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力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法
説明

力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法

【課題】被解析試料の巨視的な動きを伴った場合であっても材料や構造物などの被解析試料の微視的な領域の力学挙動を簡便に解析可能な新規な力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法を提供する。
【解決手段】力学挙動解析システムは、被解析試料の解析表面を少なくとも被覆し、変形自在であって、かつ、被解析試料側の少なくとも表層に所定の周期構造が形成されている表面ラベルグレーティング膜及び被解析試料からなるサンプル60と、スポット光であるプローブ光を入射する照射手段20と、表面ラベルグレーティング膜からの回折光を検出する受光手段30と、被解析試料と受光手段との距離を検出する距離検出手段70と、回折角のデータを保持する記憶手段14と、記憶手段14に保持された複数の前記回折角のデータから、回折格子の周期構造変化を算出し、当該周期構造変化から被解析試料の力学挙動を解析する解析手段13と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料や構造物などの力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代を担うエレクトロニクス技術として、電子ペーパー等のフレキシブルデバイスに注目が集まっている。電子ペーパーは、表示内容を書き換えるときに電力供給すればよいので、省エネルギー化のニーズに合致しており、新聞などに実用化されれば印刷工程や配送工程を省けることに加え、最新ニュースを提供することも容易となる。
【0003】
次世代型のフレキシブルデバイスの開発に当たっては、微視的な力学挙動の解析が重要となる。従来、材料や構造物の固体の力学挙動解析は、曲率、屈曲角の変化等の巨視的な解析が主流であった。これらは、解析対象領域の均質性・等方性を仮定して解析を行っている。また、外部からその一部に力や変異が与えられない条件においては、内力が存在しないことを前提として解析している。従って、異方性材料においては、解析精度に限界があった。また、実際は、外部から力や変異が与えられなくても分子の変異に対する抵抗力等によって内力が生じ得るので、解析精度に限界があった。
【0004】
微視的な現象を検出する方法として、ラベル化技術がある。ラベル化技術は、蛍光ラベルを用いた分子イメージングをはじめとする生体分野において広く普及している。例えば、非特許文献1においては、通常の観察では得られないタンパク質の回転運動を簡便かつ高い感度で検出できることが報告されている。ラベル化技術は、材料分野においても応用展開されている。例えば、非特許文献2には、蛍光色素をドープした低密度ポリエチレンフィルムを作製し、外部応力による材料の歪みを蛍光の変化として可視化する技術が報告されている。また,非特許文献3には、応力印加により色が変化する現象(メカノクロミズム)を利用して、材料の延伸過程における応力を色の変化として検出する方法が開示されている。
【0005】
微視的な現象を検出する別の方法として、回折格子などの周期構造体を材料に導入する方法が提案されている。非特許文献4においては、アゾベンゼンを有するブロックコポリマーからなるフィルムに対して干渉露光で回折格子を形成し、フィルムの変形率と回折角から算出した回折格子の周期構造の変化率がよく一致することが報告されている。また、非特許文献5では、アゾベンゼンを有する液晶エラストマーに対して干渉露光で回折格子を形成し、熱による液晶の相転移に伴う回折格子の周期構造の変化及び回折格子の変化について検討している。そして、同文献では、昇温に伴い回折格子の周期構造が縮小し、フィルムの変形率と回折格子の周期構造の変化率が一致することを報告している。
【0006】
被解析試料の応力・歪みを測定する方法として、モアレ法(例えば、特許文献1)、光弾性皮膜法、ホログラフィ法、スベックル法、熱弾性法、応力塗料法、銅メッキ応力測定法等が提案されている。モアレ法は、試料表面に細い線を描き,その変形より生じるモアレ縞から変位を測定するものであるが、縞の処理の簡便化に課題があった。光弾性皮膜法は、光弾性膜を実物に貼りつけることで実物の主歪み差を測定するものであるが、均一の厚さの膜をつくることは容易でなく,歪み感度に課題があった。ホログラフィ法は、光の干渉,回折により生じる縞から主に面外変位を測定するものであるが、防振装置が必要であり、装置が高価になるという問題があった。スベックル法は、レーザ光の干渉により生じるスペックル模様の移動から面内変位を測定するものであるが、これも防振装置が必要であり、装置が高価になるという問題があった。熱弾性法は、固体の弾性変形にともなう温度変化より,主応力和の変動分を求めるものであるが、静的歪みが測定できない、繰返し荷重負荷が必要であるという問題があった。応力塗料法は、脆性塗料を塗布し,応力により生じたき裂の状態から応力の方向,歪みを測定するものであるが、定量化等に課題があった。銅メッキ応力測定法は、試料に銅めっきし,繰返し応力により生じる黒い斑点の状態から歪みを測定するものであるが、静的応カが測定できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−25809号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yoshida,M. et al,Nature,1997,386,299.
【非特許文献2】Weder,C. et al,Chem. Mater. 2003,15,4717.
【非特許文献3】Yang,J. et al,Nature,2009,459,68.
【非特許文献4】Zhao,Y. et al,Macromolecules 2002,35,9657.
【非特許文献5】Drevensek-Olenik,I. et al,Phys. Rev. E 2009,80,050701.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の被解析試料の応力・歪みを測定する方法においては、広域範囲の力学挙動を把握することが前提であった。しかしながら、ナノテクノロジー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の進展に伴って、微視的領域の力学挙動の把握が必要不可欠な技術になると確信している。また、フレキシブル材料・フレキシブルデバイスの巨視的な動きに伴う微視的な挙動解析ができれば、新たな材料やデバイスの開発・創製に大きく貢献することが期待できる。
【0010】
反り量を測定する装置、あるいは二次元的なひずみを測定する装置等がそれぞれ実用化されている。例えば、シャドーモアレ法は、反りを測定する方法であるが、測定系が非常に複雑であり、装置も容易に入手できるような価格ではなかった。また、原理的に,表面の二次元的な歪みは無いと仮定して反りを評価するものであった。これまで、巨視的な動きと二次元的な歪みを一度に測定する装置については、実用化されていなかった。
【0011】
なお、上記においては、フレキシブルデバイスやフレキシブル材料における課題について述べたが、微視的な領域の力学挙動を解析したい被解析試料全般について同様の課題が生じ得る。
【0012】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被解析試料の巨視的な動きを伴った場合であっても、材料や構造物などの被解析試料の微視的領域の力学挙動を簡便に解析可能な力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、以下の態様で目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明に係る力学挙動解析システムは、被解析試料、及び前記被解析試料の解析表面を少なくとも被覆し、前記被解析試料と連動して変形自在であって、かつ、前記被解析試料側の少なくとも表層に回折格子として機能する所定の周期構造が形成されている表面ラベルグレーティング膜を具備するサンプルと、少なくとも前記被解析試料の解析表面と、そこに積層されている前記表面ラベルグレーティング膜とにスポット光であるプローブ光を入射する照射手段と、前記照射手段によって入射した前記スポット光の前記被解析試料の解析表面上に形成された前記表面ラベルグレーティング膜からの零次回折光と高次回折光を検出する受光手段と、前記プローブ光の照射領域のサンプルと前記受光手段との距離を検出する距離検出手段と、前記受光手段によって検出された前記零次回折光と前記高次回折光と、前記距離検出手段によって求めた離間距離から求められる回折角のデータを保持する記憶手段と、前記記憶手段に保持された複数の前記回折角のデータから、前記表面ラベルグレーティング膜の前記回折格子の周期構造変化を算出し、当該周期構造変化から前記被解析試料の力学挙動を解析する解析手段と、を具備するものである。
【0015】
本発明に係る力学挙動解析システムによれば、スポット光照射による回折角の変化から表面ラベルグレーティング膜の周期構造変化を算出し、周期構造変化から被解析試料の力学挙動を解析しているので、微視的な領域の力学挙動を簡便に解析することができる。また、被解析試料と受光手段との距離を検出する距離検出手段を備えているので、被解析試料の巨視的な動き(例えば、反り)に伴う微視的な領域の力学挙動を簡便に解析することができる。
【0016】
本発明に係る力学挙動解析方法は、被解析試料と、前記被解析試料と連動して変形自在であって、かつ、前記被解析試料側の少なくとも表層に回折格子として機能する所定の周期構造が形成されている表面ラベルグレーティング膜とからなるサンプルにスポット光であるプローブ光を照射するステップと、前記プローブ光の前記被解析試料の解析表面上に形成された前記表面ラベルグレーティング膜からの零次回折光と高次回折光を受光するステップと、前記零次回折光と高次回折光の受光タイミングで、前記サンプルの照射位置と前記受光する位置までの距離を検出する距離検出ステップと、前記回折光を受光して得られた前記零次回折光と前記高次回折光と、前記距離検出ステップで得られる距離から求められる回折角のデータを記憶するステップと、条件の異なる複数の前記データから、前記表面ラベルグレーティング膜の周期構造変化を算出するステップと、前記周期構造変化から、前記被解析試料の力学挙動を解析するステップと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被解析試料の巨視的な動きを伴った場合であっても材料や構造物などの被解析試料の力学挙動を簡便に解析可能な力学挙動解析システム、及び力学挙動解析方法を提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る力学挙動解析システムのブロック図。
【図2A】第1実施形態に係る測定光学系の模式的説明図。
【図2B】第1実施形態に係る測定光学系の模式的説明図。
【図3】第1実施形態に係るサンプルの模式的断面図。
【図4A】第1実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜を説明するための模式的斜視図。
【図4B】変形例に係る表面ラベルグレーティング膜を説明するための模式的斜視図。
【図5】表面ラベルグレーティング膜の製造工程の一例を示す説明図。
【図6】第1実施形態に係る測定光学系を説明するための模式図。
【図7】第1実施形態に係る力学挙動解析方法の一例を示すフローチャート図。
【図8A】第1実施形態に係るサンプルの一例を示す模式的断面図。
【図8B】変形例に係るサンプルの一例を示す模式的断面図。
【図9】第2実施形態に係る測定光学系を説明するための模式図。
【図10】第3実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜の模式的斜視図。
【図11A】第4実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜の作製方法を説明するための模式図。
【図11B】第4実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜の作製方法を説明するための模式図。
【図12】第4実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜の3次元運動評価方法の説明図。
【図13】第4実施形態に係る力学挙動解析システムのブロック図。
【図14A】実施例に係るSA10のフィルムの偏光紫外可視吸収スペクトル図。
【図14B】実施例に係るCA10のフィルムの偏光紫外可視吸収スペクトル図。
【図15A】実施例に係るSA10のフィルムの屈曲挙動を示す写真。
【図15B】実施例に係るCA10のフィルムの屈曲挙動を示す写真。
【図16A】実施例に係るSA10、CA10のフィルムの紫外光照射時間に対するフィルム長変化をプロットした図。
【図16B】実施例に係るSA10、CA10のフィルムの紫外光照射時間に対する発生応力変化をプロットした図。
【図17】実施例に係るSA10のフィルムにおけるプローブ光の入射偏波面依存性を示す図。
【図18】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜における回折格子の周期構造の変化率をプロットした図。
【図19】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜における光照射に対して回折格子の周期構造変化率をプロットした図。
【図20】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の光屈曲挙動の解析方法の説明図。
【図21A】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の紫外光照射前後における屈曲挙動を示す写真。
【図21B】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の紫外光照射前後における屈曲挙動を示す写真。
【図22】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の紫外光照射時間に対する回折格子の周期構造の変化率をプロットした図。
【図23】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の回折角から算出した回折格子の周期構造の変化率と光照射時間の関係をした図。
【図24A】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の偏光顕微鏡像。
【図24B】図24Aの拡大図。
【図24C】実施例に係るSA10の表面ラベルグレーティング膜の回折光パターン像。
【図24D】図24Cの拡大図。
【図25】二次元の回折格子の周期構造における回折光強度におけるプローブ光の入射偏波面依存性を示す図。
【図26】実施例に係る表面ラベルグレーティング膜に光照射した際の回折格子の周期構造変化率をプロットした図。
【図27】表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料の評価方法を示す説明図。
【図28A】表面ラベルグレーティング膜の測定法を示す説明図。
【図28B】表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料の測定法を示す説明図。
【図29A】表面ラベルグレーティング膜を外部応力によって屈曲させた際の回折像と表面ラベルグレーティング膜の写真。
【図29B】表面ラベルグレーティング膜を外部応力によって屈曲させた際の回折像と表面ラベルグレーティング膜写真。
【図30A】PETを用いたサンプルを外部応力によって屈曲させた際の回折像とサンプル写真。
【図30B】PETを用いたサンプルを外部応力によって屈曲させた際の回折像とサンプル写真。
【図31A】カバーガラスを用いたサンプルを外部応力によって屈曲させた際の回折像とサンプル写真。
【図31B】カバーガラスを用いたサンプルを外部応力によって屈曲させた際の回折像とサンプル写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。また、異なる実施形態や変形例において、共通の要素・部材には同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
[第1実施形態]
【0020】
図1に、第1実施形態に係る力学挙動解析システムのブロック図を示す。図1に示すように、力学挙動解析システム1は、制御部10、照射手段である光源20、受光手段であるCCDカメラ30、操作部40、表示部50、サンプル60、距離検出手段70等を具備する。制御部10は、中央制御部11、駆動部12、解析手段である演算処理部13、記憶手段である記憶部14を有する。
【0021】
中央制御部11は、駆動部12の制御、演算処理部13からの処理結果の受信、操作手段40からの操作入力を受けて表示手段50に画像を表示する等の役割を担う。駆動部12は、光源20の制御、CCDカメラ30、距離検出手段70の制御全般を担う。演算処理部13は、CCDカメラ30において変換された電気信号、距離検出手段70によって検出されたデータを受信し、入力された電気信号・データに演算処理を施して、その処理結果等を中央制御部11に入力する等の役割を担う。記憶部14は、演算処理部13で処理された結果を保持する役割を担い、例えば、RAM/ROM等のメモリや磁気記録媒体を用いて構成されている。記憶部14には、演算処理部13経由でアクセスされる。表示手段50は、ディスプレイやプリンター等である。
【0022】
図2A及び図2Bに、第1実施形態に係る測定光学系の模式的説明図を示す。光源20から出射されたプローブ光21は、固定手段80によって保持されたサンプル60に照射され、サンプル60から出射された回折光22をCCDカメラ30にて検出する。光源20は、例えば、He-Neレーザ等のレーザ光源である。プローブ光21は、スポット光とする。ここで、「スポット光」とは、以下の条件を満たすものとする。すなわち、スポット光とは、スポット光と光軸を同じとする零次回折光と、スポット光をサンプルに照射することによって得られる高次回折光とから、回折角が検出できる領域とする。従って、測定精度により、スポット光の面積は変わり得る。一例を挙げれば、直径10μm〜直径10mm程度である。広い範囲の測定を行いたい場合には、レーザービームをスキャンすればよい。なお、被解析試料の巨視的な動きが大きい場合には、適宜スポット光の領域を小さくすることが好ましい。
【0023】
距離検出手段70により、サンプル60とCCDカメラ30との距離が変わった場合、すなわち、サンプル60が巨視的に変形した場合でも、回折角を算出し、微視的な領域の力学挙動を解析することができる。例えば、図2Bのように、サンプル60が反ってサンプル60とCCDカメラ30との距離がΔd増加した場合であっても、この距離を距離検出手段70により検出して補正することにより回折角を求めることができる。また、固定手段80をX方向にΔd分だけ図中右側に移動させて、初期値の距離Dになるように調整してもよい。また、CCDカメラ30をX方向にΔd分だけ図中左側に移動させてもよい。
【0024】
なお、サンプル60の巨視的変形がある場合、変形に伴って測定対象領域が変動し得る。測定対象領域が変動する場合であっても、同一測定位置でサンプル60の微視的変形を追跡することができる。単一材料、積層体などの材料で特に有益である。また、固定手段80をZ軸方向に移動自在とすることにより、サンプル60の巨視的変形に基づく測定位置が一致するようにしてもよい。例えば、測定位置をマーキングしておき、そのマーク位置にプローブ光21の照射領域が一致するように調整してもよい。
【0025】
また、プローブ光21は、非偏光・偏光を問わないが、測定感度を高める観点からは、回折格子の周期構造のベクトル方向と一致する方向の偏光とすることが好ましい。また、表面ラベルグレーティング膜62が、一軸配向フィルムである場合には、平行な偏波面を有する偏光をプローブ光として用いると、高次回折光の強度を増強することが可能となるので好ましい。高次回折光は、特に限定されないが、強度の観点から、一次回折光であることが好ましい。第1実施形態においては、高次回折光として一次回折光を用いる例について説明する。プローブ光は、取扱い簡便性の観点からは、紫外線、可視光線、近赤外線が好ましいが、他の波長領域の適用を排除するものではない。
【0026】
CCDカメラ30は、適宜、結像系レンズ、集光レンズ、ノイズ光カットフィルター、他の光を遮断する遮光フィルターなどが設置されている。CCDカメラ30は、プローブ光21のサンプル60への照射位置も検出可能なようになっている。なお、第1実施形態においては、受光手段としてCCDカメラを用いる例を挙げているが、他の受光手段を用いてもよい。
【0027】
被解析試料の力学挙動は、プローブ光21をサンプル60に入射したときに発生する回折光の変化と、サンプル60の巨視的な変形(図2B中のX方向の動き)を検出することにより行う。詳細は、後述するが、回折角度と、プローブ光21のサンプル60への入射位置のデータと、サンプル60の巨視的な変形に基づいて被解析対象を解析する。CCDカメラ30により検出された回折光と距離検出手段70により検出されたサンプル60とCCDカメラ30の離間距離は、データとして演算処理部13に伝送される。なお、プローブ光21のサンプル60への入射位置は、サンプル60をセットする前に検出してもよいし、測定時に検出してもよい。また、図2A,図2Bの例においては、サンプル60の主面の法線方向をプローブ21の光軸としているが、回折光が得られる限度内において斜め方向から入射することも可能である。
【0028】
第1実施形態に係るサンプル60は、プローブ光21に対して透過性を有するものとする。図3に、サンプル60の模式的断面図を示す。サンプル60は、被解析試料61と、被解析試料61の解析表面を被覆している表面ラベルグレーティング膜62の積層構造体からなる。表面ラベルグレーティング膜62の被覆領域は、少なくとも被解析試料61の解析領域である。無論、被解析試料61の測定側表面の全面に形成してもよい。表面ラベルグレーティング膜62と被解析試料61は、接着材を介して接合してもよいが、被解析試料61の表面の力学挙動を高精度に解析する観点からは、接着材を介さずに直接的に接合することが好ましい。
【0029】
サンプル60は、(i)被解析試料61側の少なくとも解析表面に表面ラベルグレーティング膜62を被覆可能な積層構造体が形成可能であって、(ii)表面ラベルグレーティング膜62が被解析試料61の動きと連動して変形自在であって、(iii)表面ラベルグレーティング膜62は、被解析試料61側の少なくとも表層に、回折格子として機能する所定の周期構造が形成されている、という条件を満たしていればよい。
【0030】
被解析試料61の対象は、上記条件を満たせばよく、フレキシブル材料、固体材料、ゲル材料などの各種材料の他、フレキシブルデバイス、電子素子、電子デバイス等の電子機器や、コンクリート、橋等の構造物も含む。すなわち、単一材料・複合材料を問わない。
【0031】
表面ラベルグレーティング膜62は、被解析試料61の力学挙動に追随する優れた柔軟性を有するものとする。すなわち、表面ラベルグレーティング膜62は、被解析試料61の膨張、収縮、歪み、屈曲等の力学挙動に連動して変形自在な材料とする。表面ラベルグレーティング膜62は、いわゆるフィルムやシートの他、被解析試料61に直接塗布したコーティング膜などでもよい。
【0032】
表面ラベルグレーティング膜62の材料は、上記条件を満たす限りにおいて特に限定されない。汎用的なポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルムなどに回折格子として機能する所定の周期構造を少なくとも被解析試料61側の表面に形成したものを用いることができる。被解析試料61に応じて、表面ラベルグレーティング膜62の材質、膜厚等を適宜選定すればよい。例えば、コンクリート等の構造物の場合には、厚みのある丈夫なポリエチレンシートなどが好適に用いられる。また、フレキシブル材料の場合には、より柔軟性の高いゴム状高分子膜、液晶高分子膜、ガラス転移温度が測定温度よりも小さい汎用性高分子膜などを適用することができる。例えば、ガラス転移点を0℃付近に示し優れた柔軟性を有する材料として、ポリシロキサン骨格を有する高分子が好適な例として挙げられる。
【0033】
図4Aに、第1実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜62を説明するための模式的斜視図を示す。表面ラベルグレーティング膜62は、被解析試料61側の第1主面63の表層に回折格子として機能する周期構造65が形成されている。表面ラベルグレーティング膜62の第1主面63とは反対側の第2主面64の表層側が、サンプル60の表層側となる。
【0034】
回折格子の周期構造65の深さ方向の厚みは、回折光22を検出できればよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で特に限定されないが、例えば、100nm〜500μmの範囲である。より好ましくは、回折効率の観点から、100nm〜100μmの範囲であり、特に好ましくは、分解能の観点から、100nm〜20μmの範囲である。また、プローブ光21からの回折光22を検出可能であれば、表面ラベルグレーティング膜62の膜厚方向において貫通する回折格子の周期構造を形成することも可能である。
【0035】
但し、回折格子の周期構造65の深さ方向の厚みが大きくなりすぎると、測定精度が落ちるという問題が生じるので、回折格子の周期構造65は、表面ラベルグレーティング膜62が十分に薄い膜厚である場合や測定精度を落としてもよい場合を除いては、被解析試料61と接合する面側の表面に形成することが好ましい。
【0036】
第1実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜62の回折格子の周期構造65は、屈折率nのラインと屈折率nのラインがストライプ状に規則正しくパターン形成されている。表面ラベルグレーティング膜62の第1主面63の表層に回折格子の周期構造65を形成する方法としては、例えば、グレーティングマスク等を用いた露光技術により形成することができる。屈折率nと屈折率nは、回折光22が得られる範囲で適宜設計すればよい。
【0037】
露光の有無によって屈折率nと屈折率nを調整する方法としては、公知の技術を制限なく利用することができる。例えば、露光部において架橋反応、分子切断反応、配向変化反応等を誘起させ、非露光部と屈折率を異ならしめる方法がある。屈折率を容易に調整する方法として、表面ラベルグレーティング膜を一軸配向とする方法を併用してもよい。一軸配向膜は、ラビング処理する方法等の公知の方法を制限なく利用できる。また、図5に示すように、高分子膜を形成(重合)する途上でフィルムを延伸し、メソゲンを応力配向させた状態で未反応基を反応させることにより配向を固定する方法もある。
【0038】
図4Bに、変形例に係る表面ラベルグレーティング膜62zを示す。表面ラベルグレーティング膜62zは、第1主面63の表層の表面に凹凸形状が設けられている。このような凹凸形状は、例えば、インプリント技術、エッチング技術、リソグラフィー技術等により、第1主面63の表層に凹凸形状を形成することができる。また、硬化前に凹凸ローラなどで凹凸形状を形成してもよい。インプリント技術は、基板上に塗布した樹脂材料に金型を押し付けて形状を転写する技術であり、同じ形状の部品を短時間で大量に作り出せるので、生産性、コスト性において優れている。
【0039】
図6に、サンプル60に対する測定光学系を説明するための模式図を示す。サンプル60に対して、プローブ光21を被解析試料61側から入射する。そして、表面ラベルグレーティング膜62の表面から回折光22が出射する。回折光22は、零次回折光23と、2つの一次回折光24からなる。プローブ光21は、CCDカメラ30(図1参照)において検出される。なお、表面ラベルグレーティング膜62側からプローブ光21を照射することも可能である。
【0040】
回折像を観察することにより、表面ラベルグレーティング膜62に形成された回折格子の周期構造65を求めることができる。回折格子における回折格子の周期構造65と回折角の関係は、以下の数式(1)で表される。
【数1】

ここで、mは回折次数、λはプローブ光の波長、αは回折角、Λは回折格子の周期構造である。サンプルからスクリーンまでの距離、及び零次光と一次光の間隔から回折角αを用いて、プローブ光の波長λから、回折格子の周期構造Λが算出される。回折角αの変化から回折格子の周期構造の変化率を算出し、表面ラベルグレーティング膜62の微視的な力学挙動を評価する。そして、表面ラベルグレーティング膜62の解析結果から、被解析試料61の力学挙動を解析する。
【0041】
次に、第1実施形態に係る力学挙動解析方法の一例について図7を用いつつ説明する。まず、被解析対象である被解析試料61の少なくとも解析表面を表面ラベルグレーティング膜62により被覆したサンプル60を用意して、サンプル60を測定ユニットにセットする(Step1)。サンプル60の設置・固定手段は問わないが、例えば、図2A,図2Bのように固定手段80を用いてサンプルを固定する方法、サンプル60の両端部を固定保持する方法、測定領域にプローブ光21や回折光22が通過可能な開口部を設けたサンプルフォルダーを利用する方法等が挙げられる。また、開口部付き載置台や透過性載置台を用いてもよい。この場合、サンプルに対して、上下方向に光源20とCCDカメラ30を配置すればよい。
【0042】
図8Aに、サンプル60の一例を示す。被解析試料61として、透明フィルム66上に透明電極膜67が全面に形成されたフレキシブル基板とした例について説明する。透明フィルム66は、例えば、PETフィルムであり、透明電極膜67は、ITO(Indium Thin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などである。透明フィルム66上に真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により透明電極膜67を形成する。表面ラベルグレーティング膜62は、例えば、露光部/非露光部で屈折率を異ならしめることが可能なフォトレジスト材料などを、グレーティングマスクを用いて形成することができる。表面ラベルグレーティング膜62として図4Bのような凹凸形状を作製する場合には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)前駆体を凹凸形状の金型に流し込んで架橋し、金型から取り外すことにより形成する。そして、透明電極膜67上に表面ラベルグレーティング膜62を積層する。この際、回折格子の周期構造65が形成されている面を透明電極膜67と当接させる。透明電極膜67と表面ラベルグレーティング膜62の接合は、フィルム自身が有する粘着性を利用するのが簡便である。紫外光照射等の物理的刺激によって粘着性を発現するものでもよい。無論、接着材等を利用してもよい。
【0043】
図8Bに、変形例に係るサンプル60yの模式図を示す。サンプル60yは、被解析試料61yとして、透明フィルム66上にライン状の透明導電配線69が複数、等間隔に配設されている。そして、透明導電配線69を被覆するように、絶縁膜68が形成されている。透明導電配線69は、例えば、ITOやIZOなどである。透明フィルム66上に真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により透明導電性薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法、エッチング法などによりラインパターンを形成する。次いで、酸化シリコン膜等の絶縁膜を、プラズマCVD、スパッタ、電子ビーム蒸着等によって形成する。そして、絶縁膜68上に表面ラベルグレーティング膜62を積層する。このように、位置によって異なる材料が形成されている被解析試料に対しても、本発明を適用することができる。この場合、バックグラウンド補正等を行うようにして、解析を実施することが好ましい。
【0044】
次いで、サンプル60の解析対象部にプローブ光21を照射し、プローブ光21のサンプル60からの回折光22をCCDカメラ30で検出する(Step2)。サンプル60は、所望の位置に調整可能なように、XYZθ方向に移動自在であることが好ましい。サンプルに代わって、若しくはサンプルと併用して、光源20とCCDカメラ30をXYZθ方向に移動自在な構成としてもよい。解析精度を高める観点からは、プローブ光21のスポットを小さい領域とすることが好ましい。例えば、回折格子の周期構造65の5〜10倍程度とする。
【0045】
CCDカメラ30で検出された回折光22は、データに変換され演算処理部13経由で記憶部14に送信される。また、距離検出手段70で検出されたサンプル60とCCDカメラ30との離間距離のデータも、演算処理部13経由で記憶部14に送信される。測定タイミング、測定条件等の情報は、例えば、中央制御部11、演算処理部13経由で記憶部14に送信される。記憶部14では、データを格納する(Step3)。所望の測定を行うために、適宜Step2、Step3を繰り返す(Step4)。なお、測定条件とは、例えば、経時的な測定タイミングである。例えば、測定1回目はサンプル60をセットした直後の初期サンプルであり、2回目は1日放置後等である。また、リアルタイムの挙動を追跡するために、リアルタイムに測定を行うことも可能である。サンプル60を取り出して、例えば、所定の試験を行った後に再測定を行ってもよい。さらに、サンプル60に上下、又は/及び左右方向に延伸する等の物理的負荷を加えたときの被解析試料61の微視的な力学挙動を解析することも可能である。なお、サンプル60を設置したまま、温度制御、湿度制御、圧力制御やガス流入設備などが制御できる設備が設けられていてもよい。
【0046】
操作部40から、記憶部14に格納された複数のデータを演算処理部13に呼び出し、演算処理部13で表面ラベルグレーティング膜62の周期構造変化を算出する(Step5)。算出に当たっては、位置補正、ノイズ補正等の種々の補正手段を適宜用いることができる。当該周期構造変化から被解析試料61の微視的領域の力学挙動を解析する(Step6)。解析結果は、中央制御部11を経由して表示部50にて解析データを表示あるいは印字する。
【0047】
第1実施形態に係る力学挙動解析システム1によれば、サンプルへの測定領域を微視的領域に絞っているので、微視的領域の力学挙動についての知見を簡便な光学系で得ることができる。しかも、図2B中のX方向に移動した場合に、サンプルとCCDカメラ30との距離を求めて補正することにより、巨視的な変形に伴うサンプル60の微視的領域の力学挙動を算出することができる。従って、リアルタイムの力学挙動追跡等において特に威力を発揮する。しかも、被解析試料61に対して、表面ラベルグレーティング膜62を被覆するという構成を採用しているので、サンプル作製が容易である。さらに、表面ラベルグレーティング膜62は、被解析試料61に積層可能であって、変形自在であり、かつ回折格子の周期構造65を有するものであればよく、被解析試料61に対して共通の材料を適用できるので汎用性に優れている。また、特殊なオプション設備を付けなければ、比較的安価な装置を提供可能であるとうメリットもある。
【0048】
第1実施形態に係る力学挙動解析システム1によれば、フレキシブル材料、フレキシブルデバイス等の開発において、微視的領域の力学挙動に関する知見が得られるので、例えば、従来のモアレ法等の広範囲の力学挙動解析とは異なる新たな知見が得られ、材料開発、デバイス開発に大きく貢献できることが期待できる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる力学挙動解析システムの一例について説明する。以降の図において、上記第1実施形態と同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0050】
第2実施形態に係る力学挙動解析システムは、以下の点を除く基本的な構成は上記第2実施形態と同様である。すなわち、第2実施形態に係る力学挙動解析システム2は、反射モードによって回折光を検出している点において、透過モードによって回折光を検出している第1実施形態と相違する。
【0051】
図9に、第2実施形態に係る測定光学系を説明するための模式図を示す。サンプル60aは、例えば、XYZθ方向に移動自在に構成されたステージ72上に載置されている。光源20から出射されたプローブ光21は、サンプル60aに照射され、反射光である回折光22をCCDカメラ30にて検出する。反射光学系は、被解析試料が非透過性材料あるいは透過性の低い材料である場合に有用である。
【0052】
被解析試料61aとして、透明フィルム66上に金属膜67aが全面に形成されたフレキシブル基板とした例について説明する。透明フィルム66は、例えば、PETフィルムであり、金属膜67aは、アルミニウム膜等である。透明フィルム66上に真空蒸着法、スパッタリング法等により金属膜67aを成膜する。表面ラベルグレーティング膜62は、上記第1実施形態で説明したとおりである。サンプル60aは、表面ラベルグレーティング膜62の回折格子の周期構造65が形成されている面を金属膜67aと当接させることによって完成する。反射型回折格子における回折格子の周期構造と回折角の関係は、上記式(1)と同様である。
【0053】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、微視的な被解析試料の力学挙動を簡便に解析することができる。また、非透過性材料や、透過性の低い材料や構造物に適用可能であるので、被解析試料の対象を格段に増やすことができるという優れたメリットがある。従来、曲率、屈曲角の変化等の巨視的な解析が行われてきた広範な材料に対して、微視的な力学挙動の解析を実施することができる。例えば、コンクリート、建材、橋等の構造物に対しても本発明を適用できる。
【0054】
[第3実施形態]
図10に、第3実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜の模式的斜視図を示す。第3実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜62bは、二次元の回折格子の周期構造65bが形成されている点において、一次元回折格子の周期構造が形成されていた第1実施形態と相違する。
【0055】
表面ラベルグレーティング膜62bは、第1の方向に屈折率n、nが交互に形成されたパターンと、第2の方向に屈折率n、nが交互に形成されたパターンからなり、回折格子の周期構造65bが二次元の格子状となっている。二次元の回折格子の周期構造は、図10の例に限定されず、任意に設計可能である。第3実施形態においては、第1の方向と第2の方向は、互いに直交した例を示している。
【0056】
第3実施形態によれば、回折格子の周期構造が二次元である表面ラベルグレーティング膜を用いることにより、より詳細な力学挙動を評価できる。例えば、被解析試料の表層の微視的領域において、収縮と膨張がそれぞれ同時に別の方向(例えば、X方向に収縮、Y方向に膨張)が生じている場合において、二次元的な力学挙動を評価することができる。従って、より精度の高い被解析試料の力学挙動解析が可能となる。さまざまな材料の屈曲における表面及び裏面の二次元変形に対する知見を得ることができる。
【0057】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る力学挙動解析システムは、以下の点を除く基本的な構成は上記第1実施形態と同様である。すなわち、第4実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜は、所定の物理的刺激のON−OFFによって表面ラベルグレーティング膜自体に三次元運動を誘起する材料を適用している点において第1実施形態と相違する。
【0058】
表面ラベルグレーティング膜自体に三次元運動を誘起するために、所定条件の熱・光・電気・圧力等により分子形状が可逆的に変化可能な分子を組み込む。取り扱い容易性の観点からは、光によって分子形状が可逆的に変化可能な光応答性基を膜中に組み込む方法が好ましい。第4実施形態においては、光応答性基を表面ラベルグレーティング膜に組み込んだ例について説明する。光応答性基として、アゾベンゼン、スピロピラン、ジアリールエテンなどのフォトクロミック分子が好適な例として挙げられる。ここでは、アゾベンゼンを組み込んだ表面ラベルグレーティング膜の製造方法を図5、図11A、図11Bを参照しつつ説明する。
【0059】
まず、反応性アゾベンゼン分子、反応性液晶分子、架橋分子の混合試料を用意して、適宜、重合触媒を加えてフィルムを形成する。この際、反応途上でフィルムを延伸して表面ラベルグレーティング膜62cに一軸配向性を付与する(図5参照)。次いで、グレーティングマスクにより露光を行う(図11A,図11B参照)。露光波長は、アゾベンゼンをトランス体からシス体に異性化させるために、紫外線を照射する。これにより、露光部のアゾベンゼンはシス体に異性化する。一方、非露光部ではアゾベンゼンはトランス体を保持する。露光部では、アゾベンゼンの異性化に付随して液晶の配向方向変化も誘起される。その結果、露光部と非露光部では、屈折率差が誘起される。上記方法により製造した表面ラベルグレーティング膜は、回折格子の周期構造を有し、かつ、光応答性基が組み込まれた膜となる。なお、紫外線照射部とプローブ光の照射位置は、紫外光照射部による表面ラベルグレーティング膜の屈折率変化を考慮しないで解析するために、通常、近接位置とする。すなわち、紫外線照射部とプローブ光の照射位置をずらした位置とする。
【0060】
図12に、第4実施形態に係る表面ラベルグレーティング膜62cにおける3次元運動の評価方法の説明図を示す。表面ラベルグレーティング膜62cにプローブ光21を照射し、回折光22をCCDカメラ等の受光手段によって検出する。さらに、表面ラベルグレーティング膜62cに対して紫外光を照射する。これによって、表面ラベルグレーティング膜62c中のアゾベンゼンがトランス体からシス体に異性化する。図12の例においては、紫外光照射(活性光線照射)によって、紫外光照射方向に表面ラベルグレーティング膜62cが屈曲する。紫外光照射(活性光線照射)の代わりに可視光を照射すると、アゾベンゼンは、シス体からトランス体に異性化する。シス体からトランス体への異性化に伴って、表面ラベルグレーティング膜62cは、例えば、紫外光照射前の初期形状に戻る。紫外光・可視光照射によって、形状変化を可逆的に誘起・制御できる。
【0061】
紫外光、可視光照射による表面ラベルグレーティング膜62cの巨視的な動きは、フィルムの上方に設けられた別のCCDカメラ90によって随時モニタリングされる。図13に、第4実施形態に係る力学挙動解析システム1cのブロック図を示す。表面ラベルグレーティング膜62cの巨視的な動きをモニタする撮像手段であるCCDカメラ90は、モニタリングデータを演算処理部13cに伝送する。演算処理部13cでは、表面ラベルグレーティング膜62cの巨視的な動きと回折角から算出される表面ラベルグレーティング膜62cの回折格子の周期構造65を連動させて解析を行う。リアルタイムにこれらの解析を行うことも可能である。
【0062】
次いで、この表面ラベルグレーティング膜62cと被解析試料61cからなるサンプル60cを用意し、同様の測定を行う。すなわち、紫外光、可視光を所定の条件で照射しつつ、CCDカメラ90から得られるサンプルの巨視的な動きと、表面ラベルグレーティング膜62cの回折格子の周期構造65を連動させて解析を行う。これらの結果から、被解析試料61cの微視的な力学挙動の解析を実施する。表面ラベルグレーティング膜62cの巨視的な動きと回折角の関係を記憶部14に保持しておけば、サンプル60cの測定毎に表面ラベルグレーティング膜62cのみの測定を行う必要はなく、表面ラベルグレーティング膜62のデータを必要時に記憶部14から呼び出して、サンプル60cの微視的な力学挙動の解析に利用することができる。なお、図に示すCCDカメラ90の位置は、一例であって、サンプル60cを観察可能であれば位置は問わない。また、CCDカメラ90等の撮像装置を複数設置することも可能である。
【0063】
第4実施形態によれば、表面ラベルグレーティング膜自体に運動を誘起できる材料を組み込んでいるので、表面ラベルグレーティング膜62bに対して屈曲や収縮、膨張等を意図的に誘起することができる。その結果、表面ラベルグレーティング膜62b自体の回折格子の周期構造変化と巨視的な力学挙動との関係の知見を得ることができる。この知見から、被解析試料の力学挙動を短時間で簡便に評価することが可能となる。すなわち、表面ラベルグレーティング膜単独の物理的刺激のON−OFFによる動きとその時の回折格子の周期構造変化をデーターベース化し、このデーターベースと、被解析試料上の表面ラベルグレーティング膜の回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することもできる。また、巨視的な力学挙動に対する微視的な力学挙動を評価することができるという優れた効果がある。
【0064】
また、表面ラベルグレーティング膜自体に運動を誘起できる材料を組み込むことにより、内力の発生と外力の印加に伴う材料変形挙動の差異を解析することも可能となる。
【0065】
なお、上記実施形態1〜4は、互いに好適に組み合わせて適用することができる。
【0066】
[実施例]
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する試薬等は、特に断らない限りは一般に市販されているものである。薄層クロマトグラフィー(TLC)及びカラムクロマトグラフィーはシリカゲルを用いて行った。核磁気共鳴吸収スペクトル測定(HNMR)は、Lamda−300(300MHz)を用い、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準とした。質量分析は、日本電子製 JMS700を用い、元素分析は、LECO製 CHNS−932を用いた。
【0067】
[4−(5−ヘキセニル−1−オキシ)−4'−メトキシフェニルベンゾエート(以下、V4BZMと称する)の合成]
化学式(1)で表わされるV4BZMを合成した。
【化1】

4−ヒドロキシ安息香酸7.0g(51mmol)をエタノール80mlに溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(10wt%)を50ml加えた後、エタノールで希釈した6−ブロモ−1−ヘキセン9.9g(61mmol)をゆっくり滴下しながら、80℃で24時間加熱撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、エタノールを減圧留去し、塩酸を加えた。吸引濾過を行い、析出物を水で洗浄した後、エタノールと水で再結晶を行うことにより、化学式(2)の化合物(白色固体)を7.6g(35mmol)得た。
【化2】

【0068】
次いで、窒素雰囲気下において、上記化学式(2)の化合物7.6g(35mmol)、4−メトキシフェノール4.3g(35mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)4.3g(35mmol)を脱水ジクロロメタン200mlに溶解し、室温で撹拌しながら、脱水ジクロロメタンで希釈したN,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)7.2g(35mmol)をゆっくり滴下し、室温で3時間撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、濾過を行い、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム)により目的物を精製した。ヘキサンで再結晶を行うことにより目的化合物である上記式(1)のV4BZM(白色固体)を10g(31mmol)得た。
【0069】
・収率: 89%
1HnmR(δ、CDCl3): 1.6(m、2H)、1.8(m、2H)、2.2(m、2H)、3.8(s、3H)、4.1(t、2H)、5.0(m、2H)、5.8(m、1H)、6.9(m、4H)、7.1(m、2H)、8.1(m、2H)
・MS(FAB)m/z 327 [M+](326 Calcd. For C20H22O4)
・Anal. Calcd. for C20H22O4: C、73.44; H、6.85; O、19.71%
Found: C、73.57; H、6.74%
【0070】
[4−(5−ヘキセニル−1−オキシ)−4'−メトキシアゾベンゼン(以下、V4ABMと称する)の合成]
化学式(3)で表わされるV4ABMを合成した。
【化3】

【0071】
まず、4−メトキシアニリン7.0g(57mmol)を42wt%テトラフルオロホウ酸水溶液24g(114mmol)、水50mlに溶解し、0℃となるように冷却した。ここに冷却した25mlの亜硝酸ナトリウム3.9g(57mmol)水溶液をゆっくりと滴下し、1時間撹拌することによりジアゾニウム塩を発生させた。続いて、フェノール6.3g(66mmol)及び炭酸カリウム9.2g(66mmol)を水30mlに溶解、氷冷した水溶液をゆっくりと滴下した。反応溶液のpHが8程度の弱アルカリ性になっていることを確認し、氷冷下で3時間撹拌した。反応溶液に塩酸を加えてpH3程度の酸性に調整し、吸引濾過を行った。析出物を温水で洗浄した後、酢酸エチルに溶解した。溶液を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、乾燥剤を濾別後、酢酸エチルを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)により目的物を精製し、酢酸エチル、ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより化学式(4)で表わされる化学式4)の化合物(茶褐色粉末)を8.0g(35mmol)得た。
【化4】

【0072】
次いで、上記化学式(4)1.0g(4.4mmol)、6−ブロモ−1−ヘキセン0.70g(4.4mmol)、ヨウ化カリウム触媒量をDMF10mlに溶解し、炭酸カリウム0.60g(4.4mmol)を加え、80℃で2時間加熱撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、酢酸エチルで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、乾燥剤を濾別後、酢酸エチルを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:1)により目的物を精製し、ヘキサンで再結晶を行うことにより目的化合物である上記化学式(3)のV4ABM(黄色固体)を0.81g(2.6mmol)得た。
【0073】
・収率: 59%
1HnmR(δ、CDCl3): 1.6(m、2H)、1.8(m、2H)、2.1(m、2H)、3.9(s、3H)、4.0(t、2H)、5.0(m、2H)、5.8(m、1H)、7.0(m、4H)、7.8(m、4H)
・MS(FAB)m/z 310 [M+](310 Calcd. For C19H22N2O2)
・Anal. Calcd. for C19H22N2O2: C、73.52; H、7.14; N、9.03; O、10.31%
Found: C、73.46; H、7.24; N、9.01; O、10.38%
【0074】
[4,4'−ビス(5−ヘキセニル−1−オキシ)アゾベンゼン(以下、DV4ABと称する)の合成]
化学式(5)で表わされるDV4ABを合成した。
【化5】

まず、窒素雰囲気下において、上記化学式(4)の化合物 2.0g(8.8mmol)を脱水ジクロロメタン50mlに溶解し、−78℃で撹拌しながら、三臭化ホウ素(50mmol)のジクロロメタン溶液50mlをゆっくり滴下した。滴下終了後、室温で20時間撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHが8程度の弱アルカリ性になっていることを確認した。pHが1程度になるまで塩酸を加えた後、酢酸エチルで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、乾燥剤を濾別後、酢酸エチルを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)により目的物を精製し、化学式(6)で表わされる化合物(黄色粉末)を1.0g(4.7mmol)得た。
【化6】

【0075】
次いで、窒素雰囲気下において、上記化学式(6)1.4g(6.5mmol)、6−ブロモ−1−ヘキセン2.4g(15mmol)、炭酸カリウム0.60g(4.4mmol)、ヨウ化カリウム 触媒量に脱水DMF70mlを加え、80℃で16時間加熱撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、ジクロロメタンで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、乾燥剤を濾別後、ジクロロメタンを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:2)により目的物を精製し、ヘキサンで再結晶を行うことにより目的物である上記式(5)のDV4AB(黄色固体)を1.6g(4.2mmol)得た。
【0076】
・収率: 64%
1HnmR(δ、CDCl3): 1.6(m、4H)、1.8(m、4H)、2.1(m、4H)、4.0(t、4H)、5.0(m、4H)、5.8(m、2H)、7.0(m、4H)、7.9(m、4H)
・MS(FAB)m/z 379 [M+](379 Calcd. For C20H22O2)
・Anal. Calcd. for C20H22O2: C、76.14; H、7.99; N、7.40; O、8.74%
Found: C、76.21; H、8.04; N、7.49%
【0077】
[4,4'−ビス(10−ヘキセニル−1−オキシ)ベンゼン(以下、DV9HQと称する)の合成]
化学式(7)で表わされるDV9HQを合成した。
【化7】

【0078】
窒素雰囲気下において、ヒドロキノン3.0g(28mmol)、11−ブロモ−1−ウンデセン16g(69mmol)、炭酸カリウム19g(138mmol)及びヨウ化カリウム触媒量を脱水ブタノン50mlに分散させ、80℃で24時間加熱撹拌した。TLCにより反応終了を確認した後、クロロホルムで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、乾燥剤を濾別後、クロロホルムを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)により目的物を精製し、ヘキサンで再結晶を行うことにより目的物である上記化学式(7)のDV9HQ(白色固体)を5.3g(13mmol)得た。
【0079】
・収率: 47%
1HnmR(δ、CDCl3): 1.2-1.5(m、24H)、1.8(m、4H)、2.1(m、4H)、3.9(t、4H)、5.0(m、4H)、5.8(m、2H)、6.8(s、4H)
・MS(FAB)m/z 414 [M+](415 Calcd. For C28H46O2)
・Anal. Calcd. for C28H46O2: C、81.10; H、11.18; O、7.72%
Found: C、81.20; H、11.33%
【0080】
相転移温度の測定には、示差走査熱量計(DSC;エスアイアイ・ナノテクノロジー製 DSC6220)を用いた。DSC測定では走査速度1℃/min又は3℃/minで掃引し、3回目の昇温・降温過程におけるサーモグラムを解析に用いた。液晶相の確認には偏光顕微鏡(オリンパス製 BX50)及びホットステージ(Mettler製 FP−90、FP82HT)を用いた。結晶相、ネマチック相及び等方相はそれぞれK、N、Iの略号で示した。合成したV4BZM、V4ABM、DV4AB及びDV9HQの相構造、相転移温度及び転移エンタルピー(ΔH)を表1に示す。
【表1】

【0081】
(表面ラベルグレーティング膜の作製)
ポリメチルヒドロシロキサン(化学式(8)、Aldrich製、Mn=4,000、Mw/Mn=1.5)(以下、「PMSH」と称する)を80mg(1.3mmol)と、このPMSHの側鎖に導入する液晶形成部位としてV4BZM(化学式(1))を80mol%、光応答部位としてV4ABM(化学式(3))を10mol%、両末端にビニル基を有する架橋剤としてDV9HQ(化学式(7))を10mol%の混合試料を調製した。
【化8】

【0082】
次いで、反応容器としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(ニチアス製 ナフロンテープ)で覆ったシャーレを用意した。混合試料のトルエン溶液1ml(35wt%)にヒドロシリル化反応用触媒としてジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(DCODP)(化学式(9)、東京化成製)のジクロロメタン溶液(1.0mg/ml)を13μl加え、PTFEフィルター(孔径0.45μm)でろ過を行い、得られた溶液をシャーレに滴下した。
【化9】

【0083】
続いて蓋をしたシャーレをオーブンに入れ、80℃で3時間ヒドロシリル化反応を行った後、PTFEフィルムからトルエンで膨潤したフィルム剥離することにより、フリースタンディングフィルムを得た。得られたフィルムを1時間室温にて静置し、フィルムに含まれるトルエンをある程度蒸発させた後、フィルムの両端をポリイミドテープで挟み、スライド式シリンドリカルレンズホルダー(シグマ光機製)を用いてフィルムを約60%一軸延伸した。延伸した状態でフィルムを室温暗所にて3日間さらに反応させた後、110℃に保持した真空オーブン中で24時間乾燥することにより,透明なフィルムを得た。フィルムの膜厚をデジタルマイクロメーター(ミツトヨ製 MDC−25MJ)を用いて測定したところ、300μm程度であった。また、作製したフィルムをトルエンに浸しても溶解せずに膨潤することから、架橋構造が形成されていることを確認した。
【0084】
ヒドロシリル化反応の進行に伴いヒドロシリル基(ケイ素-水素結合)がケイ素−炭素結合に変化することを、反応前後における試料の赤外吸収スペクトルから確認した。ヒドロシリル基の伸縮振動に由来する2200cm−1付近のピークを比較すると、反応前と比べて3時間後ではピークは減少し、乾燥後ほぼ消失することから、ヒドロシリル化反応が進行していると判断した。
【0085】
前述した方法により、アゾベンゼンの導入位置の異なる2種類のフィルムを作製した。それぞれのフィルムの組成比を表2に示す。以後、側鎖にアゾベンゼンを有するフィルムをSA10と略記し、架橋部位にアゾベンゼンを有するフィルムをCA10と略記する。
【表2】

【0086】
作製したフィルムの配向状態を調べるために、偏光顕微鏡観察を行ったところ、クロスニコル下において45°おきに周期的な明暗を観察できた。図14Aに、SA10の偏光紫外可視吸収スペクトル測定を、図14BにCA10の偏光紫外可視吸収スペクトル測定を行った結果を示す。図14A及び図14Bより、延伸方向と平行方向の吸光度と垂直方向の吸光度に差が現れ,平行方向の吸光度が高く、フィルム内においてアゾベンゼンが延伸方向に一軸配向していることが明らかとなった。
【0087】
作製したフィルムの熱物性を評価するために、DSC測定及び偏光顕微鏡観察を行った。DSC測定では走査速度10℃/minで掃引し、3回目の昇温・降温過程におけるサーモグラムを解析に用いた。液晶性の確認には偏光顕微鏡及びホットステージを用いた。DSC測定の結果から、いずれのフィルムにおいても昇温・降温過程において液晶相−等方相相転移を示唆するピークを確認でき、0℃付近においてガラス転移(T)に由来するベースラインのシフトを観察できた。また偏光顕微鏡観察の結果、両フィルムともに昇温過程の相転移温度を境に明視野から暗視野へ、降温過程の相転移温度を境に暗視野から明視野へと変化した。偏光顕微鏡観察及び等方相から液晶相への転移エンタルピーから、SA10とCA10は昇温・降温でネマチック相を示すと判断した。
【0088】
フィルム中におけるアゾベンゼンの光異性化を確認するため、紫外可視分光光度計を用いて、紫外光照射前後におけるフィルムの吸収スペクトルを測定した。光源には、UV−LED(キーエンス製 UV−400、UV−50H、UV−L8)を用い、波長365nmの紫外光を照射した。その結果、フィルムに波長365nmの紫外光を照射するとアゾベンゼンのn−π遷移に由来する吸収ピークが増加した。この結果から、フィルム中においてアゾベンゼンはトランス−シス光異性化を示すことが明らかとなった。CA10においても同様の結果を得た。
【0089】
次に、光照射によるフィルムの光応答性を観察した。フィルムの中心をアルミ棒に接着し、室温にて光を照射した。光源には紫外光源としてUV−LED、可視光源としてVis−LEDを用い、フィルムの運動の撮影にはマイクロスコープ(キーエンス製 VW−6000、VH−Z00R)を用いた。SA10の観察結果を図15Aに、CA10の観察結果を図15Bに示す。いずれのフィルムも365nmの紫外光を照射すると光源に向かって屈曲し、530nmの可視光を照射すると元の形状に戻った。フィルムの可逆的な屈伸は繰り返し誘起することができた。
【0090】
(フィルムの光応答性評価)
光照射時におけるフィルムの力学特性は、TMAを用いてフィルム長の変化量及び発生応力を測定することにより評価した。フィルム長の変化量は、定速荷重モード(初期荷重10mN、荷重速度0mN/min)にて、一定の荷重を印加したフィルムに紫外光を照射することにより測定した。発生応力は、収縮応力モード(初期荷重10mN)にて、試料長を固定したフィルムに紫外光照射を行い、生じる力を発生応力として測定した。光源にはUV−LEDを用い、いずれの測定も30℃にて行った。
【0091】
図16Aにフィルム長の測定結果を、図16Bに発生応力の測定結果を示す。いずれのフィルムも紫外光照射によりフィルム長は減少し、配向方向に収縮することがわかった。また、応力においては、紫外光照射により直ちに応力を発生することがわかった。SA10及びCA10の収縮率と発生応力を比較したところ、CA10の方が高い収縮率、及び大きな発生応力を示すことがわかった。CA10の方がSA10よりも収縮量が多いため、より大きな屈曲角を示すものと考えている。架橋部位にアゾベンゼンを有するCA10では、高分子鎖とアゾベンゼンが2点で結合しているため、アゾベンゼンの異性化により周囲のメソゲンの配向変化を誘起できるだけでなく、直接的に高分子鎖の運動を誘起できるため、より大きな変形を示すと考えている。
【0092】
フィルムへの回折格子の周期構造の形成は、簡単な光学系で強度分布のある光を照射可能なグレーティングマスク(シグマサイバーテック製)を用いた。グレーティングマスクは、ガラス基板上にクロムを蒸着することによりパターン形成されており、回折格子の周期構造4.0μmのグレーティングを有している。フィルムの膜厚が300μmと厚膜であることと、紫外領域におけるアゾベンゼンのモル吸光係数が高いことを利用し、グレーティングマスクを介してフィルムに紫外光を照射することにより、フィルム表面に回折格子の周期構造を形成した。
【0093】
より具体的には、フィルムをガラス基板上に設置し、格子ベクトルが配向方向と平行になるように、グレーティングマスクを被せた。その上から波長365nm、光強度10mW/cmの紫外光を5分間照射した。光源にはUV−LEDを用い、室温にて光照射を行った。上記工程を経て、表面ラベルグレーティング膜を得た。
【0094】
表面ラベルグレーティング膜を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル下においてサンプルを回転させると45°おきに周期的な明暗が現れ、明視野となる45°及び135°において一次元周期構造体の形成を確認できた。非露光部では初期の分子配向が保持される一方、露光部においてはアゾベンゼンのシス体の生成により分子配向変化が誘起される結果、周期的な複屈折変化が生じることが示唆される。作製した周期構造体の回折格子の周期構造を算出したところ、3.88μmとなり、グレーティングマスクの回折格子の周期構造(4.0μm)よりもわずかに短くなった。これは、露光部において収縮が誘起されるためと考えている。
【0095】
(サンプルの調製)
5mm×5mm×300μmのフィルムに形成された周期構造体の回折格子の周期構造は3.9μm程度であり、表面ラベルグレーティング膜表面から膜厚方向におよそ25μmの領域に、配向方向と平行な格子ベクトルを有する。回折像の観察には、プローブ光としてヘリウムネオンレーザー(MELLES GRIOT 製 05−LHR−151)の波長633nmのランダム偏光を用い、直線偏光を照射する場合には偏光板(シグマ光機製)を用いた。フィルムの光運動には、UV−LEDの波長365nm、光強度50mW/cmの紫外光及びVis−LEDの波長530nm、光強度20mW/cmの可視光を用いた。
【0096】
回折格子の周期構造における回折特性を調べるため、周期構造形成後の表面ラベルグレーティング膜に波長633nmのヘリウムネオンレーザー光をプローブ光として垂直に入射し、発生する回折光をスクリーン上に投影することにより観察した。表面ラベルグレーティング膜にプローブ光を入射すると、一次回折光が発生することから、作製した周期構造体は回折格子として機能することがわかった。
【0097】
周期構造Λを上記数式(1)から求めたところ、3.96μmとなった。回折光を観察することにより、偏光顕微鏡で観察した周期と同程度の値を得られることがわかった。
【0098】
次に、回折光強度におけるプローブ光の入射偏波面依存性について検討した結果について記載する。ここで、プローブ光を入射側からみて、偏光方向が格子ベクトルから右回りになす角をβと定義した。回折像をCCDカメラ(Vieworks製 VM−11M)により撮影し、得られた画像から解析ソフト(NIH製 ImageJ)を用いることにより、回折光の強度比を算出した。
【0099】
図17に、プローブ光の入射偏波面依存性について検討した結果を示す。格子ベクトルとプローブ光の偏光方向が平行となる場合(0°、180°、360°)、一次光の強度は最大となり、零次光の強度は最も低くなった。一方、格子ベクトルとプローブ光の偏光方向が垂直になる場合(90°、270°)、一次光の強度は最低となり、零次光の強度は最も高くなることから、回折光強度はプローブ光の入射偏波面に依存して変化することが明らかとなった。格子ベクトルとフィルムの配向方向は平行であることから、格子ベクトルと偏光方向が平行となる場合、露光部と非露光部における屈折率差が大きくなるため、入射したプローブ光は効率良く回折される。一方、格子ベクトルと偏光方向が垂直となる場合、露光部と非露光部における屈折率差が小さくなるため、相対的に回折効率が低下すると考えている。以降、一次回折光の強度が最大となるように、フィルムの配向方向に対して平行な偏波面を有する偏光をプローブ光として用いた。
【0100】
次に、表面ラベルグレーティング膜の外部応力によるフィルムの膨張・収縮が周期構造体に及ぼす影響について、TMA及び回折像を用いて検討した。定速荷重モード(初期荷重30mN、荷重速度10mN/min)にて一定速度で荷重を印加しながら、フィルムの膨張・収縮に伴う回折光の変化を、サンプルから1m離れたスクリーン上に回折像を投影することにより観察した。プローブ光には、フィルムの配向方向及び格子ベクトルに対して平行な偏波面を有する波長633nmのヘリウムネオンレーザー光を用い、フィルムに対して垂直に入射した。表面ラベルグレーティングを形成した面がスクリーン側になるようにフィルムを装置に取り付け、30℃にて測定を行った。
【0101】
TMAで検出したフィルムの変形率と回折角から求めた回折格子の周期構造の変化率を比較した。フィルムの変形率は、TMAで検出した変化後のフィルム長Lと延伸前における初期のフィルム長Lから求めた。また、回折角から求めた延伸前の回折格子の周期構造をΛ、変化後をΛとして、回折格子の周期構造の変化率を算出した。結果を図18に示す。フィルムの変形率と回折格子の周期構造の変化率はほぼ一致し、フィルムの膨張・収縮に伴い回折格子の周期構造も同様に増減することがわかった。回折光を観察することにより、フィルムの膨張・収縮を簡便にリアルタイム観察できることが明らかとなった。
【0102】
次に、光照射によるフィルムの収縮が周期構造体に及ぼす影響について、TMA、回折光及び偏光顕微鏡を用いて検討した。定速荷重モード(初期荷重10mN、荷重速度0mN/min)にて、一定の荷重を印加したフィルムに紫外光照射を行った。周期構造体を形成した面から紫外光を照射すると周期構造体が消去されるため、回折光の観察は困難である。そこで周期構造を形成した面の裏面から紫外光を照射し、回折光を観察した。周期構造体を形成した面がスクリーン側になるように、フィルムを装置に取り付け、30℃にて測定を行った。測定結果を図19に示す。
【0103】
回折角の変化から回折格子の周期構造の変化率を算出したところ、紫外光照射により回折格子の周期構造は減少し、TMAで検出したフィルムの変形率とほぼ一致した。また、紫外光照射前後におけるフィルムの偏光顕微鏡観察を行ったところ、光照射により透過光量が減少した。これは、紫外光照射により分子配向変化が誘起される結果、複屈折が減少するためと考えている。さらに、偏光顕微鏡観察から求めた回折格子の周期構造の変化率は0.97となった。これは、TMA及び回折光観察から得られた値とほぼ一致しており、光によるフィルムの収縮を簡便かつリアルタイムに観察できることが明らかとなった。以上の結果から、回折格子の周期構造を形成した表面ラベルグレーティング膜を利用することにより、さまざまな外部刺激によるフィルムの二次元運動を回折角の変化として、簡便に評価できることがわかった。
【0104】
次に、表面ラベルグレーティング膜に活性光線を照射した際の光屈曲挙動の解析について検討した結果について説明する。表面ラベルグレーティング膜に形成した回折格子の周期構造は、スクリーン側とする。ここで、回折格子の周期構造側に表面ラベルグレーティング膜が反る(カールする)場合、すなわち、スクリーン側にフィルムが動く場合を第1変形と定義する。また、回折格子の周期構造とは反対側に表面ラベルグレーティング膜が反る(カールする)場合、すなわち、プローブ光側にフィルムが動く場合を第2変形と定義する。図20(c)は、第1変形の例であり、図20(d)は第2変形の例である。
【0105】
図20(b)には、プローブ光の入射位置及び紫外光を照射した範囲の説明図を示す。プローブ光の入射角が大きくなると回折光は消失するので、屈曲角の影響が小さい表面ラベルグレーティング膜上端にプローブ光を入射した。また、表面ラベルグレーティング膜の表面の測定では、周期構造体を形成した面に紫外光を照射するため、周期構造体が消失してしまう。そこで、紫外光をフィルムの全面ではなく、プローブ光の入射位置より下の範囲に照射した。裏面の測定においても同様の範囲に紫外光を照射しながら、発生する回折光をスクリーンに投影することにより観察した。
【0106】
図21Aに、スクリーン側から活性光線である紫外光を照射することによって表面ラベルグレーティング膜が第1変形した場合の写真を、図21Bに、プローブ光側から活性光線である紫外光を照射することによって表面ラベルグレーティング膜が第2変形した場合の写真を示す。
【0107】
図22に、表面ラベルグレーティング膜の回折角から算出した回折格子の周期構造の変化率と紫外光照射時間の関係を示す。表面ラベルグレーティング膜は、活性光線照射側に反る(カールする)。従って、図21Aの場合には、回折格子の周期構造は減少し、図21Bの場合には、回折格子の周期構造がわずかに増大する。
【0108】
回折格子の周期構造の変化率からフィルム表層の変形率を見積もったところ、図21Aの場合には、回折格子の周期構造の変化率より、表面ラベルグレーティング膜の回折格子側が2.9%収縮したことがわかった。一方、図21Bの場合には、回折格子の周期構造の変化率より、表面ラベルグレーティング膜の回折格子側の表面が0.6%膨張することがわかった。表面ラベルグレーティング膜の変形を、回折光の変化として検出した結果、表面ラベルグレーティング膜の収縮・膨張を定量化することができた。
【0109】
次に、屈曲における紫外光照射範囲依存性について検討した。測定は、回折格子の周期構造を形成した面の裏面側であるプローブ光の方向から活性光線である紫外光照射を行い、表面ラベルグレーティング膜上端にプローブ光を入射しながら、発生する回折光をCCDカメラにより観察した。図23に、回折角から算出した回折格子の周期構造の変化率と光照射時間の関係をプロットした図を示す。回折格子の周期構造の変化率から表面ラベルグレーティング膜の変形率を見積もったところ、表面ラベルグレーティング膜の回折格子の周期構造が形成されている側の表層は、3.2%収縮することがわかった。また、屈曲したフィルムに波長530nmの可視光を照射すると回折格子の周期構造が増加し、ほぼ初期の値に戻ることから、活性光線の照射により可逆的にプローブ光の回折角を制御できることもわかった。
【0110】
次に、二次元表面ラベルグレーティングを利用した光屈曲挙動の解析について検討した結果について説明する。まず、一次元と同様に回折格子の周期構造4.0μmのグレーティングマスクを用いた。ガラス基板上に設置したフィルムに、配向方向と格子ベクトルが平行になるようにグレーティングマスクを被せ、その上からUV−LEDの波長365nm、光強度10mW/cmの紫外光を3分間照射した。続いて、グレーティングマスクの格子ベクトルを90°回転させることにより、格子ベクトルと配向方向を直交させた後、再び同じ条件で紫外光照射を行うことにより二次元の回折格子の周期構造を作製した。
【0111】
光照射後の表面ラベルグレーティング膜を偏光顕微鏡で観察したところ、二次元周期構造体の形成を確認できた(図24A参照)。また、回折光観察を行ったところ、正方形型に8点の一次回折光パターンが現れた(図24C参照)。偏光顕微鏡観察と回折光観察の結果から、作製した周期構造体は4種の格子ベクトルを有すると考えている。図24B及び図24Dに偏光顕微鏡写真と回折像の拡大図を示す。A矢印とB矢印で示した格子ベクトルの回折格子の周期構造はそれぞれ3.89μm及び3.86μmとなり、C矢印とD矢印で示した回折格子の周期構造はそれぞれ2.75μm及び2.76μmとなった。理論的には、C矢印とD矢印の回折格子の周期構造はA矢印とB矢印の数式(2)倍となることから、得られた結果が理論値とよく一致していることがわかった。
【数2】

【0112】
次に、一次元の回折格子の周期構造と同様に、三次元運動解析に用いるプローブ光の入射偏波面の最適化を行うために、回折光強度におけるプローブ光の入射偏波面依存性を検討した。プローブ光を入射側からみて、偏光方向がフィルムの配向方向から右回りになす角をβと定義し、一次元周期構造体と同様の方法で測定した。結果を図25に示す。4種の格子ベクトルの一次回折光の強度は図24Dに示す矢印に対応させてプロットした。配向方向とプローブ光の偏光方向が平行となる場合(0°、180°、360°)、いずれの格子ベクトルにおいても一次光の強度は最大となり、零次光の強度は最も低くなった。一方、配向方向と偏光方向が垂直になる場合(0°、90°、270°)、いずれの格子ベクトルにおいても一次光の強度は最低となり、零次光の強度は最も高くなった。
【0113】
これらの結果から、二次元表面ラベルグレーティングにおいても回折光強度はプローブ光の入射偏波面に依存して変化することがわかった。また、いずれの格子ベクトルにおいても一次回折光強度は、同様の偏波面依存性を示すことから、二次元周期構造体における偏波面依存性のメカニズムは一次元周期構造体と同様に、露光部と非露光部における屈折率差によるものと考えている。一方、配向方向に対して平行及び垂直な格子ベクトルの一次回折光強度に比べて、配向方向から±45°のなす角を有する格子ベクトルの強度が低いことがわかった。これは、直交したグレーティングマスクを用いて周期構造体を作製したため、±45°のなす角を有する格子ベクトルにおける周期構造体の規則性が低いためと考えている。二次元の回折格子の周期構造を用いた三次元運動解析には、一次回折光の強度が最大となるように、フィルムの配向方向に対して平行な偏波面を有する偏光をプローブ光として用いた。
【0114】
次に、二次元の回折格子の周期構造を利用した屈曲における二軸評価の結果について記載する。前述の測定方法と同様に、回折格子の周期構造を形成した面の裏面であるプローブ光側から表面ラベルグレーティング膜に紫外光照射を行い、表面ラベルグレーティング膜上端にプローブ光を入射した。発生する回折光の観察にはCCDカメラを用いた。
【0115】
図26に、配向方向に対して平行方向及び垂直方向における回折格子の周期構造の変化率と光照射時間の関係を示す。回折像により求めた回折格子の周期構造の変化率から表面ラベルグレーティング膜の変形率を見積もると、屈曲に伴い表面ラベルグレーティング膜の回折格子が形成されている側の面は配向方向に3.0%収縮することがわかった。一方、表面ラベルグレーティング膜の回折格子が形成されている側の面の配向方向に垂直な方向は、2.1%膨張することが明らかとなった。二次元の周期構造を有する表面ラベルグレーティング膜を利用することにより、屈曲における表面ラベルグレーティング膜の裏面の収縮・膨張を二軸同時に評価することができた。
【0116】
(表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料の評価)
表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料の外部応力を加えたときの微視的領域の力学挙動について検討した。比較のため、表面ラベルグレーティング膜に外部応力を加えたときの微視的領域の力学挙動について検討した。被解析資料として、未延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)(ユニチカ製)と、カバーガラス(松浪硝子工業製 マイクロカバーガラス)の2サンプルについて評価した。表面ラベルグレーティング膜としては、SA10により作製したフィルムを用いた。SA10は粘着性を帯びているため、接着剤を用いることなく容易にPETやカバーガラスに接着できることから、それぞれの材料にSA10を貼り合わせたものを測定用サンプルとした。表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料は、屈曲させても剥離せず、互いに連動して変形することを確認した。
【0117】
図27に、測定方法の説明図を示す。同図に示すように、ガラス基板で挟んだサンプルの根本付近にプローブ光を入射し、ステージ(シグマ光機製)に取り付けたノギスを用いてサンプル先端をz軸方向に押しながら発生する回折光をスクリーンに投影して観察した。ここで、表面ラベルグレーティング膜の配向方向に垂直な格子ベクトルの一次回折光を一次光(x)、配向方向に平行な格子ベクトルの一次回折光を一次光(y)と定義した。
【0118】
図28Aに、表面ラベルグレーティング膜自身の測定光学系の説明図を、図28Bに、SA10からなる表面ラベルグレーティング膜付き被解析試料の積層したサンプルの測定光学系の説明図を示す。図28A(a)は、第1変形を誘起するために、プローブ光側から外力を加えたものであり、図28A(b)は、第2変形を誘起するために、スクリーン側から外力を加えたものである。一方、図28B(a)は、第2変形を誘起するために、プローブ光側から外力を加えたものであり、図28A(b)は、第1変形を誘起するために、スクリーン側から外力を加えたものである。表面ラベルグレーティング膜、PETからなる被解析試料及びカバーガラスからなる被解析試料はそれぞれ20mm×10mm×300μm、20mm×10mm×300μm、1.8mm×1.8mm×100μmのサイズのものを用い、ガラス基板で挟んだ根本から先端までの長さが13mmとなるようにサンプルを設置した。積層用に使用した表面ラベルグレーティング膜のサイズは5mm×5mm×300μm程度であり、ガラス基板で挟んだPETからなる被解析試料及びカバーガラスからなる被解析試料の根本から1mm程度離れた場所に積層した。回折格子の周期構造は、前述の条件と同じ二次元構造とした。
【0119】
図29A、図29Bに、外部応力による表面ラベルグレーティング膜の屈曲における回折像とサンプルの様子を示す。また、図30A,図30Bに、PETサンプルの屈曲における回折像とサンプルの様子を、図31A,図31Bに、カバーガラスの屈曲における回折像とサンプルの様子を示す。これらの図の(a)は、第1変形を誘起するためにプローブ光側から外力を加えたものであり、(b)は、第2変形を誘起するためにスクリーン側から外力を加えたものである。
【0120】
第1変形が誘起された表面ラベルグレーティング膜においては、回折格子の周期構造が形成されている側では屈曲に伴い零次光と一次光(x)の間隔がわずかに減少し、零次光と一次光(y)の間隔が増大した(図29A参照)。一方、第2変形が誘起された表面ラベルグレーティング膜においては、回折格子の周期構造が形成されている側では零次光と一次光(x)の間隔は変化せず、零次光と一次光(y)の間隔がわずかに増大した(図29B)。ここで、回折角の変化から算出した回折格子の周期構造の変化率ΔΛを数式(3)のように定義した。
【数3】

【0121】
屈曲に伴い回折格子の周期構造が増大するとき、すなわちサンプルが膨張する場合、ΔΛは正の値をとなる。一方、サンプルが収縮する場合には、負の値をとる。表面ラベルグレーティング膜及び二種のサンプルの屈曲における回折格子の周期構造の変化率を表3に示す。いずれの材料においても、第1変形の際の回折格子の周期構造のy軸方向では収縮が誘起されることが明らかとなった。一方、第2変形の際の回折格子の周期構造のy軸方向において、表面ラベルグレーティング膜とPETを用いたサンプルでは収縮が誘起されるが、カバーガラスを用いたサンプルでは収縮も膨張も誘起されないことがわかった。表面ラベルグレーティング膜及びPETを用いたサンプルでは、全体でy軸方向に収縮が誘起されると同時に、表面がより収縮するため屈曲し、カバーガラスではy軸方向に変形が誘起されず、表面が収縮するために屈曲すると考えている。
【0122】
また、x軸方向においてそれぞれの材料で異なる挙動を示したが、いずれの材料もy軸方向と比較すると変化率は小さかった。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の力学挙動解析システム及び力学挙動解析方法は、材料、構造物等の微視的領域の力学挙動の解析に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 力学挙動解析システム
10 制御手段
11 中央制御部
12 駆動部
13 演算処理部
14 記憶部
20 照射手段
21 プローブ光
22 回折光
23 零次回折光
24 一次回折光
30 受光手段
40 操作部
50 表示部
60 サンプル
61 被解析試料
62 表面ラベルグレーティング膜
63 第1主面
64 第2主面
65 回折格子の周期構造
66 透明フィルム
67 透明電極膜
70 距離検出手段
71 グレーティングマスク
72 ステージ
80 固定手段
90 CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被解析試料、及び前記被解析試料の解析表面を少なくとも被覆し、前記被解析試料と連動して変形自在であって、かつ、前記被解析試料側の少なくとも表層に回折格子として機能する所定の周期構造が形成されている表面ラベルグレーティング膜を具備するサンプルと、
少なくとも前記被解析試料の解析表面と、そこに積層されている前記表面ラベルグレーティング膜とにスポット光であるプローブ光を入射する照射手段と、
前記照射手段によって入射した前記スポット光の前記被解析試料の解析表面上に形成された前記表面ラベルグレーティング膜からの零次回折光と高次回折光を検出する受光手段と、
前記プローブ光の照射領域の前記サンプルと前記受光手段との距離を検出する距離検出手段と、
前記受光手段によって検出された前記零次回折光と前記高次回折光と、前記距離検出手段によって求めた離間距離から求められる回折角のデータを保持する記憶手段と、
前記記憶手段に保持された複数の前記回折角のデータから、前記表面ラベルグレーティング膜の前記回折格子の周期構造変化を算出し、当該周期構造変化から前記被解析試料の力学挙動を解析する解析手段と、を具備する力学挙動解析システム。
【請求項2】
前記回折格子の周期構造変化は、前記回折光の一次回折角の変化から算出することを特徴とする請求項1に記載の力学挙動解析システム。
【請求項3】
前記表面ラベルグレーティング膜の前記回折格子の周期構造は、一次元、若しくは二次元構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の力学挙動解析システム。
【請求項4】
前記表面ラベルグレーティング膜と前記被解析試料は、直接、接合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の力学挙動解析システム。
【請求項5】
前記プローブ光は、偏光を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の力学挙動解析システム。
【請求項6】
前記被解析試料の動きをモニタリングする撮像手段を具備し、
前記被解析試料の力学挙動の解析は、前記被解析試料の動きと、前記回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の力学挙動解析システム。
【請求項7】
前記表面ラベルグレーティング膜には、所定の物理的刺激のON−OFFによって当該表面ラベルグレーティング膜自身の運動を誘起する分子が組み込まれており、
前記被解析試料の力学挙動の解析は、前記所定の物理的刺激のON−OFFによる前記表面ラベルグレーティング膜に誘起された前記被解析試料の動きと、前記回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の力学挙動解析システム。
【請求項8】
前記表面ラベルグレーティング膜には、所定の物理的刺激のON−OFFによって当該表面ラベルグレーティング膜自身の運動を誘起する分子が組み込まれており、
前記被解析試料の力学挙動の解析は、前記表面ラベルグレーティング膜単独の前記所定の物理的刺激のON−OFFによる動きとそのときの前記回折格子の周期構造変化をデーターベース化し、このデーターベースと、前記被解析試料上の前記表面ラベルグレーティング膜の前記回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の力学挙動解析システム。
【請求項9】
前記分子は、光応答性基であることを特徴とする請求項7又は8に記載の力学挙動解析システム。
【請求項10】
被解析試料と、前記被解析試料と連動して変形自在であって、かつ、前記被解析試料側の少なくとも表層に回折格子として機能する所定の周期構造が形成されている表面ラベルグレーティング膜とからなるサンプルにスポット光であるプローブ光を照射するステップと、
前記プローブ光の前記被解析試料の解析表面上に形成された前記表面ラベルグレーティング膜からの零次回折光と高次回折光を受光するステップと、
前記零次回折光と高次回折光の受光タイミングで、前記サンプルの照射位置と前記受光する位置までの距離を検出する距離検出ステップと、
前記回折光を受光して得られた前記零次回折光と前記高次回折光と、前記距離検出ステップで得られる距離から求められる回折角のデータを記憶するステップと、
条件の異なる複数の前記データから、前記表面ラベルグレーティング膜の周期構造変化を算出するステップと、
前記周期構造変化から、前記被解析試料の力学挙動を解析するステップと、
を備える力学挙動解析方法。
【請求項11】
前記回折格子の周期構造変化は、前記回折光の一次回折角の変化から算出することを特徴とする請求項10に記載の力学挙動解析方法。
【請求項12】
前記被解析試料の動きをモニタリングする撮像手段を具備し、
前記被解析試料の力学挙動の解析は、前記被解析試料の動きと、前記回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することを特徴とする請求項10又は11に記載の力学挙動解析方法。
【請求項13】
前記表面ラベルグレーティング膜は、所定の物理的刺激のON−OFFによって当該表面ラベルグレーティング膜に運動を誘起する分子が組み込まれており、
前記被解析試料の力学挙動の解析は、前記所定の物理的刺激のON−OFFによる前記表面ラベルグレーティング膜の動きと、前記回折格子の周期構造変化のデータを連動させて解析することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の力学挙動解析方法。
【請求項14】
前記分子は、光応答性基であることを特徴とする請求項13に記載の力学挙動解析方法。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【図24D】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28A】
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【図28B】
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【図29A】
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【図29B】
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【図30A】
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【図30B】
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【図31A】
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【図31B】
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【公開番号】特開2012−237597(P2012−237597A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105492(P2011−105492)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成23年2月12日開催の東京工業大学 大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻 平成22年度修士論文発表会にて、修士論文「表面ラベルグレーティングの作製と三次元光運動解析への応用」に掲載
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】