説明

列車走行実績データ作成システム

【課題】計算処理負荷の小さな算出方法で鉄道網における各列車の走行実績データを作成する。
【解決手段】データベース部は、路線内の所定の基準点における緯度・経度情報、基準駅から基準点までの距離程および基準点から所望の誤差許容距離内で定義された判定エリアの緯度・経度情報を関連付けた判定エリアデータを記憶する。GPS測位データ補正部は、GPS測位データ受信部で受信された測位データの緯度・経度が判定エリアデータに含まれる場合、該当する判定エリアが対応する路線の距離程に列車が存在するものと判定して所定の補正演算を行い、現在時刻における列車の距離程および緯度・経度を含む補正測位データを作成する。走行実績データ作成部は、GPS測位データ補正部で作成された補正測位データを取得し、測位時刻と距離程の関係を示す走行実績データを列車毎に作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、列車走行実績データ作成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道において、列車の走行している位置を検出する方法としては、(1)線路近傍に設置されたATS(Automatic Train Stop:自動列車停止装置)の地上子等を基準の位置とし、既知値である車輪の径と、検出した車輪の回転数とに基づいて列車の積算走行距離を演算して基準位置から線路上における列車の現在位置(例えば、その線路の起点からのキロ程)を算出する方法、(2)鉄道の列車車両にGPS装置を設け、列車位置をGPSの経度緯度情報によって把握する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3816018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術においては、その列車が計画されたダイヤに対して、正確にダイヤ上を走行しているのか否か、どれぐらい進行に差異があるのか否か等は把握できていない。すなわち、列車の進み時間や遅れ時間は、駅の到着時間、発車時間の計測によってのみ可能であった。したがって、駅間途中の地点で止まった場合などには、各列車が計画ダイヤに対して何分遅れているのかを判断する手段がなかった。
【0005】
また、車載GPS装置からデータを収集するシステムの場合には、GPSの測定精度が低いと、実際の列車位置との間に誤差が生じる。また、GPSからの測位情報が正常か否かを判定することも必要である。特に、分岐線が平行して走行する路線の場合には、どちらの路線に進んだのかを判定しないといけないが、単なるキロ程の羅列点との比較による位置補正では、これを正確に判定することが難しかった。
【0006】
更に、上述の誤差をシステム側で補正する場合には、同時に運行している多数の列車から測位データ(緯度・経度情報)が常時集まってくるため、処理負荷が大きくなり実用化が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題に鑑み、計算処理負荷の小さな算出方法で鉄道網における各列車の走行実績データを作成可能な列車走行実績データ作成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る列車走行実績データ作成システムは、地球を周回するGPS衛星と、列車毎に搭載され、GPS衛星から受信したGPS信号に基づいて自車の緯度・経度情報を測位し、測位データとして無線送信する車載GPS測位装置と、鉄道網内に配置され、車載GPS測位装置から無線送信された測位データを中継する複数の無線基地局と、これら無線基地局に接続され、列車の走行実績データを作成する走行実績計算用コンピュータと、を備えている。
【0009】
また、上述の走行実績計算用コンピュータは、GPS測位データ受信部と、データベース部と、GPS測位データ補正部と、走行実績データ作成部と、を有している。GPS測位データ受信部は、無線基地局から測位データを受信する。データベース部は、路線内の所定の基準点における緯度・経度情報、路線の基準駅から基準点までの距離程および基準点から所望の誤差許容距離内で定義された判定エリアの緯度・経度情報を関連付けた判定エリアデータを記憶する。
【0010】
GPS測位データ補正部は、GPS測位データ受信部で受信された測位データの緯度・経度が判定エリアデータに含まれる場合、該当する判定エリアが対応する路線の距離程に列車が存在するものと判定して所定の補正演算を行い、現在時刻における列車の距離程および緯度・経度を含む補正測位データを作成する。走行実績データ作成部は、GPS測位データ補正部で作成された補正測位データを取得し、測位時刻と距離程の関係を示す走行実績データを列車毎に作成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る列車走行実績データ作成システムの全体構成例を示す図。
【図2】図1に示す列車走行実績データ作成システムの機能ブロック図。
【図3】図1に示す列車走行実績データ作成システムに適用されるコンピュータのハードウェア構成例を示す図。
【図4】図2に示す車載GPS測位装置の処理の具体例を示すフローチャート。
【図5】図2に示す走行実績計算用コンピュータおよび運行管理装置間のデータ・プロセス相関図。
【図6】線形データの作成対象となる路線を説明するためのGIS表示イメージを示す図。
【図7】GIS画面における線形データ作成点を示す図。
【図8】線形基本データから判定エリアデータを定義する方法を説明する図。
【図9】測位データと判定エリアデータの比較からGPS測位点の位置補正を行う手法を説明する図。
【図10】分岐する場合に判定エリアを単純に重ね合わせた例を示す図。
【図11】図10に示す判定エリアを調整した場合の具体例を示す図
【図12】キロ程から進行差異時間を算出する方法を説明する図。
【図13】GPS測位データと近似一次式の関係を示す図。
【図14】図2に示すデータ処理部における処理例を示すフローチャート。
【図15】線形基本データのGIS画面上での表示例を示す図。
【図16】GIS画面上での在線表示例を示す図。
【図17】計画ダイヤとGPS実績ダイヤ2点間直線の重ね合わせ表示の具体例を示す図。
【図18】計画ダイヤとGPS実績ダイヤ連続曲線の重ね合わせ表示の具体例を示す図。
【図19】計画ダイヤと発着実績推論データの重ね合わせ表示の具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
1.システム構成
図1は、本実施形態に係る列車走行実績データ作成システムの全体構成例を示す図である。また、図2は、図1に示す列車走行実績データ作成システムの機能ブロック図である。
【0013】
GPS衛星1は、グローバル・ポジショニング・システム (GPS:Global positioning system)で用いられる人工衛星であり、地球を周回している。各GPS衛星1は、搭載している高精度原子時計による時間情報と、約6日毎に更新される全衛星の概略の軌道情報と、約90分毎に更新される衛星自身の詳細な軌道情報を含むデータを18秒の信号に乗せて30秒周期で1.2GHz/1.5GHz帯によって送信する。利用者は、このGPS信号を受信し、複数の衛星からの情報を元に高度な演算を行うことによって、受信地点の正確な三次元位置が得られる。
【0014】
列車2は、車載GPS測位装置20を備えており、この車載GPS測位装置20はGPS衛星1からGPS信号を受信するGPS受信機21、測位データ管理コンピュータ22、車上無線伝送装置23からなる。GPS受信機21には、ジャイロセンサも組み込まれており、GPSによる緯度・経度情報と共に列車位置の検出に用いられる。測位データ管理コンピュータ22は、GPS受信機21で受信された緯度・経度情報を一定時間ごとに収集し、測位時刻と予め設定された車両番号、列車番号を付加した測位データを作成し、車上無線伝送装置23から測位データを鉄道網内に複数配置されている無線基地局3に送信する。そして、無線基地局3は列車2側から受信した測位データを走行実績計算用コンピュータ4に送信する。車上無線伝送装置23および無線基地局3に設けられた地上側無線伝送装置30は、携帯電話、PHSなど電話網や、WiMAXのような広域無線通信網を利用してデータの送受信を行うことを想定している。
【0015】
走行実績計算用コンピュータ4は、判定エリアデータ作成部41、GPS測位データ受信部42、データベース部43およびデータ処理部44から構成されている。判定エリアデータ作成部41は、路線内の所定の基準点における緯度・経度情報、基準駅から路線内の基準点までの距離程(以下、「キロ程」という。)および基準点(以下、「キロ程点」という。)を中心として所望の範囲(誤差許容距離内)で定義された判定エリアの緯度・経度情報を関連付けて判定エリアデータを作成するプログラムである。GPS測位データ受信部42は、車載GPS測位装置20から測位データを所定の周期で収集するプログラムである。データベース部43は、線形基本データ、判定エリアデータ、駅定義データ、計画ダイヤデータおよび測位データなど各種データを記憶するデータベースである。各データの詳細については後述する。
【0016】
データ処理部44は、GPS測位データ補正部44A、走行実績データ作成部44B、発着実績推論データ作成部44Cおよび進行差異時間演算部44Dからなるプログラムである。GPS測位データ補正部44Aは、GPS測位データ受信部42で受信された測位データの緯度・経度が判定エリアのいずれかに含まれる場合、該当する判定エリアが対応する路線のキロ程に列車が存在するものと判定して所定の補正演算を行い、現在時刻における列車のキロ程および緯度・経度を含む補正測位データを作成するプログラムである。
【0017】
走行実績データ作成部44Bは、GPS測位データ補正部44Aで作成された補正測位データを取得し、測位時刻とキロ程との関係を示す走行実績データを列車毎に作成するプログラムである。
【0018】
発着実績推論データ作成部44Cは、駅定義データ並びに走行実績データの近似一次式に基づいて列車の各駅における到着時刻および発車時刻を列車毎に推論し、発着実績推論データを作成する。進行差異時間演算部44Dは、走行実績データに含まれる距離程および測位時刻に基づいて計画ダイヤデータを参照し、同じ距離程における進行差異時間を演算する。
【0019】
データ処理部44は、これらのプログラムの協働により、列車2側から無線基地局3を介して受信した測位データを即座に補正処理し、列車の走行位置を示す測位時刻におけるキロ程位置を算出する。そして、測位時刻におけるキロ程位置を算出することにより、速度や計画ダイヤとの差異、発着時刻を推定することが可能となる。
【0020】
運行管理装置5は、データベース部51、運行状況解析部52、計画・実績比較部53および表示部54を備えたコンピュータである。データベース部51は、走行実績計算用コンピュータ4側から取得されるデータや計画ダイヤデータ、地図データなどを記憶する記憶装置である。運行状況解析部52は、計画ダイヤデータと走行実績計算用コンピュータ4側から取得した走行実績データおよび補正測位データに基づいて現在時刻における運行状況を解析して在線GISデータとして表示部54に出力するプログラムである。計画・実績比較部53は、計画ダイヤデータ、走行実績データおよび発着実績推論データに基づいて計画ダイヤと実績ダイヤとの比較を行い、その比較結果を表示部54に出力するプログラムである。
【0021】
図3は、図1に示す列車走行実績データ作成システムに適用されるコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。同図に示されるように、列車走行実績データ作成システムに適用されるコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)401、ROM(Read Only Memory)402、RAM(Random Access Memory)403、入出力インターフェース404、システムバス405、入力装置406、表示装置407、補助記憶装置408および通信装置409から構成される。
【0022】
CPU401は、ROM402やRAM403に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する処理装置である。ROM402は、コンピュータを機能させるための基本プログラムや環境ファイルなどを記憶する読み取り専用の記憶装置である。RAM403は、CPU401が実行するプログラムおよび各プログラムの実行に必要なデータを記憶する記憶装置であり、高速な読み出しと書き込みが可能である。入出力インターフェース404は、各種のハードウェアとシステムバス405との接続を仲介する装置およびプログラムである。システムバス405は、CPU401、ROM402、RAM403および入出力インターフェース404で共有される情報伝達路である。
【0023】
また、入出力インターフェース404には、入力装置406、表示装置407、補助記憶装置408、および通信装置409などのハードウェアが接続されている。入力装置406は、ユーザからの入力を処理する装置であり、例えばキーボードやマウスなどである。表示装置407は、ユーザに対して演算結果や作成画面などを表示する装置であり、例えばCRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどである。補助記憶装置408は、走行実績データの作成プログラムやデータを蓄積する大容量の記憶装置であり、例えばハードディスク装置などである。
【0024】
2.車載GPS測位装置20の動作
図4は、図2に示す車載GPS測位装置20の処理の具体例を示すフローチャートである。
【0025】
列車2の運転手が、計画ダイヤに基づいて走行する列車の列車番号を入力すると(S401)、GPSによる測位を開始する。車載GPS測位装置20には、予め搭載されている車両番号がプリセットされており、列車番号を入力することで計画ダイヤ、列車番号および車両番号が対応付けられる。尚、列車番号は計画ダイヤと紐付けするために必要であるが、単に走行実績を残すだけであれば省略可能である。
【0026】
次に、測位データ管理コンピュータ22内に設けられた時計装置(図示省略する)から現在時刻を読み出し、記憶(計時処理)する(S402)。次に、GPS受信機21から、緯度・経度データを取得する(S403)。そして、列車番号・車両番号データ、測位時刻データおよび緯度・経度データから、これらを一纏めにした測位データを生成する(S404)。
【0027】
次に、車載GPS測位装置20は、生成された測位データを最寄の無線基地局3の地上側無線伝送装置30へ送信することで、走行実績計算用コンピュータ4に送信し(S405)、予め定めたGPS測位間隔のタイマーを起動する(S406)。
【0028】
次に、列車の運転終了入力の割り込み有無を判定する(S407)。ここで、割り込みを検知した場合(S407:Yes)には、本装置の運転を終了する。これに対し、待機時間内に割り込みが無かった場合(S407:No)には、S408へ進む。
【0029】
そして、一定時間経過したか否かを判定する(S408)。ここで、一定時間経過したと判定された場合(S408:Yes)、再びS402へ戻り、GPSの測位を繰り返す。
【0030】
3.走行実績計算用コンピュータ4および運行管理装置5の関係
図5は、図2に示す走行実績計算用コンピュータ4および運行管理装置5の間のデータ・プロセス相関図である。
【0031】
車載GPS測位装置20から送信された測位データは走行実績計算用コンピュータ4内に蓄積される。蓄積された測位データと、マスタデータである線形基本データ、判定エリアデータ、駅定義データおよび計画ダイヤデータから、後述する処理方法によって走行実績作成処理が動作し、補正測位データ、走行実績データ、発着実績推論データが生成される。
【0032】
運行管理装置5では、これら生成データを使って、地図データと組み合わせGIS(Geographic Information System)表示でのTID(Traffic Information Display)表示を実現する。また、計画ダイヤと実績ダイヤとの重ね合わせ表現による比較表示を実現する。
【0033】
4.線形基本データの定義
本実施形態では、鉄道の路線を表す緯度・経度情報列を始発駅の起点位置からカーブや直線を考慮し順に定める。このとき各地点の緯度・経度情報とともに、その地点の始発駅からのキロ程を定義するものとする。以下、これを「線形基本データ」と称する。
【0034】
図6は、線形データの作成対象となる路線を説明するためのGIS表示イメージを示す図である。ここでは、破線で囲まれた路線が線形データの作成対象である。この時のキロ程は、緯度・経度からも2点間距離を求めることができるが、鉄道事業者が定めているその地点のキロ程を使用するものとする。以下の表1は線形基本データの具体例を示す。
【表1】

【0035】
図7は、図6に示すGIS画面における線形データ作成点を示す図である。ここでは、線形データ作成点が対象路線上に丸印で表されている。これらの作成点を結ぶことで対象路線がベクトルデータとして表現される。
【0036】
5.判定エリアデータの定義
図8は、線形基本データから判定エリアデータを定義する方法を説明する図である。ここでは、上述した線形基本データの2点間をさらに細かく、数十メートル単位(例えば50メートル)の判定距離間隔αで分割し、所望の数のキロ程点を求める。例えば、ある線形基本データの2点間をキロ程点a〜dに4分割する場合、分割後の各キロ程点の緯度・経度およびキロ程は線形基本データで示される2点のキロ程および緯度・経度から案分によって容易に求めることができる。尚、両端の点aおよび点dのキロ程および緯度・経度は線形基本データと同じである。
【0037】
次に、GPSの測定誤差も考慮した上で、各キロ程点a〜dに存在するものと判定する判定エリアを設定する。この判定エリアは、キロ程点を中心とし、中心の緯度・経度に対して誤算許容距離分(β/2)を加算または減算して求めた4点を頂点とする矩形のエリアとする。尚、誤差許容距離βは、判定距離間隔αの2〜3倍程度とし、判定エリアが重なるように配置するものとする。
【0038】
また、日本の緯度別の地表上の距離は、
札幌:緯度1度あたり111.1km、経度1度あたり81.5km
那覇:緯度1度あたり110.8km、経度1度あたり99.9km
である。
【0039】
つまり、緯度は国内どこでも1秒あたり30m、経度は1秒当たり札幌で22.5m、那覇で27.8mとなる。緯度により5.3mの違いがあるが、これを「誤差」として扱い、緯度1度あたり111km、経度1度あたり91kmと定義する。
【0040】
したがって、例えばキロ程点aの判定エリアである矩形の緯度・経度(xamin,xamax,yamin,yamax)は、点aの緯度・経度、判定距離間隔αおよび誤差許容距離βにより以下のような単純な計算によって求めることができる。
【0041】
amin=x−β/2
amax=x+β/2
amin=y−β/2
amax=y+β/2
β=k・α (k:比例定数)
以下の表2に表1の線形基本データから作成された判定エリアデータの具体例を示す。
【表2】

【0042】
6.測位データの定義
GPS受信機21から緯度・経度情報、測位時刻が得られると、測位データ管理コンピュータ22は、予め設定された車両番号(車両側で設定できる場合は列車番号も可能。ダイヤ乱れ時は列車番号を取得できない可能性がある。)をマージし、そのデータを測位時刻単位の測位データとする。測位データ管理コンピュータ22は連続的にGPS受信機21から緯度・経度情報、測位時刻を取得し、測位データを発生させる。以下の表3にGPS受信機21からの測位データの具体例を示す。
【表3】

【0043】
7.GPS受信機21からの測位データの位置補正処理(キロ程算出処理)
本実施形態では、車両に搭載されるGPS受信機21おいて得られる緯度・経度情報(測位データ)が線路上に配置された判定エリアに入っているか否かに基づいて、キロ程を算出する。図9は、測位データと判定エリアデータの比較からGPS測位点の位置補正を行う手法を説明する図である。同図においては、線形基本データ上に判定エリアa〜fが設定されており、ある時刻におけるGPS測位点P(x,y)は各判定エリアの最小緯度、経度と最大緯度、経度内との比較によって、判定エリアc,dに含まれることが分かる。この時の各キロ程点がK,Kとすると、その補正キロ程点Kcorおよび補正緯度・経度(xcor,ycor)は、下記の式のようにキロ程点K,Kのキロ程および緯度・経度の平均値として求めることができる。
【0044】
cor=(K+K)/2
cor=(x+x)/2
cor=(y+y)/2
このように、GPS測位点が含まれる判定エリアの各パラメータの平均値をとることで、容易に位置補正できる。また、判定エリアを多数重ね合わせるように設定すると、一つの判定エリアに基づく位置補正よりも高い精度でキロ程を求めることができる。上記の事例では、二つの判定エリアに含まれるGPS測位点については、単一の判定エリアに含まれる場合に比べて2倍の精度でキロ程を算出できる。
【0045】
また、GPS測位データが判定エリア外の異常データであるか否かについても同時に判定することができる。例えば、GPS測位点が点E(xerr,yerr)の場合には、点Eがいずれの判定エリアにも含まれないことから、異常データであることを迅速に判定することができる。
【0046】
次に、路線が分岐する場合の判定エリアの設定方法について説明する。図10は、路線が分岐する場合に判定エリアを単純に重ね合わせた例を示す図である。同図においては、S駅からa線、b線およびc線が分岐しているが、このような場合にはGPS測位点が含まれる判定エリアを検出し、最も多くの判定エリアに含まれる路線を列車が進行している路線であると判断するものとする。例えば、点Tはa線上の二つの判定エリアに含まれ、b線上の一つの判定エリアに含まれているので、列車はa線を進行しているものと判定する。そして、GPS測位データ補正部44Aは、測位データが複数の路線の判定エリア内に含まれる場合に、該当する判定エリアの数が最多の路線の判定エリアデータのみを測位データの補正に用いる。
【0047】
しかし、図10のように判定エリアを同じ大きさ・間隔で単純に配置しただけでは、分岐部近傍は二つの路線の判定エリアが重なってしまい、正確な判定はできない。そこで、本実施形態では、このような場合に対応するために、判定エリアの調整を予め行っておくものとする。
【0048】
図11は、図10に示す判定エリアを調整した場合の具体例を示す図である。同図のように、路線の判定エリアの重なりを小さくなるように範囲を補正、すなわち、上述の誤差許容距離βを判定エリアごとに定義することで、より明確にどちらの路線の測位データなのかを判定をすることができ、GPS測位点が他の路線上に位置補正されてしまうという事態は発生しない。
【0049】
また、補正演算により求められたGPS補正位置yの車両番号(列車番号)、キロ程Kyと測位時刻tは走行実績データとなるので、データベース部43(記憶装置)に保存する。以下の表4は走行実績データの具体例である。
【表4】

【0050】
8.進行差異時間(遅れ、進み)の算出
ダイヤシステムで管理されている計画ダイヤデータと、GPS補正位置yの列車番号、キロ程Kと測位時刻tから計画ダイヤとの差異時間(遅れ、進み)が算出できる。時間−距離グラフから、補正された測位位置の走行実績データのキロ程に対する、ダイヤデータの交点を求めると、計画ダイヤとの交点は本来通過すべき所定通過時刻を算出できる。GPSでの測位時刻と所定通過時刻との差が進行差異時間になる。
【0051】
計画ダイヤデータは以下の表5のように定義される。
【表5】

【0052】
図12は、キロ程から進行差異時間を算出する方法を説明する図である。算出された進行差異時間は、走行実績データとして付加され保存される。
以下の表6は算出された走行実績データの具体例である。
【表6】

【0053】
9.対地平均速度、方角の算出
最新のGPS測位データから得られた走行実績データと測位時刻が1つ前の走行実績データとの比較演算から、平均速度と走行方角を求めることができる。N回目の測位により算出されたキロ程Kと測位時刻をT、N−1回目の測位により算出されたキロ程Kn−1と測位時刻をTn−1とすると、平均速度Vは以下の式より求まる。
【0054】
=|(K−Kn−1)/(T−Tn−1)|
また、方角は、上述した「7.キロ程の算出処理」からN回目、N−1回目の測位により算出された2点の緯度・経度から、東西距離、南北距離を求め、Arctanから角度を得る。算出された平均速度と走行方角は、走行実績データとして付加され保存される。以下の表7は平均速度および走行方角が付加された走行実績データの具体例である。
【表7】

【0055】
10.GPS走行実績ダイヤから駅の到着時刻、発車時刻の算出
走行実績データから駅間のデータを抽出し(速度0から加速に変化した点から、減速から速度0になった点まで)、その測位時刻、キロ程データ群から、最小二乗法による一次方程式の近似を行う。得られた一次方程式から、駅キロ程との交点が到着時刻、発車時刻であると定義すると、列車の到着時刻、発車時刻を求めることができる。例えば、駅のキロ程を表すデータは以下の表8のように定義される。
【表8】

【0056】
連続する同一車両番号のGPSの測位データの近似一次式は、駅端キロ程1〜駅端キロ程2の間に入り、速度0(正確には速度0にならないため、例えば1km/h未満になったとき)のデータを1つ含む連続データから算出する。以下の表9は近似一次式の算出に用いる連続した走行実績データの具体例である。
【表9】

【0057】
上記の走行実績データ群から、α駅の発車時刻、β駅の到着時刻を算出する。α駅、β駅で、走行実績データ群から得られる近似一次方程式の交点(x軸値)を、発車時刻、到着時刻と定義付ける。
【0058】
図13は、GPS測位データと近似一次式の関係を示す図である。今測定した、GPS測位データから得られた走行実績データ(測位時刻、補正キロ程)が以下のように得られたとする。
【0059】
[x,y]=(x,y),(x,y),(x,y),…,(xn−2,yn−2),(xn-1,yn-1),(x,y
このとき、求めたい一次方程式を
y=ax+b
とすると、変数a,bは最小二乗法による以下の式で求めることができる。
【数1】

【0060】
よって、α駅、β駅で、上記一次方程式の交点(x軸値)が、発車時刻および到着時刻であると定義付けると、それぞれキロ程yα,yβとしたときの、発車時刻、到着時刻はそれぞれ、xα,xβとなり以下のように算出できる。
【0061】
α=(yα−b)/a
β=(yβ−b)/a
上記手法で、各車両、各駅間で算出された発車時刻、到着時刻を以下の形式で蓄積していくことで以下の表10に示すような発着実績推論データを算出する。
【表10】

【0062】
11.走行実績データの作成処理
図14は、図2に示すデータ処理部44における処理例を示すフローチャートである。
【0063】
先ず、GPS測位データ補正部44Aは、GPS測位データ受信部42が列車側より受信したGPS測位データを取得する(S1401)。
【0064】
次に、走行実績データ作成部44Bは、データベース部51に記憶された判定エリアデータを参照し、測位データの緯度・経度(測位点)が含まれる判定エリアデータを全て抽出し、メモリに格納する(S1402)。
【0065】
次に、GPS測位データ補正部44Aは、データベース部43から該当する判定エリアデータ内の線区コードを読み込み、該当する判定エリアの数を線区コードごとに計数し、走行する線区を判定する(S1403)。具体的には、該当する判定エリアの数が最も多い線区コードを、走行している線区(路線)であると判定し、線区判定結果データとして格納する。
【0066】
次に、GPS測位データ補正部44Aは、該当判定エリアデータから、先の線区判定結果データの線区データと一致する該当判定エリアデータのみを用い、上述の判定エリアのキロ程に基づく位置補正によって線区内でのキロ程を算出する(S1404)。
【0067】
次に、進行差異時間算出部44Dは、GPS測位データ補正部44Aで算出されたキロ程から、計画ダイヤを逆引きし、本来走行すべき時刻を導き出し、測位時刻と本来走行すべき時刻の差を進行差異時間として算出する(S1405)。走行実績データ作成部44Bは、これら測位時刻とキロ程、進行差異時間を含む走行実績データをデータベース部43に格納する。
【0068】
次に、走行実績データ作成部44Bは、1つ前の補正測定データと比較することにより、その移動距離、測位間隔(時間)、緯度・経度の差異から、平均速度や方角を求める(S1406)。これらデータも走行実績データに付加してデータベース部43に格納する。
【0069】
次に、発着実績推論データ作成部44Cは、走行実績データと駅定義データを比較し、駅間の走行を完了したか否かを判定する(S1407)。ここで、駅間を超えて次の駅間に移動したと判定された場合(S1407:Yes)、駅間を走行した非線形な走行実績データから、線形な走行データを算出する。線形な走行実績一次式に変換し、駅キロ程との交点を理論上の発車時刻、到着時刻と定義し、発着実績推論データを算出する(S1408)。これに対し、駅間の移動はないと判定された場合は、S1401へ戻る。
【0070】
そして、発着実績推論データ作成部44Cは、全ての区間について発着実績推論データの算出が終了したか否かを判定する(S1409)。ここで、全ての区間についての算出が終了したと判定された場合(S1409:Yes)には処理を終了する。これに対し、全ての区間についての算出が終了していないと判定された場合(S1409:No)には、S1401へ戻り、算出が終了するまで同様の処理を繰り返す。尚、上述の処理は、各列車の走行に合わせて常時収集されるデータに対して実行され、列車毎にリアルタイムで走行実績データが生成されるものとする。
【0071】
12.運行状況表示
図15は、線形基本データのGIS画面上での表示例を示す図である。同図に示されるように、実際にTID(Traffic Information Display)表示として鉄道の線路表示するときは、表1の各地点を結んだベクトル表示とする。
【0072】
また、補正演算により求められたGPS補正位置yの緯度N、経度Eとすると、それをGIS表示上にアイコン表示する。アイコン色は遅れ時間によって変更するものとし、アイコンの上に列車番号を表示する。図16は、GIS画面上での在線表示例を示す図である。同図のように、GIS画面上に線形基本ベクトルデータと列車位置のアイコンを表示することで、列車2が存在する場所や周囲の状況を正確に把握することができるので効果的である。例えば、列車番号2508Aの列車2がB駅とC駅の間にある消防署付近を走行している、あるいは、停車していることが分かる。
【0073】
13.実績ダイヤの基本ダイヤ画面への重ね表示
運行管理装置5は、走行実績計算用コンピュータ4での生成データと計画ダイヤデータに基づいて基本ダイヤ画面上に実績データを重ね合わせた表示を行う。本実施形態では、計画ダイヤデータと重ね合わせるデータは3種類ある。図17は、GPSから算出補正された走行実績データを直線で結んだ「GPS実績ダイヤ2点間直線」、図18は、GPSから算出補正された走行実績データをベジェ曲線で結んだ「GPS実績ダイヤ連続曲線」、図19は、発着実績推論データを使い多角形により描画した「発着実績推論データ」を計画ダイヤデータに重ね合わせた具体例をそれぞれ示す図である。表示形式は、画面上部のラジオボタンによって切り替え可能であり、各画面を参照することで計画ダイヤデータとの比較が可能である。
【0074】
このように、本実施形態に係る列車走行実績データ作成システムによれば、以下の効果が奏される。
【0075】
(1)車載GPS測位装置20から収集された測位データが予め路線上に設定された複数の判定エリアデータに基づいて簡易な計算で補正されることで、車両の位置(キロ程位置)が迅速かつ高精度で求められ、その実績データを蓄積することによって計画ダイヤとの差異を表示することができるため、計画ダイヤの問題点の発見が容易となる。
(2)ある時刻においての車載GPS測位装置20から収集された実測データによって補正、算出されたキロ程データから、そのキロ程について計画ダイヤ上で計画されていた通過予定時刻を算出することができるため、経路途中での列車の進み時間・遅れ時間を求めることができる。
(3)GPSからの測位データを高速で補正演算することにより、上記の進行差異時間も含めて、GIS表示することができるため、運行状況の把握が容易となる。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1…GPS衛星
2…列車
3…無線基地局
4…走行実績計算用コンピュータ
5…運行管理装置
20…車載GPS測位装置
21…GPS受信機
22…測位データ管理コンピュータ
23…車上無線伝送装置
30…地上側無線伝送装置
41…判定エリアデータ作成部
42…GPS測位データ受信部
43…データベース部
44…データ処理部
44A…GPS測位データ補正部
44B…走行実績データ作成部
44C…発着実績推論データ作成部
44D…進行差異時間演算部
51…データベース部
52…運行状況解析部
53…計画・実績比較部
54…表示部
401…CPU
402…ROM
403…RAM
404…入出力インターフェース
405…システムバス
406…入力装置
407…表示装置
408…補助記憶装置
409…通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球を周回するGPS衛星と、
列車毎に搭載され、前記GPS衛星から受信したGPS信号に基づいて自車の緯度・経度情報を測位し、測位データとして無線送信する車載GPS測位装置と、
鉄道網内に配置され、前記車載GPS測位装置から無線送信された前記測位データを中継する複数の無線基地局と、
これら無線基地局に接続され、前記列車の走行実績データを作成する走行実績計算用コンピュータと、
を備え、
前記走行実績計算用コンピュータは、
前記無線基地局から前記測位データを受信するGPS測位データ受信部と、
路線内の所定の基準点における緯度・経度情報、前記路線の基準駅から前記基準点までの距離程および前記基準点から所望の誤差許容距離内で定義された判定エリアの緯度・経度情報を関連付けた判定エリアデータを記憶するデータベース部と、
前記GPS測位データ受信部で受信された測位データの緯度・経度が判定エリアデータに含まれる場合、該当する判定エリアが対応する路線の距離程に列車が存在するものと判定して所定の補正演算を行い、現在時刻における前記列車の距離程および緯度・経度を含む補正測位データを作成するGPS測位データ補正部と、
このGPS測位データ補正部で作成された補正測位データを取得し、測位時刻と距離程の関係を示す前記走行実績データを列車毎に作成する走行実績データ作成部と、
を有することを特徴とする列車走行実績データ作成システム。
【請求項2】
前記GPS測位データ補正部は、前記測位データが同一路線の複数の前記判定エリア内に含まれる場合に、該当する判定エリアの距離程の平均値を求め、前記測位データの補正後の距離程とすることを特徴とする請求項1記載の列車走行実績データ作成システム。
【請求項3】
前記GPS測位データ補正部は、前記測位データが複数の路線の前記判定エリア内に含まれる場合に、該当する判定エリアの数が最多の路線の前記判定エリアデータのみを測位データの補正に用いることを特徴とする請求項2記載の列車走行実績データ作成システム。
【請求項4】
前記データベース部は、前記路線内の駅名、駅順および距離程の関係を定義した駅定義データを更に記憶しており、かつ、
前記駅定義データ並びに前記走行実績データの近似一次式に基づいて列車の各駅における到着時刻および発車時刻を列車毎に推論し、発着実績推論データを作成する発着実績推論データ作成部を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項記載の列車走行実績データ作成システム。
【請求項5】
前記データベース部は、予め立案された計画ダイヤデータを更に記憶しており、かつ、
前記走行実績データに含まれる距離程および測位時刻に基づいて計画ダイヤデータを参照し、同じ距離程における進行差異時間を演算する進行差異時間演算部を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項記載の列車走行実績データ作成システム。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−166608(P2012−166608A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27384(P2011−27384)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301063496)東芝ソリューション株式会社 (1,478)
【Fターム(参考)】