説明

制電性アクリル系樹脂組成物

【課題】塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、特に、液晶ディスプレイの製造に用いられる大画面用偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の粘着剤層の形成に好適な、透明な、剥離時の静電気の発生が少ない制電性アクリル系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】水酸基とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないアクリル系樹脂(A)、
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)、及び
トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を含む、制電性アクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性アクリル系樹脂組成物に関する。より詳しくは、電子、光学部品の包装材に用いる透明性に優れた制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップに代表される電子部品や光学部品の包装材については、静電気対策が求められている。特許文献1(特開2003−261774号公報)には、イオン化合物としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む制電性樹脂組成物が、高い静電気消散機能を有し、持続性、成形加工性に優れた、着色しない制電性樹脂組成物として開示されている。しかし、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが高価な材料であるため、成形品全体を当該制電性樹脂組成物で作製した場合にはコスト高を招き、高付加価値の特殊用途にしか使用できない。
そこで、特許文献2(特開2003−41194号公報)には、成形品の表面に、制電性樹脂組成物の塗膜を形成する経済性に優れた制電性塗料が開示されている。
【0003】
一方で、包装材自体の形態が、従来のコンテナ等の容器から、キャリアテープや光学部品用途の保護フィルムに代表されるように、テープ化やフィルム化が進んでいる。
特に、保護フィルムは、液晶ディスプレイの普及に伴って伸長著しく、使用例としては、液晶ディスプレイに用いられる偏光板やそれに準ずる積層体等の光学部品等に、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等からなる透明なフィルムが粘着層を介して積層されて使用される。
【0004】
保護フィルムは、液晶ディスプレイ等に組み込みが完了した後に光学部品等から剥離除去されるが、剥離する際に生じる静電気により液晶や電子回路が破壊されるトラブルの発生が問題となっている。保護フィルム表面に制電性樹脂を塗工するだけでは、剥離時に発生する静電気の抑制には十分な効果が得られていない。
【0005】
そこで、保護フィルムの粘着層を形成するための、粘着性を有する制電性樹脂組成物が求められ、特許文献3(特開2007−92056号公報)には、リチウム塩とアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーを含むアクリル樹脂系粘着剤が汚染性の少ない制電性の優れた粘着剤として開示されている。しかし、リチウム塩はイオン解離性には優れるが、解離したリチウムイオンはアルキレンオキサイドのエーテル鎖に配位し易く、イオン電導性が低下する。その為、近年の液晶テレビの大画面化に伴い、剥離時に生じる静電気を防止する効果が得られていない。
【特許文献1】特開2003−261774号公報
【特許文献2】特開2003−41194号公報
【特許文献3】特開2007−92056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、特に、液晶ディスプレイの製造に用いられる大画面用偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の粘着剤層の形成に好適な、透明な、剥離時の静電気の発生が少ない制電性アクリル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、水酸基とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないアクリル系樹脂(A)、
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)、及び
トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を含む、制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0008】
第2の発明は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)を1〜30重量部、及び
トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を0.001〜10重量部含有することを特徴とする第1の発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0009】
第3の発明は、アクリル系樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)と、ラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)と、前記(a1)(a2)以外のアクリル系モノマーを必須とするラジカル重合性不飽和モノマー(a3)とを共重合してなるアクリル系樹脂であることを特徴とする第1又は第2の発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0010】
第4の発明は、モノマー(a1)〜(a3)の合計100重量%中、モノマー(a2)の割合が0.01〜40重量%であることを特徴とする第3の発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0011】
第5の発明は、アルカノールアンモニウム塩部を有するアニオン性界面活性剤(D1−1)以外の界面活性剤(D)をさらに含有することを特徴とする第1ないし第4いずれかの発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0012】
第6の発明は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、界面活性剤(D)を0.001〜10重量部含有することを特徴とする第5の発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0013】
第7の発明は、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)が、3官能イソシアネート化合物であることを特徴とする第1ないし第6いずれかの発明の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0014】
第8の発明は、 プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、第1ないし第7いずれかの発明の制電性アクリル系樹脂組成物から形成される粘着剤層が積層されてなる、光学部材用保護フィルムに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、特に、大画面液晶ディスプレイの偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の粘着剤層の形成に好適な、剥離時の静電気の発生が少ない制電性アクリル系樹脂組成物が得られるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いられる、水酸基とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないアクリル系樹脂(A)〔以下、単に「アクリル系樹脂(A)」と表記することもある〕は、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)と、ラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)と必要に応じてこれらと共重合可能な他のアクリル系モノマー(a3)とから合成することができる。
【0017】
本発明に用いられる、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)〔以下、単に「モノマー(a1)」と表記することもある〕としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0018】
本発明において、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)を使用する目的は、被着体に対する粘着力を確保しつつ再剥離性を確保するためである。さらに詳しく説明すると、粘着剤層を形成する際に使用する後述の、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)とこれらの水酸基との反応を利用して架橋構造を形成し、他方後述するようにアクリル系樹脂(A)の分子量を制御することにより、粘着力と再剥離性とのバランスをとることができる。
【0019】
アクリル系樹脂(A)を構成するモノマーの合計を100重量%とした場合、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)の割合は1〜30重量%であることが好ましい。さらに好ましくは、3〜10重量%である。水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)が1重量%未満だと、粘着剤層としての架橋度及び凝集力が不足し、粘着力が大きくなりすぎたり、糊残りが発生しやすいので好ましくない。30重量%を超えると、架橋度が高くなりすぎて粘着性が乏しくなるので好ましくない。
なお、本発明においては、末端が水酸基であるアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーは、後述するモノマー(a2)に分類するものとする。
【0020】
本発明においてラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)〔以下、単に「モノマー(a2)」とも表記する〕を使用する目的は、後述するトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)がモノマー(a2)中のアルキレンオキサイド鎖に配位することで、それらの表面への移行を抑制し、被着体に対する汚染を低減させるためである。
【0021】
アクリル系樹脂(A)を構成するモノマーの合計を100重量%とした場合、モノマー(a2)の割合は、0.01〜40重量%が好ましく、0.01〜20重量%がより好ましく、0.01〜1重量%であることがさらに好ましい。
モノマー(a2)が0.01重量%未満の場合、被着体に対する汚染性を低減させる効果が期待出来ない。一方、40重量%を超える場合、モノマー(a2)中に不純物として含まれる場合がある2官能モノマーの影響により、重合時にゲル化することがあり好ましくない。また、モノマー(a2)は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
本発明における、ラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)としては、たとえば、(メタ)アクリル酸アルキレンオキシド付加物や、分子中にアクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基などの反応性置換基を有する反応性界面活性剤などがあげられる。
【0023】
本発明における(メタ)アクリル酸アルキレンオキシド付加物の具体例としては、たとえば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0024】
また、アルキレンオキシド基を有する反応性界面活性剤の具体例としては、たとえば、(メタ)アクリロイル基またはアリル基を有するアニオン型反応性界面活性剤、ノニオン型反応性界面活性剤、カチオン型反応性界面活性剤などがあげられる。
【0025】
アニオン型反応性界面活性剤としては、たとえば、式(A1)〜(A10)で表されるものなどがあげられる。
【0026】
【化1】

【0027】
[式(A1)中のRは水素またはメチル基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基またはアシル基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0028】
【化2】

【0029】
[式(A2)中のRは水素またはメチル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、RおよびRは同一または異なって、水素またはアルキル基を表し、RおよびRは同一または異なって、水素、アルキル基、ベンジル基またはスチレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0030】
【化3】

【0031】
[式(A3)中のRは水素またはメチル基を表し、Rは炭素数1から6のアルキレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数nは3〜40の数を表す。」。
【0032】
【化4】

【0033】
[式(A4)中のRは水素またはメチル基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基またはアシル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0034】
【化5】

【0035】
[式(A5)中のRは炭化水素基、アミノ基、カルボン酸残基を表し、Rは炭素数1から6のアルキレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数nは3〜40の整数を表す。]。
【0036】
【化6】

【0037】
[式(A6)中のRは炭素数1から30の炭化水素基、Rは水素または炭素数1から30の炭化水素基を表し、Rは水素またはプロペニル基を表し、Rは炭素数1から6のアルキレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数nは3〜40の数を表す。]。
【0038】
【化7】

【0039】
[式(A7)中のRは水素またはメチル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0040】
【化8】

【0041】
[式(A8)中のRおよびRは同一または異なって、水素またはメチル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0042】
【化9】

【0043】
[式(A9)中のRは炭素数1から6のアルキレン基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表し、平均付加モル数nは3〜40の数を表す。]。
【0044】
【化10】

【0045】
[式(A10)中のR、R、およびRは同一または異なって、水素またはメチル基を表し、Rは炭素数0から30の炭化水素基(炭素数0の場合はRがないことを示す)を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、Xはアニオン性親水基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0046】
上記式(A1)〜(A6)、および(A10)中のXは、アニオン性親水基を表す。アニオン性親水基としては、下記式(A11)〜(A12)で表されるものがあげられる。
【0047】
(A11)
−SO31
【0048】
[式(A11)中のMは水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表す。]。
【0049】
(A12)
【0050】
【化11】

【0051】
[式(A12)中のMおよびMは同一または異なって、水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表す。]。
【0052】
ノニオン型反応性界面活性剤としては、たとえば、式(N1)〜(N6)で表されるものなどがあげられる。
【0053】
【化12】

【0054】
[式(N1)中のRは水素またはメチル基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基またはアシル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0055】
【化13】

【0056】
[式(N2)中のRは水素またはメチル基を表し、R、R、およびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、平均付加モル数n、m、およびlは0〜40であって、(n+m+l)が3〜40となる数を表す。]。
【0057】
【化14】

【0058】
[式(N3)中のRは水素またはメチル基を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、Rは炭素数1から30の炭化水素基またはアシル基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0059】
【化15】

【0060】
[式(N4)中のRおよびRは同一または異なって、炭素数1から30の炭化水素基を表し、Rは水素またはプロペニル基を表し、Rは炭素数1から6のアルキレン基を表し、平均付加モル数nは3〜40の数を表す。]。
【0061】
【化16】

【0062】
[式(N5)中のRおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、RおよびRは同一または異なって、水素、炭素数1から30の炭化水素基、またはアシル基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0063】
【化17】

【0064】
[式(N6)中のR、R、およびRは同一または異なって、水素またはメチル基を表し、Rは炭素数0から30の炭化水素基(炭素数0の場合はRがないことを示す)を表し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1から6のアルキレン基を表し、平均付加モル数mおよびnは0〜40、ただし(m+n)は3〜40の数を表す。]。
【0065】
また、モノマー(a2)の市販品としては、具体的には、たとえば、NKエステルM90G(新中村化学工業社製)、ブレンマーPME−400、ブレンマーPME−1000、ブレンマー50POEP−800B(以上、いずれも日本油脂社製)、ラテムルPD−104、ラテムルPD−420、ラテムルPD−430、(以上、いずれも花王社製)、アデカリアソープER−10、アデカリアソープNE−10、アデカリアソープSR−10S(以上、いずれも旭電化工業社製)などがあげられる。
【0066】
本発明に用いられる、前記(a1)(a2)以外のアクリル系モノマーを必須とするラジカル重合性不飽和モノマー(a3)〔以下、単に「モノマー(a3)」とも表記する〕は、モノマー(a1)、モノマー(a2)と共重合可能なモノマーからなる。
モノマー(a3)として用いられるモノマーとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。
本発明においては、粘着性を確保するという点で、アルキル鎖の炭素数が4〜24のアルキル(メタ)アクリレートを共重合に供することが好ましい。さらに好ましくは、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
これらのモノマー(a3)は、制電性アクリル系樹脂組成物としての望ましい物性を得る目的のため、適宜選択して単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、粘着力を付与する為に、得られるアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう)が0℃以下となるようにモノマー(a3)の種類を選択することが好ましい。
【0067】
上述のモノマー(a1)、モノマー(a2)及びその他のモノマー(a3)等を共重合してなるアクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は20万〜100万であることが好ましく、30万〜70万であることがより好ましい。
20万未満では、必要な剥離性が得られにくく、100万を超えると、合成時の粘度が高くなり過ぎ、生産性が低下しやすいため好ましくない。
ところで、光学部材の中には非常に薄く、壊れやすいものがある一方、比較的丈夫なものもあり、保護フィルムをどのような被着体に貼着するかによって、保護フィルムの粘着層に要求される剥離力の大きさは異なる。
即ち、壊れやすい光学部材を被着体とする場合には、貼着後保護フィルムを剥離する際に被着体を損傷しないようにするために、剥離力は200g/25mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100g/25mm以下である。
一方、比較的強靭な光学部材を被着体とする場合には、剥離力は1000g/25mm程度まで許容され得る。
尚、剥離時に制電性アクリル系樹脂組成物が被着体に残らないことは被着体がどのようなものであっても常に要求される。
制電性アクリル系樹脂組成物を用いてなる保護フィルムの剥離力は、主成分であるアクリル樹脂自体の有する凝集力及び、該主成分と、後述する硬化剤として機能する、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)との架橋の状況によって大きく影響を受ける。一般に主成分に対して硬化剤を多量に用いることによって、剥離力を低下することができる。
また、一般に主成分の分子量を大きくすることによって、主成分自体の凝集力を大きくすることができる。本発明おいて、剥離時に200g/25mm以下の低剥離力が要求される場合には、主成分、即ちアクリル系樹脂(A)100重量部に対して硬化剤を1〜30重量部の量で用いることが好ましく、2〜20重量部の量で用いることがより好ましく、3〜15重量部の量で用いることがさらに好ましい。
尚、低剥離力発現の観点からは硬化剤は多い方が好ましい。しかし、多すぎると架橋が過度になり、制電性が低下するので、好ましくない。
【0068】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、制電性を付与するために、トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を含有することが重要であり、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、0.001〜10重量部含有することが必要であり、0.001〜1重量部含有することが好ましい。0.001重量部未満では十分な制電効果が得られず、10重量部よりも多く含有しても制電効果の向上効果がほとんど期待できなくなり、さらに粘着性が低下し好ましくない。
なお、トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩とビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩とを併用する場合には、前記重量部は、両者の合計量によるものとする。
【0069】
樹脂組成物に制電性を付与し得る、有機溶媒に溶解性のあるイオン化合物としては、例えば、
M、(ClOM、(PFM、(BFM、(AsFM等の無機塩;
および、
(CFSOM、〔(SOCFN〕M、〔(SON〕M、〔(SOCFC〕M等の有機塩が挙げられる。
ここに、Mはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属であり、Mがアルカリ金属の場合にはn=1、Mがアルカリ土類金属の場合にはn=2である。
【0070】
しかし、(ClOMは腐食性があり、(PFMおよび(BFMは吸湿性が高く、また、(AsFMは人体に対する安全性が懸念されるため、これらはいずれも制電性を付与するためのイオン化合物として用いることは好ましくない。
また、IM、(CFSOMはイオン解離性に劣る。
そこで、イオン化合物としては、〔(SOCFN〕M、〔(SON〕Mおよび〔(SOCFC〕Mが好ましく用いられ、〔(SOCFC〕Mが最も好ましく用いられる。
【0071】
前述したように、上記化合物においてMにリチウムを用いた場合は、リチウムイオンが、アルキレンオキサイドのエーテル鎖に配位し易く、イオン電導性が十分に得られないことがあり、また、リチウムは非常に吸湿性が高く、制電性アクリル系樹脂組成物に添加した場合に耐水性が低下する。
また、Mにナトリウムを用いた場合には、内装回路、トランジスタ、IC、CPUを汚染した場合に動作異常を発生する懸念があることから好ましくない。
その他のアルカリ金属としてルビジウムは水と非常に反応しやすく取り扱いが非常に危険であり、好ましくない。また、アルカリ土類金属については、アルカリ金属と比較してイオン解離性が劣り、イオン電導性が低下する。十分に得られにくい。
汚染性、イオン解離性、及びイオン電導性という観点から、カリウム塩が最も好ましい。
具体的には、トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩である(CFSOCK、(CSOCK、および、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩である(CFSONK、(CSONKが好ましいものとしてあげられる。これらの内、(CFSOCK、(CSOCKがより好ましいものとしてあげられる
【0072】
本発明に用いられるトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩は、下記一般式(I)で表される構造を有する。
(RSOCK 一般式(I)
〔一般式(I)において、Rは直鎖または分岐状のパーフルオロアルキル基を示し、アルキル炭素の数は1〜6であることが好ましい。〕
【0073】
用いられるトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩は、例えば、以下の公知の方法により得られる。
メチルマグネシウムハライド(グリニャー試薬)とパーフルオロアルキルスルホニルハライドとの反応によりビス(パーフルオロアルキルスルホニル)メタンを一旦合成した後、再び前記グリニャー試薬およびパーフルオロアルキルスルホニルハライドと反応させてトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メタンを合成し、更にアルカリ金属化合物と反応させる方法(WO92/02966,Inorg.Chem., 1988,27,2135.,J.Chem.Soc.Faraday Trans.,1993,89,355 等)。
3CH3MgX + 2RfSO2X + HX →(RfSO2)2CH2 + 2CH4 + 3MgX2
(RfSO2)2CH2+ 2CH3MgX + RfSO2X + HX → (RfSO2)3CH + 2CH4 + 2MgX2
(RfSO2)3CH + MOR → (RfSO2)3CM + ROH
[式中、X はハロゲン、 Rf はパーフルオロアルキル基、M はアルカリ金属、R は水素またはメチル基を表す。]
あるいは、
上記ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)メタンをアルカリ金属塩に変換した後、塩基存在下でフルオロアルキルスルホニルハライドと反応してトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メタン化合物を合成し、さらにアルカリ金属化合物と反応させる方法(USP5446134 等)。
(RfSO2)2CH2+ MOR → (RfSO2)2CHM + ROH
(RfSO2)2CHM + RfSO2X + Et3N → (RfSO2)3CHNEt3 + MX
(RfSO2)3CHNEt3+ M2PO4 → (RfSO2)3CM + M(Et3NH)PO4
[式中、 Rf, M, R, X は前記定義の通りである。]等。
さらには、
パーフルオロアルキルスルホニルハライドとアルカリ金属メタンからなる混合物を有機溶媒中で反応させることにより、一工程でトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチド塩を製造する方法(特開2000−226392等)。
3RfSO2X + 4MCH3 → (RfSO2)3CM + 3MX + 3CH4[式中、 Rf は炭素数1から6までの直鎖または分岐状のパーフルオロアルキル基であり、好ましくはCF3、C2F5、C3F7、C4F9である。X はハロゲン、M はアルカリ金属である。]
【0074】
本発明に用いられるビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩は、下記一般式(II)で表される構造を有するスルホンイミドカリウム塩である。
K(Rf1 SO2 −N−SO2f2 ) 一般式(II)
〔一般式(II)において、Rf1およびRf2は直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を示し、Rf1とRf2は同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、アルキル炭素の数は1〜6であることが好ましい。〕
ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩は、例えば、公知の方法(特表平3−501860号公報等)により得ることができる。
【0075】
これらのトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。

【0076】
さらに、本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、アルカノールアンモニウム塩部を有するアニオン性界面活性剤(D1−1)以外の界面活性剤(D)(以下、単に「界面活性剤(D)」とも表記する)を含有することが好ましい。その使用量としては、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し0.001〜10重量部含有することが好ましく、0.01〜5重量部含有することが、さらに好ましい。0.001重量部未満では、制電効果の向上が得られない。一方、10重量部を超えると被着体への汚染が増加して好ましくない。
界面活性剤(D)としては、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性イオン型界面活性剤、アニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0077】
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキレンオキシド基を有するカチオン性界面活性剤、アシロイルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩、アシル塩化コリン、ジメチルアミノエチルメタクレート4級化物などの4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレート共重合体、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム基を有するスチレン共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム基を有するジアリルアミン共重合体などがあげられる。たとえば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルトリメチルアンモニウムクロライドが好ましい。また、これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
また、カチオン性界面活性剤の市販品としては、具体的には、たとえば、エレガン264WAX、エレガンLD−204(以上、いずれも日本油脂社製)等が挙げられる。
【0079】
ノニオン性界面活性剤として、たとえば、脂肪酸アルキロールアミド、ジ(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸グリセリンエステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジアミン、ポリエーテルとポリエステルとポリアミドからなる共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーチル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン脂肪酸エステル類等
などがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0080】
また、ノニオン性界面活性剤の市販品としては、具体的には、たとえば、ニューコール1008(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキサイド(以下、「EO」とも表記する)付加モル数8)、ニューコール2303(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル EO付加モル数3)、ニューコール2308(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル EO付加モル数8)、ニューコール2320(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル EO付加モル数20)、ニューコール2360(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル EO付加モル数60)、ニューコール1807(ポリオキシエチレンステアリルエーテル EO付加モル数7(以上、いずれも日本乳化剤社製)等が挙げられる。これらの中でも、エチレンオキサイド付加アルキルアルコールのアルキル鎖の炭素数8〜13であり、かつエチレンオキサイド付加モル数3〜20であるニューコール1008、ニューコール2303、ニューコール2308、ニューコール2320が好ましい。アルキル鎖の炭素数8未満では被着体を汚染しやすい傾向にあり、13より大きくなるとアクリル系樹脂との相溶性が低下し、エチレンオキサイドの付加モル数が20モルより大きなものは、結晶性が高くなりすぎ、いずれの場合も制電効果が低下する。
【0081】
アニオン性界面活性剤として、たとえば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホン酸基含有スチレン共重合体、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類等があげられる。これらのうち、アルキルアルコール及び、エチレンオキサイド付加アルキルアルコールのアルキル鎖の炭素数8〜13であり、かつエチレンオキサイド付加モル数0〜20であることが好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。(塩はアルカノールアンモニウム塩を除く)
【0082】
なお、アニオン性界面活性剤は、アニオン性親水基部を有し、アニオン性親水基としては、下記式(D1)、(D2)で表されるものがあげられる。
【0083】
(D1)
−SO31
【0084】
[式(D1)中のMは水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表す。]
【0085】
(D2)
【0086】
【化18】

【0087】
[式(D2)中のMおよびMは同一または異なって、水素、アルカリ金属、またはアンモニウム基を表す。]
【0088】
なお、前記式(D1)、(D2)中のM〜Mに用いられるアルカリ金属としては、Li、Na、Kが好ましい。これは、ラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)に関しても同様である。
モノマー(a2)および界面活性剤(D)中のアニオン性親水基部のアルカリ金属は解離性が低く、この点において、イオン解離性が高い化合物であるトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩やビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩とは明確に区別される。
モノマー(a2)および界面活性剤(D)中のアニオン性親水基部のアルカリ金属は、解離性が低いために、イオン電導性にはほとんど寄与しない一方、被着体を汚染しにくいという特徴を有する。M〜Mに用いられるアルカリ金属としてはNaおよびKが好ましく、さらに好ましくはKおよび、アルカリ金属以外のものとして、被着体汚染の懸念のないアンモニウム基が用いられる。
【0089】
また、アニオン性界面活性剤としては、具体的には、ニューコール1008SF(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 EO付加モル数8)、ニューコール2303SF(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 EO付加モル数3)、ニューコール2308SF(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩 EO付加モル数8)、ニューコール2308SN(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 EO付加モル数8)、ニューコール2320SF(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 EO付加モル数20)、FDI−01402K(ラウリルリン酸エステルカリウム塩)(以上、いずれも日本乳化剤社製)、エレクトロストリッパーF(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルカリウム塩 花王社製)等が挙げられる。
【0090】
両性イオン性界面活性剤として、たとえば、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン、カルボベタイングラフト共重合体等があげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、界面活性剤(D)による制電効果は、カチオン性界面活性剤が最も良好であり、次いで、アニオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の順であるが、着色の問題がないアニオン性界面活性剤がより好ましく用いられる。
【0091】
さらに本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、適宜有機カチオン−アニオン塩を含有することができる。
有機カチオン−アニオン塩は、単独、または複数組み合わせて使用することが可能であり、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して0.0005〜5重量部用いられることが好ましく、0.01〜1重量部用いられることがより好ましい。更に、メチドカリウム塩及び/又はイミドカリウム塩(C)の量を基準として、重量比にて1:0.001〜1:0.49の比率で使用することが好ましく、1:0.01〜1:0.25の比率で使用することがより好ましい。使用量が0.0005重量部未満であると帯電防止機能の向上は期待できないし、5重量部を超えると被着体汚染を引き起こしやすくなり、湿熱雰囲気下で浮きや剥がれが発生しやすくなるため、好ましくない。
また、メチドカリウム塩及び/又はイミドカリウム塩(C)に対しての比率が1:0.0001未満では帯電防止機能の向上は期待できないし、1:0.49を超える比率で使用すると、メチドカリウム塩及び/又はイミドカリウム塩(C)のイオン解離を阻害する場合が有り好ましくない。
有機カチオン−アニオン塩は、カチオン成分とアニオン成分とから構成されており、前記カチオン成分は有機物からなるものである。
カチオン成分として、具体的には、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピロリン骨格を有するカチオン、ピロール骨格を有するカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピラゾリニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、トリアルキルスルホニウムカチオン、テトラアルキルホスホニウムカチオンなどがあげられる。
アニオン成分としては、たとえば、Cl、Br、I、AlCl、AlCl、BF、PF、ClO、NO、CHCOO、CFCOO、CHSO、CFSO、(CFSO、(CFSO、AsF、SbF、NbF、TaF、(CN)、CSO、(CSO、CCOO、CFSOCFCO)NS(CFSOなどが用いられる。なかでも特に、フッ素原子を含むアニオン成分は、イオン解離性を促進するイオン化合物が得られることから好ましく用いられる。
【0092】
有機カチオン−アニオン塩の市販品として、例えば、「CIL−314」(日本カーリット社製)、「ILA2−1」、「ILA14−1」(以上、広栄化学社製)などが使用可能である。
【0093】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物においては、凝集力及び架橋度を上げるために、硬化剤として、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)〔以下、単に「化合物(B)」と表記することもある〕を使用することが重要である。
本発明に用いる化合物(B)としては、アクリル系樹脂(A)中に含まれる水酸基と反応し得る官能基を好ましくは1分子中に2個以上有するものが好ましい。例えば、公知の3官能イソシアネート化合物、公知の多官能エポキシ化合物を好適に使用することができる。これらは併用することもできる。
【0094】
公知の3官能イソシアネート化合物としては、公知のジイソシアネート化合物を3官能ポリオール成分で変性したいわゆるアダクト体、ジイソシアネート化合物が水と反応したビュレット体、ジイソシアネート化合物3分子から形成されるイソシアヌレート環を有する3量体(イソシアヌレート体)を使用することができる。
公知のジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等を挙げることができる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
脂環族ジイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
本発明に用いられる3官能イソシアネート化合物を形成するジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(「イソホロンジイソシアネート」とも言う)を使用することが好ましい。
上述の化合物(B)については、単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。柔軟性を重視する用途で使用する場合は、3官能イソシアネート化合物を使用することが好ましい。
【0095】
上記したように200g/25mm以下、好ましくは100g/25mm以下の低剥離力が求められる場合には、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して化合物(B)を1〜30重量部用いることが好ましく、2〜20重量部用いることがより好ましく、3〜15重量部用いることがさらに好ましい。
【0096】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、界面活性剤(D)以外の、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)を配合することもできる。アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)としては、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物中に占めるアルキレンオキサイド鎖の含有率が10〜80重量%であることが好ましく、20〜50重量%であることがより好ましい。
また、上記アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)の重量平均分子量は1000〜10000であることが好ましく、1000〜5000であることがより好ましい。
アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)としては、例えば、分子内にエチレンオキサイド鎖及び/またはプロピレンオキサイド鎖を有する化合物を使用することができ、具体的には例えば、商品名エパン420、450、750(第一工業製薬社製)等が使用できる。
【0097】
なお、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)におけるアルキレンオキサイド鎖の含有率が10重量%未満では、十分なイオン電導性が得られにくく、80重量%よりも大きくなったり、重量平均分子量が10000を越えると、結晶性が高くなるためにイオン電導性が低下して好ましくない。
また、重量平均分子量が1000未満では、粘着層の表面にブリードしやすく、被着体表面を汚染しやすいため、好ましくない。
アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部を配合する。アルキレンオキサイド鎖を有する化合物(E)の配合量が1重量部未満の場合、十分な制電性が得られにくいことがあり、一方、40重量部を越える場合、粘着性が著しく低下してしまい好ましくない。
【0098】
さらに、本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、制電性をさらに向上させる目的で、シリコーン系界面活性剤を配合することができる。その中でも、ポリオキシアルキレン基又はポリグリセリン基を親水基として有する、分岐構造シリコーン系界面活性剤が好ましい。これらの市販品として、例えば、「KF−6028」「KF−6100」(信越化学社製)などが使用可能である。
シリコーン系界面活性剤は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、0.001〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部を配合する。シリコーン系界面活性剤の配合量が0.001重量部未満の場合、さらなる制電性の向上が期待できず、一方、10重量部を越える場合、粘着物性が著しく低下してしまい好ましくない。
【0099】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、さらに必要に応じて、他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂を併用することもできる。また、用途に応じて、粘着付与剤、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤等の添加剤を配合しても良い。
【0100】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物を用いて形成される粘着剤層と、プラスチックフィルム、紙、布、発泡体等の基材とが積層された粘着シートを得ることができ、粘着剤層の表面を剥離シートで被覆しておくことができる。
粘着シートは、各種基材に制電性アクリル系樹脂組成物を塗布したり含浸したりし、これを乾燥・硬化することによって得ることができる。あるいは、剥離シート上に制電性アクリル系樹脂組成物を塗布し、これを乾燥し、形成されつつある粘着剤層表面に各種基材を積層し、アクリル系樹脂(A)中の水酸基と、化合物(B)中の、水酸基と反応し得る官能基との反応を進行させることによっても得ることができる。
なお、粘着剤層は、プラスチックフィルム基材の一方の面にのみ積層されていてもよく、両面に積層されていてもよい。
【0101】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、基材として好ましくは透明なプラスチックフィルムに適用することによって、光学部材用の表面保護粘着フィルム、すなわち光学部材用保護フィルムを好適に得ることができる。
プラスチックフィルムとしては、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリウレタンフィルム、ナイロンフィルム、処理ポリオレフィンフィルム、未処理ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、乾燥・硬化した際に2〜200μm程度の厚みになるように基材等に塗布することが好ましい。2μm未満であるとイオン導電性が乏しくなり、200μmを越えると粘着シートの製造、取り扱いが難しくなる。
【0102】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物を用い、その用途、要求性能等を考慮した上で、種々の態様の制電粘着フィルムを得ることができる。
例えば、偏光板の保護フィルム用の制電粘着フィルムについて、図面に基づいて説明する。
図1は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム基材1とその一方の表面上に担持された粘着剤層2とからなる本発明による制電粘着フィルムを、粘着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
図2は、PETフィルム基材1の両面に粘着剤層2を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、一方の粘着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
図3は、PETフィルム基材1の一方の表面に制電コーティング剤層4を設け、さらにその上に粘着剤層2を担持させてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記粘着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
図4は、PETフィルム基材1の一方の表面に粘着剤層2を設け、その反対側表面に制電コーティング剤層4を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記粘着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【0103】
光学部材、電子部材の表面保護用のフィルムに本発明の樹脂組成物を用いる場合、剥離帯電量をさらに低減するために、図3および図4に示すように、制電コーティング剤層を設けることも可能である。また、プラスチックフィルムに機能性を持たせる様な用途では、図2に示すように、基材フィルムの両面に粘着剤層を設け、一方の粘着剤層に、機能性フィルム(例えば、位相差フィルム、光学補償フィルム、光拡散フィルム、電磁波シールドフィルム等)をさらに貼り合わせることもできる。作業性及び製作コスト等を考慮すると、図1の態様が最も好ましい。
図3および図4に示すように粘着剤層とプラスチックフィルム基材との間、またはプラスチックフィルム基材の粘着剤層側でない反対側に粘着性を有しない制電コーティング剤層を設ける場合には、金属フィラー、4級アンモニウム塩誘導体、界面活性剤、導電性樹脂等を用いることができる。
金属フィラーとしては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン等の金属酸化物、カーボン、銀、銅等の金属等が挙げられる。コーティング膜の透明性を考慮すると、酸化錫、酸化アンチモン等が好ましい。
4級アンモニウム塩誘導体としては、4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレートモノマーの重合体、もしくは他の(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を使用することができる。また、本発明の制電性アクリル系樹脂組成物のTgを調整することで、制電コーティング剤層に用いることも可能である。
制電コーティング剤層は、塗膜として0.01μm〜10μmの厚さが好ましく、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。0.01μm未満では、静電気を防止する効果が十分に発揮できず、5μmを超えると、コスト、塗工性等に問題がある。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」をそれぞれ示すものとする。
なお、メチドカリウム塩として、(CFSOCKは、特開2000−226392号公報の記載に従い合成した。また、イミドカリウム塩である(CFSONKは関東化学社製の市販品を、また、(CFSONLiは3M社製の市販品を使用した。
【0105】
(合成例1)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%〔表1に記載の「69」重量%の内の50重量%の意味;以下同様〕、BAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)400,000であった。
【0106】
(合成例2)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)450,000であった。
【0107】
(合成例3)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)430,000であった。
【0108】
(合成例4)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)380,000であった。
【0109】
(合成例5)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%の50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)390,000であった。
【0110】
(合成例6)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)400,000であった。
【0111】
(合成例7)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)750,000であった。
【0112】
(合成例8)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%の50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、樹脂のMw(重量平均分子量)390,000であった。
【0113】
(合成例9)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、2−エチルヘキシルアクリレート199重量部、アルキレンオキシド基含有反応性界面活性剤ラテムルPD−420(花王社製)1重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、酢酸エチル312重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を60℃付近に保って5時間重合反応行った。この反応溶液は、固形分40%、樹脂のMw(重量平均分子量)560,000であった。
【0114】
【表1】

【0115】
[実施例1]
合成例1で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、(CFSOCK 0.4部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体の37%酢酸エチル溶液5.0部を配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を剥離紙に乾燥塗膜の厚さが20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用粘着シートを得た。
該粘着シートを用いて、以下に示す方法に従って、粘着力、剥離帯電、湿熱汚染性の評価を行った。
【0116】
<粘着力>
試験用粘着テープを25mm幅に裁断し、剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を厚さ2mmのガラス板に23℃−50%RHにて貼着し、JIS Z−0237に準じてロール圧着した。圧着から24時間経過後、ショッパー型剥離試験器にて剥離強度(180度ピール、引っ張り速度300mm/分、単位;g/25mm)を測定した。
【0117】
<剥離帯電>
A4サイズの試験用粘着シートの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を偏光板に23℃−50%RHにて貼着し、ハンドロールで圧着した。圧着から24時間経過後、テフロン(登録商標)板上で、試験用粘着シートを偏光板から剥離して、偏光板表面の静電気を静電気測定器(シシド静電気株式会社製「STATION DZ3」)で10箇所測定して絶対値が最大の値を剥離帯電とした。
【0118】
<湿熱汚染性>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層をガラス板に貼着した後、60℃−95%RHの条件下に100時間に亘って放置し、23℃−50%RHに冷却した後、ガラス板から剥離し、ガラス板の汚染性を目視で評価した。具体的には、剥離後の状態を以下の3段階で評価した。
汚染のないもの ○
ごくわずかに汚染があるもの △
汚染のあるもの ×
【0119】
[実施例2、3、4、5、6、7]
合成例2、3、4、5、6、7で得られたアクリル樹脂溶液をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0120】
[実施例8]
合成例5で得られたアクリル樹脂溶液を用い、(CFSOCK 0.02部を用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得て評価した。
【0121】
[実施例9]
合成例5で得られたアクリル樹脂溶液を用い、(CFSOCK 0.4部の代わりに(CFSONK0.4部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤を得て評価した。
【0122】
[実施例10]
合成例5で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、(CFSOCK 0.1部、ニューコール2308(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル EO付加モル数8)0.4部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体の37%酢酸エチル溶液5.0部を配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を剥離紙に乾燥塗膜の厚さが20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用粘着シートを得て、実施例1と同様に評価した。
【0123】
[実施例11]
ニューコール2308 0.4部の代わりに、ニューコール2303SF(ポリオキシエチレンC12〜13アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 EO付加モル数3 花王社製)0.4部を用いたこと以外は、実施例10と同様に粘着剤を得て評価した。
【0124】
[実施例12]
ニューコール2308 0.4部の代わりに、エレクトロストリッパーF(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルカリウム塩 花王社製)0.4部を用いたこと以外は、実施例10と同様に粘着剤を得て評価した。
【0125】
[実施例13]
ニューコール2308 0.4部の代わりに、エパン750(第一工業製社製:重量平均分子量4000、エチレンオキサイド鎖の含有率50%) 4.0部を用いたこと以外は、実施例10と同様に粘着剤を得て評価した。
【0126】
[実施例14]
ニューコール2308 0.4部の代わりに、KF−6100(信越化学社製)0.4部を用いたこと以外は、実施例10と同様に粘着剤を得て評価した。
【0127】
[実施例15]
ニューコール2308 0.4部の代わりに、ILA14−1(イオン性液体 広栄化学社製)0.01部を用いたこと以外は、実施例10と同様にして粘着剤を得た。
得られた粘着剤を、酸化アンチモンを制電コーティング処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の未処理面に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層に剥離紙を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用粘着シートを得、実施例1と同様に評価した。
【0128】
[比較例1]
合成例8で得られたアクリル樹脂溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0129】
[比較例2]
合成例5で得られたアクリル樹脂溶液を用い、(CFSOCK 0.4部の代わりに過塩素酸リチウム0.4部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤を得て評価した。
【0130】
[比較例3]
合成例9で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、ヨウ化リチウム0.4部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体の37%酢酸エチル溶液1.6部を配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を、酸化アンチモンを制電コーティング処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の未処理面に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層に剥離紙を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用粘着シートを得、実施例1と同様に評価した。
【0131】
[比較例4]
合成例9で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、(CFSONLi 0.8部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体の37%酢酸エチル溶液1.6部を配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を、酸化アンチモンを制電コーティング処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の未処理面に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層に剥離紙を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用粘着シートを得、実施例1と同様に評価した。
【0132】
【表2】

【0133】
以上のように本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、液晶ディスプレイの偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の粘着層として用いた場合に、剥離時の静電気の発生が少なく、湿熱汚染性に優れていることが分かる。
これに対して、比較例1で使用したアクリル系樹脂組成物は、アクリル系樹脂がアルキレンオキサイド鎖を有しないため、湿熱汚染性が不良となっている。比較例2、3、4は、イオン電導性が低く、剥離帯電が不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、架橋剤で架橋した後にもイオン電導性が低下せず、且つ、透明性に優れるので、被着体表面を所定の期間、機械的及び電気的に保護するための表面保護フィルムとして好適であり、例えば、液晶パネル、プラズマディスプレイ、偏光板、CRT(ブラウン管)等の光学部品の表面保護用粘着フィルム形成に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】PETフィルム基材とその一方の表面上に担持された粘着剤層とからなる本発明による制電粘着フィルムを、粘着剤層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図2】PETフィルム基材の両面に粘着剤層を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、一方の粘着剤層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図3】PETフィルム基材の一方の表面に制電コーティング剤層を設け、さらにその上に粘着剤層を担持させてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記粘着剤層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図4】PETフィルム基材の一方の表面に粘着剤層を設け、その反対側表面に制電コーティング剤層を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記粘着剤層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0136】
1:PETフィルム基材
2:粘着剤層
3:偏光板
4:制電コーティング剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないアクリル系樹脂(A)、
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)、及び
トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を含む、制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)を1〜30重量部、及び
トリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドカリウム塩及び/又はビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドカリウム塩(C)を0.001〜10重量部含有することを特徴とする請求項1記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)と、ラジカル重合性不飽和二重結合とアルキレンオキサイド鎖とを有し、アルカノールアンモニウム塩部を有しないモノマー(a2)と、前記(a1)(a2)以外のアクリル系モノマーを必須とするラジカル重合性不飽和モノマー(a3)とを共重合してなるアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
モノマー(a1)〜(a3)の合計100重量%中、モノマー(a2)の割合が0.01〜40重量%であることを特徴とする請求項3記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
アルカノールアンモニウム塩部を有するアニオン性界面活性剤(D1−1)以外の界面活性剤(D)をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、界面活性剤(D)を0.001〜10重量部含有することを特徴とする請求項5記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)が、3官能イソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1ないし7いずれか記載の制電性アクリル系樹脂組成物から形成される粘着剤層が積層されてなる、光学部材用保護フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−51984(P2009−51984A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221939(P2007−221939)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】