説明

列車制御用信号検出装置

【課題】 地上子から送られる受信信号が正規の信号であるか否かを適正に判定することができ、信号の誤検知による不適当な制御を確実に防止することのできる列車制御用信号検出装置を提供する。
【解決手段】 車上情報に基づいて所定の周波数信号を拡散変調してSS信号として出力するSS信号発生回路5と、SS信号発生回路5からのSS信号が供給される車上子7と、車上子7と地上子4との電磁結合により、車上子7の二次側に送られる受信信号のピークレベルを判定して受信信号が正常な信号であるか否かを判定するCPU14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御用信号検出装置に係り、特に、ATSやATC等の列車制御装置に用いられる列車制御用信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ATSやATC等の列車制御装置においては、列車に搭載された車上子と、軌道に沿って配置された地上子とを電磁結合させることにより、車上側から地上側に信号を送信し、地上側において所定の制御を行うとともに、地上側から車上側に信号を送信し車上側で所定の制御を行うことが行われている。
【0003】
この場合に、信号の送信方式として、近年、脱変周方式(スペクトラム拡散方式)が多く用いられるようになってきており、この脱変周方式においては、車上子と地上子との電磁結合により、車上子の二次側から送られる受信信号が、特定の周波数においてピークが発生する周波数分布を呈するものであり、このピーク周波数が一定のレベルを超えた場合に、地上子からの信号を検知したものと判断するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−28877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の発明によれば、軌道上の鉄板または軌道下の鉄筋コンクリート床(スラブ)内の鉄筋などの物体が存在していた場合に、列車の車上子がこの物体上を通過した場合に、地上子と電磁結合していないにもかかわらず、地上子からの受信信号の受信レベルが上昇してしまう場合があるという問題を有している。その結果、地上子と電磁結合していない場合にも、信号を受信したと判断してしまい、信号の誤検知を招いてしまい、不適当な制御を行うおそれがあるという問題を有している。
【0005】
本発明は前記して点に鑑みてなされたものであり、地上子から送られる受信信号が正規の信号であるか否かを適正に判定することができ、信号の誤検知による不適当な制御を確実に防止することのできる列車制御用信号検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために請求項1に係る発明は、列車の走行する軌道に沿って設けられた地上子と、車上情報に基づいて所定の周波数信号を拡散変調してSS信号として出力するSS信号発生回路と、前記SS信号発生回路からのSS信号が供給される車上子と、前記車上子と前記地上子との電磁結合により、前記車上子の二次側に送られる受信信号のピークレベルを判定する判定手段とを備え、
前記判定手段は、ピークレベルがピーク周波数の上下近傍の周波数を基準として一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するものであることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記判定手段は、前記車上子の二次側から送られる受信信号のQ値を演算し、前記Q値が一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、SS信号発生回路により出力されるSS信号を車上子から地上子に送信し、判定手段により、地上子から車上子の二次側で受信される受信信号のピークレベルがピーク周波数の上下近傍の周波数を基準として一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するようにしているので、信号の誤検知を確実に防止することができ、適正な制御を行うことができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、判定手段により、車上子の二次側から送られる受信信号のQ値を演算し、このQ値が一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するようにしているので、信号の誤検知を確実に防止することができ、適正な制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る列車制御用信号検出装置の実施形態を示す概略構成図であり、所定の軌道を走行する列車1に搭載された車上装置2には、車上から地上に送出するための車上情報を生成する変調器3が設けられている。この変調器3には、変調器3から出力される車上情報に基づいて、軌道に沿って設けられた地上子4で用いられている周波数に対応したSS信号(スペクトラム拡散信号)を常時発生させるSS信号発生回路5が接続されている。
【0012】
SS信号発生回路5には、接続トランス6を介して列車1の先端下部に設けられている車上子7を構成する一次コイル8に接続されている。
【0013】
また、車上子7を構成する二次コイル9には、接続トランス10が接続されており、接続トランス10の二次側には、接続トランス10の二次側から得られるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路11が接続されている。A/D変換回路11には、A/D変換回路11から得られた信号を一定時間毎にサンプリングして周波数を分析処理するFFT演算処理回路12が接続されており、FFT演算処理回路12には、このFFT演算処理回路12の出力を検波し、所定のしきい値を用いて地上子4との結合状態を検出するパターンDET回路13が接続されている。パターンDET回路13には、所定の演算処理を行なうことのできるピークレベルの判定手段としてのCPU14が接続されており、パターンDET回路13の出力信号がCPU14に入力されるように構成されている。
【0014】
CPU14は、入力される受信信号のピーク周波数に基づいてQ値を算出してQ値が、あらかじめ設定された所定のしきい値以上である場合には、正規の信号が入力されたと判定して地上子4との電磁結合が行われたと判定し、所定のしきい値以下である場合には、異常の信号が入力されたものと判定し、例えば、軌道上の鉄板などの地上子4以外の物体により周波数が高くなったものと判定する。
【0015】
ここで、Q値とは、特定のピーク周波数の尖鋭度を示す値であり、Q値が大きいほど変周感度が良好となる。例えば、図2に示すように、周波数f0にピーク周波数がある場合、その両側の周波数f1,f2(ピーク周波数から−3dB下がった周波数)を基準として、以下の式で表すことができる。
Q=f0/(f2−f1)
したがって、CPU14は、入力される周波数信号を前記式により演算をすることにより、Q値を算出するように構成されている。
【0016】
そして、CPU14により、入力される受信信号のピーク周波数に基づいてQ値を算出し、図2に示すように、Q値が所定のしきい値以上である場合には、正規の信号が入力されたと判定して地上子4との電磁結合が行われたと判定する。一方、図3に示すように、Q値が所定のしきい値以下である場合には、異常の信号が入力されたものと判定し、地上子4以外の物体により周波数が高くなったものと判定する。
【0017】
また、軌道に沿って設けられた地上子4は、軌道の所定箇所に所定の間隔を保って複数個設けられるものであり、地上子4は、車上子7と電磁結合したときに車上装置2のSS信号発生回路5で生成されたSS信号を地上装置15に出力できるように構成されている。地上装置15は、SS信号発生回路5から出力されたSS信号に基づいて車上情報を認識し、この車上情報は、各種列車1の制御に利用されるものである。
【0018】
次に、本実施形態の制御動作について図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0019】
列車1の運転開始により車上装置2の電源が投入されたら(ST1;Yes)、変調器3により、所定の車上情報を生成してSS信号発生回路5に出力され、SS信号発生回路5により、変調器3からの車上情報に基づいて、拡散変調させたSS信号が発生され(ST2)、車上子7に出力される(ST3)。
【0020】
また、列車1の走行により車上子7が地上子4に電磁結合されると、SS信号がその地上子4に受信され、受信されたSS信号は、地上装置15に出力され、このSS信号から地上装置15により車上情報を認識して、この車上情報は、各種列車1の制御に利用される。
【0021】
また、車上子7の二次コイル9から受信信号が入力されると(ST4)、接続トランス10を介してA/D変換回路11に出力され、A/D変換回路11によりデジタル信号に変換される。そして、デジタル変換された受信信号は、FFT演算処理回路12により一定時間毎にサンプリングして周波数の分析処理が行われ、パターンDET回路13により、このFFT演算処理回路12の出力が検波されてCPU14に出力される。
【0022】
CPU14は、入力される受信信号のピーク周波数に基づいてQ値を算出する(ST5)。そして、このQ値が所定のしきい値以上または以下であるかを判定し(ST6)、Q値が所定のしきい値以上である場合には、正規の信号が入力されたと判定して地上子4との電磁結合が行われたと判定する(ST7)。一方、Q値が所定のしきい値以下である場合には、異常の信号が入力されたものと判定し、地上子4以外の物体により周波数が高くなったものと判定する(ST8)。
【0023】
したがって、本実施形態においては、SS信号発生回路5により出力されるSS信号を車上子7から地上子4に送信し、地上子4から車上子7の二次側で受信される受信信号のQ値を算出し、このQ値が所定のしきい値以上である場合には、正規の信号が入力されたと判定するとともに、Q値が所定のしきい値以下である場合には、異常の信号が入力されたものと判定するようにしているので、信号の誤検知を確実に防止することができ、適正な制御を行うことができる。
【0024】
なお、前記実施形態においては、CPU14により、受信信号のQ値を演算して所定のしきい値と比較することにより、受信信号が正規の信号であるか否かを判定するようにしたが、Q値を演算せずに、例えば、ピーク周波数レベルと、ピーク周波数の上下近傍の周波数レベルとの差分を求め、この差分が所定のしきい値より大きい場合に、受信信号が正規の信号であると判定するようにしてもよい。この場合、上下近傍の周波数は任意に設定することができるが、例えば、103kHzをピーク周波数とした場合、±2kHz、すなわち、近傍周波数を101kHz、105kHzで設定するようにする。
【0025】
また、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態における正常な状態の受信信号の波形を示すグラフである。
【図3】本実施形態における異常な状態の受信信号の波形を示すグラフである。
【図4】本実施形態による制御動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 列車
2 車上装置
3 変調器
4 地上子
5 SS信号発生回路
6,10 接続トランス
7 車上子
11 A/D変換回路
12 FFT演算処理回路
13 パターンDET回路
14 CPU
15 地上装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の走行する軌道に沿って設けられた地上子と、
車上情報に基づいて所定の周波数信号を拡散変調してSS信号として出力するSS信号発生回路と、
前記SS信号発生回路からのSS信号が供給される車上子と、
前記車上子と前記地上子との電磁結合により、前記車上子の二次側に送られる受信信号のピークレベルを判定する判定手段とを備え、
前記判定手段は、ピークレベルがピーク周波数の上下近傍の周波数を基準として一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するものであることを特徴とする列車制御用信号検出装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記車上子の二次側から送られる受信信号のQ値を演算し、前記Q値が一定のしきい値以上である場合に、正常な信号であると判定するものであることを特徴とする請求項1に記載の列車制御用信号検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−194948(P2009−194948A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30066(P2008−30066)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】