切断刃及び当該切断刃の製造方法
【課題】所望とする刃先形状に近似した形状に加工したあとに焼入硬化工程を施すことを不要とすることにより、製造プロセスを簡略化して、高い生産性及び低コスト化を実現する切断刃及び当該切断刃の製造方法を提供する。
【解決手段】鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備える。
【解決手段】鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、切断刃及び当該切断刃の製造方法に関し、特に、電気剃刀用の内刃及び当該内刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術に係る切断刃について以下に説明するが、切断刃のうちの電気剃刀用の内刃について以下に説明する。従来技術に係る電気剃刀用の内刃は、一般に、焼入によって硬化する焼入硬化系のステンレス鋼を用いて、いくつかの工程を経て製造されている(特許文献1乃至3を参照)。従来の焼入硬化系の鋼を用いた電気剃刀用の内刃の製造プロセスの一例を、図12に示す。
【0003】
図12に示す従来技術に係る内刃の製造プロセスは、薄いロール状の帯状体から被加工物をプレスにより打ち抜くプレス加工工程と、鍛造により刃先先端を形成する鍛造工程と、焼入により被加工物全体をフラットな形状で硬化させる焼入矯正工程と、平面研削により刃付け加工する研削工程と、加工された帯状体から単品内刃を分離する分離工程と、高温に加熱しながら単品内刃を湾曲させて所望とする湾曲形状に加工する焼入曲げ工程と、研削バリを除去して刃先先端を鋭利に(曲率半径を小さく)する電解研磨工程と、を備えている。
【0004】
従来技術に係る内刃の製造プロセスにおけるプレス加工工程及び鍛造工程では、易加工性が要求されるために、被加工物の材料が軟質であることを必要とする。その一方で、その後に行われる刃付け工程では、平面研削加工の際に塑性変形による研削バリが発生することを抑制するために、被加工物の材料が硬質であることを必要とする。従来技術では、これらの条件をある程度満足する内刃の材料として、焼入硬化系の鋼材(例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2003/022535
【特許文献2】特開2005−198768号公報
【特許文献3】特開2005−204813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、焼入硬化系のステンレス鋼を用いた従来技術に係る電気剃刀用の内刃の製造方法は、製造プロセスの初期段階では比較的軟質であった被加工物を、研削に適した硬さに熱処理で硬化させる焼入硬化工程を必ず含んでいる。焼入された被加工物は、被加工物全体が硬化しているために、その後の加工性が非常に悪い。したがって、焼入硬化工程の後にさらに何らかの加工を行う場合には、焼入された被加工物の加工性を良くするための熱処理を複数回数行う必要があるために、製造プロセスが複雑になるという問題や、製造工程が増加して製造コストがアップするという問題がある。
【0007】
また、従来技術に係る内刃の製造プロセスにおける焼入硬化工程では、被加工物が1000℃を超えるような高温に曝されるために原子拡散現象によって刃先先端での微視的な形状が変化するという問題があるので、電解研磨工程を行った後に、焼入曲げ工程を行うことは意味をなさない。すなわち、最終の焼入曲げ工程を終了した後に、電解研磨工程を実施する必要があり、電解研磨を実施するタイミングが制限されて内刃の製造プロセスの自由度が低下するという問題がある。さらに、電解研磨工程においては、電解研磨の対象物は、ロール状体から分離された単体であって連続したロール状体ではないために、連続的に電解研磨を行うことができなくなるので、電解研磨時の生産性が悪いという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、所望とする刃先形状に近似した形状に加工したあとに焼入硬化工程を施すことを不要とすることにより、製造プロセスを簡略化して、高い生産性及び低コスト化を実現する切断刃及び当該切断刃の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の切断刃が提供される。
【0010】
すなわち、本発明に係る切断刃は、
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、
当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の切断刃では、前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0012】
本発明の切断刃では、前記塑性加工が冷間鍛造であることが好ましい。
【0013】
本発明の切断刃では、前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることが好ましい。
【0014】
本発明の切断刃では、前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることが好ましい。
【0015】
本発明の切断刃では、前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることが好ましい。
【0016】
本発明の切断刃の製造方法では、
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃の製造方法であって、
準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼の帯状体を準備する工程と、
当該帯状体のうち、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して加工硬化させる工程と、
塑性加工を施した部分に対して研削加工を施して刃先の部分を形成する工程と、
研削加工を施した後に、電解研磨加工を施して研削バリを除去する工程と、
電解研磨加工を施した後に、冷間で所望の形状に曲げ加工する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の切断刃の製造方法では、前記加工硬化させる工程の後に、低温下で、引張りながら熱を加える熱処理を施す工程をさらに備えることが好ましい。
【0018】
本発明の切断刃の製造方法では、前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0019】
本発明の切断刃の製造方法では、前記塑性加工が冷間鍛造であることが好ましい。
【0020】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることが好ましい。
【0021】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることが好ましい。
【0022】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
従来の切断刃では、焼入硬化素材であるマルテンサイト系ステンレス鋼等が用いられているが、当該焼入硬化素材では、所定の硬度を得るためには高温での焼入硬化工程を必要としていた。これに対して、本発明では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼を用いて、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して刃先の部分を形成する際に、加工誘起マルテンサイト変態が促進されることにより、刃先の部分の硬度を、当該刃先の部分以外の他の部分の硬度よりも高くすることができる。したがって、本発明の切断刃は、高温での焼入硬化工程を必要とすることなく、所定の硬度を得ることができるので、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。また、本発明で使用される素材は、従来技術で使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼よりも耐食性が優れているという効果を奏する。
【0024】
本発明の切断刃の製造方法では、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る切断刃の製造方法であって、帯状体に対して打ち抜き加工を施す様子を説明する図である。
【図2】図1に示した打ち抜き加工が施された帯状体を示す図である。
【図3】図2に示した打ち抜き加工された帯状体のIII−III線断面図である。
【図4】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、打ち抜き加工された帯状体に対して第一段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は第1段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図5】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、第1段の鍛造加工された帯状体に対して第2段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は第2段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図6】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、第2段の鍛造加工された帯状体に対して最終段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は最終段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図7】最終段の鍛造加工が施された帯状体を示す図である。
【図8】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、最終段の鍛造加工された帯状体に対して平面研削加工を施す様子を説明する図であり、(B)は平面研削加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図9】平面研削加工が施された帯状体から分離された分離個片を示す図である。
【図10】分離個片に対して曲げ加工が施された分離個片を示す図である。
【図11】本発明に係る切断刃の製造プロセスを説明する図である。
【図12】従来技術に係る切断刃の製造プロセスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る一実施形態に係る切断刃として、電気剃刀用の内刃10の構成及びその製造方法について、図1乃至図11を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、図10を参照しながら、本発明に係る切断刃として好適な実施形態である、電気剃刀用の内刃10の構成を説明する。図10に示すように、電気剃刀用の内刃10は、略逆U字形状をしており、ヒートシールで支持用基台(図示しない)に取り付けられて、往復振動型のリニアアクチュエータ(図示しない)により長手方向に往復駆動される。内刃10の外面である平坦な刃面15は、多数の刃孔の形成された薄板の外刃(図示しない)の内面に摺接する。
【0028】
内刃10における刃先の部分14、すなわち外刃の刃孔の孔縁との間で髭を切断する刃先の部分14は、互いに並行に短手方向に延びる複数の溝部11の間にて規定される桟部12の一部分を構成するリブ18の一端側の左右の縁に形成されている。すなわち、桟部12は、内刃10の厚み方向に延びるリブ18と、リブ18の一端側の左右の縁に形成された刃先の部分14と、を備える。複数の溝部11及び桟部12は、それぞれ、同じ形状であってもよいし、異なった形状であってもよい。複数の桟部12は、共通のフレーム部13によって支持されている。図8(B)に示すように、刃先の部分14は、平坦な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する。刃先角は、約15度から90度、好ましくは約20度から約40度の鋭角、より好ましくは約30度から約35度の鋭角である。
【0029】
内刃10は、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、冷間圧延したままの帯状体を、冷間鍛造等の塑性加工により所定の外形形状にする。このとき、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分14を形成するが、当該刃先の部分14は、後述する加工硬化作用により、それ以外の他の部分よりも高い硬度を備えている。
【0030】
内刃10に使用される鋼材は、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity)鋼(いわゆるTRIP鋼)であって、加工硬化指数(n値)の大きいTRIP鋼である。当該TRIP鋼は、加工前では比較的軟質であるために加工性に優れているが加工後では高い硬度を呈する。加工硬化指数(n値)の大きいTRIP鋼を例示すると、SUS301やSUS304等に代表される加工硬化型のオーステナイト系ステンレス鋼である。好適な加工硬化指数(n値)を例示すると、平均して約0.3以上である。SUS301−1/2Hの加工硬化指数(n値)は、平均して約0.35である。SUS301−2B(未冷間圧延材)の加工硬化指数(n値)は、平均して約0.62である。SUS304−2B(未冷間圧延材)の加工硬化指数(n値)は、平均して約0.48である。本発明に係る内刃10に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は、加工硬化によって十分な硬度を得ることができるとともに、従来技術で使用されているマルテンサイト系ステンレス鋼よりも耐食性が優れている。なお、比較のために従来技術で使用されているSUS420J2−TA(マルテンサイト系ステンレス鋼の焼鈍材)の加工硬化指数(n値)を示すと、平均して約0.19であり、加工硬化指数(n値)が小さい。
【0031】
例えば、SUS301材においては、冷間加工率(圧下率)によりいくつかの鋼種がある。例えばSUS301−1/2H、SUS301−3/4H、SUS301−H及びSUS301−EHである。SUS301−1/2H、SUS301−3/4H、SUS301−H及びSUS301−EHの各鋼種における硬度(Hv)を例示すると、それぞれ、約320、約410、約470、約540である。冷間鍛造等の塑性加工に供される鋼材は、冷間加工率が大きくて高い硬度(Hv)になっているSUS301−HやSUS301−EHの鋼種が好ましい。しかしながら、塑性加工時の塑性ひずみ量を大きく取ることで、SUS301−1/2HやSUS301−3/4Hも使用することができる。また、SUS304−1/2H、SUS304−3/4H及びSUS304−Hの各鋼種における硬度(Hv)を例示すると、それぞれ、約300、約350、約400である。
【0032】
本発明では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼として、冷間圧延したままの帯状体を用いているために、加工硬化が既に進行していて加工誘起マルテンサイト変態が促進されており、硬化している。その結果、冷間鍛造等の塑性加工により刃先となるべき部分は、焼入硬化工程等の高温での熱処理を施すこと無く、十分に高い硬度を備えることができる。刃先となるべき部分が十分な高硬度を備えているので、その後に行われる研削加工における研削バリの発生を抑制することができる。
【0033】
次に、図1乃至図11を参照しながら、電気剃刀用の内刃10の製造プロセスを説明する。
【0034】
まず、冷間圧延したままで所定の厚みを有する、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼(例えば、SUS301−H材)からなるロール状に巻回された薄い帯状体を準備する。
【0035】
図1に示すような打ち抜き用の上型101及び下型102からなるプレス装置を用いて、上記帯状体に対して打ち抜き加工を行う。図1に示したプレス装置で打ち抜き加工を行うと、図2に示すようなハシゴ状の打ち抜き帯状体30が得られる。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、帯状体の延びるロール長手方向(長さ方向)と直交するロール短手方向(幅方向)に延在するとともに左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。内刃セグメント32において、打ち抜き加工された部分が内刃短手方向に直線状に延びる溝部38となり、打ち抜き加工されなかった部分が内刃短手方向に直線状に延びる桟部36及び内刃長手方向に直線状に延びるフレーム部34となる。桟部36は、隣り合う溝部38によって規定されている。したがって、図2に示した各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0036】
次に、図2に示した各内刃セグメント32のうち、図3に示した桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段の鍛造加工を行う。
【0037】
すなわち、まず、図4(A)に示すように、第1段用のパンチ103及びダイ104からなる第1段鍛造装置を用いて、図3に示した桟部36に対して第1段の鍛造加工を行う。第1段用のダイ104は、所定形状の凹部112を有する。図4(A)に示した第1段鍛造装置で第1段の鍛造加工を行うと、図4(B)に示すような第1段鍛造桟部38が得られる。図4(B)に示した第1段鍛造桟部38は、例えば、矩形形状をした上部39と、先細に絞られて略台形形状をした下部40と、を備える断面形状を有する。
【0038】
次に、図5(A)に示すように、第2段用のパンチ105及びダイ106からなる第2段鍛造装置を用いて、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38に対して第2段の鍛造加工を行う。第2段用のダイ106は、所定形状の凹部113を有する。図5(A)に示した第2段鍛造装置で第2段の鍛造加工を行うと、図5(B)に示すような第2段鍛造桟部42が得られる。図5(B)に示した第2段鍛造桟部42は、例えば、左右の端部が側方に膨出した略矩形形状をした上部45と、先細に傾斜したテーパー面を有する中央部43と、矩形形状をした下部44と、を備える断面形状を有する。中央部43のテーパー面が上端面46に対してなす角度は、第1の鋭角となっている。
【0039】
さらに、図6(A)に示すように、第3段用のパンチ107及びダイ108からなる第3段鍛造装置を用いて、図5(B)に示した第2段鍛造桟部42に対して第3段(最終段)の鍛造加工を行う。第3段用のダイ108は、所定形状の凹部114を有する。図6(A)に示した第3段鍛造装置で第3段の鍛造加工を行うと、図6(B)に示すような第3段鍛造桟部48が得られる。図6(B)に示した第3段鍛造桟部48は、例えば、左右の端部が側方に向けてさらに膨出した略矩形形状をした上部51と、先細に傾斜したテーパー面を有する中央部52と、二段階の矩形形状をした下部49と、を備える断面形状を有する。中央部52のテーパー面(最終的に、すくい面16に対応)が上端面50に対してなす角度は、第2の鋭角(最終的に刃先角に対応する角度)となっている。なお、二段階の矩形形状をした下部49は、リブ18に対応している。
【0040】
第3段の鍛造加工を施した上部51の膨出した部分の厚みは、第2段の鍛造加工を施した上部45の膨出した部分の厚みよりも薄くなっている。また、第3段の鍛造加工を施した中央部43のテーパー面が上端面46に対してなす角度(第1の鋭角)は、第2段の鍛造加工を施した中央部43のテーパー面が上端面50に対してなす角度(第2の鋭角)よりも小さくて、より鋭角になっている。また、第3段の鍛造加工を施した下部49の横幅は、第2段の鍛造加工を施した下部44の横幅よりも狭くなっている。他方、第3段の鍛造加工を施した下部49の縦方向長さは、第2段の鍛造加工を施した下部44の縦方向長さより長くなっている。
【0041】
したがって、複数段からなる鍛造加工工程においては、図3に示した桟部36は、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状になる。このとき、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の中央部52は、鍛造加工を行う前の図3に示した桟部36の形状との比較で、塑性加工により特に大きく変形している。その結果、第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。なお、第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、後述するように、刃先の部分14となるべき部分である。
【0042】
図7は、第3段(最終段)の鍛造加工が施された帯状体60を示す図である。図2に示した各内刃セグメント32の各桟部36に対して、図4乃至6に示した鍛造装置による冷間鍛造加工を行うと、最終的に、図7に示すような鍛造帯状体60が得られる。鍛造帯状体60は、図2に示した打ち抜き帯状体30と同様に、左右の支持部31と、支持部31によって支持された複数の鍛造済み内刃セグメント62と、を備える。
【0043】
鍛造済み内刃セグメント62は、図2に示した内刃セグメント32との比較で、溝部38が、鍛造加工により内刃長手方向の幅が狭くなっている溝部68となっている。また、桟部36が、鍛造加工により内刃長手方向の幅が拡大している第3段鍛造桟部48となっている。したがって、図7に示した各鍛造済み内刃セグメント62は、内刃短手方向に直線状に延びる複数の溝部68と、内刃短手方向に直線状に延びる複数の第3段鍛造桟部48と、複数の第3段鍛造桟部48をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に対してより近似した外形形状となっている。
【0044】
次に、図8(A)に示すような平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行う。なお、図8(A)に示した第3段鍛造桟部48は、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48との比較で、上下の位置が逆転している。
【0045】
平面研削加工工程では、第3段鍛造桟部48の上端面50が、平面研削装置120の砥石に対向するように配置される。図8(A)に示した平面研削装置120を用いて、左右に膨出した上部51の全てと、傾斜した中央部52の一部分とを取り除いて、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成する。当該平面研削加工の結果、図8(B)に示すような研削済み桟部58が得られる。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する刃先の部分14が形成されている。平面研削加工の際に、刃先の部分14の硬度が低いと多くの研削バリが発生する。しかしながら、本願発明では、上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなるように構成されているので、研削バリの発生量を大幅に低減することができる。
【0046】
次に、図示しない電解研磨装置を用いて、上記平面研削加工が施された帯状体60に対して電解研磨加工を行う。電解研磨加工の前には、上述した平面研削加工等の際に付着した各種の汚れを取り除く洗浄工程に供される。電解研磨装置の一例は、電解槽に満たされた電解液中に帯状体60を連続的に通すことにより帯状体60を電解研磨する装置であって、電解槽中に投入された帯状体60の研削済み内刃セグメントの数を検知するセンサと、センサによる検知結果に基づいて研削済み内刃セグメントの数に応じて電解研磨用の電流を制御する制御部と、を備えている。当該制御部は、研削済み内刃セグメントの1個あたりの最適電流値に研削済み内刃セグメントの数を掛け算して得られた電流値となるように電解研磨用の全体電流を制御するような構成である。また、電解研磨装置の他の例は、電解槽に満たされた電解液中に帯状体60を連続的に通すことにより帯状体60を電解研磨する装置であって、電解液中に多数のローラを配置して研削済み内刃セグメントを有する帯状体60を連続的に搬送する搬送機構を形成し、このローラと電解液中の対向する電極との間に電圧を印加して帯状体60に電解研磨処理を施す構成とすることもできる。当該電解研磨加工により、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除くことができる。
【0047】
電解研磨加工を施した帯状体60は、個片状の内刃セグメント64の分離工程に供される。すなわち、電解研磨加工された帯状体60から、内刃セグメントを分離すると、図9に示すような個片状の内刃セグメント64を、複数個得ることができる。分離された個片状の内刃セグメント64は、短手方向に延びる複数の溝部11と、短手方向に延びる複数の桟部12と、複数の桟部12を支持するフレーム部13と、桟部12の両縁に形成された刃先の部分14と、を備えている。刃先の部分14は、上述したように、平坦な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する。
【0048】
個片状の内刃セグメント64は、内刃10の冷間成形工程に供される。すなわち、個片状の内刃セグメント64は、図示しない冷間成形装置を用いて、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、所望とする形状を有する内刃10に成形される。当該冷間成形工程は、塑性加工であるために加工硬化作用が働くので、刃先の部分14の硬度アップに加えて、内刃10全体の硬度アップに貢献することができる。
【0049】
このように湾曲成形された内刃10は、樹脂製の支持用基台(図示しない)と一緒に組み立てられたあと、ヒートシールで支持用基台に対して一体的に取着される。そして、完成した内刃10は、検査工程を経て、内刃10用の完成品収納ボックスに収納される。
【0050】
上述した本発明に係る切断刃の一例として説明した電気剃刀用の内刃10の製造プロセスをまとめると、図11のようになる。
【0051】
したがって、本発明に係る製造プロセスによって製造された電気剃刀用の内刃10では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼(例えば、SUS301−H材)を用いて、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して刃先の部分14を形成する際に、加工誘起マルテンサイト変態が促進されることにより、刃先の部分14の硬度を、当該刃先の部分14以外の他の部分(すなわちリブ18)の硬度よりも高くすることができる。その結果、高温での焼入硬化工程を必要とすることなく、刃先の部分14に所定の硬度を持った内刃10が得られるので、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【0052】
なお、上述した本発明に係る内刃10の製造プロセスは、テンションアニール(TA)工程をさらに含んでもよい。テンションアニール工程は、第3段(最終段)の鍛造加工が施された帯状体60に対して、張力を印加しながら低温で熱処理する工程である。鍛造加工の後に低温でのテンションアニールを行うと、鍛造加工により生じた歪み(残留応力)は除去されずに、鍛造加工によって生じた歪みを均一化・分散化することができ、図7に示した鍛造帯状体60の寸法や形状の安定性が向上する。また、鍛造帯状体60の硬度も若干(Hvで10程度)上昇する。本発明におけるテンションアニールは、例えば、300℃乃至400℃の低温であって、不活性ガス(窒素ガス)または還元ガス(窒素ガス+水素ガス)の雰囲気に制御された連続炉において行われる。
【0053】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
SUS301のH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0055】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0056】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(35度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0057】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0058】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0059】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が35度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約520、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約500であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0060】
(実施例2)
SUS301のH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0061】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0062】
第3段(最終段)の鍛造加工された帯状体60に対して、テンションアニールを行った。テンションアニールは、300℃の低温であって窒素ガス雰囲気の連続炉において、1分間保持する条件で行った。
【0063】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(35度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0064】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0065】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0066】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が35度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約540、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約510であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0067】
(実施例3)
SUS301のEH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0068】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0069】
第3段(最終段)の鍛造加工された帯状体60に対して、テンションアニールを行った。テンションアニールは、350℃の低温であって窒素ガス雰囲気の連続炉において、1分間保持する条件で行った。
【0070】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(45度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0071】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0072】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0073】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が45度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約580、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約550であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0074】
(実施例4)
SUS304のEH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0075】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0076】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(30度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0077】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0078】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0079】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が30度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約500、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約450であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0080】
なお、本発明に係る切断刃の好適な実施形態として、鍛造加工(塑性加工)による加工硬化作用を得るためにある程度の厚みを有する電気剃刀用の内刃10について説明した。しかしながら、本発明に係る切断刃は、多数の穴状の刃孔を有する薄肉シート状の電気剃刀用の外刃にも用いることができる。さらに、本発明に係る切断刃は、毛髪や体毛を切断するための電気バリカン用の切断刃にも適用することができる。当該電気バリカン用の切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される。これら一対の刃は、固定刃と可動刃とから構成されて可動刃のみが摺接駆動されるもの、及び、一つの可動刃と他の可動刃とから構成されて両方の可動刃がそれぞれ摺接駆動されるものを含む。さらに、本発明に係る切断刃は、人間の毛髪や体毛を切断するために使用されることに加えて、動物の体毛を切断するためにも使用可能である。
【0081】
また、本発明に係る切断刃の製造方法の好適な実施形態として、鍛造加工工程において、異なる複数(3種類)の鍛造装置を用いて、冷間での複数段(3段)の鍛造加工を行っている。しかしながら、本発明に係る切断刃の製造方法は、鍛造加工工程において、より硬質の鍛造装置(例えば超硬材料からなる鍛造装置)を用いることにより少ない段数で(すなわち単段あるいは2段で)鍛造加工を行うこともできるし、あるいは、鍛造装置への負担を低減するために4段以上の多数段で、鍛造加工を行うこともできる。
【符号の説明】
【0082】
10:電気剃刀用の内刃
11:溝部
12:桟部
13:フレーム部
14:刃先の部分
15:逃げ面(刃面)
16:すくい面
18:リブ
30:打ち抜き帯状体
32:内刃セグメント
36:桟部
48:第3段鍛造桟部
49:下部
52:中央部
58:研削済み桟部
60:鍛造帯状体
62:鍛造済み内刃セグメント
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、切断刃及び当該切断刃の製造方法に関し、特に、電気剃刀用の内刃及び当該内刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術に係る切断刃について以下に説明するが、切断刃のうちの電気剃刀用の内刃について以下に説明する。従来技術に係る電気剃刀用の内刃は、一般に、焼入によって硬化する焼入硬化系のステンレス鋼を用いて、いくつかの工程を経て製造されている(特許文献1乃至3を参照)。従来の焼入硬化系の鋼を用いた電気剃刀用の内刃の製造プロセスの一例を、図12に示す。
【0003】
図12に示す従来技術に係る内刃の製造プロセスは、薄いロール状の帯状体から被加工物をプレスにより打ち抜くプレス加工工程と、鍛造により刃先先端を形成する鍛造工程と、焼入により被加工物全体をフラットな形状で硬化させる焼入矯正工程と、平面研削により刃付け加工する研削工程と、加工された帯状体から単品内刃を分離する分離工程と、高温に加熱しながら単品内刃を湾曲させて所望とする湾曲形状に加工する焼入曲げ工程と、研削バリを除去して刃先先端を鋭利に(曲率半径を小さく)する電解研磨工程と、を備えている。
【0004】
従来技術に係る内刃の製造プロセスにおけるプレス加工工程及び鍛造工程では、易加工性が要求されるために、被加工物の材料が軟質であることを必要とする。その一方で、その後に行われる刃付け工程では、平面研削加工の際に塑性変形による研削バリが発生することを抑制するために、被加工物の材料が硬質であることを必要とする。従来技術では、これらの条件をある程度満足する内刃の材料として、焼入硬化系の鋼材(例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2003/022535
【特許文献2】特開2005−198768号公報
【特許文献3】特開2005−204813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、焼入硬化系のステンレス鋼を用いた従来技術に係る電気剃刀用の内刃の製造方法は、製造プロセスの初期段階では比較的軟質であった被加工物を、研削に適した硬さに熱処理で硬化させる焼入硬化工程を必ず含んでいる。焼入された被加工物は、被加工物全体が硬化しているために、その後の加工性が非常に悪い。したがって、焼入硬化工程の後にさらに何らかの加工を行う場合には、焼入された被加工物の加工性を良くするための熱処理を複数回数行う必要があるために、製造プロセスが複雑になるという問題や、製造工程が増加して製造コストがアップするという問題がある。
【0007】
また、従来技術に係る内刃の製造プロセスにおける焼入硬化工程では、被加工物が1000℃を超えるような高温に曝されるために原子拡散現象によって刃先先端での微視的な形状が変化するという問題があるので、電解研磨工程を行った後に、焼入曲げ工程を行うことは意味をなさない。すなわち、最終の焼入曲げ工程を終了した後に、電解研磨工程を実施する必要があり、電解研磨を実施するタイミングが制限されて内刃の製造プロセスの自由度が低下するという問題がある。さらに、電解研磨工程においては、電解研磨の対象物は、ロール状体から分離された単体であって連続したロール状体ではないために、連続的に電解研磨を行うことができなくなるので、電解研磨時の生産性が悪いという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、所望とする刃先形状に近似した形状に加工したあとに焼入硬化工程を施すことを不要とすることにより、製造プロセスを簡略化して、高い生産性及び低コスト化を実現する切断刃及び当該切断刃の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の切断刃が提供される。
【0010】
すなわち、本発明に係る切断刃は、
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、
当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の切断刃では、前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0012】
本発明の切断刃では、前記塑性加工が冷間鍛造であることが好ましい。
【0013】
本発明の切断刃では、前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることが好ましい。
【0014】
本発明の切断刃では、前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることが好ましい。
【0015】
本発明の切断刃では、前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることが好ましい。
【0016】
本発明の切断刃の製造方法では、
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃の製造方法であって、
準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼の帯状体を準備する工程と、
当該帯状体のうち、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して加工硬化させる工程と、
塑性加工を施した部分に対して研削加工を施して刃先の部分を形成する工程と、
研削加工を施した後に、電解研磨加工を施して研削バリを除去する工程と、
電解研磨加工を施した後に、冷間で所望の形状に曲げ加工する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の切断刃の製造方法では、前記加工硬化させる工程の後に、低温下で、引張りながら熱を加える熱処理を施す工程をさらに備えることが好ましい。
【0018】
本発明の切断刃の製造方法では、前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0019】
本発明の切断刃の製造方法では、前記塑性加工が冷間鍛造であることが好ましい。
【0020】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることが好ましい。
【0021】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることが好ましい。
【0022】
本発明の切断刃の製造方法では、前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
従来の切断刃では、焼入硬化素材であるマルテンサイト系ステンレス鋼等が用いられているが、当該焼入硬化素材では、所定の硬度を得るためには高温での焼入硬化工程を必要としていた。これに対して、本発明では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼を用いて、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して刃先の部分を形成する際に、加工誘起マルテンサイト変態が促進されることにより、刃先の部分の硬度を、当該刃先の部分以外の他の部分の硬度よりも高くすることができる。したがって、本発明の切断刃は、高温での焼入硬化工程を必要とすることなく、所定の硬度を得ることができるので、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。また、本発明で使用される素材は、従来技術で使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼よりも耐食性が優れているという効果を奏する。
【0024】
本発明の切断刃の製造方法では、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る切断刃の製造方法であって、帯状体に対して打ち抜き加工を施す様子を説明する図である。
【図2】図1に示した打ち抜き加工が施された帯状体を示す図である。
【図3】図2に示した打ち抜き加工された帯状体のIII−III線断面図である。
【図4】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、打ち抜き加工された帯状体に対して第一段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は第1段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図5】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、第1段の鍛造加工された帯状体に対して第2段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は第2段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図6】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、第2段の鍛造加工された帯状体に対して最終段の鍛造加工を施す様子を説明する図であり、(B)は最終段の鍛造加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図7】最終段の鍛造加工が施された帯状体を示す図である。
【図8】(A)は、本発明に係る切断刃の製造方法であって、最終段の鍛造加工された帯状体に対して平面研削加工を施す様子を説明する図であり、(B)は平面研削加工された帯状体の一部分の断面図である。
【図9】平面研削加工が施された帯状体から分離された分離個片を示す図である。
【図10】分離個片に対して曲げ加工が施された分離個片を示す図である。
【図11】本発明に係る切断刃の製造プロセスを説明する図である。
【図12】従来技術に係る切断刃の製造プロセスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る一実施形態に係る切断刃として、電気剃刀用の内刃10の構成及びその製造方法について、図1乃至図11を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、図10を参照しながら、本発明に係る切断刃として好適な実施形態である、電気剃刀用の内刃10の構成を説明する。図10に示すように、電気剃刀用の内刃10は、略逆U字形状をしており、ヒートシールで支持用基台(図示しない)に取り付けられて、往復振動型のリニアアクチュエータ(図示しない)により長手方向に往復駆動される。内刃10の外面である平坦な刃面15は、多数の刃孔の形成された薄板の外刃(図示しない)の内面に摺接する。
【0028】
内刃10における刃先の部分14、すなわち外刃の刃孔の孔縁との間で髭を切断する刃先の部分14は、互いに並行に短手方向に延びる複数の溝部11の間にて規定される桟部12の一部分を構成するリブ18の一端側の左右の縁に形成されている。すなわち、桟部12は、内刃10の厚み方向に延びるリブ18と、リブ18の一端側の左右の縁に形成された刃先の部分14と、を備える。複数の溝部11及び桟部12は、それぞれ、同じ形状であってもよいし、異なった形状であってもよい。複数の桟部12は、共通のフレーム部13によって支持されている。図8(B)に示すように、刃先の部分14は、平坦な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する。刃先角は、約15度から90度、好ましくは約20度から約40度の鋭角、より好ましくは約30度から約35度の鋭角である。
【0029】
内刃10は、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、冷間圧延したままの帯状体を、冷間鍛造等の塑性加工により所定の外形形状にする。このとき、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分14を形成するが、当該刃先の部分14は、後述する加工硬化作用により、それ以外の他の部分よりも高い硬度を備えている。
【0030】
内刃10に使用される鋼材は、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity)鋼(いわゆるTRIP鋼)であって、加工硬化指数(n値)の大きいTRIP鋼である。当該TRIP鋼は、加工前では比較的軟質であるために加工性に優れているが加工後では高い硬度を呈する。加工硬化指数(n値)の大きいTRIP鋼を例示すると、SUS301やSUS304等に代表される加工硬化型のオーステナイト系ステンレス鋼である。好適な加工硬化指数(n値)を例示すると、平均して約0.3以上である。SUS301−1/2Hの加工硬化指数(n値)は、平均して約0.35である。SUS301−2B(未冷間圧延材)の加工硬化指数(n値)は、平均して約0.62である。SUS304−2B(未冷間圧延材)の加工硬化指数(n値)は、平均して約0.48である。本発明に係る内刃10に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は、加工硬化によって十分な硬度を得ることができるとともに、従来技術で使用されているマルテンサイト系ステンレス鋼よりも耐食性が優れている。なお、比較のために従来技術で使用されているSUS420J2−TA(マルテンサイト系ステンレス鋼の焼鈍材)の加工硬化指数(n値)を示すと、平均して約0.19であり、加工硬化指数(n値)が小さい。
【0031】
例えば、SUS301材においては、冷間加工率(圧下率)によりいくつかの鋼種がある。例えばSUS301−1/2H、SUS301−3/4H、SUS301−H及びSUS301−EHである。SUS301−1/2H、SUS301−3/4H、SUS301−H及びSUS301−EHの各鋼種における硬度(Hv)を例示すると、それぞれ、約320、約410、約470、約540である。冷間鍛造等の塑性加工に供される鋼材は、冷間加工率が大きくて高い硬度(Hv)になっているSUS301−HやSUS301−EHの鋼種が好ましい。しかしながら、塑性加工時の塑性ひずみ量を大きく取ることで、SUS301−1/2HやSUS301−3/4Hも使用することができる。また、SUS304−1/2H、SUS304−3/4H及びSUS304−Hの各鋼種における硬度(Hv)を例示すると、それぞれ、約300、約350、約400である。
【0032】
本発明では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼として、冷間圧延したままの帯状体を用いているために、加工硬化が既に進行していて加工誘起マルテンサイト変態が促進されており、硬化している。その結果、冷間鍛造等の塑性加工により刃先となるべき部分は、焼入硬化工程等の高温での熱処理を施すこと無く、十分に高い硬度を備えることができる。刃先となるべき部分が十分な高硬度を備えているので、その後に行われる研削加工における研削バリの発生を抑制することができる。
【0033】
次に、図1乃至図11を参照しながら、電気剃刀用の内刃10の製造プロセスを説明する。
【0034】
まず、冷間圧延したままで所定の厚みを有する、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼(例えば、SUS301−H材)からなるロール状に巻回された薄い帯状体を準備する。
【0035】
図1に示すような打ち抜き用の上型101及び下型102からなるプレス装置を用いて、上記帯状体に対して打ち抜き加工を行う。図1に示したプレス装置で打ち抜き加工を行うと、図2に示すようなハシゴ状の打ち抜き帯状体30が得られる。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、帯状体の延びるロール長手方向(長さ方向)と直交するロール短手方向(幅方向)に延在するとともに左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。内刃セグメント32において、打ち抜き加工された部分が内刃短手方向に直線状に延びる溝部38となり、打ち抜き加工されなかった部分が内刃短手方向に直線状に延びる桟部36及び内刃長手方向に直線状に延びるフレーム部34となる。桟部36は、隣り合う溝部38によって規定されている。したがって、図2に示した各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0036】
次に、図2に示した各内刃セグメント32のうち、図3に示した桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段の鍛造加工を行う。
【0037】
すなわち、まず、図4(A)に示すように、第1段用のパンチ103及びダイ104からなる第1段鍛造装置を用いて、図3に示した桟部36に対して第1段の鍛造加工を行う。第1段用のダイ104は、所定形状の凹部112を有する。図4(A)に示した第1段鍛造装置で第1段の鍛造加工を行うと、図4(B)に示すような第1段鍛造桟部38が得られる。図4(B)に示した第1段鍛造桟部38は、例えば、矩形形状をした上部39と、先細に絞られて略台形形状をした下部40と、を備える断面形状を有する。
【0038】
次に、図5(A)に示すように、第2段用のパンチ105及びダイ106からなる第2段鍛造装置を用いて、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38に対して第2段の鍛造加工を行う。第2段用のダイ106は、所定形状の凹部113を有する。図5(A)に示した第2段鍛造装置で第2段の鍛造加工を行うと、図5(B)に示すような第2段鍛造桟部42が得られる。図5(B)に示した第2段鍛造桟部42は、例えば、左右の端部が側方に膨出した略矩形形状をした上部45と、先細に傾斜したテーパー面を有する中央部43と、矩形形状をした下部44と、を備える断面形状を有する。中央部43のテーパー面が上端面46に対してなす角度は、第1の鋭角となっている。
【0039】
さらに、図6(A)に示すように、第3段用のパンチ107及びダイ108からなる第3段鍛造装置を用いて、図5(B)に示した第2段鍛造桟部42に対して第3段(最終段)の鍛造加工を行う。第3段用のダイ108は、所定形状の凹部114を有する。図6(A)に示した第3段鍛造装置で第3段の鍛造加工を行うと、図6(B)に示すような第3段鍛造桟部48が得られる。図6(B)に示した第3段鍛造桟部48は、例えば、左右の端部が側方に向けてさらに膨出した略矩形形状をした上部51と、先細に傾斜したテーパー面を有する中央部52と、二段階の矩形形状をした下部49と、を備える断面形状を有する。中央部52のテーパー面(最終的に、すくい面16に対応)が上端面50に対してなす角度は、第2の鋭角(最終的に刃先角に対応する角度)となっている。なお、二段階の矩形形状をした下部49は、リブ18に対応している。
【0040】
第3段の鍛造加工を施した上部51の膨出した部分の厚みは、第2段の鍛造加工を施した上部45の膨出した部分の厚みよりも薄くなっている。また、第3段の鍛造加工を施した中央部43のテーパー面が上端面46に対してなす角度(第1の鋭角)は、第2段の鍛造加工を施した中央部43のテーパー面が上端面50に対してなす角度(第2の鋭角)よりも小さくて、より鋭角になっている。また、第3段の鍛造加工を施した下部49の横幅は、第2段の鍛造加工を施した下部44の横幅よりも狭くなっている。他方、第3段の鍛造加工を施した下部49の縦方向長さは、第2段の鍛造加工を施した下部44の縦方向長さより長くなっている。
【0041】
したがって、複数段からなる鍛造加工工程においては、図3に示した桟部36は、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状になる。このとき、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の中央部52は、鍛造加工を行う前の図3に示した桟部36の形状との比較で、塑性加工により特に大きく変形している。その結果、第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。なお、第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、後述するように、刃先の部分14となるべき部分である。
【0042】
図7は、第3段(最終段)の鍛造加工が施された帯状体60を示す図である。図2に示した各内刃セグメント32の各桟部36に対して、図4乃至6に示した鍛造装置による冷間鍛造加工を行うと、最終的に、図7に示すような鍛造帯状体60が得られる。鍛造帯状体60は、図2に示した打ち抜き帯状体30と同様に、左右の支持部31と、支持部31によって支持された複数の鍛造済み内刃セグメント62と、を備える。
【0043】
鍛造済み内刃セグメント62は、図2に示した内刃セグメント32との比較で、溝部38が、鍛造加工により内刃長手方向の幅が狭くなっている溝部68となっている。また、桟部36が、鍛造加工により内刃長手方向の幅が拡大している第3段鍛造桟部48となっている。したがって、図7に示した各鍛造済み内刃セグメント62は、内刃短手方向に直線状に延びる複数の溝部68と、内刃短手方向に直線状に延びる複数の第3段鍛造桟部48と、複数の第3段鍛造桟部48をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に対してより近似した外形形状となっている。
【0044】
次に、図8(A)に示すような平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行う。なお、図8(A)に示した第3段鍛造桟部48は、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48との比較で、上下の位置が逆転している。
【0045】
平面研削加工工程では、第3段鍛造桟部48の上端面50が、平面研削装置120の砥石に対向するように配置される。図8(A)に示した平面研削装置120を用いて、左右に膨出した上部51の全てと、傾斜した中央部52の一部分とを取り除いて、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成する。当該平面研削加工の結果、図8(B)に示すような研削済み桟部58が得られる。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する刃先の部分14が形成されている。平面研削加工の際に、刃先の部分14の硬度が低いと多くの研削バリが発生する。しかしながら、本願発明では、上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなるように構成されているので、研削バリの発生量を大幅に低減することができる。
【0046】
次に、図示しない電解研磨装置を用いて、上記平面研削加工が施された帯状体60に対して電解研磨加工を行う。電解研磨加工の前には、上述した平面研削加工等の際に付着した各種の汚れを取り除く洗浄工程に供される。電解研磨装置の一例は、電解槽に満たされた電解液中に帯状体60を連続的に通すことにより帯状体60を電解研磨する装置であって、電解槽中に投入された帯状体60の研削済み内刃セグメントの数を検知するセンサと、センサによる検知結果に基づいて研削済み内刃セグメントの数に応じて電解研磨用の電流を制御する制御部と、を備えている。当該制御部は、研削済み内刃セグメントの1個あたりの最適電流値に研削済み内刃セグメントの数を掛け算して得られた電流値となるように電解研磨用の全体電流を制御するような構成である。また、電解研磨装置の他の例は、電解槽に満たされた電解液中に帯状体60を連続的に通すことにより帯状体60を電解研磨する装置であって、電解液中に多数のローラを配置して研削済み内刃セグメントを有する帯状体60を連続的に搬送する搬送機構を形成し、このローラと電解液中の対向する電極との間に電圧を印加して帯状体60に電解研磨処理を施す構成とすることもできる。当該電解研磨加工により、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除くことができる。
【0047】
電解研磨加工を施した帯状体60は、個片状の内刃セグメント64の分離工程に供される。すなわち、電解研磨加工された帯状体60から、内刃セグメントを分離すると、図9に示すような個片状の内刃セグメント64を、複数個得ることができる。分離された個片状の内刃セグメント64は、短手方向に延びる複数の溝部11と、短手方向に延びる複数の桟部12と、複数の桟部12を支持するフレーム部13と、桟部12の両縁に形成された刃先の部分14と、を備えている。刃先の部分14は、上述したように、平坦な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角を有する。
【0048】
個片状の内刃セグメント64は、内刃10の冷間成形工程に供される。すなわち、個片状の内刃セグメント64は、図示しない冷間成形装置を用いて、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、所望とする形状を有する内刃10に成形される。当該冷間成形工程は、塑性加工であるために加工硬化作用が働くので、刃先の部分14の硬度アップに加えて、内刃10全体の硬度アップに貢献することができる。
【0049】
このように湾曲成形された内刃10は、樹脂製の支持用基台(図示しない)と一緒に組み立てられたあと、ヒートシールで支持用基台に対して一体的に取着される。そして、完成した内刃10は、検査工程を経て、内刃10用の完成品収納ボックスに収納される。
【0050】
上述した本発明に係る切断刃の一例として説明した電気剃刀用の内刃10の製造プロセスをまとめると、図11のようになる。
【0051】
したがって、本発明に係る製造プロセスによって製造された電気剃刀用の内刃10では、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼(例えば、SUS301−H材)を用いて、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して刃先の部分14を形成する際に、加工誘起マルテンサイト変態が促進されることにより、刃先の部分14の硬度を、当該刃先の部分14以外の他の部分(すなわちリブ18)の硬度よりも高くすることができる。その結果、高温での焼入硬化工程を必要とすることなく、刃先の部分14に所定の硬度を持った内刃10が得られるので、製造プロセスの簡略化、高い生産性及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【0052】
なお、上述した本発明に係る内刃10の製造プロセスは、テンションアニール(TA)工程をさらに含んでもよい。テンションアニール工程は、第3段(最終段)の鍛造加工が施された帯状体60に対して、張力を印加しながら低温で熱処理する工程である。鍛造加工の後に低温でのテンションアニールを行うと、鍛造加工により生じた歪み(残留応力)は除去されずに、鍛造加工によって生じた歪みを均一化・分散化することができ、図7に示した鍛造帯状体60の寸法や形状の安定性が向上する。また、鍛造帯状体60の硬度も若干(Hvで10程度)上昇する。本発明におけるテンションアニールは、例えば、300℃乃至400℃の低温であって、不活性ガス(窒素ガス)または還元ガス(窒素ガス+水素ガス)の雰囲気に制御された連続炉において行われる。
【0053】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
SUS301のH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0055】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0056】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(35度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0057】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0058】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0059】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が35度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約520、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約500であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0060】
(実施例2)
SUS301のH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0061】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0062】
第3段(最終段)の鍛造加工された帯状体60に対して、テンションアニールを行った。テンションアニールは、300℃の低温であって窒素ガス雰囲気の連続炉において、1分間保持する条件で行った。
【0063】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(35度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0064】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0065】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0066】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が35度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約540、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約510であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0067】
(実施例3)
SUS301のEH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0068】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0069】
第3段(最終段)の鍛造加工された帯状体60に対して、テンションアニールを行った。テンションアニールは、350℃の低温であって窒素ガス雰囲気の連続炉において、1分間保持する条件で行った。
【0070】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(45度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0071】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0072】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0073】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が45度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約580、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約550であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0074】
(実施例4)
SUS304のEH材の帯鋼(厚みが0.375mm、幅が49mm)を帯状体とし、プレス機を用いて、当該帯状体に対して打ち抜き加工を行って図2に示すハシゴ状の打ち抜き帯状体30を作成した。打ち抜き帯状体30は、左右の支持部31と、左右の支持部31によって支持された複数の内刃セグメント32と、を備える。各内刃セグメント32は、複数の溝部38と、複数の桟部36と、複数の桟部36をつなぐ上下のフレーム部34と、を備えており、所望とする内刃10に大略近似した外形形状となっている。また、内刃セグメント32の桟部36は、図3に示すような矩形状の断面を有する。
【0075】
そして、図4(A)、図5(A)及び図6(A)のそれぞれに示した複数の(例えば3種類の)鍛造装置を用いて、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれに対して、冷間での複数段(例えば3段)の鍛造加工を行った。その結果、各内刃セグメント32の桟部36のそれぞれは、図3に示した矩形形状の桟部36から、図4(B)に示した第1段鍛造桟部38の形状及び図5(B)に示した第2段鍛造桟部42の形状をそれぞれ経たあと、最終的に、図6(B)に示した第3段鍛造桟部48の形状に変化した。その結果、図6(B)に示した第2の鋭角で傾斜したテーパー面を有する中央部52は、塑性加工による加工硬化作用で、それ以外の部分(すなわち下部49)よりも硬度が高くなっている。
【0076】
次に、図8(A)に示す平面研削装置120を用いて、上記鍛造加工が施された帯状体60に対して平面研削加工を行い、第3段鍛造桟部48から不要な部分を取り除き、中央部52の端面において平滑な逃げ面15を形成した。その結果、図8(B)に示す研削済み桟部58が得られた。研削済み桟部58(桟部12)のうち、リブ18(下部49)の一端側の左右の縁には、刃先の部分14が形成されている。刃先の部分14は、平滑な逃げ面(刃面)15と、傾斜したすくい面16と、によって規定される刃先角(30度)を有する。上述した鍛造加工工程により刃先の部分14の硬度が高くなっているので、研削バリの発生量が従来よりも大幅に低減していた。
【0077】
平面研削された帯状体60を洗浄した後、帯状体60に対して電解研磨加工を行って、研削済み内刃セグメントの刃先の部分14に僅かに残っている研削バリを取り除き、刃先の部分14を仕上げた。
【0078】
電解研磨された帯状体60から内刃セグメントを分離して、図9に示す個片状の内刃セグメント64を複数個得ることができた。個片状の内刃セグメント64のそれぞれは、対となる外刃の内面形状に沿うように、冷間で逆U字状に湾曲されて、図10に示す形状の内刃10を得ることができた。
【0079】
以上の製造プロセスによって得られた電気剃刀用の内刃10は、刃先角が30度、刃先の部分14の硬度(Hv)が約500、刃先の部分14を除く内刃10の平均硬度(Hv)が約450であり、刃先の部分14には研削バリの無いものであった。
【0080】
なお、本発明に係る切断刃の好適な実施形態として、鍛造加工(塑性加工)による加工硬化作用を得るためにある程度の厚みを有する電気剃刀用の内刃10について説明した。しかしながら、本発明に係る切断刃は、多数の穴状の刃孔を有する薄肉シート状の電気剃刀用の外刃にも用いることができる。さらに、本発明に係る切断刃は、毛髪や体毛を切断するための電気バリカン用の切断刃にも適用することができる。当該電気バリカン用の切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される。これら一対の刃は、固定刃と可動刃とから構成されて可動刃のみが摺接駆動されるもの、及び、一つの可動刃と他の可動刃とから構成されて両方の可動刃がそれぞれ摺接駆動されるものを含む。さらに、本発明に係る切断刃は、人間の毛髪や体毛を切断するために使用されることに加えて、動物の体毛を切断するためにも使用可能である。
【0081】
また、本発明に係る切断刃の製造方法の好適な実施形態として、鍛造加工工程において、異なる複数(3種類)の鍛造装置を用いて、冷間での複数段(3段)の鍛造加工を行っている。しかしながら、本発明に係る切断刃の製造方法は、鍛造加工工程において、より硬質の鍛造装置(例えば超硬材料からなる鍛造装置)を用いることにより少ない段数で(すなわち単段あるいは2段で)鍛造加工を行うこともできるし、あるいは、鍛造装置への負担を低減するために4段以上の多数段で、鍛造加工を行うこともできる。
【符号の説明】
【0082】
10:電気剃刀用の内刃
11:溝部
12:桟部
13:フレーム部
14:刃先の部分
15:逃げ面(刃面)
16:すくい面
18:リブ
30:打ち抜き帯状体
32:内刃セグメント
36:桟部
48:第3段鍛造桟部
49:下部
52:中央部
58:研削済み桟部
60:鍛造帯状体
62:鍛造済み内刃セグメント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、
当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備えることを特徴とする切断刃。
【請求項2】
前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載の切断刃。
【請求項3】
前記塑性加工が冷間鍛造であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の切断刃。
【請求項4】
前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切断刃。
【請求項5】
前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることを特徴とする、請求項4に記載の切断刃。
【請求項6】
前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切断刃。
【請求項7】
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃の製造方法であって、
準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼の帯状体を準備する工程と、
当該帯状体のうち、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して加工硬化させる工程と、
塑性加工を施した部分に対して研削加工を施して刃先の部分を形成する工程と、
研削加工を施した後に、電解研磨加工を施して研削バリを除去する工程と、
電解研磨加工を施した後に、冷間で所望の形状に曲げ加工する工程と、
を備えることを特徴とする、切断刃の製造方法。
【請求項8】
前記加工硬化させる工程の後に、低温下で、引張りながら熱を加える熱処理を施す工程をさらに備えることを特徴とする、請求項7に記載の切断刃の製造方法。
【請求項9】
前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の切断刃の製造方法。
【請求項10】
前記塑性加工が冷間鍛造であることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【請求項11】
前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【請求項12】
前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることを特徴とする、請求項11に記載の切断刃の製造方法。
【請求項13】
前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【請求項1】
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃であって、
当該切断刃が、準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼からなり、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施すことによって刃先の部分を形成し、当該刃先の部分が、当該刃先の部分以外の他の部分よりも高い硬度を備えることを特徴とする切断刃。
【請求項2】
前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載の切断刃。
【請求項3】
前記塑性加工が冷間鍛造であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の切断刃。
【請求項4】
前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切断刃。
【請求項5】
前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることを特徴とする、請求項4に記載の切断刃。
【請求項6】
前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切断刃。
【請求項7】
鋭角な刃先角を形成する刃先を備える切断刃の製造方法であって、
準安定オーステナイト相を有する変態誘起塑性鋼の帯状体を準備する工程と、
当該帯状体のうち、刃先となるべき部分に対して塑性加工を施して加工硬化させる工程と、
塑性加工を施した部分に対して研削加工を施して刃先の部分を形成する工程と、
研削加工を施した後に、電解研磨加工を施して研削バリを除去する工程と、
電解研磨加工を施した後に、冷間で所望の形状に曲げ加工する工程と、
を備えることを特徴とする、切断刃の製造方法。
【請求項8】
前記加工硬化させる工程の後に、低温下で、引張りながら熱を加える熱処理を施す工程をさらに備えることを特徴とする、請求項7に記載の切断刃の製造方法。
【請求項9】
前記変態誘起塑性鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の切断刃の製造方法。
【請求項10】
前記塑性加工が冷間鍛造であることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【請求項11】
前記切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃と、当該外刃の内面に沿って摺動して毛を切断する逆U字状の内刃と、を備える電気剃刀用の切断刃であって、前記外刃及び前記内刃の少なくとも一方に用いられることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【請求項12】
前記切断刃が、電気剃刀用の内刃であることを特徴とする、請求項11に記載の切断刃の製造方法。
【請求項13】
前記切断刃は、先端が櫛歯状に形成されている一対の刃を備えて、これら一対の刃が駆動モータにより相対的に摺接駆動される電気バリカン用の切断刃であることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれか1つに記載の切断刃の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−107088(P2013−107088A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251801(P2011−251801)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]