説明

制震装置および制震モジュール

【課題】
省スペースで設置でき、幅広い要求荷重に対応でき、温度依存性や速度依存性が小さく、低コストで得ることができる制震装置を提供する。
【解決手段】シャフト101にコイルばね103を装着し、コイルばね103によりシャフト101が締め付けられた状態とする。コイルばね103の両端は、シリンダ102の内側において軸方向で動かないようにされている。シャフト101をシリンダ102に対して軸方向に動かすと、シャフト101がコイルばね103に対して滑り、その際の摩擦によって上記の動きを生じさせる力が吸収される。シャフト101を一方の建材に取り付け、シリンダ102を他方の建材に取り付けることで、地震等の震動に起因する2つの建材の間で生じる相対的な動きが吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等による構造物の震動を吸収する制震装置および制震モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
地震のエネルギーを吸収し、建物の震動を抑える目的で各数のダンパー装置が提案されている。例えば、特許文献1には、高減衰ゴムを用いた構成が記載されている。特許文献2には、オイルダンパーを用いた構成が記載されている。特許文献3には、ボルトにより接合した部分の摩擦抵抗により制震を行う制震構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89121号公報
【特許文献2】特開2009−281559号公報
【特許文献3】特開2001−164790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のゴムを用いた構成は、剛性が弱く、充分な制震作用を得るには、大きなスペースを必要とする。また荷重の変更が容易でなく、多用な条件に合わせて柔軟に利用するには向いていない。特許文献2に記載のオイルダンパーを用いた構成は、構成が複雑であり、コスト高になる問題がある。また、オイルの粘性が温度や震動の速度(周期)に依存するので、安定した性能を発揮させる点で難点がある。特許文献3に記載のボルト結合部の摩擦力を利用した制震は、耐久性に不安があり、また摩擦力の経時変化が生じ易い問題がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、省スペースで設置でき、幅広い要求荷重に対応でき、温度依存性や速度依存性が小さく、低コストで得ることができる制震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、第1の建材に取り付け可能な柱状の部材と、第2の建材に取り付け可能で、前記柱状の部材を軸方向に移動可能な状態で内側に納めた筒状の部材と、前記柱状の部材を締め付け、前記筒状の部材に対する相対的な移動が規制されているばね部材とを備えることを特徴とする制震装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明においては、柱状の部材がばね部材により締め付けられている。このため、ばね部材に対して柱状の部材を相対的に軸方向に動かすと、ばね部材と柱状の部材との間に働く摩擦力により、抵抗が発生し、エネルギーが消費される。この原理によれば、柱状の部材に対するばね部材の相対的な移動に際して発生する両部材間における摩擦力を利用して、震動の低減が行われる。この摩擦力は、柱状の部材に対するばね部材の締め付け力によって発生するので、設定の精度が高く、また安定した値を得ることができる。なお、建材への取り付けは、直接であってもよいし、適当な部材を介しての間接的な取り付けであってもよい。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ばね部材は、コイルばねであり、前記柱状の部材は、前記コイルばねに圧入されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記コイルばねは複数に分割されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の発明において、前記コイルばねを構成する線材の断面の形状によって、制震特性が調整されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記柱状の部材を移動可能な状態で内側に収め、外側に雄螺子構造を備えた締め付け部材を備え、前記筒状の部材の内側には、前記雄螺子構造と噛み合う雌螺子構造が形成され、前記締め付け部材の前記雄螺子構造が前記筒状の部材の前記雌螺子構造にねじ込まれることで、前記締め付け部材が前記コイルばねの端部に接触し、前記コイルばねの前記筒状の部材に対する相対的な移動の規制が行われていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5に記載の制震装置を複数備え、前記柱状の部材の複数が接続され、前記第1の建材に取り付け可能な第1の接続部と、前記筒状の部材の複数が接続され、前記第2の建材に取り付け可能な第2の接続部とを備えることを特徴とする制震モジュールである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、省スペースで設置でき、幅広い要求荷重に対応でき、温度依存性や速度依存性が小さく、低コストで得ることができる制震装置が得られる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、組立が容易で、また柱状の部材とばね部材との接触が均等に生じるので、再現性の高い制震効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ばね部材の装着作業を容易にでき、製造コストを下げることができる。また、ばね部材の特性の制御性および再現性を高くできるので、求める性能を高い精度で得ることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、全体の寸法を変えずに制震特性を調整することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、ばね部材を軸方向における遊びのない状態で筒状の部材の内側に納めることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、より大きな負荷に対応できる制震技術が提供される。また、制振装置の数を調整することで、異なる負荷への対応が容易な制震技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の制振装置の断面図である。
【図2】実施形態におけるコイルばねの状態を示す側面図である。
【図3】実施形態の制振装置を利用した建築構造を示す構造図である。
【図4】実施形態の制震モジュールを示す一部断面図である。
【図5】実施形態の制震モジュールの一部を軸方向から見た正面図である。
【図6】実施形態の制震モジュールを利用した建築構造を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.第1の実施形態
(構成)
図1には、実施形態の制震装置100が示されている。制震装置100は、柱状の部材の一例であるシャフト101と筒状の部材の一例であるシリンダ102を備えている。シャフト101とシリンダ102は、金属製であり、シャフト101はシリンダ102の内側に軸方向における移動が可能な状態で収められている。シャフト101のシリンダ102から突出している側が一方の建材に直接または間接的に取り付けられる。シリンダ102のシャフト101が突出していない側が、他方の建材に直接または間接的に取り付けられる。建材は、柱、梁、壁、床、天井、その他建築構造物を構成する部材であれば、対象は限定されない。
【0021】
シャフト101のシリンダ102に収まった部分には、コイルばね103が取り付けられている。図2(A)に示すように、コイルばね103は、複数(この場合は、5個)のコイルばね103a、103b、103c、103d、103eに分割され、それらがシャフト101に装着されている。コイルばね103a〜103eのそれぞれは、隙間無くシャフト101に装着されるように、両端が軸方向に対して垂直になるように研磨された構造とされている。この状態が図2(A)に示されている。図2(A)には、この垂直に切り落とされた構造が認識しやすいように、各コイルばね103a〜103eを軸方向ですこし離して位置させた状態が示されている。なお、実際の装着状態では、図2(B)に示されるようにコイルばね103a〜103eは、軸方向に密着した状態でコイルばね103となり、シャフト101に装着されている。
【0022】
コイルばね103(103a〜103e)の内径は、シャフト101のコイルばね103が装着される部分の外径よりも小さな寸法(例えば。0.1mm〜1mm程度小さな寸法)とされている。このため、コイルばね103は、内径を広げた状態でシャフト101に装着され、シャフト101を自身のばねの弾性により締め付けた状態とされている。すなわち、シャフト101の外径より内径が小さいコイルばね103(103a〜103e)の内側に、シャフト101を圧入した状態とされている。
【0023】
コイルばね103の一方の端の部分(図1における右側の端の部分)は、シャフト101に取り付けられた円筒形状のかしめ軸受け部材104に接触している。かしめ軸受け部材104は、シャフト103をシリンダ102内で軸方向に移動可能な状態で保持する軸受けとして機能する。かしめ軸受け部材104は、金属製であり、かしめ部105において、シリンダ105が径方向に圧縮変形されることで、シャフト101およびシリンダ102に対して固定されている。かしめ軸受け部材104がシリンダ105にかしめられて固定されることで、コイルばね103がシリンダ102に対して相対的に図の右方向に移動しないように規制されている。つまり、かしめ軸受け部材104は、コイルばね103がシリンダ102に対して、図の右方向に移動しないように規制する規制部材としても機能している。
【0024】
コイルばね103の他方の端の部分(図1における左側の端の部分)は、ねじ込み式軸受け部材106に接触している。図1(B)には、ねじ込みしき軸受け部材106とシリンダ102が示されている。ねじ込み式軸受け部材106は、シャフト103をシリンダ102内で軸方向に移動可能な状態で保持する軸受けとして機能する。ねじ込み式軸受け部材106は、金属性で円筒形状を有しており、外周に雄螺子構造106aが形成されている。そしてシリンダ102端部の内周面には、上記雄螺子構造106aに噛み合う雌螺子構造102aが形成されている。ねじ込み式軸受け部材106をシャフト101に通した状態で、シリンダ102の図の左側の端部の内側にねじ込み、雄螺子構造106aと雌螺子構造102aとを噛み合わせることで、コイルばね103の図の左側の端部にねじ込み式軸受け部材106が図の右方向から接触する。この結果、構成部品の寸法や精度の誤差が吸収され、また分割されたコイルばね103a〜103eが互いに隙間なく密着する。また、シリンダ102内におけるコイルばね103の位置が決まる。また、ねじ込み式軸受け部材106は、コイルばね103がシリンダ102に対して、図の左方向に移動しないように規制する規制部材としても機能する。
【0025】
(組立方法)
以下、制震装置100の組立方法の一例を説明する。まず、シャフト101を用意し、シャフト101にかしめ作業を行う前の状態のかしめ軸受け部材104を取り付ける。次いで、コイルばね103a〜103eを順次シャフト101に取り付け(コイルばね103a〜103eにシャフト101を圧入し)、コイルばね103をシャフト101に装着した状態とする。この際、かしめ軸受け部材104にコイルばね103の端部が接触する状態とする。
【0026】
次に、かしめ軸受け部材104およびコイルばね103が取り付けられたシャフト101をシリンダ102の内側に挿入し、シャフト101とシリンダ102の位置関係を決めた上で、かしめ部105の部分でかしめを行う。これにより、シャフト101およびシリンダ102に対するかしめ軸受け部材104の相対位置関係が固定される。
【0027】
次に、ねじ込み式軸受け部材106をシャフト101が突出した側(図の左側)のシリンダ102の端部内側にねじ込み、図1に示す状態を得る。この際、コイルばね102の図の左側の端部にねじ込み式軸受け部材106を接触させ、構成部品の寸法や精度の誤差を吸収し、コイルばね102の密着性を確保する。また、コイルばね102のシリンダ102内での位置を固定する。その後、図示省略したかしめ、溶接、螺子止め等によりねじ込み式軸受け部材106をシリンダ102に固定する。こうして、シリンダ102に対して、コイルばね103が軸方向に移動しないようにされた構造を得る。
【0028】
(施工例)
図3には、建築物の基本的な構造の一例が示されている。図3には、いずれも長手形状部材(例えば木材や鉄骨)により構成された上側の梁305、下側の梁306、下側の梁上で上側の梁305を支える2本の柱303、304が示されている。柱303の上部には、制震装置100を取り付けるための取り付け部材301がボルト307によって取り付けられている。取り付け部材301の他方の端部には、図1の制震部材100のシリンダ102の端部が固定されている。また、柱304の下部には、制震装置100を取り付けるための取り付け部材302がボルト308によって取り付けられ、この取り付け部材302に制振装置100のシャフト101が固定されている。
【0029】
(制震機能)
図3に示す梁305、306、柱303、304によって構成される構造体に変形が生じる程度の地震が発生した場合を仮定する。この場合、図3に示す矩形の構造体には、形状を平行四辺形にしようとする力が作用する。この際、制震装置100においてシャフト101がシリンダ102から引き出される、あるいはシャフト101がシリンダ102に押し込められようとする力が作用する。
【0030】
ところで、図1に示されているように、コイルばね103の両端は、かしめ軸受け部材104とねじ込み式軸受け部材106とによって押さえられている。また、コイルばね103には、シャフト101が圧入された状態であり、コイルばね103は、シャフト101を締め付けている。よって、制震装置100においてシャフト101がシリンダ102から引き出される、あるいはシャフト101がシリンダ102に押し込められようとする力が作用し、シャフト101とシリンダ102との間の軸方向における相対的な動きが生じると、コイルばね103の締め付け力に打ち勝ってコイルばね103に対して摩擦しながらシャフト101がシリンダ102に対して動くことになる。
【0031】
この際に、コイルばね103とシャフト101との間に作用する摩擦力によって、上記の地震に起因する図3の構造体を変形させようとするエネルギーが消費される。つまり、地震による建物を変形させようとするエネルギーが制震装置100で吸収される。これにより、図3の構造を備えた建物の揺れが押さえられ、建物の大きな変形や破壊が抑えられる。
【0032】
(優位性)
以上述べたように、本実施形態では、シャフト101にコイルばね103を装着し、コイルばね103によりシャフト101が締め付けられた状態とする。コイルばね103の両端は、シリンダ102の内側において軸方向で動かないようにされている。シャフト101をシリンダ102に対して軸方向に動かすと、シャフト101がコイルばね103に対して滑り、その際の摩擦によって上記の動きを生じさせる力が吸収される。シャフト101を一方の建材に取り付け、シリンダ102を他方の建材に取り付けることで、地震等の震動に起因する2つの建材の間で生じる相対的な動きが吸収される。
【0033】
ここで、制震装置100は、細長い形状を有し、省スペースで設置することができる。また、コイルばね103の強さ(ばね定数)や内径、さらにコイルばね103の長さ(103a〜で示される分割されたコイルばねの数)を調整することで、幅広い要求荷重に対応できる。また、シャフト101に対するコイルばね103の締め付けによる摩擦力を利用して、制震を行うので、制震特性の温度依存性や速度依存性が小さく、安定した性能を得ることができる。例えば、温度の違いや震動の周期の違いに制震性能が影響を受け難い性能が得られる。また、図1に示すように部品点数も少なく、また特殊な部品や特殊な加工技術を必要としないので、低コストで得ることができる。
【0034】
また、コイルばね103を符号103a〜103eと分割することで、コイルばね103のシャフト101への取り付けを分割しない場合に比較して、省力化できる。すなわち、コイルばね103の内径は、シャフト101の外径よりも小さいので、コイルばね103をシャフト101に装着する作業では、圧力を加える必要がある。この圧力は、コイルばね103を分割した場合、おおよそであるが1/分割数に減らすことができる。建物の制震装置の場合、上記のコイルばねのシャフトへの装着時の圧力にトン単位の力が必要な場合もある。よって、工作機械の負担を減らす点で、コイルばね103を上記の分割構造とすることは好ましい。また、上述したように、コイルばね103を分割構造とすることで、制震性能(負荷荷重特性)を簡単に調整できる優位性も得られる。
【0035】
またコイルばねを分割すると、加工精度の高い巻き数の少ないコイルばねを製造することになるので、シャフトに対するコイルばねの締め付けの状態の再現性が高くなり、高い精度で狙った制震特性を再現することが容易となる。
【0036】
ねじ込み式軸受け部材106をコイルばね103の端部に接触させることで、コイルばね103a〜103eを軸方向で隙間無く密集させ、またコイルばね103端部のかしめ軸受け部材104およびねじ込み式軸受け部材106に対する隙間のない確実な接触を確保できる。コイルばね103a〜103eに隙間があると、シャフト101のシリンダ102に対する遊びの部分が存在することになり、震動の吸収特性の立ち上がり部分で、摩擦力が発生しない特性(つまり制震特性の立ち上がりが遅れる特性)となる。
【0037】
震動の発生当初に制震機能が働かない期間があることは、構造体の破損が生じる要因となるので好ましくない。上記のねじ込み式軸受け部材104をコイルばね103の端部に接触させ、上記の遊びの部分をなくすことで、震動の吸収特性の立ち上がりが遅れる現象を抑えることができる。
【0038】
2.第2の実施形態
(構成)
図4には、実施形態の制震モジュール400が示されている。図4は、一部断面図され、中身が一部で見える図面とされている。制震モジュール400は、図1の制震装置100を複数利用して、より大きな負荷荷重に対応できる構成とされている。図4に示す制震モジュール400は、制震装置100と同じ構造の制震装置410、420を備えている。
【0039】
この例では、制震装置410、420は、図1の制震装置100のシャフト101の先端部分の外周に雄螺子構造を形成した構成とされている。そして、この雄螺子部分を利用して、制震装置410のシャフト411は、固定板430にナット412によって取り付けられている。また、制震装置420のシャフト421は、固定板401にナット422によって取り付けられている。固定板401には、建材や建材に接続された部材に固定される接続部材431が固定されている。
【0040】
制震モジュール400は、円筒形状の筐体432を備えている。筐体432の一方の端面には、シャフト411と421が貫通する貫通孔が設けられており、そこからシャフト411と421が、軸方向に移動可能な状態で突出している。筐体432の内側には、制震装置410のシリンダ413、制震装置420のシリンダ423が収納されている。シリンダ413、423は、筐体432の内側に固定された位置決め板433に形成された貫通孔に通された状態で保持されている。
【0041】
シリンダ413の他方の端部(図の右側の端部)は、ボルト434によって、筐体432に固定されている。すなわち、筐体432の他方の端部内側には、雌螺子部を備えたボルト固定部435が配置されており、筐体432の外部からボルト434を筐体432およびシリンダ413に設けられたボルト孔に通し、その先端をボルト固定部435の雌螺子部にねじ込むことで、図示するようにシリンダ413を筐体432に対して固定することができる。同様に、制振装置420のシリンダ423の他方の端部(図の右側の端部)は、ボルト436によって、筐体432およびボルト固定部435に固定されている。また、筐体432の他方の端面(図の右側の端面)には、建材や建材に接続された部材に固定される接続部材437が取り付けられている。
【0042】
図5(A)には、図4のA−A’の視点から見た状態が示されている。図4および図5(A)には、図1の制震装置100を2つ用いた制震モジュールが例示されているが、使用する制震装置の数を更に増やし、より大きな負荷荷重に耐えるようにすることもできる。例えば、図5(B)には、図5(A)と同じ視点から見た制震モジュール500が示されている。図5(B)の制震モジュール500は、図1と同様な構造の制震装置501、502、503、504を備えている。また、図5(C)には、更に制震装置の数を増やし、計12個の制震装置を用いた制震モジュール600が示されている。
【0043】
このように制震モジュールが備えた制震装置の数を調整することで、必要とする負荷荷重に対応した構成を得ることができる。
【0044】
図4に戻り、制震モジュール400の使用に際しては、接続部材431を一方の建材に直接または間接に取り付け、接続部材437を他方の建材に直接または間接に取り付ける。そして、震動により一方の建材と他方の建材の間の距離が変化すると、制震装置410および420の変位を摩擦により吸収する機能が作用し、制震効果が発揮される。
【0045】
(施工例)
図6には、図4に一例を示した制震モジュールを利用した制震構造の一例が示されている。図6には、建築物の制震構造の一例が示されている。図6には、柱601と梁602が示されている。柱601には、ボルト605により取り付け部材603の一端が取り付けられ、取り付け部材603の他端は制震モジュール500に接続されている。ここで、制震モジュール500は、図4に示す構成において、制震装置(図1を参照)を4個配置した構造(図5(B)参照)を有している。制震モジュール500の他方の端部(図の右上側)は、取り付け部材604に接続され、取り付け部材604は、ボルト606によって梁602に取り付けられている。
【0046】
図6に示す柱601、梁602を組み合わせた構造を有する建築物が地震等によって揺れ、図6の構造が歪む動きが生じると、制震モジュール500の両端が引っ張られ、あるいは圧縮される力が作用する。この際、制震モジュール500が備えた4本の制震装置(図1参照)の制震作用が働き、上記の制震モジュール500の両端が引っ張られ、あるいは圧縮される力が吸収される。これにより、図6の構造を歪まそうとする力が吸収され、図6の構造を利用した建築物の制震が行われる。
【0047】
(優位性)
図4に示す制震モジュールは、制震装置の数を調整することで、負荷荷重に応じた制震特性を得ることができる。この際、部品を共通化できるので、コスト増を招かずに要求される負荷荷重に応じた制震特性を選択することができる。また、一つの制震装置におけるコイルばねを分割し、さらに複数の制震装置を並列に組み合わせて用いることで、大きな負荷荷重が要求される場合でもコイルばねを無闇に大型化する必要がない。このため、低コスト化を追求できる。また、複数の制震装置を並列使用する構造とすることで、一部に不具合が出ても全体として大きな性能低下が生じない安全性が得られる。また、コイルを分割し、さらに一つの制震装置を大型化しないことで、性能のばらつきを小さくでき、結果、高い精度の制震特性を追求することができる。
【0048】
(その他)
以上説明した実施の形態は、数々の変形や一部の構成を他の構成に置き換えることが可能である。以下、この点について説明する。まず、図1のシャフト101の断面形状は、円形に限定されず、楕円形状や多角形状であってもよい。シリンダ102に関しても、円筒に限定されず、断面形状が楕円形状や多角形状の筒構造が採用可能である。
【0049】
コイルばね103を構成する線材の断面形状は、円形に限定されず、四角形状を含む多角形状、丸線を上下方向につぶしたつぶし形状、オーバル形状(卵型の形状)、楕円形状等とすることが可能である。コイルばね103を構成する線材の断面形状を変えることで、シャフト101とコイルばね103との接触面積が変わり、両者の間で作用する摩擦力を調整することができる。同様に、コイルばね103のばね定数や内径を調整することで、コイルばね103とシャフト101との間で作用する摩擦力を調整することもできる。また、コイルばね自体の軸方向から見た形状を円形からはずれた形状(楕円形状やつぶした形状)とすることも可能である。
【0050】
コイルばねの代わりに、あるいはコイルばねに加えてスプリングワッシャーを用いることもできる。特に、コイルばねに加えてスプリングワッシャーを用いることで、コイルばねの軸方向の長さの調整、分割されたコイルばねの隙間の解消や調整、細かい制震特性の調整、といったことが可能となる。
【0051】
コイルばねの代わりに、ばね性を有する板材を丸めた断面C型の板ばねを用い、この断面C型の板ばねの内側にシャフト101を圧入した状態とし、この板ばねの両端がかしめ軸受け部材104とねじ込み式軸受け部材106とに接触する構造とすることもできる。この場合も断面C型の板ばねを分割することで、コイルばねを分割する場合と同様の優位性を得ることができる。
【0052】
図1の例では、コイルばね103の一端をかしめ軸受け部材104に接触させ、コイルばね103の他端をねじ込み式軸受け部材106に接触させた構造としているが、コイルばね103の両端をかしめ構造の軸受け部材に接触させる構造も可能である。また、コイルばね103の両端をねじ込み式の軸受け部材に接触させる構造も可能である。この部分の構造は、コイルばね103がシリンダ102に対して、軸方向に移動しないようにする構造であればよい。例えば、シリンダ102の内周にフランジ構造等の突出部を設け、そこにコイルばね103の端部が接触することで、コイルばね103のシリンダ102に対する軸方向の移動が規制される構造も可能である。
【0053】
シャフト101の外径を軸方向で変化させることで、震動の吸収特性を調整することができる。例えば、シャフト101外形を徐々に太くすることで、初期に摩擦が小さめでその後摩擦が強く作用する制震特性に調整することができる。また、シャフト101の表面粗さ等を調整することで、制震特性を調整することも可能である。
【0054】
本発明が適用可能な対象は、家屋やビルといった建物に限定されず、鉄塔や橋梁等の土木建築物であってもよい。また、要求される荷重特性が小さい場合は、コイルばねを分割せず、一つのコイルばねを用いる構成も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、建築物の制震技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100…制震装置、101…シャフト、102…シリンダ、103…コイルばね、103a〜103e…分割されたコイルばね、104…かしめ軸受け部材、105…かしめ部、106…ねじ込み式軸受け部材、301…取り付け部材、302…取り付け部材、303…柱、304…柱、305…梁、306…梁、307…ボルト、308…ボルト、400…制震モジュール、401…固定版、410…制震装置、411…シャフト、412…ナット、413…シリンダ、420…制震装置、421…シャフト、422…ナット、423…シリンダ、431…接続部材、432…筐体、433…位置決め板、434…ボルト、435…ボルト固定部、436…ボルト、437…接続部材、500…制震モジュール、501〜504…制震装置、600…制震モジュール、601…柱、602…梁、603…取り付け部材、604…取り付け部材、605…ボルト、606…ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の建材に取り付け可能な柱状の部材と、
第2の建材に取り付け可能で、前記柱状の部材を軸方向に移動可能な状態で内側に納めた筒状の部材と、
前記柱状の部材を締め付け、前記筒状の部材に対する相対的な移動が規制されているばね部材と
を備えることを特徴とする制震装置。
【請求項2】
前記ばね部材は、コイルばねであり、
前記柱状の部材は、前記コイルばねに圧入されていることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記コイルばねは複数に分割されていることを特徴とする請求項2に記載の制震装置。
【請求項4】
前記コイルばねを構成する線材の断面の形状によって、制震特性が調整されていることを特徴とする請求項2または3に記載の制震装置。
【請求項5】
前記柱状の部材を移動可能な状態で内側に収め、外側に雄螺子構造を備えた締め付け部材を備え、
前記筒状の部材の内側には、前記雄螺子構造と噛み合う雌螺子構造が形成され、
前記締め付け部材の前記雄螺子構造が前記筒状の部材の前記雌螺子構造にねじ込まれることで、前記締め付け部材が前記コイルばねの端部に接触し、前記コイルばねの前記筒状の部材に対する相対的な移動の規制が行われていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の制震装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の制震装置を複数備え、
前記柱状の部材の複数が接続され、前記第1の建材に取り付け可能な第1の接続部と、
前記筒状の部材の複数が接続され、前記第2の建材に取り付け可能な第2の接続部と
を備えることを特徴とする制震モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−202359(P2011−202359A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67820(P2010−67820)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】