説明

前照灯装置

【課題】前方の車両数が多い場合に、車両位置を適切に管理する前照灯装置を提供すること。
【解決手段】前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させることができる前照灯装置100において、前方車両を検出し、近接した複数の前方車両のうち右端及び左端の前方車両の位置のみを推定する前方車両検出手段11と、右端の前方車両が存在する位置から左端の前方車両が存在する位置までの一連の配光領域を除き前方を照明する照明領域制御手段12と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させることができる前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前照灯装置は、適切な範囲を対向車や先行車にグレアを与えないように照明することが要請されており、従来からロービームやハイビームといった照明範囲の切替が可能になっている。
【0003】
しかし、ロービームでは照明範囲の到達距離が短く、運転者としてより前方まで視認したいという要求があり、ハイビームでは、遠方まで視認可能だが先行車両や対向車両にグレアを与えることが懸念されてしまう。
【0004】
そこで、先行車両や対向車両の検出結果に応じて、前照灯装置の配光を可変にする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の領域を含む付加配光パターンを形成可能な灯具ユニットを備え、先行車両や対向車両の台数が所定のしきい値を超えた場合には、付加配光パターンの形成を制限する車両用前照灯装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−16440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、先行車両や対向車両の数が閾値以上か否かで配光を変えることしかできず、先行車両や対向車両の位置を考慮した配光の制御について考慮されていない。また、先行車両や対向車両の位置を考慮して配光の制御を行う場合、車両の位置を検出する必要があるが、車両の数が増えると処理負荷が増大し、高機能な演算装置が必要になるなどコスト増をもたらすという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、前方の車両数が多い場合に、車両位置を適切に管理して配光パターンを変更可能な前照灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させることができる前照灯装置において、前方車両を検出し、近接した複数の前方車両のうち右端と左端の前方車両の位置のみを推定する前方車両検出手段と、右端の前方車両が存在する位置から左端の前方車両が存在する位置までの一連の配光領域を除き前方を照明する照明領域制御手段と、を有する前照灯装置。
【発明の効果】
【0009】
前方の車両数が多い場合に、車両位置を適切に管理する前照灯装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】前照灯装置の配光について説明する図の一例である。
【図2】前方車両の位置情報を説明する図の一例である。
【図3】グルーピングを模式的に説明する図の一例である
【図4】前照灯装置の構成図の一例である。
【図5】グルーピングについて詳細に説明する図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
〔AZBについて〕
近年、高輝度なLEDが開発され徐々に車両に搭載されるようになっている。このような高輝度の光源を用いれば、比較的小さな光源をいくつか搭載した多灯の灯具を実現することができる。
【0013】
図1は、前照灯装置の配光について説明する図の一例である。本実施形態の前照灯装置はAZB(All Zone Beam)という配光制御機能を搭載している。AZBとは、前照灯装置に複数のLED又は多灯のLEDを搭載し、各LEDを点灯/消灯させることで、先行車両や対向車両(以下、区別しない場合「前方車両」という)が存在しない範囲のみを照明する配光制御である。
【0014】
図1の例では、自車両の前方を、先行車両と対向車両が走行している。AZBが搭載された前照灯装置は、前方車両の位置を検出して、照明可能な全範囲のうち、前方車両が存在する範囲を照明しない。こうすることで、遠方まで照明しながら、前方車両にグレアを与えることも抑制でき、夜間の前方視界を拡大することができる。
【0015】
AZBを搭載した前照灯装置は、図示する照明範囲Lをロービームで照明する。ロービームの照明範囲は常に照明された状態である。これに対し、ハイビームの照明範囲Hは、予め複数の領域に区分されており、前照灯装置は複数の領域の1つずつを選択的に照明・消灯することができる。図では例として10個の領域が図示されており、左から4,7,8の領域だけが照明されない状態となっている。以下、4,7,8のように照明されない領域をマスキング領域という。
【0016】
マスキング領域を決定するには、前方車両がマスキング領域を走行していることを検出する必要がある。このため前照灯装置は前方車両の位置を管理している。
【0017】
図2は、前方車両の位置情報を説明する図の一例である。カメラで前方車両を検出する場合、夜間においては先行車両のテールランプ又は対向車両のヘッドランプが高輝度に撮影される。このため、前照灯装置は、画像データから所定輝度以上の画素領域を探索して、テールランプ又はヘッドランプの位置を検出する。図では、3台の先行車両及び3台の対向車両が走行しているため、合計で12個の位置情報X1〜X12を検出可能である。
【0018】
しかしながら、前照灯装置は画像データにおけるテールランプ又はヘッドランプの位置からマスキング領域を決定するため、実空間における車両の位置を推定するが、このように多くの数の位置を推定することは、処理負荷の増大をもたらしてしまう。すなわち、実空間の位置を推定するマイコンの負荷が増大するため、高価格なマイコンを搭載する必要が生じる。
【0019】
また、AZBでは、カメラによる前方車両の位置の検出と、LEDの消灯・点灯との間に良好な応答性が要求される。前方車両が現れてからLEDの消灯までの時間が長いと、前方車両にグレアを与えてしまうからである。
【0020】
このため、カメラがLEDの制御装置に送信する位置情報(画像データ上でも実空間内のでもよい)の通信周期を短くする必要があり、例えば50m秒程度の通信周期が望ましいとされている。このように通信周期が早い状況で、前方車両の数が多いと、車載LAN上の通信量も増大するため、他の通信を圧迫してしまう。通信負荷が設計上の許容量を超える場合、新しいバスを搭載すればよいが、そのためのゲートウェイやハーネスの追加が必要になるため、車両コストが増大してしまう。
【0021】
そこで、本実施形態の前照灯装置は、前方車両をグルーピングすることで、管理すべき位置情報の数を低減する。これにより、前方車両の数が多くても、処理負荷及び通信量の増大を抑制できる。
【0022】
図3は、グルーピングを模式的に説明する図の一例である。例えば、3台の先行車両のうち、自車両の中央に最も近い車両Aの右側のテールランプX3を検出したとする。グルーピングでは、1つのマスキング領域に存在する複数の車両だけでなく、隣接したマスキング領域に存在する複数の車両があれば、それらの車両を含めてマスキング領域とする。このため、前照灯装置は以下のような手順で車両を探索する。
(i) 車両Aの右側のテールランプから所定範囲内に車両Cの右側のテールランプを検出する。
(ii) 車両Cの右側のテールランプから所定範囲内に、車両Aの左側のテールランプを検出する。
(iii) 車両Aの左側のテールランプから所定範囲内に、車両Cの左側のテールランプを検出する。
(iv) 車両Cの左側のテールランプから所定範囲内に、車両Bの右側のテールランプを検出する。
(v) 車両Bの右側のテールランプから所定範囲内に、車両Bの左側のテールランプX4を検出する。
【0023】
このように、自車両から見て水平方向に一部が重畳している車両A〜Cが走行している場合、車両A〜Cが存在する一連の走行領域は照明すべきでないので、1つのマスキング領域として扱えば足りる。このため、前照灯装置は車両Aの右側のテールランプから、車両Bの左側のテールランプまでの6つの位置情報を1つのグループとして扱う。このグループの位置情報としては、テールランプX3とX4の2つの位置情報があれば十分になる。したがって、この場合は、6つの位置情報を2つ(三分の一)に低減できたことになる。
【0024】
右側の3台の対向車両についても同様であり、車両D〜Fは自車両から見て水平方向に一部が重畳しているので、車両D〜Fの走行領域を1つのマスキング領域とすることができる。すなわち、前照灯装置は車両Dの左側のヘッドランプから、車両Fの右側のヘッドランプまでの6つの位置情報を1つのグループとして扱う。したがって、このグループの位置情報としては、ヘッドランプX1とX2の2つの位置情報があれば十分になる。
【0025】
〔構成例〕
図4は、前照灯装置100の構成図の一例を示す。制御装置12とカメラ11が車載LAN18を介して接続されている。車載LAN18は、例えばCAN(Controller Area Network)やFlexRayなどの比較的高速な通信が可能なプロトコルのネットワークである。
【0026】
カメラ11は、車幅方向の略中央の例えば室内ルームミラーの車両前方に、光軸を水平よりもやや下向きに向けて搭載され、車両前方の所定角範囲を撮影する。カメラ11は、CMOSやCCDの光電変換素子により、所定の輝度階調(例えば、256階調)の画像データを、サイクル時間(例えば、30〜60フレーム/秒)毎に出力する。カメラ11は不図示のマイコンと一体に構成され、カメラ11は順次撮影された画像データに対し画像処理を行い前方車両を検出する。そして、複数の前方車両があればそれをグルーピングして、1グループ当たり2つの位置情報だけを制御装置12に送信する。
【0027】
カメラ11は、テールランプやヘッドランプを特定するため、所定値以上の輝度で所定の形状や大きさの動体を特定する。動体であることは、自車両の速度及び自車両と対向車両との相対速度から求めた、前方車両の路面に対する速度から判定できる。
【0028】
カメラ11の高さと光軸の向きは固定であり、また、焦点距離や収差などのカメラパラメータも少なくともカメラ11にとっては既知である。したがって、カメラ11の画像データの各ピクセルは、路面の位置と1対1に対応する。ピクセルが特定されれば、カメラ11からそこに撮影されている路面までの距離や方向を特定できる。車両のテールランプやヘッドランプは路面上ではないが路面から数十センチ上方に存在するとしてよいので、その分を補正することで各テールランプ又はヘッドランプの実空間における位置と方向が求められる。なお、この処理を制御装置側で行ってもよい。
【0029】
また、カメラ11を例えばステレオカメラなど、距離情報を取得可能なカメラで構成することも有効である。
【0030】
カメラ11が撮影した画像は、白線認識、歩行者認識、LKA(Lane Keeping Assist)、NV(ナイトビュー)などにも利用される。
【0031】
制御装置12は、専用線でLEDドライバ13、スイブルアクチュエータ15、及び、レベリングアクチュエータ16と接続されている。
【0032】
制御装置12は、CPU、ROM、RAM、CANコントローラ、及び、入出力インタフェース等を備えたマイコン又はECU(Electronic Control Unit)である。ROMにはプログラムが記憶されており、CPUがプログラムを実行することで、前方車両の位置情報に応じたLED14の消灯・点灯が制御される。
【0033】
LEDドライバ13には複数のLED14が接続されている。例えば、10個のマスキング領域がある場合、LEDドライバ13は10個のチャネルを有し、それぞれのチャネルにLED14が接続されている。
【0034】
制御装置12はLEDドライバ13に対し、LED毎に点灯又は消灯を指示する。LEDドライバ13は点灯と指示されたLED14についてバッテリと接続し、予め定められた輝度となるようにPWM信号のデューティ比を制御してLED14に定電流を供給する。この時、温度に応じてデューティ比を補正する。また、LEDドライバ13が消灯と指示されたLED14について、バッテリと切断する。
【0035】
スイブルアクチュエータ15及びレベリングアクチュエータ16は、左右の前照灯のそれぞれに設けられている。スイブルアクチュエータ15は、前照灯の反射鏡または前照灯のレンズを移動させて前照灯の光軸を外側に向けることで前照灯の照射方向を左右外側に広げることができるように構成されている。制御装置12は、ステアリングの操舵角に応じてスイブルアクチュエータ15を制御することで、車両の進行方向の領域を多く照明することができる。
【0036】
レベリングアクチュエータ16は、前照灯の反射鏡または前照灯のレンズを移動させ、ピッチング方向に光軸を移動させるアクチュエータである。ピッチング方向の傾きを検出し、この傾きに追従して、前照灯の光軸を所定の角度に保持するように構成されている。制御装置12は、例えば、自動車の乗員や荷物の搭載状態により生じる車体のピッチング方向の傾きを傾きセンサ等により検出し、レベリングアクチュエータ16を制御するので、車体が傾いても光軸をほぼ一定に保つことができる。
【0037】
図5は、グルーピングについて詳細に説明する図の一例である。
カメラ11は、1フレームの画像データに対し、テールランプ又はヘッドランプを特定する。そして、例えば画像データの下辺の中央からテールランプ又はヘッドランプまでを仮想的な線で結ぶ。そして、例えば、画像データの下辺の中央に最も近いテールランプ又はヘッドランプからグルーピングを開始する。
(1)最初にテールランプXaが検出されたとする。
(2)カメラ11は、テールランプXaから水平方向に2度以内にあるテールランプ又はヘッドランプを探索し、あると1つのグループに関連づける。この角度は、画像データの下辺の中央とテールランプ又はヘッドランプを結ぶ仮想的な線がなす角度である。この角度の小さい範囲に存在する前方車両は、隣接したマスキング領域に存在する可能性が高いといえる。また、2度以内としたのは一例であり、隣接したマスキング領域に存在すると推定される角度であればよい。
(3)図の例ではテールランプXaから左方向の2度以内にテールランプXcが、右方向の2度以内にテールランプXbが、検出される。このためテールランプXa〜Xcが1つのグループにグルーピングされる。
(4)次に、グルーピングされたXbに対し、2度以内にあるテールランプX1を検出し、Xa〜Xcと同じグループにグルーピングする。すでに探索されたXbより手前を走行していても、画像データの下辺の中央とテールランプXbを結ぶ直線を基準に2度以内にあるテールランプは検出可能である。テールランプX1に対しては2度以内にあるテールランプは検出されない。
(5)次に、グルーピングされたXcに対し、2度以内にあるテールランプXdを検出し、Xa〜Xc、X1と同じグループにグルーピングする。
(6)次に、グルーピングされたXdに対し、2度以内にあるテールランプX2を検出し、Xa〜Xd、X1と同じグループにグルーピングする。テールランプX2に対しては2度以内のテールランプは検出されない。
【0038】
以上により、Xa〜Xd、X1、及び、X2を1つのグループにグルーピングできた。カメラ11は、1フレーム毎、又は、数フレームおきに同じ処理を行い、前方車両と自車両との相対的な位置の変化に対応する。
【0039】
カメラ11は、グルーピングされた複数の位置情報のうち、最右のテールランプX1の位置情報と最左のテールランプX2の位置情報を検出する処理を行う。このように、位置情報を求めるテールランプの数を2つに抑制できる。カメラ11は、車載LAN18を介して、テールランプX1、X2の位置情報を制御装置12に送信する。
【0040】
制御装置12は、テールランプX1〜X2の範囲は前方車両が存在するものとして、マスキング領域に決定する。制御装置12は、ロービームの照明範囲Lを照明したまま、ハイビームの照明範囲Hを照明するLED14のうちマスキング領域を照明するLEDのみを消灯する。したがって、前方車両が存在する領域は照明されず、グレアを与えることを防止できる。
【0041】
また、この例では6個の位置情報を三分の一に低減できた。このため、前方車両にグレアを与えないように約50ミリ秒以下の間隔で送信する必要がある場合でも、車載LAN18の通信量が大きくなりすぎることを防止できる。
【0042】
なお、先行車両と対向車両とでは仮に、上記2度以内という条件を満たしても、別のグループにグルーピングすることが好適である。これは、対向車両は自車両との相対速度が大きいため、すぐにグルーピングが変化するのに対し、前方車両は比較的グルーピングが変化しにくいためである。先行車両と対向車両とでグループを変えることで、マスキング領域の消灯と点灯が頻繁に切り替わることを防止できる。また、画像データにおいて、対向車両が撮影されている領域のみに対し高頻度にグルーピング処理を行うことも可能となり、カメラ11の処理負荷を低減できる。
【0043】
また、カメラ11が歩行者を検知する機能を有する場合、歩行者のみの位置情報をグルーピングすることも有効である。歩行者は例えば近赤外光を発する動体を、外接矩形の縦横比などで特定することができる。歩行者は路面に対する速度が小さいので、複数の歩行者をグルーピングすれば、比較的グルーピングが変化しにくい。このため、画像データにおいて、歩行者が撮影されている領域のグルーピング処理を低頻度に行うことが可能となり、カメラ11の処理負荷を低減できる。
【0044】
また、上記では、グルーピングの範囲を水平方向に2度以内としたが、マスキング領域の形状に合わせて、グルーピングすることも有効である。例えば、マスキング領域とピクセルの位置をマッピングしておき、隣接したマスキング領域に存在する複数の前方車両を1つのグループにグルーピングする。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の前照灯装置100は、前方車両をグルーピングすることで、管理すべき位置情報の数を低減するので、前方車両の数が多くても、処理負荷及び通信量の増大を抑制できる。
【符号の説明】
【0046】
11 カメラ
12 制御装置
13 LEDドライバ
14 LED
15 スイブルアクチュエータ
16 レベリングアクチュエータ
100 前照灯装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させることができる前照灯装置において、
前方車両を検出し、近接した複数の前方車両のうち右端及び左端の前方車両の位置のみを推定する前方車両検出手段と、
右端の前方車両が存在する位置から左端の前方車両が存在する位置までの一連の配光領域を除き前方を照明する照明領域制御手段と、
を有する前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60140(P2013−60140A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200780(P2011−200780)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】