説明

制御装置

【課題】移動体が停滞状態から復帰状態に移行したとき移動体の動作速度が過度に大きくなることを抑制することのできる制御装置を提供する。
【解決手段】変速機は、目標位置に向けて移動するインナーレバーと、同レバーを移動させるアクチュエータと、同レバーの目標位置と実位置との差に基づく積分器とを備える。停滞状態が生じる前に設定されたインナーレバーの目標軌道である通常時目標軌道とし、停滞状態におけるインナーレバーの目標軌道である停滞時目標軌道とインナーレバーの実位置との差の積分値を仮想積分値として、停滞状態から復帰状態に移行したときのインナーレバーの動作速度を仮想積分値に対応したインナーレバーの動作速度よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標軌道に基づいて移動する移動体と、この移動体を移動させるアクチュエータと、移動体の目標軌道と前記移動体の実位置との差を積分する積分器とを備え、この積分器により算出された積分値を用いてアクチュエータの動作速度を設定する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記制御装置として、例えば、特許文献1に記載のものがある。同文献1の制御装置では、移動自在に設けられた接触体(移動体)と、接触体を移動させるアクチュエータと、接触体が所定位置に移動したときに接触体と接触する被接触体とを備える接触機構において、アクチュエータにより接触体が被接触体に押し付ける制御を行う。またこの制御装置では、接触体の目標位置と実位置との差に基づいて積分値を算出し、この積分値を含めた所定のパラメータに基づいて、アクチュエータの動作速度を決定する制御入力値を算出する。
【0003】
このような接触機構の制御装置は、例えば運転者の操作に応じてマニュアル変速機のセレクト動作およびシフト動作をアクチュエータにより行う自動マニュアル変速機に適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−309642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、接触体が被接触体と干渉して接触体の進行方向への移動が妨げられた停滞状態が生じたときにも、目標位置と実位置との差に基づく積分値の算出は継続して行われる。このため、停滞状態の生じた期間が長くなるにつれて算出される積分値も大きなものとなる。そして、積分値が過度に大きい状態のときに接触体の移動の規制が解除されて復帰状態に移行した場合、過度に大きな積分値に基づく制御入力値が接触体に入力されるため、接触体が過度に大きな動作速度で動作する。これにより、例えば接触体が目標位置に対して大きくオーバーシュートする。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、移動体が停滞状態から復帰状態に移行したとき移動体の動作速度が過度に大きくなることを抑制することのできる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、目標軌道に基づいて移動する移動体と、この移動体を移動させるアクチュエータと、前記移動体の目標軌道と前記移動体の実位置との差を積分する積分器とを備え、この積分器により算出された積分値を用いて前記アクチュエータの動作速度を設定する制御装置において、前記移動体の進行方向への移動が規制部材との接触により妨げられる状態を停滞状態とし、前記進行方向への移動の規制が解除された状態を復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記移動体の目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記移動体の基準軌道と前記移動体の実位置との差の積分値を仮想積分値として、前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記移動体の動作速度を前記仮想積分値に対応した前記移動体の動作速度よりも小さくなることを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、停滞状態から復帰状態に移行したときの移動体の動作速度を仮想積分値に対応した移動体の動作速度よりも小さくなるため、移動体の動作速度が過度に大きくなることを抑制することができる。
【0009】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制御装置において、前記移動体は、前記変速機の同期機構において変速ギヤと噛合可能なスリーブであり、当該制御装置は、前記スリーブの進行方向への移動が前記変速ギヤとの接触により妨げられる状態を前記停滞状態とし、前記スリーブと前記変速ギヤとの同期にともない前記スリーブの進行方向への移動の規制が解除された状態を前記復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記スリーブの目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記スリーブの基準軌道と前記スリーブの実位置との差の積分値を仮想積分値として、前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記スリーブの動作速度を前記仮想積分値に対応した前記スリーブの動作速度よりも小さくすることを要旨とする。
【0010】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の制御装置において、前記移動体は、変速機内においてシフト方向およびセレクト方向に移動可能なレバーであり、当該制御装置は、前記レバーのセレクト方向への移動が変速機構成部材との接触により妨げられる状態を前記停滞状態とし、この停滞状態において前記レバーのシフト方向への移動にともない前記セレクト方向への移動の規制が解除された状態を復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記レバーの目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記レバーの基準軌道と前記レバーの実位置との差の積分値を仮想積分値として、前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記レバーの動作速度を前記仮想積分値に対応した前記レバーの動作速度よりも小さくすることを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態の同期噛み合い式変速機の構成を示す模式図。
【図2】同実施形態の変速機の同期機構の構成を示す模式図。
【図3】同実施形態の変速機の制御装置について、同装置の構成を示すブロック図。
【図4】同実施形態の変速機について、(a)はニュートラル状態のインナーレバーとシフトヘッドとの位置関係および同期機構の変速動作を示す模式図、(b)はニュートラル状態のインナーレバーの移動可能領域における位置を示す模式図。
【図5】同実施形態の変速機について、(a)は前進2速の状態のインナーレバーとシフトヘッドとの位置関係および同期機構の変速動作を示す模式図、(b)は前進2速の状態のインナーレバーの移動可能領域における位置を示す模式図。
【図6】同実施形態の変速機について、(a)は前進3速の状態のインナーレバーとシフトヘッドとの位置関係および同期機構の変速動作を示す模式図、(b)は前進3速の状態のインナーレバーの移動可能領域における位置を示す模式図。
【図7】同実施形態の変速機について、(a)は通常時目標軌道のインナーレバーの軌道を示す模式図、(b)は停滞時目標軌道のインナーレバーの軌道を示す模式図。
【図8】同実施形態の制御装置において行われる軌道変更処理について、その手順を示すフローチャート。
【図9】同実施形態の変速機について、(a)はインナーレバーのセレクト方向の位置と時間との関係を示すタイミングチャート、(b)はセレクト用アクチュエータの電流値と時間との関係を示すタイミングチャート。
【図10】比較例の変速機について、(a)はインナーレバーのセレクト方向の位置と時間との関係を示すタイミングチャート、(b)はセレクト用アクチュエータの電流値と時間との関係を示すタイミングチャート。
【図11】本発明の第2の実施形態の同期噛み合い式変速機について、カップリングスリーブのシフト方向の位置と時間との関係を示すタイミングチャート。
【図12】比較例の同期噛み合い式変速機について、カップリングスリーブのシフト方向の位置と時間との関係を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
図1〜図10を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、車両に搭載される同期噛み合い式変速機の制御装置を示している。この変速機は、車両のハンドル等に設けられたパドルシフト等の変速指示装置が運転者により操作されることに基づいて、アクチュエータが同変速機の変速ギヤの変速制御を行うものである。
【0013】
図1を参照して、変速機1の構成について説明する。
変速機1は、クラッチ51を介して連結ギヤ52にエンジン53の出力を伝達する。そしてエンジン53の出力は、連結ギヤ52、ディファレンシャルギヤ54および駆動軸55を介して駆動輪56に伝達される。また変速機1の動作は、制御装置2により制御されている。
【0014】
変速機1は、入力軸3、出力軸4、入力側前進1速ギヤ5A〜入力側前進6速ギヤ5F、出力側前進1速ギヤ6A〜出力側前進6速ギヤ6F、後進ギヤ軸7、伝達後進ギヤ8A、入力側後進ギヤ8B、出力側後進ギヤ8Cおよび同期機構9A〜9Cを含む。入力軸3、出力軸4および後進ギヤ軸7は互いに平行に配置されている。入力側前進1速ギヤ5A〜入力側前進6速ギヤ5Fと出力側前進1速ギヤ6A〜出力側前進6速ギヤ6Fとはそれぞれ対応している。同期機構9A〜9Cは、入力軸3、出力軸4および後進ギヤ軸7とのそれぞれの間に設けられている。
【0015】
変速機1内の出力の伝達態様について説明する。
クラッチ51を介して入力軸3に伝達されたエンジン53の出力は、同期機構9A〜9Cのうちの1つを介して出力軸4に伝達される。同期機構9Aは、入力軸3から出力軸4へのエンジン53の出力の伝達率が最も高い。一方、同期機構9Cは、入力軸3から出力軸4へのエンジン53の出力の伝達率が最も低い。
【0016】
制御装置2は、シフトセレクト軸24を図中のシフト方向Xおよびセレクト方向Yに移動させるためのシフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26をそれぞれ制御する。シフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26には、それぞれアクチュエータの移動を検知する位置センサ61,62が設けられている。
【0017】
シフト用アクチュエータ25は、ソレノイド駆動の油圧式アクチュエータであり、シフトセレクト軸24のシフト方向Xへの動作速度と移動量がそれぞれ制御される。これにより、アクチュエータ25の油圧は、制御装置2からの電力により制御される。
【0018】
セレクト用アクチュエータ26は、ソレノイド駆動の油圧式アクチュエータであり、シフトセレクト軸24のセレクト方向Yへの動作速度と移動量がそれぞれ制御される。これにより、アクチュエータ26の油圧は、制御装置2からの電力により制御される。
【0019】
シフトセレクト軸24は、同期機構9A〜9Cおよび伝達後進ギヤ8Aのそれぞれに接続されるシフトフォーク10A〜10Dと選択的に接続可能である。シフトフォーク10A〜10Dは、フォークシャフト11A〜11Dにそれぞれ固定されている。
【0020】
入力軸3には、入力側前進1速ギヤ5A〜入力側前進6速ギヤ5Fおよび入力側後進ギヤ8Bが設けられている。入力側前進1速ギヤ5A、入力側前進2速ギヤ5Bおよび入力側後進ギヤ8Bは、入力軸3と一体に回転する。入力側前進3速ギヤ5C〜入力側前進6速ギヤ5Fは、入力軸3に対して回転自在のアイドルギヤとして構成されている。
【0021】
出力軸4には、出力側前進1速ギヤ6A〜出力側前進6速ギヤ6Fおよび出力側後進ギヤ8Cが設けられている。出力側前進1速ギヤ6Aと出力側前進2速ギヤ6Bは、出力軸4に対して回転自在のアイドルギヤとして構成されている。出力側前進3速ギヤ6C〜出力側前進6速ギヤ6Fおよび出力側後進ギヤ8Cは、出力軸4と一体に回転する。
【0022】
後進ギヤ軸7には、伝達後進ギヤ8Aが取り付けられている。出力側後進ギヤ8Cは、同期機構9Aと一体に設けられている。伝達後進ギヤ8Aは、入力側後進ギヤ8Bと出力側後進ギヤ8Cとの双方と噛み合う位置と、これらギヤ8B,8Cとの噛み合いが解除される位置(ニュートラル位置)との間で、後進ギヤ軸7の軸線方向に摺動自在となる。
【0023】
同期機構9Aは、出力側前進1速ギヤ6Aと出力側前進2速ギヤ6Bとの間に設けられている。同期機構9Bは、入力側前進3速ギヤ5Cと入力側前進4速ギヤ5Dとの間に設けられている。同期機構9Cは、入力側前進5速ギヤ5Eと入力側前進6速ギヤ5Fとの間に設けられている。
【0024】
同期機構9A〜9Cは、それぞれに対応する2つのアイドルギヤのうちの1つのアイドルギヤと同ギヤが設けられた入力軸または出力軸とを接続した状態である変速確立状態と、アイドルギヤと同ギヤが設けられた入力軸または出力軸との接続を遮断したニュートラル状態とを切り替える。
【0025】
すなわち、同期機構9Aは、出力側前進1速ギヤ6Aと出力側前進2速ギヤ6Bと出力軸4との変速確立状態およびニュートラル状態を切り替える。同期機構9Bは、入力側前進3速ギヤ5Cと入力側前進4速ギヤ5Dと入力軸3との変速確立状態およびニュートラル状態を切り替える。同期機構9Cは、入力側前進5速ギヤ5Eと入力側前進6速ギヤ5Fと入力軸3との変速確立状態およびニュートラル状態を切り替える。
【0026】
図2を参照して、同期機構9Bの詳細な構成について説明する。なお、同期機構9A,9Cは、同期機構9Bとその構成は概ね共通であるため、同一部材には同一符号を付してその説明を省略する。
【0027】
同期機構9Bは、カップリングスリーブ21と、2つのシンクロナイザリング22,23と、シフトフォーク10Bとを含む。
カップリングスリーブ21は、入力軸3と一体に回転する。入力軸3の軸線方向(シフト方向X)においてカップリングスリーブ21の両端の内周面には、スプライン21A,21Bが設けられている。
【0028】
シンクロナイザリング22は、入力軸3に対して回転自在かつシフト方向Xに移動自在に設けられている。シンクロナイザリング22は、入力側前進3速ギヤ5Cとカップリングスリーブ21との間に配置されている。シンクロナイザリング22の外周面には、カップリングスリーブ21のスプライン21Aと係合可能なスプライン22Aが設けられている。
【0029】
シンクロナイザリング23は、入力軸3に対して回転自在かつシフト方向Xに移動自在に設けられている。シンクロナイザリング23は、入力側前進4速ギヤ5Dとカップリングスリーブ21との間に配置されている。シンクロナイザリング23の外周面には、スプライン21Aと係合可能なスプライン23Aが設けられている。
【0030】
入力側前進3速ギヤ5Cには、同ギヤ5Cよりも小径のスプライン5Gが一体に設けられている。スプライン5Gは、カップリングスリーブ21のスプライン21Aとシフト方向Xに対向して配置されるとともに同スプライン21Aと係合可能である。
【0031】
入力側前進4速ギヤ5Dには、同ギヤ5Dよりも小径のスプライン5Hが一体に設けられている。スプライン5Hは、カップリングスリーブ21のスプライン21Bとシフト方向Xに対向して配置されるとともに同スプライン21Bと係合可能である。
【0032】
シフトフォーク10Bは、カップリングスリーブ21に係合されている。シフトフォーク10Bがシフト方向Xの入力側前進3速ギヤ5C側に向けて移動する場合、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング22に向けて移動する。シフトフォーク10Bがシフト方向Xの入力側前進4速ギヤ5D側に向けて移動する場合、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング23に向けて移動する。
【0033】
シフトセレクト軸24には、インナーレバー27と、インナーレバー27の移動を規制するロックプレート28とが設けられている。図中の前進3速および前進4速の場合には、インナーレバー27はシフトフォーク10Bに接続される。このインナーレバー27は、変速動作によってシフトフォーク10A,10C(図1参照)に選択的に接続される。
【0034】
同期機構9Bの前進3速から前進4速への変速動作について説明する。
前進3速では、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング22および入力側前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gの両方に噛み合っている。これにより、入力軸3と入力側前進3速ギヤ5Cとが一体に回転している。
【0035】
前進3速からニュートラルに移動する場合、同期機構9Bは以下のように動作する。すなわち、運転者の変速動作に伴い、シフト用アクチュエータ25(図1参照)によりシフトフォーク10Bのシフト方向Xの入力側前進4速ギヤ5D側に移動する。このとき、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング22およびスプライン5Gの両方に噛み合った状態からスプライン5Gおよびシンクロナイザリング22の順に噛み合いが外れていく。これにより、前進3速の状態からニュートラル状態になる。
【0036】
そしてニュートラルから前進4速に移動する場合、同期機構9Bは以下のように動作する。すなわち、シフト用アクチュエータ25によりシフトフォーク10Aのシフト方向Xの入力側前進4速ギヤ5D側に移動する。これにより、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング23に押し付けられるとともにカップリングスリーブ21とシンクロナイザリング23とが共回りを始める。共回り開始後、カップリングスリーブ21の回転速度とシンクロナイザリング23の回転速度とが次第に近づいていく。そしてカップリングスリーブ21の回転速度とシンクロナイザリング23の回転速度とが一致して、カップリングスリーブ21とシンクロナイザリング23との同期が完了する。
【0037】
その後、カップリングスリーブ21のスプライン21Bとシンクロナイザリング23のスプライン23Aとが互いに噛み合う。このとき、シンクロナイザリング23は入力側前進4速ギヤ5Dに押し付けられるとともにシンクロナイザリング23と入力側前進4速ギヤ5Dとが共回りを始める。共回り開始後、シンクロナイザリング23の回転速度と入力側前進4速ギヤ5Dの回転速度とが次第に近づいていく。そしてシンクロナイザリング23の回転速度と入力側前進4速ギヤ5Dの回転速度とが一致して、シンクロナイザリング23と入力側前進4速ギヤ5Dとの同期が完了する。これにより、入力軸3の回転速度と出力軸4の回転速度との比が前進4速のギヤ比相当となる。その後、カップリングスリーブ21のスプライン21Bと入力側前進4速ギヤ5Dのスプライン5Hとが互いに噛み合う。これにより、前進3速から前進4速への変速動作が完了する。
【0038】
図3を参照して、制御装置2の詳細な構成について説明する。
制御装置2は、シフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26の供給電力を制御することにより、インナーレバー27の位置を制御するシフト動作制御を行う。
【0039】
シフト動作制御では、シフト動作に応じて目標軌道TRを設定する。そして位置センサ61,62(図1参照)が検知した信号に基づいて算出するインナーレバー27の実際の位置(以下、「実位置RY」)がインナーレバー27を移動させる目標となる位置(以下、「目標位置TY」)に一致するように制御する。
【0040】
具体的には、制御装置2には、シフト動作制御を開始するインナーレバー27の位置である制御開始点からシフト動作制御が完了するインナーレバー27の位置である制御完了点までのインナーレバー27の移動軌道(以下、「目標軌道TR」)が予め設定されている。この目標軌道TRは、シフト動作に応じて複数用意されている。またシフト動作制御を行うにあたって呼び出した目標軌道TRを通常時目標軌道TRXとする。
【0041】
ここで、目標位置TYは、そのときどきの目標軌道TRの位置を示し、時間の経過に応じて制御開始点から制御完了点に向けて目標軌道TRに沿って変化する関数である。
実位置RYがモデル化されたインナーレバー27の動作に基づいてそのときどきの目標位置TYに向けて移動するようにシフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26の制御入力値Uをそれぞれ算出する。この制御入力値Uは、アクチュエータ25の制御量とアクチュエータ26の制御量とをまとめた値として示している。
【0042】
制御入力値Uは、シフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26に供給する供給電力に対応する。言い換えれば、制御入力値Uは、インナーレバー27のシフト方向Xおよびセレクト方向Yへの単位時間当たりの移動量、すなわちインナーレバー27の動作速度を決定するものである。すなわち制御入力値Uが増大するにつれて上記供給電力が増大するため、インナーレバー27の動作速度が増大する。また制御入力値Uが減少するにつれて上記供給電力が減少するため、インナーレバー27の動作速度が減少する。
【0043】
制御装置2は、スライディングモードコントローラ(以下、「コントローラ30」)と、オブザーバ31と、積分器32とを含む。
オブザーバ31には、制御入力値Uおよび実位置RYが入力される。オブザーバ31は、制御入力値Uおよび実位置RYに基づいて推定状態量XSおよび推定位置SYを算出する。
【0044】
推定状態量XSは、モデルを構成する状態量(以下、「状態量XT」)のうちの実際に測定していない状態量を相当するものである。推定状態量XSをモデルに入力することにより、状態量XTは更新される。推定位置SYは、推定状態量XSに基づいて算出されたインナーレバー27の位置を相当するものである。
【0045】
積分器32には、目標位置TYと推定位置SYとの差(以下、「偏差E」)が入力される。積分器32は、この偏差Eを時間で積分することにより偏差の累積値(以下、「誤差積分値Z」)を算出する。
【0046】
コントローラ30には、推定状態量XS、偏差Eおよび誤差積分値Zが入力される。コントローラ30は、偏差E、推定状態量XSおよび誤差積分値Zに基づいて制御入力値Uを算出する。制御入力値Uは、偏差Eおよび誤差積分値Zが増大するにつれて大きな値となる。
【0047】
図4〜図6を参照して、インナーレバー27の動作の一例として前進2速から前進3速への変速動作について説明する。図4はインナーレバー27がニュートラルに位置する状態を示している。図5はインナーレバー27が前進2速に位置する状態を示している。図6はインナーレバー27が前進3速に位置する状態を示している。また図4〜図6における各(a)は、インナーレバー27の周辺構造および同期機構9A〜9Cのカップリングスリーブ21と各ギヤとの関係を模式的に示している。また図4〜図6における各(b)は、インナーレバー27の移動可能領域およびインナーレバー27の位置を模式的に示している。また各(b)における斜線領域は移動不可能領域を示している。
【0048】
図4(a)に示すように、シフトヘッド12A〜12Cは、その一端がフォークシャフト11A〜11Cおよびシフトフォーク10A〜10Cにそれぞれ接続されるとともに、他端がインナーレバー27およびロックプレート28に隣接するように配置されている。
【0049】
インナーレバー27の移動に伴い、シフトフォーク10A〜10C、フォークシャフト11A〜11Cおよびシフトヘッド12A〜12Cが連動して移動する。例えば、図4においてインナーレバー27がシフト方向Xの上方に移動した場合、シフトヘッド12Bが同様に上方に向けて移動する。これにより、フォークシャフト11Bおよびシフトフォーク10Bが上方にそれぞれ移動する。
【0050】
またインナーレバー27がニュートラルに位置している場合、同期機構9A〜9Cのそれぞれは、ニュートラル状態になる。
図4(b)に示すように、シフトヘッド12A〜12Cおよびロックプレート28(それぞれ図4(a)参照)により規定されるインナーレバー27の移動可能領域(以下、「領域MR」)は、シフト位置に応じて以下の1速領域MR1〜6速領域MR6およびニュートラル領域MR7に区画される。すなわち、1速領域MR1および3速領域MR3および5速領域MR5は、領域MRの上方においてセレクト方向Yに左方から右方に向けて順に配列される。2速領域MR2および4速領域MR4および6速領域MR6は、領域MRの下方においてセレクト方向Yの左方から右方に向けて順に配列されている。ニュートラル領域MR7は領域MRのシフト方向Xの中央において領域MRをセレクト方向Yに延びる領域である。なおニュートラル領域MR7は、同期機構9A〜9Cの各ニュートラル状態になる領域である。
【0051】
1速領域MR1〜6速領域MR6は、インナーレバー27がシフト方向Xおよびセレクト方向Yに移動可能であるとともに、シフト方向Xの移動量はセレクト方向Yの移動量よりも大きくなるように形成されている。
【0052】
ニュートラル領域MR7は、インナーレバー27がシフト方向Xおよびセレクト方向Yに移動可能であるとともに、セレクト方向Yの移動量はシフト方向Xの移動量よりも大きくなるように形成されている。
【0053】
図5(a)に示すように、前進2速では、インナーレバー27が2速領域MR2に位置するため(図5(b)参照)、インナーレバー27は、シフトヘッド12Aをシフト方向Xの下方に移動させている。このとき、同期機構9B,9Cはニュートラル状態であるとともに同期機構9Aは変速確立状態である。
【0054】
同期機構9Aは、シフトヘッド12Aのシフト方向Xの移動に伴うシフトフォーク10Aの同方向への移動により、カップリングスリーブ21が前進2速ギヤ5Bのスプラインと噛み合う。
【0055】
図5(b)に示すように、前進2速では、インナーレバー27は2速領域MR2に位置している。このとき、インナーレバー27は2速領域MR2のシフト方向Xの下端部であるストッパ点41に接触している。
【0056】
図6(a)に示すように、前進3速では、インナーレバー27が3速領域MR3に位置するため(図6(b)参照)、インナーレバー27は、シフトヘッド12Bをシフト方向Xの上方に移動させている。このとき、同期機構9A,9Cはニュートラル状態であるとともに同期機構9Bは変速確立状態である。
【0057】
前進2速から前進3速に切り替わるとき、同期機構9Aは、2速領域MR2からニュートラル領域MR7に移動したときに図5(a)に示す変速確立状態からニュートラル状態に切り替わる。同期機構9Bは、ニュートラル領域MR7から3速領域MR3に移動したときに図6(a)に示すニュートラル状態から変速確立状態に切り替わる。すなわち同期機構9Bは、シフトヘッド12Bのシフト方向Xの移動に伴うシフトフォーク10Bの同方向への移動により、カップリングスリーブ21が前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gと噛み合う。
【0058】
図6(b)に示すように、前進3速では、インナーレバー27は3速領域MR3に位置している。このとき、インナーレバー27は3速領域MR3のシフト方向Xの上端部であるストッパ点42に位置している。
【0059】
図6を参照して、前進2速から前進3速への変速動作時のインナーレバー27の動作について説明する。
インナーレバー27が前進2速から前進3速に移動する場合、シフト用アクチュエータ25(図1参照)による上方に向けて移動することと、セレクト用アクチュエータ26(図1参照)により右方に向けて移動することとを各別に行う方法が考えられる。すなわち、インナーレバー27は、図中の破線のようにアクチュエータ25により2速領域MR2からニュートラル領域MR7の左方のところに移動した後、アクチュエータ26によりニュートラル領域MR7のセレクト方向Yの中央に移動する。そして再びアクチュエータ25によりニュートラル領域MR7の中央から3速領域MR3にインナーレバー27が移動する。
【0060】
この場合には、例えば前進3速から前進4速への変速動作のような直線シフトの際の移動時間よりもインナーレバー27の移動時間が過度に長くなる。これにより、運転者は変速動作の応答性が悪いと感じるおそれがある。
【0061】
そこで、直線シフトの移動時間との差を短縮するため、シフト方向Xおよびセレクト方向Yの両方向に対してインナーレバー27が同時に移動するような斜めシフトを行う。
具体的には、図中の実線のようにストッパ点41,42を直線にて結ぶ軌跡上をインナーレバー27が移動するようにシフト用アクチュエータ25およびセレクト用アクチュエータ26を制御する。
【0062】
しかしながら、2速領域MR2からニュートラル領域MR7に向けて移動する期間において、インナーレバー27がシフトヘッド12B(図6(a)参照)に接触することにより、インナーレバー27がセレクト方向Yに移動ができなくなる場合がある。すなわちインナーレバー27がセレクト方向Yに停滞する状態となる(以下、「セレクト停滞状態」)。なお、セレクト停滞状態においては、インナーレバー27はシフト方向Xのみに移動するため、インナーレバー27はシフトヘッド12Bと接触しつつシフト方向Xに向けて移動する。
【0063】
セレクト停滞状態においては、セレクト方向Yにおいて実位置RYが移動不可能であるのに対して目標位置TYはセレクト方向Yにおいて時間とともに更新されることにより実位置RYと目標位置TYとの差が増大していく。加えて、積分器32(図3参照)は時間の経過とともに誤差積分値Zを累積する。このようにしてセレクト停滞状態では、誤差積分値Zが過度に大きくなる。その結果、セレクト用アクチュエータ26への制御入力値Uが増大する。なお、このときの誤差積分値Zが仮想積分値に相当する。
【0064】
そして、シフト方向Xにおいて、インナーレバー27がシフトヘッド12Bに重なることがなくなったとき、すなわちシフト方向Xにおいて2速領域MR2からニュートラル領域MR7に移動したとき、セレクト方向Yの停滞が解除される(以下、「セレクト復帰状態」)。
【0065】
セレクト復帰状態では、インナーレバー27は過大となったアクチュエータ26の制御入力値Uに基づいて移動するため、インナーレバー27がセレクト方向Yにおいて3速領域MR3を超えてしまう、いわゆるオーバーシュートが発生してしまう。したがって、インナーレバー27の制御開始点から制御完了点までの移動距離が増大してしまう。これにより、インナーレバー27の制御開始点から制御完了点までの移動時間が長くなる。また、オーバーシュートにより、インナーレバー27が5速領域MR5に移動してしまう、いわゆる誤シフトが発生するおそれもある。
【0066】
そこで、本実施形態では、セレクト用アクチュエータ26の制御について、オーバーシュートを生じないように軌道変更制御を行う。軌道変更制御は、セレクト停滞状態を検知した場合、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更する。ここで、停滞時目標軌道TRYとは、セレクト停滞状態において誤差積分値Zが増大することを抑制するための目標軌道である。セレクト停滞状態において通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更することにより、セレクト用アクチュエータ26の制御入力値Uが通常時目標軌道TRXのときのアクチュエータ26の制御入力値Uよりも小さい値となる。すなわち、セレクト停滞状態からセレクト復帰状態への切り替わりのときの停滞時目標軌道TRYのアクチュエータ26の動作速度は、通常時目標軌道TRXのときのアクチュエータ26の動作速度よりも小さくなるように設定される。
【0067】
軌道変更制御は、セレクト停滞状態を検知したとき、制御演算初期化処理と目標軌道初期化処理とを行った後、目標軌道生成処理と制御入力演算処理とを行う。
制御演算初期化処理では、推定状態量XSを初期化することにより、誤差積分値Zおよび状態量XTをそれぞれ「0」に設定する。目標軌道初期化処理では、目標位置TYを実位置RYに設定する。このときの実位置RYは、停滞しているセレクト方向Yの位置である。目標軌道生成処理では、目標軌道初期化処理にて設定された目標位置TYである実位置RYに予め設定されたオフセット値OFを加算したものを新たな目標軌道である停滞時目標軌道TRYとして設定する。このオフセット値OFは、セレクト方向Yの進行側に設定される。制御入力演算処理では、制御入力値Uを誤差積分値Zおよび状態量XTが「0」および停滞時目標軌道TRYに基づく関数として設定する。その結果、インナーレバー27が停滞したときのアクチュエータ26の制御入力値Uは次式にて示される。
【0068】


【0069】
t0:インナーレバー27が停滞しているときの時刻
U(t0):時刻t0のときの制御入力値
S0:切換平面の行列要素
R(t0):時刻t0のときの目標軌道(停滞時目標軌道TRY)
α、β、δ:調整パラメータ

上記式により、停滞状態の制御入力値U(t0)は、目標軌道R(t0)のみに依存した関数となる。これにより、目標軌道R(t0)の値を任意に設定することにより、制御入力値U(t0)を所望の値に設定することができる。すなわち、制御入力値U(t0)をオーバーシュートの発生を抑制できる値に設定することにより、インナーレバー27の動作速度をオーバーシュートの発生を抑制できる動作速度に設定することとなる。その結果、変速動作の応答性の悪化および誤シフトをそれぞれ抑制することができる。
【0070】
図7を参照して、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYへの変更の一例について説明する。図7では、前進2速から前進3速への変速動作について示している。図7(a)は、通常時目標軌道TRXを維持した状態にてインナーレバー27を移動させた状態を示し、図7(b)は、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYへ変更した状態を示している。
【0071】
図7(a)に示すように、通常時目標軌道TRXでは、一点鎖線の軌道TR2のように、インナーレバー27の目標軌道(以下、「目標軌道TR」)を設定する。軌道TR2は、2速領域MR2内においてはストッパ点41からシフト方向Xおよびセレクト方向Yの両方向に向けて移動する。そして2速領域MR2のシフト方向Xの上方においてセレクト方向Yの位置が3速領域MR3の位置に達する。これにより、それ以降は、シフト方向Xの上方に向けてストッパ点42まで延びる。これにより、図中に示す破線の軌道TR1のように、インナーレバー27はストッパ点41からストッパ点42まで最短距離にて移動する。
【0072】
ところで、通常時目標軌道TRXでは、2速領域MR2内のセレクト停滞状態に伴うセレクト用アクチュエータ26(図1参照)の制御入力値Uの増大に伴い、セレクト停滞状態からセレクト復帰解除になるとき、軌道TR3のようにオーバーシュートしてしまう。
【0073】
図7(b)に示すように、2速領域MR2内においてセレクト停滞状態であるとき、軌道変更制御を行うことにより、軌道TR2(図7(a)参照)から停滞時目標軌道TRYである図7(b)の一点鎖線の軌道TR4に変更する。すなわち、インナーレバー27がセレクト方向Yに停滞した時点での通常時目標軌道TRXのセレクト方向Yの位置を維持する。これにより、アクチュエータ26に供給される電力量を低減する。その結果、図中の実線の軌道TR5のように移動する。
【0074】
図8を参照して、軌道変更制御の処理手順を定めた「軌道変更処理」について説明する。本処理は、所定時間毎の周期にて繰り返し実行される。
ステップS10において、インナーレバー27が初期化区間内か否かを判定する。初期化区間は、図7に示すように、インナーレバー27がセレクト方向Yにおいて停滞する可能性のあるシフト方向Xの区間である。ここで、インナーレバー27が初期化区間の範囲外にあるとき、例えば前進2速から前進3速への変速動作においてインナーレバー27がニュートラル領域MR7にあるとき、一旦処理を終了する。
【0075】
インナーレバー27が初期化区間内にあるとき、ステップS11において停滞状態か否かを判定する。この判定は、位置センサ62(図1参照)の検知した信号に基づいて行う。具体的には、インナーレバー27のセレクト方向Yの移動量が一定時間にわたり「0」であることおよび同レバー27のセレクト方向Yの動作速度が一定時間にわたり「0」であることの少なくとも一方を満たすことにより、停滞状態であると判定する。
【0076】
停滞状態である場合、軌道変更制御を行う。すなわちステップS12において、制御演算初期化処理および目標軌道初期化処理を行う。次いで、ステップS13において、目標軌道生成処理を行う。すなわち通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更する。次いで、ステップS14において、制御入力演算処理を行う。これにより、停滞時目標軌道TRYに基づく制御入力値Uが設定される。
【0077】
そして、ステップS15において、状態量XTの更新を行う。ここでは、制御入力値Uがセレクト用アクチュエータ26に供給された後の状態量XTを更新する。すなわち、制御入力値Uがアクチュエータ26に供給されるときの状態量XTは「0」である。また停滞状態ではない場合、ステップS15の状態量XTの更新を行う。
【0078】
図9および図10を参照して、軌道変更処理の実行態様の一例について説明する。この実行態様では、初期化区間内においてインナーレバー27(図4参照)のセレクト方向Yに停滞する場合を想定としている。図9および図10では、インナーレバー27のセレクト方向Yの動作についてのみ示されている。
【0079】
ここでは、セレクト用アクチュエータ26の停滞を検知する処理、および通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYへの切り替る処理を軌道変更制御から省略した仮想の動作制御を「仮想動作制御」として、この仮想動作制御の制御態様と軌道変更制御の制御態様とを対比して説明する。なお、仮想動作制御は上記省略部分を除いてはシフト動作制御と同じ制御であるものとする。
【0080】
図9に軌道変更制御の一態様を示す。
時刻t10〜t13において、目標軌道TRは時間の経過とともに目標位置TYが制御完了点かつストッパ点である位置TY2に向けて移動する。このときの目標軌道TRは通常時目標軌道TRXである。このとき、実位置RYは、時刻t11において位置TY2に向けて移動を開始するとともに時刻t13において位置RY1に到達する。このような目標位置TYおよび実位置RYの移動に伴い、制御入力値Uは時刻t10〜t11まで増加するとともに実位置RYが移動を開始した時刻t12を境に時間とともに減少する。
【0081】
時刻t13〜t14は、セレクト停滞状態である。すなわち実位置RYは、位置RY1において停滞している。そして目標軌道TRは、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更される。停滞時目標軌道TRYは、位置RY1からオフセット値OFを加算した目標位置TYを時刻t13〜t14にわたり維持している。このとき、制御入力値Uは、オフセット値OFに基づいた値U1を維持している。詳細には、セレクト停滞状態では状態量XTおよび誤差積分値Zが「0」となるため、制御入力値Uがオフセット値OFに基づいた一定値を維持することができる。
【0082】
時刻t14において、セレクト停滞状態からセレクト復帰状態に切り替わる。このときに目標位置TYおよび実位置RYはそれぞれ位置TY2に向けて移動する。
制御入力値Uは値U1であるため、すなわちオーバーシュートを抑制した制御入力値Uであるため、時刻t17〜t18にて生じるオーバーシュートは小さくなる。
【0083】
目標位置TYは、時刻t16において位置TY2に到達する。そして実位置RYは、時刻t18にておいて位置TY2に一致する。このとき、制御入力値Uが「0」となる。
図10に仮想動作制御の一態様を示す。
【0084】
時刻t20〜t24において目標軌道TRは時間の経過とともに目標位置TYが制御完了点かつストッパ点である位置TY2に向けて移動する。時刻t21において実位置RYも位置TY2に向けて移動し始める。そして時刻t23において実位置RYは位置RY1に到達する。
【0085】
時刻t23〜t25は、セレクト停滞状態である。セレクト停滞状態では、実位置RYは位置RY1にて停滞する。一方、目標位置TYは、時刻t23以降でも時間とともに位置TY2に向けて移動するため、時刻t23〜t24において実位置RYと目標位置TYとの差が増大する。
【0086】
セレクト停滞状態では、時刻t23〜t24において目標位置TYと実位置RYとの差が増大することおよび時刻t23〜t25において積分器32が上記差に基づく誤差積分値Zを累積するため、誤差積分値Zが過大となる。これにより、制御入力値Uが過大となる。具体的には、セレクト停滞状態において制御入力値Uは時間の経過とともに増大する。そして時刻t25において、制御入力値Uは値U2(>U1)となる。このようにセレクト停滞状態において通常時目標軌道TRXと実位置RYとの差の積分値(誤差積分値Z)を仮想積分値とする。
【0087】
時刻t25においてセレクト停滞状態からセレクト復帰状態に切り替わる。このとき、目標位置TYは位置TY2に維持されるのに対して実位置RYは位置TY2に向けて移動するため、すなわち目標位置TYと実位置RYとの差が小さくなるため、時刻t25以降では時間の経過とともに制御入力値Uが減少する。
【0088】
またこのとき、制御入力値Uが値U2にて実位置RYを移動させるため、インナーレバー27の動作速度は、図9のインナーレバー27の動作速度よりも大きくなる。これにより、実位置RYは時刻t26〜t28に示すオーバーシュートが発生する。これにより、実位置RYを位置TY2に向けて移動させるため、制御入力値Uが負の値となる。時刻t28〜t29は、先程のオーバーシュートの反動により実位置RYが再び位置TY2から離間する。
【0089】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、軌道変更制御により、停滞状態のときに通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更する。これにより、セレクト停滞状態からセレクト復帰状態に切り替わるとき、セレクト用アクチュエータ26の制御入力値Uがオーバーシュートを抑制した値U1(図9参照)に設定される。したがって、アクチュエータ26の動作速度がオーバーシュートを抑制した動作速度となる。その結果、動作速度が過度に大きくなることを抑制することができる。
【0090】
(2)本実施形態では、軌道変更処理において、停滞状態のときの制御入力値Uをセレクト用アクチュエータ26に入力した後、状態量XTを更新している。すなわち、停滞状態では状態量XTおよび誤差積分値Zを「0」としているため、制御入力値Uはオフセット値OFに基づいた一定値となる。したがって、アクチュエータ26に入力される制御入力値Uに状態量XTの更新が影響しない。これにより、制御入力値Uを目標軌道TR(オフセット値OF)のみに依存した値に設定することができる。
【0091】
(第2の実施形態)
図2、図11および図12を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と比較して、初期化区間およびオフセット値OFの設定が異なる。また、カップリングスリーブ21の停滞を検知する検知手段として位置センサ61を用いる。なお、カップリングスリーブ21の動作は、インナーレバー27(図4参照)と連動している。
【0092】
例えば、前進3速への変速動作のとき、図2に示すように、カップリングスリーブ21はシンクロナイザリング22に押し付けられる。このとき、カップリングスリーブ21およびシンクロナイザリング22は次第に同期するとともに、シフト方向Xにおいて前進3速ギヤ5Cに向けて移動する。そして、シンクロナイザリング22が前進3速ギヤ5Cに押し付けられるとともに次第に同期する。このとき、カップリングスリーブ21は、シンクロナイザリング22と前進3速ギヤ5Cとが同期完了する期間において、シフト方向Xに停滞する。
【0093】
またシフト動作制御では、変速動作の応答性を確保するため、シンクロナイザリング22と前進3速ギヤ5Cとの同期する期間、すなわちカップリングスリーブ21がシフト方向Xに停滞している期間(以下、「シフト停滞状態」)においてもカップリングスリーブ21の進行側に移動するように制御する。シフト停滞状態では、目標位置TYは制御完了点に向けて進行するため、カップリングスリーブ21はシフト方向Xの進行側に力を付与している。しかしながら、カップリングスリーブ21が前進3速ギヤ5Cとシフト方向Xに接触するため、位置センサ61(図1参照)の信号に基づく実際のカップリングスリーブ21のシフト方向Xの位置(以下、「実位置RY」)は、停滞している。
【0094】
シフト停滞状態においては、シフト方向Xにおいて実位置RYが移動不可能であるのに対して目標位置TYはシフト方向Xにおいて時間とともに更新されることにより実位置RYと目標位置TYとの差が増大していく。加えて、積分器32(図3参照)は時間の経過とともに誤差積分値Zを累積する。このようにしてシフト停滞状態では、誤差積分値Zが過度に大きくなる。その結果、シフト用アクチュエータ25の制御入力値Uが増大する。なお、このときの誤差積分値Zが仮想積分値に相当する。
【0095】
そして、カップリングスリーブ21(シンクロナイザリング22)と前進3速ギヤ5Cとの同期が完了したとき、停滞状態が解除される(以下、「シフト復帰状態」)。
シフト復帰状態では、インナーレバー27が過大となったアクチュエータ25の制御入力値Uに基づいて移動することに伴い、カップリングスリーブ21もシフト方向Xに移動する。これにより、カップリングスリーブ21が前進3速ギヤ5Cに対して過度な動作速度にて接触するため、騒音が発生する。
【0096】
本実施形態では、カップリングスリーブ21が前進3速ギヤ5Cとの接触の際の騒音を低減することを目的として、軌道変更制御を行う。この軌道変更制御は、第1の実施形態の軌道変更制御と同様である。
【0097】
なお、カップリングスリーブ21と前進4速ギヤ5Dについても同様の制御を行う。また同期機構9A,9Cにより、前進1速ギヤ5A、前進2速ギヤ5B、前進5速ギア5Eおよび前進6速ギヤ5Fとそれらに対応するカップリングスリーブ21についても同様の制御を行う。
【0098】
本実施形態では、初期化区間として、図2に示すように、シンクロナイザリング22と前進3速ギヤ5Cとの同期が開始されてから入力軸3の回転速度と出力軸4の回転速度との比が、入力側前進3速ギヤ5Cと出力側前進3速ギヤ6Cとのギヤ比相当になるまでの時間を設定している。
【0099】
また、オフセット値OFは、同期完了後のカップリングスリーブ21および入力側前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gの噛み合いの円滑さと噛み合い音の低減とを両立する値である。この値は、「0」よりも大きい値であり、カップリングスリーブ21の進行側の値であるとともに、実験等により予め設定される。
【0100】
図11および図12を参照して、軌道変更処理の実行態様の一例について説明する。この実行態様では、カップリングスリーブ21がニュートラル位置から入力側前進3速ギヤ5Cに向けて移動する態様において、初期化区間内でカップリングスリーブ21がシフト方向Xに移動不能になった場合を想定としている。図11および図12では、カップリングスリーブ21の動作のみについて示している。
【0101】
またシフト用アクチュエータ25の停滞を検知する処理、および通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYへの切り替える処理を軌道変更処理から省略した仮想の動作制御を「仮想動作制御」として、この仮想動作制御の制御態様と軌道変更制御の制御態様とを対比して説明する。なお、仮想動作制御は上記省略部分を除いては軌道変更制御と同じ制御であるものとする。
【0102】
図11に軌道変更制御の一態様を示す。
時刻t30〜t33において、目標軌道TRは、目標位置TYを時間の経過とともに制御完了点かつストッパ点である位置TY4に向けて移動する。この期間において、目標軌道TRは通常時目標軌道TRXである。このとき、時刻t31において、実位置RYは位置TY4に向けて移動し始める。そして時刻t33において実位置RYは位置RY3に到達する。
【0103】
時刻t33〜t34は、シフト停滞状態である。すなわち、カップリングスリーブ21(シンクロナイザリング22)と前進3速ギヤ5Cとが次第に同期する。シフト停滞状態では、実位置RYは位置RY3に停滞する。時刻t33において目標軌道TRは、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更される。すなわちシフト停滞状態において、目標軌道TRは、位置RY3からオフセット値OFを加算した位置TY3に維持されている。
【0104】
時刻t34において、シフト停滞状態からシフト復帰状態に切り替わる。このときカップリングスリーブ21(シンクロナイザリング22)と前進3速ギヤ5Cとの同期が完了するとともに、カップリングスリーブ21と前進3速ギヤ5Cとの噛み合いが開始される。ここで、カップリングスリーブ21の動作速度は、オフセット値OFに基づく制御入力値Uにより決定される。ここで、制御入力値Uは、カップリングスリーブ21と前進3速ギヤ5Cとの噛み合いによる騒音が低減される値に設定されている。
【0105】
時刻t34〜t36において、目標位置TYは位置TY3から位置TY4に向けて更新する。そして実位置RYは、時刻t34〜t37において、位置RY3から位置TY4に向けて移動する。時刻t37において、カップリングスリーブ21のスプライン21Aと前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gとの噛み合いが完了した状態となる。
【0106】
図10に仮想動作制御の一態様を示す。
時刻t40〜t43において、目標軌道TRは、通常時目標軌道TRXであり、時間の経過とともに目標位置TYが制御完了点である位置TY4に向けて移動する。実位置RYは、時刻t41から移動し始めるとともに、時刻t43において位置RY3に到達する。
【0107】
時刻t43〜t44においては、シフト停滞状態である。時刻t33〜t34において目標軌道TRは、通常時目標軌道TRXを維持する。すなわち、時刻t33〜t34において時間の経過とともに位置TY4に向けて移動する。
【0108】
また実位置RYは、位置RY3にて停滞している。これにより、時刻t33〜t34においては、時間の経過とともに目標位置TYと実位置RYとの差が大きくなってく。これにより、シフト停滞状態では誤差積分値Zが増大するため、制御入力値Uが大きくなる。このようにシフト停滞状態において通常時目標軌道TRXと実位置RYとの差の積分値(誤差積分値Z)を仮想積分値とする。
【0109】
時刻t44において、シフト停滞状態からシフト復帰状態に切り替わる。このとき、目標位置TYは、位置TY4に向けて移動する。一方、実位置RYは、実位置RYと目標位置TYとの差が大きいため、制御入力値Uが増大することにより、移動速度が過大となる。その結果、実位置RYは目標位置TYが位置TY4に到達する時刻t47よりも前の時刻(t46)において、位置TY4に到達する。また時刻t46においてカップリングスリーブ21のスプライン21Aと前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gとの噛み合いが完了した状態となる。
【0110】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、軌道変更制御により、シフト停滞状態のとき、通常時目標軌道TRXから停滞時目標軌道TRYに変更する。これにより、シフト停滞状態からシフト復帰状態に切り替わるとき、シフト用アクチュエータ25の制御入力値Uが同期完了後のカップリングスリーブ21および入力側前進3速ギヤ5Cのスプライン5Gの噛み合い音を低減した値に設定される。したがって、アクチュエータ25の動作速度を噛み合い音を低減した動作速度となる。これにより、シフトフォーク10Bの動作速度が制御されるため、カップリングスリーブ21と入力側前進3速ギヤ5Cとの噛み合い音を低減することが可能となる。
【0111】
(2)本実施形態では、オフセット値OFを「0」より大きい値として設定している。すなわち、オフセット値OFをカップリングスリーブ21の進行側の値として設定している。したがって、オフセット値OFがカップリングスリーブ21の後退側の値とすることに起因して発生するカップリングスリーブ21と入力側前進3速ギヤ5Cとの同期崩れを抑制することができる。
【0112】
(その他の実施形態)
本発明の制御装置の具体的な構成は、上記各実施形態に例示した構成に限定されることなく、例えば以下のように変更することもできる。また以下の変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0113】
・第1の実施形態では、軌道変更処理として前進2速から前進3速の変速動作について説明したが、前進4速から前進5速の変速動作にも適用することができる。また前進3速から前進2速の変速動作および前進5速から前進4速の変速動作にも適用することができる。
【0114】
・第1の実施形態では、軌道変更制御として、インナーレバー27の位置の制御について説明したが、軌道変更制御はこれに限定されることはない。例えば、シフトセレクト軸24に図7に示すような領域MRに基づいた溝(ゲート)を設けるとともに、このゲート内を移動可能な移動体として係合ピンを変速機ケースに設ける構成において、係合ピンの移動に軌道変更制御を用いることもできる。
【0115】
・第1の実施形態では、軌道変更制御によって、インナーレバー27のセレクト方向Yの停滞が解除されたときの同レバー27の動作速度が過大となることを抑制したが、インナーレバー27の動作速度が過大となることを抑制する制御はこれに限定されることはない。例えば、以下(A)〜(F)の制御が考えられる。なお、以下の変形例は、第2の実施形態についても同様に適用することができる。
【0116】
(A)セレクト停滞状態からセレクト復帰状態に切り替わるとき、誤差積分値Zを補正する。例えば、誤差積分値Zの値を「0」もしくは累積された値よりも小さい値に補正する。
【0117】
(B)セレクト停滞状態からセレクト復帰状態に切り替わるとき、制御入力値Uを補正する。例えば、通常時目標軌道TRXに基づいて算出された制御入力値Uよりも小さい値にする。
【0118】
(C)セレクト停滞状態において、誤差積分値Zの値を補正する。例えば、インナーレバー27の停滞時間が長いほど誤差積分値Zが過大となると推定するとともに、この推定に基づいて停滞時間が長いほど誤差積分値Zを減算する補正値を大きい値に設定する。
【0119】
(D)インナーレバー27の停滞期間中において、誤差積分値Zの累積を禁止する。これにより、インナーレバー27の停滞が解除されたときの制御入力値Uは、停滞期間中において誤差積分値Zが累積した場合の制御入力値Uよりも小さい値となる。
【0120】
(E)セレクト停滞状態において、制御入力値Uの値を補正する。例えばインナーレバー27の停滞時間が長いほど制御入力値Uが過大となると推定するとともに、この推定に基づいて停滞時間が長いほど制御入力値Uを減算する補正値を大きい値に設定する。
【0121】
(F)セレクト停滞状態において、制御入力値Uの増大側への変更を禁止する。これにより、インナーレバー27の停滞が解除されたときの制御入力値Uは、停滞期間中において制御入力値Uの増大を許可した場合の制御入力値Uよりも小さい値となる。
【0122】
・第2の実施形態では、軌道変更制御として、シンクロナイザリング22と前進3速ギヤ5Cについて説明したが、軌道変更制御の適用はこれに限定されることはない。シンクロナイザリング23と前進4速ギヤ5Dについても適用することができる。また他の同期機構についても同様である。
【0123】
・上記各実施形態では、シフト動作制御として、インナーレバー27の動作を内部状態量を有するモデル式に基づき、その状態量を更新する制御を行ったが、シフト動作制御はこれに限定されることはない。例えば、シフト動作制御として、目標位置と実位置との偏差に応じて制御入力値を制御する、いわゆるPID制御もしくはPI制御を用いることもできる。要するに、積分器を有するフィードバック制御であれば、本発明を適用することができる。
【0124】
・上記各実施形態では、変速機1として同期噛み合い式変速機として具体化したが、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)の変速機として具体化することもできる。要するに、手動変速機が基本構造となる変速機であればよい。
【0125】
・上記各実施形態では、制御装置2を変速機1に適用したが、制御装置2の適用例はこれに限定されることはない。目標位置に向けて移動体が移動する間に他の部材に接触することにより停滞することと、他の部材と移動体との接触が解除されて移動が開始されることとが生じる可能性のある車両の他の装置に適用することもできる。
【0126】
また、制御装置2は車両への適用に限定されず、例えば、工作機械のロボットアームや歩行ロボット等にも適用することもできる。
【符号の説明】
【0127】
1…変速機、2…制御装置、3…入力軸、4…出力軸、5A…入力側前進1速ギヤ、5B…入力側前進2速ギヤ、5C〜5F…入力側前進3速ギヤ〜入力側前進6速ギヤ(規制部材)、5G,5H…スプライン、6A…出力側1速ギヤ(規制部材)、6B…出力側2速ギヤ(規制部材)、6C〜6F…出力側前進3速ギヤ〜出力側前進6速ギヤ、7…後進ギヤ軸、8A…伝達後進ギヤ、8B…入力軸側後進ギヤ、8C…出力軸側後進ギヤ、9A〜9C…同期機構、10A〜10D…シフトフォーク、11A〜11C…フォークシャフト、12A〜12C…シフトヘッド(規制部材、変速機構成部材)、21…カップリングスリーブ(移動体、スリーブ)、22,23…シンクロナイザリング、22A,23A…スプライン、24…シフトセレクト軸、25…シフト用アクチュエータ(アクチュエータ)、26…セレクト用アクチュエータ(アクチュエータ)、27…インナーレバー(移動体、レバー)、28…ロックプレート(規制部材、変速機構成部材)、30…スライディングモードコントローラ、31…オブザーバ、32…積分器、41,42…ストッパ点、51…クラッチ、52…連結ギヤ、53…エンジン、54…ディファレンシャルギヤ、55…駆動軸、56…駆動輪、61,62…位置センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標軌道に基づいて移動する移動体と、この移動体を移動させるアクチュエータと、前記移動体の目標軌道と前記移動体の実位置との差を積分する積分器とを備え、この積分器により算出された積分値を用いて前記アクチュエータの動作速度を設定する制御装置において、
前記移動体の進行方向への移動が規制部材との接触により妨げられる状態を停滞状態とし、前記進行方向への移動の規制が解除された状態を復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記移動体の目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記移動体の基準軌道と前記移動体の実位置との差の積分値を仮想積分値として、
前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記移動体の動作速度を前記仮想積分値に対応した前記移動体の動作速度よりも小さくなる
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記移動体は、変速機の同期機構において変速ギヤと噛合可能なスリーブであり、
当該制御装置は、前記スリーブの進行方向への移動が前記変速ギヤとの接触により妨げられる状態を前記停滞状態とし、前記スリーブと前記変速ギヤとの同期にともない前記スリーブの進行方向への移動の規制が解除された状態を前記復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記スリーブの目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記スリーブの基準軌道と前記スリーブの実位置との差の積分値を仮想積分値として、
前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記スリーブの動作速度を前記仮想積分値に対応した前記スリーブの動作速度よりも小さくする
ことを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置において、
前記移動体は、変速機内においてシフト方向およびセレクト方向に移動可能なレバーであり、
当該制御装置は、前記レバーのセレクト方向への移動が変速機構成部材との接触により妨げられる状態を前記停滞状態とし、この停滞状態において前記レバーのシフト方向への移動にともない前記セレクト方向への移動の規制が解除された状態を復帰状態とし、前記停滞状態が生じる前に設定された前記レバーの目標軌道を基準軌道とし、前記停滞状態における前記レバーの基準軌道と前記レバーの実位置との差の積分値を仮想積分値として、
前記停滞状態から前記復帰状態に移行したときの前記レバーの動作速度を前記仮想積分値に対応した前記レバーの動作速度よりも小さくする
ことを特徴とする制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−241881(P2011−241881A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113516(P2010−113516)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】