説明

制動装置

【課題】スティックスリップ現象の発生を抑制することが可能な制動装置を提供する。
【解決手段】回転軸12周りに回動可能であるとともに解除スプリング16を介して回転軸12に対する姿勢が保持される固定部15と、被制動部の動作により回転軸12に入力された回転力が伝達される回転子13と、固定部15の周面と回転子13との周面とに亘って巻き付けられ回転子13が回転すると摩擦によってこの回転子13と固定部15を締め付ける一端に解除レバー14aが形成されるクラッチスプリング14と、解除レバー14aと当接する収容容器2に形成される凸部である制動解除用凸部10aと、固定部15の周面に形成される凸部である固定部側凸部15aと、解除スプリング16が付勢された状態にさせて固定部側凸部15aと当接する収容容器2に形成される凸部である収容容器側凸部11aとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関し、例えば、自動車に設置されるドアの開動作を制動する制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に設置されているドアは、一般的にヒンジによって車体に取り付けられ、開閉動作はヒンジを中心とした回動によって行なわれるため、ドアの開放時にはその開度に応じてドアは車体の外側に突出することになる。このため、このドア開放時のドアの突出領域に隣接車両等の障害物があると、ドアがこの障害物に干渉してしまう虞がある。そこで、従来、自動車用ドアには、ドアを最大に開いた全開状態(全開位置)と、途中まで開いた半開状態(中間保持位置)とに停止させるドアチェッカが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
このドアチェッカには、車体側のドアヒンジ部分の近傍に基端を揺動自在に取り付けられ先端にストッパを備えたアームと、ドア側に設けられこのアームに対して相対的に摺動するスライダを有する摺動部材とから構成されている。そして、ドアの全開時には、スライダがストッパに当接することで、ドアがそれ以上開かないように完全に規制する構造となっている。そして、スライダは、アームの周面に弾性力により押し付けられる構造となっており、アームの中間部の周面には、縮径部等の屈曲部分が形成され、スライダがこの屈曲部分において大きな摺動抵抗を受けることにより、ドアが中間保持位置に保持される構造となっているものがある。
【0004】
そして、ドアチェッカには、さらに、ドアの開動作に合わせて繰り出されるワイヤに伴って回転するプーリの回転がスプリングクラッチ機構に伝達されると、クラッチスプリングが締め付けられることにより、固定部と回転子とがともに回転し、回転子と固定部とが所定角度回転すると、クラッチスプリングの回転子側の端部に形成された解除レバーは、制動解除用凸部に当接し、クラッチスプリングに対して回転子が滑る構造によりドアの開動作を制動する制動装置が併設されているものもがある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−128261号公報
【非特許文献1】青木弘、長松昭男著、「新編 工業力学」、第20版、株式会社養賢堂、1979年3月20日、p.52
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の制動装置では、クラッチスプリングの解除レバーを制動解除用凸部へ当てる構造により一定のトルクで滑るクラッチを構成している。しかしながら、クラッチスプリングに対して回転子が滑る際に振動や音が発生するスティックスリップ現象が発生する場合がある。このスティックスリップ現象は、静摩擦から動摩擦へ変化することにより生じることが一般に知られているが、クラッチスプリングと固定部との間に生じている摩擦力(上記非特許文献1参照)が静摩擦から動摩擦へ変化したときの摩擦力の変化を無くすことは困難である。そして、スティックスリップ現象が発生した場合、回転子が滑る際に振動や音が発生するため、商品力の低下や中間保持位置前での制動機能の安定作動を阻害する虞がある。
【0007】
以上のことから、本発明は、スティックスリップ現象の発生を抑制することが可能な制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る制動装置は、
設置部に固定されるとともに、該設置部に対して相対的に変位する被制動部の動作を制動する制動装置において、
外殻をなす収容容器に回転可能に支持される回転軸と、
前記回転軸周りに回動可能であるとともに弾性部材を介して前記回転軸に対する姿勢が保持される固定部と、
前記固定部と隣り合うとともに前記被制動部の動作により前記回転軸に入力された回転力が伝達される回転子と、
前記固定部の周面と前記回転子との周面とに亘って巻き付けられ前記回転子が回転すると摩擦によって該回転子と前記固定部を締め付けるクラッチスプリングと、
前記クラッチスプリングの一端に形成される解除レバーと、
前記固定部と前記回転子とが所定角度回転したときに前記解除レバーと当接する前記収容容器に形成される凸部である制動解除用凸部と、
前記固定部の周面に形成される凸部である固定部側凸部と、
前記弾性部材が付勢された状態で前記固定部側凸部と当接する前記収容容器に形成される凸部と
を備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スティックスリップ現象の発生を抑制することが可能な制動装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る制動装置の実施形態について図を用いて説明する。なお、図1は本発明に係る制動装置の回転軸の軸方向における断面を示した断面図、図2は図1にA−Aで示す断面における断面図、図3は本発明に係る制動装置及びその周辺の構造を示した図、図4は本発明に係る制動装置が設置されるドア内部の構造を示した図である。
【0011】
はじめに、本発明に係る制動装置及びその周辺の構造について説明する。
図3に示すように、制動装置1は、例えば、車体30の助手席の近傍に設けられるドア31の内部に設置され、ドア31の開動作を制動している。本実施形態においては、ドア31が本発明における被制動部である。なお、制動装置1の設置位置はこれに限定されない。例えば、制動装置1は、車体30の後部座席に設けられるドア32や、運転席の近傍に設けられるドア(図示省略)に設置してもよい。
【0012】
なお、制動装置1は、ドア31の内部に収容されているため、図3中においては破線で示している。ドア31は、車体30に形成された乗降用開口33に開閉可能に設けられている。具体的には、ドア31は、図3中に破線で示すヒンジ34によって車体30外側に回動しながら開く。
【0013】
図4は、ドア31において、ドアチェッカ35と制動装置1との近傍を断面して示している。図4に示すように、ドア31は、インナパネル36とアウタパネル37とを備えており、インナパネル36とアウタパネル37とが互いに車幅方向に重なることによって構成されている。
【0014】
ドアチェッカ35は、インナパネル36とアウタパネル37との間に設置されている。なお、インナパネル36の先端は、車幅方向外側に向かって延びており、略かぎ状となっている。また、ドアチェッカ35は、インナパネル36に固定される本体部38と、本体部38に摺動可能に保持されるアーム部材39と、ヒンジ34(図3参照)とを備えている。
【0015】
本体部38は、インナパネル36の先端(車幅方向に延びる部位)に設置されている。本体部38内には、アーム部材39を、このアーム部材39が摺動可能であるように挟み込む摺動部材(図示省略)が設けられている。
【0016】
アーム部材39は、本体部38内を前後方向(ドア31が全閉している状態での車体30前後方向)に貫通するとともに、摺動部材に挟持されている。アーム部材39は、摺動部材に対して摺動可能である。ドア31の開動作に追随して、アーム部材39は、本体部38に対して相対的に変位する。言い換えると、アーム部材39は、ドア31の開動作に追随して、インナパネル36に対して相対的に変位する。
【0017】
ヒンジ34(図3参照)は、車体30に形成される乗降用開口33の縁に設置されている。ヒンジ34には、アーム部材39の一端が回動可能に固定されている。このため、アーム部材39は、ドア31が開いた状態であっても、一方の端部がヒンジ34で回動することによって、ドア31の姿勢の変位に追随することができる。
【0018】
アーム部材39の他方の端部には、ストッパ部40が設けられている。ストッパ部40は、本体部38に形成されるアーム部材39が通る開口38aよりも大きい。ストッパ部40が本体部38の開口38aの縁に当接することによって、ドア31がそれ以上開かなくなる。つまり、ストッパ部40が開口38aの縁に当接した状態がドア31の全開の位置となる。
【0019】
また、アーム部材39には、凹部39aが形成されている。凹部39aは、アーム部材39の表面が凹むことによって形成されている。アーム部材39が、ドア31の開閉にともなって摺動部材に対して摺動すると、この摺動部材が凹部39a内に嵌る。それゆえ、凹部39aが摺動部材を通過する際の摺動抵抗は大きくなる。この結果、凹部39a内に摺動部材が嵌っている状態では、ドア31を当該位置に保持しようとする保持力が発生する。このように、ドア31が開いた状態で保持される位置を中間保持位置とする。
【0020】
制動装置1は、例えば、インナパネル36のアウタパネル37と対向する面に設置されている。本実施形態においては、インナパネル36が本発明における設置部である。また、制動装置1は、ドアチェッカ35の本体部38よりも車体30後方に配置されている。
【0021】
ドアチェッカ35のストッパ部40には、ワイヤ41の一方の端部が結合されている。ワイヤ41は、ドア31の開閉に伴うストッパ部40の変位に合わせて図4中に矢印Dで示すように引き出される。ワイヤ41の他方の端部は、後述する回転軸に設置されたプーリ(図示省略)に固定されており、ワイヤ41が引き出されると回転軸は図4中に矢印Eで示すように回転させられる。ドア開動制動装置1がストッパ部40の動きを制動することによって、ドア31の開動作が制動されるようなる。
【0022】
次に、本発明に係る制動装置の構造について説明する。
図1及び図2に示すように、制動装置1の外殻をなす収容容器2は、第1のカバー部材10と、第2のカバー部材11とにより構成されている。第1のカバー部材10は、アウタパネル37(図4参照)側に位置し、第2のカバー部材11は、インナパネル36(図4参照)側に位置している。制動装置1は、収容容器2内部に、第1のカバー部材10と第2のカバー部材11とに亘り回転軸12と、後述するスプリングクラッチ機構3とを備えている。
【0023】
回転軸12に端部は、第1のカバー部材10と2のカバー部材11に回転可能に支持されている。なお、実際には回転軸12のインナパネル36側の端部にはドア31(図3参照)の開動作に伴う入力により回転するプーリ等が設置されるが、ここでの図示による説明は省略する。ワイヤ31は、プーリに結合され、プーリに巻き付けられている。そして、ドア21の開放に伴いワイヤ31が引き出されると、プーリが回転することにより、回転軸12にFi方向の回転力が入力される。
【0024】
スプリングクラッチ機構3は、回転軸12を中心として設置されている。このスプリングクラッチ機構3は、回転子13と、クラッチスプリング14と、固定部15と、解除スプリング16とにより構成されている。本実施形態においては、解除スプリング16が本発明における弾性部材である。
【0025】
回転子13は、回転軸12に結合されている。回転子13は、例えば、一端が閉塞するとともに他端が開口する円筒状をなしている。また、固定部15も、一端が閉塞するとともに他端が開口する円筒状をなしている。そして、回転子13の外径と固定部15の外径寸法は同じであり、回転子13の周面と固定部15の周面とは面一となっている。
【0026】
クラッチスプリング14は、コイルばね状の部材である。クラッチスプリング14は、回転子13の外面と固定部15の外面とに亘って巻き付けられており、ドア31の開動作による回転軸12の回転に伴って回転子13が回転しようとすると、固定部15と回転子13とを締め付けるような巻き方になっている。
【0027】
クラッチスプリング14の固定部15側の端部は固定部15の周面に結合されている。クラッチスプリング14の回転子13側の端部は、回転子13の径方向外側に向かって延びており、解除レバー14aを形成している。また、第1のカバー部材10の解除レバーの回転方向における側方には凸部(制動解除用凸部10a)が形成されている。ここで、解除レバー14aと制動解除用凸部10aとの間の角度を角度Δθ(図2参照)とする。
【0028】
ドア31の開動作により回転軸12に回転力が入力されると回転子13が固定部15に対して回転軸12周りに回転し、クラッチスプリング14と回転子13との間の摩擦により、クラッチスプリング14が巻き上げられる方向に付勢される。すなわち、クラッチスプリング14は回転子13を締め付ける方向に付勢される。
【0029】
解除スプリング16は、コイルばね状の部材である。なお、解除スプリング16の形状はコイルばね状以外の形状であってもよい。解除スプリング16は、固定部15の内部に収容されており、解除スプリング16の一方の端部は固定部15に結合され、解除スプリング16の他方の端部は第2のカバー部材11に結合されている。このため、固定部15の姿勢は、解除スプリング16の弾性力によって保持される。
【0030】
固定部15の周面には凸部(固定部側凸部15a)が形成されている。また、第2のカバー部材11の固定部側凸部15aの回転方向における側方には、固定部側凸部15aが当接する凸部(収容容器側凸部11a)が形成されている。固定部側凸部15aと収容容器側凸部11aとが当接した状態では、解除スプリング16は巻き上げられる方向に付勢されている。
【0031】
ここで、収容容器側凸部11aを設けない場合、すなわち、図2中に矢印Bで示す解除スプリング16が自然長時の固定部15の回転方向における位置と、固定部側凸部15a及び収容容器側凸部11aを設けた場合の固定部15の回転方向の位置との角度の差を角度θ(図2参照)とする。
【0032】
本実施形態に係る制動装置では、角度θを調整することによりクラッチスプリング14に対して回転子13が滑り出すトルクである滑りトルクを調整することができる。そして、角度θを調整することにより解除レバー14aと制動解除用凸部10aとの間の角度Δθを小さくすることができる。また、θの値は、固定部側凸部15aと当接する収容容器側凸部11aとを備えることでなお小さくすることも可能となる。
【0033】
次に、本発明に係る制動装置の動作について説明する。
図1に示すように、ドア31の開動作による回転軸12の回転によって、回転子13は、矢印Fiの方向に回転すると、クラッチスプリング14は締め付けられる方向に付勢される。これにより、固定部15及び回転子13をクラッチスプリング14が締め付けて摩擦が増大するため、固定部15及び回転子13が一体となって回転する。固定部15及び回転子13が回転すると、固定部15の回転に連動して解除スプリング16が巻き上げられて弾性エネルギを蓄える。
【0034】
図2中に矢印Cで示すように、制動解除用凸部10aが解除レバー14aに当接すると、クラッチスプリング14は緩む方向に付勢される。これにより、回転子13とクラッチスプリング14との間の摩擦が減少するので、回転子13がクラッチスプリング14に対して滑り始める。つまり、固定部15の回転が止まり、かつ、固定部15に対して回転子13が回転し始める。
【0035】
このとき、本実施形態に係る制動装置においては、解除レバー14aと制動解除用凸部10aとの間の角度Δθが小さいため、固定部15が回転するとすぐに回転子13が滑り始め、固定部15が回転する量を極力低減することができる。このため、回転軸12にFo方向の回転力が発生することを極力低減して、スティックスリップ現象を抑制することができる。
【0036】
これにより、従来の制動装置では、クラッチスプリングと固定部との間に生じている摩擦力が静摩擦から動摩擦へ変化したときの摩擦力の変化により、振動や音が発生するスティックスリップ現象が発生する場合があったが、本発明に係る制動装置によればこのスティックスリップ現象を抑制することができる。
【0037】
以上のように本発明に係る制動装置によれば、固定部15が回転する量を極力低減することができるため、スティックスリップ現象による振動や異雑音の発生を低減することができる。また、回転子13がクラッチスプリング24に対して滑っているときのトルクを安定化することができるため、ドア31の開動作時の操作フィーリングを向上することができ、商品力を向上することができる。また、中間保持位置前での制動を安定して行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、例えば、自動車に設置されるドアの開動作を制動する制動装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る制動装置の回転軸の軸方向における断面を示した断面図である。
【図2】図1にA−Aで示す断面における断面図である。
【図3】本発明に係る制動装置及びその周辺の構造を示した図である。
【図4】本発明に係る制動装置が設置されるドア内部の構造を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 制動装置
2 収容容器
3 スプリングクラッチ機構
10 第1のカバー部材
10a 制動解除用凸部
11 第2のカバー部材
11a 収容容器側凸部
12 回転軸
13 回転子
14 クラッチスプリング
14a 解除レバー
15 固定部
15a 固定部側凸部
16 解除スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置部に固定されるとともに、該設置部に対して相対的に変位する被制動部の動作を制動する制動装置において、
外殻をなす収容容器に回転可能に支持される回転軸と、
前記回転軸周りに回動可能であるとともに弾性部材を介して前記回転軸に対する姿勢が保持される固定部と、
前記固定部と隣り合うとともに前記被制動部の動作により前記回転軸に入力された回転力が伝達される回転子と、
前記固定部の周面と前記回転子との周面とに亘って巻き付けられ前記回転子が回転すると摩擦によって該回転子と前記固定部を締め付けるクラッチスプリングと、
前記クラッチスプリングの一端に形成される解除レバーと、
前記固定部と前記回転子とが所定角度回転したときに前記解除レバーと当接する前記収容容器に形成される凸部である制動解除用凸部と、
前記固定部の周面に形成される凸部である固定部側凸部と、
前記弾性部材が付勢された状態で前記固定部側凸部と当接する前記収容容器に形成される凸部と
を備える
ことを特徴とする制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−24758(P2010−24758A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189389(P2008−189389)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】