説明

切削装置及び板状物の切削方法

【課題】 ヘアライン作業に伴う切削回数を低減可能な切削装置及び切削方法を提供することである。
【解決手段】 板状物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された板状物を切削する切削ブレードが回転可能に装着された切削手段と、切削ブレードの位置合わせ用基準線が形成された光学系を有し板状物の切削位置を検出するアライメント手段と、該位置合わせ用基準線の位置を記憶し切削ブレードの切削送りを制御する制御手段とを備えた切削装置であって、該切削ブレードの回転軸方向の一方側に配設され、該切削ブレードまでの距離を検出するブレード検出手段を具備し、前記制御手段は該ブレード検出手段で検出した切削ブレードまでの距離を記憶するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の板状物を切削する切削装置及び切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板にIC、LSI等の電子回路が複数形成された半導体ウエーハや、電子部品に使用される各種セラミック基板、樹脂基板、ガラス基板等の板状物はダイシング装置(切削装置)等により個々のチップに分割され、各種電子機器に広く利用されている。
【0003】
ダイシング装置による板状物の切削加工では、一般的にヘアラインと呼ばれるカメラの基準線と切削予定ラインとを合わせることで加工位置の設定を行っている。その際、事前にカメラの基準線と切削ブレードの中心線を合わせる作業(ヘアライン合わせ)を実施する。
【0004】
このヘアライン合わせ作業は、具体的には一度切削ブレードにて被加工物の表面に溝を加工し、その加工溝を撮像して画像処理を行って加工溝の中心を検出し、この溝の中心位置とカメラの基準線位置とのずれ量を算出し、このずれ量を座標位置に加減することにより、加工溝の中心位置とカメラの基準線位置とを合致させた原点位置を装置に記憶させることで行っている。
【0005】
実際に切削加工する板状物をカメラの基準線と切削ブレードの中心線とが合っていない状態で切削加工すると、誤った位置を切削しかねないため、ヘアライン合わせには別途専用の被加工物を用意する必要がある。
【特許文献1】特許公報第2892459号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、切削ブレードは切削ブレード毎に厚みばらつきがある上、切削ブレードはスピンドルに装着されたブレードマウントの固定フランジに取り付けられるが、その取付位置は毎回数十μm程度異なるため、切削ブレードを交換する都度ヘアライン合わせを実施する必要がある。
【0007】
つまり、従来のダイシング装置では、ブレード交換毎にヘアライン合わせ用の被加工物が必要であり、更に被加工物の事前切削を行ってヘアライン合わせ作業を実施することが必要となる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ヘアライン合わせ作業に伴う切削回数を低減可能な切削装置及び切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明によると、板状物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された板状物を切削する切削ブレードが回転可能に装着された切削手段と、切削ブレードの位置合わせ用基準線が形成された光学系を有し板状物の切削位置を検出するアライメント手段と、該位置合わせ用基準線の位置を記憶し切削ブレードの切削送りを制御する制御手段とを備えた切削装置であって、該切削ブレードの回転軸方向の一方側に配設され、該切削ブレードまでの距離を検出するブレード検出手段を具備し、前記制御手段は該ブレード検出手段で検出した切削ブレードまでの距離を記憶することを特徴とする切削装置が提供される。
【0010】
請求項2記載の発明によると、請求項1記載の切削装置を用いて板状物を切削する切削方法であって、第1の切削ブレードで板状物に加工溝を形成する溝形成工程と、該溝形成工程で形成された加工溝と切削ブレードの前記位置合わせ用基準線との距離Dを検出し、前記制御手段に記憶させるブレード誤差検出工程と、該ブレード誤差検出工程を実施した後、前記ブレード検出手段で第1の切削ブレードまでの距離yを検出して、検出値を該制御手段に記憶させる第1ブレード距離検出工程と、該第1ブレード距離検出工程を実施した後に、前記第1の切削ブレードを取り外し第2の切削ブレードを取り付けるブレード交換工程と、該ブレード交換工程後に、前記ブレード検出手段で前記第2の切削ブレードまでの距離y´を検出する第2ブレード距離検出工程と、該第1ブレード距離検出工程で検出した第1の距離yと該第2ブレード距離検出工程で検出した第2の距離y´との差分(y−y´)を算出し、該差分を該ブレード誤差検出工程で検出した距離Dに加算した値{D+(y−y´)}を算出する補正値算出工程と、該補正値算出工程で算出した値{D+(y−y´)}を切削送りピッチに加算して板状物の切削を行う切削工程と、を具備したことを特徴とする板状物の切削方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、一度ヘアライン合わせ作業を実施した後は、切削ブレードを交換してもブレード検出手段によってブレード位置が特定できるため、ヘアライン合わせ作業のため再度切削を行う必要がなく、作業時間を短縮することが可能となる。
【0012】
また、一度ヘアライン合わせ作業を実施した後は、ヘアライン合わせ用の被加工物が不要となり、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は半導体ウエーハをダイシングして個々のチップ(デバイス)に分割することのできる本発明実施形態に係る切削装置2の外観を示している。
【0014】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作手段4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像手段によって撮像された画像が表示されるCRT等の表示手段6が設けられている。
【0015】
図2に示すように、ダイシング対象のウエーハWの表面においては、第1のストリートS1と第2ストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画されて多数のデバイスDがウエーハW上に形成されている。
【0016】
ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周縁部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介してフレームFに支持された状態となり、図1に示したウエーハカセット8中にウエーハが複数枚(例えば25枚)収容される。ウエーハカセット8は上下動可能なカセットエレベータ9上に載置される。
【0017】
ウエーハカセット8の後方には、ウエーハカセット8から切削前のウエーハWを搬出するとともに、切削後のウエーハをウエーハカセット8に搬入する搬出入手段10が配設されている。ウエーハカセット8と搬出入手段10との間には、搬出入対象のウエーハが一時的に載置される領域である仮置き領域12が設けられており、仮置き領域12には、ウエーハWを一定の位置に位置合わせする位置合わせ手段14が配設されている。
【0018】
仮置き領域12の近傍には、ウエーハWと一体となったフレームFを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送手段16が配設されており、仮置き領域12に搬出されたウエーハWは、搬送手段16により吸着されてチャックテーブル18上に搬送され、このチャックテーブル18に吸引されるとともに、複数の固定手段19によりフレームFが固定されることでチャックテーブル18上に保持される。
【0019】
チャックテーブル18は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル18のX軸方向の移動経路の上方には、ウエーハWの切削すべきストリートを検出するアライメント手段20が配設されている。
【0020】
アライメント手段20は、ウエーハWの表面を撮像するCCDカメラ等の撮像手段(光学系)22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像手段22によって取得された画像は、表示手段6に表示される。
【0021】
アライメント手段20の左側には、チャックテーブル18に保持されたウエーハWに対して切削加工を施す切削手段24が配設されている。切削手段24はアライメント手段20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0022】
切削手段24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像手段22の位置合わせ用基準線(ヘアライン)のX軸方向の延長線上に概略位置している。
【0023】
図3を参照すると、スピンドルと、スピンドルに装着されるブレードマウントとの関係を示す分解斜視図が示されている。スピンドルユニット30のスピンドルハウジング32中には、図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。スピンドル26はテーパ部26a及び先端小径部26bを有しており、先端小径部26bには雄ねじ34が形成されている。
【0024】
36はボス部(凸部)38と、ボス部38と一体的に形成された固定フランジ40とから構成されるブレードマウントであり、ボス部38には雄ねじ42が形成されている。さらに、ブレードマウント36は装着穴43を有している。
【0025】
ブレードマウント36は、装着穴43をスピンドル26の先端小径部26b及びテーパ部26aに挿入して、ナット44を雄ねじ34に螺合して締め付けることにより、図4に示すようにスピンドル26の先端部に取り付けられる。
【0026】
図4はブレードマウント36が固定されたスピンドル26と、切削ブレード28との装着関係を示す分解斜視図である。切削ブレード28はハブブレードと呼ばれ、円形ハブ48を有する円形基台46の外周にニッケル母材中にダイヤモンド砥粒が分散された切刃50が電着されて構成されている。
【0027】
切削ブレード28の装着穴52をブレードマウント36のボス部38に挿入し、固定ナット54をボス部38の雄ねじ42に螺合して締め付けることにより、図5に示すように切削ブレード28がスピンドル26に取り付けられる。
【0028】
図6を参照すると、切削ブレード28が装着された切削手段24の拡大斜視図が示されている。60は切削ブレード28をカバーするブレードカバーであり、このブレードカバー60には切削ブレード28の側面に沿って伸長する図示しない切削水ノズルが取り付けられている。切削水が、パイプ72を介して図示しない切削水ノズルに供給される。
【0029】
62は着脱カバーであり、ねじ64によりブレードカバー60に取り付けられる。着脱カバー62は、ブレードカバー60に取り付けられた際、切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水ノズル70を有している。切削水は、パイプ74を介して切削水ノズル70に供給される。
【0030】
66はブレード検出ブロックであり、ねじ68によりブレードカバー60に取り付けられる。ブレード検出ブロック66には図7に示すように、切削ブレード28の回転軸方向の一方側に位置するように、切削ブレード28までの距離を検出するブレード検出手段80が取り付けられている。
【0031】
ブレード検出手段80としては、例えば静電容量センサ、渦電流計、レーザ干渉計等を採用可能である。ブレード検出ブロック66はスピンドルハウジング32に固定されたブレードカバー60に取り付けられており、CCDカメラ等の撮像手段22はスピンドルハウジング32に固定されているため、撮像手段22とブレード検出手段80との位置関係は常に一定である。
【0032】
次に図8を参照して、ヘアライン合わせ工程を含む本発明実施形態の切削方法について説明する。まず、第1の切削ブレード28Aをスピンドル26のブレードマウント36に装着して、この第1の切削ブレード28Aを使用してヘアライン合わせ用被加工物81に加工溝86を形成する。この加工溝86を撮像手段22で撮像し、画像処理を行って加工溝86の中心を検出する。82は撮像手段22の視野である。
【0033】
次いで、加工溝86の中心と撮像手段22の位置合わせ用基準線84との距離Dを検出し、この距離Dを切削装置2の図示しない制御手段のメモリに記憶させる。次いで、切削ブレード検出手段80で第1の切削ブレード28Aまでの距離yを検出して、この距離yを制御手段のメモリに記憶させる。
【0034】
これにより、第1の切削ブレード28Aの原点位置の調整が完了したことになり、アライメント手段20によるアライメント実行の際に、撮像手段22により撮像された画像にこの距離Dの補正を常にかけて、切削しようとするストリートと切削ブレード28Aとの位置合わせを行う。
【0035】
ウエーハWの切削を続行して切削ブレード28Aの切刃50が磨耗した場合、或いは切削ブレード28Aの切刃50に欠けを検出した場合には、切削ブレード28Aを新たな切削ブレード28に交換する。
【0036】
切削ブレードを交換する際には、図6の着脱カバー62を取り外し、更に固定ナット54を取り外して切削ブレード28Aを取り外し、新たな切削ブレード28Bをブレードマウント36に装着して固定ナット54で締め付ける。
【0037】
このように新たな切削ブレード28Bを装着後、ブレード検出手段80で新たな切削ブレード28Bまでの距離y´を検出する。次いで、制御手段が記憶している距離yと新たに検出した距離y´との差分(y−y´)を算出し、この差分(y−y´)を前に検出した距離Dに加算した値{D+(y−y´)}を算出し、これを補正値とする。
【0038】
この切削ブレード28BによりウエーハWの切削を行う際には、アライメント手段20でアライメントを実施して切削しようとするストリートSと切削ブレード28Bとの位置合わせを行うときに、補正値{D+(y−y´)}を切削送りピッチ(ストリートピッチ)に加算して切削を行う。
【0039】
尚、ブレード検出手段80を切削ブレード28の切刃50に対向させて配置することにより、切刃50の欠けを検出することができる。
【0040】
このように、本実施形態の切削方法によると、一度ヘアライン合わせ作業を実施した後は、切削ブレード28を交換してもブレード検出手段80によってブレード位置が特定できるため、ヘアライン合わせ作業のために切削を行う必要がなく、作業時間を短縮することが可能となる。また、一度ヘアライン合わせ作業を実施した後は、ヘアライン合わせ用の被加工物が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明実施形態に係る切削装置の外観斜視図である。
【図2】フレームと一体化されたウエーハを示す斜視図である。
【図3】スピンドルユニットと、スピンドルに固定されるべきブレードマウントとの関係を示す分解斜視図である。
【図4】スピンドルユニットと、スピンドルに装着されるべき切削ブレードとの関係を示す分解斜視図である。
【図5】切削ブレードがスピンドルに装着された状態の斜視図である。
【図6】切削手段の拡大斜視図である。
【図7】切削ブレードとブレード検出手段の位置関係を示す図である。
【図8】本発明の切削方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0042】
2 切削装置
18 チャックテーブル
24 切削手段
26 スピンドル
28,28A,28B 切削ブレード
30 スピンドルユニット
36 ブレードマウント
40 固定ブラケット
54 固定ナット
66 ブレード検出ブロック
80 ブレード検出手段
82 ヘアライン合わせ用被加工物
84 位置合わせ用基準線(ヘアライン)
86 加工溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された板状物を切削する切削ブレードが回転可能に装着された切削手段と、切削ブレードの位置合わせ用基準線が形成された光学系を有し板状物の切削位置を検出するアライメント手段と、該位置合わせ用基準線の位置を記憶し切削ブレードの切削送りを制御する制御手段とを備えた切削装置であって、
該切削ブレードの回転軸方向の一方側に配設され、該切削ブレードまでの距離を検出するブレード検出手段を具備し、
前記制御手段は該ブレード検出手段で検出した切削ブレードまでの距離を記憶することを特徴とする切削装置。
【請求項2】
請求項1記載の切削装置を用いて板状物を切削する切削方法であって、
第1の切削ブレードで板状物に加工溝を形成する溝形成工程と、
該溝形成工程で形成された加工溝と切削ブレードの前記位置合わせ用基準線との距離Dを検出し、前記制御手段に記憶させるブレード誤差検出工程と、
該ブレード誤差検出工程を実施した後、前記ブレード検出手段で第1の切削ブレードまでの距離yを検出して、検出値を該制御手段に記憶させる第1ブレード距離検出工程と、
該第1ブレード距離検出工程を実施した後に、前記第1の切削ブレードを取り外し第2の切削ブレードを取り付けるブレード交換工程と、
該ブレード交換工程後に、前記ブレード検出手段で前記第2の切削ブレードまでの距離y´を検出する第2ブレード距離検出工程と、
該第1ブレード距離検出工程で検出した第1の距離yと該第2ブレード距離検出工程で検出した第2の距離y´との差分(y−y´)を算出し、該差分を該ブレード誤差検出工程で検出した距離Dに加算した値{D+(y−y´)}を算出する補正値算出工程と、
該補正値算出工程で算出した値{D+(y−y´)}を切削送りピッチに加算して板状物の切削を行う切削工程と、
を具備したことを特徴とする板状物の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−206361(P2009−206361A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48434(P2008−48434)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】