切断可能な界面活性剤
本発明は、生体物質、例えば、タンパク質又は細胞膜の可溶化、消化、調製、分析、及び/又は特徴づけを助けるための方法で使用できる式I〜IXの界面活性剤化合物を提供する。本化合物は、特にゲル内消化プロトコルのタンパク質消化中に生じたペプチドの回収にも役立ちうる。さらに、本化合物は、下流の試料調製工程及び質量分析を妨害することなく、酵素的タンパク質脱グリコシル化を改善することができる。本化合物は、酸、熱、又はその組合せで分解しうる消化助剤として特に有用でありうる。界面活性剤が分解すると、単離された試料から容易に分離することができ、かつ/又は種々の分析手法の感度を妨げることなく試料を分析することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
この出願は、参照によってその内容を本明細書に引用したものとする2007年10月11日提出の米国仮特許出願第60/979,316号に対する米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
分析、例えば、質量分析のためのタンパク質試料の調製は、典型的に3つの主工程:可溶化、消化、及びペプチド回収を含む。ある工程に適用される現在の方法及び試薬は以下の工程とはめったに適合しない。例えば、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))又は変性剤(例えば、アセトニトリル、尿素、又はグアニジン)等の可溶化剤は典型的に、可溶化後の消化で使われるトリプシン等のプロテアーゼを阻害する。トリプシン活性に耐えられる濃度で使用する場合でさえ、これらの界面活性剤又は変性剤の存在は、液体クロマトグラフィー又は質量分析などのその後の分析を妨害する。従って、典型的に、試料(例えば、タンパク質又はペプチド)についてさらに分析を行う前に界面活性剤及び有機溶媒を除去する必要がある。これらの試薬の除去に必要な操作は試料調製プロセスを複雑にし、試料物質の損失につながることが多い。
【0003】
消化工程は、タンパク質試料調製における主要な難題を提示することが多い。トリプシンによる典型的なタンパク質消化は、完了に達するまで一晩のインキュベーションを必要とする。一晩のインキュベーション後でさえ、膜タンパク質のような消化に耐性のタンパク質は未変化のままであることもあり、満足できる消化を達成するために異常な条件が必要である。これらの限界を克服し、消化プロセスを速めるための試みで利用されている現在の方法には、タンパク質の可溶化及びタンパク質の変性を改善し、ひいては消化を改善するための有機溶媒(例えば、アセトニトリル)、高温、変性剤(例えば、尿素)、及び/又は界面活性剤(例えば、SDS)の使用が含まれる。しかし、これらの代替方法及び添加剤は、不完全な切断及び低い再現性をもたらすことが多く、その有用性を制限する。これらの試薬の使用はトリプシン活性の阻害、HPLC分離の妨害及び質量分析におけるペプチド検出の抑制にもつながる。
【0004】
ゲル内タンパク質消化はタンパク質試料調製に特有の難題をもたらす。ゲル内消化の成功は、効率的なタンパク質消化のみならず、効率的なゲルからの消化後ペプチド抽出にも左右される。ゲルからのペプチド抽出は時間がかかり、厄介なことがあり、ペプチド回収について中程度にしか有効でないことが多い。回収されたペプチドは一般的に約2,500Daの大きさに制限される。より大きいペプチドは大部分がゲル内に捕捉されている。「In-gel digestion with endoproteinase Lys-C」, Y. Wada, M. Kadoya, J. of Mass Spectrom. 2003; 38: 117-118を参照されたい。高い疎水性のペプチドの回収も影響を受ける。
【0005】
タンパク質試料調製に関連する他の手順には翻訳後タンパク質修飾の分析が含まれる。全てのヒトタンパク質の約60%がグリコシル化される。グリコシル化は多くのキーとなる細胞メカニズムで重要な役割を果たすことが示された。グリコシル化を分析するためには、タンパク質からグリカンを分離しなければならない。脱グリコシル化と称するこの除去は、グリコシダーゼを用いて行われる。脱グリコシル化は、時間のかかるプロセスであることが多い。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の試薬は劇的に脱グリコシル化を改善することができ、おそらくグリコシダーゼがグリカン付着部位にうまく近づけるようにするためであろう。しかし、SDSは下流の試料調製工程、質量分析及びHPLC分析を妨害する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、タンパク質試料調製の改良された方法が要望されている。タンパク質試料調製プロセスを合理化するため、3つの主要なタンパク質調製工程:可溶化、消化及びペプチド回収の1つ以上のためになる方法又は試薬も要望されている。好ましくは、これらの方法又は試薬はプロテアーゼ活性の阻害につながらず、かつ単離及び/又は特徴づけ手法を妨害しない。ゲル内消化プロトコルを合理化すること及びゲルからのペプチドの回収を改善することが特に要望されている。最後に、下流の試料調製並びにタンパク質及びグリカンの質量分析を妨げないタンパク質脱グリコシル化の改良された方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔概要〕
本発明は、生体試料、例えば、タンパク質の可溶化、消化、分析、及び/又は特徴づけを助けるために有用な界面活性剤化合物を提供する。本化合物はタンパク質消化中に生じたペプチドの回収にも役立ちうる。本化合物は下流の試料調製及び質量分析を妨害することなく、酵素的タンパク質脱グリコシル化を改善することができる。本化合物は、酸、熱、又はその組合せによって分解しうる消化助剤として特に有用である。界面活性剤が分解すると、単離された試料から容易に分離することができ、及び/又は種々の分析技術の感度を妨げることなく試料を分析することができる。
本界面活性剤化合物はプロテアーゼ、例えば、トリプシン及びキモトリプシンの安定性と反応性をも高めるので、試料中のペプチド結合のより速くより効率的な切断の方法を提供する。この高い安定性及び/又は反応性のため、効率的な試料消化に必要なプロテアーゼの量を減らし、消化に必要な時間を減らすことができる。こうして、消化に必要な時間の減少が、迅速なオンラインの自動消化及び分析に受け入れられる方法を提供する。
従って、本発明は、高度に疎水性のタンパク質(すなわち、膜タンパク質)を含めたタンパク質の可溶化、すなわち、例えば、「溶液内」タンパク質、及び「ゲル内」タンパク質などのタンパク質のためのプロテアーゼ支援タンパク質消化の方法を提供する。本方法は、試料(ゲル内又は溶液内)及びプロテアーゼを本発明の界面活性剤化合物と混合する工程を含む。プロテアーゼは、所定目的に適したいずれのプロテアーゼでもよく、例えば、トリプシン又はキモトリプシンでよい。他の適切なプロテアーゼとして、セリンプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、プラスメプシン)、メタロプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、又はその組合せが挙げられる。
【0008】
本発明は、溶液内及びゲル内消化プロトコルで得られたペプチドの改良された回収方法をも提供する。本明細書に記載の界面活性剤は、ガラス製品又はプラスチック製品による吸収又は吸着のためのペプチド損失を防止することによって、及び/又は沈殿に起因するペプチド損失を防止することによって、並びにゲル内消化用のゲルマトリックスからの抽ペプチドの抽出を改善することによって、改良された回収を達成することができる。
ゲル内タンパク質消化では、本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一工程にすることによって、試料調製プロトコルを合理化することができる。消化と抽出を約1時間以内で完了することができる。結果として生じる効率は、典型的に一晩の消化後に2〜3時間のペプチド抽出を必要とする従来のゲル内プロトコルを超える有意な改善を示す。
本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質抽出物枯渇法、例えば血漿枯渇法におけるタンパク質回収を改善することもできる。枯渇法では、タンパク質抽出物又は血漿から豊富タンパク質を除去する。これは低豊富タンパク質(その検出は、主に高豊富タンパク質と干渉するため損なわれることが多い)の分析を改善する。典型的な枯渇法の欠点は、高豊富タンパク質によって非特異的に吸収される低豊富タンパク質の相当量の損失である。本明細書に記載の界面活性剤はこの非特異的吸収を遮断することができる。常用されている界面活性剤及び洗浄剤とは対照的に、本発明の界面活性剤は試料調製プロトコル中に分解しうるので、本明細書に記載の界面活性剤は、質量分析などの下流処理への影響を低減又は排除する。
さらに、本明細書に記載の界面活性剤は、好都合な「自己分解」様式の作用を提供することができる(すなわち、プロトコル中に溶液内の加水分解によって分解しうる)。この「自己分解」様式の作用は、現在タンパク質試料調製で使われている既知の試薬によっては示されておらず、界面活性剤が試料調製プロトコルの終了までに自己分解する。このことが、試料調製に界面活性剤を使用する便利な方法を提供する。この方法では、試料調製プロトコルの完了後に界面活性剤を分解する必要がない。
従って、本発明は、式I〜IXの化合物、例えば下記式Iの化合物:
【0009】
【化1】
(I)
【0010】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒になって3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合は任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hでは換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はその塩を提供する。
【0011】
ある実施形態は、試料を式Iの界面活性剤化合物と接触させる工程を含む、試料の分析方法を包含する。特定の実施形態では、本方法は、高速液体クロマトグラフィーで試料を分析する工程を含む。種々の実施形態では、本方法は、質量分析で試料を分析する工程を含む。いくつかの実施形態では、本方法は、試料をイオン対液体クロマトグラフィーで分析する工程を含む。
別の実施形態は、試料を式Iの界面活性剤化合物と接触させる工程を含む電気泳動を行う方法を提供する。電気泳動はゲル電気泳動、例えば、チューブ、スラブゲル及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動であってよい。電気泳動はフリーゾーン電気泳動又はキャピラリー電気泳動であってよい。本方法は、電気泳動後に界面活性剤を分解する工程を含むことができる。本方法は、電気泳動後に酸性溶液、熱、又はその組合せを用いて界面活性剤を分解する工程を含むこともできる。本方法は、界面活性剤を分解した後に試料を精製する工程をさらに含むことができる。
本発明は、式Iの界面活性剤化合物を含む生体試料の分析を行うためのキットをも提供する。本キットは、界面活性剤を分解するための成分、及び必要に応じて分子量標準物質を含むことができる。本キットは染色試薬をも含むことができる。特定の実施形態では、キット内のゲル媒体に界面活性剤が組み込まれている。本キットは、任意にプラスチックのゲル内消化装置、プロテアーゼ等の酵素、例えばセリンプロテアーゼ、例えばトリプシン、若しくはキモトリプシン、又はLys-C、又はグリコシダーゼ、例えば、PNGase Fを含んでよい。本キットは任意にC18浄化チップ、並びに化学標識及び/又はヨードアセトアミド等の試薬を含んでもよい。
さらに、本発明は、生体分子の化学的消化を増強するための方法であって、分子を消化酵素及び式Iの界面活性剤化合物と接触させることによって、分子の化学的消化を増強する工程を含む方法を提供する。
本発明は、本発明の界面活性剤化合物の製造方法、及びその調製で使われる中間体をも提供する。
【0012】
本発明は、消化(溶液内、又は二者択一的に、ゲル内)が完了した後のペプチドの回収方法をも提供する。本方法は、ゲル(ゲル内消化で)からのペプチド抽出が改良されること、及びガラス製品若しくはプラスチック製品による吸収のためか又は沈殿のため(溶液内及びゲル内消化の両方で)のペプチド損失を防止することから、ペプチド収率の劇的な増加をもたらすことができる。ゲルから抽出されるペプチドは一般的に約2,500Daの大きさに制限される。より大きいペプチドはゲル内に大部分が残る。高い疎水性のペプチドの回収も影響を受ける。本方法は、例えばMS/MS等の高度な分析に受け入れられる量で、より大きく疎水性が高いペプチドの回収を増やすことができる。さらに、本方法は、酸に不安定なアミノ酸及び酸に不安定な翻訳後修飾を保護することによって、タンパク質分析の質を高めることができる。
【0013】
本発明は、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一工程にする方法をも提供する。この方法は、タンパク質含有ゲルを、プロテアーゼ及び本発明の化合物を含む水溶液と接触させることによって、ゲル内のタンパク質が可溶化かつアンフォールドして水溶液内でのプロテアーゼによる消化を可能にする工程、及びゲルから抽出された消化ペプチドを含む水溶液を分離する工程を含む。本発明の化合物が存在すると、既知の界面活性剤に比べてゲル内のタンパク質の消化を改善及び加速することができ、同時にゲルからの消化ペプチドの抽出を増強し、さらなる抽出の必要を排除する。
さらに、本発明は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する方法を提供する。本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、下流の試料調製工程及び質量分析を妨げることなく糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する工程を達成することができる。
本明細書では本発明の特定の態様、実施形態、図面及び要素について述べるが、それらは例示であり、限定を意味しない。例えば、当業者は本明細書の特定要素に等価な物を確立できるであろうし、当該等価物は、本発明の精神及び範囲内であるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本発明の特定の実施形態又は種々の態様をさらに示すために含まれる。場合によっては、本明細書で提示する詳細な説明と共に添付図面を参照することによって、本発明の実施形態を最もよく理解することができる。詳細な説明及び添付図面は、本発明の特定の具体例、又は特定の態様を強調するかもしれないが、当業者には、その例又は態様の部分を本発明の他の例又は態様と併用できることが分かるであろう。
【図1】一実施形態による界面活性剤3211の0.025%溶液の40℃における分解プロファイルを示す。
【図2】一実施形態による化合物3116のトリプシン活性に及ぼす効果を示し、化合物3116はトリプシン活性を安定化するが、SDSは30分以内でトリプシン活性を阻害することを示しており;N-α-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステル塩酸塩(BAEE)切断の割合としてトリプシン活性を測定した。
【図3】化合物3116を用いた一実施形態によるタンパク質消化の刺激作用を示し;図3(a)は、3116の非存在下でのウマミオグロビンとトリプシンの一晩のインキュベーション後のHPLCクロマトグラムを示し;図3(b)は、3116の存在下でのウマミオグロビンとトリプシンの1時間のインキュベーション後のHPLCクロマトグラムを示す。
【図4】それぞれ尿素(図4(a))、及び界面活性剤化合物3211(図4(b))を用いた場合のマウス膜タンパク質の消化の全イオンクロマトグラムを示す。
【図5】尿素と界面活性剤化合物3211を別々に用いた場合のマウス膜タンパク質消化のMascot検索結果を示し;尿素消化及び化合物3211消化に特異と同定されたタンパク質の数、並びに重複している同定タンパク質を示してある。
【図6】本発明の一実施形態の界面活性剤(化合物3211)の助けを借りた1時間のゲル内消化プロトコルを示す。
【図7a】本発明の界面活性剤の助けを借りない場合のウシ血清アルブミン(BSA)の一晩消化後の消化混合物中に抽出されたペプチドのスペクトルを示す。
【図7b】本発明の実施形態に従い、本明細書に記載の界面活性剤の助けを借りた場合の1時間消化後の消化混合物中に抽出されたペプチドのスペクトルを示す。
【図8a】界面活性剤3211の助けを借りない場合のマウス膜タンパク質抽出物からの約56kDバンドのゲル内消化の質量スペクトルを示し;タンパク質を一晩インキュベートしてからペプチド抽出プロトコルに従ってペプチドを抽出した。
【図8b】界面活性剤3211の助けを借りた場合のマウス膜タンパク質抽出物からの約56kDバンドのゲル内消化の質量スペクトルを示し;タンパク質消化とペプチド抽出を単一の1時間の工程で完了させ、ペプチドをC18浄化チップで濃縮し、MALDI-TOF質量分析を利用して分析した。
【図9】LC-MS/MSを用いた図8のタンパク質バンドの分析を示し、グラフは、化合物3211の助けを借りずに一晩の消化及び3211の助けを借りて1時間の消化によって同定されたタンパク質の数を示し、どちらかのプロトコルを用いて達成されたそれぞれの同定タンパク質のタンパク質カバー率をも示す。
【図10】マウス心臓膜プロテオームの2D LC-MS/MS分析の結果を示し、3つの異なる条件:尿素、界面活性剤又は尿素/界面活性剤混合物下で膜タンパク質を可溶化し;各条件をトリプシンで消化し、Agilent 1100シリーズLC/MSD Trap SL分光計を用いてオフラインの2D LC-MS/MSで分析した。
【図11a】市販の界面活性剤RapiGestTM(Waters, Inc)と比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3116の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3116で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図11b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3116の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3116で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図12a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3202の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3202で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図12b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3202の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3202で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13b−1】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;RapiGestTM界面活性剤では95℃にてバクテリオロドプシンを可溶化したが、化合物3211による可溶化は室温(約23℃)で遂行し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13b−2】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;図13b-2とは対照的にRapiGestTM界面活性剤と化合物3211の両方とも室温で可溶化を行い;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図14a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3212の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3212で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図14b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3212の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3212で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図15a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3224の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3224で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図15b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3224の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3224で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図16a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3228の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3228で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図16b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3228の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3228で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図17a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3266の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3266で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図17b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3266の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3266で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図18a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3271の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3271で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図18b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3271の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3271で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔詳細な説明〕
多くの分析システムが界面活性剤の存在に敏感である。例えば、SDS及びトリトン界面活性剤は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)中の分析シグナルを抑制する。界面活性剤混入によるシグナル抑制は、MALDI-MSのイオン化/脱離プロセスの物理的及び化学的妨害物に起因すると想定される。天然及び合成ポリマー並びにポリペプチド/タンパク質などの疎水性分子のMALDI-MS分析、及び他の分析に適した界面活性剤組成物及び方法は、生体物質を扱う仕事をする研究者にとって非常に興味深い。
この発明は、植物若しくは動物、又は他の生物由来の組織切片、タンパク質、又はタンパク質抽出物を、分析、例えば質量分析又はクロマトグラフィー用のこれらの試料の調製で多機能な役割を果たしうる化合物又は化合物の混合物を用いて、処理条件で決められた消化時間で処理することに関する。これらの化合物は、疎水性又は他の不溶性化合物の可溶化を助ける界面活性剤として機能することができ、或いはタンパク質をアンフォールドする(変性させる)のを助け、それによってプロテアーゼによるタンパク質消化を加速及び改善することができる。
本明細書で開示する界面活性剤化合物は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化のエンハンサーとして機能することもできる。最後に、本界面活性剤化合物は、ゲル(ゲル内消化において)からのペプチド抽出を改善することによって、また実験機器による吸収のため、又は沈殿のためのペプチドの損失を防止することによって、生成ペプチドの回収を援助することができる。そして、ビルトイン切断可能結合のため、例えば、酸、塩基、熱などによる試料の適切な処理は、本薬剤を2つ以上のより小さい部分に分解させることができ、それらはそれぞれ物的に分析を妨害しない。
結果として生じる分解産物は、元の界面活性剤化合物より容易に試料から除去されることが多い。さらに、本界面活性剤の存在下では、これらの分解産物の存在下でさえ、同濃度のSDSの存在下より有意に分子の質量分析感度が高い。このように、本発明には、界面活性剤の最初の存在と同時除去から恩恵を受ける種々の技術における適用性がある。
【0016】
本発明は、タンパク質及びペプチドの分析と関連する技術上の課題解決に役立つ。多くの分析システムは、試料が水性であるか又は試料中の分析される分子が水性環境内で可溶化される場合に最もよく機能する。例えば、効率的なタンパク質消化のためにはタンパク質を可溶状態にする必要がある。また、質量分析又は液体クロマトグラフィーによる効率的な分析には、可溶状態でペプチドを維持する必要がある。
現在既知の技術を利用した疎水性分子又は有意な疎水性領域がある分子(例えば、タンパク質又はペプチド)の質量分析は困難であるか又は問題がありうる。これらの分子は、水溶液に懸濁させるのが困難であり、或いは本質的に不可能な場合もある。それらは、溶液から疎水性ドメインとして凝集又は沈殿する傾向があり、このドメインは典型的なMS試料調製の水性環境との接触を最小限にするように相互作用する。本明細書に記載の界面活性剤は、これらの作用を防止することができる。
商業的に重要な分子として親水性又は疎水性ポリマーが挙げられるが、疎水性ポリペプチド、例えば膜関連タンパク質の特定構成要素及び細胞成分のような疎水性ポリマーが特に有益である。このような分子を操作するための典型的アプローチは、界面活性剤を適用して、問題の疎水性分子をその天然の環境からより水性の環境に導くことである。界面活性剤は一般的に親水性(又は極性)頭部と疎水性尾部を含む。界面活性剤は、分子上の疎水性領域と相互作用する尾部及び環境内の水と相互作用する極性頭部を疎水性分子の周りに配置することができる。
例えば、受容体タンパク質は細胞の原形質膜と関係するか又はその中に挿入されることが多く、通常本質的に疎水性である(少なくともその脂質関連部分)。界面活性剤は、受容体タンパク質を原形質膜から単離するのに役立ちうる。しかし、特定の界面活性剤は、MALDI-MS分析を妨害することも分かっている。例えばドデシル硫酸ナトリウム、トリトン界面活性剤、及びTween等の普通の界面活性剤の添加は本質的にMALDI-MSのみならずエレクトロスプレーイオン化MSで生成される分子シグナルを排除する。従って、本発明は、本技術分野のこれらの問題及び他の問題を解決する組成物と方法を提供する。
従って、本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質試料調製プロトコルに有意な改善を提供する。本界面活性剤は、可溶化、消化、脱グリコシル化、及びペプチド回収を改善する。本界面活性剤は、液体クロマトグラフィー及び質量分析のような下流の試料調製工程を妨害することなく、タンパク質試料調製プロトコルにこれらの効果をもたらす。さらに、本明細書に記載の界面活性剤は、試料調製プロトコルの完了後に界面活性剤の特別な操作(すなわち、酸分解又は熱分解)を必要としない新規な自己分解様式の作用を提供することができる。
【0017】
A. 酵素適合性分解可能界面活性剤
本発明は、タンパク質消化を劇的に加速する、酸に不安定及び熱に不安定な界面活性剤を提供する。本界面活性剤は、トリプシン活性を阻害することなく、消化を目的としたタンパク質を可溶化及び変性する。本界面活性剤は、膜タンパク質バクテリオロドプシンなどのタンパク質の迅速な消化を可能にする。界面活性剤の酸に不安定及び熱に不安定な部位が溶液からの容易な除去を可能にする。本界面活性剤は消化反応時間内に分解し、ひては別の分解工程を不要にするように界面活性剤を設計し、かつプロトコル条件を最適化することができる。
消化プロトコルを変更する場合(例えば、使用者が推奨時間より短時間でタンパク質を消化する場合)及びいくらかの量の界面活性剤がまだ存在する場合、少量の酸又は熱で容易に該界面活性剤を分解させて、遠心分離、又は固相抽出(例えばVarian, Inc.のOmix(登録商標)チップを用いて)で除去することができる。この酸又は熱分解法は、下流の液体クロマトグラフィー及び質量分析に無害な界面活性剤を与えることができる。実験は、分解した界面活性剤から何ら検出可能な妨害もなく、その次に質量分析で直接分析できることを示した。
本界面活性剤は、タンパク質をアンフォールドしてトリプシンが内部タンパク質部位に近づけるようにすることによって、消化を加速する。さらに、実験データは、本界面活性剤が劇的にトリプシンを安定化することをも示唆している。種々の実験で、トリプシンは本界面活性剤の存在下ではインキュベーションの時間に高レベルの活性を保持するが、本界面活性剤の非存在下ではトリプシンが活性を徐々に失うことが分かった。
界面活性剤の刺激効果は、トリプシンのみに限定されない。本界面活性剤は、キモトリプシンによるタンパク質消化をも加速した。キモトリプシンは、膜タンパク質を消化するためにますます使用されているので、商業的に重要なプロテアーゼである。本界面活性剤は、多くの商業的な重要なプロテアーゼと適合するようであり、一般的プロテアーゼエンハンサーとして広く使用できる。
【0018】
タンパク質消化を改善すること及びトリプシンを安定化することに加えて、本界面活性剤は良い可溶化特性を有する。本界面活性剤の存在下では、水溶液に不溶性の膜タンパク質バクテリオロドプシンが効率的に可溶化された。従って、本界面活性剤は、タンパク質消化のためのみらず、おそらく細胞組織から膜タンパク質及び他の疎水性タンパク質を抽出するためにも有用であろう。
本発明は、消化(溶液内又はゲル内)完了後のペプチドの回収方法をも提供する。この界面活性剤支援法は、ゲル(ゲル内消化で)からのペプチド抽出の改善及びガラス製品若しくはプラスチック製品による吸収のため、又は沈殿(溶液内又はゲル内消化の両方で)のためのペプチド損失を防止することに起因するペプチド収率の増加を可能にする。本方法はまた、消化と抽出を組み合わせて単一工程にすることによって、ゲル内消化のペプチド抽出工程を簡素化し、さらに良いことに、酸に不安定なアミノ酸及び酸に不安定な翻訳後修飾を保護する。さらに、本発明は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する方法を提供する。本発明は、下流の試料調製工程及び/又は質量分析を妨害することなくこの増強を果たすことができる。
【0019】
B. タンパク質分析用の熱に不安定な界面活性剤
ペプチド溶液から界面活性剤を除去するためには酸分解が簡単かつ効率的方法であるが、一定条件下では、例えば酸に不安定な翻訳後のタンパク質修飾(PTM)の切断又は酸に不安定なペプチド結合の切断などの望まれない副作用を酸が引き起こしうる。タンパク質分析用の酸に不安定な界面活性剤によって提供される全ての利点を保持するが、界面活性剤構造を分解するために酸を必要としない補助的アプローチを開発し。これらの新しい界面活性剤は優れたタンパク質可溶化特性を有し、タンパク質消化を劇的に改善する。
消化完了後に、単に反応温度を上げるだけで界面活性剤を分解することができる。さらに、熱に不安定な特性は実質的にユニークな「自己分解」様式の作用をもたらす(すなわち、それらは該プロトコル中に溶液内の加水分解によって分解しうる)。タンパク質試料調製のために現在使用されているいずれの試薬によっても示されないこの自己分解様式で、本界面活性剤は、試料調製プロトコルの最後までに自己分解することができる。この様式が、試料調製プロトコル完了後に界面活性剤の分解のため何らさらに操作する必要のない、試料調製のための界面活性剤の便利な使用方法を提供する。
【0020】
例えば、タンパク質消化後の界面活性剤化合物3211の分解は、該界面活性剤が消化プロセス中に分解するので不要である。3211の1%溶液の安定性(10%の分解)は、23℃で8時間、4℃で12日、かつ-20℃の推定値>3年である。しかし、典型的なタンパク質消化プロトコルでは界面活性剤3211の分解率が増す。図1は、界面活性剤3211の0.025%溶液の40℃での分解プロファイルを示す。たった2時間後には未変化の界面活性剤が約5%未満である。
必要な場合、約90℃より高い温度にて数分以内で、或いはより低温(例えば、約65℃)にて約20〜30分以内で界面活性剤を分解させることができる。例えば、十分に頑強な試料を用いて作業する場合、2〜3分間界面活性剤組成物を沸騰すると、熱に不安定な界面活性剤は完全に分解する。他の場合、消化反応時間の最後までに界面活性剤が完全に分解し、例えば、質量分析又はクロマトグラフィーで試料を容易に分析することができる。分解は典型的に中性のpHで起こるので(消化緩衝液内)、本明細書で開示する界面活性剤は、酸に不安定又はアルカリに不安定なPTMをより良く保護することができる。さらに、酸の添加の必要を排除することによって、分解プロトコルがさらにユーザーフレンドリーになる。
問題のペプチドを分解するためには酸が必要ないが、酸を用いて反応pHを下げると、分解プロセスを加速することができ、低温で速く分解させることができる(例えば、約37℃)。このように、本明細書で開示する界面活性剤は、界面活性剤を無害にするための少なくとも2つの異なる手段(温度と酸)を提示する。さらに、界面活性剤が熱分解する能力は、消化後にプロテアーゼを不活化するためのさらなる選択肢を提供し、プロテアーゼの消化形式のさらなる代替形式を提供する。
【0021】
本明細書で使用する場合、下記用語は以下の定義を有する。
語「炭化水素」には、置換若しくは無置換アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール成分が含まれる。
用語「アルキル」には飽和脂肪族基が含まれ、直鎖アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなど)、分岐鎖アルキル基(イソプロピル、tert-ブチル、イソブチルなど)、シクロアルキル (脂環式)基(例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基が挙げられる。用語アルキルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子をさらに含みうるアルキル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルキルは、その骨格内に20個以下の炭素原子を有し(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)、いくつかの実施形態では、6個以下の炭素原子を有する。特定の他の実施形態では、炭素鎖は1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の 炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子をその骨格内に含むことができる。同様に、特定のシクロアルキルは、3〜8個の炭素原子をその環構造内に含み、いくつかの実施形態では、5〜6個の炭素をその環構造内に含む。
さらに、用語アルキルは、「無置換アルキル」と「置換アルキル」の両方を含み、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基を有するアルキル成分を意味する。該置換基として、例えば、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。シクロアルキルは、例えば、上記置換基でさらに置換されていてもよい。「アルキルアリール」又は「アラルキル」成分は、アリールで置換されたアルキル(例えば、フェニルメチル(ベンジル))である。用語「アルキル」は、天然及び非天然アミノ酸の側鎖をも包含する。
用語「アリール」は、0〜4個のヘテロ原子を含んでよい5員及び6員単環芳香族基を包含し、例えばベンゼン、フェニル、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、及びピリミジンなどが挙げられる。さらに、用語「アリール」は、多環式アリール基、例えば、三環式、二環式、例えば、ナフタレン、ベンゾオキサゾール、ベンゾジオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、メチレンジオキシフェニル、キノリン、イソキノリン、ナフチジン、インドール、ベンゾフラン、プリン、ベンゾフラン、デアザプリン、又はインドリジンが挙げられる。環構造内にヘテロ原子がある当該アリールは、「アリール ヘテロ環」、「ヘテロ環」、「ヘテロアリール」又は「ヘテロ芳香族」とも呼ばれる。芳香族環は、1つ以上の環位置にて上述したような置換基、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アルキルアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキル アミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分で置換されていてもよい。アリール基は、多環(例えば、テトラリン)を形成するように、芳香族でない脂環又はヘテロ環と縮合するか又はそれらで架橋されていてもよい。
用語「アルケニル」は、上記アルキルに長さ及び可能な置換で類似しているが、少なくとも1つの二重結合を含む不飽和脂肪族基を包含する。
例えば、用語「アルケニル」として、直鎖アルケニル基(例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等)、分岐鎖アルケニル基、シクロアルケニル(脂環式)基(シクロプロペニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)、アリル又はアルケニル置換シクロアルケニル基、及びシクロアルキル若しくはシクロアルケニル置換アルケニル基が挙げられる。用語アルケニルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子を含むアルケニル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルケニル基は、その骨格内に6個以下の炭素原子を有する(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)。同様に、シクロアルケニル基はその環構造内に3〜8個の炭素原子を有し、さらに好ましくは環構造内に5又は6個の炭素を有しうる。他の実施形態では、炭素鎖はその骨格内に1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子を有しうる。
さらに、用語アルケニルは、「無置換アルケニル」と「置換アルケニル」の両者を包含し、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基があるアルケニル成分を意味する。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキル アミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。
【0022】
用語「アルキニル」は、上記アルキルに長さ及び可能な置換で類似しているが、少なくとも1つの三重結合を含む不飽和脂肪族基を包含する。例えば、用語「アルキニル」として、直鎖アルキニル基(例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル等)、分岐鎖アルキニル基、及びシクロアルキル又はシクロアルケニル置換アルキニル基が挙げられる。用語アルキニルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子を含むアルキニル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルキニル基はその骨格内に20個以下の炭素原子を有する(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)。他の実施形態では、炭素鎖はその骨格内に1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子を有しうる。
さらに、用語アルキニルは、「無置換アルキニル」と「置換アルキニル」の両者を包含し、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基を有するアルキニル成分を意味する。該置換基として、例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。
アルキル基は低級アルキルであってよい。炭素数を特に指定していない場合、本明細書で使用する「低級アルキル」は上記定義どおりであるが、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。「低級アルケニル」及び「低級アルキニ」は、例えば、1〜6、2〜6、3〜6、1〜4、1〜3、2〜4、3〜4、又は3若しくは4個の炭素原子の鎖長を有しうる。
【0023】
用語「アシル」は、アシル基(CH3CO--)又はカルボニル基を含む化合物及び成分を包含する。用語「置換アシル」は、1つ以上の水素原子が例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分と置き換わっているアシル基を包含する。
用語「アシルアミノ」は、アシル成分がアミノに結合している成分を包含する。例えば、この用語には、アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイド基が含まれる。
用語「アロイル」は、カルボニル基に結合しているアリール又はヘテロ芳香族成分を含む化合物及び成分を包含する。アロイル基の例としてフェニルカルボキシ、ナフチルカルボキシ等が挙げられる。
用語「アルコキシアルキル」、「アルキルアミノアルキル」及び「チオアルコキシアルキル」は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに、例えば、酸素、窒素又はイオウ原子をさらに含む、上記定義どおりのアルキル基を含む。
用語「アルコキシ」は、酸素原子に共有結合している置換及び無置換アルキル、アルケニル、及びアルキニル基を包含する。アルコキシ基の例として、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ基が挙げられる。置換アルコキシ基の例として、ハロゲン化アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、例えばアルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイド)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分などの基で置換されていてもよい。ハロゲン置換アルコキシ基の例として、限定するものではないが、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、クロロメトキシ、ジクロロメトキシ、トリクロロメトキシ等が挙げられる。
【0024】
用語「アミン」又は「アミノ」は、窒素原子が少なくとも1個の炭素又はヘテロ原子に共有結合している化合物を包含する。用語「アルキルアミノ」は、窒素が少なくとも1個のさらなるアルキル基に結合している基及び化合物を包含する。用語「ジアルキルアミノ」は、窒素原子が少なくとも2個のさらなるアルキル基に結合している基を包含する。用語「アリールアミノ」及び「ジアリールアミノ」は、窒素が少なくとも1又は2個のアリール基にそれぞれ結合している基を包含する。用語「アルキルアリールアミノ」、「アルキルアミノアリール」又は「アリールアミノアルキル」は、少なくとも1個のアルキル及び少なくとも1個のアリール基に結合しているアミノ基を意味する。用語「アルカミノアルキル」は、窒素(これもアルキル基に結合している)に結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を意味する。
用語「アミド」又は「アミノカルボキシ」は、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合そている窒素原子を含む化合物又は成分を包含する。この用語は、カルボキシ基に結合したアミノ基に結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を含む「アルカミノカルボキシ」基を包含する。それは、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合しているアミノ基に結合したアリール又はヘテロアリール成分を含むアリールアミノカルボキシ基を包含する。用語「アルキルアミノカルボキシ」、「アルケニルアミノカルボキシ」、「アルキニルアミノカルボキシ」、及び「アリールアミノカルボキシ」は、カルボニル基の炭素に結合している窒素原子にアルキル、アルケニル、アルキニル及びアリール成分が、それぞれ結合している成分を包含する。
用語「カルボニル」又は「カルボキシ」は、酸素原子との二重結合と結び付いた炭素を含む化合物及び成分を包含する。カルボニルを含む成分の例として、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、アミド、エステル、酸無水物などが挙げられる。
用語「チオカルボニル」又は「チオカルボキシ」は、イオウ原子との二重結合と結び付いた炭素を含む化合物を包含する。
用語「エステル」は、カルボニル基の炭素に結合している酸素原子に結合した炭素又はヘテロ原子を含む化合物及び成分を包含する。用語「エステル」としては、アルコキシカルボキシ基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル等が挙げられる。アルキル、アルケニル、又はアルキニル基は前記定義どおりである。
用語「エーテル」は、2個の異なる炭素原子又はヘテロ原子に結合した酸素を含む化合物又は成分を包含する。例えば、この用語は、別のアルキル基と共有結合している酸素原子と共有結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を意味する「アルコキシアルキル」を包含する。
用語「チオエーテル」は、2個の異なる炭素又はヘテロ原子に結合したイオウ原子を含む化合物及び成分を包含する。チオエーテルの例として、限定するものではないが、アルクチオアルキル、アルクチオアルケニル、及びアルクチオアルキニルが挙げられる。用語「アルクチオアルキル」は、アルキル基に結合しているイオウ原子に結合したアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を含む化合物を包含する。同様に、用語「アルクチオアルケニル」及び「アルクチオアルキニル」は、アルキニル基と共有結合しているイオウ原子にアルキル、アルケニル、又はアルキニル基が結合している化合物又は成分を意味する。 用語「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は、-OH又は-O-を有する基を包含する。
用語「ハロゲン」は、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素などを包含する。用語「過ハロゲン化」、例えば、過フッ素化とは、一般的に全ての水素がハロゲン原子、例えば、フッ素と置き換わっている成分、例えば、ペルフルオロ炭素を指す。
用語「ポリシクリル」又は「多環式基」は、2個以上の炭素が2個の隣接環に共通している2個以上の環(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール及び/又はヘテロシクリル)を意味し、例えば、この環は「縮合環」である。隣接していない原子を介して連結している環は「架橋」環と称する。多環の各環は、上述したような置換基、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分で置換されていてもよい。
用語「ヘテロ原子」は、炭素又は水素以外のいずれの元素の原子をも包含する。ヘテロ原子の例は、窒素、酸素、イオウ及びリンである。
【0025】
用語「界面活性剤」は、液体の表面張力を低減するか、又は2種の液体間の界面張力を低減する表面作用剤、又は湿潤剤を意味する。界面活性剤は、両親媒性有機化合物、例えば、せっけん様洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウムであってよい。界面活性剤は、有機溶媒と水の両方に溶けうる。本発明の界面活性剤、つまり本明細書に記載の界面活性剤は、式I〜IXのいずれか1つの化合物を意味する。
用語「試料」又は「生体試料」は、本発明の方法で使用しうるいずれの生物学的物質、組織、又は分子をも意味する。例として、限定するものではないが、細胞膜及び巨大分子、例えばタンパク質、及びペプチドが挙げられる。試料は、分析に供しうる生物学的起源に由来する少なくとも1種の生体分子を含む分子又は分子の混合物を含有する溶液又は抽出物であってよい。試料には、粗製又は精製、例えば、単離されたか又は市販の試料が含まれる。さらなる試料として、限定するものではないが、封入体、生体液、生体組織、生体マトリックス、包埋組織試料、及び細胞培養上清が挙げられる。
「試料-界面活性剤複合体」という表現は、本明細書で開示する界面活性剤と試料の成分で形成された複合体を意味する。
用語「電気泳動」は、電場内での分子の移動速度、すなわち、分子の電荷質量比に基づいて分子を分析する種々の方法のいずれをも表す。例として、限定するものではないが、ゲル電気泳動、チューブ、スラブゲル及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動、フリーゾーン電気泳動及びキャピラリー電気泳動が挙げられる。
用語「分析」又は「分析する」とは、例えば、無処置のタンパク質、ペプチド、及びそのフラグメント等の分子を可溶化、分離、検出、単離、精製、及び/又は特徴づけする種々の方法のいずれをも意味する。例として、限定するものではないが、固相抽出;固相マイクロ抽出;電気泳動;質量分析、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)又はエレクトロスプレーイオン化(ESI);液相クロマトグラフィー、例えば、高速液体クロマトグラフィー、例えば、逆相、順相、又はサイズ排除クロマトグラフィー;イオン対液体クロマトグラフィー;液液抽出、例えば、加速流体抽出、超臨界流体抽出、マイクロ波支援抽出、膜抽出、又はソックスレー抽出;沈殿;清澄化;電気化学的検出;染色法;元素分析;エドマン(Edmund)分解;核磁気共鳴;赤外分析;フローインジェクション分析;キャピラリーキャピラリー電気クロマトグラフィー;紫外線検出;及びその組合せが挙げられる。
用語「質量分析検出」は、質量分析の種々の方法のいずれをも意味する。例として、限定するものではないが、エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)が挙げられる。
「変性させる」、「変性する」又は「変性」という用語は相互交換可能に使用され、本明細書に記載の界面活性剤化合物、熱、酸、アルカリ、又は紫外線によって、元の特性、例えば、元の三次元構造、及び特有の生物学的活性の一部を破壊又は減弱させるように、タンパク質又はDNA等の生体分子の三次及び/又は二次分子構造を修飾することを包含する。
用語「消化」及び「化学的消化」という表現は、分子、例えば、生体分子、例えば、タンパク質をより単純な化学物質(フラグメント)に分解するプロセスを指す。消化試薬、例えば酵素、例えば、プロテアーゼによって、又は化学的切断試薬、例えば臭化シアン(CNBr)、又はヒドロキシルアミンによって、化学的消化を行う。プロテアーゼには、特異性プロテアーゼ、例えば、トリプシン及びキモトリプシン、並びに非特異性プロテアーゼ、例えばペプシン及びパパインの両者が含まれる。化学的消化の結果としてアミド結合を切断することができる。ある例では、化学的消化の結果、指定されたか又は特有のアミド結合を切断することができる。
【0026】
(本発明の界面活性剤化合物)
本発明は、下記式Iの化合物:
【0027】
【化2】
(I)
【0028】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-、直接結合であり、又はVがNの場合は存在せず;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒に3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hで置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はそのアニオン若しくは塩を提供する。
【0029】
Qの特定値として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、及びその分岐変形が挙げられる。基Qは置換されていてもよい。例えば、一実施形態では、Qがヒドロキシ置換アルキル、例えば2-プロピルであってよい。ある特有の実施形態では、Qが(C2-C3)アルキルであってよい。他の実施形態では、Qが(C6-C10)アリール、例えば、フェニル又はナフチル;又は(C5-C10)ヘテロアリール、例えば、フリル若しくはピリジルであってよい。さらに他の実施形態では、Qが(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキル、例えば、フェニル-アミノ-エチル又はフェニル-アミノ-プロピルであってよい。特定の実施形態では、(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルの水素が、式IXのように、(C1-C6)アルキル-SO3-M基であってよい。
Yの特定値として、O、S、NH、-O-C(=O)-、-NH-C(=O)-、-S-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、-O-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-S-、-O-C(=S)-O-、-O-C(=S)-NH-、及び-O-C(=S)-S-が挙げられる。
Aの特定値として、アリール、例えばフェニル又はナフチル、ヘテロアリール、例えばフリル又はピリジルが挙げられる。基Aは、YをVに結び付ける直接結合であってもよい。
Vの特定値はCである。Vの別の特定値はNである。基Aは、無置換であてよく、或いは例えば、ハロ又はニトロ基で置換されていてもよい。
Mの特定値はHである。基Mは、アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム、又はカリウムであってもよい。Mの他の値として、テトラアルキルアンモニウム基、例えばテトラエチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウムが挙げられる。基Mは、窒素置換基がアルキル、アリール、又はその組合せである他のアンモニウム基、例えばトリメチルフェニルアンモニウムであってもよい。基Mと関係するスルファート基に適した対イオンとして、当業者に既知の他のカチオンを使うこともできる。当業者は認識するであろうように、本化合物のナトリウム塩は好都合に単離され、これらのナトリウム塩は本発明の多くの実施形態で功を奏する。
Lの特定値として、-X-C(=O)-X-、及び-X-C(=S)-X-(式中、XはO、NH、又はSである)、例えば、カルボナート、チオカルボナート、カルバマート、チオカルバマート、及びその誘導体が挙げられる。
R1の特定値として、4〜20個の炭素原子の長さの無置換又は置換アルキル鎖が挙げられる。一定の特定値として、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル等が挙げられる。R1は、(C2-C20)アルケニル、例えば、1-オクテニル、又は1-ドデシル;(C6-C16)アリール、例えば、フェニル;(C5-C10)ヘテロアリール、例えば、フリル、又はピリジル;(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、例えば、ノノキシルメチル;(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、又は(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキル、例えば、ノニルチオメチルなどの他の基であってもよく;或いは例えば、VがNの場合は存在しなくてもよい。
R2の特定値として、H及び(C1-C20)アルキル、例えば、(C1-C16)アルキル、(C1-C12)アルキル、(C1-C10)アルキル、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルキル、又は(C1-C6)アルキルが挙げられる。1つの特定値はHである。別の特定値はメチルである。
R3の値として、H及び(C1-C20)アルキル、例えば、(C1-C16)アルキル、(C1-C12)アルキル、(C1-C10)アルキル、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルキル、又は(C1-C6)アルキルが挙げられる。1つの特定値はHである。別の特定値はメチルである。
基R2とR3が一緒に結合して3〜8員環を形成してもよい。環は炭素環、又はヘテロ環であってよい。ヘテロ環は、1個以上、例えば、1、2、又は3個のヘテロ原子、例えばN、S、O、又はその組合せを含むことができる。ヘテロ環の窒素は、H、又は置換基、例えば、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、若しくは(C1-C6)アルキル(C6-C16)アリール基で置換されていてもよい。ヘテロ環の例として、限定するものではないが、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、及びピリミジンが挙げられる。
ある実施形態では、Aがアリール基の場合、基-V(R2)(R3)-L-R1が-O-R1であってよい。例えば、ある実施形態では、R1が(C4-C20)アルキル又は(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキルの場合、-V(R2)(R3)-L-R1は-O-R1でありうる。一実施形態では、Qが(C1-C6)アルキルであり、Yが-C=N-であり、Aがフェニルであり、かつ-O-R1がペントキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、又はテトラデシルオキシでありうる。
【0030】
種々の実施形態において、アルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環は、無置換であり、或いは1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の前記定義どおりの置換基で置換されていてもよい。種々の置換基として、(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基が挙げられる。
各可変Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールであってよい。例えば、一実施形態では、RxがHであってよい。別の実施形態では、Rxがメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、又はヘキシル(それぞれ任意に分岐し、任意に不飽和、及び/又は任意に前記基の1つで置換されていてもよい)であってよい。別の実施形態では、Rxが、任意に前記基の1つで置換されていてもよいフェニルでありうる。さらに別の実施形態では、Rxが、任意に前記基の1つで置換されていてもよいベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル等であってよい。
特定の実施形態では、Qは、前記基の1つでは置換されない。例えば、Qは、CO2Hによっては置換されない。
特定の実施形態では、酸の塩を調製することができる。適切な塩として、限定するものではないが、アミン等の塩基性残基の鉱酸又は有機酸塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリ又は有機塩;などが挙げられる。塩には、例えば、無機又は有機酸から形成された親化合物の通常の塩及び四級アンモニウム塩が含まれる。塩には、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などから誘導される当該塩が含まれる。有機酸から調製される塩として、例えば酢酸、2-アセトキシ安息香酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ゲンチシン酸、グルカロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシマレイン酸、イセチオン酸、イソニコチン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸(1,1'-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))、パントテン酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、サリチル酸、スルファニル酸、トルエンスルホン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、重酒石酸などの有機酸から誘導される当該塩が挙げられる。特定の化合物は、種々のアミノ酸と塩を形成することもできる。
【0031】
本発明の化合物は、式II〜IXの特定化合物であってもよい。例えば、特定化合物式Iが式II〜VIIIの特定化合物でもありうる。本発明の特定の具体的化合物、すなわち式I〜IXの化合物については、以下の実施例セクションに示す化合物を参照されたい。
一実施形態では、式Iは下記式IIの化合物:
【0032】
【化3】
(II)
【0033】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。一実施形態では、R1がヘプチル又はウンデシルであり、R2とR3が両方ともメチルであり、ZがO、XがNHであり、Qが(C1-C6)アルキル、例えば、プロピルであり、かつMがHである。一部の実施形態では、R1がいずれかのアリール又はヘテロアリール基で置換されている。アリール又はヘテロアリール基が置換されていてもよい。特定の実施形態では、アリール又はヘテロアリール置換基が、R2及びR3が結合している炭素からα位(1個の炭素離れて)にある。ある具体的な実施形態では、R2とR3が両方ともHであり、かつR1が、フェニルで置換されているメチルであり、該フェニルは、ヘキシルオキシで置換されている。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式IIIの化合物:
【0034】
【化4】
(III)
【0035】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式IVの化合物:
【0036】
【化5】
(IV)
【0037】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつR4及びR5がそれぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルである)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式Vの化合物:
【0038】
【化6】
(V)
【0039】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIの化合物:
【0040】
【化7】
(VI)
【0041】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIIの化合物:
【0042】
【化8】
(VII)
【0043】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつR2及びR3に結合している炭素が、式VIIに示すベンゼン環のオキシ置換基に対してオルト、メタ、又はパラ配向であってよい)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIIIの化合物:
【0044】
【化9】
(VIII)
【0045】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつ式VIII中のベンゼン環のR1-O-置換基が、該ベンゼン環のイミン置換基に対してオルト、メタ、又はパラ配向であってよい)である。
別の実施形態では、界面活性剤化合物が下記式IXの化合物:
【0046】
【化10】
(IX)
【0047】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、又は(C5-C10)ヘテロアリールであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、-O-C(=Z)-X-、又は-O-(CH2)1-6-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
各Mは、独立にH、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず、又はR2とR3が一緒に環を形成している場合は任意にHであってよく;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒に3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリール、又は-C(アリール)2(アリール)-OR1の場合は任意に-O-R1であってよく;
R4は、-(C1-C12)アルキル-SO3-Mであり;
R5は、H又は-(C1-C12)アルキル-SO3-Mであり;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hによっては置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はその塩である。
【0048】
ある具体的実施形態では、式Iの酸に不安定な界面活性剤として、下記化合物3116が含まれる。
【0049】
【化11】
(3116)
【0050】
化合物3116を酸に不安定な界面活性剤として用いて、タンパク質又はペプチドの可溶化及び変性を促進することができる。化合物3116はプロテアーゼを安定化し、トリプシンのタンパク質分解活性を増強する。化合物3116がトリプシン活性に及ぼす効果を示す図2を参照されたい。標準的な消化条件下で、合物3116はトリプシン活性を安定化したが、SDSは30分以内でトリプシン活性を阻害した。さらに、変性後、化合物3116はクロマトグラフ分離及び質量分析を妨害しない。
例えば、標準的プロトコルを使用するミオグロビンの消化は一晩の消化を必要とする。ある実験では、化合物3116の存在下で1時間以内にミオグロビンが大部分消化された。ウマミオグロビンを単独及び別々に0.01%の化合物3116の存在下でトリプシンで50:1比にて37℃で1時間消化した。図3は、ミオグロビン消化のHPLCクロマトグラム:図3aは3116なしの標準プロトコル、図3bは3116の存在下の消化を示す。図3中のピークは、ペプチド又は一部の消化フラグメントを示す。クロマトグラムから観察できるように、標準プロトコルの結果は消化不十分となったが、化合物3116の存在下の消化は多数の(>15)同定可能ピークを生じさせた。
別の実施形態では、式Iの酸に不安定及び熱に不安定な界面活性剤として化合物3211及び3212が含まれる。
【0051】
【化12】
(3211);
【0052】
【化13】
(3212)
【0053】
化合物3211及び3212を熱に不安定及び/又は酸に不安定な界面活性剤として用いてペプチドの可溶化及び変性を促進することができる。本明細書に記載のいずれの化合物でも、所望の特性及び使用する条件に応じて、該化合物のスルホン酸形を利用するか、或いはスルホン酸塩を利用することができる。例えば、特定の緩衝溶液内では、本明細書で開示する化合物は、例えばナトリウム塩などのアルカリ金属塩に変換するか、又はアルカリ金属塩と平衡状態になるだろう。
別の特定実施形態では、式Iの酸に不安定な界面活性剤として化合物3266が含まれる。
【0054】
【化14】
(3266)
【0055】
化合物3266は、グリコシダーゼと共に生体物質を脱グリコシル化するための助剤として使用できる、酸に不安定な界面活性剤である。
本明細書に記載の界面活性剤は、質量分析用のタンパク質試料調製において実質的な改善を提供する。従って、これらの界面活性剤は、ペプチド試料の分析及び同定のための消化酵素の使用に関与する当該界面活性剤に有意な利点を与える。この利点には、分解した界面活性剤の成分が分析手順で妨げにならないように界面活性剤を分解する能力が含まれる。
【0056】
(界面活性剤の使用方法)
細胞のタンパク質抽出物は、典型的に直接質量分析のためには複雑すぎる。タンパク質の複雑さを低減するための2つの主要アプローチとしてゲル内分画及び液体クロマトグラフィーによる分画が挙げられる。本明細書で開示する界面活性剤化合物は、試料消化の前と後の両方でタンパク質の複雑さを低減する両方法に役立ちうる。本界面活性剤化合物は、タンパク質の可溶化及び消化を助け、かつ分画及びクロマトグラフィー、並びに他の分析手法を妨害する他の薬剤の代用品として使用することができる。
本発明は、タンパク質の試料調製及び分析の方法を提供する。本方法は、試料分画後に、例えば1D又は2D SDS-PAGEを使用するゲル電気泳動を含めることができる。分離されたタンパク質を次に切除してから個々に、本明細書に記載の界面活性剤化合物と共に、例えば、化学的消化剤又はプロテアーゼ、例えばトリプシンで消化して、ペプチド試料の混合物を与えることができる。次にこれらの試料を種々の技術、例えば、HPLC又は質量分析、例えばMALDI-TOF質量分析で分析及び特徴づけすることができる。本明細書に記載の界面活性剤は、現存するゲル内消化プロトコルに重要な利点をもたらす。本界面活性剤は、タンパク質消化助剤として、同時にペプチド抽出剤として作用するので、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一かつ短い工程にすることができる。
【0057】
本発明の方法は、本発明の界面活性剤に助けられたタンパク質消化後にクロマトグラフ分離を含めることもできる。次に分離されたピークを質量分析、例えばESIで分析することができる。高処理能力形式でLC/MS法を実施することができる。ペプチドの質量対電荷(m/z)比を記録してMS/MS分析に合わせて選択することができる。次にペプチドを元のペプチド配列の代表的なフラグメントに解離することができる。
ある態様では、本発明は、試料を前記式I〜IXのいずれか1つの界面活性剤化合物と接触させ、該試料を分析することによって、試料を分析する方法を提供する。特定実施形態では、試料を本発明の界面活性剤と接触させる前か後に加熱してよい。
種々の実施形態において、試料を分析する工程は電気泳動を含む。特定の実施形態では、電気泳動はゲル電気泳動、フリーゾーン電気泳動、又はキャピラリー電気泳動である。電気泳動は、チューブ、スラブゲル、及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動であってよい。
他の実施形態では、試料を分析する工程は、質量分析、高速液体クロマトグラフィー、イオン対液体クロマトグラフィー、液液抽出、紫外線検出、又はその組合せを含む。
種々の実施形態では、ポリアクリルアミドゲル電気泳動のため加水分解性界面活性剤を用いてタンパク質混合物と複合体を形成することができる。電気泳動分離後、必要に応じてゲルを酸溶液で処理するか、又はゲルを加熱することによって、タンパク質から界面活性剤を取り除くことができる。タンパク質混合物を従来の分離方法、例えば液液抽出、固相抽出又は液体クロマトグラフィーでさらに精製してもよい。
【0058】
本発明は、試料の分析を行うためのキットをも提供する。本キットは、本明細書に記載の界面活性剤化合物、使用説明書、及び必要に応じて界面活性剤を分解するための溶液、ゲル、分子量標準物質、及び/又は染色試薬を含む。
本発明は、簡素化され、なおさらに効率的なゲル捕捉ペプチドの抽出方法を提供する。本発明の界面活性剤は、ゲル内消化プロトコルにおけるペプチドの全体的収率を大いに改善する。本界面活性剤は、標準的なペプチド抽出プロトコルを超える重要な利点をも提供し、本界面活性剤は、標準的なペプチド抽出(すなわち、TFA及び/又はアセトニトリルによる)後のゲルに普通は残存する長くかつ/又は非常に疎水性のペプチドの抽出を可能にする。本方法は、他のメカニズム、例えば実験機器(すなわち、プラスチックのチップ及び反応管、ガラス製ピペット等)によるペプチドの吸収のため又はペプチドの沈殿によるペプチド損失を防止することによって、ペプチドの収率を高めることもできる。ゲル内及び溶液内の両消化プロトコルが、本明細書に記載の方法のこれらの有利な特性を享受することができる。
特定実施形態では、本発明の界面活性剤を使用する化学反応は化学的消化である。一実施形態では、化学的消化は、分子、例えば生体分子をプロテアーゼと接触させることによって起こる。典型的プロテアーゼとして、限定するものではないが、特異的プロテアーゼ、例えばトリプシン、キモトリプシン、Lys-C、Glu-C(V8プロテアーゼ)、AspN、Arg-C、黄色ブドウ球菌(S. Aureus)、及びクロストリパイン(Clostripain)、並びに非特異的プロテアーゼ、例えば、ペプシン、及びパパインが挙げられる。特定の実施形態では、プロテアーゼを例えば、固定化酵素反応器で固定化する。或いは、CNBrとの反応又はヒドロキシルアミンとの反応によって消化を達成してよい。さらに、特定の実施形態では、消化は、本発明の界面活性剤と異なる1種以上の界面活性剤、例えば、SDSの存在下又は非存在下で電気泳動ゲル内で起こりうる。
【0059】
本発明の界面活性剤による不溶性試料の可溶化は、典型的に不溶性なため既知の方法論では消化し難い試料の消化を可能にする。さらに、本界面活性剤は、少量のトリプシンの使用でタンパク質を消化できるようにする。例えば、トリプシン対全タンパク質の比は、典型的に1:50〜1:20である。しかし、一部の実施形態では、本明細書に記載の界面活性剤の存在下では、トリプシン対全タンパク質の比が1:100以下であってよい。さらに、本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、トリプシンの消化速度が増加し、例えば有機溶媒の添加又は過剰な熱の使用などの既知の方法論で観察されるより不完全な切断が少なくなる。
さらに、尿素を可溶化剤として利用した消化を長時間進行させると、尿素がタンパク質に作用してタンパク質を変更するので、ペプチドフラグメントの分析をより困難にする。この点に関して、本発明の界面活性剤は、消化させる時間の長さにかかわらず、タンパク質を変更しない。
本発明は、可溶化剤として尿素を含める標準的な溶液内消化プロトコルに対して有利な改善を提供する。使用者には、尿素と本明細書に記載の界面活性剤を混ぜて、該混合物内でタンパク質を消化するという選択肢がある。本界面活性剤は、尿素の存在下でその有用な特性(可溶化、変性活性、及びペプチド保護)を保持する。尿素/界面活性剤混合物内でタンパク質を消化すると、尿素又は界面活性剤だけの存在下より、同定タンパク質数を増やし、タンパク質毎の生成ペプチド数を増やし、かつペプチドの回収を増やすことができる。本明細書に記載の方法の1つの特に魅力的な特徴は、消化プロトコルを変える必要がないことである。本界面活性剤は標準的な溶液内消化プロトコルと完全に適合しうる。
【0060】
特定の実施形態では、本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、化学反応を促進するか又は別の薬剤の化学的性質を高めることができる。該化学反応及び化学的性質として、より完全な反応又は消化、高い消化効率、高い消化収率、速い消化速度、及び有用性の向上、例えば分光計又はクロマトグラフ分析法における妨害の減少が挙げられる。
化学反応後、酸性溶液による分解などの種々の方法で界面活性剤から試料を分離することができる。例えば液液抽出、固相抽出又は液体クロマトグラフィー等の従来の分離方法で試料をさらに精製することができる。化学反応後に容易に界面活性剤から試料を分離するこの能力を種々の用途で使用することができ、分離科学に有意な利益をもたらす。
さらなる実施形態は、生体分子の化学的消化を増強するための方法であって、該分子を消化酵素、例えばプロテアーゼ、及び本発明の界面活性剤と接触させることによって、分子の化学的消化を増強する工程を含む方法を提供する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の界面活性剤と、使用説明書とを含む、生体分子の化学的消化を増強するためのキットを提供する。特定の実施形態では、生体分子がタンパク質である。一部の実施形態では、生体分子の化学的消化を増強するためのキットがさらに消化酵素、例えば、プロテアーゼ及び/又はグリコシダーゼを含む。適切なプロテアーゼとして、限定するものではないが、トリプシン、キモトリプシン、Lys-C、Glu-C(V8プロテアーゼ)、AspN、Arg-C、黄色ブドウ球菌(S. Aureus)、及びクロストリパイン(Clostripain)、ペプシン、及びパパインが挙げられる。適切なグリコシダーゼはPNGase Fでありうる。
【0061】
種々の実施形態では、界面活性剤分解の生成物が質量分析検出、高速液体クロマトグラフ分析、及びプロテアーゼ活性と適合性である。特定の実施形態では、化学的消化又は化学的変化と化学的消化の組合せによってタンパク質フラグメントが生成される。特定の具体的実施形態では、タンパク質フラグメント又はペプチドは、プロテアーゼ及び本明細書に記載の界面活性剤との接触によって消化されたタンパク質の生成物である。
さらなる実施形態では、本発明の化合物を一次元及び二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動で使用しうる。二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)は、タンパク質の混合物の分析のために常用されている方法である。(U. K Laemmli, Nature 227, 680-685, 1970)。まず等電点電気泳動などの電気泳動の後、タンパク質の大きさに基づいて二次元分離でタンパク質を分離する。
2D-PAGEで最も多く使われる洗浄剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、タンパク質と安定した非共有複合体を形成する。SDS複合タンパク質は同一の電荷密度を有するので、それらは電場内でそれらの大きさに応じて分離する。この手法は、複雑なタンパク質混合物を、ゲルから切除して他の手法でさらに同定しうる数百の個々の成分に分離することができる。1つのこのような手法が質量分析である。
電気泳動から除去したタンパク質の直接分析は困難なことが多い。通常、試料は、質量分析を邪魔する洗浄剤濃度を含む。例えばMALDI分析では、この問題は、洗浄剤がタンパク質又はペプチドと凝集又は会合する傾向をもたらし、マトリックス結晶への適切な組込みを妨げることとなる。MALDI-MSによる分析の前に特別な工程を取り入れて妨害を除去しなければならない。該手段の例として、限定するものではないが、PAGEゲルのエレクトロブロッティング及び例えば、n-オクチル-グルコシドのようなMALDIに耐性な洗浄剤と洗浄剤SDSを交換することが挙げられる。代替アプローチは、SDS-PAGEで常用されている洗浄剤に代えて、本明細書で開示する、酸に不安定な界面活性剤、例えば、下記実施例で開示する界面活性剤を使用することである。
【0062】
さらに、タンパク質の大きさと量を見積もる能力がSDS-PAGEの種々の応用をもたらした。しかし、この技術にはいくつかの欠点がある。例えば、SDSは質量分析検出の感度を妨げるので、SDS-PAGE分離から得た試料を質量分析を利用してモニター及び分析することは非常に困難である。さらに、SDSはエマルションを形成する界面活性剤なので、SDS/タンパク質複合体からSDSを分離することは非常に困難である。本発明の化合物は、質量分析の前にSDSを使用することに付随する問題を解決するための溶液を提供する。
界面活性剤が最初に存在して究極的には除去されることから恩恵を受ける応用において本発明の界面活性剤を使用することができる。特に、本明細書に記載の界面活性剤は、ペプチド及びタンパク質の可溶化、分解、消化、分離、精製、分析、及び/又は特徴づけに有用である。
本発明の界面活性剤は、ゲル内タンパク質消化のために特に有益である。本界面活性剤の使用に基づいたゲル内消化方法は、SDSを基礎としたゲル電気泳動と完全に適合性である。SDS-PAGE内でタンパク質を分解した後、問題のタンパク質を含むゲル切片をゲルからカットし、標準的な洗浄手法でSDSを除去する。本界面活性剤、又は本界面活性剤とトリプシン、若しくは他のプロテアーゼを含有する溶液にゲル切片を浸す。すると、本界面活性剤は3つの方途で作用しうる。第1に、本界面活性剤は、固定化工程中にゲル内に沈殿したタンパク質を可溶化することができる。第2に、本界面活性剤は、タンパク質をアンフォールドして、プロテアーゼがタンパク質の切断部位に容易に近づけるようにすることができる。第3に、本界面活性剤は、生成されたペプチドをゲルから効率的に抽出することができる。
一つの特別な利点は、本界面活性剤が、標準的なペプチド抽出プロトコル(すなわち、TFA及びアセトニトリル)で処理したゲル内に典型的に残存する長くかつ/又は非常に疎水性のペプチドを抽出できることである。さらに、本界面活性剤の使用は、実験機器(すなわち、ピペットチップ及び反応管)によるペプチド吸収を防止するか、又は不十分な溶解度のためのペプチド沈殿を防止することによって、抽出後の完全なペプチド回収を保証する。
本発明の界面活性剤は、現存するゲル内消化プロトコルに重要な利点を提供する。タンパク質消化助剤として、同時に、ペプチド抽出剤として作用するので、本界面活性剤により、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の効率的な工程にすることができる。この工程は1時間で完了しうる。
これらの利点が本界面活性剤をゲル内試料調製を助けるための理想的な万能剤にする。本界面活性剤を使用すると、試料調製に必要な時間と労力を減らすのみならず、配列カバー率及び確率スコアを高めることとなる。いくつかの実施形態では、消化反応中又は下流の試料調製工程中(すなわち、C18浄化チップ上の浄化前のTFAによってpHを下げている間)に本界面活性剤は自己分解するので、界面活性剤のための別の分解工程が必要ない。分解した界面活性剤は、液体クロマトグラフィー及び質量分析を妨害せず、さらに界面活性剤の、包括的タンパク質分析法との適合性を確立する。
【0063】
本界面活性剤は、溶液内消化プロトコルとも適合する。第1に、本界面活性剤はタンパク質を効率的に可溶化する。可溶化は効率的なタンパク質消化に必要である。第2に、本界面活性剤はタンパク質をアンフォールドして、プロテアーゼがタンパク質の切断部位に容易に近づけるようにする。第3に、本界面活性剤はプロテアーゼを安定化し、標準法よりタンパク質の消化効率をさらに高めることとなる。さらに、かつおそらく最も有意義なことに、本界面活性剤は、消化工程で生成されたペプチドの堅調な回収を保証する。本界面活性剤は、実験機器によるペプチド吸収を防止することによってこの結果を果たす。ペプチド損失は、溶液内消化プロトコルで見られる一般的に観察される影響であり、潜在的に同定タンパク質の数、個々のタンパク質配列カバー率、及び質量分析からのデータの減少につながる。
本明細書に記載の界面活性剤のさらなる利点は、界面活性剤の濃度を調整することでペプチドの沈殿を回避し、これによって回収工程中のペプチドの損失を低減又は排除できることである。RapiGestTMのような現在使用されている酸に不安定な界面活性剤には、濁った溶液又は懸濁液の形成(沈殿を通じてペプチド損失をもたらす)などのいくつかの欠点がある。また、現在使用されている酸に不安定な界面活性剤には、完全タンパク質、特に膜タンパク質の可溶化のために煮沸が必要なものもある。本明細書に記載の界面活性剤は、問題のある膜タンパク質でさえ可溶化することができる。さらに、現在使用されている界面活性剤は、温和な条件(すなわち、室温)下では酵素活性をあまり強化できない。他の現在使用されている酸に不安定な界面活性剤は、タンパク質消化の低効率の強化を示す。例えば、界面活性剤3211が1時間でミオグロビンの完全な消化をすることができる条件下では、PPS SilentTM界面活性剤(Protein Discovery, Knoxville, TNから入手可能)は5%しか消化できなかった。最後に、現在使用されている市販の試薬は、プロテアーゼ消化後に追加の分解工程を必要とするが、本明細書に記載の界面活性剤は、消化条件下で消化の最後までに分解できるので、試料調製を大いに簡素化する。
【0064】
(一般的調製方法)
ウレタン(又はカルバマート)の調製のためいくつかの方法が存在する。本明細書に記載の化合物を調製するために使用する方法は、アルコールの反応性p-ニトロフェニルカルボナートへの変換後、アミンを添加してウレタンを与える工程を含む。当業者には、化合物を調製しうる他の方法があることが容易に分かるだろう。例えば、アルコールを1,1'-カルボニルジイミダゾールで処理してイミダゾリドを与えた後、アミンを添加することができるだろう。アミンは、例えば、有機基を介してアミンに連結したスルホン酸ナトリウム塩であってよい。アルコールをホスゲン又はホスゲン等価物(例えば、ジホスゲン又はトリホスゲン)で処理してクロロホルマートを与えた後、アミンを添加してもよい。或いは、アルコールを塩化カルバモイルと化合させてウレタンを与えることができる。本発明の範囲を越えずに、多くの変更及び修正を為しうることを理解すべきである。
【0065】
本発明の化合物の一つの調製方法を下記スキーム1の手順によって示すことができる。
スキーム1
【0066】
【化15】
【0067】
ここで、化合物AのGpは、エステルのオキシ置換基、例えばアルキル、アリール、ヘテロアリール等であってよいいずれの基でもよく;Rは、適切なグリニャール試薬を形成するいずれかの有機基、例えば式Iの定義どおりのR2基であり;かつR1及びQは式Iの定義どおりである。所望の生成物、中間体の反応性、及び保護基の必要性又は利便性に応じて、スキーム1の多くの面を変更して式I〜IXの化合物を調製することができる。上述したように、カルバマートの調製への多くの他のアプローチを取り入れることができる。
本発明の合成方法は、一定の場合に異性体を生成することがある。本発明の界面活性の使用方法は、これらの異性体の分離が常に必要なわけではなが、所望により、技術上周知の方法で該分離を達成することができる。例えば、分取用高速液体クロマトグラフ法を、例えば、キラル充填したカラムを用いて、異性体精製に使用することができる。
さらなる背景情報は、以下の刊行物で見つかる:Kyte et al., J. Mol. Biol. (1982) 157(1):105-32; March's Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms, and Structure, 5.sup.th Ed. by Michael B. Smith and Jerry March, John Wiley & Sons, Publishers; Wuts et al. (1999) Protective Groups in Organic Synthesis, 3.sup.rd Ed., John Wiley & Sons, Publishers; Behforouz, M.; Kerwood, J. E. アルキル and アリール Sulfenimides. J. Org. Chem., 34 (1), 51-55 (1969); and Harpp, D. N.; Ash, D. K.; Back, T. G.; Gleason, J. G.; Orwig, B. A.; VanHorn, W. F. A New Synthesis of Unsymmetrical Disulifdes. テトラhedron Letters, 41, 3551-3554 (1970)。
以下の実施例は、上記発明を実証することを意図しており、本発明の範囲を制限するものと解釈すべきでない。当業者には、実施例が本発明を実施できるであろう多くの他の使途を示唆していることが容易に分かるだろう。本発明の範囲を越えずに多くの変更及び修正を為しうるものと解釈すべきである。
【実施例】
【0068】
実施例1. 化合物3116の調製
【0069】
【化16】
(3116)
【0070】
ラウリン酸メチル(2.0g,9.33mmol)を20mLの無水THFに溶かし、この溶液を氷水浴内で冷却した。THF中のメチルマグネシウムクロリドの3M溶液(6.5mL,19.6mmol)を注射器で滴下し、この撹拌反応混合物を周囲温度に戻して4時間反応させた。反応混合物を50mLの2M硫酸水溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して2.0g(収率99%)の2-メチル-2-トリデカノールを無色油として得た。
MS(ESI+): m/z 215.4 (MH+)。
この2-メチル-2-トリデカノール(0.36g,1.68mmol)を1mLのピリジンと2mLのTHFに溶かした。溶液を氷水浴内で冷却し、p-ニトロフェニルクロロホルマート(340mg,1.68mmol)を添加し、反応を周囲温度に戻して一晩反応させた。反応混合物を回転エバポレートして残留物をジクロロメタンと水に分配した。水相を2回ジクロロメタンで抽出し、混ぜ合わせた有機抽出物を次に無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、回転エバポレートして濃厚油を得た。ジクロロメタンを用いてシリカゲル上で粗生成物をクロマトグラフ処理して0.13g(収率20%)の2-メチル-2-トリデカノールp-ニトロフェニルカルボナートを得た。
5mLのTHF中の2-メチル-2-トリデカノールp-ニトロフェニルカルボナート(0.11g,0.29mmol)の溶液に2mLの水中の3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(0.15g,0.93mmol)の溶液を加えた。反応混合物を50℃で12時間加熱した。反応混合物を濃縮して粗製固体残留物を得、ジクロロメタン-メタノールの4:1混合物を用いてシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して70mg(収率60%)の化合物3116をオフホワイトの固体として得た。MS(ESI-): m/z 378.6 (M-H)-。
化合物3116への合成経路を下記スキーム2に示す。
スキーム2.
【0071】
【化17】
【0072】
実施例2. 化合物3211及び3212の調製
【0073】
【化18】
(3211)
【0074】
2-フルアルデヒド(13.4g,0.14 mol)を500mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテルの1.0M溶液,150mL,0.15mol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物をブタノール、次に水でクエンチし、混合物を焼結ガラス漏斗に通してろ過し、濃縮した。ヘプタン-酢酸エチルの4:1混合物を用いて粗生成物をシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して29.7g(収率89%)の1-(フラン-2-イル)ウンデカ-1-オールを得た。
1-(フラン-2-イル)ウンデカ-1-オール(4.0g,16.8mmol)を150mLの乾燥THFに溶かして0℃に冷却した。p-ニトロフェニルクロロホルマート(6.76g,33.5mmol)を加え、撹拌して溶かした。ピリジン(15mL)を20分かけて滴下し、反応を1時間撹拌してからTLC(7:3のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をろ過してピリジンHCl塩を除去した。反応混合物をエバポレートして油を得、アセトニトリルと共に2回エバポレートし、100mLのヘプタンと摩砕し、ろ過して沈殿物を除去した。ヘプタンろ液をエバポレートして粗製油を得た。3-アミノプロパンスルホン酸、テトラブチルアンモニウム塩を100mLのTHFに溶かして粗製油に加えた。反応を1時間撹拌してからTLC(9:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得、80mLの水に溶かしてからろ過して沈殿物を除去した。結果として生じた溶液を160gのカチオン交換樹脂(Diaion(登録商標)UBK 550, Mitsubishi Chemical Corporation)に通して生成物をナトリウム塩に変換した。適切なフラクションを混合し、凍結乾燥器で凍結乾燥した。そして、ふわふわした黄色の固体を、ジクロロメタン、次に85:15のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理して5.6g(収率78%)の化合物3211を白色固体として得た。
【0075】
【化19】
(3212)
【0076】
p-アニスアルデヒド(6.12g,45.0mmol)を250mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテル中の1.0M溶液,50mL,50mmol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物をブタノール、次に水でクエンチし、焼結ガラス漏斗に通して混合物をろ過してからエバポレートした。4:1のヘプタン-酢酸エチルの混合物を用いて粗生成物をシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して10.8g(収率86%)の1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-1-オールを得た。
1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-オール(2.0g,7.2mmol)を40mLの乾燥THFに溶かして0℃に冷却した。p-ニトロフェニルクロロホルマート(2.17g,10.8mmol)を添加し、撹拌して溶かした。ピリジン(5mL)を20分かけて滴下して反応を2時間撹拌してからTLC(7:3のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をろ過してピリジンHCl塩を除去した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得、4:1のヘプタン-酢酸エチルを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。結果として生じた1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-1-オールp-ニトロフェニルカルボナートを50mLのTHFに溶かして3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(1.35g,8.38mmol)で処理した。数滴の水を加えて反応物を溶かした。反応を一晩撹拌してからTLC(9:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得てからジクロロメタン、次に4:1のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。適切なフラクションを混合し、ろ過し、エバポレートして2.0g(収率60%)の化合物3212を白色固体として得た。
【0077】
実施例3. 化合物3266の調製
【0078】
【化20】
(3266)
【0079】
3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(3.15g,19.0mmol)を100mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にドデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテル中の1.0M溶液,20mL,20mmol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物を水でクエンチし、Celite(ケイソウ土)の層に通して混合物をヘプタン-酢酸エチル洗浄液でろ過してからエバポレートした。3:1のヘプタン-酢酸エチルの混合物を用いてシリカゲル上クロマトグラフィーで粗生成物を精製して5.1g(収率80%)の1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オールを得た。
1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オール(2.3g,6.8mmol)を20mLの乾燥THFに溶かし、この溶液にp-ニトロフェニルクロロホルマート(1.64g,8.2mmol)を添加後、ピリジン(2.0mL)を加えた。反応を3時間撹拌してからTLC(4:1のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をCeliteに通してヘプタン-酢酸エチル洗浄液でろ過した。ろ液をエバポレートして粗製油を得、85:15のヘプタン-酢酸エチルを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。結果として生じた1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オールp-ニトロフェニルカルボナート(1.54g,3.1mmol)を15mLのTHFに溶かし、2mLの水中の3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(0.64g,4.0mmol)の溶液で処理した。反応を一晩撹拌してからTLC(4:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得てから85:15のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。適切なフラクションを混合し、エバポレートして0.48g(収率30%)の化合物3266を白色固体として得た。
【0080】
実施例4. 溶液内タンパク質のためのトリプシン支援タンパク質消化のプロトコル
界面活性剤支援溶液内消化プロトコルを尿素支援プロトコルと比較し、両プロトコルを用いて、マウス心臓由来の膜タンパク質のプロテオーム(タンパク質のセット)を同定した。尿素及び界面活性剤化合物3211をそれぞれ用いてマウス膜タンパク質を別々に消化した。
界面活性剤支援プロトコル:
マウス心臓膜抽出物の試料50μgから-80℃で20分間4体積の氷冷アセトンを用いてタンパク質を沈殿させた。沈殿した膜タンパク質混合物を遠心分離で収集し、このタンパク質ペレットを300μLの冷却アセトンで洗浄した。ペレットを20μLの0.2%界面活性剤3211(50mMの炭酸水素アンモニウム)で可溶化してから50mMの炭酸水素アンモニウムで93.6μLの体積に希釈した。希釈後、1μLの0.45M DTTを加え、試料を20分間56℃でインキュベートした。DTT還元後、2μLの0.7Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。
アルキル化後、さらに1μLの1%界面活性剤3211を添加後、3.5μLのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中0.5μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
尿素支援プロトコル:
マウス心臓膜抽出物の試料50μgから-80℃で20分間4体積の氷冷アセトンを用いてタンパク質を沈殿させた。沈殿した膜タンパク質混合物を遠心分離で収集し、このタンパク質ペレットを300μLの冷却アセトンで洗浄した。ペレットを15μLの8M尿素で可溶化してから50mMの炭酸水素アンモニウムで93.6μLの体積に希釈した。希釈後、1μLの0.45M DTTを加え、試料を20分間56℃でインキュベートした。DTT還元後、2μLの0.7Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。
アルキル化後、3.5μLのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中0.5μg/μL)を加えて混合物を37℃で一晩消化した。
界面活性剤及び尿素支援消化後浄化及び分析:
消化後、6μLの10%TFAを加えて混合物を37℃で15分間インキュベートした。この酸分解工程後、100μLのC18 OMIXチップ(Varian, Inc.)上で製造業者の説明書に従い、20μLの70%アセトニトリル、0.1%TFAで溶出して試料を抽出した。1DナノLC-MS/MSで各消化混合物を分析した。
【0081】
図4は、各消化の全イオンクロマトグラム(TIC)を示す。図から認められるように、界面活性剤化合物3211を用いた消化では、ペプチド収率及び同定ペプチド数がより高い。図5は、界面活性剤支援プロトコルが、尿素(膜タンパク質の標準的可溶化剤)支援プロトコルに対してプロテオームカバー率(coverage)を約70%高められることを示す。
尿素を用いた膜タンパク質消化では31種のタンパク質が同定されたが、界面活性剤化合物3211を用いた膜タンパク質消化では54種のタンパク質が同定された。界面活性剤化合物3211を用いて、より高い個々のタンパク質カバー率も得られた。Atp5bについてのスコア及びカバー率は、尿素を用いて得られた値のほぼ2倍だった。尿素を用いた消化から得られたAtp5bタンパク質は384のスコアと8のペプチド(22.5%のカバー率)をもたらしたが、化合物3211を用いた消化から得られたAtp5bタンパク質は707のスコアと15のペプチド(42.4%のカバー率)をもたらした。
図5に示すように、同定されたタンパク質の一部だけが両消化で共通し、残りの消化はどちらかの消化に特異的であることが分かった。従って、別の尿素消化と併用すると、本発明の界面活性剤の使用が、より大きいプロテオームカバー率を可能にする。尿素と本明細書で開示する界面活性剤の組合せを使用する消化を利用することもできる。該プロトコルでは、どちらかの試薬で同定可能なタンパク質、尿素及び界面活性剤に特異的なタンパク質をそれぞれ1回の消化で同定することができる。
【0082】
実施例5. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
以下に標準的な「ゲル内」消化試料調製プロトコルの後、本発明の界面活性剤を使用する試料調製プロトコルを説明する。
材料:ゲル染色溶液(例えば、クマシーブルーを用いて);ゲル変性溶液(例えば、40%エタノール/10%酢酸);高純度蒸留水;50mM炭酸水素アンモニウム(AmBic);25mMのジチオスレイトール(DTT);55mMのヨードアセトアミド(IAA);アセトニトリル(ACN);トリプシン;及びトリフルオロ酢酸(TFA)。
標準的プロトコル
1. ポリアクリルアミドゲル内でタンパク質を分解し、染色溶液でタンパク質を染色。
2. 脱染溶液でゲルを脱染して非特異的に結合した染色を除去。
3. 問題のタンパク質バンドを切除し、ゲル切片を1mm3の断片にカットし、0.5又は1.5mLの微量遠心機のポリプロピレン管に移す。
4. 断片を水で洗浄。
5. 断片をメタノール:50mM AmBic=1:1(v/v)で脱染。
6. ACN:50mM AmBic=1:1(v/v)で5分間、次に100%ACN内で30秒間脱水。
7. Speed Vac内で5分間乾燥。
8. 新たに調製した25mM DTT内で再水和及び56℃で20分間インキュベート。
9. DTT溶液を捨て、新たに調製した55mM IAAを添加。暗所で室温にて20分間インキュベート。
10. 水で2回洗浄。
11. ACN:50 M AmBic=1:1(v/v)で5分間、次に100%ACN内で30秒間脱水。
12. Speed Vac内で5分間乾燥。
13. 12ng/uLのTrypsin Gold(50mMのACN M AmBic中)20uL中で5分間脱水。最小量の50mM AmBicで覆ってゲル断片をカバーする。37℃で一晩インキュベート。
14. 切片をボルテックス又はオービタルシェーカーで50uLの2.5%TFAと15分間混合。抽出物を保存。
15. 80uLの70%ACN/5%TFAを添加し、ボルテックス又はオービタルシェーカーで15分間混合。
16. 両抽出液を混合し、1.5〜2時間 Speed Vacで乾燥。
17. ボルテックスで5分間混合してペプチドを30uLの0.1%TFAに再溶解し、C18チップでペプチドを浄化。MALDI-TOFで分析。
【0083】
本明細書で開示する酵素界面活性剤を用いた試料調製:
材料:ゲル染色溶液(例えば、クマシーブルーを用いて);ゲル変性溶液(例えば、40%エタノール/10%酢酸);高純度蒸留水;50mM炭酸水素アンモニウム(AmBic);25mMのジチオスレイトール(DTT);55mMのヨードアセトアミド(IAA);アセトニトリル(ACN);トリプシン;及びトリフルオロ酢酸(TFA)。酵素(例えば、トリプシン)界面活性剤A。界面活性剤Aは、本明細書で開示する酸に不安定及び/又は熱に不安定な界面活性剤を表す。
改良されたプロトコル:
1.〜12. 上記の工程。
13. 12ng/μLのTrypsin Gold(0.025%界面活性剤A/50mM ACN M AmBic中)20μL中で5分間再水和。30μLの0.01%界面活性剤A/50mM AmBicで覆ってゲル断片をカバー。50℃で1時間インキュベート。
14. 消化反応を新しい管に移して質量分析で消化反応を分析。
【0084】
図6に示す界面活性剤支援プロトコルは、ゲル内タンパク質消化に有意な革新を示す。典型的なゲル内消化プロトコルは2工程を含む:一般的に一晩(8〜24時間)かかるタンパク質消化及びペプチド抽出(典型的にTFA及びTFA/アセトニトリル混合物などの2回の抽出を含む)後に、SpeedVac(登録商標)濃縮器内での1.5〜2時間の乾燥によるペプチド濃縮、及び小量のTFA内での再構成。界面活性剤支援プロトコルでは、両工程を組み合わせて単一の1時間の工程にし、プロトコルを完了するために必要な時間と労力を削減するなど、効率の劇的な上昇をもたらしている。
図7は、本発明の界面活性剤がゲルから、より多くのペプチド及びより高分子量のペプチドを抽出することを示す実験的証拠を示す。この図は、上記2つのプロトコルで論じたように、消化混合物中に存在するペプチドを示す。図7(a)は、本発明の界面活性剤の助けを借りずにBSA(50ng)の一晩消化後の消化反応中に存在するペプチドを示す。図7(b)は、本発明の界面活性剤を借りた1時間の消化後の消化反応結果を示す。本界面活性剤は、ペプチドの回収を劇的に増やし、タンパク質カバー率を従来のプロトコルの8%から36%に高めることとなる。
抽出工程で有機溶媒に代えて界面活性剤3211を使用すると、除去しなければペプチドの浄化工程を妨害する溶媒を除去するために必要な時間のかかる真空乾燥工程(1.5〜2時間)を回避することができる。さらに、真空乾燥工程は、管壁への強い吸収のため相当量のペプチドの損失につながりうる。界面活性剤3211を使用すると、この吸収を防止することによって、ペプチドの回収率を確実に高める。
本界面活性剤は、本明細書で述べたように、タンパク質消化の改善、トリプシンの安定性の改善、及び画期的な界面活性剤促進ペプチド抽出といった、普通のゲル内タンパク質消化を超えるいくつかの改善を提供する。これらの改善の組合せが、上記プロトコルを用いて行う実験におけるタンパク質カバー率の2.2倍の改善及びMascotスコアの6.8倍の改善につながる。
本発明の界面活性剤は、「溶液内」及び「ゲル内」の両手法のタンパク質消化にさらなる革新を提供する。早期に開発されたトリプシン界面活性剤、例えばRapiGestTM及びPPS Silent SurfactantTMは、界面活性剤を分解するためタンパク質消化混合物と酸とのインキュベーションが必要であり、そうしないと、界面活性剤が液体クロマトグラフィー及び質量分析などの下流の処理を妨害する。本発明の界面活性剤の重要な利点は、それらが推奨される消化インキュベーション時間(3時間)の終了までか又は浄化工程のための抽出ペプチドの調製中に、さらに分解する必要がない程度まで分解することである。
【0085】
本発明の界面活性剤が未変化のままの場合(例えば、タンパク質消化が3時間より短い場合)及びさらに分解する必要がある場合、酸分解の選択肢として高温で界面活性剤を分解することができる。現在使用されている製品(例えば、RapiGestTM界面活性剤及びPPS Silent SurfactantTM)は酸分解が必要である。当該界面活性剤が高温で利用できるという証拠はまだ得られていない。熱分解は、消化されたペプチドの下流処理との高いフレキシビリティーを斟酌する。例えば、研究者には、TFAの代わりにギ酸をペプチド溶液に添加して液体クロマトグラフィーによるペプチド分離に直接進めるという選択肢がある。熱分解は、酸に不安定な翻訳後修飾(例えば酸に不安定なグリカン)のより良い回収をもたらしうる。さらに、熱分解は、プロトコルで強酸(例えば、TFA)などのいずれの危険な化学物質を取り扱う必要をも回避するため、酸分解より研究者にとって好ましいだろう。
本プロトコルは、尿素/界面活性剤の組合せの利用によっても助けとなりうる。尿素/界面活性剤混合物の存在下で行った消化では、どちらかの薬剤だけの存在下より多様な集団の同定タンパク質を観察することができる。
【0086】
実施例6. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
マウス心臓由来の全膜タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルで分解し、単一のタンパク質バンドを従来の消化プロトコル(コントロール)及び別に化合物3211支援プロトコルで消化した。
【0087】
【化21】
(3211)
近似MWが56kDのタンパク質のバンドを切除してトリプシンで消化した。消化された試料を質量分析で分析した。図8は、2つの分析の質量スペクトルを示し;図8(a)は、界面活性剤3211のない従来の一晩プロトコルから得たスペクトルを示し;図8(b)は、界面活性剤3211を利用してたった1時間の消化から得たスペクトルを示す。アスタリスクは、マウスATPシンターゼ(56kDバンド内の主要タンパク質)のβサブユニットについて同定されたペプチドを示す。
図8(b)は、本発明のプロトコルの界面活性剤を用いて得られたペプチドの数、及び収率の劇的増加を示す。界面活性剤なしのプロトコルは、50%というATPシンターゼのサブユニットの配列カバー率及び828というMASCOTスコアを与えたが、界面活性剤支援プロトコルは、配列カバー率75%(50%増加)及びMASCOTスコア920を与えた。例えば化合物3211等の本発明の界面活性の使用は、冗長なタンパク質消化とペプチド抽出工程を組み合わせて単一の1時間工程にすることによって、質量分析タンパク質同定を実質的に改善し、ゲル内消化プロトコルを簡素化する。
一次元(1D)ゲル技術を用いて複雑なタンパク質混合物を分画することが多い。タンパク質混合物をゲル内で分解してゲルラインをゲル切片にカットする。各ゲル切片がタンパク質フラクションを表す。次にフラクションをゲル内消化してから、消化されたペプチドをLC-MS/MSを用いて同定する。本発明の界面活性剤の使用は、質量分析用のゲル分画タンパク質の調製において時間と労力を有意に削減することができる。
図9は、界面活性剤支援1時間プロトコルがどのようにしてゲル内の複雑なタンパク質混合物の同定の満足できるか又は優れた方法を提供するかを示す。この実験では、マウス心臓由来の膜タンパク質抽出物を4〜20%のSDS-PAGEで分解し、近似MWが54〜56kDのタンパク質を含むフラクションをLC-MS/MSで分析した。界面活性剤を用いた1時間の消化後に同定されたタンパク質の数は、従来の一晩消化プロトコルによって同定されたタンパク質の数より多かった。さらに、界面活性剤支援プロトコルで同定されたタンパク質の1/3について、より高いタンパク質カバー率が達成された。
【0088】
実施例7. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
本発明の界面活性剤は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析ペプチドマッピングのためのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル内タンパク質消化を改善することができる。ゲノムデータベース検索と連動した質量分析は、タンパク質同定のための手段である。プロテオーム分析では、多くの場合、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲルを基礎とした一次元ゲル電気泳動(1-DE)又は二次元電気泳動(2-DE)で細胞タンパク質の混合物を分離し、特有のプロテアーゼでゲル内消化する。ゲル内タンパク質消化は、これらの手順で感応性のタンパク質同定にとって重要な工程である。効率的なタンパク質消化は、質量分析による明白なタンパク質同定に必要なペプチドピークを得るために役立つ。
本発明の界面活性剤を用いて、SDSポリアクリルアミドゲル内におけるタンパク質消化の有意な改善を得ることができる。本明細書に記載の界面活性剤は、ペプチド抽出をさらに効率的にすることによって(例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするNomura et al., J. Mass Spec. 2004, 39(2), 202-207に記載の技術、及び界面活性剤を用いたペプチドの「ゲル内」消化と抽出については特に203ページを参照されたい)、及び実験機器によるペプチドの吸収を防止するか、又は沈殿のためのペプチド損失を防止することによって、ペプチド収率を劇的に改善することもできる。このことが質量分析で感応性のタンパク質同定の有用な戦略を提供する。本明細書に記載の界面活性剤は、冗長なタンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の1時間工程にすることによって、ゲル内タンパク質消化に劇的な簡素化をも提供する。
【0089】
実施例8. 「溶液内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
タンパク質単離のための標準的な生化学的手法、例えばアフィニティー単離及び密度勾配遠心分離は、相当量の労力と時間をかけて低μg量のタンパク質材料をもたらしうる。これらの小量のタンパク質のための効率的かつ有効な溶液内タンパク質分解プロトコルの欠如によって、「ショットガン」アプローチによる単離タンパク質の質量分析特徴づけの有効性が低減することが多い。一次元液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)でタンパク質分解性ペプチドを分析することができる。例えば、3つのパラメーター:ペプチド同定の数、タンパク質同定の数、及び配列カバー率に基づいて、消化プロトコルの有効性を評価することができる。トリプシン消化のために80%のアセトニトリルを使用すると有利なことがあり、種々のタンパク質アイソレートで他の溶媒及びカオトロープを利用するプロトコルより良いことが多い。80%のCH3CNプロトコルの主な利点は、試料操作工程をあまり必要としないことである。例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするHervey et al., J. Proteome Res. 2007; 6(8); 3054-3061、特に、3055ページの開示で論じられている「溶液内」反応のためのトリプシンによる消化前にタンパク質を変性させるために使用する方法を参照されたい。
【0090】
実施例9. 「溶液内」タンパク質の界面活性剤支援タンパク質消化
本明細書で開示する酸に不安定及び熱に不安定な化合物を用いて、混合有機-水系及び水系内で質量分析適合性洗浄剤がある場合とない場合のLC-MS/MSによるペプチド/タンパク質同定のためのトリプシン消化戦略の最適化及び比較を行うことができる。質量分析適合性界面活性剤をタンパク質分解消化プロトコルに加えると、ショットガンプロテオミクスによる複雑なタンパク質混合物におけるペプチド及びタンパク質の同定を劇的に増やすことが分かる。トリプシン消化緩衝液に質量分析適合性洗浄剤を含めることによって、タンパク質の可溶化及びタンパク質分解効率を高めることができる。
質量分析適合性界面活性剤を組み入れた改変トリプシン消化プロトコルは、例えば、膵臓細胞ライセート由来のタンパク質の同定に役立ち、LC-MS/MSを使用する場合に尿素を用いたトリプシン消化より多数のペプチド同定をもたらすことができる。さらに、種々の質量分析適合性界面活性剤を用いたトリプシン消化からのタンパク質同定を融合させることによって、タンパク質を同定することができる。水性溶媒と有機溶媒の混合系を使用すると、異なる質量分析適合性界面活性剤と相まってタンパク質同定に影響を与えうることも観察することができる。
異なる質量分析適合性界面活性剤と緩衝液の組合せから生じたペプチド混合物は、疎水性に有意な差異を示すことがある。実験結果は、質量分析適合性界面活性剤を組み入れたタンパク質消化スキームが、観察されたペプチド同定に定量的及び定性的変化を生じさせ、タンパク質同定全体の増加及び低豊富タンパク質の増加をもたらすことを示す。例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするChen et al., J. Proteome Res. 2007; 6(7); 2529-2538に記載の技術、特に、酸に不安定な界面活性剤の、トリプシンを用いた複雑なタンパク質混合物のタンパク質分解を改善する能力の議論については2531ページを参照されたい。
本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質の可溶化と消化を改善するのみならず、実験機器による吸収又は沈殿のためのペプチド損失を防止することによって、ペプチド収率を実質的に高めることもできる。この三様利益のため、本界面活性剤が溶液内消化プロトコルにとって理想的な手段となる。最初の証拠は、本界面活性剤が、溶液内消化プロトコル用の標準的な可溶化剤である尿素と併用することもできることを示す。本界面活性剤は、それらの全ての有益な特性を尿素の存在下で保持することができる。尿素/界面活性剤混合物内の消化は、これらの薬剤を個々に使用する場合より多数の同定タンパク質、高い個々のタンパク質カバー率、及び改良された質量分析データを提供しうる。
【0091】
実施例10. 臭化シアンタンパク質消化
タンパク質消化では、臭化シアン(CNBr)はメチオニン残基におけるタンパク質の切断によって作用し、その結果カルボキシルフラグメント上にホモセリンラクトンが生じる。メチオニン残基はタンパク質の疎水性領域内に局在化することが多く、切断は疎水性フラグメントの大きさを有利に減じ、分析の効率と有効性を高めるので、膜タンパク質の分析のために臭化シアンは有用である。臭化シアンを単独で用いて大きいフラグメントを生じさせることができ、或いはトリプシン又はキモトリプシン等のプロテアーゼの前に連続して使用することができる。典型的プロトコルは、タンパク質を暗所で24時間過剰のCNBrと反応させる前に、問題のタンパク質混合物の可溶化に役立ついくつかのタイプの界面活性剤を必要とする。消化反応では低いpHが必要なので、消化反応は50〜80%のTFAのHCl溶液内で行われることが多い。過剰のCNBrは揮発されるが、分析前に反応から典型的な可溶化剤を除去する必要がある。
式I〜IXの界面活性剤化合物を用いて、膜タンパク質混合物の可溶化を助けた後、反応条件を低pHに調整することによって、CNBrの添加前に該界面活性剤を分解することができる。消化後、試料を直接MALDIで分析することができる。この場合、除去しなければイオン化で邪魔になるであろう変性剤を除去する必要はない。
【0092】
実施例11. 界面活性剤を利用する脱グリコシル化法
グリコシル化は、多くのキーとなる細胞メカニズム及び障害に関係づけられている重要な翻訳後タンパク質修飾である。実際に、約60%のヒトタンパク質が異なるタイプの炭水化物によって種々の部位でグリコシル化されうる。グリコシル化されるタンパク質の部位、及びどのタイプの炭水化物が付着するかによって、異なる態様でタンパク質の機能は影響を受ける。従って、グリコシル化分析は重要な課題を提示し、該分析を行うための改良された方法が必要とされている。
質量分析は、グリコシル化研究のための主要な分析手段である。この強力な技法は、グリコシル化の部位を局在化し、炭水化物の構造を同定することができる。一つの重要な課題は、効率的かつ有効な分析のためには糖タンパク質のタンパク質成分と炭水化物成分を物理的に分離すべき、すなわち、各成分を別々に分析して適切なデータを得なければならないことである。酵素的脱グリコシル化によって、これらの成分の分離を達成できる。糖タンパク質のグリコシル化部位はタンパク質の構造によって妨げられることが多いので、酵素的脱グリコシル化は時間がかかり、かつ/又は非効率なことが多い。
グリコシダーゼがタンパク質のグリコシル化部位に容易に近づけるようにするため、研究者はSDSを使用することが多い。SDSは、脱グリコシル化を大いに改善するが、それは質量分析を妨害する。癌、細胞メカニズム、及び他の生物学的問題を研究している研究者は日常的に、質量分析前にタンパク質試料をグリコシダーゼで処理する。一般に探求される情報には、問題のタンパク質のどの部位が炭水化物を持っているかが含まれる。これらの部位は、グリコシダーゼは切断後の炭水化物の小部分を置き去りにするので、脱グリコシル化後に局在化することがある。この残存タンパク質が、質量分析においてグリコシル化部位のマーカーとして作用する。切断された炭水化物を分析することに関心がある研究者もいる。
本明細書に記載の界面活性剤を脱グリコシル化プロトコルにおけるSDSの代用品として評価した。オボアルブミン(ニワトリの卵白由来アルブミン)をモデルタンパク質として選択した。オボアルブミンは、タンパク質に1.4kDの炭水化物単位が結合している44.3kDの糖タンパク質である。オボアルブミンの脱グリコシル化は、PNGase Fとの一晩インキュベーション後でさえ、標準条件下では不十分である。オボアルブミンをグルコシダーゼPNGase Fで処理した。界面活性剤化合物3266の存在下では、PNGase Fがオボアルブミンから炭水化物を迅速に除去することが分かった。界面活性剤化合物3266は酸に不安定であり、容易に分解することができ、質量分析を用いるタンパク質及び炭水化物の分析を可能にする。
【0093】
詳細なプロトコル:
オボアルブミン(Sigma)(45μg)を0.025%の3266/5mMのDTT/25mM炭酸水素アンモニウム(pH約8)に溶かして95℃で5分間インキュベートした。コントロール反応では、3266をSDSと交換した。1.5μ単位のPNGase F(Sigma)を加えて脱グリコシル化を始めた。37℃で1時間と20分インキュベーション後、5分間95℃でインキュベーションして反応を停止して各反応から得た一定分量をSDS-PAGEで分離した。電気泳動は、両反応で、オボアルブミンの44.3kDのグリコシル化形が42.9kDの脱グリコシル化形に変換されることを示した。この分析は、化合物3266が、SDSを用いて見られる脱グリコシル化の増強に等価であり、さらに分光測定とクロマトグラフィーの同時分析におけるSDSの有害作用を排除することを示している。
【0094】
実施例12. 切断可能界面活性剤
以下の化合物は、本明細書に記載の方法に有用な本発明の界面活性剤化合物である。
図11〜18は、コントロール消化(RapiGestTM界面活性剤)及び以下に示す本発明の界面活性剤化合物から得たHPLCクロマトグラムを示す。図11〜18の各セットのクロマトグラム中、上のクロマトグラムがコントロールであり、下のクロマトグラムが本発明の化合物を用いた試験である。
実験条件:ミオグロビン/トリプシン消化:
ウマ心臓由来のミオグロビン(典型的に25μg)を、0.01%のRapiGestTM界面活性剤又は0.01%の本発明の指示化合物(それぞれ上及び下のクロマトグラム)と共に、125μL(典型的)の体積の50mM炭酸水素アンモニウム中50:1比にてトリプシン(Promega)を用いて20分間37℃で消化した。TFAを加えて0.5〜2%にし、混合物を37℃又は65℃で20又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離によって除去した。25〜50μLの反応試料について、HP1050 LCシステムを用いて、Agilent Sorbax SB-C18カラム(3.0×100mm、3.5μm)及び0.1%TFA(最初97.5%)とアセトニトリルの勾配、0.01%TFA(55%の最終条件後、100%の洗浄工程)及び流速0.75mL/分でHPLC分析を行った。ペプチドは214及び280nmで検出された。
【0095】
実験条件:化合物3116〜3210、3213〜3223及び3225〜3275のバクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:
バクテリオロドプシン(25μg)を0.025%のRapigestTM界面活性剤又は本発明の指示化合物と95℃で5分間加熱してから、125μLの50mM炭酸水素アンモニウム中10:1比でキモトリプシン(Sigma)を用いて37℃で1時間消化した。1時間後、TFAを加えて0.5〜2%にして混合物を37℃又は65℃で20又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離によって除去した。消化されたタンパク質の一定分量50〜100μLを上述したように分析した。
実験条件:化合物3211、3212及び3224のバクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:
RapigestTM界面活性剤(コントロール)反応:上述したとおり。
図13(b-2)の反応のための化合物3211、3212、3224及びRapigestTM界面活性剤コントロール:バクテリオロドプシン(25μg)を室温で1〜2分間0.025%の問題の化合物を用いて可溶化してから、125μLの50mM炭酸水素アンモニウム中キモトリプシン(Sigma)を10:1比で用いて37℃で1時間消化した。1時間後にTFAを加えて0.5〜2%にして混合物を37℃又は65℃で20分又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離で除去した。消化されたタンパク質の一定分量50〜100μLを上述したようにHPLCで分析した。
実施例12において下に番号を付けた各化合物については、該界面活性剤ピーク面積(界面活性剤 # Pk.面積)対RapigestTM界面活性剤ピーク面積(RG Pk面積)の比から消化増強率を決定した。8〜22分で組み込まれた全ピークの合計としてピーク面積を決定した。1より大きい比は、該界面活性剤の反応ではRapigestTM界面活性剤コントロール反応より多い消化が観察されたことを示す。
化合物3116:
【0096】
【化22】
【0097】
ミオグロビン/トリプシン消化:3116 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3116 Pk面積/RG Pk面積=1.5。
化合物3116は、水溶液中で許容しうる溶解度:0.5以上を有し、酸不安定性を示した:0.01%の3116は37℃にて2時間以内で分解した。図11を参照されたい。
化合物3186:
【0098】
【化23】
【0099】
ミオグロビン/トリプシン消化:3186 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3186と5分間煮沸した;3186 Pk面積/RG Pk面積=0.45。
化合物3186は、水溶液中でいくらかの溶解度を示し、0.01%溶液の分解は37℃にて30分以内で完了した。
化合物3189:
【0100】
【化24】
【0101】
ミオグロビン/トリプシン消化:3189 Pk面積/RG Pk面積=1.1
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3188と煮沸した;3189 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
化合物3189は水溶液中で良い溶解度を有し;容易に0.5%まで溶解した。酸不安定性は不十分だった:0.01%の3189は37℃で一晩のインキュベーション後しか分解しなかった。
化合物3190:
【0102】
【化25】
【0103】
ミオグロビン/トリプシン消化:3190 Pk面積/RG Pk面積=N.D。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3190と煮沸した;3190Pk面積/RG Pk面積=0.34。
化合物3190は水溶液中で良い溶解度を有する(容易に0.5%まで溶解した)。中程度の分解率:0.01%溶液では30分、0.1%溶液では一晩。
化合物3192:
【0104】
【化26】
【0105】
ミオグロビン/トリプシン消化:3192 Pk面積/RG Pk面積=1.3
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3192と煮沸した;3192 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
化合物3192水溶液中で良い溶解度を有する(容易に0.5%まで溶解した)。分解率は非常に低かった:0.01%溶液は一晩インキュベーション後しか分解しなかった。
化合物3194:
【0106】
【化27】
【0107】
ミオグロビン/トリプシン消化:3194 Pk面積/RG Pk面積=0.72
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3194と煮沸した;3194 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
水溶液中で良い溶解度(容易に0.5%まで溶解した)。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3195:
【0108】
【化28】
【0109】
ミオグロビン/トリプシン消化:3195 Pk面積/RG Pk面積=0.5
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3195と煮沸した;3195 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で中程度の溶解度:0.2%以下。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3196:
【0110】
【化29】
【0111】
ミオグロビン/トリプシン消化:3196 Pk面積/RG Pk面積=0.65
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3196と煮沸した;3196 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。中程度の分解率:0.01%溶液で30分、0.1%溶液で一晩。
化合物3199:
【0112】
【化30】
【0113】
ミオグロビン/トリプシン消化:3199 Pk面積/RG Pk面積=0.37
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3199と煮沸した;3199 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3200:
【0114】
【化31】
【0115】
ミオグロビン/トリプシン消化:3200 Pk面積/RG Pk面積=0.7
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3200と煮沸した;3200 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
水溶液で低い溶解度:約0.01%。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3201:
【0116】
【化32】
【0117】
ミオグロビン/トリプシン消化:3201 Pk面積/RG Pk面積=0.3
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3201と煮沸した;3201 Pk面積/RG Pk面積=0.4。
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。
化合物3202:
【0118】
【化33】
【0119】
ミオグロビン/トリプシン消化:3202 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3202と煮沸した;3202 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
いくらか低い溶解度:約0.01%。低い界面活性剤の溶解度のため分解率は可変だった:0.01%の3202は30分以内で分解した。図12を参照されたい。
化合物3203:
【0120】
【化34】
【0121】
ミオグロビン/トリプシン消化:3203 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3203と煮沸した;3203Pk面積/RG Pk面積=0.4。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3204:
【0122】
【化35】
【0123】
ミオグロビン/トリプシン消化:3204 Pk面積/RG Pk面積=0.87。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3204と煮沸した;3204 Pk面積/RG Pk面積=0.55。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3204は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3205:
【0124】
【化36】
【0125】
ミオグロビン/トリプシン消化:3205 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3205と煮沸した;3205 Pk面積/RG Pk面積=0.45。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3206:
【0126】
【化37】
【0127】
ミオグロビン/トリプシン消化:3206 Pk面積/RG Pk面積=0.26。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3206と煮沸した;3206 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3207:
【0128】
【化38】
【0129】
ミオグロビン/トリプシン消化:3207 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3207と煮沸した;3207 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は低い:0.01%の3207は1時間以内で分解した。
化合物3209:
【0130】
【化39】
【0131】
ミオグロビン/トリプシン消化:3209 Pk面積/RG Pk面積=2.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3209と煮沸した;3209 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3210:
【0132】
【化40】
【0133】
ミオグロビン/トリプシン消化:3210 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3210と煮沸した;3210 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3211:
【0134】
【化41】
【0135】
ミオグロビン/トリプシン消化:3211 Pk面積/RG Pk面積=1.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRをRapigestTM界面活性剤と煮沸したが、3211の場合は煮沸しなかった;3211 Pk面積/RG Pk面積=0.9
良い溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムに容易に1%まで溶解した。優れた分解率:37℃で0.5%TFA中で15分又はTFAなしで5分の煮沸。優れた可溶化特性:室温で迅速にBRを溶解した。化合物3211は、室温でさえ相当の割合で分解する。
図13も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 0.5
0.025% 1.1
0.025%/20%AcN 6
0.025%/40%AcN 52
0.025%/60%AcN >100
0.025%/80%AcN >>
0.10% 4.8
1% 21
1%/50%AcN >100
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
元のままの界面活性剤の保持時間の変化を逆相HPLCでモニターすることによって、加水分解安定性を測定した。50%分解に達するのに必要な時間として半減期を定義する。
化合物3212:
【0136】
【化42】
【0137】
ミオグロビン/トリプシン消化:3212 Pk面積/RG Pk面積=1.4.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRをRapigestTM界面活性剤と煮沸したが、3212の場合は煮沸しなかった;3212 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムに容易に1%まで溶解した。優れた分解率:37℃で0.5%TFA中で15分又はTFAなしで5分の煮沸。優れた可溶化特性:室温で迅速にBRを溶解した。図14も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 3.7
0.025% 21
0.10% 38
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3213:
【0138】
【化43】
【0139】
ミオグロビン/トリプシン消化:3213 Pk面積/RG Pk面積=0.8
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3213と煮沸した;3213 Pk面積/RG Pk面積=1.3
中程度の溶解度:10分後に0.025%。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 62
0.025% 128
化合物3214:
【0140】
【化44】
【0141】
ミオグロビン/トリプシン消化:3214 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化 10:1比:0.1%で;キモトリプシンを添加する前にBRを3214と煮沸した;3214 Pk面積/RG Pk面積=0.6
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。
化合物3215:
【0142】
【化45】
【0143】
ミオグロビン/トリプシン消化:3215 Pk面積/RG Pk面積=0.56.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3215と煮沸した;3215 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。分解率:0.1%溶液は、0.5%TFA中で1時間のインキュベーション後に分解する。化合物3215の分析は、中程度の熱安定性を示した。
化合物3216:
【0144】
【化46】
【0145】
ミオグロビン/トリプシン消化:3216 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3216と煮沸した;3216 Pk面積/RG Pk面積=0.7。
水溶液に不溶。100%DMSO中で10%まで可溶化された。
化合物3218:
【0146】
【化47】
【0147】
ミオグロビン/トリプシン消化:3218 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3218と煮沸した;3218 Pk面積/RG Pk面積=0.65。
水溶液に不溶。DMSO中で10%まで可溶化された。
化合物3219:
【0148】
【化48】
【0149】
ミオグロビン/トリプシン消化:3219 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3219と煮沸した;3219 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。
化合物3220:
【0150】
【化49】
【0151】
ミオグロビン/トリプシン消化:3220 Pk面積/RG Pk面積=0.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化 10:1比:0.025%で;キモトリプシンを添加する前にBRを3220と煮沸した;3220 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。優れた分解率:0.1%の3220は、0.5%TFA中37℃にて15分以内で分解した。この界面活性剤の熱安定性は中程度だった。
化合物3221:
【0152】
【化50】
【0153】
ミオグロビン/トリプシン消化:3221 Pk面積/RG Pk面積=0.13。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3221と煮沸した;3221 Pk面積/RG Pk面積=0.5。
水溶液中での良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。
化合物3223:
【0154】
【化51】
【0155】
ミオグロビン/トリプシン消化:3223 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3223と煮沸した;3223 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
水溶液中で潜在的に制限された溶解度:0.5%溶液は乳濁し、遠心分離後にゼリー状のトップ相を発生させた。分解率は低い。
化合物3224:
【0156】
【化52】
【0157】
ミオグロビン/トリプシン消化:3224 Pk面積/RG Pk面積=1.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3224 Pk面積/RG Pk面積=0.74。
水溶液中で中程度の溶解度:0.25%の溶液。ACNを20%まで添加した後、溶解度が劇的に改善された:2%の溶液を調製した。優れた可溶化特性。3224を用いて室温でBRを可溶化した。図15も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 1.3
0.025% 8.3
0.10% 23
0.25% 22
化合物3225:
【0158】
【化53】
【0159】
ミオグロビン/トリプシン消化:3225 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3225と煮沸した;3225 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
水溶液に不溶。DMSO中で10%まで可溶化された。分解率は低い:0.5%TFA中37℃でゆっくり分解する。熱安定性は観察されなかった。
化合物3228:
【0160】
【化54】
【0161】
ミオグロビン/トリプシン消化:3228 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3228と煮沸した;3228 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。分解率は低い:0.1%。図16も参照されたい。
化合物3236:
【0162】
【化55】
【0163】
ミオグロビン/トリプシン消化:3236 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3236と煮沸した;3236 Pk面積/RG Pk面積=0.71。
水溶液中で良い可溶化:容易に1%まで溶解した。分解率は低い:0.5%TFA中0.1%溶液で37℃にて30分のインキュベーション後又はTFAなしで5分の煮沸後に分解は観察されなかった。
化合物3237:
【0164】
【化56】
【0165】
ミオグロビン/トリプシン消化:3237 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3237と煮沸した;3237 Pk面積/RG Pk面積=1。
中程度の溶解度:0.5%溶液。0.5%TFA中37℃で30分のインキュベーション後に中程度の分解が観察された。
化合物3266:
【0166】
【化57】
【0167】
ミオグロビン/トリプシン消化:3266 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3266 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
優れた溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムで直ちに2%まで溶解した。酸に不安定である(0.1%の溶液は0.5%TFA中30分以内で分解した)が、熱に不安定でない(95℃で5分後に未変化のままだった)。図17も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >>
0.25% >>
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3267:
【0168】
【化58】
【0169】
ミオグロビン/トリプシン消化:3267 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3267 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
優れた溶解度:50mM炭酸水素アンモニウム中2%まで溶解した。0.5%TFA中又は煮沸によって分解しなかった。酸及び熱に不安定でない。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3269:
【0170】
【化59】
【0171】
ミオグロビン/トリプシン消化:3269 Pk面積/RG Pk面積=1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3269 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
許容しうる溶解度:1%溶液を調製した。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.03% 7
1% 135
化合物3270:
【0172】
【化60】
【0173】
ミオグロビン/トリプシン消化:3270 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3270 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
中程度の溶解度:0.5%の3270を調製した。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% 6.5
1% 40
化合物3271:
【0174】
【化61】
【0175】
ミオグロビン/トリプシン消化:3271 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3271 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度(1%溶液を容易に調製した)。ある程度だけ酸に不安定、熱に安定(TLC分析)。図18も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >350
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3273:
【0176】
【化62】
【0177】
ミオグロビン/トリプシン消化:3273 Pk面積/RG Pk面積=0.75。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度(1%の溶液を容易に調製した)。全ての特性が3271と同様でる。ある程度だけ酸に不安定、熱に安定。
化合物3274:
【0178】
【化63】
【0179】
ミオグロビン/トリプシン消化:3274 Pk面積/RG Pk面積=1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3274 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
中程度の溶解度:1%の溶液を調製した(室温で)。酸及び熱に不安定。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% 約6
1% N.D.
N.D.=二相曲線無中断。
化合物3275:
【0180】
【化64】
【0181】
ミオグロビン/トリプシン消化:3275 Pk面積/RG Pk面積=0.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3275 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
許容しうる溶解度:容易に1%溶液を調製した。試験条件で完全に酸及びに熱に安定
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >300
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
【0182】
実施例13. オフライン2D-LC-MS/MSで分析する溶液内タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化のプロトコル
界面活性剤支援溶液内消化を尿素支援溶液内消化及び尿素+界面活性剤支援溶液内消化と比較して、変性剤として尿素の代わりに界面活性剤を使うか、又は複雑な混合物を消化するときは尿素を界面活性剤で補うことによって得られるタンパク質カバー率の増加を実証する。可溶化剤及び変性剤としての界面活性剤の効力を実証するため、マウス心臓膜タンパク質抽出物の3つの別々の試料を、変性剤として界面活性剤化合物3211を用いた場合と、変性剤として尿素を用いた場合と、変性剤として尿素+界面活性剤化合物3211を一緒に用いた場合との別々の反応で可溶化かつ消化した。各消化をオフライン2D-LC-MS/MSで別々に分析し、各条件から得たタンパク質カバー率を比較した。
(界面活性剤支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を60μLの0.2%界面活性剤3211(50mM炭酸水素アンモニウム中)内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、さらに3μLの1%界面活性剤3211、次いで17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
(尿素支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を45μLの8M尿素内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で一晩消化した。
(尿素+界面活性剤支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を45μLの8M尿素/60μLの0.2%界面活性剤3211内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、さらに3μLの1%界面活性剤3211、次いで17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
【0183】
オフライン2D-LC-MS/MS分析:各消化試料を3つの一定分量に分割し、0.5%TFAに調整し、4mgのVarian Spec SPEチップを用いて固相抽出した。三通りの溶出を合わせて蒸発乾固させ(speed-vac)、約100μlの0.1%TFAに溶かしてAgilent Zorbax 300-SCXカラム(3.0×50mm、5-μm)に装填した。溶媒:A=0.03%(v/v)ギ酸/5%アセトニトリル;B=0.03%(v/v)ギ酸/5%アセトニトリル/0.5M塩化ナトリウム。装填後、214nmにおける吸光度でモニターされるHP1050 HPLCで勾配溶出によってペプチドを溶出し、溶出されたペプチドを1mLのフラクションに分画した(条件毎に約20のフラクション)。塩勾配:流速=1mL/分;初期条件:0%B、T=0〜8分は100%B、T=8〜20分は100%B。各SCXフラクションを濃縮乾固させてから0.1%TFA/5%アセトニトリルに溶かし、100μLのOMIX SPEカラムを用いて100μLの70%アセトニトリル(0.1%TFA)で溶出して脱塩した。Agilent 1100シリーズLC/MSD Trap SL分光計を使用する2次元LC-MSのため溶出液を蒸発乾固させて0.1%TFA/5%アセトニトリルに再懸濁した。
考察:等量の膜タンパク質抽出物を3つの異なる条件下、すなわち尿素、界面活性剤、又は尿素/界面活性剤混合物で可溶化した。全てのタンパク質混合物をトリプシンで消化した。尿素で可溶化したタンパク質は一晩消化した。界面活性剤又は尿素/界面活性剤混合物で可溶化したタンパク質は3時間消化した。消化物をSCXカラム上で分画した(強カチオン交換)。逆相LC-MS/MSを用いて各SCXフラクションを二次元で分析した。
承認された可溶化変性剤として、プロテオームカバー率を拡大するために尿素が一般に使用されている。この実験では、尿素を変性剤として用いて477種の異なるタンパク質を同定した。界面活性剤を含めた消化(尿素がある場合とない場合)は、尿素のみを用いた消化では観察されない約335種のタンパク質によって、タンパク質カバー率を拡大した。これは、代替的及び補完的の両方の可溶化剤/変性剤として本界面活性剤を使用することによって、タンパク質カバー率が70%増加することを意味する。
【0184】
その内容を参照によって個々に引用したかのように、全ての刊行物、特許、及び特許文献の内容を参照によって本明細書に引用したものとする。種々の特定及び好ましい実施形態及び手法に関連して本発明を説明した。しかし、本発明の精神及び範囲内にとどまりながら、多くの変更及び修正を為しうることを理解すべきである。
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
この出願は、参照によってその内容を本明細書に引用したものとする2007年10月11日提出の米国仮特許出願第60/979,316号に対する米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
分析、例えば、質量分析のためのタンパク質試料の調製は、典型的に3つの主工程:可溶化、消化、及びペプチド回収を含む。ある工程に適用される現在の方法及び試薬は以下の工程とはめったに適合しない。例えば、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))又は変性剤(例えば、アセトニトリル、尿素、又はグアニジン)等の可溶化剤は典型的に、可溶化後の消化で使われるトリプシン等のプロテアーゼを阻害する。トリプシン活性に耐えられる濃度で使用する場合でさえ、これらの界面活性剤又は変性剤の存在は、液体クロマトグラフィー又は質量分析などのその後の分析を妨害する。従って、典型的に、試料(例えば、タンパク質又はペプチド)についてさらに分析を行う前に界面活性剤及び有機溶媒を除去する必要がある。これらの試薬の除去に必要な操作は試料調製プロセスを複雑にし、試料物質の損失につながることが多い。
【0003】
消化工程は、タンパク質試料調製における主要な難題を提示することが多い。トリプシンによる典型的なタンパク質消化は、完了に達するまで一晩のインキュベーションを必要とする。一晩のインキュベーション後でさえ、膜タンパク質のような消化に耐性のタンパク質は未変化のままであることもあり、満足できる消化を達成するために異常な条件が必要である。これらの限界を克服し、消化プロセスを速めるための試みで利用されている現在の方法には、タンパク質の可溶化及びタンパク質の変性を改善し、ひいては消化を改善するための有機溶媒(例えば、アセトニトリル)、高温、変性剤(例えば、尿素)、及び/又は界面活性剤(例えば、SDS)の使用が含まれる。しかし、これらの代替方法及び添加剤は、不完全な切断及び低い再現性をもたらすことが多く、その有用性を制限する。これらの試薬の使用はトリプシン活性の阻害、HPLC分離の妨害及び質量分析におけるペプチド検出の抑制にもつながる。
【0004】
ゲル内タンパク質消化はタンパク質試料調製に特有の難題をもたらす。ゲル内消化の成功は、効率的なタンパク質消化のみならず、効率的なゲルからの消化後ペプチド抽出にも左右される。ゲルからのペプチド抽出は時間がかかり、厄介なことがあり、ペプチド回収について中程度にしか有効でないことが多い。回収されたペプチドは一般的に約2,500Daの大きさに制限される。より大きいペプチドは大部分がゲル内に捕捉されている。「In-gel digestion with endoproteinase Lys-C」, Y. Wada, M. Kadoya, J. of Mass Spectrom. 2003; 38: 117-118を参照されたい。高い疎水性のペプチドの回収も影響を受ける。
【0005】
タンパク質試料調製に関連する他の手順には翻訳後タンパク質修飾の分析が含まれる。全てのヒトタンパク質の約60%がグリコシル化される。グリコシル化は多くのキーとなる細胞メカニズムで重要な役割を果たすことが示された。グリコシル化を分析するためには、タンパク質からグリカンを分離しなければならない。脱グリコシル化と称するこの除去は、グリコシダーゼを用いて行われる。脱グリコシル化は、時間のかかるプロセスであることが多い。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の試薬は劇的に脱グリコシル化を改善することができ、おそらくグリコシダーゼがグリカン付着部位にうまく近づけるようにするためであろう。しかし、SDSは下流の試料調製工程、質量分析及びHPLC分析を妨害する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、タンパク質試料調製の改良された方法が要望されている。タンパク質試料調製プロセスを合理化するため、3つの主要なタンパク質調製工程:可溶化、消化及びペプチド回収の1つ以上のためになる方法又は試薬も要望されている。好ましくは、これらの方法又は試薬はプロテアーゼ活性の阻害につながらず、かつ単離及び/又は特徴づけ手法を妨害しない。ゲル内消化プロトコルを合理化すること及びゲルからのペプチドの回収を改善することが特に要望されている。最後に、下流の試料調製並びにタンパク質及びグリカンの質量分析を妨げないタンパク質脱グリコシル化の改良された方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔概要〕
本発明は、生体試料、例えば、タンパク質の可溶化、消化、分析、及び/又は特徴づけを助けるために有用な界面活性剤化合物を提供する。本化合物はタンパク質消化中に生じたペプチドの回収にも役立ちうる。本化合物は下流の試料調製及び質量分析を妨害することなく、酵素的タンパク質脱グリコシル化を改善することができる。本化合物は、酸、熱、又はその組合せによって分解しうる消化助剤として特に有用である。界面活性剤が分解すると、単離された試料から容易に分離することができ、及び/又は種々の分析技術の感度を妨げることなく試料を分析することができる。
本界面活性剤化合物はプロテアーゼ、例えば、トリプシン及びキモトリプシンの安定性と反応性をも高めるので、試料中のペプチド結合のより速くより効率的な切断の方法を提供する。この高い安定性及び/又は反応性のため、効率的な試料消化に必要なプロテアーゼの量を減らし、消化に必要な時間を減らすことができる。こうして、消化に必要な時間の減少が、迅速なオンラインの自動消化及び分析に受け入れられる方法を提供する。
従って、本発明は、高度に疎水性のタンパク質(すなわち、膜タンパク質)を含めたタンパク質の可溶化、すなわち、例えば、「溶液内」タンパク質、及び「ゲル内」タンパク質などのタンパク質のためのプロテアーゼ支援タンパク質消化の方法を提供する。本方法は、試料(ゲル内又は溶液内)及びプロテアーゼを本発明の界面活性剤化合物と混合する工程を含む。プロテアーゼは、所定目的に適したいずれのプロテアーゼでもよく、例えば、トリプシン又はキモトリプシンでよい。他の適切なプロテアーゼとして、セリンプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、プラスメプシン)、メタロプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、又はその組合せが挙げられる。
【0008】
本発明は、溶液内及びゲル内消化プロトコルで得られたペプチドの改良された回収方法をも提供する。本明細書に記載の界面活性剤は、ガラス製品又はプラスチック製品による吸収又は吸着のためのペプチド損失を防止することによって、及び/又は沈殿に起因するペプチド損失を防止することによって、並びにゲル内消化用のゲルマトリックスからの抽ペプチドの抽出を改善することによって、改良された回収を達成することができる。
ゲル内タンパク質消化では、本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一工程にすることによって、試料調製プロトコルを合理化することができる。消化と抽出を約1時間以内で完了することができる。結果として生じる効率は、典型的に一晩の消化後に2〜3時間のペプチド抽出を必要とする従来のゲル内プロトコルを超える有意な改善を示す。
本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質抽出物枯渇法、例えば血漿枯渇法におけるタンパク質回収を改善することもできる。枯渇法では、タンパク質抽出物又は血漿から豊富タンパク質を除去する。これは低豊富タンパク質(その検出は、主に高豊富タンパク質と干渉するため損なわれることが多い)の分析を改善する。典型的な枯渇法の欠点は、高豊富タンパク質によって非特異的に吸収される低豊富タンパク質の相当量の損失である。本明細書に記載の界面活性剤はこの非特異的吸収を遮断することができる。常用されている界面活性剤及び洗浄剤とは対照的に、本発明の界面活性剤は試料調製プロトコル中に分解しうるので、本明細書に記載の界面活性剤は、質量分析などの下流処理への影響を低減又は排除する。
さらに、本明細書に記載の界面活性剤は、好都合な「自己分解」様式の作用を提供することができる(すなわち、プロトコル中に溶液内の加水分解によって分解しうる)。この「自己分解」様式の作用は、現在タンパク質試料調製で使われている既知の試薬によっては示されておらず、界面活性剤が試料調製プロトコルの終了までに自己分解する。このことが、試料調製に界面活性剤を使用する便利な方法を提供する。この方法では、試料調製プロトコルの完了後に界面活性剤を分解する必要がない。
従って、本発明は、式I〜IXの化合物、例えば下記式Iの化合物:
【0009】
【化1】
(I)
【0010】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒になって3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合は任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hでは換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はその塩を提供する。
【0011】
ある実施形態は、試料を式Iの界面活性剤化合物と接触させる工程を含む、試料の分析方法を包含する。特定の実施形態では、本方法は、高速液体クロマトグラフィーで試料を分析する工程を含む。種々の実施形態では、本方法は、質量分析で試料を分析する工程を含む。いくつかの実施形態では、本方法は、試料をイオン対液体クロマトグラフィーで分析する工程を含む。
別の実施形態は、試料を式Iの界面活性剤化合物と接触させる工程を含む電気泳動を行う方法を提供する。電気泳動はゲル電気泳動、例えば、チューブ、スラブゲル及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動であってよい。電気泳動はフリーゾーン電気泳動又はキャピラリー電気泳動であってよい。本方法は、電気泳動後に界面活性剤を分解する工程を含むことができる。本方法は、電気泳動後に酸性溶液、熱、又はその組合せを用いて界面活性剤を分解する工程を含むこともできる。本方法は、界面活性剤を分解した後に試料を精製する工程をさらに含むことができる。
本発明は、式Iの界面活性剤化合物を含む生体試料の分析を行うためのキットをも提供する。本キットは、界面活性剤を分解するための成分、及び必要に応じて分子量標準物質を含むことができる。本キットは染色試薬をも含むことができる。特定の実施形態では、キット内のゲル媒体に界面活性剤が組み込まれている。本キットは、任意にプラスチックのゲル内消化装置、プロテアーゼ等の酵素、例えばセリンプロテアーゼ、例えばトリプシン、若しくはキモトリプシン、又はLys-C、又はグリコシダーゼ、例えば、PNGase Fを含んでよい。本キットは任意にC18浄化チップ、並びに化学標識及び/又はヨードアセトアミド等の試薬を含んでもよい。
さらに、本発明は、生体分子の化学的消化を増強するための方法であって、分子を消化酵素及び式Iの界面活性剤化合物と接触させることによって、分子の化学的消化を増強する工程を含む方法を提供する。
本発明は、本発明の界面活性剤化合物の製造方法、及びその調製で使われる中間体をも提供する。
【0012】
本発明は、消化(溶液内、又は二者択一的に、ゲル内)が完了した後のペプチドの回収方法をも提供する。本方法は、ゲル(ゲル内消化で)からのペプチド抽出が改良されること、及びガラス製品若しくはプラスチック製品による吸収のためか又は沈殿のため(溶液内及びゲル内消化の両方で)のペプチド損失を防止することから、ペプチド収率の劇的な増加をもたらすことができる。ゲルから抽出されるペプチドは一般的に約2,500Daの大きさに制限される。より大きいペプチドはゲル内に大部分が残る。高い疎水性のペプチドの回収も影響を受ける。本方法は、例えばMS/MS等の高度な分析に受け入れられる量で、より大きく疎水性が高いペプチドの回収を増やすことができる。さらに、本方法は、酸に不安定なアミノ酸及び酸に不安定な翻訳後修飾を保護することによって、タンパク質分析の質を高めることができる。
【0013】
本発明は、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一工程にする方法をも提供する。この方法は、タンパク質含有ゲルを、プロテアーゼ及び本発明の化合物を含む水溶液と接触させることによって、ゲル内のタンパク質が可溶化かつアンフォールドして水溶液内でのプロテアーゼによる消化を可能にする工程、及びゲルから抽出された消化ペプチドを含む水溶液を分離する工程を含む。本発明の化合物が存在すると、既知の界面活性剤に比べてゲル内のタンパク質の消化を改善及び加速することができ、同時にゲルからの消化ペプチドの抽出を増強し、さらなる抽出の必要を排除する。
さらに、本発明は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する方法を提供する。本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、下流の試料調製工程及び質量分析を妨げることなく糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する工程を達成することができる。
本明細書では本発明の特定の態様、実施形態、図面及び要素について述べるが、それらは例示であり、限定を意味しない。例えば、当業者は本明細書の特定要素に等価な物を確立できるであろうし、当該等価物は、本発明の精神及び範囲内であるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本発明の特定の実施形態又は種々の態様をさらに示すために含まれる。場合によっては、本明細書で提示する詳細な説明と共に添付図面を参照することによって、本発明の実施形態を最もよく理解することができる。詳細な説明及び添付図面は、本発明の特定の具体例、又は特定の態様を強調するかもしれないが、当業者には、その例又は態様の部分を本発明の他の例又は態様と併用できることが分かるであろう。
【図1】一実施形態による界面活性剤3211の0.025%溶液の40℃における分解プロファイルを示す。
【図2】一実施形態による化合物3116のトリプシン活性に及ぼす効果を示し、化合物3116はトリプシン活性を安定化するが、SDSは30分以内でトリプシン活性を阻害することを示しており;N-α-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステル塩酸塩(BAEE)切断の割合としてトリプシン活性を測定した。
【図3】化合物3116を用いた一実施形態によるタンパク質消化の刺激作用を示し;図3(a)は、3116の非存在下でのウマミオグロビンとトリプシンの一晩のインキュベーション後のHPLCクロマトグラムを示し;図3(b)は、3116の存在下でのウマミオグロビンとトリプシンの1時間のインキュベーション後のHPLCクロマトグラムを示す。
【図4】それぞれ尿素(図4(a))、及び界面活性剤化合物3211(図4(b))を用いた場合のマウス膜タンパク質の消化の全イオンクロマトグラムを示す。
【図5】尿素と界面活性剤化合物3211を別々に用いた場合のマウス膜タンパク質消化のMascot検索結果を示し;尿素消化及び化合物3211消化に特異と同定されたタンパク質の数、並びに重複している同定タンパク質を示してある。
【図6】本発明の一実施形態の界面活性剤(化合物3211)の助けを借りた1時間のゲル内消化プロトコルを示す。
【図7a】本発明の界面活性剤の助けを借りない場合のウシ血清アルブミン(BSA)の一晩消化後の消化混合物中に抽出されたペプチドのスペクトルを示す。
【図7b】本発明の実施形態に従い、本明細書に記載の界面活性剤の助けを借りた場合の1時間消化後の消化混合物中に抽出されたペプチドのスペクトルを示す。
【図8a】界面活性剤3211の助けを借りない場合のマウス膜タンパク質抽出物からの約56kDバンドのゲル内消化の質量スペクトルを示し;タンパク質を一晩インキュベートしてからペプチド抽出プロトコルに従ってペプチドを抽出した。
【図8b】界面活性剤3211の助けを借りた場合のマウス膜タンパク質抽出物からの約56kDバンドのゲル内消化の質量スペクトルを示し;タンパク質消化とペプチド抽出を単一の1時間の工程で完了させ、ペプチドをC18浄化チップで濃縮し、MALDI-TOF質量分析を利用して分析した。
【図9】LC-MS/MSを用いた図8のタンパク質バンドの分析を示し、グラフは、化合物3211の助けを借りずに一晩の消化及び3211の助けを借りて1時間の消化によって同定されたタンパク質の数を示し、どちらかのプロトコルを用いて達成されたそれぞれの同定タンパク質のタンパク質カバー率をも示す。
【図10】マウス心臓膜プロテオームの2D LC-MS/MS分析の結果を示し、3つの異なる条件:尿素、界面活性剤又は尿素/界面活性剤混合物下で膜タンパク質を可溶化し;各条件をトリプシンで消化し、Agilent 1100シリーズLC/MSD Trap SL分光計を用いてオフラインの2D LC-MS/MSで分析した。
【図11a】市販の界面活性剤RapiGestTM(Waters, Inc)と比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3116の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3116で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図11b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3116の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3116で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図12a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3202の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3202で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図12b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3202の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3202で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13b−1】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;RapiGestTM界面活性剤では95℃にてバクテリオロドプシンを可溶化したが、化合物3211による可溶化は室温(約23℃)で遂行し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図13b−2】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3211の比較効果を示し;図13b-2とは対照的にRapiGestTM界面活性剤と化合物3211の両方とも室温で可溶化を行い;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3211で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図14a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3212の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3212で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図14b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3212の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3212で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図15a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3224の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3224で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図15b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3224の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3224で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図16a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3228の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3228で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図16b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3228の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3228で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図17a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3266の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3266で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図17b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3266の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3266で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図18a】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたトリプシンによるミオグロビンの消化を助けるための化合物3271の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3271で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【図18b】市販の界面活性剤RapiGestTMと比べたキモトリプシンによるバクテリオロドプシンの可溶化及び消化を助けるための化合物3271の比較効果を示し;上のクロマトグラムはRapiGestTM界面活性剤支援消化反応(コントロール)であり、下のクロマトグラムは化合物3271で得られた結果であり;典型的な反応とHPLC条件を実施例12で後述する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔詳細な説明〕
多くの分析システムが界面活性剤の存在に敏感である。例えば、SDS及びトリトン界面活性剤は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)中の分析シグナルを抑制する。界面活性剤混入によるシグナル抑制は、MALDI-MSのイオン化/脱離プロセスの物理的及び化学的妨害物に起因すると想定される。天然及び合成ポリマー並びにポリペプチド/タンパク質などの疎水性分子のMALDI-MS分析、及び他の分析に適した界面活性剤組成物及び方法は、生体物質を扱う仕事をする研究者にとって非常に興味深い。
この発明は、植物若しくは動物、又は他の生物由来の組織切片、タンパク質、又はタンパク質抽出物を、分析、例えば質量分析又はクロマトグラフィー用のこれらの試料の調製で多機能な役割を果たしうる化合物又は化合物の混合物を用いて、処理条件で決められた消化時間で処理することに関する。これらの化合物は、疎水性又は他の不溶性化合物の可溶化を助ける界面活性剤として機能することができ、或いはタンパク質をアンフォールドする(変性させる)のを助け、それによってプロテアーゼによるタンパク質消化を加速及び改善することができる。
本明細書で開示する界面活性剤化合物は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化のエンハンサーとして機能することもできる。最後に、本界面活性剤化合物は、ゲル(ゲル内消化において)からのペプチド抽出を改善することによって、また実験機器による吸収のため、又は沈殿のためのペプチドの損失を防止することによって、生成ペプチドの回収を援助することができる。そして、ビルトイン切断可能結合のため、例えば、酸、塩基、熱などによる試料の適切な処理は、本薬剤を2つ以上のより小さい部分に分解させることができ、それらはそれぞれ物的に分析を妨害しない。
結果として生じる分解産物は、元の界面活性剤化合物より容易に試料から除去されることが多い。さらに、本界面活性剤の存在下では、これらの分解産物の存在下でさえ、同濃度のSDSの存在下より有意に分子の質量分析感度が高い。このように、本発明には、界面活性剤の最初の存在と同時除去から恩恵を受ける種々の技術における適用性がある。
【0016】
本発明は、タンパク質及びペプチドの分析と関連する技術上の課題解決に役立つ。多くの分析システムは、試料が水性であるか又は試料中の分析される分子が水性環境内で可溶化される場合に最もよく機能する。例えば、効率的なタンパク質消化のためにはタンパク質を可溶状態にする必要がある。また、質量分析又は液体クロマトグラフィーによる効率的な分析には、可溶状態でペプチドを維持する必要がある。
現在既知の技術を利用した疎水性分子又は有意な疎水性領域がある分子(例えば、タンパク質又はペプチド)の質量分析は困難であるか又は問題がありうる。これらの分子は、水溶液に懸濁させるのが困難であり、或いは本質的に不可能な場合もある。それらは、溶液から疎水性ドメインとして凝集又は沈殿する傾向があり、このドメインは典型的なMS試料調製の水性環境との接触を最小限にするように相互作用する。本明細書に記載の界面活性剤は、これらの作用を防止することができる。
商業的に重要な分子として親水性又は疎水性ポリマーが挙げられるが、疎水性ポリペプチド、例えば膜関連タンパク質の特定構成要素及び細胞成分のような疎水性ポリマーが特に有益である。このような分子を操作するための典型的アプローチは、界面活性剤を適用して、問題の疎水性分子をその天然の環境からより水性の環境に導くことである。界面活性剤は一般的に親水性(又は極性)頭部と疎水性尾部を含む。界面活性剤は、分子上の疎水性領域と相互作用する尾部及び環境内の水と相互作用する極性頭部を疎水性分子の周りに配置することができる。
例えば、受容体タンパク質は細胞の原形質膜と関係するか又はその中に挿入されることが多く、通常本質的に疎水性である(少なくともその脂質関連部分)。界面活性剤は、受容体タンパク質を原形質膜から単離するのに役立ちうる。しかし、特定の界面活性剤は、MALDI-MS分析を妨害することも分かっている。例えばドデシル硫酸ナトリウム、トリトン界面活性剤、及びTween等の普通の界面活性剤の添加は本質的にMALDI-MSのみならずエレクトロスプレーイオン化MSで生成される分子シグナルを排除する。従って、本発明は、本技術分野のこれらの問題及び他の問題を解決する組成物と方法を提供する。
従って、本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質試料調製プロトコルに有意な改善を提供する。本界面活性剤は、可溶化、消化、脱グリコシル化、及びペプチド回収を改善する。本界面活性剤は、液体クロマトグラフィー及び質量分析のような下流の試料調製工程を妨害することなく、タンパク質試料調製プロトコルにこれらの効果をもたらす。さらに、本明細書に記載の界面活性剤は、試料調製プロトコルの完了後に界面活性剤の特別な操作(すなわち、酸分解又は熱分解)を必要としない新規な自己分解様式の作用を提供することができる。
【0017】
A. 酵素適合性分解可能界面活性剤
本発明は、タンパク質消化を劇的に加速する、酸に不安定及び熱に不安定な界面活性剤を提供する。本界面活性剤は、トリプシン活性を阻害することなく、消化を目的としたタンパク質を可溶化及び変性する。本界面活性剤は、膜タンパク質バクテリオロドプシンなどのタンパク質の迅速な消化を可能にする。界面活性剤の酸に不安定及び熱に不安定な部位が溶液からの容易な除去を可能にする。本界面活性剤は消化反応時間内に分解し、ひては別の分解工程を不要にするように界面活性剤を設計し、かつプロトコル条件を最適化することができる。
消化プロトコルを変更する場合(例えば、使用者が推奨時間より短時間でタンパク質を消化する場合)及びいくらかの量の界面活性剤がまだ存在する場合、少量の酸又は熱で容易に該界面活性剤を分解させて、遠心分離、又は固相抽出(例えばVarian, Inc.のOmix(登録商標)チップを用いて)で除去することができる。この酸又は熱分解法は、下流の液体クロマトグラフィー及び質量分析に無害な界面活性剤を与えることができる。実験は、分解した界面活性剤から何ら検出可能な妨害もなく、その次に質量分析で直接分析できることを示した。
本界面活性剤は、タンパク質をアンフォールドしてトリプシンが内部タンパク質部位に近づけるようにすることによって、消化を加速する。さらに、実験データは、本界面活性剤が劇的にトリプシンを安定化することをも示唆している。種々の実験で、トリプシンは本界面活性剤の存在下ではインキュベーションの時間に高レベルの活性を保持するが、本界面活性剤の非存在下ではトリプシンが活性を徐々に失うことが分かった。
界面活性剤の刺激効果は、トリプシンのみに限定されない。本界面活性剤は、キモトリプシンによるタンパク質消化をも加速した。キモトリプシンは、膜タンパク質を消化するためにますます使用されているので、商業的に重要なプロテアーゼである。本界面活性剤は、多くの商業的な重要なプロテアーゼと適合するようであり、一般的プロテアーゼエンハンサーとして広く使用できる。
【0018】
タンパク質消化を改善すること及びトリプシンを安定化することに加えて、本界面活性剤は良い可溶化特性を有する。本界面活性剤の存在下では、水溶液に不溶性の膜タンパク質バクテリオロドプシンが効率的に可溶化された。従って、本界面活性剤は、タンパク質消化のためのみらず、おそらく細胞組織から膜タンパク質及び他の疎水性タンパク質を抽出するためにも有用であろう。
本発明は、消化(溶液内又はゲル内)完了後のペプチドの回収方法をも提供する。この界面活性剤支援法は、ゲル(ゲル内消化で)からのペプチド抽出の改善及びガラス製品若しくはプラスチック製品による吸収のため、又は沈殿(溶液内又はゲル内消化の両方で)のためのペプチド損失を防止することに起因するペプチド収率の増加を可能にする。本方法はまた、消化と抽出を組み合わせて単一工程にすることによって、ゲル内消化のペプチド抽出工程を簡素化し、さらに良いことに、酸に不安定なアミノ酸及び酸に不安定な翻訳後修飾を保護する。さらに、本発明は、糖タンパク質の酵素的脱グリコシル化を増強する方法を提供する。本発明は、下流の試料調製工程及び/又は質量分析を妨害することなくこの増強を果たすことができる。
【0019】
B. タンパク質分析用の熱に不安定な界面活性剤
ペプチド溶液から界面活性剤を除去するためには酸分解が簡単かつ効率的方法であるが、一定条件下では、例えば酸に不安定な翻訳後のタンパク質修飾(PTM)の切断又は酸に不安定なペプチド結合の切断などの望まれない副作用を酸が引き起こしうる。タンパク質分析用の酸に不安定な界面活性剤によって提供される全ての利点を保持するが、界面活性剤構造を分解するために酸を必要としない補助的アプローチを開発し。これらの新しい界面活性剤は優れたタンパク質可溶化特性を有し、タンパク質消化を劇的に改善する。
消化完了後に、単に反応温度を上げるだけで界面活性剤を分解することができる。さらに、熱に不安定な特性は実質的にユニークな「自己分解」様式の作用をもたらす(すなわち、それらは該プロトコル中に溶液内の加水分解によって分解しうる)。タンパク質試料調製のために現在使用されているいずれの試薬によっても示されないこの自己分解様式で、本界面活性剤は、試料調製プロトコルの最後までに自己分解することができる。この様式が、試料調製プロトコル完了後に界面活性剤の分解のため何らさらに操作する必要のない、試料調製のための界面活性剤の便利な使用方法を提供する。
【0020】
例えば、タンパク質消化後の界面活性剤化合物3211の分解は、該界面活性剤が消化プロセス中に分解するので不要である。3211の1%溶液の安定性(10%の分解)は、23℃で8時間、4℃で12日、かつ-20℃の推定値>3年である。しかし、典型的なタンパク質消化プロトコルでは界面活性剤3211の分解率が増す。図1は、界面活性剤3211の0.025%溶液の40℃での分解プロファイルを示す。たった2時間後には未変化の界面活性剤が約5%未満である。
必要な場合、約90℃より高い温度にて数分以内で、或いはより低温(例えば、約65℃)にて約20〜30分以内で界面活性剤を分解させることができる。例えば、十分に頑強な試料を用いて作業する場合、2〜3分間界面活性剤組成物を沸騰すると、熱に不安定な界面活性剤は完全に分解する。他の場合、消化反応時間の最後までに界面活性剤が完全に分解し、例えば、質量分析又はクロマトグラフィーで試料を容易に分析することができる。分解は典型的に中性のpHで起こるので(消化緩衝液内)、本明細書で開示する界面活性剤は、酸に不安定又はアルカリに不安定なPTMをより良く保護することができる。さらに、酸の添加の必要を排除することによって、分解プロトコルがさらにユーザーフレンドリーになる。
問題のペプチドを分解するためには酸が必要ないが、酸を用いて反応pHを下げると、分解プロセスを加速することができ、低温で速く分解させることができる(例えば、約37℃)。このように、本明細書で開示する界面活性剤は、界面活性剤を無害にするための少なくとも2つの異なる手段(温度と酸)を提示する。さらに、界面活性剤が熱分解する能力は、消化後にプロテアーゼを不活化するためのさらなる選択肢を提供し、プロテアーゼの消化形式のさらなる代替形式を提供する。
【0021】
本明細書で使用する場合、下記用語は以下の定義を有する。
語「炭化水素」には、置換若しくは無置換アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール成分が含まれる。
用語「アルキル」には飽和脂肪族基が含まれ、直鎖アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなど)、分岐鎖アルキル基(イソプロピル、tert-ブチル、イソブチルなど)、シクロアルキル (脂環式)基(例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基が挙げられる。用語アルキルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子をさらに含みうるアルキル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルキルは、その骨格内に20個以下の炭素原子を有し(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)、いくつかの実施形態では、6個以下の炭素原子を有する。特定の他の実施形態では、炭素鎖は1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の 炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子をその骨格内に含むことができる。同様に、特定のシクロアルキルは、3〜8個の炭素原子をその環構造内に含み、いくつかの実施形態では、5〜6個の炭素をその環構造内に含む。
さらに、用語アルキルは、「無置換アルキル」と「置換アルキル」の両方を含み、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基を有するアルキル成分を意味する。該置換基として、例えば、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。シクロアルキルは、例えば、上記置換基でさらに置換されていてもよい。「アルキルアリール」又は「アラルキル」成分は、アリールで置換されたアルキル(例えば、フェニルメチル(ベンジル))である。用語「アルキル」は、天然及び非天然アミノ酸の側鎖をも包含する。
用語「アリール」は、0〜4個のヘテロ原子を含んでよい5員及び6員単環芳香族基を包含し、例えばベンゼン、フェニル、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、及びピリミジンなどが挙げられる。さらに、用語「アリール」は、多環式アリール基、例えば、三環式、二環式、例えば、ナフタレン、ベンゾオキサゾール、ベンゾジオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、メチレンジオキシフェニル、キノリン、イソキノリン、ナフチジン、インドール、ベンゾフラン、プリン、ベンゾフラン、デアザプリン、又はインドリジンが挙げられる。環構造内にヘテロ原子がある当該アリールは、「アリール ヘテロ環」、「ヘテロ環」、「ヘテロアリール」又は「ヘテロ芳香族」とも呼ばれる。芳香族環は、1つ以上の環位置にて上述したような置換基、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アルキルアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキル アミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分で置換されていてもよい。アリール基は、多環(例えば、テトラリン)を形成するように、芳香族でない脂環又はヘテロ環と縮合するか又はそれらで架橋されていてもよい。
用語「アルケニル」は、上記アルキルに長さ及び可能な置換で類似しているが、少なくとも1つの二重結合を含む不飽和脂肪族基を包含する。
例えば、用語「アルケニル」として、直鎖アルケニル基(例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等)、分岐鎖アルケニル基、シクロアルケニル(脂環式)基(シクロプロペニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)、アリル又はアルケニル置換シクロアルケニル基、及びシクロアルキル若しくはシクロアルケニル置換アルケニル基が挙げられる。用語アルケニルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子を含むアルケニル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルケニル基は、その骨格内に6個以下の炭素原子を有する(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)。同様に、シクロアルケニル基はその環構造内に3〜8個の炭素原子を有し、さらに好ましくは環構造内に5又は6個の炭素を有しうる。他の実施形態では、炭素鎖はその骨格内に1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子を有しうる。
さらに、用語アルケニルは、「無置換アルケニル」と「置換アルケニル」の両者を包含し、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基があるアルケニル成分を意味する。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキル アミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。
【0022】
用語「アルキニル」は、上記アルキルに長さ及び可能な置換で類似しているが、少なくとも1つの三重結合を含む不飽和脂肪族基を包含する。例えば、用語「アルキニル」として、直鎖アルキニル基(例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル等)、分岐鎖アルキニル基、及びシクロアルキル又はシクロアルケニル置換アルキニル基が挙げられる。用語アルキニルは、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに酸素、窒素、イオウ又はリン原子を含むアルキニル基をさらに包含する。特定の実施形態では、直鎖若しくは分岐鎖アルキニル基はその骨格内に20個以下の炭素原子を有する(例えば、直鎖ではC1-C20、分岐鎖ではC3-C20)。他の実施形態では、炭素鎖はその骨格内に1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の炭素、1〜6個の炭素、又は1〜4個の炭素原子を有しうる。
さらに、用語アルキニルは、「無置換アルキニル」と「置換アルキニル」の両者を包含し、その後者は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素上の水素の代わりに置換基を有するアルキニル成分を意味する。該置換基として、例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分が挙げられる。
アルキル基は低級アルキルであってよい。炭素数を特に指定していない場合、本明細書で使用する「低級アルキル」は上記定義どおりであるが、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。「低級アルケニル」及び「低級アルキニ」は、例えば、1〜6、2〜6、3〜6、1〜4、1〜3、2〜4、3〜4、又は3若しくは4個の炭素原子の鎖長を有しうる。
【0023】
用語「アシル」は、アシル基(CH3CO--)又はカルボニル基を含む化合物及び成分を包含する。用語「置換アシル」は、1つ以上の水素原子が例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分と置き換わっているアシル基を包含する。
用語「アシルアミノ」は、アシル成分がアミノに結合している成分を包含する。例えば、この用語には、アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイド基が含まれる。
用語「アロイル」は、カルボニル基に結合しているアリール又はヘテロ芳香族成分を含む化合物及び成分を包含する。アロイル基の例としてフェニルカルボキシ、ナフチルカルボキシ等が挙げられる。
用語「アルコキシアルキル」、「アルキルアミノアルキル」及び「チオアルコキシアルキル」は、炭化水素骨格の1つ以上の炭素の代わりに、例えば、酸素、窒素又はイオウ原子をさらに含む、上記定義どおりのアルキル基を含む。
用語「アルコキシ」は、酸素原子に共有結合している置換及び無置換アルキル、アルケニル、及びアルキニル基を包含する。アルコキシ基の例として、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ基が挙げられる。置換アルコキシ基の例として、ハロゲン化アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、例えばアルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイド)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分などの基で置換されていてもよい。ハロゲン置換アルコキシ基の例として、限定するものではないが、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、クロロメトキシ、ジクロロメトキシ、トリクロロメトキシ等が挙げられる。
【0024】
用語「アミン」又は「アミノ」は、窒素原子が少なくとも1個の炭素又はヘテロ原子に共有結合している化合物を包含する。用語「アルキルアミノ」は、窒素が少なくとも1個のさらなるアルキル基に結合している基及び化合物を包含する。用語「ジアルキルアミノ」は、窒素原子が少なくとも2個のさらなるアルキル基に結合している基を包含する。用語「アリールアミノ」及び「ジアリールアミノ」は、窒素が少なくとも1又は2個のアリール基にそれぞれ結合している基を包含する。用語「アルキルアリールアミノ」、「アルキルアミノアリール」又は「アリールアミノアルキル」は、少なくとも1個のアルキル及び少なくとも1個のアリール基に結合しているアミノ基を意味する。用語「アルカミノアルキル」は、窒素(これもアルキル基に結合している)に結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を意味する。
用語「アミド」又は「アミノカルボキシ」は、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合そている窒素原子を含む化合物又は成分を包含する。この用語は、カルボキシ基に結合したアミノ基に結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を含む「アルカミノカルボキシ」基を包含する。それは、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合しているアミノ基に結合したアリール又はヘテロアリール成分を含むアリールアミノカルボキシ基を包含する。用語「アルキルアミノカルボキシ」、「アルケニルアミノカルボキシ」、「アルキニルアミノカルボキシ」、及び「アリールアミノカルボキシ」は、カルボニル基の炭素に結合している窒素原子にアルキル、アルケニル、アルキニル及びアリール成分が、それぞれ結合している成分を包含する。
用語「カルボニル」又は「カルボキシ」は、酸素原子との二重結合と結び付いた炭素を含む化合物及び成分を包含する。カルボニルを含む成分の例として、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、アミド、エステル、酸無水物などが挙げられる。
用語「チオカルボニル」又は「チオカルボキシ」は、イオウ原子との二重結合と結び付いた炭素を含む化合物を包含する。
用語「エステル」は、カルボニル基の炭素に結合している酸素原子に結合した炭素又はヘテロ原子を含む化合物及び成分を包含する。用語「エステル」としては、アルコキシカルボキシ基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル等が挙げられる。アルキル、アルケニル、又はアルキニル基は前記定義どおりである。
用語「エーテル」は、2個の異なる炭素原子又はヘテロ原子に結合した酸素を含む化合物又は成分を包含する。例えば、この用語は、別のアルキル基と共有結合している酸素原子と共有結合しているアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を意味する「アルコキシアルキル」を包含する。
用語「チオエーテル」は、2個の異なる炭素又はヘテロ原子に結合したイオウ原子を含む化合物及び成分を包含する。チオエーテルの例として、限定するものではないが、アルクチオアルキル、アルクチオアルケニル、及びアルクチオアルキニルが挙げられる。用語「アルクチオアルキル」は、アルキル基に結合しているイオウ原子に結合したアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を含む化合物を包含する。同様に、用語「アルクチオアルケニル」及び「アルクチオアルキニル」は、アルキニル基と共有結合しているイオウ原子にアルキル、アルケニル、又はアルキニル基が結合している化合物又は成分を意味する。 用語「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は、-OH又は-O-を有する基を包含する。
用語「ハロゲン」は、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素などを包含する。用語「過ハロゲン化」、例えば、過フッ素化とは、一般的に全ての水素がハロゲン原子、例えば、フッ素と置き換わっている成分、例えば、ペルフルオロ炭素を指す。
用語「ポリシクリル」又は「多環式基」は、2個以上の炭素が2個の隣接環に共通している2個以上の環(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール及び/又はヘテロシクリル)を意味し、例えば、この環は「縮合環」である。隣接していない原子を介して連結している環は「架橋」環と称する。多環の各環は、上述したような置換基、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシラート、アルキルカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アミノカルボニル、アルキリチオカルボニル、アルコキシル、ホスファート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキリチオ、アリーリチオ、チオカルボキシラート、スルファート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族成分で置換されていてもよい。
用語「ヘテロ原子」は、炭素又は水素以外のいずれの元素の原子をも包含する。ヘテロ原子の例は、窒素、酸素、イオウ及びリンである。
【0025】
用語「界面活性剤」は、液体の表面張力を低減するか、又は2種の液体間の界面張力を低減する表面作用剤、又は湿潤剤を意味する。界面活性剤は、両親媒性有機化合物、例えば、せっけん様洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウムであってよい。界面活性剤は、有機溶媒と水の両方に溶けうる。本発明の界面活性剤、つまり本明細書に記載の界面活性剤は、式I〜IXのいずれか1つの化合物を意味する。
用語「試料」又は「生体試料」は、本発明の方法で使用しうるいずれの生物学的物質、組織、又は分子をも意味する。例として、限定するものではないが、細胞膜及び巨大分子、例えばタンパク質、及びペプチドが挙げられる。試料は、分析に供しうる生物学的起源に由来する少なくとも1種の生体分子を含む分子又は分子の混合物を含有する溶液又は抽出物であってよい。試料には、粗製又は精製、例えば、単離されたか又は市販の試料が含まれる。さらなる試料として、限定するものではないが、封入体、生体液、生体組織、生体マトリックス、包埋組織試料、及び細胞培養上清が挙げられる。
「試料-界面活性剤複合体」という表現は、本明細書で開示する界面活性剤と試料の成分で形成された複合体を意味する。
用語「電気泳動」は、電場内での分子の移動速度、すなわち、分子の電荷質量比に基づいて分子を分析する種々の方法のいずれをも表す。例として、限定するものではないが、ゲル電気泳動、チューブ、スラブゲル及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動、フリーゾーン電気泳動及びキャピラリー電気泳動が挙げられる。
用語「分析」又は「分析する」とは、例えば、無処置のタンパク質、ペプチド、及びそのフラグメント等の分子を可溶化、分離、検出、単離、精製、及び/又は特徴づけする種々の方法のいずれをも意味する。例として、限定するものではないが、固相抽出;固相マイクロ抽出;電気泳動;質量分析、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)又はエレクトロスプレーイオン化(ESI);液相クロマトグラフィー、例えば、高速液体クロマトグラフィー、例えば、逆相、順相、又はサイズ排除クロマトグラフィー;イオン対液体クロマトグラフィー;液液抽出、例えば、加速流体抽出、超臨界流体抽出、マイクロ波支援抽出、膜抽出、又はソックスレー抽出;沈殿;清澄化;電気化学的検出;染色法;元素分析;エドマン(Edmund)分解;核磁気共鳴;赤外分析;フローインジェクション分析;キャピラリーキャピラリー電気クロマトグラフィー;紫外線検出;及びその組合せが挙げられる。
用語「質量分析検出」は、質量分析の種々の方法のいずれをも意味する。例として、限定するものではないが、エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)が挙げられる。
「変性させる」、「変性する」又は「変性」という用語は相互交換可能に使用され、本明細書に記載の界面活性剤化合物、熱、酸、アルカリ、又は紫外線によって、元の特性、例えば、元の三次元構造、及び特有の生物学的活性の一部を破壊又は減弱させるように、タンパク質又はDNA等の生体分子の三次及び/又は二次分子構造を修飾することを包含する。
用語「消化」及び「化学的消化」という表現は、分子、例えば、生体分子、例えば、タンパク質をより単純な化学物質(フラグメント)に分解するプロセスを指す。消化試薬、例えば酵素、例えば、プロテアーゼによって、又は化学的切断試薬、例えば臭化シアン(CNBr)、又はヒドロキシルアミンによって、化学的消化を行う。プロテアーゼには、特異性プロテアーゼ、例えば、トリプシン及びキモトリプシン、並びに非特異性プロテアーゼ、例えばペプシン及びパパインの両者が含まれる。化学的消化の結果としてアミド結合を切断することができる。ある例では、化学的消化の結果、指定されたか又は特有のアミド結合を切断することができる。
【0026】
(本発明の界面活性剤化合物)
本発明は、下記式Iの化合物:
【0027】
【化2】
(I)
【0028】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-、直接結合であり、又はVがNの場合は存在せず;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒に3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hで置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はそのアニオン若しくは塩を提供する。
【0029】
Qの特定値として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、及びその分岐変形が挙げられる。基Qは置換されていてもよい。例えば、一実施形態では、Qがヒドロキシ置換アルキル、例えば2-プロピルであってよい。ある特有の実施形態では、Qが(C2-C3)アルキルであってよい。他の実施形態では、Qが(C6-C10)アリール、例えば、フェニル又はナフチル;又は(C5-C10)ヘテロアリール、例えば、フリル若しくはピリジルであってよい。さらに他の実施形態では、Qが(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキル、例えば、フェニル-アミノ-エチル又はフェニル-アミノ-プロピルであってよい。特定の実施形態では、(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルの水素が、式IXのように、(C1-C6)アルキル-SO3-M基であってよい。
Yの特定値として、O、S、NH、-O-C(=O)-、-NH-C(=O)-、-S-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、-O-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-S-、-O-C(=S)-O-、-O-C(=S)-NH-、及び-O-C(=S)-S-が挙げられる。
Aの特定値として、アリール、例えばフェニル又はナフチル、ヘテロアリール、例えばフリル又はピリジルが挙げられる。基Aは、YをVに結び付ける直接結合であってもよい。
Vの特定値はCである。Vの別の特定値はNである。基Aは、無置換であてよく、或いは例えば、ハロ又はニトロ基で置換されていてもよい。
Mの特定値はHである。基Mは、アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム、又はカリウムであってもよい。Mの他の値として、テトラアルキルアンモニウム基、例えばテトラエチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウムが挙げられる。基Mは、窒素置換基がアルキル、アリール、又はその組合せである他のアンモニウム基、例えばトリメチルフェニルアンモニウムであってもよい。基Mと関係するスルファート基に適した対イオンとして、当業者に既知の他のカチオンを使うこともできる。当業者は認識するであろうように、本化合物のナトリウム塩は好都合に単離され、これらのナトリウム塩は本発明の多くの実施形態で功を奏する。
Lの特定値として、-X-C(=O)-X-、及び-X-C(=S)-X-(式中、XはO、NH、又はSである)、例えば、カルボナート、チオカルボナート、カルバマート、チオカルバマート、及びその誘導体が挙げられる。
R1の特定値として、4〜20個の炭素原子の長さの無置換又は置換アルキル鎖が挙げられる。一定の特定値として、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル等が挙げられる。R1は、(C2-C20)アルケニル、例えば、1-オクテニル、又は1-ドデシル;(C6-C16)アリール、例えば、フェニル;(C5-C10)ヘテロアリール、例えば、フリル、又はピリジル;(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、例えば、ノノキシルメチル;(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、又は(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキル、例えば、ノニルチオメチルなどの他の基であってもよく;或いは例えば、VがNの場合は存在しなくてもよい。
R2の特定値として、H及び(C1-C20)アルキル、例えば、(C1-C16)アルキル、(C1-C12)アルキル、(C1-C10)アルキル、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルキル、又は(C1-C6)アルキルが挙げられる。1つの特定値はHである。別の特定値はメチルである。
R3の値として、H及び(C1-C20)アルキル、例えば、(C1-C16)アルキル、(C1-C12)アルキル、(C1-C10)アルキル、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルキル、又は(C1-C6)アルキルが挙げられる。1つの特定値はHである。別の特定値はメチルである。
基R2とR3が一緒に結合して3〜8員環を形成してもよい。環は炭素環、又はヘテロ環であってよい。ヘテロ環は、1個以上、例えば、1、2、又は3個のヘテロ原子、例えばN、S、O、又はその組合せを含むことができる。ヘテロ環の窒素は、H、又は置換基、例えば、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、若しくは(C1-C6)アルキル(C6-C16)アリール基で置換されていてもよい。ヘテロ環の例として、限定するものではないが、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、及びピリミジンが挙げられる。
ある実施形態では、Aがアリール基の場合、基-V(R2)(R3)-L-R1が-O-R1であってよい。例えば、ある実施形態では、R1が(C4-C20)アルキル又は(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキルの場合、-V(R2)(R3)-L-R1は-O-R1でありうる。一実施形態では、Qが(C1-C6)アルキルであり、Yが-C=N-であり、Aがフェニルであり、かつ-O-R1がペントキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、又はテトラデシルオキシでありうる。
【0030】
種々の実施形態において、アルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環は、無置換であり、或いは1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の前記定義どおりの置換基で置換されていてもよい。種々の置換基として、(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基が挙げられる。
各可変Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールであってよい。例えば、一実施形態では、RxがHであってよい。別の実施形態では、Rxがメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、又はヘキシル(それぞれ任意に分岐し、任意に不飽和、及び/又は任意に前記基の1つで置換されていてもよい)であってよい。別の実施形態では、Rxが、任意に前記基の1つで置換されていてもよいフェニルでありうる。さらに別の実施形態では、Rxが、任意に前記基の1つで置換されていてもよいベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル等であってよい。
特定の実施形態では、Qは、前記基の1つでは置換されない。例えば、Qは、CO2Hによっては置換されない。
特定の実施形態では、酸の塩を調製することができる。適切な塩として、限定するものではないが、アミン等の塩基性残基の鉱酸又は有機酸塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリ又は有機塩;などが挙げられる。塩には、例えば、無機又は有機酸から形成された親化合物の通常の塩及び四級アンモニウム塩が含まれる。塩には、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などから誘導される当該塩が含まれる。有機酸から調製される塩として、例えば酢酸、2-アセトキシ安息香酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ゲンチシン酸、グルカロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシマレイン酸、イセチオン酸、イソニコチン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸(1,1'-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))、パントテン酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、サリチル酸、スルファニル酸、トルエンスルホン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、重酒石酸などの有機酸から誘導される当該塩が挙げられる。特定の化合物は、種々のアミノ酸と塩を形成することもできる。
【0031】
本発明の化合物は、式II〜IXの特定化合物であってもよい。例えば、特定化合物式Iが式II〜VIIIの特定化合物でもありうる。本発明の特定の具体的化合物、すなわち式I〜IXの化合物については、以下の実施例セクションに示す化合物を参照されたい。
一実施形態では、式Iは下記式IIの化合物:
【0032】
【化3】
(II)
【0033】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。一実施形態では、R1がヘプチル又はウンデシルであり、R2とR3が両方ともメチルであり、ZがO、XがNHであり、Qが(C1-C6)アルキル、例えば、プロピルであり、かつMがHである。一部の実施形態では、R1がいずれかのアリール又はヘテロアリール基で置換されている。アリール又はヘテロアリール基が置換されていてもよい。特定の実施形態では、アリール又はヘテロアリール置換基が、R2及びR3が結合している炭素からα位(1個の炭素離れて)にある。ある具体的な実施形態では、R2とR3が両方ともHであり、かつR1が、フェニルで置換されているメチルであり、該フェニルは、ヘキシルオキシで置換されている。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式IIIの化合物:
【0034】
【化4】
(III)
【0035】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式IVの化合物:
【0036】
【化5】
(IV)
【0037】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつR4及びR5がそれぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルである)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式Vの化合物:
【0038】
【化6】
(V)
【0039】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIの化合物:
【0040】
【化7】
(VI)
【0041】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおり)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIIの化合物:
【0042】
【化8】
(VII)
【0043】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつR2及びR3に結合している炭素が、式VIIに示すベンゼン環のオキシ置換基に対してオルト、メタ、又はパラ配向であってよい)である。
別の実施形態では、式Iの化合物が下記式VIIIの化合物:
【0044】
【化9】
(VIII)
【0045】
(式中、可変値は式Iについて述べたとおりであり、かつ式VIII中のベンゼン環のR1-O-置換基が、該ベンゼン環のイミン置換基に対してオルト、メタ、又はパラ配向であってよい)である。
別の実施形態では、界面活性剤化合物が下記式IXの化合物:
【0046】
【化10】
(IX)
【0047】
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、又は(C5-C10)ヘテロアリールであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、-O-C(=Z)-X-、又は-O-(CH2)1-6-であり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Zは、O又はSであり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
各Mは、独立にH、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず、又はR2とR3が一緒に環を形成している場合は任意にHであってよく;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒に3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリール、又は-C(アリール)2(アリール)-OR1の場合は任意に-O-R1であってよく;
R4は、-(C1-C12)アルキル-SO3-Mであり;
R5は、H又は-(C1-C12)アルキル-SO3-Mであり;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hによっては置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである)
又はその塩である。
【0048】
ある具体的実施形態では、式Iの酸に不安定な界面活性剤として、下記化合物3116が含まれる。
【0049】
【化11】
(3116)
【0050】
化合物3116を酸に不安定な界面活性剤として用いて、タンパク質又はペプチドの可溶化及び変性を促進することができる。化合物3116はプロテアーゼを安定化し、トリプシンのタンパク質分解活性を増強する。化合物3116がトリプシン活性に及ぼす効果を示す図2を参照されたい。標準的な消化条件下で、合物3116はトリプシン活性を安定化したが、SDSは30分以内でトリプシン活性を阻害した。さらに、変性後、化合物3116はクロマトグラフ分離及び質量分析を妨害しない。
例えば、標準的プロトコルを使用するミオグロビンの消化は一晩の消化を必要とする。ある実験では、化合物3116の存在下で1時間以内にミオグロビンが大部分消化された。ウマミオグロビンを単独及び別々に0.01%の化合物3116の存在下でトリプシンで50:1比にて37℃で1時間消化した。図3は、ミオグロビン消化のHPLCクロマトグラム:図3aは3116なしの標準プロトコル、図3bは3116の存在下の消化を示す。図3中のピークは、ペプチド又は一部の消化フラグメントを示す。クロマトグラムから観察できるように、標準プロトコルの結果は消化不十分となったが、化合物3116の存在下の消化は多数の(>15)同定可能ピークを生じさせた。
別の実施形態では、式Iの酸に不安定及び熱に不安定な界面活性剤として化合物3211及び3212が含まれる。
【0051】
【化12】
(3211);
【0052】
【化13】
(3212)
【0053】
化合物3211及び3212を熱に不安定及び/又は酸に不安定な界面活性剤として用いてペプチドの可溶化及び変性を促進することができる。本明細書に記載のいずれの化合物でも、所望の特性及び使用する条件に応じて、該化合物のスルホン酸形を利用するか、或いはスルホン酸塩を利用することができる。例えば、特定の緩衝溶液内では、本明細書で開示する化合物は、例えばナトリウム塩などのアルカリ金属塩に変換するか、又はアルカリ金属塩と平衡状態になるだろう。
別の特定実施形態では、式Iの酸に不安定な界面活性剤として化合物3266が含まれる。
【0054】
【化14】
(3266)
【0055】
化合物3266は、グリコシダーゼと共に生体物質を脱グリコシル化するための助剤として使用できる、酸に不安定な界面活性剤である。
本明細書に記載の界面活性剤は、質量分析用のタンパク質試料調製において実質的な改善を提供する。従って、これらの界面活性剤は、ペプチド試料の分析及び同定のための消化酵素の使用に関与する当該界面活性剤に有意な利点を与える。この利点には、分解した界面活性剤の成分が分析手順で妨げにならないように界面活性剤を分解する能力が含まれる。
【0056】
(界面活性剤の使用方法)
細胞のタンパク質抽出物は、典型的に直接質量分析のためには複雑すぎる。タンパク質の複雑さを低減するための2つの主要アプローチとしてゲル内分画及び液体クロマトグラフィーによる分画が挙げられる。本明細書で開示する界面活性剤化合物は、試料消化の前と後の両方でタンパク質の複雑さを低減する両方法に役立ちうる。本界面活性剤化合物は、タンパク質の可溶化及び消化を助け、かつ分画及びクロマトグラフィー、並びに他の分析手法を妨害する他の薬剤の代用品として使用することができる。
本発明は、タンパク質の試料調製及び分析の方法を提供する。本方法は、試料分画後に、例えば1D又は2D SDS-PAGEを使用するゲル電気泳動を含めることができる。分離されたタンパク質を次に切除してから個々に、本明細書に記載の界面活性剤化合物と共に、例えば、化学的消化剤又はプロテアーゼ、例えばトリプシンで消化して、ペプチド試料の混合物を与えることができる。次にこれらの試料を種々の技術、例えば、HPLC又は質量分析、例えばMALDI-TOF質量分析で分析及び特徴づけすることができる。本明細書に記載の界面活性剤は、現存するゲル内消化プロトコルに重要な利点をもたらす。本界面活性剤は、タンパク質消化助剤として、同時にペプチド抽出剤として作用するので、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一かつ短い工程にすることができる。
【0057】
本発明の方法は、本発明の界面活性剤に助けられたタンパク質消化後にクロマトグラフ分離を含めることもできる。次に分離されたピークを質量分析、例えばESIで分析することができる。高処理能力形式でLC/MS法を実施することができる。ペプチドの質量対電荷(m/z)比を記録してMS/MS分析に合わせて選択することができる。次にペプチドを元のペプチド配列の代表的なフラグメントに解離することができる。
ある態様では、本発明は、試料を前記式I〜IXのいずれか1つの界面活性剤化合物と接触させ、該試料を分析することによって、試料を分析する方法を提供する。特定実施形態では、試料を本発明の界面活性剤と接触させる前か後に加熱してよい。
種々の実施形態において、試料を分析する工程は電気泳動を含む。特定の実施形態では、電気泳動はゲル電気泳動、フリーゾーン電気泳動、又はキャピラリー電気泳動である。電気泳動は、チューブ、スラブゲル、及びキャピラリー形式のポリアクリルアミドゲル電気泳動などのポリアクリルアミドゲル電気泳動であってよい。
他の実施形態では、試料を分析する工程は、質量分析、高速液体クロマトグラフィー、イオン対液体クロマトグラフィー、液液抽出、紫外線検出、又はその組合せを含む。
種々の実施形態では、ポリアクリルアミドゲル電気泳動のため加水分解性界面活性剤を用いてタンパク質混合物と複合体を形成することができる。電気泳動分離後、必要に応じてゲルを酸溶液で処理するか、又はゲルを加熱することによって、タンパク質から界面活性剤を取り除くことができる。タンパク質混合物を従来の分離方法、例えば液液抽出、固相抽出又は液体クロマトグラフィーでさらに精製してもよい。
【0058】
本発明は、試料の分析を行うためのキットをも提供する。本キットは、本明細書に記載の界面活性剤化合物、使用説明書、及び必要に応じて界面活性剤を分解するための溶液、ゲル、分子量標準物質、及び/又は染色試薬を含む。
本発明は、簡素化され、なおさらに効率的なゲル捕捉ペプチドの抽出方法を提供する。本発明の界面活性剤は、ゲル内消化プロトコルにおけるペプチドの全体的収率を大いに改善する。本界面活性剤は、標準的なペプチド抽出プロトコルを超える重要な利点をも提供し、本界面活性剤は、標準的なペプチド抽出(すなわち、TFA及び/又はアセトニトリルによる)後のゲルに普通は残存する長くかつ/又は非常に疎水性のペプチドの抽出を可能にする。本方法は、他のメカニズム、例えば実験機器(すなわち、プラスチックのチップ及び反応管、ガラス製ピペット等)によるペプチドの吸収のため又はペプチドの沈殿によるペプチド損失を防止することによって、ペプチドの収率を高めることもできる。ゲル内及び溶液内の両消化プロトコルが、本明細書に記載の方法のこれらの有利な特性を享受することができる。
特定実施形態では、本発明の界面活性剤を使用する化学反応は化学的消化である。一実施形態では、化学的消化は、分子、例えば生体分子をプロテアーゼと接触させることによって起こる。典型的プロテアーゼとして、限定するものではないが、特異的プロテアーゼ、例えばトリプシン、キモトリプシン、Lys-C、Glu-C(V8プロテアーゼ)、AspN、Arg-C、黄色ブドウ球菌(S. Aureus)、及びクロストリパイン(Clostripain)、並びに非特異的プロテアーゼ、例えば、ペプシン、及びパパインが挙げられる。特定の実施形態では、プロテアーゼを例えば、固定化酵素反応器で固定化する。或いは、CNBrとの反応又はヒドロキシルアミンとの反応によって消化を達成してよい。さらに、特定の実施形態では、消化は、本発明の界面活性剤と異なる1種以上の界面活性剤、例えば、SDSの存在下又は非存在下で電気泳動ゲル内で起こりうる。
【0059】
本発明の界面活性剤による不溶性試料の可溶化は、典型的に不溶性なため既知の方法論では消化し難い試料の消化を可能にする。さらに、本界面活性剤は、少量のトリプシンの使用でタンパク質を消化できるようにする。例えば、トリプシン対全タンパク質の比は、典型的に1:50〜1:20である。しかし、一部の実施形態では、本明細書に記載の界面活性剤の存在下では、トリプシン対全タンパク質の比が1:100以下であってよい。さらに、本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、トリプシンの消化速度が増加し、例えば有機溶媒の添加又は過剰な熱の使用などの既知の方法論で観察されるより不完全な切断が少なくなる。
さらに、尿素を可溶化剤として利用した消化を長時間進行させると、尿素がタンパク質に作用してタンパク質を変更するので、ペプチドフラグメントの分析をより困難にする。この点に関して、本発明の界面活性剤は、消化させる時間の長さにかかわらず、タンパク質を変更しない。
本発明は、可溶化剤として尿素を含める標準的な溶液内消化プロトコルに対して有利な改善を提供する。使用者には、尿素と本明細書に記載の界面活性剤を混ぜて、該混合物内でタンパク質を消化するという選択肢がある。本界面活性剤は、尿素の存在下でその有用な特性(可溶化、変性活性、及びペプチド保護)を保持する。尿素/界面活性剤混合物内でタンパク質を消化すると、尿素又は界面活性剤だけの存在下より、同定タンパク質数を増やし、タンパク質毎の生成ペプチド数を増やし、かつペプチドの回収を増やすことができる。本明細書に記載の方法の1つの特に魅力的な特徴は、消化プロトコルを変える必要がないことである。本界面活性剤は標準的な溶液内消化プロトコルと完全に適合しうる。
【0060】
特定の実施形態では、本明細書に記載の界面活性剤を使用すると、化学反応を促進するか又は別の薬剤の化学的性質を高めることができる。該化学反応及び化学的性質として、より完全な反応又は消化、高い消化効率、高い消化収率、速い消化速度、及び有用性の向上、例えば分光計又はクロマトグラフ分析法における妨害の減少が挙げられる。
化学反応後、酸性溶液による分解などの種々の方法で界面活性剤から試料を分離することができる。例えば液液抽出、固相抽出又は液体クロマトグラフィー等の従来の分離方法で試料をさらに精製することができる。化学反応後に容易に界面活性剤から試料を分離するこの能力を種々の用途で使用することができ、分離科学に有意な利益をもたらす。
さらなる実施形態は、生体分子の化学的消化を増強するための方法であって、該分子を消化酵素、例えばプロテアーゼ、及び本発明の界面活性剤と接触させることによって、分子の化学的消化を増強する工程を含む方法を提供する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の界面活性剤と、使用説明書とを含む、生体分子の化学的消化を増強するためのキットを提供する。特定の実施形態では、生体分子がタンパク質である。一部の実施形態では、生体分子の化学的消化を増強するためのキットがさらに消化酵素、例えば、プロテアーゼ及び/又はグリコシダーゼを含む。適切なプロテアーゼとして、限定するものではないが、トリプシン、キモトリプシン、Lys-C、Glu-C(V8プロテアーゼ)、AspN、Arg-C、黄色ブドウ球菌(S. Aureus)、及びクロストリパイン(Clostripain)、ペプシン、及びパパインが挙げられる。適切なグリコシダーゼはPNGase Fでありうる。
【0061】
種々の実施形態では、界面活性剤分解の生成物が質量分析検出、高速液体クロマトグラフ分析、及びプロテアーゼ活性と適合性である。特定の実施形態では、化学的消化又は化学的変化と化学的消化の組合せによってタンパク質フラグメントが生成される。特定の具体的実施形態では、タンパク質フラグメント又はペプチドは、プロテアーゼ及び本明細書に記載の界面活性剤との接触によって消化されたタンパク質の生成物である。
さらなる実施形態では、本発明の化合物を一次元及び二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動で使用しうる。二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)は、タンパク質の混合物の分析のために常用されている方法である。(U. K Laemmli, Nature 227, 680-685, 1970)。まず等電点電気泳動などの電気泳動の後、タンパク質の大きさに基づいて二次元分離でタンパク質を分離する。
2D-PAGEで最も多く使われる洗浄剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、タンパク質と安定した非共有複合体を形成する。SDS複合タンパク質は同一の電荷密度を有するので、それらは電場内でそれらの大きさに応じて分離する。この手法は、複雑なタンパク質混合物を、ゲルから切除して他の手法でさらに同定しうる数百の個々の成分に分離することができる。1つのこのような手法が質量分析である。
電気泳動から除去したタンパク質の直接分析は困難なことが多い。通常、試料は、質量分析を邪魔する洗浄剤濃度を含む。例えばMALDI分析では、この問題は、洗浄剤がタンパク質又はペプチドと凝集又は会合する傾向をもたらし、マトリックス結晶への適切な組込みを妨げることとなる。MALDI-MSによる分析の前に特別な工程を取り入れて妨害を除去しなければならない。該手段の例として、限定するものではないが、PAGEゲルのエレクトロブロッティング及び例えば、n-オクチル-グルコシドのようなMALDIに耐性な洗浄剤と洗浄剤SDSを交換することが挙げられる。代替アプローチは、SDS-PAGEで常用されている洗浄剤に代えて、本明細書で開示する、酸に不安定な界面活性剤、例えば、下記実施例で開示する界面活性剤を使用することである。
【0062】
さらに、タンパク質の大きさと量を見積もる能力がSDS-PAGEの種々の応用をもたらした。しかし、この技術にはいくつかの欠点がある。例えば、SDSは質量分析検出の感度を妨げるので、SDS-PAGE分離から得た試料を質量分析を利用してモニター及び分析することは非常に困難である。さらに、SDSはエマルションを形成する界面活性剤なので、SDS/タンパク質複合体からSDSを分離することは非常に困難である。本発明の化合物は、質量分析の前にSDSを使用することに付随する問題を解決するための溶液を提供する。
界面活性剤が最初に存在して究極的には除去されることから恩恵を受ける応用において本発明の界面活性剤を使用することができる。特に、本明細書に記載の界面活性剤は、ペプチド及びタンパク質の可溶化、分解、消化、分離、精製、分析、及び/又は特徴づけに有用である。
本発明の界面活性剤は、ゲル内タンパク質消化のために特に有益である。本界面活性剤の使用に基づいたゲル内消化方法は、SDSを基礎としたゲル電気泳動と完全に適合性である。SDS-PAGE内でタンパク質を分解した後、問題のタンパク質を含むゲル切片をゲルからカットし、標準的な洗浄手法でSDSを除去する。本界面活性剤、又は本界面活性剤とトリプシン、若しくは他のプロテアーゼを含有する溶液にゲル切片を浸す。すると、本界面活性剤は3つの方途で作用しうる。第1に、本界面活性剤は、固定化工程中にゲル内に沈殿したタンパク質を可溶化することができる。第2に、本界面活性剤は、タンパク質をアンフォールドして、プロテアーゼがタンパク質の切断部位に容易に近づけるようにすることができる。第3に、本界面活性剤は、生成されたペプチドをゲルから効率的に抽出することができる。
一つの特別な利点は、本界面活性剤が、標準的なペプチド抽出プロトコル(すなわち、TFA及びアセトニトリル)で処理したゲル内に典型的に残存する長くかつ/又は非常に疎水性のペプチドを抽出できることである。さらに、本界面活性剤の使用は、実験機器(すなわち、ピペットチップ及び反応管)によるペプチド吸収を防止するか、又は不十分な溶解度のためのペプチド沈殿を防止することによって、抽出後の完全なペプチド回収を保証する。
本発明の界面活性剤は、現存するゲル内消化プロトコルに重要な利点を提供する。タンパク質消化助剤として、同時に、ペプチド抽出剤として作用するので、本界面活性剤により、ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の効率的な工程にすることができる。この工程は1時間で完了しうる。
これらの利点が本界面活性剤をゲル内試料調製を助けるための理想的な万能剤にする。本界面活性剤を使用すると、試料調製に必要な時間と労力を減らすのみならず、配列カバー率及び確率スコアを高めることとなる。いくつかの実施形態では、消化反応中又は下流の試料調製工程中(すなわち、C18浄化チップ上の浄化前のTFAによってpHを下げている間)に本界面活性剤は自己分解するので、界面活性剤のための別の分解工程が必要ない。分解した界面活性剤は、液体クロマトグラフィー及び質量分析を妨害せず、さらに界面活性剤の、包括的タンパク質分析法との適合性を確立する。
【0063】
本界面活性剤は、溶液内消化プロトコルとも適合する。第1に、本界面活性剤はタンパク質を効率的に可溶化する。可溶化は効率的なタンパク質消化に必要である。第2に、本界面活性剤はタンパク質をアンフォールドして、プロテアーゼがタンパク質の切断部位に容易に近づけるようにする。第3に、本界面活性剤はプロテアーゼを安定化し、標準法よりタンパク質の消化効率をさらに高めることとなる。さらに、かつおそらく最も有意義なことに、本界面活性剤は、消化工程で生成されたペプチドの堅調な回収を保証する。本界面活性剤は、実験機器によるペプチド吸収を防止することによってこの結果を果たす。ペプチド損失は、溶液内消化プロトコルで見られる一般的に観察される影響であり、潜在的に同定タンパク質の数、個々のタンパク質配列カバー率、及び質量分析からのデータの減少につながる。
本明細書に記載の界面活性剤のさらなる利点は、界面活性剤の濃度を調整することでペプチドの沈殿を回避し、これによって回収工程中のペプチドの損失を低減又は排除できることである。RapiGestTMのような現在使用されている酸に不安定な界面活性剤には、濁った溶液又は懸濁液の形成(沈殿を通じてペプチド損失をもたらす)などのいくつかの欠点がある。また、現在使用されている酸に不安定な界面活性剤には、完全タンパク質、特に膜タンパク質の可溶化のために煮沸が必要なものもある。本明細書に記載の界面活性剤は、問題のある膜タンパク質でさえ可溶化することができる。さらに、現在使用されている界面活性剤は、温和な条件(すなわち、室温)下では酵素活性をあまり強化できない。他の現在使用されている酸に不安定な界面活性剤は、タンパク質消化の低効率の強化を示す。例えば、界面活性剤3211が1時間でミオグロビンの完全な消化をすることができる条件下では、PPS SilentTM界面活性剤(Protein Discovery, Knoxville, TNから入手可能)は5%しか消化できなかった。最後に、現在使用されている市販の試薬は、プロテアーゼ消化後に追加の分解工程を必要とするが、本明細書に記載の界面活性剤は、消化条件下で消化の最後までに分解できるので、試料調製を大いに簡素化する。
【0064】
(一般的調製方法)
ウレタン(又はカルバマート)の調製のためいくつかの方法が存在する。本明細書に記載の化合物を調製するために使用する方法は、アルコールの反応性p-ニトロフェニルカルボナートへの変換後、アミンを添加してウレタンを与える工程を含む。当業者には、化合物を調製しうる他の方法があることが容易に分かるだろう。例えば、アルコールを1,1'-カルボニルジイミダゾールで処理してイミダゾリドを与えた後、アミンを添加することができるだろう。アミンは、例えば、有機基を介してアミンに連結したスルホン酸ナトリウム塩であってよい。アルコールをホスゲン又はホスゲン等価物(例えば、ジホスゲン又はトリホスゲン)で処理してクロロホルマートを与えた後、アミンを添加してもよい。或いは、アルコールを塩化カルバモイルと化合させてウレタンを与えることができる。本発明の範囲を越えずに、多くの変更及び修正を為しうることを理解すべきである。
【0065】
本発明の化合物の一つの調製方法を下記スキーム1の手順によって示すことができる。
スキーム1
【0066】
【化15】
【0067】
ここで、化合物AのGpは、エステルのオキシ置換基、例えばアルキル、アリール、ヘテロアリール等であってよいいずれの基でもよく;Rは、適切なグリニャール試薬を形成するいずれかの有機基、例えば式Iの定義どおりのR2基であり;かつR1及びQは式Iの定義どおりである。所望の生成物、中間体の反応性、及び保護基の必要性又は利便性に応じて、スキーム1の多くの面を変更して式I〜IXの化合物を調製することができる。上述したように、カルバマートの調製への多くの他のアプローチを取り入れることができる。
本発明の合成方法は、一定の場合に異性体を生成することがある。本発明の界面活性の使用方法は、これらの異性体の分離が常に必要なわけではなが、所望により、技術上周知の方法で該分離を達成することができる。例えば、分取用高速液体クロマトグラフ法を、例えば、キラル充填したカラムを用いて、異性体精製に使用することができる。
さらなる背景情報は、以下の刊行物で見つかる:Kyte et al., J. Mol. Biol. (1982) 157(1):105-32; March's Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms, and Structure, 5.sup.th Ed. by Michael B. Smith and Jerry March, John Wiley & Sons, Publishers; Wuts et al. (1999) Protective Groups in Organic Synthesis, 3.sup.rd Ed., John Wiley & Sons, Publishers; Behforouz, M.; Kerwood, J. E. アルキル and アリール Sulfenimides. J. Org. Chem., 34 (1), 51-55 (1969); and Harpp, D. N.; Ash, D. K.; Back, T. G.; Gleason, J. G.; Orwig, B. A.; VanHorn, W. F. A New Synthesis of Unsymmetrical Disulifdes. テトラhedron Letters, 41, 3551-3554 (1970)。
以下の実施例は、上記発明を実証することを意図しており、本発明の範囲を制限するものと解釈すべきでない。当業者には、実施例が本発明を実施できるであろう多くの他の使途を示唆していることが容易に分かるだろう。本発明の範囲を越えずに多くの変更及び修正を為しうるものと解釈すべきである。
【実施例】
【0068】
実施例1. 化合物3116の調製
【0069】
【化16】
(3116)
【0070】
ラウリン酸メチル(2.0g,9.33mmol)を20mLの無水THFに溶かし、この溶液を氷水浴内で冷却した。THF中のメチルマグネシウムクロリドの3M溶液(6.5mL,19.6mmol)を注射器で滴下し、この撹拌反応混合物を周囲温度に戻して4時間反応させた。反応混合物を50mLの2M硫酸水溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して2.0g(収率99%)の2-メチル-2-トリデカノールを無色油として得た。
MS(ESI+): m/z 215.4 (MH+)。
この2-メチル-2-トリデカノール(0.36g,1.68mmol)を1mLのピリジンと2mLのTHFに溶かした。溶液を氷水浴内で冷却し、p-ニトロフェニルクロロホルマート(340mg,1.68mmol)を添加し、反応を周囲温度に戻して一晩反応させた。反応混合物を回転エバポレートして残留物をジクロロメタンと水に分配した。水相を2回ジクロロメタンで抽出し、混ぜ合わせた有機抽出物を次に無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、回転エバポレートして濃厚油を得た。ジクロロメタンを用いてシリカゲル上で粗生成物をクロマトグラフ処理して0.13g(収率20%)の2-メチル-2-トリデカノールp-ニトロフェニルカルボナートを得た。
5mLのTHF中の2-メチル-2-トリデカノールp-ニトロフェニルカルボナート(0.11g,0.29mmol)の溶液に2mLの水中の3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(0.15g,0.93mmol)の溶液を加えた。反応混合物を50℃で12時間加熱した。反応混合物を濃縮して粗製固体残留物を得、ジクロロメタン-メタノールの4:1混合物を用いてシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して70mg(収率60%)の化合物3116をオフホワイトの固体として得た。MS(ESI-): m/z 378.6 (M-H)-。
化合物3116への合成経路を下記スキーム2に示す。
スキーム2.
【0071】
【化17】
【0072】
実施例2. 化合物3211及び3212の調製
【0073】
【化18】
(3211)
【0074】
2-フルアルデヒド(13.4g,0.14 mol)を500mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテルの1.0M溶液,150mL,0.15mol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物をブタノール、次に水でクエンチし、混合物を焼結ガラス漏斗に通してろ過し、濃縮した。ヘプタン-酢酸エチルの4:1混合物を用いて粗生成物をシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して29.7g(収率89%)の1-(フラン-2-イル)ウンデカ-1-オールを得た。
1-(フラン-2-イル)ウンデカ-1-オール(4.0g,16.8mmol)を150mLの乾燥THFに溶かして0℃に冷却した。p-ニトロフェニルクロロホルマート(6.76g,33.5mmol)を加え、撹拌して溶かした。ピリジン(15mL)を20分かけて滴下し、反応を1時間撹拌してからTLC(7:3のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をろ過してピリジンHCl塩を除去した。反応混合物をエバポレートして油を得、アセトニトリルと共に2回エバポレートし、100mLのヘプタンと摩砕し、ろ過して沈殿物を除去した。ヘプタンろ液をエバポレートして粗製油を得た。3-アミノプロパンスルホン酸、テトラブチルアンモニウム塩を100mLのTHFに溶かして粗製油に加えた。反応を1時間撹拌してからTLC(9:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得、80mLの水に溶かしてからろ過して沈殿物を除去した。結果として生じた溶液を160gのカチオン交換樹脂(Diaion(登録商標)UBK 550, Mitsubishi Chemical Corporation)に通して生成物をナトリウム塩に変換した。適切なフラクションを混合し、凍結乾燥器で凍結乾燥した。そして、ふわふわした黄色の固体を、ジクロロメタン、次に85:15のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理して5.6g(収率78%)の化合物3211を白色固体として得た。
【0075】
【化19】
(3212)
【0076】
p-アニスアルデヒド(6.12g,45.0mmol)を250mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテル中の1.0M溶液,50mL,50mmol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物をブタノール、次に水でクエンチし、焼結ガラス漏斗に通して混合物をろ過してからエバポレートした。4:1のヘプタン-酢酸エチルの混合物を用いて粗生成物をシリカゲル上クロマトグラフィーで精製して10.8g(収率86%)の1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-1-オールを得た。
1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-オール(2.0g,7.2mmol)を40mLの乾燥THFに溶かして0℃に冷却した。p-ニトロフェニルクロロホルマート(2.17g,10.8mmol)を添加し、撹拌して溶かした。ピリジン(5mL)を20分かけて滴下して反応を2時間撹拌してからTLC(7:3のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をろ過してピリジンHCl塩を除去した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得、4:1のヘプタン-酢酸エチルを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。結果として生じた1-(4-メトキシフェニル)ウンデカン-1-オールp-ニトロフェニルカルボナートを50mLのTHFに溶かして3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(1.35g,8.38mmol)で処理した。数滴の水を加えて反応物を溶かした。反応を一晩撹拌してからTLC(9:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得てからジクロロメタン、次に4:1のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。適切なフラクションを混合し、ろ過し、エバポレートして2.0g(収率60%)の化合物3212を白色固体として得た。
【0077】
実施例3. 化合物3266の調製
【0078】
【化20】
(3266)
【0079】
3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(3.15g,19.0mmol)を100mLの乾燥THFに溶かして溶液を0℃に冷却した。冷却溶液にドデシルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテル中の1.0M溶液,20mL,20mmol)を滴下し、反応を一晩撹拌した。TLC分析(4:1の酢酸エチル-ヘプタン)が反応の完了を示した。反応混合物を水でクエンチし、Celite(ケイソウ土)の層に通して混合物をヘプタン-酢酸エチル洗浄液でろ過してからエバポレートした。3:1のヘプタン-酢酸エチルの混合物を用いてシリカゲル上クロマトグラフィーで粗生成物を精製して5.1g(収率80%)の1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オールを得た。
1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オール(2.3g,6.8mmol)を20mLの乾燥THFに溶かし、この溶液にp-ニトロフェニルクロロホルマート(1.64g,8.2mmol)を添加後、ピリジン(2.0mL)を加えた。反応を3時間撹拌してからTLC(4:1のヘプタン-酢酸エチル)で分析した。反応混合物をCeliteに通してヘプタン-酢酸エチル洗浄液でろ過した。ろ液をエバポレートして粗製油を得、85:15のヘプタン-酢酸エチルを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。結果として生じた1-(3,4-ジメトキシフェニル)ウンデカン-1-オールp-ニトロフェニルカルボナート(1.54g,3.1mmol)を15mLのTHFに溶かし、2mLの水中の3-アミノプロパンスルホン酸、ナトリウム塩(0.64g,4.0mmol)の溶液で処理した。反応を一晩撹拌してからTLC(4:1のジクロロメタン-メタノール)で分析した。反応混合物をエバポレートして粗製油を得てから85:15のジクロロメタン-メタノールを用いてシリカゲル上でクロマトグラフ処理した。適切なフラクションを混合し、エバポレートして0.48g(収率30%)の化合物3266を白色固体として得た。
【0080】
実施例4. 溶液内タンパク質のためのトリプシン支援タンパク質消化のプロトコル
界面活性剤支援溶液内消化プロトコルを尿素支援プロトコルと比較し、両プロトコルを用いて、マウス心臓由来の膜タンパク質のプロテオーム(タンパク質のセット)を同定した。尿素及び界面活性剤化合物3211をそれぞれ用いてマウス膜タンパク質を別々に消化した。
界面活性剤支援プロトコル:
マウス心臓膜抽出物の試料50μgから-80℃で20分間4体積の氷冷アセトンを用いてタンパク質を沈殿させた。沈殿した膜タンパク質混合物を遠心分離で収集し、このタンパク質ペレットを300μLの冷却アセトンで洗浄した。ペレットを20μLの0.2%界面活性剤3211(50mMの炭酸水素アンモニウム)で可溶化してから50mMの炭酸水素アンモニウムで93.6μLの体積に希釈した。希釈後、1μLの0.45M DTTを加え、試料を20分間56℃でインキュベートした。DTT還元後、2μLの0.7Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。
アルキル化後、さらに1μLの1%界面活性剤3211を添加後、3.5μLのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中0.5μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
尿素支援プロトコル:
マウス心臓膜抽出物の試料50μgから-80℃で20分間4体積の氷冷アセトンを用いてタンパク質を沈殿させた。沈殿した膜タンパク質混合物を遠心分離で収集し、このタンパク質ペレットを300μLの冷却アセトンで洗浄した。ペレットを15μLの8M尿素で可溶化してから50mMの炭酸水素アンモニウムで93.6μLの体積に希釈した。希釈後、1μLの0.45M DTTを加え、試料を20分間56℃でインキュベートした。DTT還元後、2μLの0.7Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。
アルキル化後、3.5μLのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中0.5μg/μL)を加えて混合物を37℃で一晩消化した。
界面活性剤及び尿素支援消化後浄化及び分析:
消化後、6μLの10%TFAを加えて混合物を37℃で15分間インキュベートした。この酸分解工程後、100μLのC18 OMIXチップ(Varian, Inc.)上で製造業者の説明書に従い、20μLの70%アセトニトリル、0.1%TFAで溶出して試料を抽出した。1DナノLC-MS/MSで各消化混合物を分析した。
【0081】
図4は、各消化の全イオンクロマトグラム(TIC)を示す。図から認められるように、界面活性剤化合物3211を用いた消化では、ペプチド収率及び同定ペプチド数がより高い。図5は、界面活性剤支援プロトコルが、尿素(膜タンパク質の標準的可溶化剤)支援プロトコルに対してプロテオームカバー率(coverage)を約70%高められることを示す。
尿素を用いた膜タンパク質消化では31種のタンパク質が同定されたが、界面活性剤化合物3211を用いた膜タンパク質消化では54種のタンパク質が同定された。界面活性剤化合物3211を用いて、より高い個々のタンパク質カバー率も得られた。Atp5bについてのスコア及びカバー率は、尿素を用いて得られた値のほぼ2倍だった。尿素を用いた消化から得られたAtp5bタンパク質は384のスコアと8のペプチド(22.5%のカバー率)をもたらしたが、化合物3211を用いた消化から得られたAtp5bタンパク質は707のスコアと15のペプチド(42.4%のカバー率)をもたらした。
図5に示すように、同定されたタンパク質の一部だけが両消化で共通し、残りの消化はどちらかの消化に特異的であることが分かった。従って、別の尿素消化と併用すると、本発明の界面活性剤の使用が、より大きいプロテオームカバー率を可能にする。尿素と本明細書で開示する界面活性剤の組合せを使用する消化を利用することもできる。該プロトコルでは、どちらかの試薬で同定可能なタンパク質、尿素及び界面活性剤に特異的なタンパク質をそれぞれ1回の消化で同定することができる。
【0082】
実施例5. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
以下に標準的な「ゲル内」消化試料調製プロトコルの後、本発明の界面活性剤を使用する試料調製プロトコルを説明する。
材料:ゲル染色溶液(例えば、クマシーブルーを用いて);ゲル変性溶液(例えば、40%エタノール/10%酢酸);高純度蒸留水;50mM炭酸水素アンモニウム(AmBic);25mMのジチオスレイトール(DTT);55mMのヨードアセトアミド(IAA);アセトニトリル(ACN);トリプシン;及びトリフルオロ酢酸(TFA)。
標準的プロトコル
1. ポリアクリルアミドゲル内でタンパク質を分解し、染色溶液でタンパク質を染色。
2. 脱染溶液でゲルを脱染して非特異的に結合した染色を除去。
3. 問題のタンパク質バンドを切除し、ゲル切片を1mm3の断片にカットし、0.5又は1.5mLの微量遠心機のポリプロピレン管に移す。
4. 断片を水で洗浄。
5. 断片をメタノール:50mM AmBic=1:1(v/v)で脱染。
6. ACN:50mM AmBic=1:1(v/v)で5分間、次に100%ACN内で30秒間脱水。
7. Speed Vac内で5分間乾燥。
8. 新たに調製した25mM DTT内で再水和及び56℃で20分間インキュベート。
9. DTT溶液を捨て、新たに調製した55mM IAAを添加。暗所で室温にて20分間インキュベート。
10. 水で2回洗浄。
11. ACN:50 M AmBic=1:1(v/v)で5分間、次に100%ACN内で30秒間脱水。
12. Speed Vac内で5分間乾燥。
13. 12ng/uLのTrypsin Gold(50mMのACN M AmBic中)20uL中で5分間脱水。最小量の50mM AmBicで覆ってゲル断片をカバーする。37℃で一晩インキュベート。
14. 切片をボルテックス又はオービタルシェーカーで50uLの2.5%TFAと15分間混合。抽出物を保存。
15. 80uLの70%ACN/5%TFAを添加し、ボルテックス又はオービタルシェーカーで15分間混合。
16. 両抽出液を混合し、1.5〜2時間 Speed Vacで乾燥。
17. ボルテックスで5分間混合してペプチドを30uLの0.1%TFAに再溶解し、C18チップでペプチドを浄化。MALDI-TOFで分析。
【0083】
本明細書で開示する酵素界面活性剤を用いた試料調製:
材料:ゲル染色溶液(例えば、クマシーブルーを用いて);ゲル変性溶液(例えば、40%エタノール/10%酢酸);高純度蒸留水;50mM炭酸水素アンモニウム(AmBic);25mMのジチオスレイトール(DTT);55mMのヨードアセトアミド(IAA);アセトニトリル(ACN);トリプシン;及びトリフルオロ酢酸(TFA)。酵素(例えば、トリプシン)界面活性剤A。界面活性剤Aは、本明細書で開示する酸に不安定及び/又は熱に不安定な界面活性剤を表す。
改良されたプロトコル:
1.〜12. 上記の工程。
13. 12ng/μLのTrypsin Gold(0.025%界面活性剤A/50mM ACN M AmBic中)20μL中で5分間再水和。30μLの0.01%界面活性剤A/50mM AmBicで覆ってゲル断片をカバー。50℃で1時間インキュベート。
14. 消化反応を新しい管に移して質量分析で消化反応を分析。
【0084】
図6に示す界面活性剤支援プロトコルは、ゲル内タンパク質消化に有意な革新を示す。典型的なゲル内消化プロトコルは2工程を含む:一般的に一晩(8〜24時間)かかるタンパク質消化及びペプチド抽出(典型的にTFA及びTFA/アセトニトリル混合物などの2回の抽出を含む)後に、SpeedVac(登録商標)濃縮器内での1.5〜2時間の乾燥によるペプチド濃縮、及び小量のTFA内での再構成。界面活性剤支援プロトコルでは、両工程を組み合わせて単一の1時間の工程にし、プロトコルを完了するために必要な時間と労力を削減するなど、効率の劇的な上昇をもたらしている。
図7は、本発明の界面活性剤がゲルから、より多くのペプチド及びより高分子量のペプチドを抽出することを示す実験的証拠を示す。この図は、上記2つのプロトコルで論じたように、消化混合物中に存在するペプチドを示す。図7(a)は、本発明の界面活性剤の助けを借りずにBSA(50ng)の一晩消化後の消化反応中に存在するペプチドを示す。図7(b)は、本発明の界面活性剤を借りた1時間の消化後の消化反応結果を示す。本界面活性剤は、ペプチドの回収を劇的に増やし、タンパク質カバー率を従来のプロトコルの8%から36%に高めることとなる。
抽出工程で有機溶媒に代えて界面活性剤3211を使用すると、除去しなければペプチドの浄化工程を妨害する溶媒を除去するために必要な時間のかかる真空乾燥工程(1.5〜2時間)を回避することができる。さらに、真空乾燥工程は、管壁への強い吸収のため相当量のペプチドの損失につながりうる。界面活性剤3211を使用すると、この吸収を防止することによって、ペプチドの回収率を確実に高める。
本界面活性剤は、本明細書で述べたように、タンパク質消化の改善、トリプシンの安定性の改善、及び画期的な界面活性剤促進ペプチド抽出といった、普通のゲル内タンパク質消化を超えるいくつかの改善を提供する。これらの改善の組合せが、上記プロトコルを用いて行う実験におけるタンパク質カバー率の2.2倍の改善及びMascotスコアの6.8倍の改善につながる。
本発明の界面活性剤は、「溶液内」及び「ゲル内」の両手法のタンパク質消化にさらなる革新を提供する。早期に開発されたトリプシン界面活性剤、例えばRapiGestTM及びPPS Silent SurfactantTMは、界面活性剤を分解するためタンパク質消化混合物と酸とのインキュベーションが必要であり、そうしないと、界面活性剤が液体クロマトグラフィー及び質量分析などの下流の処理を妨害する。本発明の界面活性剤の重要な利点は、それらが推奨される消化インキュベーション時間(3時間)の終了までか又は浄化工程のための抽出ペプチドの調製中に、さらに分解する必要がない程度まで分解することである。
【0085】
本発明の界面活性剤が未変化のままの場合(例えば、タンパク質消化が3時間より短い場合)及びさらに分解する必要がある場合、酸分解の選択肢として高温で界面活性剤を分解することができる。現在使用されている製品(例えば、RapiGestTM界面活性剤及びPPS Silent SurfactantTM)は酸分解が必要である。当該界面活性剤が高温で利用できるという証拠はまだ得られていない。熱分解は、消化されたペプチドの下流処理との高いフレキシビリティーを斟酌する。例えば、研究者には、TFAの代わりにギ酸をペプチド溶液に添加して液体クロマトグラフィーによるペプチド分離に直接進めるという選択肢がある。熱分解は、酸に不安定な翻訳後修飾(例えば酸に不安定なグリカン)のより良い回収をもたらしうる。さらに、熱分解は、プロトコルで強酸(例えば、TFA)などのいずれの危険な化学物質を取り扱う必要をも回避するため、酸分解より研究者にとって好ましいだろう。
本プロトコルは、尿素/界面活性剤の組合せの利用によっても助けとなりうる。尿素/界面活性剤混合物の存在下で行った消化では、どちらかの薬剤だけの存在下より多様な集団の同定タンパク質を観察することができる。
【0086】
実施例6. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
マウス心臓由来の全膜タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルで分解し、単一のタンパク質バンドを従来の消化プロトコル(コントロール)及び別に化合物3211支援プロトコルで消化した。
【0087】
【化21】
(3211)
近似MWが56kDのタンパク質のバンドを切除してトリプシンで消化した。消化された試料を質量分析で分析した。図8は、2つの分析の質量スペクトルを示し;図8(a)は、界面活性剤3211のない従来の一晩プロトコルから得たスペクトルを示し;図8(b)は、界面活性剤3211を利用してたった1時間の消化から得たスペクトルを示す。アスタリスクは、マウスATPシンターゼ(56kDバンド内の主要タンパク質)のβサブユニットについて同定されたペプチドを示す。
図8(b)は、本発明のプロトコルの界面活性剤を用いて得られたペプチドの数、及び収率の劇的増加を示す。界面活性剤なしのプロトコルは、50%というATPシンターゼのサブユニットの配列カバー率及び828というMASCOTスコアを与えたが、界面活性剤支援プロトコルは、配列カバー率75%(50%増加)及びMASCOTスコア920を与えた。例えば化合物3211等の本発明の界面活性の使用は、冗長なタンパク質消化とペプチド抽出工程を組み合わせて単一の1時間工程にすることによって、質量分析タンパク質同定を実質的に改善し、ゲル内消化プロトコルを簡素化する。
一次元(1D)ゲル技術を用いて複雑なタンパク質混合物を分画することが多い。タンパク質混合物をゲル内で分解してゲルラインをゲル切片にカットする。各ゲル切片がタンパク質フラクションを表す。次にフラクションをゲル内消化してから、消化されたペプチドをLC-MS/MSを用いて同定する。本発明の界面活性剤の使用は、質量分析用のゲル分画タンパク質の調製において時間と労力を有意に削減することができる。
図9は、界面活性剤支援1時間プロトコルがどのようにしてゲル内の複雑なタンパク質混合物の同定の満足できるか又は優れた方法を提供するかを示す。この実験では、マウス心臓由来の膜タンパク質抽出物を4〜20%のSDS-PAGEで分解し、近似MWが54〜56kDのタンパク質を含むフラクションをLC-MS/MSで分析した。界面活性剤を用いた1時間の消化後に同定されたタンパク質の数は、従来の一晩消化プロトコルによって同定されたタンパク質の数より多かった。さらに、界面活性剤支援プロトコルで同定されたタンパク質の1/3について、より高いタンパク質カバー率が達成された。
【0088】
実施例7. 「ゲル内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
本発明の界面活性剤は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析ペプチドマッピングのためのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル内タンパク質消化を改善することができる。ゲノムデータベース検索と連動した質量分析は、タンパク質同定のための手段である。プロテオーム分析では、多くの場合、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲルを基礎とした一次元ゲル電気泳動(1-DE)又は二次元電気泳動(2-DE)で細胞タンパク質の混合物を分離し、特有のプロテアーゼでゲル内消化する。ゲル内タンパク質消化は、これらの手順で感応性のタンパク質同定にとって重要な工程である。効率的なタンパク質消化は、質量分析による明白なタンパク質同定に必要なペプチドピークを得るために役立つ。
本発明の界面活性剤を用いて、SDSポリアクリルアミドゲル内におけるタンパク質消化の有意な改善を得ることができる。本明細書に記載の界面活性剤は、ペプチド抽出をさらに効率的にすることによって(例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするNomura et al., J. Mass Spec. 2004, 39(2), 202-207に記載の技術、及び界面活性剤を用いたペプチドの「ゲル内」消化と抽出については特に203ページを参照されたい)、及び実験機器によるペプチドの吸収を防止するか、又は沈殿のためのペプチド損失を防止することによって、ペプチド収率を劇的に改善することもできる。このことが質量分析で感応性のタンパク質同定の有用な戦略を提供する。本明細書に記載の界面活性剤は、冗長なタンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の1時間工程にすることによって、ゲル内タンパク質消化に劇的な簡素化をも提供する。
【0089】
実施例8. 「溶液内」タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化
タンパク質単離のための標準的な生化学的手法、例えばアフィニティー単離及び密度勾配遠心分離は、相当量の労力と時間をかけて低μg量のタンパク質材料をもたらしうる。これらの小量のタンパク質のための効率的かつ有効な溶液内タンパク質分解プロトコルの欠如によって、「ショットガン」アプローチによる単離タンパク質の質量分析特徴づけの有効性が低減することが多い。一次元液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)でタンパク質分解性ペプチドを分析することができる。例えば、3つのパラメーター:ペプチド同定の数、タンパク質同定の数、及び配列カバー率に基づいて、消化プロトコルの有効性を評価することができる。トリプシン消化のために80%のアセトニトリルを使用すると有利なことがあり、種々のタンパク質アイソレートで他の溶媒及びカオトロープを利用するプロトコルより良いことが多い。80%のCH3CNプロトコルの主な利点は、試料操作工程をあまり必要としないことである。例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするHervey et al., J. Proteome Res. 2007; 6(8); 3054-3061、特に、3055ページの開示で論じられている「溶液内」反応のためのトリプシンによる消化前にタンパク質を変性させるために使用する方法を参照されたい。
【0090】
実施例9. 「溶液内」タンパク質の界面活性剤支援タンパク質消化
本明細書で開示する酸に不安定及び熱に不安定な化合物を用いて、混合有機-水系及び水系内で質量分析適合性洗浄剤がある場合とない場合のLC-MS/MSによるペプチド/タンパク質同定のためのトリプシン消化戦略の最適化及び比較を行うことができる。質量分析適合性界面活性剤をタンパク質分解消化プロトコルに加えると、ショットガンプロテオミクスによる複雑なタンパク質混合物におけるペプチド及びタンパク質の同定を劇的に増やすことが分かる。トリプシン消化緩衝液に質量分析適合性洗浄剤を含めることによって、タンパク質の可溶化及びタンパク質分解効率を高めることができる。
質量分析適合性界面活性剤を組み入れた改変トリプシン消化プロトコルは、例えば、膵臓細胞ライセート由来のタンパク質の同定に役立ち、LC-MS/MSを使用する場合に尿素を用いたトリプシン消化より多数のペプチド同定をもたらすことができる。さらに、種々の質量分析適合性界面活性剤を用いたトリプシン消化からのタンパク質同定を融合させることによって、タンパク質を同定することができる。水性溶媒と有機溶媒の混合系を使用すると、異なる質量分析適合性界面活性剤と相まってタンパク質同定に影響を与えうることも観察することができる。
異なる質量分析適合性界面活性剤と緩衝液の組合せから生じたペプチド混合物は、疎水性に有意な差異を示すことがある。実験結果は、質量分析適合性界面活性剤を組み入れたタンパク質消化スキームが、観察されたペプチド同定に定量的及び定性的変化を生じさせ、タンパク質同定全体の増加及び低豊富タンパク質の増加をもたらすことを示す。例えば、その内容を参照によって本明細書に引用したものとするChen et al., J. Proteome Res. 2007; 6(7); 2529-2538に記載の技術、特に、酸に不安定な界面活性剤の、トリプシンを用いた複雑なタンパク質混合物のタンパク質分解を改善する能力の議論については2531ページを参照されたい。
本明細書に記載の界面活性剤は、タンパク質の可溶化と消化を改善するのみならず、実験機器による吸収又は沈殿のためのペプチド損失を防止することによって、ペプチド収率を実質的に高めることもできる。この三様利益のため、本界面活性剤が溶液内消化プロトコルにとって理想的な手段となる。最初の証拠は、本界面活性剤が、溶液内消化プロトコル用の標準的な可溶化剤である尿素と併用することもできることを示す。本界面活性剤は、それらの全ての有益な特性を尿素の存在下で保持することができる。尿素/界面活性剤混合物内の消化は、これらの薬剤を個々に使用する場合より多数の同定タンパク質、高い個々のタンパク質カバー率、及び改良された質量分析データを提供しうる。
【0091】
実施例10. 臭化シアンタンパク質消化
タンパク質消化では、臭化シアン(CNBr)はメチオニン残基におけるタンパク質の切断によって作用し、その結果カルボキシルフラグメント上にホモセリンラクトンが生じる。メチオニン残基はタンパク質の疎水性領域内に局在化することが多く、切断は疎水性フラグメントの大きさを有利に減じ、分析の効率と有効性を高めるので、膜タンパク質の分析のために臭化シアンは有用である。臭化シアンを単独で用いて大きいフラグメントを生じさせることができ、或いはトリプシン又はキモトリプシン等のプロテアーゼの前に連続して使用することができる。典型的プロトコルは、タンパク質を暗所で24時間過剰のCNBrと反応させる前に、問題のタンパク質混合物の可溶化に役立ついくつかのタイプの界面活性剤を必要とする。消化反応では低いpHが必要なので、消化反応は50〜80%のTFAのHCl溶液内で行われることが多い。過剰のCNBrは揮発されるが、分析前に反応から典型的な可溶化剤を除去する必要がある。
式I〜IXの界面活性剤化合物を用いて、膜タンパク質混合物の可溶化を助けた後、反応条件を低pHに調整することによって、CNBrの添加前に該界面活性剤を分解することができる。消化後、試料を直接MALDIで分析することができる。この場合、除去しなければイオン化で邪魔になるであろう変性剤を除去する必要はない。
【0092】
実施例11. 界面活性剤を利用する脱グリコシル化法
グリコシル化は、多くのキーとなる細胞メカニズム及び障害に関係づけられている重要な翻訳後タンパク質修飾である。実際に、約60%のヒトタンパク質が異なるタイプの炭水化物によって種々の部位でグリコシル化されうる。グリコシル化されるタンパク質の部位、及びどのタイプの炭水化物が付着するかによって、異なる態様でタンパク質の機能は影響を受ける。従って、グリコシル化分析は重要な課題を提示し、該分析を行うための改良された方法が必要とされている。
質量分析は、グリコシル化研究のための主要な分析手段である。この強力な技法は、グリコシル化の部位を局在化し、炭水化物の構造を同定することができる。一つの重要な課題は、効率的かつ有効な分析のためには糖タンパク質のタンパク質成分と炭水化物成分を物理的に分離すべき、すなわち、各成分を別々に分析して適切なデータを得なければならないことである。酵素的脱グリコシル化によって、これらの成分の分離を達成できる。糖タンパク質のグリコシル化部位はタンパク質の構造によって妨げられることが多いので、酵素的脱グリコシル化は時間がかかり、かつ/又は非効率なことが多い。
グリコシダーゼがタンパク質のグリコシル化部位に容易に近づけるようにするため、研究者はSDSを使用することが多い。SDSは、脱グリコシル化を大いに改善するが、それは質量分析を妨害する。癌、細胞メカニズム、及び他の生物学的問題を研究している研究者は日常的に、質量分析前にタンパク質試料をグリコシダーゼで処理する。一般に探求される情報には、問題のタンパク質のどの部位が炭水化物を持っているかが含まれる。これらの部位は、グリコシダーゼは切断後の炭水化物の小部分を置き去りにするので、脱グリコシル化後に局在化することがある。この残存タンパク質が、質量分析においてグリコシル化部位のマーカーとして作用する。切断された炭水化物を分析することに関心がある研究者もいる。
本明細書に記載の界面活性剤を脱グリコシル化プロトコルにおけるSDSの代用品として評価した。オボアルブミン(ニワトリの卵白由来アルブミン)をモデルタンパク質として選択した。オボアルブミンは、タンパク質に1.4kDの炭水化物単位が結合している44.3kDの糖タンパク質である。オボアルブミンの脱グリコシル化は、PNGase Fとの一晩インキュベーション後でさえ、標準条件下では不十分である。オボアルブミンをグルコシダーゼPNGase Fで処理した。界面活性剤化合物3266の存在下では、PNGase Fがオボアルブミンから炭水化物を迅速に除去することが分かった。界面活性剤化合物3266は酸に不安定であり、容易に分解することができ、質量分析を用いるタンパク質及び炭水化物の分析を可能にする。
【0093】
詳細なプロトコル:
オボアルブミン(Sigma)(45μg)を0.025%の3266/5mMのDTT/25mM炭酸水素アンモニウム(pH約8)に溶かして95℃で5分間インキュベートした。コントロール反応では、3266をSDSと交換した。1.5μ単位のPNGase F(Sigma)を加えて脱グリコシル化を始めた。37℃で1時間と20分インキュベーション後、5分間95℃でインキュベーションして反応を停止して各反応から得た一定分量をSDS-PAGEで分離した。電気泳動は、両反応で、オボアルブミンの44.3kDのグリコシル化形が42.9kDの脱グリコシル化形に変換されることを示した。この分析は、化合物3266が、SDSを用いて見られる脱グリコシル化の増強に等価であり、さらに分光測定とクロマトグラフィーの同時分析におけるSDSの有害作用を排除することを示している。
【0094】
実施例12. 切断可能界面活性剤
以下の化合物は、本明細書に記載の方法に有用な本発明の界面活性剤化合物である。
図11〜18は、コントロール消化(RapiGestTM界面活性剤)及び以下に示す本発明の界面活性剤化合物から得たHPLCクロマトグラムを示す。図11〜18の各セットのクロマトグラム中、上のクロマトグラムがコントロールであり、下のクロマトグラムが本発明の化合物を用いた試験である。
実験条件:ミオグロビン/トリプシン消化:
ウマ心臓由来のミオグロビン(典型的に25μg)を、0.01%のRapiGestTM界面活性剤又は0.01%の本発明の指示化合物(それぞれ上及び下のクロマトグラム)と共に、125μL(典型的)の体積の50mM炭酸水素アンモニウム中50:1比にてトリプシン(Promega)を用いて20分間37℃で消化した。TFAを加えて0.5〜2%にし、混合物を37℃又は65℃で20又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離によって除去した。25〜50μLの反応試料について、HP1050 LCシステムを用いて、Agilent Sorbax SB-C18カラム(3.0×100mm、3.5μm)及び0.1%TFA(最初97.5%)とアセトニトリルの勾配、0.01%TFA(55%の最終条件後、100%の洗浄工程)及び流速0.75mL/分でHPLC分析を行った。ペプチドは214及び280nmで検出された。
【0095】
実験条件:化合物3116〜3210、3213〜3223及び3225〜3275のバクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:
バクテリオロドプシン(25μg)を0.025%のRapigestTM界面活性剤又は本発明の指示化合物と95℃で5分間加熱してから、125μLの50mM炭酸水素アンモニウム中10:1比でキモトリプシン(Sigma)を用いて37℃で1時間消化した。1時間後、TFAを加えて0.5〜2%にして混合物を37℃又は65℃で20又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離によって除去した。消化されたタンパク質の一定分量50〜100μLを上述したように分析した。
実験条件:化合物3211、3212及び3224のバクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:
RapigestTM界面活性剤(コントロール)反応:上述したとおり。
図13(b-2)の反応のための化合物3211、3212、3224及びRapigestTM界面活性剤コントロール:バクテリオロドプシン(25μg)を室温で1〜2分間0.025%の問題の化合物を用いて可溶化してから、125μLの50mM炭酸水素アンモニウム中キモトリプシン(Sigma)を10:1比で用いて37℃で1時間消化した。1時間後にTFAを加えて0.5〜2%にして混合物を37℃又は65℃で20分又は30分間インキュベートした。分解した界面活性剤を14,000xgにて5分間の遠心分離で除去した。消化されたタンパク質の一定分量50〜100μLを上述したようにHPLCで分析した。
実施例12において下に番号を付けた各化合物については、該界面活性剤ピーク面積(界面活性剤 # Pk.面積)対RapigestTM界面活性剤ピーク面積(RG Pk面積)の比から消化増強率を決定した。8〜22分で組み込まれた全ピークの合計としてピーク面積を決定した。1より大きい比は、該界面活性剤の反応ではRapigestTM界面活性剤コントロール反応より多い消化が観察されたことを示す。
化合物3116:
【0096】
【化22】
【0097】
ミオグロビン/トリプシン消化:3116 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3116 Pk面積/RG Pk面積=1.5。
化合物3116は、水溶液中で許容しうる溶解度:0.5以上を有し、酸不安定性を示した:0.01%の3116は37℃にて2時間以内で分解した。図11を参照されたい。
化合物3186:
【0098】
【化23】
【0099】
ミオグロビン/トリプシン消化:3186 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3186と5分間煮沸した;3186 Pk面積/RG Pk面積=0.45。
化合物3186は、水溶液中でいくらかの溶解度を示し、0.01%溶液の分解は37℃にて30分以内で完了した。
化合物3189:
【0100】
【化24】
【0101】
ミオグロビン/トリプシン消化:3189 Pk面積/RG Pk面積=1.1
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3188と煮沸した;3189 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
化合物3189は水溶液中で良い溶解度を有し;容易に0.5%まで溶解した。酸不安定性は不十分だった:0.01%の3189は37℃で一晩のインキュベーション後しか分解しなかった。
化合物3190:
【0102】
【化25】
【0103】
ミオグロビン/トリプシン消化:3190 Pk面積/RG Pk面積=N.D。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3190と煮沸した;3190Pk面積/RG Pk面積=0.34。
化合物3190は水溶液中で良い溶解度を有する(容易に0.5%まで溶解した)。中程度の分解率:0.01%溶液では30分、0.1%溶液では一晩。
化合物3192:
【0104】
【化26】
【0105】
ミオグロビン/トリプシン消化:3192 Pk面積/RG Pk面積=1.3
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3192と煮沸した;3192 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
化合物3192水溶液中で良い溶解度を有する(容易に0.5%まで溶解した)。分解率は非常に低かった:0.01%溶液は一晩インキュベーション後しか分解しなかった。
化合物3194:
【0106】
【化27】
【0107】
ミオグロビン/トリプシン消化:3194 Pk面積/RG Pk面積=0.72
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3194と煮沸した;3194 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
水溶液中で良い溶解度(容易に0.5%まで溶解した)。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3195:
【0108】
【化28】
【0109】
ミオグロビン/トリプシン消化:3195 Pk面積/RG Pk面積=0.5
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3195と煮沸した;3195 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で中程度の溶解度:0.2%以下。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3196:
【0110】
【化29】
【0111】
ミオグロビン/トリプシン消化:3196 Pk面積/RG Pk面積=0.65
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3196と煮沸した;3196 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。中程度の分解率:0.01%溶液で30分、0.1%溶液で一晩。
化合物3199:
【0112】
【化30】
【0113】
ミオグロビン/トリプシン消化:3199 Pk面積/RG Pk面積=0.37
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3199と煮沸した;3199 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3200:
【0114】
【化31】
【0115】
ミオグロビン/トリプシン消化:3200 Pk面積/RG Pk面積=0.7
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3200と煮沸した;3200 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
水溶液で低い溶解度:約0.01%。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3201:
【0116】
【化32】
【0117】
ミオグロビン/トリプシン消化:3201 Pk面積/RG Pk面積=0.3
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3201と煮沸した;3201 Pk面積/RG Pk面積=0.4。
水溶液中で良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。
化合物3202:
【0118】
【化33】
【0119】
ミオグロビン/トリプシン消化:3202 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3202と煮沸した;3202 Pk面積/RG Pk面積=0.6。
いくらか低い溶解度:約0.01%。低い界面活性剤の溶解度のため分解率は可変だった:0.01%の3202は30分以内で分解した。図12を参照されたい。
化合物3203:
【0120】
【化34】
【0121】
ミオグロビン/トリプシン消化:3203 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3203と煮沸した;3203Pk面積/RG Pk面積=0.4。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3204:
【0122】
【化35】
【0123】
ミオグロビン/トリプシン消化:3204 Pk面積/RG Pk面積=0.87。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3204と煮沸した;3204 Pk面積/RG Pk面積=0.55。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3204は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3205:
【0124】
【化36】
【0125】
ミオグロビン/トリプシン消化:3205 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3205と煮沸した;3205 Pk面積/RG Pk面積=0.45。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3206:
【0126】
【化37】
【0127】
ミオグロビン/トリプシン消化:3206 Pk面積/RG Pk面積=0.26。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3206と煮沸した;3206 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3207:
【0128】
【化38】
【0129】
ミオグロビン/トリプシン消化:3207 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3207と煮沸した;3207 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は低い:0.01%の3207は1時間以内で分解した。
化合物3209:
【0130】
【化39】
【0131】
ミオグロビン/トリプシン消化:3209 Pk面積/RG Pk面積=2.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3209と煮沸した;3209 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。一晩のインキュベーション後でさえ分解は観察されなかった。
化合物3210:
【0132】
【化40】
【0133】
ミオグロビン/トリプシン消化:3210 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3210と煮沸した;3210 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。分解率は中程度である:0.1%の3203は一晩のインキュベーション後に分解した。
化合物3211:
【0134】
【化41】
【0135】
ミオグロビン/トリプシン消化:3211 Pk面積/RG Pk面積=1.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRをRapigestTM界面活性剤と煮沸したが、3211の場合は煮沸しなかった;3211 Pk面積/RG Pk面積=0.9
良い溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムに容易に1%まで溶解した。優れた分解率:37℃で0.5%TFA中で15分又はTFAなしで5分の煮沸。優れた可溶化特性:室温で迅速にBRを溶解した。化合物3211は、室温でさえ相当の割合で分解する。
図13も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 0.5
0.025% 1.1
0.025%/20%AcN 6
0.025%/40%AcN 52
0.025%/60%AcN >100
0.025%/80%AcN >>
0.10% 4.8
1% 21
1%/50%AcN >100
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
元のままの界面活性剤の保持時間の変化を逆相HPLCでモニターすることによって、加水分解安定性を測定した。50%分解に達するのに必要な時間として半減期を定義する。
化合物3212:
【0136】
【化42】
【0137】
ミオグロビン/トリプシン消化:3212 Pk面積/RG Pk面積=1.4.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRをRapigestTM界面活性剤と煮沸したが、3212の場合は煮沸しなかった;3212 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムに容易に1%まで溶解した。優れた分解率:37℃で0.5%TFA中で15分又はTFAなしで5分の煮沸。優れた可溶化特性:室温で迅速にBRを溶解した。図14も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 3.7
0.025% 21
0.10% 38
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3213:
【0138】
【化43】
【0139】
ミオグロビン/トリプシン消化:3213 Pk面積/RG Pk面積=0.8
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3213と煮沸した;3213 Pk面積/RG Pk面積=1.3
中程度の溶解度:10分後に0.025%。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 62
0.025% 128
化合物3214:
【0140】
【化44】
【0141】
ミオグロビン/トリプシン消化:3214 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化 10:1比:0.1%で;キモトリプシンを添加する前にBRを3214と煮沸した;3214 Pk面積/RG Pk面積=0.6
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。
化合物3215:
【0142】
【化45】
【0143】
ミオグロビン/トリプシン消化:3215 Pk面積/RG Pk面積=0.56.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3215と煮沸した;3215 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。分解率:0.1%溶液は、0.5%TFA中で1時間のインキュベーション後に分解する。化合物3215の分析は、中程度の熱安定性を示した。
化合物3216:
【0144】
【化46】
【0145】
ミオグロビン/トリプシン消化:3216 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3216と煮沸した;3216 Pk面積/RG Pk面積=0.7。
水溶液に不溶。100%DMSO中で10%まで可溶化された。
化合物3218:
【0146】
【化47】
【0147】
ミオグロビン/トリプシン消化:3218 Pk面積/RG Pk面積=0.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3218と煮沸した;3218 Pk面積/RG Pk面積=0.65。
水溶液に不溶。DMSO中で10%まで可溶化された。
化合物3219:
【0148】
【化48】
【0149】
ミオグロビン/トリプシン消化:3219 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3219と煮沸した;3219 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。
化合物3220:
【0150】
【化49】
【0151】
ミオグロビン/トリプシン消化:3220 Pk面積/RG Pk面積=0.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化 10:1比:0.025%で;キモトリプシンを添加する前にBRを3220と煮沸した;3220 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。優れた分解率:0.1%の3220は、0.5%TFA中37℃にて15分以内で分解した。この界面活性剤の熱安定性は中程度だった。
化合物3221:
【0152】
【化50】
【0153】
ミオグロビン/トリプシン消化:3221 Pk面積/RG Pk面積=0.13。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3221と煮沸した;3221 Pk面積/RG Pk面積=0.5。
水溶液中での良い溶解度:容易に0.5%まで溶解した。
化合物3223:
【0154】
【化51】
【0155】
ミオグロビン/トリプシン消化:3223 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3223と煮沸した;3223 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
水溶液中で潜在的に制限された溶解度:0.5%溶液は乳濁し、遠心分離後にゼリー状のトップ相を発生させた。分解率は低い。
化合物3224:
【0156】
【化52】
【0157】
ミオグロビン/トリプシン消化:3224 Pk面積/RG Pk面積=1.3。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3224 Pk面積/RG Pk面積=0.74。
水溶液中で中程度の溶解度:0.25%の溶液。ACNを20%まで添加した後、溶解度が劇的に改善された:2%の溶液を調製した。優れた可溶化特性。3224を用いて室温でBRを可溶化した。図15も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.0025% 1.3
0.025% 8.3
0.10% 23
0.25% 22
化合物3225:
【0158】
【化53】
【0159】
ミオグロビン/トリプシン消化:3225 Pk面積/RG Pk面積=1.1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3225と煮沸した;3225 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
水溶液に不溶。DMSO中で10%まで可溶化された。分解率は低い:0.5%TFA中37℃でゆっくり分解する。熱安定性は観察されなかった。
化合物3228:
【0160】
【化54】
【0161】
ミオグロビン/トリプシン消化:3228 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3228と煮沸した;3228 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
水溶液中で良い溶解度:容易に1%まで溶解した。分解率は低い:0.1%。図16も参照されたい。
化合物3236:
【0162】
【化55】
【0163】
ミオグロビン/トリプシン消化:3236 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3236と煮沸した;3236 Pk面積/RG Pk面積=0.71。
水溶液中で良い可溶化:容易に1%まで溶解した。分解率は低い:0.5%TFA中0.1%溶液で37℃にて30分のインキュベーション後又はTFAなしで5分の煮沸後に分解は観察されなかった。
化合物3237:
【0164】
【化56】
【0165】
ミオグロビン/トリプシン消化:3237 Pk面積/RG Pk面積=1.4。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前にBRを3237と煮沸した;3237 Pk面積/RG Pk面積=1。
中程度の溶解度:0.5%溶液。0.5%TFA中37℃で30分のインキュベーション後に中程度の分解が観察された。
化合物3266:
【0166】
【化57】
【0167】
ミオグロビン/トリプシン消化:3266 Pk面積/RG Pk面積=1.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3266 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
優れた溶解度:50mM炭酸水素アンモニウムで直ちに2%まで溶解した。酸に不安定である(0.1%の溶液は0.5%TFA中30分以内で分解した)が、熱に不安定でない(95℃で5分後に未変化のままだった)。図17も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >>
0.25% >>
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3267:
【0168】
【化58】
【0169】
ミオグロビン/トリプシン消化:3267 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3267 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
優れた溶解度:50mM炭酸水素アンモニウム中2%まで溶解した。0.5%TFA中又は煮沸によって分解しなかった。酸及び熱に不安定でない。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3269:
【0170】
【化59】
【0171】
ミオグロビン/トリプシン消化:3269 Pk面積/RG Pk面積=1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3269 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
許容しうる溶解度:1%溶液を調製した。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.03% 7
1% 135
化合物3270:
【0172】
【化60】
【0173】
ミオグロビン/トリプシン消化:3270 Pk面積/RG Pk面積=0.8。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3270 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
中程度の溶解度:0.5%の3270を調製した。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% 6.5
1% 40
化合物3271:
【0174】
【化61】
【0175】
ミオグロビン/トリプシン消化:3271 Pk面積/RG Pk面積=0.9。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:3271 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度(1%溶液を容易に調製した)。ある程度だけ酸に不安定、熱に安定(TLC分析)。図18も参照されたい。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >350
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
化合物3273:
【0176】
【化62】
【0177】
ミオグロビン/トリプシン消化:3273 Pk面積/RG Pk面積=0.75。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;Pk面積/RG Pk面積=N.D.
良い溶解度(1%の溶液を容易に調製した)。全ての特性が3271と同様でる。ある程度だけ酸に不安定、熱に安定。
化合物3274:
【0178】
【化63】
【0179】
ミオグロビン/トリプシン消化:3274 Pk面積/RG Pk面積=1。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3274 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
中程度の溶解度:1%の溶液を調製した(室温で)。酸及び熱に不安定。
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% 約6
1% N.D.
N.D.=二相曲線無中断。
化合物3275:
【0180】
【化64】
【0181】
ミオグロビン/トリプシン消化:3275 Pk面積/RG Pk面積=0.2。
バクテリオロドプシン/キモトリプシン消化:キモトリプシンを添加する前に煮沸せずにBRを可溶化した;3275 Pk面積/RG Pk面積=N.D.
許容しうる溶解度:容易に1%溶液を調製した。試験条件で完全に酸及びに熱に安定
50mM炭酸水素アンモニウム中での加水分解安定性
界面活性剤濃度 半減期(時間)
0.025% >300
1% >>
>>=化合物は実験経過を通して100%安定。
【0182】
実施例13. オフライン2D-LC-MS/MSで分析する溶液内タンパク質のトリプシン支援タンパク質消化のプロトコル
界面活性剤支援溶液内消化を尿素支援溶液内消化及び尿素+界面活性剤支援溶液内消化と比較して、変性剤として尿素の代わりに界面活性剤を使うか、又は複雑な混合物を消化するときは尿素を界面活性剤で補うことによって得られるタンパク質カバー率の増加を実証する。可溶化剤及び変性剤としての界面活性剤の効力を実証するため、マウス心臓膜タンパク質抽出物の3つの別々の試料を、変性剤として界面活性剤化合物3211を用いた場合と、変性剤として尿素を用いた場合と、変性剤として尿素+界面活性剤化合物3211を一緒に用いた場合との別々の反応で可溶化かつ消化した。各消化をオフライン2D-LC-MS/MSで別々に分析し、各条件から得たタンパク質カバー率を比較した。
(界面活性剤支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を60μLの0.2%界面活性剤3211(50mM炭酸水素アンモニウム中)内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、さらに3μLの1%界面活性剤3211、次いで17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
(尿素支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を45μLの8M尿素内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で一晩消化した。
(尿素+界面活性剤支援プロトコル)
マウス心臓膜抽出物の500μgの試料由来のタンパク質を45μLの8M尿素/60μLの0.2%界面活性剤3211内で可溶化してから50mM炭酸水素アンモニウムで希釈して体積を280μLにした。希釈後、3μLの1M DTTを加えて試料を56℃で20分間インキュベートした。DTT還元後、18μLの0.5Mヨードアセトアミドを用いて室温で15分間アルキル化した。アルキル化後、さらに3μLの1%界面活性剤3211、次いで17μgのトリプシン(50mMの炭酸水素アンモニウム中1.0μg/μL)を加えて混合物を37℃で3時間消化した。
【0183】
オフライン2D-LC-MS/MS分析:各消化試料を3つの一定分量に分割し、0.5%TFAに調整し、4mgのVarian Spec SPEチップを用いて固相抽出した。三通りの溶出を合わせて蒸発乾固させ(speed-vac)、約100μlの0.1%TFAに溶かしてAgilent Zorbax 300-SCXカラム(3.0×50mm、5-μm)に装填した。溶媒:A=0.03%(v/v)ギ酸/5%アセトニトリル;B=0.03%(v/v)ギ酸/5%アセトニトリル/0.5M塩化ナトリウム。装填後、214nmにおける吸光度でモニターされるHP1050 HPLCで勾配溶出によってペプチドを溶出し、溶出されたペプチドを1mLのフラクションに分画した(条件毎に約20のフラクション)。塩勾配:流速=1mL/分;初期条件:0%B、T=0〜8分は100%B、T=8〜20分は100%B。各SCXフラクションを濃縮乾固させてから0.1%TFA/5%アセトニトリルに溶かし、100μLのOMIX SPEカラムを用いて100μLの70%アセトニトリル(0.1%TFA)で溶出して脱塩した。Agilent 1100シリーズLC/MSD Trap SL分光計を使用する2次元LC-MSのため溶出液を蒸発乾固させて0.1%TFA/5%アセトニトリルに再懸濁した。
考察:等量の膜タンパク質抽出物を3つの異なる条件下、すなわち尿素、界面活性剤、又は尿素/界面活性剤混合物で可溶化した。全てのタンパク質混合物をトリプシンで消化した。尿素で可溶化したタンパク質は一晩消化した。界面活性剤又は尿素/界面活性剤混合物で可溶化したタンパク質は3時間消化した。消化物をSCXカラム上で分画した(強カチオン交換)。逆相LC-MS/MSを用いて各SCXフラクションを二次元で分析した。
承認された可溶化変性剤として、プロテオームカバー率を拡大するために尿素が一般に使用されている。この実験では、尿素を変性剤として用いて477種の異なるタンパク質を同定した。界面活性剤を含めた消化(尿素がある場合とない場合)は、尿素のみを用いた消化では観察されない約335種のタンパク質によって、タンパク質カバー率を拡大した。これは、代替的及び補完的の両方の可溶化剤/変性剤として本界面活性剤を使用することによって、タンパク質カバー率が70%増加することを意味する。
【0184】
その内容を参照によって個々に引用したかのように、全ての刊行物、特許、及び特許文献の内容を参照によって本明細書に引用したものとする。種々の特定及び好ましい実施形態及び手法に関連して本発明を説明した。しかし、本発明の精神及び範囲内にとどまりながら、多くの変更及び修正を為しうることを理解すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iの化合物又はその塩。
【化1】
(I)
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Zは、O又はSであり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒になって3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合は任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hで置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである。)
【請求項2】
Qが、(C1-C6)アルキル、フェニル、又はフェニル-NH(C1-C6)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yが-O-C(=Z)-X-であり、XがNHであり、かつZがOである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
Aが直接結合である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
MがH又はNaである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
VがCであり、かつLが直接結合である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
R1が、(C6-C10)アリール又はヘテロアリール基で置換されている(C4-C20)アルキルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
R1が、2-フラニル基又は4-メトキシフェニル基で置換されている(C4-C20)アルキルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
R2及びR3が、それぞれ(C1-C6)アルキルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が、
【化2】
【化3】
又はその塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
少なくとも1種のタンパク質を含む生体物質を含むゲル、固形支持体、又は溶液を、消化試薬及び請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させて、少なくとも1種の消化されたタンパク質を含む試料を与える、タンパク質消化方法。
【請求項12】
前記生体物質がゲル内にあるか又は固形支持体に結合している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生体物質が水溶液内にある、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記消化試薬が、1種以上のプロテアーゼ、CNBr、又はヒドロキシルアミンを含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セリンプロテアーゼがトリプシン又はキモトリプシンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質消化後に前記界面活性剤を分解する工程をさらに含み、この分解工程が、必要に応じて前記界面活性剤を酸性溶液と接触させる工程、前記界面活性剤を加熱する工程、又はその組合せを含む、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の前記化合物が、タンパク質消化後に溶液内で自己加水分解する、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1種以上の消化されたタンパク質を単離する工程をさらに含む、請求項11〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記消化されたタンパク質を、質量分析、液体クロマトグラフィー、ゲル電気泳動又はその組合せで分析する工程をさらに含む、請求項11〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
プロテアーゼを含む組成物を、有効量の請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む、プロテアーゼの活性を安定化又は増強するための方法。
【請求項22】
前記組成物が、前記タンパク質を含むゲル、固形支持体、又は溶液をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
試料と、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と、消化試薬とを含む混合物を準備する工程、及び前記混合物をゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー、質量分析、液体クロマトグラフィー、又はその組合せを用いて分析する工程を含み、かつ前記消化試薬がプロテアーゼ、CNBr、又はヒドロキシルアミンを含む、試料を分析する方法。
【請求項24】
ゲルと、請求項1に記載の化合物とを含む組成物。
【請求項25】
試料と、請求項1に記載の化合物とを溶媒系内で接触させる工程を含む、試料を可溶化する方法。
【請求項26】
前記試料がタンパク質、ペプチド、又は細胞膜を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ガラスであるか又は有機ポリマーを含む表面への前記試料の吸着を減少させ、防止し、又は逆転させることによって前記試料を可溶化する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
1つ以上のペプチドを含むゲルからペプチドを抽出する方法であって、前記ゲルを請求項1に記載の化合物及び水溶液と接触させて、液体と前記ゲルを含む混合物を形成する工程、及び前記液体を前記ゲルから分離することによって、水溶液内のゲル抽出ペプチドを与える工程を含む方法。
【請求項29】
ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の工程にする方法であって、タンパク質含有ゲルをプロテアーゼ及び請求項1に記載の化合物を含む水溶液と接触させることによって、前記ゲル内のタンパク質が可溶化し、アンフォールドして前記水溶液内での前記プロテアーゼによる消化を可能にする工程、及び前記ゲルから抽出された消化ペプチドを含む前記水溶液を分離する工程を含む方法。
【請求項30】
ガラスを含むか又は有機ポリマーを含む表面へのペプチドの吸着を減少させ、防止し、又は逆転させる方法であって、ペプチドを含む組成物を請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項31】
少なくとも1種の糖タンパク質を含む試料を、グリコシダーゼ及び請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む、糖タンパク質を脱グリコシル化するための方法。
【請求項1】
下記式Iの化合物又はその塩。
【化1】
(I)
(式中:
Qは、(C1-C6)アルキル、(C6-C10)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、又は(C6-C10)アリール-NH(C1-C6)アルキルであり;
Yは、O、S、NH、-X-C(=O)-、-C=N-、カルボニル、又は-O-C(=Z)-X-であり;
Zは、O又はSであり;
Aは、アリール、アリール(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール、又は直接結合であり;
Xは、O、NH、又はSであり;
Vは、C又はNであり;
Mは、H、アルカリ金属、又はテトラ(C1-C20)アルキルアンモニウムであり;
Lは、-X-C(=Z)-X-又は直接結合であり;
R1は、(C4-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C6-C16)アリール、(C5-C10)ヘテロアリール、(C1-C20)アルコキシ(C1-C20)アルキル、(C1-C12)アルキル(C6-C20)ポリアルコキシ、若しくは(C6-C20)(アルキリチオ)-(C1-C6)アルキルであり、又はVがNの場合は存在せず;
R2及びR3は、それぞれ独立にH又は(C1-C20)アルキルであり;或いは
R2とR3が一緒になって3〜8員炭素環、又は1、2、若しくは3個のN(Rx)、S、若しくはOを含む3〜8員ヘテロ環を形成し;或いは
-V(R2)(R3)-L-R1は、Aがアリールの場合は任意に-O-R1であってよく;
ここで、いずれのアルキル、アルケニル、アリール、又はヘテロアリール、炭素環、又はヘテロ環も1個以上(例えば、1、2、3、4、又は5個)の(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C10)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C20)アルコキシ、(C1-C20)アルキルカルボニル、(C1-C20)アルキルカルボキシル、ハロ、ヒドロキシル、-CO2Rx、-SO2Rx、-SO3Rx、ニトロ、アミノ、N(Rx)2、メルカプト、(C1-C20)アルキリチオ、(C6-C16)アリール、(C6-C30)アリーリチオ、トリフルオロメチル、=O、ヘテロアリール、又はヘテロ環基で任意に置換されていてもよく;但し、Qは、CO2Hで置換されず;かつ
各Rxは、独立にH、(C1-C6)アルキル、(C6-C16)アリール、又は(C1-C6)アルキル-(C6-C16)アリールである。)
【請求項2】
Qが、(C1-C6)アルキル、フェニル、又はフェニル-NH(C1-C6)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yが-O-C(=Z)-X-であり、XがNHであり、かつZがOである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
Aが直接結合である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
MがH又はNaである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
VがCであり、かつLが直接結合である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
R1が、(C6-C10)アリール又はヘテロアリール基で置換されている(C4-C20)アルキルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
R1が、2-フラニル基又は4-メトキシフェニル基で置換されている(C4-C20)アルキルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
R2及びR3が、それぞれ(C1-C6)アルキルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が、
【化2】
【化3】
又はその塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
少なくとも1種のタンパク質を含む生体物質を含むゲル、固形支持体、又は溶液を、消化試薬及び請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させて、少なくとも1種の消化されたタンパク質を含む試料を与える、タンパク質消化方法。
【請求項12】
前記生体物質がゲル内にあるか又は固形支持体に結合している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生体物質が水溶液内にある、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記消化試薬が、1種以上のプロテアーゼ、CNBr、又はヒドロキシルアミンを含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セリンプロテアーゼがトリプシン又はキモトリプシンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質消化後に前記界面活性剤を分解する工程をさらに含み、この分解工程が、必要に応じて前記界面活性剤を酸性溶液と接触させる工程、前記界面活性剤を加熱する工程、又はその組合せを含む、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の前記化合物が、タンパク質消化後に溶液内で自己加水分解する、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1種以上の消化されたタンパク質を単離する工程をさらに含む、請求項11〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記消化されたタンパク質を、質量分析、液体クロマトグラフィー、ゲル電気泳動又はその組合せで分析する工程をさらに含む、請求項11〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
プロテアーゼを含む組成物を、有効量の請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む、プロテアーゼの活性を安定化又は増強するための方法。
【請求項22】
前記組成物が、前記タンパク質を含むゲル、固形支持体、又は溶液をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
試料と、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と、消化試薬とを含む混合物を準備する工程、及び前記混合物をゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー、質量分析、液体クロマトグラフィー、又はその組合せを用いて分析する工程を含み、かつ前記消化試薬がプロテアーゼ、CNBr、又はヒドロキシルアミンを含む、試料を分析する方法。
【請求項24】
ゲルと、請求項1に記載の化合物とを含む組成物。
【請求項25】
試料と、請求項1に記載の化合物とを溶媒系内で接触させる工程を含む、試料を可溶化する方法。
【請求項26】
前記試料がタンパク質、ペプチド、又は細胞膜を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ガラスであるか又は有機ポリマーを含む表面への前記試料の吸着を減少させ、防止し、又は逆転させることによって前記試料を可溶化する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
1つ以上のペプチドを含むゲルからペプチドを抽出する方法であって、前記ゲルを請求項1に記載の化合物及び水溶液と接触させて、液体と前記ゲルを含む混合物を形成する工程、及び前記液体を前記ゲルから分離することによって、水溶液内のゲル抽出ペプチドを与える工程を含む方法。
【請求項29】
ゲル内タンパク質消化とペプチド抽出を組み合わせて単一の工程にする方法であって、タンパク質含有ゲルをプロテアーゼ及び請求項1に記載の化合物を含む水溶液と接触させることによって、前記ゲル内のタンパク質が可溶化し、アンフォールドして前記水溶液内での前記プロテアーゼによる消化を可能にする工程、及び前記ゲルから抽出された消化ペプチドを含む前記水溶液を分離する工程を含む方法。
【請求項30】
ガラスを含むか又は有機ポリマーを含む表面へのペプチドの吸着を減少させ、防止し、又は逆転させる方法であって、ペプチドを含む組成物を請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項31】
少なくとも1種の糖タンパク質を含む試料を、グリコシダーゼ及び請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物と接触させる工程を含む、糖タンパク質を脱グリコシル化するための方法。
【図1】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b−1】
【図13b−2】
【図14a】
【図14b】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18a】
【図18b】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b−1】
【図13b−2】
【図14a】
【図14b】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18a】
【図18b】
【公表番号】特表2011−501748(P2011−501748A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528892(P2010−528892)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/011644
【国際公開番号】WO2009/048611
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(593089149)プロメガ コーポレイション (57)
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/011644
【国際公開番号】WO2009/048611
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(593089149)プロメガ コーポレイション (57)
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
【Fターム(参考)】
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