説明

前後加速度センサの出力補正方法

【課題】 上下加速度センサを必要をせずに路面傾斜の影響を排除して正しい前後加速度を検出する。
【解決手段】 前後加速度センサが出力する前後加速度Gsは、真の前後加速度Gaと、路面の傾斜による重力加速度の路面方向の成分Gos=g×sinθ(θ:路面傾斜角)とを含むが、後者は時間の関数でないために時間微分によって排除され、前後加速度Gsの微分値dGs/dtを時間積分した積分値∫(dGs/dt)dtは重力加速度gの路面方向の成分Gosを含まない正しい前後加速度Gaを示す値となる。よって、上下加速度センサを必要とせずに正しい前後加速度Gaを算出することが可能となり、部品点数を削減してコストダウンに寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて前後加速度を検出する前後加速度センサの出力を補正する前後加速度センサの出力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS制御において使用する車体速度を得るための前後加減速度を算出する際に、登り坂あるいは下り坂における重力加速度の路面方向の成分の影響を排除すべく、前後方向加減速度検出器の出力を上下方向加減速度検出器の出力で補正するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開平3−96468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載されたものは、重力加速度の路面方向の成分の影響を排除するために上下方向加減速度検出器が必要になり、その分だけ部品点数が増加してコストアップの要因となる問題がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、上下加速度センサを必要をせずに路面傾斜の影響を排除して正しい前後加速度を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両に搭載されて前後加速度を検出する前後加速度センサの出力を補正する前後加速度センサの出力補正方法において、前記前後加速度を時間微分して微分値を算出する工程と、前記微分値を時間積分して積分値を算出する工程と、前記積分値を補正前後加速度として出力する工程とを含むことを特徴とする前後加速度センサの出力補正方法が提案される。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の構成によれば、前後加速度センサが出力する前後加速度は、真の前後加速度と、路面傾斜による重力加速度の路面方向の成分とを含むが、後者は時間の関数でないために時間微分によって排除され、その微分値を時間積分した積分値は重力加速度の路面方向の成分を含まない真の前後加速度を示す値となる。よって上下加速度センサを必要とせずに正しい前後加速度を算出することが可能となり、部品点数を削減してコストダウンに寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0008】
図1〜図8は本発明の実施の形態を示すもので、図1は車両の駆動力伝達系統を示す図、図2は推定前後加速度算出ルーチンのフローチャート、図3は図2のステップS2のサブルーチンのフローチャート、図4はベルト式無段変速機保護制御ルーチンのフローチャート、図5はブレーキ異常判定ルーチンのフローチャート、図6は路面傾斜に起因するの前後加速度の誤差分の説明図、図7は車体姿勢の変化に起因する前後加速度の誤差分の説明図、図8は路面傾斜に起因する前後加速度の誤差分の算出手法の説明図である。
【0009】
図1は車両の駆動力伝達系統を示すもので、エンジンEの駆動力は、トルクコンバータ11、前後進切換機構12、ベルト式無段変速機T、減速ギヤ列13およびディファレンシャルギヤ14を介して車輪Wに伝達される。
【0010】
トルクコンバータ11は、エンジンEのクランクシャフト15に接続されたポンプ16と、入力軸17に接続されたタービン18と、ケーシング19に固定されたステータ20と、クランクシャフト15を入力軸17に直結するロックアップクラッチ21とを備え、ロックアップクラッチ21の非作動時には、クランクシャフト15の回転数を減速し、かつクランクシャフト15のトルクを増幅して入力軸17に伝達する。
【0011】
前後進切換機構12はプラネタリギヤ機構を用いたもので、入力軸17に固定されたサンギヤ22と、プラネタリキャリヤ23に支持されてサンギヤ22に噛合する複数のピニオン24…と、ピニオン24…に噛合するリングギヤ25とを備え、リングギヤ25はフォワードクラッチ26を介して入力軸17に結合可能であり、プラネタリキャリヤ23はリバースブレーキ27を介してケーシング19に結合可能である。
【0012】
フォワードクラッチ27を締結すると、入力軸17がリングギヤ25と一体のプーリ駆動軸28に直結することで、プーリ駆動軸28は入力軸17と同速度で同方向に回転する。リバースブレーキ26を締結すると、プラネタリキャリヤ23がケーシング19に拘束されることで、プーリ駆動軸28は入力軸17の回転数に対して減速されて逆方向に回転する。
【0013】
ベルト式無段変速機Tは、プーリ駆動軸28に支持されたドライブプーリ29と、出力軸30に支持されたドリブンプーリ31と、ドライブプーリ29およびドリブンプーリ31に巻き掛けた金属製の無端ベルト32とを備える。ドライブプーリ29は、プーリ駆動軸28に固定された固定側プーリ半体29aと、プーリ駆動軸28に軸方向摺動可能かつ相対回転不能に支持され、液室29cに作用する液圧で固定側プーリ半体29aに向けて付勢される可動側プーリ半体29bとを備える。ドリブンプーリ31は、出力軸30に固定された固定側プーリ半体31aと、出力軸駆動軸30に軸方向摺動可能かつ相対回転不能に支持され、液室31cに作用する液圧で固定側プーリ半体31aに向けて付勢される可動側プーリ半体31bとを備える。
【0014】
ドライブプーリ29の液室29cおよびドリブンプーリ31の液室31cの何れか一方(例えば、ドライブプーリ29の液室29c)にライン圧を作用させ、何れか他方(例えば、ドリブンプーリ31の液室31c)に前記ライン圧を制御弁で減圧した制御圧を作用させる。そして、前記ライン圧および前記制御圧の差圧を減少させると、ドライブプーリ29の可動側プーリ半体29bが固定側プーリ半体29aから離反して有効直径が減少し、かつドリブンプーリ31の可動側プーリ半体31bが固定側プーリ半体31aに接近して有効直径が増加することで、ベルト式無段変速機TのレシオがLO側に変化する。逆に、前記ライン圧および前記制御圧の差圧を増加させると、ドライブプーリ29の可動側プーリ半体29bが固定側プーリ半体29aに接近して有効直径が増加し、かつドリブンプーリ31の可動側プーリ半体31bが固定側プーリ半体31aから離反して有効直径が減少することで、ベルト式無段変速機TのレシオがOD側に変化する。
【0015】
出力軸30に設けた第1リダクションギヤ33が減速軸34に設けた第2リダクションギヤ35に噛合し、減速軸34に設けたファイナルドライブギヤ36がディファレンシャルギヤ14のファイナルドリブンギヤ37に噛合する。ディファレンシャルギヤ14から延びる左右の車軸に38に車輪Wが接続され、車輪Wに設けたブレーキディスク39はブレーキキャリパ40により制動可能である。
【0016】
ブレーキペダル41により作動するマスタシリンダ42が出力するブレーキ液圧は、車輪Wのロックを防止するABS(アンチロック・ブレーキ・システム)装置43を介してブレーキキャリパ40に伝達される。
【0017】
ベルト式無段変速機Tの液室29c,31cに供給する液圧を制御することでレシオを制御する電子制御ユニットUには、スロットル開度センサSa、エンジン回転数センサSb、車速センサSc、前後加速度センサSdおよびブレーキ液圧センサSeが接続される。
【0018】
ベルト式無段変速機Tの目標レシオは、スロットル開度センサSaで検出したスロットル開度と、エンジン回転数センサSbで検出したエンジン回転数とから算出され、電子制御ユニットUは、その目標レシオが得られるように液圧制御装置44を介して液室29c,31cに供給する液圧を制御する。
【0019】
ところで、車輪Wが急制動によりロックしたような場合、車輪Wに接続されたベルト式無段変速機Tのドリブンプーリ31の回転が抑制されるため、ドライブプーリ29あるいはドリブンプーリ31に対して無端ベルト32がスリップし、ベルト式無段変速機Tが損傷する虞がある。そこでベルト式無段変速機Tの無端ベルト32がスリップする可能性があるとき、即ち前後加速度センサSdで検出した前後減速度(負の前後加速度)が所定値以上になった場合に、液圧制御装置44を介してベルト式無段変速機Tのライン圧を増加させることで、ドライブプーリ29およびドリブンプーリ31の側圧(無端ベル32を挟持する圧力)を増加させてスリップを防止する。
【0020】
図6に示すように、例えば角度θで傾斜する路面を登る車両が制動により減速する場合、重力加速度gの路面方向の成分g×sinθが車体後ろ向きに発生するため、前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsは、車両の実際の減速度Ga(補正前後加速度)と、重力加速度gの路面方向の成分g×sinθとを加算したものとなり、前後加速度センサSdの出力である前後加速度Gsは路面傾斜による誤差分Gos=g×sinθを含むことになる。このような問題は、路面が上り坂である場合でも下り坂である場合でも、車両が加速中、減速中、定速走行中、停止中の何れの場合でも発生する。
【0021】
また図7(A)に示すように、車両の減速時に車体姿勢が前下がりに角度β変化した場合、車体に固定された前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsは、実際の前後加速度Ga(補正前後加速度)よりも小さい値であるGa×cosβとなる。このときのGa(1−cosβ)が車体姿勢変化による誤差分ΔGとなる。
【0022】
また図7(B)に示すように、車両の加速時に車体姿勢が前上がりに角度γ変化した場合、車体に固定された前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsは、実際の前後加速度Ga(補正前後加速度)よりも小さい値であるGa×cosγとなる。このときのGa(1−cosγ)が車体姿勢変化による誤差分ΔGとなる。
【0023】
そこで本実施の形態では、路面傾斜による誤差分Gosと、加減速に基づく車体姿勢変化による誤差分ΔGとを除いた純粋な前後加速度を補正前後加速度Gaとして算出するとともに、その補正前後加速度Gaに基づいてベルト式無段変速機Tのスリップ防止制御を行うようになっている。
【0024】
また一般的にABS装置43にも車速を検出するための前後加速度センサが設けられているが、本実施の形態ではベルト式無段変速機Tの前後加速度センサSdをABS装置43の前後加速度センサに兼用することで部品点数およびコストの削減が図られる。しかしながら、ABS装置43の前後加速度センサの必要検出レンジは、gを重力加速度としてー1.2g〜+1.2gであるのに対し、ベルト式無段変速機Tの前後加速度センサSdの必要検出レンジはー0.5g〜+0.5gであるため、絶対値が0.5gを超える前後加速度については、ベルト式無段変速機Tの前後加速度センサSdの出力から推定するようになっている。
【0025】
先ず、図2のフローチャートのステップS1で前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsと、ブレーキ液圧センサSeが出力するブレーキ液圧Pと、車速センサScが出力する車速Vwとを読み込み、ステップS2で路面傾斜角θを算出する。
【0026】
図3のフローチャートは前記ステップS2のサブルーチンを示すもので、ステップS11で前後加速度センサSdが出力した前後加速度Gsの時間微分値dGs/dtを積分した∫(dGs/dt)dtを算出する。この積分は不定積分であり、積分定数は0である。図8に示すように、時系列で出力される前後加速度Gsには、時間tの関数であると見なせる真の前後加速度(前後減速度を含む)の項と、時間tの関数でないと見なせる車体傾斜に起因する項(前述した路面傾斜による誤差分Gosおよび車体姿勢変化による誤差分ΔG)とが含まれるが、それらの誤差分は時間tに関して実質的に定数となるので、上記時間微分処理によって消えてしまい、それを積分した∫(dGs/dt)dtは、時間tに関する定数項で誤差分Gos,ΔGが除かれた補正前後加速度Gaとなる。
【0027】
続くステップS12で前後加速度センサSdが出力した前後加速度Gsの時間微分値dGs/dtの絶対値|Gs/dt|が所定の閾値未満であり、車両が急加速状態あるいは急減速状態でなければ、ステップS13で前後加速度の路面傾斜による誤差分である路面傾斜成分Gosを、Gos=GsーGaにより算出する。車両が急加速状態あるいは急減速状態でないとき、前記誤差分は路面傾斜に起因する路面傾斜成分Gosだけとなる。よって、前後加速度センサSdが出力した前後加速度Gsから路面傾斜成分Gosが除かれた補正前後加速度Gaを減算することで、前後加速度の路面傾斜成分Gosが算出される。
【0028】
一方、前記ステップS12で前後加速度センサSdが出力した前後加速度Gsの時間微分値dGs/dtの絶対値|Gs/dt|が所定の閾値以上であり、車両が急加速状態あるいは急減速状態であれば、ステップS14で車輪Wの駆動力をエンジントルクとベルト式無段変速機Tのレシオとの積により算出し、ステップS15で前記駆動力が所定の閾値を超えていれば、ステップS16で車体が加速していると判断し、車体加速度を駆動力/車体重量により算出する。一方、前記ステップS15で前記駆動力が所定の閾値を以下であれば、ステップS17で車体が減速していると判断し、制動力をサービスブレーキ制動力とエンジンブレーキ制動力との和により算出する。サービスブレーキ制動力はブレーキ液圧センサSeで検出したブレーキ液圧Pから算出可能であり、エンジンブレーキ制動力はエンジントルク(この場合は負値)とベルト式無段変速機Tのレシオとの積で算出される。そしてステップS18で車体減速度を制動力/車体重量により算出する。
【0029】
加減速度による車体姿勢の変化はサスペンション装置の硬さやホイールベースの大きさ等に依存するものであり、それらを考慮したモデルに前記車体加速度あるいは車体減速度を適用することにより、ステップS19で前後加速度の車体姿勢変化による誤差分である車体姿勢変化成分ΔGを算出する。そしてステップS20で路面傾斜に起因する前後加速度の誤差分Gosを、Gos=GsーGaーΔGにより算出する。この式は、前後加速度センサSdが出力した前後加速度Gsから、路面傾斜成分Gosが除かれた補正前後加速度Gaと、車体姿勢変化成分ΔGとを減算することで、路面傾斜成分Gosが算出されることを示している。
【0030】
そしてステップS21で前記ステップS13あるいは前記ステップS20で算出した前後加速度の路面傾斜成分Gosに基づいて、路面傾斜角θをθ=sin-1(Gos/g)により算出する(gは重力加速度)。
【0031】
このように、本実施の形態によれば、上下加速度センサを必要とせずに、前後加速度センサSdの出力から路面傾斜角θを精度良く算出することが可能となり、部品点数およびコストの削減に寄与することができる。
【0032】
図2のフローチャートに戻り、ステップS3で前後加速度の路面傾斜成分Gosが所定の閾値未満であり、かつ車速センサScで求めた車速Vwを時間微分した車両の減速度ΔVwが所定の閾値未満であり、かつブレーキ液圧センサSeで求めたブレーキ液圧Pが所定の閾値を超えており、かつ前後加速度センサSdで検出した前後加速度Gsの絶対値がその検出範囲の限界値a未満であり、その結果として車両が制動による安定した減速状態状態にあることが確認されると、ステップS4で誤差分Gos,ΔGを除いた補正前後加速度Ga、つまり∫(dGs/dt)dtをブレーキ液圧Pで除算することで、ブレーキ液圧Pの変化に対する補正前後加速度Gaの変化の勾配αを算出する。
【0033】
続くステップS5で前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsが、前後加速度センサSdの検出可能限界値a(実施の形態では、0.5g)未満の場合には、ステップS7で推定前後加速度Ga′としてGa=∫(dGs/dt)dtの値を出力し、前記ステップS5で前後加速度センサSdが出力する前後加速度Gsが、前後加速度センサSdの検出可能限界値a(実施の形態では、0.5g)以上の場合には、ステップS6で推定前後加速度Ga′を、Ga′=a+α×Pにより算出する。つまり前後加速度センサSdの検出可能限界値aよりも大きい前後加速度が発生した場合には、検出可能限界値aよりも大きい領域の推定前後加速度Ga′を前記勾配αと、そのときのブレーキ液圧Pとを用いて推定することができる。これにより、ベルト式無段変速機Tの検出可能範囲が小さい前後加速度センサSdを用いて、検出可能範囲が大きいABS装置23の前後加速度センサに機能を果たすことができ、部品点数およびコストの削減を図ることができる。
【0034】
次に、急制動によるベルト式無段変速機Tの損傷を回避する制御を、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
先ずステップS31でブレーキ液圧Pの時間変化率dP/dtが所定の閾値を超えており、かつ推定前後加速度Ga′の時間変化率dGa′/dtが所定の閾値を未満であるという条件が成立しない場合には、ベルト式無段変速機Tが損傷する虞が無いと判断し、ステップS32でベルト式無段変速機Tの保護制御を行わない。即ち、運転者によるブレーキ操作が緩やかな場合には、無端ベルト32がスリップする虞がないためにベルト式無段変速機Tの保護制御を行わない。また運転者によるブレーキ操作が急激であっても、車両が急激に減速しているときには、車輪Wがロックせずに路面をグリップしていると推定されるため、車輪Wのロックによる無端ベルト32のスリップは発生しないと推定してベルト式無段変速機Tの保護制御を行わない。
【0036】
前記ステップS31の答えがYESであっても、ステップS32でブレーキ液圧Pが所定の閾値を超えていれば、車輪Wが路面をグリップしていると推定されるため、車輪Wのロックによる無端ベルト32のスリップは発生しないと推定してベルト式無段変速機Tの保護制御を行わない。前記ステップS33答えがNOであっても、ステップS34でABS装置43が作動中であれば、車輪Wがある程度路面をグリップしていると推定されるため、ベルト式無段変速機Tの保護制御を行わない。そして前記ステップS34の答えがNOの場合には、路面摩擦係数が小さい等の理由で車輪がロック状態に陥ったと推定され、ベルト式無段変速機Tのドリブンプーリ31が停止状態になって無端ベルト32がスリップする可能性があるため、ドライブプーリ29、ドリブンプーリ31および無端ベルト32の損傷を回避すべく、ドライブプーリ29およびドリブンプーリ31の側圧を増加させて無端ベルト32のスリップを防止する。
【0037】
次に、推定前後加速度Ga′を用いたブレーキの異常判定を、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0038】
先ず、ステップS41で前記勾配αを基準値α0と比較し、α0−αが所定の閾値よりも大きくなければ、ステップS42でブレーキが正常であると判定する。前記ステップS41でα0−αが所定の閾値よりも大きければ、勾配αの値、つまりブレーキ液圧Pに対する補正前後加速度Gaの変化率の値が異常であるため、ブレーキに何らかの異常があると判定する。
【0039】
即ち、ステップS43でブレーキパッドを交換してからの車両の積算走行時間が所定の閾値を超えていれば、ステップS44でブレーキパッドの摩耗が進行していると判定する。前記ステップS43の答えがNOの場合、ステップS45でdP/dtが所定の閾値を超えており、かつdGa/dtが所定の閾値未満であり、かつ制動時間が所定の閾値を超えている場合、つまりブレーキペダル41を急激に踏み込み、かつブレーキペダル41を長い時間踏んでいるのに、車速が低下しない場合には、ステップS46でブレーキがフェード現象を起こしていると判定する。また前記ステップS45の答えがNOの場合、ステップS47でブレーキに他の異常が発生していると判定する。
【0040】
そして前記ステップS44,S46,S47でブレーキの異常判定が行われた場合、ステップS48でベルト式無段変速機TのレシオをLO側に変化させることで、エンジンブレーキが効き易い状態にすることができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を説明したが本発明は前記実施の形態に限定されず、種々の設計変更を行うことが可能である。
【0042】
例えば、実施の形態では前後加速度センサSdをベルト式無段変速機Tのスリップ制御およびABS装置43の車速検出に用いているが、その用途は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】車両の駆動力伝達系統を示す図
【図2】推定前後加速度算出ルーチンのフローチャート
【図3】図2のステップS2のサブルーチンのフローチャート
【図4】ベルト式無段変速機保護制御ルーチンのフローチャート
【図5】ブレーキ異常判定ルーチンのフローチャート
【図6】路面傾斜に起因するの前後加速度の誤差分の説明図
【図7】車体姿勢の変化に起因する前後加速度の誤差分の説明図
【図8】路面傾斜に起因する前後加速度の誤差分の算出手法の説明図
【符号の説明】
【0044】
Ga 補正前後加速度
Gs 前後加速度
Sd 前後加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて前後加速度(Gs)を検出する前後加速度センサ(Sd)の出力を補正する前後加速度センサの出力補正方法において、
前記前後加速度(Gs)を時間微分して微分値を算出する工程と、
前記微分値を時間積分して積分値を算出する工程と、
前記積分値を補正前後加速度(Ga)として出力する工程と、
を含むことを特徴とする前後加速度センサの出力補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−160100(P2010−160100A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3539(P2009−3539)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】