説明

前部車体構造

【課題】前部衝突時における入力荷重をドア側へ好適に伝達することができる前部車体構造を提供する。
【解決手段】ドアヒンジスチフナー20は、フロントピラー10を構成するアウタパネル3の内側面3Aの前後方向に亘る大きさを備え内側面3Aに取り付けられる側面部21と、アウタパネル3の前部内壁3aに取り付けられる前面部22と、アウタパネル3の後部内壁3bに取り付けられる後面部25と、側面部21の上下端に、相互に平行に設けられた上面部26aおよび下面部26bと、からなる構造体で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車における前部車体構造として、特許文献1に開示されたものが知られている。この前部車体構造では、フロントサイドメンバの上部にカウルサイドメンバが設けられ、カウルサイドメンバの後端部がフロントピラーへ貫通させて結合されている。そして、その結合部の後方にヒンジを介してドアが接続されており、ドアには、ヒンジに対応する位置にドアビームが設けられている。
この前部車体構造によれば、前部衝突時等に車体前方から荷重が入力されると、その入力荷重は、カウルサイドメンバからフロントピラーへ伝達され、フロントピラーからヒンジを介してドアのドアビームに伝達されて分散されるようになっている。
【特許文献1】特開平4−92775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に開示された従来の前部車体構造では、カウルサイドメンバがフロントピラーへ貫通して結合されるようになっていたため、フロントピラー自体の強度が低下するという難点を有していた。これによって、前部衝突時等にカウルサイドメンバを通じて荷重が入力されると、その入力荷重によってフロントピラーが変形してしまい、ドアヒンジを介して後方のドアのドアビームに入力荷重がうまく伝達されないという問題を有していた。
また、従来の前部車体構造では、前部衝突時等において、カウルサイドメンバからの入力荷重によってドアヒンジ部分で変形等が生じ、意図しないドアの開放を生じるおそれがあった。そのため、スチフナーで補強することが考えられるが、そうすると重量が増大する。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、前部衝突時における入力荷重をドア側へ好適に伝達することができる前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために本発明のうち請求項1に係る記載の発明は、フロントピラー内にドアヒンジスチフナーが設けられた前部車体構造であって、前記ドアヒンジスチフナーは、前記フロントピラーを構成するアウタパネルの内側面の前後方向に亘る大きさを備えて当該内側面に取り付けられる側面部と、前記側面部の前端に設けられ、前記アウタパネルの前部内壁に取り付けられる前面部と、前記側面部の後端に設けられ、前記アウタパネルの後部内壁に取り付けられる後面部と、前記側面部の上下端に相互に平行に設けられた上面部および下面部と、からなる構造体で構成されていることを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、ドアヒンジスチフナーは、フロントピラーを構成するアウタパネルの内側面の前後方向に亘る大きさを備えて側面部が当該内側面に取り付けられ、前面部と後面部とがアウタパネルの前部内壁および後部内壁へ取り付けられるので、車体前部が衝突した際に、例えば、車体のアッパーメンバーからフロントピラーに伝わった衝撃によって、フロントピラーが変形し難くなり、さらに、フロントピラーに伝わった衝撃を、ドアヒンジスチフナーを介して後方のドア側へ伝達させることができる。
これによって、ヒンジ部分で変形等が生じ難くなり、衝突時における意図しないドアの開放を好適に防止することができる。
【0007】
また、ドアヒンジスチフナーは、側面部の上下端に、相互に平行に設けられた上面部および下面部を備えているので、これら上面部および下面部が、側面部の前後方向の強度を高める折り返し部として機能し、衝突等の際に、車体の前後方向に沿う曲げ荷重に対して有効な剛性強度を確保することができる。
したがって、フロントピラーに伝わった衝撃によって、フロントピラーが変形し難くなり、これによって、フロントピラーに伝わった衝撃を、ヒンジを介して後方のドア側へ伝達させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の前部車体構造において、前記ドアヒンジスチフナーは、前記上面部および前記下面部を少なくとも有する第1の部材と、この第1の部材に接合され、前記前面部および前記後面部の少なくとも一方を有する第2の部材とを備えて構成されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、第1の部材に第2の部材を接合することでドアヒンジスチフナーを構成することができる。ドアヒンジスチフナーは、このように2つの部材から構成されるので、フロントピラーのアウタパネルの形状に対応させた成形が行い易い。これによって、アウタパネルの内側面に凹凸面や傾斜面があるような場合にも、アウタパネルの内側面にドアヒンジスチフナーの側面部を密着させることができるようになり、フロントピラーの強度を高めることができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の前部車体構造において、前記ドアヒンジスチフナーは、前記アウタパネルに取り付けられた状態で、前記上面部および前記下面部が水平状態に配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、上面部および下面部が水平状態に配置されるので、例えば、車体のアッパーメンバーからフロントピラーに伝わった衝撃を、ヒンジを介して後方のドア側へ良好に伝達することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前部車体構造において、前記ドアヒンジスチフナーは、前記アウタパネルに取り付けられた状態で、車体前方に配置されたアッパーメンバーと、ドアに設けられたドアビームと、の間に位置することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、アッパーメンバーとドアヒンジスチフナーとドアビームとが直線状に配置される状態となり、衝突時の衝撃は、車体前方に配置されたアッパーメンバーを介してドアヒンジスチフナーに直接的に入力され、ドアヒンジスチフナーからヒンジを介して後方のドア側へ伝達される。したがって、衝突時の衝撃が、アッパーメンバーからドアヒンジスチフナーを介してドアビームへ良好に伝達されることとなり、車体前面側から後面側への荷重伝達がスムーズに行われることとなる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前部車体構造において、前記フロントピラー内には、前記ドアヒンジスチフナーの下方に、上下方向に間隔を隔てて複数の隔壁部材が配置されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、フロントピラー内のドアヒンジスチフナーの下方には複数の隔壁部材が上下方向に間隔を隔てて配置されているので、ドアヒンジスチフナーによる有効な剛性強度を確保しつつフロントピラー内に空間を形成することができ、フロントピラーの強度を高めつつフロントピラーの軽量化を図ることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前部車体構造において、前記ドアヒンジスチフナーの前記上面部および前記下面部は、各端部を屈曲させてL字形状とし、当該L字形状が前記前面部から前記後面部にわたり直線状に形成されていることを特徴とする。
ここで、「前記前面部から前記後面部にわたり」には、L字形状が前面部側から前記後面部側にわたるように形成された構成が含まれる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、上面部および下面部が、各端部を屈曲させてL字形状とされ、このL字形状が前面部から後面部にわたり直線状に形成されているので、車体前後方向の荷重伝達量を増大させることができる。また、仮に、ドアヒンジスチフナーの側面部に段部等が形成されていても、十分に車体前後方向に荷重伝達をすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、衝突時における入力荷重をドア側へ好適に伝達することができる前部車体構造が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る前部車体構造の詳細について説明する。なお、説明において、「前後」、「内(車内)、外(車外)」、「上下」は、前部車体構造を構成するドアヒンジスチフナーを、車体に取り付けた状態を基準とする。
【0020】
参照する図面において、図1は本発明の一実施形態に係る前部車体構造を示す側面図、図2は同じく前部車体構造を示す分解斜視図、図3(a)は図1におけるA−A矢視拡大断面図、図3(b)は図1におけるB−B矢視拡大断面図、図4(a)はドアヒンジスチフナーの側面図、図(b)は同じく分解斜視図である。
【0021】
はじめに、図1,図2を参照して、本実施形態の前部車体構造が適用される自動車1の前部の概略構造について説明する。なお、自動車1の前部の構造は左右対称であり、以下では、右側の構造について説明する。
自動車1の車体の前部には、前部から延びるアッパーメンバー2が設けられ、このアッパーメンバー2の後方に、アウタパネル3およびインナパネル4(図2参照)を備えたフロントピラー10が設けられて、フロントピラー10に設けられたドアヒンジスチフナー20およびドアヒンジ35Aを介してドア35が取り付けられるようになっている。
【0022】
以下各部を詳細に説明する。
アッパーメンバー2は、前端部が図示しないフロントサイドフレームを介してバンパービームに接続されており、図1に示すように、車体後方へ向けて上がり勾配を有して設けられている。したがって、前部衝突時にバンパービームを介してフロントサイドフレームに荷重が入力されると、その入力荷重は、アッパーメンバー2を介してフロントピラー10へ伝達される。
【0023】
フロントピラー10は、前記のようにアウタパネル(フロントピラーアウター)3およびインナパネル4を相互に接合してなり、内部に中空の空間が形成されたボックス状となっている。つまり、本実施形態では、アウタパネル3の内側面に通常配置される補強用のフロントピラースチフナーがフロントピラー10内に設けられていない構成となっている。また、隔壁部材として後記するバルクヘッド40がフロントピラー10内に設けられている。
【0024】
ドアヒンジスチフナー20は、図3に示すように、アウタパネル3の内側面3Aの前後方向に亘る大きさを有しており、アウタパネル3内の各対応する面に溶接により固定されるようになっている。
そのための構造として、ドアヒンジスチフナー20は、アウタパネル3の各面に対応する5面を有した構造体で構成されている。
具体的には、図3(a),図4(a)(b)に示すように、ドアヒンジスチフナー20は、アウタパネル3の内側面3Aに取り付けられる側面部21としての前側面部21B、後側面部21Aと、前側面部21Bの前端に設けられ、アウタパネル3の前部内壁3aに取り付けられる前面部22と、後側面部21Aの後端に設けられ、アウタパネル3の後部内壁3bに取り付けられる後面部25,25(図3(a)では1つのみ図示)と、後側面部21Aの上下端に、相互に平行に設けられた上面部26a(図3(a)では不図示)および下面部26bと、を備えて構成されている。
【0025】
本実施形態では、ドアヒンジスチフナー20が、第1の部材20Aと第2の部材20Bとからなる2部材を相互に溶接接合して構成されるようになっている。
ここで、図4(b)に示すように、第1の部材20Aには、後側面部21A、後面部25,25、上面部26aおよび下面部26bが設けられ、第2の部材20Bには、前側面部21Bおよび前面部22が設けられている。
第1の部材20Aは、前部側の側部が切り欠かれており、この切り欠かれた部分に第2の部材20Bが配置されて接合されるようになっている。そのための構成として、上面部26aおよび下面部26bに沿う固定片27a,27bが設けられている。本実施形態では、この固定片27a,27bを、第1の部材20Aの後側面部21Aよりもアウタパネル3側(同図において手前側)へ突出させており、これによって固定片27a,27bに取り付けられる第2の部材20Bの前側面部21Bは、第1の部材20Aの後側面部21Aよりもアウタパネル3側へ突出するように設けられる。
また、上面部26aの端部は、上方へ折り返されてフランジ部26a’が形成されており、下面部26bの端部は、下方へ折り返されてフランジ部26b’が形成されている。
【0026】
第2の部材20Bは、図4(b)に示すように、舌片状の部材であり、前側面部21Bの前端が折曲されて前面部22が設けられており、また、前側面部21Bの後端が傾斜部24aを介して後方へ延設されて後端部24bが設けられている。
このような第2の部材20Bは、図4(a)に示すように、前側面部21Bの上下縁が第1の部材20Aの固定片27a,27bに接合され、後端部が第1の部材20Aの後側面部21Aの切欠縁21A’に接合されることで、第1の部材20Aに固定されるようになっている。
本実施形態では、このように第1の部材20Aに第2の部材20Bが接合された状態で、ドアヒンジスチフナー20の後側面部21A、前側面部21Bが、アウタパネル3の内側面3Aに略密着した状態に接合されるようになっている。
【0027】
そして、このように2つの部材から構成されたドアヒンジスチフナー20は、図3(a)に示すように、アウタパネル3の内側面3Aに前側面部21Bおよび後側面部21Aが接合され、アウタパネル3の前部内壁3aに前面部22が接合され、さらに、アウタパネル3の後部内壁3bに後面部25,25が接合されることで、アウタパネル3に取り付けられる。つまり、アウタパネル3に取り付けられた状態でドアヒンジスチフナー20は、後側面部21A、前側面部21Bがアウタパネル3の内側面3A側から車外を向くように配置される。
【0028】
図3(b)に示すように、アウタパネル3の内側面3Aには、ドアヒンジスチフナー20の取付位置に対応して突部3cが車内側へ向けて突設されており、この突部3cは、ドアヒンジスチフナー20の固定片27a,27b間に位置して、前側面部21Bに当接可能となっている。したがって、ドアヒンジスチフナー20をアウタパネル3の内側面3Aに位置決めする際には、固定片27a,27b間に突部3cを位置合わせすることで、ドアヒンジスチフナー20をアウタパネル3の内側面3Aの略所定位置に配置することができる。
【0029】
アウタパネル3へのヒンジ35Aの固定は、図3(a)に示すように、2本のボルト36を用いて行う。つまり、アウタパネル3の外側からヒンジ35Aをあてがい、ヒンジ35Aに設けたボルト孔37,37から、アウタパネル3に設けた挿通孔3d,3d、およびドアヒンジスチフナー20の挿通孔23,23にボルト36,36を挿通し、これらをナット38,38で固定することによって、ヒンジ35Aをアウタパネル3に固定することができる。
【0030】
本実施形態では、ドアヒンジスチフナー20が、アウタパネル3(フロントピラー10)に取り付けられた状態で、図3(b)に示すように、上面部26aおよび下面部26bが水平状態に配置されるようになっている。
また、ドアヒンジスチフナー20は、図1に示すように、アウタパネル3(フロントピラー10)に取り付けられた状態で、車体前方に配置されたアッパーメンバー2と、ドア35に設けられたドアビーム39と、の間に位置するようになっている。つまり、アッパーメンバー2からドアヒンジスチフナー20を介してドアビーム39までが、車体前後方向に略直線状に配置されるようになっている。
【0031】
図2に示すように、フロントピラー10内には、ドアヒンジスチフナー20の下方に、上下方向に間隔を隔てて複数の隔壁部材としてのバルクヘッド40が配置されている。
バルクヘッド40は、側部全周に側壁を有しており、フロントピラー10を組み立てる際には、アウタパネル3およびインナパネル4に対向して配置される側壁をアウタパネル3およびインナパネル4に対して溶接することによって固定される。
【0032】
なお、下方のドアヒンジ35Bを固定するのには、アウタパネル3の内側面側からスチフナー30をあてがって、これを内側面に溶接して固定するとともに、この固定したスチフナー30を用いてこれらを2本の図示しないボルトで固定することにより行う。具体的には、2本の図示しないボルトをドアヒンジ35Bのボルト孔37,37からアウタパネル3の挿通孔3e,3eに通し、さらに、スチフナー30のボルト孔31,31に通してこれらを図示しないナットで固定する。これによって、ドアヒンジ35Bをアウタパネル3に固定することができる。
【0033】
次に、前部衝突時に、車体に荷重が入力されたときの作用について図5、図6を参照して説明する(適宜図1〜図4参照)。
図5(a)に示すように、前部衝突時にバンパービームからフロントサイドフレームを通じてアッパーメンバー2に図中矢印で示すような荷重が入力されると、その入力荷重は、アッパーメンバー2からフロントピラー10に伝達される。フロントピラー10には、アウタパネル3の内側面3Aの前後方向に亘る大きさを備えてその側面部21(前側面部21B,後側面部21A)がアウタパネル3の内側面3Aに接合され、前面部22がアウタパネル3の前部内壁3aに接合されるとともに、後面部25,25がアウタパネル3の後部内壁3bに接合されたドアヒンジスチフナー20が設けられているので、フロントピラー10に入力された衝撃によってフロントピラー10が変形し難くなり、さらに、フロントピラー10に伝わった衝撃を、ヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ効率よく伝達させることができる。
【0034】
ここで、仮にこのようなドアヒンジスチフナー20をフロントピラー10が備えておらず、図5(b)に示すように、一般的な短いスチフナー30(図1,図2において、ドア35の下側のドアヒンジ35Bに使用されるようなスチフナー30)が上側のヒンジ35Aに対して使用されているとすると、次のような不具合を生じるおそれがある。
つまり、図5(b)(c)に示すように、前部衝突時にこの図では不図示のアッパーメンバー2を介して図中矢印で示すように荷重が入力されると、その入力荷重によって、スチフナー30の側方部分33でフロントピラー10のアウタパネル3が変形するおそれがあり、その影響で、ヒンジ35Aが傾いてドア35が開放するおそれが生じる(図5(c)参照)。
【0035】
これに対して、本実施形態では、ドアヒンジスチフナー20が、前記のように、フロントピラー10を補強する構造であるので、図5(a)に示すように、フロントピラー10に入力された衝撃によってフロントピラー10が変形し難く、ヒンジ35Aが傾き難くなってドア35が開放するのを好適に防止することができる。さらに、フロントピラー10に伝わった衝撃を、ヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ効率よく伝達させることができ、ドア35には、図示しないセンターピラーへ向けて荷重が入力されることとなるので、ドア35が開放するのを好適に防止することができる。
【0036】
なお、図5(b)に示すように、一般的な短いスチフナー30を用いる場合には、図6に示すように、通常、アウタパネル3の内側にアウタパネル3の内側面に固定される大きなフロントピラースチフナー50を配置してフロントピラー10の補強を行っている。このため、一般的な短いスチフナー30を用いた場合には、フロントピラー10の重量が増すという別の難点も有している。
【0037】
これに対して、本実施形態では、図1,図2に示すように、ドアヒンジスチフナー20を設けることで、ヒンジ35A部分を中心としたフロントピラー10の剛性が高められ、さらに、ドアヒンジスチフナー20の下方に所定の間隔を置いて複数配置されたバルクヘッド40によって、ドアヒンジスチフナー20の下方におけるフロントピラー10の剛性が高められるので、前記したようなフロントピラースチフナー50を排除して、フロントピラー10の軽量化を図ることができる。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、ドアヒンジスチフナー20は、フロントピラーを構成するアウタパネル3の内側面の前後方向に亘る大きさを備えて側面部21が当該内側面に取り付けられ、前面部22と後面部25,25とがアウタパネル3の前部内壁3aおよび後部内壁3bへ取り付けられるので、車体前部が衝突した際に、アッパーメンバー2からフロントピラー10に伝わった衝撃によって、フロントピラー10が変形し難くなり、さらに、フロントピラー10に伝わった衝撃を、ヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ伝達させることができる。
これによって、ヒンジ35A部分で変形等が生じ難くなり、衝突時における意図しないドア35の開放を好適に防止することができる。
【0039】
また、ドアヒンジスチフナー20は、側面部21の上下端に、相互に平行に設けられた上面部26aおよび下面部26bを備えているので、これら上面部26aおよび下面部26bが、側面部21の前後方向の強度を高める折り返しとして機能し、衝突等の際に、車体の前後方向に沿う曲げ荷重に対して有効な剛性強度を確保することができる。
したがって、フロントピラー10に伝わった衝撃によって、フロントピラー10が変形し難くなり、これによって、フロントピラー10に伝わった衝撃を、ヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ伝達させることができる。
【0040】
また、上面部26aの端部が上方へ折り返されて上面部26aがL字形状に形成され、下面部26bの端部が下方へ折り返されて下面部26bがL字形状に形成され、これによってフランジ部26a’,26b’がそれぞれ形成されているので、衝突等の際に、車体の前後方向に沿う曲げ荷重に対してより有効な剛性強度を確保することができるとともに、車体の前後方向の荷重伝達量を増大させることができる。
また、ドアヒンジスチフナー20の側面部21の形状の影響を受けずに、車体の前後方向に十分に荷重伝達をすることができる。
【0041】
また、ドアヒンジスチフナー20は、第1の部材20Aに第2の部材20Bを接合することで構成されるので、フロントピラー10のアウタパネル3の形状に対応させた成形が行い易い。これによって、アウタパネル3の内側面に凹凸面や傾斜面があるような場合にも、アウタパネル3の内側面にドアヒンジスチフナー20の側面部21を密着させることができるようになり、フロントピラー10の強度を高めることができるようになる。
【0042】
また、ドアヒンジスチフナー20は、アウタパネル3に取り付けられた状態で、上面部26aおよび下面部26bが水平状態に配置されるので、アッパーメンバー2からフロントピラー10に伝わった衝撃を、ヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ良好に伝達することができる。
【0043】
さらに、ドアヒンジスチフナー20は、アウタパネル3に取り付けられた状態で、車体前方に配置されたアッパーメンバー2と、ドア35に設けられたドアビーム39との間に位置するので、アッパーメンバー2とドアヒンジスチフナー20とドアビーム39とが直線状に配置される状態となり、衝突時の衝撃は、車体前方に配置されたアッパーメンバー2を介してドアヒンジスチフナー20に直接的に入力され、ドアヒンジスチフナー20からヒンジ35Aを介して後方のドア35側へ伝達される。したがって、衝突時の衝撃が、アッパーメンバー2からドアヒンジスチフナー20を介してドアビーム39へ良好に伝達されることとなり、車体前後方向の荷重伝達がスムーズに行われることとなる。
【0044】
また、フロントピラー10内には、ドアヒンジスチフナー20の下方に、上下方向に間隔を隔てて複数のバルクヘッド40が配置されているので、ドアヒンジスチフナー20による有効な剛性強度を確保しつつフロントピラー10内に空間を形成することができ、フロントピラー10の強度を高めつつ軽量化を図ることができる。
【0045】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されず、発明の主旨に応じた適宜の変更実施が可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施形態では、ドアヒンジスチフナー20を2つの部材からなる構成としが、これに限られることはなく3つ以上の部材から構成してもよい。また、1つの部材で一体的に構成してもよい。
また、ドアヒンジスチフナー20の形状は、アウタパネル3の内側面3Aの形状等に合わせて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る前部車体構造を示す側面図である。
【図2】同じく前部車体構造を示す分解斜視図である。
【図3】(a)は図1におけるA−A矢視拡大断面図、(b)は図1におけるB−B矢視拡大断面図である。
【図4】(a)はドアヒンジスチフナーの側面図、(b)は同じく分解斜視図である。
【図5】(a)は作用説明図、(b)(c)は本発明の一実施形態に係るドアヒンジスチフナーを用いずに他のスチフナーを用いたときの作用説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るドアヒンジスチフナーを用いずに他のスチフナを用いたときの説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 自動車
2 アッパーメンバー
3 アウタパネル
3A 内側面
3a 前部内壁
3b 後部内壁
4 インナパネル
10 フロントピラー
20 ドアヒンジスチフナー
20A 第1の部材
20B 第2の部材
21 側面部
21A 後側面部
21B 前側面部
22 前面部
25 後面部
26a 上面部
26b 下面部
35 ドア
35A ヒンジ
35B ヒンジ
39 ドアビーム
40 バルクヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラー内にドアヒンジスチフナーが設けられた前部車体構造であって、
前記ドアヒンジスチフナーは、
前記フロントピラーを構成するアウタパネルの内側面の前後方向に亘る大きさを備えて当該内側面に取り付けられる側面部と、
前記側面部の前端に設けられ、前記アウタパネルの前部内壁に取り付けられる前面部と、
前記側面部の後端に設けられ、前記アウタパネルの後部内壁に取り付けられる後面部と、
前記側面部の上下端に、相互に平行に設けられた上面部および下面部と、
からなる構造体で構成されていることを特徴とする前部車体構造。
【請求項2】
前記ドアヒンジスチフナーは、前記上面部および前記下面部を少なくとも有する第1の部材と、この第1の部材に接合され、前記前面部および前記後面部の少なくとも一方を有する第2の部材とを備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載の前部車体構造。
【請求項3】
前記ドアヒンジスチフナーは、前記アウタパネルに取り付けられた状態で、前記上面部および前記下面部が水平状態に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の前部車体構造。
【請求項4】
前記ドアヒンジスチフナーは、前記アウタパネルに取り付けられた状態で、車体前方に配置されたアッパーメンバーと、ドアに設けられたドアビームと、の間に位置することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前部車体構造。
【請求項5】
前記フロントピラー内には、前記ドアヒンジスチフナーの下方に、上下方向に間隔を隔てて複数の隔壁部材が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前部車体構造。
【請求項6】
前記ドアヒンジスチフナーの前記上面部および前記下面部は、各端部を屈曲させてL字形状とし、当該L字形状が前記前面部から前記後面部にわたり直線状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−56138(P2008−56138A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236549(P2006−236549)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】