説明

列車位置検知システム

【課題】鉄道分野という条件を活かし、シンプルな構成で効果的に列車位置検知におけるマルチパス誤差の低減を実現することである。
【解決手段】衛星24からの衛星信号を受信する地上に設置された1つ以上の基準局11は、受信した衛星信号の中から所定個数の衛星組合せを選択し、選択した衛星信号から基準局11の位置を算出し、誤差の小さい衛星の組合せのリストである高優先度衛星組合せ情報を生成して列車13に送信する。列車13の車上装置は、衛星14からの衛星信号を受信するとともに、基準局11で生成された高優先度衛星組合せ情報を受信し、受信した衛星信号の中から位置誤差の小さくなる衛星組合せを選択し、選択された衛星信号を利用して受信した衛星信号に基づき列車の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位衛星システムを利用した列車位置検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星からの電波を利用した位置測定システムGPS(Global Positioning System)に代表される測位衛星システムは、航空、船舶、自動車などの分野で広く利用されている。鉄道の分野でも、測位衛星システムの導入が少しずつ進んでいる。最近では、2008年にGPSを利用した運転士支援システムの運用が開始された。鉄道分野での保安制御では、高い安定性や位置精度を要求されているため、GPSを採用するにあたっては何らかの性能向上策を講じる必要がある。
【0003】
鉄道分野のものとしては、三次元の線路データを用いることにより、2つの衛星信号だけでも位置算出を行うことが可能な列車走行情報検出装置及びその列車走行情報検出方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、移動体全般を対象としたものとして、赤外線カメラを移動体上部に設置し、上方向を撮影した画像を用いてリアルタイムで障害物の有無を判定し、障害物方向の衛星を排除するといったものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−168216号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】目黒淳一ら著,赤外線全周カメラを用いたGPS測位の高精度化,GPS/GNSS Symposium 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、GPS等の測位衛星システムは、列車の位置検知手段の一つとして有効であるが、一般に線路周辺には建造物が多いので、反射や回折が多く発生してしまう可能性が高い。このような反射波や回折波を受信してしまうと、受信機と衛星との間の距離の算出に誤差が生じ、その結果、位置情報にも誤差が生じる。このような誤差を一般にマルチパス誤差と呼ぶ。マルチパス誤差は、特に都市部で顕著に発生し、何の対策もしていないと、その位置誤差量は100m以上に及ぶこともある。
【0007】
マルチパス誤差を低減するものとして、ナローコリレータやストローブコリレータを初めとした各種コリレータ方式や、信号強度を利用した方式など様々なものが発表されているが、決定的なものは開発されていない。また、効果の高いマルチパス誤差低減方法を実現しようとすると、複雑な処理をする高価な機材が必要となってしまう傾向がある。
【0008】
本発明の目的は、鉄道分野という条件を活かし、シンプルな構成で効果的に列車位置検知におけるマルチパス誤差の低減を実現できる列車位置検知システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わる列車位置検知システムは、衛星からの衛星信号を受信する地上に設置された1つ以上の基準局と、1編成以上の列車にそれぞれ搭載された車上装置とから構成される列車位置検知システムにおいて、前記基準局は、前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、前記衛星信号受信部で受信した衛星信号の中から所定個数の衛星組合せを選択する衛星組合せ選択部と、前記衛星組合せ選択部で選択された衛星信号から前記基準局の位置を算出する位置情報算出部と、前記位置情報算出部で算出された位置と予め定められた前記基準局の真位置との誤差の小さい衛星の組合せを判定し誤差の小さい衛星の組合せのリストである高優先度衛星組合せ情報を生成する高優先度衛星組合せ情報生成部と、前記高優先度衛星組合せ情報生成部で生成された高優先度衛星組合せ情報を列車に送信するための地上車上伝送装置とを備え、前記列車の車上装置は、前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、前記基準局で生成された高優先度衛星組合せ情報を受信するための地上車上伝送装置と、前記地上車上伝送装置で受信した高優先度衛星組合せ情報を用いて前記衛星信号受信部で受信した衛星信号の中から位置誤差の小さくなる衛星組合せを選択する衛星組合せ選択部と、前記衛星組合せ選択部で選択された衛星信号を利用して前記衛星信号受信部で受信した衛星信号に基づき列車の位置を算出する位置算出部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄道分野という条件を活かし、シンプルな構成で効果的に列車位置検知におけるマルチパス誤差の低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の実施例1における地上の基準局の構成図。
【図2】本発明の実施の形態の実施例1における列車の車上装置の構成図。
【図3】本発明の実施の形態の実施例1における基準局ならびに列車の配置を上空からの視点で示した模式図。
【図4】本発明の実施の形態の実施例1における基準局ならびに列車の配置を水平方向からの始点で示した模式図。
【図5】本発明の実施の形態の実施例1における基準局ならびに列車の配置を上空からの視点で示した他の一例の模式図。
【図6】本発明の実施の形態の実施例2における列車の車上装置の構成図。
【図7】本発明の実施の形態の実施例3における基準局の構成図。
【図8】本発明の実施の形態の実施例4における地上の基準局の構成図。
【図9】本発明の実施の形態の実施例4における列車の車上装置の構成図。
【図10】本発明の実施の形態の実施例4で用いる幾何学的距離と擬似距離との説明図。
【図11】本発明の実施の形態の実施例5における列車の車上装置の構成図。
【図12】本発明の実施の形態の実施例6における基準局の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係わる列車位置検知システムの実施の形態について、図面を用いて説明する。以下の説明では、測位衛星システムの総称としてGPSという名称を用いる。これは、GPSという名称が同様のシステムの総称として一般的に使用されているからである。本発明は米国の測位衛星システムに限らず、GLONASSやGalileoなどの他の測位衛星システムについても適用可能である。
【0013】
ここで、GPS測位の原理について説明する。衛星を用いて自分(GPSアンテナ)の位置を知るためには、衛星の位置と、自分(GPSアンテナ)と衛星との間の距離とが必要となる。ある衛星Skの位置(xk, yk, zk)は、衛星から送信される衛星軌道情報(エフェメリス)を得ることにより、衛星がいつどこに位置するかを正確に把握することができる。
【0014】
一方、自分(GPSアンテナ)と衛星との間の距離は、衛星からの電波伝搬時間tkと光速度cとの乗算により算出することができる。なお、電波伝搬時間は、電波が発信された瞬間の衛星時計の時刻と、電波を受信した瞬間の受信機時計の時刻との差分により算出する。このようにして算出される距離を擬似距離と呼ぶ。一般に、衛星時計の精度は非常に高いので、時計誤差は無視できるが、受信機時計の時計誤差は無視できず、擬似距離は受信機時計の時計誤差Δtの分だけ誤差を含む。以上より、自分(GPSアンテナ)の位置を(x,y,z)として、各衛星に対して、以下の式をたてることができる。
【0015】
{(xk−x)2+(yk−y)2+(zk−z)2}1/2 = c×(tk+Δt) …(1)
未知数は(x,y,z,Δt)の4個なので、4個の衛星に対して上記の式をたてれば、連立方程式の解、すなわち自分(GPSアンテナ)の位置が求まる。
【0016】
一般に、衛星軌道情報の誤差による位置誤差は最大で2m程度であり、それほど大きくなく、位置誤差の主な原因は電波伝搬時間の誤差である。電波伝搬時間の誤差には電離層遅延や対流圏遅延等のいくつかの要因がある。その中でもマルチパスは誤差の変動が大きく対処が難しい。本発明では、反射の影響が無い、もしくは小さい衛星を地上の基準局で抽出し、車上では、その衛星を優先利用して位置を算出する。こうすることで、質の良い衛星を選択することができマルチパス誤差が低減できる。
【0017】
本発明の列車位置検知システムでは、沿線上に基準局を設置する。基準局では、マルチパス誤差の影響が少ない衛星を判定し、それを近くの列車に伝送する。一般に、線路は直線部分が多いので、基準局と列車上での衛星の見え方は大きくは変わらないと考えられる。従って、基準局でマルチパス誤差が小さい衛星は、車上でも同様にマルチパス誤差が小さい可能性が高く、その衛星を優先的に利用して車上でGPS位置算出を行うようにすれば、精度の高い列車位置情報を得ることができる。
【0018】
以下に、基準局での衛星の良し悪しの判定方法について述べる。基準局は自身の真の位置(厳密には誤差数cm以内程度の位置情報)を記憶している。この真の位置と、基準局GPSで算出した位置情報とを比較する。これにより、そのとき使った衛星の組合せによりどの程度の位置誤差を生じるかを知ることができる。そして、そのとき捕捉可能な全ての衛星から、4つを選ぶような全ての組合せに対して、同様にして位置誤差を計算していけば、どの衛星の組合せが良く、どの衛星の組合せが悪いかを判定することができる。また、位置を算出しなくとも、基準局の真の位置と衛星との間の幾何学的距離を基準として、擬似距離の誤差が小さい衛星を質の良い衛星と判断することもできる。
【実施例1】
【0019】
以下、実施例1について説明する。実施例1は、基準局で衛星の組合せの良し悪しを判定し、その情報を車上へ送信するようにしたものである。
【0020】
図1は実施例1における地上の基準局の構成図、図2は実施例1における車上装置の構成図、図3は実施例1における基準局ならびに列車の配置を上空からの視点で示した模式図、図4は実施例1における基準局ならびに列車の配置を水平方向からの始点で示した模式図である。
【0021】
図3に示すように、基準局11は線路12の沿線上に複数設置される。図3では線路12に列車13a、13bが走行している場合を示している。また、点線で示すエリアは各々の基準局11がカバーするエリアである。基準局11の設置間隔は直線区間で5km程度である。曲線区間では、衛星の見え方が変わるので、基準局11の設置間隔を短くする。また、図4に示すように、基準局11は複数の衛星14a〜14nからの衛星信号S1〜Snを受信する。
【0022】
図1に示すように、基準局11では、衛星信号受信部15により複数の衛星14a〜14nから同時刻の衛星信号S1〜Snを受信する。衛星信号受信部15で受信した同時刻の衛星信号S1〜Snは衛星信号一時記憶部16に記憶される。そして、衛星組合せ選択部17はこれらの衛星14a〜14nの中から4つの衛星を総当たり的に順に選択する。位置情報算出部18は、衛星組合せ選択部17で組合わせた全ての衛星の組合せについて、(1)式に示した4個の式から位置情報を算出する。こうして得られたそれぞれの衛星組合せによる位置情報を高優先度衛星組み合わせ情報生成部19に出力する。高優先度衛星組み合わせ情報生成部19では、真位置情報記憶部20に予め記憶された基準局11の真位置(例えばRTK-GPSを用いて測定した誤差数cm程度の位置情報)と比較する。その比較結果を表1に示す。
【表1】

【0023】
そして、高優先度衛星組み合わせ情報生成部19は、例えば誤差量が5m以内のものを高優先度衛星組合せ情報として抽出し、高優先度衛星組合せ情報記憶部21に記憶する。表2に高優先度衛星組合せ情報の一例を示す。
【表2】

【0024】
高優先度衛星組合せ情報は、例えば、表1に示すような衛星組合せ順位表の上位部分の衛星組合せ情報である。衛星組合せの優劣の付け方は特に問わないが、ここでは、位置誤差を(x,y,z)の三次元で表現し、この大きさ、すなわち(x2,y2,z2)の平方根により、衛星組合せの優劣を判定している。表2の一例では、最も良い衛星の組合せは、衛星番号が2番と3番と4番と6番の組合せである。車上へ送信するための高優先度衛星組合せ情報としては、前述したように、例えば誤差量が5m以内のものを抽出する。
【0025】
なお、許容誤差量を非常に大きな値にして、衛星組合せ情報全てを高優先度衛星組合せ情報としても構わない。こうして得られた情報は、高優先度衛星組合せ情報記憶部21に記憶される。この高優先度衛星組合せ情報記憶部21には、過去の情報を蓄積していっても良いし、最新の情報だけ記憶しても良い。そして、記憶されている最新の高優先度衛星組合せ情報Tを地上車上伝送装置22を用いて、ある周期(例えば10秒)で列車13に伝送する。
【0026】
図2に示すように、列車13の車上装置23では、基準局11からの高優先度衛星組合せ情報Tを地上車上伝送装置24にて受信する。地上車上伝送装置24にて受信した基準局11からの高優先度衛星組合せ情報Tは、高優先度衛星組合せ情報記憶部25に記憶される。そして、衛星組合せ選択部26は、衛星信号受信部27にて受信した衛星信号S1〜Snの中から、高優先度衛星組合せ情報記憶部25に記憶された高優先度衛星組合せ情報Tの中でなるべく順位が高くなるような衛星の組合せを選択し、位置算出部28は衛星組合せ選択部26で選択された衛星の組合せを利用して位置算出を行う。
【0027】
このとき、一般的なDGPS機能などによる補正を行っても良い。もし、基準局11から伝送された高優先度衛星組合せ情報にあるような衛星組合せが選択できない場合は、GPSにより算出される位置の精度が低いものと判断し、GPSによる位置算出はせずに、速度発電機やジャイロなど他の計測器を用いた位置算出を行うようにしても良い。
【0028】
ここで、基準局11から車上装置23への伝送方法については、無線を用いて直接的に基準局11から列車13の車上装置23への送信を行うが、その他の通信手段でも構わない。例えば、図5に示すように、地上の中央装置29などを経由して、間接的に送信しても構わないし、有線で通信を行っても構わない。また、基準局11側で列車13を選択して伝送する方法でも良いし、列車13側で基準局11を選択して伝送する方法でも良い。
【0029】
実施例1によれば、基準局11で衛星14a〜14nの組合せの良し悪しを判定し、その情報を列車13へ送信し、列車13の車上装置23では、高優先度の衛星組合せを基に衛星を選択して列車13の位置を算出するので、よりマルチパス誤差が小さくなるような衛星を選択することが可能になり、位置精度が向上する。また、車上装置は複雑な処理をする必要がなく、シンプルな構成で実現可能である。
【実施例2】
【0030】
次に、実施例2について説明する。実施例2は、実施例1に対し、基準局11で算出した基準局11の位置の誤差量分だけ列車13の車上装置23で位置を補正するようにしたものである。図6は実施例2の列車の車上装置23の構成図である。列車の車上装置23には、位置算出部28で算出した算出結果に対し、列車位置を算出する補正位置算出部30が設けられている。補正位置算出部30は基準局11から送信されてきた位置誤差の大きさと方向の分だけ補正を行う。
【0031】
すなわち、基準局11の高優先度衛星組合せ情報生成部19は、高優先度衛星組合せ情報Tに、表2に示した位置誤差の小さい衛星組合せだけでなく、表3に示すように各衛星組合せの位置誤差の大きさと誤差の方向も含めて地上車上伝送装置22を介して列車13に送信する。
【表3】

【0032】
そして、列車の車上装置23は、位置算出部28で算出した算出結果に対し、基準局11で得られた位置誤差の大きさと方向の分だけ補正を行って列車位置を算出する。
【0033】
このように、基準局11から送信される高優先度衛星組合せ情報Tは、表3に示すように、位置誤差の大きさと方向に関する情報を含んでいる。具体的には、実施例1と同様に基準局11にて表1の順位表を得て許容誤差量を5mとした場合、実施例2では、表3を高優先度衛星組合せ情報Tとして列車の地上装置22に送信する。
【0034】
列車の車上装置23では、地上車上伝送装置24より受信した高優先度衛星組合せ情報Tをもとに、衛星組合せ選択部26にて順位の高い衛星組合せを選択し、位置算出部28にて列車の位置を算出する。さらに算出された位置に対して、補正位置算出部30にて誤差の大きさと方向の分だけ位置補正を行った位置を算出する。
【0035】
実施例2によれば、実施例1と同様に、マルチパス誤差の少ない衛星を選択することができる。さらに、マルチパス誤差をはじめ、電離層誤差や対流圏誤差など比較的影響の大きな誤差源をある程度除去することができるので、実施例1と比較して、より高い位置精度が期待できる。なお、一般的なDGPSと比較して、実施例2ではマルチパス誤差も低減できるので、位置精度が向上する。
【実施例3】
【0036】
次に、実施例3について説明する。実施例3は、実施例1又は実施例2に対し、基準局11にてDGPS位置算出を行いマルチパス以外の誤差を排除した上で衛星組合せの良し悪しを判定するようにしたものである。図7は実施例3の基準局11の構成図である。実施例3における基準局11は、図1に示した実施例1の基準局11に対し、DGPS(Differential GPS)機能を利用する点である。具体的には、見晴らしのいい場所に設置されたDGPS用基準局や、SBAS(Satellite Based Augmentation System)等のシステムにより、擬似距離補正用情報D(電離層遅延誤差や対流圏遅延誤差等の情報)を取得し、最新のものを擬似距離補正用情報記憶部31に記憶する。
【0037】
そして、位置情報算出部18にて、擬似距離補正を行った上で位置を算出し、高優先度衛星組合せ情報生成部19にて真位置との比較をし、実施例1もしくは実施例2と同様の高優先度衛星組合せ情報を生成し、地上車上伝送装置22を用いて列車13の車上装置23へ送信する。
【0038】
車上装置23は図2もしくは図6の構成を取り、実施例1もしくは実施例2と同様の処理を行って列車13の位置を算出する。このとき、一般的なDGPS機能による補正を行って位置を算出しても良い。
【0039】
実施例3によれば、実施例1や実施例2では、マルチパス誤差がそれほど大きくない場合には、マルチパス誤差が他の誤差に埋もれてしまい、マルチパスの有無が正しく判定できない可能性があるが、実施例3では先に他の誤差を排除するので、小さなマルチパス誤差にも対応できる。
【実施例4】
【0040】
次に、実施例4について説明する。実施例4は実施例1に対し、衛星組合せに代えて衛星単位で、衛星の良し悪しを判定するようにしたものである。ここでは、擬似距離誤差により衛星の良し悪しを判定する。実施例4においても、基準局を実施例1と同様に沿線上に配置する。
【0041】
図8は実施例4における地上の基準局の構成図、図9は実施例4における車上装置の構成図、図10は実施例4で用いる幾何学的距離と擬似距離との説明図である。実施例4は実施例1とは異なり、衛星の組合せ単位でなく、衛星単位で良し悪しを判定するものであり、その判定方法は、各衛星に対して衛星位置と真位置との幾何学的距離を基準とし、擬似距離誤差の大きさにより判定する。
【0042】
図8に示すように、基準局11では衛星信号受信部15により受信した同時刻の衛星信号S1〜Snを衛星信号一時記憶部16に記憶する。そして、各衛星について、擬似距離算出部32にて擬似距離を算出する。また、幾何学的距離算出部33にて幾何学的距離を算出する。図10に示すように、擬似距離は衛星からの電波伝搬時間tkと光速度cとの乗算により算出する。また、幾何学的距離は基準局の位置と衛星の位置とから算出する。高優先度衛星情報生成部34は、擬似距離算出部32にて算出された擬似距離と、幾何学的距離算出部33にて算出された幾何学的距離とを比較する。比較結果を表4に示す。表4は衛星順位表を表している。
【表4】

【0043】
そして、高優先度衛星情報生成部34は高優先度衛星情報を生成する。例えば距離誤差量が5m以内のものを高優先度衛星情報として抽出し、高優先度衛星情報記憶部35に記憶する。表5に高優先度衛星情報の一例を示す。
【表5】

【0044】
高優先度衛星情報は、例えば、表4に示すような衛星順位表の上位部分の衛星情報である。表5の一例では、最も良い衛星は3番の衛星であるといえる。高優先度衛星情報としては、前述したように、例えば距離誤差量(擬似距離と幾何学的距離との差)が5m以内のものを抽出する。なお、許容誤差量を非常に大きな値にして、順位表全てを高優先度衛星情報としても構わない。こうして得られた情報は、高優先度衛星情報記憶部35に記憶される。この高優先度衛星情報記憶部35には、過去の情報を蓄積していっても良いし、最新の情報だけ記憶しても良い。そして、記憶されている最新の高優先度衛星情報Uを地上車上伝送装置22を用いて、ある周期(例えば10秒)で列車13に伝送する。
【0045】
図9に示すように、列車13の車上装置23では、基準局11からの高優先度衛星情報Uを地上車上伝送装置24にて受信する。地上車上伝送装置24にて受信した基準局11からの高優先度衛星情報Uは、高優先度衛星情報記憶部36に記憶される。そして、衛星選択部37は、衛星信号受信部27にて受信した衛星信号S1〜Snの中から、高優先度衛星情報記憶部36に記憶された高優先度衛星情報Uの中で順位が高い衛星を優先的に選択し、位置算出部28は衛星選択部37で選択された衛星を利用して位置算出を行う。
【0046】
このとき、一般的なDGPS機能などによる補正を行っても良い。もし、基準局11から伝送された高優先度衛星情報から選択可能な衛星数が4個に満たない場合は、GPSにより算出される位置の精度が低いものとみなし、速度発電機やジャイロなど、他の計測器を用いた位置算出を行うようにしても良い。
【0047】
ここで、基準局11から車上装置23への伝送方法については、実施例4では、無線を用いて直接的に基準局11から列車13への送信を行うが、その他の通信手段でも構わない。例えば、図5に示すように、地上の中央装置29などを経由して、間接的に送信しても構わないし、有線で通信を行っても構わない。また、基準局11側で列車13を選択して伝送する方法でも良いし、列車側で基準局を選択して伝送する方法でも良い。
【0048】
実施例4によれば、実施例1と比較して基準局11での処理量が減り、基準局11から列車13への伝送量も小さくなる。位置精度に関しては、基本的には実施例1と同等の効果が期待できる。なお、単に擬似距離の小さい衛星を選んでしまうと衛星方向に偏りが出ることがあるため、わずかに精度が下がる可能性もある。
【実施例5】
【0049】
次に、実施例5について説明する。実施例5は、実施例4に対し、基準局11での擬似距離誤差の分だけ、車上装置23で擬似距離補正を行って列車13の位置を算出するようにしたものである。図11は実施例5の列車の車上装置23の構成図である。実施例4と異なる点は、基準局11の高優先度衛星情報生成部35は、高優先度衛星情報Uに、擬似距離と幾何学的距離との差が小さい衛星のリストだけでなく、衛星の擬似距離誤差の大きさも含めて地上車上伝送装置22を介して列車13に送信し、列車13の車上装置23は、基準局11から伝送されてきた擬似距離誤差の大きさだけ補正を行う擬似距離補正部38を備え、位置算出部28は擬似距離補正部38で補正された擬似距離誤差を加味して列車位置を算出することである。
【0050】
すなわち、高優先度衛星情報Uには擬似距離誤差の大きさに関する情報が含まれている。具体的には、実施例4と同様に基準局11にて表4の衛星順位表を得て、許容誤差量を5mとした場合の擬似距離誤差の大きさを含む高優先度衛星情報を求める。擬似距離誤差の大きさを含む高優先度衛星情報の一例を表6に示す。
【表6】

【0051】
列車13の車上装置23では、地上車上伝送装置24より受信した高優先度衛星情報Uをもとに、衛星選択部37にて順位の高い衛星を優先的に選択し、さらに擬似距離補正部38にて、基準局11で観測された誤差量により擬似距離を補正する。そして、その擬似距離を用いて、位置算出部28にて列車13の位置を算出する。
【0052】
実施例5によれば、実施例2と同様に、マルチパス誤差の少ない衛星を選択することができる。さらに、マルチパス誤差をはじめ、電離層誤差や対流圏誤差など、比較的影響の大きな誤差源をある程度除去することができる。一般的なDGPSでは、マルチパス誤差は低減できないが、本実施例ではマルチパス誤差も低減できるので、位置精度が向上する。実施例5は実施例2に比べ、基準局での処理量が小さく伝送量も小さくて済む。
【実施例6】
【0053】
次に、実施例6について説明する。実施例6は、実施例4もしくは実施例5に対し、基準局11においてDGPS補正をした上で擬似距離誤差を算出し衛星の良し悪しを判定するようにしたものである。
【0054】
図12は実施例6の基準局11の構成図である。実施例4や実施例5と異なる点は、基準局11においてDGPS(Differential GPS)機能を利用する点である。具体的には、見晴らしのいい場所に設置されたDGPS用基準局や、SBAS(Satellite Based Augmentation System)等のシステムにより、擬似距離補正用情報D(電離層遅延誤差や対流圏遅延誤差等の情報)を取得し、その最新のものを擬似距離補正用情報記憶部31に記憶する。
【0055】
そして、その補正量を利用して、擬似距離算出部32にて、各衛星の擬似距離を算出する。また、幾何学的距離算出部33にて基準局11と各衛星14a〜14nとの間の幾何学的距離を求める。そして、高優先度衛星情報生成部34にて擬似距離と幾何学的距離とを比較し、実施例4もしくは実施例5と同様の高優先度衛星情報Uを生成し、地上車上伝送装置22を用いて列車13へ送信する。
【0056】
列車13の車上装置23は図9もしくは図11の構成であり、実施例4もしくは実施例5と同様の処理を行って列車の位置を算出する。なお、このとき車上で一般的なDGPS機能による補正を行っても良い。
【0057】
実施例6によれば、マルチパス誤差が小さい場合、マルチパス誤差が他の誤差に埋もれてしまい、マルチパスの有無が正しく判定できない可能性があるが、実施例6では先に他の誤差を排除するので、小さなマルチパス誤差にも対応できる。実施例3と比較して基準局11での処理量や、基準局11から列車12への伝送量が小さくて済む。
【実施例7】
【0058】
次に、実施例7について説明する。実施例7は、実施例1乃至実施例6に対し、短時間で変化の激しい衛星の組合せ又は衛星は排除するようにしたものである。実施例7では、実施例4〜6の拡張として説明する。実施例7では、基準局11の高優先度衛星情報生成部34にて、例えば過去3分間の1秒周期の衛星情報を蓄積し、変動幅が5mを超えるような衛星は排除することにする。表7は、衛星番号6番の過去3分間の1秒周期の衛星情報(距離誤差量)の一例を示す表である。
【表7】

【0059】
表7に示すように、この衛星の擬似距離誤差は、最も誤差が小さい場合は1.2mであるが、最大で誤差が6.3mとなっている。従って、瞬間的には衛星6は質が良いと言えるが、誤差が出やすい位置と考えられるので衛星6は排除する。
【0060】
以上の説明では実施例4の拡張として説明したが、実施例1〜3の拡張とした場合には、基準局11の高優先度衛星組合せ情報生成部19にて、例えば過去3分間の1秒周期の衛星情報を蓄積し、変動幅が5mを超えるような衛星は排除することになる。
【0061】
実施例7によれば、瞬間的に偶然良い精度の位置情報が得られて一見良く見えても、実はマルチパス誤差を生じやすい位置にある衛星を排除することが可能になり、位置算出の安定性が向上する。一般的に、マルチパス以外の要因による誤差はゆっくり変化するので、基準局において擬似距離や位置情報の変化が激しい場合、その誤差の原因はマルチパスである可能性が高い。このことから、瞬間的に偶然良い精度の位置情報が得られても、マルチパス誤差を生じやすい位置にある衛星である場合がある。そのようなマルチパス誤差を生じやすい位置にある衛星を排除でくるので、位置算出の安定性が向上する。
【実施例8】
【0062】
次に、実施例8について説明する。実施例8は、基準局11の高優先度衛星組合せ情報生成部19、又は前記高優先度衛星情報生成部34において、過去1日以上の衛星観測データを保持し、マルチパス衛星もしくは衛星の組合せを除外するようにしたものである。
【0063】
衛星14は、地球の周りの決まった軌道をおよそ1日に1周するように構成されているので、衛星14の配置をある程度予測することが可能である。従って、基準局11にて、長期間(例えば3カ月分)のデータを蓄積すれば、どの時間にどの衛星のマルチパス誤差が小さいかを予測することができる。このようにして、どの時間にどのエリアでどの衛星を選択すれば良いかということをデータベース化し、車上装置23に設置すれば、基準局11と車上装置23との通信をせずとも、マルチパス誤差の小さい衛星を選択することができる。
【0064】
実施例8によれば、基準局11と車上装置23との通信を行わずに、車上装置23のみでマルチパス誤差が小さくなる衛星14を選択できる。
【符号の説明】
【0065】
11…基準局、12…線路、13…列車、14…衛星、15…衛星信号受信部、16…衛星信号一時記憶部、17…衛星組合せ選択部、18…位置情報算出部、19…高優先度衛星組合せ情報生成部、20…真位置情報記憶部、21…高優先度衛星組合せ情報記憶部、22…地上車上伝送装置、

23…車上装置、24…地上車上伝送装置、25…高優先度衛星組合せ情報記憶部、26…衛星組合せ選択部、27…衛星信号受信部、28…位置算出部、

29…中央装置、30…補正位置算出部、31…擬似距離補正用情報記憶部、32…擬似距離算出部、33…幾何学的距離算出部、34…高優先度衛星情報生成部、35…高優先度衛星情報記憶部、36…高優先度衛星情報記憶部、37…衛星選択部、38…擬似距離補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星からの衛星信号を受信する地上に設置された1つ以上の基準局と、1編成以上の列車にそれぞれ搭載された車上装置とから構成される列車位置検知システムにおいて、
前記基準局は、
前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、
前記衛星信号受信部で受信した衛星信号の中から所定個数の衛星組合せを選択する衛星組合せ選択部と、
前記衛星組合せ選択部で選択された衛星信号から前記基準局の位置を算出する位置情報算出部と、
前記位置情報算出部で算出された位置と予め定められた前記基準局の真位置との誤差の小さい衛星の組合せを判定し誤差の小さい衛星の組合せのリストである高優先度衛星組合せ情報を生成する高優先度衛星組合せ情報生成部と、
前記高優先度衛星組合せ情報生成部で生成された高優先度衛星組合せ情報を列車に送信するための地上車上伝送装置とを備え、
前記列車の車上装置は、
前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、
前記基準局で生成された高優先度衛星組合せ情報を受信するための地上車上伝送装置と、
前記地上車上伝送装置で受信した高優先度衛星組合せ情報を用いて前記衛星信号受信部で受信した衛星信号の中から位置誤差の小さくなる衛星組合せを選択する衛星組合せ選択部と、
前記衛星組合せ選択部で選択された衛星信号を利用して前記衛星信号受信部で受信した衛星信号に基づき列車の位置を算出する位置算出部とを備えたことを特徴とする列車位置検知システム。
【請求項2】
前記基準局の前記高優先度衛星組合せ情報生成部は、前記高優先度衛星組合せ情報に、位置誤差の小さい衛星組合せだけでなく、各衛星組合せの位置誤差の大きさと誤差の方向も含めて前記地上車上伝送装置を介して前記列車に送信し、
前記列車の車上装置は、前記位置算出部で算出した算出結果に対し、前記基準局で得られた位置誤差の大きさと方向の分だけ補正を行って列車位置を算出する補正位置算出部を備えたこと特徴とする請求項1に記載の列車位置検知システム。
【請求項3】
前記基準局は、DGPS機能を利用して得られた疑似距離補正用情報を記憶する疑似距離補正用情報記憶部を備え、前記基準局の前記位置情報算出部は前記疑似距離補正用情報に記憶された疑似距離補正用情報に基づいて前記基準局の位置を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の列車位置検知システム。
【請求項4】
衛星からの衛星信号を受信する地上に設置された1つ以上の基準局と、1編成以上の列車にそれぞれ搭載された車上装置とから構成される列車位置検知システムにおいて、
前記基準局は、
前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、
前記衛星信号受信部で受信した衛星信号に基づいて前記衛星と前記基準局との擬似距離を算出する擬似距離算出部と、
前記衛星信号より把握できる衛星位置と予め定められた前記基準局の真位置とから幾何学的距離を算出する幾何学的距離算出部と、
前記疑似距離算出部で算出した擬似距離と前記幾何学的距離算出部で算出した幾何学的距離との差が小さい衛星を判定し前記差の小さい衛星のリストである高優先度衛星情報を生成する高優先度衛星情報生成部と、
前記高優先度衛星情報生成部で生成された高優先度衛星情報を列車に送信するための地上車上伝送装置とを備え、
前記列車の車上装置は、
前記衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信部と、
前記基準局で生成された高優先度衛星情報を受信するための地上車上伝送装置と、
前記地上車上伝送装置で受信した高優先度衛星情報を用いて前記衛星信号受信部で受信した衛星信号の中から擬似距離の小さな衛星を選択する衛星選択部と、
前記衛星選択部で選択された衛星信号を利用して前記衛星信号受信部で受信した衛星信号に基づき列車の位置を算出する位置算出部とを備えたことを特徴とする列車位置検知システム。
【請求項5】
前記基準局の前記高優先度衛星情報生成部は、前記高優先度衛星情報に、擬似距離と幾何学的距離との差が小さい衛星のリストだけでなく、衛星の擬似距離誤差の大きさも含めて前記地上車上伝送装置を介して前記列車に送信し、前記列車の車上装置は、前記基準局から伝送されてきた擬似距離誤差の大きさだけ補正を行う擬似距離補正部を備え、前記位置算出部は前記擬似距離補正部で補正された擬似距離誤差を加味して列車位置を算出することを特徴とする請求項4に記載の列車位置検知システム。
【請求項6】
前記基準局は、DGPS機能を利用して得られた疑似距離補正用情報を記憶する疑似距離補正用情報記憶部を備え、前記基準局の前記擬似距離算出部は前記衛星と前記基準局との擬似距離を算出することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の列車位置検知システム。
【請求項7】
前記基準局の前記高優先度衛星組合せ情報生成部、又は前記基準局の前記高優先度衛星情報生成部は、過去1日以内の短時間の衛星観測データを保持し、頻繁にマルチパスの影響を受けている衛星もしくは衛星の組合せを除外することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の列車位置検知システム。
【請求項8】
前記基準局の前記高優先度衛星組合せ情報生成部、又は前記基準局の前記高優先度衛星情報生成部は、過去1日以上の衛星観測データを保持し、マルチパス衛星もしくは衛星の組合せを除外することを特徴とする請求項1記載の列車位置検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−163118(P2010−163118A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8404(P2009−8404)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】