説明

剥離処理装置および方法

【課題】下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を破損させることなく剥離させることができる剥離処理装置および方法を提供する。
【解決手段】剥離処理装置100は、サファイア基板210が上側でGaN膜220が下側の状態のサファイア/GaN構造体200を基板支持部120で下面中央で下方から支持し、支持されたサファイア/GaN構造体200を所定温度まで加熱し、加熱されているサファイア/GaN構造体200に上方からレーザ光LRを照射する。このため、加熱機構130の加熱によりサファイア/GaN構造体200が下方に凹状に湾曲しても、その外縁部が処理装置本体110の内部底面に接触することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を剥離させるための剥離処理装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、窒化ガリウム(GaN)を用いた半導体デバイスを作製するにあたっては、成長させるエピタキシャルGaN層と同じ物質のバルクGaN結晶からなる基板を用いることが望ましい。
【0003】
バルクGaN結晶作製の試みは多くの研究機関で行なわれている。しかしながら、GaN結晶では、窒素の解離圧が高いことにより、大型の結晶を得ることが難しく、工業的に利用できるバルクGaN結晶の作製は非常に困難であった。
【0004】
このため、GaN半導体基板を製造する方法として、サファイア(Al23)基板上に、HVPE装置を用いてGaN膜(膜厚300μm以上)を成長させ、Al23−GaN複合材料(以下、サファイア/GaN構造体とする)を得た後、サファイア/GaN構造体のサファイア基板からGaN膜を分離することで半導体デバイス作成用のGaN半導体基板を作製することが行われている。
【0005】
サファイア/GaN構造体10のサファイア基板11からGaN膜12を分離する従来の方法として、図4に示すように、サファイア/GaN構造体10を平面状の加熱炉底板20の上にサファイア基板11が上側、GaN膜12が下側となるように載置し、600℃から1000℃の範囲で加熱後、上方よりレーザ光を照射する剥離処理方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−57119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようにサファイア/GaN構造体10を配置した場合、サファイア/GaN構造体10は、サファイア基板11とGaN膜12との熱収縮率の差異のため、高温では下面が凹状となるように変形し、室温付近では下面が凸状となるように変形する。
【0007】
温度を変えたときの曲率半径の変化を図2に示す。横軸が温度であり、縦軸は曲率半径の逆数である。縦軸の値が大きいほど、凹化、及び、凸化が大きいことを示す。600℃付近で平坦になる。600℃以上の温度ではサファイア/GaN構造体10の下面が凹状になる。
【0008】
従って、特許文献1に記載の方法では、600℃以上の加熱により下面が凹状になるようにサファイア/GaN構造体10が変形し、加熱炉底板20とサファイア/GaN構造体10の接触はサファイア/GaN構造体10の外縁部のみとなる。
【0009】
この外縁部において局所的な荷重集中や、剥離に伴う再変形によりGaN膜12と加熱炉底板20との摩擦が生じる。この荷重集中や摩擦により外縁部に応力が集中しクラックが発生する。本発明者が実際に特許文献1に記載の方法で試験したところ、図5に示すように、サファイア/GaN構造体10の外縁部が破損した。
【0010】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を破損させることなく剥離させることができる剥離処理装置および方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の剥離処理装置は、下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を剥離させるための剥離処理装置であって、構造体が内部に配置される中空の処理装置本体と、処理装置本体の内部底面に設置されていて下地基板が上側で半導体膜が下側の状態の構造体を下面中央で下方から支持する基板支持部と、支持された構造体を所定温度まで加熱する加熱機構と、支持された構造体に上方からレーザ光を照射するレーザ照射部と、を有する。
【0012】
従って、本発明の剥離処理装置による剥離処理方法では、下地基板が上側で半導体膜が下側の状態の構造体を下面中央で下方から支持し、支持された構造体を所定温度まで加熱し、加熱されている構造体に上方からレーザ光を照射する。このため、加熱機構の加熱により構造体が下方に凹状に湾曲しても、その外縁部が処理装置本体の内部底面に接触することを防止できる。
【0013】
また、本発明の剥離処理装置において、基板支持部は、加熱機構の加熱により湾曲しても外縁部が処理装置本体の内部底面に接触しない位置に構造体を支持してもよい。
【0014】
また、本発明の剥離処理装置において、基板支持部がセラミックで形成されていてもよい。
【0015】
また、本発明の剥離処理装置において、基板支持部がセラミックテープからなってもよい。
【0016】
また、本発明の剥離処理装置において、半導体膜がIII族窒化物半導体膜からなってもよい。
【0017】
また、本発明の剥離処理装置において、半導体膜が窒化ガリウム膜からなってもよい。
【0018】
また、本発明の剥離処理装置において、下地基板がサファイア基板からなってもよい。
【0019】
本発明の薄膜処理方法は、下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を剥離させる剥離処理方法であって、下地基板が上側で半導体膜が下側の状態の構造体を下面中央で下方から支持し、支持された構造体を所定温度まで加熱し、加熱されている構造体に上方からレーザ光を照射する。
【0020】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の剥離処理装置による剥離処理方法では、下地基板が上側で半導体膜が下側の状態の構造体を下面中央で下方から支持し、支持された構造体を所定温度まで加熱し、加熱されている構造体に上方からレーザ光を照射する。このため、加熱機構の加熱により構造体が下方に凹状に湾曲しても、その外縁部が処理装置本体の内部底面に接触することを防止できる。従って、構造体の外縁部に局所的な荷重集中や摩擦が発生することがないので、クラックなどを発生させることなく下地基板から半導体膜を剥離させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して以下に説明する。本実施の形態の剥離処理装置100は、下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の下地基板から半導体膜を剥離させるために利用される。
【0023】
本実施の形態では、半導体膜はIII族窒化物半導体膜である窒化ガリウムのGaN膜220からなり、下地基板はサファイア基板210からなる。このため、処理対象の構造体は、サファイア/GaN構造体200からなる。
【0024】
そして、本実施の形態の剥離処理装置100は、図1に示すように、サファイア/GaN構造体200が内部に配置される中空の処理装置本体110と、処理装置本体110の内部底面に設置されていてサファイア基板210が上側でGaN膜220が下側の状態のサファイア/GaN構造体200を下面中央で下方から支持する基板支持部120と、支持されたサファイア/GaN構造体200を所定温度まで加熱する加熱機構130と、支持されたサファイア/GaN構造体200に上方からレーザ光LRを照射するレーザ照射部140と、を有する。
【0025】
より詳細には、基板支持部120は、耐熱性の柔軟なセラミックであるセラミックテープからなる。加熱機構130の加熱により湾曲しても外縁部が処理装置本体110の内部底面に接触しない位置にサファイア/GaN構造体200を支持する。
【0026】
なお、サファイア/GaN構造体200とは、サファイア基板210上にGaN膜220が形成されてなる立体サファイア/GaN構造体200を意味する。
【0027】
上述のような構成において、本実施の形態の剥離処理装置100による剥離処理方法では、サファイア基板210が上側でGaN膜220が下側の状態のサファイア/GaN構造体200を下面中央で下方から支持する。
【0028】
このような状態で、支持されたサファイア/GaN構造体200を600℃から1000℃の範囲に加熱し、この加熱されているサファイア/GaN構造体200に上方からレーザ光LRを照射する。
【0029】
このとき、波長266nmのNd:YAGレーザ光LRを50μm/sで水平面内を移動させてサファイア/GaN構造体200全体に隈なく照射する。
【0030】
このレーザー照射により、GaN膜220とサファイア基板210との界面近傍においてGaN膜220の熱分解が起こり、この結果、サファイア基板210からGaN膜220が剥離する。
【0031】
このとき、前述のようにサファイア/GaN構造体200は、サファイア基板210とGaN膜220との熱収縮率の差異のため、図2に示すように、高温では下面が凹状となるように変形する。
【0032】
しかし、このサファイア基板210は、下面中央で基板支持部120により下方から支持されているので、上述のように下方に凹状に湾曲しても、その外縁部が処理装置本体110の内部底面に接触しない。
【0033】
このため、サファイア/GaN構造体200の外縁部に局所的な荷重集中や摩擦が発生することがないので、クラックなどを発生させることなくサファイア基板210からGaN膜220を剥離させることができる。
【0034】
しかも、本実施の形態の剥離処理装置100では、基板支持部120が耐熱性の柔軟なセラミックテープからなるので、剥離中のサファイア/GaN構造体200を緩衝することができる。
【0035】
なお、本発明者は実際に上述のような剥離処理装置100を試作してサファイア/GaN構造体200を処理した。すると、図3に示すように、クラック等が発生することなく2インチのGaN膜220を剥離させることができた。
【0036】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では基板支持部120が耐熱性の柔軟なセラミックテープからなることを例示した。
【0037】
しかし、基板支持部120は、サファイア/GaN構造体200の外縁部が加熱炉底板と接触しない程度にサファイア/GaN構造体200を下から支えるため、600℃以上の耐熱性のある部材であれば、石英やカーボン等何を用いてもよい。
【0038】
また、基板支持部120は、サファイア/GaN構造体200の外縁部と接触しないように、直径はサファイア/GaN構造体200より充分に小さく、高さはサファイア/GaN構造体200の変形より充分に高いことが望ましい。
【0039】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造や数値などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の剥離処理装置の内部構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図2】サファイア/GaN構造体の温度と変形との関係を示す特性図である。
【図3】本発明の実施の形態の剥離処理方法で剥離させたGaN膜を示す模式図である。
【図4】一従来例の剥離処理装置の内部構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図5】従来の剥離処理方法で剥離させたGaN膜を示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 構造体
11 サファイア基板
12 GaN膜
20 加熱炉底板
100 剥離処理装置
110 処理装置本体
120 基板支持部
130 加熱機構
140 レーザ照射部
200 構造体
210 サファイア基板
220 GaN膜
LR レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の前記下地基板から前記半導体膜を剥離させるための剥離処理装置であって、
前記構造体が内部に配置される中空の処理装置本体と、
前記処理装置本体の内部底面に設置されていて前記下地基板が上側で前記半導体膜が下側の状態の前記構造体を下面中央で下方から支持する基板支持部と、
支持された前記構造体を所定温度まで加熱する加熱機構と、
支持された前記構造体に上方からレーザ光を照射するレーザ照射部と、
を有する剥離処理装置。
【請求項2】
前記基板支持部は、前記加熱機構の加熱により湾曲しても外縁部が前記処理装置本体の内部底面に接触しない位置に前記構造体を支持する請求項1に記載の剥離処理装置。
【請求項3】
前記基板支持部がセラミックで形成されている請求項1または2に記載の剥離処理装置。
【請求項4】
前記基板支持部がセラミックテープからなる請求項3に記載の剥離処理装置。
【請求項5】
前記半導体膜がIII族窒化物半導体膜からなる請求項1ないし4の何れか一項に記載の剥離処理装置。
【請求項6】
前記半導体膜が窒化ガリウム膜からなる請求項5に記載の剥離処理装置。
【請求項7】
前記下地基板がサファイア基板からなる請求項1ないし6の何れか一項に記載の剥離処理装置。
【請求項8】
下地基板に半導体膜が成膜されている構造体の前記下地基板から前記半導体膜を剥離させる剥離処理方法であって、
前記下地基板が上側で前記半導体膜が下側の状態の前記構造体を下面中央で下方から支持し、
支持された前記構造体を所定温度まで加熱し、
加熱されている前記構造体に上方からレーザ光を照射する剥離処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−70994(P2009−70994A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237037(P2007−237037)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】