説明

制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造

【課題】 柱梁で囲まれた矩形フレームの内側空間がダンパーによってすべて占有されることなく、地震動による建物の揺れを短時間に収斂させる。
【解決手段】本発明に係る制振装置6は、オイルダンパー21、該オイルダンパーを構成するシリンダー22がピン接合されたシリンダー側連結部32、オイルダンパー21を構成するピストンロッド23がピン接合されたピストン側連結部33、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30で概ね構成してあり、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30は、制振装置6が、矩形フレーム5の内側空間のうち、天井裏空間が設置領域となるように、かつその設置領域を除く領域のうち、天井7とその下方に設けられた床板8に挟まれた矩形状の開口9が、隣接居室間で行き来可能な開口となるように、一対の柱2,2の対向側面にそれぞれ固着してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として木造住宅、特に在来軸組工法の木造住宅に適用される制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の制振技術は、オフィス等を用途とした大規模建築物への導入に始まり、最近では、居住快適性や地震に対する安全性を高めたいというニーズとも相俟って、戸建て木造住宅にも導入されるようになってきた。
【0003】
戸建て木造住宅で採用される制振技術としては、振動エネルギーを吸収減衰させるダンパーを建物内に配置することによって、地震動による建物の揺れを収斂させるものが主流であるが、かかるダンパーには、低降伏点鋼材を用いた弾塑性ダンパー、シリコン等を用いた粘性ダンパー、オイルダンパー、摩擦ダンパーといったさまざまな種類があり、地震動や建物の規模あるいは振動特性に応じて適宜使い分けされる。
【0004】
ここで、いずれのダンパーを採用するにしろ、地震動による建物の揺れを収斂させるには、建物の揺れによって相対変位が生じている部材間にダンパーを架け渡す必要があり、かかる部材間相対変位が大きいほど、建物全体の揺れを制御しやすい。
【0005】
そのため、ダンパーは、例えば層間変位、すなわち上下の横架材間で生じている相対変位が入力されるように設置する形態が典型例となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−203164号公報
【特許文献2】特開2009−024435号公報
【特許文献3】特開2008−308906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上下の横架材間にダンパーを設置する場合には、必然的に柱梁からなる矩形フレームで囲まれた空間が、ダンパーや該ダンパーを矩形フレームに連結するブレースあるいは連結板で占有されることとなり、壁として塞いでしまってもかまわない場合であれば何ら問題とはならないものの、広い室内空間を確保したり、通風や採光を確保したい場合には、ダンパー設置箇所が壁となって立ちはだかり、大空間の確保や通風あるいは採光を確保するための開口を設けることが困難となる。
【0008】
もちろん、ダンパー取付け用横架材を柱梁からなる矩形フレームの内側に別途架け渡し、その上方空間にダンパーを設置して天井で隠してしまえば、残された空間を開口とすることはできるが、ダンパーに入力される相対変位量は、階高に対する天井裏高さの比率で減少し、制振効果は大幅に低下するとともに、天井高の確保による居住性向上とのせめぎあいともなる。
【0009】
また、柱梁の相対回転角が入力されるように該柱梁の仕口部にダンパーを設置する設置形態が知られており、かかる設置形態によれば、壁内空間の四隅が占有されるだけなので、矩形フレームの中央に開口を確保することができるとともに、四隅に設置されたダンパーについては、天井や床板で隠すことができるため、居室内の美観を維持することも可能となる。
【0010】
しかし、仕口部における柱梁の相対回転角という形で地震動による建物の揺れを取り出すには限度がある上、仕口部近傍のわずかなコーナー空間に減衰力の大きなダンパーを設置すること自体、そもそも難しく、大きな制振効果を期待することはやはり難しい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、柱梁で囲まれた矩形フレームの内側空間がダンパーによってすべて占有されることなく、地震動による建物の揺れを短時間に収斂させることが可能な制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る木造建物の制振構造は請求項1に記載したように、オイルダンパーと、該オイルダンパーを構成するシリンダーがピン接合されたシリンダー側連結部と、前記オイルダンパーを構成するピストンロッドがピン接合されたピストン側連結部と、木造建物の軸組部材を構成し互いに対向配置された一対の柱のうち、一方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記シリンダー側連結部が取付け自在なシリンダー側変位伝達板と、他方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記ピストン側連結部が取付け自在なピストン側変位伝達板とからなる制振装置を、該制振装置が、前記一対の柱、それらの頂部に架け渡された上段横架材及びそれらの脚部をつなぐ下段横架材からなる矩形フレームの内側空間のうち、前記上段横架材の直下、前記下段横架材の直上又は前記一対の柱の中間高さ近傍が設置領域となるように配置され、かつ前記矩形フレームの内側空間のうち、前記設置領域を除く領域が矩形状の開口となるように、前記シリンダー側変位伝達板と前記ピストン側変位伝達板とを前記一対の柱の対向側面にそれぞれ固着したものである。
【0013】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記設置領域を前記上段横架材の直下であって該上段横架材の下方に設置された天井の直上とし、該天井とその下方に設けられた床板に挟まれた開口を前記矩形状の開口とし、該開口を隣接居室間で行き来可能な開口としたものである。
【0014】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記設置領域を前記上段横架材の直下及び前記下段横架材の直上とするとともに、それらに挟まれた開口を前記矩形状の開口とし、該開口に腰窓を嵌め込んだものである。
【0015】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記設置領域を前記下段横架材の直上とするとともに、前記上段横架材の直下に拡がる開口を前記矩形状の開口とし、該開口に高窓を嵌め込んだものである。
【0016】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記設置領域を前記一対の柱の中間高さ近傍とするとともに、前記上段横架材の直下に拡がる開口と前記下段横架材の直上に拡がる開口をそれぞれ前記矩形状の開口とし、該開口に高窓と地窓をそれぞれ嵌め込んだものである。
【0017】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記木造建物を在来軸組工法で構築された木造建物としたものである。
【0018】
また、本発明に係る木造建物の制振構造は、前記一対の柱の内法寸法を幅とする一対の矩形枠を、それらの間に前記シリンダー側変位伝達板及び前記ピストン側変位伝達板が挟み込まれた状態で前記一対の柱の対向側面にそれぞれ固着したものである。
【0019】
また、本発明に係る制振装置は請求項8に記載したように、オイルダンパーと、該オイルダンパーを構成するシリンダーがピン接合されたシリンダー側連結部と、前記オイルダンパーを構成するピストンロッドがピン接合されたピストン側連結部と、木造建物の軸組部材を構成し互いに対向配置された一対の柱のうち、一方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記シリンダー側連結部が取付け自在なシリンダー側変位伝達板と、他方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記ピストン側連結部が取付け自在なピストン側変位伝達板とから構成したものである。
【0020】
木造建物において数多くの制振技術が開発ないしは提案されているものの、それらのほとんどが、柱梁で囲まれた矩形フレームの内側空間全体をほぼ占有する形でダンパーやそれに関連する部材が配置された構造になっている。
【0021】
これは、矩形フレームの中央近傍にダンパーを配置するとともに、該ダンパーを上下の横架材にそれぞれ接続することによって、層間変位、すなわち上下の横架材間に生ずる相対変位をダンパーに入力させようとしたからであるが、その結果、矩形フレームの内側空間全体が制振装置でほぼ占有されることとなり、採光や通風を確保し、あるいは人が行き来できるような開口を美観を損なわずに残すことは困難となる。
【0022】
これに対し、特許文献2のように、対向する一対の柱間の相対変位をダンパーに入力させた技術もいくつか見られるが、矩形フレームの中央近傍にダンパーを配置するとともに、該ダンパーを左右の柱にそれぞれ接続するという意味では、上述した層間変位タイプのものと同様であって、矩形フレームの内側空間全体がダンパーやそれに関連する部材に占有されており、上述した用途に使い得る開口を矩形フレームの内側空間に残すことはやはり難しい。
【0023】
また、特許文献2記載の制振装置のように、粘性ダンパーを採用したことで小型化が容易になる反面、全体の減衰力を少しでも高めるためには複数設置が不可欠となり、それが矩形フレームの内側空間を占有する原因になっているものも少なくない。
【0024】
また、仕口部に生じる柱梁あるいは柱と土台との相対回転角を利用したものでは(特許文献1)、十分な制振化が困難であることは前述した通りである。
【0025】
ちなみに、特許文献3は、隣接居室間で人の行き来が可能な開口を残すことができる発明を開示した数少ない文献であるが、仕口部における柱と土台との相対回転角を利用したものであるため、やはり十分な制振化は望めない。
【0026】
本出願人らは、かかる知見を踏まえ、採光や通風を確保し、あるいは人が行き来可能な開口を残しながら、なおかつ十分な制振化が可能な技術を研究開発した結果、本発明をなしたものである。
【0027】
すなわち、本発明に係る制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造においては、制振装置を構成するシリンダー側変位伝達板をその縁部において一方の柱の対向側面に、ピストン側変位伝達板をその縁部において他方の柱の対向側面にそれぞれ固着するとともに、制振装置を構成するオイルダンパーのシリンダーがピン接合されたシリンダー側連結部をシリンダー側変位伝達板の反対側縁部に、オイルダンパーのピストンロッドがピン接合されたピストン側連結部をピストン側変位伝達板の反対側縁部にそれぞれ取り付けてある。
【0028】
このようにすると、一対の柱が建物全体の揺れに合わせて左右に傾斜したとき、その傾斜によってシリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板が回転し、それらの間には柱の材軸に沿った相対変位が生じる。そして、かかる相対変位が入力されたオイルダンパーは、その減衰力を発揮して建物の揺れを速やかに収斂させる。
【0029】
特に、在来軸組工法で構築された木造建物においては、柱と横架材との接合度(回転剛性)が比較的小さいため、地震時においては、層間変形角に近い角度で柱が左右に傾斜する。
【0030】
したがって、オイルダンパーに入力される相対変位は、層間変位よりは小さくなるものの、オイルダンパーの減衰能力で十分補うことができる程度の低減量にとどまり、かくして建物の揺れを短時間に収斂させることができる。
【0031】
また、本発明に係る制振装置を上述のように構成したことにより、設置に必要な高さを抑えることが可能となり、従来の制振装置のように、矩形フレームの内側空間が制振装置やそれに関連する部材で占有されることはない。
【0032】
そのため、矩形フレームの内側空間のうち、上段横架材の直下、下段横架材の直上又は一対の柱の中間高さ近傍が設置領域となるように制振装置を配置し、該設置領域を除く領域を矩形状の開口とする構成が可能となる。
【0033】
そして、かかる構成によれば、制振装置の設置領域を除く領域として矩形フレームに残された矩形状の開口を、採光や通風のための開口とすることが可能となり、高い居住性を得ることができるとともに、人が行き来するための開口として、さらにはこの開口を室内で連続形成することによって隣接居室を一体化し、大空間を形成することも可能となる。
【0034】
矩形フレーム内の制振装置の設置領域と該矩形状フレームに残される矩形状の開口との関係において、以下の具体的構成、すなわち、
(a) 設置領域を、上段横架材の直下であって該上段横架材の下方に設置された天井の直上とし、該天井とその下方に設けられた床板に挟まれた開口を矩形状の開口とし、該開口を隣接居室間で行き来可能な開口とする
(b) 設置領域を、上段横架材の直下及び下段横架材の直上とするとともに、それらに挟まれた開口を矩形状の開口とし、該開口に腰窓を嵌め込む
(c) 制振装置の設置領域を、下段横架材の直上とするとともに、上段横架材の直下に拡がる開口を矩形状の開口とし、該開口に高窓を嵌め込む
(d) 制振装置の設置領域を、一対の柱の中間高さ近傍とするとともに、上段横架材の直下に拡がる開口と下段横架材の直上に拡がる開口をそれぞれ矩形状の開口とし、該開口に高窓と地窓をそれぞれ嵌め込む
といった構成を採用することができる。
【0035】
かかる具体的構成のうち、(a)は、天井裏空間に制振装置を設置することで、天井と床板との間を矩形状の開口とし、該開口を介して隣接居室を一体化させて大空間を形成することが可能となる。
【0036】
また、(b)は、腰窓によって標準的な採光及び通風を確保しつつ、上下に二段併置された制振装置によって、制振化への寄与の度合いを高めることが可能となる。
【0037】
また、(c)は、主としてプライバシーを確保したい居室に面する外壁で採用可能な構成であり、外壁の下方を制振のためのスペースとして用いながら、その上方を採光のための開口として用いることにより、建物全体の制振化に寄与させながら、屋外からの視線を遮断するとともに、いわゆるハイサイドライト特有の良質な採光を確保することが可能となる。
【0038】
また、(d)は、柱の中間高さ位置を制振のためのスペースとして用いながら、その上方と下方に残された矩形状の開口に高窓と地窓をそれぞれ嵌め込むことにより、建物全体の制振化に寄与させながら、屋外からの視線を遮断しつつ、いわゆるハイサイドライト特有の良質な採光と地窓特有の通風を確保することが可能となる。
【0039】
シリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板は、地震時に生じる面内せん断力に十分抵抗できるよう、面内剛性の高い板材、例えば構造用合板でそれぞれ構成するのが望ましい。
【0040】
また、シリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板は、制振装置を上段横架材の直下に配置する場合には、該上段横架材の下面との間にクリアランスが形成されるように、下段横架材の直上に配置する場合には、該下段横架材の上面との間にクリアランスが形成されるように、一対の柱の対向側面にそれぞれ取り付け、地震時における横架材との干渉を避けるようにする。
【0041】
地震時において、シリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板が面外方向に座屈する懸念がある場合には、一対の柱の内法寸法を幅とする一対の矩形枠を、それらの間にシリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板が挟み込まれた状態で一対の柱の対向側面にそれぞれ固着するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態に係る木造建物の制振構造の正面図。
【図2】本実施形態に係る制振装置の正面図。
【図3】本実施形態に係る制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造の作用を示した図。
【図4】変形例に係る木造建物の制振構造を示した全体正面図。
【図5】別の変形例に係る木造建物の制振構造を示した全体正面図。
【図6】別の変形例に係る木造建物の制振構造を示した全体正面図。
【図7】別の変形例に係る木造建物の制振構造を示した図であり、(a)は正面図、(b)はA−A線に沿う鉛直断面図。
【図8】動的加力試験を行うために製作された試験体の正面図。
【図9】動的加力試験の結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る制振装置及びそれを用いた木造建物の制振構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図1は、本実施形態に係る木造建物の制振構造を示した正面図、図2は、それに用いる制振装置の正面図である。これらの図に示すように、本実施形態に係る木造建物の制振構造1は、在来軸組工法で構築された木造住宅を木造建物とし、かかる木造住宅の一階に立設された矩形フレーム5の内側空間に制振装置6を配置してなる。
【0045】
矩形フレーム5は、鉄筋コンクリートの布基礎(図示せず)の上に取り付けられた下段横架材としての土台4と、該土台4に立設された一対の柱2,2と、それらの頂部に架け渡された上段横架材としての梁3とからなる。
【0046】
制振装置6は図2でわかるように、オイルダンパー21と、該オイルダンパーを構成するシリンダー22がピン接合されたシリンダー側連結部32と、オイルダンパー21を構成するピストンロッド23がピン接合されたピストン側連結部33と、一対の柱2,2のうち、一方の柱2の対向側面に固着されたシリンダー側変位伝達板26と、他方の柱2の対向側面に固着されたピストン側変位伝達板30とで概ね構成してある。
【0047】
シリンダー側変位伝達板26は、その縁部をL字状断面をなすアングル27を介して一方の柱2に固着してあるとともに、反対側の縁部を、シリンダー側連結部32を構成するコの字状断面の連結本体25に差し込んだ上、該連結本体の両側面に形成されたビス孔にビスを挿通してねじ込むことにより、該シリンダー側連結部に固着してある。
【0048】
また、連結本体25には、該連結本体とともにシリンダー側連結部32を構成するブラケット24を突設してあり、該ブラケットの先端にオイルダンパー21のシリンダー22をピン接合してある。
【0049】
同様に、ピストン側変位伝達板30は、その縁部をL字状断面をなすアングル31を介して他方の柱2に固着してあるとともに、反対側の縁部を、ピストン側連結部33を構成するコの字状断面の連結本体29に差し込んだ上、該連結本体の両側面に形成されたビス孔にビスを挿通してねじ込むことにより、該ピストン側連結部に固着してある。
【0050】
また、連結本体29には、該連結本体とともにピストン側連結部33を構成するブラケット28を突設してあり、該ブラケットの先端にオイルダンパー21のピストンロッド23をピン接合してある。
【0051】
ここで、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30は、制振装置6が、矩形フレーム5の内側空間のうち、梁3の直下であって該梁の下方に設置された天井7の直上、つまり天井裏空間が設置領域となるように、かつその設置領域を除く領域のうち、天井7とその下方に設けられた床板8に挟まれた矩形状の開口9が、隣接居室間で行き来可能な開口となるように、一対の柱2,2の対向側面にそれぞれ固着してある。
【0052】
シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30は、地震時に生じる面内せん断力に十分抵抗できるよう、面内剛性の高い板材、例えば構造用合板でそれぞれ構成するとともに、地震時における梁3との干渉を避けるため、梁3の下面との間にクリアランスδが形成されるよう、一対の柱2,2の対向側面にそれぞれ取り付けてある。
【0053】
本実施形態に係る制振装置6及びそれを用いた木造建物の制振構造1においては、シリンダー側変位伝達板26をその縁部において一方の柱2の対向側面に、ピストン側変位伝達板30をその縁部において他方の柱2の対向側面にそれぞれ固着するとともに、オイルダンパー21のシリンダー22がピン接合されたシリンダー側連結部32をシリンダー側変位伝達板26の反対側縁部に、オイルダンパー21のピストンロッド23がピン接合されたピストン側連結部33をピストン側変位伝達板30の反対側縁部にそれぞれ取り付けてある。
【0054】
このようにすると、一対の柱2,2は図3に示すように、地震時において建物全体の揺れに合わせて左右に傾斜し、その傾斜は、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30を反時計廻り(同図(a))と時計廻り(同図(b))に交互に回転させる。
【0055】
そのため、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30の間には、柱2の材軸に沿った相対変位が生じ、かかる相対変位が入力されたオイルダンパー21は、その減衰力を発揮して建物の揺れを速やかに収斂させる。
【0056】
一方、制振装置6は、矩形フレーム5の内側空間のうち、梁3の直下であって該梁の下方に設置された天井7の直上、つまり天井裏空間が設置領域となるように、かつその設置領域を除く領域のうち、天井7とその下方に設けられた床板8に挟まれた矩形状の開口9が、隣接居室間で行き来可能な開口となるように取り付けてあるため、かかる矩形状の開口9を介して隣接居室が一体化される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る制振装置6及びそれを用いた木造建物の制振構造1によれば、一対の柱2,2が建物全体の揺れに合わせて左右に傾斜したとき、その傾斜によってシリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30が回転し、それらの間に生じた柱2の材軸に沿った相対変位がオイルダンパー21に入力されることにより、建物の揺れを速やかに収斂させることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る木造建物の制振構造1によれば、在来軸組工法で構築された木造建物を対象としたことにより、地震時においては、層間変形角に近い角度で柱2,2が左右に傾斜する。
【0059】
そのため、オイルダンパー21に入力される相対変位は、層間変位よりは小さくなるものの、オイルダンパー21の減衰能力で十分補うことができる程度の低減量にとどまり、かくして建物の揺れを短時間に収斂させることが可能となる。
【0060】
また、本実施形態に係る木造建物の制振構造1によれば、制振装置6の設置領域を、梁3の直下であって該梁の下方に設置された天井7の直上とし、該天井と床板8に挟まれた矩形状の開口を隣接居室間で行き来可能な開口9としたので、該開口を介して隣接居室を一体化させ、大きな居住空間を形成することが可能となる。
【0061】
本実施形態では、説明の便宜上、一階について制振を行った例を説明したが、本発明に係る木造建物の制振構造を、二階、三階といった上階にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0062】
また、本実施形態では、図1及び図2に示したように、オイルダンパー21をその材軸が柱2の材軸と平行になるように配置することで、オイルダンパー21に入力される相対変位ができるだけ大きくなるようにしたが、必ずしもこのような縦配置に限定されるものではなく、オイルダンパーの性能が十分であれば、例えばその材軸が斜めになるように配置してもかまわない。
【0063】
かかる変形例においては、制振装置の設置高さを低く抑えることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、制振装置6の設置領域を、梁3の直下であって天井7の直上としたが、矩形フレーム5の内側空間に矩形状の開口が残るのであれば、制振装置6をどのように設置してもかまわない。
【0065】
図4は、かかる変形例を示した正面図である。同図に示した木造建物の制振構造41は、制振装置6の設置領域を、上段横架材としての胴差し3aの直下及び土台4の直上とするとともに、胴差し3a直下に設置される制振装置6を垂壁42で、土台4の直上に設置される制振装置6を腰壁43でそれぞれ隠し、それらに挟まれた矩形状の開口44に腰窓を嵌め込んである。
【0066】
かかる構成によれば、腰窓によって標準的な採光及び通風を確保しつつ、上下に二段併置された制振装置6,6によって、制振化への寄与の度合いを高めることが可能となる。
【0067】
図5は、別の変形例を示した正面図である。同図に示した木造建物の制振構造51は、制振装置6の設置領域を土台4の直上とするとともに該制振装置を壁52で隠し、胴差し3aの直下に拡がる矩形状の開口53には高窓を嵌め込んである。
【0068】
かかる構成によれば、壁52の下方を制振のためのスペースとして用いながら、その上方を採光のための開口53として用いることにより、建物全体の制振化に寄与させながら、制振装置6を設置した壁52で屋外からの視線を遮断するとともに、いわゆるハイサイドライト特有の良質な採光を開口53で確保することが可能となる。
【0069】
なお、土台4の直上を制振装置6の設置領域とする代わりに、図6に示すように柱2,2の中間高さを制振装置6の設置領域とし、該制振装置を壁52aで隠すとともに、その上方に拡がる矩形状の開口53aに高窓を、下方に拡がる矩形状の開口53bに地窓をそれぞれ嵌め込むようにしてもよい。
【0070】
かかる構成によれば、矩形フレーム5の中間高さに拡がる領域を制振装置6の設置領域として用いながら、その上方及び下方を採光及び通風のための開口53a,53bとして用いることが可能となり、建物全体の制振化に寄与させながら、壁52aで屋外からの視線を遮断しつつ、いわゆるハイサイドライト特有の良質な採光を開口53aで確保するとともに、地窓特有の換気機能を開口53bで確保することができる。
【0071】
加えて、地震時における柱2,2の傾斜角は、在来軸組工法であっても仕口部での回転拘束は存在し、頂部や端部よりも中間高さ位置の方が大きくなる。したがって、上述のように構成すれば、オイルダンパー21に入力する相対変位を大きく取ることが可能となる。
【0072】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図7(a)、(b)に示すように、一対の柱2,2の内法寸法を幅とする一対の矩形枠61,61を、それらの間にシリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30が挟み込まれた状態で一対の柱2,2の対向側面にそれぞれ取り付けるようにすればよい。
【0073】
矩形枠61は、地震時における柱2,2の傾斜変形を拘束することがないよう、必要に応じて柱2への固定度を緩くしたり、矩形枠全体のせん断変形が許容されるように構成するとともに、柱2,2の傾斜変形に伴うシリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30の面内における回転変形を拘束することがないよう、該シリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板との間にクリアランスを設けたり、又は摺動可能に構成しておく。
【0074】
かかる構成によれば、地震時における制振装置6の動作を何ら阻害することなく、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30の面外方向への座屈を未然に防止することが可能となる。
【0075】
なお、シリンダー側変位伝達板26やピストン側変位伝達板30は、アングル27,31に代えて、矩形枠61の内法高さより短いアングル27′,31′を用いて柱2,2に固着するのが望ましい。
【0076】
かかる構成によれば、矩形枠61がその隅部でアングル27′,31′と干渉する懸念がなくなり、柱2への取付け作業性が向上する。
【0077】
また、シリンダー側変位伝達板26やピストン側変位伝達板30は図7(b)に示したように、アングル27′,31′の外面(背面)に取り付けるようにしてもよいが、かかる構成に代えて、同図(c)に示すようにアングル27′,31′の内面に取り付けるようにしてもよい。
【0078】
かかる構成によれば、シリンダー側変位伝達板26及びピストン側変位伝達板30をより強固に柱2,2に固着することができる。
【0079】
また、本実施形態では、オイルダンパー21をそのピストンロッド23が上に、シリンダー22が下になるように配置したが、上下が逆であってももちろんかまわない。
【実施例】
【0080】
次に、本発明に係る木造建物の制振構造に対応する試験体を製作し、かかる試験体に動的水平力を加力することによって、その減衰特性を調べた。以下、その概要について説明する。
【0081】
図8は、各試験体を示した正面図であり、共通の矩形フレームは、断面が105mm角で長さが2,550mmの土台に、断面が105mm角で高さが2,587.5mmの柱を910mmピッチで対称に3本立設し、それらの頂部に梁幅が105mm、梁成が180mm、長さが2,550mmの梁を架け渡して構成した。
【0082】
かかる矩形フレームにおいて、オイルダンパーを、梁下540mmの高さ位置(オイルダンパーの取付け板の下縁)で水平姿勢となるように、一端を柱に、他端を梁の下面に垂設したブラケットにそれぞれピン接合して構成したものを試験体1(仕口タイプ)とし(同図(a))、オイルダンパーを梁下250mmの高さ位置に設置し、それ以外は試験体1と同様に構成したものを試験体2(ピロティタイプ)とした。
【0083】
オイルダンパーは、日立オートモティブシステムズ株式会社から「減震くんスマート」(登録商標)という名称で販売されているものを用いた。
【0084】
一方、図1で説明した本実施形態の木造建物の制振構造1と同様、シリンダー側変位伝達板及びピストン側変位伝達板の高さを460mm、幅を332.5mm、梁下からのクリアランスを50mm、両者の間隔を140mmとして構成した。
【0085】
なお、オイルダンパーを設けない矩形フレームのみの試験体を試験体0とした。
【0086】
図9は、各試験体に対して動的加力試験を行ったときの履歴減衰特性を示したグラフである。かかる動的加力試験は、振幅と振動数の組合せで変形の小さいものから順に加力する制震壁の試験方法であり、(財)日本建築防災協会が定めている「住宅等防災技術試験要領」の「その1 制震材料付き耐力壁による耐震補強構法に係る性能確認試験方法」の規定に沿って行った。
【0087】
まず、従来の制振装置である試験体1及び試験体2を比較すると、試験体2は、試験体1と比して梁下からオイルダンパーまでの距離が短いため、梁と柱の間の変位角を大きくとることができず、オイルダンパーの変位量を確保することが難しい。
【0088】
そのため、試験体2は試験体1と比していずれの層間変位においても、履歴減衰量、最大荷重とも下回る結果となった。
【0089】
ここで、試験体1において梁下からオイルダンパーまでの距離をさらに延ばしていくと、オイルダンパーに入力される相対変位量が大きくなり、その結果、オイルダンパーの減衰力が大きくなって、履歴減衰量、最大荷重とも大きくすることができるが、その分、オイルダンパーを含む制振装置の設置領域が大きくなるとともに、開口の確保が難しくなる。
【0090】
一方、本発明に相当する試験体3は、梁下からオイルダンパーまでの距離が試験体1と同じであるにも関わらず、いずれの層間変位においても、履歴減衰量、最大荷重とも他の試験体を大きく上回っており、特に大変形(1/15rad)における履歴減衰量や最大荷重は、他の試験体に比べ、格段に大きくなった。
【0091】
これは、地震時の建物の揺れを柱の傾斜変形に伴うシリンダー側変位伝達板とピストン側変位伝達板の相対上下変位という形で取り出したからであって、柱間距離を確保することにより、設置高さを抑えつつ、高い制振性能を発揮させることが可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0092】
1、41,51 木造建物の制振構造
2 柱
3 梁(上段横架材)
3a 胴差し(上段横架材)
4 土台(下段横架材)
5 矩形フレーム
6 制振装置
7 天井
8 床板
9,44,53 矩形状の開口
21 オイルダンパー
22 シリンダー
23 ピストンロッド
26 シリンダー側変位伝達板
30 ピストン側変位伝達板
32 シリンダー側連結部
33 ピストン側連結部
61 矩形枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルダンパーと、該オイルダンパーを構成するシリンダーがピン接合されたシリンダー側連結部と、前記オイルダンパーを構成するピストンロッドがピン接合されたピストン側連結部と、木造建物の軸組部材を構成し互いに対向配置された一対の柱のうち、一方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記シリンダー側連結部が取付け自在なシリンダー側変位伝達板と、他方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記ピストン側連結部が取付け自在なピストン側変位伝達板とからなる制振装置を、該制振装置が、前記一対の柱、それらの頂部に架け渡された上段横架材及びそれらの脚部をつなぐ下段横架材からなる矩形フレームの内側空間のうち、前記上段横架材の直下、前記下段横架材の直上又は前記一対の柱の中間高さ近傍が設置領域となるように配置され、かつ前記矩形フレームの内側空間のうち、前記設置領域を除く領域が矩形状の開口となるように、前記シリンダー側変位伝達板と前記ピストン側変位伝達板とを前記一対の柱の対向側面にそれぞれ固着したことを特徴とする木造建物の制振構造。
【請求項2】
前記設置領域を前記上段横架材の直下であって該上段横架材の下方に設置された天井の直上とし、該天井とその下方に設けられた床板に挟まれた開口を前記矩形状の開口とし、該開口を隣接居室間で行き来可能な開口とした請求項1記載の木造建物の制振構造。
【請求項3】
前記設置領域を前記上段横架材の直下及び前記下段横架材の直上とするとともに、それらに挟まれた開口を前記矩形状の開口とし、該開口に腰窓を嵌め込んだ請求項1記載の木造建物の制振構造。
【請求項4】
前記設置領域を前記下段横架材の直上とするとともに、前記上段横架材の直下に拡がる開口を前記矩形状の開口とし、該開口に高窓を嵌め込んだ請求項1記載の木造建物の制振構造。
【請求項5】
前記設置領域を前記一対の柱の中間高さ近傍とするとともに、前記上段横架材の直下に拡がる開口と前記下段横架材の直上に拡がる開口をそれぞれ前記矩形状の開口とし、該開口に高窓と地窓をそれぞれ嵌め込んだ請求項1記載の木造建物の制振構造。
【請求項6】
前記木造建物を在来軸組工法で構築された木造建物とした請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の木造建物の制振構造。
【請求項7】
前記一対の柱の内法寸法を幅とする一対の矩形枠を、それらの間に前記シリンダー側変位伝達板及び前記ピストン側変位伝達板が挟み込まれた状態で前記一対の柱の対向側面にそれぞれ固着した請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の木造建物の制振構造。
【請求項8】
オイルダンパーと、該オイルダンパーを構成するシリンダーがピン接合されたシリンダー側連結部と、前記オイルダンパーを構成するピストンロッドがピン接合されたピストン側連結部と、木造建物の軸組部材を構成し互いに対向配置された一対の柱のうち、一方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記シリンダー側連結部が取付け自在なシリンダー側変位伝達板と、他方の柱の対向側面に縁部において固着自在でその反対側の縁部において前記ピストン側連結部が取付け自在なピストン側変位伝達板とから構成したことを特徴とする制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−102539(P2012−102539A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251943(P2010−251943)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【出願人】(597007282)住友林業ホームテック株式会社 (43)
【出願人】(502141636)江戸川木材工業株式会社 (6)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】