに動き、切削面を平坦化しにくいという問題がある。
【0009】
特にLEDパッケージを切削する場合のように被加工物が小さい場合には、粘着シートとの接着面積が小さいために接着力が加工負荷に負けて被加工物が粘着シートから剥がれてしまい、被加工物を破損させてしまう恐れがある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、粘着シートに貼着された被加工物をバイトホイールにより切削する際に、被加工物の動きや剥離の恐れを低減し、被加工物を破損させることなく切削面を平坦化することが可能な切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルで保持した被加工物をバイトホイールで切削する切削方法であって、被加工物の第1面側を第1粘着シートに貼着して被加工物を該第1粘着シート上に配設する第1粘着シート貼着ステップと、該第1粘着シート上に配設された被加工物の該第1粘着シート側をチャックテーブルで保持する保持ステップと、該保持ステップを実施する前又は後で、被加工物の該第1面側と反対側の第2面側に第2粘着シートを貼着するとともに、被加工物の外側で該第2粘着シートを該第1粘着シートに貼着して被加工物を該第1粘着シートと該第2粘着シートとで包み込む第2粘着シート貼着ステップと、該第2粘着シート貼着ステップを実施した後、該保持面と平行な面で回転する切削刃を有するバイトホイールを回転させつつ該第2粘着シートに当接させた状態で該チャックテーブルと該バイトホイールとを相対移動させて該第2粘着シートとともに被加工物の該第2面側を切削する切削ステップと、を具備したことを特徴とする切削方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切削方法によると、被加工物は第1粘着シートと第2粘着シートとで包み込まれた状態で切削されるため、切削中に被加工物が動いたり第1粘着シートから剥離する恐れが低減され、被加工物を破損させることなく切削面を平坦化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の切削方法を実施するのに適したバイトホイールが装着されたバイト切削装置の斜視図である。
【図2】バイトホイールの斜視図である。
【図3】バイトユニットの分解斜視図である。
【図4】図4(A)はホイール基台へのバイトユニットの取り付け構造を示す側面図、図4(B)はその一部断面正面図である。
【図5】図5(A)はホイール基台へのバランス取り用錘の取り付け構造を示す側面図、図5(B)はその一部断面正面図である。
【図6】複数のLEDパッケージを第1粘着シートに貼着する第1粘着シート貼着ステップを示す斜視図である。
【図7】第2粘着シート貼着ステップを示す拡大縦断面図である。
【図8】保持ステップを示す一部断面側面図である。
【図9】切削ステップを示す一部断面側面図である。
【図10】切削ステップ実施後の一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の切削方法を実施するのに適したバイトホイールが装着されたバイト切削装置2の斜視図が示されている。
【0015】
4はバイト切削装置2のベース(ハウジング)であり、ベース4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に伸びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0016】
この一対のガイドレール8に沿ってバイト切削ユニット10が上下方向に移動可能に装着されている。バイト切削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0017】
バイト切削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル22(図9参照)と、スピンドル22の先端に固定されたマウント24と、マウント24に着脱可能に装着されたバイトホイール25とを含んでいる。バイトホイール25にはバイトユニット26が着脱可能に取り付けられている。
【0018】
バイト切削ユニット10は、バイト切削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成されるバイト切削ユニット送り機構18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0019】
ベース4の中間部分にはチャックテーブル30を有するチャックテーブル機構28が配設されており、チャックテーブル機構28は図示しないチャックテーブル移動機構によりY軸方向に移動される。33は蛇腹であり、チャックテーブル機構28をカバーする。
【0020】
ベース4の前側部分には、第1のウエーハカセット32と、第2のウエーハカセット34と、ウエーハ搬送用ロボット36と、複数の位置決めピン40を有する位置決め機構38と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)42と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)44と、スピンナ洗浄ユニット46が配設されている。
【0021】
また、ベース4の概略中央部には、チャックテーブル30を洗浄する洗浄水噴射ノズル48が設けられている。この洗浄水噴射ノズル48は、チャックテーブル30が装置手前側のウエーハ搬入・搬出領域に位置づけられた状態において、チャックテーブル30に向かって洗浄水を噴射する。
【0022】
図2を参照すると、バイトホイール25の斜視図が示されている。バイトホイール25は、環状のホイール基台50と、ホイール基台50に着脱可能に取り付けられたバイトユニット26と、ホイール基台50の回転中心を基準にバイトユニット26に対して点対象位置のホイール基台50に着脱可能に取り付けられたバイトユニット26と同一重量のバランス取り用錘(カウンターバランス)66とから構成される。バイトホイール25は矢印R方向に回転されて光デバイスウエーハ11の表面に形成された透光性モールド樹脂を切削する。
【0023】
バイトユニット26は、図3の分解斜視図に示すように、略直方体形状のシャンク(バイトシャンク)52と、シャンク52に着脱可能に取り付けられたバイト(切削工具)54とから構成される。バイト54は板状を呈しており、長手方向の一端部の表面側にはダイアモンド等で所定形状に形成された切削刃56が固着されている。バイト54にはねじ58が挿入される丸穴59が形成されている。
【0024】
シャンク52の一側面には、バイト54の厚さと同等の深さを有するピット60が形成されている。ピット60にはねじ穴61が形成されている。バイト54をシャンク52のピット60内に挿入し、バイト54の丸穴59を通してねじ58をねじ穴61に螺合することにより、バイト54がシャンク52に固定される。
【0025】
図4に示すように、ホイール基台50には直方体形状の取り付け穴62と、取り付け穴62に開口するねじ穴63が形成されている。バイトユニット26のシャンク52をホイール基台50に形成された取り付け穴62中に挿入し、ねじ64をねじ穴63に螺合して締め付けることにより、バイトユニット26がホイール基台50に固定される。
【0026】
一方、バランス取り用錘66はバイトユニット26と同一重量を有しており、図2及び図5に示すように、ホイール基台50の回転中心を基準にバイトユニット26に対して点対象位置のホイール基台50に形成された取り付け用穴68中に挿入され、ねじ穴69中にねじ70を螺合して締め付けることにより、ホイール基台50に固定される。
【0027】
次に、図6乃至図10を参照して、本発明実施形態の切削方法について詳細に説明する。本発明実施形態の切削方法では、まず図6に示すように、複数のLEDパッケージ72の第1面72a側を第1粘着シート74に貼着するとともに、第1粘着シート74の外周部を環状フレーム76に貼着して、複数のLEDパッケージ72を第1粘着シート74上に配設する第1粘着シート貼着ステップを実施する。
【0028】
各LEDパッケージ72は、基板78と、基板78上に積層された透光性モールド樹脂80とから構成される。各LEDパッケージ72は、第1粘着シート74に貼着される第1面72aと、透光性モールド樹脂80で被覆された第2面72bを有している。
【0029】
好ましくは、透光性モールド樹脂80は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、又はポリイミド樹脂から選択される。
【0030】
図6に示した実施形態では、複数個のLEDパッケージ72を第1粘着シート74に貼着しているが、第1粘着シート74に貼着する被加工物は一つでもよい。また、被加工物はLEDパッケージ72に限定されるものではなく、一般的に小サイズの被加工物を含むものである。
【0031】
このように第1粘着シート74上に複数のLEDパッケージ72を貼着した後、図7の拡大断面図に示すように、LEDパッケージ72の第2面72a側に第2粘着シート86を貼着するとともに、LEDパッケージ72の外側では第2粘着シート86を第1粘着シート74に貼着してLEDパッケージ72を第1粘着シート74と第2粘着シート86とで包み込む第2粘着シート貼着ステップを実施する。
【0032】
第1粘着シート74は、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニル等の樹脂から形成された基材74aとゴム系又はアクリル系の糊層74bとから構成される。第2粘着シート86も、第1粘着シート74と同様な樹脂から形成された基材86aと糊層86bとから構成される。第2粘着シート86の糊層86bの厚さは5μm以下が好ましい。
【0033】
LEDパッケージ72は、基板78上に一層されたLEDチップ82を含んでおり、LEDチップ82の電極と基板78のパッドとは金等のワイヤー84でボンディング接続されている。LEDチップ82及びワイヤー84は透光性モールド樹脂80で被覆されている。
【0034】
このように複数のLEDパッケージ72を第1粘着シート74と第2粘着シート86とで包み込む第2粘着シート貼着ステップを実施した後、図8に示すように、バイト切削装置2のチャックテーブル30で第1粘着シート74側を吸引保持する保持ステップを実施する。
【0035】
代替実施形態として、この保持ステップは第2粘着シート貼着ステップを実施する前に行うようにしてもよい。即ち、複数のLEDパッケージ72が貼着された第1粘着シート74をチャックテーブル30で吸引保持してから、第2粘着シート貼着ステップを実施して第1粘着シート74と第2粘着シート86とで複数のLEDパッケージ72を包み込むようにしてもよい。
【0036】
第2粘着シート貼着ステップ及び保持ステップを実施した後、図9に示すように、チャックテーブル30の保持面30aと平行な面で回転する切削刃56を有するバイトホイール25を回転させつつ切削刃56を第2粘着シート86に当接させた状態で、チャックテーブル30とバイトホイール25とを相対移動させて第2粘着シート86とともにLEDパッケージ72の第2面72a側、即ち透光性モールド樹脂80を切削して平坦化する切削ステップを実施する。
【0037】
即ち、バイトホイール25を例えば約2000rpmで回転しつつ、バイトホイール送り機構18を駆動してバイトユニット26の切削刃56を第2粘着シート86に10μm程度切り込ませ、チャックテーブル30を矢印Y方向に例えば1800μm/秒の送り速度で移動させながら、切削刃56で第2粘着シート86を旋回切削する。この旋回切削時には、チャックテーブル30は回転させずにY軸方向に加工送りする。
【0038】
切削を継続すると、LEDパッケージ72を覆っている第2粘着シート86が全て切削されてLEDパッケージ72の透光性モールド樹脂80が露出するが、第2粘着シート86と共に透光性モールド樹脂80を切削するバイトホイール25での旋回切削を継続する。
【0039】
LEDパッケージ72の透光性モールド樹脂80は第1粘着シート74と第2粘着シート86とで包み込まれた状態で切削刃56により旋回切削されるため、切削中にLEDパッケージ72が動いたり第1粘着シート74から剥離する恐れが低減され、LEDパッケージ72を破損させることなく透光性モールド樹脂80を切削して平坦化することができる。
【0040】
切削ステップ終了後の一部断面側面図が図10に示されている。LEDパッケージ72の透光性モールド樹脂80が切削されて平坦化されるため、LEDチップ82から出射された光を外部に効率良く取り出すことができる。
【0041】
第1及び第2粘着シート74,86として紫外線硬化型粘着シートを使用することにより、切削加工終了後第1及び第2粘着シート74,86に紫外線を照射してその粘着力を低下させ、LEDパッケージ72を第1及び第2粘着シート74,86から容易に剥離することができる。
【符号の説明】
【0042】
2 バイト切削装置
25 バイトホイール
26 バイトユニット
30 チャックテーブル
56 切削刃
72 LEDパッケージ
74 第1粘着シート
76 環状フレーム
78 基板
80 透光性モールド樹脂
86 第2粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルで保持した被加工物をバイトホイールで切削する切削方法であって、
被加工物の第1面側を第1粘着シートに貼着して被加工物を該第1粘着シート上に配設する第1粘着シート貼着ステップと、
該第1粘着シート上に配設された被加工物の該第1粘着シート側をチャックテーブルで保持する保持ステップと、
該保持ステップを実施する前又は後で、被加工物の該第1面側と反対側の第2面側に第2粘着シートを貼着するとともに、被加工物の外側で該第2粘着シートを該第1粘着シートに貼着して被加工物を該第1粘着シートと該第2粘着シートとで包み込む第2粘着シート貼着ステップと、
該第2粘着シート貼着ステップを実施した後、該保持面と平行な面で回転する切削刃を有するバイトホイールを回転させつつ該第2粘着シートに当接させた状態で該チャックテーブルと該バイトホイールとを相対移動させて該第2粘着シートとともに被加工物の該第2面側を切削する切削ステップと、
を具備したことを特徴とする切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−148351(P2012−148351A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6562(P2011−6562)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】