説明

前輪用ディファレンシャル装置

【課題】車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体後部側のピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗を抑制するように改善された前輪用ディファレンシャル装置を供給する。
【解決手段】ケース1の車体後部側部分12の上部外壁面と上部内壁面の間には、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部に潤滑油5を誘導するための潤滑油誘導路7が設けられている。この潤滑油誘導路7は車体前部側であるとともにリングギア2近傍に入口開口部71を有し、車体後部側であるとともにピニオン軸6の上部に出口開口部72を有する。更に潤滑油誘導路7の下部の内壁面、即ちピニオン軸6に近い内壁面73は、ピニオン軸受4の方向に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪用ディファレンシャル装置に関する。更に特定的には、上り坂をバック走行する場合に焼き付きが生じ難い前輪用ディファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両がカーブを曲がる際、左右の車輪の通る軌道の長さに差が生じるため、左右の車輪の回転数を変える必要がある。左右の車輪に同じトルクを与えつつ、左右の車輪の回転数を調整するための差動歯車装置として、ディファレンシャル装置が車両において主として用いられる。ディファレンシャル装置としては差動歯車機構をケース内に潤滑油とともに備え、運転時に潤滑油をリングギアによってかき上げて各部に供給する方式が一般的である。かかる方式のディファレンシャル装置において、高負荷のかかるピニオン軸受へのオイル供給が最も困難かつ重要である。そこで特許文献1においてピニオン軸受への潤滑性能を確保しつつ、リングギア等の回転抵抗を低減する技術が提示されている。
【0003】
図7に示すように、上記方式の前輪用のディファレンシャル装置において、ピニオン軸206は2組のピニオン軸受203およびピニオン軸受204によって支持される。前進時においては、ピニオン軸受203およびピニオン軸受204の上方にリングギア202が回転することによってかき上げられた潤滑油205を供給する潤滑油供給路208が設けられといるとともにその出口開口部282が、ピニオン軸受203の下部に設けられているため、ピニオン軸受203に潤滑油205が供給される。供給された潤滑油205の一部は車体前部側に流れ、ピニオン軸受204に供給される。また、ピニオン軸受203は、ピニオン軸受204からリングギア側に向う潤滑油およびリングギアによりかき上げられた潤滑油205が直接供給されることによっても潤滑される。
【特許文献1】特開2006−161957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両は常に水平に近い路面のみを走行するわけではなく、常に前進するわけでもない。車両が後進する場合には、図8に示すように、リングギア202が前進時と逆回転するため、リングギア202のかき上げによるピニオン軸受203への潤滑油205の供給は望めない。しかし、車両が後進する場合であっても、下り坂あるいは、平坦な路面であれば、図に示すように、潤滑油205の液面220がピニオン軸受203の位置より高いため、リングギア202によるかき上げがなくとも潤滑油供給路208を介して、潤滑油205がピニオン軸受203へ流れ込み、ピニオン軸受203が潤滑される。しかし後進する場合であってかつ上り坂を走行する場合には、図9に示すように、車両の車体後部側(即ち進行方向側)が、路面の傾斜角θ1だけ持ち上げられた状態に傾くため、前輪用ディファレンシャル装置200も車体後部側を上方に路面の傾斜角θ1だけ持ち上げられた状態に傾く。そのため潤滑油205の液面220位置が、ピニオン軸受204の位置より低くなるため、ピニオン軸206に供給される潤滑油205の量が不十分となり、ピニオン軸受204の焼き付きが発生や、異常な磨耗が起こりうる。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたもので、車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体後部側のピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗を抑制するように改善された前輪用ディファレンシャル装置を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる前輪用ディファレンシャル装置は、ピニオンギアを備えるとともに該ピニオンギアを介して動力を伝達するピニオン軸と、前記ピニオン軸を回転自在に支承するピニオン軸受と、前記ピニオンギアに噛合されるリングギアと、前記リングギアに接触するとともに前記ピニオン軸受を潤滑する潤滑油とを備え、前記ピニオン軸により前記ピニオンギアを介して伝達された前記動力により前記リングギアが回転するとともに、前記リングギアの回転により前記潤滑油が前記ピニオン軸受に供給される、車両の前輪用ディファレンシャル装置である。また、車両後進走行時に前記潤滑油を前記ピニオン軸受に誘導するための潤滑油誘導路を備える。
【0007】
上記構成によると、車両後進走行時に前記潤滑油を前記ピニオン軸受に誘導するための潤滑油誘導路を備えるため、車両後進走行時に潤滑油がピニオン軸受に供給される。従って、車両後進走行時におけるピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗が抑制される。
【0008】
本発明にかかる前輪用ディファレンシャル装置は、供給された前記潤滑油を前記ピニオン軸受の下部に導くための傾斜面を有する傾斜部が、前記ピニオン軸受の下部および前記ピニオン軸に対向する位置に設けられていることが好ましい。
【0009】
上記構成によると、供給された潤滑油をピニオン軸受の下部に導くための傾斜面を有する傾斜部が、前記ピニオン軸受の下部および前記ピニオン軸に対向する位置に設けられているため、潤滑油が傾斜面に沿って流れることにより、ピニオン軸の下部に潤滑油が導かれる。従って、車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体の傾きが傾斜面の傾斜角のより小さければ、潤滑油が傾斜面に沿って流れることによりピニオン軸受の下部に潤滑油が導かれる。そのため、車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体後部側のピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗を抑制できる。
【0010】
本発明にかかるディファレンシャル装置は、潤滑油誘導路の前記ピニオン軸に近い内壁面が前記ピニオン軸の方向に突出していることが好ましい。
【0011】
上記構成によると、潤滑油誘導路のピニオン軸に近い内壁面がピニオン軸の方向に突出しているため、ピニオン軸に近い内壁面と潤滑油との接触面積が小さくなり、潤滑油誘導路を潤滑油が流れやすくなる。特に低温時など潤滑油の粘度が上昇し、流動性が低くなった状態においても、潤滑油が流れやすい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車体後部側が上方に持ち上げられた状態における車体後部側のピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗を抑制するように改善されたディファレンシャル装置を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化したディファレンシャル装置の一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態にかかる前輪用ディファレンシャル装置100が備えるケース1は、車体後部側部分12が前後方向に中心軸を有する略円筒形状であり、車体前部側部分11は車体の左右方向に中心軸を有する略短円柱形状である。
【0015】
ケース1の車体前部側部分11の内部には、略環状のリングギア2が回転可能に設けられている。また、ケース1の車体前部側部分11の底部には潤滑油溜51が設けられており、潤滑油5が溜められている。そのためリングギア2の下部がこの潤滑油5と接している。
【0016】
ケース1の車体後部側部分12の内壁面であるとともにリングギア2に近い端部の近傍には略円環状のピニオン軸受3が固定されている。また、内壁面であるとともにピニオン軸受3の固定されている部分より車体後部側には略円環状のピニオン軸受4が固定されている。この2組のピニオン軸受3およびピニオン軸受4によって、ピニオン軸6が回転自在に支承されている。より具体的には、ピニオン軸受3を構成する外輪31の外周面がケース1の内壁面に嵌合固定されており、外輪31の内周面は軌道面が形成されている。一方ピニオン軸受3を構成する内輪32の内周面がピニオン軸6の外周面に嵌合固定されており、内輪32の外周面には軌道面が形成されている。更に、外輪31の軌道面と内輪32の軌道面に接して、転動体33が転動自在に配設されている。また同様にピニオン軸受4を構成する外輪41の外周面がケース1の内壁面に嵌合固定されており、外輪41の内周面は軌道面が形成されている。一方ピニオン軸受4を構成する内輪42の内周面がピニオン軸6の外周面に嵌合固定されており、内輪42の外周面には軌道面が形成されている。外輪41の軌道面と内輪42の軌道面に接して、転動体43が転動自在に配設されている。
【0017】
ピニオン軸6の車体前部側の端部にはピニオンギア61が設けられており、このピニオンギア61がリングギア2に噛合している。ピニオン軸6の他方の端部はケース1の車体後部側から外部に突出し、図示しないプロペラシャフトなどの動力側に接続されている。
【0018】
ここで、ケース1の車体後部側部分12の下部外壁面と下部内壁面の間には、車両前進時にピニオン軸受4の下部に潤滑油5を供給させるための潤滑油供給路8が設けられている。この潤滑油供給路8は車体前部側であるとともにリングギア2近傍に入口開口部81を有し、車体後部側であるとともにピニオン軸6の下部に出口開口部82を有する。
【0019】
一方、ケース1の車体後部側部分12の上部外壁面と上部内壁面の間には、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4に上部から潤滑油5を誘導するための潤滑油誘導路7が設けられている。この潤滑油誘導路7は車体前部側であるとともにリングギア2近傍に入口開口部71を有し、車体後部側であるとともにピニオン軸6の上部に出口開口部72を有する。更に潤滑油誘導路7の下部の内壁面、即ちピニオン軸6に近い内壁面73は図5に示すように、ピニオン軸受4の方向に突出している。
【0020】
また、ケース1の車体後部側部分12の下部の内壁面の一部はピニオン軸6の方向に突出し、ピニオン軸受4の下部およびピニオン軸6に対向する位置に傾斜部9を形成している。図2に示すように、傾斜部9は水平面80に対する傾斜角θ2の傾斜面91を有し、この傾斜面91によって供給された潤滑油5をピニオン軸受4の下部に導く。また、傾斜部9の車体前部側は潤滑油溜52を形成している。
【0021】
本実施形態にかかる前輪用ディファレンシャル装置100を用いた車両が前進する場合のピニオン軸受3およびピニオン軸受4への潤滑油5の供給は以下のように行われる。この前輪用ディファレンシャル装置100が取り付けられている車両のエンジン(不図示)よりプロペラシャフト(不図示)等を介してピニオン軸6に伝達された動力はピニオンギア61を介してリングギア2を図1に矢印で示した方向に回転させる。リングギア2の回転に伴い、リングギア2に接触している潤滑油5がかき上げられ、かき上げられた潤滑油5の一部が入口開口部81より潤滑油供給路8に供給される。潤滑油供給路8に供給された潤滑油5は、潤滑油供給路8内を通過したのち、出口開口部82より排出されることにより、ピニオン軸受4の下部を潤滑する。また、ピニオン軸受4の下部を潤滑した潤滑油5の一部は更にピニオン軸受3に向って流れ、ピニオン軸受3の下部を潤滑する。ピニオン軸受3はまた、リングギア2によってかき上げられた潤滑油5を直接受けることによっても潤滑される。
【0022】
一方、本実施形態にかかる前輪用ディファレンシャル装置100を用いた車両が後進する場合のピニオン軸受3およびピニオン軸受4への潤滑油5の供給は、図3を参照して、以下のように行われる。この前輪用ディファレンシャル装置100が取り付けられている車両のエンジン(不図示)よりプロペラシャフト(不図示)等を介してピニオン軸6に伝達された動力はピニオンギア61を介してリングギア2を前進状態のときとは反対方向に回転させる。リングギア2の回転に伴い、リングギア2に接触している潤滑油5がかき上げられ、かき上げられた潤滑油5の一部が入口開口部71より潤滑油誘導路7に供給される。潤滑油誘導路7に供給された潤滑油5は、潤滑油誘導路7内を通過したのち、出口開口部72より排出されることにより、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部に誘導される。この潤滑油5により、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部が潤滑される。また、潤滑油5の他の一部はピニオン軸6の下部に落ち更に一部は傾斜部9の傾斜面91を下り落ちることによりピニオン軸受4の下部に導かれ、ピニオン軸受4の下部を潤滑する。潤滑油の残りの一部は潤滑油溜52を介してピニオン軸受3の下部に導かれ、ピニオン軸受3の下部を潤滑する。
【0023】
次に、本実施形態にかかる前輪用ディファレンシャル装置100を用いた車両が後進で上りの坂道を走行する際におけるピニオン軸受3およびピニオン軸受4への潤滑油5の供給について、図4を用いて説明する。なお、潤滑油5供給の基本原理は上述した通りであるので、重複する説明は割愛する。
【0024】
図4に示すように、上り坂道における路面の水平面80に対する傾斜角がθ1であるとすると、前輪用ディファレンシャル装置100も水平面に対して傾斜角θ1だけ車体後部側が持ち上げられる。なお、その場合においてもリングギア2の回転に伴い、リングギア2に接触している潤滑油5がかき上げられ、その一部が入口開口部71より潤滑油誘導路7に入る。ここで、潤滑油誘導路7の傾斜角がθ1より大きければ、潤滑油5は潤滑油誘導路7内を通過したのち、出口開口部72より排出されることにより、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部に誘導され、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4を上部から潤滑する。ここで、車両が通行する通常の路面の傾斜角であるので、θ1の最大値は15°程度である。従って、潤滑油誘導路7の傾斜角を15°以上とすることにより、通常の路面において、潤滑油誘導路7は潤滑油5を常に誘導することができる。
【0025】
しかし、始動時において、特に冬場など外気温が低い場合に、潤滑油5の粘度が高くなりすぎ、潤滑油誘導路7の傾斜角が15°以上であっても、潤滑油誘導路7内を潤滑油5が十分に流れないことが起こりうる。例えば、図6に示すように、ディファレンシャル装置100が備える潤滑油誘導路7のピニオン軸6に近い内壁面73が略平坦であれば、潤滑油5がピニオン軸6に近い内壁面73上に薄く広がり、接触面積が広くなるため、流体摩擦が大きくなり、粘性が高い流体は流れにくい。図5に示すように、本実施形態における前輪用ディファレンシャル装置100が備える潤滑油誘導路7のピニオン軸6に近い内壁面73はピニオン軸の方向に突出しているため、潤滑油5が薄く広がることがない。従って、内壁面73と潤滑油5との接触面積を上記従来に比べ小さくできるため、粘性が高い流体であっても、上記従来に比べ流れやすくなっている。
【0026】
次に、供給された潤滑油5の一部はピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部および中部に誘導され、潤滑油5の他の一部はピニオン軸6の下部に落ち更に一部は傾斜部9の傾斜面91の上に落ちる。この傾斜面91の傾斜角θ2がθ1より大きければ、潤滑油5は傾斜面91を下り落ちてピニオン軸受4の下部に供給され、ピニオン軸受4の下部を潤滑する。ここで、上述したように路面の傾斜角θ1は通常15°以内であるので、傾斜面91の傾斜角θ2を15°以上とすることにより、通常の上り坂道であれば、ピニオン軸受4の下部に潤滑油5を導くことが可能となり、ピニオン軸受4を潤滑することができる。
【0027】
なお、潤滑油5の残りの一部は潤滑油溜52を介してピニオン軸受3の下部に供給され、ピニオン軸受3の下部を潤滑する。このピニオン軸受3はピニオン軸受4より車体後部側に位置するため、上り坂道において、ピニオン軸受4はピニオン軸受3より低い位置にあり、潤滑油5の供給量は平坦な路面における場合より一層容易となる。これは、本実施形態に置いても、上記従来においても特に違いはない。
【0028】
また、本実施形態にかかる前輪用ディファレンシャル装置100を用いた車両が後進で下りの坂道を走行する際においては、潤滑油5の液面20より低い位置にピニオン軸受4の下部が位置する。従って、潤滑油供給路8を介して供給された潤滑油5にピニオン軸受4の下部が浸漬されるため、ピニオン軸受4は潤滑油5によって十分に潤滑される。
【0029】
上記実施形態の前輪用ディファレンシャル装置100によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0030】
(1)上記実施形態の前輪用ディファレンシャル装置100によれば、ピニオン軸受4の下部に供給された潤滑油5を導くための傾斜面91を有する傾斜部9をピニオン軸受4の下部およびピニオン軸6に対向する位置に備えるため、潤滑油5が傾斜面91に沿って流れるとともにピニオン軸受4の下部に潤滑油5が導かれる。従って、車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体の傾きθ1が傾斜面91の傾斜角θ2より小さければ、ピニオン軸受4の下部は常に潤滑される。従って、上り坂道を後進走行している状態においても、ピニオン軸受4の下部における焼き付きの発生および異常な磨耗を抑制することができる。
【0031】
ここで、傾斜面91の傾斜角θ2は合目的的に決定することができる。上述のように通常の路面の傾斜角θ1は最大で15°程度であるので、傾斜面91の傾斜角θ2は15°以上とすることが好ましい。また、傾斜面91の傾斜角は大きいほど、潤滑油5をピニオン軸受4の下部に供給する能力が高くなるため、傾斜部9のピニオン軸6に最も近い部分がピニオン軸6に接触しない範囲で傾斜面91の傾斜角θ2をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0032】
(2)上記実施形態のディファレンシャル装置に100よれば、リングギア2の回転により供給される潤滑油5をピニオン軸受3およびピニオン軸受4の上部に誘導する潤滑油誘導路7を更に備えるため、潤滑油5は上方よりピニオン軸受3およびピニオン軸受4に供給される。更に、潤滑油誘導路7のピニオン軸6に近い内壁面73がピニオン軸6の方向に突出しているため、ピニオン軸6に近い内壁面73と潤滑油5との接触面積が小さくなり、潤滑油誘導路7内を潤滑油5が流れやすくなる。特に潤滑油5の液温が低いため潤滑油5の粘度が上昇し、流動性が低くなった状態においても、潤滑油5は従来に比して流れやすい。そのため例えば、外気温が低い状態での始動時においても、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4に潤滑油5が供給されやすく、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4が焼きつくことを抑制することができる。
【0033】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0034】
・上記実施形態においては、潤滑油誘導路7のピニオン軸6に近い内壁面73がピニオン軸6の方向に断面形状がV字型に突出しているが、他の形状であっても良い。例えば、断面形状がU字型に突出していても良い。即ち、ピニオン軸6に近い内壁面73がピニオン軸6の方向に突出することにより、潤滑油5とピニオン軸6に近い内壁面73との接触面積が小さくなり、流体抵抗が小さくなる構造であればよい。
【0035】
・上記実施形態においては、潤滑油誘導路7のピニオン軸6に近い内壁面73がピニオン軸6の方向に断面形状がV字型に突出しているが、他の形状であっても良い。オイルの流体抵抗が特に問題にならないのであれば、ピニオン軸6に近い内壁面73を、図6に示したように、平坦な構造とすれば、加工コストを削減しうる。
【0036】
・上記実施形態においては、潤滑油誘導路7はケース1の車体後部側部分12の上部外壁面と上部内壁面の間に設けられているが、他の構成であっても良い。例えば、別体の部材で構成しても良い。即ち、リングギア2によってかき上げられた潤滑油5を上方よりピニオン軸受3およびピニオン軸受4に供給できる構造であればいかなる形態でも良い。
【0037】
・上記実施形態においては、転動体33および転動体43が円錐ころであり、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4が円錐ころ軸受であるが、他の構成でも良い。例えば、転動体33および転動体43の少なくともいずれか一方が玉であって、ピニオン軸受3およびピニオン軸受4の少なくともいずれか一方が玉軸受であっても良い。
【0038】
・上記実施形態においては、ケース1の車体後部側部分12の下部の内壁面の一部はピニオン軸6の方向に突出し、ピニオン軸受4の下部およびピニオン軸6に対向する位置に傾斜部9を形成しているが、他の構成であっても良い。潤滑油誘導路7によってピニオン軸受4に十分潤滑油5が供給されるのであれば、傾斜部9を割愛することによりコストダウンが可能となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかるディファレンシャル装置は、車体後部側が上方に持ち上げられた状態においても、車体後部側のピニオン軸受の焼き付きの発生や異常な磨耗を抑制するように改善されたディファレンシャル装置であるので、一般的な車両に広く搭載可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用した前輪用ディファレンシャル装置の一実施形態を説明する図面であって、車両前進状態におけるピニオン軸の中心軸を通る上下方向の断面図である。
【図2】図1に示される前輪用ディファレンシャル装置の要部拡大図である。
【図3】本発明を適用した前輪用ディファレンシャル装置の一実施形態を説明する図面であって、車両後進状態におけるピニオン軸の中心軸を通る上下方向の断面図である。
【図4】図2に示される前輪用ディファレンシャル装置の車体後部側を傾斜角θ2上方に引き上げた断面図である。
【図5】図1および図2に示される前輪用ディファレンシャル装置のA−A線断面図である。
【図6】本発明を適用した前輪用ディファレンシャル装置の別例における、図1および図2に示される前輪用ディファレンシャル装置のA−A線断面図である。
【図7】従来の前輪用ディファレンシャル装置の一実施形態を説明する図面であって、車両前進状態におけるピニオン軸の中心軸を通る上下方向の断面図である。
【図8】従来の前輪用ディファレンシャル装置の一実施形態を説明する図面であって、車両後進状態におけるピニオン軸の中心軸を通る上下方向の断面図である。
【図9】図8に示される前輪用ディファレンシャル装置の車体後部側を傾斜角θ上方に引き上げた断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1・・・ケース、2・・・リングギア、3・・・ピニオン軸受、4・・・ピニオン軸受、5・・・潤滑油、6・・・ピニオン軸、7・・・潤滑油誘導路、8・・・潤滑油供給路、9・・・傾斜部、11・・・ケース1の車体前部側部分、12・・・ケース1の車体後部側部分、20・・・液面、31・・・外輪、32・・・内輪、33・・・転動体、41・・・外輪、42・・・内輪、43・・・転動体、52・・・潤滑油溜、53・・・潤滑油溜、61・・・ピニオンギア、71・・・入口開口部、72・・・出口開口部、73・・・内壁面、80・・・水平面、81・・・入口開口部、82・・・出口開口部、91・・・傾斜面、100・・・前輪用ディファレンシャル装置、200・・・前輪用ディファレンシャル装置、202・・・リングギア、203・・・ピニオン軸受、204・・・ピニオン軸受、205・・・潤滑油、206・・・ピニオン軸、208・・・潤滑油供給路、220・・・液面、282・・・出口開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアを備えるとともに該ピニオンギアを介して動力を伝達するピニオン軸と、
前記ピニオン軸を回転自在に支承するピニオン軸受と、
前記ピニオンギアに噛合されるリングギアと、
前記リングギアに接触するとともに前記ピニオン軸受を潤滑する潤滑油とを備え、
前記ピニオン軸により前記ピニオンギアを介して伝達された前記動力により前記リングギアが回転するとともに、前記リングギアの回転により前記潤滑油が前記ピニオン軸受に供給される、車両の前輪用ディファレンシャル装置において、
車両後進走行時に前記潤滑油を前記ピニオン軸受に誘導するための潤滑油誘導路を備えることを特徴とする前輪用ディファレンシャル装置。
【請求項2】
供給された前記潤滑油を前記ピニオン軸受の下部に導くための傾斜面を有する傾斜部が、前記ピニオン軸受の下部および前記ピニオン軸に対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の前輪用ディファレンシャル装置。
【請求項3】
前記潤滑油誘導路の前記ピニオン軸に近い内壁面が前記ピニオン軸の方向に突出していることを特徴とする請求項1または2に記載の前輪用ディファレンシャル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−299744(P2009−299744A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153443(P2008−153443)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】