説明

創薬スクリーニング装置

【課題】蛍光画像と共焦点画像との両方を選択的に得ることのできる創薬スクリーニング装置を簡単な構成より実現する。
【解決手段】ウェルプレートに載置された試料に励起光を照射し、試料から発生される蛍光情報に基づいて創薬スクリーニングを行う創薬スクリーニング装置において、前記試料に蛍光を発生させるための励起光を出力する励起光源と、この励起光を前記試料を走査するための複数のビームスポットよりなる励起光束に変換する共焦点スキャナと、この共焦点スキャナから供給される励起光束を前記試料に照射しその蛍光を観察する顕微鏡と、前記共焦点スキャナまたは前記顕微鏡を介して得られる共焦点画像または蛍光画像を読み取る光学画像検出手段と、前記顕微鏡から戻ってきた蛍光を前記共焦点スキャナの前で選択的にバイパスさせ前記光学画像検出手段に入射させる光路切替手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡システムを利用した創薬スクリーニング装置に関し、共焦点画像および蛍光画像の両方を取得するための創薬スクリーニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬スクリーニング装置ではウェルプレートにあるアレイ状のウェル(穴)に並べられた試料に特定の波長の光を照射して励起し、励起された試料から発生される蛍光像を顕微鏡システムで拡大し、拡大像をカメラで取り込んでいる。また、全ウェルから蛍光画像を取得するために、XYステージでウェルプレートまたは対物レンズを移動させる。
【0003】
次に、カメラで取得した画像に対して画像処理を施し、その結果(蛍光情報)を基に薬の候補になる試料を見出している。画像の画質を高めるため、顕微鏡とカメラの間に共焦点スキャナ(ニポウディスク)が設置される。
【0004】
このような共焦点スキャナを用いた創薬スクリーニング装置の先行例としては、下記のような特許文献が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−098722号公報
【特許文献2】特開2005−095012号公報
【特許文献3】特開2005−102629号公報
【0006】
図3は上記特許文献1に記載された従来の創薬スクリーニング装置の一例を示す構成図であり、顕微鏡と共に使用されるニポウディスク方式共焦点スキャナの例を示している。
【0007】
図3において、共焦点スキャナ100は顕微鏡200に接続されており、図示しない励起光源から出力された励起光はマイクロレンズアレイディスク(以下、MLディスクと呼ぶ)2により複数のビームスポットに変換され、ダイクロイックミラー3を透過後、ピンホールアレイディスク(以下、ニポウディスクと呼ぶ)4の個々のピンホールを通過して、顕微鏡200の対物レンズ5により、励起光束1(破線)としてウェルプレート60のウェル穴に載置された試料6に照射される。
【0008】
ウェルプレート60の各試料6は蛍光試薬を付加されており、各々の蛍光試薬が発した蛍光7(実線)は再び対物レンズ5を通り、ニポウディスク4の個々のピンホール上に集光される。
【0009】
個々のピンホールを通過した蛍光7はダイクロイックミラー3で反射され、リレーレンズ9およびダイクロイックミラー30、バンドパスフィルタ20a、20bを介して2次元センサ(カメラ)10aおよび10bに入射する。ここで、ダイクロイックミラー3は励起光束1は透過し、蛍光7は反射するように設計されている。
【0010】
MLディスク2とニポウディスク4とは互いに連結部材8で機械的に連結された状態で、回転中心軸11の周りを回転する。このため、MLディスク2およびニポウディスク4により形成された複数のビームスポット(励起光束)が、その回転に応じて試料6の表面を走査する。
【0011】
また、ニポウディスク4のピンホールが並んでいる平面と、試料6の表面と、2次元センサ10の受光面とは互いに光学的に共役な関係に配置されているので、2次元センサ(カメラ)10a,10b上には試料6の光学的断面像、すなわち共焦点画像が結像される。
【0012】
上記したように、MLディスク2とニポウディスク4とを高速で回転させることにより、試料6の共焦点画像を2次元センサ(カメラ)10a,10bの受光面上に短時間で形成することができるので、図示するように多数の被検査試料をマトリックス状に並べたウェルプレート60を顕微鏡200と共焦点スキャナ100とに対して相対的に移動させながら試料全数の共焦点画像を高速に取り込むことが可能となる。
【0013】
更に、対物レンズ5を光軸方向に変位させることにより、共焦点画像の観察位置(試料6に対する焦点の深さ)を変え、1つの試料6に対して複数枚のスライス画像を得ることもできる。
【0014】
また、共焦点スキャナ100の共焦点画像取り出しポートに接続された光学画像検出手段300において、前記のダイクロイックミラー3で反射された蛍光7は、第2のダイクロイックミラー30に到達する。ダイクロイックミラー30には任意の分光特性を持たせることができるので、所定の波長成分の蛍光はダイクロイックミラー30を透過し、バンドパスフィルタ20aを介して、2次元センサ10aに到達する。一方、他の波長成分の蛍光は反射され、バンドパスフィルタ20bを介して、2次元センサ10bに到達する。
【0015】
このように、光学画像検出手段300によれば、共焦点画像を複数色に分光することができ、全数の試料6に対して、任意に波長選択分離した共焦点画像を高速に取り込むことが可能となる。
このような共焦点スキャナは新薬開発のスクリーニング手法に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、創薬スクリーニングにおけるアプリケーションでは、細胞膜から細胞質への移行を解析するトランスロケーションや、カルシウムシグナルの測定には蛍光画像が適しており、神経突起の伸長測定など高画質が必要な場合には、共焦点画像が適している。
【0017】
したがって、図3の従来技術の構成において蛍光画像と共焦点画像とを得るためには、共焦点スキャナ100(MLディスク2およびニポウディスク4)を横にずらして、蛍光をダイクロイックミラー3で反射することが考えられるが、これらの光学部品は精密に位置決めされているものであり、共焦点スキャナ100を動かすことは容易ではない。
【0018】
本発明は上記のような従来装置の欠点をなくし、蛍光画像と共焦点画像との両方を選択的に得ることのできる創薬スクリーニング装置を簡単な構成より実現することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の創薬スクリーニング装置は、請求項1においては、ウェルプレートに載置された試料に励起光を照射し、試料から発生される蛍光情報に基づいて創薬スクリーニングを行う創薬スクリーニング装置において、前記試料に蛍光を発生させるための励起光を出力する励起光源と、この励起光を前記試料を走査するための複数のビームスポットよりなる励起光束に変換する共焦点スキャナと、この共焦点スキャナから供給される励起光束を前記試料に照射しその蛍光を観察する顕微鏡と、前記共焦点スキャナまたは前記顕微鏡を介して得られる共焦点画像または蛍光画像を読み取る光学画像検出手段と、前記顕微鏡から戻ってきた蛍光を前記共焦点スキャナの前で選択的にバイパスさせ前記光学画像検出手段に入射させる光路切替手段とを具備することを特徴とする。
【0020】
請求項2においては、請求項1に記載の創薬スクリーニング装置において、前記光路切替手段は、励起光の波長成分のみを透過させるダイクロイックミラーを前記共焦点スキャナと前記顕微鏡との間に選択的に挿入することを特徴とする。
【0021】
請求項3においては、請求項2に記載の創薬スクリーニング装置において、前記光路切替手段は、前記ダイクロイックミラーを前記蛍光の光軸上に移動させる移動手段を有することを特徴とする。
【0022】
請求項4においては、請求項3に記載の創薬スクリーニング装置において、前記移動手段は、前記ダイクロイックミラーを保持するスライダと、このスライダを移動させるモータとを有することを特徴とする。
【0023】
請求項5においては、請求項2乃至4のいずれかに記載の創薬スクリーニング装置において、前記ダイクロイックミラーは、前記共焦点スキャナ中で使用されるダイクロイックミラーと等しい分光特性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の創薬スクリーニング装置によれば、顕微鏡と共焦点スキャナとの間に光路切替手段を設け、顕微鏡から戻ってきた蛍光を共焦点スキャナの前で選択的にバイパスさせ、光学画像観察手段に入射させるようにしているので、簡単な切替操作により、蛍光画像と共焦点画像とを選択的に得ることができ、種々の創薬アプリケーションに適した画像を容易に得ることができる。
【0025】
また、光路切替手段に使用するダイクロイックミラーの分光特性を、共焦点スキャナ中で使用されるダイクロイックミラーの分光特性に揃えるようにしているので、蛍光画像観察時と共焦点画像観察時とにおいて、共通の励起光源を使用することができる。
【0026】
更に、共焦点スキャナを構成するニポウディスクに、マイクロレンズ付きピンホールアレイを利用したので、SN比の高い共焦点画像を得ることができ、解析の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本発明による創薬スクリーニング装置の一実施形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明の創薬スクリーニング装置の一実施例を示す構成図である。図において、前記図3と同様のものは同一符号を付して示す。図1に示す装置が従来例と異なる点は、蛍光画像観察時には、対物レンズ5で集光された蛍光の光路を切替えて、共焦点スキャナ100を介さずに光学画像検出手段300に入射させるようにした点である。
【0029】
50はL字状に形成された光路切替手段であり、L字部の一片は顕微鏡200と共焦点スキャナ100との間に挿入され、この部分には蛍光7の光路を選択的に遮って90度に反射するダイクロイックミラー51aが配置されている。ダイクロイックミラー51aにより反射された蛍光は、後段に配置された反射ミラー51bにより更に直角に反射され、リレーレンズ9cに入射する。
【0030】
一方、L字部の他片は共焦点スキャナ100と光学画像検出手段300との間に挿入され、この部分には共焦点スキャナ100からの出力光を選択的に遮って、リレーレンズ9cで集光された蛍光を光学画像検出手段300に入射させる反射ミラー51cが配置されている。なお、図では省略しているが、光路切替手段50は、例えば電動スライダとモータよりなる移動手段を有しており、ダイクロイックミラー51aおよび反射ミラー51cは電動スライダの上に保持され、モータにより光路中への挿入位置が制御される。
【0031】
ここで、図中の実線で示す位置が、蛍光画像観察時の位置。破線で示す位置が、共焦点画像観察時の位置である。
【0032】
上記の構成において、共焦点画像観察時には、光路切替手段50のダイクロイックミラー51aおよび反射ミラー51cは図中の破線の位置に移動される。
【0033】
すなわち、試料6から発せられた蛍光は、ダイクロイックミラー51aにより反射されることなく、共焦点スキャナ100に入射し、共焦点スキャナ100中のダイクロイックミラー3により反射された後、反射ミラー51cにより遮られることなく、光学画像検出手段300に入射する。
【0034】
したがって、この時の光学系は、前記した図3の装置と同様となり、光学画像検出手段300においては、適宜複数色に分光された試料6の共焦点画像が得られる。
【0035】
次に、蛍光画像観察時には、電動スライダーやモータなどの図示しない移動手段により、光路切替手段50のダイクロイックミラー51aおよび反射ミラー51cが図中の実線の位置に移動される。
【0036】
ここで、ダイクロイックミラー51aは、共焦点スキャナ100中のダイクロイックミラー3と同じ分光特性を有するもので、図2にその分光特性の一例を示す。
【0037】
励起光束1aが405nm、488nm、635nmの3波長よりなるものであるとすると、ダイクロイックミラー3および51aもこれらの波長成分を透過するように、その分光特性が選ばれている。
【0038】
したがって、励起光源から出力された励起光は、共焦点スキャナ100(MLディスク2、ダイクロイックミラー3、ニポウディスク4)およびダイクロイックミラー51aを介して、励起光束1aとして顕微鏡200に供給され、ウェルプレート60上の試料6に照射される。
【0039】
この時、共焦点スキャナ100(MLディスク2、ニポウディスク4)は、共焦点画像観察時と同様に動作(回転)しており、励起光束1aは複数のビームスポットとして試料6に照射され、試料6の全体を走査し、励起する。
【0040】
このように、共焦点スキャナ100と顕微鏡200との間にダイクロイックミラー51aが挿入された状態では、試料6から発せられた蛍光はダイクロイックミラー51aにより反射され、反射ミラー51b、51cを介して光学画像検出手段300に入射する。
【0041】
このため、光学画像検出手段300においては、共焦点スキャナ100を介さない蛍光画像を得ることができる。光学画像検出手段300においては、共焦点画像観察時と同様に、この蛍光画像を適宜複数色に分光して、色別の蛍光画像としてカメラ10a、10bにより撮影する。
【0042】
なお、蛍光画像観察時においては、1つの試料6に対して複数の画像(スライス画像)を観察することはないので、対物レンズ5における光軸方向の位置は、任意の位置に固定されている。例えば、蛍光画像観察開始時に、手動により焦点の調節を行った場合には、それ以降はその時の焦点状態が維持される。
【0043】
以上説明したように、本発明の創薬スクリーニング装置によれば、顕微鏡と共焦点スキャナとの間に光路切替手段を設け、顕微鏡から戻ってきた蛍光を共焦点スキャナの前で選択的にバイパスさせ、光学画像観察手段に入射させるようにしているので、簡単な切替操作により、蛍光画像と共焦点画像とを選択的に得ることができ、種々の創薬アプリケーションに適した画像を容易に得ることができる。
【0044】
また、光路切替手段に使用するダイクロイックミラーの分光特性を、共焦点スキャナ中で使用されるダイクロイックミラーの分光特性に揃えるようにしているので、蛍光画像観察時と共焦点画像観察時とにおいて、共通の励起光源を使用することができる。
【0045】
なお、上記の説明においては、蛍光画像および共焦点画像の観察手段として、画像を複数色に分光し、色別の画像として取り込む光学画像検出手段を例示したが、光学画像検出手段の構成はこれに限られるものではない。
【0046】
また、共焦点スキャナの構成も、図示のものに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の創薬スクリーニング装置の一実施例を示す構成図である。
【図2】ダイクロイックミラー3、51aにおける分光特性の一例を示す特性図である。
【図3】従来の創薬スクリーニング装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1、1a 励起光束
2 マイクロレンズアレイディスク
3、30 ダイクロイックミラー
4 ピンホールアレイディスク
5 対物レンズ
6 試料
7 蛍光
8 連結部材
9a〜9e リレーレンズ
10a、10b カメラ
11 回転中心軸
20a,20b バンドパスフィルタ
50 光路切替手段
51a ダイクロイックミラー
51b、51c 反射ミラー
60 ウェルプレート
100 共焦点スキャナ
200 顕微鏡
300 光学画像検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェルプレートに載置された試料に励起光を照射し、試料から発生される蛍光情報に基づいて創薬スクリーニングを行う創薬スクリーニング装置において、前記試料に蛍光を発生させるための励起光を出力する励起光源と、この励起光を前記試料を走査するための複数のビームスポットよりなる励起光束に変換する共焦点スキャナと、この共焦点スキャナから供給される励起光束を前記試料に照射しその蛍光を観察する顕微鏡と、前記共焦点スキャナまたは前記顕微鏡を介して得られる共焦点画像または蛍光画像を読み取る光学画像検出手段と、前記顕微鏡から戻ってきた蛍光を前記共焦点スキャナの前で選択的にバイパスさせ前記光学画像検出手段に入射させる光路切替手段とを具備することを特徴とする創薬スクリーニング装置。
【請求項2】
前記光路切替手段は、励起光の波長成分のみを透過させるダイクロイックミラーを前記共焦点スキャナと前記顕微鏡との間に選択的に挿入することを特徴とする請求項1に記載の創薬スクリーニング装置。
【請求項3】
前記光路切替手段は、前記ダイクロイックミラーを前記蛍光の光軸上に移動させる移動手段を有することを特徴とする請求項2に記載の創薬スクリーニング装置。
【請求項4】
前記移動手段は、前記ダイクロイックミラーを保持するスライダと、このスライダを移動させるモータとを有することを特徴とする請求項3に記載の創薬スクリーニング装置。
【請求項5】
前記ダイクロイックミラーは、前記共焦点スキャナ中で使用されるダイクロイックミラーと等しい分光特性を有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の創薬スクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−185432(P2008−185432A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18637(P2007−18637)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】