説明

創傷の治療具および治療方法

使い捨て可能な創傷治癒具は、液体不浸透性の物質からなり、キャビティを有する覆いと、患者の創傷部位上に気密に封止される周辺部とを具え、キャビティから酸素を取り除くことにより、または液体をキャビティ内に吸収した後にキャビティ内から除去することにより、創傷部位上に陰圧を生じさせる。酸素は、化学的吸収により、電気化学セルにより、またはキャビティの酸素を分解する化学反応により除去することができる。さらに、液体は、浸透性セルまたは電気浸透性セルにより、あるいは一方向弁により除去することができる。本発明は、創傷部位上に部分陰圧を生成させて治癒を促進するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、感染創傷、熱傷創傷、糖尿病性潰瘍、ポスト切断創傷、手術創傷等を含む種々の類型の創傷に対処することが可能な、創傷治療具および治療方法に関するものである。特に、本発明の治療具は、陰圧療法を利用する創傷処置具および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創傷の処置において陰圧を利用する概念は、何十年も前からも存在していた。例えば、米国特許第5636643号、第5645081号および第6142982号を含む最近の何例かの特許は、多数の異なる形式の陰圧型創傷治療具を記載している。しかしながら、従来技術において説明・開示されている治療具は、かさばるものであり、複雑な関連器材、例えば吸引ポンプ、真空ポンプおよび複雑な電子コントローラ等を必要とする。このように、陰圧療法を利用する既存の治療具はかさばり、大パワーを必要とし、高価で、使い捨てができないものである。
【特許文献1】米国特許第5636643号
【特許文献2】米国特許第5645081号
【特許文献3】米国特許第6142982号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、自己完結型で、使用後に完全に使い捨てにできる陰圧型治療具を提供することである。
【0004】
また、本発明の他の目的は、電気的/化学的な動力で作動する吸引ポンプまたは真空ポンプを必要とせずに、部分的陰圧を発生させるための器具および方法を提供することである。
【0005】
さらに、本発明の他の目的は、電力による吸引及び真空ポンプを必要とせずに、創傷周辺に吸引環境を生成するための器具及び方法を提供することである。
【0006】
上記の目的およびその他の目的は、明細書、請求範囲および添付図面を参照することにより、当業者にとって明らかとなるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、使い捨て可能で、外部動力源を必要としない自己統合型の創傷治療具を包含するものである。この治療具は、気体または流体に対して流体不浸透性の覆いを含み、その覆いは、少なくとも1つの開口部が設けられたキャビティを有する。覆いは、少なくとも1つの酸素吸収体/除去体または流体吸収体/除去体も具えている。覆いは、キャビティキャビティ内部またはその隣接部位に抗菌性の多孔質流体吸収素材を具えていてもよい。一実施例において、治療具は、キャビティ内における圧力またはキャビティ酸素レベルを検出するためのセンサを具えている。他の実施例において、治療具は、治療具その作動前に、覆いのキャビティに酸素または液体をキャビティ充填するための手段を具えている。
【0008】
好ましい一実施例において、治療具は、患者の処置すべき創傷域上を密封状態で包囲可能なキャビティを有する使い捨て可能な器具で構成されている。このような実施例において、キャビティはさらに抗菌性を有する多孔質の流体吸収パッド、酸素吸収体または酸素除去体を具え、これらは創傷部位上または創傷部位内に陰圧を発生させることができる。酸素吸収体または除去体は、化学的吸収体や電気化学セルで構成することができる。電気化学セルの場合には、セルを作動させるための付随的な電子回路を組み込むことはできる。
【0009】
化学的吸収体は、酸素を接触に際して吸収し、または吸着する任意数の物質を含み得るものであるが、特に金属粉、活性炭、触媒材料、ゼオライト、およびそれらの混合物或いは組み合わせを含むことができる。同様に、その動作の一部として酸素を消費する限り、任意数の電気化学セルも付加的に使用可能である。例えば、亜鉛/空気セル,マグネシウム/空気セル、アルミニウム/空気セルおよび鉄/空気セルのような金属/空気セルが、本発明では好適に使用可能である。さらに、固体高分子電解質(ナフィオン〔登録商標〕)で構成されたセルを使用することも可能である。
【0010】
他の好ましい実施例において、治療具は、患者の創傷範囲を密封状態で包囲できるキャビティを含む使い捨て可能な器具で構成される。このような実施例において、キャビティはさらに、化学的または電気化学的な液体除去システムまたは液体吸収システムを具える。使い捨て可能な治療具は、その作前に、キャビティに抗菌性過酸化水素水、水等の流体を充填するための手段をさらに具える。
【0011】
他の好ましい実施例において、創傷治療具は、セル内で流体を吸収する物質、例えば創傷と連通するように配置され、少なくとも部分的に覆いのキャビティ内に閉じ込められる多孔質の流体吸収パッドを含む。多孔質素材には、例えば粘着性メッシュまたは超吸収性ポリマー素材が含まれる。その代わりに、他の実施例では、多孔質パッドを治療具外に配置し、毛細管または他の同様の流体導管の一端で創傷液と接触させ、他端で吸収物質と接触させることが可能である。
【0012】
覆いは、流体不浸透性である限り各種の材料で構成することができ、鋼、アルミニウム、銅合金および高密度プラスチック材料、例えばポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、べレックス(登録商標)、ナイロンおよびテフロン(登録商標)等の材料で構成することができる。
【0013】
他の好適な実施例において、治療具は、酸素の除去または吸収/吸着の間に熱を発生させるための手段からを具える。
【0014】
上述した治療具の代案として、開いた創傷部位を閉じるのを助けるための圧力バンドを、陰圧処置手段の代わりに、または陰圧処置手段と共に使用することができる。これらのバンドは、創傷部位の一側に配置されて、患者の皮膚内部への下向き圧力を発生させるものである。その代わりに、圧力バンドにより、開放創傷部位の縁を互いに接近する方向に押しやる圧力を直接または間接的に発生させることも可能である。このようなバンドを作動させる圧力値は、特定の用途に依存するものではあるが、例えば約350mmHg程度である。
【0015】
好適には、液体吸収手段を創傷部位の上方に配置して、圧力バンドと併用する。
【0016】
本発明はさらに、キャビティを有する気体不浸透性の覆いを準備する工程と、創傷の少なくとも一部を覆いのキャビティ内に位置決めする工程とを具え、さらに、覆いのキャビティ内で酸素を吸収する工程と、キャビティ内で部分的真空を発生させる工程の一方または双方を具える創傷の治療方法を提供するものである。
【0017】
一実施例において、創傷の治療方法は、キャビティを有する非浸透性の覆いを準備する工程と、創傷の少なくとも一部を覆いのキャビティ内に位置決めする工程とを具え、さらに、電気化学的もしくは化学的に、またはマニュアル的にキャビティから酸素を取り除く工程と、キャビティ内で部分的真空を発生させる工程の両者を具える。
【0018】
別の実施例において、創傷の治療方法は、キャビティを有する覆いを準備する工程と、創傷の少なくとも一部を覆いのキャビティ内に位置決めする工程とを具え、さらに、先ずキャビティに酸素を充填し、次にマニュアルセル、化学セルまたは電気化学セルを作動させてキャビティから酸素を除去または吸収する工程と、キャビティ内で制御された真空を発生させる工程の一方または双方を具える。
【0019】
また別の実施例において、創傷の治療方法は、キャビティを有する覆いを準備する工程と、創傷の少なくとも一部を覆いのキャビティ内に位置決めする工程と、キャビティに水等の液体を充填した後、液体(水)を除去する工程と、浸透性セル、電気化学的セルまたは電気浸透性セルを用いることによりキャビティ内に制御された真空を発生させる工程とを具えている。
【0020】
他の好適な実施例において、治療方法は、キャビティを有する不浸透性の覆いを準備することにより創傷に酸素を循環的に供給する工程と、創傷の少なくとも一部を覆いのキャビティ内に位置決めする工程と、先ず空気や酸素を除去した後にキャビティ内に周期的な態様で空気または酸素を充填し直して創傷上に酸素の循環的圧力を発生させる工程とを具える。
【発明を実施するための最良の課題】
【0021】
本発明は多くの異なる形態で実施できるものであるが、以下、図面に示す特定の実施例について詳細に説明する。なお、以下の開示は本発明の原理の例示として考慮すべきものであり、本発明を図示の実施例に限定することを意図するものではない。
【0022】
添付図面、特に図1を参照すると、創傷治療具(以下、「治療具」と称する。)は、全体が参照数字10で示される。この種の治療具は、患者の創傷治療に関して特に有用である。その創傷は、感染性創傷、熱傷創傷、糖尿病性潰瘍および創傷、手術創、床ずれ等を含むものであるが、これらに限定されるものではない。さらに、この種の治療具は、当業者が想起するような多様な分野で使用されることを想定したものである。
【0023】
図1に示すように、使い捨て可能な治療具10は気体に対して不浸透性の、剛性を有する覆い102と、キャビティ130から酸素を吸収するための手段104と、創傷液体を吸収するための手段106と、治療具10をその周辺部116に沿って密封するための手段108とを含む。治療具10は、完全に使い捨て可能なだけでなく、非常に軽量で安価な構成とする。治療具は、包帯の形状に形成されており、使用者によって何回も取り変えることが可能である。
【0024】
密封手段108は、多くの異なる構造に構成することができる。密封手段108は、プルタブ133を有する密封円板132を具えているのが好ましい。あるいは、密封手段108は、その操作位置において治療具10の周辺部116の周りで粘着材、または実質的に気密に封止するための他の要素を含むこともできる。気密封止は、治療具10の保管および/または輸送の間、キャビティ130の内容物を保護するものである。
【0025】
密封手段108のための密封円板132を組みこんだ実施例において、プルタブ133は治療具10の使用に先立ち周辺部の周りの密封を遮断する機能を発揮する。プルタブ133を用いて密封円板132が一旦取り外されると、治療具は、キャビティ130内に創傷が位置決めされ、治療具10が創傷の周辺部の周りを密封するように、患者の創傷の上に置かれる。創傷を包囲する真空空間を維持することができるよう、覆い102は剛性または半剛性材料で構成するのが好ましい。治療具が患者の創傷に装着されると、直ちに酸素吸収手段104が創傷の周りの空気に含まれる酸素を吸収し始め、キャビティ130内で真空状態を発生させる。同時に、創傷液体吸収手段106が創傷内の液体を吸収し始める。キャビティ130内の酸素および創傷液体の継続的吸収は、創傷部位を包囲する真空状態をキャビティ130内に生成するものである。
【0026】
創傷部位上に維持される陰圧は、組織の移動と傷の閉鎖を促進する。治療具10は、一日に一回以上交換することができるパッチまたは救急絆のように形成するのが好ましい。治療具が患者の創傷にある間、酸素吸収のために陰圧が発生させられるので、創傷周辺の酸素レベルは低い(1〜5%)。治療具が使用後に取り外されたとき、創傷は空気の21%を占める酸素にさらされる。その後、また別のパッチが適用され、創傷部位上の酸素分圧を低下させる。創傷をこのように交互に酸素レベル変動にさらすことも、創傷治療において有用である。
【0027】
覆い102は任意の形状に形成することができ、特定の形状に限定されるものではない。単に例示として、これに限定されるものではないが、覆い102は、治療具10のキャビティ130および治療具10の周辺部116が患者の創傷を密封できるように寸法および形状を決定することができる。また、覆い102は、治療具が創傷近傍の患者の皮膚上に置かれて密封する際に真空を維持できるように設計する。
【0028】
図1Aは図1と同様の治療具を示す。但し、図1Aの治療具は付加的な構造、すなわち酸素をキャビティ130に導入するための手段110を含む。この導入手段110によって、患者は、好ましくは高純度または高濃度の酸素をキャビティに導入することができる。導入された酸素は、次に酸素吸収手段104によって吸収される。この吸収により、患者の創傷上により強い陰圧が生成される。加えて、図1Aに示す治療具10は、抗菌流体吸収体106および毛細管118を含んでいる。酸素吸収体104は、図1Cに示すようにキャビティ130内の二箇所に配置される。図1Cに示す治療具10によって創傷上の陰圧を維持しつつ、創傷液体を創傷から除去することができる。
【0029】
図1Dに示す治療具10は、図1Cに示した治療具と同様であるが、図1Dに係る治療具10はキャビティ130内でより強い真空を発生させるための酸素導入手段110を付加的に含む。図1Dにおいて、治療具10は多孔質プラスチック製の抗菌性スポンジ106をさらに含み、それは図1Cに示した治療具における毛細管118および抗菌性スポンジ106の組み合わせに対応するものである。
【0030】
上述した治療具の何れにおいても、真空は酸素吸収手段104を用いて発生させられる。多くの化学的酸素吸収体および電気化学的酸素吸収体がある。例えば、三菱ガス化学(株)は、エイジレス(登録商標)Z酸素吸収体を製造しており、これは金属鉄の酸化反応によって酸素を吸収するものである。あるいは、酸素吸収体および酸素スカベンジャーの小型パケットが三菱ガス化学(株)から販売されている。同様に、流体吸収のための多孔質抗菌プラスチックとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の吸収性プラスチックと、酸化銀、金属過酸化物、金属銀および抗菌性有機化合物等の別材料とからなる複合材料で形成したものを使用することができる。
【0031】
図2Aおよび2Bに示す治療具は、覆い102のキャビティ130から酸素を吸収または除去する点で図1、1A、1Bおよび1Cに示したものと同様である。しかし、図2Aおよび2Bの治療具は、キャビティ130内から酸素を吸収または除去するための電気化学セル140を具えている。図2Aにおいて、使い捨て可能な治療具10は、覆い102と、覆い102のキャビティ130内に配置された液体吸収性抗菌多孔質パッド106と、キャビティ130内の陰圧の測定を助ける酸素センサ112とを有する。電気化学セル140は、セル140がキャビティ130内から酸素を除去または吸収し、キャビティ内に陰圧を発生させられるように、覆い102に封着するのが好ましい。セル140は、電子制御回路142によって活性化させることができる。制御回路142によって使用者は、最適な創傷処置と創傷の治療状態を実現するために予め決められている望ましいキャビティ130内の陰圧状態を設定することができる。
【0032】
図2Bに示す治療具は図2Aに示した治療具と同様であるが、図2Bに係る治療具10は酸素吸入手段110をさらに具えている。これは使用者が酸素をキャビティ130に導入し、続いてキャビティ130内部で強い陰圧を発生させるのを可能とするために付加されたものである。図2Bの実施例において、酸素センサ112および電気化学セル110を制御回路142によって接続し、覆い102のキャビティ130内で陰圧が望ましいレベルに達した時点で電気化学セル140の作動、すなわち付加酸素の消費を停止する。作動中の酸素レベルを測定し、それに応じて電気化学セル140の作動を制御することによって、キャビティ130内の陰圧を望ましいレベルに調整することができる。治療具10の諸要素をキャビティ130に関連させ、またはキャビティ130内に配置する方法は多くあり、図2Aおよび2Bに示した実施例および関連付けは例示にすぎない。
【0033】
米国特許第5454922号、第5607572号、第5681435号、第5707499号、第6042704号および第6060197号は、キャビティ130から酸素を除去するために使用できる電気化学セルを記載している。例えば市販の亜鉛/空気セルを、酸素除去のために使用することができる。好ましい一実施例において、治療具10内の電気化学セル140は、覆い102のキャビティ130から酸素を取り除くために市販の亜鉛/空気セルまたは他の任意の金属/空気型電気化学セルを含むことができる。
【特許文献4】米国特許第5454922号
【特許文献5】米国特許第5607572号
【特許文献6】米国特許第5681435号
【特許文献7】米国特許第5707499号
【特許文献8】米国特許第6042704号
【特許文献9】米国特許第6060197号
【0034】
図3Aおよび3Bに示す治療具は、それぞれ浸透性セルおよび電気浸透性セルを具える治療具である。
【0035】
図3Aの実施例における治療具10の覆い102は、キャビティ130内に配置した抗菌性スポンジ106と連通する浸透性膜(例えば、ナフィオン〔登録商標〕や、任意の陽イオンまたは陰イオン膜)を含む浸透性セル120を組み込んでいる。また、浸透性セル120は、飽和した塩水あるいは塩ペレット122を室124に収めることにより、スポンジからの液体を浸透性セル120に引き込んで室122内に貯蔵し、それによってキャビティ130内および創傷上に真空を発生させるものである。この実施例において、治療具10は、酸素導入手段110のみならず、スポンジ106を水で飽和させるように水をキャビティ130に導入するための注水手段125を具えている。また、図1,1A,1B,1C,1D,2Aおよび2Bに示した他の治療具におけると同様に、密封手段108は、治療具が患者の創傷上に置かれる前に密封タブ133によって引き離される密封円板132である。各種の浸透膜が市販されており、それらの何れも本発明に適用可能である。
【0036】
図3Aに示した治療具の作動は単純である。先ず、密封円板132がプルタブ133によって取り外され、スポンジ106が純水で浸される。それから治療具が患者の創傷上に置かれる。一旦置かれれば治療具10が作動され、数分以内にキャビティ130内で創傷上に陰圧を発生させ始める。図3Bに示す治療具も同様に作動するが、電気化学セル140がキャビティ130の水を室124に運搬し始めるように、セル140を活性化する付加的な工程を必要とする。
【0037】
図3Bにおいて、電気化学セル140は、例えば米国特許第6491684号に開示されているセルのような除水セルである。
【0038】
図4に示す治療具は、手動で作動させるものである。治療具は、覆い102と、使用者が押し込むと圧縮変形するが、初期形状に復元するような弾性のある、または「スプリング」状の壁103とを具えている。多くのポリマー材料は、適正寸法および設計特性に基づいて製造されていれば、これらの特性を示すものである。図4に示す治療具10の覆い102は、キャビティ130が抗菌性多孔質液体吸収パッド106で満たされている。覆い102は、キャビティ130からの液体が抗菌性液体吸収物質154で満たされた室152に搾り出されるように、覆い102内に封着された一方向弁150をさらに具えている。室152は、図4に示すように、覆い102に取り付けられている。
【0039】
図4に示した治療具の作動は単純である。先ず、密封円板132を密封タブ133によって取り外し、それから抗菌性スポンジ106が完全に水で飽和されるように、治療具10を水で満たす。治療具を患者の創傷上に置き、治療具の周辺部116に沿って粘着材で密着させ、治療すべき創傷を包囲する皮膚に治療具の周辺部116を密着させる。治療具を確実に患者に装着した後、圧力を作用させて治療具を頂部から圧縮させることにより、一方向弁150を通してスポンジ106の水を、吸水性抗菌スポンジ154で満たされた室152に搾り出す。覆い102は圧縮後に初期形状に復元する。覆い102内から液体が除去されるため、創傷上に陰圧が生成される。陰圧は、圧縮回数によって制御される。治療の間に創傷が追加液体を発生させる場合には、覆いを治療の間に数回にわたって圧縮することも想定される。
【0040】
関連する付加的な実施例を図5に示す。例えば図1B、図1Cに示したように、前述の実施例においては、液体除去手段106が大気圧よりも低い圧力または真空を利用することにより、陰圧治療の使用においてさらなる補助を提供する。しかしながら、図5に示すように、液体除去手段106は真空を適用しない場合でも効果的に作用し得るものである。図5に示すように、治療具10は創傷部位160上に置かれ、毛細管118は創傷部位160自体にまで延びている。毛細管118は外部容器152と連通しており、創傷部位160から外部容器152内まで液体を流すための導管として機能する。創傷部位160内から創傷液体を除去することにより創傷の内圧が低下し、その結果として創傷部位160がそれ自体で強制的に閉じられ、治癒を助けることになる。
【0041】
治療具10は、図示例では創傷部位160外から外部容器152内への液体輸送機構としての毛細管118を有する。他の実施例および構造も同様に効果的に作用し、このような構造としては、代替的な液体運搬または除去手段、例えば創傷部位上に置かれる吸収性ポリマーストリップ(図5A参照)により、単に創傷液体を吸収して創傷を乾燥させるのみで治癒を促進する構造や、一方向弁等を設けることにより液体容器152を完全に除去した構造が挙げられる。本質的な要素としては、創傷部位内部から液体を除去することにより創傷部位の治癒を促進することが含まれる。
【0042】
特に好ましい実施例を図5Bに示す。図5Bにおいて、図1Bに示すゴム加工された覆いの実施例は、図5および5Aの液体吸収構造と組み合わされている。図5Bにおける液体除去手段は、設計的に柔軟な超吸収性ポリマー材料106を具え、外部容器152に接続するのが好ましい。覆い102は一方向弁150を具え、柔軟性および弾力性を有するために、使用者が覆い102を押圧して覆い102内から空気を解放することにより、治療具のキャビティ内圧を低下させることができる。同時に、ポリマー材料106(または他の液体除去手段)が創傷部位から液体を引き出し、その液体をキャビティから除去する。この実施例は、外部および内部の陰圧技術を結合したものである。
【0043】
治療具のキャビティ内の圧力を空気/酸素除去または流体除去によって低下させるための上記技術と、創傷それ自体内の圧力を創傷液体除去によって低下させるための上記技術の何れも、陰圧創傷治療にとって有益となるように組み合わせることができる点に留意すべきである。
【0044】
上述した何れの実施例においても、治療具は使い捨て可能である。これらの治療具は、使用後に廃棄することができる。上記の教示は多種多様な治療具によって、多くの形態をもって利用し得るものである。例えば、上記の教示が取り込まれた治療具としては、手袋、靴の中敷または特別の靴下等が想定される。これら形式の治療具によって、他の活動を行っている間に患者は治療具を作動でき、適切な処置を受けることができる。加えて、治療が完了した後、使用者は治療具を単に処分するだけでよい。実際、予め定められた期間に使い捨て可能な治療具を使った複数の個別的な治療からなる充実した治療計画を提供するために、複数の使い捨て可能な治療具を患者に与えらることができる。
【0045】
別の追加的な実施例を図6に示す。図6においては、圧力バンド200および200’を創傷部位160の両側に配置し、徐々に創傷部位を閉じるために、創傷部位160を包囲する組織上を加圧して創傷部位の近傍210を封じる。このような実施例は、上述した酸素除去、液体除去または創傷液体除去を行う実施例と組み合わせてもよい。いずれにせよ、創傷部位全体を圧迫することによって創傷部位の治癒を促進することができる。
【0046】
圧力バンド200は患者の創傷部位近傍に置かれ、患者の皮膚上に略下向きの圧力を加えることができる、医学等級の弾性バンド等を含む任意数の材料から構成することができる。図6に示すように、圧力バンド200,200’は基本的に患者の腕を包囲し、その腕を下向きに押すアームバンドからなる。しかしながら、バンド200,200’が周囲組織上に加える圧力によって創傷部位を閉じるのを助けることで治癒を促進する限り、別の構造でも同様に機能させることが可能である。
【0047】
創傷部位の閉鎖を助ける好ましい方法として、圧力バンド200,200’の間に接続バンドまたは接続手段(図示せず)を配置することもできる。接続手段は、圧力バンド200,200’の間でそれらのバンドを互いに接近する方向に引っ張るための力を及ぼすこのとのできる、任意の剛性または弾性材料で構成することができる。圧力バンド200,200’の側方運動は、これらのバンドの略下向きの圧力と相まって、創傷部位の縁全体を加圧する追加手段を提供することになり、これにより創傷部位の治癒を助けることになる。
【0048】
あるいは、創傷部位上に粘着片220を具えるのが望ましい場合もある。粘着片220は、例えば医療用救急絆のようなストリップ材料からなり、創傷部位の両側に接着され、両側を一度に引っ張ることができる。上述した接続バンドまたは接続手段と同様に、粘着片220は圧力バンド200,200’と組み合わせて治癒を促進するために使用するのが好ましい。
【0049】
さらに、圧力バンド200,200’は上述した他の多くの構造と併用することができ、そのような構造には、液体除去手段や、創傷部位の内部または外部に陰圧を生成する他の任意手段が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0050】
使用にあたり、圧力バンド200,200’が患者に与えられ、患者の創傷部位を挟む対向位置において適用される。患者は圧力バンドを創傷部の周りに置き、これらのバンドはそれから所定の時間、好ましくは一時間以上、最も好ましくは24時間前後の間、周辺組織に圧力を作用させる。作用させる圧力は強力である必要はなく、約350mmHgの圧力であるのが好ましい。一旦圧力が作用すると、創傷部位が少なくとも部分的に閉じられ、治癒を促進する。圧力バンドは、最大の効果を狙って陰圧治療と組み合わされるのが好ましい。
【0051】
圧力バンドと組み合せて、創傷部位を少なくとも部分的に閉じる際に、圧力バンド200,200’を互いに接続することで側圧(下向きでない)を創傷部位上に作用させ、または粘着片220を使用して同様の硬貨を達成するのが好ましい。いずれにせよ、創傷部位の治癒は、創傷部位における開いた創傷領域を物理的に閉じることによって増進することができる。
【0052】
以上の説明は単なる例示に過ぎず、請求の範囲で限定されている場合を除き、本発明を限定するものでなく、本開示に基づいて当業者が本発明の範囲内で修正を行えるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、創傷治療具の一実施例を示す断面図である。
【図1A】図1Aは、酸素注入治療具を組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図1B】図1Bは、スポンジを有する創傷治療具の断面図である。
【図1C】図1Cは、毛細管を組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図2A】図2Aは、電気化学セルを組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図2B】図2Bは、電気化学セルを有し、さらに酸素センサを組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図3A】図3Aは、浸透性セルを組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図3B】図3Bは、電気浸透性セルを組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図4】図4は、第2の隣接液体保持室を組み込んだ、弾性変形可能な創傷治療具の断面図である。
【図5】図5は、創傷治療具の他の実施例を示す断面図である。
【図5A】図5Aは、流体除去手段を組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図5B】図5Bは、単一の流体吸収手段を具える創傷治療具の他の好適実施例の断面図である。
【図5C】図5Cは、外部及び内部陰圧創傷治療手段の両者を組み込んだ創傷治療具の断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る圧力バンド型の実施例を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の創傷部位の少なくとも一部を、少なくとも一つの開口部により包囲可能なキャビティを内部に有する流体不浸透性の覆いと、
前記少なくとも一つの開口部を包囲する周辺部と、
創傷部位近傍の患者の皮膚に対して周辺部を封止するための手段と、
覆いのキャビティ内部から酸素を少なくとも吸収し、または除去するための手段と、
を具える、使い捨て可能な創傷治療具。
【請求項2】
前記吸収手段がキャビティ内に配置されている、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項3】
前記吸収手段が化学的吸収体を含む、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項4】
前記化学的吸収体が、金属粉末、活性炭、触媒材料、ゼオライト、それらの混合物および組み合わせからなる群より選択される、請求項3記載の創傷治療具。
【請求項5】
前記吸収手段が少なくとも一つの電気化学セルを具える、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項6】
前記電気化学セルが金属/空気セルからなる、請求項5記載の創傷治療具。
【請求項7】
前記金属/空気セルが、亜鉛/空気セル、マグネシウム/空気セル、アルミニウム/空気セルおよび鉄/空気セルからなる群より選択される、請求項6記載の創傷治療具。
【請求項8】
前記電気化学セルがナフィオン系セルからなる、請求項5記載の創傷治療具。
【請求項9】
前記キャビティに関連する液体吸収手段をさらに具える、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項10】
前記液体吸収手段が抗菌物質からなる、請求項9記載の創傷治療具。
【請求項11】
前記抗菌物質が、銀化合物、ハロゲン化物化合物、過酸化物、超酸化物および器質性消毒剤からなる群より選択される一種または二種以上の物質からなる、請求項10記載の創傷治療具。
【請求項12】
前記液体吸収手段が多孔質素材を具える、請求項9記載の創傷治療具。
【請求項13】
前記多孔質素材が粘着性メッシュからなる、請求項12記載の創傷治療具。
【請求項14】
前記覆いが、鋼、アルミニウム、銅合金および高密度プラスチックからなる群より選択される一種または二種以上の物質からなる、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項15】
前記高密度プラスチックが、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、べレックス、ナイロンおよびテフロン(登録商標)からなる群より選択される一種または二種以上の物質からなる、請求項14記載の創傷治療具。
【請求項16】
前記覆いに関連する弁をさらに具え、該弁が、キャビティに追加の酸素を導入する手段を具える、請求項1記載の創傷治療具。
【請求項17】
患者の創傷部位の少なくとも一部を、少なくとも一つの開口部により包囲するキャビティを有する液体不浸透性の覆いと、
前記少なくとも一つの開口部を包囲する周辺部と、
創傷部位近傍の患者の皮膚に対して前記周辺部を封止するための手段と、
液体をその内部に保持することができる、キャビティに関連する多孔質のスポンジと、
該スポンジから液体をキャビティ外に除去するための手段と、
を具える、使い捨て可能な創傷治療具。
【請求項18】
前記液体除去手段が覆いに統合されている、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項19】
前記多孔質のスポンジが抗菌物質からなる、請求項1に記載の創傷治療具。
【請求項20】
前記多孔質のスポンジが、少なくとも部分的に液体を含浸したものである、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項21】
前記液体が抗菌液からなる、請求項20記載の創傷治療具。
【請求項22】
前記覆いがキャビティに隣接する液体保持室を具え、前記除去手段が液体を多孔質のスポンジから液体保持室まで除去する、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項23】
前記多孔質のスポンジが少なくとも部分的にキャビティ内に配置されている、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項24】
前記除去手段が超ポリマー吸収体を具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項25】
前記超ポリマー吸収体が、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリアクリルアミドからなる群より選択される一種または二種以上の結晶である、請求項24記載の創傷治療具。
【請求項26】
前記除去手段が、前記覆いに設けられた浸透性セルを具え、該浸透性セルが、液体保持室と、多孔質スポンジに液体連通する浸透膜とを具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項27】
前記除去手段が、陽極および陰極を有する電気浸透性セルを具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項28】
前記除去手段が、陽イオン性膜を有する電気浸透性セルを具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項29】
前記除去手段が、陰イオン性膜を有する電気浸透性セルを具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項30】
前記覆いが、圧力の作用下で弾性変形可能な物質からなる、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項31】
前記除去手段が、創傷上に陰圧を発生させるために弾性変形可能な覆いの一部を押し下げることからなる、請求項30記載の創傷治療具。
【請求項32】
前記除去手段が、スポンジ内に保持される液体を抜き取ることができる、覆いに関連するシリンジを具える、請求項17記載の創傷治療具。
【請求項33】
前記覆いが多孔質スポンジに隣接した液体保持室を有し、前記除去手段が多孔質スポンジおよび液体保持室の間に一方向弁を具え、圧力の作用下で液体がスポンジから液体保持室まで除去されるようにした、請求項30記載の創傷治療具。
【請求項34】
患者の創傷部位の少なくとも一部を、少なくとも一つの開口部により包囲するキャビティを有する液体不浸透性の覆いと、
前記少なくとも一つの開口部を包囲する周辺部と、
創傷部位近傍の患者の皮膚に対して周辺部を封止するための手段と、
創傷部位内から液体をキャビティ外まで除去するための手段と、
を具える、使い捨て可能な創傷治療具。
【請求項35】
前記液体除去手段が、継続的に創傷部位内から液体を除去する、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項36】
前記液体除去手段が覆いに統合された、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項37】
前記液体除去手段が少なくとも一つの毛細管を具える、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項38】
前記液体除去手段が吸収性ポリマーを具える、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項39】
前記キャビティ外部に、液体除去手段と関連する液体容器をさらに具え、創傷部位から除去された液体が液体除去手段によって液体容器まで運ばれるようにした、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項40】
前記液体容器が、液体を吸収・保持するための手段をさらに具える、請求項39記載の創傷治療具。
【請求項41】
前記吸収・保持手段が多孔質マトリックスを具える、請求項40記載の創傷治療具。
【請求項42】
前記覆いが、圧力の作用下で弾性変形可能な物質からなる、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項43】
前記除去手段が、創傷上に陰圧を発生させるために弾性変形可能な覆いの一部を押し下げることからなる、請求項39記載の創傷治療具。
【請求項44】
前記除去手段が、スポンジ内に保持された液体を抜き取ることができる、覆いに関連するシリンジを具える、請求項34記載の創傷治療具。
【請求項45】
患者の創傷部位を包囲するよう、創傷部位を挟んで互いに離間して配置された少なくとも2つの組織部位上に、略下向きの圧力を及ぼすことのできる少なくとも一つの器具と、
及ぼされた圧力を一時間以上にわたって維持するための手段と、
を具える、創傷部位の治癒を促進するための器具。
【請求項46】
前記少なくとも一つの器具が少なくとも2つの圧力バンドを具え、それらのバンドが付属物の周辺および創傷部位の近傍に配置され、かけられた圧力を維持するための手段が、前記圧力バンドを柔軟な弾性材料で構成することからなる、請求項45記載の治癒促進具。
【請求項47】
創傷部位が、開いた創傷領域と、該開いた創傷領域を包囲する周辺部とを含み、前記器具が、少なくとも該周辺部の第一領域を第二領域に向けて押圧することによって、前記開いた創傷領域を実質的に閉じる閉鎖手段を含む、請求項45記載の治癒促進具。
【請求項48】
前記閉鎖手段が、前記少なくとも二つの圧力バンドを互いに結合するための手段からなる、請求項47記載の治癒促進器具。
【請求項49】
前記閉鎖手段が、開いた創傷領域全体にかかる粘着ストリップを含む、請求項47記載の治癒促進具。
【請求項50】
患者の創傷部位を包囲する少なくとも2つの組織部位上に略下向きの圧力を及ぼすことにできる器具を配置する工程と、
創傷部位を実質的に閉じるために、前記器具を使用して少なくとも2つの組織部位上に下向きの圧力を及ぼす工程と、
を具える、創傷部位の治癒を促進する方法。
【請求項51】
創傷部位から創傷液体を取り除くために、吸収物質を創傷部位と関連させる工程をさらに具える、請求項50記載の治癒促進方法。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−509639(P2007−509639A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526243(P2006−526243)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/029184
【国際公開番号】WO2005/025447
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500329353)マイクロリン エルシー (5)
【Fターム(参考)】