説明

副腎皮質ステロイド合成を阻害しないエトミデート類似体

本発明は、式(I)の化合物に関し、式中、R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;nは0〜5の整数であり;各R3は独立してハロゲンまたはR2であり;R4およびR5は独立してH、ハロゲン、CN、またはCF3であり;L1およびL2は各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり;かつTは、H、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、ニトロフェノール、またはシクロプロピルである。本発明はまた、式(I)の化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関し、かつこのような薬学的組成物を投与する工程により哺乳動物に麻酔を提供するための方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月10日付で出願された米国特許仮出願第61/224,751号の米国特許法第119条(e)の下の恩典を主張し、この内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援
本発明は、国立衛生研究所より授与された助成金第P01-58448号からの政府支援でなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、改善された薬物動態学的特性および薬力学的特性を有するエトミデート類似体ならびに麻酔薬としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
米国における敗血症の発生は、年間約750,000例であり、死亡率は30〜50%、年間コストは170億ドルである(Hotchkiss, R. S.およびI. E. Karl, The pathophysiology and treatment of sepsis. N Engl J Med, 2003. 348(2):p.138-50(非特許文献1))。重症の場合、敗血症は、重度の低血圧症、過度の血管拡張、ショック、および多臓器不全を伴うことが多い。敗血症患者は、通常、挿管および手術等の重要な治療介入において全身麻酔を必要とする。残念ながら、全ての全身麻酔は、特に敗血症危篤状態患者において、重大かつ潜在的に生命を危うくする副作用を生じる。ほぼ全ての麻酔薬によって生じる心血管機能低下は、最大の懸念である。
【0005】
エトミデートは、極めて強力な静脈内麻酔薬であり、心血管安定性を維持するその能力において他の全身麻酔薬と区別される。エトミデートは、およそ2μMの濃度でオタマジャクシにおいて立ち直り反射の消失(Husain, S.S., et al., 2-(3-Methyl-3H-diaziren-3-yl)ethyl 1-(1-phenylethyl)-1H-imidazole-5-carboxylate: a derivative of the stereoselective general anesthetic etomidate for photolabeling ligand-gated ion channels. J Med Chem, 2003. 46(7):p.1257-1265(非特許文献2))およびヒトにおいて応答の消失(Arden, J.R., F.O. Holley, and D.R. Stanski, Increased sensitivity to etomidate in the elderly: initial distribution versus altered brain response. Anesthesiology, 1986. 65(1):19-27(非特許文献3))を誘導する。分子レベルで、エトミデートがGABAA受容体の機能を調節することによって麻酔をもたらすという有力な証拠がある(Jurd et al., Faseb J (2003)17(2):250-2(非特許文献4)、およびRusch et al., J Biol Chem (2004) 279(20): 20982-92(非特許文献5))。エトミデートは低濃度のGABAによって誘発されるGABAA受容体を介した電流を増強するが、高濃度のGABAによって誘発される電流に対する効果は小さい。これはGABA濃度反応曲線を左方に移動し、GABA EC50を低減する。この受容体機構は、プロポフォールの麻酔作用も説明するものと考えられている。
【0006】
エトミデートがGABAA受容体のどこに作用することにより麻酔がもたらされるのかについては、理解が深まっている。光親和性標識法により、エトミデート結合部位に寄与するGABAA受容体中の2個のアミノ酸が同定された:αサブユニット上のMet-236およびβサブユニット上のMet-286(Li et al., J Nurosci (2006)26(45):11599-605(非特許文献6))。シビレエイのアセチルコリン受容体構造に基づくGABAA受容体の構造類似性モデリングは、これらの二つのアミノ酸が、αとβのサブユニット間の境界面に位置する麻酔薬結合ポケットに寄与することを強く示唆する。この結論は、これらのアミノ酸をトリプトファンに変異させるとエトミデートに対する受容体の感受性が減弱されることを示す変異原性試験により支持される(Stewart et al., Mol Pharmacol (2008) 74(6): 1687-95(非特許文献7))。
【0007】
例えばエトミデートの使用から最も恩恵を受ける可能性がある敗血症の患者などの、危篤状態患者においては特に、ステロイド合成の阻害は、エトミデート投与による潜在的に命にかかわる副作用である。この阻害は極めて強力であり、全身麻酔をもたらすために使われる濃度を下回るエトミデート濃度で起こる。これは、連続的にエトミデートを注入された危篤状態患者において死亡率の著しい増加を引き起こすため、大変危険でもある。例えば、Watt, I., and I.M. Ledingham, Anaesthesia (1984)39(10):973-81(非特許文献8)は、危篤状態の外傷患者は一般的には昇圧剤を必要とし(P<0.0001)、エトミデートで鎮静させた場合、年齢、性別、および外傷重要度スコアを対応させた後でもベンゾジアゼピンの場合と比較して約三倍高い死亡率(77%対28%;P<0.0005)であったことを遡及的に見いだした。そのステロイド合成への影響から、エトミデートは、遷延した持続注入として危篤状態患者に安全に投与することがでず、敗血症患者における麻酔導入のための単回静脈内ボーラス用量の投与さえも最近、懸念が示された。外因性ステロイドを経験的に投与することによって罹患率および死亡率を低減する可能性があることが示唆されているが(Ray, D.C. and D.W. McKeown, Crit Care (2007)11(3):R56(非特許文献9))、この手法は、どのような患者においても、ステロイド治療の投薬、適時選択および持続時間が推論的でありうるため準最適である。さらに、外因性ステロイドの投与はそれ自体が、グルコース恒常性の変化および創傷治癒の障害、ならびに免疫抑制を含む重篤な合併症を(特に敗血症の場合に)もたらすこともある。これらの合併症は、少なくとも部分的に、外因性ステロイドが昇圧剤の必要性を低下させるものの、副腎皮質機能不全を有すると見なされる危篤状態患者においても生存率を改善しないことを示すCORTICUS研究の結果を説明するものであることが示唆されている(Sprung et al., N Engl J Med (2008) 358(2):111-24(非特許文献10))。
【0008】
エトミデートは、コルチゾール、コルチコステロン、およびアルドステロンの生合成のために重要なチトクロムP450酵素である11βヒドロキシラーゼ(即ち、CYP11B1)に主に結合し、これを阻害することによって副腎皮質ステロイド合成を抑制する(de Jong et al., J Clin Endocrinol Metab (1984)59(6):1143-7(非特許文献11)を参照のこと)。エトミデートの最大半量阻害濃度(IC50)は、その催眠/麻酔濃度よりも桁違いに低い濃度範囲、低ナノモル濃度の範囲である(Lamberts, et al., J Pharmacol Exp Ther (1987)240(1):259-64(非特許文献12)、およびRoumen et al., J Comput Aided Mol Des (2007)21(8):455-71(非特許文献13))。
【0009】
様々なチトクロムP450酵素に対するイミダゾール含有薬物(例えば、ケトコナゾール)に関する以前の結晶解析による研究は、該薬物のイミダゾール環と酵素の触媒部位に存在するヘム鉄との間の高親和性結合が強力な引力相互作用(「配位」)を必要とし、(Zhao et al., J Biol Chem (2006)281(9):5973-81(非特許文献14)、Podust et al., Proc Natl Acad Sci USA (2001)98(6):3068-73(非特許文献15)、およびVerras et al, Protein Eng Des Sel (2006)19(11):491-6(非特許文献16))、チトクロムP450酵素(11β-ヒドロキシラーゼを含む)はその触媒部位に補欠分子族ヘムを含むことを示した。11β-ヒドロキシラーゼは未だに結晶化されておらず、またそのエトミデートとの相互作用も明らかにされていないが、エトミデートの11β-ヒドロキシラーゼへの高親和性結合もエトミデートのイミダゾール環の塩基性窒素と酵素のヘム鉄との間の配位を必要とすることが相同性モデリング研究により示唆された。これにより、11β-ヒドロキシラーゼへの高親和性結合(従って抗アドレナリン活性)を、この塩基性窒素をヘム鉄と配位できない他の化学基と置き換えることにより(強力な麻酔活性およびGABAA受容体活性を乱すことなく)エトミデートより「取り除く設計」が可能であり得るという予測に至った。これは臨床的に意義のある用量において、強力な麻酔およびGABAA受容体調節活性を可能としつつ、副腎皮質機能を抑制しないため、非常に望ましい特性となり得る。
【0010】
危篤状態患者、特に敗血症の患者で用いるための、より安全な全身麻酔薬が大いに必要である。(R)-エトミデートは、副腎皮質機能のこれほどの強力な阻害剤でなければ、理想的な麻酔剤となる多くの特性(例えば、高度な麻酔能力、ならびに他の剤と比較して心血管系機能に対する効果が低いおよび治療係数が高い)を保有する。
【0011】
したがって、(R)-エトミデートの多くの有益な特性(例えば、速やかな作用の発現、血圧に及ぼす影響がほとんどないこと、高い治療指数)を保持しているが、潜在的に危険な副腎皮質機能阻害を引き起こさない(R)-エトミデートの類似体を開発することが当技術分野において必要である。そのような類似体は、危篤状態の患者にさらに安全に麻酔が施されることを可能にすると考えられる。本発明はその要求に応える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Hotchkiss, R. S.およびI. E. Karl, The pathophysiology and treatment of sepsis. N Engl J Med, 2003. 348(2):p.138-50
【非特許文献2】Husain, S.S., et al., 2-(3-Methyl-3H-diaziren-3-yl)ethyl 1-(1-phenylethyl)-1H-imidazole-5-carboxylate: a derivative of the stereoselective general anesthetic etomidate for photolabeling ligand-gated ion channels. J Med Chem, 2003. 46(7):p.1257-1265
【非特許文献3】Arden, J.R., F.O. Holley, and D.R. Stanski, Increased sensitivity to etomidate in the elderly: initial distribution versus altered brain response. Anesthesiology, 1986. 65(1):19-27
【非特許文献4】Jurd et al., Faseb J (2003)17(2):250-2
【非特許文献5】Rusch et al., J Biol Chem (2004) 279(20): 20982-92
【非特許文献6】Li et al., J Nurosci (2006)26(45):11599-605
【非特許文献7】Stewart et al., Mol Pharmacol (2008) 74(6): 1687-95
【非特許文献8】Watt, I., and I.M. Ledingham, Anaesthesia, (1984)39(10):973-81
【非特許文献9】Ray, D.C. and D.W. McKeown, Crit Care (2007)11(3):R56
【非特許文献10】Sprung et al., N Engl J Med (2008) 358(2):111-24
【非特許文献11】de Jong, et al., J Clin Endocrinol Metab (1984)59(6):1143-7
【非特許文献12】Lamberts, et al., J Pharmacol Exp Ther, (1987)240(1):259-64
【非特許文献13】Roumen et al., J Comput Aided Mol Des (2007)21(8):455-71
【非特許文献14】Zhao et al., J Biol Chem (2006)281(9):5973-81
【非特許文献15】Podust et al., Proc Natl Acad Sci USA (2001)98(6):3068-73
【非特許文献16】Verras et al, Protein Eng Des Sel (2006)19(11):491-6
【発明の概要】
【0013】
本発明は、式(I)による化合物に関する。

式中、
R1は、L1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立してハロゲンまたはR2であり;
R4およびR5は独立して水素、ハロゲン、CN、またはCF3であり;
L1およびL2は、各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;かつ
Tは、H、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0014】
式(I)の化合物は、その薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体を含む。
【0015】
式(I)の化合物は、望ましくない副作用の低下と共に等価なまたは改善された麻酔特性を可能にする、(R)-エトミデートに比べて改善された薬物動態学的特性および薬力学的特性を有する。式(I)の化合物は、(R)-エトミデートの有益な麻酔特性を保持するが、臨床的に有意な副腎皮質機能阻害を引き起こさないエトミデートの類似体である。
【0016】
本発明の別の局面は、式(I)による化合物の有効量および薬学的に許容される担体を含む薬学的麻酔組成物に関する。
【0017】
本発明の別の局面は、式(I)の有効な麻酔化合物または薬学的組成物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物に麻酔を提供するための方法に関する。
【0018】
本発明の別の局面は、麻酔を必要としている対象に麻酔を提供するための製剤としての、または該対象に麻酔を提供するための製剤の製造における、実質的に本明細書に記載の式(I)の化合物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】エトミデート(エチル3-(1-フェニルエチル)イミダゾール-4-カルボン酸)、カルボエトミデート(エチル3-(1-フェニルエチル)ピロール-2-カルボン酸)、MOC-エトミデート、MOC-カルボエトミデート、およびカルボエトミデートの類似体の構造を示す図である。
【図2】図2Aおよび2Bは、オタマジャクシにおける立ち直り反射の消失(LORR)に関するカルボエトミデート濃度反応曲線を示す。図2Aにおいて各データ点は、オタマジャクシ一匹から得た結果を示す。図2Bにおいて、各データ点は、オタマジャクシ5匹の平均を表す。曲線は、Waud DR, J Pharmacol Exp Ther, (1972)183(3):577-607に記載の方法を用いてデータセットについてフィットさせたものである。合計40匹のオタマジャクシを用いてこの濃度反応曲線を定義した。
【図3】10μMのカルボエトミデートによりアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞において発現されたヒトα1β2γ2L GABAA受容体(図3A)およびエトミデート非感受性の変異体α1β2M286Wγ2L GABAA(図3B)が媒介する電流の増強を実証している、電気生理学的トレースを示す。これらの結果は、カルボエトミデートがエトミデートとしてGABAA受容体の同じ部位に結合することを示す。1番目と最後のトレースは対照である(即ち、麻酔薬無し)。真ん中のトレースはカルボエトミデートの増強効果を示す。図3Aにおける全ての電流は同一の細胞で誘起され、同様に図3Bにおける全ての電流も同一の細胞で誘起された。
【図4】カルボエトミデートによるヒトγ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体機能の調節のさらなる例を示す。図4Aは、EC5-10γ-アミノ酪酸により誘起された場合の、10μMのカルボエトミデートによる、野生型受容体に媒介される電流の可逆的な増強を示すトレースである。図4Bは、EC5-10γ-アミノ酪酸により誘起された場合の、10μMのカルボエトミデートによる、エトミデート非感受性の変異体受容体に媒介される電流の最小の増強を示すトレースである。
【図5】H295R副腎皮質細胞によるコルチゾール合成の阻害の麻酔濃度反応曲線を示すグラフである。カルボエトミデートはコルチゾール産生の阻害剤としてエトミデートより少なくとも三桁作用が弱いことに留意すべきである。
【図6】図6Aは、静脈内ボーラス投与後のラットにおけるLORRに関する麻酔用量反応曲線を示すグラフである。各データ点は、ラット一匹から得たものである。図6Bは、麻酔用量および麻酔投与後にラットが立ち直るために必要とした時間の関係を示すグラフである。各データ点は、ラット一匹から得たものである。
【図7】図7Aは、等しい麻酔用量のプロポフォール、エトミデート、およびカルボエトミデートの投与後のラットにおける平均血圧の時間に対する経時的プロットを示し、カルボエトミデートがプロポフォールまたはエトミデートよりも顕著に少なく血圧を低下させることを実証する。各点は30秒の基準時点の間の平均を表す。エラーバーは標準偏差である。全ての麻酔薬は、そのLORRのED50の2倍の用量で投与された。プロポフォールおよびエトミデートの群において、ラットはn=3であった。カルボエトミデート群において、ラットはn=4であった。図7Bは、ラットにおける平均血圧に対する14mg/kgのカルボエトミデート(n=7)、2mg/kgのエトミデート(n=6)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)媒体のみ(n=4)の効果を示す。睡眠薬は、それぞれのDMSO媒体における立ち直り反応の消失のED50と同等から2倍の用量で投与された。全てのラットは同量のDMSO媒体(350μl/kg)を与えられた。DMSO媒体中の睡眠薬またはDMSO媒体のみは、0時間目に注射された。各データ点はそれぞれの30秒の基準時点の間の平均血圧の平均値(±SD)の変化を表す。:DMSO媒体のみと比べてP<0.05。
【図8】コルチコステロン(副腎皮質ステロイド)の血漿中濃度はカルボエトミデートを投与した15分後に媒体 (対照)と比べて変化なしであったが、それは等しい麻酔用量のエトミデートによって顕著に低減されたことを示す。これらのラットにおいて、コルチコステロン産生を麻酔薬または媒体投与から15分後にACTH1-24で刺激し、次いで血漿中コルチコステロン濃度を15分後に測定した。エトミデートおよびカルボエトミデートの用量は、それぞれのLORRのED50の2倍であった。各群にラット4匹が使用された。エラーバーは標準偏差である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、(R)-エトミデートの有益な特徴(例えば、強力な麻酔薬、麻酔の速やかな導入、血圧に対してほとんどない影響)を維持するが、副腎皮質ステロイド合成に対する影響が実質的に低下している、より安全な(R)-エトミデート類似体に関する。
【0021】
本発明の化合物は、塩基性窒素がCH基で置換されたエトミデートの類似体(R-またはS-鏡像異性体のいずれか)と理解することができる。理論に束縛されるものではないが、CH基による塩基性窒素の置換は、これらの化合物の11β-ヒドロキシラーゼに対する結合親和性を低下させた。本発明の化合物は、さらにコア分子の各種位置に直接的にまたは種々のリンカー基(例えば、-CH2CH2-)により付着された一つまたは複数のさらなる代謝的に不安定なエステル成分で増強されてもよい。エステル成分の遠位には、「尾部」基(例えば、-CH3)があってよい。本発明のさまざまな態様を以下で論じる。
【0022】
本発明は式(I)による化合物に関する。

【0023】
R1は、L1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTである。好ましい態様において、R1は、L1C(O)OTである。
【0024】
R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1である。好ましくは、R2は、CH3等のアルキル、またはCH2CH2C(O)OCH3等のR1のエステルである。最も好ましい態様において、R2はCH3またはCH2CH3である。
【0025】
各R3は独立してハロゲン、ハロゲンの放射性同位体、またはR2である。好ましいハロゲンとしてはフッ素および塩素が含まれる。変数nは、0〜5の整数である。好ましい態様において、nは0〜3におよび、最も好ましくは0である。
【0026】
R4およびR5は独立してH、ハロゲン、CN、またはCF3である。好ましくは、R4およびR5のいずれもハロゲンではなく、CNではなく、かつCF3でないか、またはR4およびR5の少なくとも一方がハロゲン、CN、またはCF3である。さらに好ましくはR4およびR5の少なくとも一方がBrまたはCNである。
【0027】
リンカーL1およびL2は各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンである。アルキレンの骨格は、O、N、またはS等の一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。好ましくは、L1およびL2は各々独立して、結合、または直鎖状C1〜C4アルキレン基である。最も好ましくは、L1は結合またはCH2CH2であり、かつL2はCH2CH2、CH2(CH2)4CH2、またはCH2CH2O(CH2)3である。最も好ましい態様において、L2はCH2CH2である。
【0028】
尾部TはH、置換または非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルまたはC2〜C10アルキニルであってよい。アルキルの骨格はO、NまたはS等の、一つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい。尾部はシクロプロピル、ニトロフェノール、またはその他の適した電子求引基であってもよい。好ましくは、TはC1〜C4アルキル基である。最も好ましくは、TはCH3、CH2CH3、CH2CH2CH2CH3、CH2CH(OH)CH3、またはCH2CH2OCH3である。最も好ましい態様において、TはCH3である。別の最も好ましい態様において、Tはニトロフェノールである。なおいっそうさらなる別の好ましい態様においてTはHである。さらに別の好ましい態様において、TはCH2CH(OH)CH3である。
【0029】
式(I)の化合物は、その薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体を含む。本発明の化合物は、式(I)の化合物の生理学的に許容される塩も含む。好ましい生理学的に許容される塩は、当業者に公知の酸付加塩である。一般的な生理学的に許容される酸付加塩は塩酸塩、シュウ酸塩、および酒石酸塩を含むが、これらに限定されることはない。
【0030】
化合物の特定の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0031】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH3である。
【0032】
化合物のなおいっそうさらなる別の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはHである。
【0033】
化合物の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、R4はHであり、R5はHであり、かつTはCH2CH3である。
【0034】
化合物の別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、R4はHであり、R5はBrまたはCNであり、かつTはCH2CH3である。
【0035】
化合物のなおいっそうさらなる別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、R4はBrまたはCNであり、R5はHであり、かつTはCH2CH3である。
【0036】
化合物のなおいっそうさらなる別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、R4はHであり、R5はHであり、かつTはCH2CH(OH)CH3である。
【0037】
化合物のなおいっそうさらなる別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、R4はHであり、R5はHであり、かつTはHである。
【0038】
化合物のなおいっそうさらなる他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH2CH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH3である。
【0039】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH2CH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0040】
化合物の特定の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは1〜5であり、各R3は独立してハロゲンであり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0041】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは1〜5であり、各R3はフッ素であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0042】
化合物のなおいっそうさらなる他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH2CH3であり、nは1であり、R3はフッ素であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0043】
化合物の別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0044】
化合物の特定の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2(CH2)4CH2であり、かつTはCH2CH2CH2CH3である。
【0045】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2O(CH2)3であり、かつTはCH2CH2OCH3である。
【0046】
化合物の特定の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3は独立してハロゲンであり、nは1〜5であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0047】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3は独立してハロゲンであり、nは1〜5であり、L1は結合であり、L2はCH2(CH2)4CH2であり、かつTはCH2CH2CH2CH3である。
【0048】
化合物のなおいっそうさらなる他の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3は独立してハロゲンであり、nは1〜5であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2O(CH2)3であり、かつTはCH2CH2OCH3である。
【0049】
化合物のさらなる態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、少なくとも一つのR3はCH2CH2C(O)OCH3であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0050】
化合物のなおいっそうさらにさらなる態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、少なくとも一つのR3はCH2CH2C(O)OCH3であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0051】
化合物の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH2CH2C(O)OCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0052】
化合物の別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1はCH2CH2であり、かつTはCH2CH3である。
【0053】
ある態様において、式(I)の化合物は、

の群より選択され、かつその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体である。
【0054】
6員環および5員環を架橋している炭素原子は不斉中心である。従って、化合物は純粋な鏡像異性体の形態であってよい。好ましい態様において、鏡像異性体はR鏡像異性体である。別の態様において、鏡像異性体はS鏡像異性体である。
【0055】
式(I)の化合物は好ましくは、(R)-エトミデートと同じ立体化学を有する。R2、R3、L1、L2、およびTは、立体的な障害または結合が所望の活性を妨げる程ではないが、分枝炭化水素鎖であってよい。
【0056】
特定の態様において、化合物は二つまたはそれ以上のエステル基を含む。適したエステル含有基(例えば、リンカー-エステル-尾部またはエステル-尾部)を、架橋炭素にまたはフェニル環もしくはコア分子の各種位置に付加することができる。
【0057】
立体障害の無いかつ/またはイミダゾール環中およびフェニル環中のπ電子系から電子的に絶縁した、カルボエトミデート上のエステル成分を持った急速に代謝されるエトミデート類似体も好ましい。レミフェンタニルおよびエスモロール等の他の超短時間作用型薬におけるものなどの、そのようなエステル成分は、エステラーゼによる加水分解に非常に感受性が高いものと考えられる。米国特許第3,354,173号;米国特許第5,466,700号;米国特許第5,019,583号;および米国特許出願公開第US2003/0055023号を参照されたい。
【0058】
R2、T、L1、およびL2の置換基は各々独立して、一つまたは複数の電子吸引基で置換されてもよい。特定の態様において、電子吸引基はハロゲン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルである。ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、スルホン酸基、カルボン酸基、ハライド基、メルカプタン基および不飽和アルキル基等の、他の電子吸引基を用いることもできる。電子吸引基の存在は、エステルカルボニル原子上の部分正電荷を増大する働きをし、それによりエステラーゼによる求核攻撃に対する感受性を増大し、エステラーゼによる急速な加水分解をさらに増強する。
【0059】
本発明の化合物は、麻酔性およびGABAA受容体活性の増強を示した。本発明の化合物は、強力なインビトロおよびインビボの麻酔性ならびにGABAA受容体効果の増強を一様に示した。これらの結果は、本発明の化合物が強力なインビトロおよびインビボの活性を有する極めて活性な剤であることを示している。重要なことには、それらの化合物は、インビトロでのおよびインビボでの副腎皮質ステロイド合成に対する阻害活性が低下しており、かつ/または麻酔作用の持続時間が短い。
【0060】
上記の化合物は、互いとの混合物の形態で単独で、または許容される薬学的担体との組み合わせで、投与することができる。本発明は、したがって、薬学的または生理学的に許容される担体と共にまたは該担体無しで、本発明の少なくとも一つの化合物の有効量を含む薬学的組成物にも関する。適切な場合、化合物は、生理学的に許容される塩、例えば酸付加塩の形態で投与されてもよい。
【0061】
本発明は動物またはヒトを処置する方法も包含する。この方法は、薬学的に許容される担体と共にまたは該担体無しで、本発明の化合物または薬学的に許容されるその塩の少なくとも一つの有効量を、動物またはヒトに投与する工程を含む。静脈内投与が好ましい。米国特許第4,289,783号を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
本発明は、麻酔、鎮静、またはそうでない場合には低い中枢神経系興奮性をもたらすおよび/または維持するために使用できる強力な鎮静催眠薬である。それは代替薬と比べて以下の有益な特性の一つまたは複数を示す:より高い効力、より短い治療的作用の持続時間、より短い副作用の持続時間、副腎皮質抑制の低下、より高い治療指数、より低い毒性、心血管抑制の低下、および所望の効果に対する用量設定のさらなる容易さ。本発明は、単回静脈内ボーラスまたは持続静脈内注入として投与することができる。他の送達経路は、経口経路、経直腸経路、経粘膜経路、皮下経路または吸入経路を含むことができる。
【0063】
薬学的組成物
対象への投与のために、本明細書に記載の化合物は、薬学的に許容される組成物として提供することができる。従って、本発明の別の局面は、式(I)による化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。これらの薬学的に許容される組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体(添加剤)および/または希釈剤と共に製剤化された、本明細書に記載の一つまたは複数の化合物の有効量を含む。以下に詳しく説明するとおり、本発明の薬学的組成物は、固体または液体の形態で投与するために特別に製剤化することができ、以下の用途に適しているものを含む:(1)経口投与、例えば、水薬(水性または非水性の溶液または懸濁液)、トローチ剤、ドラジェ、カプセル、丸剤、錠剤(例えば、頬側吸収、舌下吸収、および全身吸収を目標としたもの)、ボーラス、散剤、顆粒剤、舌へ適用するためのペースト;(2)非経口投与、例えば、無菌の溶液もしくは懸濁液、または徐放性製剤等による皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射(例えば、ボーラスまたは点滴)または硬膜外注射;(3)局所投与、例えば、皮膚に適用するクリーム、軟膏、または徐放性パッチまたはスプレー;(4)膣内投与または直腸内投与、例えば、膣坐薬、クリーム、または気泡剤;(5)舌下投与;(6)経眼投与;(7)経皮投与;(8)経粘膜投与;または(9)経鼻投与。
【0064】
ある態様において、本発明の化合物は、薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。本発明の化合物と塩の形成が可能である適した酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸等の無機塩;ならびにギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、桂皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機塩が含まれる。本発明の化合物と塩の形成が可能である適した塩基には、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム等の無機塩基;モノ-、ジ-、トリ-アルキル、およびアリールアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、ピリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン等)ならびに任意に置換されたエタノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)等の有機塩基が含まれる。
【0065】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題あるいは合併症が無く、ヒトおよび動物の組織と接触させて用いるのに適し、合理的な利益/リスク比で釣り合っている化合物、材料、組成物、および/または剤形を意味する。さらに、動物(例えばヒト)への投与については、組成物は、FDAの生物部門の基準により要求される、無菌性、発熱性、一般安全性、および純度の基準を満たさなくてはならないことが理解される。
【0066】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造補助剤(例えば、潤滑剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくは亜鉛、ステアリン酸)、または材料を封入する溶媒などで、目的の化合物を一つの臓器または体の部分から別の臓器または体の部分へ運ぶまたは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを意味する。それぞれの担体は、製剤の他の構成要素と適合性であり、患者に有害でないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体として働き得る物質のいくつかの例は:(1)ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、およびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、および酢酸セルロース;(4)粉末化トラガカント;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびタルク;(8)ココアバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール(PEG)などのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/又はポリ無水物; (22)ポリペプチドおよびアミノ酸等の増量剤;(23)血清アルブミン、HDLおよびLDL等の血清構成成分;(22)エタノール等のC2〜C12アルコール;および(23)薬剤において使用される他の非毒性親和性物質を含む。湿潤剤、着色剤、放出剤、被膜剤、崩壊剤、結合剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、プロテアーゼ阻害剤、可塑剤、乳化剤、安定化剤、増粘剤、塗膜形成剤、可溶化剤、界面活性剤、保存剤、および抗酸化剤も本製剤に存在することができる。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」等の用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0067】
液体製剤について、薬学的に許容され得る担体は、水性または非水性の溶液、懸濁液、エマルション、またはオイルであり得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルである。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、エマルション、または懸濁液、例えば生理食塩水および緩衝化媒体が挙げられる。オイルの例は石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、および魚肝油である。溶液または懸濁液はまた、以下の構成成分: 滅菌希釈剤、例えば、注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;抗細菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA);緩衝剤、例えば、酢酸、クエン酸、またはリン酸、および浸透圧調整用物質、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースも含み得る。pHは酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムで調節できる。
【0068】
リポソームおよび固定油などの非水性ビヒクルもまた使用され得る。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および剤の使用は当技術分野で周知である。任意の従来の媒体または剤が活性化合物と適合性でない場合を除き、該組成物におけるその使用が企図される。補助活性化合物もまた該組成物中に組み込まれ得る。
【0069】
上記の通り、組成物は、結合剤(例えば、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン、カルボマー、エチルセルロース、グアーガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン)、崩壊剤(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、二酸化ケイ素、ナトリウムクロスカルメロース、クロスポビドン、グアーガム、デンプングリコール酸ナトリウム、プリモゲル)、種々のpHおよびイオン強度の緩衝剤(例えば、tris-HCl、酢酸、リン酸)、表面への吸着を妨げるアルブミンまたはゼラチン等の添加剤、界面活性剤(例えば、Tween 20、Tween 80、プルロニックF68、胆汁酸塩)、プロテアーゼ阻害剤、表面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、透過促進剤、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、流動促進剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール)、安定化剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、粘度増加剤(例えば、カルボマー、コロイド状二酸化ケイ素、エチルセルロース、グアーガム)、甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテーム、クエン酸)、風味剤(例えば、ペパーミント、メチルサリチル酸、またはオレンジフレーバー)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)、流動補助剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、可塑剤(例えば、ジエチルフタレート、トリエチルクエン酸)、乳化剤(例えば、カルボマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム)、ポリマーコーティング剤(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)、コーティングおよびフィルム形成剤(例えば、エチルセルロース、アクリレート、ポリメタクリレート)および/または補助剤をさらに含み得る。
【0070】
投与の容易性および投与量の均一性のために、投与単位形態での経口的組成物および静脈内組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に分離した単位のことをいい;各単位は必要な薬学的担体と共に所望の療法効果を生み出すように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の用量単位形態剤形の明細は、活性化合物の独自の特性および達成される特定の療法効果ならびに個体の治療のためのそのような活性化合物を配合する当技術分野で特有の制限によって必然的に決められ、かつ直接これらに依存する。薬学的組成物は、投与のための説明書と共に、容器、パッケージ、またはディスペンサーに含まれ得る。薬学的組成物は、典型的には薬学的組成物全体の重量に対して少なくとも0.01重量%の量の活性構成要素、即ち本発明の化合物を含む。重量%とは、重量による組成物全体に対する活性構成要素の比率である。従って、例えば、0.1重量%とは、100gの組成物全体に対して0.1gの化合物を示す。
【0071】
例えば、混合、粒状化または錠剤形成の方法による活性構成成分を含む薬学的組成物の調製は、当技術分野で十分理解されている。活性治療構成要素は、薬学的に許容され、さらに活性構成要素と適合する賦形剤とよく混合される。経口投与について、活性剤は、ビヒクル、安定化剤、または不活性希釈剤等の本目的で通例の添加剤と混合され、通例の方法によって上記の錠剤、被覆錠剤、硬質または軟質のゼラチンカプセル、水性溶液、アルコール性溶液または油状溶液などの投与に適した形態に変換される。
【0072】
静脈内投与では、妥当な緩衝能力が静脈内投与に対し許容されるpH範囲にあるグルクロン酸、L-乳酸、酢酸、クエン酸、または任意の薬学的に許容される酸/共役塩基を、緩衝剤として使用できる。pHが酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで所望の範囲に調整された塩化ナトリウム溶液も、使用することができる。典型的には、静脈内製剤のpH範囲は、約5から約12の範囲とすることができる。
【0073】
皮下製剤は、当技術分野で周知の手順に従って約5から約12までの範囲内のpHで調製することが可能であり、これは、好適な緩衝剤および等張剤を含む。これらは、1日1回または複数回の皮下投与で1日用量の活性剤を送達するように調製され得る。製剤の適切な緩衝剤およびpHの選択は、投与される一つまたは複数の化合物の可溶性に依存するが、当業者により容易に行える。pHが酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで所望の範囲に調整された塩化ナトリウム溶液も、皮下製剤に使用することができる。典型的には、皮下製剤のpH範囲は、約5から約12の範囲とすることができる。
【0074】
発明の方法
本発明のさらに別の局面は、上記と実質的に同じ薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、対象に麻酔を提供するための方法に関する。従って、特定の態様において、この方法は化合物の有効用量を投与する工程を含む。有効用量は化合物の0.01〜100mg/kgを含む。本明細書において、「有効用量」または「有効量」という用語は、所望の薬理学的効果を誘発するために十分な量を意味する。実際の有効量は、当然、特定の化合物、適用手法、所望の効果、効果の持続期間、および副作用により変化するものであり、当業者により容易に決定され得る。従って、本明細書に記載の化合物の有効用量は、対象において全身麻酔または意識下鎮静を誘発し維持するために十分な量である。
【0075】
細胞培養アッセイ法および動物試験から得られるデータは、ヒトに用いる用量の範囲の決定に用いることができる。そのような化合物の用量は、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、用いる剤形および用いる投与経路によってこの範囲内で変化させることができる。
【0076】
有効用量は、最初に細胞培養アッセイ法から推定することができる。細胞培養において決定されるIC50(すなわち、症状の最大抑制の半分を達成する治療薬の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成する用量を動物モデルにおいて製剤化することができる。血漿中濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。任意の特定の用量の効果は、適したバイオアッセイ法により観察することができる。
【0077】
一般的に、組成物は、本発明の化合物が以下の用量で与えられるように投与される:1μg/kgから150mg/kg、1μg/kgから100mg/kg、1μg/kgから50mg/kg、1μg/kgから20mg/kg、1μg/kgから10mg/kg、1μg/kgから1mg/kg、100μg/kgから100mg/kg、100μg/kgから50mg/kg、100μg/kgから20mg/kg、100μg/kgから10mg/kg、100μg/kgから1mg/kg、1mg/kgから100mg/kg、1mg/kgから50mg/kg、1mg/kgから20mg/kg、1mg/kgから10mg/kg、10mg/kgから100mg/kg、10mg/kgから50mg/kg、または10mg/kgから20mg/kg。ここに示す範囲は、全ての中間の範囲も含むと理解され、例えば、1mg/kgから10mg/kgの範囲は、1mg/kgから2mg/kg、1mg/kgから3mg/kg、1mg/kgから4mg/kg、1mg/kgから5mg/kg、1mg/kgから6mg/kg、1mg/kgから7mg/kg、1mg/kgから8mg/kg、1mg/kgから9mg/kg、2mg/kgから10mg/kg、3mg/kgから10mg/kg、4mg/kgから10mg/kg、5mg/kgから10mg/kg、6mg/kgから10mg/kg、7mg/kgから10mg/kg、8mg/kgから10mg/kg、9mg/kgから10mg/kg等を含む。上記の範囲に対する中間の範囲も本発明の範囲内であることがさらに理解され、例えば、1mg/kgから10mg/kgの範囲において、2mg/kgから8mg/kg、3mg/kgから7mg/kg、4mg/kgから6mg/kg等の用量範囲も含まれる。
【0078】
化合物「〜の投与」および/または「投与すること」という用語は、本発明の化合物または組成物を、麻酔の誘発を必要とする対象に提供することを意味すると理解されるべきである。同様に「投与する」という用語は、対象において全身麻酔または意識下鎮静を誘発および/または維持するように、所望の部位に化合物または組成物を少なくとも部分的に局在化させる結果をもたらす方法または経路により本発明の化合物または組成物を対象に与えることを意味する。
【0079】
本明細書に記載の化合物は、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、肺性、経鼻、経直腸、および局所(頬側および舌下を含む)の投与等の経口または非経口の経路を含むが、これらに限定されない、当技術分野において公知の任意の適切な経路で投与することが可能である。
【0080】
例示的な投与様式は、これらに限定されないが、注射、注入、滴下注入、吸入、または摂取を含む。「注射」とは、これらに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、脳室内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢内、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内、胸骨内の注射および注入を含む。ある態様において、組成物は静脈内の注入または注射により投与される。
【0081】
好ましい態様において、上記方法は、単回有効用量の化合物を注射により投与した後、化合物の持続点滴投与を行っても行わなくてもよい工程を含む。
【0082】
特定の態様において、上記方法は、有効用量の式(I)の化合物の持続点滴投与を行う工程を含む。
【0083】
本明細書に記載の化合物は、特定の効能のための治療法または別の薬学的に活性を有する剤と組み合わせて、対象に投与することができる。例示的な薬学的活性を有する化合物としては、これらに限定されないが、以下の文献に記載のものを含み、これらの文献はその完全な内容の全てが参照により本明細書に組み入れられる:Harrison's Principles of Internal Medicine 第13版 T.R. Harrisonら編 McGraw-Hill N.Y., NY;Physicians Desk Reference 第50版 1997, Oradell New Jersey, Medical Economics Co.;Pharmacological Basis of Therapeutics 第8版 GoodmanおよびGilman 1990;United States Pharmacopeia, The National Formulary, USP XII NF XVII, 1990;最新版のGoodmanおよびGilmanによるThe Pharmacological Basis of Therapeutics;およびThe Merck Indexの最新版。
【0084】
従って、特定の態様において、この方法は、別の鎮静催眠剤、鎮痛剤、および麻痺剤から選択される治療剤の有効量を対象に投与する段階も含む。鎮静催眠剤の非限定的な例としては、ベンゾジアゼピン、バルビツレート、ケタミン、プロポフォール、イソフルラン、およびデスフルランが挙げられる。鎮痛剤の非限定的な例としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、パラセタモール/アセトアミノフェン、COX-2阻害剤およびオピオイドが挙げられる。麻痺剤の非限定的な例としては、ラパクロニウム、ミバクリウム、サクシニルコリン、ベクロニウム、およびシサトラクリウムが挙げられる。
【0085】
本明細書において「対象」とは、ヒトまたは動物などの哺乳類を意味する。通常、動物は、霊長類、げっ歯類、家畜動物、または狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類としては、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカクザル、例えばアカゲザルが挙げられる。げっ歯類としては、マウス、ラット、マーモット、フェレット、ウサギ、およびハムスターが挙げられる。家畜および狩猟動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、水牛、家ネコ等のネコ科の種、イヌ、キツネ、オオカミ等のイヌ科の種、トリ、エミュー、ダチョウ等の鳥類種、マス、ナマズ、サケ等の魚類種が挙げられる。患者または対象としては、前記の任意の部分集合、例えば、ヒト、霊長類又はげっ歯類などの1つまたは複数の群または種を除く上記の全てが挙げられる。特定の態様において、対象は哺乳類、例えば霊長類、例えばヒトである。「患者」および「対象」という用語は本明細書において互換的に使用される。特定の態様において、対象は哺乳類である。
【0086】
発明の化合物の合成
本発明による化合物は、特に最先端技術および本明細書の以下に提供される具体的な調製例(preparatory example)を考慮し、当業者に知られる合成過程により調製されてもよい。当技術分野において周知の方法による出発物質の適した改変も用いてもよい。
【0087】
本発明による化合物は、式(II):

のフェニルを式(III):

のピロールとカップリングする工程を含む方法により調製されてもよく、
上記式(II)の式中、
R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立してハロゲンまたはR2であり、
上記式(III)の式中、
R1は、L1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R4およびR5は独立してH、ハロゲン、CN、またはCF3であり;
L1およびL2は各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;かつ
Tは、H、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0088】
式(II)のフェニルおよび式(III)のピロール間の反応は、立体配置の反転を伴って進行し、式(I)の化合物を提供する。式(II)のフェニルは、フェニルアルキルケトンおよびその誘導体の還元により容易に調製される。
【0089】
定義
特段に記載しない限り、または内容から黙示的に、以下の用語および表現は以下に示す意味を含む。特段に明記されていない限り、また内容から明白でない限り、下記の用語および表現は、それらの属する技術分野においてその用語または表現が獲得した意味を排除しない。定義は、特定の態様の説明を補助するために提供されるものであり、発明の範囲は特許請求項によってのみ制限されるため、これらは特許請求項に記載された発明を制限することを意図するものでは無い。さらに、文脈により特段に要求されない限り、単数形は複数形も含むものとし、複数形は単数形も含むものとする。
【0090】
本明細書において用いる「含んでいる」または「含む」という用語は、本発明に必須な、組成物、方法、およびそれらの各構成要素を意味するように用いられ、さらに、必須であるか否かに関わらず、明記されていない要素の包含を排除しない。
【0091】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、特に文脈によってはっきりと示されていない限り、複数形も包含するものとする。同様に「または」という言葉は、特に文脈によってはっきりと示されていない限り、「および」を包含するものとする。
【0092】
本明細書に記載の方法および材料と同様または同一のものは、本開示の実施または試験に使用できるが、適した方法および材料を以下に説明する。「含有する」という用語は「含む」を意味する。「e.g.」という省略は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、本明細書においては非限定的な例を示すために用いる。従って、「e.g.」という省略は、「例えば」という用語と同義である。
【0093】
「低下」、「減少させた」、「減少」、「低下」、または「阻害」という用語は、全て本明細書において一般的に、統計学的に有意な量を低下させることを意味する。しかしながら、疑いを避けるために、「減少させた」、「減少」、「低下」、または「阻害」は、基準レベルと比較して少なくとも10%の低下を意味し、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%の低下、または100%までのおよび100%を含む低下(例えば基準試料と比較して非存在のレベル)、または基準レベルと比較して10〜100%の間の任意の低下を意味する。
【0094】
「増加した」、「増加」、「増強」、または「活性化する」という用語は、全て本明細書において一般的に、統計学的に有意な量を増加させることを意味し;疑いを避けるために、「増加した」、「増加」、「増強」、または「活性化する」という用語は、基準レベルと比較して少なくとも10%の増加を意味し、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%の増加、または100%までのおよび100%を含む増加、または基準レベルと比較して10〜100%の間の任意の増加を意味するか、または基準レベルと比較して少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍、または2倍から10倍の間もしくはそれ以上の任意の増加を意味する。
【0095】
「統計学的に有意」または「有意に」という用語は、統計的有意性を意味し、一般的には、標準レベルから少なくとも2標準偏差(2SD)離れていることを意味する。この用語は、差が存在するという統計的証拠を意味する。これは、帰無仮説が実際に正しい場合に、帰無仮説を棄却する判断を下す確立として定義されている。
【0096】
本明細書で用いられる場合、「アルキル」という用語は、飽和直鎖基、分枝鎖基、または環状炭化水素基を意味する。アルキル基の例としては、これらに限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、およびn-ヘキサデシル基が挙げられる。
【0097】
本明細書で用いられる場合、「アルケニル」という用語は、少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を有する不飽和直鎖基、分枝鎖基、または環状炭化水素基を意味する。アルケニル基の例としては、これらに限定されないが、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、およびシクロヘキセニル基が挙げられる。
【0098】
本明細書で用いられる場合、「アルキニル」という用語は、少なくとも一つの炭素-炭素三重結合を有する不飽和炭化水素基を意味する。代表的なアルキニル基としては、これらに限定されないが、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、イソペンチニル、1,3-ヘキサジイニル、n-ヘキシニル、3-ペンチニル、1-ヘキセン-3-イニル等が挙げられる。
【0099】
本明細書で用いられる場合、「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選択される原子を意味する。「ハロゲン放射性同位体」とはフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選択される原子の放射性核種を意味する。
【0100】
本明細書で用いられる場合、「置換(された)」という用語は、置換された成分上の一つまたは複数の水素原子を、アルキル基、アルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、シアノ基、ハロ基、メルカプト基、ニトロ基、カルボニル基、アシル基、アリール基、およびヘテロアリール基に限定されないが、これらから独立して選択された置換基で独立して置換することを意味する。
【0101】
本発明は、下記の番号をつけたパラグラフのいずれかにおいて定義されてもよい。
1.式(I)による化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体:

式中、
R1は、L1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立してハロゲンまたはR2であり;
R4およびR5は独立してH、ハロゲン、CN、またはCF3であり;
L1およびL2は各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
Tは、H、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。
2.純粋な鏡像異性体の形態で存在する、パラグラフ1に記載の化合物。
3.前記鏡像異性体がR鏡像異性体である、パラグラフ2に記載の化合物。
4.R1がL1C(O)OTである、パラグラフ1〜3のいずれかに記載の化合物。
5.R1がL1C(O)OL2C(O)OTである、パラグラフ1〜3のいずれかに記載の化合物。
6.R2がCH3、CH2CH3、およびCH2CH2CH3からなる群より選択される、パラグラフ1〜5のいずれかに記載の化合物。
7.TがH、CH3、CH2CH3、CH2CH(OH)CH3、およびCH2CH2CH3からなる群より選択される、パラグラフ1〜6のいずれかに記載の化合物。
8.nが0または1である、パラグラフ1〜7のいずれかに記載の化合物。
9.R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、かつTがH、CH3、CH2CH3、またはCH2CH(OH)CH3である、パラグラフ1〜8のいずれかに記載の化合物。
10.R4およびR5の両方がHである、パラグラフ1〜9のいずれかに記載の化合物。
11.R4およびR5の少なくとも一方がHであり、かつ他方がBrまたはCNである、パラグラフ1〜9のいずれかに記載の化合物。
12.R4がHであり、かつR5がBrまたはCNである、パラグラフ11に記載の化合物。
13.R4がBrまたはCNであり、かつR5がHである、パラグラフ11に記載の化合物。
14.式(I)の化合物が、

からなる群より選択される、パラグラフ1に記載の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体。
15.パラグラフ1〜14のいずれかに記載の化合物の薬学的有効量および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
16.対象に麻酔を提供する方法であって、該対象にパラグラフ15に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む方法。
17.対象に麻酔を提供する方法であって、該対象にパラグラフ1〜14のいずれかに記載の式(I)の化合物を投与する工程を含む方法。
18.対象に麻酔を提供するのに使用するための、パラグラフ1〜14のいずれかに記載の化合物。
【0102】
本明細書において好ましい態様を詳細に示しかつ説明したが、様々な改変、追加、置換などを発明の精神から逸脱することなく行うことができ、従ってこれらが添付の特許請求項で定義された本発明の範囲内にあるとみなされることは、当業者には明らかである。
【0103】
本発明は、目的を成し遂げるために、ならびに記載される目的物および利点、ならびに本発明に特有のものを得るために、十分に適合されることを、当業者はまた迅速に理解する。ここで代表的な好ましい態様として本明細書中に記載される分子錯体、方法、手順、処置、分子、および特定の化合物は、例として提供され、かつ本発明の範囲に対する制限として意図されない。本発明の精神内に包含されるそこにおける変化および他の使用が、当業者には想到され、特許請求の範囲内に定義される。
【0104】
本発明の範囲および精神を逸脱することなく、様々な置換および変更が本明細書に開示される発明になされてもよいことは、当業者には容易に明らかになると考えられる。
【0105】
本明細書において例示的に記載される本発明は、本明細書において具体的に開示されない任意の要素、制限の非存在下で適切に行われ得る。従って、例えば、本明細書における各場合において、「含む」、「から本質的になる」、および「からなる」は、他の二つの用語のいずれのものとも置き換えてよい。用いられている用語および表現は、記載の用語として使用され、かつ制限の用語として使用されず、かつこのような用語および表現の使用において、示されるおよび記載される特徴またはその一部の任意の等価物を排除することは何ら意図されないが、種々の改変が特許請求された本発明の範囲内で可能であることが認識される。従って、本発明は好ましい態様および任意選択の特徴によって具体的に開示されたが、本明細書中に開示される概念の改変および変化は当業者によって用いられ得ること、ならびにこのような改変および変化は添付の特許請求項によって定義される本発明の範囲内にあることが考慮されることが理解されるべきである。
【実施例】
【0106】
本発明を下記の実施例によりさらに説明するが、これらに限定されるものではない。実施例は説明目的のためだけであり、断じて特許請求された本発明を制限するものではない。
【0107】
材料と方法
動物:
全ての動物試験は、Massachusetts General Hospital Subcommittee on Research Animal Careマサチューセッツ州、ボストンの規則および規定に従い実施した。前肢芽期早期のアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のオタマジャクシならびに成体の雌アフリカツメガエルはXenopus 1(ミシガン州、アンアーバー)より購入した。オタマジャクシは当研究室で保管し、カエルはMassachusetts General Hospital Center for Comparative Medicineの動物保護施設で保管した。成体の雄スプラーグドーリーラット(300〜500g)はCharles River Laboratories(マサチューセッツ州、ウィルミングトン)より購入し、Massachusetts General Hospital Center for Comparative Medicineの動物保護施設に収容した。採血および静脈内薬物投与は、短時間(約1〜5分)のセボフルランまたはイソフルランの麻酔下で側方尾静脈カテーテル(24ゲージ、19mm)を使用し、連続的にガスを監視しながら剤特異的な可変式バイパス気化装置を用いて行った。静脈内カテーテル配置の直前に動物の体重を測定し、試験前には吸入麻酔薬曝露から完全に回復させた。全ての試験において、麻酔下のラットにおいて直腸温度が36℃〜38℃に維持されることが以前の試験により示されている、加温ステージ(Kent Scientific、コネチカット州、トリングトン)にラットを乗せた。例えば、その内容が参照により本明細書に組み入れられるCotton et al., Anesthesiology, (2009)111:240-249を参照されたい。
【0108】
立ち直り反射の消失
オタマジャクシ:
前肢芽期早期のアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のオタマジャクシ5匹の群を、2.5 mM Tris HCl緩衝液(pH = 7.4)で緩衝化されかつ1〜40Mに及ぶカルボエトミデートの濃度を含んだ酸素飽和水100 mlに入れた。反応が安定するまで、火炎ポリッシングされた(flame polished)ピペットを用いて5分ごとにオタマジャクシを手動でひっくり返した。オタマジャクシは、仰向けに返されてから5秒以内に立ち直ることができなかった場合に、立ち直り反射を消失している(LORR)と見なした。催眠作用の可逆性を保証するために、各試験終了後、オタマジャクシを新鮮な水に戻した。LORRのEC50は、その内容が参照により本明細書に組み入れられるWaud DR, J Pharmacol Exp Ther (1972)183:577-607の方法を用いてLORRのカルボエトミデート濃度依存より決定された。
【0109】
ラット:
尾出口を備えた直径3インチ、長さ9インチのアクリルチャンバ中に、ラットを一時的に拘束した。所望の用量のジメチルスルホキシド中のカルボエトミデート(DMSO;典型的には40mg/mlにおいて)を、側方尾静脈カテーテルを通じて注入し、その後およそ1mlの生理食塩水による洗い流しを行った。注入の後に、ラットを拘束装置から取り出し、仰向けにした。ラットは、薬物投与後に(全四肢に対して)立ち直ることができなかった場合に、LORRを有すると判断された。ストップウオッチを用いてLORRの持続時間を測定し、これを、カルボエトミデート注入から動物が自発的に立ち直るまでの時間と定義した。ボーラス投与によるLORRのED50は、Waud.26の方法を用いてLORRの用量依存性から判定された。LORRの発症時間は、28mg/kgのカルボエトミデート(DMSO中40mg/ml)または4mg/kgのエトミデート(DMSO中5.7mg/ml)を、側方尾静脈カテーテルを通じて注入し、その後およそ1mlの生理食塩水による洗い流しを行うことにより別々に決定された。注入の後に、ラットを直ちに拘束装置から取り出し、自発的に立ち直らなくなるまで、繰返し仰向けにした。発症時間は、注入からLORRが起こるまでの時間と定義された。
【0110】
GABAA受容体の電気生理学
成体の雌アフリカツメガエルは0.2%トリカイン(m-アミノ安息香酸エチル)および低体温法により麻酔した。次に卵巣葉を小さな開腹切開術により切除し、コラーゲナーゼ1A(1mg/ml)を含むOR-2溶液(82 mM NaCl、2mM KCl、2mM MgCl2、5mM HEPES、pH7.5)中に3時間置き、卵母細胞を結合組織から分離した。
【0111】
4期および5期の卵母細胞にヒトGABAA受容体のα1、β2(またはβ2M286W)およびγ21サブユニットをコードするメッセンジャーRNA(サブユニット比1:1:2、全体で〜40ngのメッセンジャーRNA)を注入した。このメッセンジャーRNAはGABAA受容体のα1、β2(またはβ2M286W)およびγ21サブユニットをコードする相補DNAよりmMESSAGE mMACHINE High Yield Capped RNA Transcription Kit(Ambion、テキサス州、オースティン)を用いて転写された。注入された卵母細胞は、電気生理学の実験を行う前に、50U/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを含むND-96緩衝溶液(96 mM NaCl、2mM KCl、1mM CaCl2、0.8mM MgCl2、10mM HEPES、pH7.5)中、17℃で少なくとも18時間培養した。
【0112】
全ての電気生理学的記録は、二電極式ホールセルボルテージクランプ法を用いて行った。卵母細胞を0.04ml測定チャンバーに入れ、5MΩ未満の開口先端抵抗を有する3M KClで充填されたガラス微小電極を突き刺した。次に卵母細胞を、Gene-Clamp 500B amplifer(Axon Instruments、カルフォルニア州、ユニオンシティ)を用いて-50mVでボルテージクランプし、4〜6ml/分の流速にてND-96緩衝液で灌流した。緩衝液による灌流は、Dellのパソコン(テキサス州、ラウンドロック)により動かされるDigidata 1322Aデータ収集システム(Axon Instruments)と連動した6チャンネルバルブ制御装置(Warner Instruments、コネチカット州、ハムデン)を用いて制御した。電流応答の記録はClampex 9.2(Axon Instruments)ソフトウェアを用いて行い、プロセッシングはClampfit 9.2(Axon Instruments)ソフトウェアを用いて50HzのカットオフでBessel(8極)ローパスフィルタを用いて行った。
【0113】
各卵母細胞において、様々なGABA濃度(ND-96緩衝液中)により誘発されたピーク電流応答を測定し、1mM GABAに誘発される最大ピーク電流応答と比較することにより、最大電流応答の5〜10%の電流応答(EC5-10 GABA)を誘発するGABA濃度を判定した。次に、先ず卵母細胞を90秒間EC5-10 GABAで灌流し、対照ピーク誘発電流を測定することにより、EC5-10 GABA誘発電流に対するカルボエトミデートの効果を評価した。5分の回復期の後、卵母細胞を90秒間カルボエトミデートで灌流し、その後、90秒間EC5-10 GABAおよびカルボエトミデートの両方で灌流し、ピーク誘発電流を再度測定した。15分の回復期の後、可逆性を試験するために対照実験(即ち、カルボエトミデート無し)を繰り返した。カルボエトミデート曝露後、より長い回復期を与えることにより薬物の洗い流しを促進させた。次に、カルボエトミデート存在下におけるピーク電流応答を、二つの対照実験から得られた平均ピーク電流応答に対して正規化した。カルボエトミデートに誘発された増強は、カルボエトミデートの存在下対非存在下における規制化された電流応答より数量化された。
【0114】
ラット血行動態
ラット血行動態に対する催眠薬の効果は、以前Cotton et al., Anesthesiology, (2009)111:240-249に記載されたとおりに定義された。肩甲骨の間をくぐらせた大腿動脈カテーテルは、メーカーにより予め埋め込まれた(Charles River Laboratories)。動物は、到着次第、配置手順から完全に回復させた。収容中および試験の間の期間、カテーテル開存性は、ヘパリン(500U/ml)および高張(25%)右旋糖ロック溶液により維持され、この溶液は毎回使用前に取り除かれ、使用直後に補充された。
【0115】
試験当日、体重測定および側方尾静脈内カテーテル設置の後、ラットを、尾出口を備えたアクリルチューブ内に拘束し、データ収集前に約10〜20分間順化させた。圧力トランスデューサー(TruWave、Edwards Lifesciences、カルフォルニア州、アーバイン)からの信号を特注の増幅器(AD620オペアンプ、Jameco Electronics、カルフォルニア州、ベルモント)を用いて増幅し、さらなるフィルタリング無しでUSB-6009データ収集ボード(National Instruments、テキサス州、オースティン)を用いてデジタル化(1kHz)した。全てのデータはLabViewソフトウェア(version 8.5、Macintosh OS X用、National Instruments)を使用して取得し、分析した。
【0116】
血圧分析に使用したデータは、催眠投与の直前5分間および投与後15分間記録したものである。DMSOに溶解したカルボエトミデート(40 mg/ml)、DMSOに溶解したエトミデート(5.7 mg/ml)、または対照としてDMSOビヒクルのみを尾静脈カテーテルより投与し、その後約1mlの規定食塩水を流した。
【0117】
インビトロでのコルチゾール合成の阻害
ヒト副腎皮質細胞株H295R(NCI-H295R;ATCC CRL2128)を用いてインビトロでのコルチゾール合成を測定した。1ウェル当たり105個の細胞を含むアリコットを2mlの成長培地(1%のインスリン、トランスフェリン、セレン、およびリノール酸、2.5%NuSerum、ならびにPen/Strepを添加したダルベッコ変法イーグル培地/F12)と共に12ウェル培養プレートで培養した。細胞がほぼ集密まで増殖した時点(典型的には48〜72時間)で、成長培地をエトミデートまたはカルボエトミデートを含むアッセイ培地(0.1%インスリンを添加し、セレン含有抗生物質、および20μMホルスコリンを移したダルベッコ変法イーグル培地/F12)に置き換えた。48時間後、1.2mlのアッセイ培地を各ウェルから回収し、任意の細胞または細片をペレット状にするために遠心分離し、競合的抗体結合アッセイ法における、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型コルチゾールに基づく、市販の96ウェルキットを用いて(R&D Systems、ミネソタ州、ミネアポリス、KGE008)、酵素結合免疫吸着測定法により上清中のコルチゾール濃度を定量化した。
【0118】
ラット副腎皮質抑制
体重測定および静脈内カテーテル配置直後にデキサメタゾン(0.2 mg/kg IV、American Regent、ニューヨーク州、シャーリー)を各ラットに投与することにより内在性副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の放出を阻害し、基礎コルチコステロン産生を抑制し、拘束および取扱いに対する様々なストレス反応を抑制した。デキサメタゾン処置の2時間後、採血を行い(血清コルチコステロン濃度のベースライン測定のため)、二回目のデキサメタゾン(0.2 mg/kg)をIVのカルボエトミデート、エトミデート、または対照としてDMSOビヒクルと共に投与した。DMSO中のカルボエトミデートおよびエトミデートの濃度は、それぞれ40および5.7mg/mlであった。催眠薬またはビヒクルを投与した直後、ACTH1-24(25μg/kg、Sigma-Aldrich Chemical Co、ミズーリ州、セントルイス)を静脈内に与えることにより、コルチコステロン産生を刺激した。15分後、二回目の採血を行い、ACTH1-24に刺激された血清コルチコステロン濃度を測定した。ストックとしてACTH1-24を1mg/mlで脱酸素化した水に溶解し、これを分注し、冷凍(−20℃)した。使用直前に新鮮なアリコートをその都度解凍した。三群(カルボエトミデート、エトミデート、およびビヒクル)全てのラットは同量のDMSO(350μl/kg)を与えられた。
【0119】
血清中のコルチコステロン濃度は、以前にCotton et al., Anesthesiology, (2009)111:240-249で報告されたとおりに測定した。5分間3,500gで遠心分離を行う前に室温で(10〜60分)血液試料を凝固させた。5分間3,500gで2回目の遠心分離を行う前にきれいなピペットチップを用いて、生じた表面フィブリン塊から血清を注意深く搾り出した。2回目の遠心分離の後、得られた凝血塊不含の血清層を最終の高速遠心分離(16,000g、5分間)のため新しいバイアルに移して、混入しているいかなる赤血球または粒子状物質もペレット化した。血清をきれいなバイアルに移し、素早く凍結し(-20℃)コルチコステロン測定を待った。融解およびコルチコステロン結合グロブリンの熱不活性化(20分間65℃)の後、酵素結合免疫吸着測定法(Diagnostic Systems Laboratories、テキサス州、ウェブスター)および96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices、カルフォルニア州、サニーヴェール)を用いて血清中ベースラインのおよびACTH1-24刺激性のコルチコステロン濃度を定量化した。
【0120】
統計解析
全てのデータは平均値±SDとして報告される。統計解析およびカーブフィッティング(線形または非線形最小二乗回復を用いたもの)は、Macintosh用Prism v4.0(GraphPad Software, Inc.、カルフォルニア州、ラホヤ)またはIgor Pro 4.01(Wavemetrics、オレゴン州、レイクオスウェゴ)を用いて実施された。P<0.05は特に記載がない限り、統計学的に有意であることを示す。ラットより得られた生理学的データの複数の比較には、一元配置または二元配置ANOVAに続いてBonferroniポストテスト(Bonferroni補正を伴う不対t検定に頼る)を行った。
【0121】
実施例1:(R)-1-(1-フェニルエチル)-1H-ピロール-2-カルボン酸(カルボエトミデート)の合成
(S)-1-フェニルエタノール(135mg、1.10mmol)の無水THF(2mL)溶液を、攪拌したエチル-1H-ピロール-2-カルボン酸(140mg、1.00mmol)とトリフェニルホスフィン(340mg、1.30mmol)の無水THF(3mL)溶液に、アルゴン雰囲気下、室温で滴下して加えた。次に、アゾジカルボン酸ジ-tert-ブチル(304mg、1.32mmol)の無水THF(2mL)溶液を加え、反応混合物を室温で一晩攪拌した。反応混合物を減圧下で濃縮した。残渣をジエチルエーテル(5mL)と混合し、2時間攪拌した。残渣(PH3POおよびヒドラゾエステル)を回収し、ジエチルエーテル(3×2mL)で洗浄した。濾液を減圧下で蒸発させることにより残渣を得、これをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/CH2Cl2=7:3)で精製することにより無色の粘稠性の液体を得た:IR (KBr, cm-1): 737, 1106, 1231, 1700, 2980, 3328;

。最終生成物は、実質的に鏡像異性的に純粋な(R-鏡像異性体)であることがキラルカラムクロマトグラフィーにより明らかになった。スキーム1を参照されたい。

【0122】
実施例2:カルボエトミデートはオタマジャクシおよびラットにおいて強力な全身麻酔薬である
オタマジャクシ:
オタマジャクシでの立ち直り反射消失アッセイ法を用いて、麻酔活性の試験を行った。前肢芽期早期のアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のオタマジャクシ5匹の群を、2.5 mM Tris HCl緩衝液(pH = 7)で緩衝化され、かつ1〜40 μMに及ぶカルボエトミデートの濃度を含んだ酸素飽和水100 mlに入れた。カルボエトミデートの構造については、上記のスキーム1を参照されたい。火炎ポリッシングされたピペットを用いて5分ごとにオタマジャクシを手動でひっくり返した。オタマジャクシは、5秒以内に立ち直ることができなかった場合に、麻酔されている(立ち直り反射の喪失(LORR))と見なした。全ての濃度で、この立ち直り反射応答の消失はカルボエトミデート曝露から30分以内に安定した。催眠作用の可逆性を保証するために、各試験終了後、オタマジャクシを新鮮な水に戻した。毒性の証拠は認められず、新鮮な酸素飽和水に戻すと、麻酔をかけられたオタマジャクシは全て、その立ち直り反射を回復した。
【0123】
図2は麻酔に対するカルボエトミデート濃度反応曲線を示す。各群における麻酔をかけられたオタマジャクシの割合はカルボエトミデート濃度と共に増大し、最も高いカルボエトミデート濃度(10〜40μM)で、全てのオタマジャクシに麻酔がかかった。このデータからカルボエトミデートの麻酔EC50(すなわち、50%のオタマジャクシに麻酔がかかった濃度)は、Waud DR, J Pharmacol Exp Ther (1972)183(3):577-607に記載の量子的方法を用いて5.4±0.5μMであると判定された。
【0124】
実施例3:カルボエトミデートによる野生型α1β2γ2LGABAA受容体およびエトミデート非感受性α1β2M286Wγ2LGABAA受容体の調節
カルボエトミデートは、(R)-エトミデートと同じ分子機構により、つまりGABAA受容体機能を増強することにより麻酔をもたらすように設計された。α1β2γ2Lサブユニットで構成されるヒトGABAA受容体をアフリカツメガエル卵母細胞中で発現させ、GABAA受容体を介した電流に及ぼすカルボエトミデートの影響をRaines et al., Anesth Analg (2003) 96(1):112-8に記載されている二微小電極式ボルテージクランプ法によって研究するために用いた。このサブユニットの組み合わせは、これが脳内において最も一般的なGABAA受容体サブタイプを形成し、エトミデート感受性であることが公知であるため、選択された。
【0125】
各卵母細胞において、1mM GABA(受容体を飽和するGABA濃度)により野生型受容体で誘発される最大応答の〜10〜20%の応答を誘発するGABA濃度である3μMが使用された。GABA作動性の電流に及ぼすカルボエトミデートの影響を評価するため、GABAのみにより誘発される「対照」電流を測定した。5分の回復期の後、卵母細胞を麻酔薬およびGABAの両方に曝露することにより「被検」ピーク電流を測定した。さらに5分の回復期の後、可逆性を保証するために対照実験を繰り返した。図3Aは、同じ卵母細胞においてそれぞれ、麻酔薬の非存在下および存在下において得られた代表的な対照および被検トレースを示す。カルボエトミデートは、その麻酔EC50 (すなわち10μM)の約2倍で、GABA誘発電流の振幅を4倍増強することが分かった。
【0126】
変異体α1β2M286Wγ2LGABAA受容体を、アフリカツメガエル卵母細胞中で発現させ、変異体GABAA受容体を介した電流に及ぼすカルボエトミデートの影響を二微小電極式ボルテージクランプ法を用いて研究するために使用した。各卵母細胞において、1mM GABA(受容体を飽和するGABA濃度)により野生型受容体より誘発される最大応答の〜10〜20%の応答を誘発するGABA濃度である0.3μMが使用された。これらの変異体GABAA受容体は、実施例2で使用された野生型受容体よりも10倍GABAに感受性であるため、より低いGABA濃度が使用された。図3Bは、同じ卵母細胞においてそれぞれ、麻酔薬の非存在下および存在下において得られた代表的な対照および被検トレースを示す。カルボエトミデートは、その麻酔EC50 (すなわち10μM)の約2倍で、GABA誘発電流の振幅に対してほとんど効果がないことが分かった。このエトミデート結合部位の変異はエトミデートおよびカルボエトミデートの両方に対するGABAA受容体感受性を減弱化することから、エトミデートおよびカルボエトミデートの両方はGABAA受容体の同一の部位に結合する可能性があるといえる。
【0127】
さらに、10μMカルボエトミデートの存在下または非存在下において、EC5-10GABAにより誘発される代表的な電気生理学的なトレースを図4A(野生型α1β2γ2LGABAA受容体)および図4B(エトミデート非感受性の変異体α1β2M286Wγ2LGABAA受容体)に示す。カルボエトミデートは、野生型受容体に誘発された電流を有意に増強したが(390±80%)、エトミデート非感受性の変異体受容体に誘発された電流は増強しなかった(-9±16%)。
【0128】
実施例4:ヒト副腎皮質細胞によるコルチゾール合成の阻害剤としてカルボエトミデートはエトミデートよりも作用が弱い
次に、カルボエトミデートがヒト副腎皮質細胞によるコルチゾール合成を阻害する能力を調べた。ヒト副腎皮質細胞株H295R(NCI-H295R;ATCC #CRL-2128)をインビトロシステムとして用いて、コルチゾール合成に対するエトミデートとカルボエトミデートの阻害作用を評価し、比較した。H295R細胞は、コルチゾール生合成に必要とされる酵素(例えば11β-ヒドロキシラーゼ)の全てを含む、ステロイド産生に必要な鍵となる酵素のほとんどを発現する。ホルスコリンで刺激された場合、これらの細胞はコルチゾールを産生し、それを培地中に分泌し、これを容易に測定することができる。11β-ヒドロキシラーゼの阻害は、コルチゾール合成を遮断し、細胞培地中のコルチゾールの濃度を低減させ、アッセイ法の基礎を形成する。
【0129】
H295R細胞を増殖培地(インスリン、トランスフェリン、セレン、およびリノール酸、2.5% NuSerum、ならびにPen/Strepを含有する1% ITSを補充したDMEM/F12)中でほぼ集密まで増殖させた。増殖培地を、エトミデートまたはカルボエトミデート(または対照の場合は何もなし)のいずれかと共にコルチゾール合成を促進するアッセイ培地(0.1%ITSおよび20μMホルスコリンを補充したDMEM/F12)と交換した。48時間ホルスコリン刺激性のコルチゾール合成を可能にした後に、アッセイ培地1.2 mlを回収し、遠心分離し(細胞および細片を除去するために)、上清中のコルチゾール濃度を酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定した。
【0130】
図5は、エトミデートおよびカルボエトミデートの両方がアッセイ培地中のコルチゾール濃度を濃度依存的に減少させることを示すものである。催眠薬はいずれも濃度依存的にコルチゾール合成を阻害したが、この阻害が起きた濃度範囲は3桁異なっていた。最大半量阻害濃度(IC50)は、エトミデートの場合1.3±0.02nMであったのに対し、カルボエトミデートの場合2000倍高い値であった(2.6±1.5μM)。
【0131】
実施例5:カルボエトミデートはラットにおいて強力でかつ超短時間作用型の全身麻酔薬である
エトミデートまたはカルボエトミデートをスプラーグドーリーラットの尾静脈に静脈内ボーラスとして投与した。ラットは、薬物投与の後に(全四肢に対して)立ち直ることができなかった場合に、LORRを有すると判断された。LORRは、薬物注入から動物が自発的に立ち直るまでの時間と定義した。麻酔薬ボーラス投与によるLORRのED50は、LORRの麻酔薬用量依存性から判定された。
【0132】
図6Aは、ラットにおけるLORRに対する、エトミデートおよびカルボエトミデートの用量反応関係を示す。LORRを有したラットの割合は麻酔薬の用量と共に増大した。最高用量で、全てのラットが麻酔され、明らかな麻酔薬毒性は認められなかった。これらのデータから、エトミデートおよびカルボエトミデートのボーラス投与後のLORRのED50は、それぞれ1.00±0.03mg/kg(n=18)および7±2mg/kg(n=16)であると判定された。ラットにおいてLORRをもたらすのに十分な用量で、いずれの麻酔薬も静脈内ボーラス投与から数秒以内にLORRをもたらした。
【0133】
カルボエトミデートでのLORRの発症時間は、Cotton et al., Anesthesiology, (2009)111:240-249に記載のとおり、エトミデートで以前に見られた時間よりもゆっくりであることを本発明者らは見い出した。本発明者らはこの差を等催眠用量のカルボエトミデートおよびエトミデート(それぞれ28mg/kgおよび4mg/kg、LORRのED50×4)を用いて定量化した(Cotton et al., Anesthesiology, (2009)111:240-249)。LORRの発症時間は、カルボエトミデートでは33±22s(n=10、10〜63sの範囲)であるのと比較してエトミデートでは4.5±0.6s(n=4、4〜5sの範囲)であった。
【0134】
図6Bは、どちらの麻酔薬においても麻酔期間(即ち、自発的立ち直りまで要した時間)が麻酔薬用量の対数にしたがってほぼ直線的に増大したことを示す。この関係の傾きは、エトミデート(27±7)およびカルボエトミデート(16±4)で同様であった。この関係の傾きは、脳内における麻酔薬の半減期に依存するため、これらの結果はエトミデートとカルボエトミデートが脳から同様の速度で除去されることを示唆するものである。
【0135】
実施例6:カルボエトミデートは優れた血行動態安定性を有する
エトミデートは、血行動態安定性をより良好に保つので、危篤状態の患者において他の剤よりも麻酔誘導のために選択されることが多い。カルボエトミデートが血行動態安定性を同様に保つかどうかを判定するため、本発明者らはラットにおいて心拍数および血圧に及ぼすプロポフォール、エトミデート、およびカルボエトミデートの作用を測定し比較した。これらの薬物を等しい麻酔用量で比較するため、それぞれそのLORRのED50の2倍(すなわち、8mg/kgのプロポフォール、2mg/kgのエトミデート、および14mg/kgのカルボエトミデート)を静脈内投与した。動物順化の後、麻酔薬注射前の5分間(ベースライン)および麻酔薬注射後の15分間データを記録した。この試験期間における各30秒基準時点において平均血圧の平均値を計算した。
【0136】
図7Aは、各群におけるラットは最初の5分間にわたるベースライン時に類似の平均心拍数および血圧を有することを示す。ラットに麻酔がかけられている間(即ち、麻酔投与後、最初の5〜10分)、三種類全ての麻酔薬において平均血圧が減少した。但し、麻酔中のほぼ全ての時点において、この低下の大きさはカルボエトミデートおよびエトミデートではプロポフォールと比較して小さかった。
【0137】
同様に図7Bは、ラットにおける平均動脈圧に対する14mg/kgのカルボエトミデート(n=7)、2mg/kgのエトミデート(n=6)、およびDMSOビヒクル(n=4)の効果を示す。カルボエトミデートおよびエトミデートは等催眠用量であった。試験期間中、平均血圧に対するカルボエトミデートの効果は、DMSOビヒクルのみの場合と比較して有意に大きくなかった(二元配置ANOVAによるp>0.05)。しかしながら、投与後30〜210秒の時点において、エトミデートはビヒクルと比較して平均血圧を有意に減少させた。ビヒクル、カルボエトミデート、およびエトミデート群におけるベースライン平均血圧は類似していて(ANOVAによるP=0.15)、それぞれ114±5、116±9、および127±17mmHgであった。
【0138】
実施例7:(R)-エトミデートと異なり、カルボエトミデートは投与後15分で副腎皮質機能を抑制しない
雄のスプラーグドーリーラットをデキサメタゾンで前処理することにより内在性ACTH産生を阻害し、ベースラインの血清コルチコステロン濃度を最小化した。各ラットにDMSOビヒクル(対照)、2mg/kgエトミデート、または14mg/kgのカルボエトミデートの静脈内ボーラスを与えた。エトミデートおよびカルボエトミデートのこれらの用量は等しい麻酔ボーラス用量である(即ち、LORRのED50×2)。その直後にコートロシン(即ち、ACTH1-24)を注入し、ステロイド産生を刺激した。ACTH1-24投与から15分後に、約0.3mlの血液試料を採血して、ACTH1-24刺激性の血清中コルチコステロン濃度を測定した。ラットにおけるベースライン血清中コルチコステロン濃度(n=12)は平均で39±49ng/mlであり、3群(カルボエトミデート、エトミデート、および対照)において有意な差は認められなかった。ACTH1-24の投与は副腎皮質ステロイド産生を3群すべてにおいて刺激した。
【0139】
図8は、全てのラットがACTH1-24投与から15分後に顕著に高い血清中コルチコステロン濃度を有していたので、ACTH1-24注入が副腎皮質ステロイド産生を刺激することを示す。しかしながら、ACTH1-24刺激の前に(R)-エトミデートを投与されたラットがビヒクルまたは等しい麻酔用量のカルボエトミデートのいずれかを投与されたものよりも有意に低い(67%低い)血清中コルチコステロン濃度を有していたことを示す。対照的に、カルボエトミデートを投与されたラットは、ビヒクルだけを投与されたものと違わない血清中コルチコステロン濃度を有していた。
【0140】
考察
カルボエトミデートは、エトミデートの催眠作用、GABAA受容体調節活性、および血行動態安定性を保持するエトミデートのピロール類似体である。しかしながら、カルボエトミデートは、エトミデートと比較して副腎皮質コルチゾール合成阻害作用が3桁弱く、エトミデートとは異なり催眠用量においてラットで副腎皮質機能を抑制しない。
【0141】
エトミデートは、主に、チトクロムP450スーパーファミリーの酵素の一員である11β-ヒドロキシラーゼ(CYP11B1)を阻害することにより、副腎皮質機能を抑制する。11β-ヒドロキシラーゼは、コルチゾール、コルチコステロン、およびアルドステロンの合成に必要である。この抑制は極めて低いエトミデート濃度で起こり、これは酵素の活性部位に対するエトミデートの極めて高い親和性を反映しているものと考えられる。例えば、Zolle et al., J Med Chem (2008)51:2244-2253およびRoumen et al., J Comput Aided Mol Des (2007)21:455-471を参照されたく、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。本発明者らは、エトミデートのイミダゾール環中の塩基性窒素による11β-ヒドロキシラーゼに対するエトミデートの高い親和性を阻害および/または減少させるためにカルボエトミデートを設計した。理論に束縛されるものではないが、エトミデートのイミダゾール環中の塩基性窒素と活性部位のヘム鉄が、11β-ヒドロキシラーゼに対するエトミデートの高い親和性をもたらす。この相互作用は、結晶解析法を用いて、他のイミダゾール含有薬物の様々なチトクロムP450酵素への結合において観察されている。例えば、阻害剤である4-(4-クロロフェニル)イミダゾールは、2B4酵素の活性部位に一つの配向で結合し、その際、そのイミダゾール環の塩基性窒素は酵素のヘム鉄と2.14Åの結合距離で配位する(Scott et al., J Biol Chem (2004)279:27294-27301、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる)。この結合は、結合されているリガンドを酵素がしっかりと握りこむ構造遷移を引き起こす。同様に、イミダゾール含有抗真菌剤は、CYP130およびCYP121の活性部位内に結合し、ここで塩基性窒素と酵素のヘム鉄との間に配位結合を形成する。例えば、Ouelletet et al., J Biol Chem (2008) 283:5069-5080およびSeward et al., J Biol Chem (2006) 281:39437-39443を参照されたく、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。このような配位の証拠は、イミダゾール含有阻害剤が配位結合を形成した際に、ヘム基が特徴的なスペクトルシフトを受け発色団の役割を果たすため、分光学的手法を用いても観察されている。例えば、Quelletet et al., J Biol Chem (2008) 283:5069-5080、Yano et al., J Med Chem (2006) 49:6987-7001、Locuson et al., Drug Metab Dispos (2007), 35:614-622、およびHutzler et al., Chem Res Toxicol (2006)19:1650-1659を参照されたく、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。エトミデートと11β-ヒドロキシラーゼの間の相互作用は、結晶解析または分光学的手法で実験的に明らかにされていないが、コンピューターでのホモロジーモデリングは催眠薬の塩基性窒素と酵素のヘム鉄との間の配位も高親和性結合に寄与することを示唆するものである(Roumen et al., J Comput Aided Mol Des (2007)21:455-471)。
【0142】
本発明者らは、副腎皮質癌細胞アッセイ法を用いてカルボエトミデートおよびエトミデートの阻害効力を比較した。このアッセイ法は以前に、副腎皮質ステロイドの合成を阻害する薬物の効力を比較するために利用されている。例えば、Fallo et al., Endocr Res (1996)22:709-715、Fallo et al., Chemotherapy (1998) 44:129-134、およびFassnacht et al., Eur J Clin Invest (2000) 30 (suppl 3):76-82を参照されたく、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの結果は、カルボエトミデートがエトミデートと比較してコルチゾール合成阻害の程度が3桁弱いことを示す。これは、酵素との結合の安定化において催眠薬の塩基性窒素が重要な役割を果たしているということと一致するものであり、この窒素をヘム鉄と配位できない他の化学基(この場合、CH)と置き換えることにより、エトミデートの11β-ヒドロキシラーゼへの高親和性結合をエトミデートより取り除くことができることの強力な証拠を提供するものである。カルボエトミデートの低い副腎皮質抑制効力の結果として、催眠用量でボーラスとして投与した場合でも、カルボエトミデートはACTH1-24に刺激されたラットにおけるコルチコステロン生産を阻害することができなかった。
【0143】
カルボエトミデートはエトミデートと比較して、インビトロコルチゾール合成の3桁弱い効力を有する阻害剤であるが、催眠薬としては僅かに効力が弱いだけである。オタマジャクシおよびラットにおける催眠効力は、エトミデートのそれのそれぞれ三分の一(Husain et al., J Med Chem (2003) 46:1257-1265)および七分の一(Cotten et al., Anesthesiology (2009)111:240-240)である。これらの結果は、催眠効力に大きな影響を与えず、望ましくない副作用をもたらす力を劇的に減少させるために催眠構造を改変してもよいことを示す。
【0144】
エトミデートと共通して、カルボエトミデートは野生型α1β2γ2LGABAA受容体の機能を著しく増強する。GABAA受容体の直接的活性化および作用物質調節の説明に関しては、Rusch et al., J Biol Chem (2004) 279: 20982-20992を参照されたく、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。理論に束縛されるのではないが、カルボエトミデートはまた、GABAA受容体に対する作用を介して催眠をもたらす。GABAA受容体に関する今までの電気生理学的研究は、エトミデートの推定結合部位におけるβサブユニット中の変異(M286W)がほぼ完全にエトミデートの増強を無効にすることが示された(Siegwart et al., J Neurochem (2002) 80:140-148、この内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。本明細書に提示されている結果は、この変異がさらにカルボエトミデートによる増強を無効にすることを示すものであり、エトミデートが結合するGABAA受容体上の部位と同じ部位に結合することにより、カルボエトミデートがGABAA受容体機能を調節できることを立証するものである。
【0145】
本研究において10μMカルボエトミデートで本発明者らが観察した増強の大きさは(390±80%)、発明者らが以前の研究において4μMエトミデート(660±240%)で観察した値以下である。これは、カルボエトミデートがエトミデートよりもGABAA受容体において作用が弱いおよび/又は有効性が低いこと示唆し得る。理論に束縛されるのではないが、これはLORRをもたらすために何故エトミデートよりも高いカルボエトミデートの濃度(オタマジャクシアッセイ法において)および用量(ラットアッセイ法において)が必要とされたかを説明し得る。これはまた、エトミデートのイミダゾール環中の塩基性窒素が、GABAA受容体に対するエトミデートの作用に控えめに貢献することも示す。
【0146】
カルボエトミデートではLORRの発症はエトミデートでの場合よりもゆっくりであった。その理由は明らかでない。しかしながら、両方の催眠薬がGABAA受容体を増強することから、エトミデートと比べてカルボエトミデートが脳内の作用部位にゆっくりと到達するため、発症が遅れていると考えられる。
【0147】
参照文献





【0148】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者の技術水準を示すものである。全ての特許および刊行物は、各個別の刊行物が参照により組み入れられると具体的かつ個別的に示されているのと同程度に参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)による化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体:

式中、
R1は、L1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R2は、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニルもしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立してハロゲンまたはR2であり;
R4およびR5は独立してH、ハロゲン、CN、またはCF3であり;
L1およびL2は各々独立して、結合、置換または非置換のC1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
Tは、H、置換もしくは非置換のC1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【請求項2】
純粋な鏡像異性体の形態で存在する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記鏡像異性体がR鏡像異性体である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
R1がL1C(O)OTである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R2がCH3、CH2CH3、およびCH2CH2CH3からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
TがH、CH3、CH2CH3、CH2CH(OH)CH3、およびCH2CH2CH3からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
nが0または1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、かつTがH、CH3、CH2CH3、またはCH2CH(OH)CH3である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
R4およびR5の両方がHである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
R4およびR5の少なくとも一方がHであり、かつ他方がBrまたはCNである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
R4がHであり、かつR5がBrまたはCNである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
R4がBrまたはCNであり、かつR5がHである、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
式(I)の化合物が、

からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の化合物の薬学的有効量および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
対象に麻酔を提供する方法であって、該対象に請求項15に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む方法。
【請求項17】
対象に麻酔を提供する方法であって、該対象に請求項1〜14のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項18】
対象に麻酔を提供するのに使用するための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−532883(P2012−532883A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519731(P2012−519731)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/041379
【国際公開番号】WO2011/005969
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(503146324)ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
【Fターム(参考)】